[第5世代移動通信を取り巻く背景]
現在、スマートフォンなどの高機能な移動通信端末が爆発的に普及している。携帯電話に関しては、第3世代移動通信から第4世代移動通信に移行し、現在ではさらに先の第5世代移動通信(通称「5G」)に関する研究開発が進められている。この5Gに関して行われている検討のひとつに、マクロセルとスモールセルの利用がある。
これまでの携帯電話では、ひとつのサービスエリアを半径数キロメートル程度に設定し、このマクロセルのエリアをひとつの基地局装置がカバーしていた。しかし、この様なマクロセル内には非常に膨大な数のユーザが存在する。全体の限りあるシステム容量は各ユーザでシェアされることになるため、膨大な数のユーザを収容するときには、個々のユーザ毎のスループットは低下する。
この様なスループットの低下を回避するために、トラヒックが集中するような人口密集地に、半径数十メートル程度の非常に小さなサービスエリアであるスモールセルを設定する技術が開発されている。この技術では、スモールセルを活用することで、マクロセルを介さずにスポット的なトラヒックをネットワークにオフロードする。ここでは、スモールセルにおける通信能力とマクロセルにおける通信能力を同時並行的に利用可能な端末装置を想定する。このような端末装置を用いることで、制御情報についてはマクロセルを活用して情報交換を行いながら、ユーザデータをスモールセル側において収容する。これによって、マクロセルとスモールセルのメリットを最大限活用することが可能になる。
先に述べた5Gでは、伝送速度の目標値に10Gbit/s(ギガビット毎秒)以上が設定されており、このスモールセルでも同様の大容量の通信を行うことでトラヒックの効率的なオフロードを実現する必要がある。マクロセルにおいては長距離伝搬を許容するために周波数の低いマイクロ波帯を利用することが前提となる。しかし、既に周波数資源が枯渇しつつあるマイクロ波帯の現状を考慮し、比較的近距離での通信を想定するスモールセルでは、比較的周波数の高い準ミリ波帯またはミリ波帯の利用が想定されている。この高周波数帯の特徴は、周波数の2乗に反比例して伝搬減衰が大きくなることである。従って、スモールセル基地局は理想的にはユーザ端末に近い場所に設置されることが好ましい。例えば、ビルの屋上の様な設置が容易な場所では、ユーザ端末と基地局との距離が離れ過ぎてしまい、回線設計上、好ましくない。
一方、スモールセルはトラヒックが集中する場所に設定されることになるため、そこまで光ファイバを敷設することが困難な場所であっても、基地局装置の設置が強く望まれるケースがある。例えば新宿や渋谷などの駅前などの様に非常に人が多く密集する場所にスモールセルの基地局装置を設置する場合を想定すると、その様な場所に隣接するビルの屋上では伝搬減衰が大きくなる。そのため、ビルの屋上よりも高さの低い場所、例えばビルの壁面などへの設置が求められることがある。しかし、既設のビルの壁面に光ファイバを敷設するのは困難な場合があり、その様な場合には無線回線を用いてその基地局装置へのバックホール回線を提供する必要に迫られることがある。
この様なバックホール回線を提供する場合、スモールセルにおいて求められる10Gbit/s以上の大容量伝送に対応するために、同様にミリ波帯を活用して10Gbit/s以上の大容量伝送を行う必要がある。この様な環境では、対向する無線局装置は双方が安定的な場所に固定設置されるため、当然ながら見通しが安定的に確保され、且つ、指向性アンテナを相互に向け合うことが一般的である。この場合、ビル間の反射波などはある程度は存在するが、受信される信号の殆どは見通し波成分であり、マルチパス環境とは言いにくい状態であると予想される。この状況は、スモールセル用の基地局装置がビル壁面などの高所に設置され、上方から下方のユーザを見下ろす形で、概ね見通し環境で利用するならば、アクセス系に関しても同様である。
次に、5Gで求められる伝送速度である10Gbit/s以上の大容量伝送については、ミリ波帯の活用により非常に広い帯域幅の周波数資源を利用することが可能になり、これにより実現可能性は高まっている。例えば、ミリ波帯を用いたバックホール回線を想定するならば、一例としてEバンド(71〜76GHz及び81〜86GHz)などを用い、仮に1GHzの帯域幅を用いるとすれば、周波数利用効率は10bit/s/Hzで済むことになる。しかし、10bit/s/Hzの周波数利用効率を達成するための既存の無線設備は、概ねMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)チャネルを利用した空間多重伝送を採用している。空間多重伝送は一般にはマルチパス環境を利用しており、MIMOチャネルの伝達関数を行列形式で表現したチャネル行列Hの特異値分解を行った際に、その結果得られる特異値の絶対値の分布が、その空間多重伝送の特性を表す。具体的には、特異値の絶対値の2乗値は信号対雑音電力比SNR(Signal to Noise Ratio)に比例した値であり、空間多重伝送のためには第1特異値のみならず、第2特異値以降も十分に大きな値を持たなければ通信が成り立たない。アクセス系であるスモールセルにおける大容量伝送でも同様であるが、この様な見通し波が支配的な環境での空間多重伝送を実現することが、目的とする無線システムの実現には必要不可欠である。
上述のように、5Gではアクセス系及びバックホール回線共に、ミリ波帯の利用が期待される。また、先に述べたように、高周波数帯の特徴は、周波数の2乗に反比例して伝搬減衰が大きくなることである。例えば2GHz帯(既存のアクセス系)と80GHz帯(ミリ波帯を用いる将来システム)とを比較すれば40倍の周波数であるために、伝搬減衰は1600倍であり、32dBの回線利得が不足することになる。もちろん、マクロセルほど広範囲をカバーする必要はないので32dBの全てを補う必要はないが、一方で高周波数帯では送信段でのハイパワーアンプはあまり高出力のデバイスが存在しないため、この点も加味すれば数10dBレベルでの追加の回線利得の確保をしなければならないと考えられる。さらには、その様な環境で空間多重伝送も期待されるため、基地局及び端末局の双方において、従来技術に比べて格段に多くのアンテナ素子を備えた無線システムが検討されるようになった。この様な技術をMassive MIMOと呼ぶ。以下に、Massive MIMOに関する従来技術を紹介する。
非特許文献1では、基地局側が256素子、端末局側が16素子のアンテナを備え、256×16のサイズのチャネル行列を活用して16ストリームの空間多重伝送を目指している。この非特許文献1では、複数の信号系列(ストリーム)を伝送するために、その指向性形成を、無線のアナログ回路における複素位相量の回転を用いたアナログビームフォーミングと、デジタル・ベースバンド回路におけるデジタル領域でのデジタルビームフォーミングとを併用して行う。これにより、アナログ/デジタル(A/D)変換器及びデジタル/アナログ(D/A)変換器の多用を避け、消費電力の低減とチャネル情報のフィードバック時の回線利得不足対策を行っている。以下、非特許文献1に示された技術の概要を説明する。
図7は、従来技術における無線局装置の構成例を示す機能ブロック図である。同図に示す無線局装置は、変調器901−1〜901−N(MOD#1〜MOD#N)と、プリコーダ902と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:高速逆フーリエ変換)&GI(Guard Interval)付与回路903−1〜903−N0と、D/A変換器904−1〜904−N0と、アップコンバータ(UC)905−1〜905−N0と、ダウンコンバータ(DC)906−1〜906−N0と、A/D変換器907−1〜907−N0と、GI除去&FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路908−1〜908−N0と、ポストコーダ909と、復調器910−1〜910−N(DEM#1〜DEM#N)と、TDDスイッチ(TDD−SW)911と、分配結合器(HYB)912−1〜912−N0と、移相器913−1−1〜913−N0−M0と、分配結合器(HYB)915−1〜915−M0と、アンテナ素子916−1〜916−M0とを備える。ここでNは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、N0はデジタル的な指向性形成のための信号処理を行う信号系統数を、M0はアンテナ素子数を表している(M0≧N0≧N)。さらにアンテナ素子916−1〜916−M0は、全体としてアレーアンテナを構成している。
分配結合器912−1〜912−N0からアンテナ素子916−1〜916−M0は送受信で共通である。また、TDDスイッチ911は、分配結合器912−1〜912−N0からアンテナ素子916−1〜916−M0への接続を、送信系に相当する変調器901−1〜901−Nからアップコンバータ905−1〜905−N0と、受信系に相当するダウンコンバータ906−1〜906−N0から復調器910−1〜910−Nとの間で切り替える。例えば、送信時にはアップコンバータ905−nと分配結合器912−nが接続され、受信時にはダウンコンバータ906−nと分配結合器912−nが接続される(n=1,…,N0)。ここには図示していない全体の制御回路が、フレーム周期や送受信タイミングを管理し、TDDスイッチ911の切り替えもこの制御回路により実施される。
また、移相器913−1−1〜913−N0−M0は、事前に定められたビームパターンに応じて送受信信号の位相関係を調整し、図示していない制御回路によりこの位相回転量も管理される。ここでの位相は、フェーズドアレーアンテナにおける指向性制御と同様である。例えば、アンテナ素子916−1〜916−M0全体で所定の方向への指向性利得が最大となる様に、その方向からの到来波に対して各アンテナ素子916−1〜916−M0における経路長差を波長で除算した値に相当する複素位相を調整する。これにより、各アンテナ素子916−1〜916−M0が同位相で信号を送受信できるようにする。
なお、ここでの指向性は水平方向の方位角θ及び垂直方向の方位角φを所定の角度の刻み幅で分割し、選択可能な(θi,φj)のメニューごとに、対応する複素位相の組をセットとして移相器913−n−1〜913−n−M0(n=1,…,N0)の位相量の調整を行う。この結果、例えば、アンテナ素子916−1〜916−M0、移相器913−n−1〜913−n−M0、分配結合器912−n全体でn番目の信号系列ついてのひとつの仮想的指向性アンテナとして振る舞う。これらの仮想的指向性アンテナは物理的には分配結合器915−1〜915−M0を介して、アンテナ素子916−1〜916−M0を共用することになる。
さらに以下の説明では、一例としてOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式の様に周波数軸上の信号を形成して通信を行う場合を例に取り説明する。なお、シングルキャリア伝送の場合であっても周波数軸上での等化処理を行う場合には一旦周波数軸の信号に変換するので、プリコーディング処理及びポストコーディング処理に関しては、この様な周波数軸上の信号に変換した後の処理と見なせば、OFDMかシングルキャリア伝送かの区別なく、同様の議論は可能である。
具体的な信号の流れは以下の通りである。まず信号の送信について説明する。変調器901−1〜901−Nは、それぞれで空間多重を行う各ストリームの送信信号を生成する。プリコーダ902は、複数の仮想的指向性アンテナ間の間で信号合成を適宜行い、受信局側での信号分離が効率的に実施できるようにする。このプリコーディング処理は、例えばN0系統の仮想的指向性アンテナと実際に送受信するN系統の信号系統間のMIMOチャネル行列を特異値分解した際のユニタリー変換行列の乗算に相当する。これにより、所謂、固有モード伝送を実現し、効率的な伝送を実現する。IFFT&GI付与回路903−1〜903−N0は、この様にして形成された送信信号系列を、周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換し、ガードインターバルを付与する。必要に応じて、シンボル間の波形整形などもここで行うものとする。D/A変換器904−1〜904−N0は、この様にして生成されたデジタル信号を、アナログ信号に変換する。アップコンバータ905−1〜905−N0は、このアナログ信号を、ベースバンド信号から無線周波数帯の信号に変換する。
送信時においてTDDスイッチ911は、アップコンバータ905−nと分配結合器912−nを接続する(n=1,…,N0)。なお、添え字の1〜N0は全て同様に振る舞う。分配結合器912−n(n=1,…,N0)は、無線周波数帯の信号をアンテナ系統数M0だけの信号に分配し、これを移相器913−n−1〜913−n−M0に入力する。例えば移相器913−1−1〜913−1−M0は、第1の信号系列に対応する指向性の方位(θi,φj)に対応した所定の複素位相の調整をアナログ信号上で実施し、調整後の第1の信号系列を分配結合器915−1〜915−M0を介してアンテナ素子916−1〜916−M0から送信する。同様に移相器913−N0−1〜913−N0−M0は、第N0の信号系列に対応する指向性の方位(θi’,φj’)に対応した所定の複素位相の調整をアナログ信号上で実施し、調整後の第Nの信号系列を分配結合器915−1〜915−M0を介してアンテナ素子916−1〜916−M0から送信する。なお、分配結合器915−m(m=1,…,M0)は、対応する移相器913−1−m、913−2−m、…、913−N0−mから入力した信号を合成し、アンテナ素子916−mに出力する。
次に信号の受信について説明する。アンテナ素子916−1〜916−M0が受信した信号は分配結合器915−1〜915−M0により、それぞれN0系統の信号に分配され、それぞれが対応する移相器913−1−1〜913−N0−M0に出力される。
例えば移相器913−1−1〜913−1−M0は、第1の信号系列に対応する指向性の方位(θi,φj)に対応した所定の複素位相の調整をアナログ信号上で実施し、調整後の第1の信号系列を分配結合器912−1に入力する。分配結合器912−1は入力されたこれらの信号を合成し、合成された信号を、TDDスイッチ911を介してダウンコンバータ906−1に入力する。
同様に、移相器913−N0−1〜913−N0−M0は、第Nの信号系列に対応する指向性の方位(θi’,φj’)に対応した所定の複素位相の調整をアナログ信号上で実施し、調整後の第Nの信号系列を分配結合器912−N0に入力する。分配結合器912−N0は、入力されたこれらの信号を合成し、合成された信号を、TDDスイッチ911を介してダウンコンバータ906−N0に入力する。
ダウンコンバータ906−1〜906−N0は、無線周波数の信号をベースバンド信号にダウンコンバートする。A/D変換器907−1〜907−N0は、ダウンコンバートにより得られたアナログのベースバンド信号をデジタルのベースバンド信号に変換する。ここでは図示していないタイミング検出回路にて管理されるシンボルタイミングに基づき、GI除去&FFT回路908−1〜908−N0は、デジタルのベースバンド信号からガードインターバルを除去し、時間軸の信号を周波数軸の信号に変換する。ポストコーダ909は、GI除去&FFT回路908−1〜908−N0により処理された各信号系列(ストリーム)間のクロストーク成分を周波数軸上で信号分離し、クロストーク成分分離後の信号を対応する復調器910−1〜910−Nに出力する。復調器910−1〜910−Nは、所定の信号検出処理により、データを再生して出力する。
なお、ここでは送信側のパワーアンプ及び受信側のローノイズアンプは明示的に記載していないが、一般にはアップコンバータ905−1〜905−N0の後段(符号「A1」〜「AN0」の位置)にパワーアンプを設置し、ダウンコンバータ906−1〜906−N0の前段(符号「B1」〜「BN0」の位置)にローノイズアンプを設置する。このパワーアンプとローノイズアンプは個別に複素位相回転量が異なり、更には周波数毎に移送回転量が異なる場合もある。しかし、TDDスイッチ911とアンテナ素子916−1〜916−M0の間には送信と受信で位相回転量に差がつく要因は排除されており、送信時と受信時でのチャネルの対称性が保存される。このため、移相器913−1−1〜913−N0−M0の位相回転量の設定は、送信時と受信時で同じ値を用いることが可能である。
以上がハイブリッド・ビームフォーミングを用いたMassive MIMO技術の概要である。ここでは移相器913−1−1〜913−N0−M0で設定する位相回転量ないしは各信号系列に対応する指向性の方位(上述の例では、移相器913−1−1〜913−1−M0では(θi,φj)、移相器913−N0−1〜913−N0−M0では(θi’,φj’))などの取得方法は本願発明の特徴に直接関係ないために省略するが、非特許文献1などの従来技術により取得可能である。
[見通し波が支配的な場合のMassive MIMO技術の拡張]
以上のMassive MIMO技術の説明では、主としてアクセス系での利用を想定していたために、概ねマルチパス環境であることを前提としていた。しかし、アクセス系であってもスモールセル基地局が上方に設置され、見下ろす格好で概ね見通しが確保できる場合には、非マルチパス環境での運用が余儀なくされる場合がある。特にバックホール回線の場合にはそれが顕著で、所謂、ライス係数Kが10dB以上となる、見通し波成分の1/10以下程度しかマルチパス成分が伴わない環境での利用が想定される。この場合、第1特異値に相当する回線利得と第2特異値以上に相当する回線利得差が20dB、ないしはそれ以上となることが予想され、実質的に2ストリーム以上の空間多重伝送は非効率となることが予想される。
この様な環境では、非特許文献2に示される様に、第1特異値に対応する回線利得の効率の高さを活用して、全アンテナ素子を複数のセットに分割し、セット毎にサブアレー構成をとることが有効になる。そして、そのサブアレーを空間的に離して設置することで、サブアレー間の相関を低下させ、第1特異値に対応した伝送を低相関で並列伝送することが有効になる。また、同様に非特許文献3では、ここでのサブアレーのアンテナ開口長が狭く、見通し波が支配的で十分にサブアレー内の各アンテナ素子間の相関が強い場合、各アンテナ素子の送受信ウエイトは周波数依存性を持たない定数として扱うことが可能であり、この場合には時間軸上のサンプリングデータ単位でウエイトの乗算が可能であるという「時間軸ビームフォーミング技術」が提案されている。
これは、素子間隔が狭くアンテナ素子の相関が強い場合、アンテナ素子毎の相対的なチャネル情報(ある基準となるアンテナ素子でのチャネル情報に対するチャネル情報の相対値であり、具体的には基準アンテナ素子の第k周波数成分のチャネル情報の複素位相をψref (k)とした場合に、各アンテナ素子にExp{−jψref (k)}を乗算して得られる情報)の複素位相の周波数依存性は、概ね一定となっていることに起因した方式である。例えば受信時においては、これらの各アンテナ素子の受信信号を複素位相が同位相になる様に信号合成するための受信ウエイトの複素位相は、全周波数帯域において概ね一定となっており、全周波数帯で同一の定数の受信ウエイトを用いることが可能となる。一般に、周波数軸上で定数となる関数をフーリエ変換するとδ関数になるため、周波数軸の受信ウエイトをIFFTにより時間軸上に変換したウエイトは、t=0の成分のみを考慮すればよいことになる。つまり、遅延波成分を考慮した信号処理が不要であることから、アナログ・ベースバンドの受信信号をA/D変換器でサンプリングしたサンプリングデータに、直接、アンテナ素子毎の所定の係数である時間軸受信ウエイトを乗算すれば、受信信号をFFT処理などにより一度も周波数軸上の信号に変換することなく、完全に時間軸の信号処理だけで指向性形成を実現することが可能になる。
時間軸ウエイトとして乗算する複素位相の回転のための係数は以下の式(1)〜式(3)により求められる。
上記の式において、Si(n)は、受信したトレーニング信号の中で、第iアンテナの第nサンプルのサンプリングデータを表し、Si(n)*は、Si(n)の複素共役を表す。NFFTは所定の周期性を想定し、例えばOFDMのFFTポイント数の様な相関検出において意味を持つ周期性の値を示す。ψjは時間軸ビームフォーミングで実施する(受信側の)複素位相の回転量である。関数angle(x)は複素数xの複素位相を表す関数であり、xの実数部とxの虚数部の比及び実部と虚部の符号により定まる値である。また、式(1)における相関演算においては所定の周期性としてOFDM信号の場合にはFFTポイント数であるNFFTサンプルに渡り相関演算を行うとしたが、例えばNFFTの整数倍であっても周期性は維持される様に、その他のサンプル数に渡る相関演算を行っても構わない。
ここで式(2)より明らかな様に、上記式(1)で与えられる複素係数cjの複素位相と、上記式(2)で与えられる時間軸ウエイトwjの複素位相は符号が反転したものとなっている。この意味で、後述する本発明の実施形態において、相対的なチャネル情報に対応する式(1)で与えられる複素係数cjの複素位相を求めることと、時間軸ウエイトwjの複素位相を求めることは等価である。
図8は、非特許文献3に記載の従来技術における時間軸ビームフォーミングを用いた無線局装置の構成例(サブアレー分離型)を示す機能ブロック図である。同図に示す無線局装置は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路929−1〜929−Nとを備える。ベースバンド信号処理回路140は、変調器120−1〜120−N(MOD#1〜MOD#N)と、信号分離回路141と、復調器130−1〜130−N(DEM#1〜DEM#N)とを備える。送受信信号処理回路929−n(n=1,…,N)は、時間軸送信ウエイト乗算回路921−nと、D/A変換器922−n−1〜922−n−Mと、アップコンバータ923−n−1〜923−n−Mと、ダウンコンバータ(DC)924−n−1〜924−n−Mと、A/D変換器925−n−1〜925−n−Mと、時間軸受信ウエイト乗算回路926−nと、TDDスイッチ(TDD−SW)927−nとを備える。TDDスイッチ927−nは、アンテナ素子928−n−1〜928−n−Mと接続される。ここでNは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、送受信信号処理回路929−1〜929−Nは全体でN系統分だけ実装されている。またMは、各送受信信号処理回路929−1〜929−Nに実装されるサブアレーのアンテナ素子数を表している。図7の説明では全アンテナ素子数をM0としていたが、ここではアンテナ全体をサブアレー構成としているので個々のサブアレーのアンテナ素子数は異なる値Mと標記した。
ここで送受信信号処理回路929−1〜929−N(送受信信号処理回路929−nにはサブアレーのアンテナ素子928−n−1〜928−n−Mが付随している)は、非特許文献2の様に空間的に離して設置することが想定されている。また、ベースバンド信号処理回路140は、送受信信号処理回路929−1〜929−Nそれぞれと有線接続され、この有線上でデジタル・ベースバンド信号が転送されている。また、図7の場合と同様に、ここには図示していない全体の制御回路がベースバンド信号処理回路140上に実装され、フレーム周期や送受信タイミングを管理し、ここでTDDスイッチ927−1〜927−Nの切り替えもここで管理される。
さらに時間軸ビームフォーミング技術では、基本的に時間軸での信号処理を前提とするが、OFDM変調方式の様に周波数軸上の信号を形成する場合でもFFT処理及びIFFT処理により周波数軸上の信号は時間軸上の信号に変換可能であり、この時間軸信号への信号処理の実施により、シングルキャリア伝送と共にOFDM変調方式でも同様に時間軸ビームフォーミング技術を適用可能である。ただし、図7では周波数軸上の信号処理を想定し、IFFT処理のためのIFFT&GI付与回路903−1〜903−N0とFFT処理のためのGI除去&FFT回路908−1〜908−N0とを、変調器901−1〜901−N及び復調器910−1〜910−Nとは分離して表記していたが、ここでは周波数軸上の信号処理を前提としないため、図8では仮にOFDM変調方式などを用いる場合であっても、変調器120−1〜120−N及び復調器130−1〜130−N(または信号分離回路141)内部にFFT処理及びIFFT処理の機能が含まれているものと見做し、これらの表記は省略することとした。したがって、OFDM変調方式やシングルキャリア伝送の如何にかかわらず、変調器120−1〜120−N及び復調器130−1〜130−Nからの入出力信号は時間軸上の信号であるものとする。また、信号分離回路141では各信号系列間の信号分離を行うが、ここでは時間軸での信号分離を行うことも可能であるし、一旦、FFTにより周波数軸の信号に変換し、周波数軸で周波数依存性のある信号分離を実施しても構わない。この意味で、復調器130−1〜130−Nへの入力は、時間軸の信号である場合と周波数軸の信号である場合が想定されるが、ここでは簡単のために時間軸での信号を入力するものとして説明する。
具体的な信号の流れは以下の通りである。まず信号の送信について説明する。変調器120−1〜120−Nは、それぞれで空間多重を行う各ストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号を生成し、それぞれを時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−Nに入力する。時間軸送信ウエイト乗算回路921−n(n=1,…,N)は、変調器120−nから入力されたデジタル信号を、送受信信号処理回路929−nで指向性形成するためのサブアレーの各アンテナ素子928−n−1〜928−n−Mに対応した送信ウエイトを乗算したデジタル信号に変換する。D/A変換器922−n−1〜922−n−Mは、送信ウエイトが乗算されたデジタル信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、アップコンバータ923−n−1〜923−n−Mは、アナログ・ベースバンド信号を無線周波数帯の信号に変換する。送信時において、TDDスイッチ927−nは、アップコンバータ923−n−m(mは1以上M以下の整数)をアンテナ素子928−n−mに接続する。各アンテナ素子928−n−1〜928−n−Mからは、アップコンバータ923−n−1〜923−n−Mから入力されたそれぞれの信号が送信され、送受信信号処理回路929−1〜929−N毎に指向性ビームが形成される。
次に信号の受信について説明する。アンテナ素子928−n−1〜928−n−M(n=1,…,N)が受信した信号はTDDスイッチ927−nを介してダウンコンバータ924−n−1〜924−n−Mに入力される。ダウンコンバータ924−n−1〜924−n−Mは、無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換する。A/D変換器925−n−1〜925−n−Mは、アナログ・ベースバンド信号を、デジタル・ベースバンド信号に変換する。このデジタル・ベースバンド信号は時間軸受信ウエイト乗算回路926−nに入力される。時間軸受信ウエイト乗算回路926−nは、入力された信号それぞれに、各アンテナ素子928−n−1〜928−n−Mに対応した受信ウエイトを乗算し、受信ウエイト乗算後の信号を加算合成してそれぞれ1系統の信号系列に変換する。すなわち、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nにより、合計でN系統の信号系列(ストリーム)に変換され、これらの信号は信号分離回路141に入力される。信号分離回路141は、各ストリーム間のクロストーク成分を抑圧して信号分離を行い、この分離された信号を対応する復調器130−1〜130−Nに入力する。復調器130−1〜130−Nは、所定の信号検出処理により、データを再生して出力する。
信号分離回路141で行うクロストーク成分の抑圧は、時間軸上で実施することも可能であるし、一旦、FFT処理により周波数軸信号に変換して周波数軸上で実施することも可能である。ないしは、送受信信号処理回路929−1〜929−Nで行う信号処理のみで済ませ、信号分離回路141では特に何も処理を行わなくてもよい。ただしいずれにしても、ここでの信号分離の方法の詳細は本願に直接関係ないために省略する。
また、時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−Nで用いる時間軸送信ウエイト及び時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nで用いる時間軸受信ウエイトのそれぞれは、ここでは図示していない時間軸送受信ウエイト取得手段において取得する。そして、同様にここでは図示していない制御回路が、そこで用いる時間軸送受信ウエイトの値を管理する。例えば、通信相手となる無線局が送信したトレーニング信号に対し、A/D変換器925−n−1〜925−n−Mで取得したサンプリングデータを基に、所定のサンプル数に渡り基準アンテナ素子(例えば928−n−1)とのアンテナ素子間の相関値を求め、この複素位相を基に定めてもよい。時間軸受信ウエイトと時間軸送信ウエイトの複素位相の値は、ここでは図示していないパワーアンプとローノイズアンプなどの複素位相の回転量が個々のアンプで異なるため一般には一致しないが、従来技術のインプリシットフィードバックのキャリブレーション手法を用いることで、時間軸受信ウエイトから時間軸送信ウエイトへの変換は可能である。この様にして取得した送受信ウエイトを対応する無線局装置毎にメモリに記憶しておく。そして、送信時及び受信時にはこれらの送受信ウエイトの値を基に時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−N、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nにてウエイトの乗算を行うことになる。
図9は、非特許文献3に記載の従来技術における時間軸ビームフォーミングを用いた無線局装置の構成例(サブアレー共用型)を示す機能ブロック図である。同図において、図8と共通の機能には同一の図番号を付与している。同図において、無線局装置942は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路929−1〜929−Nと、分配結合器(HYB)941−1〜941−Mと、アンテナ素子928−1〜928−Mとを備える。図8では、送受信信号処理回路929−1〜929−Nは、サブアレー毎に空間的に分離した場所に設置することを想定して異なる筐体に収容され、別筐体のベースバンド信号処理回路140との間で有線接続されている構成を示した。一方、図9では、全ての送受信信号処理回路929−1〜929−Nとベースバンド信号処理回路140を同一筐体の無線局装置942として構成し、アンテナ素子928−1〜928−Mを全体で共用している。このため、例えば送信時においては各送受信信号処理回路929−1〜929−NのTDDスイッチ927−1〜927−Nからの信号を分配結合器941−1〜941−Mで合成し、合成された信号をアンテナ素子928−1〜928−Mから送信する。同様に受信時には、アンテナ素子928−1〜928−Mのそれぞれが受信した信号を分配結合器941−1〜941−Mにより分配する。つまり、分配結合器941−m(m=1,…,M)は、アンテナ素子928−mが受信した信号を、TDDスイッチ927−1〜927−Nに分配して入力する。これ以外の信号処理は全て図8と図9で共通である。
同様に、図10は、非特許文献3に記載の従来技術における時間軸ビームフォーミングを用いた無線局装置の別の構成例(サブアレー共用型)の機能ブロック図である。同図において、図9に示す無線局装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。同図に示す無線局装置945は、ベースバンド信号処理回路140と、時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−Nと、加算合成器943−1〜943−Mと、D/A変換器922−1〜922−Mと、アップコンバータ923−1〜923−Mと、ダウンコンバータ924−1〜924−Mと、A/D変換器925−1〜925−Mと、複製器944−1〜944−Mと、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nと、TDDスイッチ927と、アンテナ素子928−1〜928−Mとを備える。
図9では、送受信信号処理回路929−1〜929−Nをサブアレー毎に個別に実装したが、D/A変換器922−n−1〜922−n−M、アップコンバータ923−n−1〜923−n−M、ダウンコンバータ924−n−1〜924−n−M、A/D変換器925−n−1〜925−n−M、TDDスイッチ927−1〜927−Nはそれぞれ共通化可能である(n=1,…,N)。そこで、図10では時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−N(全体でN面が実装されている)で生成したN系統のデジタル・ベースバンド信号をサンプリングデータ単位で加算合成器943−1〜943−Mで加算合成し、それぞれを1系統に集約したものをD/A変換器922−1〜922−Mにてデジタル信号からアナログ信号に変換する。同様に受信側では、複製器944−1〜944−Mは、A/D変換器925−1〜925−Mで生成したデジタル・ベースバンド信号をサンプリングデータ単位でN系統の信号に複製し、複製された信号を時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−N(全体でN面が実装されている)に入力する。時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nのそれぞれは、入力された信号に受信ウエイトを乗算し、その結果を加算合成することでそれぞれ1系統の信号に変換する。すなわち、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nにより、合計N系統の信号に変換され、これらの信号は信号分離回路941に入力される。
これにより、D/A変換器922−n−1〜922−n−Mの重複実装、アップコンバータ923−n−1〜923−n−Mの重複実装、ダウンコンバータ924−n−1〜924−n−Mの重複実装、A/D変換器925−n−1〜925−n−Mの重複実装、TDDスイッチ927−1〜927−Nの重複実装を避け、回路規模の縮小と消費電力等の削減につなげている。
ここで実際の運用においては、図8に示す無線局装置と、図9又は図10に示す無線局装置とが対向して通信を行う。例えば、基地局装置については、ビル屋上の様に設置自由度があり、複数個所にサブアレーを設置可能である。一方で、端末局装置側は、ビル壁面などの設置に関する制約が大きい場合、図8を基地局装置、図9又は図10を端末局装置とする構成により、端末局装置はサブアレーをひとつのアレーアンテナで共用する形で設置自由度を高めることが可能である。あるいは、例えば端末局装置当たりの伝送容量が空間多重を必要としない程度であれば、図9又は図10を基地局装置、図8を送受信信号処理回路929−1〜929−Nのうち1系統のみ(例えば、図8の送受信信号処理回路929−1のみ)を実装した端末局装置とすることを想定し、複数の端末局装置と一つの基地局装置とによりマルチユーザMIMO伝送を行う構成とすることも可能である。
なお、図7と図8、図9及び図10との対応に関しては、例えば図7の移相器913−1−1〜913−N0−M0で行う複素位相の回転量をψα(αは移相器913−1−1〜913−N0−M0に対する識別番号に相当)とするならば、時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−N、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nが、対応するアンテナ素子の信号系列に対しExp{jψα}を乗算することに相当する。つまり、図7では各アンテナ素子から送受信する信号をアナログ回路(すなわち移相器913−1−1〜913−N0−M0)で変換処理していたのに対し、図8、図9及び図10では各アンテナ素子から送受信する信号をデジタル回路(すなわち時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−N、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−N)で変換処理することに相当する。これにより、図7ではA/D変換器907−1〜907−N0及びD/A変換器904−1〜904−N0の数を抑えることが可能であるという利点を備える一方、図8、図9及び図10では、非特許文献3に記載の通り、指向性形成の分解能を高めると共に、簡易で効率的なチャネル情報のフィードバックが可能であるという利点を備えている。
なお、移相器による位相回転は、通常はデバイス上で位相回転量に相当する遅延線を選択的に経由させることで位相回転を与える。そのため、絶対値としてxの位相回転を与えると、信号としては位相xに相当する遅延に伴い複素位相回転量はマイナスの位相回転(遅延)が行われることになり、符号の整合性が取れない。しかし、以降の説明では便宜上、信号として係数Exp{jψα}の乗算に相当する位相回転を移相器で与える場合に「移相器で行う複素位相の回転量をψα」と呼ぶことにする。
[チャネル情報フィードバックにおけるキャリブレーション技術]
一般に、送信側において複数アンテナ素子を用いて指向性形成を行う場合には、上述の非特許文献1から非特許文献3までの技術も含めてMIMOチャネルのチャネル情報のフィードバックが必要である。この際、アンテナ素子数が膨大になるとフィードバックすべきチャネル情報の情報量が膨大となるために、様々な工夫が必要となる。上述の様なMassive MIMOシステムにおいては、送信方向のフォワードリンクのチャネル情報を取得するために、受信方向のリバースリンクのチャネル情報を用い、受信時に用いるローノイズアンプ等の回路によって生じる受信信号の複素位相の回転量と、送信時に用いるハイパワーアンプ等の回路によって生じる送信信号の複素位相の回転量との関係を換算し、リバースリンクのチャネル情報に所定のキャリブレーション係数を乗算することでフォワードリンクのチャネル情報を取得することが可能である。一般に、これらの技術は、インプリシットフィードバック技術として知られている(例えば、非特許文献4参照)。以下にキャリブレーション処理の詳細を示す。
実際の無線通信装置では、送信側の信号処理において、送信の直前にハイパワーアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ハイパワーアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ハイパワーアンプ内で複素位相がハイパワーアンプごとに異なる値で回転する場合がある。同様に、受信側の信号処理において、受信の直後にローノイズアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ローノイズアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ローノイズアンプ内で複素位相がローノイズアンプごとに異なる値で回転する場合がある。場合によっては、この増幅率及び位相回転量には周波数依存性が伴うこともある。増幅率及び複素位相の回転量の個体差が無視できないほどに大きい場合には、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定する際に、キャリブレーション処理を施す必要がある。この増幅率及び位相回転量の誤差は時間的にはほぼ安定しているため、増幅率及び位相回転量の誤差を事前に測定しておき、誤差の影響をキャンセルするための係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報に換算する。以下の説明では、複数のアンテナ素子を備える基地局装置側で行うキャリブレーション処理を中心に説明を行うが、同様のことは端末局装置側においても可能であり、一般的な無線局装置共通の説明である。
先の説明において、ハイパワーアンプやローノイズアンプ(厳密にはその他のフィルタ等の回路を含めた送信系及び受信系の回路等)により、振幅や複素位相が変化する場合がある。この場合、振幅や複素位相の変化に応じた補正をするためのキャリブレーション係数を事前に取得しておき、これを補正に用いると説明した。キャリブレーション処理は、公知の技術を用いても構わないが、以下にキャリブレーション処理の一例を説明する。
図11は、アップリンクとダウンリンクとのチャネル情報の非対称性を示す図である。同図において、符号955−1〜955−3は無線モジュールを示し、符号951−1〜951−3はハイパワーアンプ(HPA)を示し、符号952−1〜952−3はローノイズアンプ(LNA)を示し、符号953−1〜符号953−3はTDDスイッチを示し、符号954−1〜954−3はアンテナ素子を示している。
ここでは、キャリブレーション技術の説明のために、無線局装置内でチャネル情報に影響を与える機能のみを抽出したため、図示した以外の構成は省略した。そのため、無線モジュール955−1〜955−3の構成については、便宜上、ハイパワーアンプ951−1〜951−3、ローノイズアンプ952−1〜952−3、TDDスイッチ953−1〜953−3、アンテナ素子954−1〜954−3のみを示したが、これらの後段(前段)にはアップコンバータやダウンコンバータなどの機能が実装されている。また、例えば複数アンテナを備えた無線局装置が無線モジュール955−1〜955−2をひとつの筐体の中に複数実装している場合を想定し、無線モジュール955−3はこれと対抗して通信する無線局装置のひとつのアンテナ素子に対応した無線モジュール955−3を抽出して説明する図に相当する。また、信号がハイパワーアンプ951−1〜951−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZHPA#1(fk)、ZHPA#2(fk)、ZHPA#3(fk)変化するものとする。また、信号がローノイズアンプ952−1〜952−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZLNA#1(fk)、ZLNA#2(fk)、ZLNA#3(fk)変化するものとする。ここでは一般的な条件として周波数依存性があるものとし、第k周波数成分に対する周波数「(fk)」の表記を行っている。
ここで、例えば、無線モジュール955−1及び無線モジュール955−2から試験用の無線モジュール955−3に信号を送信する場合のチャネル情報について説明する。ここでは、無線モジュール955−1のアンテナ素子954−1と、無線モジュール955−3のアンテナ素子954−3との間の空間上のチャネル情報がh1(fk)で表され、無線モジュール955−2のアンテナ素子954−2と無線モジュール955−3のアンテナ素子954−3との間の空間上のチャネル情報がh2(fk)で表されている。
このとき、実際に無線モジュール955−1から無線モジュール955−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ951−1の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#1(fk)、及びローノイズアンプ952−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。同様に、無線モジュール955−2から無線モジュール955−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ951−2の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#2(fk)、及びローノイズアンプ952−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。したがって、無線モジュール955−1から無線モジュール955−3へのチャネルは、ZHPA#1(fk)・h1(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。また、無線モジュール955−2から無線モジュール955−3へのチャネルは、ZHPA#2(fk)・h2(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。このため、無線モジュール955−1と無線モジュール955−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZHPA#2(fk)/ZHPA#1(fk)の差が発生する。
この状況は受信側においても同様であり、無線モジュール955−3から送信された信号を無線モジュール955−1にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ951−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ952−1の通過にともなる変化を示す係数ZLNA#1(fk)とが乗算された値として観測される。同様に、無線モジュール955−3から送信された信号を無線モジュール955−2にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ951−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ952−2の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#2(fk)とが乗算された値として観測される。したがって、無線モジュール955−3から無線モジュール955−1へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h1(fk)・ZLNA#1(fk)で表される。また、無線モジュール955−3から無線モジュール955−2へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h2(fk)・ZLNA#2(fk)で表される。このため、無線モジュール955−1と無線モジュール955−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZLNA#2(fk)/ZLNA#1(fk)の差が発生する。
ここで再度整理すると、左側の無線局装置におけるリバースリンクに対応する無線モジュール955−3から送信された信号を無線モジュール955−1にて受信する場合のチャネル情報はh1(fk)・ZHPA#3(fk)・ZLNA#1(fk)となる。また、フォワードリンクに対応する無線モジュール955−1から送信された信号を無線モジュール955−3にて受信する場合のチャネル情報はh1(fk)・ZHPA#1(fk)・ZLNA#3(fk)である。無線モジュール955−1のキャリブレーション係数は以下の式(4)で与えられる。
同様に、左側の無線局装置におけるリバースリンクに対応する無線モジュール955−3から送信された信号を無線モジュール955−2にて受信する場合のチャネル情報はh1(fk)・ZHPA#3(fk)・ZLNA#2(fk)となる。また、フォワードリンクに対応する無線モジュール955−2から送信された信号を無線モジュール955−3にて受信する場合のチャネル情報はh1(fk)・ZHPA#2(fk)・ZLNA#3(fk)である。無線モジュール955−2のキャリブレーション係数は以下の式(5)で与えられる。
ここで、例えば無線モジュール955−1〜955−2で取得されるリバースリンクにおけるチャネル情報はそれぞれh1(fk)・ZHPA#3(fk)・ZLNA#1(fk)及びh1(fk)・ZHPA#3(fk)・ZLNA#2(fk)であるが、これにキャリブレーション係数C1(fk)及びC2(fk)を乗算すると、h1(fk)・ZHPA#1(fk)・ZLNA#3(fk)及びh1(fk)・ZHPA#2(fk)・ZLNA#3(fk)となる。
実運用時において、実際の通信相手の無線モジュールが無線モジュール955−3とは異なる場合には、厳密にはこのキャリブレーション係数を乗算して得られるフォワードリンクのチャネル情報の推定値は、フォワードリンクのチャネル情報そのものとは異なる値を示すことになる。しかし、その場合でも無線モジュール955−1と無線モジュール955−2に関する真のフォワードリンクのチャネル情報に対し、共通の係数が乗算された値と上述の推定値が一致することになり、指向性形成においては全アンテナ素子に共通の定数が乗算されていても影響ないことを考慮すれば、チャネル情報のフィードバックとしては問題ない。
また、上記の説明では着目する無線局装置が送信する側をフォワードリンク、受信する側をリバースリンクとして説明したが、着目する無線局装置が基地局装置の場合には、通常、フォワードリンクのことをダウンリンク、リバースリンクのことをアップリンクと呼ぶ。同様に、着目する無線局装置が端末局装置ないしは中継局装置の場合には、通常、フォワードリンクのことをアップリンク、リバースリンクのことをダウンリンクと呼ぶ。
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。まず最初に、本発明の実施形態の基本原理について説明する。本明細書にて用いる「時間軸」「周波数軸」と言う用語は、「時間領域」「周波数領域」と表現されることもあるが、ここでは「時間軸」「周波数軸」に統一して説明を行う。
[基本原理の概要]
時間軸ビームフォーミング技術では、例えば受信時においては送受信局間の到来波のメインパスを抽出し、その方向にアンテナ素子群の指向性利得を向けるための信号処理を行う。その際に用いる送受信ウエイトは周波数依存性を持たない定数となり、その結果、様々な点で信号処理を軽減する。ただし、デジタル的な信号処理を基本としているために、アンテナ素子毎に個別のデジタル信号処理上において送受信ウエイトを乗算し、それに付随してアンテナ系統毎に個別のA/D(アナログ/デジタル)変換器及びD/A(デジタル/アナログ)変換器を必要としていた。
しかし、周波数依存性を持たない係数の乗算処理は、例えば振幅の変化を伴わない複素位相の回転処理だけに限定すれば、必ずしもデジタル的な信号処理を必要としない。具体的には、アナログ回路である移相器を用い、アナログ信号を所定の複素位相回転に設定されたこの移相器を経由させることで、実質的にウエイトの乗算処理と等価な信号処理を実現することができる。非特許文献1では、移相器を用いて指向性制御を実現しているが、これは例えば水平/垂直方向に5度刻みで設定する所定の方向毎に、アンテナ素子毎の位相回転量の組み合わせセットを事前に定めておき、何らかの制御手順で得られたビームを向けるべき方向に合わせて、各移相器の位相回転量を設定していた。しかし、この位相回転量の組み合わせセットは事前に設定されたメニューから選択することになり、この方向毎に個別にトレーニング信号を送信しながら、最も受信レベルが高くなる方向を検索する必要があった。しかし、時間軸ビームフォーミングでは、端末局装置側から送信されるトレーニング信号を基に各アンテナ素子の位相回転量を最適化するため、指向性形成に用いる位相回転量の算出などを簡易にフィードバックすることが可能であると共に、複素位相の回転量の組み合わせセットは、事前のメニューなどを必要とせず格段に高い自由度で設定可能であった。
そこで、本発明の実施形態における無線局装置(無線通信装置)は、デジタルアシスト型のアナログビームフォーミングを採用する。すなわち、無線局装置は、各移相器で行う複素位相の回転量の算出処理をデジタル信号処理で実施し、そのデジタル信号処理的に得られた複素位相の値を用いて移相器を制御することにより、所望の複素位相を回転させてアナログ信号上で指向性形成を行う。
ここで、デジタル的な信号処理で行う時間軸ビームフォーミングの送受信ウエイトの複素位相を算出する処理は、必ずしも各アンテナ素子で同時に行う必要はない。ないしは、時間軸ビームフォーミングの送受信ウエイトの複素位相を算出する際にはデジタル的な信号処理を行ったとしても、この為の信号処理を行う時間率は、ユーザデータの送受信を行う通常の通信の時間率に比べて圧倒的に少なくなることが予想される。そこで、本実施形態の無線局装置は、これらのデジタル回路の動作を時間的に限定的に実施する。
以下、基本原理を適用した詳細な実施形態について図を用いて説明する。
[基本原理を適用した実施形態]
図1は、本実施形態における無線局装置450の構成例(サブアレー分離型)を示す機能ブロック図である。同図において、図8〜図10に示す従来技術による無線局装置と同一の部分には同一の符号を付している。本実施形態では、従来技術の図8及び図9に対応するように、指向性ビームを複数のサブアレーに分離して形成する「サブアレー分離型」による構成と、ひとつのアレーで複数の指向性ビームを実現する「サブアレー共用型」(厳密には、サブアレーに分離していないので、「一体型アレー」と理解してもよい)による構成のバリエーションが存在するが、ここでは「サブアレー分離型」について説明を行う。
同図に示す無線局装置450は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路451−1〜451−N(Nは1以上の整数)と、制御回路460とを備える。ベースバンド信号処理回路140は、変調器120−1〜120−N(MOD#1〜MOD#N)と、信号分離回路141と、復調器130−1〜130−N(DEM#1〜DEM#N)とを備える。送受信信号処理回路451−n(n=1,…,N)は、D/A変換器122−nと、アップコンバータ(UC)123−nと、ダウンコンバータ(DC)124−nと、A/D変換器125−nと、TDD(Time Division Duplex:時分割複信)スイッチ(TDD−SW)127−nと、移相器402−n−1〜402−n−M(Mは2以上の整数)と、スイッチ403−n−1〜403−n−Mと、分配結合器(HYB)404−nと、相関算出回路405−nと、位相シフト制御回路406−nと、ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mと、A/D変換器425−n−1〜425−n−Mとを備える。移相器402−n−1〜402−n−Mはそれぞれ、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mと接続される。D/A変換器122−1〜122−N、アップコンバータ123−1〜123−N、ダウンコンバータ124−1〜124−N、A/D変換器125−1〜125−Nにはそれぞれ、図8及び図9に示すD/A変換器922−1−1〜922−N−M、アップコンバータ923−1−1〜923−N−M、ダウンコンバータ924−1−1〜924−N−M、A/D変換器925−1−1〜925−N−Mと同様のものを用いることができる。
ここで、ダウンコンバータ424−1−1〜424−N−Mでは、無線周波数の信号とベースバンドの信号の間の周波数変換を行うために、ローカル発振器からの信号の入力が必要となる。つまり、同じ送受信信号処理回路451−n(n=1,…,N)におけるダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mの組み合わせには共通のローカル信号を利用し、各ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mにおける複素位相の相対的関係の時間変化を抑える必要がある。この意味では、実質的にはダウンコンバータ424−1−1〜424−N−Mの外部にローカル発振器が存在する構成を取るが、記述が煩雑になるためにここでは簡易な記述として外部のローカル発振器の明記は省略する。なお、同一のnのダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mの間では用いるローカル発振器は共用化する必要があるが、nの値が異なるダウンコンバータ424−n’−1〜424−n’−Mとの組み合わせにおいては用いるローカル発振器は共用化する必要はない。また、これらのローカル発振器は、アップコンバータ123−1〜123−Nとダウンコンバータ124−1〜124−Nとの間で共用化する必要もない。あくまでも、指向性形成を協調して実施する信号系列間でのローカル信号の共通化のみが重要である。
ここでNは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、無線局装置450は、送受信信号処理回路451−1〜451−Nを全体でN系統分だけ実装している。またMは、各送受信信号処理回路451−1〜451−Nのそれぞれに実装されるサブアレーのアンテナ素子数を表している。図7の説明では全アンテナ素子数をM0としていたが、図8の場合と同様にここではアンテナ全体をサブアレー構成としているので個々のサブアレーのアンテナ素子数は異なる値Mと標記した。送受信信号処理回路451−nのそれぞれにはサブアレーのアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mが付随しており、送受信信号処理回路451−1〜451−Nは、非特許文献2の様に空間的に離して設置することが想定される。また、ベースバンド信号処理回路140は、それぞれの送受信信号処理回路451−1〜451−Nに有線接続され、この有線上でデジタル・ベースバンド信号が転送される。また、図7では図示を省略していたが、無線局装置450は、全体の制御回路460を備える。同図では、無線局装置450が、制御回路460をベースバンド信号処理回路140上に実装する例を示している。この制御回路460は、フレーム周期や送受信タイミングを管理し、TDDスイッチ127−1〜127−Nの切り替えも管理する。制御回路460は、TDDスイッチ127−n(n=1,…,N)により、分配結合器404−nを、アップコンバータ123−nと接続するか、ダウンコンバータ124−nと接続するかを時分割で切り替える。
さらに本実施形態では、基本的に送受信ウエイトに相当する可変移相器で行う複素位相回転量の推定処理をデジタル信号処理にて行い、実際の複素位相の回転処理はアナログ信号処理にて実現する。このため、変調器120−1〜120−N及び復調器130−1〜130−NではOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式の様に周波数軸上の信号処理を前提とする場合でも、SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)の様に時間軸上での信号処理を前提とする場合でも、どちらの方式に対しても対応可能である。ただし、信号分離回路141では各信号系列間の信号分離を行うが、ここでは時間軸での信号分離を行うことも可能であるし、一旦、FFTにより周波数軸の信号に変換し、周波数軸で周波数依存性のある信号分離を実施しても構わない。この意味で、復調器130−1〜130−Nへの入力は、時間軸の信号である場合と周波数軸の信号である場合が想定されるが、ここでは簡単のために時間軸での信号を入力するものとして説明する。この様に、OFDM変調方式やSC−FDEなどの通信方式のバリエーションに関する考え方は、以降の説明でも同様である。
具体的な信号の流れは以下の通りである。
まず信号の送信について説明する。無線局装置450は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが分配結合器404−nと移相器402−n−1〜402−n−Mとを接続し、TDDスイッチ127−nがアップコンバータ123−nと分配結合器404−nとを接続した状態で信号の送信を行う(n=1,…,N)。
変調器120−1〜120−Nはそれぞれ、空間多重を行う各ストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号を生成し、送受信信号処理回路451−1〜451−Nに入力する。送受信信号処理回路451−n(n=1,…,N)には、変調器120−nが生成した時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号が入力される。送受信信号処理回路451−n(n=1,…,N)のD/A変換器122−nは、変調器120−nから入力された送信信号を、アナログ・ベースバンド信号に変換し、アップコンバータ123−nに入力する。アップコンバータ123−nは、D/A変換器122−nから入力された信号を、ベースバンド信号から無線周波数帯の信号に変換し、TDDスイッチ127−nに入力する。TDDスイッチ127−nは、アップコンバータ123−nから入力された信号を、分配結合器404−nに入力する。
分配結合器404−nは、TDDスイッチ127−nから入力されたアナログ信号をM系統のアナログ信号に分岐する。分岐されたアナログ信号は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介して移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mは、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加える。移相器402−n−1〜402−n−Mにより複素位相回転が加えられたアナログ信号はそれぞれ、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mを介して送信される。送信信号は、移相器402−n−1〜402−n−Mにおける複素位相回転により、所定の指向性形成がなされている。例えば、アンテナ素子401−1−1〜401−1−Mとアンテナ素子401−N−1〜401−N−Mでは個別の指向性形成がなされており、その指向性方向にある無線局装置と通信を行う。
次に信号の受信について説明する。無線局装置450は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが移相器402−n−1〜402−n−Mと分配結合器404−nとを接続し、TDDスイッチ127−nが分配結合器404−nとダウンコンバータ124−nとを接続した状態で信号の受信を行う(n=1,…,N)。
アンテナ素子401−n−1〜401−n−M(n=1,…,N)が受信した信号はそれぞれ、移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介して分配結合器404−nに入力する。分配結合器404−nは、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介して入力された各アンテナ系統の信号をアナログ信号上で合成し、合成した信号をTDDスイッチ127−nを介してダウンコンバータ124−nに入力する。ダウンコンバータ124−nは、TDDスイッチ127−nを介して入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器125−nに入力する。A/D変換器125−nは、ダウンコンバータ124−nから入力された信号を、アナログ・ベースバンド信号からデジタル・ベースバンド信号に変換し、信号分離回路141に入力する。
信号分離回路141は、各ストリーム間のクロストーク成分を抑圧して信号分離を行い、この分離された信号を対応する復調器130−1〜130−Nに入力する。信号分離回路141が行うクロストーク成分の抑圧は、時間軸上で実施することも可能であるし、一旦、FFT処理により周波数軸信号に変換して周波数軸上で実施することも可能である。クロストーク成分の抑圧を時間軸上で実施する場合には、まず、信号分離回路141に入力される信号系列間の相関を、受信したトレーニング信号に対応するデジタル・ベースバンド信号を基に算出する。そして、算出された相関により与えられるMIMO(Multiple Input Multiple Output)チャネル行列を基に、そのZF(Zero Forcing)型やMMSE(Maximum Mean Square Error)型の信号分離などの一般的なMIMO信号分離処理と同様の行列を算出し、この行列を信号分離回路141に入力される信号系列をベクトルと見なしてサンプリングデータ単位で乗算すればよい。これは、一般的な周波数軸上のZF型やMMSE型の信号分離などの一般的なMIMO信号分離処理では周波数成分毎に異なる行列を用いていたのに対し、周波数軸上でほぼ同一の行列を用いる場合には、サンプリングデータ単位で時間軸上で信号分離処理が可能であることに対応する。ないしは、送受信信号処理回路451−1〜451−Nで行う信号処理のみで済ませ、信号分離回路141では特に何も処理を行わなくてもよい。ただしいずれにしても、ここでの信号分離の方法の詳細は本実施形態の特徴に直接関係ないために省略する。復調器130−1〜130−Nは、信号分離回路141においてクロストーク成分が抑圧された信号を復調処理する。
次に、移相器402−1−1〜402−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理を説明する。この信号処理は、スイッチ403−n−1〜403−n−M(n=1,…,N)が移相器402−n−1〜402−n−Mとダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mとを接続した状態で行われる。これらのスイッチ切替は、制御回路460の指示のもと、相関算出回路405−1〜405−Nが管理する。なお、複素位相の回転量を算出するとき以外は、移相器402−n−1〜402−n−M(n=1,…,N)は、分配結合器404−nに接続される。また、複素位相の回転量の算出処理を行う際には、移相器402−1−1〜402−N−Mの位相回転量を所定の値に設定しておく。その後の処理で得られる複素位相の回転量は、当初の所定の値に対する差分として設定する。例えば、もっとも分かり易い例では、移相器402−1−1〜402−N−Mを全てゼロ(又はすべて同一の値)に設定してもよく、この場合は得られた複素位相の回転量の値をそのまま、その後の通信時の移相器402−1−1〜402−N−Mの位相回転量とすればよい。ないしは、移相器402−1−1〜402−N−Mの当初の所定の値が+10度、+20度、+30度、・・・であり、複素位相の回転量の算出値が+α度、+β度、+γ度、・・・であったとすれば、その後の通信時の移相器402−1−1〜402−N−Mの位相回転量を+(α+10)度、+(β+20)度、+(γ+30)度、・・・とすればよい。
実際の処理としては、まず、複素位相の回転量を取得すべき通信相手の無線局装置がチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、無線局装置450はこのトレーニング信号を受信する。アンテナ素子401−n−1〜401−n−M(n=1,…,N)が受信した信号はそれぞれ、移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介してダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mに入力する。ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mはそれぞれ、入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器425−n−1〜425−n−Mに入力する。A/D変換器425−n−1〜425−n−Mはそれぞれ、入力された信号を、アナログ信号からデジタル・ベースバンド信号に変換し、相関算出回路405−nに出力する。
相関算出回路405−1〜405−Nはそれぞれ、式(1)〜式(3)を用いて複素位相の回転量を算出する。また、相関算出回路405−1〜405−Nは必要に応じてキャリブレーション処理が必要な場合には、式(1)〜式(3)にキャリブレーション係数を考慮した値として送信側の複素位相の回転量を定める。相関算出回路405−n(n=1,…,N)が求めたこの複素位相の回転量は、通信する相手となる無線局装置の識別番号(複数の無線局装置と通信を行う場合。単一の無線局装置とP−P(ポイント・ツー・ポイント)型で通信を行う場合には識別番号は不要。)と共に、位相シフト制御回路406−nに入力される。位相シフト制御回路406−nは、移相器402−n−1〜402−n−Mそれぞれに設定すべき複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けてメモリに記憶するなどして管理する。
なお、実際のデータ通信を行う際、すなわち送信処理ないし受信処理を行う際には、制御回路460が通信相手となる無線局装置を把握し、位相シフト制御回路406−n(n=1,…,N)に対して、通信を行う無線局装置に対応した複素位相の回転量を移相器402−n−1〜402−n−Mに設定するよう指示する。位相シフト制御回路406−nは、通信を行う無線局装置に対応した複素位相の回転量をメモリから読み出すなどして取得し、この複素位相の回転量を移相器402−n−1〜402−n−Mに設定してアナログ上のビームフォーミングを実現する。
なお、同図においては明記していないが、例えば送信側のハイパワーアンプ(HPA)等を配置するとすれば、図中の「A」と記述された点に配置し、受信側のローノイズアンプ(LNA)等を配置するとすれば、図中の「B」及び「C1−1」〜「CN−M」と記述された点に配置する。「A」及び「B」と記述された点に関しては、同一の送受信信号処理回路451−1〜451−N内では共通化されているので個別のハイパワーアンプ及びローノイズアンプの複素位相の不確定性を除去するキャリブレーション処理は不要である。
一方、「C1−1」〜「CN−M」と記述された点のローノイズアンプに関しては、複素位相の回転量が時間的に変動し得る場合には、同一の送受信信号処理回路451−1〜451−N内の各アンテナ素子401−1−1〜401−N−M間での複素位相の不確定性の原因となり得るために、従来技術のインプリシットフィードバックのキャリブレーション手法と同様に、各系統のローノイズアンプの複素位相の不確定性は除去する必要がある。なお、本実施形態は任意の手法に対して適用可能であり、キャリブレーション処理の具体的な方法は問わない。このキャリブレーション結果を考慮し、例えば「C1−1」、「C1−2」、「C1−3」それぞれでの複素位相の回転量が+10度、+20度、+30度であったとすると、式(1)〜式(3)で得られた複素位相の回転量に対し、−10度、−20度、−30度の補正をそれぞれ行い、位相回転量を調整する。なお、このキャリブレーション結果の情報はここでは図示していないキャリブレーション回路にて収集し、位相シフト制御回路406−1〜406−Nないしは相関算出回路405−1〜405−Nにてこの情報を用いて補正を実施する。
また、サブアレー構成とした送受信信号処理回路451−1〜451−Nは、物理的に離して設置することで、アナログ上で形成される指向性ビームの相関を低減可能であるため、一般的には所定以上の距離だけ離して設置する。
さらに、以下の全ての説明(その他の実施形態も含む)においても同様であるが、図1では、ベースバンド信号処理回路140と送受信信号処理回路451−1〜451−Nの間が有線接続され、この有線上でデジタル・ベースバンド信号を送受信する構成としているが、D/A変換器122−1〜122−N及びA/D変換器125−1〜125−Nをベースバンド信号処理回路140が実装する場合は、ベースバンド信号処理回路140と送受信信号処理回路451−1〜451−Nとの間の有線接続上で流れる信号を、アナログ・ベースバンド信号とすることも可能である。
次に、従来技術における図8に対する図9と同様に、本実施形態の無線局装置を、複数の指向性ビーム形成をひとつのアレーアンテナで実現する「サブアレー共用型」により構成することも可能である。この構成を図2に示す。
図2は、本実施形態における無線局装置452の構成例(サブアレー共用型)を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す無線局装置452は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路451−1〜451−Nと、分配結合器(HYB)407−1〜407−Mと、アンテナ素子401−1〜401−Mと、制御回路460とを備える。分配結合器(HYB)407−m(m=1,…,M)は、送受信信号処理回路451−1、451−2、…、451−Nそれぞれの移相器402−1−m、402−2−m、…、402−N−m、及び、アンテナ素子401−m(m=1,…,M)と接続される。
無線局装置452においても、図1に示す無線局装置450と同様に、ダウンコンバータ424−1−1〜424−N−Mが、無線周波数の信号とベースバンドの信号の間の周波数変換を行うために、ローカル発振器からの信号の入力が必要となる。各送受信信号処理回路451−1〜451−Nそれぞれにおけるダウンコンバータ424−n−1〜424−n−M(n=1,…,N)の各組み合わせには共通のローカル信号を利用し、各ダウンコンバータでの複素位相の相対的関係の時間変化を抑える必要がある。この意味では、実質的には送受信信号処理回路451−1〜451−Nの外部にローカル発振器が存在する構成を取るが、記述が煩雑になるためにここでは簡易な記述として外部のローカル発振器の明記は省略する。なお、各送受信信号処理回路451−1〜451−Nにおいて用いるローカル発振器を共用化する必要はない。また、これらのローカル発振器とアップコンバータ123−1〜123−N及びダウンコンバータ124−1〜124−Nとを共用化する必要もない。あくまでも、指向性形成を協調して実施する信号系列間でのローカル信号の共通化のみが重要である。ただし、図1の場合とは異なり、ダウンコンバータ424−1−1〜424−N−Mは全て同一の筐体に収まっているため、全てのローカル信号を共用化することも図2の場合には可能ではある。
先の説明と同様に、Nは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、Mは、共通化されているアレーアンテナのアンテナ素子数を表している。図1に示す無線局装置450では、送受信信号処理回路451−1〜451−Nが系統ごとに物理的に異なる筐体に実装されている。これに対し、図2に示す無線局装置452では、送受信信号処理回路451−1〜451−NのN系統が全てひとつの筐体に実装されている。さらに、無線局装置452では、送受信信号処理回路451−1〜451−Nが、分配結合器407−1〜407−Mを介してアンテナ素子401−1〜401−Mを共用している。ここで、図1に示す無線局装置450と図2に示す無線局装置452とでは、送受信信号処理回路451−1〜451−Nにおける内部処理は同一である。また、図2では、制御回路460がベースバンド信号処理回路140に実装されている場合を示しているが、無線局装置452内の任意の場所に実装され得る。制御回路460は、フレーム周期、送受信タイミング、TDDスイッチ127−1〜127−Nの切り替えを管理する。
以下は、図1に示す無線局装置450との差分に着目した、無線局装置452における具体的な信号の流れを示す。
まず信号の送信について説明する。無線局装置452は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが分配結合器404−nと移相器402−n−1〜402−n−Mとを接続し、TDDスイッチ127−nがアップコンバータ123−nと分配結合器404−nとを接続した状態で信号の送信を行う(n=1,…,N)。この点は、図1に示す無線局装置450と共通である。
変調器120−1〜120−Nはそれぞれで空間多重を行う各ストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号を生成し、それぞれを送受信信号処理回路451−1〜451−Nに入力する。図1に示す無線局装置450と同様の処理により、指向性形成のための処理がなされた無線周波数のアナログ信号が、移相器402−1−1〜402−N−Mから出力される。移相器402−1−1〜402−N−Mは、これらの各系統の信号を、対応するアンテナ素子401−1〜401−Mに接続された分配結合器407−1〜407−Mに入力する。すなわち、移相器402−1−m、402−2−m、…、402−N−m(m=1,…,M)は、分配結合器407−mに信号を入力する。分配結合器407−1〜407−Mはそれぞれ、入力された信号を合成し、合成された信号がアンテナ素子401−1〜401−Mを介して送信される。
次に信号の受信について説明する。無線局装置452は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが移相器402−n−1〜402−n−Mと分配結合器404−nとを接続し、TDDスイッチ127−nが分配結合器404−nとダウンコンバータ124−nとを接続した状態で信号の受信を行う(n=1,…,N)。この点は、図1に示す無線局装置450と共通である。
アンテナ素子401−1〜401−Mが受信した信号はそれぞれ、分配結合器407−1〜407−Mに入力される。分配結合器407−m(m=1,…,M)は、入力された信号をN系統に分配し、移相器402−1−m、402−2−m、…、402−N−mに入力する。送受信信号処理回路451−1〜451−Nは、この様に移相器402−1−1〜402−N−Mに入力された信号に対し、図1に示す無線局装置450における信号処理と同様の信号処理を行い、信号分離回路141にデジタル・ベースバンド信号を入力する。信号分離回路141は、クロストーク成分を抑圧して信号分離を行い、復調器130−1〜130−Nは、分離された信号を復調処理する。
移相器402−1−1〜402−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理については、図1と図2とでは送受信信号処理回路451−1〜451−Nが実装される単位に相違はあるが、図1の送受信信号処理回路451−1〜451−Nにおける信号処理と図2の送受信信号処理回路451−1〜451−Nにおける信号処理は同一であるため、ここではその説明を省略する。
図3は、本実施形態における通信システムの構成例を示す図である。同図に示す通信システムは、図2に示す無線局装置452と、図1に示す無線局装置450とを有する。無線局装置450では、複数の送受信信号処理回路451−1〜451−Nのそれぞれがサブアレーとしてひとつのビームを形成する。これに対し、無線局装置452では(サブ)アレーが共通化されており、ひとつのアレーアンテナが複数のビームを形成する構成である。実際の運用では、図3に示す様に、無線局装置450が無線局装置452と対向することで、N系統の信号を空間多重することが可能になる。
次に、図4〜図6を用いて本実施形態の送受信信号処理回路の他の構成例を説明する。図4〜図6のそれぞれに示す送受信信号処理回路は、図1に示す無線局装置450又は図2に示す無線局装置452が備える送受信信号処理回路451−1〜451−Nと置き換えることができる。以下では、無線局装置450が備える送受信信号処理回路451−1〜451−Nと置き換える場合を例に説明する。なお、無線局装置452が備える送受信信号処理回路451−1〜451−Nと置き換える場合、図4〜図6におけるアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mは、アンテナ素子401−1〜401−Mとなる。
図4は、本実施形態における送受信信号処理回路453−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す送受信信号処理回路453−nは、D/A変換器122−nと、アップコンバータ(UC)123−nと、分配結合器414−nと、移相器409−n−1〜409−n−Mと、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mと、移相器402−n−1〜402−n−M と、スイッチ403−n−1〜403−n−Mと、分配結合器415−nと、ダウンコンバータ(DC)124−nと、A/D変換器125−nと、ダウンコンバータ(DC)424−n−1〜424−n−Mと、A/D変換器425−n−1〜425−n−Mと、相関算出回路405−nと、位相シフト制御回路406−nとを備える。TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mはそれぞれ、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mに接続される。なお、ここでも図1と同様に、外部のローカル発振器の明記は省略する。
送受信信号処理回路453−nと、図1または図2で示した送受信信号処理回路451−1〜451−Nとの差分は、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mがアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mの直近に配置され、その結果として送信系におけるアップコンバータ123−nからアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mまでの経路と、受信系におけるアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mからダウンコンバータ124−nまでの経路が物理的に分離されている点である。
図1又は図2に示す送受信信号処理回路451−nの場合には、例えば送信系のハイパワーアンプ(ないしはパワーアンプ)はアップコンバータ123−nの後段の「A」と記述された場所に配置され、受信系のローノイズアンプはダウンコンバータ124−nの前段の「B」と記述された場所(さらにはダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mの前段の「Cn−1」、「Cn−2」、…、「Cn−M」と記述された場所)に配置され、TDDスイッチ127−nからアンテナ端までの回路を送受で共用可能としている。この点が送受信信号処理回路453−nとは大きく異なっている。図4の様な構成を取るメリットは、ハイパワーアンプやローノイズアンプをアンテナ素子数分だけ実装することが可能になり、この結果としての総送信電力が向上し、図1や図2におけるTDDスイッチ127−nからアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mまでの間における様々な回路の挿入損失並びに分配及び結合損失の影響を抑えることが可能になる点である。このため、ここでは図示していないが、送受信信号処理回路453−nにおいては、「D1」、「D2」、…、「DM」と記載された場所にハイパワーアンプが、「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された場所にローノイズアンプが配置されることが好ましい。この場合には、それぞれのハイパワーアンプ、ローノイズアンプの複素位相の不確定性を除去するためのキャリブレーション処理が必要となる。しかし、「A」と記載された場所にハイパワーアンプが、「B」と記載された点の場所にローノイズアンプが配置されれば、必ずしも「D1」、「D2」、…、「DM」と記載された場所及び「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された場所のそれぞれにハイパワーアンプ、ローノイズアンプが配置される必然性はない。
以下は、上記の差分に着目した送受信信号処理回路453−nにおける具体的な信号の流れを示す。
まず信号の送信について説明する。送受信信号処理回路453−nは、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mがアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mと移相器409−n−1〜409−n−Mとをそれぞれ接続した状態で信号の送信を行う。
送受信信号処理回路453−nには、ここには図示されていない変調器120−nからひとつのストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号が入力される。D/A変換器122−nは、入力された送信信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、アップコンバータ123−nに入力する。アップコンバータ123−nは、D/A変換器122−nから入力されたアナログ・ベースバンド信号を無線周波数帯の信号に変換し、分配結合器414−nに入力する。
分配結合器414−nは、アップコンバータ123−nから入力された無線周波数帯のアナログ信号をM系統のアナログ信号に分岐し、移相器409−n−1〜409−n−Mに入力する。移相器409−n−1〜409−n−Mはそれぞれ、分配結合器414−nから入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mを介してアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mに入力する。アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mは、入力された送信信号を送信する。送信信号は、移相器409−n−1〜409−n−Mにおける複素位相回転により、所定の指向性形成がなされている。
次に信号の受信について説明する。送受信信号処理回路453−nは、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mがアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mと移相器402−n−1〜402−n−Mとを接続し、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが移相器402−n−1〜402−n−Mと分配結合器415−nとを接続した状態で信号の受信を行う。
アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mが受信した信号はそれぞれ、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mを介して移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mのそれぞれは、入力された信号に対して、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介して分配結合器415−nに入力する。分配結合器415−nは、各アンテナ系統の信号をアナログ信号上で合成し、ダウンコンバータ124−nに入力する。ダウンコンバータ124−nは、無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器125−nに入力する。A/D変換器125−nは、入力されたアナログ・ベースバンド信号をデジタル・ベースバンド信号に変換する。A/D変換器125−nは、変換されたデジタル・ベースバンド信号を、ここには図示されていないベースバンド信号処理回路140内の信号分離回路141に入力する。ベースバンド信号処理回路140は、後続する信号処理を行う。
次に、移相器402−1−1〜402−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理を説明する。送受信信号処理回路453−nは、この信号処理を、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが移相器402−n−1〜402−n−Mとダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mとをそれぞれ接続した状態で行う。これらのスイッチ切替は、制御回路460の指示のもと、相関算出回路405−1〜405−Nが管理する。なお、複素位相の回転量を算出するとき以外は、移相器402−n−1〜402−n−Mは、分配結合器415−nに接続される。また、複素位相の回転量の算出処理を行う際には、移相器402−1−1〜402−N−Mの位相回転量を所定の値に設定しておく。その後の処理で得られる複素位相の回転量は、上述の説明と同様に、当初の所定の値に対する差分として設定する。送受信信号処理回路453−1〜453−Nは、制御回路460の管理の基、一斉に同様の処理を行う。
実際の処理としては、まず、複素位相の回転量を取得すべき通信相手の無線局装置がチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、送受信信号処理回路453−1〜453−Nを備える無線局装置は、このトレーニング信号を受信する。アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mが受信した信号はそれぞれ、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mを介して移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介してダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mに入力する。ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mはそれぞれ、入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器425−n−1〜425−n−Mに入力する。A/D変換器425−n−1〜425−n−Mはそれぞれ、入力された信号を、アナログ信号からデジタル・ベースバンド信号に変換し、相関算出回路405−nに出力する。
相関算出回路405−nは、図1における説明と同様に、複素位相の回転量を算出する。相関算出回路405−nが求めた複素位相の回転量は、通信する相手となる無線局装置の識別番号と共に、位相シフト制御回路406−nに入力される。位相シフト制御回路406−nは、移相器402−n−1〜402−n−Mそれぞれに設定すべき複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けてメモリに記憶するなどして管理する。
また、上記の複素位相の回転量は受信系における移相器402−n−1〜402−n−Mの位相回転量に関するものであるが、ローノイズアンプ及びハイパワーアンプなどにおける複素位相回転量の個体差をキャンセルするため、相関算出回路405−nは、従来技術のインプリシットフィードバックにおけるキャリブレーション処理を施し、受信系における複素位相の回転量を基にキャリブレーション処理に相当する補正により送信系における複素位相の回転量を換算し、移相器409−n−1〜409−n−Mに設定する値とする。ただし、「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された場所にローノイズアンプを配置する場合には、十分な受信レベルが得られるので「C1」、「C2」、…、「CM」と記載された場所にはローノイズアンプは不要であるため、受信系の各ローノイズアンプにおける複素位相の回転は空間上での複素位相の回転と区別する必要はなく、受信系の移相器402−n−1〜402−n−Mに設定する複素位相の回転量は、相関算出回路405−nが算出した複素位相の回転量をそのまま用いることが可能である。なお、位相シフト制御回路406−nは、移相器402−n−1〜402−n−M及び移相器409−n−1〜409−n−Mのそれぞれに設定すべき送信系における複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けて同様にメモリに記憶するなどして管理する。
なお、実際のデータ通信を行う際、すなわち送信処理ないし受信処理を行う際には、制御回路460が通信相手となる無線局装置を把握し、位相シフト制御回路406−nに対して、通信を行う無線局装置に対応する複素位相の回転量を、移相器402−n−1〜402−n−M及び移相器409−n−1〜409−n−Mに設定するよう指示する。位相シフト制御回路406−nは、通信を行う無線局装置に対応した受信系及び送信系のそれぞれにおける複素位相の回転量をメモリから読み出すなどして取得する。位相シフト制御回路406−nは、この受信系の複素位相の回転量を移相器402−n−1〜402−n−Mに設定し、送信系の複素位相の回転量を移相器409−n−1〜409−n−Mに設定してアナログ上のビームフォーミングを実現する。
図5は、本実施形態における送受信信号処理回路454−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す送受信信号処理回路454−nと、図4に示す送受信信号処理回路453−nとの差分は以下の点である。すなわち、図4に示す送受信信号処理回路453−nはアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mを送受信で共用していた。一方、図5に示す送受信信号処理回路454−nは、これらを送信と受信で分離した上で、送受信でペアを組み、近接した場所に送受信アンテナをセットで配置する構成としている。したがって、無線局装置450の送受信信号処理回路451−nを送受信信号処理回路454−nに置き換える場合は、アンテナ素子441−n−1〜441−n−Mが追加され、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mは省略される。なお、無線局装置452の送受信信号処理回路451−nを送受信信号処理回路454−nに置き換える場合は、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mに代えて、送受信信号処理回路454−1〜454−Nで共用するアンテナ素子401−1〜401−M及びアンテナ素子441−1〜441−M(及びアンテナ素子401−1〜401−M及びアンテナ素子441−1〜441−Mに対応した分配結合器)で構成される。
図4の説明では便宜上、アンテナ素子の直近までを送受信信号処理回路453−nと見なして説明をしていたが、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mをアンテナ素子側の機能と見なせば、図4と図5は全く等価な図である。信号処理の詳細においても、受信系においては図4に示す送受信信号処理回路453−nでは、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mが信号を受信していたのに対し、図5に示す送受信信号処理回路454−nではアンテナ素子441−n−1〜441−n−Mを用いて受信する点、及び、送受信においてTDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mを経由しない点を除けば、図5に示す送受信信号処理回路454−nと、図4に示す送受信信号処理回路453−nにおける全ての信号処理は共通である。
ただし、送受信アンテナが物理的に異なる点を考慮し、単なるキャリブレーション処理に加えて、物理的にアンテナ素子の座標が異なることを考慮した補正を加えることも可能である。
なお、上述の説明では近接した場所に送受信アンテナをセットで配置する構成として説明したが、この物理的にアンテナ素子の座標が異なることを考慮した補正を行う限りにおいては、必ずしも送受信アンテナをセットで配置する必要はない。図6は、本実施形態における送受信信号処理回路455−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
図6に示す送受信信号処理回路455−nにおいても、図5に示す送受信信号処理回路454−nと同様に、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mをアンテナ素子側の機能と見なせば、図6も図4と全く等価な図である。この意味で図6に示す送受信信号処理回路455−nにおいても、図5に示す送受信信号処理回路454−nと同様に、送信用のアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mと受信用のアンテナ素子441−n−1〜441−n−Mとを分離した構成となっている。ただし、図5に示す送受信信号処理回路454−nでは、個別の送受信アンテナ素子のペア(例えばアンテナ素子401−n−1とアンテナ素子441−n−1のペア等)が一体として近傍に配置される構成に対し、図6に示す送受信信号処理回路455−nでは送信用のアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mはそれらでひとつの送信アンテナアレーを構成し、受信用のアンテナ素子441−n−1〜441−n−Mはそれらでひとつの受信アンテナアレーを構成する構成を想定している。従って、物理的なアンテナ素子の配置(ないしはアンテナ素子とを結ぶ配線上の幾何学的違い)以外は、図5と図6では差がない。
なお、図6に示す様に送受信アンテナを分離して運用する場合に、送信アンテナから受信アンテナへの信号の漏れ込を避けるために、壁状の障害物を配置しても良い。
Massive MIMOにおいてデジタルビームフォーミングを行う場合、従来の無線局装置では、信号系列数に対応した多数のA/D変換器及びD/A変換器を必要とするため、消費電力が増大するという問題を有していた。一方、上述した本実施形態の無線局装置は、指向性制御を行うための複素位相の回転量を算出する際にのみ信号系列に対応したアンテナ素子毎のA/D変換器を利用し、データ送信時には移相器を用いたアナログビームフォーミングを行う。そのため、本実施形態の無線局装置は、スイッチを用い、複素位相の回転量の算出に用いるトレーニング信号の受信時には受信信号の出力先をA/D変換器に、データ受信時には受信信号の出力先を受信回路に切り替える。その結果、データ送受信時には、複素位相の回転量の算出時に必要とするアンテナ素子毎のA/D変換器及びD/A変換器の動作を停止させることが可能となり、消費電力を低減することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、無線局装置は、指向性制御を行うための複素位相の回転量を算出する際にのみアンテナ素子毎のA/D変換器を利用する。そして、無線局装置は、実際の信号送信時には、デジタルビームフォーミングの代わりに移相器を用いたアナログビームフォーミングで代用する。一方、信号受信時には、無線局装置は、スイッチを用いて、受信アンテナからの信号の出力先を、トレーニング信号の受信時にはA/D変換器に、信号合成して復調処理を行うときには受信回路に切り替える。これにより、Massive MIMOにおいて、デジタルビームフォーミングを行うときに従来では定常的に必要としていたA/D変換器及びD/A変換器の数を大幅に低減することができる。よって、通信時において定常的に多数のA/D変換器及びD/A変換器が動作し続ける状況を回避し、特に広帯域の通信時にかかっていた膨大なA/D変換器及びD/A変換器の消費電力を低減するとともに発熱量も低減することが可能となる。さらには、A/D変換器及びD/A変換器に、発熱のために必要としていた大がかりな放熱板が不要となるため、低消費電力化だけでなく、無線局装置の小型化を図ることが可能となり、コストの低減も可能となる。
なお、上述した実施形態においては無線周波数のアナログ信号上で複素位相の回転を行っていたが、アップコンバータ及びダウンコンバータの位置を変更し、ベースバンドまたは中間周波数のアナログ信号に対して複素位相の回転を与え、その後段または前段で無線周波数との周波数変換を行う構成としてもよい。
上述した実施形態によれば、無線局装置450、452などの無線通信装置は、複数のアンテナ素子を含んで構成されるサブアレーを用いて指向性を形成し、他の無線通信装置と無線通信する。ただし、本明細書では「サブアレー」との表現を用いているが、本発明の信号処理的な特徴は必ずしも複数の「サブアレー」を実装する構成とされている必要はなく、無線通信装置が備える全てのアンテナ素子により構成される単一のアレーアンテナでもよく、無線装置が備える全てのアンテナ素子のうち一部により構成されるアレーアンテナでもよい。無線通信装置は、複数のアンテナ素子と、信号受信部と、第1の位相回転部と、第1の信号変換部と、相関算出部と、第1の回転量算出部と、第1の位相回転量制御部と、信号合成部と、第2の信号変換部と、信号再生部とを備える。なお、無線通信装置は、少なくとも信号受信に用いるサブアレー毎に、第1の位相回転部と、第1の信号変換部と、信号合成部とを備える。さらに、無線通信装置は、送信信号生成部と、信号分配部と、第2の位相回転部と、第2の回転量算出部と、第2の位相回転量制御部とを備える。無線通信装置は、少なくとも信号送信に用いるサブアレー毎に、信号分配部と、第2の位相回転部とを備える。ここで、位相回転量制御部は、P−P(ポイント・ツー・ポイント)型であれば、回転量算出部で算出した複素位相の回転量を直接、位相回転部に設定することで対処可能であるが、この場合には回転量算出部ないしは位相回転部の何れかに、暗に位相回転量制御部的な機能が含まれているものと理解することができる。
再生対象信号の受信時又は複素位相の回転量の算出時、信号受信部は、無線通信による通信相手の他の無線通信装置が送信した信号を、信号受信に用いる複数のアンテナ素子それぞれを介して受信する。第1の位相回転部は、信号受信部が受信した信号のうち、自機能部に対応するサブアレーを構成するアンテナ素子を介して受信した受信信号のそれぞれに対し、アナログ信号上で複素位相を所定の値だけ回転させる。なお、複素位相の回転量の算出時などに第1の位相回転部を単純に経由する場合には、ゼロ度の複素位相を回転させたものと理解する。
再生対象信号の受信時、信号合成部は、自機能部と同じサブアレーに対応した第1の位相回転部が複素位相を回転させたアナログ信号の受信信号を、全て又は一部のアンテナ素子に亘り合成する。第2の信号変換部は、信号合成部が合成した受信信号を、無線周波数のアナログ信号からベースバンドのデジタル信号に変換する。信号再生部は、第2の信号変換部により変換された受信信号に基づいて、通信相手の他の無線通信装置が送信した信号を再生する。
なお、無線通信装置が複数のサブアレーを備える場合に、信号再生部は、サブアレー毎に第2の信号変換部それぞれにより変換された複数の系統のベースバンドのデジタル信号を基に、サンプリングデータ毎に時間軸上(または周波数軸上でも良い)で複数系統間のクロストーク成分を抑圧し、信号を再生してもよい。
また、信号送信時、送信信号生成部は、サブアレーを用いて通信相手の他の無線通信装置宛てに送信するアナログの送信信号を生成する。送信信号生成部は、例えば、ベースバンド信号処理回路140(変調器120−1〜120−N)及びD/A変換器122−1〜122−Nである。信号分配部は、送信信号生成部により生成され、自機能部に対応したサブアレーを用いて送信するアナログの送信信号を、サブアレーを構成するアンテナ素子それぞれに対応させて分岐する。第2の位相回転部は、自機能部に対応するサブアレーを構成するアンテナ素子に対応させて信号分配部が分岐させた送信信号それぞれに対して、アナログ信号上で複素位相を所定の値だけ回転させる。信号送信部は、第2の位相回転部それぞれが位相を回転させた送信信号を、各アンテナ素子を介して送信する。
複素位相の回転量の算出時、上述のように、信号受信部は、無線通信による通信相手の他の無線通信装置が送信した信号(トレーニング信号)を、信号受信に用いる複数のアンテナ素子それぞれを介して受信する。相関算出部は、受信した信号を第1の信号変換部により変換して得られた受信信号に基づいて、自機能部に対応する基準アンテナ素子と他のアンテナ素子間の受信信号の相関を算出する。第1の信号変換部は、例えば、ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−M及びA/D変換器425−n−1〜425−n−Mである。
より詳細には、信号受信に用いるサブアレー毎に備えられた第1の信号変換部は、信号受信部が通信相手の他の無線通信装置から受信したトレーニング信号のうち、自機能部に対応するサブアレーを構成するアンテナ素子を介して受信したトレーニング信号のそれぞれに、第1の位相回転部が複素位相を回転させることにより得られた無線周波数のアナログ信号を、ベースバンドのデジタル信号に変換する。複素位相の回転量はゼロとしてもよい。相関算出部は、信号変換部により変換されたトレーニング信号のアンテナ素子の組合せ毎の相関を算出する。具体的には、相関算出部は、複数のアンテナ素子の中から基準となるアンテナ素子を定め、信号変換部により変換されたトレーニング信号の相関を、基準となるアンテナ素子と他のアンテナ素子との組合せ毎に算出する。第1の回転量算出部は、相関算出部による相関の算出結果に基づいて、第1の位相回転部において、対応するサブアレーを構成するアンテナ素子それぞれを介して受信した信号に与えるべき複素位相の回転量を算出する。第1の位相回転量制御部は、第1の回転量算出部による複素位相の回転量の算出結果に基づいて、第1の位相回転部が与える複素位相の回転量を制御する。
複素位相の回転量の算出時、さらに、第2の回転量算出部は、相関算出部が算出した相関の算出結果、第1の回転量算出部が算出した複素位相の回転量の算出結果、又は、それら算出結果の少なくとも一方にキャリブレーション処理を実施して得られた複素位相の回転量に関する情報のいずれかに基づいて、第2の位相回転部において、対応するサブアレーを構成するアンテナ素子のそれぞれから送信させる送信信号に与えるべき複素位相の回転量を算出する。第2の位相回転量制御部は、第2の回転量算出部による複素位相の回転量の算出結果に基づいて、第2の位相回転部が与える複素位相の回転量を制御する。
なお、無線通信装置は、相関算出回路405−1〜405−Nのように、相関算出部と、第1の回転量算出部と、第2の回転量算出部とを統合した機能部をサブアレー毎に備えてもよく、相関算出部と、第1の回転量算出部と、第2の回転量算出部とを個別に備えてもよい。
また、無線通信装置は、位相シフト制御回路406−1〜406−Nのように、第1の位相回転量制御部と第2の位相回転量制御部とを統合した位相回転量制御部をサブアレー毎に備えてもよく、第1の位相回転量制御部と第2の位相回転量制御部を個別に備えてもよい。
また、無線通信装置は、送受信信号処理回路451−1〜451−Nが備える移相器402−n−1〜402−n−M(n=1,…,N)のように、第1の位相回転部と第2の位相回転部とを統合した位相回転部をサブアレー毎に備えてもよく、送受信信号処理回路453−n、454−n、455−nが備える移相器402−n−1〜402−n−M、409−n−1〜409−n−Mのように、第1の位相回転部と第2の位相回転部とをサブアレー毎に個別に備えてもよい。
また、無線通信装置は、送受信信号処理回路451−1〜451−Nが備える分配結合器404−1〜404−Nのように、信号合成部と信号分配部とを統合した信号合成分配部をサブアレー毎に備えてもよい。この場合、無線通信装置は、TDDスイッチ127−1〜127−Nのように、信号合成分配部における信号合成部の処理と信号分配部の処理とを時間的に切り替える切り替え部をさらにサブアレー毎に備える。また、無線通信装置は、送受信信号処理回路453−n、454−n、455−nが備える分配結合器414−n、415−nのように、信号合成部と信号分配とを個別独立に備えてもよい。
[実施形態に関する補足事項]
以上説明した本発明の実施形態に関する補足事項を以下に示す。
前述した実施形態における無線局装置をコンピュータで実現する様にしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線の様に、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリの様に、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、更に前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。