JP6562407B1 - 絵画の修復方法 - Google Patents
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Abstract
Description
以下、絵画の退色箇所を退色部、剥落箇所を剥落部、欠損箇所を欠損部という。
補彩とは、剥落部に色を入れる処置である。補彩では、オリジナルの絵具を傷めずに除去することができ、かつなるべく安定な修復用の色材が使用される。補彩は、オリジナルの絵具層の上にはかからないようにして、剥落部のみに施される。
なお、退色した絵画の表面から補彩を行うことは、オリジナルの絵画の価値を損なうため修復手法としては採用できず、これまで、退色を修復する手法は確立されていない。
[1] 退色、剥落、欠損の少なくとも何れかを含む劣化が生じた劣化部を有する絵画の画像データを取得する工程(以下、画像データ取得工程という)と、コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより、前記画像データの前記劣化部を修復したデジタル修復データを生成する工程(以下、デジタル修復データ生成工程という)と、前記デジタル修復データを、インクを用いて、絵画の裏打ち材にプリントする工程(以下、プリント工程という)と、前記プリント後の裏打ち材を絵画の裏面に積層する工程(以下、裏打ち工程という)を有する絵画の修復方法。
[2] 前記画像データ取得工程の前工程として、前記絵画の平面化処理を行う工程(以下、平面化処理工程という)を有する、[1]の絵画の修復方法。
[3] 前記画像データ取得工程の前工程として、前記絵画の表面の汚れを落とすクリーニングを行う工程(以下、クリーニング工程という)を有する、[1]又は[2]の絵画の修復方法。
[4] 前記デジタル修復データが、絵画の全画面をデジタル修復した全画面修復データを含む、[1]〜[3]の何れかの絵画の修復方法。
[5] 前記全画面修復データを、前記全画面のデジタル修復後に、輪郭のぼかし処理を施して得る、[4]の絵画の修復方法。
[6] 前記全画面修復データを、前記劣化部の欠損及び/又は剥落をデジタル上で修復したデータに対し、色を薄くする加工を施して得る、[4]又は[5]に記載の絵画の修復方法。
[7] 前記絵画が、欠損の生じた劣化部を有し、前記デジタル修復データが、前記欠損を補う欠損部修復データを含む、[1]〜[6]に記載の絵画の修復方法。
[8] 前記欠損部修復データを、前記劣化部の欠損をデジタル上で修復したデータに対し、色を薄くする加工を施して得る、[7]に記載の絵画の修復方法。
[9] 前記積層を、接着剤を塗布してなる接着剤層を介して行う、[1]〜[8]に記載の絵画の修復方法。
[10] 前記積層を、接着剤を塗布してなる接着剤層を介さずに行う、[1]〜[8]に記載の絵画の修復方法。
画像データ取得工程では、退色、剥落、欠損の少なくとも何れかを含む劣化が生じた劣化部を有する絵画の画像データを取得する。
画像データを取得する方法は特に限定されないが、例えば、スキャナを用いて行うことができる。絵画の画面を直接スキャンしてもよいし、絵画の画面を撮影した写真をスキャンしてもよい。
図1に示すように、本実施形態の画像データ取得工程(ST1)では、欠損部1と退色部2を有する絵画の画像データ3を取得する。本実施形態の欠損部1は、絵画の支持体である絹地に穴が開いた箇所であり、退色部2は、絵具の色が退色して色あせてみえる箇所である。
デジタル修復データ生成工程では、コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより、画像データ取得工程で取得した画像データから、劣化部(本実施形態では、欠損部1と退色部2)を修復したデジタル修復データを生成する。本発明において、デジタル修復とは、コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより修復画像を生成することを意味する。
デジタル修復データは、絵画の全画面をデジタル修復した全画面修復データ及び/又は欠損部を補う欠損部修復データを含むことが好ましい。
全画面修復データは、全画面のデジタル修復後に、輪郭のぼかし処理を施して得たものであることが好ましい。
デジタル修復データは、後述のように、絵画の裏打ち材にプリントして、プリント後の裏打ち材を絵画の裏面に積層して使用されるため、現在の色調をベースにして、劣化部をデジタル上で修復したデータ(以下、劣化部等修復データという)に対し、色を薄くする加工を施したものであることが好ましい。色を薄くする加工を施した全画面修復データを裏打ち材にプリントして絵画の裏面に積層することで、例えば、退色した水彩画や絹絵を、オリジナル画面に補彩することなく修復することができる。
色を薄くする加工は、例えばアドビシステム社製フォトショップ(登録商標)等の市販のイメージ処理ソフトにより行うことができる。色を薄くする加工の程度は、絵画の画風や、裏打ち材の素材や、どのような修復を目指すか(例えば、作成時のオリジナルの再現を目指すのか、経年変化を加味した修復を目指すのか等)により適宜調整し得るが、劣化部等修復データの10〜90%の濃さとなるように加工を施すことが好ましく、劣化部等修復データの30〜70%の濃さとなるように加工を施すことがより好ましい。
デジタル修復データが全画面修復データ及び欠損部修復データを含む場合、全画面修復データと欠損部修復データを積層した状態で、劣化部等修復データの10〜90%の濃さとなるように、全画面修復データと欠損部修復データのそれぞれに対し、色を薄くする加工を施すことが好ましく、画面修復データと欠損部修復データを積層した状態で、劣化部等修復データの30〜70%の濃さとなるように、全画面修復データと欠損部修復データのそれぞれに対し、色を薄くする加工を施すことがより好ましい。
裏打ち材が色味を有する素材の場合、劣化部等修復データの作成時に、裏打ち材の色味を加味して、色相及び/又は彩度を適宜調整することもできる。
本明細書において「ぼかし処理」とは、絵画の外輪郭の内側と外側との間の境界を曖昧とし、それらの色合いや輝度等を互いに平滑にする処理を意味し、例えばアドビシステム社製フォトショップ(登録商標)等の市販のイメージ処理ソフトにより行うことができる。
プリント工程では、前記デジタル修復データ生成工程で生成したデジタル修復データを、インクを用いて、絵画の裏打ち材にプリントする。
例えば、本実施形態のように、絹絵を修復対象とする場合、非水溶性インクを用いて和紙にプリントをすることが好ましい。
図2のデジタル修復データ生成装置10は、CPU11と、RAM(Random Access Memory)12と、ROM(Read Only Memory)13と、HDD14と、操作パネル15と、画像データ取得部16と、画像形成部17と、通信I/F18とを備える。そしてこれらがバスBを介して必要なデータのやりとりを行なう。
RAM12は、CPU11の作業用メモリ等として用いられるメモリである。
ROM13は、CPU11が実行する各種プログラム等を記憶するメモリである。
HDD14は、画像データ取得部16が読み取った画像データや、画像形成部17における画像形成にて用いるデジタル修復データ等を記憶する例えば磁気ディスク装置である。
操作パネル15は、各種情報の表示やユーザからの操作入力の受付を行なう例えばタッチパネルである。
通信I/F18は、ネットワークを介して他の装置との間で各種情報の送受信を行なう。
画像データ取得部16は、絵画の画像を読み取る。ここで、画像データ取得部16は、例えばスキャナであり、光源から絵画の画面に照射した光に対する反射光をレンズで縮小してCCD(Charge Coupled Devices)で受光するCCD方式や、LED光源から絵画の画面に順に照射した光に対する反射光をCIS(Contact Image Sensor)で受光するCIS方式のものを用いるとよい。
画像形成部17は、裏打ち材に画像を形成する印刷機構の一例である。ここで、画像形成部17は、例えばプリンタであり、インクを裏打ち材に吐出して像を形成するインクジェット方式のものを用いることができる。
裏打ち工程では、前記プリント工程でプリントされた裏打ち材を、絵画の裏面に積層する。前記積層は、接着剤を塗布してなる接着剤層を介して行うこともできる。
裏打ちとは、布等の裏打ち材を、オリジナルの支持体の裏に積層する処置である。裏打ちは、通常、オリジナルの支持体の裏に裏打ち材を当て、接着剤を塗布してなる接着層を介して熱をかけて押し当てて行われる。その際、支持体に加えられる熱と圧力により、絵画層のオリジナルの風合いが損なわれやすく、具体的には、絵画層において絵具の筆跡が平らになったり、暗色化したり、火ぶくれを起こしたりすることがある。
本発明の裏打ち工程では、前記プリント工程でプリントされた裏打ち材を、熱をかけずに、絵画の裏面に積層することで、上記従来技術の欠点を克服している。
本発明の裏打ち工程として、例えば、裏打ち材を絵画の裏面に水溶性接着剤で貼付して積層する方法や、接着剤を塗布してなる接着剤層を介さずに、支持体を保持するパネルや木枠等の縁に止め付けて積層する方法等を例示することができる。
また、前記のように従来、退色を修復する手法は確立されていなかったが、本発明の修復方法によれば、退色を補う修復データをプリントした裏打ち材を、退色部の裏面に積層して退色部の修復を行うこともできる。具体的には、支持体として絹を用いた絹絵や、支持体として和紙を用いた日本画など、裏打ち材にプリントした修復データが、裏打ち後の絵画の表面から透けて見えるものについて、本発明の修復方法で、退色の補彩を行うことができる。
図1のように、欠損部1を有する絵画に裏打ちを行う場合、欠損部修復データをプリントした裏打ち材Bを貼付した後、絵具層側から欠損部1の輪郭部分に色を入れて、欠損部1が目立たないようにする処理を施すこともできる。
前記画像データ取得工程の前工程として、絵画の平面化処理を行う平面化処理工程及び/又は絵画の表面の汚れを落とすクリーニングを行うクリーニング工程を設けることが好ましい。
例えば、支持体としてキャンバスを用いた油彩画を対象とする場合、面ファスナを用いてなるベルト状部材とキャンバスを保持する保持部材とを有する保持ベルトをキャンバスの外縁に取り付ける工程と、前記キャンバスを配置できる空間を有する枠体の前記空間に、前記保持ベルトを取り付けたキャンバスを配置する工程と、前記保持ベルトを前記枠体に設置する工程と、前記枠体を低ガス透過性のシート材で被覆して、前記枠体の下方に閉空間を形成し、該閉空間を加湿して80%RH以上のピーク湿度まで昇湿する工程と、前記ピーク湿度に達した後、加湿を停止し、前記保持ベルトの貼付位置を微調整しながら、前記キャンバスを前記閉空間内で2〜5時間、放置する工程と、前記シート材を取り除いた後、前記保持ベルトを前記放置する工程と同位置に保持した状態で、前記キャンバスを6〜12時間、自然乾燥する工程からなる平面化処理工程を例示することができる。
また、支持体として紙、和紙を用いた水彩画や、支持体として絹を用いた絹絵を対象とする場合、支持体である紙、和紙又は絹を、加湿して仮張りに張り、自然乾燥させて平面化処理を行う平面化処理工程を例示する事ができる。
作品に応じて、溶剤を用いずに乾式でクリーニングを行う方法、あるいは、溶剤を調合してクリーニングを行う方法から最適な方法を採用することができる。乾式のクリーニングでは、筆やスポンジを用いて取れる汚れを除去する。溶剤を調合して行うクリーニングでは、表面の汚れやニスを除去することができる。
クリーニングにより、オリジナルの色調や形を回復させることができる。変色した補彩や付着物の除去などを行うこともできる。
2 退色部
3 画像データ
4 全画面修復データ
5 欠損部修復データ
10 デジタル修復データ生成装置
11 CPU
12 RAM
13 ROM
14 HDD
15 操作パネル
16 画像データ取得部
17 画像形成部
18 通信I/F
Claims (10)
- 退色、剥落、欠損の少なくとも何れかを含む劣化が生じた劣化部を有する絵画の画像データを取得する工程と、
コンピュータを用いたデジタルシュミレーションにより、前記画像データの前記劣化部を修復したデジタル修復データを生成する工程と、
前記デジタル修復データを、インクを用いて、絵画の裏打ち材にプリントする工程と、
前記プリント後の裏打ち材を絵画の裏面に積層する工程、を有する絵画の修復方法。 - 前記画像データを取得する工程の前工程として、前記絵画の平面化処理を行う工程を有する、請求項1に記載の絵画の修復方法。
- 前記画像データを取得する工程の前工程として、前記絵画の表面の汚れを落とすクリーニングを行う工程を有する、請求項1又は2に記載の絵画の修復方法。
- 前記デジタル修復データが、絵画の全画面をデジタル修復した全画面修復データを含む、請求項1〜3の何れかに記載の絵画の修復方法。
- 前記全画面修復データを、前記全画面のデジタル修復後に、輪郭のぼかし処理を施して得る、請求項4に記載の絵画の修復方法。
- 前記全画面修復データを、前記劣化部の欠損及び/又は剥落をデジタル上で修復したデータに対し、色を薄くする加工を施して得る、請求項4又は5に記載の絵画の修復方法。
- 前記絵画が、欠損の生じた劣化部を有し、
前記デジタル修復データが、前記欠損を補う欠損部修復データを含む、請求項1〜6の何れかに記載の絵画の修復方法。 - 前記欠損部修復データを、前記劣化部の欠損をデジタル上で修復したデータに対し、色を薄くする加工を施して得る、請求項7に記載の絵画の修復方法。
- 前記積層を、接着剤を塗布してなる接着剤層を介して行う、請求項1〜8の何れかに記載の絵画の修復方法。
- 前記積層を、接着剤を塗布してなる接着剤層を介さずに行う、請求項1〜8の何れかに記載の絵画の修復方法。
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