JP6564977B2 - ダイヤモンドライクカーボン膜、摺動部材、加工部材及びダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法 - Google Patents

ダイヤモンドライクカーボン膜、摺動部材、加工部材及びダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ダイヤモンドライクカーボン膜、摺動部材、加工部材及びダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法に関する。
近年、地球環境負荷低減への要求を背景に、摺動部品や切削工具等の各種機械部品の低摩擦化が求められている。このような要求を満たすべく、例えば、摺動部品の表面へのドライコーティングの適用による低摩擦化及び高耐摩耗化などを実現する手法について研究が進められている。中でも優れた摩擦特性を示すダイヤモンドライクカーボン(Diamond−like carbon;DLC)膜が注目を集めている。
DLC膜は各種成膜法により様々な特性を示すことで知られており、更なる摩擦特性向上を実現する取り組みとして、異種元素の添加や膜構造の多層化など様々な試みが行われている。
例えば、特許文献1では、少なくとも刃先に非晶質炭素被膜が施されている切削工具において、 前記非晶質炭素被膜の最表層の炭素原子が有するダングリングボンドに、フッ素、水素、塩素、臭素、ヨウ素、水酸基の少なくとも1種が終端されていることを特徴とする切削工具が開示されている。
特開2012−161853号公報
例えば摺動部品の摺動界面にDLC膜を適用することで摩擦特性の向上が見込まれるが、いずれの摺動部品においても、基油と添加剤を組み合わせた潤滑剤を用いるケースが一般的である。中でも、極圧添加剤の一つである塩素化パラフィンなどは摺動特性の向上に大きく貢献する一方で、焼却時のダイオキシンの発生につながることから、環境負荷低減への要求を背景として使用量の制限などが設けられている。このような塩素系添加剤の使用量の規制は世界規模で進んでいる
この問題に対し、例えば、硫黄やリン、アンチモン、亜鉛等の非塩素系添加剤の実用化に向けて研究が進められているが、塩素系添加剤に替わる優れた摺動特性を示す添加剤は未だ開発されていない。
以上のことから、塩素化パラフィンを初めとした塩素系添加剤を用いることなく、優れた摺動特性を示す潤滑技術を構築するため、新規的なDLC膜の開発が必要とされている。
また、切削加工に用いる切削油として塩素系切削油が知られているが、塩素系の極圧添加剤と同様に焼却時のダイオキシンの発生につながるおそれがある。
さらに、ダイヤモンドライクカーボン膜は、硬質であり、潤滑性、耐摩耗性などにも優れるため、研磨加工に使用することも期待される。
上記のような背景より、DLC膜の膜構造の制御による低摩擦化技術の開発が重要な研究課題となっている。
本発明は、低摩擦性及び耐摩耗性に優れたダイヤモンドライクカーボン膜、摺動部材、加工部材及びダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 炭素及び塩素を含み、前記炭素及び前記塩素の合計含有量に対する前記塩素の含有量が8atom%以上35atom%以下であり、膜厚が0.5μm以上3μm以下であるダイヤモンドライクカーボン膜。
2> 相手材との摩擦によりダイヤモンドライクカーボン膜の界面に塩素系反応膜を形成する<1>に記載のダイヤモンドライクカーボン膜。
> 前記塩素系反応膜が塩化アルミニウム(III)六水和物を含む<>に記載のダイヤモンドライクカーボン膜。
> 相手材と接触して摺動する部分に<1>〜<>のいずれか1つに記載のダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動部材。
> 被加工部材と接触して加工を行う部分に<1>〜<>のいずれか1つに記載のダイヤモンドライクカーボン膜を有する加工部材。
> 原料ガスとして、塩素を含むガス及び炭素を含むガス、又は、塩素及び炭素を含むガスを用い、化学気相成長法によって炭素及び塩素を含み、前記炭素及び前記塩素の合計含有量に対する前記塩素の含有量が8atom%以上35atom%以下であり、膜厚が0.5μm以上3μm以下であるダイヤモンドライクカーボン膜を製造するダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法。
> 前記炭素及び塩素を含むダイヤモンドライクカーボン膜を相手材と摩擦することにより摺動界面に塩素系反応膜を形成することを更に含む<>記載のダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法。
> 前記相手材がアルミニウムであり、前記塩素系反応膜が塩化アルミニウム(III)六水和物を含む<>記載のダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法。
本発明は、低摩擦性及び耐摩耗性に優れたダイヤモンドライクカーボン膜、摺動部材、加工部材及びダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法を提供することができる。
本実施形態に係る塩素含有DLC膜を製造する装置の一例を示す概略構成図である。 本実施形態に係る塩素含有DLC膜を備えた部材の層構成の一例を示す概略図である。 水素含有DLC膜と塩素含有DLC膜に対するラマン分光分析より得られたラマンスペクトルを示す図である。 水素含有DLC膜と塩素含有DLC膜に対するX線光電子分光分析により得られたXPSスペクトルを示す図である。 実施例で行った潤滑環境における摩擦試験を説明する概略図である。 ダイヤモンドライクカーボン膜中の炭素及び塩素の合計含有量に対する塩素の含有量の原子数比[Cl/(C+Cl)]と摩擦係数(平均値)との関係を示す図である。 塩素を含まない水素含有ダイヤモンドライクカーボン膜を用いて摩擦試験を行った後のボール及びディスクにそれぞれ発生した摩耗痕との関係を示す図である。 炭素及び塩素の合計含有量に対する塩素の含有量の原子数比[Cl/(C+Cl)]が3.1%である塩素含有ダイヤモンドライクカーボン膜を用いて摩擦試験を行った後のボール及びディスクにそれぞれ発生した摩耗痕との関係を示す図である。 炭素及び塩素の合計含有量に対する塩素の含有量の原子数比[Cl/(C+Cl)]が20.9%である塩素含有ダイヤモンドライクカーボン膜を用いて摩擦試験を行った後のボール及びディスクにそれぞれ発生した摩耗痕との関係を示す図である。 炭素及び塩素の合計含有量に対する塩素の含有量の原子数比[Cl/(C+Cl)]が34.8%である塩素含有ダイヤモンドライクカーボン膜を用いて摩擦試験を行った後のボール及びディスクにそれぞれ発生した摩耗痕との関係を示す図である。 塩素含有DLC膜を用いて摩擦試験を行ったときに摺動面に発生するトライボフィルムを模式的に示す図である。 水素含有ダイヤモンドライクカーボン膜と塩素含有ダイヤモンドライクカーボン膜の潤滑環境での回転式摩擦試験における摩擦挙動を示す図である。 無潤滑(オイルレス)環境で行った往復動摩擦試験における塩素含有DLC膜([Cl/(C+Cl)]:8.25%)及び水素含有(塩素非含有)DLC膜の摩擦挙動を示す図である。 塩素含有DLC膜の摩耗痕についてTOF−SIMS分析を行った結果を示す図である。 塩素含有DLC膜と摩擦したアルミニウム合金ボール側の摩耗痕についてXPS分析を行った結果を示す図である。 塩素含有DLC膜と摩擦したアルミニウム合金ボール側の摩耗痕、及び水素含有DLC膜と摩擦したアルミニウム合金ボール側の摩耗痕について行ったFT−IR分析の結果を示す図である。 湿潤環境への暴露により吸水した塩化アルミニウム六水和物の粘度を測定した結果を示す図である。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜等について説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、上限値又は下限値のみに単位が付されている場合、その範囲全体において同じ単位であることを意味する。
<ダイヤモンドライクカーボン膜>
本実施形態に係るダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は、炭素及び塩素を含むダイヤモンドライクカーボン膜(以下、「塩素含有ダイヤモンドライクカーボン膜」又は「塩素含有DLC膜」と称する場合がある。)である。なお、本実施形態に係るDLC膜において、「塩素を含む」とは、DLC膜の表面に塩素原子が結合又は付着している程度を意味するのではなく、DLC膜中、すなわち膜の厚さ方向全体にわたって塩素が含まれていることを意味する。
本発明者らは、塩素系添加剤への依存体制からの脱却に向けた低摩擦DLC膜の開発技術として、塩素系炭素ガスを用いた化学気相成長(Chemical Vapor Deposition;CVD)によるDLC膜の成膜技術に着目し、DLC膜中に塩素を含有させることで高い耐摩耗性を維持したまま摩擦係数が大幅に低下させることを見出した。本実施形態に係る塩素含有ダイヤモンドライクカーボン膜が、低摩擦性及び耐摩耗性に優れる理由は以下のように推測される。
CVD法によるDLC膜の成膜では一般的に炭化水素系ガスを用いるため、膜内部に水素を含んだ水素含有DLC膜が形成される。このような水素含有DLC膜を摺動面に設けた摺動部品において塩素系添加剤を含む潤滑油を適用した場合、摺動界面には塩素系添加剤に由来した塩素系反応膜が形成され、摩擦及び摩耗の低減が図られる。
これに対し、本実施形態に係る塩素含有DLC膜は、膜中に塩素原子が含まれているため、塩素系添加剤を使用した場合と同様に、相手材との摩擦により摺動界面に塩素系反応膜(トライボフィルム)が形成され、摩擦及び摩耗の低減が図られると考えられる。好ましくは、本実施形態に係る塩素含有DLC膜は、その少なくとも一部(すなわち、相手材との摩擦による摺動界面)に塩素系反応膜(トライボフィルム)を有する。相手材は、特に限定されないが、例えばアルミニウム(例えば、アルミニウムボール)が挙げられる。相手剤がアルミニウムである場合、前記塩素系反応膜(トライボフィルム)は、好ましくは塩化アルミニウム(III)六水和物を含み、より好ましくは吸水した塩化アルミニウム六水和物を含む。したがって、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を摺動部品の摺動部に適用すれば、従来の極圧添加剤を用いない、基油のみの潤滑環境下でも良好な摺動特性を引き出すことが可能と考えられる。
また、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を用いれば、塩素系添加剤の廃油処理によるダイオキシンの発生を防ぐといった効果を得ることもできる。
(構成材料)
本実施形態に係る塩素含有DLC膜に含まれる塩素の含有量は特に限定されないが、成膜性、膜強度、耐摩耗性等の観点から、炭素及び塩素の合計含有量に対する塩素の含有量の原子数比[Cl/(C+Cl)](以下、「塩素濃度比」と称する場合がある。)は、60atom%以下であることが好ましい。塩素濃度比が60atom%を超えると成膜が困難である。
一方、本実施形態に係る塩素含有DLC膜に含まれる塩素の含有量が少な過ぎると、相手材との摺動等においてトライボフィルムとしての塩素系反応膜が形成され難くなる。
成膜性、低摩擦性、耐摩耗性等の観点から、本実施形態に係る塩素含有DLC膜中の塩素の含有量は、3atom%以上60atom%以下であることが好ましく、5atom%以上50atom%以下であることがより好ましく、8atom%以上35atom%以下であることがさらに好ましい。
なお、本実施形態に係る塩素含有DLC膜は、成膜性、低摩擦性、耐摩耗性を顕著に損なわない範囲であれば、水素、酸素、窒素、ケイ素、アルゴン等の炭素及び塩素以外の元素を含んでもよい。
(用途)
本実施形態に係る塩素含有DLC膜の用途は特に限定されず、低摩擦性及び高耐摩耗性が要求される部材であれば本実施形態に係る塩素含有DLC膜を好適に適用することができる。例えば、相手材と接触して摺動する部分に本実施形態に係る塩素含有DLC膜を有する摺動部材、及び、被加工部材と接触して加工を行う部分に本実施形態に係る塩素含有DLC膜を有する加工部材が挙げられる。
具体的な用途として、本実施形態に係る塩素含有DLC膜は、自動車、船舶、鉄道車両、航空機、タービン、ガスエンジン、油圧ポンプ・モータ、ロボット、各種工作機械等の摺動部材(摺動部品)の摺動部、切削部材(切削工具)の切削部、研磨部材(研磨工具)の研磨部等に好適に適用することができる。
−摺動部材−
本実施形態に係る塩素含有DLC膜を摺動部材(摺動部品)の摺動部(相手材と接触して摺動する部分)に設ければ、塩素系添加剤を含まない潤滑油を用いても又は潤滑油なしでも相手材との摺動によって摺動界面において塩素系反応膜(トライボフィルム)が形成され、低摩擦による円滑な摺動を維持することができ、摺動界面の過熱による焼き付きの発生、並びに、摺動部材及び相手材の摩耗が抑制される。好ましくは、本実施形態に係る摺動部材に設けられた塩素含有DLC膜は、その少なくとも一部(すなわち、相手材との摩擦による摺動界面)に塩素系反応膜(トライボフィルム)を有する。相手材は、特に限定されないが、例えばアルミニウム(例えば、アルミニウムボール)が挙げられる。相手剤がアルミニウムである場合、前記塩素系反応膜(トライボフィルム)は、好ましくは塩化アルミニウム(III)六水和物を含み、より好ましくは吸水した塩化アルミニウム六水和物を含む。摺動部としては、滑り軸受けのような回転摺動、スラスト軸受けのような面摺動、スプラインのようなスライド摺動が挙げられ、本実施形態に係る塩素含有DLC膜はいずれの摺動部にも適用することができる。本実施形態に係る塩素含有DLC膜を摺動部に設けることで、例えば、軸受け部では焼き付きを防止し、スプライン部では固着を防止することができる。
−加工部材−
本実施形態に係る塩素含有DLC膜を加工部材(例えば、切削部材、研磨部材、及び研削部材)の加工部(被加工部材と接触して加工を行う部分)に設ければ、塩素系添加剤を含まない潤滑油を用いても又は潤滑油なしでも相手材を加工する加工界面において塩素系反応膜(トライボフィルム)が形成され、低摩擦による円滑な加工動作を維持することができ、加工界面の過熱による焼き付きの発生、並びに、加工部材及び相手材の摩耗が抑制される。好ましくは、本実施形態に係る加工部材に設けられた塩素含有DLC膜は、その少なくとも一部(すなわち、相手材との摩擦による摺動界面)に塩素系反応膜(トライボフィルム)を有する。相手材は、特に限定されないが、例えばアルミニウム(例えば、アルミニウムボール)が挙げられる。相手剤がアルミニウムである場合、前記塩素系反応膜(トライボフィルム)は、好ましくは塩化アルミニウム(III)六水和物を含み、より好ましくは吸水した塩化アルミニウム六水和物を含む。
〜切削部材〜
本実施形態に係る塩素含有DLC膜を切削部材(切削工具)の切削部(被加工部材と接触して切削を行う部分)に設ければ、塩素系切削油を用いずに、被加工部材を切削する際に切削部における過熱による焼き付きの発生及び研削部の摩耗が効果的に抑制される。なお、本明細書における「切削」とは、被加工部材を削って被加工部材の厚みを減じる加工又は孔を開ける加工に限らず、被加工部材を切断する加工も含まれる。好ましくは、本実施形態に係る切削部材に設けられた塩素含有DLC膜は、その少なくとも一部(すなわち、相手材との摩擦による摺動界面)に塩素系反応膜(トライボフィルム)を有する。相手材は、特に限定されないが、例えばアルミニウム(例えば、アルミニウムボール)が挙げられる。相手剤がアルミニウムである場合、前記塩素系反応膜(トライボフィルム)は、好ましくは塩化アルミニウム(III)六水和物を含み、より好ましくは吸水した塩化アルミニウム六水和物を含む。
切削部材としては、ノコギリ、ドリル、バイト、フライス、エンドミル、リーマ、タップ、ホブ、ピニオンカッタ、ダイス、ブローチ、トリマなどが挙げられる。例えば、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を電動ノコギリに適用する場合、少なくともノコギリ刃の部分を本実施形態に係る塩素含有DLC膜でコーティングすることで、被加工部材を切断する際の摩擦熱の上昇を抑制して加工を行うことができ、工具の長寿命化を図ることができる。
〜研磨部材〜
本実施形態に係る塩素含有DLC膜を研磨部材(研磨工具)の研磨部(被加工部材と接触して研磨を行う部分)に設ければ、被加工部材を研磨する際に塩素による腐食研磨が可能になると同時に、研磨部の摩耗が抑制される。
また、本実施形態に係る塩素含有DLC膜は、例えば研削部材の研削部(被加工部材と接触して研削を行う部分)に適用することも好ましい。
好ましくは、本実施形態に係る研磨部材及び研削部材に設けられた塩素含有DLC膜は、その少なくとも一部(すなわち、相手材との摩擦による摺動界面)に塩素系反応膜(トライボフィルム)を有する。相手材は、特に限定されないが、例えばアルミニウム(例えば、アルミニウムボール)が挙げられる。相手剤がアルミニウムである場合、前記塩素系反応膜(トライボフィルム)は、好ましくは塩化アルミニウム(III)六水和物を含み、より好ましくは吸水した塩化アルミニウム六水和物を含む。
本実施形態に係る塩素含有DLC膜を有する摺動部材又は加工部材は、用途に応じた母材の表面における所定の箇所に塩素含有DLC膜を成膜することで得ることができる。
母材としては、金属、ガラス、シリコン、セラミックなどの硬質材料が挙げられる。例えば、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を摺動部材に適用する場合、母材としては摺動部材として一般的に使用されている硬質材料を用いることができる。例えば、本実施形態に係るDLC膜を軸受け(ベアリング)に適用する場合は、母材として高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ材)やステンレス鋼(SUS材)を好適に用いることができる。
本実施形態に係る塩素含有DLC膜の厚みは特に限定されず、用途に応じて選択すればよい。例えば、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を摺動部材に適用する場合、成膜性、長期間にわたる低摩擦及び高耐摩耗等を考慮し、例えば、0.5〜3μmの厚みとすることが挙げられる。
<塩素含有ダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法>
本実施形態に係る塩素含有DLC膜を製造する方法は特に限定されないが、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition;CVD)又は物理気相成長(Physical Vapor Deposition;PVD)によって製造することが好ましく、CVD法によって製造することがより好ましい。
前述したように、従来、CVD法によるDLC膜の成膜では一般的に炭化水素系ガスを用いるため、膜内部に水素を含んだ水素含有DLC膜が形成される。
これに対し、塩素系炭素ガスを使用したプロセスの採用により、従来の水素含有DLC膜内部の水素を塩素に置換することが可能となる。すなわち、CVD法によりDLC膜を成膜する際、DLC膜内部へ塩素原子を添加することで、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を簡便に製造することができる。
本実施形態に係る塩素含有DLC膜をCVD法によって成膜する場合、原料ガスとして、塩素を含むガス及び炭素を含むガス、又は、塩素及び炭素を含むガスを用いればよい。
原料ガスとして塩素を含むガスと炭素を含むガスを用いる場合は、塩素及び炭素を含むガスと、炭素を含み、塩素を含まないガスとの組み合わせでもよいし、塩素及び炭素を含むガスと、塩素を含み、炭素を含まないガスとの組み合わせでもよい。
また、原料ガスとして塩素及び炭素を含むガスを用いる場合は、塩素及び炭素を含むガスを2種以上併用してもよい。
炭素源となる原料ガスとしては、トルエン、ベンゼン、メタン、エタン、ブタン、エチレン、アセチレンなどの炭化水素系ガスが挙げられるが、これらに限定されない。
塩素源となる原料ガスとしては、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、クロロエチレン、クロロベンゼン、クロロメタンなどの塩素原子を含むガスが挙げられるが、これらに限定されない。
本実施形態に係る塩素含有DLC膜をCVD法によって成膜する場合、例えば、塩素を含むガスと炭素を含むガスを用いて成膜する場合、原料ガスの流量比を調整することで成膜される塩素含有DLC膜中の炭素及び塩素の各含有量、塩素/炭素の濃度比を容易に制御することができる。
図1は、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を製造する際に使用することできる成膜装置の一例を概略的に示している。図1に示す成膜装置100は、イオン注入法とプラズマCVD法とを複合したプラズマイオン注入成膜法(Plasma Based Ion Implantation and Deposition;PBII&D)によって塩素含有DLC膜を製造する装置である。図1に示す成膜装置100は、チャンバー20、パルス制御コントローラ22、高周波電源24、高電圧パルス電源26、母材(被成膜部材)として用いる基板10をチャンバー内で保持する基板ホルダー28、チャンバー20内に原料ガスを供給するガス導入部30,32、チャンバー20内のガスを排気するための排気部34、排気部34に連結する真空ポンプ36を備えている。
図1に示す成膜装置100を用いて、母材となる基板10上に塩素含有DLC膜を成膜する場合、基板ホルダー28によって基板10を保持し、ガス導入部30,32を通じてそれぞれ炭素含有ガス(例えば、トルエンガス)と塩素含有ガス(例えば、テトラクロロエチレンガス)をチャンバー20内に導入する。次いで、高周波電源(RF)をオンし、基板10の周りにプラズマを生成させる。高周波電源(RF)をオフすることで、基板の周囲にイオン化したガスの分子が漂う状態とする。次いで、高電圧パルス電源をオンすることで基板に負の電圧を印加し、プラズマ化したガスイオンを基板に引き込むことで、DLC成膜が行われる。そして、高圧電源パルス電源をオフすることで、アフターグロープラズマによって更に成膜される。かかる工程を経て、DLC膜中に塩素を含む塩素含有DLC膜が得られる。
なお、塩素含有ガスを用いて成膜を行うと、チャンバーの内壁、成膜装置の金属部分等の腐食を誘起する。そのため、上記方法により塩素含有DLC膜を成膜する場合は、例えばチャンバー内壁等、装置内において塩素含有ガス又は母材以外に形成された塩素含有DLC膜と接触する箇所に、塩素による腐食を防ぐための保護膜を形成しておく、あるいはアルミ箔などで覆うことが好ましい。
また、本実施形態に係る塩素含有DLC膜は、母材の表面に直接形成してもよいが、母材として金属を用いる場合、DLC膜内部への塩素添加は母材の腐食を誘起し、DLC膜の剥離を引き起こす要因となる場合がある。そこで、塩素含有DLC膜を母材の表面に直接形成すると剥離し易い場合、又は、母材の表面に直接形成することが困難である場合は、母材の表面に中間膜を設け、中間膜上に塩素含有DLC膜を成膜してもよい。
例えば図2に示すように、第1ステップとして金属母材の表面に水素含有DLC膜を成膜したのちに、第2ステップとして塩素含有DLC膜の成膜を行うという2段階の成膜方式を採用することで、DCL膜内への塩素添加を起因とした母材の腐食による剥離を効果的に抑制することができる。
上記のようにDLC膜を成膜するとともに膜中に塩素を導入して塩素含有DLC膜を製造すれば膜の表面だけでなく、膜中にも、すなわち膜の厚さ方向全体にわたって塩素が十分に含まれた塩素含有DLC膜を製造することができる。そのため、摺動等によってDLC膜が徐々に摩耗しても膜中から摺動面へと塩素が安定して供給される。したがって、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を摺動部材の摺動部に適用すれば、長期にわたって摺動界面に塩素系反応膜(トライボフィルム)が形成され、極圧添加剤を用いない、基油のみの潤滑環境下でも良好な摺動特性を引き出すことが可能となる。
また、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を用いれば、塩素系添加剤の廃油処理によるダイオキシン発生の予防や、今後規制の強化が危惧される塩素系添加剤に依存せずに優れた特性を示すトライボシステムの構築が可能となる。
本実施形態に係る塩素含有DLC膜を製造する方法は、炭素及び塩素を含むダイヤモンドライクカーボン膜(塩素含有DLC膜)を相手材と摩擦することにより摺動界面に塩素系反応膜(トライボフィルム)を形成することを更に含んでもよい。相手材は、特に限定されないが、例えばアルミニウム(例えば、アルミニウムボール)が挙げられる。相手剤がアルミニウムである場合、前記塩素系反応膜(トライボフィルム)は、好ましくは塩化アルミニウム(III)六水和物を含み、より好ましくは吸水した塩化アルミニウム六水和物を含む。
以下に、実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
図1に示す構成を有する成膜装置を用い、プラズマイオン注入成膜法によって膜構造が異なるDLC膜を製造した。
母材として高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2、径:28mm、厚さ:8mm)を用い、成膜条件をそれぞれ下記表1に示す範囲で変更してDLC膜を成膜した。
製造した水素含有DLC膜と塩素含有DLC膜の膜構造及び摺動特性を下記の方法により評価した。
<膜構造>
図3は水素含有DLC膜と塩素含有DLC膜([Cl/(C+Cl)]:20.9%)に対するラマン分光分析より得られたラマンスペクトルを比較したグラフである。図3より、いずれのDLC膜においても、一般的なDLC膜から得られるDピーク(無秩序構造由来)及びGピーク(グラファイト構造由来)が確認された。
図4は水素含有DLC膜と塩素含有DLC膜([Cl/(C+Cl)]:20.9%)に対するX線光電子分光分析(X−ray Photoelectron Spectroscopy; XPS)により得られたXPSスペクトルを比較した結果を示している。図4より、塩素含有DLC膜でのみ塩素に由来したピークが検出されたことから、塩素含有DLC膜の内部構造には塩素に起因する結合子が存在していることが確認できる。
図3及び図4に示す結果より、塩素系炭素ガスにより成膜されたDLC膜において、一般的な水素含有DLC膜と同様の非晶質構造を維持した状態で、膜内部へ塩素が添加されていることが確認できる。
<潤滑環境における摩擦特性>
製造した各DLC膜の潤滑環境における摩擦性及び耐摩耗性を評価するため、以下の摩擦試験を行った。
図5に示すように、母材10上にDLC膜13を成膜した基板(ディスク)を、回転体15の収容部内で基油16(ポリアルファオレフィン)に浸漬させた状態でDLC膜13にアルミニウム合金(A5052)ボール18(径:6mm)を押し当て、ディスク側を回転させることで摺動させた。摺動条件は以下の通りである。
荷重:10[N]
回転速度:200[rpm]
摺動半径:7[mm]
摺動時間:1600[sec]
このような摩擦試験において摩擦係数、並びに、ボール及びディスクの摺動界面でそれぞれ発生した摩耗痕を評価した(図6〜図10及び図12)。なお、摩擦係数の測定は、Tribometer(CSEM社製)を用いた。
図6は、DLC膜中の炭素及び塩素の合計含有量に対する塩素の含有量の原子数比(塩素濃度比)[Cl/(C+Cl)]と摩擦係数(平均値)との関係を示している。
また、図7〜図10は、DLC膜中の塩素濃度とボール及びディスクにそれぞれ発生した摩耗痕との関係を示している。図7〜図10において(A)ボール側の摩耗痕は摩擦試験後のボールの摺動部分を光学顕微鏡で観察した画像であり、(B)ディスク側の摩耗痕は摩擦試験後のディスク側(DLC膜側)の摺動部分をレーザー顕微鏡によって測定してグラフ化したものであり、横軸Xは摺動痕に垂直方向の長さを、縦軸Yは摺動面に生じた摩耗痕の深さを示している。図7は塩素を含まない、すなわち、塩素濃度比が0%(図6における(z))である水素含有DLC膜を用いた場合、図8は塩素濃度比が3.1%(図6における(a))である塩素含有DLC膜を用いた場合、図9は塩素濃度比が20.9%(図6における(b))である塩素含有DLC膜を用いた場合、図10は塩素濃度比が34.8%(図6における(c))である塩素含有DLC膜を用いた場合の試験後の摩耗痕を示している。
図7〜図10に示す(B)ディスク側摩耗痕の比較から、塩素を含まないDLC膜を設けたディスクに比べ、塩素含有DLC膜を設けたディスクでは、ディスク側の摩耗痕が浅く、低摩擦性及び耐摩耗性に優れていることがわかる。
図6に示すように、DLC膜中の塩素含有量により摩擦係数は0.07〜0.13で変動し、塩素濃度比が20%程度で最も低摩擦化した。また、塩素濃度比が最も大きいDLC膜を用いた図10の(A)ボール側摩耗痕では、図7〜図9の(A)ボール側摩耗痕に比べ、ボール側の摩耗面積が大きかった。
その理由は定かでないが、DLC膜中の塩素含有量により摺動界面に形成されるトライボフィルムの被覆率が異なることが推測される。
図11は、図6における(a)、(b)、(c)の塩素含有DLC膜を用いて摩擦試験を行ったときに発生するトライボフィルムを模式的に示した図である。図11の(a)、(b)に示すように、DLC膜14a、14b中の塩素濃度比[Cl/(C+Cl)]が0%を超えて20%程度までは塩素濃度比の増加に従ってトライボフィルム19a,19bの形成量が増加し、低摩擦化が進む。一方、DLC膜14c中の塩素濃度比[Cl/(C+Cl)]が20%を超えて増加し過ぎると、図11の(c)に示すように摺動界面に過多なトライボフィルム19cが存在し、摩耗が進展(腐食摩耗)したことが考えられる。
図12は、水素含有DLC膜又は塩素含有DLC膜(塩素濃度比:13.2%)を製膜したディスクを用い、図5に示すアルミ合金ボールに対してディスクを回転動摩擦させたときの摩擦挙動を示している。図12に示すように、摩擦試験開始後、1600秒経過した時点で、水素含有DLC膜は最終的な摩擦係数が約0.11であったのに対し、塩素含有DLC膜では約0.08と30%ほど低い摩擦係数を示した。
また、実施例の結果から、成膜時の印加電圧が小さく、テトラクロロエチレンの流量が少ないほど低摩擦性に優れた塩素含有DLC膜が得られる傾向があることがわかった。
<無潤滑(オイルレス)環境における摩擦特性>
塩素含有DLC膜([Cl/(C+Cl)]:8.25%)の摩擦特性を、無潤滑(オイルレス)環境における往復動摩擦試験により評価した。
往復動摩擦試験は、塩素含有DLC膜又は水素含有(塩素非含有)DLC膜を成膜したアルミニウム合金(A6061)ディスク(径:28mm)のDLC膜面に対し、大気環境中でアルミニウム合金(A6061)ボール(径:6mm)を押し当てた状態で前記ディスクを往復摺動させることにより行った。この往復動摩擦試験には、往復動摩擦試験機Tribometer(CSM社製)を使用した。摺動条件は以下の通りである。
荷重:5[N]
摺動速度:20[mm/s]
摺動距離:10[mm]
総サイクル数:4000[cycle]
図13は、上記往復動摩擦試験により得られた塩素含有DLC膜及び水素含有DLC膜の摩擦挙動を示す。この結果、塩素含有DLC膜の摩擦係数は、約0.05であったのに対し、水素含有DLC膜の摩擦係数は、約0.1であったことが示された。
したがって、塩素含有DLC膜の摩擦係数は、水素含有DLC膜の摩擦係数よりも、約50%低いことが示された。
<TOF−SIMS分析>
前記往復動摩擦試験で生じた塩素含有DLC膜の摩耗痕に存在する物質を同定するため、飛行時間型二次イオン質量分析装置TRIFT 3(アルバック・ファイ社製)を使用してTOF−SIMS分析を行った。分析条件は、以下の通りである。
イオン源:Ga(ガリウム)イオン
測定モード:質量分解能優先モード
測定時間:5[min]
図14は、塩素含有DLC膜の摩耗痕で得られたピークカウントから、塩素含有DLC膜の摩耗痕以外の部分で得られたピークカウントを差し引いて得られた、前記摩耗痕に特有のピークを示す。図14には、前記摩耗痕で特徴的に検出された多数のピークが示されているが、中でも、本発明者らは、m/z=79及びm/z=80の2つのピークに着目し、これらがHOAlCl及びHOAlClに対応することを見出した。
このことから、前記摩耗痕には、塩化アルミニウム(水和物を含む)が生成していると考え、更に以下の分析を行った。
<XPS分析>
塩素含有DLC膜([Cl/(C+Cl)]:8.25%)と摩擦したアルミニウム合金(A6061)ボール側の摩耗痕、塩素含有DLC膜の摩耗痕以外の部分、及び塩化アルミニウム(III)六水和物(特級試薬、和光純薬株式会社製)のそれぞれについて、X線高電子分光分析装置QUANTERA(アルバック・ファイ社製)を使用してXPS分析を行った。分析条件は以下の通りである。
検出ピーク:塩素(Cl2p)ピーク
X線光源:AlKα線
分析間隔:0.125[eV]
測定時間:30[min]
上記分析結果を図15に示す。この結果、塩素含有DLC膜と摩擦したアルミニウム合金ボール側の摩耗痕から得られたスペクトルは、塩化アルミニウム(III)六水和物から得られたスペクトルとほぼ完全に一致していた。他方、塩素含有DLC膜の摩耗痕以外の部分から得られたスペクトルは、前記2種のスペクトルとは異なっていた。
したがって、塩素含有DLC膜とアルミニウム合金との摩擦により得られた摩耗痕には、塩化アルミニウム(III)六水和物が生成していることが示された。
<FT−IR分析>
本発明者らは、塩化アルミニウム(III)六水和物が潮解性物質であることに着目し、摩耗痕における水分の存在について分析した。
塩素含有DLC膜([Cl/(C+Cl)]:8.25%)と摩擦したアルミニウム合金(A6061)ボール側の摩耗痕、及び水素含有(塩素非含有)DLC膜と摩擦したアルミニウム合金(A6061)ボール側の摩耗痕について、赤外分光光度計(日本分光株式会社、FT/IR−6600)を用いてFT−IR分析を行った。分析条件は以下の通りである。
測定方式:顕微方式
測定範囲:1000〜4000[cm−1
分析間隔:0.96[cm−1
積算回数:250[回]
図16は、塩素含有DLC膜と摩擦したアルミニウム合金ボール側の摩耗痕、及び水素含有DLC膜と摩擦したアルミニウム合金ボール側の摩耗痕から得られたFT−IRのデータを、それぞれアルミニウム合金(A6061)で得られたFT−IRのデータで差し引いた結果を示す。この結果、塩素含有DLC膜と摩擦したアルミニウム合金ボール側の摩耗痕では、HOの存在を示す特異的ピークが観測された(図16上段、網掛け部分)。他方、水素含有DLC膜と摩擦したアルミニウム合金ボール側の摩耗痕では、HOに対応するピークが観測されなかった(図16下段)。
したがって、塩素含有DLC膜のアルミニウム合金との摩擦により得られた摩耗痕には、HOが存在することが確認された。
<粘度測定>
これまでの結果から、本実施形態の塩素含有DLC膜の摩耗痕には、塩化アルミニウム(III)六水和物と水(HO)とが存在し、これらが好ましくはトライボフィルムを形成して摩擦係数の低下に寄与していることが強く示唆されている。そこで、塩化アルミニウム(III)六水和物及び水による潤滑性能を以下のように調べた。
塩化アルミニウム(III)六水和物(特級試薬、和光純薬株式会社製)を、沸騰させた純水と同じケース内に入れて密閉し、室温かつ湿度75%±20%の条件で48時間保管した。この結果、塩化アルミニウム(III)六水和物の白色結晶性粉末は、ケース内の空気に含まれる水分を吸収して完全に溶解し、無色透明な液体(本明細書において「吸水した塩化アルミニウム六水和物」という。)を形成した。
この吸水した塩化アルミニウム六水和物の粘度を音叉型振動式粘度計SV−1A(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて測定した。なお、一般的な潤滑油として知られるポリアルファオレフィン(PAO)4の粘度も同様にして測定した。分析条件は以下の通りである。
測定プローブ:チタン振動子
粘度校正:純水を使用
振動子の周波数:30[Hz]
測定時間:5[min]
上記測定結果を図17に示す。この結果、吸水した塩化アルミニウム六水和物の粘度は、約25.5mPa・sであることが示され、PAO4とほぼ同等の粘度であることが示された。
このように、本実施形態の塩素含有DLC膜は、摩擦により塩化アルミニウム(III)六水和物を生成し、これが更に環境中(例えば、大気環境中)の水分を吸収して好ましくはトライボフィルムを形成することにより、水素含有(塩素非含有)DLC膜の約半分の摩擦係数を達成する非常に優れた摺動特性を有することが示された。これにより、本実施形態の塩素含有DLC膜によると、塩素系添加剤や塩素系切削剤の使用を必要とせずに、これらの剤を使用した場合と少なくとも同等の摺動特性を発揮する摺動部材や切削部材を提供することができると考えられる。
また、本実施形態に係る塩素含有DLC膜を用いれば、塩素系添加剤や塩素系切削剤の廃油処理によるダイオキシン発生を予防でき、これらの剤に依存せずに優れた摺動特性を示すトライボシステムの構築が可能となると考えられる。
以上、本発明の塩素含有DLC膜等について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例の内容に限定されない。例えば、本発明に係る塩素含有DLC膜は、摺動、切削、又は研磨を行うための部材に限定されず、従来のDLC膜が適用される部材、例えば、金型、剃刃などにも好適に適用することができる。
10 母材(基板)
12 水素含有ダイヤモンドライクカーボン膜
13 ダイヤモンドライクカーボン膜
14、14a、14b、14c 塩素含有ダイヤモンドライクカーボン膜
15 回転体
16 基油
18 アルミニウム合金ボール
19a、19b、19c トライボフィルム
20 チャンバー
22 パルス制御コントローラ
24 高周波電源
26 高電圧パルス電源
28 基板ホルダー
30、32 ガス導入部
34 排気部
36 真空ポンプ
100 成膜装置

Claims (6)

  1. 相手材と接触して摺動する部分に、炭素及び塩素を含み、前記炭素及び前記塩素の合計含有量に対する前記塩素の含有量が8atom%以上35atom%以下であり、膜厚が0.5μm以上3μm以下であるダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動部材
  2. 相手材との摩擦により前記ダイヤモンドライクカーボン膜の界面に塩素系反応膜を形成する請求項1に記載の摺動部材
  3. 前記塩素系反応膜が塩化アルミニウム(III)六水和物を含む請求項2に記載の摺動部材
  4. 原料ガスとして、塩素を含むガス及び炭素を含むガス、又は、塩素及び炭素を含むガスを用い、化学気相成長法によって炭素及び塩素を含み、前記炭素及び前記塩素の合計含有量に対する前記塩素の含有量が8atom%以上35atom%以下であり、膜厚が0.5μm以上3μm以下であるダイヤモンドライクカーボン膜を、相手材と接触して摺動する部分に有する摺動部材を製造する摺動部材の製造方法。
  5. 前記炭素及び塩素を含むダイヤモンドライクカーボン膜を相手材と摩擦することにより摺動界面に塩素系反応膜を形成することを更に含む請求項記載の摺動部材の製造方法。
  6. 前記相手材がアルミニウムであり、前記塩素系反応膜が塩化アルミニウム(III)六水和物を含む請求項記載の摺動部材の製造方法。
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