以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
図1〜図12は本発明の一実施の形態およびその変形例を説明するための図である。以下に説明する本発明の一実施の形態では、前面保護板(カバー部材)を含んだ表示装置を、携帯端末用の表示装置に適用している。しかしながら、本発明による前面保護板および表示装置は、携帯端末に限られることなく種々の装置に適用することができる。
図1及び図2は、それぞれ、表示装置15を含んだ携帯端末10を示す平面図または縦断面図である。図3は、前面保護板を示す平面図であり、図4及び図5は、表示装置15を示す縦断面図である。
図1及び図2に示すように、携帯端末として構成された装置10は、表示装置15と、表示装置15を収容するケース12と、を有している。表示装置15は、画像を形成する画像形成装置としての表示機構18と、表示機構18に積層された前面保護板20と、を有している。図2に示すように、表示装置15の表示機構18は、画像が表示される表示領域A1と、表示領域A1を周状に取り囲む非表示領域A2と、を画成する。表示機構18は、特に制限されることなく種々の表示機構、例えば、液晶表示装置、EL表示装置、プラズマ表示装置等を用いることができる。
一方、前面保護板20は、非表示領域A2に対面する領域に加飾層45を含んでいる。加飾層45は、優れた隠蔽性を発揮することができ、表示機構18の制御配線や回路等を不可視化することができる。したがって、ケース12は、表示機構18を側方から支持するだけでよく、装置10の前面において表示機構18bの非表示領域A2を覆う必要はない。これにより、図1及び図2に示すように、装置10の前面には、ケース12が殆ど露出しておらず、前面保護板20によって画成される段差のないフラットな面として形成され得る。このため、装置(携帯端末)10は、デザイン性において優れる。
例えば図4及び5に示すように、前面保護板20は、具体的な構成として、上述した加飾層45に加えて、加飾層45を支持する透明ガラス基材30と、透明ガラス基材30上に支持された樹脂層40及びセンサ導電体50と、を有している。前面保護板20は、センサ導電体50が図示しない外部の接続回路と接続されることにより、透明ガラス基材30への接触位置を検出可能なタッチパネル装置を構成する。すなわち、前面保護板20は、表示機構18の画像形成面上に配置され、表示機構18によって形成される画像との連携において極めて直接的な入力を可能にする入力手段を構成する。この点から、ここで説明する前面保護板20は、表示装置用の電極付き前面保護板といえる。
なお、図2及び図3に示すように、前面保護板20は、接触位置を検出され得る領域に対応するアクティブエリアAa1と、アクティブエリアAa1に隣接する非アクティブエリアAa2と、を含んでいる。非アクティブエリアAa2は、アクティブエリアAa1を周状に取り囲んでいる。図示された例においては、アクティブエリアAa1は、表示機構18の表示領域A1に対面する領域となっており、非アクティブエリアAa2は、表示機構18の非表示領域A2に対面する領域となっている。加飾層45は、非アクティブエリアAa2の全領域に形成されている。加飾層45は、非アクティブエリアAa2内において、センサ導電体50よりも観察者側に配置され、センサ導電体50のうちの非アクティブエリアAa2内に位置する部分(後述する取出配線53,58)を不可視化している。
以下、前面保護板20の各構成要素についてさらに詳述していく。まず、透明ガラス基材30について説明する。
前面保護板20の透明ガラス基材30は、最も観察者側の表面を形成する部位である。したがって、透明ガラス基材30は、タッチパネル装置のタッチ面を形成する。このため、透明ガラス基材30は、その全表面を、強化処理されている必要がある。透明ガラス基材30として、一例として、強化処理されたガラスを用いることができる。透明ガラス基材30は、タッチパネル機能における接触位置を検出される面をなす。したがって、透明ガラス基材30には、頻繁に外力が加えられるようになる。また携帯端末の特徴上、落下衝撃への耐性を有する必要がある。このため、透明ガラス基材30は、その全表面を強化処理されていることが好ましい。つまり、透明ガラス基材30は、一対の主面31aと、一つの主面31aの間に位置する側端面31bと、を有しているが、この主面31a及び側端面31bのすべてが強化処理されていることが好ましい。
ガラスの強化処理は、既知の方法を適宜採用することができる。一例として、ガラス表層中のナトリウムイオンを大きさがより大きいカリウムイオンに置き換えるイオン交換法や、加熱したガラスの表層を急冷することによる風冷強化法を採用することができる。これらの強化法によって作製された強化ガラスの表層には、圧縮応力が残留した圧縮応力層を形成することができる。圧縮応力層の圧縮残留応力は、傷の発生を効果的に防止することができ、また、僅かな傷が形成されたとしても当該傷を閉じるように作用する。このため、強化処理されたガラスでは、表層に形成された傷が伸び広がることを効果的に防止することが可能となる。
強化処理されたガラスを透明ガラス基材30として用いる場合、透明ガラス基材30の厚みは、0.4mm以上1.1mm以下とすることができる。また、透明ガラス基材30は、表示機構18の表示領域A1に対面する領域にも配置されるので、可視光透過性を有していることが好ましい。
次に、樹脂層40について説明する。なお、樹脂層40は、とりわけ、アクティブエリアAa1に位置する樹脂層40は、透明ガラス基材30とともに、前面保護板用基板25を構成する。
樹脂層40は、アクティブエリアAa1内において、センサ導電体50と透明ガラス基材30との間に位置している。図示された実施の形態において、樹脂層40は、アクティブエリアAa1内において、センサ導電体50の後述する検出電極52,57を透明ガラス基材30から離間させている。この樹脂層40を設けることにより、後述するように、前面保護板20の耐衝撃性を効果的に改善すること並びに前面保護板20の使用中におけるセンサ導電体50の抵抗値上昇を効果的に防止することが可能となる。本件発明者が鋭意研究を重ねたところ、このような二つの作用効果を期待する観点から、樹脂層40の厚みは、3nm以上200nm以下であることが好ましいことが知見された。樹脂層40の厚みが3nm未満となると、樹脂層40を安定してべた膜として形成することが難しくなる。また、樹脂層40の厚みが200nmを超えると、前面保護板20の使用中におけるセンサ導電体50の抵抗値上昇を十分に抑制することができなくなる可能性がある。
樹脂層40は架橋構造を有することが好ましい。架橋構造は、樹脂層40を硬化性樹脂の硬化物からなる層として形成する際に、硬化反応として架橋硬化反応を利用することによって得られる。架橋構造を有する樹脂層40とすることで、架橋硬化反応による硬化収縮によって、樹脂層40に対してより引張残留応力を付与することができる。引張応力が残留した樹脂層40は、隣接する透明ガラス基材30を収縮させるように働く。透明ガラス基材30は、圧縮応力に対しては高い強度を有する一方で、引張応力を受けると簡単にわれてしまう。このため、樹脂層40が引張残留応力を有している場合、透明ガラス基材30の割れを効果的に防止し得る点において好ましい。また、架橋構造を樹脂層40が有することで、樹脂層40上に透明導電体からなるセンサ導電体50が形成されるときの加熱に耐え得る耐熱性を、樹脂層40に付与し易くなる。
樹脂層40は、センサ導電体50の透明導電体からなる検出電極52,57を透明ガラス基材30から隔離させることにより、期待された前面保護板20の耐衝撃性を効果的に改善し且つセンサ導電体50の抵抗値上昇を効果的に防止し得る。この観点からは、樹脂層40は、アクティブエリアAa内に配置されていれば十分である。センサ導電体50が加飾層45上に配置されていたり、或いは、センサ導電体50が透明導電体ではなくなっている非アクティブエリアAa2に、樹脂層40が設けられていることは必須ではない。ただし図示された例において、樹脂層40は、透明ガラス基材30の表示機構18側となる面の全領域に形成されている。
上述したように、樹脂層40は、耐熱性の点で、紫外線硬化性樹脂等の電離放射線硬化性樹脂の硬化物や熱硬化性樹脂等に代表される熱硬化性樹脂の硬化物からなることが好ましい。例えば、樹脂層40の材料として、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂などを用いることができ、具体例を挙げれば、熱硬化性のエポキシ樹脂、紫外線硬化型のアクリル系感光性樹脂などを用いることができる。
また、樹脂層40をなす材料の屈折率が調整され、樹脂層40が、インデックスマッチング層として、アクティブエリアAa1内において樹脂層40上に形成されるセンサ導電体50の不可視化機能を有するようにしてもよい。樹脂層40は、例えば有機樹脂の硬化物からなる複数の層からなり、この複数の層の屈折率が、交互に高低を繰り返すようにしてもよい。
次に、加飾層45について説明する。加飾層45は、非表示領域A2内に位置する表示機構18の回路や配線、非アクティブエリアAa2内に位置するセンサ導電体50の配線等を隠蔽しながら、装置10や表示装置15の意匠性を向上させる層である。まず隠蔽性の観点から、前面保護板20の当該加飾層45が形成されている部分での可視光に対する透過率が、光学濃度(OD)で表して、4以上となっていることが好ましい。なお、光学濃度にて表される透過率の値(OD)は、垂直入射した入射光の強度Iinと垂直に透過した透過光の強度Ioutとを用いた「log10(Iin/Iout)」によって特定される。また、意匠性を向上させる観点から、加飾層45は、製品名や製造名を表示する絵柄部46が形成されていてもよい(図1参照)。絵柄部46は、情報を表示する文字や記号等に限られることなく、模様やパターン等であってもよい。
このような加飾層45は、感光性樹脂の硬化物としての樹脂バインダからなる主部と、主部中に分散された顔料と、を含む塗膜として形成される。典型的には、顔料分散レジスト塗膜として加飾層45を形成することができる。加飾層45の厚みは、十分な色味を発揮する観点、アクティブエリアAa1内と非アクティブエリアAa2内とでのセンサ導電体50の高低差を小さくする観点から、1.0μm以上30.0μm以下とすることができる。
次に、センサ導電体50について説明する。センサ導電体50を用いて形成されるタッチパネル装置は、その接触位置の検出方法に依存して、複数の形式が存在する。ここでは、一例として、センサ導電体50が、投影型の静電容量方式のタッチパネル装置を構成する例を説明する。
図3〜図5に示された例において、前面保護板20は、第1センサ導電体51および第2センサ導電体56を含んでいる。各センサ導電体51,56は、位置検出に用いられる検出電極52,57と、検出電極52,57に接続された取出配線(取出電極)53,58と、を有している。検出電極52,57は、パターンをなすようにしてアクティブエリアAa1内に配置されている。一方、取出電極53,58は、非アクティブエリアAa2内に配置されている。
第1検出電極52は、樹脂層40の表示機構18側の面上に所定のパターンで配置されている。また、第2検出電極57は、樹脂層40上に、第1検出電極45とは異なるパターンで配置されている。より具体的には、図3に示すように、第1検出電極52は、線状に延び、且つ、その長手方向と交差する方向に配列されている。同様に、第2検出電極57も、線状に延び、且つ、その長手方向と交差する方向に配列されている。ただし、第1検出電極52の配列方向と第2検出電極57の配列方向とは非平行となっている。図示された例において、第1検出電極52は、ストライプ状に配列され、且つ、その配列方向に直交する方向に直線状に延びている。また、第2検出電極57も、ストライプ状に配列され、且つ、その配列方向に直交する方向に直線状に延びている。さらに、第1検出電極52の配列方向と第2検出電極57の配列方向とは直交している。
各検出電極52,57は、多数の膨出部52a,57aと、隣り合う膨出部52a,57aを接続する接続部52b,57bと、を有して、直線状に延びている。各検出電極52,57は、平面視において、膨出部52a,57aにおいて幅太となっている。また、第1センサ導電体51の各検出電極52は、平面視において、その接続部52bにて、第2センサ導電体56の検出電極57の接続部57bと交差している。しかしながら、図4及び図5に示すように、第1センサ導電体51の接続部52bと第2センサ導電体56の接続部57bとの間には絶縁部59が設けられている。この絶縁部59によって、第1センサ導電体51の検出電極52と第2センサ導電体56の検出電極57とは絶縁されている。
検出電極52,57は、外部導体が接近した際に生じる、電磁的な変化または静電容量の変化を検知するために設けられるものである。従って、検出電極52,57には、電磁的な変化または静電容量の変化に起因する電流を検知可能なレベルで流すことができる程度の導電性が求められる。その一方で、検出電極52,57は、表示機構18の表示領域A1に対面して配置される。したがって、検出電極52,57は、とりわけ膨出部52a,57aは、優れた可視光透過性を有していることが好ましい。検出電極52,57の膨出部52a,57aは、透明導電体からなる膜として形成することができる。一方、接続部52b,57bは、透明導電体からなる膜として形成されてもよいし、不透明金属材料からなる細線として形成されてもよい。透明導電体として、ITO(Indium Tin Oxide;インジウム錫酸化物)、InZnO(Indium Zinc Oxide;インジウム亜鉛酸化物)、AlZnO(Aluminum Zinc Oxide;アルミニウム亜鉛酸化物)、InGaZnO(Indium Garium Zinc Oxide;インジウムガリウム亜鉛酸化物)等を用いることができる。不透明金属材料としては、銅、アルミニウム、銀、金等を用いることができる。
取出配線53,58は、検出電極52,57の各々に対し、接触位置の検出方法に応じて一つまたは二つ設けられている。各取出配線53,58は、対応する検出電極52,57に接続されて配線を形成している。取出配線53,58は、前面保護板20の非アクティブエリアAa2内において、対応する検出電極52,57から前面保護板20の端縁まで加飾層45上を延びている。そして、取出配線53,58の検出電極52,57とは反対側の端部に、端子部53a,58aが形成されている。取出配線53,58は、その端子部53a,58aにて、図示しない外部接続配線(例えば、FPC)を介し、図示しない検出制御回路に接続される。
取出配線53,58は、表示機構18の非表示領域A2に対面して配置される。したがって、取出配線53,58は、可視光透過性を有している必要はない。したがって、取出配線53,58は、検出電極52,57と同一の材料を用いて形成されていてもよいし、或いは、検出電極52,57とは異なる単なる金属材料から形成されていてもよい。
なお、図示されたセンサ導電体50は、単なる例示に過ぎず、種々の構成のセンサ導電体を採用することができる。例えば、センサ導電体50が、抵抗膜方式のタッチパネル装置を構成するようにしてもよい。この例において、センサ導電体50の検出電極は、表示機構18の表示領域A1に対面する領域の全域に広がる透明導電体のベタ膜として形成されてもよい。
以上のように構成された電極付き表示装置用前面保護板10は、一例として、次の様にして作製され得る。先ず、透明ガラス基材30の一方の面の全領域に樹脂層40を形成し、前面保護板用基板25を作製する。次に、この前面保護板用基板25の樹脂層40上の非アクティブエリアAa2内となる領域に、加飾層45を形成する。次に、加飾層45の面上に、センサ導電体51,56の取出配線53,58を形成する。次に、アクティブエリアAa1内に位置する樹脂層40上に、センサ導電体51,56の検出電極52,57を形成する。検出電極52,57については、まず、第1センサ導電体51の検出電極52の膨出部52a及び接続部52bと、第2センサ導電体56の検出電極57の膨出部57aと、を樹脂層40上に形成する。次に、第1センサ導電体51の検出電極52の接続部52bを覆うように、絶縁部59を形成する。そして最後に、絶縁部59を跨ぐようにして、第2センサ導電体56の隣り合う膨出部57aを接続する接続部57bを作製する。
ところで、未公開先願である特願2013−106907でも言及しているように、前面保護板をなす透明ガラス基材の表面上に透明導電体からなる検出電極を形成すると、透明ガラス基材の耐衝撃性が、検出電極を積層する前と比較して、大幅に低下するといった現象が生じる。特願2013−106907では、耐衝撃性の低下を回避するため、透明ガラス基材と透明導電体からなる検出電極との間に、硬化性樹脂の硬化物からなる樹脂層を配置することが提案されている。特願2013−106907では、樹脂層に付与された引張残留応力によって、当該樹脂層に隣接する透明ガラス基材に収縮力を加えることができる。そして、透明ガラス基材に加えられた収縮力が、透明ガラス基材の耐衝撃性の向上を図っている。したがって、特願2013−106907の樹脂層の厚みは、透明ガラス基材に十分な収縮力を加えることができるよう、0.5μm以上、好ましくは1μm以上と、比較的に厚くなっている。
しかしながら、透明ガラス基材と検出電極との間に設けられた樹脂層の厚さが厚すぎると、透明ガラス基材の耐衝撃性を改善することができるものの、センサ導電体の抵抗値を上昇させてしまうことを、本件発明者らは確認した。センサ導電体の抵抗値が上昇すると、タッチパネル機能における接触位置の検出精度が低下してしまう。本件発明者らが確認したところ、センサ導電体の抵抗値が上昇した前面保護板では、樹脂層上に形成された透明導電体からなる検出電極に割れが生じていた。また、このような検出電極の割れは、前面保護板の使用中に当該前面保護板に衝撃が繰り返し加えられることに起因して、発生した。
以上に説明した検出電極への割れの発生を防止するため、ここで説明した前面保護板20では、樹脂層40の厚みが3nm以上200nm以下となっている。このような前面保護板20によれば、樹脂層40とは反対側となる透明ガラス基材30の表面へ、透明ガラス基材30の割れを発生させえ得ない程度の小さい衝撃が繰り返し加えられた際に、透明導電体からなる検出電極52,57に割れが発生することを効果的に抑制し、この結果、検出電極52,57の抵抗値が著しく上昇してしまうことを回避することができた。
なお、3nm以上200nm以下の厚みを有した樹脂層40は、特願2013−106907での開示内容からすれば、厚みが薄すぎて、透明ガラス基材30に十分な収縮力を加えることができない。したがって、特願2013−106907での開示内容からすれば、検出電極52,57が形成された後における透明ガラス基材30の耐衝撃性の低下を免れないことが予想される。しかしながら驚くべきことに、3nm以上200nm以下の厚みの樹脂層40によっても、この樹脂層40を透明ガラス基材30と検出電極52,57との間に介在させることにより、透明ガラス基材30の耐衝撃性が検出電極52,57に起因して低下することを回避し得ることが、本件発明者らによって確認された。
耐衝撃性の改善および検出電極52,57の抵抗値低下の回避の両方が、3nm以上200nm以下の厚みを有した樹脂層40を透明ガラス基材30と検出電極52,57との間に介在させることにより実現され得る理由の詳細は不明である。しかしながら、次のことが一要因であると推定される。ただし、本発明は、以下の推定に拘束されない。
まず、前面保護板20のタッチ面をなす透明ガラス基材に衝撃が加えられると、透明ガラス基材が湾曲する。外部からの衝撃および透明ガラス基材の湾曲は、樹脂層に伝播し、樹脂層が振動する。厚みが200nmを超える樹脂層では、この振動が大きくなる。したがって、脆性材料である透明導電体の薄膜として形成された検出電極は、透明ガラス基材に衝撃が加えられた際に大きく振動する比較的に厚膜の樹脂層上において、樹脂層に追従して弾性変形することなく、割れてしまう。とりわけ、透明導電体からなる検出電極には、その形成過程における焼成に起因して、圧縮応力が残留する。そして、圧縮残留応力を有した検出電極は、大きな引張残留応力を有することになる厚さの厚い樹脂層が隣接することによっても、割れやすくなっている。一方、厚みが200nm以下となっている薄い樹脂層40は、透明ガラス基材40に衝撃が加えられた際に、透明ガラス基材40の変形を大きく越える程度に変形することはない。また、この厚みの薄い樹脂層40には、大きな引張応力が残留していない。以上のことから、3nm以上200nm以下の厚みを有した樹脂層40を透明ガラス基材30と検出電極52,57との間に介在させた場合、検出電極52,57の割れの発生を効果的に防止することができ、結果として、検出電極52,57の抵抗値上昇、ひいてはセンサ導電体50の抵抗値上昇を効果的に回避し得るものと推測される。
また、透明導電体からなる検出電極を透明ガラス基材の表面に積層した場合、上述してきたように、透明ガラス基材の耐衝撃性が、検出電極の形成前と比較して著しく低下し、透明ガラス基材は割れやすくなる。本件発明者ら鋭意検討を重ねたところ、このような透明ガラス基材への割れの発生は、検出電極への割れの発生に起因しているものと推測された。
すなわち、透明ガラス基材に衝撃力が加えられた場合、当該衝撃力が、透明導電体を積層されていない透明ガラス基材自体に割れを発生させ得ない程度であっても、脆性材料である透明導電体の薄膜として形成された検出電極は割れる可能性がある。この場合、検出電極へ割れが発生する際の衝撃が透明ガラス基材に加えられ、透明ガラス基材にも割れが発生し得るものと推測される。そして、厚みが200nm以下となっている薄い樹脂層40は、検出電極へわれが発生する際の衝撃が透明ガラス基材に加えられてしまうことを効果的に抑制することができる。この結果、透明ガラス基材に収縮力を積極的に加えることができない薄膜の樹脂層40によっても、透明ガラス基材30の耐衝撃性を改善して、割れの発生を効果的に抑制することができるものと推測される。すなわち、3nm以上200nm以下の厚みを有した樹脂層40を有した前面保護板20では、特願2013−106907とは異なる方法、異なるメカニズムによって、透明ガラス基材30の耐衝撃性を改善しているものと推測される。
ここで、本件発明者らが行った実験結果の一例を示す。まず、透明ガラス基材40の耐衝撃性について確認した実験結果について説明し、その後に、透明ガラス基材40への衝撃付加と透明導電体の抵抗値変化との関係について説明する。
前面保護板20の透明ガラス基材30の耐衝撃性は、一般的に、落球試験によって評価され得る。図6は、落球試験を実施可能な落球試験装置90の一例を説明する図である。図6に示された落球試験装置90では、上面中央部に直径40mmの円柱形状のくり抜き部91を有する鉄製の土台92に対して、その中央部に試験片Tpを載置するようになっている。試験片Tpは縦横10cmの正方形形状とした。試験片Tpは地面に近い側の図面下側の面を検出電極をなす透明導電体が設けられた側の面とし、上側の面には、測定時の安全性を考慮してガラス破損時の飛散を防ぐために、飛散防止フィルム93を貼り付けた。飛散防止フィルム93は、試験片Tpの試験中において、一回の落球毎に取り替えることなく、試験片Tp毎に新しいものを用いた。飛散防止フィルム93には、厚み75μmのポリエチレンテレフタレート製粘着フィルムを用いた。飛散防止フィルム93は、粘着フィルムの粘着面で試験片Tpに貼り付けた。
試験片Tpは、飛散防止フィルム93とともに、直径40mmの円形状の孔部94を中央部に有する正方形形状で鉄製の押さえ板95によって、土台92に固定した。試験片Tpの固定は、試験片Tpを土台92との間に挟んだ押さえ板95を、その四辺中央部の4箇所でボルト96及びナット97で土台92に固定することで行った。そして、所定の高さHから、金属球98を試験片Tpの中央部めがけて垂直に落下させた。金属球98には、質量50gで直径20mmのステンレス製の球体を用いた。
落球試験は、次のようにして評価した。金属球98を落下させる落球高さHを、10cmから開始し、20cm、30cm、40cm、・・・・・と、高さHを10cmずつ高くして、最大150cmの高さHまで試験を繰り返した。同じ高さHでの試験数nは4とした。
図7に落球試験結果の一例を示す。同図のグラフは、横軸が落球高さH〔cm〕であり、縦軸は破壊確率である。破壊確率〔%〕は、一つの落球高さで行った試験回数、すなわち4回に対する、試験片Tpが破損した試験回数の百分率である。例えば、4回の落球に対して、3回破損したときは、破壊率は75%となる
図7中におけるサンプル1は、次のように作製した。厚み0.7mmの透光性化学強化ガラスを透明ガラス基材として用い、この透明ガラス基材の片面に、樹脂層として紫外線硬化型のアクリル系感光性樹脂の架橋構造を有する硬化物層を40nmの厚みで全面に形成した。次に、検出電極をなす透明導電体として、厚み140nmのITOをスパッタ法で全面に形成し且つその後に200℃で30分加熱処理したITO薄膜を、樹脂層上に形成した。一方、図7中におけるサンプル2は、サンプル1と同様の透明ガラス基材の片面上に直接、サンプル1と同様のITO薄膜を形成した。すなわち、サンプル2は、樹脂層を省いた点においてサンプル1と異なり、その他においてサンプル1と同様とした。図7中におけるサンプル3は、サンプル1で用いた透明ガラス基材そのものとした。
なお、各サンプルによってなされる試験片Tpにおいて、ITO薄膜は、検出電極と同様のパターンを有しておらず、面状のベタ膜として形成されている。しかしながら、ITO薄膜が、ベタ膜として形成されていることにより、透明導電体が透明ガラス基材の耐衝撃性を低下させる作用は、より顕著となり、より厳しい評価となっていると考えられる。
図7に示すように、透明ガラス基材上に直接ITO薄膜を形成したサンプル2では、ITO薄膜が形成されてない透明ガラス基材からなるサンプル3と比較して、耐衝撃性が大幅に低下している。一方、厚み40nmの樹脂層を透明ガラス基材とITO薄膜との間に介在させたサンプル1の耐衝撃性は、サンプル2の耐衝撃性と比較して格段に改善され、サンプル3の耐衝撃性と同程度となっていた。すなわち、厚みが40nm程度に過ぎない樹脂層によって、厚みが0.7mmである透光性化学強化ガラスの耐衝撃性を大幅に改善することができた。このような効果は、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであると言える。
次に、透明ガラス基材40への衝撃付加と透明導電体の抵抗値変化との関係について説明する。この試験は、図6に示された落球試験装置90を用いて行った。落球試験装置90に保持された試験片TPに対して、落球高さ10cmから、金属球98を試験片Tpの中央部めがけて垂直に落下させた。金属球98には、質量20gのステンレス製の球体を用いた。試験結果を、表1及び図8に示す。表1における抵抗値は、共立電気計器株式会社製のKEW1030を用いて測定した検出電極の抵抗値である。図8の縦軸は、抵抗値の変化率を示しており、この変化率は、落球試験を行う前における抵抗値に対する、20回、50回または100回の落球試験後における抵抗値の割合を百分率〔%〕で示している。図8の横軸は、試験片に対して実施した金属球の落球回数〔回〕を示している。
なお、表1及び図8中のサンプルA〜Eは、厚み0.7mmの透光性化学強化ガラスからなる透明ガラス基材と、樹脂膜と、厚み140nmのITO薄膜からなる透明導電体と、を上述した図7中のサンプル1と同様にして作製した。ただし、サンプルA〜Eにおいて、樹脂層の厚みを変化させ、ITO薄膜は検出電極と同様のパターンを形成させた。具体的には、サンプルAの樹脂層の厚みを500nmとし、サンプルBの樹脂層の厚みを300nmとし、サンプルCの樹脂層の厚みを200nmとし、サンプルDの樹脂層の厚みを100nmとし、サンプルEの樹脂層の厚みを50nmとした。また、表1及び図8中のサンプルFは、上述した図7中のサンプル2と同様に、厚み0.7mmの透光性化学強化ガラスからなる透明ガラス基材上に、直接、厚み140nmのITO薄膜を形成してなるものとした。つまり、サンプルFは、樹脂層を含んでいない。
表1および図8に示すように、樹脂層の厚みが300nm以上となっているサンプルA及びサンプルBでは、透明導電体の抵抗値が、落球回数の増加にともなって顕著に上昇していった。一方、樹脂層の厚みが200nm以下となっているサンプルC、サンプルD及びサンプルEでは、落球回数の増加にともなった透明導電体の抵抗値上昇が、効果的に抑制された。また、樹脂層が形成されていないサンプルFでは、20gの金属球を用いて落下試験では、落球回数によらず透明導電体の抵抗値は一定の値となった。
以上のように本実施の形態によれば、前面保護板20は、透明ガラス基材30と、透明ガラス基材30上に設けられた樹脂層40と、樹脂層40上に設けられた検出電極52,57と、を有しており、検出電極52,57は、透明導電体を用いて形成され、樹脂層40の厚みが、3nm以上200nm以下となっている。このような前面保護板20では、透明導電体を用いて形成された検出電極52,57を有する前面保護板20の耐衝撃性を改善することができ、且つ、当該前面保護板20の使用中における検出電極52,57の抵抗上昇を効果的に回避することができる。
以上、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、この他にも種々の態様で実施可能である。以下、図面を参照しながら、変形の一例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
上述した実施の形態では、樹脂層40はアクティブエリアAa1のみならず非アクティブエリアAa2も含めて、透明ガラス基材30の樹脂層40が形成される側の表面上の全面に形成されていた。しかしながら、この例に限られず、樹脂層40は、透明ガラス基材30と検出電極52,57の間に配置されることによって、上述した有用な作用効果を生ずることができる。したがって、例えば図9や図10に示す例のように、樹脂層40がアクティブエリアAa1に形成されるとともに、アクティブエリアAa1と非アクティブエリアAa2との境界部分での加飾層45の側面を被覆するようにしてもよい。図9に示された例において、樹脂層40は、さらに、加飾層45の表示機構18側の表面の一部分上にも形成されている。さらに、図10に示された例において、樹脂層40は、加飾層45の表示機構18側の表面の全面を覆っている。
上述した実施の形態では、前面保護板20が、透明ガラス基材30と、樹脂層40と、加飾層45と、センサ導電体50とからなる例を示したが、この例に限られない。例えば、前面保護板20が、更なる層または更なる部位を有するようにしてもよい。図11に示された一具体例では、前面保護板20の表示機構18側の表面をなす面として、オーバーコート層60が設けられている。オーバーコート層60は、例えば、保護層として機能する。
上述した実施の形態において、第1センサ導電体51の検出電極52及び第2センサ導電体56の検出電極57の両方が、樹脂層40上に形成されている例を示したがこれに限られない。例えば、第1センサ導電体51が樹脂層40上に支持され、第2センサ導電体56が、第2の基材35上に支持されるようにしてもよい。図12に示された例において、第1センサ導電体51の検出電極52が、樹脂層40上に形成され、第2センサ導電体56の検出電極57および取出配線58が、第2の基材35上に形成されている。また図12に示された例では、第1センサ導電体51の取出配線53は、加飾層45上に形成されている。図12に示された例において、前面保護板20と第2の基材35が、接合層を介して、互いに接合されているようにしてもよい。
上述した実施の形態において、前面保護板20と表示機構18との間に接合層が設けられ、この接合層を介して、前面保護板20と表示機構18とが接合されているようにしてもよい。
なお、以上において上述した実施の形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。