[第5世代移動通信を取り巻く背景]
現在、スマートフォンなどの高機能な移動通信端末が爆発的に普及している。携帯電話に関しては、第3世代移動通信から第4世代移動通信に移行し、現在ではさらに先の第5世代移動通信(通称「5G」)に関する研究開発が進められている。この5Gに関して行われている検討のひとつに、マクロセルとスモールセルの利用がある。
これまでの携帯電話では、ひとつのサービスエリアを半径数キロメートル程度に設定し、このマクロセルのエリアをひとつの基地局装置がカバーしていた。しかし、この様なマクロセル内には非常に膨大な数のユーザが存在する。全体の限りあるシステム容量は各ユーザでシェアされることになるため、膨大な数のユーザを収容するときには、個々のユーザ毎のスループットは低下する。
この様なスループットの低下を回避するために、トラヒックが集中するような人口密集地に、半径数十メートル程度の非常に小さなサービスエリアであるスモールセルを設定する技術が開発されている。この技術では、スモールセルを活用することで、マクロセルを介さずにスポット的なトラヒックをネットワークにオフロードする。ここでは、スモールセルにおける通信能力とマクロセルにおける通信能力を同時並行的に利用可能な端末装置を想定する。このような端末装置を用いることで、制御情報についてはマクロセルを活用して情報交換を行いながら、ユーザデータをスモールセル側において収容する。これによって、マクロセルとスモールセルのメリットを最大限活用することが可能になる。
先に述べた5Gでは、伝送速度の目標値に10Gbit/s(ギガビット毎秒)以上が設定されており、このスモールセルでも同様の大容量の通信を行うことでトラヒックの効率的なオフロードを実現する必要がある。マクロセルにおいては長距離伝搬を許容するために周波数の低いマイクロ波帯を利用することが前提となる。しかし、既に周波数資源が枯渇しつつあるマイクロ波帯の現状を考慮し、比較的近距離での通信を想定するスモールセルでは、比較的周波数の高い準ミリ波帯またはミリ波帯の利用が想定されている。この高周波数帯の特徴は、周波数の2乗に反比例して伝搬減衰が大きくなることである。従って、スモールセル基地局は理想的にはユーザ端末に近い場所に設置されることが好ましい。例えば、ビルの屋上の様な設置が容易な場所では、ユーザ端末と基地局との距離が離れ過ぎてしまい、回線設計上、好ましくない。
一方、スモールセルはトラヒックが集中する場所に設定されることになるため、そこまで光ファイバを敷設することが困難な場所であっても、基地局装置の設置が強く望まれるケースがある。例えば新宿や渋谷などの駅前などの様に非常に人が多く密集する場所にスモールセルの基地局装置を設置する場合を想定すると、その様な場所に隣接するビルの屋上では伝搬減衰が大きくなる。そのため、ビルの屋上よりも高さの低い場所、例えばビルの壁面などへの設置が求められることがある。しかし、既設のビルの壁面に光ファイバを敷設するのは困難な場合があり、その様な場合には無線回線を用いてその基地局装置へのバックホール回線を提供する必要に迫られることがある。
この様なバックホール回線を提供する場合、スモールセルにおいて求められる10Gbit/s以上の大容量伝送に対応するために、同様にミリ波帯を活用して10Gbit/s以上の大容量伝送を行う必要がある。この様な環境では、対向する無線局装置は双方が安定的な場所に固定設置されるため、当然ながら見通しが安定的に確保され、且つ、指向性アンテナを相互に向け合うことが一般的である。この場合、ビル間の反射波などはある程度は存在するが、受信される信号の殆どは見通し波成分であり、マルチパス環境とは言いにくい状態であると予想される。この状況は、スモールセル用の基地局装置がビル壁面などの高所に設置され、上方から下方のユーザを見下ろす形で、概ね見通し環境で利用するならば、アクセス系に関しても同様である。
次に、5Gで求められる伝送速度である10Gbit/s以上の大容量伝送については、ミリ波帯の活用により非常に広い帯域幅の周波数資源を利用することが可能になり、これにより実現可能性は高まっている。例えば、ミリ波帯を用いたバックホール回線を想定するならば、一例としてEバンド(71〜76GHz及び81〜86GHz)などを用い、仮に1GHzの帯域幅を用いるとすれば、周波数利用効率は10bit/s/Hzで済むことになる。しかし、10bit/s/Hzの周波数利用効率を達成するための既存の無線設備は、概ねMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)チャネルを利用した空間多重伝送を採用している。空間多重伝送は一般にはマルチパス環境を利用しており、MIMOチャネルの伝達関数を行列形式で表現したチャネル行列Hの特異値分解を行った際に、その結果得られる特異値の絶対値の分布が、その空間多重伝送の特性を表す。具体的には、特異値の絶対値の2乗値は信号対雑音電力比SNR(Signal to Noise Ratio)に比例した値であり、空間多重伝送のためには第1特異値のみならず、第2特異値以降も十分に大きな値を持たなければ通信が成り立たない。アクセス系であるスモールセルにおける大容量伝送でも同様であるが、この様な見通し波が支配的な環境での空間多重伝送を実現することが、目的とする無線システムの実現には必要不可欠である。
上述のように、5Gではアクセス系及びバックホール回線共に、ミリ波帯の利用が期待される。また、先に述べたように、高周波数帯の特徴は、周波数の2乗に反比例して伝搬減衰が大きくなることである。例えば2GHz帯(既存のアクセス系)と80GHz帯(ミリ波帯を用いる将来システム)とを比較すれば40倍の周波数であるために、伝搬減衰は1600倍であり、32dBの回線利得が不足することになる。もちろん、マクロセルほど広範囲をカバーする必要はないので32dBの全てを補う必要はないが、一方で高周波数帯では送信段でのハイパワーアンプはあまり高出力のデバイスが存在しないため、この点も加味すれば数10dBレベルでの追加の回線利得の確保をしなければならないと考えられる。さらには、その様な環境で空間多重伝送も期待されるため、基地局及び端末局の双方において、従来技術に比べて格段に多くのアンテナ素子を備えた無線システムが検討されるようになった。この様な技術をMassive MIMOと呼ぶ。以下に、Massive MIMOに関する従来技術を紹介する。
非特許文献1では、基地局側が256素子、端末局側が16素子のアンテナを備え、256×16のサイズのチャネル行列を活用して16ストリームの空間多重伝送を目指している。この非特許文献1では、複数の信号系列(ストリーム)を伝送するために、その指向性形成を、無線のアナログ回路における複素位相量の回転を用いたアナログビームフォーミングと、デジタル・ベースバンド回路におけるデジタル領域でのデジタルビームフォーミングとを併用して行う。これにより、アナログ/デジタル(A/D)変換器及びデジタル/アナログ(D/A)変換器の多用を避け、消費電力の低減とチャネル情報のフィードバック時の回線利得不足対策を行っている。以下、非特許文献1に示された技術の概要を説明する。
図25は、従来技術における無線局装置の構成例を示す機能ブロック図である。同図に示す無線局装置は、変調器901−1〜901−N(MOD#1〜MOD#N)と、プリコーダ902と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:高速逆フーリエ変換)&GI(Guard Interval)付与回路903−1〜903−N0と、D/A変換器904−1〜904−N0と、アップコンバータ(UC)905−1〜905−N0と、ダウンコンバータ(DC)906−1〜906−N0と、A/D変換器907−1〜907−N0と、GI除去&FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路908−1〜908−N0と、ポストコーダ909と、復調器910−1〜910−N(DEM#1〜DEM#N)と、TDDスイッチ(TDD−SW)911と、分配結合器(HYB)912−1〜912−N0と、移相器913−1−1〜913−N0−M0と、分配結合器(HYB)915−1〜915−M0と、アンテナ素子916−1〜916−M0とを備える。ここでNは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、N0はデジタル的な指向性形成のための信号処理を行う信号系統数を、M0はアンテナ素子数を表している(M0≧N0≧N)。さらにアンテナ素子916−1〜916−M0は、全体としてアレーアンテナを構成している。
分配結合器912−1〜912−N0からアンテナ素子916−1〜916−M0は送受信で共通である。また、TDDスイッチ911は、分配結合器912−1〜912−N0からアンテナ素子916−1〜916−M0への接続を、送信系に相当する変調器901−1〜901−Nからアップコンバータ905−1〜905−N0と、受信系に相当するダウンコンバータ906−1〜906−N0から復調器910−1〜910−Nとの間で切り替える。例えば、送信時にはアップコンバータ905−nと分配結合器912−nが接続され、受信時にはダウンコンバータ906−nと分配結合器912−nが接続される(n=1,…,N0)。ここには図示していない全体の制御回路が、フレーム周期や送受信タイミングを管理し、TDDスイッチ911の切り替えもこの制御回路により実施される。
また、移相器913−1−1〜913−N0−M0は、事前に定められたビームパターンに応じて送受信信号の位相関係を調整し、図示していない制御回路によりこの位相回転量も管理される。ここでの位相は、フェーズドアレーアンテナにおける指向性制御と同様である。例えば、アンテナ素子916−1〜916−M0全体で所定の方向への指向性利得が最大となる様に、その方向からの到来波に対して各アンテナ素子916−1〜916−M0における経路長差を波長で除算した値に相当する複素位相を調整する。これにより、各アンテナ素子916−1〜916−M0が同位相で信号を送受信できるようにする。
なお、ここでの指向性は水平方向の方位角θ及び垂直方向の方位角φを所定の角度の刻み幅で分割し、選択可能な(θi,φj)のメニューごとに、対応する複素位相の組をセットとして移相器913−n−1〜913−n−M0(n=1,…,N0)の位相量の調整を行う。この結果、例えば、アンテナ素子916−1〜916−M0、移相器913−n−1〜913−n−M0、分配結合器912−n全体でn番目の信号系列ついてのひとつの仮想的指向性アンテナとして振る舞う。これらの仮想的指向性アンテナは物理的には分配結合器915−1〜915−M0を介して、アンテナ素子916−1〜916−M0を共用することになる。
さらに以下の説明では、一例としてOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式の様に周波数軸上の信号を形成して通信を行う場合を例に取り説明する。なお、シングルキャリア伝送の場合であっても周波数軸上での等化処理を行う場合には一旦周波数軸の信号に変換するので、プリコーディング処理及びポストコーディング処理に関しては、この様な周波数軸上の信号に変換した後の処理と見なせば、OFDMかシングルキャリア伝送かの区別なく、同様の議論は可能である。
具体的な信号の流れは以下の通りである。まず信号の送信について説明する。変調器901−1〜901−Nは、それぞれで空間多重を行う各ストリームの送信信号を生成する。プリコーダ902は、複数の仮想的指向性アンテナ間の間で信号合成を適宜行い、受信局側での信号分離が効率的に実施できるようにする。このプリコーディング処理は、例えばN0系統の仮想的指向性アンテナと実際に送受信するN系統の信号系統間のMIMOチャネル行列を特異値分解した際のユニタリー変換行列の乗算に相当する。これにより、所謂、固有モード伝送を実現し、効率的な伝送を実現する。IFFT&GI付与回路903−1〜903−N0は、この様にして形成された送信信号系列を、周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換し、ガードインターバルを付与する。必要に応じて、シンボル間の波形整形などもここで行うものとする。D/A変換器904−1〜904−N0は、この様にして生成されたデジタル信号を、アナログ信号に変換する。アップコンバータ905−1〜905−N0は、このアナログ信号を、ベースバンド信号から無線周波数帯の信号に変換する。
送信時においてTDDスイッチ911は、アップコンバータ905−nと分配結合器912−nを接続する(n=1,…,N0)。なお、添え字の1〜N0は全て同様に振る舞う。分配結合器912−n(n=1,…,N0)は、無線周波数帯の信号をアンテナ系統数M0だけの信号に分配し、これを移相器913−n−1〜913−n−M0に入力する。例えば移相器913−1−1〜913−1−M0は、第1の信号系列に対応する指向性の方位(θi,φj)に対応した所定の複素位相の調整をアナログ信号上で実施し、調整後の第1の信号系列を分配結合器915−1〜915−M0を介してアンテナ素子916−1〜916−M0から送信する。同様に移相器913−N0−1〜913−N0−M0は、第N0の信号系列に対応する指向性の方位(θi’,φj’)に対応した所定の複素位相の調整をアナログ信号上で実施し、調整後の第Nの信号系列を分配結合器915−1〜915−M0を介してアンテナ素子916−1〜916−M0から送信する。なお、分配結合器915−m(m=1,…,M0)は、対応する移相器913−1−m、913−2−m、…、913−N0−mから入力した信号を合成し、アンテナ素子916−mに出力する。
次に信号の受信について説明する。アンテナ素子916−1〜916−M0が受信した信号は分配結合器915−1〜915−M0により、それぞれN0系統の信号に分配され、それぞれが対応する移相器913−1−1〜913−N0−M0に出力される。
例えば移相器913−1−1〜913−1−M0は、第1の信号系列に対応する指向性の方位(θi,φj)に対応した所定の複素位相の調整をアナログ信号上で実施し、調整後の第1の信号系列を分配結合器912−1に入力する。分配結合器912−1は入力されたこれらの信号を合成し、合成された信号を、TDDスイッチ911を介してダウンコンバータ906−1に入力する。
同様に、移相器913−N0−1〜913−N0−M0は、第Nの信号系列に対応する指向性の方位(θi’,φj’)に対応した所定の複素位相の調整をアナログ信号上で実施し、調整後の第Nの信号系列を分配結合器912−N0に入力する。分配結合器912−N0は、入力されたこれらの信号を合成し、合成された信号を、TDDスイッチ911を介してダウンコンバータ906−N0に入力する。
ダウンコンバータ906−1〜906−N0は、無線周波数の信号をベースバンド信号にダウンコンバートする。A/D変換器907−1〜907−N0は、ダウンコンバートにより得られたアナログのベースバンド信号をデジタルのベースバンド信号に変換する。ここでは図示していないタイミング検出回路にて管理されるシンボルタイミングに基づき、GI除去&FFT回路908−1〜908−N0は、デジタルのベースバンド信号からガードインターバルを除去し、時間軸の信号を周波数軸の信号に変換する。ポストコーダ909は、GI除去&FFT回路908−1〜908−N0により処理された各信号系列(ストリーム)間のクロストーク成分を周波数軸上で信号分離し、クロストーク成分分離後の信号を対応する復調器910−1〜910−Nに出力する。復調器910−1〜910−Nは、所定の信号検出処理により、データを再生して出力する。
なお、ここでは送信側のパワーアンプ及び受信側のローノイズアンプは明示的に記載していないが、一般にはアップコンバータ905−1〜905−N0の後段(符号「A1」〜「AN0」の位置)にパワーアンプを設置し、ダウンコンバータ906−1〜906−N0の前段(符号「B1」〜「BN0」の位置)にローノイズアンプを設置する。このパワーアンプとローノイズアンプは個別に複素位相回転量が異なり、更には周波数毎に移送回転量が異なる場合もある。しかし、TDDスイッチ911とアンテナ素子916−1〜916−M0の間には送信と受信で位相回転量に差がつく要因は排除されており、送信時と受信時でのチャネルの対称性が保存される。このため、移相器913−1−1〜913−N0−M0の位相回転量の設定は、送信時と受信時で同じ値を用いることが可能である。
以上がハイブリッド・ビームフォーミングを用いたMassive MIMO技術の概要である。ここでは移相器913−1−1〜913−N0−M0で設定する位相回転量ないしは各信号系列に対応する指向性の方位(上述の例では、移相器913−1−1〜913−1−M0では(θi,φj)、移相器913−N0−1〜913−N0−M0では(θi’,φj’))などの取得方法は本願発明の特徴に直接関係ないために省略するが、非特許文献1などの従来技術により取得可能である。
[見通し波が支配的な場合のMassive MIMO技術の拡張]
以上のMassive MIMO技術の説明では、主としてアクセス系での利用を想定していたために、概ねマルチパス環境であることを前提としていた。しかし、アクセス系であってもスモールセル基地局が上方に設置され、見下ろす格好で概ね見通しが確保できる場合には、非マルチパス環境での運用が余儀なくされる場合がある。特にバックホール回線の場合にはそれが顕著で、所謂、ライス係数Kが10dB以上となる、見通し波成分の1/10以下程度しかマルチパス成分が伴わない環境での利用が想定される。この場合、第1特異値に相当する回線利得と第2特異値以上に相当する回線利得差が20dB、ないしはそれ以上となることが予想され、実質的に2ストリーム以上の空間多重伝送は非効率となることが予想される。
この様な環境では、非特許文献2に示される様に、第1特異値に対応する回線利得の効率の高さを活用して、全アンテナ素子を複数のセットに分割し、セット毎にサブアレー構成をとることが有効になる。そして、そのサブアレーを空間的に離して設置することで、サブアレー間の相関を低下させ、第1特異値に対応した伝送を低相関で並列伝送することが有効になる。また、同様に非特許文献3では、ここでのサブアレーのアンテナ開口長が狭く、見通し波が支配的で十分にサブアレー内の各アンテナ素子間の相関が強い場合、各アンテナ素子の送受信ウエイトは周波数依存性を持たない定数として扱うことが可能であり、この場合には時間軸上のサンプリングデータ単位でウエイトの乗算が可能であるという「時間軸ビームフォーミング技術」が提案されている。
これは、素子間隔が狭くアンテナ素子の相関が強い場合、アンテナ素子毎の相対的なチャネル情報(ある基準となるアンテナ素子でのチャネル情報に対するチャネル情報の相対値であり、具体的には基準アンテナ素子の第k周波数成分のチャネル情報の複素位相をψref (k)とした場合に、各アンテナ素子にExp{−jψref (k)}を乗算して得られる情報)の複素位相の周波数依存性は、概ね一定となっていることに起因した方式である。例えば受信時においては、これらの各アンテナ素子の受信信号を複素位相が同位相になる様に信号合成するための受信ウエイトの複素位相は、全周波数帯域において概ね一定となっており、全周波数帯で同一の定数の受信ウエイトを用いることが可能となる。一般に、周波数軸上で定数となる関数をフーリエ変換するとδ関数になるため、周波数軸の受信ウエイトをIFFTにより時間軸上に変換したウエイトは、t=0の成分のみを考慮すればよいことになる。つまり、遅延波成分を考慮した信号処理が不要であることから、アナログ・ベースバンドの受信信号をA/D変換器でサンプリングしたサンプリングデータに、直接、アンテナ素子毎の所定の係数である時間軸受信ウエイトを乗算すれば、受信信号をFFT処理などにより一度も周波数軸上の信号に変換することなく、完全に時間軸の信号処理だけで指向性形成を実現することが可能になる。
時間軸ウエイトとして乗算する複素位相の回転のための係数は以下の式(1)〜式(3)により求められる。
上記の式において、Si(n)は、受信したトレーニング信号の中で、第iアンテナの第nサンプルのサンプリングデータを表し、Si(n)*は、Si(n)の複素共役を表す。NFFTは所定の周期性を想定し、例えばOFDMのFFTポイント数の様な相関検出において意味を持つ周期性の値を示す。ψjは時間軸ビームフォーミングで実施する(受信側の)複素位相の回転量である。関数angle(x)は複素数xの複素位相を表す関数であり、xの実数部とxの虚数部の比及び実部と虚部の符号により定まる値である。また、式(1)における相関演算においては所定の周期性としてOFDM信号の場合にはFFTポイント数であるNFFTサンプルに渡り相関演算を行うとしたが、例えばNFFTの整数倍であっても周期性は維持される様に、その他のサンプル数に渡る相関演算を行っても構わない。
ここで式(2)より明らかな様に、上記式(1)で与えられる複素係数cjの複素位相と、上記式(2)で与えられる時間軸ウエイトwjの複素位相は符号が反転したものとなっている。この意味で、後述する本発明の実施形態において、相対的なチャネル情報に対応する式(1)で与えられる複素係数cjの複素位相を求めることと、時間軸ウエイトwjの複素位相を求めることは等価である。
図26は、非特許文献3に記載の従来技術における時間軸ビームフォーミングを用いた無線局装置の構成例(サブアレー分離型)を示す機能ブロック図である。同図に示す無線局装置は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路929−1〜929−Nとを備える。ベースバンド信号処理回路140は、変調器120−1〜120−N(MOD#1〜MOD#N)と、信号分離回路141と、復調器130−1〜130−N(DEM#1〜DEM#N)とを備える。送受信信号処理回路929−n(n=1,…,N)は、時間軸送信ウエイト乗算回路921−nと、D/A変換器922−n−1〜922−n−Mと、アップコンバータ923−n−1〜923−n−Mと、ダウンコンバータ(DC)924−n−1〜924−n−Mと、A/D変換器925−n−1〜925−n−Mと、時間軸受信ウエイト乗算回路926−nと、TDDスイッチ(TDD−SW)927−nとを備える。TDDスイッチ927−nは、アンテナ素子928−n−1〜928−n−Mと接続される。ここでNは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、送受信信号処理回路929−1〜929−Nは全体でN系統分だけ実装されている。またMは、各送受信信号処理回路929−1〜929−Nに実装されるサブアレーのアンテナ素子数を表している。図25の説明では全アンテナ素子数をM0としていたが、ここではアンテナ全体をサブアレー構成としているので個々のサブアレーのアンテナ素子数は異なる値Mと標記した。
ここで送受信信号処理回路929−1〜929−N(送受信信号処理回路929−nにはサブアレーのアンテナ素子928−n−1〜928−n−Mが付随している)は、非特許文献2の様に空間的に離して設置することが想定されている。また、ベースバンド信号処理回路140は、送受信信号処理回路929−1〜929−Nそれぞれと有線接続され、この有線上でデジタル・ベースバンド信号が転送されている。また、図25の場合と同様に、ここには図示していない全体の制御回路がベースバンド信号処理回路140上に実装され、フレーム周期や送受信タイミングを管理し、ここでTDDスイッチ927−1〜927−Nの切り替えもここで管理される。
さらに時間軸ビームフォーミング技術では、基本的に時間軸での信号処理を前提とするが、OFDM変調方式の様に周波数軸上の信号を形成する場合でもFFT処理及びIFFT処理により周波数軸上の信号は時間軸上の信号に変換可能であり、この時間軸信号への信号処理の実施により、シングルキャリア伝送と共にOFDM変調方式でも同様に時間軸ビームフォーミング技術を適用可能である。ただし、図25では周波数軸上の信号処理を想定し、IFFT処理のためのIFFT&GI付与回路903−1〜903−N0とFFT処理のためのGI除去&FFT回路908−1〜908−N0とを、変調器901−1〜901−N及び復調器910−1〜910−Nとは分離して表記していたが、ここでは周波数軸上の信号処理を前提としないため、図26では仮にOFDM変調方式などを用いる場合であっても、変調器120−1〜120−N及び復調器130−1〜130−N(または信号分離回路141)内部にFFT処理及びIFFT処理の機能が含まれているものと見做し、これらの表記は省略することとした。したがって、OFDM変調方式やシングルキャリア伝送の如何にかかわらず、変調器120−1〜120−N及び復調器130−1〜130−Nからの入出力信号は時間軸上の信号であるものとする。また、信号分離回路141では各信号系列間の信号分離を行うが、ここでは時間軸での信号分離を行うことも可能であるし、一旦、FFTにより周波数軸の信号に変換し、周波数軸で周波数依存性のある信号分離を実施しても構わない。この意味で、復調器130−1〜130−Nへの入力は、時間軸の信号である場合と周波数軸の信号である場合が想定されるが、ここでは簡単のために時間軸での信号を入力するものとして説明する。
具体的な信号の流れは以下の通りである。まず信号の送信について説明する。変調器120−1〜120−Nは、それぞれで空間多重を行う各ストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号を生成し、それぞれを時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−Nに入力する。時間軸送信ウエイト乗算回路921−n(n=1,…,N)は、変調器120−nから入力されたデジタル信号を、送受信信号処理回路929−nで指向性形成するためのサブアレーの各アンテナ素子928−n−1〜928−n−Mに対応した送信ウエイトを乗算したデジタル信号に変換する。D/A変換器922−n−1〜922−n−Mは、送信ウエイトが乗算されたデジタル信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、アップコンバータ923−n−1〜923−n−Mは、アナログ・ベースバンド信号を無線周波数帯の信号に変換する。送信時において、TDDスイッチ927−nは、アップコンバータ923−n−m(mは1以上M以下の整数)をアンテナ素子928−n−mに接続する。各アンテナ素子928−n−1〜928−n−Mからは、アップコンバータ923−n−1〜923−n−Mから入力されたそれぞれの信号が送信され、送受信信号処理回路929−1〜929−N毎に指向性ビームが形成される。
次に信号の受信について説明する。アンテナ素子928−n−1〜928−n−M(n=1,…,N)が受信した信号はTDDスイッチ927−nを介してダウンコンバータ924−n−1〜924−n−Mに入力される。ダウンコンバータ924−n−1〜924−n−Mは、無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換する。A/D変換器925−n−1〜925−n−Mは、アナログ・ベースバンド信号を、デジタル・ベースバンド信号に変換する。このデジタル・ベースバンド信号は時間軸受信ウエイト乗算回路926−nに入力される。時間軸受信ウエイト乗算回路926−nは、入力された信号それぞれに、各アンテナ素子928−n−1〜928−n−Mに対応した受信ウエイトを乗算し、受信ウエイト乗算後の信号を加算合成してそれぞれ1系統の信号系列に変換する。すなわち、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nにより、合計でN系統の信号系列(ストリーム)に変換され、これらの信号は信号分離回路141に入力される。信号分離回路141は、各ストリーム間のクロストーク成分を抑圧して信号分離を行い、この分離された信号を対応する復調器130−1〜130−Nに入力する。復調器130−1〜130−Nは、所定の信号検出処理により、データを再生して出力する。
信号分離回路141で行うクロストーク成分の抑圧は、時間軸上で実施することも可能であるし、一旦、FFT処理により周波数軸信号に変換して周波数軸上で実施することも可能である。ないしは、送受信信号処理回路929−1〜929−Nで行う信号処理のみで済ませ、信号分離回路141では特に何も処理を行わなくてもよい。ただしいずれにしても、ここでの信号分離の方法の詳細は本願に直接関係ないために省略する。
また、時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−Nで用いる時間軸送信ウエイト及び時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nで用いる時間軸受信ウエイトのそれぞれは、ここでは図示していない時間軸送受信ウエイト取得手段において取得する。そして、同様にここでは図示していない制御回路が、そこで用いる時間軸送受信ウエイトの値を管理する。例えば、通信相手となる無線局が送信したトレーニング信号に対し、A/D変換器925−n−1〜925−n−Mで取得したサンプリングデータを基に、所定のサンプル数に渡り基準アンテナ素子(例えば928−n−1)とのアンテナ素子間の相関値を求め、この複素位相を基に定めてもよい。時間軸受信ウエイトと時間軸送信ウエイトの複素位相の値は、ここでは図示していないパワーアンプとローノイズアンプなどの複素位相の回転量が個々のアンプで異なるため一般には一致しないが、従来技術のインプリシットフィードバックのキャリブレーション手法を用いることで、時間軸受信ウエイトから時間軸送信ウエイトへの変換は可能である。この様にして取得した送受信ウエイトを対応する無線局装置毎にメモリに記憶しておく。そして、送信時及び受信時にはこれらの送受信ウエイトの値を基に時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−N、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nにてウエイトの乗算を行うことになる。
図27は、非特許文献3に記載の従来技術における時間軸ビームフォーミングを用いた無線局装置の構成例(サブアレー共用型)を示す機能ブロック図である。同図において、図26と共通の機能には同一の図番号を付与している。同図において、無線局装置942は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路929−1〜929−Nと、分配結合器(HYB)941−1〜941−Mと、アンテナ素子928−1〜928−Mとを備える。図26では、送受信信号処理回路929−1〜929−Nは、サブアレー毎に空間的に分離した場所に設置することを想定して異なる筐体に収容され、別筐体のベースバンド信号処理回路140との間で有線接続されている構成を示した。一方、図27では、全ての送受信信号処理回路929−1〜929−Nとベースバンド信号処理回路140を同一筐体の無線局装置942として構成し、アンテナ素子928−1〜928−Mを全体で共用している。このため、例えば送信時においては各送受信信号処理回路929−1〜929−NのTDDスイッチ927−1〜927−Nからの信号を分配結合器941−1〜941−Mで合成し、合成された信号をアンテナ素子928−1〜928−Mから送信する。同様に受信時には、アンテナ素子928−1〜928−Mのそれぞれが受信した信号を分配結合器941−1〜941−Mにより分配する。つまり、分配結合器941−m(m=1,…,M)は、アンテナ素子928−mが受信した信号を、TDDスイッチ927−1〜927−Nに分配して入力する。これ以外の信号処理は全て図26と図27で共通である。
同様に、図28は、非特許文献3に記載の従来技術における時間軸ビームフォーミングを用いた無線局装置の別の構成例(サブアレー共用型)の機能ブロック図である。同図において、図27に示す無線局装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。同図に示す無線局装置945は、ベースバンド信号処理回路140と、時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−Nと、加算合成器943−1〜943−Mと、D/A変換器922−1〜922−Mと、アップコンバータ923−1〜923−Mと、ダウンコンバータ924−1〜924−Mと、A/D変換器925−1〜925−Mと、複製器944−1〜944−Mと、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nと、TDDスイッチ927と、アンテナ素子928−1〜928−Mとを備える。
図27では、送受信信号処理回路929−1〜929−Nをサブアレー毎に個別に実装したが、D/A変換器922−n−1〜922−n−M、アップコンバータ923−n−1〜923−n−M、ダウンコンバータ924−n−1〜924−n−M、A/D変換器925−n−1〜925−n−M、TDDスイッチ927−1〜927−Nはそれぞれ共通化可能である(n=1,…,N)。そこで、図28では時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−N(全体でN面が実装されている)で生成したN系統のデジタル・ベースバンド信号をサンプリングデータ単位で加算合成器943−1〜943−Mで加算合成し、それぞれを1系統に集約したものをD/A変換器922−1〜922−Mにてデジタル信号からアナログ信号に変換する。同様に受信側では、複製器944−1〜944−Mは、A/D変換器925−1〜925−Mで生成したデジタル・ベースバンド信号をサンプリングデータ単位でN系統の信号に複製し、複製された信号を時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−N(全体でN面が実装されている)に入力する。時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nのそれぞれは、入力された信号に受信ウエイトを乗算し、その結果を加算合成することでそれぞれ1系統の信号に変換する。すなわち、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nにより、合計N系統の信号に変換され、これらの信号は信号分離回路941に入力される。
これにより、D/A変換器922−n−1〜922−n−Mの重複実装、アップコンバータ923−n−1〜923−n−Mの重複実装、ダウンコンバータ924−n−1〜924−n−Mの重複実装、A/D変換器925−n−1〜925−n−Mの重複実装、TDDスイッチ927−1〜927−Nの重複実装を避け、回路規模の縮小と消費電力等の削減につなげている。
ここで実際の運用においては、図26に示す無線局装置と、図27又は図28に示す無線局装置とが対向して通信を行う。例えば、基地局装置については、ビル屋上の様に設置自由度があり、複数個所にサブアレーを設置可能である。一方で、端末局装置側は、ビル壁面などの設置に関する制約が大きい場合、図26を基地局装置、図27又は図28を端末局装置とする構成により、端末局装置はサブアレーをひとつのアレーアンテナで共用する形で設置自由度を高めることが可能である。あるいは、例えば端末局装置当たりの伝送容量が空間多重を必要としない程度であれば、図27又は図28を基地局装置、図26を送受信信号処理回路929−1〜929−Nのうち1系統のみ(例えば、図26の送受信信号処理回路929−1のみ)を実装した端末局装置とすることを想定し、複数の端末局装置と一つの基地局装置とによりマルチユーザMIMO伝送を行う構成とすることも可能である。
なお、図25と図26、図27及び図28との対応に関しては、例えば図25の移相器913−1−1〜913−N0−M0で行う複素位相の回転量をψα(αは移相器913−1−1〜913−N0−M0に対する識別番号に相当)とするならば、時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−N、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−Nが、対応するアンテナ素子の信号系列に対しExp{jψα}を乗算することに相当する。つまり、図25では各アンテナ素子から送受信する信号をアナログ回路(すなわち移相器913−1−1〜913−N0−M0)で変換処理していたのに対し、図26、図27及び図28では各アンテナ素子から送受信する信号をデジタル回路(すなわち時間軸送信ウエイト乗算回路921−1〜921−N、時間軸受信ウエイト乗算回路926−1〜926−N)で変換処理することに相当する。これにより、図25ではA/D変換器907−1〜907−N0及びD/A変換器904−1〜904−N0の数を抑えることが可能であるという利点を備える一方、図26、図27及び図28では、非特許文献3に記載の通り、指向性形成の分解能を高めると共に、簡易で効率的なチャネル情報のフィードバックが可能であるという利点を備えている。
なお、移相器による位相回転は、通常はデバイス上で位相回転量に相当する遅延線を選択的に経由させることで位相回転を与える。そのため、絶対値としてxの位相回転を与えると、信号としては位相xに相当する遅延に伴い複素位相回転量はマイナスの位相回転(遅延)が行われることになり、符号の整合性が取れない。しかし、以降の説明では便宜上、信号として係数Exp{jψα}の乗算に相当する位相回転を移相器で与える場合に「移相器で行う複素位相の回転量をψα」と呼ぶことにする。
[チャネル情報フィードバックにおけるキャリブレーション技術]
一般に、送信側において複数アンテナ素子を用いて指向性形成を行う場合には、上述の非特許文献1から非特許文献3までの技術も含めてMIMOチャネルのチャネル情報のフィードバックが必要である。この際、アンテナ素子数が膨大になるとフィードバックすべきチャネル情報の情報量が膨大となるために、様々な工夫が必要となる。上述の様なMassive MIMOシステムにおいては、送信方向のフォワードリンクのチャネル情報を取得するために、受信方向のリバースリンクのチャネル情報を用い、受信時に用いるローノイズアンプ等の回路によって生じる受信信号の複素位相の回転量と、送信時に用いるハイパワーアンプ等の回路によって生じる送信信号の複素位相の回転量との関係を換算し、リバースリンクのチャネル情報に所定のキャリブレーション係数を乗算することでフォワードリンクのチャネル情報を取得することが可能である。一般に、これらの技術は、インプリシットフィードバック技術として知られている(例えば、非特許文献4参照)。以下にキャリブレーション処理の詳細を示す。
実際の無線通信装置では、送信側の信号処理において、送信の直前にハイパワーアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ハイパワーアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ハイパワーアンプ内で複素位相がハイパワーアンプごとに異なる値で回転する場合がある。同様に、受信側の信号処理において、受信の直後にローノイズアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ローノイズアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ローノイズアンプ内で複素位相がローノイズアンプごとに異なる値で回転する場合がある。場合によっては、この増幅率及び位相回転量には周波数依存性が伴うこともある。増幅率及び複素位相の回転量の個体差が無視できないほどに大きい場合には、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定する際に、キャリブレーション処理を施す必要がある。この増幅率及び位相回転量の誤差は時間的にはほぼ安定しているため、増幅率及び位相回転量の誤差を事前に測定しておき、誤差の影響をキャンセルするための係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報に換算する。以下の説明では、複数のアンテナ素子を備える基地局装置側で行うキャリブレーション処理を中心に説明を行うが、同様のことは端末局装置側においても可能であり、一般的な無線局装置共通の説明である。
先の説明において、ハイパワーアンプやローノイズアンプ(厳密にはその他のフィルタ等の回路を含めた送信系及び受信系の回路等)により、振幅や複素位相が変化する場合がある。この場合、振幅や複素位相の変化に応じた補正をするためのキャリブレーション係数を事前に取得しておき、これを補正に用いると説明した。キャリブレーション処理は、公知の技術を用いても構わないが、以下にキャリブレーション処理の一例を説明する。
図29は、アップリンクとダウンリンクとのチャネル情報の非対称性を示す図である。同図において、符号955−1〜955−3は無線モジュールを示し、符号951−1〜951−3はハイパワーアンプ(HPA)を示し、符号952−1〜952−3はローノイズアンプ(LNA)を示し、符号953−1〜符号953−3はTDDスイッチを示し、符号954−1〜954−3はアンテナ素子を示している。
ここでは、キャリブレーション技術の説明のために、無線局装置内でチャネル情報に影響を与える機能のみを抽出したため、図示した以外の構成は省略した。そのため、無線モジュール955−1〜955−3の構成については、便宜上、ハイパワーアンプ951−1〜951−3、ローノイズアンプ952−1〜952−3、TDDスイッチ953−1〜953−3、アンテナ素子954−1〜954−3のみを示したが、これらの後段(前段)にはアップコンバータやダウンコンバータなどの機能が実装されている。また、例えば複数アンテナを備えた無線局装置が無線モジュール955−1〜955−2をひとつの筐体の中に複数実装している場合を想定し、無線モジュール955−3はこれと対抗して通信する無線局装置のひとつのアンテナ素子に対応した無線モジュール955−3を抽出して説明する図に相当する。また、信号がハイパワーアンプ951−1〜951−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZHPA#1(fk)、ZHPA#2(fk)、ZHPA#3(fk)変化するものとする。また、信号がローノイズアンプ952−1〜952−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZLNA#1(fk)、ZLNA#2(fk)、ZLNA#3(fk)変化するものとする。ここでは一般的な条件として周波数依存性があるものとし、第k周波数成分に対する周波数「(fk)」の表記を行っている。
ここで、例えば、無線モジュール955−1及び無線モジュール955−2から試験用の無線モジュール955−3に信号を送信する場合のチャネル情報について説明する。ここでは、無線モジュール955−1のアンテナ素子954−1と、無線モジュール955−3のアンテナ素子954−3との間の空間上のチャネル情報がh1(fk)で表され、無線モジュール955−2のアンテナ素子954−2と無線モジュール955−3のアンテナ素子954−3との間の空間上のチャネル情報がh2(fk)で表されている。
このとき、実際に無線モジュール955−1から無線モジュール955−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ951−1の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#1(fk)、及びローノイズアンプ952−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。同様に、無線モジュール955−2から無線モジュール955−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ951−2の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#2(fk)、及びローノイズアンプ952−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。したがって、無線モジュール955−1から無線モジュール955−3へのチャネルは、ZHPA#1(fk)・h1(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。また、無線モジュール955−2から無線モジュール955−3へのチャネルは、ZHPA#2(fk)・h2(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。このため、無線モジュール955−1と無線モジュール955−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZHPA#2(fk)/ZHPA#1(fk)の差が発生する。
この状況は受信側においても同様であり、無線モジュール955−3から送信された信号を無線モジュール955−1にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ951−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ952−1の通過にともなる変化を示す係数ZLNA#1(fk)とが乗算された値として観測される。同様に、無線モジュール955−3から送信された信号を無線モジュール955−2にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ951−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ952−2の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#2(fk)とが乗算された値として観測される。したがって、無線モジュール955−3から無線モジュール955−1へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h1(fk)・ZLNA#1(fk)で表される。また、無線モジュール955−3から無線モジュール955−2へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h2(fk)・ZLNA#2(fk)で表される。このため、無線モジュール955−1と無線モジュール955−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZLNA#2(fk)/ZLNA#1(fk)の差が発生する。
ここで再度整理すると、左側の無線局装置におけるリバースリンクに対応する無線モジュール955−3から送信された信号を無線モジュール955−1にて受信する場合のチャネル情報はh1(fk)・ZHPA#3(fk)・ZLNA#1(fk)となる。また、フォワードリンクに対応する無線モジュール955−1から送信された信号を無線モジュール955−3にて受信する場合のチャネル情報はh1(fk)・ZHPA#1(fk)・ZLNA#3(fk)である。無線モジュール955−1のキャリブレーション係数は以下の式(4)で与えられる。
同様に、左側の無線局装置におけるリバースリンクに対応する無線モジュール955−3から送信された信号を無線モジュール955−2にて受信する場合のチャネル情報はh1(fk)・ZHPA#3(fk)・ZLNA#2(fk)となる。また、フォワードリンクに対応する無線モジュール955−2から送信された信号を無線モジュール955−3にて受信する場合のチャネル情報はh1(fk)・ZHPA#2(fk)・ZLNA#3(fk)である。無線モジュール955−2のキャリブレーション係数は以下の式(5)で与えられる。
ここで、例えば無線モジュール955−1〜955−2で取得されるリバースリンクにおけるチャネル情報はそれぞれh1(fk)・ZHPA#3(fk)・ZLNA#1(fk)及びh1(fk)・ZHPA#3(fk)・ZLNA#2(fk)であるが、これにキャリブレーション係数C1(fk)及びC2(fk)を乗算すると、h1(fk)・ZHPA#1(fk)・ZLNA#3(fk)及びh1(fk)・ZHPA#2(fk)・ZLNA#3(fk)となる。
実運用時において、実際の通信相手の無線モジュールが無線モジュール955−3とは異なる場合には、厳密にはこのキャリブレーション係数を乗算して得られるフォワードリンクのチャネル情報の推定値は、フォワードリンクのチャネル情報そのものとは異なる値を示すことになる。しかし、その場合でも無線モジュール955−1と無線モジュール955−2に関する真のフォワードリンクのチャネル情報に対し、共通の係数が乗算された値と上述の推定値が一致することになり、指向性形成においては全アンテナ素子に共通の定数が乗算されていても影響ないことを考慮すれば、チャネル情報のフィードバックとしては問題ない。
また、上記の説明では着目する無線局装置が送信する側をフォワードリンク、受信する側をリバースリンクとして説明したが、着目する無線局装置が基地局装置の場合には、通常、フォワードリンクのことをダウンリンク、リバースリンクのことをアップリンクと呼ぶ。同様に、着目する無線局装置が端末局装置ないしは中継局装置の場合には、通常、フォワードリンクのことをアップリンク、リバースリンクのことをダウンリンクと呼ぶ。
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。まず最初に、本発明の実施形態の基本原理について説明する。本明細書にて用いる「時間軸」「周波数軸」と言う用語は、「時間領域」「周波数領域」と表現されることもあるが、ここでは「時間軸」「周波数軸」に統一して説明を行う。
[基本原理の概要]
時間軸ビームフォーミング技術では、例えば受信時においては送受信局間の到来波のメインパスを抽出し、その方向にアンテナ素子群の指向性利得を向けるための信号処理を行う。その際に用いる送受信ウエイトは周波数依存性を持たない定数となり、その結果、様々な点で信号処理を軽減する。ただし、デジタル的な信号処理を基本としているために、アンテナ素子毎に個別にデジタル信号処理上において送受信ウエイトを乗算し、それに付随してアンテナ系統毎に個別のA/D(アナログ/デジタル)変換器及びD/A(デジタル/アナログ)変換器を必要としていた。
しかし、周波数依存性を持たない係数の乗算処理は、例えば振幅の変化を伴わない複素位相の回転処理だけに限定すれば、必ずしもデジタル的な信号処理を必要としない。具体的には、アナログ回路である移相器を用い、アナログ信号を所定の複素位相回転に設定されたこの移相器を経由させることで、実質的にウエイトの乗算処理と等価な信号処理を実現することができる。非特許文献1では、移相器を用いて指向性制御を実現しているが、これは例えば水平/垂直方向に5度刻みで設定する所定の方向毎に、アンテナ素子毎の位相回転量の組み合わせセットを事前に定めておき、何らかの制御手順で得られたビームを向けるべき方向に合わせて、各移相器の位相回転量を設定していた。しかし、この位相回転量の組み合わせセットは事前に設定されたメニューから選択することになり、この方向毎に個別にトレーニング信号を送信しながら、最も受信レベルが高くなる方向を検索する必要があった。しかし、時間軸ビームフォーミングでは、端末局装置側から送信されるトレーニング信号を基に各アンテナ素子の位相回転量を最適化するため、指向性形成に用いる位相回転量の算出などを簡易にフィードバックすることが可能であると共に、複素位相の回転量の組み合わせセットは、事前のメニューなどを必要とせず格段に高い自由度で設定可能であった。
そこで、本発明の実施形態における無線局装置(無線通信装置)は、デジタルアシスト型のアナログビームフォーミングを採用する。すなわち、無線局装置は、各移相器で行う複素位相の回転量の算出処理をデジタル信号処理で実施し、そのデジタル信号処理的に得られた複素位相の値を用いて移相器を制御することにより、所望の複素位相を回転させてアナログ信号上で指向性形成を行う。
ここで、デジタル的な信号処理で行う時間軸ビームフォーミングの送受信ウエイトの複素位相を算出する処理は、必ずしも各アンテナ素子で同時に行う必要はない。ないしは、時間軸ビームフォーミングの送受信ウエイトの複素位相を算出する際にはデジタル的な信号処理を行ったとしても、この為の信号処理を行う時間率は、ユーザデータの送受信を行う通常の通信の時間率に比べて圧倒的に少なくなることが予想される。そこで、本実施形態の無線局装置は、これらのデジタル回路の動作を時間的に限定的に実施する。
また、時間軸ビームフォーミングは、到来波の最大強度となるパスに指向性を向ける制御に相当する。そのため、最大強度となるパスの方向からの到来波の平面波近似では、平面的に配置されたアンテナ素子から平面波の波面となる同位相となる平面へ引いた垂線の長さは経路長差となり、その経路長差は幾何学的な周期性を持ち、座標の関数で与えられることになる。また、送受信ウエイトは、その経路長差をキャンセルする複素位相の回転に対応する係数になる。
もちろん、実際にはマルチパス成分を伴う上に測定誤差も含むため、アンテナ素子毎の複素位相の回転量は綺麗な周期性から若干ずれることになる。しかし、近似的にはアンテナが配置される平面上にx軸、y軸を設定し、アンテナ素子の座標点に対してz軸を複素位相の回転量として3次元表記を行い、各アンテナ素子の座標に対してその複素位相の回転量をプロットすると、全プロット点は平面波近似ではひとつの平面上に存在することになる。なお、複素位相の回転量ψは、±2π×整数を加算しても複素数Exp(−j{ψ±2π×整数})は全く等価であるため、全体のアンテナ開口が大きい場合には各アンテナ素子の座標によっては±2π×整数を加算した値として平面上に存在すると見なすべき場合もあるが、その様な複素位相のオフセットを考慮すれば、少数のアンテナ素子で複素位相の回転量を求め、残りのアンテナ素子は経路長差を基に線形補間処理で複素位相の回転量を近似的に取得することができる。
また、送信アンテナと受信アンテナを分離するようなアップリンク/ダウンリンクのチャネルの非対称性が伴う場合でも、この経路長差を考慮すれば複素位相の回転量を近似的に取得することは可能である。例えば、経路長差をΔL、波長をλとすれば、経路長差をキャンセルするための複素位相の回転量は(2πΔL/λ)で与えられる。
この際、最低3つのアンテナ素子における複素位相の回転量が求まれば、その3点を含む平面上の各アンテナ素子座標の複素位相の回転量から、残りのアンテナ素子の複素位相の回転量が算出できる。4点以上のアンテナ素子で複素位相の回転量を算出できれば、各アンテナ素子の座標と複素位相の回転量で与えられる3次元空間上の複素位相の回転量と、算出された複素位相の回転量との誤差に対する最小二乗法のアプローチで、最も2乗誤差の和の小さな平面を算出し、その平面上での各アンテナ座標に対する複素位相の回転量を求め、これを移相器に設定して対応してもよい。
また、仮にアップリンクとダウンリンクのアンテナ素子が異なる構成を取る場合であっても、アップリンクのアンテナ素子とダウンリンクのアンテナ素子が入り混じって全体のアンテナ構成を取る場合には、アップリンクの受信アンテナでそのアンテナ素子の複素位相の回転量を求めたら、その他のダウンリンク用のアンテナ素子をアップリンクでも用いると仮定した場合の複素位相の回転量も算出することが可能であり、そのアンテナ素子の位相回転量を基にキャリブレーション処理を実施し、ダウンリンク用のアンテナ素子の複素位相の回転量を算出することができる。
ないしは、アップリンク用のアンテナ素子群とダウンリンク用のアンテナ素子群が物理的に分離して構成されている場合でも、アップリンク用のアンテナ素子群とダウンリンク用のアンテナ素子群が単純な平行移動関係にある場合(すなわち、同一平面上で且つ、各アンテナ素子の相対的な位置関係が送受信アンテナで変わらない場合)、受信側のアンテナで求めたダウンリンクの複素位相の回転量をそのまま送信側の対応するアンテナ素子の複素位相として用いたとしても、送受信局間の距離が十分に離れていて、共通の平面波近似が可能と予想される場合には、十分に近似的に有効な指向性形成が可能であると予想される。
以下、基本原理を適用した詳細な実施形態について図を用いて説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態における無線局装置450の構成例(サブアレー分離型)を示す機能ブロック図である。同図において、図26〜図28に示す従来技術による無線局装置と同一の部分には同一の符号を付している。本実施形態では、従来技術の図26及び図27に対応するように、指向性ビームを複数のサブアレーに分離して形成する「サブアレー分離型」による構成と、ひとつのアレーで複数の指向性ビームを実現する「サブアレー共用型」(厳密には、サブアレーに分離していないので、「一体型アレー」と理解してもよい)による構成のバリエーションが存在するが、ここでは「サブアレー分離型」について説明を行う。
同図に示す無線局装置450は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路451−1〜451−N(Nは1以上の整数)と、制御回路460とを備える。ベースバンド信号処理回路140は、変調器120−1〜120−N(MOD#1〜MOD#N)と、信号分離回路141と、復調器130−1〜130−N(DEM#1〜DEM#N)とを備える。送受信信号処理回路451−n(n=1,…,N)は、D/A変換器122−nと、アップコンバータ(UC)123−nと、ダウンコンバータ(DC)124−nと、A/D変換器125−nと、TDD(Time Division Duplex:時分割複信)スイッチ(TDD−SW)127−nと、移相器402−n−1〜402−n−M(Mは2以上の整数)と、スイッチ403−n−1〜403−n−Mと、分配結合器(HYB)404−nと、相関算出回路405−nと、位相シフト制御回路406−nと、ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mと、A/D変換器425−n−1〜425−n−Mとを備える。移相器402−n−1〜402−n−Mはそれぞれ、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mと接続される。D/A変換器122−1〜122−N、アップコンバータ123−1〜123−N、ダウンコンバータ124−1〜124−N、A/D変換器125−1〜125−Nにはそれぞれ、図26及び図27に示すD/A変換器922−1−1〜922−N−M、アップコンバータ923−1−1〜923−N−M、ダウンコンバータ924−1−1〜924−N−M、A/D変換器925−1−1〜925−N−Mと同様のものを用いることができる。
ここで、ダウンコンバータ424−1−1〜424−N−Mでは、無線周波数の信号とベースバンドの信号の間の周波数変換を行うために、ローカル発振器からの信号の入力が必要となる。つまり、同じ送受信信号処理回路451−n(n=1,…,N)におけるダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mの組み合わせには共通のローカル信号を利用し、各ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mにおける複素位相の相対的関係の時間変化を抑える必要がある。この意味では、実質的にはダウンコンバータ424−1−1〜424−N−Mの外部にローカル発振器が存在する構成を取るが、記述が煩雑になるためにここでは簡易な記述として外部のローカル発振器の明記は省略する。なお、同一のnのダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mの間では用いるローカル発振器は共用化する必要があるが、nの値が異なるダウンコンバータ424−n’−1〜424−n’−Mとの組み合わせにおいては用いるローカル発振器は共用化する必要はない。また、これらのローカル発振器は、アップコンバータ123−1〜123−Nとダウンコンバータ124−1〜124−Nとの間で共用化する必要もない。あくまでも、指向性形成を協調して実施する信号系列間でのローカル信号の共通化のみが重要である。
ここでNは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、無線局装置450は、送受信信号処理回路451−1〜451−Nを全体でN系統分だけ実装している。またMは、各送受信信号処理回路451−1〜451−Nのそれぞれに実装されるサブアレーのアンテナ素子数を表している。図25の説明では全アンテナ素子数をM0としていたが、図26の場合と同様にここではアンテナ全体をサブアレー構成としているので個々のサブアレーのアンテナ素子数は異なる値Mと標記した。送受信信号処理回路451−nのそれぞれにはサブアレーのアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mが付随しており、送受信信号処理回路451−1〜451−Nは、非特許文献2の様に空間的に離して設置することが想定される。また、ベースバンド信号処理回路140は、それぞれの送受信信号処理回路451−1〜451−Nに有線接続され、この有線上でデジタル・ベースバンド信号が転送される。また、図25では図示を省略していたが、無線局装置450は、全体の制御回路460を備える。同図では、無線局装置450が、制御回路460をベースバンド信号処理回路140上に実装する例を示している。この制御回路460は、フレーム周期や送受信タイミングを管理し、TDDスイッチ127−1〜127−Nの切り替えも管理する。制御回路460は、TDDスイッチ127−n(n=1,…,N)により、分配結合器404−nを、アップコンバータ123−nと接続するか、ダウンコンバータ124−nと接続するかを時分割で切り替える。
さらに本実施形態では、基本的に送受信ウエイトに相当する可変移相器で行う複素位相回転量の推定処理をデジタル信号処理にて行い、実際の複素位相の回転処理はアナログ信号処理にて実現する。このため、変調器120−1〜120−N及び復調器130−1〜130−NではOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式の様に周波数軸上の信号処理を前提とする場合でも、SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)の様に時間軸上での信号処理を前提とする場合でも、どちらの方式に対しても対応可能である。ただし、信号分離回路141では各信号系列間の信号分離を行うが、ここでは時間軸での信号分離を行うことも可能であるし、一旦、FFTにより周波数軸の信号に変換し、周波数軸で周波数依存性のある信号分離を実施しても構わない。この意味で、復調器130−1〜130−Nへの入力は、時間軸の信号である場合と周波数軸の信号である場合が想定されるが、ここでは簡単のために時間軸での信号を入力するものとして説明する。この様に、OFDM変調方式やSC−FDEなどの通信方式のバリエーションに関する考え方は、以降の説明でも同様である。
具体的な信号の流れは以下の通りである。
まず信号の送信について説明する。無線局装置450は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが分配結合器404−nと移相器402−n−1〜402−n−Mとを接続し、TDDスイッチ127−nがアップコンバータ123−nと分配結合器404−nとを接続した状態で信号の送信を行う(n=1,…,N)。
変調器120−1〜120−Nはそれぞれ、空間多重を行う各ストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号を生成し、送受信信号処理回路451−1〜451−Nに入力する。送受信信号処理回路451−n(n=1,…,N)には、変調器120−nが生成した時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号が入力される。送受信信号処理回路451−n(n=1,…,N)のD/A変換器122−nは、変調器120−nから入力された送信信号を、アナログ・ベースバンド信号に変換し、アップコンバータ123−nに入力する。アップコンバータ123−nは、D/A変換器122−nから入力された信号を、ベースバンド信号から無線周波数帯の信号に変換し、TDDスイッチ127−nに入力する。TDDスイッチ127−nは、アップコンバータ123−nから入力された信号を、分配結合器404−nに入力する。
分配結合器404−nは、TDDスイッチ127−nから入力されたアナログ信号をM系統のアナログ信号に分岐する。分岐されたアナログ信号は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介して移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mは、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加える。例えば、移相器402−n−1〜402−n−Mは、アナログ信号形式の無線周波数帯の信号に対して所定量の複素位相回転を加える。移相器402−n−1〜402−n−Mにより複素位相回転が加えられたアナログ信号はそれぞれ、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mを介して送信される。送信信号は、移相器402−n−1〜402−n−Mにおける複素位相回転により、所定の指向性形成がなされている。例えば、アンテナ素子401−1−1〜401−1−Mとアンテナ素子401−N−1〜401−N−Mでは個別の指向性形成がなされており、その指向性方向にある無線局装置と通信を行う。
次に信号の受信について説明する。無線局装置450は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが移相器402−n−1〜402−n−Mと分配結合器404−nとを接続し、TDDスイッチ127−nが分配結合器404−nとダウンコンバータ124−nとを接続した状態で信号の受信を行う(n=1,…,N)。
アンテナ素子401−n−1〜401−n−M(n=1,…,N)が受信した信号はそれぞれ、移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介して分配結合器404−nに入力する。分配結合器404−nは、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介して入力された各アンテナ系統の信号をアナログ信号上で合成し、合成した信号をTDDスイッチ127−nを介してダウンコンバータ124−nに入力する。ダウンコンバータ124−nは、TDDスイッチ127−nを介して入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器125−nに入力する。A/D変換器125−nは、ダウンコンバータ124−nから入力された信号を、アナログ・ベースバンド信号からデジタル・ベースバンド信号に変換し、信号分離回路141に入力する。
信号分離回路141は、各ストリーム間のクロストーク成分を抑圧して信号分離を行い、この分離された信号を対応する復調器130−1〜130−Nに入力する。信号分離回路141が行うクロストーク成分の抑圧は、時間軸上で実施することも可能であるし、一旦、FFT処理により周波数軸信号に変換して周波数軸上で実施することも可能である。クロストーク成分の抑圧を時間軸上で実施する場合には、まず、信号分離回路141に入力される信号系列間の相関を、受信したトレーニング信号に対応するデジタル・ベースバンド信号を基に算出する。そして、算出された相関により与えられるMIMO(Multiple Input Multiple Output)チャネル行列を基に、そのZF(Zero Forcing)型やMMSE(Maximum Mean Square Error)型の信号分離などの一般的なMIMO信号分離処理と同様の行列を算出し、この行列を信号分離回路141に入力される信号系列をベクトルと見なしてサンプリングデータ単位で乗算すればよい。これは、一般的な周波数軸上のZF型やMMSE型の信号分離などの一般的なMIMO信号分離処理では周波数成分毎に異なる行列を用いていたのに対し、周波数軸上でほぼ同一の行列を用いる場合には、サンプリングデータ単位で時間軸上で信号分離処理が可能であることに対応する。ないしは、送受信信号処理回路451−1〜451−Nで行う信号処理のみで済ませ、信号分離回路141では特に何も処理を行わなくてもよい。ただしいずれにしても、ここでの信号分離の方法の詳細は本実施形態の特徴に直接関係ないために省略する。復調器130−1〜130−Nは、信号分離回路141においてクロストーク成分が抑圧された信号を復調処理する。
次に、移相器402−1−1〜402−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理を説明する。この信号処理は、スイッチ403−n−1〜403−n−M(n=1,…,N)が移相器402−n−1〜402−n−Mとダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mとを接続した状態で行われる。これらのスイッチ切替は、制御回路460の指示のもと、相関算出回路405−1〜405−Nが管理する。なお、複素位相の回転量を算出するとき以外は、移相器402−n−1〜402−n−M(n=1,…,N)は、分配結合器404−nに接続される。また、複素位相の回転量の算出処理を行う際には、移相器402−1−1〜402−N−Mの位相回転量を所定の値に設定しておく。その後の処理で得られる複素位相の回転量は、当初の所定の値に対する差分として設定する。例えば、もっとも分かり易い例では、移相器402−1−1〜402−N−Mを全てゼロ(又はすべて同一の値)に設定してもよく、この場合は得られた複素位相の回転量の値をそのまま、その後の通信時の移相器402−1−1〜402−N−Mの位相回転量とすればよい。ないしは、移相器402−1−1〜402−N−Mの当初の所定の値が+10度、+20度、+30度、・・・であり、複素位相の回転量の算出値が+α度、+β度、+γ度、・・・であったとすれば、その後の通信時の移相器402−1−1〜402−N−Mの位相回転量を+(α+10)度、+(β+20)度、+(γ+30)度、・・・とすればよい。
実際の処理としては、まず、複素位相の回転量を取得すべき通信相手の無線局装置がチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、無線局装置450はこのトレーニング信号を受信する。アンテナ素子401−n−1〜401−n−M(n=1,…,N)が受信した信号はそれぞれ、移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介してダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mに入力する。ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mはそれぞれ、入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器425−n−1〜425−n−Mに入力する。A/D変換器425−n−1〜425−n−Mはそれぞれ、入力された信号を、アナログ信号からデジタル・ベースバンド信号に変換し、相関算出回路405−nに出力する。
相関算出回路405−1〜405−Nはそれぞれ、式(1)〜式(3)を用いて複素位相の回転量を算出する。また、相関算出回路405−1〜405−Nは必要に応じてキャリブレーション処理が必要な場合には、式(1)〜式(3)にキャリブレーション係数を考慮した値として送信側の複素位相の回転量を定める。相関算出回路405−n(n=1,…,N)が求めたこの複素位相の回転量は、通信する相手となる無線局装置の識別番号(複数の無線局装置と通信を行う場合。単一の無線局装置とP−P(ポイント・ツー・ポイント)型で通信を行う場合には識別番号は不要。)と共に、位相シフト制御回路406−n(n=1,…,N)に入力される。位相シフト制御回路406−nは、移相器402−n−1〜402−n−Mそれぞれに設定すべき複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けてメモリに記憶するなどして管理する。
なお、実際のデータ通信を行う際、すなわち送信処理ないし受信処理を行う際には、制御回路460が通信相手となる無線局装置を把握し、位相シフト制御回路406−n(n=1,…,N)に対して、通信を行う無線局装置に対応した複素位相の回転量を移相器402−n−1〜402−n−Mに設定するよう指示する。位相シフト制御回路406−nは、通信を行う無線局装置に対応した複素位相の回転量をメモリから読み出すなどして取得し、この複素位相の回転量を移相器402−n−1〜402−n−Mに設定してアナログ上のビームフォーミングを実現する。
なお、同図においては明記していないが、例えば送信側のハイパワーアンプ(HPA)等を配置するとすれば、図中の「A」と記述された点に配置し、受信側のローノイズアンプ(LNA)等を配置するとすれば、図中の「B」及び「C1−1」〜「CN−M」と記述された点に配置する。「A」及び「B」と記述された点に関しては、同一の送受信信号処理回路451−1〜451−N内では共通化されているので個別のハイパワーアンプ及びローノイズアンプの複素位相の不確定性を除去するキャリブレーション処理は不要である。
一方、「C1−1」〜「CN−M」と記述された点のローノイズアンプに関しては、複素位相の回転量が時間的に変動し得る場合には、同一の送受信信号処理回路451−1〜451−N内の各アンテナ素子401−1−1〜401−N−M間での複素位相の不確定性の原因となり得るために、従来技術のインプリシットフィードバックのキャリブレーション手法と同様に、各系統のローノイズアンプの複素位相の不確定性は除去する必要がある。なお、本実施形態は任意の手法に対して適用可能であり、キャリブレーション処理の具体的な方法は問わない。このキャリブレーション結果を考慮し、例えば「C1−1」、「C1−2」、「C1−3」それぞれでの複素位相の回転量が+10度、+20度、+30度であったとすると、式(1)〜式(3)で得られた複素位相の回転量に対し、−10度、−20度、−30度の補正をそれぞれ行い、位相回転量を調整する。なお、このキャリブレーション結果の情報はここでは図示していないキャリブレーション回路にて収集し、位相シフト制御回路406−1〜406−Nないしは相関算出回路405−1〜405−Nにてこの情報を用いて補正を実施する。
また、サブアレー構成とした送受信信号処理回路451−1〜451−Nは、物理的に離して設置することで、アナログ上で形成される指向性ビームの相関を低減可能であるため、一般的には所定以上の距離だけ離して設置する。
さらに、以下の全ての説明(その他の実施形態も含む)においても同様であるが、図1では、ベースバンド信号処理回路140と送受信信号処理回路451−1〜451−Nの間が有線接続され、この有線上でデジタル・ベースバンド信号を送受信する構成としているが、D/A変換器122−1〜122−N及びA/D変換器125−1〜125−Nをベースバンド信号処理回路140が実装する場合は、ベースバンド信号処理回路140と送受信信号処理回路451−1〜451−Nとの間の有線接続上で流れる信号を、アナログ・ベースバンド信号とすることも可能である。
次に、従来技術における図26に対する図27と同様に、本実施形態の無線局装置を、複数の指向性ビーム形成をひとつのアレーアンテナで実現する「サブアレー共用型」により構成することも可能である。この構成を図2に示す。
図2は、本実施形態における無線局装置452の構成例(サブアレー共用型)を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す無線局装置452は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路451−1〜451−Nと、分配結合器(HYB)407−1〜407−Mと、アンテナ素子401−1〜401−Mと、制御回路460とを備える。分配結合器(HYB)407−m(m=1,…,M)は、送受信信号処理回路451−1、451−2、…、451−Nそれぞれの移相器402−1−m、402−2−m、…、402−N−m、及び、アンテナ素子401−m(m=1,…,M)と接続される。
無線局装置452においても、図1に示す無線局装置450と同様に、ダウンコンバータ424−1−1〜424−N−Mが、無線周波数の信号とベースバンドの信号の間の周波数変換を行うために、ローカル発振器からの信号の入力が必要となる。各送受信信号処理回路451−1〜451−Nそれぞれにおけるダウンコンバータ424−n−1〜424−n−M(n=1,…,N)の各組み合わせには共通のローカル信号を利用し、各ダウンコンバータでの複素位相の相対的関係の時間変化を抑える必要がある。この意味では、実質的には送受信信号処理回路451−1〜451−Nの外部にローカル発振器が存在する構成を取るが、記述が煩雑になるためにここでは簡易な記述として外部のローカル発振器の明記は省略する。なお、各送受信信号処理回路451−1〜451−Nにおいて用いるローカル発振器を共用化する必要はない。また、これらのローカル発振器とアップコンバータ123−1〜123−N及びダウンコンバータ124−1〜124−Nとを共用化する必要もない。あくまでも、指向性形成を協調して実施する信号系列間でのローカル信号の共通化のみが重要である。ただし、図1の場合とは異なり、ダウンコンバータ424−1−1〜424−N−Mは全て同一の筐体に収まっているため、全てのローカル信号を共用化することも図2の場合には可能ではある。
先の説明と同様に、Nは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、Mは、共通化されているアレーアンテナのアンテナ素子数を表している。図1に示す無線局装置450では、送受信信号処理回路451−1〜451−Nが系統ごとに物理的に異なる筐体に実装されている。これに対し、図2に示す無線局装置452では、送受信信号処理回路451−1〜451−NのN系統が全てひとつの筐体に実装されている。さらに、無線局装置452では、送受信信号処理回路451−1〜451−Nが、分配結合器407−1〜407−Mを介してアンテナ素子401−1〜401−Mを共用している。ここで、図1に示す無線局装置450と図2に示す無線局装置452とでは、送受信信号処理回路451−1〜451−Nにおける内部処理は同一である。また、図2では、制御回路460がベースバンド信号処理回路140に実装されている場合を示しているが、無線局装置452内の任意の場所に実装され得る。制御回路460は、フレーム周期、送受信タイミング、TDDスイッチ127−1〜127−Nの切り替えを管理する。
以下は、図1に示す無線局装置450との差分に着目した、無線局装置452における具体的な信号の流れを示す。
まず信号の送信について説明する。無線局装置452は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが分配結合器404−nと移相器402−n−1〜402−n−Mとを接続し、TDDスイッチ127−nがアップコンバータ123−nと分配結合器404−nとを接続した状態で信号の送信を行う(n=1,…,N)。この点は、図1に示す無線局装置450と共通である。
変調器120−1〜120−Nはそれぞれで空間多重を行う各ストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号を生成し、それぞれを送受信信号処理回路451−1〜451−Nに入力する。図1に示す無線局装置450と同様の処理により、指向性形成のための処理がなされた無線周波数のアナログ信号が、移相器402−1−1〜402−N−Mから出力される。移相器402−1−1〜402−N−Mは、これらの各系統の信号を、対応するアンテナ素子401−1〜401−Mに接続された分配結合器407−1〜407−Mに入力する。すなわち、移相器402−1−m、402−2−m、…、402−N−m(m=1,…,M)は、分配結合器407−mに信号を入力する。分配結合器407−1〜407−Mはそれぞれ、入力された信号を合成し、合成された信号がアンテナ素子401−1〜401−Mを介して送信される。
次に信号の受信について説明する。無線局装置452は、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが移相器402−n−1〜402−n−Mと分配結合器404−nとを接続し、TDDスイッチ127−nが分配結合器404−nとダウンコンバータ124−nとを接続した状態で信号の受信を行う(n=1,…,N)。この点は、図1に示す無線局装置450と共通である。
アンテナ素子401−1〜401−Mが受信した信号はそれぞれ、分配結合器407−1〜407−Mに入力される。分配結合器407−m(m=1,…,M)は、入力された信号をN系統に分配し、移相器402−1−m、402−2−m、…、402−N−mに入力する。送受信信号処理回路451−1〜451−Nは、この様に移相器402−1−1〜402−N−Mに入力された信号に対し、図1に示す無線局装置450における信号処理と同様の信号処理を行い、信号分離回路141にデジタル・ベースバンド信号を入力する。信号分離回路141は、クロストーク成分を抑圧して信号分離を行い、復調器130−1〜130−Nは、分離された信号を復調処理する。
移相器402−1−1〜402−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理については、図1と図2とでは送受信信号処理回路451−1〜451−Nが実装される単位に相違はあるが、図1の送受信信号処理回路451−1〜451−Nにおける信号処理と図2の送受信信号処理回路451−1〜451−Nにおける信号処理は同一であるため、ここではその説明を省略する。
図3は、本実施形態における通信システムの構成例を示す図である。同図に示す通信システムは、図2に示す無線局装置452と、図1に示す無線局装置450とを有する。無線局装置450では、複数の送受信信号処理回路451−1〜451−Nのそれぞれがサブアレーとしてひとつのビームを形成する。これに対し、無線局装置452では(サブ)アレーが共通化されており、ひとつのアレーアンテナが複数のビームを形成する構成である。実際の運用では、図3に示す様に、無線局装置450が無線局装置452と対向することで、N系統の信号を空間多重することが可能になる。
次に、図4〜図6を用いて本実施形態の送受信信号処理回路の他の構成例を説明する。図4〜図6のそれぞれに示す送受信信号処理回路は、図1に示す無線局装置450又は図2に示す無線局装置452が備える送受信信号処理回路451−1〜451−Nと置き換えることができる。以下では、無線局装置450が備える送受信信号処理回路451−1〜451−Nと置き換える場合を例に説明する。なお、無線局装置452が備える送受信信号処理回路451−1〜451−Nと置き換える場合、図4〜図6におけるアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mは、アンテナ素子401−1〜401−Mとなる。
図4は、本実施形態における送受信信号処理回路453−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す送受信信号処理回路453−nは、D/A変換器122−nと、アップコンバータ(UC)123−nと、分配結合器414−nと、移相器409−n−1〜409−n−Mと、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mと、移相器402−n−1〜402−n−M と、スイッチ403−n−1〜403−n−Mと、分配結合器415−nと、ダウンコンバータ(DC)124−nと、A/D変換器125−nと、ダウンコンバータ(DC)424−n−1〜424−n−Mと、A/D変換器425−n−1〜425−n−Mと、相関算出回路405−nと、位相シフト制御回路406−nとを備える。TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mはそれぞれ、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mに接続される。なお、ここでも図1と同様に、外部のローカル発振器の明記は省略する。
送受信信号処理回路453−nと、図1または図2で示した送受信信号処理回路451−1〜451−Nとの差分は、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mがアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mの直近に配置され、その結果として送信系におけるアップコンバータ123−nからアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mまでの経路と、受信系におけるアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mからダウンコンバータ124−nまでの経路が物理的に分離されている点である。
図1又は図2に示す送受信信号処理回路451−nの場合には、例えば送信系のハイパワーアンプ(ないしはパワーアンプ)はアップコンバータ123−nの後段の「A」と記述された場所に配置され、受信系のローノイズアンプはダウンコンバータ124−nの前段の「B」と記述された場所(さらにはダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mの前段の「Cn−1」、「Cn−2」、…、「Cn−M」と記述された場所)に配置され、TDDスイッチ127−nからアンテナ端までの回路を送受で共用可能としている。この点が送受信信号処理回路453−nとは大きく異なっている。図4の様な構成を取るメリットは、ハイパワーアンプやローノイズアンプをアンテナ素子数分だけ実装することが可能になり、この結果としての総送信電力が向上し、図1や図2におけるTDDスイッチ127−nからアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mまでの間における様々な回路の挿入損失並びに分配及び結合損失の影響を抑えることが可能になる点である。このため、ここでは図示していないが、送受信信号処理回路453−nにおいては、「D1」、「D2」、…、「DM」と記載された場所にハイパワーアンプが、「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された場所にローノイズアンプが配置されることが好ましい。この場合には、それぞれのハイパワーアンプ、ローノイズアンプの複素位相の不確定性を除去するためのキャリブレーション処理が必要となる。しかし、「A」と記載された場所にハイパワーアンプが、「B」と記載された点の場所にローノイズアンプが配置されれば、必ずしも「D1」、「D2」、…、「DM」と記載された場所及び「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された場所のそれぞれにハイパワーアンプ、ローノイズアンプが配置される必然性はない。
以下は、上記の差分に着目した送受信信号処理回路453−nにおける具体的な信号の流れを示す。
まず信号の送信について説明する。送受信信号処理回路453−nは、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mがアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mと移相器409−n−1〜409−n−Mとをそれぞれ接続した状態で信号の送信を行う。
送受信信号処理回路453−nには、ここには図示されていない変調器120−nからひとつのストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号が入力される。D/A変換器122−nは、入力された送信信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、アップコンバータ123−nに入力する。アップコンバータ123−nは、D/A変換器122−nから入力されたアナログ・ベースバンド信号を無線周波数帯の信号に変換し、分配結合器414−nに入力する。
分配結合器414−nは、アップコンバータ123−nから入力された無線周波数帯のアナログ信号をM系統のアナログ信号に分岐し、移相器409−n−1〜409−n−Mに入力する。移相器409−n−1〜409−n−Mはそれぞれ、分配結合器414−nから入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mを介してアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mに入力する。アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mは、入力された送信信号を送信する。送信信号は、移相器409−n−1〜409−n−Mにおける複素位相回転により、所定の指向性形成がなされている。
次に信号の受信について説明する。送受信信号処理回路453−nは、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mがアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mと移相器402−n−1〜402−n−Mとを接続し、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが移相器402−n−1〜402−n−Mと分配結合器415−nとを接続した状態で信号の受信を行う。
アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mが受信した信号はそれぞれ、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mを介して移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mのそれぞれは、入力された信号に対して、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介して分配結合器415−nに入力する。分配結合器415−nは、各アンテナ系統の信号をアナログ信号上で合成し、ダウンコンバータ124−nに入力する。ダウンコンバータ124−nは、無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器125−nに入力する。A/D変換器125−nは、入力されたアナログ・ベースバンド信号をデジタル・ベースバンド信号に変換する。A/D変換器125−nは、変換されたデジタル・ベースバンド信号を、ここには図示されていないベースバンド信号処理回路140内の信号分離回路141に入力する。ベースバンド信号処理回路140は、後続する信号処理を行う。
次に、移相器402−1−1〜402−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理を説明する。送受信信号処理回路453−nは、この信号処理を、スイッチ403−n−1〜403−n−Mが移相器402−n−1〜402−n−Mとダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mとをそれぞれ接続した状態で行う。これらのスイッチ切替は、制御回路460の指示のもと、相関算出回路405−1〜405−Nが管理する。なお、複素位相の回転量を算出するとき以外は、移相器402−n−1〜402−n−Mは、分配結合器415−nに接続される。また、複素位相の回転量の算出処理を行う際には、移相器402−1−1〜402−N−Mの位相回転量を所定の値に設定しておく。その後の処理で得られる複素位相の回転量は、上述の説明と同様に、当初の所定の値に対する差分として設定する。送受信信号処理回路453−1〜453−Nは、制御回路460の管理の基、一斉に同様の処理を行う。
実際の処理としては、まず、複素位相の回転量を取得すべき通信相手の無線局装置がチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、送受信信号処理回路453−1〜453−Nを備える無線局装置は、このトレーニング信号を受信する。アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mが受信した信号はそれぞれ、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mを介して移相器402−n−1〜402−n−Mに入力される。移相器402−n−1〜402−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ403−n−1〜403−n−Mを介してダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mに入力する。ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−Mはそれぞれ、入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器425−n−1〜425−n−Mに入力する。A/D変換器425−n−1〜425−n−Mはそれぞれ、入力された信号を、アナログ信号からデジタル・ベースバンド信号に変換し、相関算出回路405−nに出力する。
相関算出回路405−nは、図1における説明と同様に、複素位相の回転量を算出する。相関算出回路405−nが求めた複素位相の回転量は、通信する相手となる無線局装置の識別番号と共に、位相シフト制御回路406−nに入力される。位相シフト制御回路406−nは、移相器402−n−1〜402−n−Mそれぞれに設定すべき複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けてメモリに記憶するなどして管理する。
また、上記の複素位相の回転量は受信系における移相器402−n−1〜402−n−Mの位相回転量に関するものであるが、ローノイズアンプ及びハイパワーアンプなどにおける複素位相回転量の個体差をキャンセルするため、相関算出回路405−nは、従来技術のインプリシットフィードバックにおけるキャリブレーション処理を施し、受信系における複素位相の回転量を基にキャリブレーション処理に相当する補正により送信系における複素位相の回転量を換算し、移相器409−n−1〜409−n−Mに設定する値とする。ただし、「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された場所にローノイズアンプを配置する場合には、十分な受信レベルが得られるので「C1」、「C2」、…、「CM」と記載された場所にはローノイズアンプは不要であるため、受信系の各ローノイズアンプにおける複素位相の回転は空間上での複素位相の回転と区別する必要はなく、受信系の移相器402−n−1〜402−n−Mに設定する複素位相の回転量は、相関算出回路405−nが算出した複素位相の回転量をそのまま用いることが可能である。なお、位相シフト制御回路406−nは、移相器402−n−1〜402−n−M及び移相器409−n−1〜409−n−Mのそれぞれに設定すべき送信系における複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けて同様にメモリに記憶するなどして管理する。
なお、実際のデータ通信を行う際、すなわち送信処理ないし受信処理を行う際には、制御回路460が通信相手となる無線局装置を把握し、位相シフト制御回路406−nに対して、通信を行う無線局装置に対応する複素位相の回転量を、移相器402−n−1〜402−n−M及び移相器409−n−1〜409−n−Mに設定するよう指示する。位相シフト制御回路406−nは、通信を行う無線局装置に対応した受信系及び送信系のそれぞれにおける複素位相の回転量をメモリから読み出すなどして取得する。位相シフト制御回路406−nは、この受信系の複素位相の回転量を移相器402−n−1〜402−n−Mに設定し、送信系の複素位相の回転量を移相器409−n−1〜409−n−Mに設定してアナログ上のビームフォーミングを実現する。
図5は、本実施形態における送受信信号処理回路454−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す送受信信号処理回路454−nと、図4に示す送受信信号処理回路453−nとの差分は以下の点である。すなわち、図4に示す送受信信号処理回路453−nはアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mを送受信で共用していた。一方、図5に示す送受信信号処理回路454−nは、これらを送信と受信で分離した上で、送受信でペアを組み、近接した場所に送受信アンテナをセットで配置する構成としている。したがって、無線局装置450の送受信信号処理回路451−nを送受信信号処理回路454−nに置き換える場合は、アンテナ素子441−n−1〜441−n−Mが追加され、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mは省略される。なお、無線局装置452の送受信信号処理回路451−nを送受信信号処理回路454−nに置き換える場合は、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mに代えて、送受信信号処理回路454−1〜454−Nで共用するアンテナ素子401−1〜401−M及びアンテナ素子441−1〜441−M(及びアンテナ素子401−1〜401−M、アンテナ素子441−1〜441−Mに対応した分配結合器)で構成される。
図4の説明では便宜上、アンテナ素子の直近までを送受信信号処理回路453−nと見なして説明をしていたが、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mをアンテナ素子側の機能と見なせば、図4と図5は全く等価な図である。信号処理の詳細においても、受信系においては図4に示す送受信信号処理回路453−nでは、アンテナ素子401−n−1〜401−n−Mが信号を受信していたのに対し、図5に示す送受信信号処理回路454−nではアンテナ素子441−n−1〜441−n−Mを用いて受信する点、及び、送受信においてTDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mを経由しない点を除けば、図5に示す送受信信号処理回路454−nと、図4に示す送受信信号処理回路453−nにおける全ての信号処理は共通である。
ただし、送受信アンテナが物理的に異なる点を考慮し、単なるキャリブレーション処理に加えて、物理的にアンテナ素子の座標が異なることを考慮した補正を加えることも可能である。なお、上述の説明では近接した場所に送受信アンテナをセットで配置する構成として説明したが、この物理的にアンテナ素子の座標が異なることを考慮した補正を行う限りにおいては、必ずしも送受信アンテナをセットで配置する必要はない。
図6は、本実施形態における送受信信号処理回路455−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
図6に示す送受信信号処理回路455−nにおいても、図5に示す送受信信号処理回路454−nと同様に、TDDスイッチ408−n−1〜408−n−Mをアンテナ素子側の機能と見なせば、図6も図4と全く等価な図である。この意味で図6に示す送受信信号処理回路455−nにおいても、図5に示す送受信信号処理回路454−nと同様に、送信用のアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mと受信用のアンテナ素子441−n−1〜441−n−Mとを分離した構成となっている。ただし、図5に示す送受信信号処理回路454−nでは、個別の送受信アンテナ素子のペア(例えばアンテナ素子401−n−1とアンテナ素子441−n−1のペア等)が一体として近傍に配置される構成に対し、図6に示す送受信信号処理回路455−nでは送信用のアンテナ素子401−n−1〜401−n−Mはそれらでひとつの送信アンテナアレーを構成し、受信用のアンテナ素子441−n−1〜441−n−Mはそれらでひとつの受信アンテナアレーを構成する構成を想定している。従って、物理的なアンテナ素子の配置(ないしはアンテナ素子とを結ぶ配線上の幾何学的違い)以外は、図5と図6では差がない。
さらには送受信アンテナを分離して運用する場合に、送信アンテナから受信アンテナへの信号の漏れ込を避けるために、壁状の障害物を配置しても良い。
以上説明したように、本実施形態によれば、無線局装置は、指向性制御を行うための複素位相の回転量を算出する際にのみアンテナ素子毎のA/D変換器を利用する。そして、無線局装置は、実際の信号送信時には、デジタルビームフォーミングの代わりに移相器を用いたアナログビームフォーミングで代用する。一方、信号受信時には、無線局装置は、スイッチを用いて、受信アンテナからの信号の出力先を、トレーニング信号の受信時にはA/D変換器に、信号合成して復調処理を行うときには受信回路に切り替える。これにより、Massive MIMOにおいて、デジタルビームフォーミングを行うときに従来では定常的に必要としていたA/D変換器及びD/A変換器の数を大幅に低減することができる。よって、通信時において定常的に多数のA/D変換器及びD/A変換器が動作し続ける状況を回避し、特に広帯域の通信時にかかっていた膨大なA/D変換器及びD/A変換器の消費電力を低減するとともに発熱量も低減することが可能となる。さらには、A/D変換器及びD/A変換器に、発熱のために必要としていた大がかりな放熱板が不要となるため、低消費電力化だけでなく、無線局装置の小型化を図ることが可能となり、コストの低減も可能となる。
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、全ての(送)受信アンテナに対して個別のダウンコンバータとA/D変換器を実装していたが、これらの回路はチャネル推定の際にしか利用しない。これが全体の消費電力を低減し、発熱量を抑えるために有効に働くが、装置の小型経済化的な観点からは、一時的にしか利用しない回路を膨大な数のアンテナ素子数だけ実装するのは非効率である。特に、広帯域故に超高速な動作となるA/D変換器は一つ当たりの価格も高価になりがちで、装置全体の価格の高騰に繋がりかねない。第2の実施形態では、これらのダウンコンバータ、A/D変換器等を1系統に集約するための構成を示す。
図7は、本実施形態における無線局装置550の構成例(サブアレー分離型)を示す機能ブロック図である。第1の実施形態と同様に第2の実施形態においても、第1の実施形態における図1と図2に対応するように、指向性ビームを複数のサブアレーに分離して形成する「サブアレー分離型」による構成と、ひとつのアレーで複数の指向性ビームを実現する「サブアレー共用型」(厳密には、サブアレーに分離していないので、「一体型アレー」と理解してもよい)による構成のバリエーションが存在する。図7では、「サブアレー分離型」について説明を行う。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す無線局装置550は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路551−1〜551−N(Nは1以上の整数)と、制御回路560とを備える。送受信信号処理回路551−n(n=1,…,N)は、D/A変換器122−nと、アップコンバータ123−nと、ダウンコンバータ124−nと、A/D変換器125−nと、TDDスイッチ127−nと、移相器502−n−1〜502−n−Mと、スイッチ503−n−1〜503−n−Mと、分配結合器504−nと、相関算出回路505−nと、位相シフト制御回路506−nとを備える。移相器502−n−1〜502−n−Mはそれぞれ、アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mと接続される。
図1に示す無線局装置450と同様に、Nは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、無線局装置550は、送受信信号処理回路551−1〜551−Nを全体でN系統分だけ実装している。また、無線局装置450と同様に、Mは、各送受信信号処理回路551−1〜551−Nのそれぞれに実装されるサブアレーのアンテナ素子数を表している。送受信信号処理回路551−nのそれぞれにサブアレーのアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mが付随しており、送受信信号処理回路551−1〜551−Nは、非特許文献2の様に空間的に離して設置することが想定されている。また、ベースバンド信号処理回路140は、それぞれの送受信信号処理回路551−1〜551−Nに有線接続され、この有線上でデジタル・ベースバンド信号が転送される。また、図25では図示を省略していたが、無線局装置550が全体の制御回路560をベースバンド信号処理回路140上に実装する例を示している。制御回路560は、フレーム周期や送受信タイミングを管理し、TDDスイッチ127−1〜127−Nの切り替えも管理する。制御回路560は、TDDスイッチ127−n(n=1,…,N)により、分配結合器504−nを、アップコンバータ123−nと接続するか、ダウンコンバータ124−nと接続するかを時分割で切り替える。また、制御回路560は、相関算出回路505−n(n=1,…,N)にスイッチ503−n−1〜503−n−Mの制御を指示する。
さらに本実施形態では、基本的に送受信ウエイトに相当する移相器で行う複素位相回転量算出処理をデジタル信号処理的に行い、実際の複素位相の回転処理はアナログ信号処理にて実現する。このため、変調器120−1〜120−N及び復調器130−1〜130−NではOFDM変調方式の様に周波数軸上の信号処理を前提とする場合でも、SC−FDEの様に時間軸上での信号処理を前提とする場合でも、どちらの方式に対しても対応可能であり、OFDM変調方式やSC−FDEなどの通信方式のバリエーションに関する考え方は、上述の第1の実施形態の説明と同様である。
また、アップコンバータ123−1〜123−N及びダウンコンバータ124−1〜124−Nでは、無線周波数の信号とベースバンドの信号の間の周波数変換を行うために、ローカル発振器からの信号の入力が必要となるが、各送受信信号処理回路551−1〜551−N間では協調した信号処理は想定していないので、必ずしも共通のローカル発振器を利用する必要はない。なお、記述が煩雑になるためにここでは簡易な記述として外部のローカル発振器の明記は省略する。また以降の説明では省略するが、付加的機能として各送受信信号処理回路551−1〜551−N間で協調した信号処理を行うことも当然可能であるが、この場合にはローカル発振器の共通化を行っても構わない。
無線局装置550における具体的な信号の流れは以下の通りである。
まず信号の送信について説明する。無線局装置550は、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを全てON(分配結合器504−nとの接続状態)とし、TDDスイッチ127−nがアップコンバータ123−n−1〜123−n−Nと分配結合器504−nとを接続した状態で信号の送信を行う(n=1,…,N)。全ての送受信信号処理回路551−1〜551−Nでこれらの条件は同じである。
変調器120−1〜120−Nがそれぞれ、空間多重を行う各ストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号を生成し、送受信信号処理回路551−1〜551−Nに入力してから、送受信信号処理回路551−n(n=1,…,N)のアップコンバータ123−nが、無線周波数帯の信号を後段に入力するまでの処理は、図1に示す無線局装置450と同様である。アップコンバータ123−nは、TDDスイッチ127−nを介して信号を分配結合器504−nに入力する。
分配結合器504−nは、TDDスイッチ127−nから入力したアナログ信号を、M系統のアナログ信号に分岐し、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを介して移相器502−n−1〜502−n−Mに入力する。移相器502−n−1〜502−n−Mのそれぞれは、入力された信号に対して、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加える。移相器502−n−1〜502−n−Mにより複素位相回転が加えられたアナログ信号はそれぞれ、アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mを介して送信される。送信信号は、移相器502−n−1〜502−n−Mにおける複素位相回転により、所定の指向性形成がなされており、その指向性の先の無線局装置と通信を行う。
以上の説明はN系統実装される送受信信号処理回路551−1〜551−Nに共通の信号処理であり、共通のクロックで動作する等概ね同期関係を維持しながら、並列的に同様の処理を実施する。
次に受信に関する信号の流れを説明する。無線局装置550は、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを全てON(分配結合器504−nとの接続状態)とし、TDDスイッチ127−nが分配結合器504−nとダウンコンバータ124−nとを接続した状態で信号の受信を行う(n=1,…,N)。全ての送受信信号処理回路551−1〜551−Nでこれらの条件は同じである。
アンテナ素子501−n−1〜501−n−M(n=1,…,N)が受信した信号はそれぞれ、移相器502−n−1〜502−n−Mに入力される。移相器502−n−1〜502−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを介して分配結合器504−nに入力する。分配結合器504−nは、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを介して入力された各アンテナ系統の信号をアナログ信号上で合成し、合成した信号をTDDスイッチ127−nを介してダウンコンバータ124−nに入力する。以降の処理は、図1に示す無線局装置450と同様である。
移相器502−n−1〜502−n−Mのそれぞれが、アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mを介して受信した信号に対して、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、それらが合成されることで所定の指向性形成がなされており、その指向性の先の無線局装置と通信を行う。以上の説明はN系統実装される送受信信号処理回路551−1〜551−Nに共通の信号処理であり、共通のクロックで動作する等概ね同期関係を維持しながら、並列的に同様の処理を実施する。
なお、信号分離回路141は、各送受信信号処理回路551−1〜551−Nから入力された信号に対し、図1に示す無線局装置450と同様の処理を行い、上述の指向性形成では除去しきれない無線局装置間のクロストーク成分の抑圧処理を行う。信号分離回路141が行うクロストーク成分の抑圧は、時間軸上で実施することも可能であるし、一旦、FFT処理により周波数軸信号に変換して周波数軸上で実施することも可能である。ないしは、送受信信号処理回路551−1〜551−Nで行う指向性形成の信号処理のみで済ませ、信号分離回路141では特に何も処理を行わなくてもよい(この場合には、信号分離回路141は省略可能である)。ただしいずれにしても、ここでの信号分離の方法の詳細は本実施形態には直接関係なく、従来のMIMO信号処理の技術を用いて実施することが可能であるため、ここでは説明を省略する。
次に、移相器502−1−1〜502−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理を説明する。この信号処理は、スイッチ503−n−1〜503−n−M(n=1,…,N)のいずれかひとつが移相器502−n−1〜502−n−Mとダウンコンバータ124−nとを接続(ON)する一方、残りのスイッチはダウンコンバータ124−nとの接続を切った状態(OFF)状態で行われる。スイッチ503−n−1〜503−n−M(n=1,…,N)のうちダウンコンバータ124−nに接続する(ONにする)対象は順に切り替える。これらのスイッチ切替は、制御回路560の指示のもと、相関算出回路505−1〜505−Nが管理する。なお、ここで説明している複素位相の回転量を算出するとき以外の通常運用時は、上述のように移相器502−n−1〜502−n−M(n=1,…,N)は全て、分配結合器504−nに接続される。また、複素位相の回転量の算出処理を行う際には移相器502−1−1〜502−N−Mの位相回転量を所定の値に設定しておく。その後の処理で得られる複素位相の回転量は、当初の所定の値に対する差分として設定する。例えば、もっとも分かり易い例では、移相器502−1−1〜502−N−Mを全てゼロ(又はすべて同一の値)に設定してもよく、この場合は得られた複素位相の回転量の値をそのまま、その後の通信時の移相器502−1−1〜502−N−Mの位相回転量とすればよい。ないしは、移相器502−1−1〜502−N−Mの当初の所定の値が+10度、+20度、+30度、・・・であり、複素位相の回転量の算出値が+α度、+β度、+γ度、・・・であったとすれば、その後の通信時の移相器502−1−1〜502−N−Mの位相回転量を+(α+10)度、+(β+20)度、+(γ+30)度、・・・とすればよい。
実際の処理としては、まず、複素位相の回転量を取得すべき通信相手の無線局装置がチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、無線局装置550はこのトレーニング信号を受信する。アンテナ素子501−n−1〜501−n−M(n=1,…,N)が受信した信号はそれぞれ、移相器502−n−1〜502−n−Mに入力される。移相器502−n−1〜502−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを介して分配結合器504−nに入力する。ここで、スイッチ503−n−1〜503−n−Mでは、ひとつを除いてすべてがOFFとなっているため、実効的には分配結合器504−nにおいて合成された信号は、スイッチ503−n−1〜503−n−Mの中で唯一、スイッチが接続(ON)されている系統のアンテナで受信された信号のみが出力されたことになる。すなわち、スイッチ503−n−1〜503−n−Mと分配結合器504−nでは、これ全体で、アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mのアンテナ群の中から、ひとつのアンテナ素子501−n−k(kは1以上M以下の整数のいずれか)を抽出する処理を実施することになる。なお、kが1からMまでのいずれかの値をとるように所定の周期で切り変わる。この様にして選択されたアンテナ素子501−n−kの受信信号は、TDDスイッチ127−nを介してダウンコンバータ124−nに入力される。ダウンコンバータ124−nは、入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器125−nに入力する。A/D変換器125−nは、入力されたアナログ・ベースバンド信号をデジタル・ベースバンド信号に変換し、相関算出回路505−nに入力する。
相関算出回路505−1〜505−Nはそれぞれ、切り替えながら全てのスイッチからの信号を受信し終わるまで、連続的にデジタル・ベースバンド信号を記録する。つまり、相関算出回路505−nは、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを切り替えながら、スイッチ503−n−1〜503−n−Mの全てのスイッチからデジタル・ベースバンド信号を受信し、記録する。相関算出回路505−nは、この記録されたデジタル・ベースバンド信号に対し、トレーニング信号の周期性(例えば、2048サンプル周期で同一内容のトレーニング信号が繰り返されるなどの周期性)を考慮し、当該周期におけるサンプリングタイミングが対応するように、各アンテナ素子501−n−kのサンプリングデータを抽出し、第1の実施形態の相関算出回路405−1〜405−Nと同様に、式(1)〜式(3)を用いて、移相器502−n−1〜502−n−Mそれぞれに設定すべき複素位相の回転量を算出する。なおこれは、無線局装置が高所に固定設置され且つ見通し環境であれば、チャネルの時変動は無視可能であることを利用している。さらに、必要に応じてキャリブレーション処理が必要な場合には、相関算出回路505−1〜505−Nは、第1の実施形態の相関算出回路405−1〜405−Nと同様に、式(1)〜式(3)にキャリブレーション係数を考慮した値として送信側の複素位相の回転量を定める。
第1の実施形態では、同時に各アンテナ素子401−n−kのサンプリングデータを取得できたが、第2の実施形態では、時間的に異なるタイミングでサンプリングを行っているので、トレーニング信号の周期性から等価的に同一時刻にサンプリングしたものと見なせるように工夫している。この際、送信側と受信側で周波数誤差が無視できない場合には、トレーニング信号の周期性だけでは等価的に同一時刻にサンプリングと見なせない場合があり、この様な場合には周波数誤差の補正を行っても構わない。例えば、ひとつのスイッチ503−n−kが継続的にONとなっている間のトレーニング信号のサンプリングデータSk(n)に対し、トレーニング信号がNFFTサンプルの周期性をもつとし、NTest周期分のサンプリングデータが確保できたとする。仮に周波数誤差がΔfであるとすると、様々なΔf’に対し以下の式(6)のQ値を最大とするΔf’を求めることで、Δfを推定することが可能である。
ここではスイッチ503−n−kの情報だけに着目したが、各スイッチ503−n−kのサンプリングデータに対してΔfを求め、それを平均化して扱っても構わない。この様にしてΔfを推定したら、サンプリングデータSk(n’)に対し、以下の式(7)に示す補正を行うことで周波数誤差の影響を除去することが可能となる。
なお、ここでのn’はスイッチ切り替えに関係なく、スイッチ503−n−1からスイッチ503−n−1へと切り替える間で連続した通し番号を意味している。サンプリング周期×n’の時間の間に2πjΔfn’だけの位相が回転するので、その回転を逆補正していることになる。
この様にして相関算出回路505−n(n=1,…,N)が求めた複素位相の回転量は、通信する相手となる無線局装置の識別番号(複数の無線局装置と通信を行う場合。第1の実施形態と同様に、単一の無線局装置とP−P型で通信を行う場合には識別番号は不要。)と共に、位相シフト制御回路506−nに入力される。位相シフト制御回路506−nは、移相器502−n−1〜502−n−Mそれぞれに設定すべき複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けてメモリに記憶するなどして管理する。
なお、実際のデータ通信を行う際、すなわち送信処理ないし受信処理を行う際には、制御回路560が通信相手となる無線局装置を把握し、位相シフト制御回路506−n(n=1,…,N)に対して、通信を行う無線局装置に対応した複素位相の回転量を移相器502−n−1〜502−n−Mに設定するよう指示する。位相シフト制御回路506−nは、通信を行う無線局装置に対応した複素位相の回転量をメモリから読み出すなどして取得し、この複素位相の回転量を移相器502−n−1〜502−n−Mに設定してアナログ上のビームフォーミングを実現する。
なお、同図においては明記していないが、例えば送信側のハイパワーアンプ(HPA)等を配置するとすれば、図中の「A」と記述された点に配置し、受信側のローノイズアンプ(LNA)等を配置するとすれば、図中の「B」と記述された点に配置する。「A」及び「B」と記述された点に関しては、同一の送受信信号処理回路551−1〜551−N内では、同一のnに対してアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mに対し共通化されているので、各送受信信号処理回路551−1〜551−N間で協調した伝送を基本的には想定していない本実施形態においては、個別のハイパワーアンプ及びローノイズアンプの複素位相の不確定性を除去するキャリブレーション処理は不要である。
また、サブアレー構成とした送受信信号処理回路551−1〜551−Nは、物理的に離して設置することで、アナログ上で形成される指向性ビームの相関を低減可能であるため、一般的には所定以上の距離だけ離して設置する。
次に、第1の実施形態における図1に対する図2と同様に、本実施形態の無線局装置を、複数の指向性ビーム形成をひとつのアレーアンテナで実現する「サブアレー共用型」により構成することも可能である。この構成を図8に示す。
図8は、本実施形態における無線局装置552の構成例(サブアレー共用型)を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す無線局装置552は、ベースバンド信号処理回路140と、送受信信号処理回路551−1〜551−Nと、分配結合器(HYB)507−1〜507−Mと、アンテナ素子501−1〜501−Mと、制御回路560とを備える。分配結合器(HYB)507−m(m=1,…,M)は、送受信信号処理回路551−1、551−2、…、551−Nそれぞれの移相器502−1−m、502−2−m、…、502−N−m、及び、アンテナ素子501−mと接続される。
無線局装置552においても、図7に示す無線局装置550と同様に、Nは空間多重を行う際の多重数(ストリーム数)に相当し、送受信信号処理回路551−1〜551−Nは全体でN系統分だけ実装されている。またMは、無線局装置552に実装されるサブアレーのアンテナ素子数を表している。図7に示す無線局装置550では各サブアレーのアンテナ素子数をMとしていたのでアンテナ総数はN×Mであるが、図7の場合と同様に共用化した本図面においても便宜上アンテナ素子数を同様の値Mと標記した。実際の運用では、図7に示す無線局装置550と図8に示す無線局装置552で同一のアンテナ素子数にする必然性はない。
ベースバンド信号処理回路140は、送受信信号処理回路551−1〜551−Nのそれぞれに有線接続され、この有線上でデジタル・ベースバンド信号が転送されている。また、図1の場合と同様に、図8では、全体の制御回路560がベースバンド信号処理回路140上に実装されている場合を例に示している。
無線局装置550と同様に、無線局装置552は、基本的に送受信ウエイトに相当する移相器で行う複素位相回転量はデジタル信号処理的に行い、実際の複素位相の回転処理はアナログ信号処理にて実現する。このため、無線局装置550と同様に無線局装置552の変調器120−1〜120−N及び復調器130−1〜130−Nでは、周波数軸上の信号処理を前提とする場合、時間軸上での信号処理を前提とする場合のどちらの方式にも対応可能である。
また、アップコンバータ123−1〜123−N及びダウンコンバータ124−1〜124−Nでは、無線周波数の信号とベースバンドの信号の間の周波数変換を行うために、ローカル発振器からの信号の入力が必要となる。しかし、各送受信信号処理回路551−1〜551−N間では協調した信号処理は想定していないので、必ずしも共通のローカル発振器を利用する必要はない。図7に示す無線局装置550の場合とは異なり、無線局装置552では、アップコンバータ123−1〜123−N及びダウンコンバータ124−1〜124−Nは全て同一の筐体に収まっている。そのため、アップコンバータ123−1〜123−N及びダウンコンバータ124−1〜124−Nに、個別のローカル発振器を用意するとコストがかさむので、実質的には外部に共通化されたローカル発振器が存在する構成が一般的である。ただし、記述が煩雑になるためにここでは簡易な記述として外部のローカル発振器の明記は省略する。
上記のように、無線局装置552では、N系統分の送受信信号処理回路551−1〜551−Nはひとつの筐体内に実装されており、分配結合器507−1〜507−Mを介してアンテナ素子501−1〜501−Mを共用している。また、図8では、制御回路560がベースバンド信号処理回路140に実装される場合を例に示しているが、無線局装置552内の任意の場所に実装され得る。制御回路560は、フレーム周期や送受信タイミングを管理し、TDDスイッチ127−1〜127−Nの切り替えも管理する。
図7に示す無線局装置550と、図8に示す無線局装置552との差分は、送受信信号処理回路551−1〜551−Nがひとつの無線局装置552の筐体内に集約され、共用化されたサブアレーのアンテナ素子501−1〜501−Mのそれぞれを、分配結合器507−1〜507−Mで分配して送受信信号処理回路551−1〜551−Nと接続した構成である点である。そのため、送受信信号処理回路551−1〜551−N内部での処理は、図7に示す無線局装置550も図8に示す無線局装置552も同一である。
以下では、図7に示す無線局装置550との差分に着目し、無線局装置552における差分となる具体的な信号の流れを示す。
まず信号の送信について説明する。無線局装置552において、送受信信号処理回路551−nの移相器502−n−1〜502−n−M(n=1,…,N)のそれぞれから指向性形成のための処理がなされた無線周波数のアナログ信号が出力される。これらの各M系統の信号はそれぞれ、対応するアンテナ素子501−1〜501−Mに接続された分配結合器507−1〜507−Mに入力される。つまり、移相器502−1−m、502−2−m、…、502−N−m(m=1,…,M)は、分配結合器507−mに信号を入力する。分配結合器507−1〜507−Mはそれぞれ、N個の送受信信号処理回路551−1〜551−Nから入力された信号を合成し、合成された信号がアンテナ素子501−1〜501−Mを介して送信される。
次に信号の受信について説明する。無線局装置552のアンテナ素子501−1〜501−Mが受信した信号はそれぞれ、分配結合器507−1〜507−MにおいてN系統に分配され、それぞれが送受信信号処理回路551−1〜551−Nに入力される。例えば、アンテナ素子501−m(m=1,…,M)が受信した信号は、分配結合器507−mでN系統に分配され、移相器502−1−m、502−2−m、…、502−N−mに入力される。無線局装置552は、この様に移相器502−1−1〜502−N−Mに入力された信号に、図7に示す無線局装置550における信号の受信と同様の信号処理を行う。
移相器502−1−1〜502−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理においても受信処理と同様に、アンテナ素子501−1〜501−Mが受信した信号はそれぞれ、分配結合器507−1〜507−MにおいてN系統に分配され、それぞれが送受信信号処理回路551−1〜551−Nに入力される。無線局装置552は、この様に移相器502−1−1〜502−N−Mに入力された信号に、図7に示す無線局装置550における複素位相の回転量の算出と同様の信号処理を行う。
その他の動作に関しては、基本的に図7に示す無線局装置550と同様に行う。また、送信側のHPAや受信側のLNAに関する説明も、図7に示す無線局装置550と同様である。
なお、本実施形態における通信システムは、図3に示す無線局装置450に代えて無線局装置550を備え、無線局装置452に代えて無線局装置552を備えた構成である。なお、無線局装置450と無線局装置552が対向してもよく、無線局装置550と無線局装置452が対向してもよい。
次に、図9〜図12を用いて本実施形態の送受信信号処理回路の他の構成例を説明する。図9〜図12のそれぞれに示す送受信信号処理回路は、図7に示す無線局装置550又は図8に示す無線局装置552が備える送受信信号処理回路551−1〜551−Nと置き換えることができる。以下では、無線局装置550が備える送受信信号処理回路551−1〜551−Nと置き換える場合を例に説明する。なお、無線局装置552が備える送受信信号処理回路551−1〜551−Nと置き換える場合、図9〜図12におけるアンテナ素子501−n−1〜501−n−M及びアンテナ素子541−n−1〜501−n−Mは、アンテナ素子501−1〜501−M及びアンテナ素子541−1〜541−M、及びアンテナ素子501−1〜501−M、アンテナ素子541−1〜541−Mに対応した分配結合器(HYB))で構成される。
図9は、本実施形態における送受信信号処理回路553−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す送受信信号処理回路553−nは、D/A変換器122−nと、アップコンバータ123−nと、ダウンコンバータ124−nと、A/D変換器125−nと、サーキュレータ521−nと、移相器502−n−1〜502−n−Mと、スイッチ503−n−1〜503−n−Mと、分配結合器504−nと、相関算出回路505−nと、位相シフト制御回路506−nとを備える。移相器502−n−1〜502−n−Mはそれぞれ、アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mに接続される。
同図では、図7との対比を分かりやすくするためアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mを図中に記載したが、送受信信号処理回路553−nは実線の枠内に相当し、この枠内に関しては図8の送受信信号処理回路551−nにも対応する部分である。
図7及び図8に示す送受信信号処理回路551−nと同図に示す送受信信号処理回路553−nとの差分は、図7及び図8に示す送受信信号処理回路551−nではTDDスイッチ127−nにより送信信号と受信信号の入出力の流れの制御を行っていたが、図9に示す送受信信号処理回路553−nではサーキュレータ521−nを用いてこの入出力の流れの制御を行う。すなわち、サーキュレータ521−nは、アップコンバータ123−nからの入力信号を分配結合器504−nへ通過させ、分配結合器504−nからの入力信号をダウンコンバータ124−nに通過させる。サーキュレータ521−nは、これ以外の信号の流れを抑制する。よって、図7及び図8に示す送受信信号処理回路551−nの様にTDDスイッチ127−1〜127−Nを用いずとも同様の信号処理を実施することが可能になる。この点を除けば、他の全ての信号処理は図7及び図8に示す送受信信号処理回路551−nの信号処理と同等である。また送信側のHPAや受信側のLNAに関する説明も図7及び図8に示す送受信信号処理回路551−nと同様である。
図10は、本実施形態における送受信信号処理回路554−nの構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す送受信信号処理回路554−nは、D/A変換器122−nと、アップコンバータ123−nと、分配結合器514−nと、移相器509−n−1〜509−n−Mと、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mと、移相器502−n−1〜502−n−Mと、スイッチ503−n−1〜503−n−Mと、分配結合器515−nと、ダウンコンバータ124−nと、A/D変換器125−nと、相関算出回路505−nと、位相シフト制御回路506−nとを備える。TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mはそれぞれ、アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mに接続される。
ここでも図7に示す送受信信号処理回路551−1〜551−Nと同様に、アップコンバータ123−n及びダウンコンバータ124−nでは、無線周波数の信号とベースバンドの信号の間の周波数変換を行うために、ローカル発振器からの信号の入力が必要となる。しかし、各送受信信号処理回路554−1〜554−N間では協調した信号処理を想定していないので、必ずしも共通のローカル発振器を利用する必要はない。なお、記述が煩雑になるためにここでは簡易な記述として外部のローカル発振器の明記は省略する。
また、全体の制御回路560が無線局装置550又は無線局装置552のベースバンド信号処理回路140内、あるいは、無線局装置552内に実装される。制御回路560は、送受信タイミングを管理する。また、複数の送受信信号処理回路554−1〜554−Nはそれぞれ連動して動作するため、制御回路560が制御を行う際には、複数の送受信信号処理回路554−1〜554−Nはタイミングを揃えて動作する。
送受信信号処理回路554−nと、図7または図8で示した送受信信号処理回路551−1〜551−Nとの差分は、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mがアンテナ素子501−n−1〜501−n−M(又はアンテナ素子501−1〜501−M)の直近に配置され、その結果として送信系におけるD/A変換器122−nからアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mまでの経路と、受信系におけるアンテナ素子501−n−1〜501−n−MからA/D変換器125−nまでの経路が物理的に分離されている点である。
図7又は図8に示す送受信信号処理回路551−nの場合には、例えば送信系のハイパワーアンプ(ないしはパワーアンプ)がアップコンバータ123−nの後段の「A」と記述された場所に配置され、受信系のローノイズアンプはダウンコンバータ124−nの前段の「B」と記述された場所に配置され、TDDスイッチ127−nからアンテナ端までの回路を送受で共用可能としている。この点が送受信信号処理回路554−nとは大きく異なっている。図10のような構成を取るメリットは、ハイパワーアンプやローノイズアンプをアンテナ素子数分だけ実装することが可能になり、この結果としての総送信電力が向上し、図7や図8におけるTDDスイッチ127−nからアンテナ素子501−1〜501−Mまでの間における様々な回路の挿入損失並びに分配及び結合損失の影響を抑えることが可能になる点である。このため、ここでは図示していないが、「D1」、「D2」、…、「DM」と記載された場所にハイパワーアンプが、「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された場所にローノイズアンプが配置されることが好ましい。この場合には、それぞれのハイパワーアンプ、ローノイズアンプの複素位相の不確定性を除去するためのキャリブレーション処理が必要となる。しかし、「A」と記載された場所にハイパワーアンプが、「B」と記載された場所にローノイズアンプが配置されれば、必ずしも「D1」、「D2」、…、「DM」と記載された点の場所及び「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された点の場所のそれぞれに、ハイパワーアンプ、ローノイズアンプが配置される必然性はない。
以上の変更点は、第1の実施形態における図1及び図2における送受信信号処理回路451−nを、図4に示す送受信信号処理回路453−nに変更したのに対応している。第2の実施形態における図7及び図8における送受信信号処理回路551−nを、図10に示す送受信信号処理回路554−nに変更したときの細かな信号処理の変更点も、送受信信号処理回路453−nへの変更に対応したものである。
以下は、本実施形態に特徴的な部分に着目して、送受信信号処理回路551−nとの差分となる、送受信信号処理回路554−nにおける具体的な信号の流れを示す。
まず信号の送信について説明する。送受信信号処理回路554−nは、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mがアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mと移相器509−n−1〜509−n−Mとをそれぞれ接続した状態で信号の送信を行う。
送受信信号処理回路554−nには、ここには図示されていない変調器120−nからひとつのストリームの時間軸デジタル・ベースバンドの送信信号が入力される。D/A変換器122−nは、入力された送信信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、アップコンバータ123−nに出力する。アップコンバータ123−nは、D/A変換器122−nから入力されたアナログ・ベースバンド信号を無線周波数帯の信号に変換し、分配結合器514−nに入力する。
分配結合器514−nは、アップコンバータ123−nから入力された無線周波数帯のアナログ信号をM系統のアナログ信号に分岐し、移相器509−n−1〜509−n−Mに入力する。移相器509−n−1〜509−n−Mはそれぞれ、分配結合器514−nから入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mを介してアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mに入力する。アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mは、入力された送信信号を送信する。送信信号は、移相器509−n−1〜509−n−Mにおける複素位相回転により、所定の指向性形成がなされている。
次に信号の受信について説明する。送受信信号処理回路554−nは、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mがアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mと移相器502−n−1〜502−n−Mとを接続し、スイッチ503−n−1〜503−n−Mが分配結合器515−nと移相器502−n−1〜502−n−Mとをそれぞれ接続した状態で信号の受信を行う。
アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mが受信した信号はそれぞれ、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mを介して移相器502−n−1〜502−n−Mに入力される。移相器502−n−1〜502−n−Mのそれぞれは、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを介して分配結合器515−nに入力する。分配結合器515−nは、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを介して入力された各アンテナ系統の信号をアナログ信号上で合成し、ダウンコンバータ124−nに入力する。ダウンコンバータ124−nは、無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器125−nに入力する。A/D変換器125−nは、ダウンコンバータ124−nから入力されたアナログ・ベースバンド信号をデジタル・ベースバンド信号に変換し、ここには図示されていないベースバンド信号処理回路140内の信号分離回路141に入力する。ベースバンド信号処理回路140は、後続する信号処理を行う。
次に、移相器502−1−1〜502−N−Mにおける複素位相の回転量を算出する際の信号処理を説明する。この信号処理は、スイッチ503−n−1〜503−n−Mのいずれかひとつが分配結合器515−nと移相器502−n−1〜502−n−Mとを接続(ON)する一方、残りのスイッチは分配結合器515−nとの接続を切った状態(OFF)状態で行われる。これらのスイッチ切替は、制御回路560の指示のもと、相関算出回路505−1〜505−Nが管理する。なお、ここで説明している複素位相の回転量を算出するとき以外の通常運用時は、上述のように移相器502−n−1〜502−n−Mは全て分配結合器515−nに、移相器509−n−1〜509−n−Mは全て分配結合器514−nに接続される。また、図7又は図8に示す送受信信号処理回路551−nと同様に、複素位相の回転量の算出処理を行う際には移相器502−1−1〜502−1−Mの位相回転量は所定の値に設定しておき、その後の処理で得られる複素位相の回転量は、当初の所定の値に対する差分として設定する。
実際の処理としては、まず、複素位相の回転量を取得すべき通信相手の無線局装置がチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、送受信信号処理回路554−1〜554−Nを有する無線局装置はこの信号を受信する。アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mが受信した信号はそれぞれ、移相器502−n−1〜502−n−Mに入力される。移相器502−n−1〜502−n−Mはそれぞれ、入力された信号に対し、アナログ信号上で所定の複素位相回転を加え、スイッチ503−n−1〜503−n−Mを介して分配結合器515−nに入力する。ここで、スイッチ503−n−1〜503−n−Mでは、ひとつを除いてすべてがOFFとなっているため、実効的には分配結合器515−nにおいて合成された信号は、スイッチ503−n−1〜503−n−Mの中の唯一、スイッチが接続(ON)されている系統のアンテナで受信された信号のみが出力されたことになる。すなわち、スイッチ503−n−1〜503−n−Mと分配結合器515−nでは、これ全体で、アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mの中からひとつのアンテナ素子501−n−k(kは1以上M以下の整数のいずれか)を抽出する処理を実施することになる。なお、kが1からMまでのいずれかの値をとるように切り変わる。この様にして選択されたアンテナ素子501−n−kの受信信号は、ダウンコンバータ124−nに入力される。ダウンコンバータ124−nは、入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器125−nに入力する。A/D変換器125−nは、アナログ・ベースバンド信号をデジタル・ベースバンド信号に変換し、相関算出回路505−nに入力する。
送受信信号処理回路554−nの相関算出回路505−n及び位相シフト制御回路506−nは、図7に示す送受信信号処理回路551−nの相関算出回路505−n及び位相シフト制御回路506−nと同様の処理を行う。つまり、相関算出回路505−nは、移相器502−n−1〜502−n−Mそれぞれに設定すべき送信側の複素位相の回転量を算出する。位相シフト制御回路506−nは、移相器502−n−1〜502−n−Mそれぞれに設定すべき複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けてメモリに記憶するなどして管理する。
また、相関算出回路505−nは、「D1」、「D2」、…、「DM」と記載された場所にハイパワーアンプが、「E1」、「E2」、…、「EM」と記載された場所にローノイズアンプが配置される場合には、図4の送受信信号処理回路453−nの相関算出回路405−nと同様に、上記で算出した受信系の複素位相の回転量に、従来技術のインプリシットフィードバックにおけるキャリブレーション処理を施し、受信系における複素位相の回転量を基にキャリブレーション処理に相当する補正により送信系における複素位相の回転量に換算してもよい。位相シフト制御回路506−nは、移相器509−n−1〜509−n−Mそれぞれに設定すべき送信系における複素位相の回転量を、通信相手の無線局装置の識別番号と対応付けて同様にメモリに記憶するなどして管理する。
なお、実際のデータ通信を行う際、すなわち送信処理ないし受信処理を行う際には、制御回路560が通信相手となる無線局装置を把握し、位相シフト制御回路506−nに対して、通信を行う無線局装置に対応する複素位相の回転量を移相器502−n−1〜502−n−M及び移相器509−n−1〜509−n−Mを設定するよう指示する。位相シフト制御回路506−nは、通信を行う無線局装置に対応した複素位相の回転量をメモリから読み出すなどして取得し、この複素位相の回転量を移相器502−n−1〜502−n−M及び移相器509−n−1〜509−n−Mに設定してアナログ上のビームフォーミングを実現する。これらの処理は、送受信信号処理回路554−1〜554−Nにおいて同様に実施される。
図11は、本実施形態における送受信信号処理回路555−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す送受信信号処理回路555−nと、図10に示す送受信信号処理回路554−nとの差分は以下の点である。すなわち、図10に示す送受信信号処理回路554−nはアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mを送受信で共用していた。一方、図11に示す送受信信号処理回路555−nは、これらを送信と受信で分離した上で、送受信でペアを組み、近接した場所に送受信アンテナをセットで配置する構成としている。したがって、無線局装置550の送受信信号処理回路551−nを送受信信号処理回路555−nに置き換える場合は、アンテナ素子541−n−1〜541−n−Mが追加され、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mは省略される。なお、無線局装置552の送受信信号処理回路551−nを送受信信号処理回路555−nに置き換える場合は、アンテナ素子501−n−1〜501−n−M及びアンテナ素子541−n−1〜541−n−Mに代えて、送受信信号処理回路555−1〜555−Nで共用するアンテナ素子501−1〜501−M及びアンテナ素子541−1〜541−M(及びアンテナ素子501−1〜501−M、アンテナ素子541−1〜541−Mに対応した分配結合器)で構成される。
図10の説明では便宜上、アンテナ素子の直近までを送受信信号処理回路554−nと見なして説明をしていたが、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mをアンテナ素子側の機能と見なせば、図10と図11は全く等価な図である。信号処理の詳細においても、受信系においては図10に示す送受信信号処理回路554−nは、アンテナ素子501−n−1〜501−n−Mが信号を受信していたのに対し、図11に示す送受信信号処理回路555−nではアンテナ素子541−n−1〜541−n−Mを用いて受信する点、及び、送受信においてTDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mを経由しない点を除けば、図10に示す送受信信号処理回路554−nと、図11に示す送受信信号処理回路555−nとにおける全ての信号処理は共通である。
ただし、送受信アンテナが物理的に異なる点を考慮し、単なるキャリブレーション処理に加えて、物理的にアンテナ素子の座標が異なることを考慮した補正を加えることも可能である。
なお、上述の説明では近接した場所に送受信アンテナをセットで配置する構成として説明したが、この物理的にアンテナ素子の座標が異なることを考慮した補正を行う限りにおいては、必ずしも送受信アンテナをセットで配置する必要はない。図12は、本実施形態における送受信信号処理回路556−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
図12に示す送受信信号処理回路556−nにおいても、図11に示す送受信信号処理回路555−nにと同様に、TDDスイッチ508−n−1〜508−n−Mをアンテナ素子側の機能と見なせば、図10も図12と全く等価な図である。この意味で図12に示す送受信信号処理回路556−nにおいても、図11に示す送受信信号処理回路555−nと同様に、送信用のアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mと受信用のアンテナ素子541−n−1〜541−n−Mを分離した構成となっている。ただし、図11に示す送受信信号処理回路555−nでは、個別の送受信アンテナ素子のペア(例えばアンテナ素子501−n−1とアンテナ素子541−n−1のペア等)が一体として近傍に配置される構成に対し、図12に示す送受信信号処理回路556−nでは、送信用のアンテナ素子501−n−1〜501−n−Mはそれらでひとつの送信アンテナアレーを構成し、受信用のアンテナ素子541−n−1〜541−n−Mはそれらでひとつの受信アンテナアレーを構成する構成を想定している。従って、物理的なアンテナ素子の配置以外には、信号処理は図11と図12では差がない。
Massive MIMOにおいてデジタルビームフォーミングを行う場合、従来の無線局装置には、高価なA/D変換器及びD/A変換器を、信号系列数に対応した個数分必要とするため、装置が高額になるとともに、消費電力が増大するという問題を有していた。そこで、本実施形態の無線局装置は、指向性制御を行う際のウエイト情報を取得する際にのみ対象とする信号系列のみがA/D変換器と接続状態となるようスイッチを切替える。また、無線局装置は、データ送信時には、アンテナ素子毎に分離する前の信号をD/A変換器でアナログ信号に変換し、変換したアナログ信号をアンテナ素子毎に分離した後に移相器を用いてアナログビームフォーミングを行う。その結果、データ送受信時にウエイト情報を取得するために必要とするA/D変換器及びD/A変換器の数を削減することが可能になるとともに、消費電力を低減することが可能となる。
[第3の実施形態]
一般に、複数のアンテナ素子のチャネル情報を取得する場合、マルチパス環境であれば1/2波長程度の距離が離れたアンテナ素子の場合にはチャネル情報の相関が大きく低下している。しかし、概ね見通し環境となる場合や反射点が限定されている場合などでは、最も強度が強い到来波に対する平面波近似が適用可能となる傾向がある。この場合、同一の複素位相で到来する波面を抽出することができれば、アンテナ平面と到来波の波面との間のアンテナ素子毎の経路長差は幾何学的な規則性を持ち、一部のアンテナ素子のチャネル情報の複素位相から残りのアンテナ素子のチャネル情報の複素位相を推定することができる。
図13に、本発明の第3の実施形態における直線状にアンテナ素子が配置されたリニアアレーにおけるチャネル情報予測の概要を示す。同図では、アンテナ素子401−1〜401−5が直線状に配置されている状態が示されている。まず、リニアアレーの正面方向に対して角度θ方向から到来する平面波について考える。また、各アンテナの素子の間隔をdとする。ここで、アンテナ素子401−1における受信信号をΦ1(t)、アンテナ素子401−2における受信信号をΦ2(t)、・・・、アンテナ素子401−5における受信信号をΦ5(t)とし、アンテナ素子401−1を基準とした第sアンテナ素子(sは2以上の整数)の経路長差をΔLsとする。便宜上、ΔL1は0とする。
一般に、波長がλの時に経路長ΔLを経由すると、複素位相は2πΔL/λだけ回転する。平面波近似を想定すると、アンテナ素子401−1とアンテナ素子401−2の間の経路長差はΔL2=d・Sinθである。同様に、アンテナ素子401−1とアンテナ素子401−3の間の経路長差はΔL3=2×d・Sinθ、アンテナ素子401−1とアンテナ素子401−4の間の経路長差はΔL4=3×d・Sinθ、アンテナ素子401−1とアンテナ素子401−5の間の経路長差はΔL5=4×d・Sinθとなっている。
したがって、ある波長λの周波数成分に着目すれば、平面は近似が成立する波で、Φ2(t)≒Exp{−2πjΔL2/λ}Φ1(t)、Φ3(t)≒Exp{−2πjΔL3/λ}Φ1(t)、Φ4(t)≒Exp{−2πjΔL4/λ}Φ1(t)、Φ5(t)≒Exp{−2πjΔL5/λ}Φ1(t)の関係が成り立つ。上述のΔLs=(s−1)d・Sinθの関係を用いれば、Φs(t)≒Exp{−2πj(s−1)d・Sinθ/λ}Φ1(t)であり、アンテナ素子間でそれぞれExp{−2πjd・Sinθ/λ}ずつ複素位相が回転していることになる。したがって、例えばアンテナ素子401−1とアンテナ素子401−5にてチャネル推定を実施し、この間の複素位相の回転量を基に、その複素位相の差分の1/4ずつがアンテナ素子毎に回転すると予測することが可能になる。
同様の予測は、アンテナ素子が1次元的に配列している場合の他に、2次元的に配列している場合でも可能となる。次に、図14及び図15を用いて本実施形態における平面状に構成されたアレーアンテナのチャネル情報予測の具体例を説明する。図14において、「○」で示したアルファベットのa〜z及びA〜Kはアンテナ素子を表す。ここでは最密充填状に正三角形を敷き詰めた形状の例を示すが、形状はその他の如何なる構成であっても構わない。
例えば、無線局装置は、2重の黒丸で示されたアンテナ素子i、m、qの3点のチャネル推定を行い、その3点のチャネル情報の複素位相が求まったとする。ここで、例えば、アンテナ素子iを基準アンテナとし、アンテナ素子iとアンテナ素子mの間の複素位相の回転量をζ、アンテナ素子iとアンテナ素子qの間の複素位相の回転量をηとする。この場合、アンテナ素子iとアンテナ素子mを結ぶ直線上のアンテナ素子に着目すれば、アンテナ素子cではζ×1/3、アンテナ素子dではζ×2/3、アンテナ素子Bではζ×4/3、アンテナ素子uでは−ζ×1/3と近似可能である。同様に、アンテナ素子iとアンテナ素子qを結ぶ直線上のアンテナ素子に着目すれば、アンテナ素子bではη×1/3、アンテナ素子gではη×2/3、アンテナ素子Gではη×4/3、アンテナ素子vでは−η×1/3と近似可能である。これを拡張すれば2次元的な予測も可能であり、一例としてアンテナ素子aであればζ×1/3+η×1/3、アンテナ素子Hであれば−ζ×1/3+η×4/3、アンテナ素子Eであればζ×2/3+η×3/3といったように予測可能である。
以上の予測を可能とするための条件としては、チャネル情報を取得するアンテナ素子とアンテナ素子との間において、複素位相の回転量がπ以下である必要がある。例えば、図13の場合を例に取れば、アンテナ素子401−1とアンテナ素子401−5の間の複素位相差がπ/2であったとしても−3π/2であったとしても、Exp{j・π/2}=Exp{−j・3π/2}であることから区別することができない。仮に複素位相差がπ/2であれば、アンテナ素子401−1とアンテナ素子401−2の間の複素位相差はπ/2×(1/4)であるはずであるが、仮に複素位相差が−3π/2であれば、アンテナ素子401−1とアンテナ素子401−2の間の複素位相差は−3π/2×(1/4)であるはずである。
上記の様な不確定性がある状況では正しくチャネル情報の予測を行うことは出来ないため、チャネル情報を取得するアンテナ素子間の複素位相差はπ以下である必要がある。なお、実際の測定においては雑音による測定誤差やマルチパスの影響により複素位相のふらつきも予想される。そのため、実際には複素位相差はπよりも余裕を持って小さな値である必要がある。その目安となる値は反射波の影響の大小で異なるために一概には言えないが、アンテナ素子間隔dを小さくしたり、到来角θが十分に小さい場合には、経路長差ΔLが小さくなるために、経路長差に伴う複素位相の変化量は十分に小さくすることが可能である。図14の例では、アンテナ素子i、m、qの3点が比較的離れた位置関係になっているが、アンテナ素子間の複素位相差をπ以下にするために、相互の素子間隔が小さな隣接するアンテナ素子(例えばアンテナ素子a、e、fなど)を利用することも可能である。なお、図14では3つのアンテナ素子でチャネルを推定して残りのアンテナ素子の複素位相を2次元平面的に近似する場合の例を示したが、より多くのアンテナ素子においてチャネル情報を取得する場合には、もう少し細かなチャネル情報の予測が可能となる。
図15に、本発明の第3の実施形態における平面状に構成されたアレーアンテナのチャネル情報予測の別例を示す。図14との差分は、チャネル情報の取得を行うアンテナ素子を3つから、2重の黒丸で示されたアンテナ素子a、w、z、C、F、I、tの7点に変更となっていることがである。この場合、6角形状のアレーアンテナは6つの三角形{a,w,z}、{a,z,C}、{a,C,F}、{a,F,I}、{a,I,t}、{a,t,w}に分けることができる。各三角形内の点は、各三角形の頂点の複素位相を基に予測を行っても良い。例えば、三角形{a,w,z}に着目し、先ほどと同様にアンテナ素子aを基準アンテナとし、アンテナ素子aとアンテナ素子wの間の複素位相の回転量をζ、アンテナ素子aとアンテナ素子zの間の複素位相の回転量をηとする。
この場合、例えばアンテナ素子aとアンテナ素子wを結ぶ直線上のアンテナ素子に着目すれば、アンテナ素子cではζ×1/3、アンテナ素子jではζ×2/3と近似可能である。同様にアンテナ素子aとアンテナ素子zを結ぶ直線上のアンテナ素子に着目すれば、アンテナ素子dではη×1/3、アンテナ素子lではη×2/3と近似可能である。その他のアンテナ素子kであればζ×1/3+η×1/3、アンテナ素子yであればζ×1/3+η×2/3、アンテナ素子xであればζ×2/3+η×1/3といったように予測可能である。その他の三角形も同様に予測は可能である。図14との差分は、空間的な広がりを持つアレーアンテナにおいては、離れた場所のアンテナ素子におけるマルチパスの影響は相関が弱まるため、三角形{a,w,z}、{a,z,C}、{a,C,F}、{a,F,I}、{a,I,t}、{a,t,w}ごとに個別の近似を行うことで、アレーアンテナ全体での到来波の到来方向が微妙に異なる場合でも、近似の精度を高めることが可能であるという特徴がある。なお、当然ではあるがアンテナ素子の並び方に対しては本質的な制約はないため、図14及び図15の様な細密充填構造である必然性はなく、例えば正方格子アレーを用いることも可能である。
次に、図16〜図18を用いて本実施形態における平面状に構成された正方アレーアンテナのチャネル情報予測の具体例を説明する。図16において、「○」又は「●」で示したアルファベットのa〜z、A〜Jはアンテナ素子を表す。ここでは最密充填状に正三角形を敷き詰めた形状の代わりに、正方格子状にアンテナ素子が配置された場合の例を示す。例えば、無線局装置は、2重の黒丸で示されたアンテナ素子a、l、pの3点のチャネル推定を行い、その3点のチャネル情報の複素位相が求まったとする。
例えば、アンテナ素子aを基準アンテナとし、アンテナ素子aとアンテナ素子lの間の複素位相の回転量をζ、アンテナ素子aとアンテナ素子pの間の複素位相の回転量をηとする。この場合、図14及び図15と比べて線形予測は少々複雑になるが、基本的な考え方は同様である。例えば、正方格子をxy平面の格子点と考え、アンテナ素子aを原点とみなす。この際、例えばアンテナsは(1,0)、アンテナvは(0,1)の様に座標を定義すれば(ここでは便宜上、y軸は下向きが正の方向としている)。この場合、アンテナlは(5,3)、アンテナpは(1,5)に相当する。
位相回転量をz軸で表し3次元表記をすると、アンテナaに関しては(0,0,0)、アンテナlに関しては(5,3,ζ)、アンテナpに関しては(1,5,η)となる。2次元平面を表す式は、a,b,cの係数(この係数はアンテナ素子の識別子とは関係ない)を用いると、a(x−x0)+b(y−y0)+c(z−z0)=0で表される。例えば(0,0,0)が平面上の点であるから、(x0,y0,z0)=(0,0,0)とすれば、ax+by+cz=0の関係式が得られる。ここで、(a,b,c)はこの平面の法線ベクトルであり、ベクトルの絶対値自体には意味がないので、a’=a/c、b’=b/cとすると未定数はふたつとなり、a’x+b’y+z=0の関係式が得られる。これに対し、座標(5,3,ζ)、(1,5,η)が平面上にあることから、a’及びb’に対する2元1次連立方程式を立てることができ、これを解くことで簡単にa’及びb’の値が求まる。
上記の様にして求めたa’及びb’を用いると、z=−(a’x+b’y)となるので、このx、yに各アンテナ素子の座標を代入すれば各アンテナ素子の複素位相が求まることになる。例えば、アンテナeに関しては座標が(3,1)であるのでz=−(3a’+b’)が所望の値であり、アンテナrに関しては座標が(5,5)であるのでz=−(5a’+5b’)が所望の値となる。この様にすることで、アンテナ配置の構成に依存することなく、同様の平面波近似により少数のアンテナ素子に関するチャネル情報から残りのアンテナ素子のチャネル情報を推定することが可能である。
なお、この様な各アンテナ素子の座標と各アンテナ素子の複素位相の関係を示す方程式を活用する方法について、若干補足を加えておく。図14、図15に関する以上の説明では、3点のアンテナ素子の複素位相を求め、そこから線形近似でその他のアンテナ素子の複素位相を求める場合について説明したが、図15の7点のアンテナ素子a、w、z、C、F、I、tの複素位相の情報の扱い方としては、最小二乗法を用いて全てのアンテナ素子a〜z、A〜Kをひとつの平面波で近似することも可能である。例えば、アンテナ素子a〜z、A〜Kが存在する2次元平面において、任意の直交したx軸・y軸を定め、第kアンテナ素子の座標を(xk,yk)とした時に、第kアンテナ素子の複素位相φkをα,β,γの係数を用いて以下の式(8)で与えられるものとする。
これに対し、第1アンテナ素子(例えば図中のアンテナ素子a)を基準アンテナとして実際に推定された第kアンテナ素子の複素位相を〜φk(チルダφは「〜」をφの上側に表示したもの。以下、同様に記載する。)とすると、以下の評価関数W(α,β,γ)を最小にする(α,β,γ)の組み合わせが最小二乗法により求めることが可能である(式(9))。
上記の最小二乗法により求めた(α,β,γ)の組み合わせを基に、式(8)を用いて第kアンテナ素子の座標(xk,yk)から、必要な複素位相を算出することが可能になる。この様に最小二乗法を用いる場合には、複素位相を求めるアンテナ素子数は任意の数が選択可能である。元々、本発明は到来波を平面波で近似しているが、実際には反射波の影響を受けて、見通し波(平面波)以外の成分を含むため、式(8)の様な綺麗な関係にはならない。この平面からの誤差が複素位相の推定精度に影響を与えるのであるが、最小二乗法に活用するアンテナ素子の数を増やすことで、この反射波の影響を平均化することが可能になり、推定精度の改善を図ることができる。一方で最小二乗法に活用するアンテナ素子の数を増やすと回路規模が増大するので、それぞれのトレードオフでアンテナ素子数の設定を行うことになる。
なお、以上の説明ではチャネル情報の複素位相を予測する手順を示したが、チャネル情報の複素位相を求めた後、その複素位相に−1を乗算した値が移相器で実施する複素位相の回転量に相当するため、この複素位相の回転量をz軸の値として設定し、直接、複素位相の回転量を求める演算処理を行ったとしても構わない。
なお、図16ではa〜rに相当する「○」で示したアンテナ素子と、s〜z及びA〜J相当する「●」で示したアンテナ素子が入れ子になって並んでいる。例えば図5、図11で説明したように送信アンテナと受信アンテナを分離し、且つそれぞれをペアにして配置する場合には、「○」で表したアンテナ素子a〜rを受信アンテナ、「●」で表したアンテナ素子s〜z及びA〜Jを送信アンテナとし、それぞれが近傍に配置される構成をとれば、上述の手法で一部の受信アンテナにてチャネル情報を取得し、その情報を基にその他のアンテナ素子の情報を予測すれば、その予測するアンテナ素子は送信アンテナであっても受信アンテナであっても構わないので、実際には信号を受信することができない送信アンテナにおいてもチャネル情報の予測(取得)は可能になる。なお、送信アンテナと受信アンテナは再隣接の格子点同士で異なる配置にする必要はなく、その他の一般的な配置であっても構わない。
図17に、本発明の第3の実施形態における平面状に構成された正方アレーアンテナのチャネル情報予測の別例を示す。図16との差分は、図16では送信アンテナと受信アンテナがオセロのマス目の様に交互に配置されていたのに対し、図17では縦の列に送信アンテナ又は受信アンテナが整列するような並びになっている点である。この場合では、例えばひとつの送受信信号処理回路454−n、又はひとつの送受信信号処理回路555−nのペアとなるアンテナ素子401−n−1と441−n−1、ないしはアンテナ素子501−n−1と541−n−1などは、図14のアンテナ素子aとs、アンテナ素子dとvなど、隣接したアンテナとして配置すれば良いことになる。
図18に、本発明の第3の実施形態における平面状に構成された正方アレーアンテナのチャネル情報予測の別例を示す。図17との差分は、図17では送信アンテナと受信アンテナが縦の列に整列して並んでいながら、隣接する列同士では送信アンテナと受信アンテナが交互になる様な配置になっていたが、図18では全ての受信アンテナa〜rを一か所にまとめ、同様に全ての送信アンテナs〜z及びA〜Jも一か所にまとめ、それぞれが別の領域に配置される構成となっている。これは、先の説明の図6及び図12に対応している。
送信系と受信系を分離するメリットは、例えば信号受信時においても送信系のハイパワーアンプの電源を落とさずに運用する場合において、送信系のノイズが受信系に漏洩するのを回避する上で、送信系全体と受信系全体が分離されていることで、相互のアイソレーションを確保しやすいという点があげられる。一方で、図16、図17で示した様に実際に信号受信によるチャネル情報の取得を行っていないアンテナ素子におけるチャネル情報を、上述の手法で推定するためには構成的には好ましくはない。しかし、仮に対抗する無線局装置#1と無線局装置#2の送信アンテナと受信アンテナのアンテナ配置がある種の対称性を持つ場合には、受信側で取得したチャネル情報を適切なキャリブレーション処理を行う前提の上では、そのまま送信側のチャネル情報と見なして扱うことが可能になる。一例としては、受信アンテナ素子aと送信アンテナ素子s、受信アンテナ素子bと送信アンテナ素子t、受信アンテナ素子cと送信アンテナ素子u、受信アンテナ素子dと送信アンテナ素子v・・・とが幾何学的に平行移動した位置関係にあり、この様な対称性を考慮して受信アンテナa〜rの複素位相の回転量を、そのまま送信アンテナs〜Jに適用しても、平面波近似が可能な範囲では大きな差はないとみなすことができる。
次に、図19及び図20を用いて本実施形態における平面状に構成された送受信が分離されたアレーアンテナのチャネル情報予測の具体例を説明する。図19において、無線局装置#1が実装するアレーアンテナを561とし、無線局装置#2が実装するアレーアンテナを562とし、無線局装置#1が実装する送信アンテナを563−1〜563−2とし、無線局装置#1が実装する受信アンテナを564−1〜564−2とし、無線局装置#2が実装する送信アンテナを565−1〜565−2とし、無線局装置#2が実装する受信アンテナを566−1〜566−2とする。
図19で示した無線局装置#1が実装するアレーアンテナ561と、無線局装置#2が実装するアレーアンテナ562の幾何学的な位置関係の特徴は、アレーアンテナ561の各アンテナ素子が存在する平面と、アレーアンテナ562の各アンテナ素子が存在する平面とが概ね平行で向き合っていることであり、その結果として概ね見通し波が支配的な状況であれば、無線局装置#1のアンテナ素子563−1から送信されて無線局装置#2のアンテナ素子566−1で受信される際のチャネル情報と、無線局装置#1のアンテナ素子563−2から送信されて無線局装置#2のアンテナ素子566−2で受信される際のチャネル情報との相対的なチャネル情報の関係が、無線局装置#2のアンテナ素子565−1から送信されて無線局装置#1のアンテナ素子564−1で受信される際のチャネル情報と、無線局装置#2のアンテナ素子565−2から送信されて無線局装置#1のアンテナ素子564−2で受信される際のチャネル情報との相対的なチャネル情報の関係と概ね一致するものと考えられる。
これは、無線局装置#1が実装する送信アンテナと無線局装置#2が実装する受信アンテナの関係を、鏡面で送信と受信を対称に折り返し、さらにそれを平行移動したものが無線局装置#2が実装する送信アンテナと無線局装置#1が実装する受信アンテナの関係に相似していることに起因する。したがって、各アンテナ素子の幾何学的な対応を、送信アンテナ群を平行移動して受信アンテナ群に対応させることで、概ね受信側で得られたチャネル情報を送信側にて活用することが可能になる。
なお、送受信アンテナを共用せず、且つ図18(及び図19)の様に物理的に送信アンテナ群、受信アンテナ群が隔離されて設置される場合には、図19で説明した様な幾何学的な平行移動の関係の関係を活用した近似では精度が低くなる可能性がある。この場合には、若干の工夫を施すことで対処することも可能である。
図20に、本発明第3の実施形態における平面状に構成された送受信が分離されたアレーアンテナのチャネル情報予測の別例を示す。図20において、図19の構成と異なる構成についてのみ説明する。図20では、無線局装置#1において受信アンテナ564−1〜564−2内に1つの送信アンテナ567が含まれる。また、図20では、無線局装置#2において送信アンテナ565−1〜565−2内に3つの受信アンテナ568−1〜568−3が含まれる。なお、無線局装置#2の受信ウエイトの算出に関しては図19と同様であるが、無線局装置#2の送信ウエイトの算出に関しては、若干の変更が加えられる。
ここでは、無線局装置#1のアンテナ素子567は、受信アンテナ群の中の重心付近のアンテナ素子であり、このアンテナ素子567よりトレーニング用の信号を送信することが可能である。このアンテナ素子から送信されたトレーニング信号は、無線局装置#2のアンテナ素子568−1〜568−3の受信アンテナにて受信され、これらのアンテナ素子で求めたチャネル情報を基に、上述の手段で無線局装置#2の送信アンテナ群の各アンテナ素子のチャネル情報を予測し、その情報を基に送信指向性制御における複素位相の回転量を算出することが可能になる。これらの付加的機能は全体の構成の中では特異な機能であるが、アンテナ規模が膨大であったり、送信アンテナ群と受信アンテナ群の距離が離れるような場合には有効となる。
なお、図20では、無線局装置#2の送信アンテナ群の各アンテナ素子に関する複素位相の回転量を予測する際に、受信用のアンテナ素子568−1〜568−3で求めた複素位相の回転量を基にその他の複素位相の回転量の予測をするとしたが、当然ながらその他のパターンのアンテナ素子を用いることも可能である。図21に、本発明の第3の実施形態における複素位相の回転量の予測に用いるアンテナパターンの例を示す。図21では、5×5の正方アレーにおける(a)から(d)の4つのパターンの例を示している。図中に置ける記号a〜yで示した●及び◎はアンテナ素子を表し、◎で示したアンテナ素子を用いて求めた複素位相の回転量を基にその他の●で示したアンテナ素子の複素位相の回転量の予測をする。ここでは5つのアンテナ素子を複素位相の回転量を求めるために利用する場合を例として示しているが、当然ながら3以上のその他の数の素子数で実施することも可能である。
例えば、図21(a)を例に取れば、アンテナ素子h,l,m,n,rを用いて複素位相の回転量を取得し、重心付近のアンテナ素子mとその他のアンテナ素子の相関を算出し、相関値の複素位相をアンテナ素子h,l,n,rに対して求める。その様にして求めた複素位相をz軸に設定し、式(8)、式(9)で説明したのと同様の最小二乗法を用い、式(8)に示す関係式で各アンテナ素子の複素位相の回転量を推測しても良い。図21(b)も同様である。
その他にも、複素位相の回転量予測に用いるアンテナ素子の空間的な広がりを拡張するために、基準アンテナの第1近接及び第2近接の素子以外をチャネル情報の予測に用いる図21(c)及び(d)のパターンを用いることも可能である。この場合も図21(a)及び(b)の場合と同様であるが、例えば(c)の場合にはアンテナ素子rを基準アンテナと設定し、アンテナ素子rとアンテナ素子l及びアンテナ素子nとの相関演算を行い、相関値の複素位相を求めた後に、アンテナ素子f及びアンテナ素子jに関しては、直接、基準のアンテナ素子rと相関演算を行う代わりに、アンテナ素子lとアンテナ素子fの相関演算とアンテナ素子nとアンテナ素子jの相関演算とを行っても良い。アンテナ素子rに対するアンテナ素子lの複素位相の相対値と、アンテナ素子lに対するアンテナ素子fの複素位相の相対値の加算値が、近似的にアンテナ素子rに対するアンテナ素子fの複素位相の相対値と見なすことが可能である。これは同様に、アンテナ素子rに対するアンテナ素子nの複素位相の相対値と、アンテナ素子nに対するアンテナ素子jの複素位相の相対値の加算値が、近似的にアンテナ素子rに対するアンテナ素子jの複素位相の相対値と見なすことが可能である。
さらに言えば、アンテナ素子rとアンテナ素子f及びjの相関値を直接算出する一方、2π周期の複素位相の不確定性を除去するために、アンテナ素子rに対するアンテナ素子lの複素位相の相対値とアンテナ素子lに対するアンテナ素子fの複素位相の相対値の加算値、及びアンテナ素子rに対するアンテナ素子nの複素位相の相対値とアンテナ素子nに対するアンテナ素子jの複素位相の相対値の加算値を別の形で利用しても良い。この場合には、アンテナ素子rとアンテナ素子f及びjの相関値を直接算出した値に2πの整数倍を加えた値と、アンテナ素子rに対するアンテナ素子lの複素位相の相対値とアンテナ素子lに対するアンテナ素子fの複素位相の相対値の加算値、及びアンテナ素子rに対するアンテナ素子nの複素位相の相対値とアンテナ素子nに対するアンテナ素子jの複素位相の相対値の加算値が最も近くなるようにアンテナ素子rとアンテナ素子f及びjの相関値を補正しても良い。
この様に複数段に分けて複素位相差を算出して加算する処理を含む理由は、所望のアンテナ素子間の複素位相差が±π以上となる場合には、複素位相の周期性故に位相の2π周期の不確定性が無視できなくなるためで、近接のアンテナ素子間の相関値の複素位相を加算して用いることで、近接するアンテナ素子間で複素位相差がπ以上にならないようにすることが可能になり、結果的に2π周期の複素位相の不確定性を回避することが可能になる。
なお、この様なアンテナパターンは図14、図15、図16と同様に受信アンテナの複素位相の回転量の推定においても、図20に示す様に送信アンテナの複素位相の回転量の推定と同様に用いることが可能である。
以下、図22及び23を用いて、本発明の第3の実施形態を実現するための送受信信号処理回路の構成について説明する。図22における送受信信号処理回路は、図1における第1の実施形態における送受信信号処理回路451−1〜451−N、及び図7における第2の実施形態における送受信信号処理回路551−1〜551−Nに対応する送受信信号処理回路の両者を組み合わせた別の実現形態に相当する。
図22は、本実施形態における送受信信号処理回路651−n(n=1,…,N)の構成例を示す機能ブロック図である。同図において、前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与し、その説明を省略する。
同図に示す送受信信号処理回路651−nは、D/A変換器122−nと、アップコンバータ(UC)123−nと、ダウンコンバータ(DC)124−nと、A/D変換器125−nと、TDDスイッチ(TDD−SW)127−nと、移相器402−n−1〜402−n−Mと、スイッチ403−n−1〜403−n−Mと、ダウンコンバータ(DC)424−n−1〜424−n−2と、A/D変換器425−n−1〜425−n−2と、相関算出回路405−nと、位相シフト制御回路406−nと、複素位相回転量予測回路410−nとを備える。なお、同図では、ダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−nが2つの構成を示しているが、ダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−nはMより少ない値であればどのような値であってもよい。以下の説明では、ダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−nが2つ(ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−2及びA/D変換器425−n−1〜425−n−2)の場合を例に説明する。
図1又は図2における第1の実施形態における送受信信号処理回路451−1〜Nとの差分は、ダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−nが全てのアンテナ系統に配置されていない点である。例えば、アンテナ素子401−2〜アンテナ素子401−3にはダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−nが配置されない。また、例えば、アンテナ素子401−1〜401−Mの中の3系統(一般的には3系統以上、M−1系統以下)にダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−n等を配置し、図14〜図17で説明したチャネル情報の取得手順を実施すれば、実効的に残りのアンテナ素子の系統においてはダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−n等は不要である。
以下、その差分に着目して差分となる具体的な信号の流れを示す。基本的に送信及び受信に関する信号処理は図1及び図2と同様であり、差分は移相器402−n−1〜402−n−Mで行う複素位相の回転量を算出する際の信号処理においてのみ存在する。以下にその詳細を示す。
移相器402−n−1〜402−n−Mで行う複素位相の回転量を算出する際の信号処理において、スイッチ403−n−1はダウンコンバータ424−n−1と移相器402−n−1とを接続し、スイッチ403−n−4はダウンコンバータ424−n−2と移相器402−n−4とを接続し(実際には、ここには図示していないダウンコンバータ、A/D変換器を備えたアンテナ系統のスイッチも同様)、残りのスイッチに関しては未接続状態とする。この状態で、まず複素位相の回転量を取得すべき通信相手の無線局装置からチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、当該無線局装置ではこの信号を受信する。
アンテナ素子401−n−1〜Mで受信した信号は、移相器402−n−1〜402−n−Mに入力され、移相器402−n−1〜402−n−Mにてアナログ信号上で所定の複素位相回転が加えられ、それぞれがスイッチ403−n−1〜403−n−Mに入力される。スイッチ403−n−1、403−n−4(実際には、ここには図示していないダウンコンバータ、A/D変換器を備えたアンテナ系統のスイッチも同様であるが、説明の簡単化のためにこの二つのアンテナ系統についてのみ説明する)に入力された信号は、ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−2に入力される。ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−2は、入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換する。A/D変換器425−n−1〜425−n−2は、アナログ信号からデジタル・ベースバンド信号に変換する。
A/D変換器425−n−1〜425−n−2によってデジタル・ベースバンド信号に変換された情報は相関算出回路405−nに入力される。相関算出回路405−nは、入力された情報を基に、式(1)〜式(3)を用いて複素位相の回転量を算出する。また、必要に応じてキャリブレーション処理が必要な場合には、式(1)〜式(3)にキャリブレーション係数を考慮した値として送信側の複素位相の回転量を定める。相関算出回路405−nで求めた複素位相の回転量は、通信する相手となる無線局装置の識別番号と共に、複素位相回転量予測回路410−nに入力される。
複素位相回転量予測回路410−nは、限られたアンテナ系統のチャネル情報を基に、残りのアンテナ素子のチャネル情報を予測する。図22の場合には、複素位相回転量予測回路410−nは、アンテナ素子401−1及び401−4(実際には、ここには図示していないダウンコンバータ、A/D変換器を備えた系統のアンテナ素子も同様)で受信されたチャネル情報を基に、残りのアンテナ素子のチャネル情報を予測する。複素位相回転量予測回路410−nは、移相器402−n−1〜402−n−Mで行うべき複素位相の回転量を算出し、通信する相手となる無線局装置の識別番号と共に、位相シフト制御回路406−nに入力する。位相シフト制御回路406−nでは、ここで入力された値がメモリに記憶されるなどして管理される。
なお、実際のデータ通信を行う際、すなわち送信ないし受信処理を行う際には、図22には図示されていない制御回路が通信相手となる無線局装置を把握し、位相シフト制御回路406−nに対して、通信を行う無線局装置に対応する複素位相の回転量を移相器402−n−1〜402−n−Mに複素位相の回転量を指示し、移相器402−n−1〜402−n−Mではこの複素位相の回転量に設定してアナログ上のビームフォーミングを実現する。
なお、図22においては明記していないが、例えば送信側のハイパワーアンプ(HPA)等を配置するとすれば、図中の「A」の記述のある点に配置し、受信側のローノイズアンプ(LNA)等を配置するとすれば、図中の「B」及び「C1」〜「C2」の記述のある点に配置することになる。「A」及び「B」に関しては、送受信信号処理回路651−nでは相互に協調することを想定していないので個別のハイパワーアンプ及びローノイズアンプの複素位相の不確定性を除去するキャリブレーション処理は不要だが、「C1」〜「C2」の記述のある点のローノイズアンプに関しては、同一の送受信信号処理回路651−n内の各アンテナ素子401−1及びアンテナ素子401−4等との間での複素位相の不確定性の原因となり得るために、従来技術のインプリシットフィードバックのキャリブレーション手法等を用いることで、各系統のローノイズアンプの複素位相の不確定性は除去する必要がある。
本発明は任意の手法に対して適用可能であり、キャリブレーション処理の具体的な方法は問わない。このキャリブレーション結果を考慮し、例えば「C1」「C2」での複素位相の回転量が+10度、+20度であったとすると、式(1)〜式(3)で得られた複素位相の回転量に対し、−10度、−20度の補正を行い位相回転量を調整する。なお、このキャリブレーション結果の情報はここでは図示していないキャリブレーション回路にて収集し、位相シフト制御回路406−n、複素位相回転量予測回路410−nないしは相関算出回路405−nにてこの情報を用いて補正を実施する。なお、先の説明においても、図1と図7の説明に対し、様々なバリエーションとして図2、図4〜図11の説明を行ったが、同様の拡張を行えば、他の運用方法と同様に活用することが可能である。
また本図において、ダウンコンバータ、A/D変換器を備えていない系統のスイッチ403−n−2、403−n−3、403−n−5〜403−n−Mに関しては、移相器402−n−1〜402−n−Mで行う複素位相の回転量を算出する際の信号処理において接続状態としたり、ないしはこれらのスイッチ403−n−2、403−n−3、403−n−5〜403−n−Mを省略したりしても、実効的には問題とはならない。
図23は、本実施形態における送受信信号処理回路652−nの別の構成例を示す機能ブロック図である。図23は、図6の第1の実施形態における送受信信号処理回路455−n、及び図12の第2の実施形態における送受信信号処理回路556−nに対応する送受信信号処理回路の両者を組み合わせた別の実現形態に相当する。前述の図と同一の機能ブロックについては、同一の番号を付与している。
同図に示す送受信信号処理回路652−nは、D/A変換器122−nと、アップコンバータ(UC)123−nと、ダウンコンバータ(DC)124−nと、A/D変換器125−nと、分配結合器414−nと、分配結合器415−nと、移相器402−n−1〜402−n−Mと、スイッチ403−n−1〜403−n−Mと、移相器409−n−1〜409−n−Mと、ダウンコンバータ(DC)424−n−1〜424−n−2と、A/D変換器425−n−1〜425−n−2と、相関算出回路405−nと、位相シフト制御回路406−nと、複素位相回転量予測回路410−nとを備える。
図6における第1の実施形態における送受信信号処理回路455−nとの差分は、ダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−nが全てのアンテナ系統に配置されていない点である。例えば、アンテナ素子441−2〜441−3にはダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−nが配置されない。また、例えば、アンテナ素子441−1〜441−Mの中の3系統(一般的には3系統以上、M−1系統以下)にダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−n等を配置し、図14〜図17で説明したチャネル情報の取得手順を実施すれば、実効的に残りのアンテナ素子の系統においてはダウンコンバータ424−n及びA/D変換器425−n等は不要である。
以下は、その差分に着目して差分となる具体的な信号の流れを示す。基本的に送信及び受信に関する信号処理は図6の説明(及び図6に関連する図4の説明)と同様であり、差分は移相器402−n−1〜402−n−Mで行う複素位相の回転量を算出する際の信号処理においてのみ存在する。以下にその詳細を示す。移相器402−n−1〜402−n−Mで行う複素位相の回転量を算出する際の信号処理において、スイッチ403−n−1はダウンコンバータ424−n−1と移相器402−n−1とを接続し、スイッチ403−n−4はダウンコンバータ424−n−2と移相器402−n−4とを接続し(実際には、ここには図示していないダウンコンバータ、A/D変換器を備えたアンテナ系統のスイッチも同様)、残りのスイッチに関しては未接続状態とする。
これらのスイッチ切替は、ここには図示されていない制御回路の指示のもと、相関算出回路405−nより管理し、複素位相の回転量を算出する際以外は移相器402−n−1〜402−n−Mは分配結合器415−nに接続される。また、この処理を行う際には移相器402−n−1〜402−n−Mの位相回転量は所定の値に設定しておく。その後の処理で得られる複素位相の回転量は、上述の説明と同様に、当初の所定の値に対する差分として設定する。また、ここでは図示されていないその他の送受信信号処理回路652−nにおいても、ここでは図示されていない制御回路の管理の基、一斉に同様の処理を行うことになる。
この状態で、まず複素位相の回転量を取得すべき通信相手の無線局装置からチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、当該無線局装置ではこの信号を受信する。アンテナ素子441−n−1〜441−n−Mで受信した信号は、移相器402−n−1〜402−n−Mに入力され、移相器402−n−1〜402−n−Mにてアナログ信号上で所定の複素位相回転が加えられ、それぞれがスイッチ403−n−1〜403−n−Mに入力される。スイッチ403−n−1、403−n−4(実際には、ここには図示していないダウンコンバータ、A/D変換器を備えたアンテナ系統のスイッチも同様であるが、説明の簡単化のためにこの二つのアンテナ系統についてのみ説明する)に入力された信号はダウンコンバータ424−n−1〜424−n−2に入力される。ダウンコンバータ424−n−1〜424−n−2は、入力された無線周波数の信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、A/D変換器425−n−1〜425−n−2ではアナログ信号からデジタル・ベースバンド信号に変換する。
A/D変換器425−n−1〜425−n−2によってデジタル・ベースバンド信号に変換された情報は相関算出回路405−nに入力される。相関算出回路405−nは、式(1)〜式(3)を用いて複素位相の回転量を算出する。また、必要に応じてキャリブレーション処理が必要な場合には、式(1)〜式(3)にキャリブレーション係数を考慮した値として送信側の複素位相の回転量を定める。相関算出回路405−nで求めたこの複素位相の回転量は、通信する相手となる無線局装置の識別番号と共に、複素位相回転量予測回路410−nに入力される。
複素位相回転量予測回路410−nは、限られたアンテナ系統のチャネル情報を基に、残りのアンテナ素子のチャネル情報を予測する。図23の場合には、複素位相回転量予測回路410−nは、移相器402−n−1〜402−n−Mで行うべき複素位相の回転量を算出し、通信する相手となる無線局装置の識別番号と共に、位相シフト制御回路406−nに入力する。位相シフト制御回路406−nでは、ここで入力された値がメモリに記憶されるなどして管理される。
また、以上の複素位相の回転量は受信系における移相器402−n−1〜402−n−Mの位相回転量に関するものであるが、ローノイズアンプ及びハイパワーアンプなどにおける複素位相回転量の個体差をキャンセルするため、従来技術のインプリシットフィードバックにおけるキャリブレーション処理を施し、送信系における複素位相の回転量を換算し、移相器409−n−1〜409−n−Mに設定する値として、同様にメモリに記憶されるなどして管理される。
なお、実際のデータ通信を行う際、すなわち送信ないし受信処理を行う際には、図23には図示されていない制御回路が通信相手となる無線局装置を把握し、位相シフト制御回路406−nに対して、通信を行う無線局装置に対応する複素位相の回転量を移相器402−n−1〜402−n−M及び移相器409−n−1〜409−n−Mに複素位相の回転量を指示し、移相器402−n−1〜402−n−M及び移相器409−n−1〜409−n−Mではこの複素位相の回転量に設定してアナログ上のビームフォーミングを実現する。
なお、本図においては明記していないが、例えば送信側のハイパワーアンプ(HPA)等を配置するとすれば、図中の「A」及び「D1」〜「DM」の記述のある点に配置し、受信側のローノイズアンプ(LNA)等を配置するとすれば、図中の「B」及び「E1」〜「EM」の記述のある点に配置することになる。「A」及び「B」に関しては、送受信信号処理回路652−nでは相互に協調することを想定していないので個別のハイパワーアンプ及びローノイズアンプの複素位相の不確定性を除去するキャリブレーション処理は不要だが、「D1」〜「DM」の記述のある点のハイパワーアンプ、及び「E1」〜「EM」の記述のある点のローノイズアンプに関しては、同一の送受信信号処理回路652−n内の各アンテナ素子401−n−1〜M及びアンテナ素子441−n−1〜441−n−Mとの間での複素位相の不確定性の原因となり得るために、従来技術のインプリシットフィードバックのキャリブレーション手法を用いることで、各系統のローノイズアンプの複素位相の不確定性は除去する必要がある。
本発明は任意の手法に対して適用可能であり、キャリブレーション処理の具体的な方法は問わない。このキャリブレーション結果を考慮し、例えば「C1」「C2」等での複素位相の回転量が+10度、+20度等であったとすると、式(1)〜式(3)で得られた複素位相の回転量に対し、−10度、−20度等の補正を行い位相回転量を調整する。なお、このキャリブレーション結果の情報はここでは図示していないキャリブレーション回路にて収集し、位相シフト制御回路406−n、複素位相回転量予測回路410−nないしは相関算出回路405−nにてこの情報を用いて補正を実施する。
また図22と同様に、ダウンコンバータ、A/D変換器を備えていない系統のスイッチ403−n−2、403−n−3、403−n−5〜403−n−Mに関しては、移相器402−n−1〜402−n−Mで行う複素位相の回転量を算出する際の信号処理において接続状態にしたり、ないしはこれらのスイッチ403−n−2、403−n−3、403−n−5〜403−n−Mを省略したりしても、実効的には問題とはならない。
なお、以上の説明は、各アンテナ素子の複素位相の回転をアナログ信号上で実施する場合を中心に説明を行ったが、デジタル信号処理上においても利用することは可能である。この場合、受信信号処理においては全てのアンテナ素子にA/D変換器を実装しているために、少数のアンテナ素子を用いて行った複素位相の回転量評価結果を基にその他のアンテナ素子の複素位相の回転量を求めることに直接的なメリットはないが、送信側の信号処理に関しては、送信アンテナと受信アンテナが物理的に異なる場合には有効に利用することも可能である。
図24は、本発明の第3の実施形態における、デジタル信号処理を用いた送受信信号処理回路653−nの別の構成例を示す機能ブロック図である。図24は、図26及び図27に示した従来技術における時間軸ビームフォーミングを用いた無線局装置の構成例における送受信信号処理回路929−1〜929−Nに対し、本発明を適用するための改良を加えたものである。図26及び図27に示す送受信信号処理回路929−nとの差分は、相関算出回路405−n、複素位相回転量予測回路410−n、送信ウエイト算出回路411−nが新たに追加され、時間軸送信ウエイト乗算回路へ入力する送信ウエイトに関する情報を、送信ウエイト算出回路411−nより与える構成としている点である。
例えば、図16、図17に示す様に送信アンテナと受信アンテナが異なる場合には、受信に用いるA/D変換器925−n―1〜925−n−Mの中の全て又はその一部の幾つかの系統に関するサンプリングデータを相関算出回路405−nに入力し、この情報を基に基準アンテナ素子と他のアンテナ素子との間の相関演算を行う。その相関値は複素位相回転量予測回路410−nに入力され、ここで入力された複素位相とアンテナ素子の座標情報を基に、上述の最小二乗法や線形推定手法により全てのアンテナ素子の複素位相の回転量を推定し、その推定結果を送信ウエイト算出回路411−nに入力する。送信ウエイト算出回路411−nでは、基準アンテナに対する各アンテナ素子の相対的複素位相差をキャンセルするために、その複素位相ψに対しExp(−jψ)に相当する複素数を各アンテナ素子の時間軸送信ウエイトとし、これを時間軸送信ウエイト乗算回路921−nに入力し、時間軸送信ウエイト乗算回路921−nではこの値をアンテナ素子毎に乗算した後にD/A変換器922−n−1〜922−n−Mに入力する。この様にすることで、デジタル信号処理上でも一部の受信アンテナで求めた情報を基に、受信アンテナとは異なる送信アンテナを用いた送信指向性制御が可能になる。
なお、図24では、A/D変換器925−n−1〜925−n−Mから相関算出回路405−nへの入力の系統数を明示していないが、図22及び図23と同様に、全体の一部のアンテナ系統に関するA/D変換器(925−n−1〜925−n−Mの一部)からの信号を入力する構成としても良いし、その全てを入力する構成としても構わない。さらには、図20に示す構成の様に、送信アンテナ565を構成するアンテナ素子群の一部のアンテナ素子568−1〜568−3を受信アンテナとする場合には、該当する受信アンテナのみの出力を相関算出回路405−nへ入力する構成(この場合には、その受信アンテナはユーザデータの受信信号処理に用いなくても良い)としても構わない。
以上説明したように、本実施形態によれば、無線局装置は、全てのアンテナ素子のチャネル情報を取得せず、一部のアンテナ素子のチャネル情報を取得する。無線局装置は、取得したチャネル情報からウエイト情報を算出し、算出したウエイト情報に基づいて他のアンテナ素子のウエイト情報を近似で算出する。これにより、スイッチ等の切り替え機構を新たに備える必要が無く、チャネル情報を取得するために必要となるA/D変換器及びD/A変換器の数を抑えることができる。また、上記のように、他のアンテナ素子のウエイト情報を近似で算出することにより、送信アンテナと受信アンテナとが異なる場合であってもインプリシットフィードバックを利用することができる。そのため、小型化及び低コスト化を図るとともに、送信アンテナと受信アンテナとが異なる場合であってもインプリシットフィードバックを利用することが可能になる。
なお、上述した各実施形態においては無線周波数のアナログ信号上で複素位相の回転を行っていたが、アップコンバータの位置を変更し、ベースバンドまたは中間周波数のアナログ信号に対して複素位相の回転を与え、その後段または前段で無線周波数との周波数変換を行う構成としてもよい。
[実施形態に関する補足事項]
以上説明した本発明の実施形態に関する補足事項を以下に示す。
前述した実施形態における無線局装置をコンピュータで実現する様にしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線の様に、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリの様に、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、更に前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。