本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
以下の実施形態における記号を説明する。
NSDM:空間多重数。
N、M、N’、M’:自然数。
i、j、m、n:主としてアンテナ素子等の通し番号(一般的な整数)。
k:サブキャリアの番号(周波数成分の番号)。
NBS−Ant:基地局装置のアンテナ素子の総数。
N’BS−Ant:基地局装置の第1の送信信号処理部又は第1の受信信号処理部が備えるアンテナ素子の数。
NMT−Ant:端末局装置のアンテナ素子の数。
NAnt:基地局装置又は端末局装置のアンテナ素子の数。
NSC:サブキャリアの数。
NFFT:FFTのポイントの数。
L:距離。
K:ライス係数。
λk:第kサブキャリアの波長。
rji:送信側の第iアンテナ素子と、受信側の第jアンテナ素子との間の距離。
hji、h’ji:送信側の第iアンテナ素子と、受信側の第jアンテナ素子との間のチャネル情報(周波数依存性を持つため、説明上で必要があれば第k周波数成分であることを明示的に示す場合もある)。
d:アンテナ素子同士の間隔。
Δdmn:第nアンテナ素子と第mアンテナ素子の間隔。
ΔLm:第1アンテナ素子を基準とした第mアンテナ素子の経路長差。
c:光速(3×108m/s)。
fc:無線信号の中心周波数[Hz]。
fk:ベースバンド信号の第kサブキャリアの周波数[Hz]。
t:時刻。
W:帯域幅[Hz]。
Δt:サンプリング周期(Δt=1/W)。
ψj(t)、Φj(t):時刻tにおける第jアンテナ素子での受信信号(サンプリング値)。
φj (k)(t):時刻tにおける第jアンテナ素子での第kサブキャリアの受信信号(サンプリング値の中の所定のサブキャリアに着目した値)。
ηk:最小二乗法を用いる場合の2π周期の複素位相を考慮した第kサブキャリアのオフセット値。
um:第m左特異ベクトル。
vm:第m右特異ベクトル。
[第1の実施形態]
[複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いた空間多重伝送]
(第1の実施形態に係る基本原理の概要)
図8でも説明した様に、図8(b)の様な見通し波が支配的な環境の場合には第1特異値と第2特異値の絶対値の間のギャップが大きくなり、第2特異値以上の特異値に相当する伝送路を利用する場合には、ほんの僅かな反射波によるHi.i.d.の成分を用いて稼いだ僅かな回線利得により通信を行うことになる。しかし、例えばビルの壁面に設置された基地局装置から下方の限定的なスモールセルのエリア内を照射する場合には、基地局装置側は指向性利得の高いアンテナを実装する。更に、波長の短いミリ波等の特徴を利用して、指向性利得を得ることが可能な小型のアンテナ素子が端末局装置側に実装されることが予想される状況では、送信側・受信側双方がオムニ指向性のアンテナを実装するマイクロ波帯のシステムなどに比べて、マルチパス成分は非常に限定的となることが予想される。そこで、見通し波のみを考慮した場合のMIMO伝送の特性を整理する。
図15は、基地局装置の100本のアンテナ素子が等間隔に配置されたリニアアレーの例を示す図である。図15において、符号40は無線通信システムであり、符号301は基地局装置であり、符号302は端末局装置である。図15では、基地局装置301の100本のアンテナ素子は、リニアアレー状に実装されている。基地局装置301の100本のアンテナ素子は、長さD1に亘って等間隔に配置されている。また、端末局装置302の16本のアンテナ素子は、長さD2に亘ってリニアアレー状に等間隔に配置されている。
図16は、基地局装置の100本のアンテナ素子が25本ごとの4個のグループに分けて配置されたリニアアレーの例を示す図である。図16において、符号50は無線通信システムであり、符号303は基地局装置、符号302は端末局装置、符号304−1〜304−4は第1の信号処理部、符号305は第2の信号処理部(厳密にはインタフェース回路、MAC層処理回路、通信制御回路などのその他の基地局装置機能を含む)である。図16では、基地局装置303の100本のアンテナ素子は、25本のアンテナ素子ごとの4個のグループに分けられている。同じグループの25本のアンテナ素子は、図15の場合に比べて非常に狭い間隔で、長さD1よりも短い長さD3に亘って、リニアアレー状に配置されている。
図16では、基地局装置303の100本のアンテナ素子は、グループ(25本のアンテナ素子)ごとに、リニアアレー状に実装されている。すなわち、基地局装置303の100本のアンテナ素子は、第1の信号処理部304ごとに、リニアアレー状に実装されている。第1の信号処理部304−1〜304−4は、信号処理により、グループ(25本のアンテナ素子)ごとに一つの指向性ビームを形成する。また、端末局装置302の16本のアンテナ素子は、長さD2に亘ってリニアアレー状に等間隔に配置されている。
ここで、図15と図16とに示すふたつのケースのそれぞれにおいて、四つの信号系統を空間多重(4多重)して伝送する場合の伝送特性を比較する。伝送の特性の把握は、図2(c)に示す各伝送路の利得により把握可能で、これはチャネル行列の特異値分解を行った特異値の絶対値の2乗値に相当する。図15に示すケースでは、例えばダウンリンクを想定し、基地局装置301が送信局11、端末局装置302が受信局12であるものとすれば、チャネル行列のサイズは16×100となる。この行列に対して特異値分解を行う。
一方、図16に示すケースでは下記の手順を想定し、その特性を把握する。まず、基地局装置303は、基地局装置303の各25本のアンテナ素子と、端末局装置302の16本のアンテナ素子とにより形成される16×25のチャネル行列(ダウンリンクの場合)を基に特異値分解を行い、第1右特異ベクトルを用いて送信する、と仮定する。具体的には、基地局装置303は、第1の信号処理部304−1〜304−4に接続された各25本のアンテナ素子と、端末局装置302の16本のアンテナ素子の間の部分チャネル行列H1〜H4を特異値分解する。部分チャネル行列H1〜H4を、式(16)に示す。
ここでの各部分チャネル行列H1〜H4は16×25の行列である。したがって、各右特異ベクトルを形成するvijはそれぞれ25次元ベクトルであり、四つのグループのアンテナ群のi番目のグループの中の第j特異値に対応する右特異ベクトルを表している。同様に、各左特異ベクトルを形成するuijはそれぞれ16次元ベクトルであり、四つのグループのアンテナ群のi番目のグループの中の第j特異値に対応する左特異ベクトルを表しているここで、基地局装置303の全アンテナ素子と端末局装置302との間の全体チャネル行列を、式(17)に示す。
ここでの送信ウエイト行列WTxを、式(18)に示す。
ここでは表記の都合上、送信ウエイト行列WTxのエルミート共役の表現を用いているが、送信ウエイト行列WTx自体のサイズは100×4である。この結果、全体チャネル行列と送信ウエイト行列の積は、式(19)に示される。
ここで、Hivi1は16×1の行列(列ベクトル)であり、式(16)によりλiui1と一致する。この結果、全体チャネル行列と送信ウエイト行列の積の全体のサイズは16×4となる。一般には部分チャネル行列H1〜H4の第1左特異ベクトルはそれぞれ直交していないため、受信時には信号分離のための受信ウエイトを形成して乗算する。ただし、部分チャネル行列H1〜H4の第1左特異ベクトルがそれぞれ概ね直交している環境にある場合には、全体チャネル行列と送信ウエイト行列との積で表される行列を特異値分解した4個の特異値の絶対値の2乗値が、図2(c)の伝送路の回線利得に概ね一致する。ここでの評価では、見通し波のみを考慮した自由空間伝搬モデルにより、チャネル行列の各要素が下記の式(20)で表されるものとする。
ここで、rijは送信側の第iアンテナと受信側の第jアンテナとの間の距離を表し、λは波長を表す。全体の特徴を把握するため、全体に係数として乗算される係数はここでは簡単化のため省略している。
そこで、図16においてL=100m、D1=12m、D2=10cm、D3=30cm、周波数80GHzの場合について、それと同程度のアンテナ開口長で設置した図15の特性を比較する。ここでは回線利得として特異値の絶対値をXとしたとき、回線利得を20Log(X)[dB]として評価する。このとき、図15の4本の回線の利得はそれぞれ−56.5dB、−83.4dB、−118.3dB、−157.2dBであるのに対し、図16に対し上述の処理を施したものはそれぞれ−62.5dBとなる。図15の場合には、図2(c)の第1特異値に相当する利得最大の回線のみが大きな値を持ち、残りの特異値に相当する回線の利得は相対的に小さく、送信電力やアンテナ利得などのパラメータの値にも依存するが、実質的には第1特異値に相当する回線しか利用できない状況にある。これに対し、図16の場合には4本の伝送路がほぼ均等に利用可能であることが分かる。ここで、図15の第1特異値に対する利得と図16の特異値に対する利得差は6dBであるが、これは図16では指向性ビーム形成に用いるアンテナ素子数が100本から25本に1/4となっており、その分の10Log(1/4)=−6dBに相当する。言い換えれば、アンテナ素子群を4分割することにより効率が1/4になるが、シャノン限界によるチャネル容量には、SNRを6dB改善するよりも4本の信号系列を多重化した方が、伝送容量増大の観点では圧倒的に効率が良い。
送信電力やアンテナ利得などのパラメータの値の設定により、第2特異値以降の特異値に相当する回線の回線利得が十分に有効利用可能なほど、反射波成分の受信信号電力が強ければ別だが、一般にはミリ波等の高周波数帯を利用に伴い減少する回線利得を補うためにアンテナ素子数を増大させるのであれば、第2特異値以降の特異値に相当する回線の回線利得が十分であるという状況は一般的には考えにくく、データ伝送としては実質1回線分の伝送を行う図15のケースよりも、4回線分の伝送を並列的に行う図16の方が伝送容量を増大するのに適していると見ることができる。この様にアンテナをグループ化し、それぞれのグループで第1特異値に相当する仮想的伝送路を効率的に利用することが有効である。
(特異値分解とキャリブレーション)
ここで前述の式(14)において、ローノイズアンプやハイパワーアンプの増幅率がアンテナ素子ごとに差がない(ないしは、一定値であると近似可能な)場合について考える。式をシンプルにするために、アップリンクのチャネル行列をHUL、ダウンリンクのチャネル行列をHDL、基地局装置側のキャリブレーション行列をCBS、端末局装置側のキャリブレーション行列をCMTとして、更にアップリンクのチャネル行列HULの特異値分解結果を、式(21)と式(22)に示す。
ここで式(21)の対角項の絶対値はそれぞれの行列で全て等しいものとする。この場合、式(21)の両式はそれぞれユニタリー行列となり、この項はあくまでも座標軸の回転として振る舞うことになる。
ここで、ダウンリンクのチャネル行列HDLは、キャリブレーション行列CBS、CMTとアップリンクのチャネル行列HULを用いて表し、式(22)を代入すると、式(23)に示される。
ここで、右辺のDULの両側の式を、式(24)と式(25)に示す。
キャリブレーション行列の各成分の絶対値が概ね等しい場合には、アップリンクのチャネル行列にキャリブレーションを施してから特異値分解をして送受信ウエイトを求めた結果と、アップリンクのチャネル行列を特異値分解して得られた第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルの各成分に対し、キャリブレーション係数を乗算してキャリブレーション処理を行った結果とが一致することが、式(24)と式(25)から分かる。
つまり、アップリンクのチャネル行列に対して特異値分解を施せば、ダウンリンクに関しては特異値分解を実施しなくても、得られた受信ウエイトベクトル(ないしは行列)の各成分にキャリブレーション処理を施せば、それにより所望の送信ウエイトベクトル(ないしは行列)を取得可能であることが分かる。このため、特異値分解は一度だけ実施すればよいことになる。
(本発明における基地局装置の回路構成について)
以下に、本発明の第1の実施形態における基地局装置303の回路構成を図に従って説明する。
図17は、本発明のMIMOシステムにおける基地局装置70の構成の一例を示す概略ブロック図である。図16では基地局装置303が1台と、端末局装置302が1台とのPoint−to−Point型の1対1通信の場合を例示したが、当然ながら複数の端末局装置302が存在していても構わない。図16の信号の送受信は、着目するサブキャリアで見れば同時に1台の端末局装置302としか通信しておらず、シングルユーザMIMO伝送の形態となり、スケジューリングにより通信対象は一つの端末局装置302が選択される。アクセス制御でOFDMAを用いるのであれば、サブキャリアごとに異なる端末局装置302が割り当てられても良いが、各サブキャリアに着目すれば、一つの端末局装置302に割り当ては限定されている。また、Point−to−Point型の通信で端末が固定されている場合には、スケジューリングにおいて通信相手の端末局装置302を選択する処理は不要になる。本発明の第1の実施形態においては、Point−to−MultiPoint型の1対多通信のマルチユーザMIMO伝送の形態のバリエーションにおいても利用可能であるが、以下の説明ではこの様なバリエーションに関係なく、一般的なシングルユーザMIMO伝送に関する説明を行う。また以下の説明では、説明を簡単にするために広帯域のシステムを想定しOFDMないしはSC−FDEなどの様に周波数軸でのサブキャリアごとの信号処理を行う場合について説明を行うが、その他のシステム(例えば狭帯域のシングルキャリアのシステムなど)においても拡張可能である。
図17に示す様に、基地局装置303に対応する基地局装置70は、第1の送信信号処理部181−1〜181−4と、第2の送信信号処理部71と、第1の受信信号処理部185−1〜185−4と、第2の受信信号処理部75と、インタフェース回路77と、MAC(Medium Access Control)層処理回路78と、及び通信制御回路120とを備えている。MAC層処理回路78はスケジューリング処理回路781を有している。
基地局装置70は、インタフェース回路77を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路77は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路78に出力する。MAC層処理回路78は、基地局装置70全体の動作の管理制御を行う通信制御回路120の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路77で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換と、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路781は、空間多重を行う端末局装置302の各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路781は、スケジューリング結果を通信制御回路120に出力する。MIMO伝送では、複数の信号系列の信号を一度に空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路78から第2の送信信号処理部71に出力される。
第2の送信信号処理部71の動作は後述するが、基本的にはMAC層処理回路78からの複数系列の信号に所定の変調処理を行い、必要に応じて何らかのプリコーディング処理(送信側での等化処理や信号分離などの処理)などを施し、第1の送信信号処理部181−1〜181−4に出力する。この際、OFDMやSC−FDEを用いる場合にかかわらず、第1の送信信号処理部181−1〜181−4にて周波数軸上の信号処理を行う場合には、第2の送信信号処理部71内で周波数軸上の信号を生成し、これを第1の送信信号処理部181−1〜181−4に出力する。後述する第5の実施形態の様に第1の送信信号処理部で時間軸上の信号処理を行う場合には、時間軸の信号を出力する構成としても良い。第1の送信信号処理部181−1〜181−4はそれぞれ図16に示す様に複数のアンテナが接続され、それぞれのアンテナに対して送信信号を出力する。この際、第1の送信信号処理部181−1〜181−4ごとにグループ化されたアンテナ素子群の中で、第1の特異値に相当する送信ウエイトベクトルを乗算した信号(厳密には、例えばOFDMであれば各サブキャリアの信号を合成した信号を時間軸成分に変換し、これを無線周波数にアップコンバートした信号)が各アンテナから送信される。
次に受信時においては、各第1の受信信号処理部185−1〜185−4に接続された複数のアンテナで受信した信号(正確には受信した無線周波数の信号をベースバンド信号にダウンコンバートし、例えばOFDMであればこの時間軸信号をFFTで周波数軸の信号に変換したもの)に所定の受信ウエイトベクトルを乗算し、サブキャリアごとに一つの複素スカラー量に変換し、これらを第2の受信信号処理部75に出力する。第2の受信信号処理部75では、この例では4本の受信信号系列を参照し、まずは受信信号の先頭に付与された既知のトレーニングシング信号を用いてサブキャリアごとのチャネル推定を行い、4×4のMIMOチャネル行列をサブキャリアごとに取得する。このチャネル行列を基に受信ウエイト行列を算出し、取得された受信ウエイト行列を基に送信された信号の検出処理を行う。例えば、ZF(Zero Forcing)型の逆行列を利用したり、MMSE(Maximum Mean Square Error)型の受信ウエイト行列を利用したりする。信号処理に余裕があれば、MLD(Maximum Likelihood Detection)やQR分解を用いた簡易MLD(QR-MLD)等を用いても良い。この受信信号処理で検出された信号はMAC層処理回路78に出力され、所定のMAC層の処理を行い、インタフェース回路77を介してネットワーク側に出力される。
図18は、本発明の第1の実施形態の基地局装置70における第1の送信信号処理部181の構成の一例を示す概略ブロック図である。図18に示す様に、第1の送信信号処理部181は、第1の送信信号処理回路111と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−N’BS−Antと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−(N’BS−Ant)と、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)と、フィルタ817−1〜817−(N’BS−Ant)と、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−(N’BS−Ant)と、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)と、第1の送信ウエイト処理部130とを備えている。N’BS−Antは、基地局装置70のアンテナ素子の総数を空間多重数で除算した値(=NBS−Ant/NSDM)である。N’BS−Antは、端的に言えば一つの第1の送信信号処理部181が備える複数のアンテナ素子の数を表す。第1の送信信号処理回路111は図17において示した第2の送信信号処理部71に接続されている。また、第1の送信信号処理回路111と、第1の送信ウエイト処理部130とは、図17において示した第2の送信信号処理部71を介して通信制御回路120に接続されている。図17の例では、基地局装置70に4個の第1の送信信号処理部(181−1〜181−4)が接続されているが、その一つに着目した説明を下記で行う。
第1の送信ウエイト処理部130は、第1のチャネル情報取得回路131と、第1のチャネル情報記憶回路132と、第1の送信ウエイト算出回路133とを備えている。ここで、IFFT&GI付与回路813−1〜813−(N’BS−Ant)からアンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)までの回路の添え字の(N’BS−Ant)は、基地局装置70の第1の送信信号処理部181が備えるアンテナ素子数を表す。
第1の実施形態に係る本発明では、一つの端末局装置302宛に複数系統NSDM(=4)の信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路78から第2の送信信号処理部71を介して各第1の送信信号処理部181−1〜181−4に送信信号が入力される。第2の送信信号処理部71では、宛先の端末局装置302に送信すべきデータがMAC層処理回路78から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号はサブキャリアごとに変調処理が行われる。変調処理が行われた信号は、必要に応じてプリコーディング処理を行う。ここでのプリコーディング処理とは、複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路間での信号の漏れ込みを抑圧するための送信ウエイト行列の乗算であっても良い。又は、この様なプリコーディング処理を行わなくても良い。
この様にして生成されたNSDM系統の信号は、各第1の送信信号処理部181−1〜181−4に入力される。各第1の送信信号処理部181−1〜181−4では、入力されたデジタルベースバンド信号入力#i(iは、1〜NSDM)が第1の送信信号処理回路111−iに入力される。第1の送信信号処理回路111では、基本的に送信ウエイトの乗算と、残りの物理レイヤの信号処理を行う。例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、入力された変調処理がなされたベースバンド信号にサブキャリアごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)に対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、IFFT&GI付与回路813−1〜813−(N’BS−Ant)にて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換される。変換された信号は、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)ごとに、D/A変換器814−1〜814−(N’BS−Ant)でデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)で乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−(N’BS−Ant)で帯域外の信号を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−(N’BS−Ant)で増幅され、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)より送信される。
なお、第1の送信信号処理回路111で乗算される送信ウエイトベクトルは、信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部130に備えられている第1の送信ウエイト算出回路133より取得する。第1の送信ウエイト処理部130では、第1のチャネル情報取得回路131において、第1の受信信号処理部185−1〜185−4にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120経由(厳密には第2の受信信号処理部75及び第2の送信信号処理部71も合わせて経由する)で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、第1のチャネル情報記憶回路132に記憶する。信号の送信時には通信制御回路120からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路133は、宛先とする端末局装置に対応したチャネル情報を第1のチャネル情報記憶回路132から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを算出する。
第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する場合のチャネル推定の方法及び送受信ウエイトの算出方法には幾つかのバリエーションがあり、これを効率的に取得する手法についての詳細は後述する。その一例としては、送信ウエイトベクトルは、例えば取得したチャネル行列に対して特異値分解を行い、その結果得られる第1右特異ベクトルを用いても良い。
ないしは、端末局装置302側のアンテナの中心部分の1本に着目し、その1本のアンテナと基地局装置70の1の受信信号処理部(185−1〜185−4のいずれかひとつ)の備えるアンテナ素子819−1〜819−4とN’BS−Antとの間のチャネルベクトルを基に、送信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。
ないしは、送信側が複数のアンテナ素子に所定の送信ウエイトベクトルを乗算して信号送信している場合には、実際には複数の送信アンテナから送信されているにも関わらず、実効的には1本の仮想的アンテナ素子から送信されたものと等価であるため、所定の送信ウエイトベクトルを乗算してこの1本の仮想的アンテナ素子からトレーニング信号を送信し、この1本の仮想的アンテナ素子と各受信アンテナとの間のチャネル情報のベクトルを取得し、このベクトルを基に受信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。
受信時のチャネルベクトルが既知であれば、インプリシット・フィードバックの手法でアップリンクのチャネル情報を取得することが可能であり、この様にして求めたアップリンクのチャネルベクトルを基に、送信ウエイトベクトルを同様に算出しても良い。また同様に、アップリンクの受信ウエイトベクトルを基に、これに直接キャリブレーション処理を施すインプリシット・フィードバックの手法で、送信ウエイトベクトルを算出しても良い。
第1の送信ウエイト算出回路133は、この様にして算出した送信ウエイトベクトルを第1の送信信号処理回路111に出力する。また、宛先とする端末局装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。上述の送信ウエイトの算出に係る信号処理を行う第1の送信ウエイト処理部130に対し、通信制御回路120は宛先とする端末局装置等を示す情報を出力する。
なお、上述の説明では第1のチャネル情報取得回路131において、第1の受信信号処理部185−1〜185−4にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120経由で取得し、このチャネル情報を逐次更新するとして説明したが、チャネル時変動が無視可能な高所の見通し環境であれば、頻繁にチャネル情報の更新は必要ない。第1のチャネル情報取得回路131は、例えばサービス運用開始前に事前にチャネル情報を取得しておき、更にそのチャネル情報の値から算出した送信ウエイトベクトルを記憶しておき(図中には記載がないが、この場合には「送信ウエイト記憶回路」を実装して記録する構成にて実現する)、それを繰り返し利用することとしても構わない。また、これらの中間として、基本的に第1の送信ウエイト記憶回路から送信ウエイトベクトルを読み出す構成としながらも、逐次取得したチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを更新し、その更新されたチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを所定の時間間隔で更新する構成とすることも可能である。
図19は、本発明の第1の実施形態における基地局装置70における第1の受信信号処理部185の構成の一例を示す概略ブロック図である。図19に示す様に、第1の受信信号処理部185は、アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)と、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−(N’BS−Ant)と、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)と、フィルタ855−1〜855−(N’BS−Ant)と、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)と、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−(N’BS−Ant)と、第1の受信ウエイト処理部160と、第1の受信信号処理回路158とを備えている。また、第1の受信信号処理回路158−1〜158−NSDM(=4)は、図17において示した第2の受信信号処理部75に接続されている。また、第1の受信信号処理回路158−1〜158−NSDM(=4)と、第1の受信ウエイト処理部160とは、図17において示した第2の受信信号処理部75を介して通信制御回路120に接続されている。第1の受信ウエイト処理部160は、第1のチャネル情報推定回路161と、第1の受信ウエイト算出回路162とを備えている。なお、第1の送信信号処理部181の説明と同様に、図17の例では基地局装置70に4個の第1の受信信号処理部(185−1〜185−4)が接続されているが、その一つに着目した説明を下記で行う。
まず、アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)で受信した信号をローノイズアンプ852−1〜852−(N’BS−Ant)で増幅する。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)で乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の信号も含まれるため、フィルタ855−1〜855−(N’BS−Ant)で帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)でデジタルベースバンド信号に変換される。デジタルベースバンド信号は、例えばOFDMの場合には全てFFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)に入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各サブキャリアの信号に分離)する。この各サブキャリアに分離された信号は、第1の受信信号処理回路158に入力されると共に、第1のチャネル情報推定回路161にも入力される。なお、図19ではOFDMのシンボルタイミング検出のための回路は省略しているが、既存の何らかの手法でシンボルタイミングの把握は可能である。
第1のチャネル情報推定回路161では、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各端末局装置302のアンテナ素子と、基地局装置70の各アンテナ素子851との間のチャネル情報をサブキャリアごとに推定し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路162に出力する。第1の受信ウエイト算出回路162では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトベクトルをサブキャリアごとに算出する。この際、各アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)で受信された信号を合成する受信ウエイトは、第1の受信信号処理部185−1〜185−NSDM(=4)ごとに異なり、第1の受信信号処理部185−1〜185−NSDMそれぞれ個別に算出する。
第1の受信信号処理回路158では、FFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)から入力されたサブキャリアごとの信号(正確には、複数のアンテナ素子からの信号を要素とする受信信号ベクトル)に対し、第1の受信ウエイト算出回路162から入力された受信ウエイト(正確には、複数のアンテナ素子に対応する受信ウエイトを要素とする受信ウエイトベクトル)を乗算し、乗算した結果である各アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)で受信された信号をサブキャリアごとに加算合成する。第1の受信信号処理回路158は、加算合成した信号を第2の受信信号処理部75に出力する。なお、ここでの加算合成は、サブキャリアごとのベクトル積におけるベクトルの各成分の乗算後の加算を意味し、受信信号と受信ウエイトの乗算とその結果の加算合成全体が、数学的にはベクトル積の処理に対応する。
なお、第1の受信信号処理回路158で乗算される受信ウエイトベクトルは、信号受信処理時に、第1の受信ウエイト処理部160に備えられている第1の受信ウエイト算出回路162より取得する。第1の受信ウエイト処理部160では、第1のチャネル情報推定回路161において取得されたチャネル情報を用い、第1の受信ウエイト算出回路162にて受信ウエイトベクトルを算出する。例えば、端末局装置302が第1の受信信号処理部185の複数のアンテナ素子851に向けて第1特異値に対応する仮想的伝送路で信号送信を行っているのであれば、端末局装置302は第1特異値に対応する仮想的伝送路用の送信ウエイトを用いて1本の仮想的なアンテナ素子を用いて各第1の受信信号処理部185に向けて送信している様なものなので、その1本のアンテナと第1の受信信号処理部185の複数のアンテナ素子851との間の受信側のチャネル情報を求め、このチャネルベクトルに対し受信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。ないしは、端末局装置302の備えるアンテナ素子と基地局装置70の備える第1の受信信号処理部185のそれぞれの複数のアンテナ素子851との間のチャネル行列に対し、特異値分解して得られる第1左特異ベクトルのそれぞれを受信ウエイトベクトルとして用いても良い。
第1の受信ウエイト算出回路162は、この様にして算出した受信ウエイトベクトルを第1の受信信号処理回路158に出力する。また、送信元局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。
なお、上述の説明では第1のチャネル情報推定回路161において取得したチャネル情報を用いて逐次受信ウエイトを算出するとして説明したが、チャネル時変動が無視可能な高所の見通し環境であれば、頻繁なチャネル情報の更新は必要ない。第1のチャネル情報推定回路161は、例えばサービス運用開始前に事前にチャネル情報を取得しておき、そのチャネル情報の値から算出した受信ウエイトベクトルを記憶しておき(図中には記載がないが、この場合には「第1の受信ウエイト記憶回路」を第1の受信ウエイト算出回路162の後段に実装して記録する構成にて実現する)、それを繰り返し利用することとしても構わない。この場合には、受信ウエイトの出力を行う第1の受信ウエイト記憶回路に対し、通信制御回路120は送信元の端末局装置等を示す情報を出力する。また、これらの中間として、基本的に第1の受信ウエイト記憶回路から受信ウエイトベクトルを読み出す構成としながらも、逐次取得したチャネル情報を基に受信ウエイトベクトルを更新し、その更新されたチャネル情報を基に受信ウエイトベクトルを所定の時間間隔で更新する構成とすることも可能である。
なお、図17における第2の受信信号処理部75では、前述の第1の受信信号処理部185−1〜185−4からの受信ウエイトベクトルが乗算されて各1系統に集約された受信信号が入力されるが、これらは実質的に4×4のMIMOチャネルの受信信号と等価であり、従来技術の受信信号検出処理により空間多重された信号系列の処理を行うことが可能である。具体的には、送信側で送信される4系統の信号系列に対し、受信側(基地局装置70側)の複数本アンテナで構成された4組の仮想的アンテナで受信した場合の4×4のMIMOチャネルに対し、受信信号の先頭に付与されたチャネル推定用の既知のトレーニング信号で4×4のチャネル行列をサブキャリアごとに取得する。このチャネル行列を基に受信ウエイト行列を算出し、取得された受信ウエイト行列を基に送信された信号の検出処理を行う。例えば、ZF(Zero Forcing)型の逆行列を利用したり、MMSE(Maximum Mean Square Error)型の受信ウエイト行列を利用したりする。信号処理に余裕があれば、MLD(Maximum Likelihood Detection)やQR分解を用いた簡易MLD(QR-MLD)等を用いても良い。また、ここでの信号検出処理では、例えば一旦受信信号の軟判定を行い、必要に応じてデインタリーブ処理を行い、その後に誤り訂正処理を行うなどして最終的な信号検出を行う構成としても良い。この受信信号処理で検出された信号はMAC層処理回路78に出力され、所定のMAC層の処理を行い、インタフェース回路77を介してネットワーク側に出力される。
また、MAC層処理回路78は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路77に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。Point−to−Point型の通信の場合にはスケジューリング処理回路781は実質的には不要であるが、複数の端末局装置302との間でPoint−to−MultiPoint型の通信を行う場合には、通信を行う端末局装置302を選択する各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路120に出力する。MAC層処理回路78にて処理された受信データは、インタフェース回路77を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
また、送信元の端末局装置302の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う第1の受信ウエイト処理部160に対し、通信制御回路120から送信元の端末局装置等を示す情報が入力される。
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC−FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算はサブキャリアごとに行われる。つまりA/D変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)から出力される信号に対し、FFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)でFFTを行い各サブキャリアに分離し、分離したサブキャリアごとに、第1のチャネル情報推定回路161での信号処理、及び、第1の受信信号処理回路158での受信信号処理が実施されることになる。
以上が本発明の第1の実施形態における基地局装置70の説明である。ここで重要なのは、第1の送信信号処理部181におけるローカル発振器815が同一の第1の送信信号処理部181内の各アンテナ系統におけるミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)で共通化されている点、一方で異なる第1の送信信号処理部181間ではローカル発振器815は共通化されていない点である。また同様に、第1の受信信号処理部185におけるローカル発振器853が同一の第1の受信信号処理部185内の各アンテナ系統におけるミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)で共通化されている点、一方で異なる第1の受信信号処理部185間ではローカル発振器853は共通化されていない点も重要である。図16に示す様に、一般に第1の送信信号処理部181−1〜181−4(図16では第1の信号処理部304−1〜304−4)は物理的に数メートルのオーダーで離れて設置されることが想定され、ミリ波等の高い周波数帯ではケーブルで取り回した際の損失が1メートル当たり10dB以上と非常に大きい。第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185に接続されるアンテナ素子が多数であるため、ミキサ816や854には信号を複数系統に分岐させて入力させる必要があるが、この分岐に伴うレベルの低下を考えると、数メートル単位のケーブル長の損失は無視できないため、個別の第1の送信信号処理部181及び個別の第1の受信信号処理部185内に閉じてローカル発振器815及び853をそれぞれ共用化し、異なる第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185間では共用化しない構成が有効である。
ここで、各アンテナでは指向性制御のために送受信信号の位相を調整することになるが、同一の第1の送信信号処理部181−1〜181−4(図16では第1の信号処理部304−1〜304−4)内では、それぞれのローカル発振器815ないしはローカル発振器853から入力される信号の位相関係が常に一定になる様にすることが容易であり、ローカル発振器815ないしはローカル発振器853に依存しない部分で、どの様な位相関係となる様に送受信ウエイトを乗算すれば良いかが判断可能となる。しかし、ローカル発振器815が第1の送信信号処理部181内で(又はローカル発振器853が第1の受信信号処理部185内で)非同期のものを複数利用する場合には、少なくとも第1の送信信号処理部181において送信ウエイトを乗算する際に、複数のローカル発振器815(又は853)の間の複素位相関係を考慮して調整する必要があり、この調整を怠ると指向性制御が効果的に機能しなくなる。装置の設計においては、この点に注意が必要である。本発明の第1の実施形態では、同一の第1の送信信号処理部181では上述の理由でローカル発振器815を共通化し、同一の第1の受信信号処理部185では上述の理由でローカル発振器853を共通化するが、空間多重する4系統の信号系列間の信号分離は受信側において実施することが可能であるため、マルチユーザMIMOの様に送信側で完全な信号分離を実施する必要はない。
なお、この様に受信側での信号処理で基本的に複数の信号系列は分離可能であるが、例えばチャネルのフィードバックなどで第1の送信信号処理部181−1〜181−4の間の位相関係が既知であるならば、送信側で事前に信号分離の送信ウエイト行列を乗算(すなわち送信プリコーディング)することも可能である。この場合には、基地局装置70の第2の送信信号処理部71にてこの送信ウエイト行列を乗算することになる。この送信ウエイト行列の算出においては、第2の受信信号処理部75により取得された受信ウエイトベクトルを乗算した後の4系統の信号系列に関するアップリンクのチャネル情報を基にキャリブレーション処理を用いて取得しても構わない。ただし、前述の様にダウンリンクにおいても受信側の端末局装置302では送信信号に付与されたトレーニング信号によりチャネル行列が取得可能であるため、受信側での信号処理を活用すれば、必ずしも第2の送信信号処理部71での送信ウエイト行列の乗算は必要ではない。
(本発明における端末局装置302に対応する端末局装置60の回路構成について)
図20は、本発明の第1の実施形態における、端末局装置302に対応する端末局装置60の構成の一例を示す概略ブロック図である。図20に示す様に、端末局装置60は、送信部61、受信部65、インタフェース回路67、MAC(Medium Access Control)層処理回路68、及び通信制御回路121を備えている。
端末局装置60は、インタフェース回路67を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路67は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路68に出力する。MAC層処理回路68は、端末局装置60全体の動作の管理制御を行う通信制御回路121の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路67で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。MIMO伝送では、一つの端末局装置60宛に信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路68から送信部61に出力される。
図21は、本発明の第1の実施形態における端末局装置60における送信部61の構成の一例を示す概略ブロック図である。図21に示す様に、送信部61は、送信信号処理回路811−1〜811−NSDM(NSDMは2以上の整数)と、加算合成回路812−1〜812−NMT−Ant(NMT−Antは2以上の整数)と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−NMT−Antと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−NMT−Antと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−NMT−Antと、フィルタ817−1〜817−NMT−Antと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−NMT−Antと、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antと、第1の送信ウエイト処理部140とを備えている。送信信号処理回路811−1〜811−NSDMと、第1の送信ウエイト処理部140とは、図20において示した通信制御回路121に接続されている。
第1の送信ウエイト処理部140は、チャネル情報取得回路141と、チャネル情報記憶回路142と、第1の送信ウエイト算出回路143とを備えている。ここで、図21における送信信号処理回路811−1〜811−NSDMの添え字のNSDMは、同時に空間多重を行う多重数を表す。また、加算合成回路812−1〜812−NMT−Antからアンテナ素子819−1〜819−NMT−Antまでの回路の添え字のNMT−Antは、端末局装置60が備えるアンテナ素子数を表す。NMT−Antは、例えば、16である。
第1の実施形態では、一つの端末局装置60が基地局装置70宛に信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路68から送信部61に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに入力される。送信信号処理回路811−1〜811−NSDMは、宛先の基地局装置70に送信すべきデータ(データ入力#1〜#NSDM)がMAC層処理回路68から無線回線で送信するデータ(無線パケット)が入力されると、これに対して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号はサブキャリアごとに変調処理が行われる。更に、変調処理がなされたベースバンド信号にサブキャリアごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして各送信信号処理回路811−1〜811−NSDMから加算合成回路812−1〜812−NMT−Antに入力される。
加算合成回路812−1〜812−NMT−Antに入力された信号は、サブキャリアごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NMT−Antにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antごとに、D/A変換器814−1〜814−NMT−Antでデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−NMT−Antで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の領域に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−NMT−Antで帯域外の信号を除去し、送信すべき信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−NMT−Antで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antより送信される。
なお、図21では、各サブキャリアの信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−NMT−Antで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにてこれらの処理を行い、IFFTされた時間軸上のサンプリング信号を加算合成回路812−1〜812−NMT−Antで合成することとして、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NMT−Antを省略する構成(厳密には、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにこれらを含める)としてもよい。この場合、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにおける送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を指す。
また、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMで乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部140に備えられている第1の送信ウエイト算出回路143より取得する。第1の送信ウエイト処理部140では、チャネル情報取得回路141において、受信部65にて取得されたチャネル情報を通信制御回路121経由で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路142に記憶する。信号の送信時には通信制御回路121からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路143は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路142から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。第1の送信ウエイト算出回路143は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに出力する。なお、通常の通信では端末局装置が通信する相手は特定の基地局装置に限られるため、上述の説明では宛先とする端末局装置に関する管理を明示的に示したが、通信の宛先局が単一であるものとして処理を行うことも当然可能である。
なお、第1の実施形態に係る本発明の特徴は、送信ウエイトの算出において、端末局装置60と基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4との間で、第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用することである。この第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する場合のチャネル推定の方法及び送受信ウエイトの算出方法には幾つかのバリエーションがあり、これを効率的に取得する手法については、詳細は後述する。例えば、端末局装置60から基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4に向けてのアップリンクでの各チャネル行列に対し、特異値分解した際の第1右特異ベクトルを送信ウエイトベクトルに用いても良い。この場合、第1の送信ウエイト算出回路143はこの第1右特異ベクトルを算出する機能を有することになる。
ないしは、基地局装置70側が第1の送信信号処理部181−1〜181−4のそれぞれの複数のアンテナ素子に所定の送信ウエイトベクトルを乗算して信号送信している場合には、実際には複数の送信アンテナから送信されているにも関わらず、実効的には第1の送信信号処理部181−1〜181−4のそれぞれが1本の仮想的アンテナ素子から送信しているものと等価である。このため、この1本の仮想的アンテナ素子と端末局装置60の各受信アンテナとの間のチャネル情報のベクトルを取得し、このチャネルベクトルにキャリブレーション処理を施すインプリシット・フィードバックの手法でアップリンクのチャネル情報を取得することも可能である。第1の送信ウエイト算出回路143は、この様にして求めたアップリンクのチャネルベクトルを基に、式(7)に示す様にこのチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルのいずれかを、送信ウエイトベクトルとして利用しても良い。
なおこの代替として、第1の送信ウエイト算出回路143は、端末局装置60と、基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の中の1本のアンテナ素子との間で受信側のチャネル情報のチャネルベクトルを求め、式(7)に示す様にこのチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルのいずれかを、送信ウエイトベクトルとして利用しても構わない。また、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路121が管理する。
図22は、本発明の第1の実施形態における端末局装置60における受信部65の構成の一例を示す概略ブロック図である。図22に示す様に、受信部65は、アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−NMT−Antと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−NMT−Antと、フィルタ855−1〜855−NMT−Antと、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−NMT−Antと、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−NMT−Antと、受信信号処理回路145−1〜145−NSDMと、第1の受信ウエイト処理部144とを備えている。受信信号処理回路145−1〜145−NSDMと、第1の受信ウエイト処理部144とは、図20において示した通信制御回路121に接続されている。第1の受信ウエイト処理部144は、第1のチャネル情報推定回路146と、第1の受信ウエイト算出回路147とを備えている。
まず、アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信した信号は、ローノイズアンプ852−1〜852−NMT−Antで増幅される。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−NMT−Antで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の信号も含まれるため、フィルタ855−1〜855−NMT−Antで帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−NMT−Antでデジタルベースバンド信号に変換される。例えばOFDMを用いる場合には、デジタルベースバンド信号はFFT回路857−1〜857−NMT−Antに入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各サブキャリアの信号に分離)する。この各サブキャリアに分離された信号は、受信信号処理回路145−1〜145−NSDMに入力されると共に、第1のチャネル情報推定回路146にも入力される。
第1のチャネル情報推定回路146では、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の各送信ウエイトベクトルにより形成される仮想的アンテナ素子と、端末局装置60の各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antとの間のチャネル情報のチャネルベクトルをサブキャリアごとに推定し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路147に出力する。第1の受信ウエイト算出回路147では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトをサブキャリアごとに算出する。この受信ウエイトに関しては、例えば前述の様に、ZF型の擬似逆行列を利用したり、MMSE型の受信ウエイト行列を利用したりする。この際、各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信された信号を合成するための受信ウエイトベクトルは、信号系列ごとに異なり、上述のZF型の擬似逆行列ないしはMMSE型の受信ウエイト行列などの行ベクトルに相当し、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路145−1〜145−NSDMにそれぞれ入力される。
受信信号処理回路145−1〜145−NSDMでは、FFT回路857−1〜857−NMT−Antから入力されたサブキャリアごとの信号に対し、第1の受信ウエイト算出回路147から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信された信号をサブキャリアごとに加算合成する。受信信号処理回路145−1〜145−NSDMは、加算合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路68に出力する。
ここで、異なる受信信号処理回路145−1〜145−NSDMでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、複数の受信信号処理回路145−1〜145−NSDMにまたがった受信信号処理として、MLDやQR分解を用いた簡易MLD等を用いても良い。また、MAC層処理回路68は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路67に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。MAC層処理回路68にて処理された受信データは、インタフェース回路67を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。また、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路121が管理する。
ここで、送信側と同様に受信時の端末局装置60側においても第1特異値に対応する仮想的伝送路を意識的に利用する信号処理とすることも可能である。図23に、第1の実施形態における端末局装置60における受信部65の別の構成の一例を示す。
図23において、符号154は第1の受信ウエイト処理部、符号155は第1の受信信号処理回路、符号156は第1のチャネル情報推定回路、符号157は第1の受信ウエイト算出回路、符号159は第2の受信信号処理回路を示し、その他は図22と同様である。先の説明においては、第1の受信ウエイト算出回路157ではNSDM系統の信号系列を直接信号分離するための受信ウエイトを算出するものとして説明したが、一旦、第1特異値に対応する仮想的伝送路で信号分離を行いながら、それでも残る信号系列間の残留干渉を2段階で除去することも可能である。
この場合、第1の受信ウエイト算出回路157では、例えば基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の各アンテナ素子から端末局装置60の各アンテナ素子に向けてのチャネル情報を取得できる場合、このチャネル情報を成分とするチャネル行列に対し、特異値分解した際の第1左特異ベクトルを受信ウエイトベクトルとして算出する。ないしは、第1の送信信号処理部181−1〜181−4が送信ウエイトベクトルを乗算することで形成される1本の仮想的アンテナ素子を活用して信号送信をしている場合には、その対応する仮想的アンテナ素子と端末局装置60の各アンテナ素子との間のチャネルベクトルを求め、このベクトルを基に受信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。
そして、この様にして求めた受信ウエイトベクトルを、各第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMに対して入力する。ただし、この後段では第2の受信信号処理回路159にて残留干渉を分離する信号処理を実施するため、リアルタイムで頻繁に受信ウエイトベクトルを更新する必要はなく、例えば100ms周期程度の、見通し波のチャネル情報が急激には変動しないと期待される時間領域において、共通の受信ウエイトベクトルを使いまわすことも可能である。
第1のチャネル情報推定回路156及び第1の受信ウエイト算出回路157では、この様な視点から逐次受信ウエイトを更新するのではなく、例えばある程度のチャネル推定結果を第1のチャネル情報推定回路156で平均化することでチャネル推定精度を向上させ、その平均化されたチャネル情報を基に所定の周期で第1の受信ウエイト算出回路157は第1の受信ウエイトベクトルを算出し、これを第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMに対して入力する構成とすることも可能である。この場合には、平均化に際してはチャネル情報は基準アンテナ(例えば第1アンテナ)の複素位相を基準とする相対チャネル情報(ないしは、各チャネル情報を基準アンテナのチャネル情報で除算したものと考えても良い)を活用することが好ましい。
第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMでは、これらの第1特異値に対応する仮想的伝送路からの信号を第2の受信信号処理回路159に入力する。この第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMと第2の受信信号処理回路159の機能分担は、図17に示した基地局装置の第1の受信信号処理部185と第2の受信信号処理部75の関係に類似している。すなわち、アンテナ素子数NMT−Antに相当する膨大な受信信号の信号を、第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMにて空間多重された信号系列数NSDMに縮小した信号に変換して第2の受信信号処理回路159に入力し、第2の受信信号処理回路159では次元が縮小された空間内での一般的なMIMO信号処理を実施する。
具体的には、第2の受信信号処理回路159は、受信信号の先頭に付与された既知のトレーニング信号を参照し、NSDM系統の信号系列に対しNSDM×NSDMのチャネル行列を取得し、そのチャネル行列を基に受信信号検出処理を行う。先にも示した様に、第2の受信信号処理回路159は、ZF型の逆行列やMMSE型の線形受信ウエイト行列を乗算すること、ないしはMLDや簡易MLD(QR−MLD等)などの非線形の信号処理を行うことも可能である。第2の受信信号処理回路159は、この様に信号分離されたNSDM系統の信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路68に出力する。これは基地局装置の第2の受信信号処理部75の信号処理と同等である。
ここで、基地局装置70の第2の受信信号処理部75ないしは端末局装置60の第2の受信信号処理回路159における装置構成の例(基本的に処理は基地局装置と端末局装置で共通である)を図24に示す。基本的な動作は上述の通りであり、NSDM本の第1特異値に対応する仮想的伝送路の受信信号としてNSDM系列の信号系列が第2の受信信号処理回路190(図23の第2の受信信号処理回路159に相当)に入力(ここでは明示していないが、各サブキャリアの信号が入力されて、同様の信号処理を行うことになる)されると、チャネル行列取得回路191では受信信号の先頭に付与された既知のトレーニング信号を参照し、NSDM系統の信号系列に対しNSDM×NSDMのチャネル行列を取得する。受信ウエイト行列算出回路192は、そのチャネル行列を基に受信ウエイト行列をZF型の逆行列やMMSE型の線形受信ウエイト行列として算出し、これを受信ウエイト行列乗算回路193に入力する。受信ウエイト行列乗算回路193は、後続するデータに受信ウエイト行列を乗算し、異なる仮想的伝送路間のクロストーク成分である干渉信号を抑圧する。信号検出回路194は、SINR特性が高められた各信号に対して信号検出を行う。ここでの信号検出とは一般的な復調処理を意図する。例えば受信信号の軟判定を行い、デインタリーブの後に誤り訂正を行い、最終的な信号検出を行う。複数の信号系列に展開されてパラレル伝送されたデータはパラレル/シリアル変換で1系列のデータに変換され、これらをMAC層処理回路に出力する。なお、ここでは典型的な例として線形の信号処理の例を示したが、信号検出回路194は、MLDないしQR−MLDなどの非線形の信号処理を行うことも可能である。
なお、基地局装置70の構成の説明において図17の第2の送信信号処理部71を明示的に示した様に、端末局装置60側においても、図25に示す様に図21に第2の送信信号処理回路148を追加し、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMを第1の送信信号処理回路821−1〜821−NSDMに置き換え、更に第1の送信ウエイト算出回路143を送信ウエイト算出回路149に置き換えることも可能である。この場合、図21に示す第2の送信信号処理回路148は図17の第2の送信信号処理部71の機能を備え、第2の送信信号処理回路148では無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う処理を行うと共に、各第1特異値に対応する仮想的伝送路間の信号の漏れ込みを補償するための送信ウエイト行列を送信ウエイト算出回路149から取得し、NSDM系統の送信信号ベクトルに送信ウエイト行列を乗算する処理(送信プリコーディング)を施し、第1の送信信号処理回路821に出力する。一方、第1の送信信号処理回路821−1〜821−NSDMでは、第2の送信信号処理回路148から入力されたNSDM系統の送信信号のそれぞれに、第1特異値に対応する仮想的伝送路を形成するための送信ウエイトを乗算する構成となる。ここで、送信ウエイト算出回路149の機能としては、第1の送信信号処理回路821−1〜821−NSDMにて第1特異値に対応する仮想的伝送路を形成するための送信ウエイトを算出する機能と、各第1特異値に対応する仮想的伝送路間の信号の漏れ込みを補償するための送信ウエイト行列を算出するための機能を両方備えることになる。この場合の送信ウエイト行列は、例えばキャリブレーション処理を伴うインプリシット・フィードバックを用いる手法、ないしは直接的なエクスプリシット・フィードバックを用いる手法などで取得したチャネル情報を基に求められる。
第1の実施形態に係る本発明の特徴は、端末局装置60と基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4との間で、第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用することである。したがって、端末局装置60から基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4に向けての各チャネル行列に対し、特異値分解した際の第1右特異ベクトルに送信ウエイトベクトルを用いることになり、第1の送信ウエイト算出回路143はこの第1右特異ベクトルを算出する機能を有することになる。なお、この第1右特異ベクトルの近似解として、詳細は後述するが、基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の中の1本のアンテナ素子との間でチャネルベクトルを求め、このチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルのいずれかを、送信ウエイトベクトルとして利用しても構わない。本来、基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4のアンテナ素子群が全体で仮想的な指向性アンテナを形成することになるが、その代替としてこの手法は例えばそのアンテナ素子群の中の物理的に中央付近に存在するアンテナ1本で代表した場合を近似解と見なすことに相当する。この場合、近似解のウエイトは厳密解のウエイトとは異なるものとなるのであるが、シミュレーションで評価すればその結果得られる利得は後述する様に極端に大きな劣化がある訳ではない。
以上が、第1の実施形態における端末局装置60、送信部61、及び受信部65の構成の説明である。ここで重要なのは、送信部61におけるローカル発振器815が送信部61の各アンテナ系統におけるミキサ816−1〜816−NMT−Antで共通化されている点、受信部65におけるローカル発振器853が受信部65の各アンテナ系統におけるミキサ854−1〜854−NMT−Antで共通化されている点である。指向性制御においてはアンテナ素子ごとで送受信信号の位相を調整することになるが、それぞれのローカル発振器815ないしはローカル発振器853から入力される信号の位相関係が常に一定になる様にすることで、どの様な位相関係で送受信ウエイトを乗算すれば良いかが判断可能となる。一方、ローカル発振器815ないしはローカル発振器853が送信部61内又は受信部65内で非同期のものを複数利用する場合には、少なくとも送信部61において送信ウエイトを乗算する指向性制御が効果的に機能しなくなる。装置の設計においては、この点に注意が必要である。なお、ローカル発振器815とローカル発振器853を共用することも可能である。
(Point−to−Multipointへの拡張について)
以上の説明ではPoint−to−Point型の無線エントランス回線に関する説明を中心に行っていたため、第1の信号処理部304の配置は何らかの手法で最適化された状態で運用すれば、第1の信号処理部304の数だけの空間多重伝送が可能になる。このための最適化手法は後述するアンテナ配置法でも良いし、アンテナ設置時に何ヶ所かに設定しながら、その中で仮想的伝送路が概ね直交する配置を検索して対応しても構わない。しかし、一つの基地局装置70と複数の端末局装置60が同時にPoint−to−Multipoint型の通信を行う場合には、全ての端末局装置にとって基地局装置70側のアンテナ配置が共通の理想的な配置とすることは困難なので、冗長な数の第1の信号処理部304を設置し、通信する端末局装置60ごとに異なる組み合わせの第1の信号処理部304を選択して通信を行う構成としても構わない。この場合には、通信制御回路にて最適な第1の信号処理部304の組み合わせを判断することになるため、通信制御回路に端末局装置60ごとの最適な第1の信号処理部304の組み合わせ情報に関するデータベースなどの機能を備える必要がある。
(本発明における信号処理の処理フローについて)
以下では、本発明の第1の実施形態における信号処理の処理フローについて説明する。基本的に基地局装置と端末局装置の信号処理フローは共通であるが、引用すべき回路の名称・符号番号が異なるため、ここでは基地局装置に関する信号処理フローを例に取り説明する。また、上述の様に第2の送信信号処理部71(端末局装置の場合には、明示的な記述がある図25の第2の送信信号処理回路148に相当)での信号処理は、送信ウエイト行列の乗算(送信プリコーディング)を施さないこととすることも可能であり、この場合にはその信号処理に関する部分は省略可能である。
図26に、第1の実施形態における信号送信時の信号処理フローの概要を示す。送信処理を開始すると、通信制御回路120は第1の信号処理部304及び第2の信号処理部305に対して、第1の送信ウエイトベクトル及び第2の送信ウエイト行列の読み出しを指示する(ステップS2601)(ステップS2602)。
ここでの送信ウエイトベクトル及び送信ウエイト行列の読み出しは、例えばPoint−to−Multipoint型の通信で且つ基地局装置70の場合には、通信相手局である端末局装置60が通信の都度異なることになるため、送信の都度、毎回読み出し処理を行うことになる。一方、固定的なPoint−to−Point型の通信の場合、ないしは端末局装置60の様に通信相手局が常に基地局装置70に固定される場合には、毎回読み出さずとも処理を省略することも可能である。ただし、チャネルの時変動が無視できず、毎回、送信ウエイトが変更になる場合には、通信相手が固定である場合でも毎回、送信の都度読み出す構成としても良い。ないしは、所定の周期で更新された送信ウエイトを読み出す構成としても良い。また、前述の様に第2の信号処理部305における第2の送信ウエイト乗算回路での行列乗算を省略する場合には、この第2の信号処理部305における送信ウエイト行列の読み出しは不要となる。
第2の信号処理部305においては、空間多重を行うNSDM系統分の送信信号を生成し(ステップS2603)、その送信信号に対して第2の送信ウエイト行列を乗算する(ステップS2604)。乗算後のNSDM系統分の送信データはそれぞれ対応する第1の信号処理部304に転送される(ステップS2605)。第2の信号処理部305は、送信データの送信が終了しているか否かを判定する(ステップS2606)。送信データの送信が終了していない場合(ステップS2606:NO)、第2の信号処理部305は、ステップS2603に処理を戻す。送信データの送信が終了している場合(ステップS2606:YES)、第2の信号処理部305は、信号送信時の信号処理フローを終了する。
一方、第1の信号処理部304では事前に読み出していた、第1の信号処理部304ごとの送信ウエイトベクトルを用いて、送信信号(1次元の信号)に送信ウエイトベクトルを乗算し(ステップS2607)、送信アンテナ数NAnt次元の送信信号ベクトルに変換し、アンテナ系統ごとに送信信号処理を行う(ステップS2608)。
例えば、OFDM変調方式を想定する際には、送信信号の生成はサブキャリアごと、及びOFDMシンボルごとに実施され、送信ウエイト行列の乗算や送信ウエイトベクトルの乗算なども、全てサブキャリアごとに個別に行われる。ここでの送信信号処理としては、周波数軸上のサブキャリアごとの送信信号に対しIFFT処理を施し、ガードインターバルを付与してシンボル間の波形整形などを必要に応じて加え、この時間軸上のサンプリングデータをD/A変換してアナログベースバンド信号を生成し、これをミキサにてアップコンバートした後、帯域外成分をフィルタにて除去し、ハイパワーアンプで信号増幅したものをアンテナから送信する。
以上はOFDM変調方式を用いる場合の例だが、その他のSC−FDEなどの方式に対しても同様であり、基本的には従来の様々な通信方式を適用することができる。また、必ずしも周波数軸上の信号処理である必要はなく、後述する様に送信ウエイトベクトルの乗算を時間軸上で実施する場合などでは、単一の送信ウエイトベクトル(及び行列)を用いて、サンプリングデータごとに送信ウエイトベクトル(及び行列)の乗算を施す構成としても構わない。また、誤り訂正の符号化やインタリーブなどの処理は送信信号の生成処理に含まれるものとし、ここでの説明では省略している。
次に図27に、第1の実施形態における信号受信時の信号処理フローの第1例の概要を示す。信号を受信すると、通信制御回路120は複数の第1の信号処理部304に対して、それぞれの第1の受信ウエイトベクトルの読み出しを指示する(ステップS2701)。
ここでの受信ウエイトベクトルの読み出しは、送信側の場合と同様に例えばPoint−to−Multipoint型の通信で且つ基地局装置70の場合には、通信相手局である端末局装置60が通信の都度異なることになるため、送信の都度、毎回読み出し処理を行うことになる。一方、固定的なPoint−to−Point型の通信である場合、ないしは端末局装置60の様に通信相手局が常に基地局装置70に固定される場合には、毎回読み出さずとも処理を省略することも可能である。ただし、チャネルの時変動が無視できず、毎回、受信ウエイトが変更になる場合には、通信相手が固定である場合でも毎回、送信の都度読み出す構成としても良い。ないしは、所定の周期で更新された受信ウエイトを読み出す構成としても良い。
その後、実際の信号を受信すると、アンテナ系統ごとに信号受信処理を実施する(ステップS2702)。ここでの信号受信処理とは、例えば受信信号をローノイズアンプで増幅し、ミキサにてダウンコンバート処理を施し、フィルタにて帯域外周波数成分を除去した後、A/D変換器にてデジタルベースバンド信号のサンプル値に変換する。これらの受信信号処理においては、例えばOFDM変調方式であればOFDMシンボルごとに切り出すと共にガードインターバルを除去し、FFTによりサブキャリア成分ごとの周波数軸上の信号に変換する。
以上の受信信号処理が施された信号に対しては、アンテナ素子ごとの信号をベクトル成分とする受信信号ベクトルに対し受信ウエイトベクトルの乗算を行い(ステップS2703)、この結果を第2の信号処理部305に転送する(ステップS2704)。第1の信号処理部304は、受信データの受信が終了しているか否かを判定する(ステップS2705)。ここで、受信データが更に継続する場合には(ステップS2705:YES)、ステップS2702に示す受信信号処理に戻り処理を継続し、受信データが終了している場合(ステップS2705:NO)には第1の信号処理部304の処理は終了となる。
一方、第2の信号処理部305においては、第1の信号処理部304から転送される信号が例えば無線パケットの先頭に付与されているチャネル推定用のトレーニング信号か否かを判断し(ステップS2706)、トレーニング信号であれば(ステップS2706:YES)チャネル推定を実施し(ステップS2707)、得られたチャネル行列を基に第2の受信ウエイト行列を生成する(ステップS2708)。一方、トレーニング信号ではないデータ部分であれば(ステップS2706:NO)、空間多重数のNSDM次元の受信信号ベクトルに対し、第2の受信ウエイト行列を乗算し(ステップS2709)、信号分離の後に信号検出処理を実施する(ステップS2710)。ここでの信号検出処理とは、例えば送信信号に対する軟判定処理、デインタリーブ処理、誤り訂正処理などを経て、送信信号を推定する処理を意味し、これらの物理層の信号処理の完了後にMAC層処理回路へと出力される。
なお、受信信号処理においてはOFDM変調方式の他にSC−FDE方式などの一般の従来技術も同様に適用可能である。更に、説明ではサブキャリアごとの信号処理の様に説明したが、必ずしも周波数軸上の信号処理である必要はなく、後述する様に受信ウエイトベクトル及び受信ウエイト行列の乗算を時間軸上で実施する場合などでは、単一の受信ウエイトベクトル及び受信ウエイト行列を用いて、サンプリングデータごとに受信ウエイトベクトル及び受信ウエイト行列の乗算を施す構成としても構わない。また、例えば第2の受信ウエイト行列を乗算するステップS2709(及び信号分離の後に信号検出処理を実施するステップS2710)に相当するMIMO信号処理に関しては必ずしも線形信号処理として第2の受信ウエイト行列を乗算する必要はなく、QR−MLDやMLDなどの一般的なMIMO信号検出処理を適用することも可能である。
なお、以上の説明は基地局装置70の様に第1の信号処理部304で用いるローカル発振器853が第1の信号処理部304ごとに非同期の場合を想定し、第2の受信ウエイト行列を信号の受信ごとに算出する場合について説明したが、例えば端末局装置60の場合には全てのアンテナ素子のアップコンバート処理、及び又はダウンコンバート処理に用いるローカル発振器853が共通化されているため、必ずしも受信のたびに第2の受信ウエイト行列が変化する訳ではない。この様にローカル発振器853が全体で共通化されていて且つチャネルの時変動を無視できる場合には、過去に取得した第2の受信ウエイト行列を用いることも可能である。図28に本発明の第1の実施形態における信号受信時の信号処理フローの第2例の概要を示す。図28に示すステップS2801からステップS2805までは、図27に示すステップS2701からステップS2705までと同じである。図27との差分は、第2の信号処理部305の信号処理において、信号の受信処理が開始された時点で第2の信号処理部305は通信制御回路120からの第2の受信ウエイト行列の読み出し指示を受け、第2の受信ウエイト行列の読み出しを行う(ステップS2806)。その後、第1の信号処理部304から受信信号が転送されると、空間多重数のNSDM次元の受信信号ベクトルに対して第2の受信ウエイト行列を乗算し(ステップS2807)、その後に信号検出処理を行う(ステップS2808)構成としている。その他の信号処理に関しては図27と同様である。
以上の様に、第1の実施形態の無線通信システム50は、基地局装置70(第1の無線局装置)及び端末局装置60(第2の無線局装置)を備える。基地局装置70は、複数の第1の送信信号処理部181と、複数の第1の受信信号処理部185と、第2の送信信号処理部71、第2の受信信号処理部75とを有する。複数の第1の送信信号処理部181は、複数のアンテナ素子819を有する。複数の第1の受信信号処理部185は、複数のアンテナ素子851を有する。第2の送信信号処理部71は、複数の第1の送信信号処理部181に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。第2の受信信号処理部75は、複数の第1の受信信号処理部185に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。端末局装置60は、複数のアンテナ素子819と、複数のアンテナ素子851と、送信部61と、受信部65とを有する。送信部61は、複数のアンテナ素子819を介して、複数の第1の受信信号処理部185との無線通信を実行する。送信部61は、複数のアンテナ素子819を介して、複数の第1の受信信号処理部185と、第1の受信信号処理部185に対応付けられた第2の受信信号処理部75との無線通信を実行してもよい。受信部65は、複数のアンテナ素子851を介して、複数の第1の送信信号処理部181との無線通信を実行する。受信部65は、複数のアンテナ素子851を介して、複数の第1の送信信号処理部181と、第1の送信信号処理部181に対応付けられた第2の送信信号処理部71との無線通信を実行してもよい。第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185は、第1のアンテナ素子群と第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトルの少なくとも一方を、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方又は第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて算出する。複数の第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185は、第1の送信信号処理部181又は第1の受信信号処理部185に対応した当該送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトルのうち少なくとも一方を用いて、それぞれ独立な信号系列を空間多重伝送する。
これによって、第1の実施形態の基地局装置70、端末局装置60、無線通信システム50及び無線通信方法は、見通し環境が支配的な環境でMIMOによって伝送容量を増大させることが可能となる。例えば、基地局装置70、端末局装置60、無線通信システム50及び無線通信方法は、将来モバイルネットワークにおける無線通信システムにおいて、見通し環境が支配的でありながら、高次空間多重及び高周波数帯を利用して大容量化を実現することが可能となる。
第1の実施形態の基地局装置303としての基地局装置70は、狭い領域にアンテナ素子を束ねた第1の信号処理部304と、それらを集約する第2の信号処理部305を備える。第1の信号処理部304では個々の信号処理部内に閉じたビームフォーミングを行い、異なる第1の信号処理部304にまたがったビームフォーミングはしない。個別の第1の信号処理部304は、「見通し波」を最大限に活用する「第1特異値に対応する仮想的伝送路」のための送受信ウエイトを生成し、複数の第1の信号処理部304における個々の送受信ウエイトを用いて空間多重伝送を行う。
ここで、以上の説明では見通し環境が支配的な環境であることを典型的な実施形態として説明してきたが、例えば完全な見通し環境でない場合でも、非常に強い反射波が特定の方向から到来したり、見通し波と遜色ない回折波が到来したりする場合には、第1特異値に相当する仮想的伝送路はその到来方向に形成されることになる。この意味で、第1特異値に相当する仮想的伝送路とは見通し波により構成される伝送路である必然性はなく、本発明の第1の実施形態では、第1特異値に相当する仮想的伝送路を複数系統、積極的に活用して空間多重伝送することであるために、見通し外環境であっても本発明の第1の実施形態は適用可能である。その場合の回路構成、処理フローは上記説明と全く変わることなく、そのままの内容で適用することが可能である。
[第2の実施形態]
[見通しMIMO伝送の直交化のためのアンテナ配置条件]
(第2の実施形態に係る基本原理の概要)
ここで、複数の仮想的伝送路が概ね直交関係になるための条件を整理する。上記の図16では、25本のアンテナ素子ごとに実効的に一つの指向性ビームが形成されているので、これは近似的には指向性利得の非常に高い1本のアンテナ(例えばパラボラアンテナ)を利用していることに相当する。そこで、図29に基地局装置に4本のパラボラアンテナ、端末局装置に16本のアンテナ素子をリニアアレー状に実装したケースの例を示す。図29において、符号306は基地局装置、符号302は端末局装置、符号307−1〜307−4はパラボラアンテナを示す。端末局装置302は、端末局装置60に相当する。基地局装置306は、等価的には基地局装置70に相当する。基本的には、図29に示すパラボラアンテナ307−1〜307−4と等価な伝送を、基地局装置70の多数のアンテナ素子をグループ化することで実現する。
ここで、見通し波が支配的な図29におけるMIMOチャネルの4個の特異値が、先に示す場合と同様に概ね均等に大きな値となる条件を整理する。例えば特許文献(特許第5488894号公報)には見通し環境のMIMO伝送が成立する条件が規定されているが、これらの従来技術の基本的な考え方は、基地局装置と端末局装置の備えるアンテナ素子の間隔を可能な限り広げ、その結果として個々の送信アンテナと受信アンテナとの間の距離にばらつきを与え、その距離の差の関係が擬似的にランダムな関係(ないしは所定の関係)となる様に調整する様に試みるのである。
一方、例えばフェーズドアレーアンテナ技術においては、1次元状のリニアアレーのアンテナ素子間隔をdとすれば、このdの値を小さく設定することで、指向性を向けるべき方向の遠方にあるアンテナから見れば、個々のリニアアレーのアンテナ素子に到来する(ないしは送出される)電波が平面波状に近似できる様になり、到来波の方向を角度θで表せば、アンテナ素子ごとの経路差はd・sinθで高精度に近似可能になる。しかし、上述の従来技術の基本的な考え方ではそれぞれのアンテナ素子の間隔を可能な限り広く設定するために、この様な平面波近似を行うことができず、その近似を異なる条件で行う必要があった。その結果として従来技術の近似の精度は低下する。実際、見通し環境でのMIMO通信を行う際には、送受信局の双方で大型のパラボラアンテナを想定していた。通常、パラボラアンテナのサイズは波長に比べて大幅に大きいため、上述の様な経路長差を波長に対して無視可能な程度の精度で平面波近似することはできない。
しかし、基地局装置70側のみのアンテナの実効的な開口長を広げる一方で、端末局装置60側のアンテナ素子の間隔を数波長程度(基地局装置70と端末局装置60の間の距離にも依存するが、例えば3波長以下)のオーダーに設定すれば、図29の基地局装置306側のあるパラボラアンテナからの端末局装置302側のアンテナ素子ごとの経路差をd・sinθで十分に近似可能になる。そこで、図30に示す様に、基地局装置306に相当する基地局装置70の基地局装置アンテナ#j(310−j)(1≦j≦M)と、端末局装置302に相当する端末局装置60の端末局装置アンテナ#1(320−1)との間の距離をLjとし、更に端末局装置アンテナ#1(320−1)の正面方向との角度差をθjとすれば、端末局装置60のアンテナ間隔dを用いてチャネル行列(基地局装置70側の第jアンテナから端末局装置60の第i(1≦i≦NMT−Ant)アンテナの間のチャネル情報をhijとする)を表すと、以下の式(26)で近似的に表すことができる。式(26)では、煩雑さを避けるためNMT−AntをNと表記する。また、図29では基地局装置306の備えるパラボラアンテナ307−1〜307−4の数を4としたが、ここでは一般的な数としてアンテナ素子数をMとする。
ここで行列の積の形式で表示したが、第2項目の第(j,j)成分は基地局装置70の第jアンテナと端末局装置60の第1アンテナとの間のチャネル情報を示す。端末局装置60のNMT−Ant本のアンテナの各成分の差分情報は、第1項目の第j列の列ベクトルに相当する。第2項目の第(j,j)成分はその列ベクトルの全ての成分に掛かる共通項であるため、第1項目の各列ベクトルが直交していれば各特異値が安定して大きな値となる。第1項の第i列ベクトルと第j列ベクトルが直交している条件は複素ベクトルの内積がゼロとなるという下記の式(27)で表される。
以上の式変形では、等比級数の和の公式を利用している。この最後の条件は分母がゼロでない条件のもとで分子がゼロであれば良いので、分子のexpのかっこの中の項が2πiの整数倍となるとの条件から、下記の条件式(28)が導かれる。以降の式では、Nは元のアンテナ数NMT−Antとして記述する。
この式(28)の定数K1は端末局装置60のアンテナ数NMT−Antの倍数ではない整数である。ここで図30に示す通り、基地局装置70側の第jアンテナが端末局装置60側のアンテナの真正面から横方向にdjの変位があるとし、第iと第jアンテナの差分をΔdijとする。基地局装置70と端末局装置60の間の距離をLとし、式(28)の第1式の両辺にL/dを乗算する。基地局装置70の各アンテナ素子と端末局装置60の第1アンテナとの間の距離は微妙に異なるが、距離Lが変位djよりも十分大きければL≒Ljと近似可能になる。
つまり、端末局装置60のアンテナ数NMT−Antに対し、NMT−Antの整数倍でもゼロでもない整数K2に対し、端末局装置60のアンテナ素子の間隔d、端末局装置60と基地局装置70の距離L、無線通信の信号波の波長λに対し、任意の2本のアンテナ素子の間隔が式(29)を満たす間隔になる様に設定すればよい。この条件を幾何学的に解釈すると、例えば以下の様な条件であれば簡易にこの条件を実現することができる。例えば最も簡易な条件としては、端末局装置60側のリニアアレーと距離がL離れ且つ正対する直線上に、その直線方向に任意のオフセットを許容し、λL/NMT−Antd間隔でNMT−Ant点の地点を直線的に設定し、このNMT−Ant点の中からM地点を選択して基地局装置70のM本のアンテナ素子を配置すればよい。これは、連続するNMT−Ant個の整数の中から任意の二つの整数を選び、その差分を求めると必ずその絶対値が(NMT−Ant−1)以下になり、K2がNMT−Antの整数倍になることを回避できることを利用している。なお、個別の任意のふたつの整数の差分がNMT−Antの整数倍とならない配置を検索して設定すれば、その他のより広い条件の中から基地局装置のアンテナ設置個所を選ぶことも可能である。
図29に示す様に、端末局装置60側のアンテナ素子を小型化する場合にはその分、端末局装置60側のアンテナ素子数NMT−Antを増やす一方、一般には基地局装置70のアンテナ素子数Mは想定する空間多重数の上限に設定するため、Mの値は端末局装置60側のアンテナ素子数NMT−Antよりも小さいことが想定される。つまり、NMT−Ant>Mのときには、上述の最も簡易な条件においても基地局装置70側のM本のアンテナは等間隔である必要はなく、上述のNMT−Ant地点の中から間欠的にアンテナ素子の配置場所を設定しても構わない。なお、図16の場合には実際のアンテナ素子数は100本であるが、25本単位にグループ化して仮想的な4本のアンテナ素子と見なすことができるので、図16におけるMは4であると見なすべきである。また、式(28)の導出までは非常に高精度の近似を行っているが、式(29)で用いた近似は精度が若干低い。しかし、パラメータの設定次第ではあるが、式(29)の基地局装置70のアンテナ素子の間隔が仮に1m程度としたとき、±数cm程度の数%の誤差があっても概ね直交状態にあることには違いはない。本発明における第1の実施形態でも同様であるが、基本的に受信側において複数の仮想的伝送路間の干渉成分がある場合でも、受信側の信号処理でその干渉を抑圧することは可能であり、その様な信号処理を想定すれば、あくまでも概ね直交状態にすることにより損失の最小化が可能なので、式(29)の近似精度はシステム運用上において大きな影響を与えない。
この様な性質も考慮すれば、図16で表される各グループ化されたアンテナ素子群を仮想的な一つのアンテナと見なせば、物理的に広がりを持つ多素子アンテナのその中心点を仮想的アンテナの物理的な位置と見なし、これらの複数のアンテナ素子群を上述のアンテナ配置で設置すれば、それぞれ第1特異ベクトルで表現されるウエイトベクトルを用い、所望の特性で複数の信号系列を空間多重して伝送することが可能になる。
なお、上述の説明では基地局装置側のアンテナ素子と端末装置側のアンテナ素子は、図29に示す様にお互いに向かい合い正対している状態を例に取り説明を行ったが、一般的には図31に示す様に、正対関係にない場合が想定される。これは、基地局装置306や端末局装置302の設置場所に関する制約に起因する。この様な場合には、若干、各パラメータを換算することで所望の効果を導くことができる。図31では、基地局装置306から端末局装置302を見たときに、正面から角度θずれた方向に端末局装置302が存在し、また端末局装置302から基地局装置306を見たときに、正面から角度θ’ずれた方向に基地局装置306が存在している。この場合、基地局装置306のパラボラアンテナ307−1と307−4との間隔D1は等価的にはD1’(=D1cosθ)に狭まった状態に見える。同様に、端末局装置302のリニアアレー312の幅D2は等価的にはD2’(=D2cosθ’)に狭まった状態に見える。言い換えれば、アンテナ素子間隔dがdcosθ×cosθ’倍に変換された状態と捉えることができる。基地局装置306のパラボラアンテナ307−1〜307−4の概ね重心付近と端末局装置302の距離をLとすれば、これらの換算を行った上で上述の条件式を用いて最適なアンテナ配置の条件を算出することができる。すなわち、基地局装置70は、見通し方向の直線に対して直交する軸上に各リニアアレーを仮想的に投影する。同様に、端末局装置60は、見通し方向の直線に対して直交する軸上に各リニアアレーを仮想的に投影する。仮想的に投影した軸上のアンテナ素子の間隔に基づいて式(29)のdは、dcosθ×cosθ’に換算される。仮想的に投影した軸上のアンテナ素子の間隔に基づいて式(29)のdは、換算装置又は人によって換算される。
ちなみに、図29及び図31において基地局装置306のパラボラアンテナ307−1〜307−4の概ね重心付近と端末局装置302の距離をLとしているが、個々のアンテナ素子の厳密な距離は共通の距離Lではなく、それぞれが誤差を持つことになる。しかし、式(29)の算出の途中段階では近似を用いていることからも分かる様に、ここでの距離Lもある程度の誤差は許容可能であり、図29で示した様に正対したアンテナ素子の間隔(平行な直線上に並ぶアンテナ素子の、2本の直線の間の距離)としても良いし、図31に示した様に概ねアンテナ素子の重心を結んだ距離としても良い。この様に、距離Lはその近似値ないしは概算値として扱えば良い。
なお、本説明における図29及び図30における説明では、端末局装置はリニアアレーにより構成される場合を典型的な例として示している。この特徴は、基地局装置側のパラボラアンテナ307−1〜307−4ないしは310−1〜310−M(図16ではアンテナ素子群304−1〜304−4に相当)は直線上に配置されており、同様に端末局装置側のアンテナ素子も直線上にリニアアレーを構成して配置されている。上述の直交化条件の算出においては、このふたつの直線は平行関係にあるものとして説明した。具体的に説明すれば、例えばビル壁面ないしはビルの屋上などに、ビルの壁面に平行な水平軸を仮定し、その水平軸に沿って複数の第1の信号処理部及びアンテナ素子(群)307−1〜307−4を設置する場合には、端末局装置のリニアアレーも道を隔てた反対側のビルの壁面に平行で且つ水平な軸上に配置することが好ましい。ここで、端末局装置側のこの水平軸に対して直交する垂直軸を設定し、この水平軸及び垂直軸に平行な格子を仮定し、先に説明した端末局装置のリニアアレーを垂直方向にN’段積み上げた正方格子アレーを利用する場合について考える。このとき、端末局装置の全アンテナ素子数はN×N’素子になる。しかし、この端末局装置から基地局装置の複数の第1の信号処理部のアンテナ素子(群)307−1〜307−4を見ると、水平方向に対してはそれぞれ角度差があるものの、垂直方向の仰角に関してはアンテナ素子(群)307−1〜307−4ごとに差がないため、上述の正方格子アレーのN’段のそれぞれは独立なアンテナ素子とはみなされず、実質的には垂直方向に並ぶN’素子が等価的に一つの仮想的アンテナ素子として振る舞い、この仮想的アンテナ素子が水平軸上にリニアアレー状にN素子配置されているものと理解される。実際、シミュレーション評価においてもこの効果は確認されており、基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4を結ぶ軸に対し、端末局装置のアンテナ素子を、この軸と平行な軸及びこの軸と直交する軸で構成される格子状にN×N’素子を配置する場合には、基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4を結ぶ軸と平行な軸上のN素子で且つそのN素子の素子間隔のリニアアレーと見なして、式(18)に当てはめて基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4の素子間隔を最適すれば良い。当然ながら、基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4がビルの壁面などに垂直方向に整列している場合には、端末局装置側のアンテナ素子も垂直方向にN素子、水平方向にN’素子を格子状に並べ、これを垂直方向に並んだ等価的なN素子のリニアアレーと見なして式(18)を適用すればよい。また、ここでは端末局装置側のアンテナ配列を正方格子アレーとして説明したが、必ずしも正方格子である必要はなく、長方形状に水平方向と垂直方向の素子間隔が異なっていても構わない。この場合には、基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4が整列する軸と平行な端末局装置側の軸に並ぶアンテナ素子の間隔を、式(18)のアンテナ素子間隔dとして算出すればよい。
以上の様に、第2の実施形態の無線通信システム53は、基地局装置306(第1の無線局装置)及び端末局装置302(第2の無線局装置)を備える。基地局装置306はアンテナ素子(パラボラアンテナ)307−1〜307−4を備え、端末局装置302は端末局装置アンテナ素子群312を備える。基地局装置306の複数のパラボラアンテナ(アンテナ素子)307−1〜307−4は、式(29)に示されている様に、第m素子と第n素子の間隔Δdmnと、端末局装置302と基地局装置306の距離Lと、無線通信の信号波の波長λと、端末局装置302のアンテナ数NMT−Antと、端末局装置302のアンテナ素子の間隔dとに基づいて配置される。パラボラアンテナ307−1〜307−4は、例えば、それぞれが単一の高利得アンテナ素子(単一アンテナ素子)である。高利得アンテナ素子は、例えば、パラボラアンテナ307である。パラボラアンテナ307−1〜307−4は、単一の高利得アンテナ素子である代わりにアンテナ素子群でもよい。この様にアンテナ素子群を用いる場合には、基地局装置306は図16に示す基地局装置303及び図17の基地局装置17であっても良い。図17における基地局装置70は、複数の第1の送信信号処理部181と、複数の第1の受信信号処理部185と、第2の送信信号処理部71、第2の受信信号処理部75とを有する。複数の第1の送信信号処理部181は、複数のアンテナ素子819を有する。複数の第1の受信信号処理部185は、複数のアンテナ素子851を有する。第2の送信信号処理部71は、複数の第1の送信信号処理部181に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。第2の受信信号処理部75は、複数の第1の受信信号処理部185に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。端末局装置60は、複数のアンテナ素子819と、複数のアンテナ素子851と、送信部61と、受信部65とを有する。送信部61は、複数のアンテナ素子819を介して複数の第1の受信信号処理部185との無線通信を実行する。受信部65は、複数のアンテナ素子851を介して複数の第1の送信信号処理部181との無線通信を実行する。
すなわち、アンテナ素子の間隔又はアンテナ素子グループの間隔が、基地局装置306(第1の無線局装置)と端末局装置302(第2の無線局装置)との距離Lと、無線通信の信号波の波長λと、第2のアンテナ素子群を構成するリニアアレー状のアンテナ素子の数N又は格子状に配置された縦方向又は横方向のいずれかのアンテナ素子の数Nと、第2のアンテナ素子群を構成する縦方向又は横方向のいずれかのアンテナ素子の間隔dとに基づいて算出された値の整数倍になる様に、複数の第1のアンテナ群を構成する各単一アンテナ素子又はアンテナ素子グループは配置される。
これによって、第2の実施形態の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、見通し環境が支配的な環境でMIMOによって伝送容量を増大させることが可能となる。第2の実施形態の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、所望の特性で複数の信号系列を空間多重して伝送することが可能になる。第2の実施形態の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、SIR特性を改善することができる。第2の実施形態の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、より高い空間多重を実現することができる。
第2の実施形態の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、見通しが支配的な環境で、基地局装置306又は70側の複数のパラボラアンテナ307と、端末局装置302又は60側の複数素子アンテナとのMIMOチャネルにおいて、各チャネルが直交化されるためのアンテナ設置条件を規定している。ただし、ここでは議論を単純化するために基地局側にパラボラアンテナを実装する場合の条件を示したが、当然ながらパラボラアンテナ以外の高指向性アンテナを用いたり、更には基地局側が複数アンテナ素子で構成される図16に示す様な第1の信号処理部を用いたりする様な場合であっても、同様の条件で各伝送路間の直交化を概ね図ることができる。これにより、伝送路上での通信品質の向上と、伝送容量の増大を図ることが可能になる。
[第3の実施形態]
[第1特異値に相当する複数の仮想伝送路のアクセス系への適用技術]
(第3の実施形態に係る基本原理)
上述の説明では、基地局装置と端末局装置との間の伝送路において、概ね見通し波が支配的な環境を取り上げてきた。その様な利用例としては、端末局装置60を中継局と見なし、基地局装置70から中継局へのエントランス回線において上述の技術を用いる場合が考えられる。しかし、この第1特異値に相当する仮想的伝送路は無線エントランス回線での利用に限定されるものではない。上述の説明においても、中継局に相当する端末局装置60は小型であることを想定し、非常に狭い領域に多数の小型アンテナが配置されているものを想定した。したがって、例えばスマートフォンなどに多数のアンテナを搭載し、特に第5世代移動通信システム(5G)のスモールセルでの受信を想定するならば、ミリ波ないしは準ミリ波の活用が想定されるために、ユーザが移動することを除けば、上述の無線エントランスの場合と全く同様に狭いところにアンテナが凝縮されて配置される環境と見なせる。つまり、一例としてビルの壁面など比較的高所にスモールセル基地局が配置される場合、概ね真上方向から基地局装置70と端末局装置60が概ね見通し環境にあり、スマートフォンの表面方向に若干の指向性利得を持たせたアンテナを実装する状況を考えれば、かなり見通し波が支配的な環境で通信が行われることが予想される。この様な場合には、基地局装置のアンテナを図16と同様に複数にグループ化し、それぞれのグループで同様に第1特異値に相当する仮想的伝送路を積極的に利用することが有効となる。
ここで、図16の場合とアクセス系の場合との違いを考えると、図16では基地局装置70側のアンテナ素子が整列する直線と、端末局装置60側のアンテナが整列する直線が概ね平行となる状況となっていたが、スマートフォンのアンテナの配置やユーザがスマートフォンを持つ角度、そのユーザが向いている向きなどの組み合わせで、一般的にはそれぞれのアンテナの3次元的な位置関係は、互いに平行ではなく捻じれた関係となることが予想される。この場合には、式(29)で示す様な最適値は一般的には存在しないが、例えばグループ化されたアンテナ素子群を若干冗長に備え、選択ダイバーシチ的に相関の低い組み合わせの最適なアンテナ素子群を選んで利用すれば良い。ただし、この場合にはチャネルの相関が可能な限り低減できる様に、アンテナ素子群の間隔を少し大きめに設定することが必要となる。その場合、同一の構造物(ビル等)の壁面のみに全てのアンテナ素子群を配置するのではなく、複数の構造物にまたがってアンテナを設置することが有効である場合がある。この様な場合、図16では第2の信号処理部305と第1の信号処理部304−1〜304−4の間を有線のケーブル(光ファイバを含む)で接続することは困難である。
そこで、基地局装置303のアンテナ素子群(第1の信号処理部304)をサテライト基地局として設置し、基地局装置303の第2の信号処理部305に相当する統括基地局装置から、これらのサテライト基地局装置への信号の送受信を無線回線で実現することが有効となる。図32に、本発明の第3の実施形態を示す。図32において、符号31は統括基地局装置、符号32−1〜32−3はサテライト基地局装置、符号33は端末局装置を表す。端末局装置33は、端末局装置60に相当する。符号37は構造物を表す。符号38は構造物を表す。統括基地局装置31は、例えば、構造物37の上面(ビル等の屋上)に配置される。サテライト基地局装置32は、例えば、構造物38の側面(ビル等の壁面)に配置される。端末局装置33は、例えば、構造物37と構造物38との間のセル39内に配置される。
統括基地局装置31とサテライト基地局装置32−1〜32−3はそれら全体で、上述の基地局装置70の機能を実現している。統括基地局装置31は多数のアンテナ素子を備え、且つアンテナ素子の間隔は波長と同程度(例えば数波長〜1/2波長の間)となる様に全体で小型のアンテナを構成する。一方、サテライト基地局装置32はそれぞれ図16の第1の信号処理部304と同様に、多数のアンテナ素子を波長と同程度(例えば数波長〜1/2波長の間)の間隔で配置した小型のアンテナを備えている。この統括基地局装置31とサテライト基地局装置32−1〜32−3の間はそれぞれのアンテナの第1特異値に対応する第1特異ベクトルを用いて通信を行う。また、端末局装置33は複数のアンテナを備える。例えばスマートフォンなどを想定すれば、比較的狭い領域に複数のアンテナが実装されることになる。ここで、端末局装置33とサテライト基地局装置32−1〜32−3の間も、それぞれのアンテナの第1特異値に対応する第1特異ベクトルを送受信ウエイトベクトルとして用いて通信を行う。更に、サテライト基地局装置32−1〜32−3と統括基地局装置31の間も、それぞれのアンテナの第1特異値に対応する第1特異ベクトルを送受信ウエイトベクトルとして用いて通信を行う。これにより、見通し波の利得を最大化する送受信ウエイトベクトルを活用しながらも、複数の異なるサテライト基地局装置32−1〜32−3を活用することで、チャネル相関の小さな安定的なMIMO伝送が可能になる。
次に、図33に本発明の第3の実施形態の別の例を示す。図33において、符号34−1〜34−2は統括基地局装置、符号35−1〜35−6はサテライト基地局装置、符号36−1〜36−2は端末局装置を表す。図33は、先ほどの図32と同様であるが、構造物38の側面(ビルの壁面)に配置した多数のサテライト基地局装置35−1〜6と、構造物37の上面(ビルの屋上)に配置した統括基地局装置34−1〜34−2の対応が1対1対応ではない点が、図32との差分である。サテライト基地局装置35−1〜35−6は、複数の統括基地局装置34−1〜34−2と柔軟に組み合わせてアクセスリンクを提供することが可能となっている。例えば、端末局装置36−1に近い統括基地局装置34−1から見ると、最寄りのサテライト基地局装置は、サテライト基地局装置35−1〜35−3である。しかし、端末局装置36−1から相関の小さなサテライト基地局装置が、サテライト基地局装置35−1、35−2、35−4であったとすると、統括基地局装置34−1はとなりの統括基地局装置34−2に寧ろ近いサテライト基地局装置35−4も活用し、端末局装置36−1に対して第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用して通信を提供することが可能になる。
ちなみに、この様なアクセス系に第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する理由の一つには、第1特異値に対応する仮想的伝送路のチャネル情報が、他の高次の特異値に対応する仮想的伝送路のチャネル情報に比較して、相対的には統計的に時変動が小さいことがあげられる。つまり、特異値分解したときの第1右(左)特異ベクトルは見通し波に対応するパスを表すものであり、若干の移動では適用すべき送受信ウエイトに大きな変動はない。しかし、高次の右(左)特異ベクトルは反射波成分を多く含むパスに対応するため、僅かな端末の移動により合成後のチャネル状態は大幅に変動し、結果的に右(左)特異ベクトルは大きく変動したものになる。つまり、チャネル情報が大きく変われば、利得を確保するための送受信ウエイトベクトルも変動し、その変動を無視してそのままの値で送受信を行うと、その変動に対応した利得の減少、特性の劣化が避けられない。特に、端末局装置36がスマートフォン等の様に小型の携帯端末であれば、アンテナ間のチャネル相関が大きく、シングルユーザMIMOでは大容量化が困難な場合が考えられる。その様な場合には、後述する実施形態で示す様に、小さな伝送容量の端末を多数同時に収容するマルチユーザMIMOにより全体の総容量を増大させることが有効であるが、チャネル時変動は端末間の相互干渉となり、SINR特性を劣化させ伝送容量の減少と通信の不安定化につながる。しかし、チャネル時変動が相対的に小さな第1特異値に対応する仮想的伝送路を積極的に利用することで、マルチユーザMIMOを活用した場合であっても、端末間の相互干渉を大幅に低減できるという副次的な効果も得ることが可能である。
なお、このマルチユーザMIMOとは、一般には一つの基地局装置が複数の端末局装置と空間多重伝送を行うことを意味するが、ここでは図32に示した様に、複数の統括基地局装置34−1〜34−2が複数の端末局装置36−1〜36−2に対し、同時にサービスを行う場合も含めて理解することができる。この場合、個々の統括基地局装置と端末局装置は実際には1対1通信であるかも知れないが、通信に用いる周波数チャネルを同一にし、更に活用するサテライト基地局装置35−1〜35−6も一部重複を許容する様にサテライト基地局装置35−1〜35−6という資源を相互に供用しながら運用する場合には、あるサテライト基地局装置32は同時に複数の端末局装置36に対して信号を送信することになるので、この様な運用形態も広義のマルチユーザMIMOと見なすことが可能で、この様なケースでも上述のチャネル時変動の影響の低減効果は有効に働くことになる。
(サテライト基地局装置における非再生の再ビームフォーミング中継の概要)
上述の第1特異値に相当する仮想伝送路を利用し、複数のサテライト基地局装置32を介して中継伝送を行う際の基本動作を、図を用いて説明する。先の図32で示したサテライト基地局装置32を用いる構成においては、前述の図16で示した基地局装置303の第2の信号処理部305と第1の信号処理部304−1〜304−4の構成が図32の統括基地局装置31とサテライト基地局装置32−1〜32−3により構成される全体としての基地局装置の機能に相当し、図16では第2の信号処理部305と第1の信号処理部304−1〜304−4との間が有線で接続されていたのに対し、図32では統括基地局装置31とサテライト基地局装置32−1〜32−3との間が無線で接続される様に構成したことに対応する。図16では第2の信号処理部305と第1の信号処理部304−1〜304−4の間の信号伝送は伝送媒体が有線であるが故に相互に信号の混信がない状況を担保しているため、図32でも有線部分を完全に無線に焼き直す場合には、統括基地局装置31とサテライト基地局装置32−1〜32−3の間の無線信号においても、各サテライト基地局装置32−1〜32−3間で信号の混信がない状況を確保することになる。しかし、第3の実施形態においては端末局装置33(ダウンリンクの場合)ないしは統括基地局装置31(アップリンクの場合)において信号分離の信号処理を行うため、必ずしも有線の場合に対応付けて中継部分で完全に信号分離をする必要はないことが、本実施形態におけるポイントである。ただ、無指向性で統括基地局装置31とサテライト基地局装置32−1〜32−3の間の信号送受信を行うと、第1特異値に相当する回線利得が得られなくなってしまうため、統括基地局装置31とサテライト基地局装置32−1〜32−3の間では第1特異値に相当する仮想的伝送路を活用するための第1特異ベクトルを送受信ウエイトに利用する送受信信号処理を行う。
図34に、本発明の第3の実施形態における、統括基地局装置31とサテライト基地局装置32との間の信号処理と、サテライト基地局装置32と端末局装置33との間の信号処理との概要を示す。図34において、符号31は統括基地局装置、符号32はサテライト基地局装置、符号33は端末局装置、符号52は無線通信システムを表し、それぞれ図32の同一番号に相当する。サテライト基地局装置32は複数存在し、図34の中央の縦に複数示している。図34においては、統括基地局装置31とサテライト基地局装置32は周波数f1で通信を行い、サテライト基地局装置32と端末局装置は周波数f2で通信を行っている。ただし、FDD(Frequency Division Duplex: 周波数分割複信)での通信を想定すれば、統括基地局装置31とサテライト基地局装置32は周波数f1−1とf1−2で通信を行い、サテライト基地局装置32と端末局装置は周波数f2−1とf2−2で通信を行っているものとしても良い。ここでは簡単のため、TDD(Time Division Duplex: 時分割複信)を想定して各区間のアップリンクとダウンリンクは同一周波数を用いている場合で説明する。
また、図34を見れば分かる様に、周波数f1とf2の違いを除けば、概ね左右対称の折り返し状態となっており、サテライト基地局装置32−1〜32−3は図16における第1の信号処理部304−1〜304−4に対応するのであるが、どちらかと言えば統括基地局装置31は図16の端末局装置302に類似しており、回路構成的及び信号処理的には端末局装置302に対応する構成となっている。したがって、以下の回路構成を引用する説明では、図25に記載の符号を引用して説明する。
更に、例えばOFDMを用いる場合には各サブキャリアにおいて個々の信号処理を行う必要があるのだが、ここでは説明を簡略化するために各信号や送受信ウエイトへのサブキャリアの識別用の表記を省略する。
図34では特に統括基地局装置31から端末局装置33方向への信号の伝送時の信号処理を示している。ここでは特に明示的に示していないが、これらの信号処理は前述の処理同様、全てサブキャリアごとに実施することに注意する。ただし、後述する様に全周波数帯域幅内で同一の送受信ウエイトを利用できる場合には、サンプリングごとに時間軸上で信号処理を実施する形に拡張することも可能である。まず、統括基地局装置31においてNSDM系統の信号系列S1〜SN(ここでは添え字の表記の都合上、ここではN=NSDMとする)を送信する場合、統括基地局装置31の第2の送信信号処理回路148では、一般的な送信信号処理として信号系列S1〜SNの生成に加えて、図34における(i)に示す信号処理として、各サテライト基地局装置32の間の信号分離のための送信ウエイト行列をWtxとすると、以下の式(30)で信号変換を行う。
ここで、図25の説明でも行ったが、図25の第2の送信信号処理回路に相当する信号処理では、必ずしも送信ウエイト行列Wtxを導入する必要はなく、Wtxを単位行列と見なして、送信信号系列t1〜tNは信号系列S1〜SNのままとしても良い。次に、各サテライト基地局装置32−1〜32−NSDMに対して第1特異値に相当する指向性形成を行う。具体的には、統括基地局装置31の各アンテナから、着目する第kSサテライト基地局装置32の各アンテナに対するチャネル行列に対し、その行列を特異値分解した際の第1右特異ベクトルで与えられる送信ウエイトベクトルwtx,kS,1〜wtx,kS,Nc(ここでは表記の都合上、Ncは統括基地局装置の備えるアンテナ素子数とする)を、式(31)(図34における(ii))に示す様に送信信号tkSに乗算する。
これを、式(32)(図34における(iii))に示す様に、各サテライト基地局装置32宛てのNSDM系統の信号をアンテナ素子ごとに加算合成して、時間軸信号を生成する。
更に、統括基地局装置31のIFFT&GI付与回路813は、式(32)に示された周波数軸上の信号にIFFT変換を施し、時間軸上の信号に変換する(厳密には、例えばOFDMであればガードインターバルの挿入や波形成系などの信号処理も含むが、ここでは説明を省略する)。統括基地局装置31のD/A変換器814は、IFFT変換の結果をD/A変換して、アナログベースバンド信号を生成する。統括基地局装置31のミキサ816は、アナログベースバンド信号と、f1の周波数のローカル発振器815からの信号とを乗算して、アナログベースバンド信号をf1の周波数帯の信号にアップコンバートする。統括基地局装置31のフィルタ817は、f1の周波数帯の信号から帯域外信号を除去する。統括基地局装置31のHPA818は、f1の周波数帯の信号を増幅して、増幅した信号をアンテナ素子819から送信する。
サテライト基地局装置32のアンテナ素子は、f1の周波数帯の信号を受信する。サテライト基地局装置32のローノイズアンプ(LNA)は、f1の周波数帯の信号を増幅する。サテライト基地局装置32のミキサは、f1の周波数帯の信号をアナログベースバンド信号にダウンコンバートする。サテライト基地局装置32のフィルタは、アナログベースバンド信号から帯域外信号を除去する。サテライト基地局装置32のA/D変換器は、アナログベースバンド信号をデジタルベースバンド信号に変換する。サテライト基地局装置32のFFT回路は、サンプリングされた信号のシンボルタイミングを基準に、デジタルベースバンド信号をサブキャリアの受信信号に変換する。
ここで、サテライト基地局装置32では、統括基地局装置31の各アンテナから、着目するサテライト基地局装置32の各アンテナに対するチャネル行列に対し、その行列を特異値分解した際の第1左特異ベクトルで与えられる受信ウエイトベクトルw’rx,kS,1〜w’rx,kS,Mを、式(33)(図34における(iv))に示す様に受信信号ベクトルr’kS,1〜r’kS,Mに乗算する。ここでMはサテライト基地局装置32のアンテナ素子数であって、統括基地局装置31との通信を行うアンテナ素子の数を表す。
ここで得られたスカラー量の信号R’kSは統括基地局装置31の送信信号を推定するものではなく、あくまでも第1特異値の仮想的伝送路を抽出するための中間的な1次元の信号に相当しており、再生中継とは異なるものである。ただし、通常の非再生中継とも異なり、上記の中間的な信号R’kSを生成して受信指向性ビーム形成、送信指向性ビーム形成をそれぞれ個別に行っていることに相当する。この様にして得られた上記の中間的な信号R’kSに対し、最後のアクセス系に相当するサテライト基地局装置32から端末局装置33への送信においても、このラストの1ホップのチャネルの第1特異値に相当する仮想的伝送路を活用して信号送信を行う。具体的には、着目するサテライト基地局装置32の各アンテナから、端末局装置33の各アンテナに対するチャネル行列に対し、その行列を特異値分解した際の第1右特異ベクトルで与えられる送信ウエイトベクトルw’tx,kS,1〜w’tx,kS,Mを、式(34)(図34における(v))に示す様に受信信号ベクトルR’kSに乗算する。
ここで、サテライト基地局装置32において端末局装置33に対するアンテナ素子数をMとして説明したが、これは統括基地局装置31側のアンテナ素子数と必ずしも一致する必要はなく、異なる場合には一般的には、アンテナ素子数Mをアンテナ素子数mとして理解すればよい。この様にして得られた各サブキャリアの送信信号ベクトルは、これを時間軸信号にIFFTにて変換した後(厳密には、例えばOFDMであればガードインターバルの挿入や波形成系などの信号処理も含むが、ここでは説明を省略する)、D/A変換してアナログベースバンド信号を生成し、これをミキサにてf2の周波数のローカル発振器からの信号と乗算してf2の周波数帯の信号にアップコンバートし、フィルタで帯域外信号を除去した後に、ハイパワーアンプで信号増幅して送信する。
ここで、式(33)と式(34)の式は受信信号ベクトルに受信ウエイトベクトルを乗算し、その後に得られたR’kSに送信ウエイトベクトルを乗算しているが、これと等価な演算は、これらの送信ウエイトベクトルと受信ウエイトベクトルとを事前に乗算して送信ウエイト行列を生成しておき、これを直接受信信号ベクトルr’kS,1〜r’kS,Mに乗算する構成としても構わない。しかし、この際の演算量は式(33)と式(34)を個別に行う際には2×M回の複素乗算で済むのに対し、一括で行う場合には送信ウエイト行列の生成と行列×ベクトルの乗算の双方で合計2×M2回の複素乗算が必要であり、個別の演算に分けた方が効率は良い。
次に、端末局装置33で受信した信号に対する信号処理の説明を行う。端末局装置33のアンテナ素子851は、f2の周波数帯の信号を受信する。LNA852は、f2の周波数帯の信号を増幅する。ミキサ854は、f2の周波数帯の信号をアナログベースバンド信号にダウンコンバートする。フィルタ855は、アナログベースバンド信号から帯域外信号を除去する。A/D変換器856は、アナログベースバンド信号をデジタルベースバンド信号に変換する。FFT回路857は、サンプリングされた信号のシンボルタイミングを基準に、デジタルベースバンド信号をサブキャリアの受信信号に変換する。
ここで端末局装置33ではまず、第1のチャネル情報推定回路146又は第1のチャネル情報推定回路156が、各サテライト基地局装置32の各アンテナ素子が送信ウエイトベクトルにより形成する仮想的アンテナ素子と端末局装置33の各アンテナとの間のチャネル情報を、受信信号に付与されたトレーニング信号より取得する。第1の受信ウエイト算出回路147又は第1の受信ウエイト算出回路157は、取得したチャネル情報から、受信ウエイトを生成する。ここでの受信ウエイトとしては、NSDM系統の信号系列を1段階で直接信号分離するためのZF型やMMSE型の受信ウエイト行列でも良いし(図22に相当)、第1特異値に対応する仮想的伝送路の信号に一旦分離し、その後にこの仮想的伝送路間の相互干渉を除去する2段階の受信ウエイト乗算処理を利用(図23に相当)しても構わない。仮に後者の場合には、各サテライト基地局装置32の各アンテナ素子が送信ウエイトベクトルにより形成する仮想的アンテナ素子と、端末局装置33の各アンテナとの間のチャネルベクトルに対し、このベクトルを基に受信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。この受信ウエイトをwrx,kS,1〜wrx,kS,Nm(ここでは添え字の表記の都合上、Nmは端末局装置の備えるアンテナ素子数NMT−Antとする)とし、端末局装置33の各アンテナ素子で受信した信号ベクトルをRxとすると、式(35)(図34における(vi))で与えられる式で一旦、仮想的伝送路に信号を分離する。
ここでrkSは第kSサテライト基地局装置32を介する仮想的伝送路の受信信号である。この時点でNSDM×NSDMのMIMO伝送の信号となっているので、その後、端末局装置33の第2の受信信号処理回路159にて一般的なMIMO信号処理を実施する。具体的には、受信信号の先頭に付与された既知のトレーニング信号を参照し、NSDM系統の信号系列に対しNSDM×NSDMのチャネル行列を取得し、そのチャネル行列を基に受信信号検出処理を行う。先にも示した様に、ZF型の逆行列やMMSE型の線形受信ウエイト行列を乗算すること、ないしはMLDなどの非線形の信号処理を行うことも可能である。この様に信号分離されたN系統の信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路68に出力する。一例としてZF型やMMSE型の線形受信ウエイト行列Wrxを用いる場合には、式(36)(図34における(vii))に示す演算を行う。ここで、煩雑さを避けるために式(36)及び式(37)ではNSDMをNと表している。
なお、前述した様に、式(35)と式(36)の2段階の信号処理の代わりに、1段階で端末局装置33の各アンテナ素子の受信信号を用いて直接信号分離をすることも可能である。これは、受信信号ベクトルRxに対して直接信号分離するZF型やMMSE型の線形受信ウエイト行列〜Wrx(〜は行列Wrxの上に表記される)を用いて、式(37)に示す信号処理を実施することに相当する。
以上の本発明の実施形態の特徴は、サテライト基地局装置32は従来技術における再生中継機能を持つ訳ではなく、一方で通常の非再生中継のみの機能に限定される訳でもなく、受信信号の受信ウエイトベクトル乗算と、更にその信号に送信ウエイトベクトルを乗算するという中間的な処理を実施し、且つその送受信ウエイトベクトルは基本的に複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を有効活用するための指向性制御となっている点である。
図35に本発明の実施形態におけるサテライト基地局装置の回路構成を示す。図35において符号700はアンテナ素子を示す。符号701はTDD−SWを示す。符号702はローノイズアンプ(LNA)を示す。符号703はミキサを示す。符号704はフィルタを示す。符号705はA/D変換器を示す。符号706はFFT回路を示す。符号707は受信ウエイト乗算回路を示す。符号708は送信ウエイト乗算回路を示す。符号709はIFFT&GI付与回路を示す。符号710はD/A変換器を示す。符号711はミキサを示す。符号712はフィルタを示す。符号713はハイパワーアンプを示す。符号714はTDD−SWを示す。符号721はアンテナ素子を示す。符号722はローノイズアンプ(LNA)を示す。符号723はミキサを示す。符号724はフィルタを示す。符号725はA/D変換器を示す。符号726はFFT回路を示す。符号727は受信ウエイト乗算回路を示す。符号728は送信ウエイト乗算回路を示す。符号729はIFFT&GI付与回路を示す。符号730はD/A変換器を示す。符号731はミキサを示す。符号732はフィルタを示す。符号733はハイパワーアンプを示す。符号740は送信ウエイト処理部を示す。符号741はローカル発振器を示す。符号742はローカル発振器を示す。符号743は通信制御回路を示す。以下、説明の都合上、左側が統括基地局装置31との通信を行う側、右側が端末局装置33と通信を行う側として説明を行う。
まず、ダウンリンク方向(統括基地局装置31→サテライト基地局装置32→端末局装置33方向)について説明する。各アンテナ素子700で受信した信号は、TDD−SW701を介してローノイズアンプ702に入力される。ここでTDD−SW701の切り替えは、通信制御回路743が送受信のタイミングに合わせて行う。ローノイズアンプ702に入力された微弱な信号は増幅され、この増幅された信号とローカル発振器741から出力される局部発振信号とがミキサ703で乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の周波数成分も含まれるため、フィルタ704で帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器705でデジタルベースバンド信号に変換される。デジタルベースバンド信号は全てFFT回路706に入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各周波数成分の信号に分離)する。この各周波数成分に分離された信号は、受信ウエイト乗算回路707に入力されると共に、送受信ウエイト処理部740−1にも入力される。
受信ウエイト乗算回路707では、このサテライト基地局装置32が担う仮想的伝送路に対応させて第1特異値の受信ウエイトベクトルが乗算され、複数アンテナ素子によるベクトル状の信号から1系統のスカラー状の信号に変換される。この信号は送信ウエイト乗算回路708に入力され、送信ウエイト乗算回路708では着目するサテライト基地局装置32から端末局装置33への第1特異値に対応する仮想的伝送路に対応させて送信ウエイトベクトルが乗算されて、各アンテナ素子721に対応した信号が生成され、これらが各アンテナ素子系統のIFFT&GI付与回路709に入力され、このIFFT&GI付与回路709にて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子721ごとに、D/A変換器710でデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器742から入力される局部発振信号と、ミキサ711で乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分に信号が含まれるため、フィルタ712により帯域外の周波数成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ713で増幅され、TDD−SW714を介してアンテナ素子721より送信される。
次に、アップリンク方向(端末局装置33→サテライト基地局装置32→統括基地局装置31方向)について説明する。各アンテナ素子721で受信した信号は、TDD−SW714を介してローノイズアンプ722に入力される。ここでTDD−SW714の切り替えは、通信制御回路743が送受信のタイミングに合わせて行う。ローノイズアンプ722に入力された微弱な信号は増幅され、この増幅された信号とローカル発振器742から出力される局部発振信号とがミキサ723で乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の周波数成分も含まれるため、フィルタ724で帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器725でデジタルベースバンド信号に変換される。デジタルベースバンド信号は全てFFT回路726に入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各周波数成分の信号に分離)する。この各周波数成分に分離された信号は、受信ウエイト乗算回路727に入力されると共に、送受信ウエイト処理部740−2にも入力される。
受信ウエイト乗算回路727では、このサテライト基地局装置32が担う仮想的伝送路に対応させて第1特異値の受信ウエイトベクトルが乗算され、複数アンテナ素子によるベクトル状の信号から1系統のスカラー状の信号に変換される。この信号は送信ウエイト乗算回路728に入力され、送信ウエイト乗算回路728では着目するサテライト基地局装置32から統括基地局装置31への第1特異値に対応する仮想的伝送路に対応させて送信ウエイトベクトルが乗算されて、各アンテナ素子700に対応した信号が生成され、これらが各アンテナ素子系統のIFFT&GI付与回路729に入力され、このIFFT&GI付与回路729にて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子700ごとに、D/A変換器730でデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器741から入力される局部発振信号と、ミキサ731で乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分に信号が含まれるため、フィルタ732により帯域外の周波数成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ733で増幅され、TDD−SW701を介してアンテナ素子700より送信される。
なお、受信ウエイト乗算回路707及び送信ウエイト乗算回路728で乗算される送受信ウエイトベクトルは、送受信ウエイト処理部740−1にて算出される。受信ウエイト乗算回路727及び送信ウエイト乗算回路708で乗算される送受信ウエイトベクトルは、送受信ウエイト処理部740−2にて算出される。ダウンリンクとアップリンクのそれぞれのFFT回路を用いて取得されたチャネル情報を基に受信ウエイトベクトルを算出し、キャリブレーション処理を施すことでその逆方向の送信ウエイトベクトルを算出する。統括基地局装置31との間の送受信においては、その伝搬路が固定的で、且つ高所で見通し環境ということから一旦チャネル情報を取得すれば、その後は継続的にその値を使いまわすことも可能である。
したがって、サービス運用の開始前に繰り返しチャネル推定を行い、その平均化により高精度のチャネル推定結果(この場合には相対チャネル情報を利用)、及びそこから算出される送受信ウエイトベクトルを利用することが可能である。一方で、サテライト基地局装置32と端末局装置33との間のチャネル情報は、端末局装置33やその周りの移動や環境変動により変化するため、リアルタイムでチャネル情報取得とウエイトベクトルの更新が必要となる。このチャネル情報の取得(チャネルフィードバック)の方法は如何なる手段を用いても構わない。そして、この様にして取得したチャネル情報に対し、送受信ウエイト処理部740−1及び740−2では、例えば特異値分解などの手法で第1特異値に対応する仮想的伝送路の送受信ウエイトベクトルを算出し、これを受信ウエイト乗算回路707、727、及び送信ウエイト乗算回路708、728に入力する。なお、通信制御回路743は送受信タイミングやシンボルタイミングを把握し、TDD−SW701、714や各種回路に対して様々な指示を行う。通信制御回路743がこの様なタイミングを把握する根拠は、統括基地局装置31との通信において統括基地局装置31に同期させることで把握することも可能であり、GPSやその他の無線システム(例えばマクロセルの基地局からの信号)から取得される情報を用いて行っても構わない。
以上の様に、第3の実施形態の無線通信システム52は、統括基地局装置31(第1の無線局装置)と、複数のサテライト基地局装置32(第2の無線局装置)と、端末局装置33(第3の無線局装置)とを備える。統括基地局装置31は、第1のアンテナ素子群を介して複数のサテライト基地局装置32との無線通信を実行する第1無線局信号処理部を有する。サテライト基地局装置32は、第2のアンテナ素子群を介して統括基地局装置31との無線通信を実行し、第3のアンテナ素子群を介して端末局装置33との無線通信を実行する第2無線局信号処理部を有する。
第3の実施形態のサテライト基地局装置32(第2の無線局装置)の第2無線局信号処理部は、第1のアンテナ素子群と第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する受信ウエイトベクトルを、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて算出する。第2無線局信号処理部は、第2のアンテナ素子群を介して受信した信号に受信ウエイトベクトルを乗算することによって送信信号系列を生成する。第2無線局信号処理部は、生成した信号系列に基づく信号を第3のアンテナ素子群を介して端末局装置33(第3の無線局装置)に送信する。
第3の実施形態のサテライト基地局装置32(第2の無線局装置)の第2無線局信号処理部は、端末局装置33(第3の無線局装置)の第4のアンテナ素子群とサテライト基地局装置32(第2の無線局装置)の第3のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する送信ウエイトベクトルを、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて算出し、第3のアンテナ素子群を介して受信した信号に送信ウエイトベクトルを乗算することによって複数の系統の信号系列を生成し、複数の系統の信号系列に基づく信号を第2のアンテナ素子群を介して端末局装置33(第3の無線局装置)に送信する。
第3の実施形態の無線通信システム52の第1無線局信号処理部は、第1のアンテナ素子群と第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する送信ウエイトベクトルを、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて算出し、第2の無線局装置ごとに信号系列を生成し、生成した信号系列にそれぞれの信号系列に対応した送信ウエイトベクトルを乗算し、乗算した結果を全ての信号系統について加算合成し、加算合成した信号系列に基づく信号を、第1のアンテナ素子群を介してサテライト基地局装置32(第2の無線局装置)に送信する。
第3の実施形態の無線通信システム52の第1無線局信号処理部は、第1のアンテナ素子群と第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する受信ウエイトベクトルを、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいてサテライト基地局装置32(第2の無線局装置)ごとに算出し、第1のアンテナ素子群を介して受信した信号に受信ウエイトベクトルを第2の無線局装置ごとに乗算することによって複数の系統の信号系列を生成し、複数の系統の信号系列に基づく信号から残留干渉成分を除去する。
これによって、第3の実施形態の統括基地局装置31、サテライト基地局装置32、端末局装置33、無線通信システム52及び無線通信方法は、見通し環境が支配的な環境でMIMOによって伝送容量を増大させることが可能となる。第3の実施形態の統括基地局装置31、サテライト基地局装置32、端末局装置33、無線通信システム52及び無線通信方法は、非再生の再ビームフォーミング中継によって、伝送容量を増大させることが可能となる。第3の実施形態の統括基地局装置31、サテライト基地局装置32、端末局装置33、無線通信システム52及び無線通信方法は、所望の特性で複数の信号系列を空間多重して伝送することが可能になる。
第1の実施形態においては、基地局装置70、端末局装置60、無線通信システム50及び無線通信方法は、アクセス系に第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数利用して、空間多重を行うことも可能である。しかし、端末局装置60の座標は固定的に設計できないので、空間多重的には基地局装置70側の第1の信号処理部304を離れた場所に複数配置することが好ましい。このために、サテライト基地局装置32として第1の信号処理部304に相当する機能を配置する場合には、その間を有線で引き回すより、無線で中継することが好ましい。この利用形態を実現する際には、非再生中継でありながらビームフォーミングだけは中継局において実施するという信号処理が有効であり、そのための実現方法を規定した。
[第4の実施形態]
[第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統用いた列車ムービングセル]
(列車ムービングセルと基本原理の概要)
先の第3の実施形態において説明した通り、5G(第5世代)に向けた将来無線アクセスにおいて、特に列車内の多数のユーザのトラヒックをマクロセルに収容する代わりに、これらのトラヒックを列車内で集約し、これらを一括して無線エントランスにて有線ネットワーク側にユーザデータを迂回しオフロードすることは、マクロセルの周波数資源を有効活用し、システム全体での総伝送容量を向上するには有効である。ここでは、列車と電車の区別は特に行わず、在来線や新幹線などの全ての車両を列車と標記する。
しかし、列車の場合には一般に移動速度が速く、新幹線であれば時速300[km/h]を超え、在来線でも100[km/h]以上の伝送速度を想定して無線エントランス回線を構成しなければならない。特に、大容量の回線を提供するためにはミリ波等の高周波数帯の利用が余儀なくされ、回線設計的には波長の2乗に比例する利得の損失と、ミリ波帯のハイパワーアンプの出力がマイクロ波帯に比べて非常に小さく、高出力なものは高価であることを考慮すると、低出力のアンテナ素子を多数利用する大規模アンテナ化により回線利得を確保する必要に迫られる。特に、列車の移動速度を考慮すれば、ハンドオーバの頻度を低減し制御の負荷を低減するためには、500[m]間隔程度のエリアをエントランス側の基地局装置でカバーしなければならない。大規模アンテナの利得の確保においては、チャネル情報のフィードバックを精度良く行い、高精度の指向性制御を行う必要があるが、列車の移動速度が速いことからチャネルの時変動が一般的に大きく、この時変動への高精度の追従と高速の指向性形成が必要となる。
先にも触れたが、一般にMIMOチャネルの時変動は、チャネル行列を特異値分解した際に得られる特異値が大きい方に対応した仮想的伝送路において、比較的小さくなる傾向がある。逆に小さな特異値に対応する仮想的伝送路において、チャネル時変動が非常に大きくなる傾向がある。ここでは送受信局が相互に見通し環境にあることを想定するため、第1特異値に対応する仮想的伝送路は見通し波に相当する伝送路である。この場合、列車の線路が概ね直線的であることを考慮すれば、線路の上部付近(架線柱など)に高指向性アンテナを線路と平行な方向に指向性を向けて設置し、列車との間で正面方向に向き合う形で無線信号を送受信することにすれば、見通し環境が長い時間に渡り安定的に確保できる。各アンテナ素子間のチャネル情報は、列車の移動方向と電波の到来方向とが概ね平行であるため、非常に急激に変化する。一方で、各アンテナ素子間の各パスのチャネル情報の相対的な関係(複素位相差)は、殆ど平面波に近似できる状況であるため、時間変動に対して殆ど変化がない。つまり、チャネル自体は高速で変動するが、第1特異値に対応する仮想的伝送路の送受信ウエイト自体は極めて変化が緩やかで、一定の送受信ウエイト値をある程度の期間保ち続けても、概ね理想的な指向性形成が維持できることになる。
一方で、第2特異値以降に対応する仮想的伝送路は、多くの反射波を積極的に利用することになり、移動方向に対して平行な方向ではない様々な方向からの入射波が支配的となる。このとき、様々な角度方向からの波が合成されていると、平面波とは明らかに異なる状況となり、時間変動と共に各アンテナ素子間の各パスに対応するチャネル情報の相対的な関係も大幅に変動する。そのため、チャネル情報の相対的な関係の変動に追従させるために、送受信ウエイトを高速で更新する必要があり、高速での更新ができなければ適切な指向性形成がなされないことになる。ここで、仮にインプリシット・フィードバックを導入してチャネル情報のフィードバックのオーバヘッドを低減したとしても、この急激なチャネル情報の変動に追従するためには極めて頻繁にチャネル推定用のトレーニング信号を交換しなければならず、現実的に求められる精度を達成するのは困難である。
ここで、列車に搭載する端末局装置と無線エントランスの基地局装置とが備える送受信用の各種回路(ハイパワーアンプ、ローノイズアンプ、フィルタ、ミキサ等)は、温度特性などに起因して変化する複素位相の回転量を精度の高いキャリブレーション処理で時間変動なく常に概ね一定として扱うことが可能であるとする。この場合、ある列車に着目すれば、通過する線路が決まればその列車(厳密には列車に搭載される端末局装置の各アンテナ素子)の移動経路は極めて高精度で1次元的な変位を示し、その1次元的な移動ルート上の座標を把握できれば、毎回毎回、同一場所に列車がある場合のチャネル情報はほぼ同一のチャネルとなる。
もちろん、例えば80GHzなどを想定すると波長は3.75mmであり、僅か1mmの座標のズレで波長の25%以上の座標の誤差となり絶対的なチャネル情報は大きく変化するが、ここで議論すべきは送受信ウエイトを算出する際に必要となる相対チャネル情報である。平面波的に到来する見通し波の場合、その平面とアンテナ素子が2次元的に配置されている平面が概ね平行である限り、その相対チャネル情報はその程度の座標の誤差では大きな影響は受けない。一般に、送受信ウエイトの変動に関して、見通し方向(送受信アンテナを結ぶ直線と平行な方向)に垂直な方向に遷移する場合と見通し方向に平行な方向に遷移する場合とで比べると、垂直な方向に遷移する場合の方が送受信ウエイトの変動量は大きくなる。もちろん、線路と列車の車輪の幅との遊びは数mm以上あるかも知れないので厳密に同一座標を通過する訳ではなく、この見通し方向に垂直な方向に対しても若干の誤差を伴うことになる。しかし、上述の様に第1特異値に対応する仮想的伝送路の場合には概ね平面波で近似可能であり、その程度の誤差であれば送受信ウエイトの変化は許容範囲である。一方、見通し方向に平行な方向に遷移する場合において、列車の位置の判定の精度は、移動速度が速いことに起因して低くなる。しかし、平面波であれば送受信ウエイトは、垂直な方向に列車が遷移する場合に比べて全く鈍感であり、十分に対応可能である。
なお、送受信ウエイト自体は時変動が小さいかも知れないが、この送受信ウエイトを用いて合成した信号の複素位相は座標と共に変動し、それはドップラーシフトとして観測される。ただし、ドップラーシフト自体は周波数誤差と本質的に差はないため、例えばOFDMを用いる場合でもサブキャリア間隔に比較して小さな値に収まっているならば、OFDMの直交性を破るまでには至らないため、残留周波数誤差の補償をトラッキング処理などで実施することで対応することが可能である。
そこでまず、1次元的な列車の移動における列車の位置(座標)を高精度で判定するためのメカニズムを導入する。例えば、線路脇に何らかの座標を特定する目印を所定の間隔で配置し、その目印をカメラ等で撮影し、その映像に画像処理を施すことでその座標を測定する。例えば、バーコード状の幾何学的な座標情報の目印を10[m]間隔で配置し、カメラで撮影した画像を解析してバーコードから目印の座標を特定する。実際に目印の箇所を通過する時刻と、画像解析により目印の座標を特定できる時刻にはタイムラグが生じるが、このタイムラグがどの程度の時間となるかを事前に取得することは可能である。一方で、このタイムラグは全ての目印で概ね同一であると推定されることから、その目印を10[m]間隔で設置しているとすれば、その目印を画像解析で認識する時刻の差分と10[m]という移動距離の関係から、その瞬間の移動速度を高精度で推定することは可能である。更に、その移動速度と上述のタイムラグの時間から、列車が目印の座標を判定した瞬間に実際にどの場所にいるかが高精度で推定できると共に、そこからある微小時間が経過した際の座標も同様に推定できる。
この様にして、1次元的な移動における瞬時の座標を精度良く取得することは可能である。ここではバーコードを例として示したが、LED等による光学的な信号でも構わないし、無線タグの様な電磁波的な信号を用いて座標を特定することにしても構わない。現時点のGPSの座標推定精度はあまり高くないが、Assisted GPSとして別途設定する無線回線(異なる周波数帯であったり、異なるシステムを介したもので構わない)を介してGPSの補正値情報を取得すると、GPSの測位の精度は5〜10[m]程度に抑えられることが知られている。更に、列車の場合には線路上を走行するために、移動経路が1次元的であり、GPSなどを利用する場合でもその1次元経路上(線路上)の場所に限定すれば更に精度は高まる。今後、準天頂衛星を用いた座標特定では数cm程度の精度で座標推定も可能と言われており、この様な将来のGPS機能を利用することも当然可能である。更には、自動車の速度計や距離計と同様に、車輪の回転回数から移動距離を取得することも可能であり、駅のホームなどで停車した際に高精度の座標補正を行い、その地点からの移動距離とGPS情報やその他の座標取得手段を併用する等、組み合わせを用いれば、測定精度は飛躍的に向上する。この様にすれば、上述の様にカメラと画像認識機能などを用いずとも、高精度の座標推定が可能となる。これらの如何なる手段で座標情報を取得したとしても同様に本実施形態は適用可能である。
以上の説明では列車側において座標を推定する場合を説明したが、同様に基地局装置側においても通信相手である列車の座標の特定を行う必要がある。基本的には、この基地局装置と有線ネットワークとを介して接続された走行する列車の座標特定手段を用い、基地局装置は列車の座標を取得することになる。この様に有線ネットワーク側で列車の座標を特定する場合には、例えば発光体とその受光器とを線路わきに配置し、列車の通過時に光が遮られることを利用する様な構成でも良いし、列車側に発光体を設置し、その発光体の光を線路わきの受光器が検出するという構成でも良い。カメラを線路わきに多数設置するのはコストの点で非現実的だが、その他の手法でその座標を高精度で取得することは可能である。ないしは、列車が取得した座標情報を低遅延の別途設定する無線回線(異なる周波数帯であったり、異なるシステムを介したものでも構わない)で基地局装置側に通知することができれば、有線ネットワークにて接続された座標情報の取得手段を用いずとも、基地局装置側で列車の座標を特定することも可能である。
次に、この様な列車の座標が特定可能な状態で、例えば深夜帯など通常のサービス外の時間帯や、ないしはサービス運用開始前などにおいて、実際の車両を走行させながら、その時のチャネル行列をその座標情報と関連付けて事前に取得し、基地局装置又は端末局装置に記憶させておく。何回か測定してその平均値を求めるなどすれば、より高精度なチャネル行列と列車の座標との対応関係が取得できる。この平均値を求める際には、測定されたままの絶対的なチャネル情報の代わりに、基準アンテナの複素位相を基準とする相対チャネル情報を利用し、この相対チャネル情報に対して送受信ウエイトを算出する。チャネル行列の測定は列車側に加えて有線ネットワーク側の基地局装置でも実施する。ないしは、インプリシット・フィードバックなどの手法により、ダウンリンクのチャネルの情報からアップリンクのチャネルの情報を取得しても構わない。
以上の様に、実際のサービス運用が開始するよりも前に、事前に列車の座標とアップリンク及びダウンリンクのチャネル行列の関係のデータベースを構築する。正確には、チャネル行列を基に、第1特異値に対応する仮想的伝送路の送受信ウエイトを事前に算出し、送受信ウエイトをデータベースに記憶させる。例えば列車側においては、各仮想的伝送路のアップリンクで用いる送信ウエイトベクトルとダウンリンクで用いる受信ウエイトベクトルとを、離散的な座標情報に対応付けてデータベースに記憶する。同様に基地局装置側においては、各仮想的伝送路のアップリンクで用いる受信ウエイトベクトルとダウンリンクでの送信ウエイトベクトルとを、離散的な座標情報に対応付けてデータベースに記憶する。
図36に、第4の実施形態における無線通信システムの構成の概要を示す。同図において、符号600は基地局装置、符号601−1〜601−8は基地局装置の第1の信号処理部、符号602−1〜602−8は幾何学的座標情報、符号603は列車、符号604は端末局装置、符号605はカメラ、符号606は列車側のウエイト行列/座標データベース、符号607は基地局装置側のウエイトベクトル/座標データベースをそれぞれ示す。なお、第1の信号処理部601−1〜601−8のいずれかを示す際には、第1の信号処理部601と記載する。
列車603は進行方向の先頭車両の先頭部上方、ないしは最後部車両の最後部の上方部分に多数のアンテナ素子を備えた端末局装置604を設置する。ここでの設置場所は列車603の車内から窓越しに信号の送受信をする構成でも良いし、列車603の外部に設置して、更に雨風の影響を低減するためのカバー(レドーム)で覆っても良い。また基地局装置600は、第1の実施形態において図16に示した第1の信号処理部304−1〜304−4の様な複数の第1の信号処理部601−1〜8を備える。第1の信号処理部601−1〜8は、物理的に距離を開けて設置される。例えば、第1の信号処理部601−1〜8は、1m間隔ないしは2m間隔などの間隔が設けられて多数、設置される。これらの第1の信号処理部601−1〜601−8に対し、基地局装置600は、図16に示した第2の信号処理部305をも合わせて備える。基地局装置600が備える第1の信号処理部601−1〜601−8は、例えば列車603の線路に対して垂直な方向に線路を横断する様に設けられている架線柱などに設置される。第1の信号処理部601−1〜601−8は、図16に示した第1の信号処理部304−1〜304−4と同様に多数のアンテナ素子と信号処理のための回路を備える。
端末局装置604も同様に多数のアンテナ素子を備える。端末局装置604のアンテナ素子及び第1の信号処理部601−1〜8のアンテナ素子はそれぞれ、回線利得の確保のためにアンテナ素子から見て前方方向に指向性を高めた構成を取る。列車603の移動は完全な直線ではなくカーブを伴う場合があるため、過剰に指向性利得が高ければ良いという訳ではなく、列車603に設置された端末局装置604から見て基地局装置600が存在する方位、及び基地局装置600から見て列車603の端末局装置604が存在する方位に対しては指向性利得が低下しない範囲で、高い指向性利得をアンテナ素子が有することが理想的である。
図36に示す例では列車603にはカメラ605が実装され、線路脇の幾何学的座標情報602を撮影し、図中に明記していない画像解析機能により列車603の座標を把握する装置を列車603が備える。また、基地局装置600はウエイトベクトル/座標データベース607を備え、列車603の端末局装置604はウエイト行列/座標データベース606を備える。幾何学的座標情報602−1〜602−8は、概ね等間隔に線路脇に設置されており、列車603に実装されたカメラ605で撮影可能な位置に配置されている。幾何学的座標情報602−1〜602−8には、幾何学的座標情報602−1〜602−8が設置されている座標を示す座標情報ないしは幾何学的座標情報602−1〜602−8を特定できる情報がバーコード等により記録されている。
例えば、列車603は走行しながらカメラ605で幾何学的座標情報602−1〜602−8を撮影し、幾何学的座標情報602−7の画像を認識した際には、その幾何学的座標情報602−7の情報から幾何学的座標情報602−7の座標を特定する。実際には画像認識にタイムラグがあるのであれば、そのタイムラグの時間ΔTを工場出荷時ないしは製品設計時に把握しておく。幾何学的座標情報602−1〜602−8はカメラ605により順に画像認識されるため、ある時刻t1[s]で幾何学的座標情報602−8の認識がなされ、別の時刻t2[s]で幾何学的座標情報602−7の認識がなされとすれば、幾何学的座標情報602−8と幾何学的座標情報602−7との間の距離x[m]に対してv=x/(t2−t1)で秒速度[m/s]を把握し、時刻t2から微小時刻Δt経過した時刻t2+Δtにおいては、v×ΔT[m]だけ幾何学的座標情報602−7の座標よりも前方に位置しているものと判断する。
一方でサービス運用開始よりも前に、列車603は所定の線路上を走行しながら、基地局装置600の各第1の信号処理部601−1〜601−8から送信されたトレーニング信号を端末局装置604の各アンテナ素子で受信し、そのMIMOチャネルのチャネル情報を取得する。その取得されたチャネル情報を基に、上述の第1特異値に相当する仮想的伝送路を利用する通信で用いる受信ウエイトベクトル及び送信ウエイトベクトルを第1の信号処理部601−1〜601−8ごとに取得し、これをウエイト行列/座標データベース606に記録する。受信ウエイトベクトル及び送信ウエイトベクトルを複数回取得する場合には、その平均値を求めるなどして精度の向上を図ることが可能である。また、この平均化に際しては、例えば端末局装置604が備えるアンテナ素子の中の所定のアンテナ素子の送受信ウエイトベクトルの複素位相を基準とする形で、端末局装置604が備えるアンテナ素子の送信ウエイトベクトルの各成分を相対的な送受信ウエイトとするなど、異なる時刻に取得された情報であっても平均化することが可能な処理を行うことが好ましい。
同様のデータベースは、基地局装置600側でも作成され、ウエイトベクトル/座標データベース607に記憶される。上述の説明では、基地局装置600側からトレーニング信号を送信する場合について説明したが、後述する何らかの手法で列車603の座標と時刻情報を列車603(ないしは端末局装置604)側で記録すると共に、端末局装置604側からトレーニング信号を送信し、基地局装置600の第1の信号処理部601−1〜601−8の各アンテナ素子でこれを受信し、MIMOチャネルのチャネル情報を受信時刻情報と共に記録する。その記録された時刻情報と列車の座標情報、及び時刻情報とチャネル情報の関係を基に、上述の第1特異値に相当する仮想的伝送路を利用する通信で用いる所定の列車の座標に対する受信ウエイトベクトル及び送信ウエイトベクトルを第1の信号処理部601−1〜601−8ごとに取得し、これをウエイトベクトル/座標データベース607に記録する。又は、列車603側でダウンリンクのチャネル情報を取得できさえすれば、キャリブレーション技術を用いてアップリンクのチャネル情報を取得することも可能であるので、基地局装置600側から送信したトレーニング信号を用いて列車603側で一通りのチャネル情報を取得した後で、オフラインでキャリブレーション処理によりアップリンクのチャネル情報を取得し、このチャネル情報を基に第1の信号処理部601−1〜601−8ごとに送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトルを算出し、これをデータベース化してウエイトベクトル/座標データベース607に記録してもよい。
以上の処理においては、基地局装置600側で取得する情報や端末局装置604側で取得する情報などを総合的に処理してウエイト行列/座標データベース606及びウエイトベクトル/座標データベース607に記録すべき情報を生成するため、必要な情報を一旦、別の計算機などの環境に集約し、そこで加工処理を行った情報を、別途、基地局装置600のウエイトベクトル/座標データベース607及び端末局装置604のウエイト行列/座標データベース606に記録する構成としても構わない。
ここで、ウエイト行列/座標データベース606及びウエイトベクトル/座標データベース607における送受信ウエイトベクトルに対応する座標の間隔は、幾何学的座標情報602−1〜602−8が設置される位置の間隔と一致する必然性は全くない。上述の様に幾何学的座標情報602−1〜602−8の間の任意の位置においても列車の移動速度と経過時間などから座標情報は取得可能であり、その任意の位置において取得したチャネル情報を基に、その任意の位置における送受信ウエイトベクトルを算出することも可能であるから、ウエイト行列/座標データベース606及びウエイトベクトル/座標データベース607における送受信ウエイトベクトルに対応する位置(座標)の間隔は任意に設定することが可能である。
この端末局装置604のウエイト行列/座標データベース606及び基地局装置600側のウエイトベクトル/座標データベース607には、離散的な座標に対する送受信ウエイトベクトルが記録されており、連続的なデータ送受信のためにはこの離散的な送受信ウエイトベクトルに対応する座標の間における送受信ウエイトベクトルを取得する必要がある。しかし、もし仮にウエイト行列/座標データベース606及びウエイトベクトル/座標データベース607に記録される送受信ウエイトベクトル/行列に対応する座標の刻み幅が十分短く、その連続する座標それぞれに対応する送受信ウエイトベクトル/行列の差分が十分小さければ、次の送受信ウエイトベクトル/行列が記録されている座標までの間は、同一の送受信ウエイトベクトル/行列を継続的に使い続けてもあまり問題とならない。ウエイトベクトル/座標データベース606及びウエイトベクトル/座標データベース607の記憶容量に対する制約がなければ、この様に新たな記録された座標地点までは同一の送受信ウエイトベクトル/行列を使い続けられる様に、より多くの座標情報の送受信ウエイトベクトル/行列をウエイトベクトル/座標データベース606及びウエイトベクトル/座標データベース607内に記録されることが好ましい。ただし、記憶容量に制限がある場合には、例えば連続する2点の座標それぞれに対応する送受信ウエイトベクトル/行列を用いて、2点の座標に挟まれる区間においては内挿補間を行い、近似的にその区間内の送受信ウエイトベクトル/行列を算出する構成としても良い。
なお、列車603は高速で移動している場合、基地局装置600及び端末局装置604で観測される受信信号の周波数にはドップラーシフトが生じる。このため、上述の説明においてサービス運用開始前に事前に測定するチャネル情報には、当然ながら列車603の移動速度に依存するドップラーシフトの影響が含まれている。このドップラーシフトでは、周波数のオフセットに伴い波長の変位が生じるため、チャネル情報そのものの値は列車603の速度によって異なる値となる。通常の列車603の運行においては、同一カ所においては同一速度で走行することが期待されるが、実際には何らかの運行上のトラブルで減速運転する可能性も否定できず、その様な事態において列車603の中のユーザがインターネットアクセスする際に支障が出る様なエントランス回線の通信品質の劣化は避けなければならない。
しかし、基地局装置600の各第1の信号処理部601−1〜601−8の各アンテナ素子にしても、端末局装置604の各アンテナ素子にしても、それぞれが第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用する場合には、そのアンテナ素子が非常に狭い領域に集中していることが想定されている。この場合、基地局装置600の各第1の信号処理部601−1〜601−8の各アンテナ素子にしても、端末局装置604の各アンテナ素子にしても、その経路長差は小さな値に設定されており、更にそれぞれのアンテナ素子の見える方角は非常に高い精度で同一方向となっている。この場合、各アンテナ素子で発生するドップラーシフト量はほぼ同一の値であり、更に各アンテナ素子間の相対的なチャネル状態の複素位相差は高い精度で列車603の移動速度に依存しない値となる。すなわち、チャネル情報(及びチャネル情報を成分とするチャネルベクトル)は列車603の移動速度に起因して異なる値となるが、そのチャネルベクトルに対応した送受信ウエイトベクトル自体は列車603の移動速度に依存しないことになる。したがって、上述の手法で列車603の移動速度を算出することは可能であり、その移動速度や座標の関係からドップラーシフト量も推定し、任意の移動速度に対するチャネルベクトルの補正を実施することも原理的には可能であるが、そこまでの補正処理をするまでもなく、第1特異値に対応する仮想的伝送路を積極的に利用する第4の実施形態における無線通信システムにおいては、ドップラーシフトの補正なしにデータベース化された送受信ウエイトベクトルをそのまま利用することが可能である。
(第4の実施形態の無線通信システムにおける信号処理の概要)
以下に、図面を参照して、第4の実施形態の無線通信システムで行われる信号処理の概要を説明する。ここで用いるトレーニング信号とは、例えば各周波数成分のチャネル情報を取得可能なOFDM信号のトレーニング信号でも良いし、時間相関を算出するために自己相関の小さなトレーニング信号であっても良い。またOFDM信号をトレーニング信号として用いる場合であっても、必ずしも一般的なOFDM信号の様にガードインターバルを付与する必要はなく、各周波数成分がガードインターバルなしに連続するトレーニング信号を用いることも可能である。これは、送受信ウエイトベクトルの算出においては絶対的なチャネル情報(ないしはチャネル行列、チャネルベクトル)は必ずしも必要ではなく、各アンテナ素子間の複素位相の相対的な関係だけ取得できれば十分であるからであり、任意の1本の基準アンテナ素子に対する位相関係が取得できるのであれば、OFDM信号のシンボルタイミングを高精度に検出する必然性はないためである。また、OFDM信号である場合にも、後述する様に使用する全てのサブキャリアを用いたトレーニング信号である必要もなく、トレーニング信号として割り当てるサブキャリア数を限定し、サブキャリア当たりの送信電力を高めて、受信側でのSNRを高めた状態で利用するトレーニング信号であっても構わない。
<基地局装置側からトレーニング信号を送信する場合>
図37は、第4の実施形態における第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統用いた列車ムービングセルにおける信号処理の概要を示す図である。ここでは、基地局装置から端末局装置側にトレーニング信号が送信され、端末局装置側で座標情報とチャネル情報とが記録される場合の例を示している。また、以降の説明では明示的には記載していないが、例えばOFDMを用いる場合の様に広帯域のシステムの場合には、サブキャリアごとのチャネル情報の取得、及び送受信ウエイトの算出が必要となるが、説明を簡単にするためにサブキャリア等に関する添え字などの記述や詳細な説明は省略する。
図37(a)は、基地局装置600が行う処理を示すフローチャートである。基地局装置600は、処理を開始すると、トレーニング信号を連続的に送信する(ステップS3701)。基地局装置600は所定の期間に亘りトレーニング信号を連続的に送信した後に処理を終了する。基地局装置600は、例えば列車603が当該基地局装置600のエリア内に存在することを検出し、エリア内に列車603が存在する期間に亘りトレーニング信号を連続的に送信する。列車603に備えられる端末局装置604は、基地局装置600から送信されるトレーニング信号を受信する。基地局装置600による列車603の検出は、列車603の運行情報などに基づいて行ったり、他の何らかの方法で行ったりする。
図37(b)は、列車603における端末局装置604が行う処理を示すフローチャートである。端末局装置604は、処理を開始すると、走行中にGPSやカメラ605で撮像された撮影画像の解析など任意の方法で座標情報を取得し(ステップS3711)、座標情報の取得に合わせて任意の手法で時刻情報も取得する(ステップS3712)。端末局装置604は、ステップS3711で取得した座標情報と、各座標情報に対応しステップS3712で取得した時刻情報とを対応付けて記憶し(ステップS3713)、処理を終了する。この処理での時刻の取得方法は、例えばGPSやマクロセルの他の無線通信システムからの情報などを利用しても構わないし、事前に時刻合わせを行った時計を実装し、その時計の刻む時刻をそのまま記録しても構わない。ここで、ステップS3713で座標情報と時刻情報を関連付けて記録する際に、座標情報を解析するためのタイムラグの後の時刻情報ではなく、タイムラグが生じる前の座標情報を含む生の情報(例えばカメラの画像やGPSの信号)を取得した時点の時刻情報であり、この時刻情報と解析後の座標情報を併せて記録する場合には、後述するオフライン処理での情報の加工に際しては、このタイムラグに関する補正を行う必要はない。なお、この時刻情報と座標情報との対応を記録するのは、必ずしも無線通信システムの端末局装置604によって行う必要もなく、全く独立な別のシステムにおいても時刻情報と座標情報を記録できさえすれば、如何なる装置を用いても構わない。
図37(c)も、列車603における端末局装置604が行う処理を示すフローチャートである。端末局装置604は、図37(b)に示した処理に加えて図37(c)に示す処理を行う。端末局装置604は、処理を開始すると、トレーニング信号を受信し(ステップS3721)、トレーニング信号の受信に合わせて時刻情報を取得する(ステップS3722)。端末局装置604は、受信したトレーニング信号に対して受信信号処理を施し、チャネル推定を行う(ステップS3723)。ここでの受信信号処理としては例えば、受信した信号をローノイズアンプで増幅し、ミキサを介して無線周波数からベースバンド信号に変換し、A/D変換により時間軸上のサンプリング信号を生成し、OFDM変調方式であれば所定のシンボルタイミングでFFT処理を施し、既知のトレーニング信号との比較からチャネル推定を施す。トレーニング信号がガードインターバルを含まない連続信号であれば、任意のタイミングでFFT処理を施しても構わない。また、チャネル推定結果は基準アンテナ素子のチャネル推定結果又はその複素位相で除算して、実際に送受信ウエイトベクトルの算出で必要となる相対チャネル情報に変換しても構わない。
端末局装置604は、ステップS3723で取得したチャネル情報を、ステップS3722で取得した時刻情報に対応付けて記憶し(ステップS3724)、処理を終了する。ここで、ステップS3723でチャネル情報を取得できるタイミングは、ステップS3721でトレーニング信号を受信した時刻と異なりタイムラグが存在するが、ステップS3722で取得する時刻情報をステップS3721でトレーニング信号を受信した時刻となる様に管理すれば、ステップS3723でチャネル情報を取得できるタイミングまでにタイムラグが生じても、ステップS3724にてチャネル情報に対応付けて記録する時刻情報からタイムラグを排除することが可能であり、以降の説明ではチャネル情報の取得時刻にはタイムラグが含まれないものとして説明を行う。なお、上述の信号処理やチャネル推定は、別途、時間を変えてオフライン処理として実施することも可能であるため、生のサンプリングデータをそのまま記録することとしても構わない。ただし以降の説明では、便宜上、チャネル推定結果(相対チャネル情報)が記録されているものとして説明を行う。
図38は、第4の実施形態における座標情報及びチャネル情報を取得した後に行うオフラインの信号処理の概要を示す図である。ここでは図37と同様に、基地局装置600から端末局装置604側にトレーニング信号が送信され、端末局装置604側で座標情報とチャネル情報とが記録される場合のオフライン処理の例を示している。このオフラインの信号処理は、信号処理装置により行われる。信号処理装置は、端末局装置604内に設けられていてもよいし、端末局装置604において取得された座標情報、時刻情報及びチャネル情報を取得できる独立した装置として設けられてもよい。
オフラインの信号処理が開始されると、信号処理装置は、記録された時刻情報と座標情報との組み合わせのデータを読み出し(ステップS3801)、時系列的に前回に相当する座標情報との座標の差分(移動距離)を算出する(ステップS3802)。また、信号処理装置は、時刻情報についても前回に相当する時刻情報との差分として経過時間を算出する(ステップS3803)。信号処理装置は、これらの差分の除算により移動速度を算出し(ステップS3804)、別途測定している実際に座標情報を取得する際に要するタイムラグから、そのタイムラグ中に列車603が移動した距離を算出し、その移動距離分だけを加算した座標情報を算出する(ステップS3805)。ここで、タイムラグとは、例えば、カメラで撮影した映像を画像処理して座標情報を取得する場合などは、その画像処理などに要する時間を意味し、実際の画像取得とその座標情報を記録するまでの時間に相当する。チャネル情報の取得時刻と座標情報の取得時刻とは必ずしも一致している必然性はないので、信号処理装置は、ここでの座標情報と時刻情報と移動速度の関係から、時刻と座標の対応の換算式を抽出して管理する(ステップS3806)。ただし、上述の事前の処理でタイムラグを排除した形で時刻情報と座標情報が対応付けられて記録されている場合には、ステップS3805のタイムラグに関する補正処理は省略可能である。
一方、信号処理装置は、ステップS3801からステップS3806の処理と並行して、チャネル情報と時刻情報との組み合わせを読み出すと(ステップS3807)、時刻情報から上述の換算式により座標情報を推定する(ステップS3808)。信号処理装置は、チャネル情報からチャネル行列を算出し(ステップS3809)、チャネル行列に対して特異値分解を行う(ステップS3810)。信号処理装置は、ステップS3810における特異値分解で得られる第1左特異ベクトルを端末局装置604の受信ウエイトベクトルとして座標情報に対応付けて記録し(ステップS3811)、特異値分解で得られる第1右特異ベクトルを基地局装置600の送信ウエイトベクトルとして座標情報に対応付けて記録する(ステップS3812)。
更に、信号処理装置は、ステップS3810において算出された第1左特異ベクトル(受信ウエイトベクトル)及び第1右特異ベクトル(送信ウエイトベクトル)に対するキャリブレーション処理を行う(ステップS3813)。信号処理装置は、受信ウエイトベクトルに対するキャリブレーション処理により得られたベクトルを端末局装置604の送信ウエイトベクトルとして座標情報に対応付けて記録し(ステップS3814)、送信ウエイトベクトルに対するキャリブレーション処理により得られたベクトルを基地局装置600の受信ウエイトベクトルとして座標情報に対応付けて記録する(ステップS3815)。以上の処理は、基地局装置600側の第1の信号処理部601−1〜601−8に係る各第1特異値に対応する仮想的伝送路ごとに実施され、それぞれに対して情報の記録が行われる。
ここまでの処理では、基地局装置600側の全ての第1の信号処理部601−1〜601−8に係る各第1特異値に対応する仮想的伝送路ごとの処理を示したが、列車が移動することで基地局装置600と端末局装置604との間が刻一刻と変化する状況では、第2の実施形態に示した様に特定の距離に合わせて第1の信号処理部601−1〜601−8の間隔を最適化することはできず、その結果、全ての仮想的伝送路が概ね直交しているとは限らない。そこで、信号処理装置は、若干冗長な数の基地局装置600側の第1の信号処理部601−1〜601−8のうち、効率的な一部の仮想的伝送路を選択する(ステップS3816)。基地局装置600と端末局装置604とのデータ伝送は、ステップS3816において選択された仮想的伝送路に対応する送受信ウエイトベクトルを用いて行われる。
例えば目標とする空間多重数がNSDMである場合、基地局装置600側の第1の信号処理部601に係る仮想的伝送路に対応する端末局装置604側の受信ウエイトベクトルの中で、相関が小さなNSDM個の受信ウエイトベクトルの組み合わせを、記録された複数の受信ウエイトベクトルから選択する。この選択は、例えば記録された複数の受信ウエイトベクトルから相関値が最小となるNSDM個の受信ウエイトベクトルの組み合わせを検索することにより行われる。この検索方法の例としては、例えばNSDM個の受信ウエイトベクトルを選択した場合に、そのNSDM個の受信ウエイトベクトルに含まれる2個の受信ウエイトベクトルの組み合わせごとに算出される相関値のうち最大の相関値を、NSDM個の受信ウエイトベクトルの組み合わせにおける相関値とし、その相関値が最小となる受信ウエイトベクトルの組み合わせを選択する様にしても良い。ここでの2個の受信ウエイトベクトルの組み合わせに対して算出される相関値とは、規格化されたベクトルの内積値に相当する。なおその他にも、例えばNSDM個の受信ウエイトベクトルにおける相関値を、NSDM個の受信ウエイトベクトルに含まれる2個の受信ウエイトベクトルの組み合わせごとに算出される相関値の絶対値のべき乗和とし、そのべき乗和が最小となる組み合わせを選択してもよい。
この様に、何らかの基準で相関の小さな受信ウエイトベクトルの組み合わせを選び、その組み合わせ情報(つまり、これは基地局装置600側の全ての第1の信号処理部601−1〜601−8の中の、どの第1の信号処理部を選択して通信するかの組み合わせに相当する)も上述の送受信ウエイトベクトルに対応付けて、列車603側の端末局装置604に対する送受信ウエイトベクトル及び基地局装置600側の送受信ウエイトベクトル及び利用する第1の信号処理部601−1〜601−8の中の組み合わせ情報を記録して管理する。この記録管理の間隔は、チャネルの時変動に伴う送受信ウエイトベクトルの時変動が無視可能な微小な座標の差分の間は一定値とし、概ね有意な差が表れるごとに座標情報と送受信ウエイトベクトル情報を記録管理しても構わない。
なお、上述の説明ではこの仮想的伝送路の活用数、すなわち空間多重数をNSDMと固定して説明したが、この数を可変とし、受信ウエイトベクトルの全組み合わせの中でその相関値(規格化されたベクトルの内積値に相当)の最大値が所定の閾値を下回る範囲で最大の仮想的伝送路数を活用しても良い。同様に、相関値の絶対値のべき乗和が所定の閾値を下回る範囲で最大の仮想的伝送路数を活用しても良い。広帯域のシステムであれば、サブキャリアごとの多重数が一定である必然性もないため、サブキャリアごとに異なる多重数として管理することも可能である。これらの場合には、データベース化される送受信ウエイトベクトルの情報と共に、これらの多重数といずれの第1の信号処理部601に係る仮想的伝送路を活用するのかを管理することになる。
この場合、基地局装置600に備えられる通信制御回路は、ウエイトベクトル/座標データベース607を参照し、座標ごとにその座標において通信に利用される第1の信号処理部に対して信号送受信の指示を行う構成としても良い。また、ここでのデータベースに用いる座標情報は2次元ないしは3次元的なその地理的座標を表すものである必要はなく、線路上での任意の始点からの距離の様に1次元的であったり、あくまでもチャネル情報との対応が取れる情報であれば如何なる情報であっても構わない。
更に、ここでは前回の座標情報と前回の時刻情報を必要とするが、データベースの先頭のデータに関しては、その前の座標及び時刻情報が存在しないため、移動速度情報を取得することはできない。しかし、一つの基地局装置600がカバーするエリアと、その隣接する基地局装置600のカバーするエリアにはオーバーラップがあり、実際にはサービスエリアが切り替わる前からデータの取得を行っていれば、記録されたデータの先頭の情報は無視しても何ら問題はない。例えば駅のホームをサービスエリアに含む基地局装置600の場合には、駅のホームで停車中からデータの取得を行えば、先頭のデータを捨てても何ら問題はない。ないしは、移動速度などは列車の車輪の回転数などを測定することで直接的に取得することも可能であり、その場合には座標の差分と時刻の差分から移動速度を求めなくても、直接求めた値を移動速度としてチャネル情報の測定時に合わせて記録しておき、この値を利用することも可能である。この様に、取得したデータをオフライン的に解析することで、必要な情報を加工して準備することが可能となる。
<端末局装置側からトレーニング信号を送信する場合>
図39は、第4の実施形態における第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統用いた列車ムービングセルにおける別の信号処理の概要を示す図である。図39に示す信号処理は、図37に示した信号処理と異なり、端末局装置604から基地局装置600にトレーニング信号を送信し、端末局装置604が座標情報を取得し、基地局装置600がチャネル情報を記録する場合の信号処理を示している。
図39(a)は、端末局装置604が行う処理のフローチャートである。端末局装置604は、列車603の運行と共に処理を開始すると、トレーニング信号を連続的に送信する(ステップS3901)。端末局装置604は、サービス運用開始前における端末局装置604と基地局装置600との間のチャネル情報の収集処理を行っている間、トレーニング信号を連続的に送信した後に処理を終了する。
端末局装置604は、図39(a)の処理と並行して、図39(b)の処理を行う。端末局装置604は、サービス運用開始前におけるチャネル情報の収集処理を開始すると、何らかの手段で座標情報と時刻情報とを取得する(ステップS3911、ステップS3912)。端末局装置604は、取得した座標情報と時刻情報とを対応付けたデータを記録し(ステップS3913)、処理を終了する。
一方、基地局装置600は、例えば列車603が当該基地局装置600のエリア内に存在することを検出すると図39(c)の処理を開始し、端末局装置604から送信されるトレーニング信号を受信する(ステップS3921)。基地局装置600は、トレーニング信号の受信と合わせて時刻情報も取得する(ステップS3922)。基地局装置600は、上述の端末局装置604における受信信号処理と同様の受信信号処理の後、トレーニング信号に基づいたチャネル推定を実施する(ステップS3923)。基地局装置600は、得られたチャネル情報と時刻情報とを対応付けて記録し(ステップS3924)、処理を終了する。なお、基地局装置600のエリア内に列車603が存在することの検出は、運行情報を用いた方法などの何らかの方法を用いて行われる。
これらの処理は基地局装置600側の全ての第1の信号処理部601−1〜601−8にて同時並行的に実施される。時刻情報に関しては、各第1の信号処理部601−1〜601−8にて取得しても良いし、複数の第1の信号処理部601−1〜601−8を備える基地局装置600全体で共通で時刻情報を取得する機能を備え、その時刻情報を有線で接続された全ての第1の信号処理部に通知しても構わない。ないしは複数の第1の信号処理部601−1〜601−8で取得したチャネル情報を有線経由で基地局装置600に集約し、基地局装置600が取得した時刻情報と複数の第1の信号処理部601−1〜601−8からのチャネル情報を関連付けて記録・管理しても構わない。
図40は、第4の実施形態における座標情報及びチャネル情報を取得した後に行うオフラインの別の信号処理の概要を示す図である。ここでは図39と同様に、端末局装置604から基地局装置600側にトレーニング信号を送信し、端末局装置604側で座標情報を取得し、基地局装置600側でチャネル情報を記録する場合のオフライン信号処理の例を示している。図40に示す処理は、基本的な処理は図38に示した信号処理と共通であり、ステップS4001からステップS4010までの処理と、ステップS4013の処理と、ステップS4016の処理とは、それぞれ図38におけるステップS3801からステップS3810までの処理と、ステップS3813の処理と、ステップS3816の処理と同じ処理である。ここでは、重複する説明を省略し、ステップS4011、S4012、S4014、S4015について説明する。
図40に示す処理がアップリンクにおけるトレーニング信号に基づいた処理であり、図38に示した処理がダウンリンクにおけるトレーニング信号に基づいた処理であるという違いがある。この違いのために、図38のステップS3811では第1左特異ベクトルを列車603側の端末局装置604の受信ウエイトベクトルとしていたのに対して、図40に示す処理におけるステップS4011では第1左特異ベクトルを基地局装置600の受信ウエイトベクトルとしている。また、ステップS3812では第1右特異ベクトルを基地局装置600の送信ウエイトベクトルとしていたのに対して、図40のステップS4012では第1右特異ベクトルを列車603側の端末局装置604の送信ウエイトベクトルとしている。
また、図40のステップS4010における特異値分解で得られる第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルに対するキャリブレーション処理で得られるベクトルに対する扱いも同様に異なる。図40のステップS4014では、第1右特異ベクトル、すなわち基地局装置600の受信ウエイトベクトルに対するキャリブレーション処理で得られるベクトルを、基地局装置600の送信ウエイトベクトルとしている。また、図40のステップS4015では、第1左特異ベクトル、すなわち端末局装置604の送信ウエイトベクトルに対するキャリブレーション処理で得られるベクトルを、端末局装置604の受信ウエイトベクトルとしている。
なお、以上の図38及び図40の説明では、キャリブレーション処理によりそれぞれの図で基地局装置600側の送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトル、及び端末局装置604側の送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトルを求めていたが、当然ながら重複して算出を行っていることになるので、例えば図38のみ、ないしは図40のみで代用することも可能だし、図38のステップS3813以降の処理、及び図40のステップS4013以降の処理でキャリブレーションにより残りの送受信ウエイトベクトルを求める処理を省略しても良い。
なお、以上の説明において、基地局装置600側では第1の信号処理部601−1〜601−8が物理的に独立であるために送受信ウエイトベクトルとして説明を行っていたが、端末局装置604側においては基地局装置600の様に独立な第1の信号処理部601−1〜601−8が存在している訳ではないので、説明においては送受信ウエイトベクトルと表現したが、実際にはこれらベクトルより構成される送受信ウエイト行列と表現するのが正しく、実際、端末局装置604のウエイト行列/座標データベース606と表現している。ただし、本実施形態を理解する上ではあまり本質ではないため、この点は前後の説明に合わせて表現をしている。
<列車運行中の信号処理の概要>
図41は、第4の実施形態の無線通信システムにおけるサービス運用中における座標情報から送受信ウエイトベクトルを取得する場合の信号処理の例を示す図である。ここでの送受信ウエイトベクトルとは送信ウエイトベクトルと受信ウエイトベクトルの双方を必要とし、且つ基地局装置600側でも端末局装置604側でも両方とも送受信ウエイトベクトルの取得は必要であり、この処理フローは両者に共通の処理を表している。もちろん、この際に用いる、基地局装置600のウエイトベクトル/座標データベース607と端末局装置604のウエイト行列/座標データベース606とは異なるものであるし、列車603の座標情報の取得方法は列車603側と基地局装置600側では異なるものとなっている。例えば、基地局装置600側で列車603の座標情報を取得する場合には、上述の様に線路脇に複数のセンサーを設けて位置を検出しても良いし、列車603側が取得した座標情報を別途設定する無線回線(マクロセルの様に異なる周波数帯であったり、異なるシステムを介したもので構わない)により伝達する構成としても構わない。これらの如何なる方法で列車603の座標情報を取得した場合でも、例えば情報取得のタイムラグの時間に違いがあるのであれば、そのタイムラグを調整して情報取得時の座標情報を精度良く推定可能な如何なる方法を用いても本質的に本実施形態には同様に利用することが可能である。
まず、列車側603の端末局装置604ないしは基地局装置600のいずれかにおいて、何らかの方法で列車603の現在の座標情報を取得する(ステップS4101)。また、その時点での時刻情報も取得する(ステップS4102)。前回座標情報及び前回時刻情報との差分を取り(ステップS4103、S4104)、それを除算することで移動速度を算出し(ステップS4105)、処理のタイムラグを考慮した補正を行うことで、現在の座標を算出する(ステップS4106)と共に、その座標情報を引数として対応する送受信ウエイトベクトルをウエイト行列/座標データベース606ないしはウエイトベクトル/座標データベース607から読み出す(ステップS4107)。以上のステップS4101〜ステップS4107の処理は、列車の座標情報の取得の都度、ないしは所定の周期で繰り返し実施しながら、常にその瞬間の送受信ウエイトベクトル/行列を取得しておく。
以上の処理と並行して、信号を受信する際には、複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路(基地局装置600の複数の第1の信号処理部601−1〜601−8のいずれかに対応しているアップリンクないしはダウンリンクの伝送路)の受信ウエイトベクトルをステップS4107により逐次取得し(ステップS4111)、信号受信時には受信信号処理をシンボル単位で実施し(ステップS4112)、例えばOFDM信号であれば各周波数成分に分離された周波数軸上の信号に対して、周波数成分ごとに受信ウエイトベクトルを乗算し(ステップS4113)、各仮想的伝送路上の受信信号を個別に抽出する。ここでは複数の仮想的伝送路からの信号が抽出されるが、これらの信号分離が必要であれば、一連の受信信号の先頭に付与されるトレーニング信号を用いて各仮想的伝送路上の受信信号に対してチャネル推定を行い、このチャネル推定で得られたMIMOチャネルのチャネル行列を用いて任意の信号検出処理により信号検出を行い(ステップS4114)、後続するデータがあれば上述の処理を繰り返し(ステップS4115:NO)、データが終了すれば(ステップS4115:YES)、受信処理を終了する。
同様に、以上の処理と並行して、信号を送信する際には、複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路(基地局装置600の複数の第1の信号処理部に対応している)のステップS4107において読み出された送信ウエイトベクトルを逐次取得し(ステップS4121)、各仮想的伝送路で伝送する送信信号の生成(ステップS4122)と共に、送信ウエイトベクトルを仮想的伝送路ごとに乗算し(ステップS4123)、更にその信号の送信信号処理を実施し(ステップS4124)、送信データが残っている場合には処理を継続し(ステップS4125:NO)、データ終了時には処理を終了する(ステップS4125:YES)。
以上の説明は、基地局装置600と端末局装置604とが行う処理を合わせて一括して説明したが、細かい部分では若干異なる。例えば、基地局装置600においては複数の第1の信号処理部601−1〜601−8ごとに一つの仮想的伝送路に関する信号処理を行うが、端末局装置604は全ての仮想的伝送路の信号に対する信号処理を端末局装置内で並行して実施する。例えば、受信信号処理時には、各アンテナ素子で受信した受信信号それぞれに対して異なる受信ウエイトベクトルを乗算し、その結果得られた複数の信号系列に対してMIMO伝送の信号検出処理を行う。また送信信号処理時には、各仮想的伝送路の信号系列ごとに個別の送信ウエイトベクトルを乗算する。しかし、端末局装置604においては、実際の送信信号処理において送信ウエイトベクトルを乗算した信号をアンテナ素子ごとに全ての仮想的伝送路に関する信号成分を加算合成し、その合成結果に対して送信信号処理を施すことになる。また基地局装置600においては、実際の空間多重数に比べて冗長に設置されている第1の信号処理部601−1〜601−8の中で、実際の信号の送受信に用いる第1の信号処理部が第1の信号処理部601−1〜601−8のいずれであるかを管理し、送信においても受信においても、通信制御回路などがデータベースを参照して該当する第1の信号処理部に対して信号処理の指示を行い、それぞれの第1の信号処理部内で各種信号処理を実施する。この様な若干の違いを除けば、この処理フローにて基地局装置600も端末局装置604も信号処理フローを説明することができる。
(第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統用いた列車ムービングセルの第1の信号処理部の選択)
ここで、図36に示した本実施形態の無線通信システムの構成では、八つの第1の信号処理部601−1〜601−8を示したが、これは8系統の信号系列を同時に空間多重することを必ずしも意味してはいない。例えば、列車603側のウエイトベクトル/座標データベース606に記録された各第1の信号処理部601−1〜601−8に対応する送信ウエイトベクトル同士、及び受信ウエイトベクトル同士が高い相関を示す場合には、ある第1の信号処理部601と端末局装置604との間の通信に、別の第1の信号処理部601と端末局装置604との間の通信が混信することを意味する。第2の実施形態における図29に示した例は、設計により基地局装置側のアンテナ素子(第1の信号処理部に相当)の間隔の最適条件を示したが、式(29)には基地局装置と端末局装置との間の距離Lが含まれている。即ち基地局装置と端末局装置との間の距離が列車603の移動と共に変化する本実施形態の無線通信システムにおいては、常に式(29)の関係を満たす様な条件で第1の信号処理部601を設置することは不可能である。
したがって、個々の第1の信号処理部601に対応する送受信ウエイトベクトルの相関が高くなる状況が発生し得る。この様な場合には効率的な空間多重はできないので、多数の第1の信号処理部601の中から相互に相関の低い送信ウエイトベクトルないしは受信ウエイトベクトルの組み合わせで同時に空間多重伝送する際に用いる第1の信号処理部601を所定の数だけ選択する。この選択も、サービス運用を開始する前に事前に実施することが可能であり、例えば目標とする空間多重数が4であるならば、8C4の組み合わせの70パターンの中で、各送受信ウエイトベクトルを規格化したベクトル同士の内積の絶対値(4C2で六つの内積の絶対値が算出される)の最大値が最小となる組み合わせパターンであったり、内積の絶対値のべき乗和が最小となる組み合わせパターンであったり、相対的に相関が低い組み合わせの送受信ウエイトベクトルを用いて空間多重伝送を行う。その組み合わせで用いる第1の信号処理部601の組み合わせパターンも、基地局装置600側のウエイトベクトル/座標データベース607側に記録しておき、その記録された第1の信号処理部601の組み合わせパターンで通信を行っても良い。
なお、通常は広帯域の通信を行うため、利用する周波数成分ごとに最適な第1の信号処理部601の組み合わせパターンは異なるので、これをサブキャリアごとに異なる第1の信号処理部601の組み合わせパターンを用いる構成としても良い。ないしは、全てのサブキャリアで同一の第1の信号処理部601の組み合わせパターンを用いる構成としても良く、この場合には例えば各サブキャリアにおける上述の内積の絶対値に対し、全サブキャリアで内積の絶対値の最大値が最小となる送受信ウエイトベクトルの組み合わせパターンを選択しても良いし、各内積の絶対値のべき乗値の全周波数成分に対する総和を最小とする送受信ウエイトベクトルの組み合わせパターンを選択しても良い。
(第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統用いた列車ムービングセルの基地局装置構成例)
図42は、第4の実施形態における基地局装置600の構成例を示すブロック図である。基地局装置600は、インタフェース回路77と、MAC層処理回路78と、第2の送信信号処理部71と、第1の送信信号処理部181−1〜181−4と、第1の受信信号処理部185−1〜185−4と、第2の受信信号処理部75と、通信制御回路614と、ウエイトベクトル/座標データベース607と、座標情報取得回路612と、時刻情報取得回路613とを備える。
第4の実施形態の無線通信システムにおいても、複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いた空間多重を利用するため、基地局装置600は、第1の実施形態において図17に示した基地局装置70と同様の構成を備えるが、次の構成が異なる。第4の実施形態における基地局装置600は、ウエイトベクトル/座標データベース607と座標情報取得回路612と時刻情報取得回路613とを備える点と、通信制御回路120に代えて通信制御回路614を備える点とが基地局装置70と異なる。
ウエイトベクトル/座標データベース607には、上述した様にして取得された、座標情報に対応付けられた送受信ウエイトベクトルが記憶されている。なお、基地局装置600に備えられる複数の第1の信号処理部601から幾つかを選択して利用する場合には、送受信ウエイトベクトルに加えて、利用する第1の信号処理部601を示す情報が対応付けられてウエイトベクトル/座標データベース607に記憶されている。複数の第1の信号処理部601それぞれは、第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185をそれぞれ一つずつ含む。
座標情報取得回路612は、上述した手段により、走行中の列車603の位置を示す座標情報を取得する。時刻情報取得回路613は、現在時刻を示す時刻情報を取得する。通信制御回路614は、座標情報取得回路612により取得された座標情報に対応する送受信ウエイトベクトルをウエイトベクトル/座標データベース607から読み出す。通信制御回路614は、読み出した送受信ウエイトベクトルのうち送信ウエイトベクトルを第1の送信信号処理部181−1〜181−4へ、第2の送信信号処理部71を介して出力する。通信制御回路614は、第1の送信信号処理部181−1〜181−4に対して、送信ウエイトベクトルを用いて送信することを指示する。なお、通信制御回路614は、第2の送信信号処理部71を介さずに直接に第1の送信信号処理部181−1〜181−4へ送信ウエイトベクトルを出力してもよい。また、通信制御回路614は、読み出した送受信ウエイトベクトルのうち受信ウエイトベクトルを第1の受信信号処理部185−1〜185−4へ、第2の受信信号処理部75を介して出力する。通信制御回路614は、第1の受信信号処理部185−1〜185−4に対して、受信ウエイトベクトルを用いて受信することを指示する。なお、通信制御回路614は、第2の受信信号処理部75を介さずに直接に第1の受信信号処理部185−1〜185−4へ受信ウエイトベクトルを出力してもよい。
したがって、第4の実施形態における第1の送信信号処理部181−1〜181−4に備えられる第1の送信ウエイト処理部130は、第1の実施形態において図18に示した第1の送信信号処理部181に備えられる第1の送信ウエイト処理部130の様に、第1のチャネル情報取得回路131と第1のチャネル情報記憶回路132と第1の送信ウエイト算出回路133とを備える必要はなく、通信制御回路614から指示される送信ウエイトベクトルを第1の送信信号処理回路111へ出力することになる。同様に、第4の実施形態における第1の受信信号処理部185−1〜185−4に備えられる第1の受信ウエイト処理部160は、第1の実施形態において図19に示した第1の受信信号処理部185に備えられる第1の受信ウエイト処理部160の様に、第1のチャネル情報推定回路161と第1の受信ウエイト算出回路162とを備える必要はなく、通信制御回路614から指示される受信ウエイトベクトルを第1の受信信号処理回路158へ出力することになる。
ただし、サービス運用開始前にチャネル情報の取得を基地局装置600側で行う場合(図39に相当)には、受信した信号に対してチャネル推定を行う必要があるため、第1の受信ウエイト処理部160は第1のチャネル情報推定回路161を備える構成を取っても良い。同様に、受信ウエイトベクトルの算出のために、第1の受信ウエイト処理部160は第1の受信ウエイト算出回路162を備える構成を取っても良い。ただし、これらのチャネル推定や受信ウエイトベクトルの算出はサービス運用開始前の事前処理としてオフライン処理で実施することも可能なので、これらを必ずしも実装する構成である必要はない。前述の様に、仮に第1の受信ウエイト処理部160が第1のチャネル情報推定回路161のみを実装する場合には、第1の受信ウエイト処理部160は、第1のチャネル情報推定回路161により推定されたチャネル情報を通信制御回路614へ出力する。通信制御回路614は、第1の受信ウエイト処理部160から取得するチャネル情報を、図39(c)において示したステップS3922の処理で取得する時刻情報と対応付けて記録しておくことになる。図42では、この記録する機能を合わせて通信制御回路614内に実装しているものとし、明示的に図示をしていない。
なお、第1の受信ウエイト処理部160が第1のチャネル情報推定回路161を備えない構成の場合には、第1の受信ウエイト処理部160は取得されたチャネル推定用のトレーニング信号のサンプリング値を通信制御回路614へ出力する。通信制御回路614は、第1の受信ウエイト処理部160から取得するサンプリング情報を、図39(c)において示したステップS3922の処理で取得する時刻情報と対応付けて記録しておくこととしても良い。この場合には、例えば図40のステップS4007の処理の代わりにサンプリングデータを読み出してチャネル推定処理を実施する処理とすれば良い。
なお、時刻情報取得回路613に関しては、サービス運用開始前に事前にチャネル情報を取得する際に必要であるため、実際のサービス運用の際には、この機能を省略することも可能である。また、列車ムービングセルに関しては基本的にPoint−to−Point型の通信となるので、スケジューリング処理回路781を省略することも可能である。ただし、固定設置される基地局装置600に対して端末局装置604は複数の列車に実装されるため、その列車ごとに微妙にウエイトベクトル/座標データベース607に記録される情報が異なる場合がある。このため、その場合にはウエイトベクトル/座標データベース607にその場所を通過する可能性のある全ての列車に関するデータベースを記録しておき、スケジューリング処理回路781では運行情報などを参照して、どの列車が通過するタイミングであるのかを管理する機能を備えることとしても構わない。
また、サービス運用開始前のチャネル情報などの取得においては、通信制御回路614内に取得した様々な情報を記録することとしたが、当然ながらそれらの情報を他の回路内にて記録しておき、通信制御回路614を介して情報の読み出しができる構成であっても構わない。
(第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統用いた列車ムービングセルの端末局装置構成例)
図43は、第4の実施形態における端末局装置604の構成例を示すブロック図である。端末局装置604は、インタフェース回路67と、MAC層処理回路68と、送信部61と、受信部65と、通信制御回路624と、ウエイト行列/座標データベース606と、座標情報取得回路622と、時刻情報取得回路623とを備える。
第4の実施形態の無線通信システムにおいても、複数第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いた空間多重を利用するため、端末局装置604は、第1の実施形態において図20に示した端末局装置60と同様の構成を備えるが、次の構成が異なる。第4の実施形態における端末局装置604は、ウエイト行列/座標データベース606と座標情報取得回路622と時刻情報取得回路623とを備える点と、通信制御回路121に代えて通信制御回路624を備える点とが端末局装置60と異なる。
ウエイト行列/座標データベース606には、上述した様にして取得された、座標情報に対応付けられた送受信ウエイト行列(ベクトル)が記憶されている。なお、基地局装置600に関しては、基地局装置600に備えられる複数の第1の信号処理部601から幾つかを選択して利用する場合には、送受信ウエイトベクトルに加えて、利用する第1の信号処理部601を示す情報が座標情報に対応付けられてウエイト行列/座標データベース606に記憶されているが、端末局装置604においては物理的に異なる第1の信号処理部601を選択する訳ではないので、送受信ウエイト行列を構成するベクトルの情報の中に、基地局装置600の中のどの第1の信号処理部601を利用するかが含まれており、明示的にどの第1の信号処理部601を利用するかを記録する必要はない。ただし、基地局装置600が利用を想定する第1の信号処理部601の組み合わせと、端末局装置604が利用を想定する送受信ウエイト行列において、実際に利用される第1の信号処理部601の組み合わせは相互に一致したものとなっていなければならない。
座標情報取得回路622は、上述した手段により、走行中の列車603の位置を示す座標情報を取得する。時刻情報取得回路623は、現在時刻を示す時刻情報を取得する。通信制御回路624は、座標情報取得回路622により取得された座標情報に対応付けられた送受信ウエイト行列をウエイト行列/座標データベース606から読み出す。通信制御回路624は、読み出した送信ウエイト行列を送信部61へ出力し、送信ウエイト行列を用いた送信を送信部61に行わせる。通信制御回路624は、受信時においては読み出した受信ウエイト行列を受信部65へ出力し、受信ウエイト行列を用いた受信を受信部65に行わせる。
したがって、第4の実施形態における送信部61に備えられる第1の送信ウエイト処理部140は、第1の実施形態において図21に示した送信部61に備えられる第1の送信ウエイト処理部140の様に、チャネル情報取得回路141とチャネル情報記憶回路142と第1の送信ウエイト算出回路143とを備える必要は必ずしもなく(実装する場合には、サービス開始前の事前処理においてのみ利用することになり、通常運用時には必要ない)、通信制御回路624から指示された送信ウエイトベクトル(送信ウエイト行列を構成する列ベクトル)を送信信号処理回路811−1〜811−NSDMへ出力することになる。同様に、第4の実施形態における受信部65に備えられる第1の受信ウエイト処理部44は、第1の実施形態において図22に示した受信部65に備えられる第1の受信ウエイト処理部144の様に、サービス運用中においては通信制御回路624から指示された受信ウエイトベクトルを受信信号処理回路145へ出力することになる。
ただし、サービス運用開始前にチャネル情報の取得を列車603側の端末局装置604が行う場合(図37に示した処理が行われる場合)、端末局装置604は、受信したトレーニング信号に基づいてチャネル推定を行う必要があるため、第1の受信ウエイト処理部144が第1のチャネル情報推定回路146を備える構成を取っても良い。ただし、これらのチャネル推定や受信ウエイトベクトル(行列)の算出はオフライン処理でも実施可能であるため、これらを必ずしも実装する構成である必要もない。前述の様に、第1の受信ウエイト処理部144が第1のチャネル情報推定回路146のみを備える場合には、第1の受信ウエイト処理部144は、第1のチャネル情報推定回路146により推定されたチャネル情報を通信制御回路624に出力する。通信制御回路624は、第1の受信ウエイト処理部144から取得するチャネル情報を、図37(c)において示したステップS3722の処理で取得する時刻情報と対応付けて記録しておくことになる。図43では、この記録する機能を合わせて通信制御回路624内に実装しているものとし、明示的には図示をしていない。第1の実施形態において、図23に示した端末局装置60の受信部65の別の構成例と図25に示した端末局装置60の送信部61の別の構成例とに関しても、上述の差分以外は全く同様の構成で対応可能である。
以上説明した様に、列車603に乗車するユーザが利用する情報端末などのトラヒックを集約して無線エントランスでマクロセルからのオフロードを図ろうとした場合、高速移動する列車603に備えられる端末局装置604と基地局装置600との間のチャネル時変動が問題になる。そこで、第4の実施形態における無線通信システムでは、電波の到来方向と列車603の移動方向とが概ね揃った環境では、第1特異値に対応する伝送路の時間変動は小さくなる傾向を積極的に利用する。具体的には、架線柱に複数の第1の信号処理部601を設置し、一方で座標情報とチャネル情報との関係を事前に取得してデータベース化し、ウエイト行列/座標データベース606とウエイトベクトル/座標データベース607とに記録して利用する。列車603に備えられる端末局装置604は、逐次、自らの座標を取得して、これを引数としてウエイト行列/座標データベース606から送受信ウエイト行列を読み出すことで、安定した通信を可能にして通信回線の大容量化を可能にすることができる。同様に基地局装置600は、列車603の座標情報を逐次取得して、これを引数としてウエイトベクトル/座標データベース607から第1の信号処理部601で利用する送受信ウエイトベクトルを読み出すことで、安定した通信を可能にして通信回線の大容量化を可能にすることができる。
本実施形態の無線通信システムでは、第1の送信信号処理部181それぞれは、第2の送信信号処理部71において変調処理などを施して得られたベースバンド信号に対して送信ウエイトベクトルを乗算して信号ベクトルの成分を生成する。第1の送信信号処理部181それぞれにおいて生成された信号の成分からなる信号ベクトルは、第1の送信信号処理部181に備えられるアンテナ素子から送信される。各アンテナ素子から送信される信号ベクトルの成分は、該アンテナ素子に対応する送信ウエイトベクトルとの乗算により得られた信号ベクトルの成分である。
本実施形態の無線通信システムでは、第1の受信信号処理部185それぞれは、備えられた複数のアンテナ素子で受信した受信信号からベースバンド信号ベクトルを取得し、取得したベースバンド信号ベクトルと受信ウエイトベクトルとを乗算することで1系統の信号系列を取得する。第2の受信信号処理部75は、各第1の受信信号処理部185により取得された1系統の信号系列それぞれから、端末局装置から送信されたデータを再生する。
なお、第4の実施形態の無線通信システムにおいて、基地局装置600は複数系統のデータ系列#1〜#Lを端末局装置604との間で空間多重伝送しているが、一系統のデータ系列を端末局装置604との間で送受信してもよい。
また、第1の送信信号処理部181に備えられるアンテナ素子が単一偏波のアンテナ素子である場合、第1の送信信号処理部181は、1系統の信号系列を送信する様にしてもよい。また、第1の送信信号処理部181に備えられるアンテナ素子が複数種類の偏波アンテナ素子であり、同時に複数種類の偏波アンテナ素子を用いる場合、第1の送信信号処理部181は、1系統のみないしは2系統までの信号系列を送信する様にしてもよい。また、第1の受信信号処理部185に備えられるアンテナ素子が単一の偏波アンテナ素子である場合、第1の受信信号処理部185は、受信信号から1系統のみのベースバンド信号を取得する様にしてもよい。また、第1の受信信号処理部185に備えられるアンテナ素子が複数種類の偏波アンテナ素子であり、同時に複数種類の偏波アンテナ素子を用いる場合、第1の受信信号処理部185は、1系統のみないしは2系統までのベースバンド信号を取得する様にしてもよい。
[第5の実施形態]
[時間軸ビームフォーミングについて]
(基本原理の概要)
まず、間隔がd[m]の二つのアンテナ素子(第1アンテナ素子、第2アンテナ素子)を考える。通信相手局からの送信信号が非常に強い指向性を有し、且つ見通し環境であったとすると、この二つの第1、第2アンテナ素子に到来する信号は平面波で近似可能であり、第1、第2アンテナ素子の時刻tにおける受信信号をφ1(t)、φ2(t)で表すものとする。第k周波数成分の時刻tにおける信号成分をSk(t)とすると、送信局と第1アンテナ素子との距離をL、中心周波数をfc、周波数帯域幅をW、fcを中心に−W/2から+W/2の間の第k周波数成分の周波数をfk、無線周波数における第k周波数成分の波長をλkとすれば、受信信号φ1(t)は式(38)で表すことができる。
ここで、到来方向が角度θであるとすると、平面波近似できる場合には受信信号φ2(t)は受信信号φ1(t)が(dsinθ)/c(ここでcは光速)だけ遅延して到来するとみなすことができるため、受信信号φ2(t)は式(39)の様に近似可能である。
ここでΔtはサンプリング間隔Δt[s](=1/W)を表す。また係数αは、信号の帯域幅W[Hz]、到来方向の角度θ、アンテナ素子間隔d[m]、光速c[m/s]を用いて式(40)で表される。
この式(38)と式(39)とを比べると、式(39)の各周波数成分kにおいて式(41)で示す周波数軸上のウエイト(係数)wk (freq−domain)が乗算されている。
この係数は周波数軸上の係数なので、IFFTにより時間軸上の係数に変換すると、時間軸上の第n(0≦n≦NFFT−1、NFFTはFFTポイント数)サンプルのウエイト(係数)wn (time−domain)は式(42)で表される。
ここで、先頭のn=0の時間軸ウエイトの絶対値の二乗値と、n=1からNFFT−1までのウエイトの絶対値の二乗値の総和の比を[dB]表示で表した値は、係数αの関数F(α)として下記の式(43)で表される。
図44は、第5の実施形態における関数F(α)を示すグラフである。同図において、縦軸は関数F(α)の値、相対電力比(Relative power ratio)を示し、横軸はαの値を示す。関数F(α)は、先行波の受信電力と先行波以外の全遅延波の受信電力の比に相当する。同図より、αが十分小さいときには殆ど先行波の一つの成分が全体の電力の大半を占め、逆にαが大きくなると遅延波成分が大きくなることが分かる。
また、式(40)から分かる様に、帯域幅Wにもよるが、一般にはアンテナ素子間隔dが十分に狭ければαは小さい値となるため、アンテナ素子間隔を十分に狭めることで受信信号φ2(t)の近似値は、受信信号φ1(t)の値に先行波成分の係数を掛けることにより得ることが可能になる。つまり、周波数成分ごとに周波数軸上のウエイトwk (freq−domain)が異なるために、従来はFFTにて時間軸上の信号から周波数軸上の信号に変換してからウエイトの乗算を行っていた。しかし、図44において関数F(α)が所定値(例えば30[dB])以上になる様にアンテナ素子間隔を狭めて係数αを小さくする設計をすれば、時間軸の信号に所定の係数を掛けるだけで受信信号φ1(t)から受信信号φ2(t)を式(44)の様に算出することが可能になる。
ここでは、受信信号φ1(t)と受信信号φ2(t)の関係を示したが、仮にリニアアレー状に間隔dでN本のアンテナ素子が設置されているとすれば、第mアンテナ素子の受信信号φm(t)は隣接する第(m−1)アンテナ素子の受信信号φm−1(t)を用いて式(45)で近似できる。
つまり、第mアンテナ素子の受信信号φm(t)は第1アンテナ素子の受信信号φ1(t)を用いて式(46)で近似できる。
ただし、式(46)におけるcmは、式(47)で与えられる。
ここで、以上の説明の数学的な意味を、式(41)と式(43)とを用いて整理しておく。まず、IFFT即ちフーリエ逆変換を行った際に一つの時間軸成分にエネルギーが集中する状況というのは、時間軸上ではデルタ関数的な振る舞いが見られていることを意味している。デルタ関数をフーリエ変換すると周波数軸上では定数となることが知られている。逆に、周波数軸上で定数に見える成分をIFFTすれば、時間軸上では高精度で単一の時間軸成分にて数学的な記述が可能になる。
式(41)の右辺の前半部分は周波数成分に依存しない定数であり、後半部分の自然対数のべき指数に着目すると、−2πjfkαΔtとなっている。第k周波数成分の周波数fkは−W/2から+W/2の間の値を取り、サンプリング間隔Δtは1/Wであるので、fkΔtは−1/2から1/2の値を取る。Exp(−2πjfkαΔt)の複素位相は−απから+απであり、αが十分に小さければ複素位相は概ね0であり、Exp(−2πjfkαΔt)は定数の1で近似可能である。つまり、αが十分に小さければwk (freq−domain)は周波数依存性が無視可能である。αがある程度大きいと周波数依存性が無視できずに、フーリエ逆変換後に得られる周波数成分がデルタ関数型の振る舞いから乖離し、遅延波成分が無視できないことになる。
ここで定量的に係数αの値を議論するために、80GHz帯において周波数帯域幅1GHzを想定する。波長は3.75mmであり5ミリ間隔にアンテナ素子を配置し、d=0.005とする。到来波の角度範囲を±10度とすると、αの値は式(40)より0.005×sin(10°)×109/(3×108)=0.002894となる。これは角度では1.04度であり、殆ど周波数依存性がない定数となっていることが分かる。つまり、この周波数依存性が小さければ式(43)において関数F(α)の値は非常に大きな値となり、よりデルタ関数的になっていることが分かる。
この様に、係数αが十分に小さく、Exp(−2πjfkαΔt)が1で近似できる状況においては、式(42)はn=0の場合にのみ非ゼロの値となり、式(48)の様に近似可能である。
式(47)にこれを代入すると、第mアンテナ素子の係数は式(49)で表される。
この様にして、N本のアンテナ素子それぞれの受信信号における複素位相の関係が取得できれば、各アンテナ素子の受信信号を合成する際の受信ウエイトを式(50)の様に定めることができる。
なお、この合成の受信ウエイトベクトルは最大比合成のウエイトとなっているが、見通し環境では概ね同程度の受信レベルであることが期待されるため、等利得合成の式(51)のウエイトであっても良い。
つまり、(〜w1,〜w0,・・・, 〜wN)なる受信ウエイトベクトルを各アンテナ素子の受信信号ベクトルに乗算することで、ターゲットとする送信アンテナ素子からの信号を抽出することが可能となる。
ここで、式(40)のαは経路長差に依存した係数になっており、リニアアレーであれば式(49)の形式で表すことができる他、他のアンテナ配列の場合にもアンテナ配置の幾何学的特徴を活用すれば、同様の手順でこの様な受信ウエイトを記述することができる。
なお、この係数cmは式(47)より求める以外にも、直接、求めることも可能である。特にリニアアレー以外の場合には、その幾何学的配置の特徴を数式に反映しなくても、送信局側から送信された周期性のあるトレーニング信号を1周期分に亘り取得し、そのトレーニング信号の相互相関を基に、式(52)の様に算出することも可能である。ただし、j=m(j、mはアンテナ素子の番号を示す値であり、mの代わりにjと表記している)である。
ここで、Sj(n)は第jアンテナ素子の第n番目のサンプリング値を表す。なお、ここでは1本のアンテナ素子対1本のアンテナ素子の信号に関する信号処理になっているので、回線利得的には1シンボルにおける値をそのまま使うのではなく、多数回の平均値を用いることでSNR値を高めることが望ましい。例えば、100シンボルの平均化を行えば、20dBのSNR特性の改善が見込めるので、必要なチャネル推定精度に合わせて平均化処理を行えば良い。ここでの平均化に際しては、基準となるアンテナ素子の複素位相を基準とし、相対チャネル情報を利用することも好ましい。ちなみに、ミリ波などの高周波数帯では位相雑音の影響が問題となるが、位相のふらつき方はある程度のランダム性が期待できるため、ここでの平均化処理により位相雑音の影響も合わせて抑圧した形での相関値を得ることができる。
ここで、上述のトレーニング信号は、OFDMのガードインターバルを伴う信号でも良いし、ガードインターバルを伴わない連続信号でも良い。これは、絶対的なチャネル情報を取得するためにはシンボルタイミングを正確に取得してチャネルを測定する必要があるが、送受信ウエイトの算出のためには基準となるアンテナ素子に対して複素位相がどの様な関係になっているかが相対的に分かれば良いためである。また、その他のトレーニング信号であっても、時間方向の自己相関が低い信号であれば同様に利用することは可能である。
この様にして求めた係数を基に、式(50)又は式(51)により受信ウエイトの値を求めれば良い。この様にして求めた受信ウエイトに対し、例えば受信信号処理としては式(53)で1系統の時間軸の信号系列^S(n)を算出すれば良い。
ここで、式(53)において〜w1は1であり、式(53)ではS1(n)にj=2からN’BS−Antまでの〜wjSj(n)を加算する処理を行っている。この様にして求めた1系統の信号系列^S(n)を、第1特異値に対応した仮想的伝送路の信号を受信するための仮想的な1本の受信アンテナで受信した信号と見なし、受信信号処理を施せばよい。
一般に、狭帯域の信号であれば角度θの方向に対して2π(d・sinθ/c)/λの複素位相差をつけて信号を合成すれば、角度θ方向に指向性を向けることが可能であることが知られているが、帯域幅が1GHzとなる広帯域信号に対しては周波数成分ごとに複素位相差を変える必要がある。また、ビーム幅の狭い鋭い指向性で信号分離を図るためにはアンテナ素子間隔を広げることが好ましいが、この場合には周波数成分ごとの複素位相差をより大きくする(すなわち周波数依存性を強める)効果となって表れていた。このため、一般的にはアンテナ素子間隔を広げてアンテナ開口長を広くし、指向性ビームを絞りながら周波数成分ごとに異なるウエイトで広帯域に渡り指向性が安定的に形成される方法で通信を行うことを目指していた。しかし、アンテナ素子数を膨大な数にすることで指向性を絞ることができるのであれば、アンテナ開口長は寧ろ狭め、式(43)で示した評価関数F(α)により先行波以外の遅延波成分の寄与を無視可能なレベルと判断できる様にアンテナ素子間隔や到来波の方向θの範囲を限定する(すなわちαの値を限定する)ならば、広帯域信号に対しても異なるアンテナ素子の受信信号に所定の係数を乗算することで所定の方向から到来する信号を効率的に抽出し、その係数を利用して空間多重時の信号分離が時間軸上で実現可能となる。
例えば、第1の実施形態において図16に示した様な複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統用いて空間多重を行う場合には、式(49)ないしは式(52)に相当する係数を個別の仮想的伝送路に対応させて算出し、それに対して式(50)ないし式(51)を用いてウエイトベクトルを算出すれば、複数の信号系列を空間多重する際の第1段階の信号分離のための時間軸の受信ウエイトベクトルを算出することが可能となる。
また、周波数軸上のキャリブレーション処理と同様のキャリブレーション処理は時間軸上でも可能であり、各受信ウエイトベクトルに時間軸上のキャリブレーション係数を乗算すれば、同様に送信のための時間軸の送信ウエイトベクトルを取得することも可能である。
(残留干渉成分の除去方法の概要)
上述の様にしてターゲットとする第1特異値に対応する仮想的伝送路の信号を抽出することが可能となるが、しかし、完全に直交関係にない仮想的伝送路同士の間では、相互に微弱ではあるが干渉信号が漏れ込むことになる。以下では、この干渉信号の除去方法について説明する。以下の干渉信号の除去方法は、基地局装置においては第2の受信信号処理部75における信号処理に相当する。上述の第1の実施形態の説明においても、第1の受信信号処理部185では完全に除去できない干渉信号を第2の受信信号処理部75を用いて2段階で除去していたが、本質的にはその信号処理と等価である。
以下の説明では、例えば、第1の実施形態において図16に示した様に、基地局装置側に複数のアンテナ素子群を備えた第1の信号処理部が複数実装され、端末局装置側には複数のアンテナ素子で構成されるアンテナ素子群は一つであるケースを想定している。図45は、第5の実施形態における干渉信号の除去方法を説明する図である。同図に示す様に、第5の実施形態における無線通信システムは、基地局装置204と端末局装置206とを備える。基地局装置204は第1の信号処理部を複数備え、第1の信号処理部は複数のアンテナ素子を備える。各第1の信号処理部に備えられる複数のアンテナ素子は、それぞれが仮想的なアンテナ素子201、202、203を形成する。端末局装置206は、複数のアンテナ素子で形成されるアンテナ素子群205を備える。第5の実施形態における無線通信システムでは、基地局装置204と端末局装置206との間の通信経路は、仮想的なアンテナ素子201、202、203とアンテナ素子群205との間で通信が行われる系として捉えることができる。
図45(a)は、第5の実施形態の無線通信システムにおけるダウンリンクで生じる干渉成分について示す図である。基地局装置204の仮想的なアンテナ素子201で形成される端末局装置206に向けた指向性ビーム(送信ビーム)を、端末局装置206のアンテナ素子群205が仮想的なアンテナ素子201に向けた指向性ビーム(受信ビーム)で受ける場合について検討する。この場合において、アンテナ素子群205の仮想的なアンテナ素子201に向けた受信ビームに、仮想的なアンテナ素子201から送信される信号ψ1の他に仮想的なアンテナ素子202から送信される信号ψ2の一部が漏れ込んでくるとき、信号ψ2の一部を干渉成分として除去することを考える。これは、図45(b)に示すアップリンクにおける干渉成分を除去することと等しく、信号処理的には同一の考え方で処理可能である。アップリンクにおいて、端末局装置206のアンテナ素子群205において形成される送信ビームであって仮想的なアンテナ素子201に向けた送信ビームで信号ψ1を送信する場合に、仮想的なアンテナ素子201が端末局装置206のアンテナ素子群205に向けた受信ビームに、アンテナ素子群205が仮想的なアンテナ素子202に向けて送信される信号ψ2の一部が漏れ込み、この漏れ込んだ信号ψ2の一部を干渉成分として除去することと等しい。
まずダウンリンクを例に取れば、アンテナ素子群205において仮想的なアンテナ素子201に向かう角度θ方向からの到来波に対し、式(48)〜式(52)などで示す受信ウエイトベクトルで信号の待ち受けを行う。ここでは仮想的なアンテナ素子201からの信号ψ1を待ち受けているが、ここに角度θ’の方角の仮想的なアンテナ素子202からの信号ψ2が漏れ込んでくる。このとき、式(40)のθにθ’を代入したものを係数βとすると、端末局装置206のアンテナ素子群205の各アンテナ素子には、式(49)の係数αを係数βに置き換えた係数で信号ψ2が受信される。しかし、端末局装置206のアンテナ素子群205が仮想的なアンテナ素子201に向けた指向性ビームで待ち受けているときに乗算する受信ウエイトベクトルの各要素は、係数αを係数βに代えていない式(49)の複素共役を取った式(50)で表される受信ウエイトである。そのため、受信ウエイトの乗算で式(49)と式(50)との乗算で本来は複素位相が0にキャンセルされない。アンテナ素子群205を構成する第mアンテナ素子において係数Exp{2πjfc(α−β)×(m−1)Δt}を掛け合わせて総和を取ったときには、それぞれの複素位相が異なる複素位相で合成されることになる。なお、m=1,2,…,Kであり、Kは端末局装置206に備えられるアンテナ素子群205を構成するアンテナ素子の数NMT−Antである。
ただし、ここでは異なる複素位相の合成と述べたが、実際には規則性のある合成であるため、第2の実施形態において説明した「見通しMIMO伝送の直交化のためのアンテナ配置条件」を満たす状況では、この総和を取った値が概ねゼロに収束する。ちなみに、仮想的なアンテナ素子201からの信号ψ1に対して式(50)又は式(51)で示した受信ウエイトを適用すると、アンテナ素子群205を構成する全てのアンテナ素子で受信する信号の複素位相は一定の値となる。これにより、同位相での信号の加算合成が可能になり、信号の振幅はNMT−Ant(アンテナ素子数)倍となり、大きな利得を得ることになる。
この様な手順により、受信側において基地局装置204の第j仮想的アンテナ素子に指向性を向けた際に、基地局装置204の第i仮想的アンテナ素子からの信号がどの様に受信されるかを把握すれば良い。上述の例では仮想的なアンテナ素子201に向けた指向性ビームで待ち受けた状態で仮想的なアンテナ素子202から送信された信号ψ2がどの様に漏れ込むかを表す信号は、式(49)のαを(α−β)に置き換えて全てのmに対して総和を取ることで得られる。この総和は式(54)の左辺の様に等比級数の和として与えられるため、等比級数の和の公式により下記の式で表される。
ここで、fc(α−β)NMT−AntΔtが整数となる場合には、等比級数の和がゼロとなり残留干渉は存在しなくなるが、一般的には残留干渉は残ることになるため、その干渉成分の抑圧が必要となる。
一方、仮想的なアンテナ素子201からアンテナ素子群205に向けた指向性ビームでψ1(t)を送信し、アンテナ素子群205から仮想的なアンテナ素子201に向けた指向性ビームで待ち受け、この状態で受信される信号^ψ1(t)には、アンテナ素子群205から第1仮想的アンテナ素子に向けて送信した信号ψ1(t)と第1仮想的アンテナ素子との間の関係を示す係数^h11を用いて、希望信号成分が^h11×ψ1(t)として含まれることになる。同様に、第j仮想的アンテナ素子から送信される信号ψj(t)と、第i仮想的アンテナ素子からアンテナ素子群205に向けた受信ビームで受信される信号^ψi(t)との間の関係を示す係数^hijを用いて、信号ψi(t)の成分が^hij×ψ1(t)だけ含まれると表現することができる。
ただし、ここで注意すべき点は、式(41)の周波数軸上のウエイトが周波数依存性を持たない場合には式(42)の時間軸ウエイトがn=0のみが非ゼロでその他が全てゼロとなるために上述の様な記述が可能となるが、式(41)のウエイトに周波数依存性が残る場合には、式(42)の時間軸ウエイトのn=1及びそれ以降の項も値を持ち、結果的にここまで単純な表現で表すことができない。そこで、この信号を周波数軸上の信号に変換して理解するならば、一般的には、係数^hijも信号ψ1(t)及び信号^ψi(t)も周波数成分に分解し、第kサブキャリアに関しては、係数^hij (k)、信号ψ1 (k)(t)及び信号^ψi (k)(t)を用いて、信号^ψi (k)(t)には信号ψ1 (k)(t)の成分が^hij (k)×ψ1 (k)(t)含まれるものとして扱う必要がある。
ただし、逆に式(41)の周波数軸上のウエイトが周波数依存性を殆ど持たない場合には、式(42)の時間軸ウエイトのn=1及びそれ以降の項が高精度で0に近似可能になり、その場合にはこの後の処理に関しても時間軸での信号処理が可能になる。この様に、周波数軸での信号処理が必要であるか、ないしは時間軸での簡易な信号処理で対処可能であるかの判断は式(41)の周波数軸上のウエイトの周波数依存性次第であり、ターゲットとするシステムの各種パラメータによって決まるものである。したがって、システム設計的に全ての係数^hijの周波数依存性が無視可能で、それぞれの信号の分離は時間軸上の各サンプリング値間での信号処理で可能である場合には、図45に示した通信の状態は式(55)で表すことができる。ここで、Mは表記の都合上、空間多重数(仮想的伝送路数)を表す。
これは従来の周波数軸のMIMOの信号処理と同一の形式であるため、例えばこのチャネル行列の逆行列やMMSEによる線形処理により、若干の干渉信号が漏れ込んで観測される信号ベクトル(^ψ1(t),^ψ2(t),・・・,^ψM(t))から、干渉成分をキャンセルした信号ベクトル(ψ1(t),ψ2(t),・・・,ψM(t))を求めることができる。この様にして、複数の仮想的伝送路の間の信号を信号分離することができる。
ここで重要なのはこの式の意図するところであり、式(55)における時刻tとは任意の時刻に適用可能であり、瞬時値としての任意の時刻でこの関係式を理解すれば、これは全てのサンプリング値に対してこの同一時刻のサンプリング値間でこの関係が成立することを意味する。つまり、サンプリングをしたらFFTなどを実施することなく、そのサンプリング値のままで信号分離が可能であることを意味する。
このため、上述の説明では主としてOFDM変調方式を適用する場合を想定して説明を行ったが、送信信号の先頭にトレーニング信号を付与し、このトレーニング信号を利用した何らかの手法で式(55)に相当するチャネル行列を事前に取得できれば、それによりFFTを行うことなく時間軸で信号分離が可能であり、シングルキャリア伝送を行う場合においては、式(55)で信号分離した信号に対して直接、シングルキャリア伝送の信号処理を施すことが可能である。
一般に、ミリ波などの高周波数帯の場合では位相雑音が無視できず、広帯域のOFDM信号などを用いる場合にはFFT処理により位相雑音成分がOFDMのサブキャリア間の直交性を破り、全帯域の周波数成分に雑音及びサブキャリア間のクロストークとして分散され、位相雑音の補正を行うことが困難な状態となることが予想される。シングルキャリア伝送であれば、逐次、シンボルごとに信号検出された信号と受信信号の関係から位相雑音成分を推定及び補償することが可能であり、比較的大きな位相雑音に対応することが可能であったが、従来技術では複数系列のシングルキャリア伝送の信号が空間上のMIMOチャネルで合成されてしまった場合、一旦、周波数上の信号に変換してからでなければ信号分離ができず、このためFFTの実施は必要不可欠であった。しかし、FFTの実施により位相雑音が補償不可能な状態に変換されてしまうため、位相雑音補償のためにはFFTを実施せずに実現可能な信号分離技術が必要であった。
なお、式(55)の時間軸上のMIMOチャネルに関しては、式(54)の様な理論的な解析演算により求める他に、例えば1OFDMシンボル相当の1周期分のトレーニング信号を用い、相関演算によりチャネル行列の各成分を直接求めることも可能である。複数のアンテナ素子で受信した受信信号ベクトルに受信ウエイトベクトルを乗算する際の信号処理では、元々の信号のSNRが低かったので、ある程度の回数の平均化などの工夫が必要であった。しかし、第1特異値に対応する仮想的伝送路の信号を抽出するための受信ウエイトベクトルを乗算して得られた信号は既に指向性利得によりSNRが改善されているため、そこから受信ウエイトベクトルを算出する作業を相関演算で行う際には、必ずしも複数回の平均化処理は必要ではなく、例えば1OFDMシンボル相当の1周期分のトレーニング信号を用いて1回の処理で取得しても問題ない。
また、この式ではNFFT個のサンプル点としたが、特にFFTを用いる必然性はないので、式(56)のNFFTはOFDMのFFTポイント数でなければならない必然性はなく、任意の値とすることも可能である。
ここでの近似の条件は、第1特異値に対応する仮想的伝送路は送受信双方の指向性制御により、概ね干渉成分は抑圧されているものと仮定しており、言い換えればMIMOチャネル行列の対角成分の絶対値が非対角成分の絶対値に比較して、相対的に十分大きい場合に高精度で近似が可能となる。
この様にして取得した係数^hijを用い、式(55)のチャネル行列に対してZF法やMMSE法などによる線形ウエイトを両辺に乗算するなどの演算を施すことで時間軸信号の信号分離が実現され、その結果の時間軸の信号に対して例えばシングルキャリアの信号処理などを施せば、位相雑音が問題となる様なケースでも、既存のシングルキャリアにおける位相雑音対策を用いて高精度に信号検出処理を実施することが可能となる。
なお、以上の説明では式(41)の周波数軸上のウエイトの周波数依存性が殆ど無視可能な場合、即ち式(42)の時間軸ウエイトのn=1及びそれ以降の項が高精度で0に近似可能な場合を中心に説明を行ったが、この様な条件を満たさない場合には、素直にFFT処理を施し、周波数軸上で個別に信号分離のための処理を行うことになる。
(時間軸ビームフォーミングの処理フロー)
図46は、第5の実施形態の無線通信システムにおける時間軸ビームフォーミングの送受信ウエイト取得の処理を示すフローチャートである。図46(a)に示すフローチャートは、時間軸ビームフォーミングの第1段目の送受信ウエイトを取得する処理のフローチャートである。ここでは、例えば式(49)に示す様な各種パラメータから時間軸上での係数を求める方法ではなく、式(52)に示す様な相関係数を利用する場合について説明する。ただし、これらの値はそのウエイトの算出方法が異なるだけで、その算出方法を置き換えれば同様に解析的な手法も適用可能である。また、送受信ウエイトベクトルの取得は基地局装置側も端末局装置側も同様に必要であり、ここに記載の処理を双方向で実施することになる。以下では、ダウンリンクで行う処理について説明する。
まず、基地局装置は、チャネル推定用のトレーニング信号を送信する(ステップS4601)。ここでのトレーニング信号はチャネル推定を行うための信号であり、チャネル推定後のデータ通信で用いる伝送方式に依存しないものであり、例えばガードインターバルのない連続のOFDM信号でも良いし、自己相関の少ない所定の周期性を持ったトレーニング信号でも良い。また当然ながら、データ通信で用いる伝送方式にて用いられるトレーニング信号をそのまま用いることも可能である。
端末局装置は、基地局装置から送信されるトレーニング信号を各アンテナ素子で受信すると(ステップS4611)、それぞれの受信信号を個別に無線周波数からベースバンドへのダウンコンバート処理を施し、A/D変換の後にそのサンプリング値を記録する。このトレーニング信号を所定の周期(例えば100周期)取得し、各周期の信号を周期性に合わせて加算合成して平均化を行う(ステップS4612)。第jアンテナ素子の第nサンプルの平均化されたサンプリング値をSj(n)とすれば、第1アンテナ素子に対する第jアンテナ素子の相関係数cjを式(52)で求める(ステップS4613)。
ステップS4613において得られた相関係数cjの複素共役を取る(ないしは、更にその値をその絶対値で除算する)ことで第jアンテナ素子の受信ウエイトを算出し、これらを組み合わせて受信ウエイトベクトルを求める(ステップS4614)。特に空間多重を行わない場合には、単純に指向性形成の時間軸上で受信ウエイトベクトルは、この様にして算出される。ただし、第1の実施形態において示した図16の様に複数系統の信号を空間多重する場合には、図16の第1の信号処理部304−1〜304−4それぞれに対する上述の受信ウエイトベクトルを算出する。
インプリシット・フィードバックを行う際のキャリブレーション係数が、周波数依存性を持たない場合には、その周波数方向で共通のキャリブレーション係数を用い、時間軸上の受信ウエイトベクトルにキャリブレーション処理を実施し、送信ウエイトベクトルを取得する(ステップS4615)。取得した送受信ウエイトベクトルを記録管理し(ステップS4616)、その後の信号送受信にその送受信ウエイトベクトルを用いる。なお、何らかの手法でSNRの高い状態でトレーニング信号を受信できる場合には、平均化処理は省略することも可能である。また、キャリブレーション係数に周波数依存性がある場合でもその周波数ごとの偏差が比較的小さい場合には、全サブキャリアでのキャリブレーション係数の平均値を全サブキャリアに共通のキャリブレーション係数とみなして処理を行っても良い。この様にして、各第1特異値に対応する仮想的伝送路を抽出するための第1段目の受信ウエイトベクトル及び送信ウエイトベクトルを求めることができる。
図46(b)は、上述の様にして指向性利得を高めて受信した各仮想的伝送路の信号に対し、残留干渉除去のための2段目の(送)受信ウエイト行列を取得するための処理を示すフローチャートである。まず、基地局装置は図46(a)に示した処理で求めた送信ウエイトベクトルを用いてトレーニング信号を送信する(ステップS4621)。ここでのトレーニング信号は、チャネル推定を行うための信号であり、チャネル推定後のデータ通信で用いる伝送方式に依存しないものであっても良い。
端末局装置は、基地局装置から送信されるトレーニング信号を各アンテナ素子で受信すると(ステップS4631)、それぞれの受信信号を個別に無線周波数からベースバンドへのダウンコンバート処理を施し、A/D変換によりサンプリング値を取得する。これらの各アンテナ素子での受信信号ベクトルに受信ウエイトベクトルを乗算する(ステップS4632)。この様にして取得した受信ウエイトベクトルごと(すなわち、第1特異値に対応する仮想的伝送路ごと)のトレーニング信号の相互相関を式(56)で取得し(ステップS4633)、チャネル行列を取得する(ステップS4634)。端末局装置は、取得したチャネル行列に基づいて受信ウエイト行列を算出し(ステップS4635)、算出した受信ウエイト行列を第2段目の時間軸ウエイト行列として記録管理する(ステップS4636)。
なお、基地局装置、端末局装置の両方が固定的に設置される無線エントランスなどの場合には、これらの1段目及び2段目のウエイトは時間的に殆ど変動しないので、サービス運用開始前に事前に取得しておけば、これを引き続き利用することもできる。一方、例えば列車ムービングセルなどにおいては、チャネルが高速で時変動することになるが、第1段目の受信ウエイトベクトルに関しては事前に取得してデータベース化することで、通信の都度、第1段目の送受信ウエイトベクトルを算出する必要はない。ただし、第2段目の受信ウエイト行列(ベクトル)に関しては、1段目の受信ウエイトベクトルの不完全性に依存して異なる状態で残留する干渉信号を除去するためのもので、一般的にはこれらは逐次更新する必要がある。この場合、ステップS4631からステップS4636の処理は、無線パケットの信号の受信の都度、実施することにしても良い。
また、アクセス系に第1特異値に対応する複数の仮想的伝送路を利用する場合には、第2段目の受信ウエイト行列(ベクトル)だけではなく第1段目の送受信ウエイトベクトルも逐次更新する必要がある。後述する第8の実施形態において説明する図65に示すフレーム構成では、そのための送受信ウエイトベクトルを取得するためのトレーニング信号を収容するためのスロットとして、後述する第8の実施形態に示す例では、フレームの先頭のスロットと、フレームの末尾から四つのスロットを用いる。しかし、第2段目の受信ウエイト行列を算出するためのトレーニング信号は、前述のスロットに配置することも可能だが、これらのスロットとは別の途中のスロットの中の細分化されたサブスロットの先頭(すなわち無線パケットの先頭)に配置して、これを基に第2の受信ウエイト行列を算出する様にすることも可能である。
(時間軸ビームフォーミングの回路構成)
図47は、第5の実施形態における基地局装置が備える第1の送信信号処理部381−jの構成例を示す図である。なお、jは、基地局装置が備える複数の第1の送信信号処理部381の中の通し番号を示す。同図に示す様に、第1の送信信号処理部381−jは、IFFT&GI付与回路813−jと、第1の送信信号処理回路311−jと、D/A変換器814−1〜814−N’BS−Antと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−N’BS−Antと、フィルタ817−1〜817−N’BS−Antと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−N’BS−Antと、アンテナ素子819−1〜819−N’BS−Antと、第1の送信ウエイト処理部330とを備える。第1の送信ウエイト処理部330は、第1のチャネル情報取得回路332と、第1のチャネル情報記憶回路333と、第1の送信ウエイト算出回路334とを備える。第5の実施形態における基地局装置の構成は、第1の実施形態における基地局装置70(図17)と同様の構成を有するが、第1の送信信号処理部181に代えて図47に示した第1の送信信号処理部381を備える点で異なる。
第5の実施形態における第1の送信信号処理部381−jは、第1の実施形態において図18に示した第1の送信信号処理部181−jに対し、時間軸ビームフォーミングを適用する場合の回路構成である。第1の送信信号処理部381−jと、図18に示した第1の送信信号処理部181−jとの差分は、多数のIFFT&GI付与回路813を一つに集約している点、第1の送信信号処理回路111−j及び第1の送信ウエイト処理部130に代えて第1の送信信号処理回路311及び第1の送信ウエイト処理部330を備える点、更にIFFT&GI付与回路813が第1の送信信号処理回路311の前段に配置された点である。
また、図18に示した第1の送信信号処理部181−jでは周波数軸上での送信ウエイトベクトルの乗算が必須であったがためにOFDMにしろSC−FDEにしろ、周波数軸上での送信信号処理としてIFFT処理がいずれかの配置において必須であった。これに対して、第5の実施形態における第1の送信信号処理部381−jは、時間軸上においてサンプリングデータ単位での指向性ビーム形成の信号処理が可能であるため、IFFT&GI付与回路813をも省略し、純粋なシングルキャリアの信号処理とすることも可能である。この意味で、図47に示したIFFT&GI付与回路813は点線の四角で表現している。
第5の実施形態の基地局装置に備えられる第1の送信信号処理部381−jの動作について説明する。第2の送信信号処理部71よりデジタルベースバンド信号が第1の送信信号処理部381−jに入力されると、これが周波数軸上の信号である場合にはIFFT&GI付与回路813−jにて周波数軸上の信号を時間軸上の信号に変換される。純粋なシングルキャリアの信号の様に時間軸でのサンプリングデータが入力されるシステムの場合には、IFFT&GI付与回路813−jを介すことなく(IFFT&GI付与回路813−jは省略する構成)、デジタルベースバンド信号は第1の送信信号処理回路311−jに入力される。第1の送信信号処理回路311−jは、1系統の信号系列に時間軸上の送信ウエイトベクトルをサンプリング値ごとに乗算し、この結果の送信信号ベクトルの各成分をアンテナ素子系統ごとのD/A変換器814−1〜814−N’BS−Antに出力する。これ以降の処理は図18に示した第1の送信信号処理部181−jにおいて行われる処理と同等である。
なお、第1の送信信号処理回路311−jにおいて信号系列に乗算される送信ウエイトベクトルは、図18に示した第1の送信信号処理部181−jと同様に信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部330に備えられている第1の送信ウエイト算出回路334から取得される。第1の送信ウエイト処理部330では、第1のチャネル情報取得回路332が、受信部にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120を経由して取得し、第1のチャネル情報記憶回路333に記憶させて逐次更新する。送信時には通信制御回路120からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路334は、宛先とする端末局装置に対応したチャネル情報を第1のチャネル情報記憶回路333から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを算出する。ここでの送信ウエイトベクトルの算出方法は上述の様な任意の方法を用いることができる。
なお、図17に示した通信制御回路120と図47に示す通信制御回路120では、厳密には通信制御回路120を介して転送するチャネル情報などの詳細が若干異なる。例えば、図17では一般の通信方式を対象としているため、サブキャリアごとに異なるチャネル情報を転送する必要があるが、図47の場合には時間軸上の単一のチャネル情報(すなわち、周波数依存性がなく、全サブキャリアで共通のチャネル情報)のみを転送すればよい。しかし、この様な具体的な情報の差分を除けばその他の機能は等価であるため、ここでは同一の符号を用いて説明することとする。
更に図18に示した第1の送信信号処理部181−jでは各周波数成分の個別の送信ウエイトベクトルを求めるのに対し、第5の実施形態における第1の送信信号処理部381−jでは単一の時間軸成分での送信ウエイトベクトルのみを求める点が図18の第1の送信信号処理部181−jとの差分である。また、通信相手の無線局装置が固定設置されている場合には送信ウエイトベクトル自体を事前に算出して記録しておき、これを単に読み出すことで第1の送信信号処理回路311に対して送信ウエイトベクトルを通知する構成であっても良いし、更にはPoint−to−Point型の1対1通信であれば、第1の送信信号処理回路311内に直接送信ウエイトベクトルを記憶していても良い。
図48は、第5の実施形態における基地局装置の第1の受信信号処理部385−jの構成例を示すブロック図である。同図に示す様に、第1の受信信号処理部385−jは、アンテナ素子851−1〜851−N’BS−Antと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−N’BS−Antと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−N’BS−Antと、フィルタ855−1〜855−N’BS−Antと、A/D変換器856−1〜856−N’BS−Antと、第1の受信信号処理回路358−jと、FFT回路857−jと、第1の受信ウエイト処理部360とを備える。第1の受信ウエイト処理部360は、第1のチャネル情報推定回路362と、第1の受信ウエイト算出回路363とを備える。
第5の実施形態における第1の受信信号処理部385−jは、第1の実施形態において図19に示した第1の受信信号処理部185−jに対し、時間軸ビームフォーミングを適用する場合の回路構成である。図19に示した第1の受信信号処理部185−jとの差分は、多数のFFT回路857を一つに集約している点、受信信号処理回路858及び第1の受信ウエイト処理部160に代えて第1の受信信号処理回路358及び第1の受信ウエイト処理部360を備える点、更にFFT回路857が第1の受信信号処理回路358の後段に配置された点である。
また、図19に示した第1の受信信号処理部185−jでは周波数軸上での受信ウエイトベクトルの乗算が必須であったがためにOFDMにしろSC−FDEにしろ、周波数軸上での受信信号処理としてFFT処理がいずれかの配置において必須であった。これに対して、第5の実施形態における第1の受信信号処理部385−jは、時間軸上においてサンプリングデータ単位での指向性ビーム形成の信号処理が可能であるため、第1の受信信号処理部385−jからFFT回路857−jを省略し、純粋なシングルキャリアの信号処理を行うものとすることも可能である。更に言えば、図46(b)で示した様に、2段階のウエイト乗算の後段のウエイトにおいても時間軸の受信ウエイト行列を用いる場合にも、ここでのFFT回路857−jを省略し、更に時間軸上の信号処理を継続する構成とすることも可能である。この意味で、図48に示したFFT回路857−jは点線の四角で表現している。
第5の実施形態の基地局装置に備えられる第1の受信信号処理部385−jの動作を説明する。アンテナ素子851−1〜851−N’BS−Antで受信された信号に対する処理のうち、ローノイズアンプ852−1〜852−N’BS−AntからA/D変換器856−1〜856−N’BS−Antまでにおいて行われる処理は、第1の実施形態の第1の受信信号処理部185−jにおける処理と同様の処理である。この処理により、受信された信号は、デジタルベースバンド信号(サンプリングデータ)に変換される。A/D変換器856−1〜856−N’BS−Antは、各サンプリングにおけるデジタルベースバンド信号で構成される受信信号ベクトルを第1の受信信号処理回路358−jに入力する。通信制御回路120からの指示に従い、第1の受信信号処理回路358−jは、第1の受信ウエイト処理部360より入力される時間軸上の受信ウエイトベクトルをサンプリング値ごとに受信信号ベクトルに乗算し、1系統の信号系列に変換する。
OFDMやSC−FDEの様に、これ以降において周波数軸上の信号処理が必要である場合及びこの後段で周波数軸上の受信ウエイト行列を用いた処理を行う場合には、第1の受信信号処理回路358−jは、変換により得られた1系統の信号系列をFFT回路857−jへ出力し、FFT回路857−jにて時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換する。純粋なシングルキャリアの信号の様に時間軸上で全ての信号処理を行うシステムの場合、ないしはこの後段で引き続き時間軸の受信ウエイト行列を乗算する場合には、FFT回路857−jを介すことなく(FFT回路857−jは省略する構成)、この信号を出力する。FFT回路857−jは、第1の受信信号処理回路358−jから入力される信号を、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで、FFTにより時間軸上の信号を周波数軸上の信号(サブキャリアごとのデジタルベースバンド信号)に変換する。FFT回路857−jは、サブキャリアごとのデジタルベースバンド信号を第2の受信信号処理部75へ出力する。なお、上述の様に第1の受信信号処理部385−jがFFT回路857−jを備えない場合、第1の受信信号処理回路358−jは、時間軸上の受信ウエイトベクトルをサンプリング値ごとに受信信号ベクトルに乗算して得られる1系統分の信号を、第2の受信信号処理部75へ出力する。
なお、各A/D変換器856−1〜856−N’BS−Antにて取得する各サンプリングされた受信信号ベクトルがチャネル推定用のトレーニング信号に基づくものである場合には、この受信信号ベクトルは第1のチャネル情報推定回路362に入力される。第1のチャネル情報推定回路362は、上述の様な何らかの手法で各端末局装置のアンテナ素子819−1〜819−NMT−Antと、基地局装置70のアンテナ素子851−1〜851−N’BS−Antにより構成される仮想的なアンテナ素子との間のチャネル情報を時間軸上で推定(例えば式(52)に示した相関演算に相当)し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路363に出力する。第1の受信ウエイト算出回路363は、入力された時間軸上のチャネル情報を基に、その複素共役ないしは各成分ごとにその絶対値で除算した複素共役値で与えられる乗算すべき時間軸上の受信ウエイトベクトルを算出する。第1の実施形態において図19に示した第1の受信信号処理部185が各周波数成分の個別の受信ウエイトベクトルを求めるのに対し、第5の実施形態における基地局装置の第1の受信信号処理部385は、単一の時間軸成分の受信ウエイトベクトルのみを求める点が第1の受信信号処理部185との差分である。第1の受信ウエイト算出回路363は、この様にして算出した受信ウエイトベクトルを第1の受信信号処理回路358−jに出力する。なお、第1の受信ウエイト算出回路363による受信ウエイトベクトルの算出は、図46(a)において説明した処理に相当する。
また、送信元局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。ここで、通信相手の端末局装置が固定設置されている場合には受信ウエイトベクトル自体を事前に算出して記録しておき、これを単に読み出すことで第1の受信信号処理回路358−jに対して受信ウエイトベクトルを通知する構成であっても良いし、更にはPoint−to−Point型の1対1通信であれば、第1の受信信号処理回路358内に直接受信ウエイトベクトルを記憶していても良い。
なお、上述の説明は第1特異値に対応した仮想的伝送路のみを対象とした信号処理であるが、主として見通し波を意識した第1特異値に対応した仮想的伝送路を有効活用しながらも、例えば大型構造物などの比較的きれいな反射波成分なども補助的に活用する場合には、複数アンテナ素子間の同一時刻のサンプリング値間の係数を乗算した加算合成以外にも、数サンプルの遅延成分も含めた構成としても構わない。例えば基準アンテナを第1アンテナとし、1サンプリング・クロック分の遅延波が第jアンテナに漏れ込む係数を求める場合には、式(52)を拡張した下記の式(57)を用いれば良い。
ここでは式(52)と同様に、Sj(n)は第jアンテナ素子の第n番目のサンプリング値を表す。ここでは1本のアンテナ素子対1本のアンテナ素子の信号に関する信号処理になっているので、回線利得的には1シンボルにおける値をそのまま使うのではなく、多数回の平均値を用いることでSNR値を高めることが望ましい。この係数を基に、式(50)又は式(51)と同様にして受信ウエイトの値を求めれば良い。この様にして求めた受信ウエイトに対し、例えば受信信号処理としては以下の式(58)で1系統の時間軸の信号系列を算出すれば良い。
ここで〜w’jは、係数c’jに対して式(50)又は式(51)を用いて算出した受信ウエイトである。この様にして、1サンプリング・クロック分の遅延波を考慮した処理を行うことも可能である。同様に、2サンプリング・クロック分の遅延波を考慮する場合には以下の式(59)を適用すれば良い。
ここで〜w’’jは、係数c’’jに対して式(50)又は式(51)を用いて算出した受信ウエイトである。同様の拡張を行えば、更なる遅延波成分を考慮することも可能になるが、式(58)及び式(60)の両者とも、式(53)に示した同一時刻のそれぞれのアンテナ素子のサンプリング値の信号に受信ウエイト〜wjを乗算した信号を加算合成する成分を含んでいる点は共通の特徴であり、本実施形態の本質はここにある。
なお、本実施形態では、多数のアンテナ素子の送受信信号の合成において、周波数依存性のある送受信ウエイトを用い、周波数軸上で個別のサブキャリアごとに異なる送受信ウエイトを乗算する従来の指向性制御の代わりに、全サブキャリアで共通の送受信ウエイトを用いることで、サンプリング値ごとに時間軸上での指向性制御を可能としており、これは基地局装置及び端末局装置の双方で同様に用いることも可能であるし、ないしは基地局装置のみ又は端末局装置のみに実装することも可能である。上述の説明は基地局装置に関する説明であったが、以下に端末局装置に関する説明を行う。ここで基地局装置の場合と同様に、送信側及び受信側の双方において時間軸ビームフォーミングを適用することは可能である。
図49は、第5の実施形態における端末局装置が備える送信部361の回路構成の例を示すブロック図である。同図に示す様に、送信部361は、第2の送信信号処理回路348と、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NSDMと、第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDMと、加算合成回路812−1〜812−NMT−Antと、D/A変換器814−1〜814−NMT−Antと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−NMT−Antと、フィルタ817−1〜817−NMT−Antと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−NMT−Antと、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antと、第1の送信ウエイト処理部340とを備える。第1の送信ウエイト処理部340は、第1のチャネル情報取得回路341と、第1のチャネル情報記憶回路342と、第1の送信ウエイト算出回路343とを備える。第5の実施形態における端末局装置の構成は、第1の実施形態における端末局装置60(図20)と同様の構成を有するが、送信部61に代えて送信部361を備える点で異なる。
第5の実施形態における送信部361は、第1の実施形態において図25に示した送信部61に対し、時間軸ビームフォーミングを適用する場合の回路構成である。送信部361と、図25に示した送信部61との差分は、多数のIFFT&GI付与回路813を一つに集約している点、第1の送信ウエイト処理部140に代えて第1の送信ウエイト処理部340を備えている点、更にIFFT&GI付与回路813が第1の送信信号処理回路331の前段に配置された点である。
また、図25に示した送信部61では周波数軸上での送信ウエイトベクトルの乗算が必須であったがためにOFDMにしろSC−FDEにしろ、周波数軸上での送信信号処理としてIFFT処理がいずれかの配置において必須であった。これに対して、第5の実施形態における送信部361は、時間軸上でサンプリングデータ単位での指向性ビーム形成の信号処理が可能であるため、IFFT&GI付与回路813をも省略し、純粋なシングルキャリアの信号処理とすることも可能である。この意味で、図中のIFFT&GI付与回路813は点線の四角で表現している。
第5の実施形態の端末局装置に備えられる送信部361の動作を説明する。空間多重数NSDM系統数分のデータ(データ入力#1〜#NSDM)がMAC層処理回路68より第2の送信信号処理回路348に入力されると、第2の送信信号処理回路348は、入力された各データ系統に対して送信信号処理を施して、デジタルベースバンド信号をデータ系統ごとに生成する。この信号処理は一般的なものであり、OFDMでもシングルキャリアでもSC−FDEでも、如何なる形式の無線信号であっても良い。また、送信信号に対する任意のプリコーディングを行う場合には、第2の送信信号処理回路348にてプリコーディングの信号処理を施す。第2の送信信号処理回路348から出力される信号が周波数軸上の信号である場合にはIFFT&GI付与回路813にて、信号系統ごとに周波数軸上の信号を時間軸上の信号に変換する。純粋なシングルキャリアの信号の様に時間軸でのサンプリングデータが入力されるシステムの場合には、IFFT&GI付与回路813を介すことなく(すなわちIFFT&GI付与回路813を省略する構成)、第2の送信信号処理回路348は、信号処理により得られた各データ系統の信号を第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDMに入力する。
図47に示した基地局装置が備える第1の送信信号処理部381−jは1系統の信号系列に対する信号処理を行っていた。これに対して、端末局装置では複数の信号系統の処理を行うため、端末局装置は、複数の第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDMを備える構成になっている。第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDMは、それぞれが対応するデータ系統の信号系列に時間軸上の送信ウエイトベクトルをサンプリング値ごとに乗算し、この結果の送信信号ベクトルの各成分を加算合成回路812−1〜812−NMT−Antに出力する。加算合成回路812−1〜812−NMT−Antは、それぞれが各第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDMから入力される全ての信号系列の信号を加算合成し、同じ系統のD/A変換器814−1〜814−NSDMへ出力する。これ以降の処理は図25において示した送信部61において行われる処理と同等である。なお、第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDMで各データ系統の信号系列に対して乗算される時間軸上の送信ウエイトベクトルは、送信部61と同様に信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部340に備えられている第1の送信ウエイト算出回路343より取得される。又は、上述の様に事前に取得しておいた時間軸上の送信ウエイトベクトルを第1の送信ウエイト処理部340内に記憶しておく構成として、そこから第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDMに指示する構成であっても良い。
第1の送信ウエイト処理部340において、第1のチャネル情報取得回路341は、受信部365にて取得されたチャネル情報を通信制御回路121経由で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、第1のチャネル情報記憶回路342に記憶させる。信号の送信時には通信制御回路120からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路343は、宛先とする端末局装置に対応したチャネル情報を第1のチャネル情報記憶回路342から読み出し、読み出したチャネル情報を基に時間軸上の送信ウエイトベクトルを算出する。ここでの送信ウエイトベクトルの算出方法は上述の基地局装置と同様な任意の方法を用いることができる。更に図25において示した送信部61では各周波数成分の個別の送信ウエイトベクトルを求めるのに対し、第5の実施形態における第1の送信ウエイト算出回路343は単一の時間軸成分での送信ウエイトベクトルのみを求める点が送信部61との差分である。また、端末局装置が固定設置されている場合には送信ウエイトベクトル自体を事前に算出して記録しておき、これを単に読み出すことで第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDMに対して送信ウエイトベクトルを通知する構成であっても良いし、更にはPoint−to−Point型の1対1通信であれば、第1の送信信号処理回路331−1〜331−NSDM内に直接送信ウエイトベクトルを記憶していても良い。
図50は、第5の実施形態における端末局装置の受信部365の構成例を示すブロック図である。同図に示す様に、受信部365は、アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antと、ローノイズアンプ852−1〜852−NMT−Antと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−Nと、フィルタ855−1〜855−Nと、A/D変換器856−1〜856−Nと、第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMと、FFT回路857−1〜857−NSDMと、第2の受信信号処理回路359と、第1の受信ウエイト処理部354とを備える。第1の受信ウエイト処理部354は、第1のチャネル情報推定回路356と第1の受信ウエイト算出回路357とを備える。
第5の実施形態における受信部365は、第1の実施形態において図23に示した受信部65に対し、時間軸ビームフォーミングを適用する場合の回路構成である。図23に示した受信部65との差分は、多数のFFT回路857を一つに集約した点、第1の受信信号処理回路155と第2の受信信号処理回路159と第1の受信ウエイト処理部154とに代えて第1の受信信号処理回路355と第2の受信信号処理回路359と第1の受信ウエイト処理部354とを備える点、更にFFT回路857−1〜857−NSDMと、が第1の受信信号処理回路355の後段に配置された点である。
また、図23に示した受信部65では周波数軸上での受信ウエイトベクトルの乗算が必須であったがためにOFDMにしろSC−FDEにしろ、周波数軸上での受信信号処理としてFFT処理がいずれかの配置において必須であった。これに対して、第5の実施形態における受信部365は、時間軸上においてサンプリングデータ単位での指向性ビーム形成の信号処理が可能であるため、FFT回路857−1〜857−NSDMをも省略し、純粋なシングルキャリアの信号処理とすることも可能である。この意味で、図50に示したFFT回路857−1〜857−NSDMは点線の四角で表現している。
第5の実施形態の端末局装置に備えられる受信部365の動作について説明する。アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信された信号に対する処理のうち、ローノイズアンプ852−1〜852−NMT−AntからA/D変換器856−1〜856−NMT−Antまでにおいて行われる処理は、第1の実施形態の受信部65における処理と同様の処理である。A/D変換器856−1〜856−NMT−Antは、各サンプリングにおけるデジタルベースバンド信号で構成される受信信号ベクトルを第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMに入力する。基地局装置においては、図48に示した様に第1の受信信号処理部385−jが1系統の信号系列の処理を行っていた。これに対して、端末局装置においては複数の信号系統の処理を行うため、受信部365は、複数の第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMを備える構成になっている。第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMは、通信制御回路121からの指示に従い、各信号系列に対応する時間軸上の受信ウエイトベクトルをサンプリング値ごとに受信信号ベクトルに乗算し、各信号系列の信号に変換する。各信号系列に対応する受信ウエイトベクトルは、第1の受信ウエイト処理部354から入力される。第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMは、得られた各信号系列の信号を、信号系列に対応するFFT回路857−1〜857−NSDMへ出力する。
なお、図20に示した通信制御回路121と図50に示す通信制御回路121では、厳密には通信制御回路121を介して転送するチャネル情報などの詳細が若干異なる。例えば、図20では一般の通信方式を対象としているため、サブキャリアごとに異なるチャネル情報を転送する必要があるが、図50の場合には時間軸上の単一のチャネル情報(すなわち、周波数依存性がなく、全サブキャリアで共通のチャネル情報)のみを転送すればよい。しかし、この様な具体的な情報の差分を除けばその他の機能は等価であるため、ここでは同一の符号を用いて説明することとする。
OFDMやSC−FDEの様に、これ以降において周波数軸上の信号処理が必要である場合には、FFT回路857−1〜857−NSDMにて時間軸上の各信号系列の信号を周波数軸上の信号に変換する。純粋なシングルキャリアの信号の様に時間軸上で全ての信号処理を行うシステムの場合、ないしはこの後段でも時間軸上の受信ウエイト行列を用いて信号処理を行う場合には、FFT回路857−1〜857−NSDMを介すことなく(すなわちFFT回路857−1〜857−NSDMを省略する構成とする)、各信号系列の信号は第2の受信信号処理回路359へ出力される。
例えば第2の受信信号処理回路359にて時間軸上の信号処理を行う場合には、第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMから空間多重数NSDMの次元の時間軸上の各信号系列の信号が入力され、これに時間軸上の受信ウエイト行列を乗算し、空間多重された信号系列の信号分離を時間軸上で実施し、分離された信号に対して必要に応じて信号検出処理を行い、再生されたデータ系列をMAC層処理回路68に出力する。
ここで、第2の受信信号処理回路359が各信号系列の信号に対して乗算する受信ウエイト行列は、図46(b)に示した処理により得られる受信ウエイト行列である。ここでは、事前に取得した受信ウエイト行列を用いても良いし、無線パケットの受信の都度、第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMから入力される信号(無線パケット)の先頭に付与されたチャネル推定用のトレーニング信号を用い、式(56)に示した演算でチャネル情報に関するチャネル行列を取得し、これに対して一般的なMIMO信号処理として、ZF法やMMSE法などにより線形ウエイトを算出して受信ウエイト行列としても良い。この様にして信号分離されたNSDM系統の信号は、シングルキャリアの信号であればシングルキャリアの信号処理を行えば良いし、OFDMやSC−FDEであれば、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで、FFTにより時間軸上の信号を周波数軸上の信号(サブキャリアごとのデジタルベースバンド信号)に変換し、通常の復調処理を行い、再生されたデータ系列をMAC層処理回路68に出力する。
一方、第2の受信信号処理回路359にて周波数軸上の信号処理を行う場合には、FFT回路857−1〜857−NSDMから周波数軸上の信号が第2の受信信号処理回路359に入力され、事前に取得した受信ウエイト行列を用いても良いし、無線パケットの受信の都度、第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMから入力される信号(無線パケット)の先頭に付与されたチャネル推定用のトレーニング信号部分の情報と既知のトレーニング信号の関係を基にチャネル推定を行うことでチャネル行列を取得し、これに対して一般的なMIMO信号処理として、ZFやMMSEなどの線形ウエイトを算出して受信ウエイト行列としても良いし、MLDや簡易型のQR−MLDなどの非線形処理で信号検出処理を行っても良い。この様な信号検出処理を実施して再生されたデータ系列をMAC層処理回路68に出力する。なお、上述の説明における信号検出処理ないしは復調処理においては、必要に応じてデインタリーブや誤り訂正処理などを含む構成としても構わない。
なお、各A/D変換器856−1〜856−NMT−Antにて取得する各サンプリング値を成分とする受信信号ベクトルがチャネル推定用のトレーニング信号に対応するものである場合には、この受信信号ベクトルは第1のチャネル情報推定回路356に入力される。第1のチャネル情報推定回路356は、上述の基地局装置70と同様な何らかの手法で各端末局装置のアンテナ素子851−1〜851−NMT−Antと、基地局装置70の各仮想的アンテナ素子との間のチャネル情報を時間軸上で推定し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路357に出力する。第1の受信ウエイト算出回路357は、入力された時間軸上のチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトベクトルを算出する。第1の実施形態において図23に示した受信部65が各周波数成分の個別の送信ウエイトベクトルを求めるのに対し、第5の実施形態における端末局装置の受信部365は、単一の時間軸成分での送信ウエイトベクトルのみを求める点が受信部65との差分である。第1の受信ウエイト算出回路357は、この様にして算出した受信ウエイトベクトルを第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMに出力する。又は、上述の様に事前に取得しておいた時間軸上の受信ウエイトベクトルを第1の受信ウエイト処理部354内に記憶しておく構成として、そこから第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDMに指示する構成であっても良い。
また、送信元局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路121が管理する。ここで、端末局装置が固定設置されている場合には受信ウエイトベクトル自体を事前に算出して記録しておき、これを単に読み出すことで第1の受信信号処理回路355に対して受信ウエイトベクトルを通知する構成であっても良いし、更にはPoint−to−Point型の1対1通信であれば、第1の受信信号処理回路355−1〜355−NSDM内に直接受信ウエイトベクトルを記憶していても良い。以上が第5の実施形態における端末局装置の受信部365の構成例の説明である。
第5の実施形態のポイントとしては、複数のアンテナ素子を備える場合において、アンテナ素子間の間隔を狭くすることにより、見通し波の経路長の差が十分に小さくなり、また周波数領域における受信ウエイトの周波数依存性が小さくなる傾向がある。このとき、IFFTなどにより受信ウエイトを時間領域に変換すると、殆ど第1波成分(見通し波の成分)が全体の受信電力のうちの大部分を占めることになる。この様な状況では、周波数領域において行われるMIMOの信号分離が、時間領域において実行可能になる。また、第1波成分のみを用いた時間領域において行えるMIMOの信号分離は、サンプリング値ごとに行うことができる。
そこで、第5の実施形態における無線通信システムでは、例えば信号受信時において、基地局装置が備える第1の受信信号処理部385と端末局装置が備え得る受信部365内の第1の受信信号処理回路355とが、チャネル行列を特異値分解して得られる第1特異値に対応する仮想伝送路の信号を受信信号から分離する第1段目の信号分離を時間軸上でサンプリング値ごとに実施する。その後、基地局装置が第1の受信信号処理部385の後段に備える第2の受信信号処理部75と端末局装置が備え得る受信部365内の第2の受信信号処理回路359とが、仮想伝送路間の信号を分離する第2段目の信号分離を実施する。第5の実施形態の無線通信システムの受信側の装置において、第2段目の信号分離を時間軸上で行う場合には、信号分離において用いられる受信ウエイト行列は、アンテナ素子ごとに受信した信号の相関値を求めることにより得られるチャネル行列に基づいて算出することが可能である。
MIMOの信号分離を時間領域において行うことにより、信号分離において必要だったFFTを省くことが可能となり、演算負荷及び演算回路を削減することができる。また、空間多重されたシングルキャリア伝送を行う際には、周波数軸上に信号を変換する必要がなくなるため、ミリ波等の高周波数帯で問題となる位相雑音の影響を、既存の純粋なシングルキャリア伝送での位相雑音補償技術を流用することが可能になる。また、基地局装置及び端末局装置におけるMIMO信号分離に対する演算負荷を削減しつつ、第1から第4の実施形態と同様に、見通し環境における直接波が支配的な状況において帯域の拡大を実現することができる。
なお、第5の実施形態の無線通信システムでは、相関係数から受信ウエイト/送信ウエイトを求める構成について説明した。しかし、一部のサブキャリアに対してチャネル情報のフィードバックを行い、その平均値で全周波数帯の受信ウエイト/送信ウエイトを算出する様にしてもよい。
[第6の実施形態]
[見通し波が支配的な場合のチャネル行列取得の近似解法]
(第6の実施形態の係る基本原理の概要)
上述の説明では、複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を積極的に利用した空間多重伝送について説明した。この空間多重伝送ではチャネル行列を特異値分解し、その第1右特異ベクトルないしは第1左特異ベクトルを算出する必要がある。また、この特異値分解に用いる元のチャネル行列を取得するためには、チャネル推定及びチャネル情報のフィードバックが必要である。ここでは多数のアンテナ素子を用いることで利得の向上を図るため、多数の送信アンテナと多数の受信アンテナのそれぞれの数の積に相当するチャネル行列の成分を求める必要がある。一般的にはチャネル行列の成分の数に比例してチャネル推定用のトレーニング信号送信に伴うオーバヘッドが増加し、無視できない量となる。
インプリシット・フィードバックは、例えばアップリンクのチャネル行列の取得ができた場合に、キャリブレーション処理によりダウンリンクのチャネル行列を推定し、基地局装置のアンテナ素子数の増加に伴うオーバヘッドを削減することができる。一方、端末側に複数本のアンテナ素子があれば、各アンテナ素子から個別にトレーニング信号を送信しなければ、アップリンクのチャネル行列を取得できず、端末側のアンテナ素子数の増加に伴うオーバヘッドは削減することができない。
端末側のアンテナ素子数が比較的少数の場合、例えば2本であれば偶数サブキャリアと奇数サブキャリアでそれぞれのアンテナがトレーニング信号を送信することにより、周波数軸上において2サブキャリア周期で独立してチャネル推定が可能である。この場合、その間のチャネル推定ができていないサブキャリアのチャネル情報を内挿補間で推定する。他にも直交化された複数のプリアンブル信号を用いることで効率的にチャネル推定を行うことは可能である。しかし、例えば16本や32本などの多素子のアンテナ素子を備える場合には、サブキャリア間隔が広がりすぎて内挿補間によるチャネル推定の精度が極端に低下してしまうという課題があり、効率的なチャネル推定及びそのフィードバックには限界が存在する。
更に、大規模アンテナを適用して回線利得を向上する場合においても、1素子のアンテナでは回線設計上では有効なチャネル推定ができるほどの高いSNR(信号雑音比)は期待できない。このため、例えばチャネル時変動がないことを前提とした長時間測定と平均化処理などが必要である。しかし、例えば列車ムービングセルの場合の様に時変動を伴う様なケースでは長時間平均化は採用することはできず、瞬時に必要な全てのパスのチャネル情報を取得する必要がある。一般のMIMOシステムでは、例えば送信側にN本のアンテナ素子を備える場合には、1OFDMシンボルのトレーニング信号をNシンボル利用してチャネル推定を行ったりしていた。しかし、上述の様に送受信局共に多数のアンテナ素子を備える場合には、N本のチャネル推定の間にチャネルが時変動する恐れがある。このため、可能な限り短時間で必要なチャネル情報を取得し終わるチャネル推定方法が必要となる。
ここで、上述の第1特異値に対する仮想的伝送路を積極的に利用する場合には、端末装置のアンテナ群及び基地局装置の各第1の信号処理部のアンテナ群は非常に狭い領域に集中して配置されている。このため、その微妙な位置のずれによりチャネル情報は微小に変化する。しかし、見通し波成分のみに着目するならば、その変化はチャネルベクトルの各成分の間の規則性を保った形で変化することが期待される。例えば、送信側であるアンテナ素子から送信した際の信号を受信側のアンテナ群で受信した場合、信号の経路長差に依存してチャネル情報は変化する。このため、この規則性がどの様なものであるかを「見通し波」のみを考慮した伝搬モデル上で取得し、その規則性を積極的に利用することでチャネル推定を効率的に実施することができる。以下では、このチャネル推定を効率的に実施する方法について説明する。
図51は、複数のアンテナ素子で受信した受信信号の概要を示す図である。この図において、符号221−1〜5はアンテナ素子であり、アンテナ素子221−1〜5が角度θ方向でアンテナ素子221−1から距離L離れた地点にある別のアンテナ素子(本図では図示していない)からの信号を受信する場合の状況を示している。ここで、第mアンテナ素子221−mでの時刻tの受信信号をΦm(t)として表している。角度θ方向からの到来波の第1アンテナ素子221−1の、送信アンテナからの距離をLとして、平面波近似を行った場合、波面は点線で示したラインとなる。
したがって、第1アンテナ素子221−1と第mアンテナ素子221−mの到来距離の差分は図に示す様にΔLmとなる。アンテナ素子間隔がdであれば、第mと第m+1アンテナ素子の経路差はd・sinθである。ただし、ここではリニアアレー以外の配置の場合も含めて一般化するためにΔLmを用いて第1アンテナ素子221−1を基準に経路長差を規定している。ここで、第mアンテナ素子221−mの受信信号を第kサブキャリアφm (k)(t)に分けて表現すれば、第mアンテナ素子221−mでの時刻tの受信信号Φm(t)はサブキャリア成分の総和として下記の式(61)で表すことができる。
ここで、時刻tにおける送信信号成分をSk(t)で表せば、中心周波数fcに対し無線周波数fc+fkの受信信号は以下の式(62)で表すことができる。
ここで、cm (k)は第kサブキャリアにおいて第1アンテナ素子221−1での受信信号を基準とする際の第mアンテナ素子221−mでの受信信号の係数(相対チャネル情報)であり、下記の式(63)で与えられる。
ここでαmは第mアンテナ素子221−mに関する定数であり、下記の関係式(式(64))で定義される。
式(63)の右辺は二つの自然対数のべき乗の積で表記されているが、その前者はサブキャリアごとに周波数依存性のない定数で、アンテナ素子ごとに異なる値を取る一方、後者は周波数依存性を示す。Wが周波数帯域幅であることを考慮するとx=fk/Wとすれば、αmが1よりも小さい時に、xが−1/2から+1/2の間の値で変化するときに複素位相が2παmxで直線的に変化する。この複素位相が直線的に変化する特徴を利用すれば、全てのサブキャリアにおいて受信ウエイトを算出しなくても、何点かサブキャリアを定めて複素位相成分の線形補間を行えば全サブキャリアでの受信ウエイトを算出することが可能となる。
なお、上述の説明では式(63)の右辺は絶対値が1の複素数となっているが、現実の測定結果では雑音や反射波の影響で厳密には絶対値が1の複素数とはならない。その様な場合には、観測されたcm (k)をcm (k)/|cm (k)|で規格化した値に置換して下記の処理を施すこととする。また、この様にして規格化されたチャネル情報の複素共役値を用いて受信ウエイトを算出する場合には、そのウエイトは最大比合成ではなく等利得合成のウエイトとして求まることになるが、ここでは見通し波が支配的な環境を想定しているために、等利得合成と最大比合成で特性に大きな差がないことが期待される。
図52は、限定的なサブキャリアによるチャネル推定の概要を示す図である。この図においては、周波数帯域幅Wの中でfA〜fDの4つのサブキャリアに対し第mアンテナ素子に対してチャネル推定を行い、測定により得られた規格化された相対チャネル情報cm (fk)に対し、自然対数(自然対数の底eを用いた対数)を取った値を2πjで除算した値をYm(fk)とする(式(65))。
式(65)を参照すれば、fk/Wをx、Ym(fk)をyとしてグラフにプロットすると、−1/2〜+1/2の間のxに対し、図52の右図の様に直線的にy=ax+bの直線上近傍に観測されたYm(fk)がプロットされることになる。したがって最小二乗法でこの直線のフィッティングを行えばチャネル情報の周波数依存性を取得することができる。従来からトレーニング信号を送信するサブキャリアを歯抜けにしてチャネル推定を行う技術はあった。しかし、それらは全帯域内でのチャネル情報の周波数依存性に関する情報がなかったため、観測された2点のサブキャリア間での直線的な内挿補間や、その2点の前後の周波数依存性を考慮して、非線形の内挿補間を行うなどの処理に限定されていた。本実施形態は、見通し波成分のみに着目する場合には全周波数帯域で複素位相的には直線的な周波数依存性を示すことを活用し、全帯域に渡りその周波数依存性を活用した線形補間を行うものである。ただし、ここで注意すべき点としては、複素数の自然対数を取る際に、eのべき乗部分に2πjの整数倍が加算されてもYm(fk)は同じ値となるため、その部分の補正を行わなければならない点が挙げられる。
例えば図52に示す例では、最小二乗法は回帰直線と4つの点(fA/W,Ym(fA))、(fB/W,Ym(fB))、(fC/W,Ym(fC))、(fD/W,Ym(fD))に対して実施する。また、これだけでなく、例えばそれぞれが±1及び0のいずれかのオフセット値で与えられるηA、ηB、ηC、ηDに対し、回帰直線と4つの点(fA/W,Ym(fA)+ηA)、(fB/W,Ym(fB)+ηB)、(fC/W,Ym(fC)+ηC)、(fD/W,Ym(fD)+ηD)との間で最小二乗法を実施してそれぞれのオフセット値の組み合わせごとにa,bを算出し、その中で下記の式(66)を最小にするa,bの組み合わせを真の回帰直線と見なせばよい。
なお、ここでは4つの各サブキャリアにおいてオフセット値が−1、0、+1の値を取りえるので、これらすべての組み合わせとして34=81通りの最小二乗法を実施することになる。この様にして得られたa,bを用いて任意の周波数fkに対し、下記の式(67)のチャネル情報を算出し、この複素共役として受信ウエイトを算出すればよい。
若干補足しておくと、この回帰直線の傾きである係数aは、式(64)のαmに相当する物理量である。これが例えば1よりも十分に小さい値であれば、y=ax+bの直線はxが−1/2から1/2の間で変化したときにyの変化は1よりも十分小さく、雑音や反射波の影響を考慮してもオフセット量は±1の範囲で十分であると考えられる。しかし、ΔLmの値がある程度大きくなるとyの変化は1を超える様になり、この様な場合には例えば0、±1、±2・・・などの選択の範囲を拡張することで対応可能となる。
逆にΔLmの値がある程度小さくなる場合には、例えばfB/Wで観測されるYm(fB)と、その前後のfA/W及びfC/Wで観測されるYm(fA)、Ym(fC)はそれほど大きな差がつく訳ではない。この場合には|Ym(fA)−Ym(fB)+ηB|及び|Ym(fC)−Ym(fB)+ηB|の両方の値が所定の値(例えば0.5や0.3などの1より小さな値)より大きくなる様なオフセット量ηBは、検討の対象外とすることも可能である。ここで、例えばYm(fA)、Ym(fD)などは両端の観測点なので、両端の観測点との比較の代わりに、一方のみと比較することとしても構わない。この様にすれば、オフセット量を考慮しながらも、検索の範囲を限定することが可能であり、個別の最小二乗法を行うことに伴う演算量の増大を抑えることが可能になる。
以上のチャネル推定ではある送信アンテナからはサブキャリアを限定してトレーニング信号を送信すればよいため、全サブキャリアに対してトレーニング信号を送信する場合に比べて、送信電力を少数のサブキャリアに注力することができる様になる。例えば、全サブキャリア数が1000であるとすると、4つのサブキャリアに注力すると全サブキャリアに送信する場合に比べて250倍の送信電力で送信することができ、したがって10Log250≒24[dB]の回線利得を稼ぐことができる。したがって、その分だけチャネル推定精度は改善されることになる。
更に、上述のサブキャリアfAからfDとは異なるサブキャリアのfA’からfD’の4つのサブキャリアを用いれば、異なるアンテナ素子に対して同様のチャネル推定を同時に実施することが可能である。例えば、送信側に仮に250素子のアンテナが備えられていたとしても、それぞれが4つのサブキャリアのみで送信するならば、全体で1000のサブキャリアがあれば足りることになる。すなわち、250本のアンテナ素子と、多数(例えば100素子)のアンテナ素子でMIMOチャネルが構成されていたとしても、1回のチャネル推定で全てのサブキャリアの250×100のMIMOチャネル行列のチャネル情報が取得可能となる。
ここで、仮に有効サブキャリア(データ通信で用いられるサブキャリア)数が4の倍数でない場合には、少なくともその端数の調整のための対応が必要である。例えば、あるアンテナ素子に関しては若干少なめの3サブキャリアのみを割り当てたトレーニング信号を一部で利用したり、ないしは一部の有効サブキャリアにはトレーニング信号の割り当てを行わずに調整したりしても良い。この辺はシステムパラメータ次第である。
ここで、例えば図16に示す様に、複数の第1の信号処理部304に複数のアンテナ素子を備えている場合を考える。各第1の信号処理部304に50本ずつのアンテナ素子が備えられ、更に5つの第1の信号処理部304−1〜5を備えていたとすれば、全体のアンテナ素子数は250本となる。上述の説明の様にこれらのアンテナを用いてダウンリンクにおけるチャネル情報を取得する場合、それらが全て一括で取得できることになる。また、第1特異値に対応する複数の仮想的伝送路を用いて空間多重を行う場合には、異なる第1の信号処理部304にまたがった送信指向性制御は行わないので、仮に第1の信号処理部304が10個備えられている場合には、同様の処理を第1から第5までの第1の信号処理部304と、第6から第10までの第1の信号処理部304との2回に分けてチャネル推定をすればよい。
重要なのは同一の第1の信号処理部304に関するアンテナ素子に関わるチャネル推定を同時に実施することであり、異なる第1の信号処理部304に属しているアンテナ素子同士では、一括してチャネル推定を実施する必要はない。ちなみに、サブキャリア数が2000ある場合には、4サブキャリア×50本アンテナ×(5セット+5セット)で2000となるため、2回に分ければチャネル推定は可能である。この様に、サブキャリア総数や一度のチャネル推定に用いるサブキャリア数などはシステム設計上のパラメータであり、その他の如何なる値でも同様に本実施形態は適用可能である。
ここで、送信側が複数のアンテナ素子を用いてチャネル推定を行う際の注意点を説明する。まず、上述の説明では式(63)に示した様に、受信側の複数のアンテナ素子の受信信号を基準となるアンテナ素子(ここでは第1アンテナ素子を想定)の受信信号で除算しており、すなわち、絶対的なチャネル情報ではなくあくまでも第1アンテナ素子を基準にしたチャネル情報の相対的な関係として相対チャネル情報を用いていた。これを明示的に示せば、上述の手順で得られる相対チャネル行列Hrelativeは、第kサブキャリアの第j送信アンテナと第i受信アンテナの間のチャネル情報の成分をhij (k)とするならば、下記の式(68)で与えられる。
相対チャネル行列Hrelativeの特徴は、第1行目の行ベクトルの各成分が1となっており、全て受信側の第1アンテナ素子を基準にした情報となっている点である。上述の最小二乗法で求めるサブキャリアごとの相対チャネル情報は全て第2アンテナ以降の受信アンテナに関するものであり、受信側の第1アンテナ素子に関するチャネル情報は上述の議論の外にある。勿論、Φ1(t)に関するサンプリング情報を取得しているので、1OFDMシンボルに渡りこの情報を基にFFT処理などを通して絶対チャネル情報を得ることができる。しかし、上述の説明の様に例えば送信側の第1アンテナから送信する信号はサブキャリアfAからfDにおける信号のみで、例えば別のサブキャリアfA’からfD’における信号は送信側の第2のアンテナから送信する信号になる。
すなわち、同一サブキャリアfAに関しては第1送信アンテナのチャネル情報しか取得できないし、サブキャリアfA’に関しては第2送信アンテナのチャネル情報しか取得できない。例えば偶数サブキャリアと奇数サブキャリアでアンテナ素子を変える場合、トレーニング信号が送信されていないサブキャリアのチャネル情報も線形補間で予測することはできるが、回線利得の不足を改善するために少数のサブキャリアにトレーニング信号を限定してしまうと、その間の線形補間は不可能になる。
しかし後述する様に、この行列を特異値分解する場合には、その左特異行列は式(68)の右辺の積の第2項の対角成分が如何なるものであっても、その影響を受けず同様の左特異行列を生じさせることになる。
この理由は以下の通りである。まず、ある行列の全成分に所定の係数を乗算した場合、その行列を特異値分解すると、全ての特異値にその所定の係数が乗算されるのみで、右特異行列も左特異行列も同じ値となる。次に、式(68)の右辺の第2項の各対角成分の1/h1j (k)は見通し波で且つアンテナ素子がそれぞれ近傍にあるために、その受信信号の振幅に当たる|h1j (k)|はほぼ等しい値となる。
すなわち、この行列全体に係数|h11 (k)|を乗算すると、式(68)の右辺の第2項の各対角成分は|h11 (k)|/h1j (k)となり、この対角項は全て絶対値が1で複素位相だけが異なる値となっている。この行列は任意の列ベクトル同士が直交していると共に、この行列の複素共役を取った行列の対角項は元の対角項の逆数となり、複素共役行列と元の行列を乗算した積が単位行列となっている。すなわち、これはユニタリー行列となっているため、式(68)の右辺の第1項の行列を特異値分解すると、左特異行列と特異値を対角項にもつ行列は共通で、右特異行列のみが上述のユニタリー行列で回転させられた右特異行列に変換させられた行列となるだけである。
式(68)の右辺の第1項の行列である全体のチャネル行列が分からなくても、受信のための受信ウエイトベクトル算出には相対チャネル行列Hrelativeが分かれば十分であるということになる。ちなみに、受信ウエイトベクトルが分かればキャリブレーション処理により送信ウエイトベクトルも取得可能であり、結果的に上述の手法でチャネル推定を行えば、そのトレーニング信号を受信した側では受信ウエイトベクトルも送信ウエイトベクトルも、その両方が取得可能であることを意味している。
この様に、上述の手法では例えばダウンリンクでチャネル推定を行うことで、端末局装置側の受信ウエイトベクトル及び送信ウエイトベクトル(ないしは、そのベクトルを組み合わせて形成したウエイト行列)を求めることが可能となったが、基地局装置側の受信ウエイトベクトル及び送信ウエイトベクトル(ないしは、そのベクトルを組み合わせて形成したウエイト行列)を求めるためには、端末局装置側から同様にトレーニング信号を送信し、アップリンクで同様の処理を行えばよいことになる。
(チャネル推定精度の向上のためのオプション機能)
なお、上述の方法を適用するシステムでは電波の到来方向が比較的狭い範囲に存在するケースをターゲットとしているため、指向性利得が高いアンテナ素子を利用することを想定している。この場合、見通し環境であれば見通し波が支配的となるために、上述の様にチャネル情報は周波数軸上で直線的な振る舞いを示すことが予想されるが、厳密には反射波の漏れ込みが若干予想されるため、その影響で周波数選択性歪により直線からずれた振る舞いを示す可能性がある。このずれの程度は反射波の電力の割合に依存するが、例えばたった4点のサブキャリアで回帰計算をするのでは精度が低くなる可能性がある。そこで、複数アンテナ素子のチャネル情報全体で包括的に回帰計算することを考える。
例えば、図51に示した様なリニアアレーを考えれば、第1アンテナ素子と第mアンテナ素子との経路長差ΔLmは下記の関係式(69)となることが想定される。
すなわち、式(64)においてαmは下記の関係式(70)で与えられる。
この場合、式(70)の拘束条件付きで全体のチャネル情報を取得すればよいことになる。なお、この拘束条件の適用の仕方には、幾つかのバリエーションが考えられる。例えば、全アンテナで個別に上述の最小二乗法によりa,bを求め、この直線の傾きaはαmに一致するので2以上のmに対してa/(m−1)を演算してその平均値を求め、2以上のmに対する式(70)のα2の平均値^α2を求める。次に、第mアンテナに関しては(m−1)×^α2をaに代入し、その傾きにおけるY切片を最小二乗法でアンテナ素子ごとに求めてもよい。
その他の方法としては、例えば以下の方法がある。電波の到来方向の角度θとアンテナ素子間隔dが得られた場合、α2はd・sinθ×W/cで概ねの値が推定できるため、その近傍の複数の値を試験用のα2値として与え、a=αm(すなわち回帰直線の傾き)を(m−1)×α2で与え、そのaを利用してアンテナごとに上述の様にオフセット値ηkを導入した最小二乗法で第mアンテナのY切片の値bm及びその際に利用したオフセット値群{ηk}を合わせて求め、このα2とそれに対応した{bm}{ηk}を用いて下記の式(71)で与えられるF(α2,{bm},{ηk})を算出する。
ここで、kに対する総和のΣは各アンテナ素子で用いたサブキャリアのみに対する総和を、ηkは第mアンテナで用いた第kサブキャリアのオフセット値を意味する。この様なα2に対するF(α2,{bm},{ηk})の中で、F(α2,{bm},{ηk})が最小となるときのα2と、その際のY切片のセット{bm}を用いて、各アンテナ素子の各サブキャリアのチャネル情報を取得することが可能となる。
ここで補足であるが、このY切片の値は本来はfcΔLm/cで与えられるため、アンテナ番号mに対して式(69)の周期性を持つはずである。しかし、例えば中心周波数が80GHzの場合を考えると、光速3×108で除算しても、fc/cは267程度となりΔLmの値が3.35mmとなると複素位相が1周回ってしまうことになる。fcΔLm/c+ηの様に2πを超えたことで折り返しのオフセットが付与された状態で観測されることになり、しかもそのオフセット値ηが比較的大きな値となり得るため、式(70)の様な比例関係が把握できなくなる。
したがって、アンテナ素子ごとの回帰直線のbの値に設定する式(70)の様な拘束条件は簡易な形式では表現できず、それぞれが独立なY切片の値として評価すべき関係にある。これが、この問題の厳密解の算出を困難にする理由である。ただ、この様な効果を考慮した上で上述の最小二乗法の精度を高める工夫を施して取得したチャネル情報を用いて受信ウエイトベクトルを算出すれば、本実施形態を高精度で適用することが可能である。
なお、上述の説明の例では4つのサブキャリアを利用する場合について例を示したが、当然ながら4以外のサブキャリア数であっても構わない。ここで利用するサブキャリア数が少ないと、最小二乗法の精度は落ちることになるが、逆にサブキャリア数を多くするとサブキャリア当たりの送信電力が減少するため、チャネル推定のSNRが低下して推定精度が劣化する。最小二乗法の回帰直線の傾きaに関しては複数の受信アンテナを併用して補正を行うことにより精度を高めることは可能であるが、Y切片のbに関しては上述の手法では精度を高めることができない。このため、実際のシステム設計ではこれらのバランスを取る形でチャネル推定に用いるサブキャリア数の最適化が図られることになる。
また、上述の説明では1回のトレーニング信号の送信によるチャネル推定の説明を行ったが、式(63)から明らかな様に基準のアンテナ素子との相対チャネル情報を取得する場合には、異なるサブキャリアにおけるチャネル推定を同一時刻に行わなければならない必然性はない。例えば、サブキャリアfAからfDのみに対してチャネル推定を行った後、時刻を変えてで別のサブキャリアfA’からfD’についてもチャネル推定を行えば、8つのサブキャリアに対して情報の取得を行うことが可能となる。これらの処理を繰り返し行えば、より多くのサブキャリアを用いることで回帰直線のフィッティングの精度を高めることが可能である。
(完全なチャネル行列の取得方法に関する補足)
上述の説明では、例えばダウンリンクであれば端末局装置単独で、端末局装置側の受信ウエイト及び送信ウエイトを算出する場合を想定して式(68)の右辺の第2項の行列の各成分は不定としていた。しかし、仮に固定設置の無線エントランスや列車ムービングセルに適用する場合には、ダウンリンクで取得した情報とアップリンクで取得した情報とを集約し、両者を把握した上で処理を実施することが可能である。
例えば式(68)がダウンリンクの情報であるとすれば、アップリンクで求めた相対チャネル行列Hrelativeの第1列ベクトルの成分をキャリブレーション処理する。このキャリブレーション処理により換算されたダウンリンクの第kサブキャリアの第j送信アンテナと第i受信アンテナの間のチャネル情報の成分をh’ij (k)とすれば、アップリンクに対する上述の処理によりh’12 (k)/h’11 (k)、h’13 (k)/h’11 (k)、・・・、h’1M (k)/h’11 (k)が求まることになる。ダウンリンクの相対チャネル行列Hrelativeの各成分に係数h’11 (k)を乗算すると、右辺の第2項の行列の第(j,j)対角成分はh’11 (k)/h1j (k)となる。これがh’11 (k)/h’1j (k)で近似可能とすると、それはアップリンクに対して求めたh’12 (k)/h’11 (k)、h’13 (k)/h’11 (k)、・・・、h’1M (k)/h’11 (k)の逆数に相当する。したがって、この情報を用いることで全てのチャネル情報を求めることが可能となる。
なお、補足であるが上述のチャネル推定の近似解法は、見通し波のみが支配的である条件を利用したチャネル推定方法であり、当然ながらその単独のMIMOチャネル行列の中では第1特異値の絶対値に対して第2特異値以下の特異値の絶対値は非常に小さな値となることが予想される。したがって、そのMIMOチャネルそのもので複数の信号系列を空間多重するには適さないものとなっている。しかし、異なるアンテナ群を複数用いて第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統、パラレルに利用するならば、効率的な空間多重伝送は可能である。この様な用途で利用するのであれば、この様なチャネル推定の近似解法は有効に機能することになる。
更に、「チャネル推定精度の向上のためのオプション機能」に関しては受信側のアンテナ素子がリニアアレー状に配置されている場合を利用して、そのアンテナ素子ごとの経路長差の規則性を意識した精度向上のための信号処理を説明した。その前段の技術に関して、経路長差は一般のΔLmとして説明した通り、そのアンテナ素子の配置に関して何ら制約を加えていない。あくまでも見通し波成分が支配的であることのみを前提とした議論であるため、オフセット値ηkの範囲を多少拡張することを許容すれば、アンテナ素子の間隔が多少広かったとしてもこの技術は適用可能である。特にアンテナ素子間隔が広がると、相対チャネル行列Hrelativeの列ベクトルないしは行ベクトル同士は、相互に内積値の絶対値は比較的高いままだが、その各成分は殆ど不規則に変化する。しかし、適用条件としてアンテナ構成や配置に関する制約を特に強く限定してはいないため、見通し波が支配的な状況であれば広い条件で本実施形態は適用可能である。
(見通し波が支配的な場合のチャネル行列取得の近似解法の処理フロー)
以下にチャネル行列取得の近似解法の処理動作を図を用いて説明する。ここではアップリンクとダウンリンクの区別は特に行わず、基地局装置と端末局装置のいずれかがチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、他方がそのトレーニング信号を受信してチャネル行列を取得する。片方向でチャネル行列を取得した後に、同様の処理を逆方向で行えば、双方向のチャネル行列を取得することが可能である。第1特異値に対応する仮想的伝送路での送受信を行う際には、必ずしも完全なチャネル行列は必要ではなく、式(68)の様な相対チャネル行列Hrelativeが取得できればよいので、まずは相対チャネル行列の取得方法から説明する。また、説明の便宜上、ダウンリンクでトレーニング信号を送信する場合を例に取り説明を行う。
次に、図53を参照して、本実施形態におけるチャネル行列取得の近似解法の処理動作を説明する。図53は、本実施形態におけるチャネル行列取得の近似解法の処理動作を示すフローチャートである。まず、基地局装置がトレーニング信号を送信すると(ステップS5301)、端末局装置は各アンテナ素子でトレーニング信号を受信する(ステップS5302)。ここでの受信は、信号をローノイズアンプで増幅し、ミキサにて無線周波数からベースバンドの信号にダウンコンバートし、フィルタにて帯域外の信号成分を除去し、A/D変換によりサンプリングする。この信号にFFT処理を施して周波数軸上の信号に変換する。
ここでのトレーニング信号は、サブキャリア当たりの送信電力を高めるために周波数軸上では特定のサブキャリアのみに送信信号が存在するトレーニング信号となっており、端末局装置は、その不連続なサブキャリアの中で信号成分が含まれるサブキャリアを抜き出して、当該サブキャリアのチャネル推定結果とする(ステップS5303)。そして、端末局装置は、この結果を基準となるアンテナの同様のチャネル推定結果で除算して式(63)のcm(k)を取得する(ステップS5304)。
次に、端末局装置は、式(65)によりYm(fk)を求め(ステップS5305)、オフセット値ηkを考慮した最小二乗法により式(66)を最小化するa,bを算出する(ステップS5306)。続いて、端末局装置は、ここで得られたa,bを基に式(67)に代入して各サブキャリアのチャネル推定を実施し(ステップS5307)、更にキャリブレーションを実施して双方向の相対チャネル行列を求め(ステップS5308)、これを相対チャネル行列として記録管理する(ステップS5309)。
一方、実効的にはチャネル行列を記録管理するよりも送受信ウエイトベクトルの記録管理が重要であり、その場合に端末局装置は式(67)で各サブキャリアのチャネル推定結果を得た後、特異値分解を実施し、第1左特異ベクトルとして受信ウエイトベクトルを取得する(ステップS5310)。次に、端末局装置は、この受信ウエイトベクトルにキャリブレーション処理を施して(ステップS5311)、送信ウエイトベクトルを取得する。そして、端末局装置は、この様にして取得された送受信ウエイトベクトルを記録管理する(ステップS5312)。
以上は単一のアンテナ素子に閉じてチャネル推定を行う場合であるが、上述の様に複数アンテナ素子を考慮して推定精度の向上を図ることも可能である。図54は、複数アンテナを用いたチャネル行列の近似解法の処理動作を示すフローチャートである。図53に示す処理動作と同様に端末局装置において各アンテナ素子でトレーニング信号を受信すると、所定の受信処理を行い(ステップS5401−1〜S5401−3)、不連続なサブキャリアの中で信号成分が含まれるサブキャリアに関して抜き出して、当該サブキャリアのチャネル推定結果とする(ステップS5402−1〜S5402−3)。続いて、端末局装置は、この結果を、基準となるアンテナの同様のチャネル推定結果で除算して式(63)のcm(k)を取得し(ステップS5403−1〜S5403−2)、式(65)により各アンテナ素子でYm(fk)を求める(ステップS5404−1〜5404−2)。
ここで、端末局装置は、例えばα2の値を所定の刻み幅で設定し、第mアンテナ素子のYm(fk)に対してa=(m−1)α2として回帰直線の傾斜を固定し、オフセット値を考慮して最小二乗法でbを求め、式(66)のF(α2,{bm},{ηk})を最小にするα2を求め(ステップS5405)、そのα2を用いて各アンテナ素子でオフセット値を考慮した最小二乗法を式(71)を用いて実施し(ステップS5406)、ここで得られたa,bを基に式(67)に代入して各サブキャリアのチャネル推定値を実施し(ステップS5407)、更にキャリブレーションを実施して(ステップS5408)、双方向の相対チャネル行列を求め、これを記録管理する(ステップS5409)。
一方、実効的にはチャネル行列を記録管理するよりも送受信ウエイトベクトルの記録管理が重要であり、その場合に端末局装置は式(67)で各サブキャリアのチャネル推定結果を得た後、特異値分解を実施し、第1左特異ベクトルとして受信ウエイトベクトルを取得する(ステップS5410)。次に、端末局装置は、この受信ウエイトベクトルにキャリブレーション処理を施して(ステップS5411)、送信ウエイトベクトルを取得する。そして、端末局装置は、この様にして取得された送受信ウエイトベクトルを記録管理する(ステップS5412)。
次に、図55を参照して、双方向のチャネル推定結果からチャネル行列の近似解を求める処理動作を説明する。図55は、双方向のチャネル推定結果からチャネル行列の近似解を求める処理動作を示すフローチャートである。まず、ダウンリンクについて説明する。基地局装置がトレーニング信号を送信すると(ステップS5501)、端末局装置は各アンテナ素子でトレーニング信号を受信する(ステップS5502)。
ここでのトレーニング信号は、サブキャリア当たりの送信電力を高めるために周波数軸上では特定のサブキャリアのみに送信信号が存在するトレーニング信号となっており、端末局装置は、その不連続なサブキャリアの中で信号成分が含まれるサブキャリアを抜き出して、当該サブキャリアのチャネル推定結果とする(ステップS5503)。そして、端末局装置は、この結果を基準となるアンテナの同様のチャネル推定結果で除算して式(63)のcm(k)を取得する(ステップS5504)。
次に、端末局装置は、式(65)によりYm(fk)を求め(ステップS5505)、オフセット値ηkを考慮した最小二乗法により式(66)を最小化するa,bを算出する(ステップS5506)。続いて、端末局装置は、ここで得られたa,bを基に式(67)に代入して各サブキャリアのチャネル推定を実施する(ステップS5507)。
次に、アップリンクについて説明する。端末局装置がトレーニング信号を送信すると(ステップS5508)、基地局装置は各アンテナ素子でトレーニング信号を受信する(ステップS5509)。
ここでのトレーニング信号は、サブキャリア当たりの送信電力を高めるために周波数軸上では歯抜けのトレーニング信号となっており、基地局装置は、その不連続なサブキャリアの中で信号成分が含まれるサブキャリアに関して抜き出して、当該サブキャリアのチャネル推定結果とする(ステップS5510)。そして、基地局装置は、この結果を基準となるアンテナの同様のチャネル推定結果で除算して式(63)のcm(k)を取得する(ステップS5511)。
次に、基地局装置は、式(65)によりYm(fk)を求め(ステップS5512)、オフセット値ηkを考慮した最小二乗法により式(66)を最小化するa,bを算出する(ステップS5513)。続いて、基地局装置は、ここで得られたa,bを基に式(67)に代入して各サブキャリアのチャネル推定を実施する(ステップS5514)。
次に、式(68)によりアップリンクとダウンリンクの相対チャネル行列から絶対的チャネル行列を算出する(ステップS5515)。そして、キャリブレーションを実施し(ステップS5516)、これを双方向のチャネル行列として記録管理する(ステップS5517)。
ここでステップS5516のキャリブレーション処理であるが、基本的にはステップS5502からステップS5507の処理、及びステップS5509からステップS5516の個別の処理により、式(68)の第1行目の行ベクトル成分の不定性(チャネル情報の相対的な関係)以外は取得できる。このため、ステップS5515でそれぞれの情報を突き合わせてアップリングとダウンリンクの双方向の第1行目の行ベクトル成分の不定性を補ってやれば、キャリブレーションを行わずとも(すなわちステップS5516を省略する)双方向のチャネル行列を取得することも可能である。
この様に、上述の説明は相対チャネル行列を求めるための手順であったが、アップリンクとダウンリンクの双方向の情報が分かれば、相対チャネル行列のみならず、絶対的な値としてチャネル行列を求めることができる。上述の説明と同様に各アンテナ素子でトレーニング信号を受信後、所定の処理により式(67)で各サブキャリアのチャネル推定を実施する。これをダウンリンクの端末局装置側と、アップリンクの基地局装置側で別々に取得する。取得された結果を両方集め、(h11 (k)/h11 (k),h12 (k)/h11 (k),h13 (k)/h11 (k),・・・,h1M (k)/h11 (k))を対角成分とする行列を相対チャネル行列の右から乗算することで式(68)の右辺の第1項目の行列に1/h11 (k)を乗算した絶対的なチャネル行列を取得することができる。これにキャリブレーション処理を施せば、双方向のチャネル行列が取得でき、これを記録管理する。
以上説明した様に、見通し環境で且つアンテナ素子間隔が狭い場合には、チャネル情報に周波数依存性がある場合でも、相対チャネル情報の複素位相的には直線的な周波数依存性を示すことが期待できる。また、トレーニング信号に用いるサブキャリアを限定し、サブキャリア当たりの送信電力を高めて送信することで、指向性形成前のチャネル推定精度を向上させることが可能である。これらの特徴を利用し、少ないサブキャリアでチャネル推定を行う一方、取得できていないサブキャリアのチャネル情報を最小二乗法的に推定することで、精度を保って推定する方法を提供することができる。更に、アンテナ素子ごとに異なるサブキャリアを利用すれば、複数のアンテナ素子から同時にトレーニング信号を送信することが可能であり、インプリシット・フィードバックでは解決できない複数の送信アンテナへの対応が可能となり、同時に複数のアンテナ素子ないしはアンテナ素子群に対して同時にチャネル情報のフィードバックを効率的に行うことが可能になる。
なお、実際のチャネルは反射波を含むのでチャネル情報は周波数軸上で直線とはならずに誤差を多く含むが、よりサンプル数が多いところで最小二乗法的な処理を行えば、見通し波成分の特徴を抽出することが可能であると期待される。
[第7の実施形態]
[複数の第1特異値に対応するウエイトベクトルの近似解法]
(第7の実施形態係る基本原理の概要)
通常のMIMO伝送の場合には、アンテナ素子間の相関低減を目的として、アンテナ素子間隔を可能な範囲で離すことが理想的とされていた。しかし、上述の様に第1特異値に対応する仮想的伝送路を積極的に利用するためには、寧ろアンテナ素子間隔を狭め、その相関を高めた方が良い。勿論、アンテナ素子間隔を1/2波長以下にしてしまうとアンテナ素子間の相互結合が無視できなくなるので、1/2波長程度の間隔を設定することは必要となるが、その程度の間隔を設定しているのであれば、アンテナの素子間隔を狭めて相関を高めることが理想的である。上述のチャネル推定の近似解法では、あまりアンテナ配置に関する制約を設けずに適用可能な方法を説明したが、これがアンテナの素子間隔を狭めて相関を高めた状態に限定するならば、これとは異なるより簡易な方法で、送受信ウエイトを算出することが可能になる。
ここで、チャネル行列のチャネル相関自体は大きいが、例えば第1送信アンテナと第1受信アンテナの間のチャネル情報と、送信が同じ第1アンテナで受信が第2アンテナのチャネル情報と比較したとき、その値同士は経路長差に起因して全く異なる値を示している場合が殆どである。特異値分解をするためにはチャネル相関が強いか弱いかに関わらず、全く同様の演算を余儀なくされるため、仮に第1特異値に関する右特異ベクトルないしは左特異ベクトルのみを求めるのであっても、その演算に要する負荷は同様に軽微なものではない。特にアンテナ素子数が膨大であるために行列サイズが膨大になり、簡易な演算での第1特異値に対応する右特異ベクトル及び左特異ベクトルの算出が必要とされている。
ここで、アンテナの相関が高いことを考慮して、以下の手法で第1特異値に対応する右特異ベクトル及び左特異ベクトルの近似解を求める。まず、受信ウエイトベクトルとして第1左特異ベクトルを用いる場合、各受信アンテナ素子の受信信号にそのウエイトベクトルを乗算することで、仮想的な1本のアンテナ素子を形成することになる。これは見通し波にチューンしたビームを形成することになるので、この受信アンテナ群から送信アンテナ群側に向けたビームとなっていることが予想される。送信側のアンテナ素子は少なくとも1/2波長程度以上の間隔をあけて設置されているため、厳密にはその広がりを考慮した形で特異値分解の第1右特異ベクトルは形成されることになるが、実質的には非常に狭いエリアに1本の仮想的アンテナ素子が配置された状態に近いため、これらの送信アンテナ群の重心付近に設置されている特定の1本のアンテナに向けた受信ウエイトベクトルで概ね近似できることが予想される。
そこで、送信アンテナ群の重心付近の特定の1本の送信アンテナ素子に向けた受信ウエイトベクトルを求め、送信側では特異値分解により求めた第1右特異ベクトルを用いて伝送した場合の利得と、送受信ウエイトベクトル共に第1特異値に対応した右及び左特異ベクトルを用いた場合を考える。まず一例として、送受信相互に31素子のアンテナにより、行列の第(i,j)成分が式(20)の見通し波モデルで与えられるチャネル行列を仮定する。式(4)の様に特異値分解したときの第1右特異ベクトルをv1、第1左特異ベクトルをu1とする。これらを基に送受信ウエイトベクトルを形成した際の利得は下記の式(72)で与えられる。
一方、送信アンテナ群の31素子の中心の第16素子と受信アンテナ群の間のSIMOチャネルベクトル(h1,16,h2,16,h3,16,・・・,h31,16)Tに対し、このエルミート共役ベクトルを規格化したベクトルを近似的に受信ウエイトベクトルwrx‐app.とする場合を考える(式(73))。
この場合の利得は以下に示す式(74)の通りである。
更に、片方向のみではなく双方向でアンテナ群の重心付近のアンテナ素子から限定的にトレーニング信号を送信して双方の受信ウエイトベクトルを求めると共に、そこからキャリブレーション処理により送信ウエイトベクトルを求める構成とすれば、送信ウエイトベクトルも受信ウエイトベクトルも同様のチャネル情報のフィードバックから送受信ウエイトベクトルの算出処理まで、極限的に簡略化することが可能になる。この際の利得は下記の式(75)で与えられる。
ここで、Grx‐app.−Gideal及びGapp.−Gidealの分布特性を評価した結果を図56に示す。評価条件はアンテナ31素子を1波長間隔であるxy2次元平面上にリニアアレーとしてy軸に平行に配置し、x軸方向に距離L[m]離した点を中心に、x軸方向に±5[m]、y軸方向に±5[m]の範囲で一様な乱数で設置地点を定めてその利得差のCDF分布を評価した。パラメータとしては、周波数は20GHz、x方向の距離Lは20m、30m、及び100mの場合を評価している。
これらの結果を見ると、近似ウエイトベクトルを用いる場合と特異値分解による理想的ウエイトベクトルを用いる場合で殆ど差がなく、送受信局間の距離が近いほど利得のギャップは大きくはなるが、距離が20mであっても利得差は0.25dB以下に収まっていることが分かる。すなわち本実施形態では、第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いた信号伝送を行う場合において、この手法で基地局装置及び端末局装置の双方で受信ウエイトベクトルwrx‐app.を求めると共に、これにキャリブレーション処理を行い送信ウエイトベクトルwtx‐app.を求めて信号送受信を行うことにより、殆ど特異値分解で求めた最適送受信ウエイトベクトルを用いる場合と遜色のない通信を行うことができる。なお、ここでは周波数として20GHz帯を例にとって説明したが、80GHz帯など更に高い周波数となった場合には、波長が短くなることでアンテナ素子間隔を短縮可能になり、物理的にほぼ1点に近いところにアンテナが配置されるために、更に近似精度が高まり利得のギャップが無視可能になる。
(複数の第1特異値に対応するウエイトベクトルの近似解法のオプション)
以上は簡易なウエイトベクトル算出法の基本原理であるが、このままでは若干の課題が残る。例えば、上述の様に大規模なアンテナを用いることで回線設計上の利得を稼ぐ場合には、1本アンテナ対1本アンテナのチャネル推定の精度はあまり高いものとは言えない。そこで、「見通し波が支配的な場合のチャネル行列取得の近似解法」(第6の実施形態)で用いた技術と同様に、チャネル推定に用いるサブキャリア数を大幅に限定し、そこでサブキャリア当たりの送信電力を高めてそのサブキャリアに対するチャネル推定精度を向上させることを適用する。更に、アンテナ素子間額が狭いことを利用すると、チャネル推定においてトレーニング信号を送信する送信アンテナがアンテナ群の重心付近から若干離れていても、かなり良い精度でのチャネル推定を維持することが可能になる。
例えば、図56と同様の評価を行う際に、重心付近のアンテナを用いずに、重心から少し離れたアンテナ素子を利用して送受信ウエイトベクトルを求めることを考える。一例として、1/2波長間隔で61素子をリニアアレー状に図56の評価と同様に配置し、重心に相当する第31アンテナ素子を利用した送受信ウエイトベクトルを用いる場合、15素子離れた第46アンテナ素子を用いる場合、リニアアレーの端にある第61アンテナ素子を用いる場合の利得を、送受信共に特異値分解を用いた理想的送受信ウエイトを用いた場合からの劣化量として評価する。
図57は、重心から離れたアンテナを用いた送受信ウエイトベクトル近似解における利得特性を示す図である。図から分かる様に、周波数20GHz、距離20mとかなり条件的には厳しい状況であっても、利得のギャップの中央値(CDF50%値)は第46アンテナ素子で0.5dB、第61アンテナ素子でも0.8dBである。この程度の利得の低下を許容すれば、全アンテナ61素子を用いて、それぞれが異なるサブキャリアのトレーニング信号を送信し、いずれかのアンテナ素子でトレーニング信号が送信された全ての周波数成分のトレーニング信号受信側の局における送受信ウエイトベクトルが簡易に求まることになる。
例えば、各アンテナ素子から4サブキャリアのトレーニング信号を送信し、アンテナ素子数が例えば64素子であるとすれば、256個のサブキャリアについて同時にチャネル推定を実施することが可能になる。上述の例では簡単のためにリニアアレーを例にして説明を行ったが、1/2波長間隔の正方格子状の16×16の正方アレーアンテナ(計256素子)を用いれば、上述の図57と同程度の特性が期待されるため、256素子を同時に用いれば1024個のサブキャリアを一度にチャネル推定することが可能になる。
ここで仮にアップリンクを想定すると、端末局装置側にはそれほど多くのアンテナ素子を配置できない場合があるが、その場合でも「見通し波が支配的な場合のチャネル行列取得の近似解法」で説明した様に送受信ウエイトベクトルのベクトルの各成分(個別のアンテナ素子に対応)のサブキャリア間のウエイト値は複素位相的には緩やかな変動を示すことが分かっており、横軸にサブキャリア、縦軸に複素位相のグラフ上で見た場合、2π周期の折り返しも考慮してオフセット値の補正を行えば、全帯域内でウエイト値が直線的な緩やかな変化に収まっているとみなし、算出されたウエイト値の複素位相を−πから+πの範囲の外に拡張しながら線形補間することで取得できていないサブキャリアのウエイト値を取得することも可能である。なおこの場合、チャネル情報は基準アンテナの複素位相を基準とした相対チャネル情報を用い、その相対チャネル情報から受信ウエイトを求めることが好ましい。
ここで、全体アンテナの中の重心付近のアンテナ素子の利用の例について図58を参照して説明する。図58はリニアアレーを用いる場合のトレーニング信号の送信に用いるアンテナ素子の例を示す図である。この図においては、31素子のリニアアレーの場合を例に取り、その重心アンテナは真ん中の第16アンテナとなる(図では2重の丸で示している)。基本となるのは図58(a)の様に重心のアンテナ素子である第16素子のみをトレーニング信号の送信に用いるのだが、これではサブキャリア当たりの送信電力を向上するためにトレーニング信号の送信に用いるサブキャリアを制限すると、チャネル情報を取得可能なサブキャリアの数が減ってしまい、その間のチャネル情報の補間の精度が落ちてしまう。そこで、例えば図58(b)の様に重心±5素子内の範囲でトレーニング信号の送信を行ったり、図58(c)の様に±10素子内の範囲でトレーニング信号の送信を行ってもよい。図57に示した様に、チャネル推定精度に問題がなければ、図58(d)の様に全ての素子をトレーニング信号の送信に用いることも可能である。
次に、図59は最密充填状の2次元アンテナ配置を用いる場合のトレーニング信号の送信に用いるアンテナ素子の例を示す図である。この図においては、37素子の2次元アレーの場合を例に取り、説明の都合上a〜z、A〜Kの記号を振っている。その重心アンテナは真ん中の第aアンテナとなる(図59では2重の丸で示している)。基本となるのは図59(a)の様に重心のアンテナ素子であるので第a素子のみをトレーニング信号の送信に用いるのだが、これではサブキャリア当たりの送信電力を向上するためにトレーニング信号の送信に用いるサブキャリアを制限すると、チャネル情報を取得可能なサブキャリアの数が減ってしまい、その間のチャネル情報の補間の精度が落ちてしまう。そこで、例えば図59(b)の様に第a素子に加えて第b〜s素子の範囲(図59では黒塗りの丸で示している)でトレーニング信号の送信を行い、残りの第t〜K素子のアンテナは、通信には用いるがチャネルフィードバックには用いない。ないしは、これらすべてのアンテナ素子をトレーニング信号の送信とデータ通信の双方で用いる構成であってもよい。
同様の考え方は、トレーニング信号の送信に利用可能なアンテナ素子数が少ない場合にも適用できる。例えば何らかの理由で1次元のリニアアレーを送受信に用いる場合に、トレーニング信号の送信には図58(b)に示す様な重心付近のアンテナ素子しかチャネル推定精度的には利用できないのだが、重心付近に別途、トレーニング信号送信のみに用いるアンテナ素子を追加して運用することも可能である。図60はリニアアレーの重心付近にトレーニング信号送信用のアンテナ素子を追加する場合の例を示す図である。この図に示す様にアンテナ素子E、D、C、B、A、z、r、g、a、d、l、t、u、v、w、x、yはリニアアレーを構成している。重心は第a素子であり、この素子の中心に最密充填状に第a〜s素子が配置されている。リニアアレーから外れるアンテナ素子b、c、e、f、h、i、j、k、m、n、o、p、q、sはデータ通信には用いないのだが、チャネル推定を行うためには第a〜s素子を用いてトレーニング信号を送信する。
これは一例であり、例えば図59の様に最密充填状の2次元アンテナ配置を用いる場合にも、基本は5波長間隔で最密充填を行いながら、トレーニング信号は第a素子の周りに1/2波長間隔で最密充填状にアンテナ素子を集中的に配置して利用するという構成であっても構わない。この様にアンテナ素子の密度を重心付近で高め、トレーニング信号の送信はその重心付近のアンテナ素子のみを用いて送信しても構わない。また、図60の説明ではリニアアレーから外れるアンテナ素子b、c、e、f、h、i、j、k、m、n、o、p、q、sはデータ通信には用いないとしていたが、これらのアンテナ素子をデータ通信に用いてもに全く問題はない。
図61は、近似ウエイト値の線形補間の具体例を示す図である。グラフの横軸はサブキャリアを、縦軸はウエイト値の複素位相を表す。例えば、8サブキャリア間隔でf1、f9、f16、f25のウエイト値がそれぞれプロット点291〜294の様に取得できているとする。この複素位相はπから+πの範囲となる様に与えられているため、例えばプロット点291〜295を基に線形補間すると、f25のウエイト値の複素位相は+πを超えてしまい、実際の観測されたプロット点294は−π近辺の値となっている。しかし、サブキャリアがf16からf25に変化する際に複素位相が−2π近く変化することはあり得ないため、必然的にプロット点294に+2πのオフセットを加えたプロット点295が実際の複素位相と考えることができる。
この様にしてオフセットを加えて補正された複素位相値を用いれば、線形補間でその間の複素位相を求めることも可能である。例えば、サブキャリアf2〜f8に関しては、プロット点291とプロット点292の間を直線で結び内挿補間することも可能である。同様に、プロット点291〜293及びプロット点295を用いて最小二乗法を適用すれば、線形の回帰直線を求めることができるので、その回帰直線で各サブキャリアのウエイト値を与えてもよい。この際、取得済みのサブキャリアf1、f9、f16、f25のウエイト値をそのまま用いることも可能であるが、一方でそのまま用いずに、線形補間した予測値で置き換えてこれらのサブキャリアのウエイト値を与えると、雑音等の推定誤差成分を抑圧できる場合もある。更には、近傍のサブキャリアのウエイト値から2πのオフセットも考慮した上での変化量が、他のプロット点に加えて極端に大きな(例えば変化量が±π/2以上)プロット点は、推定精度が低いものとして線形補間から除外して精度を高めることも可能である。
次に、図62を参照して、基地局装置又は端末局装置が行う近似ウエイト値の線形補間における複素位相オフセットの判定処理の動作を説明する。図62は、近似ウエイト値の線形補間における複素位相オフセットの判定処理の動作を示すフローチャートである。ここでは、図62に示す処理動作を基地局装置が行うものとして説明する。ある程度チャネル推定に用いるサブキャリア数が確保できる場合(複数のアンテナ素子からトレーニング信号を送信する場合を含む)には、チャネル推定が実施されるサブキャリアの間隔は比較的狭くできるので、この場合には近接するサブキャリアのチャネル推定結果の複素位相の差は十分に小さいものと考えられる。
そこで、基地局装置は、離散的サブキャリアでチャネル推定を実施した後、複素位相情報補間のために送受信ウエイトベクトル(ないしはチャネルベクトルやチャネル行列)の各成分を読み出す(ステップS6201)。そして、基地局装置は、連続するサブキャリアのウエイト値WkとWk’を読み出す(ステップS6202)。このとき、ベクトルないし行列ごとに、取得されたチャネル情報の例えばサブキャリア番号の小さい方から順番に読み出す。そして、基地局装置は、取得された中で連続するサブキャリアのWkとWk’(離散的であるので、kとk’が隣接しているとは限らない)の複素位相θ(Wk)とθ(Wk’)を取得する(ステップS6203)。続いて、基地局装置は、複素位相θ(Wk’)とθ(Wk)の差が−π以下であれば+2πを加算し(ステップS6204、S6205)、逆に差がπ以上であれば−2πを減算(ステップS6206、S6207)して、補正後の複素位相θ(Wk)とθ(Wk’)の差の絶対値がπ以下となる様にする。
基本的にはこれだけでも十分であるが、更に±π/2以上の複素位相差の情報は信憑性が低いと判断する場合には、補正後の複素位相θ(Wk)とθ(Wk’)の差分を再度比較し(ステップS6208、S6209)、その差が−π/2以下ないしはπ/2以上であればそのチャネル情報は信用性が薄いと判断してウエイト値Wk’を廃棄する(ステップS6210)。取得されている全サブキャリアに対して検査済みであれば処理を終了し、検査済みでなければ次のサブキャリアを読み出し、直前に処理を行ったサブキャリアの値との間で同様の処理を実施する(ステップS6211)。
なお、複素位相としては補正処理を行っているが、実際のウエイト値はExp(jθ(k)で与えられるため、複素位相2πの補正はウエイトとしては何ら差が生じるものではない。あくまでも線形補間を行うための複素位相の補正を行うものである。この様にして補正を行った複素位相上で任意の補間処理を適用することが可能で、近接する2点の複素位相から線形補間してもよいし、複数点の複素位相から最小二乗法的に線形の補間をしてもよいし、その他の非線形の補間をしても構わない。また内挿補間に加えて、2点の外側の外挿補間を用いても構わない。
なお、上述の様々な説明の中でチャネルベクトル、チャネル行列、送受信ウエイトベクトルなどの線形補間(最小二乗法による回帰計算)にて「オフセット値」を導入していたが、この様に取得済みのサブキャリア間での急激な複素位相の変化が伴わない様にして行う複素位相の補正は「オフセット値」の導入と基本的には等価であり、図62の処理を実施すれば、明示的な「オフセット値」の導入(複数のオフセット値の候補に対して最小二乗法による回帰計算を行うなどの処理)は必ずしも必要ではなく、省略することが可能である。なお上述の補正処理は、第6の実施形態における処理においても同様に活用可能である。
(複数の第1特異値に対応するウエイトベクトルの近似解法の処理)
次に、図63を参照して、複数の第1特異値に対応するウエイトベクトルの近似解法の処理動作を説明する。図63は、複数の第1特異値に対応するウエイトベクトルの近似解法の処理動作を示すフローチャートである。ここではアップリンクとダウンリンクは特に問わず、基地局装置と端末局装置のいずれかがチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、他方がそのトレーニング信号を受信してチャネルベクトルを取得し、この結果を用いて受信ウエイトベクトルを算出する。更にキャリブレーション処理により送信ウエイトベクトルも取得する。片方向で送受信ウエイトベクトルを取得した後に、同様のことを逆方向で行えば、双方向の送受信ウエイトベクトルを取得することが可能である。また、説明の便宜上、ダウンリンクでトレーニング信号を送信する場合を例にして以下の説明を行う。
基地局装置は、サブキャリア当たりの送信電力を高めるために、全体の中の一部のサブキャリアを用いてトレーニング信号の送信を行う(ステップS6301)。このとき、アンテナ群の重心周辺のアンテナ素子によりトレーニング信号の送信を行う。端末局装置ではこのトレーニング信号を受信し、所定の受信処理を行う(ステップS6302)。ここでの受信処理は、信号をローノイズアンプで増幅し、ミキサにて無線周波数からベースバンドの信号にダウンコンバートし、フィルタにて帯域外の信号成分を除去し、A/D変換によりサンプリングし、この信号にFFT処理を施して周波数軸上の信号に変換するなどの処理である。端末局装置は、この様にして得られたチャネルベクトルに対して複素共役を取り(及び必要に応じて規格化処理を含む)受信ウエイトベクトルを算出する(ステップS6303)。
続いて、端末局装置は、ここの複素位相の補正処理(図62に示す処理)を実施する(ステップS6304)。そして、端末局装置は、線形補間等で全サブキャリアのチャネルベクトルを取得する(ステップS6305)。続いて、端末局装置は、線形補間や非線形補間など様々な補間処理で取得できていないサブキャリアの受信ウエイトベクトルを予測し、全ての受信ウエイトベクトルを取得後にキャリブレーション処理で送信ウエイトベクトルを算出する(ステップS6306)。最後に端末局装置は、送信ウエイトベクトルを記録管理する(ステップS6307)。
以上説明した様に、見通し環境で第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用するための送受信ウエイトを取得する場合には、アンテナ素子群が非常に狭いところに限定されていることを利用し、そのアンテナ群の重心付近の単一アンテナ素子を用いて受信信号ベクトルを取得し、その複素共役を取ることで極めて容易に受信ウエイトを算出することができる。キャリブレーション処理を行えば送信ウエイトも取得可能であり、この処理を双方向で行えば、基地局装置及び端末局装置は簡単に第1特異値に対応する仮想的伝送路の送受信ウエイトを近似的に求めることができる。また、重心付近のアンテナのみをトレーニング信号送信に用いる一方、データの送受信には開口長を広げたアンテナ素子全体を用いることで、回線利得の向上や空間多重特性を高めることも可能である。
なお、送信側で送信ウエイトベクトルが既知であれば、重心付近のアンテナのみを利用して且つ利用するサブキャリアを限定してトレーニング信号を送信するまでもなく、全サブキャリア、ないしは若干間引きしたサブキャリアを用いて全アンテナ素子で送信ウエイトベクトルを用い指向性形成を行い利得を高めてトレーニング信号を送信することも可能である。このため、送信ウエイトベクトルの初期値を取得するための手法として本実施形態を利用し、送信ウエイトベクトルを取得後はその送信ウエイトベクトルを用いて指向性形成を行いトレーニング信号を送信し、この様に回線利得が高められた状態でチャネル推定を行い、そのチャネルベクトルの複素共役により受信ウエイトベクトルを高精度で求め、その高精度の受信ウエイトベクトルに対してキャリブレーション処理を施すことで高精度の送信ウエイトベクトルを求めるなどの手順を踏んでもよい。この様な処理の繰り返しを逐次行うことにより、定常的な通信状態においてはより安定的な状況で通信を行うことが可能になる。
[第8の実施形態]
[複数の無線局における同時チャネル推定について]
(第8の実施形態に係る基本原理の概要)
上述の「見通し波が支配的な場合のチャネル行列取得の近似解法」及び「複数の第1特異値に対応するウエイトベクトルの近似解法」では、トレーニング信号を送信するサブキャリアを限定することで1本アンテナ対1本アンテナのチャネル推定精度を高めることができることを示した。また、これらの技術では、複数のアンテナからサブキャリアの異なるトレーニング信号を同時に送信し、それにより異なるアンテナ素子に関するチャネル情報を取得することができる。
これらの技術の説明では、例えば同じ端末局装置の複数のアンテナ素子から異なるサブキャリアを用いてトレーニング信号を送信したり、ないしは図16に示す様に基地局装置303側において複数の第1の信号処理部304を含む場合について説明した。この場合、第1の信号処理部304のアンテナ素子からのトレーニング信号の送信を基地局装置303内部の通信制御回路等でそれぞれのタイミングを調整し、それらがタイミングを揃えて一斉にトレーニング信号を送信する様に制御していた。これに対し、そのほかの条件においても複数のアンテナ素子のチャネル推定を同時に行うことが有効な場合がある。その一例としては、上述の様に無線エントランス回線に本実施形態を適用する以外に、スモールセル基地局装置のアクセス系に用いて利用することがあげられる。
図64は、同一エリア内に存在する複数のスモールセル間での同時チャネル推定を行う装置構成を示す図である。図64において、左図には例えば一例としてビル街のビル壁面に複数のスモールセル基地局装置231〜234が設置され、その基地局装置231〜234の周囲にそれぞれのサービスエリアが広がる環境を表している。このサービスエリアには、基地局装置231〜234との間で無線通信を行う端末局装置235〜239が存在する。端末局装置235はスモールセル基地局装置231の配下にあり、端末局装置236はスモールセル基地局装置232の配下にあり、端末局装置237はスモールセル基地局装置233の配下にあり、端末局装置238及び端末局装置239はスモールセル基地局装置234の配下にある。
背景技術の中でも説明した通り、スモールセルは局所的にトラヒックが集中するエリアのトラヒックをマクロセルからオフロードするために設置される。トラヒックが集中するエリアに対して、狭いエリアのスモールセルを設定し、そのスモールセル内の端末局に限定してそのスモールセル基地局装置が通信を行うことになる。マクロセルであれば置局設計を厳密に行い、マクロセル間での相互干渉のレベルを管理して周波数資源のリユースを行うのが一般的である。しかし、スモールセルはあくまでもトラヒック集中などの要求条件に合わせてスポット的に設置されるものであり、置局設計が計画的に実施されるとは限らない。
その様な環境で、回線利得の確保という要求条件に合わせて相互干渉を低減することを目的として、Massive MIMO技術を用いたスモールセル構成技術が注目されている。このスモールセルでは相互干渉を低減するために、1素子当たりの送信電力は高くないが、多数のアンテナ素子で形成する指向性利得により膨大な回線利得を確保する。しかし、その回線利得を確保するには各送信アンテナ素子対受信アンテナ素子間のMIMOチャネル行列が既知である必要があり、このためのチャネルフィードバック技術は重要である。
更に、この回線利得を効率的に得るためにはチャネル推定の精度も重要になるが、チャネル推定のためにトレーニング信号を送信した際に、同一サブキャリアにて近隣のスモールセルからの干渉波が受信される場合には、その干渉信号によりチャネル推定精度が大幅に劣化し、十分な回線利得を確保できないばかりでなく、所望の方向以外への輻射も大きくなるために、相互干渉が大きくなるリスクもある。この問題は、Pilot Contamination(パイロット・コンタミネーション)と呼ばれており、相互干渉によるトレーニング信号の汚染の問題は重要な問題である。
この問題を単純に回避するには、スモールセルごとにトレーニング信号の送信タイミングをずらす(近隣の何処かのスモールセルでトレーニング信号が送信されている場合には、他のスモールセルでは通信を控える)ことが有効と見なされていた。しかし、この方法ではチャネル推定用のトレーニング信号によるオーバヘッドが大きくなり、MACレイヤにおける伝送効率が低下することになる。特に5Gにおけるスモールセルでは超多数の端末局装置を一つの基地局装置が一括で収容することが想定されているため、それらの端末局装置が頻繁にトレーニング信号を送信し、且つスモールセルごとに送信タイミングを棲み分けるとなると大幅にMAC効率が低下することになる。
そこで、図64の右図に示した様に、全体の周波数帯域幅Wの中の多数のサブキャリアの中で、各基地局装置231〜234はサブキャリアを棲み分けて、ダウンリンクで同一時刻に揃えてトレーニング信号を送信する。同様に、各スモールセルの端末局装置235〜238も、全体の周波数帯域幅Wの中の多数のサブキャリアの中でそれぞれサブキャリアを棲み分けて、アップリンクで同一時刻に揃えてトレーニング信号を送信する。例えば、基地局装置231及び端末局装置235は右図の複数のサブキャリア群241を利用し、基地局装置232及び端末局装置236は複数のサブキャリア群242を利用し、基地局装置233及び端末局装置237は右図の複数のサブキャリア群243を利用し、基地局装置234及び端末局装置238は右図の複数のサブキャリア群244を利用する。これらは周波数軸上では重なりがないため、同一時刻に同一周波数(同一サブキャリア)の混信がなく、Pilot Contaminationの問題は発生しない。
また、アップリンクに関しては、例えば基地局装置234の配下の端末局装置238と端末局装置239が、例えば端末局装置238がサブキャリア群244を用いる一方で、端末局装置239が(基地局装置233と端末局装置237がサブキャリア群243で通信していないという前提で)サブキャリア群243を用いてトレーニング信号を送信し、端末局装置238と端末局装置239のチャネル情報を同時に推定する様に構成することも可能である。
一般には、基地局装置は装置規模を大型化することが許容される一方、端末局装置側はあまり装置規模を増大させることができない。また、図16に示す様に複数の第1の信号処理部304を備え、それぞれが多数のアンテナ素子を備えている場合には、一つの基地局装置が備えるアンテナ総数に対して端末局装置のアンテナ総数は少ないことが予想される。その場合、上述の様に同一セル内(ないしは異なるセルを含めてもよい)の多数の端末局装置とのチャネル推定を同時に行うことは理に適っている。
具体的には、例えば基地局装置が5つの第1の信号処理部304を備え、それぞれが各50素子のアンテナ素子を備えているとする。一つのアンテナ素子につき4つのサブキャリアにおいてトレーニング信号を送信する場合には、4×50×5=1000で1000ものサブキャリアのチャネル推定が同時に行えることになる。更に全体のサブキャリア数が2000であれば、例えば基地局装置231及び基地局装置233が偶数サブキャリアを、基地局装置232及び基地局装置234が奇数サブキャリアを利用してチャネル推定を行うことが可能である。アンテナの指向性特性などにも依存するが、基地局装置側の個々のアンテナ素子はある程度の強さの指向性を備えているとすると、隣接するスモールセルには干渉を与えうるが、次隣接のスモールセルとは与被干渉が無視可能な場合もあり、その様な場合には上述の設定が成り立つことになる。
一方で、端末局装置の備えるアンテナ素子数が25素子であるとすると、1素子当たり4つのサブキャリアを利用するとして、一つの端末局装置の合計で100のサブキャリアを利用することになる。しかし、一つの基地局装置がチャネル推定に利用するサブキャリアが1000であるため、同時に10局の端末局装置がアップリンクのチャネル推定用のトレーニング信号を同時に送信しても同一時刻に同一周波数(同一サブキャリア)での混信がなく、これらに対して同時にチャネル推定ができることになる。ダウンリンクに関しては、基地局装置がトレーニング信号を1回送信すると、それを受信した全端末局装置が同時に自局に対するダウンリンクのチャネル推定が可能である。しかし、アップリンクに関しては各端末局装置が個別にトレーニング信号を送信しなければならず、そのトレーニング信号の送信に伴うオーバヘッドによるMAC効率の低下を如何に食い止め、一方ではチャネル推定精度を如何に高めるかは課題である。
ここで、上述のチャネル推定を異なるスモールセル間、又は同一のスモールセル内の異なる端末局装置間でサブキャリアを変えて同時に送受信するためには、(1)各端末局装置が送信すべきトレーニング信号のサブキャリアの把握ができること、(2)各端末局装置がトレーニング信号を送信すべきタイミングを把握できること、が重要になる。
図65は、本実施形態におけるフレーム構成の例を示す図である。図65において、符号251−1〜251−3は基地局装置がダウンリンクでトレーニング信号を送信するためのスロット、符号252−1〜252−3は基地局装置と端末局装置間でデータ通信を行うためのスロットである。また、符号253−1〜253−3、254−1〜254−3、255−1〜255−3、256−1〜256−3はそれぞれ端末局装置がアップリンクでトレーニング信号を送信するためのスロットを表す。また、スロット251−1からスロット256−1までの時間長、同様にスロット251−2からスロット256−2までの時間長、スロット251−3からスロット256−3までの時間長はそれぞれ基本フレーム周期Tb−frameである。厳密には、スロット256−1の末尾とスロット251−2の間、スロット256−2の末尾とスロット251−3の間などでは、アップリンクからダウンリンクへの切り替えが行われるために、ガードタイムとして所定の時間を設定してもよい。
また図65に示す例では、基本フレームをN回繰り返す長周期のスーパーフレーム構造を取り、このスーパーフレーム内の異なる基本フレーム内のスロット253−1〜253−3、254−1〜254−3、255−1〜255−3、256−1〜256−3はそれぞれ異なる端末局装置がアップリンクのトレーニング信号を送信するために割り当てられている。スロット253−1〜253−3、254−1〜254−3、255−1〜255−3、256−1〜256−3のいずれか一つに着目すれば、それぞれがサブキャリアのグループに分割されている。上述の例では、全体で1000のサブキャリアに対し、一つの端末局装置が25本のアンテナ素子が各4サブキャリアでトレーニング信号を送信するとしていた。このため、例えば第j(jは1〜10の整数)グループのサブキャリアは0〜99の整数mに対し第(10×m+j)サブキャリアを用いることにして、第n基本フレームの第n’(図では253から256の4スロットが割り当てられるので、n’は1〜4の整数)スロットで第jグループのサブキャリアを用いるなどと端末局装置に割り当てを行う。
なお、図65では各基本フレーム内の先頭に毎フレーム、スロット251−1〜251−3を割り当てているが、長周期のスーパーフレーム構造の中に一つ以上含まれていれば良く、スーパーフレーム内の所定の基本フレームの先頭に配置されていれば、全ての基本フレームの先頭に配置されなくても対応は可能である。同様にスロット253−1〜253−3、254−1〜254−3、255−1〜255−3、256−1〜256−3なども、各基本フレーム内で同数のスロットとして記載されているが、必ず同数である必要はなく、場合によっては一つも含まない基本フレームが存在しても構わない。
またデータ通信用スロット252−1〜252−3は、例えばインプリシット・フィードバックを行うことを想定して時分割のTDDを前提とするのであれば、端末局装置からの帯域要求やネットワーク側から基地局装置に到着するデータに応じて、適応的にデータ通信用スロット252−1〜252−3内の帯域の割り当てが行われることになる。この際、アップリンクとダウンリンクの時間長が固定的に設定されていてもよいし、トラヒックの状況に応じて割り当てを可変としてもよい。そのいずれにしても、本実施形態は適用可能である。また、このデータ通信用スロット252−1〜252−3は更に細分化されて、細かなスロット単位に送受信を行う。
なお、各基地局装置及び端末局装置は、例えばGPS(Global Positioning System)やその他の何らかの手段でスーパーフレーム及び基本フレームの先頭タイミングが既知であるものとする。GPS以外でもマクロセルの信号を活用したり、その他の無線システムでタイミング情報を通知しても構わない。また、新たにエリア内に入ってきた端末局装置は、最初に基地局に帰属処理を求めてアクセスする必要があるが、そのアクセスのためにはダウンリンクのチャネル推定を行い、その推定結果より求めた受信ウエイトベクトルとアップリンクの送信ウエイトベクトルを取得しないと、多数のアンテナを用いることによる回線利得を確保することができない。
通常の無線システムではタイミング検出に利用可能な信号を無線パケットの先頭に付与することが一般的であるが、本実施形態においてはスロット256−1〜256−3の信号はサブキャリア的に歯抜けになっている不完全な信号であると共に指向性形成を行っていない同報的な信号であるため、一般的にはタイミング検出にはあまり適さない信号である。また、これとは別のタイミング検出用の信号を基地局装置が送信したとしても、端末局装置側で受信ウエイトベクトルを用いた指向性ビームを形成しないと、回線利得不足で基地局装置からのタイミング検出用の信号を受信できない。したがって、基本フレーム及びスーパーフレームの先頭は既知であるとするための何らかのメカニズムが本実施形態では実装されていることが好ましく、以下の説明ではこれらのタイミング情報は既知であるものとする。このタイミング情報は、GPSなどの他の無線システムを活用して把握しても良いし、マクロセルの情報を利用して把握(すなわちマクロセルの通信の周期性に同期)しても構わない。
(複数の無線局による同時チャネル推定の処理フロー)
ここで、エリア内に新たに入ってきた端末局装置と基地局装置の間の通信開始のための処理動作を説明する。図66は、エリア内に新たに入ってきた端末局装置と基地局装置の間の通信開始のための処理動作を示すフローチャートである。端末局装置が通信を開始すると(例えばユーザが端末局装置の電源を入れた場合)、端末局装置は所定の手段で基本フレーム及びスーパーフレームの先頭タイミングを取得すると共に(ステップS6601)、フレーム先頭のトレーニング信号を受信する(ステップS6602)。そして、端末局装置は、受信したスロット251−1〜251−3からダウンリンクでの受信ウエイトベクトル、及びアップリンクでの送信ウエイトベクトルを取得する(ステップS6603)。
次に、端末局装置は、スロット253−1〜253−3、254−1〜254−3、255−1〜255−3、256−1〜256−3のいずれかのスロット及びそのいずれかのサブキャリアのグループの中で、ランダムアクセス用のスロットとしてシステムに割り当てられた条件のスロットで且つ同様にランダムアクセス用のサブキャリアとしてシステムに割り当てられた条件のサブキャリアの組合せをランダムアクセス用のスロットとみなし(ステップS6604)、そこにチャネル推定用のトレーニング信号をランダムアクセスで送信する(ステップS6605)。例えば、基本フレーム末尾のスロット256−1〜256−3の所定のサブキャリア(上述の例では、10のグループに分かれており、その全てのグループでもよいし、一部のグループでもよい)をランダムアクセス用のスロットとしてもよいし、スーパーフレーム内の例えば先頭の基本フレーム内の末尾のスロット256−1内の所定のグループのサブキャリアにのみランダムアクセス用のスロットを配置してもよい。
基地局装置は、毎回、そのランダムアクセススロットを受信する(ステップS6621)とFFT処理を行い、ランダムアクセススロットとしてトレーニング信号が含まれている可能性のあるサブキャリアの受信レベルを取得する(ステップS6622)。そして、基地局装置は、受信された信号の当該サブキャリアが所定のレベルであれば(ステップS6623)、新規の端末局装置からのイニシャルアクセスとみなし、そのトレーニング信号からアップリンクのチャネル推定を実施する(ステップS6624)。続いて、基地局装置は、アップリンクの受信ウエイトベクトルの算出と共に、キャリブレーションによりダウンリンクの送信ウエイトベクトルを取得する(ステップS6625)。基地局装置は、ここで取得した送信ウエイトベクトルを用いて、データ通信用スロット252−1〜252−3の中の細分化されたいずれかのスロットにその端末局装置宛てにアップリンクでの信号送信のためのスロット割り当て指示の信号送信を行う(ステップS6626)。ここでは、基地局装置は端末局装置の素性を把握していないため、割当の指示に端末局装置の識別番号などを用いることはできないため、ランダムアクセスした端末局装置に対する初期アクセスの指示として、例えば端末局装置がトレーニング信号をランダムアクセスで送信したスロット、サブキャリア等の情報を明記し、端末局装置に自局への割り当てであることを知らしめる。
これを受けて、端末局装置は上述のランダムアクセスでのトレーニング信号送信後には、取得した受信ウエイトベクトルで指向性ビームを形成し、タイムアウトを判定しながら(ステップS6606)基地局装置からの信号を待ち受ける(ステップS6607)。基地局装置が送信したスロット割り当て指示の信号を上述の受信ウエイトベクトルを用いて受信できた(ステップS6608)場合には、その指示されたスロットを用いて自局の情報を収容した制御情報を送信し(ステップS6609)、その基地局への帰属要求を行う。
基地局装置は、自局が割り当てたスロットにおいて、先のランダムアクセスのスロットで取得した受信ウエイトベクトルを用いてタイムアウトを判定しながら(ステップS6627)端末局装置からの信号受信を待ち受け、端末局装置及び基地局装置の双方で指向性ビームを形成して確保した回線利得を活かして、高品質で信号受信を行う(ステップS6628)。基地局装置はこれらの情報交換の後に装置の帰属を自局のデータベース上で管理する(ステップS6629)。
また、基地局装置は、スロット253−1〜253−3、254−1〜254−3、255−1〜255−3、256−1〜256−3のいずれかのスロット及びそのいずれかのサブキャリアのグループをその端末局装置とのチャネルフィードバック用のスロットとして割り当てを行い(ステップS6630)、その内容を同様にデータ通信用スロット252−1〜252−3の中の細分化されたスロットで通知する。これを受けて、端末局装置は、アップリンクにおいて基地局装置にトレーニング信号を定期的に送信するチャネル推定用スロットを把握する(ステップS6610)。以降は、データ通信用スロット252−1〜252−3の中の細分化されたスロット内で帯域割り当てや帯域要求を行い、適宜、基地局装置も端末局装置も送受信ウエイトベクトルを更新しながら通信を続ける。
なお、以上の処理において詳細説明は省略したが、符号誤りにより正常な情報交換ができずに処理が停滞することを回避するために、一般的な技術であるタイマーを張り応答の有無をタイムアウトにより管理する技術を組み合わせて適用することも可能である。また、第1の実施形態に示した様に基地局装置が複数の第1の信号処理部を実装する場合、帰属要求などの制御情報の情報量は限られているため、複数の第1の信号処理部を活用して空間多重を行いながら通信を行う必然性はなく、特定の一つの第1の信号処理部を選択し、その第1の信号処理部に向けた送信ウエイトベクトルのみを利用して制御情報を送信することとしても構わない。同様に、基地局装置からの制御情報の送信においても、特定の一つの第1の信号処理部を選択し、空間多重を行わずに制御情報の送信を行う構成にしても構わない。
次に、図67を参照して、本実施形態における基地局装置の送受信信号処理動作を説明する。図67は、基地局装置の送受信信号処理動作を示すフローチャートである。図67において、(a)が受信処理、(b)が送信処理を示している。まず受信処理を説明する。基地局装置はフレームタイミングを取得する(ステップS6701)と、基本フレーム先頭のスロットに後続するデータ通信用スロットにおいて、基地局集中制御故に把握している端末局からの無線パケットの受信タイミングを認識する(ステップS6702)。そして、基地局装置は、メモリより当該端末局装置に対する自局の複数の第1の信号処理部304における受信ウエイトベクトルを読み出し(ステップS6703)、各第1の信号処理部の受信信号ベクトルに受信ウエイトベクトルを乗算する(ステップS6704)。
続いて、基地局装置は、仮想的伝送路ごとにそれぞれ1系統の信号としたものを集約し、各無線パケットの先頭領域で受信したトレーニング信号に対するチャネル推定結果に基づき(ステップS6705)、線形の第2の受信ウエイト行列を算出し(ステップS6706)、これを用いて信号検出処理を行う(ステップS6707)。そして、基地局装置は、データが複数シンボルに渡る間は同様に信号検出処理を繰り返し(ステップS6708)、データ終了後にはフレームの終了か否かを判断し(ステップS6709)、フレームが継続する場合には上述の処理(他の端末局装置からの信号受信)を繰り返す。基地局装置は、フレームの終了時には、フレーム末尾の端末局装置側からトレーニング信号を送信するためのスロットを受信し(ステップS6710)、この受信信号を基に当該端末局装置に関する送受信ウエイトベクトルを算出してこれを記録・管理し、処理を終了する(ステップS6711)。
次に送信処理を説明する。基地局装置はフレームタイミングを取得する(ステップS6721)と、端末局装置が第1の信号処理部で用いる受信ウエイトベクトルを算出するためのトレーニング信号を基本フレーム先頭のスロットで送信する(ステップS6722)。そして、基地局装置は、基地局集中制御故に把握している端末局装置への無線パケットの送信タイミングを認識する(ステップS6723)と、メモリより当該端末局装置に対する自局の複数の第1の信号処理部304における送信ウエイトベクトルを読み出す(ステップS6724)。
続いて、基地局装置は、送信信号を生成した(ステップS6725)後に第1の送信ウエイトベクトルを各第1の信号処理部ごとに乗算し(ステップS6726)、信号送信を行う(ステップS6727)。基地局装置は、データが継続する場合には以上の処理を繰り返し(ステップS6728)、データが終了した場合にはフレームの終了であるか否かを判断し(ステップS6729)、フレームが終了していなければ次の送信処理ないしは図67(a)の受信処理を繰り返す。フレーム終了であれば処理を終了する。
次に、図68を参照して、本実施形態における端末局装置の送受信信号処理動作を説明する。図68は、端末局装置の送受信信号処理動作を示すフローチャートである。図68において、(a)が受信処理、(b)が送信処理を示している。まず受信処理を説明する。端末局装置はフレームタイミングを取得する(ステップS6801)と、基本フレーム先頭のスロットにて基地局装置が送信したトレーニング信号を受信し(ステップS6802)、これを基に第1の受信ウエイトベクトルを仮想的伝送路ごと(複数の第1の信号処理部ごと)に算出する(ステップS6803)。端末局装置は、基地局装置より無線パケットを受信する(ステップS6804)と、メモリより当該端末局装置の複数の第1の信号処理部304における受信ウエイトベクトルを読み出し、受信信号ベクトルに各仮想的伝送路に対応する受信ウエイトベクトルを乗算する(ステップS6805)。
次に、端末局装置は、仮想的伝送路ごとにそれぞれ1系統の信号としたものを集約し、各無線パケットの先頭領域で受信したトレーニング信号に対するチャネル推定結果(ステップS6806)に基づき、線形の第2の受信ウエイト行列を算出し(ステップS6807)、これを用いて信号検出処理を行う(ステップS6808)。端末局装置は、データが複数シンボルに渡る間は同様に信号検出処理を繰り返す(ステップS6809)。そして、端末局装置は、データ終了後にはフレームの終了か否かを判断し(ステップS6810)、フレームが継続する場合には自局宛ての割り当てがある場合には上述の受信処理を繰り返す。フレームの終了時には処理を終了する。
次に送信処理を説明する。端末局装置は、フレームタイミングを取得する(ステップS6821)と、上述の受信処理で求めた受信ウエイトベクトルに対してキャリブレーション処理を施し、第1の送信ウエイトベクトルを算出する(ステップS6822)。そして、端末局装置は、自局の送信タイミングを認識する(ステップS6823)と、送信信号を生成した(ステップS6824)後に、第1の送信ウエイトベクトルを各仮想的伝送路ごとの信号に乗算し(ステップS6825)、乗算した結果をアンテナ素子ごとに加算合成して信号送信を行う(ステップS6826)。
次に、端末局装置は、データが継続する場合には以上の処理を繰り返し(ステップS6827)、データが終了した場合にはフレームの終了であるか否かを判断し(ステップS6828)、フレームが終了していなければ自局宛ての割り当てがある場合には次の送信処理を繰り返す。フレーム終了であれば、端末局装置は、フレーム末尾のトレーニング信号用に自局に割り当てられたスロット及びサブキャリアでトレーニング信号を送信して(ステップS6829)処理を終了する。
なお、ここでは詳細を省略したが、以上の処理は基本的には周波数軸上で各サブキャリアごとに実施する。以上の処理は、前提条件として図69で示した構成の場合の説明である。図69は、前提条件となるフレーム構成を示す図である。この図において、符号257−1〜257−3はトレーニング信号、258−1〜258−3はデータペイロードを表す。上述の図67及び図68の説明では、第1の受信ウエイトベクトルを乗算して集約した複数の仮想的伝送路ごとの信号系列に対し、まず初めにMIMO伝送の信号分離用のチャネル推定を行うこととして説明したが、これにはトレーニング信号257−1〜257−3を用いる。トレーニング信号257−1〜257−3、データペイロード258−1〜258−3についてはアップリンクかダウンリンクかを明示していない様に、時分割でアップリンクとダウンリンクを適応的に使い分けることが可能である。例えば、トレーニング信号257−1〜257−2、データペイロード258−1〜258−2がダウンリンクの信号(基地局が送信)で、トレーニング信号257−3、データペイロード258−3がアップリンクの信号(端末局が送信)であってもよいし、全てがダウンリンク、全てがアップリンクでも構わない。いずれにしても、トレーニング信号257−1〜257−3はアップリンク、ダウンリンクに係らず第1の送信ウエイトベクトルが乗算された回線利得が確保された信号であるため、十分な受信レベルで高い精度でチャネル推定が可能である。
一方、トレーニング信号251−1〜251−3は、全て第1の送信ウエイトベクトルで指向性形成がなされていない信号であるため、少数のサブキャリアに送信電力を集中させているとはいえ、チャネル推定精度は相対的に低い。しかし、運用上問題のないチャネル推定精度を確保できているのであれば、このトレーニング信号251−1〜251−3を用いて第2の受信ウエイト行列を算出することも可能である。この場合には、図69の代わりに図70に示す様にトレーニング信号257−1〜257−3を省略し、データペイロード258−1〜258−3のみで通信を行うことになる。図70は、トレーニング信号を省略し、データペイロードのみで通信を行う例を示す図である。
なお、図69に示したトレーニング信号257−1〜257−3はMIMO伝送の信号分離用のチャネル推定を行うためのもので、例えば空間多重数が多ければその分の直交したトレーニング信号が必要であり、それ相応のシンボル数のオーバヘッドが必要である。しかし、図70ではMIMO伝送の信号分離用のチャネル推定はフレーム先頭のトレーニング信号251−1〜251−3を最大限活用して行うとした場合には、空間多重された信号系列が綺麗に分離された独立な信号系列の信号検出・復調処理に必要なチャネル推定だけを行えばよく、全てのトレーニング信号を同時に(例えばOFDMであれば1シンボルで)送信し、受信側では信号分離の後にあたかもSISO(Single Input Single Output)の信号であるかの様に受信信号処理を行うこともできる。この意味では、図70においても、SISOの信号の信号検出・復調用のトレーニング信号を含んでいるとしてもよい。
次に、図71を参照して、本実施形態における他の第2の受信ウエイト行列算出の処理動作について説明する。図71は、他の第2の受信ウエイト行列算出の処理動作を示すフローチャートである。この処理動作はアップリンクにおける基地局装置の処理、及びダウンリンクにおける端末局装置の処理の両方に適用可能である。また、アップリンクであればフレーム末尾の端末局装置から送信されるトレーニング信号に対して実施され、ダウンリンクであればフレーム先頭の基地局装置から送信されるトレーニング信号に対して実施される。又は、図69で示したトレーニング信号257−1〜251−3に対して実施してもよい。ここでは、基地局装置の動作として説明する。
まず、基地局装置は、トレーニング信号を受信する(ステップS7101)と、仮想的伝送路ごとに第1の受信ウエイトベクトルを算出する(ステップS7102)。なお、この第1の受信ウエイトベクトルは、スロット253−1〜253−3、254−1〜254−3、255−1〜255−3、256−1〜256−3のいずれかのスロット及びそのいずれかのサブキャリアのグループを用いて算出した受信ウエイトベクトルを代用しても構わない。基地局装置は、その後にこの第1の受信ウエイトベクトルを算出するのに用いたトレーニング信号に仮想的伝送路ごとに第1の受信ウエイトベクトルを乗算する(ステップS7103)。この乗算により仮想的伝送路の数の信号系列が取得される。この仮想的伝送路ごとのトレーニング信号の受信は、仮想的伝送路ごとにサブキャリアが棲み分けられているため、それぞれの仮想的伝送路間のクロストーク成分も個別に抽出可能であり、個別に抽出されるチャネル推定結果が式(55)のチャネル行列の各成分に相当する。この様にして得られたチャネル行列を基に、第2の受信ウエイト行列を算出する(ステップS7104)。
例えば、仮想的伝送路の数が3の場合を例に取り説明を行う。一例として、第1の仮想的伝送路は3の倍数のサブキャリアを、第2の仮想的伝送路は3の倍数+1のサブキャリアを、第3の仮想的伝送路は3の倍数+2のサブキャリアを利用してトレーニング信号を送信しているとする。この時、受信信号の各サブキャリア成分に対して第1の仮想的伝送路の受信ウエイトを乗算した信号に着目する。3の倍数のサブキャリアに着目すると、第1の受信ウエイトベクトルを乗算後の希望信号のチャネル推定を行うことができるので、3×3のチャネル行列のh11成分が取得できる。
これに対し、3の倍数+1のサブキャリアに着目すると、第2の仮想的伝送路の信号が第1の仮想的伝送路に漏れ込む信号成分を抽出できるため、3×3のチャネル行列のh12成分が取得できる。同様に、3の倍数+2のサブキャリアに着目すると、第3の仮想的伝送路の信号が第1の仮想的伝送路に漏れ込む信号成分を抽出できるため、3×3のチャネル行列のh13成分が取得できる。
同様に、第2の仮想的伝送路の受信ウエイトを乗算した信号に着目する。3の倍数+1のサブキャリアに着目すると、第2の受信ウエイトベクトルを乗算後の希望信号のチャネル推定を行うことができるので、3×3のチャネル行列のh22成分が取得できる。これに対し、3の倍数のサブキャリアに着目すると、第1の仮想的伝送路の信号が第2の仮想的伝送路に漏れ込む信号成分を抽出できるため、3×3のチャネル行列のh21成分が取得できる。同様に、3の倍数+2のサブキャリアに着目すると、第3の仮想的伝送路の信号が第2の仮想的伝送路に漏れ込む信号成分を抽出できるため、3×3のチャネル行列のh23成分が取得できる。
更に同様に、第3の仮想的伝送路の受信ウエイトを乗算した信号に着目する。3の倍数+2のサブキャリアに着目すると、第3の受信ウエイトベクトルを乗算後の希望信号のチャネル推定を行うことができるので、3×3のチャネル行列のh33成分が取得できる。これに対し、3の倍数のサブキャリアに着目すると、第1の仮想的伝送路の信号が第3の仮想的伝送路に漏れ込む信号成分を抽出できるため、3×3のチャネル行列のh31成分が取得できる。同様に、3の倍数+1のサブキャリアに着目すると、第2の仮想的伝送路の信号が第3の仮想的伝送路に漏れ込む信号成分を抽出できるため、3×3のチャネル行列のh32成分が取得できる。
この様にして3×3の全ての行列要素が取得できる。ここでは仮想的伝送路数が3の場合を例に取り説明したが、同様に任意の数の仮想的伝送路に対しても、チャネル行列を取得することが可能である。これらのチャネル行列が取得できれば、そこから先は普通のMIMOチャネルを利用した空間多重の信号処理と同様であるため、ZF型の線形ウエイトや、MMSE型の線形ウエイトの利用の他、MLDやQR−MLDなどの非線形信号処理も含めて任意の信号処理により千号検出を実施することが可能である。上述の図67及び図68の説明では、線形の受信ウエイト行列を利用する場合の例を示したが、上述の様に当然ながら任意のMIMOチャネルの信号検出処理を適用することも可能である。
なお、ここでは仮想的伝送路ごとにトレーニング信号に用いるサブキャリアを分けることで直交化を図る例を示したが、その他の直交化したトレーニング信号を空間多重する信号系列ごとに付与できるならば、その直交性を利用して図69で示したトレーニング信号257−1〜257−3を用いて同様の信号処理を行うことも可能である。例えば、OFDMであれば3OFDMシンボルを用い、各信号系列ごとのトレーニング信号を時間的にずらして利用するならば、全サブキャリアを用いてチャネル推定を行うことも当然可能である。
(時間軸ビームフォーミングの活用)
上述の時間軸ビームフォーミングの項でも説明を行ったが、一般にアンテナ素子が非常に狭いエリアに存在する場合には、そのアンテナ素子ごとの受信ウエイト(すなわち受信ウエイトベクトルの各成分)の周波数依存性は比較的小さいことが予想される。各仮想的伝送路間の信号分離度を高めるためには、可能な限り最適な受信ウエイトを用いることにより、各アンテナ素子の受信信号の複素位相をそれぞれのサブキャリアで揃えて加算合成することが好ましい。しかし、後段において2段目の受信ウエイト行列を用いて仮想的伝送路間のクロストーク成分を高精度で分離できるのであれば、第1の受信ウエイトベクトルの精度はある程度低くても大きな問題とはならない。
例えば、Sin(θ)とSin(θ+δ)の加算について考える。三角関数の公式より、下記の関係式(76)が得られる。
この式は、加算時の効率が同位相合成が不完全で位相誤差δが存在する場合には、同位相合成により振幅が2倍ではなく2×Cos(δ/2)倍となることを意味する。δが30度の場合を例に取れば、振幅がCos(30/2)=0.9659・・・となり、約3.4%の利得損失となる。すなわち、全てのアンテナで誤差が30度以内であれば、この誤差による利得の損失は0.3dB程度でしかない。δが60度であっても約13.4%の利得損失で約1.2dBでしかない。
したがって、図44のF(α)が30dBを超える様な領域でない場合においても、その後段で周波数軸上の信号分離処理を行うことを前提とするならば、第1の信号処理部304で実施する時間軸のビームフォーミングは低い精度で実施しても、限定的な利得の低下を許容することができれば何ら問題がないことを意味する。すなわち、図65のトレーニング信号251−1〜251−3で周波数軸上の受信ウエイトベクトルを取得した後、受信ウエイトベクトルの各要素について、周波数ごとの受信ウエイトをIFFT処理することで時間軸上のウエイトに変換する。そして、この先頭成分(見通し波成分に相当)の値のみを用いて時間軸上の受信ウエイトベクトルを構成する。各サンプリング値において、各アンテナ素子のサンプリング値により構成されるサンプリング値の受信信号ベクトルに時間軸の受信ウエイトベクトルを乗算すると、指向性制御により回線利得が高められた状態のサンプリング信号を仮想的伝送路ごとに取得可能である。この様にするとタイミング検出が可能な状態の受信信号が取得できることになる。
なお、チャネル時変動の速度が基本フレーム周期に対してある程度緩やかであるならば、トレーニング信号251−1〜251−3を受信した際に、複数回の信号から抽出された相対チャネル情報(すなわち、基準アンテナの複素位相を基準にした相対的複素位相を用いたチャネル情報)を平均化すれば、雑音成分を抑圧してチャネル推定精度を高めることも可能である。平均化を行わないのであれば、相対チャネル情報ではなく絶対的なチャネル情報をそのまま用いることも可能である。
次に、図72を参照して、本実施形態に時間軸ビームフォーミングを適用した場合の他の信号処理動作を説明する。図72は、時間軸ビームフォーミングの他の信号処理動作を示すフローチャートである。第5の実施形態の説明においては、送信側の1本のアンテナ素子と受信側の1本のアンテナ素子の間のSNRが回線設計的に大幅に不足していることを考慮して式(52)などを利用する場合について説明を行ったが、第6の実施形態、第7の実施形態、第8の実施形態に示した技術により、送信側の1本のアンテナ素子対受信側の1本のアンテナ素子間のチャネル情報を、周波数軸上で高精度に求めることが可能になったため、その周波数軸上のチャネル情報を利用して、IFFT処理により時間軸ビームフォーミングに用いる時間軸のチャネル情報を取得することが可能になる。ここではダウンリンクにおける端末局装置の処理を例として示すが、同様の処理はアップリンクにおいても可能である。まず、基地局装置はフレーム先頭領域でチャネル推定用のトレーニング信号を送信する(ステップS7201)。端末局装置では、このトレーニング信号を受信し、受信信号処理を実施する(ステップS7211)。上述の様に、本信号処理ではガードインターバルを含まないOFDMシンボル周期より若干長めの長さのトレーニング信号を想定しており、大雑把なフレームタイミングを基準としても、適当なFFTウインドウで切り出したサンプリング信号を用いてFFT処理を行う。
次に、端末局装置は、このFFT処理を行った信号に対して既知のトレーニング信号を参照してチャネル推定を行い、仮想的伝送路ごとにチャネル情報(ないしは基準アンテナに対する仮想的伝送路ごとに相対チャネル情報)を取得する。ここで得られたチャネル情報は仮想的伝送路ごとに特定のサブキャリアのみに情報が存在する状態になっているため、線形補間などの任意の方法を用い、取得できていないサブキャリア成分に関しても同様にチャネル推定結果を得ておく(ステップS7212)。更に取得されたチャネル情報を基に、周波数軸上での受信ウエイトベクトルを算出する(ステップS7213)。
次に、端末局装置は、この各アンテナ素子のウエイト情報のサブキャリアに対し、IFFT処理を施す(ステップS7214)。そして、端末局装置は、この結果得られた時間軸上のウエイト情報の中で、先頭成分(見通し波成分に相当)の値を抜き出し、各アンテナ素子の時間軸上の受信ウエイトを算出し、これらをベクトルの成分とする受信ウエイトベクトルを仮想的伝送路ごとに取得する(ステップS7215)。この時間軸の受信ウエイトベクトルにキャリブレーション処理を施す(ステップS7216)。続いて、端末局装置は、送信ウエイトベクトルを算出し、これらの1段目の時間軸上の送受信ウエイトベクトルを記録・管理する(ステップS7217)。
上述の説明は、初段の時間軸ウエイト算出動作であるが、後段の周波数軸ウエイト算出は以下の様に行う。端末局装置は、時間軸上の受信ウエイトベクトルを算出した段階(ステップS7215)で、この受信ウエイト算出に用いた上述の受信トレーニング信号の各サンプリング値に対し、アンテナ素子ごとのサンプリング値を要素とする受信信号ベクトル(サンプリング値)に仮想的伝送路ごとの受信ウエイトベクトルを乗算し、個々の仮想的伝送路の信号系列ごとに分離する(ステップS7221)。続いて、端末局装置は、得られた仮想的伝送路の数分のサンプリング値の信号系列に対して個別にFFT処理を実施し、既知のトレーニング信号を参照してチャネル推定を行う(ステップS7222)。ここでのチャネル推定結果は仮想的伝送路ごとにトレーニング信号が割りあてられたサブキャリアのみが所望の仮想的伝送路のチャネル推定結果となり、トレーニング信号が存在しないサブキャリアは異なる仮想的伝送路からのクロストーク成分を表す。
なお、ここでは時間軸上のウエイト情報の中で先頭成分(見通し波成分に相当)の値を抜き出して利用する場合を紹介したが、式(57)で示した1サンプルの遅延成分の時間軸の受信ウエイトはIFFTした第2成分を基に、式(59)で示した2サンプルの遅延成分の時間軸の受信ウエイトはIFFTした第3成分を基に、それぞれ算出することが可能である。同様にそれ以上の遅延波成分についても利用することは可能である。
次に、端末局装置は、第kサブキャリアにおける第i仮想的伝送路に送信された信号が第j仮想的伝送路に漏れ込むチャネル情報をhji (k)とすれば、これらは特定のサブキャリアのみに情報が存在する状態となっているために、線形補間等で抜けたサブキャリアの補間処理を行い、異なる仮想的伝送路からのクロストーク成分を含む完全な状態のチャネル行列を取得する(ステップS7223)。そして、端末局装置は、この様にして得られた受信ウエイト行列を基に信号分離のための受信ウエイト行列を算出し(ステップS7224)、これを第2段目の周波数軸上の受信ウエイト行列として記録・管理する(ステップS7225)。
以上の様にして取得した第1段目の時間軸送受信ウエイトベクトル及び第2段目の周波数軸受信ウエイト行列は、後続するフレーム内で継続的に使いまわすことが可能である。
以上説明した様に、見通し環境で第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用するための送受信ウエイトの取得では、少数のサブキャリアでチャネル推定を行い、アンテナ素子間隔が狭く且つ見通し波が支配的である場合にはチャネル情報の周波数依存性が小さくなるという特性を利用して、線形補間等で残りのサブキャリアの送受信ウエイトを推定することが可能である。このため、複数の無線局においてサブキャリアが重ならない形で同時並行的にチャネル推定を行うことが可能になる。これを効率的に行うために、フレームの中に基地局装置及び個別の端末局装置がチャネル推定するためのトレーニング信号を、周期性を持つフレーム構成の中で固定的なスロットとして、同一サブキャリアで相互に干渉を及ぼさない様にタイミングとサブキャリアを棲み分けてスロット割り当てを行い、そのスロットで周期的にチャネルフィードバックを行う様にした。
なお、従来技術におけるチャネル情報のフィードバックを行うためのトレーニング信号は、そのトレーニング信号に後続するペイロード部分に送信局の識別番号などを付与するのが一般的である。しかも、チャネル情報の周波数依存性が大きいことが一般的であるため、アンテナごとのチャネル情報の推定を全サブキャリアでできる様に設計されていた。これらのオーバヘッドは非常に大きく、MAC効率を大幅に損ねる原因となっていた。しかし、第8の実施形態では、このトレーニング信号は基地局装置ないしは端末局装置ごとに、既知の固定的な場所(スロット及びサブキャリア)に割り当てられるので、後続するペイロードに送信局の識別番号などを付与する必要もなければ、一つのスロットでサブキャリアを棲み分けながら、同時に多数のチャネル推定・チャネルフィードバックが可能となるという特徴を併せ持つ。
[第9の実施形態]
以上の第8の実施形態の説明では、チャネル情報ないしは送受信ウエイトが周波数依存性を持つ場合を中心に説明を行ってきた。しかし、第5の実施形態で示した様に、チャネル情報ないしは送受信ウエイトに周波数依存性がない場合にも拡張することは可能である。
上述の第5の実施形態では、例えば式(52)などを用いることで、受信したトレーニング信号の時間軸上での相関値評価からチャネル情報を取得していた。式(52)の意味するところは、仮にチャネル情報に周波数依存性がなければ、式(52)のΣの中の各サンプリング時刻のSj(n)S1(n)*は雑音成分を除けば全て一定の値となることから、NFFT個のサンプリング値で雑音成分が平均化され、結果的に高いチャネル推定精度で相対チャネル情報(アンテナごとの相関値)を取得することができた。
しかし、第8の実施形態では周波数軸上で異なるアンテナ素子からの信号が混在するために、異なる端末局装置や異なるアンテナ素子からの信号が混在する受信信号の相関を取ると、特定の送信アンテナからの信号の受信アンテナごとの相関ではなく、異なる端末局装置や異なるアンテナ素子からの信号が混在した状態での相関値が取得されることになり、本来求めるべき特定の端末局装置や特定のアンテナ素子に対する相関値を抽出することができない。異なる端末局装置や異なるアンテナ素子からの信号が混在した状態は、FFTを実施することで簡単に信号分離することが可能であるが、この場合には取得された各サブキャリアのチャネル推定結果が、十分に高いチャネル推定精度(すなわち十分なSNR特性)であることが求められる。
上述の第6の実施形態、第7の実施形態、第8の実施形態では使用するサブキャリア数を一例として4と制限することでそのチャネル推定精度を高めていたが、これらのチャネル推定結果が周波数依存性を持たないのであれば、これらのチャネル推定結果を更に平均化し、その平均値により全サブキャリアで共通のチャネル情報を取得することが可能である。
ここで、cj(fk)はサブキャリアfkにおける周波数軸上のチャネル情報を表す。ないしは、基準となるアンテナの複素位相を基準とした相対チャネル情報を用いてもよい。
また、ここでは4サブキャリアを利用する場合を例に取り、4つの利用サブキャリアfkにおける平均を意図して1/4の係数が明記されているが、その他のサブキャリア数であればその数に合わせて平均化を行う。この結果得られたチャネル情報は式(52)で得られたものと等価であり、式(50)や式(51)などを用いて受信ウエイトを算出する。
なお、第8の実施形態に加えて第7の実施形態においても同様であるが、チャネル情報を取得するためのトレーニング信号として4つのサブキャリアを含むトレーニング信号を利用する場合を例示して説明したが、このサブキャリア数は4である屹然性はなく、その他の任意のサブキャリア数であっても構わない。その究極の条件として、利用サブキャリア数を1とすることも可能である。
上述の第5の実施形態では、基地局装置側の各第1の信号処理部のアンテナ素子間隔を狭めて、非常にチャネル情報ないしは送受信ウエイトの周波数依存性が小さい状況を作り出し、その結果として全サブキャリアで共通のチャネル情報ないしは送受信ウエイトとなる様にしていた。複数サブキャリアを利用することにより測定誤差の抑圧を期待することは可能であるが、究極の条件として単一のサブキャリアを利用するにはそれなりのメリットが存在する。
この単一のサブキャリアのみを利用するトレーニング信号としては、アンテナ素子ごとの相対チャネル情報を取得するのが目的であるならば(すなわちタイミング検出などの目的を伴わない場合)、仮にOFDMを用いる場合であってもガードインターバルを付与する必要はなく、割り当てられるサブキャリアの周波数の単なる正弦波(すなわち無変調の信号)の連続送信を用いることになる。この信号の特徴は、完全に振幅が一定の信号であるために平均の送信電力と瞬時の送信電力の時間的な変動の比率PAPR(Peak to Average Power Ratio)が1となっている点である。
一般にOFDMを用いる場合には、QPSKなどの振幅一定の変調方式を用いた場合であっても、サブキャリアごとに独立な信号を合成するために、時間と共に信号の振幅が変動する。このためPAPRは相対的に大きな値となり、平均の送信電力に比べてピーク時の送信電力は非常に大きな値になる。ハイパワーアンプの線形性には限界があるため、このピーク時の電力がハイパワーアンプの線形領域を超える場合には、非線形歪が発生して通信特性が劣化する。このため、OFDMでは所謂バックオフと呼ばれる送信電力のマージンを見込み、そのマージン分だけ送信電力を下げて信号送信を行う。
回線設計的に見れば、例えば1024ポイントFFTを利用する(有効サブキャリアとして1000程度を利用)システムでは、少なくとも10dB程度のバックオフを見込む必要があった。しかし、完全な振幅一定の正弦波であれば、その様なバックオフを見込む必要がなくなるため、そのバックオフ値分だけ実効的な送信電力を高めて送信することが可能になる。なお、このバックオフ値分の送信電力を高めることは単一サブキャリアを用いる場合以外でも利用可能であり、例えば4サブキャリアを利用する場合でも各サブキャリアの初期位相を任意の値に調整し、1シンボル周期でのPAPRが最小になる様にトレーニング信号を構成することで、その際のPAPR値に応じてより低いバックオフ値での運用が可能になる。
なお、トレーニング信号の送信に際し、他のデータ通信で用いる最小のバックオフ値をxdBとするときに、トレーニング信号の送信時のバックオフ値を(x/2)dB以下と設定することが望ましい。具体的には、トレーニング信号の送信時のバックオフ値を0dBとすることが望ましい。
この結果、例えば1000サブキャリア分の送信電力を一つのサブキャリアに注力するならばそこで30dB(=10Log101000)の回線利得を稼ぐことが可能になると共に、更にバックオフ分の10dB程度の回線利得を上乗せした良好な状態でのチャネル推定が可能になる。つまり、40dB程度の改善が期待できることになる。元々、ミリ波帯などの高周波数帯では、周波数の高さ故に回線設計的に厳しかった。例えば周波数が10倍になれば、自由空間伝搬損の周波数に依存する項による損失の増大は20dBである。また、ハイパワーアンプの出力も相対的に低下する。
更には、Massive MIMOでは100以上のRF機器を実装する必要から、個々の機器の価格の低減も期待され、廉価な部品材料の利用でアンプの線形性も低下する。結果的に30dB以上の回線利得を追加で確保しなければチャネル推定精度が低下する問題があったが、1サブキャリアないしは4サブキャリア程度に注力し且つPAPR値を抑えて送信電力を高めたチャネル推定では、これらの問題を解決することができる。
なお、アンテナ1素子当たりで1サブキャリアのみを用いてチャネル推定を行うと、実際には様々な反射波成分の影響を受けて、そのサブキャリアにおけるチャネル推定結果は見通し波成分のみによるチャネル情報とは異なる値を示す可能性がある。しかし、第7の実施形態に示した様に、トレーニング信号を送信する無線局側には複数のアンテナ素子が備えられており、複数のアンテナ素子から異なるサブキャリアの無変調の連続信号を送信するならば、トレーニング信号を受信する無線局では複数のサブキャリアのトレーニング信号を受信することになる。得られたチャネル情報から相対チャネル情報を取得すれば、送信側のアンテナ素子が異なることの影響は相対的に小さく、これら複数のアンテナ素子で得られた相対チャネル情報は周波数軸上で概ね定数と見なせるはずである。この特徴を利用して平均化処理を行えば、サブキャリアごとに影響の受け方が異なる反射波成分を相対的に抑圧し、実効的には見通し波成分を抽出した形の時間軸の相対チャネル情報を取得でき、これを基に時間軸の送受信ウエイトを算出することが可能となる。
なお、ここでの平均化処理とは基本的には複素位相の平均化を意図しているが、概ね振幅が一定であると期待され、且つ複素位相の変動幅も小さいことが予想されるため、複素数で与えられるチャネル情報そのものを複素平面上で単純に平均化しても構わない。
[第10の実施形態]
[第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用したマルチユーザMIMO伝送]
(第10の実施形態に係る基本原理の概要)
以上の説明においては、例えば図16に示す様に各第1の信号処理部304は単一の端末局装置302と基地局装置303の間で単一の信号系列を送受信し、複数の第1の信号処理部304を用いる全体として空間多重伝送を行っていた。これは、基地局装置303と端末局装置302との間の通信はシングルユーザMIMOでの伝送を行っていることに相当する。しかし、当然ながら複数の端末局装置302と基地局装置303の間で空間多重伝送(すなわちマルチユーザMIMO)を行う場合に関しても適用可能である。
通常マルチユーザMIMOでは、複数の端末局装置に対して同時に同一周波数上で信号送信を行う際に、相互の信号がお互いの端末局装置間で相互干渉とならない様に、ダウンリンクではヌル形成を行いながら信号送信を行っていた。しかし、そのヌル形成はチャネルの時変動がある場合には破れて残留干渉が発生する可能性がある。これは、送信指向性制御に用いる送信ウエイトは、所定の周期で行うチャネルフィードバック結果に基づいいて算出するのであるが、このチャネルのフィードバックに伴うオーバヘッドを抑えるために、それほど頻繁にはチャネルのフィードバックを行えず、結果的に過去に取得したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出せざるを得ないことによる。したがって、どれほど高精度に送信ウエイトを算出しても、時間の経過でチャネルの変動があれば意味はなく、逆に言えばチャネルの時変動の影響を受けにくい伝送方式が求められる。
第1の実施形態に示した第1特異値に対応する仮想的伝送路を積極的に用いる場合には、その伝送路上で得られる回線利得の値が反射波を利用した他の伝送路上での利得よりも相対的に高く、更に、基地局装置側及び端末装置側の双方に多数のアンテナ素子を用いる場合には、そのアンテナ素子数の積に応じた回線利得が追加で得られることを考慮すると、完全なヌル制御を敢えて形成するまでもなく、所望のSIR特性を得ることが可能になる。
図73は第10の実施形態における、マルチユーザMIMO適用時の基地局装置及び端末局装置の構成を示す図である。図16との違いは、図16では端末局装置が端末局装置302のみであったのが、図73では端末局装置が端末局装置302に加えて端末局装置308、309が加わっている点であり、基地局装置303の各第1の信号処理部304−1〜304−4において、それぞれ端末局装置302、308、309に向けて第1特異値に対応する仮想的伝送路を形成してマルチユーザMIMO伝送を行うことになる。
従来であれば複数の第1の信号処理部304−1〜304−4を実装することがなかったので、単一の端末局装置に対して複数の信号系列を同時に空間多重する場合には、ひとつの送受信信号処理回路が異なる送受信ウエイトベクトルを用いてマルチユーザMIMOの信号処理を行う。ここでは、各端末局装置間で相互干渉が発生しない様に、送信側では完全なヌル制御を行う必要があった。
一方、本発明の実施形態では、従来のマルチユーザMIMOと違い、第1の信号処理部304−1〜304−4のそれぞれはひとつの端末局装置にはひとつの送受信ウエイトベクトルを用いた1系統分の信号処理しか行わない。例えば、ひとつの第1の信号処理部304−1からは、端末局装置302、308、309に対して各1系統ずつ、合計で3系統分の信号の送信を行う。この時、それぞれの端末局装置302、308、309に対する第1特異値に対応する仮想的伝送路に向けた送信ウエイトベクトルをそれぞれv11、v12、v13とする。これらは、上述の個別のシングルユーザMIMO用の送信ウエイトベクトルであるので相互に直交はしていない。これに対し、実際にマルチユーザMIMOに用いる送信ウエイトベクトルv’11、v’12、v’13は、ベクトルv’11はv12及びv13に直交する様に、ベクトルv’12はv11及びv13に直交する様に、ベクトルv’13はv11及びv12に直交する様に設定する。具体的には、端末局装置302に対する送信ウエイトベクトルv’11は、グラムシュミットの直交化を用いて以下の式(78)で表される。
これを端末局装置308、309に対して同様に処理を行いv’12、v’13を求めれば良い。以上は第1の信号処理部304−1に対する説明だが、同様の処理を第1の信号処理部304−2〜304−3に対しても行えば良い。この様にして、第1の信号処理部304−1に対する送信ウエイトベクトルv’11〜v’13、第1の信号処理部304−2に対する送信ウエイトベクトルv’21〜v’23、第1の信号処理部304−3に対する送信ウエイトベクトルv’31〜v’33、第1の信号処理部304−4に対する送信ウエイトベクトルv’41〜v’43を求めれば良い。以上の処理により、第1の信号処理部304−1〜304−4においてそれぞれ3系統の信号系列を送信し、合計で12系統の空間多重伝送を行うことが可能になる。ここでの補足としては、従来のマルチユーザMIMOの場合と異なり、例えばj≠1なるjに対して送信ウエイトベクトルv’11とv’2jは直交しておらず、完全なヌル形成にはなっていない。しかし、これらは送信元の第1の信号処理部304も異なれば、受信する端末局装置も異なる組み合わせなので、相関の小さな仮想的伝送路であるが故に相互干渉は相対的に小さくなる。この根拠は上述の様に、第1特異値の絶対値が突出して高い利得を示す点と、基地局装置と端末局装置の多数のアンテナ素子の積から来るピンポイントの高い指向性利得に起因する。このため、送信ウエイトベクトルv’11とv’2jの直交性の担保は不要になるのである。
なお、同様の処理はアップリンクにおける基地局装置側の処理に対しても同様に行えば良い。すなわち、上述の式(78)は送信ウエイトベクトルに関する直交化処理を示したものであるが、全く同様の直交関係を受信ウエイトに適用し、それぞれの端末局装置302、308、309に対する第1特異値に対応する仮想的伝送路に向けた受信ウエイトベクトルをそれぞれv11、v12、v13と読み替え、マルチユーザMIMOに用いる受信ウエイトベクトルv’11、v’12、v’13を、ベクトルv’11はv12及びv13に直交する様に、ベクトルv’12はv11及びv13に直交する様に、ベクトルv’13はv11及びv12に直交する様に設定するれば良い。この際の受信ウエイト算出は式(78)がそのまま適用可能である。また無線局装置側は全くマルチユーザMIMOであることを意識することなく、上述の第1の実施形態における無線局装置と全く同じ処理及び回路構成で良い。
この場合の基地局装置303の回路構成は、図6と比較して、変更が必要となる。図74は、本発明の実施形態における、マルチユーザMIMO適用時の基地局装置303に対応する基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4に対応する第1の送信信号処理部182の回路構成を表す図である。図74では、マルチユーザMIMO伝送として、図73に示す様に同時に空間多重する端末局装置の数は3局としている。図74の構成は図6の構成と類似しているが、第1の送信信号処理回路113−1〜113−3は同時に空間多重を行う3局の端末局装置に対応したものであり、更に送信ウエイト処理部150では、同時に空間多重を行う3局の端末局装置に対し第1特異値に対応した仮想的伝送路での送信に用いるマルチユーザMIMO用の送信ウエイトベクトルを生成及び管理する。具体的に送信ウエイト処理部150では、チャネル情報取得回路151において、受信部にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120経由で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路152に記憶する。信号の送信時には通信制御回路120からの指示に従い、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト算出回路153は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路152から読み出し、読み出したチャネル情報を基に上記の式(78)の様にして送信ウエイトベクトルを算出する。ここで注意すべき点は、シングルユーザMIMOの場合には第1右特異ベクトルを算出してそのまま送信ウエイトベクトルとして利用したが、マルチユーザMIMOの場合には同一の第1の信号処理部内で各端末局装置間の送信ウエイトベクトルの直交化を図るために、例えば端末局装置302に対する第1右特異ベクトルから、端末局装置308に対する第1右特異ベクトルの成分、及び端末局装置309に対する第1右特異ベクトルの成分を減算し、相互に直交する形で信号送信を行うことになる。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路153は、この様にして算出した送信ウエイトを第1の送信信号処理回路113−1〜113−3に出力する。
次に、図75に第10の実施形態における、マルチユーザMIMO適用時の基地局装置303に対応する基地局装置70の第1の受信信号処理部185−1〜185−4に対応する第1の受信信号処理部186の回路構成を示す。図75でも、マルチユーザMIMO伝送として、図73に示す様に同時に空間多重する端末局装置の数は3局としている。図73の構成は図7の構成と類似しているが、第1の受信信号処理回路114−1〜114−3は同時に空間多重を行う3局の端末局装置に対応したものであり、更に受信ウエイト処理部170では、同時に空間多重を行う3局の端末局装置に対し第1特異値に対応した仮想的伝送路での受信に用いるマルチユーザMIMO用の受信ウエイトベクトルを生成及び管理する。具体的に受信ウエイト処理部170では通信制御回路120からの指示に従い、チャネル情報推定回路172においてFFT回路857より入力される情報を基に、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)から、端末局装置302、308、309に対応する各端末局装置60のアンテナ素子と、基地局装置303に対応する基地局装置70の各アンテナ素子851との間のチャネル情報をサブキャリアごとに推定し、その推定結果をマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路173に出力する。マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路173では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトベクトルをサブキャリアごとに算出する。ここで、式(78)はシングルユーザMIMOの場合の送信ウエイトベクトルvを用いた処理を説明したが、同様にこれをシングルユーザMIMOの場合の受信ウエイトベクトルuに置き換えれば、そのまま式(78)が適用できる。この際、各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信された信号を合成する受信ウエイトベクトルは端末局装置60ごとに異なり、抽出すべき端末局装置60に対応する第1の受信信号処理回路114−1〜114−3それぞれ個別に算出する。なお、この信号処理の後段の第2の受信信号処理部75においては、同一の無線局装置からの各信号系列間のクロストーク成分を除去することになるたが、前段の処理で端末局装置間の相互干渉成分は十分に低下出来ていることが予想されるため、ここでの受信ウエイト行列の算出時にはマルチユーザMIMOを意識する必要はなく、無線局装置ごとに個別にMIMO信号検出処理を行えば良い。ただし、異なる無線局装置に対しては個別のMIMO信号検出処理が必要になるため、同時に空間多重を行う無線局装置の分だけ、並列的に第2の受信信号処理部75を備える必要がある。
この様に、第1の送信信号処理部181と第2の送信信号処理部71との間の情報、及び第1の受信信号処理部185と第2の受信信号処理部75との間の情報が複数系統に拡張される差はあるが、複数の第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185を用いて単一の端末局装置との間で空間多重伝送を行う点で、従来技術とは異なる構成となっている。
以上の様に、第10の実施形態の無線通信システム90は、基地局装置303(第1の無線局装置)と、端末局装置308などの複数の端末局装置(第2の無線局装置)とを備える。第10の実施形態の基地局装置303は、第1のアンテナ素子群を有する複数の第1の信号処理部304と、複数の第1の信号処理部に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する第2の信号処理部305(厳密にはインタフェース回路、MAC層処理回路、通信制御回路などのその他の基地局装置機能を含む)とを有する。第10の実施形態の端末局装置308は、第2のアンテナ素子群と、第2のアンテナ素子群を介して第1の信号処理部との無線通信を実行する送受信部とを有する。端末局装置302と端末局装置309とも同様である。
第10の実施形態の第1の信号処理部304は、第1のアンテナ素子群と第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列の送信ウエイトベクトルを、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて算出する。第1の信号処理部304は、端末局装置ごとに送信信号を生成し、生成した送信信号に送信ウエイトベクトルを乗算することによって信号ベクトルを生成する。第1の信号処理部304は、同一時刻に空間多重する端末局装置について信号ベクトルを加算合成する。第1の信号処理部304は、加算合成した信号ベクトルに基づく信号を複数の端末局装置に対して同一時刻に同一周波数チャネルを用いて第1のアンテナ素子群から送信する。
第10の実施形態の第1の信号処理部304は、第1のアンテナ素子群と第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列の受信ウエイトベクトルを、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて第2の無線局装置ごとに算出する。第1の信号処理部304は、第1のアンテナ素子群を介して受信された信号に基づく信号ベクトルに受信ウエイトベクトルを端末局装置ごとに乗算することによって、端末局装置ごとに1系統の信号系列を生成する。第2の信号処理部305は、生成した信号系列に基づく信号から残留干渉成分を除去する。
すなわち、第1の信号処理部は、第1のアンテナ素子群と第2の無線局装置ごとの第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する送信ウエイトベクトルを、第2の無線局装置ごとのMIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて、同一時刻に空間多重する他の第2の無線局装置の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方のいずれかに直交する様に算出する。第1の信号処理部は、第2の無線局装置ごとに送信信号を生成し、生成した送信信号に送信ウエイトベクトルを乗算することによって送信信号ベクトルを生成する。第1の信号処理部は、同一時刻に空間多重する第2の無線局装置について送信信号ベクトルを加算合成し、加算合成した信号ベクトルの各成分に基づく信号を対応する第1のアンテナ素子から複数の第2の無線局装置に対して送信する。
また、第1の信号処理部は、第1のアンテナ素子群と第2の無線局装置ごとの第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する受信ウエイトベクトルを、第2の無線局装置ごとのMIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて、同一時刻に空間多重する他の第2の無線局装置の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方、又は、第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方のいずれかに直交する様に算出する。第1の信号処理部は、第1のアンテナ素子群を介して受信された信号に基づく信号ベクトルに受信ウエイトベクトルを第2の無線局装置ごとに乗算することによって、第2の無線局装置ごとに1系統の信号系列を生成する。第2の信号処理部は、生成した第1の信号処理部ごとの複数の信号系列に基づく信号から残留干渉成分を除去する。
これによって、第10の実施形態の基地局装置70、端末局装置60、無線通信システム90及び無線通信方法は、見通し環境が支配的な環境でMIMOによって伝送容量を増大させることが可能となる。第10の実施形態の基地局装置70、端末局装置60、無線通信システム90及び無線通信方法は、マルチユーザMIMOを実行する場合でも、見通し環境が支配的な環境で伝送容量を増大させることが可能となる。
[第11の実施形態]
[第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いたモバイル・フロントホール構成法]
(第11の実施形態に係る基本原理の概要)
第5の実施形態では、時間軸ビームフォーミングを用い、1系統のデジタルベースバンドのサンプリングデータに、アンテナ系統ごと及びサンプリング値ごとに送信ウエイトを乗算し、これにより第1特異値に対応する仮想的伝送路での伝送のための指向性形成を行っていた。ここでの送信ウエイトの乗算はサンプリングデータに直接行うことが可能であるため、図12(a)に示したモバイル・フロントホールの構成と同様に、BBU側ではデジタルベースバンドのサンプリングデータの生成までの信号処理を全て実装し、光ファイバ上では1系統のデジタルベースバンドのサンプリングデータを伝送し、残りの処理をRRH側で実施することを可能としている。RRH側では、時間軸ビームフォーミングのための送信ウエイト乗算処理が必要となるが、この送信ウエイト情報は光ファイバ上で転送し、この転送された送信ウエイトをRRH側ではデジタルベースバンドのサンプリングデータに乗算して送信するだけなので、無線通信方式に依存する処理は基本的には全てBBU側に実装されることになる。唯一、RRH内で無線通信方式に依存する要素は、送信指向性制御が周波数依存性を持たない点であり、実質的には多素子のアンテナにより非常に狭い指向性ビームを形成して通信を行うことを意味する。この指向性ビームは理想的には見通し環境にある通信の相手局に向けたビームであることが好ましいが、仮に見通しがなくても非常に強い反射波が到来する場合には、その反射点に向けた指向性ビームを形成することで対応可能である。非常に微弱ながら、非常に多くの反射波を寄せ集め、結果的にそれなりの受信レベルとなる様な状況では、第1特異値に対応する仮想的伝送路の回線利得は見通し環境に比べて劣化するが、元々、距離減衰が大きく回線設計的に厳しい高周波数帯であるため指向性利得の高いアンテナ素子を用いる傾向があり、現実問題としては非常に多数の多重反射波を活用するケースは稀であると予想される。このため、特に高周波数帯を用いる無線システムにおけるモバイル・フロントホールとしては、第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いて時間軸ビームフォーミングを行うことで、大規模アンテナを活用しながら光ファイバ上の情報伝送容量を抑えることは可能である。
なお、この送信ウエイト情報を光ファイバ上で転送する際の情報容量を見積もる。例えば、OFDMを用いる場合を考え、その際のFFTポイント数を例えば1024とする。この場合、例えば256サンプル数のガードインターバルを想定すれば、1OFDMのサンプル数は1280サンプルになる。これに対し、例えば256素子のアンテナ素子を用いる場合には、256個の送信ウエイト情報が必要になる(送信ウエイトベクトルとしては256次元であるため)。一つの送信ウエイト情報のビット数と1サンプルのビット数を同じだとすれば、丁度、送信ウエイト情報は20%分の情報に相当する。つまり、全てのOFDMシンボルごとに毎回、送信ウエイト情報を転送する場合であっても、図12(a)に示したモバイル・フロントホールの構成に比べて20%増しで収まることになる。これは、図13(a)に示したモバイル・フロントホールの構成では256倍の情報量になるのに比べれば圧倒的に少なく、概ね図12(a)に示した構成と同程度である。更に言えば、毎OFDMシンボルごとに送信ウエイト情報を転送するのではなく、数OFDMシンボルごとに送信ウエイト情報を転送することとすれば、更に送信ウエイト情報の情報量を圧縮することも可能である。ないしは、送信ウエイト情報の変更時のみに送信ウエイト情報を転送する構成としても構わない。この様にすることで、BBU側に無線伝送方式に依存する信号処理機能を集約し、RRH側には必要最小限の第1特異値に対応する仮想的伝送路を構成するための時間軸ビームフォーミング機能を実装する構成にすることが可能になる。
図76は、第11の実施形態における第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いたモバイル・フロントホールの機能分担の概要を示す図である。ここではネットワーク側からユーザに向けての方向に関する信号の伝送(BBUからRRH方向)に関する機能のみを抜粋した。図において、符号401はMAC層処理回路、符号402は送信信号処理回路、符号403は時間軸信号生成回路、符号454は光インタフェース回路、符号455は光ファイバ、符号456は光インタフェース回路、符号457は時間軸送信ウエイト乗算回路、符号427はD/A変換器、符号428はRF処理回路、符号429はアンテナ素子、符号432は送信ウエイト処理回路、符号441−4はBBU、符号442−4はRRHを表す。MAC層処理回路401、送信信号処理回路412、時間軸信号生成回路403及び時間軸送信ウエイト乗算回路457は全体で無線に関するベースバンド信号処理を行う領域446−1及び領域446−2を構成する。
図17及び図47と図76との対比で言えば、図17のMAC層処理回路78が図76のMAC層処理回路401に対応する。図17の第2の送信信号処理部71が図76の送信信号処理回路412に対応する。図47のIFFT&GI付与回路813が時間軸信号生成回路403に対応する。図47における第1の送信信号処理回路311が図76の時間軸送信ウエイト乗算回路457に対応する。図47のD/A変換器814−1〜814−N’BS−Antは図76のD/A変換器427に対応する。図47のミキサ816−1〜816−N’BS−Ant、フィルタ817−1〜817−N’BS−Ant、ハイパワーアンプ818−1〜818−N’BS−AntはRF処理回路428に対応する。アンテナ素子819−1〜819−N’BS−Antはアンテナ素子429に対応する。図47の第1の送信ウエイト処理部330は図76の送信ウエイト処理回路432に対応する。
図76において、ネットワーク側からBBU441−1に送信すべき信号が入力されると、MAC層処理回路401はMAC層の信号処理を行い、無線区間での送受信に用いるフレームフォーマットと、ネットワーク側を流れるデータのフレームフォーマットの変換・終端を行い、無線パケットのフォーマットの信号を送信信号処理回路412に入力する。送信信号処理回路412では、無線信号の送信信号処理を行う。ここでは特に無線区間の伝送方式は限定されず、例えばOFDMを用いるのであれば、必要に応じて誤り訂正の符号化、インタリーブ、サブキャリアごとの変調処理などを行う。この様にして生成した信号は、時間軸信号生成回路403にて時間軸の信号に変換される。例えば、先ほどのOFDMの場合を例に取れば、IFFTを行い周波数軸の信号を時間軸の信号に変換すると共に、ガードインターバルを挿入し、シンボル間の波形整形処理などを施す。この結果、デジタルベースバンド信号の各サンプリング値が時系列で連続する信号に変換される。一方、例えばここでは図示していないBBUの受信側の受信ウエイト処理回路において収集した受信ウエイト情報などは、同じくここでは図示していない通信制御回路などを介して(又は直接的に)送信ウエイト処理回路432に提供する。送信ウエイト処理回路432では、この受信ウエイト情報などにキャリブレーション処理を施し、送信ウエイトを算出する。時間軸信号生成回路403で生成したデジタルベースバンド信号の各サンプリング値と送信ウエイト処理回路432で算出した送信ウエイト情報とは、光インタフェース回路454にて所定のフレームフォーマットに変換され、電気信号から光信号に変換されて光ファイバ455に出力される。
光ファイバ455に出力された信号は、RRH442−4側に伝達され、RRH442−4では光インタフェース回路456にて光信号を電気信号に変換し、所定のフォーマットの信号を終端し、デジタルベースバンド信号としてサンプリング値の情報列を、更に送信ウエイト情報をそれぞれ再生する。このデジタルベースバンド信号としてサンプリング値と送信ウエイト情報とは共に時間軸送信ウエイト乗算回路457に入力される。時間軸送信ウエイト乗算回路457では、デジタルベースバンド信号としてサンプリング値にサンプリング値単位でアンテナ系統ごとの送信ウエイトを乗算する。送信ウエイトが乗算された各サンプリング値はD/A変換器427に入力され、D/A変換器427は所定のクロックレートでアンテナ系統ごとの信号をアナログベースバンド信号に変換し、RF処理回路458ではアンテナ系統ごとにアップコンバータで無線周波数の信号に変換し、アンテナ系統ごとにフィルタにて帯域外輻射信号を除去した後にアンテナ系統ごとにハイパワーアンプで増幅し、これをアンテナ素子429より空間に送信する。
以上の様に、全体で無線通信の基地局装置に相当する機能を、光ファイバにて仲介されるBBU441−4とRRH442−4とに機能を分けて収容する。ここでの特徴は、ネットワーク側の局舎内に備えるBBU441−4に無線のデジタルベースバンド信号処理が集約されているため、無線通信方式の変更が何かあったとしても、全てがBBU441−4側の変更で済むというメリットがある。
以上の説明は、図17の第1の送信信号処理部181が一つのみの場合に対応するが、当然ながら複数の第1の送信信号処理部181を備えるケースに関しても同様に構成することは可能である。図77は、第11の実施形態における複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いたモバイル・フロントホールの機能分担の概要(ダウンリンク)を示す図である。ここではネットワーク側からユーザに向けての方向(ダウンリンク)に関する信号の伝送(BBU441−5からRRH442−4a、442−4bへの方向)に関する機能のみを抜粋した。同図において、符号461はMAC層処理回路、符号462は送信信号処理回路、符号403a〜403bは時間軸信号生成回路、符号454a〜454bは光インタフェース回路、符号455a〜455bは光ファイバ、符号456a〜456bは光インタフェース回路、符号457a〜457bは時間軸送信ウエイト乗算回路、符号427a〜427bはD/A変換器、符号428a〜428bはRF処理回路、符号429a〜429bはアンテナ素子、符号470は送信ウエイト処理回路、符号441−5はBBU、符号442−4a〜442−4bはRRHを表す。
図77において、図76と同じものには同じ符号を付与している。図77のRRH442−4a〜442−4bは図76のRRH442−4と同じものが複数系統存在しているため、識別のために接尾辞a、bを付与している。時間軸信号生成回路403a〜403b、光インタフェース回路454a〜454b及び光ファイバ455a〜455bも同様に、図76と同じものRRH442−4a〜442−4bの系統数分だけ利用される。信号の処理としては図76と同一であるが、MAC層処理回路461、送信信号処理回路462は、RRH442−4a〜442−4bの系統数分だけの信号系列を処理することになる。例えば、一つの端末局装置にMIMOを利用して空間多重を行うのであれば、MAC層処理回路461は一つの端末局装置の信号としてMAC層の処理を行う一方、送信信号処理回路462では空間多重を意識して複数系統の信号にシリアル・パラレル変換して、それぞれに対して送信信号処理を行うことになる。送信ウエイト処理回路470は、例えばここでは図示していないBBUの受信側の受信ウエイト処理回路において収集した受信ウエイト情報などを、同じくここでは図示していない通信制御回路などを介して(又は直接的に)情報取得する。この複数系統分の受信ウエイト情報を基にキャリブレーションなどの処理を行い、それぞれの送信ウエイトを算出し、その送信ウエイトに対応するRRH442−4a〜442−4bに対して送信ウエイト情報を転送する。なお、送信ウエイト処理回路470は、第5の実施形態における第1の送信ウエイト処理部330、340と同様に送信ウエイトを取得してもよい。
次に、図78は、第11の実施形態における複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いたモバイル・フロントホールの機能分担の概要(アップリンク)を示す図である。ここではユーザ側からネットワークに向けての方向(アップリンク)に関する信号の伝送(RRH444−1a、444−1bからBBU443−1への方向)に関する機能のみを抜粋した。同図において、符号471はMAC層処理回路、符号472は受信信号処理回路、符号474a〜474bは光インタフェース回路、符号475a〜475bは光ファイバ、符号476a〜476bは光インタフェース回路、符号473a〜473bは時間軸受信ウエイト乗算回路、符号477a〜477bはA/D変換器、符号478a〜478bはRF処理回路、符号479a〜479bはアンテナ素子、符号480は受信ウエイト処理回路、符号481a〜481bは相関算出回路、符号443−1はBBU、444−1a〜444−1bはRRHを表す。図78は、図77に対応するものとして複数系統のRRH444−1a〜444−1bを表記したが、図76と同様に1系統のみであっても構わない。
図78において、アンテナ素子479a〜479bが信号を受信すると、RF処理回路478a〜478bではアンテナ系統ごとにローノイズアンプで信号を増幅し、ミキサにて全体で共通のローカル発振器の信号と乗算して信号をダウンコンバートし、フィルタで帯域外の信号を除去することでアナログベースバンド信号をアンテナ系統ごとに生成する。この信号をA/D変換器477a〜477bにてサンプリングを行い、アンテナ系統ごとのデジタルベースバンド信号のサンプル値のデータ列を生成する。これに対し時間軸受信ウエイト乗算回路473a〜473bは受信ウエイトを乗算して加算合成(受信信号ベクトルに受信ウエイトベクトルを乗算する)し、1系統のデジタルベースバンド信号に変換する。一方、A/D変換器477a〜477bでは、デジタルベースバンド信号のサンプル値のデータ列を相関算出回路481a〜481bにも合わせて出力する。
相関算出回路481a〜481bでは、アンテナ素子479a〜479bの中の第2〜第NAntのアンテナ素子の受信信号のサンプリング値に、それぞれ第1のアンテナ素子の受信信号のサンプリング値の複素共役値を乗算し、所定の期間の演算結果を加算する。同様に、アンテナ素子479a〜479bの第1〜第NAntのアンテナ素子の受信信号のサンプリング値にそのサンプル値の複素共役を乗算し、所定の期間の演算結果を加算する。以上の結果をもとに、式(52)で相関演算を行い、その複素共役を取ることで各アンテナ素子の受信ウエイトを算出する。なお、相関算出回路481a〜481bには、BBU443−1側の受信ウエイト処理回路480からタイミング指示の信号が、光インタフェース回路474a〜474b、光ファイバ475a〜475b、光インタフェース回路476a〜476b経由で入力される。
相関算出回路481a〜481bは、そのタイミング信号を受信するごとに式(52)を用いて相関演算を行うと共に、各加算のメモリ値のリセットを行う。相関算出回路481a〜481bは、ここで取得した相関情報を全アンテナ系列分まとめて、光インタフェース回路476a〜476b、光ファイバ475a〜475b、光インタフェース回路474a〜474b経由で受信ウエイト処理回路480に転送する。受信ウエイト処理回路480は、ここで受信した相関情報に基づいて受信ウエイト情報を算出し、算出した受信ウエイト情報を記録管理し、必要に応じて相関情報又は受信ウエイト情報を送信ウエイト処理回路470に通知して、ここでキャリブレーション処理等を行って送信ウエイト算出に利用する。
また、受信ウエイト処理回路480は、BBU443−1及びRRH442−4a〜442−4bの受信処理のスケジューリング情報を把握し(例えば、ここでは図示していない通信制御回路や、ないしはMAC層処理回路471で管理するスケジューリング情報などを参照して把握する)、どのタイミングで受信ウエイトを切り替えるべきかを判断し、その切り替えタイミングを示すタイミング指示を、光インタフェース回路474a〜474b、光ファイバ475a〜475b、光インタフェース回路476a〜476b経由で相関算出回路481a〜481bに出力する。このタイミング指示は、この光インタフェース回路474a〜474b、光ファイバ475a〜475b、光インタフェース回路476a〜476bを経由することによるタイムラグを考慮したものとなる。相関算出回路481a〜481bは、この切り替えのタイミング指示を受けると、その直前に算出していた相関情報を基に算出した受信ウエイト情報を、時間軸受信ウエイト乗算回路473a〜473bに出力する。時間軸受信ウエイト乗算回路473a〜473bでは、この切り替えの指示があるまでの間は、最後に指示された受信ウエイト情報を受信信号に乗算し続ける。
図79は、第11の実施形態における相関検出回路481(481a,481b)の概要を示す図である。同図において、符号491−2〜491−NAnt及び符号495−1〜495−NAntは乗算器、符号492−2〜492−NAnt及び符号496−1〜496−NAntは加算器、符号493−2〜493−NAnt及び符号497−1〜497−NAntはメモリ、符号498−1〜498−NAntは平方根取得回路、符号494は相関演算制御部を表す。相関算出回路481は、A/D変換器477、時間軸受信ウエイト乗算回路473、光インタフェース回路476と接続されている。更に、光インタフェース回路476、光ファイバ475、光インタフェース回路474を介してBBU443−1側の受信ウエイト処理回路480とも接続されている。
相関算出回路481は、A/D変換器477から各アンテナ系統のサンプリング値が入力されると、アンテナ素子479の中の第1〜第NAntのアンテナ素子の受信信号のサンプリング値に対し、乗算器491−2〜491−NAntにおいて、アンテナ素子479の第1アンテナのサンプリング値の複素共役値とアンテナ素子479の中の第2〜第NAntのアンテナ素子のサンプリング値を乗算し、乗算結果を加算器492−2〜492−NAntに出力する。加算器492−2〜492−NAntは、入力された値とメモリ493−2〜493−NAntの値とを加算し、加算結果をメモリ493−2〜493−NAntへ入力して記憶させる。加算器492−2〜492−NAntとメモリ493−2〜493−NAntの間で順繰りに算出値を回すことで、相関結果が順次加算され、その累積値が求められていく。BBU443−1側の受信ウエイト処理回路480から光インタフェース回路474、光ファイバ475、光インタフェース回路476を介して相関値のリセットの指示がメモリ493−2〜493−NAntに入力されると、メモリ493−2〜493−NAntは、その累積値を相関演算制御部494に出力し、自らの値をゼロにリセットする。
上述の処理と並行し、A/D変換器477から各アンテナ系統のサンプリング値が入力されると、アンテナ素子479の中の第1〜第NAntのアンテナ素子の受信信号のサンプリング値は乗算器495−1〜495−NAntにも入力され、アンテナ素子479の第1〜NAntアンテナのサンプリング値と、その複素共役値とが乗算器495−1〜495−NAntにて乗算され、サンプリング値の絶対値の2乗値が加算器496−1〜496−NAntに出力される。加算器496−1〜496−NAntは、入力された値とメモリ497−1〜497−NAntの値とを加算し、加算結果をメモリ497−1〜497−NAntに入力して記憶させる。加算器496−1〜496−NAntとメモリ497−1〜497−NAntの間で順繰りに算出値を回すことで、サンプリング値の絶対値の2乗値が順次加算され、その累積値が求められていく。
BBU443−1側の受信ウエイト処理回路480から光インタフェース回路474、光ファイバ475、光インタフェース回路476を介して相関値のリセットの指示がメモリ497−1〜497−NAntに入力されると、メモリ497−1〜497−NAntはその累積値を平方根取得回路498−1〜498−NAntに出力し、自らの値をゼロにリセットする。平方根取得回路498−1〜498−NAntは、累積値の平方根を求め、その値を相関演算制御部494に出力する。相関演算制御部494は、式(52)で相関演算を行い、更にその複素共役を取ることにより受信ウエイトを算出する。この受信ウエイト情報は、全てのアンテナ系統に関する情報を集約し、光インタフェース回路476、光ファイバ475、光インタフェース回路474を介して受信ウエイト処理回路480に転送する。同様に、この受信ウエイトは時間軸受信ウエイト乗算回路473にも入力される。
図80は、第11の実施形態における複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いた別のモバイル・フロントホールの機能分担の概要(アップリンク)を示す図である。ここではユーザ側からネットワークに向けての方向(アップリンク)に関する信号の伝送(RRH444−2a〜444−2bからBBU443−2への方向)に関する機能のみを抜粋した。同図において、符号484a〜484bは光インタフェース回路、符号485a〜485bは光ファイバ、符号486a〜486bは光インタフェース回路、符号482は受信ウエイト処理回路、符号481a〜481bは相関算出回路、符号443−2はBBU、符号444−2a〜444−2bはRRHを表す。
また、同図において、図78と同じものには同じ符号を付与している。図80と図78との差分は、時間軸受信ウエイト乗算回路473に対して入力する受信ウエイトを、BBU443−2側の受信ウエイト処理回路482から光インタフェース回路484、光ファイバ485、光インタフェース回路486を介して通知する点である。このため、直前に受信したトレーニング信号を参照して算出した受信ウエイトを必ずしも用いずに、受信ウエイト処理回路482側で管理した過去に取得した受信ウエイトを用いる様に指示することが可能となっている。
その他のバリエーションとしては、図78において、相関算出回路481a、481bに受信ウエイトの記憶・管理機能を実装し、図80の様に受信ウエイト情報をそのものを光ファイバ475で通知する代わりに、相関算出回路481で管理する受信ウエイトの識別番号などをBBU443−1からRRH444−1a、444−1bへ通知して、その識別番号を基に相関算出回路481a、481bが自らに記憶していた受信ウエイト情報を読み出して、これを時間軸受信ウエイト乗算回路473に出力するという構成でも良い。
次に、本実施形態におけるモバイル・フロントホール構成をマルチユーザMIMOに適用する場合の実施形態について説明を行う。図81は、第11の実施形態における複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いたモバイル・フロントホールのマルチユーザMIMO適用時の機能分担の概要(ダウンリンク)を示す図である。ここでは、ネットワーク側からユーザに向けての方向(ダウンリンク)に関する信号の伝送(BBU441−6からRRH442−6への方向)に関する機能のみを抜粋した。同図において、符号463は送信信号処理回路、符号464は送信ウエイト処理回路、符号465は加算合成回路、符号441−6はBBU、符号442−6はRRHを表す。
同図において、図77と同じものには同じ符号を付与している。ここまでの説明では、基本的に複数のRRHは一つの端末局装置とシングルユーザMIMOとして空間多重通信を行っても良いし、相互干渉が限定的であるものとして、異なる端末局装置と通信を行っても良いとして説明を行ってきた。これに対し、図81では一つのRRH442−6から異なる端末局装置に信号送信を行うマルチユーザMIMOに拡張しており、マルチユーザMIMOに関する第10の実施形態の説明に用いた図74を引用しながら解説する。ただし、図74に関しては必ずしも時間軸ビームフォーミングを前提とはしなかったが、ここでは時間軸ビームフォーミングを行う場合の図74の例を基に説明を行う。
マルチユーザMIMOへの対応のために、図74に示したマルチユーザMIMO適用時の基地局装置303に対応する基地局装置70の第1の送信信号処理部181の構成において、図74の第1の送信信号処理回路113−1〜113−3に対応する処理を図81の送信信号処理回路463が実施する。また、図74の加算合成回路812−1〜812−N’BS−Antに対応する処理を図81の加算合成回路465が実施する。更に図74の送信ウエイト処理部150に対応する処理を図81の送信ウエイト処理回路464が実施する構成とした。更に、加算合成回路465には、図77における複数のRRH442−4a〜442−bの時間軸送信ウエイト乗算回路457a〜457bそれぞれの出力が入力される。加算合成回路465は、同じアンテナ素子で送信される信号同士を加算合成し、加算結果をD/A変換器427aへ出力する。加算合成回路465により、2系統の送信信号が一つの信号に合成される。
また、図77の説明では、二つのRRH442−5a〜442−bは、一つの端末局装置に信号送信しても良いし、異なる端末局装置に送信しても良かったが、ここではマルチユーザMIMOであるので、異なる信号系列それぞれは異なる端末局装置に対して送信されることになる。以上の差分を除けば、図77と基本的には同様の構成で、同様の信号処理を行っている。ここで、光インタフェース回路454a〜454b、光ファイバ455a〜455b、光インタフェース回路456a〜456bに関しては、物理的に異なる光ファイバ、光インタフェース回路を経由してBBU441−6とRRH442−6の間を結ぶ場合の例を示したが、大容量の伝送を実現可能な光ファイバを用いれば、物理的には同一の光インタフェース回路、同一の光ファイバに集約して情報交換を行うことも可能である。この意味では、図81の示すものは「論理的な伝送路」と見なして理解をすれば良い。
図82は、第11の実施形態における複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いたモバイル・フロントホールのマルチユーザMIMO適用時の機能分担の概要(アップリンク)を示す図である。ここではユーザ側からネットワーク側に向けての方向(アップリンク)に関する信号の伝送(RRH444−3からBBU443−3への方向)に関する機能のみを抜粋した。同図において、符号466は受信信号処理回路、符号467は受信ウエイト処理回路、符号443−3はBBU、符号444−3はRRHを表す。同図において、図80と同じものには同じ符号を付与している。ここでの説明においても、異なる端末局装置からの信号を一つのRRHにて受信するマルチユーザMIMOへの拡張について、マルチユーザMIMOに関する説明を行う図75を用いて解説する。ただし、図75に関しては必ずしも時間軸ビームフォーミングを前提とはしなかったが、ここでは時間軸ビームフォーミングを行う場合の図75の例を基に説明を行う。
マルチユーザMIMOへの対応のために、図75に示したマルチユーザMIMO適用時の基地局装置303に対応する基地局装置70の第1の受信信号処理部186の構成において、図75の第1の受信信号処理回路114−1〜114−3に対応する処理を図82の時間軸受信ウエイト乗算回路483が実施する。第5の実施形態においては、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する仮想的伝送路を抽出する信号処理を基地局装置の第1の受信信号処理部385が行う。また、第10の実施形態の様にマルチユーザMIMO適用時には、第1の受信信号処理部186がMIMOチャネル行列の第1特異値に対応する仮想的伝送路を抽出する信号処理を行う。第1の実施形態においては、この信号処理で完全に除去できなかった干渉成分を後段の第2の受信信号処理部75にて除去している。これに対して、第11の実施形態では、受信信号処理回路466が完全に除去できなかった干渉成分を除去する2段目の信号処理を実施する。この様に2段階の信号処理を実施することで、効率的に信号分離を行うことが可能になる。
また、図75の受信ウエイト処理部170に対応する処理を図82の受信ウエイト処理回路467が実施する構成とした。更に、図75においては一つのRRH444−1内の一つの時間軸受信ウエイト乗算回路473にのみ信号出力していたのに対し、図82では一つのA/D変換器477aからの出力を、複数の時間軸受信ウエイト乗算回路483a〜483bに対して出力している。
複数の時間軸受信ウエイト乗算回路483a〜483bでは、それぞれ異なる端末局装置に対応した時間軸の受信ウエイトベクトルを同一の受信信号ベクトルに乗算する。その乗算結果は、光インタフェース回路486a〜486b、光ファイバ485a〜485b、光インタフェース回路484a〜484bをそれぞれ経由して、受信信号処理回路466に入力される。以上の差分を除けば、図80と基本的には同様の構成で、同様の信号処理を行っている。ここで、光インタフェース回路486a〜486b、光ファイバ485a〜485b、光インタフェース回路484a〜484bに関しては、物理的に異なる光ファイバ、光インタフェース回路を経由してRRH444−3とBBU443−3の間を結ぶ場合の例を示したが、大容量の伝送を実現可能な光ファイバを用いれば、物理的には同一の光インタフェース回路、同一の光ファイバに集約して情報交換を行うことも可能である。この意味では、図82の示すものは「論理的な伝送路」と見なして理解をすれば良い。
第11の実施形態の無線通信システムでは、第1の送信手段及び第3の送信手段としての光インタフェース回路454をBBUが備える。光インタフェース回路454は、時間軸信号生成回路403により生成されるサンプリングデータ列と、送信ウエイト情報(送信ウエイトベクトル)とをRRHへ送信する。また、受信ウエイト取得手段としての受信ウエイト処理回路480、482、467をBBUが備える。受信ウエイト処理回路は、RRHが端末局装置からの受信に用いる受信ウエイト情報(受信ウエイトベクトル)を取得する。受信ウエイト情報は、RRHにおいて算出される相関値に基づいて算出される。また、受信ウエイト処理回路は、RRHに対して相関値や受信ウエイト情報の算出を指示する。
また、第11の実施形態の無線通信システムでは、第2の送信手段としての時間軸受信ウエイト乗算回路473をRRHが備える。時間軸受信ウエイト乗算回路473は、A/D変換器477から出力されるデジタルベースバンド信号のサンプル値のデータ列である受信サンプリング信号ベクトル列に対して受信ウエイトをサンプリングデータごとに順次乗算し、乗算結果を加算合成して一系統のサンプリングデータ列を生成し、光インタフェース回路456を介して一系統のサンプリングデータ系列をBBUへ送信する。第4の送信手段としての光インタフェース回路456をRRHが備える。光インタフェース回路456は、相関算出回路481により算出される相関情報を全アンテナ系列分まとめて、光インタフェース回路476を介してBBUへ送信する。
また、第11の実施形態の無線通信システムでは、第1の受信手段及び第2の受信手段としての光インタフェース回路456、476をRRHが備える。光インタフェース回路456は、BBUから送信ウエイト情報(送信ウエイトベクトル)及びサンプリングデータ列とを受信する。光インタフェース回路476は、BBUから受信ウエイト情報(受信ウエイトベクトル)を受信する。受信ウエイト算出手段としての相関算出回路481をRRHが備える。相関算出回路481は、端末局装置から送信された既知の信号をアンテナ素子479それぞれで受信したときの信号に基づいて、複数のアンテナ素子479のいずれか一つを基準アンテナ素子とし、基準アンテナ素子で受信した既知の信号と他のアンテナ素子479で受信した既知の信号との所定のサンプル数に亘る相関値を算出し、算出した相関値に基づいて受信ウエイトベクトルを算出する。
以上の対応により、第11の実施形態における無線通信システムによれば、BBUからRRH方向へのダウンリンクにおいても、RRHからBBU方向へのアップリンクにおいても、更にはマルチユーザMIMOへの拡張も含めて、RRHに多素子のアンテナを備えることで光ファイバ上を流れる情報容量を膨大にすることなく、従来より僅かに情報量が増加する程度のインパクトで、モバイル・フロントホールの基本的な狙いを維持したままの機能配分の最適化が可能となり、RRHと端末局装置とが見通し環境にあり直接波が支配的な状況において帯域の拡大を実現することができる。
なお、第11の実施形態における無線通信システムでは、BBUとRRHとの間の通信媒体に光ファイバを用いる構成を説明したが、他の媒体、例えば同軸線などの電気信号を伝送する媒体や無線回線を用いる様にしてもよい。
[各種実施形態の関係に関する補足事項]
まず、本発明の実施形態は、その基本として第1の実施形態に示した複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用して、複数の信号系列を空間多重することを共通の特徴としている。具体的な各実施形態との関連を以下に整理する。
(本発明第2の実施形態との組み合わせ)
本発明第2の実施形態は、本発明第1の実施形態を効率的に実現するための、基地局装置側の第1の信号処理部の配置間隔の最適化に関する具体的な実施の形態を示すものである。第4の実施形態の場合には、基地局装置と列車との距離が時間と共に変化するために、本第2の実施形態に示した最適化条件は直接的に利用できないが、その他の実施形態においては、本第2の実施形態を活用することは可能である。具体的には、第3の実施形態においては、サテライト基地局装置と統括基地局装置は固定的に設置されているため、サテライト基地局装置を第1の信号処理部と見なし、統括基地局装置を端末局装置と見なし、サテライト基地局装置と統括基地局装置の間で複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いて空間多重伝送を行うとするならば、サテライト基地局装置を直線状に配置し、その配置条件が統括基地局装置とサテライト基地局装置との間の平均の距離に対して所定の条件を満たす様に設置すれば、第3の実施形態と第2の実施形態及び第1の実施形態を組み合わせた運用が可能である。また、図32に示した様な第3の実施形態のサテライト基地局装置を用いた場合の例に対し、サテライト基地局装置の代わりに純粋に第1の実施形態を用いて本技術をアクセス系に適用する場合の図83に示す利用形態においては、第1の信号処理部と地上の端末局装置との間の平均的な距離に対し、第2の実施形態で示した第1の信号処理部の配置間隔の最適化を行えば、完全な直交条件からは外れるものの、概ね良好な直交関係は維持できることから、各端末局装置と基地局装置との間の通信を安定化させることが可能になる。このため、本技術をアクセス系に適用する場合でも、第2の実施形態と第1の実施形態を組み合わせた運用は可能である。このアクセス系への適用という意味では、第8の実施形態及び第10の実施形態も該当しており、これらの実施形態に更に第2の実施形態と第1の実施形態を組み合わせた運用も可能である。
なお、第2の実施形態の説明において、例えば図29では基地局装置側のアンテナ素子をパラボラアンテナに置き換えて説明を行った通り、端末局装置側は複数のアンテナ素子を備えている状況を想定しながらも、基地局装置側は第1の実施形態の第1の信号処理部に示した様な多素子アンテナ群を必ずしも備える必要はなく、超高利得な1本のアンテナ素子で実質的に端末局装置側は複数のアンテナ素子との組み合わせで第1特異値に対応する仮想的伝送路を構成することは可能である。
(本発明第3の実施形態との組み合わせ)
上述の様に、第4の実施形態の場合には列車側の端末局装置と基地局装置間の直接的な通信に特化されるため、2ホップの中継伝送を行う本発明第3の実施形態との組み合わせは考えにくいが、本発明第3の実施形態と第2の実施形態の組み合わせが可能であると同様に、第4の実施形態の他の運用条件においてはその他の実施形態との組み合わせに関しても適用可能である。例えば、第1の実施形態をシングルユーザMIMO伝送で行うだけでなく、第10の実施形態に示す様にマルチユーザMIMO伝送に拡張可能な様に、第3の実施形態に第10の実施形態(及び第1の実施形態)を組み合わせ、第3の実施形態のサテライト基地局装置を活用しながら、マルチユーザMIMOを実現することも可能である。
(本発明第4の実施形態との組み合わせ)
上述の様に本発明第4の実施形態は一種独特な利用形態ではあるが、ここでは第5の実施形態に示す時間軸での指向性形成の信号処理を組み合わせて行っても良いし、そのチャネル推定の処理において、本発明第6及び第7の実施形態と組み合わせて利用することも可能である。ここではあくまでも、列車側の1台の端末局装置と基地局装置の間の1対1の通信を例に説明をしており、この意味でシングルユーザMIMO伝送が基本となるのであるが、例えば複数の列車が同一区間に同時に存在する様なケースにおいては、それらの列車ごとに周波数チャネルを変えて棲み分ける以外にも、第10の実施形態に示したマルチユーザMIMOを組み合わせて利用すれば、同一チャネルで複数の列車との通信を同時並行的に実現することが可能になり、これにより周波数資源を有効活用することは可能である。
(本発明第5の実施形態との組み合わせ)
本発明第5の実施形態の意図する技術は、無線通信方式としてシングルキャリア伝送のシステムであったりOFDMなどのマルチキャリアのシステムであったり、如何なる条件のシステムにも適用可能である。OFDMなどの周波数軸上の信号処理を前提とするシステムの場合には、本発明第5の実施形態の適用の直接的なメリットは少ない(ただし、FFT回路及びIFFT回路の実装数を抑えることは可能)が、例えば第11の実施形態の様にモバイル・フロントホールでRRH側に大規模なアンテナを実装する場合には、OFDMなどのマルチキャリアのシステムであっても、光ファイバ上で伝送する情報容量を圧縮しながら大規模なアンテナに拡張するために、時間軸上の信号を光ファイバ上で伝送し、RRH側では第5の実施形態に示す時間軸ビームフォーミングを利用することになる。この意味で、第11の実施形態は第5の実施形態(及び第1の実施形態)を組み合わせて運用することを前提としている。
(本発明第6及び第7の実施形態との組み合わせ)
本発明第6の実施形態及び第7の実施形態は、指向性形成に用いるチャネル情報のフィードバックのための手段を示す実施形態であり、本発明の全ての実施形態において組み合わせて利用可能である。これは、第1の実施形態の説明で用いた典型的な固定設置型の端末局装置においても利用可能であるし、アクセス系においてチャネルが時変動する環境においても適用可能である。本発明の第8の実施形態では、特にアクセス系においての利用を想定し、複数の隣接セルや同一セル内の複数の端末局装置間で同時にチャネル推定を実施するための具体的な構成法を示したものであり、本発明第6の実施形態及び第7の実施形態の組み合わせを想定した実施形態となっている。更に、通常であればチャネル推定における回線利得が不足する第4の実施形態に示す列車側の端末局装置と基地局装置との間のチャネル推定にも回線利得向上のために利用可能であり、第4の実施形態に本発明第6の実施形態及び第7の実施形態(及び第1の実施形態)を組み合わせて運用することも可能である。
特に第6の実施形態と第7の実施形態を直接組み合わせる具体的な実施形態としては、端末局装置又は基地局装置のアンテナ素子間で、サブキャリアの重複を避けて離散的なサブキャリアにトレーニング信号に割り当てる場合、端末局装置又は基地局装置の各アンテナ素子が同一の仮想的アンテナ素子より送信されたものとみなし、複数の異なるアンテナ素子からの複数のサブキャリアに対して取得した相対チャネル情報に対し、最小二乗法などを用いてトレーニング信号の割り当てのないサブキャリアを含めた相対チャネル情報を取得し、この相対チャネル情報を基にその相対チャネル情報の複素位相差をキャンセルする受信ウエイト(及びキャリブレーション処理により送信ウエイトも取得可能)を算出することが可能である。
(本発明第11の実施形態との組み合わせ)
本発明第11の実施形態は、本発明第1の実施形態における第1の信号処理部と第2の信号処理部を隔離し、その間を光ファイバを用いて運用する形態と類似している。ただし、第1の実施形態では送信及び受信の指向性形成の各種信号処理を第1の信号処理部に集約していたのに対し、第11の実施形態では第2の信号処理部に対応するBBU側に集約したものとなっている。しかし、複数の第1の特異値に対応する仮想的伝送路を積極的に活用して空間多重伝送を行う場合には、その基本原理を共用することになり、この点で第11の実施形態と第5の実施形態と第1の実施形態の組み合わせに対応した運用(第1の信号処理部の配置は厳密には異なるが、第1特異値に対応した仮想的伝送路を活用する意味では第1の実施形態に対応すると考えられる)となっている。また、第11の実施形態でも示した様に、第10の実施形態に示したマルチユーザMIMO伝送への拡張も可能であり、この場合には第11の実施形態と第10の実施形態と第5の実施形態と第1の実施形態の組み合わせに対応した運用となっている。なお、上述の様に第4の実施形態に示す列車ムービングセルに関しても、第11の実施形態を利用して複数の第1の信号処理部をRRHと見なし、光ファイバを介してBBU側の第2の信号処理部との間で情報交換する構成とすれば、第11の実施形態と第4の実施形態と第1の実施形態の組み合わせに対応した運用とすることも可能である。当然、これに複数の列車の端末局装置を含むマルチユーザMIMOを組み合わせれば、同時に第10の実施形態を組み合わせることとなる。
以上示した様に、本発明の各種実施形態は相互に組み合わせて運用することが可能である。
[本発明に係る実施形態のその他の補足事項]
以下に、本発明に係る実施形態に関する幾つかの補足事項を説明する。
本発明の各実施形態の説明では、受信側のアンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)と送信側のアンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)には、それぞれ異なる番号を振って個別に説明を行っているが、当然ながら送信系と受信系にTDD−SWなどを介して共通化したアンテナ素子(851−1〜851−(N’BS−Ant)又は819−1〜819−(N’BS−Ant))として扱うことも可能である。特に、インプリシット・フィードバックを行う場合には、送信系と受信系のアンテナの共用化は必須であり、アップリンクとダウンリンクを時間的に切り替えるTDD制御が基本となる。ここでのTDD−SWの切り替えは、通信制御回路120等により管理・制御されることになる。
また、基地局装置に関する受信側のアンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)及び送信側のアンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)と、端末局装置に関する受信側のアンテナ素子851−1〜851−(NMT−Ant)及び送信側のアンテナ素子819−1〜819−(NMT−Ant)とでは、それぞれ説明を簡単化するために共通の番号を使用して説明をしている。しかし、基地局装置に関するアンテナ素子のサイズや指向性利得などの要求条件と、端末局装置のアンテナ素子のサイズや指向性利得などの要求条件は一般には一致せず、機能としては同一であるために番号としては同一の番号を付与したが、実際の運用ではサイズや指向性利得などの点で異なる条件のアンテナ素子を利用しても構わない。その他の回路としても同様で、それぞれ説明を簡単化するために共通の番号を使用して説明をしているが、例えばハイパワーアンプ818−1〜818−(N’BS−Ant及びNMT−Ant)、ローノイズアンプ852−1〜852−(N’BS−Ant及びNMT−Ant)などにおいても、同様にアンプの増幅率、消費電力、サイズや許容発熱量などの要求条件要求条件は一般には一致せず、機能としては同一であるために番号としては同一の番号を付与したが、実際の運用では異なる条件の回路を利用しても構わない。
また本発明の実施形態における送信ウエイトベクトルとは、送信ウエイト行列の各列ベクトル(又は一部の列ベクトル)を意味し、同時に空間多重する信号系列のひとつに着目したベクトル表記された送信ウエイトである。具体的には、複数の信号系列を空間多重する際の送信ウエイト行列の各列ベクトルは、複数の信号系列の中のある信号系列に着目したウエイト(送信ウエイトベクトルの成分)をベクトル表記したもので、空間多重する端末局装置のチャネルベクトルないしはチャネル行列を基に全体の送信ウエイト行列生成の過程で順次取得されるものである。したがって、送信ウエイトベクトルの生成(及び、「算出」「決定」「乗算」「成分」などの言葉が後続する場合も同様)とは、全体としては送信ウエイト行列の生成と等価であり、特にその行列の行ベクトルないしは列ベクトルを順番に生成する手順を意識した際に、「送信ウエイト行列の生成」と等価な意味で「送信ウエイトベクトルの生成」の様に標記している場合もある。
また同様に、本発明の実施形態における受信ウエイトベクトルとは、受信ウエイト行列の各行ベクトル(又は一部の行ベクトル)を意味し、同時に空間多重された信号系列のひとつに着目したベクトル表記された受信ウエイトである。具体的には、複数の信号系列が空間多重された際の受信ウエイト行列の各行ベクトルは、複数の信号系列の中のある信号系列に着目したウエイト(受信ウエイトベクトルの成分)をベクトル表記したもので、空間多重された端末局装置のチャネルベクトルないしはチャネル行列を基に全体の受信ウエイト行列生成の過程で順次取得されるものである。したがって、受信ウエイトベクトルの生成(及び、「算出」「決定」「乗算」「成分」などの言葉が後続する場合も同様)とは、全体としては受信ウエイト行列の生成と等価であり、特にその行列の行ベクトルないしは列ベクトルを順番に生成する手順を意識した際に、「受信ウエイト行列の生成」と等価な意味で「受信ウエイトベクトルの生成」の様に標記している場合もある。
また更に、本発明の実施形態における「送信ウエイトベクトル」、「受信ウエイトベクトル」、「チャネル(情報)ベクトル」、「送信信号ベクトル」、「受信信号ベクトル」など、様々な形で「ベクトル」との表記をしているが、これらは全て各アンテナ素子に対応したところの「送信ウエイト」、「受信ウエイト」、「チャネル(情報)」、「送信信号」、「受信信号」を成分とするベクトルであり、各実施形態の中で明示的に「ベクトル」との記載がなくても、当該実施形態においてそれらを成分とするものがそれらの「ベクトル」であることは明らかであり、必要に応じてこれらの内容を補って理解されるべきである。更に、「送信信号ベクトル」、「受信信号ベクトル」における「送信信号」及び「受信信号」とは、各アンテナ素子に対応した、ないしは各アンテナ素子に基づく送信又は受信信号であり、実際に送受信される無線周波数のアナログではなく、デジタル化されたベースバンド(又は中間周波数)の信号でもよい。この信号とは、周波数軸上の信号及び時間軸上のサンプリング信号の両方を含むものである。したがって、以上の実施形態の説明では明示的な記載を省略した部分もあるが、これらの信号は無線周波数で送受信される信号そのものだけではなく、これらの信号と無線周波数で送受信される信号との間では、何らかの信号処理が施されていても構わない。
また、本発明の実施形態におけるチャネル推定に関する説明では、1回のチャネル推定でチャネル情報を取得する場合に加えて、複数回のチャネル推定結果を平均化する場合についても説明している。例えば大規模なアンテナ素子を活用することによる回線利得を考慮すれば、1本アンテナと1本アンテナの間の回線設計においては回線利得は不足していても問題ない一方、その大規模アンテナによる指向性利得を稼ぐためには適切な送受信ウエイトが必要であり、その送受信ウエイトの算出に必要なチャネル情報は基本的に1本アンテナと1本アンテナとの間のチャネル推定結果に基づくため、ここで回線利得が不足するとその後の指向性利得を得ることができなくなってしまう。このための対策として、非特許文献2などではトレーニング信号を複数シンボル受信し、その受信信号の平均化処理により回線利得の不足を補っていた。この複数回の推定結果の平均化としては、数シンボルに渡り周期的なトレーニング信号が連続する場合において、その周期性を活用して数シンボルに渡る短時間平均化を行う手法と、離散的な時刻において行われるチャネル推定結果を複数回分だけ寄せ集めて平均化を行う長時間平均化を行う手法がある。ここで短時間平均化の場合には、平均化を行う複数シンボルは連続しているが故に、全てシンボルタイミングがその周期性故に保存しているものと考えられるため、特に基準となるアンテナ素子の複素位相を基準とする相対チャネルとして扱う必要はなかった。これに対し、離散的な時刻において行われるチャネル推定結果に関しては、そのシンボルタイミングが同一となる必然性が一般的にはないため、そのシンボルタイミングの誤差に伴う影響を排除するために、相対チャネル情報を取得して平均化する構成を取る必要があった。この場合、基準となるアンテナ素子のチャネル情報の複素位相は全てゼロ(すなわち実数値を取る)であるものと見なされる。これらの相対チャネル情報の算出においては、全てのアンテナ素子のチャネル情報に、基準アンテナの複素位相θに対してExp(−jθ)を乗算する他、全てのアンテナ素子のチャネル情報を、基準となるアンテナ素子のチャネル情報で除算する形で求めても良い。この様な相対チャネル情報の活用は、一般にはシンボルタイミングが異なるチャネル推定結果の平均化には必須であるが、シンボルタイミングが共通となる場合には、一般的には送受信ウエイトの算出に際して相対チャネル情報を用いる必要はない。単純に、取得したチャネル情報に対して式(1)や式(7)などを用いて送受信ウエイトを計算すれば良かった。しかし、仮にシンボルタイミングが共通となる場合であっても相対チャネル情報を活用しても全く問題は生じないため、上述の説明としては時として相対チャネル情報として説明を行ったり、単純なチャネル情報をそのまま用いて説明している場合がある。しかし、その差は上述の様な差であり、相対チャネル情報を用いることが必須である訳ではない。
また相対チャネル情報とは、基準アンテナの複素位相を基準として複素位相に補正を加えたチャネル情報として扱うことも可能であるし、振幅まで含めて基準となるアンテナのチャネル情報で各アンテナ素子のチャネル情報を除算したものであっても良い。各相対チャネル情報の振幅は、例えば式(7)で表される最大比合成の受信ウエイトの時には意味を持つが、式(1)で表される等利得合成の送受信ウエイトの場合には意味を持たない。更に、実際的には見通し環境ではアンテナごとの振幅の偏差は極めて限定的なことが期待され、その場合には全てを同一の振幅と近似しても大きな差はない。そもそも、送受信ウエイトの絶対値には大きな意味はなく、有限の量子化ビット数の中で効率的な値となる様に別途最適化される必要はあるが、その様な量子化ビット数に係る議論は本発明の実施形態とは全く別の議論であり、既存の技術の中で最適化を図れば良い。その意味で、送受信ウエイトベクトルのベクトルとしての大きさ(絶対値)はここでは特別な意味は持たず、任意の係数を乗算した送受信ウエイトベクトルもその統計的な性質は保存されるものとしてここでは説明を行っている。
以上の相対チャネル情報を用いることで、本発明の実施形態では各種信号処理を簡易化することができる。一方、従来のMIMO伝送技術では、例えば受信ウエイト行列の乗算処理が直接的に信号検出に適した状態に変換する処理までを含むものとして説明されることが多かった。つまり、SISOの信号であっても信号検出処理のためには、受信信号をチャネル推定結果で除算し、チャネルの歪を受けた受信信号からI、Q軸を正しく設定したコンスタレーション上の信号点に変換する必要があった。本発明の実施形態において、第1の信号処理部で行う送受信ウエイトの乗算処理とは、あくまでも指向性利得の確保と大雑把な信号分離のための信号処理を主なる目的としており、この様に送受信ウエイトの乗算により多数のアンテナ素子をあたかも1本の仮想的アンテナ素子として扱うことを可能とするだけで、受信信号をチャネル推定結果で除算し、チャネルの歪を受けた受信信号からI、Q軸を正しく設定したコンスタレーション上の信号点に変換する処理までは含んでいない。しかし、受信側においてはその後段において、信号検出などの処理を行うことも可能であり、これらの処理は従来のMIMO伝送ないしはSISO伝送で行う信号処理と同一の信号処理を適用することが可能である。特に基地局装置の受信系では、第2の信号処理回路において、これらの処理が実施されることになる。
また、送信局側の異なるアンテナ素子から、限定的なサブキャリア成分より構成されるトレーニング信号を、各アンテナ素子で割り当てられるサブキャリアの重複を避けて送信する場合、周波数軸上での重複がない核トレーニング信号は空間上で合成されて、受信局側ではより多くのサブキャリア成分を含むトレーニング信号として受信されることになる。この意味で、受信局側では送信側の各アンテナ素子で送信したトレーニング信号とは異なるが、空間上で合成されたトレーニング信号(「合成トレーニング信号」と呼ぶ)をあたかも通常のトレーニング信号と見なして信号処理を行うことが可能になる。この様な合成トレーニング信号の利用に際しても、チャネル情報を基準となるアンテナ素子との相対値である相対チャネル情報に変換して利用することが有効である。
また以上の説明においては、簡単のためサブキャリアを表すk(例えば第k周波数成分等)を省略したり、更には個別のサブキャリアに関する説明も省略されているところがあるが、本発明の実施形態の想定するシステムは広帯域のシステムであり、チャネル情報や送受信ウエイト、更には送信信号や受信信号などにおける全ての信号処理は、第5の実施形態における時間軸上での信号処理などを除き、基本的には周波数軸上でサブキャリアごとに個別に規定され処理されるべきものである。したがって、説明を簡略化する上で、多くの説明においてサブキャリアを明示的に表す添え字を省略して説明していた。しかし、これらの説明は、実際にはサブキャリアごとに個別に行われるものであり、その際にはサブキャリアを表す添え字を付加して理解すれば説明を厳密に解釈可能である。各信号処理回路の内部では、例えば送信側におけるIFFT処理の前段までの信号処理(一例としてOFDM変調方式を想定すれば、ビット列のインタリーブ処理、信号点のマッピング、信号の変調処理、送信ウエイトベクトルの乗算などを含む)は全てサブキャリアごとに行われるものであり、同様に受信側におけるFFT処理後の信号処理(同じくOFDM変調方式を想定すれば、受信ウエイトの乗算、信号検出処理、信号のデマッピング、デインタリーブ処理など)も全てサブキャリアごとに行われるものである。
また回路構成上は、それぞれのサブキャリアごとに個別の回路を備えてもよいし、同一の処理を実施することからサブキャリアごとにシリアルに順番に処理を行い、回路をサブキャリアに対して共用化することも可能である。更には、この中間的に、複数の回路を用意して、サブキャリアを適宜分割し、複数の回路でパラレルな処理をシリアルに実施する処理としても構わない。これらは全ての実施形態に共通する話である。
また、OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末局装置との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイト(平均化送受信ウエイトベクトル及びリアルタイム送受信ウエイト行列)は全サブキャリアで共通の組み合わせの端末局装置に対する送受信ウエイトを用いることになる。しかし、OFDMAでは、時間軸及び周波数軸上にパッチワーク状に異なる組み合わせの端末局装置への割り当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)及び周波数(サブキャリア)ごとに、割り当てられている端末局装置に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAとは全く同様に処理することが可能であり、本明細書ではOFDMを中心に説明を行ったが、OFDMAにおいても全く同様に本発明の実施形態を適用することができる。
また、SC−FDEに関しても様々な運用上のバリエーションが存在するが、送信側で送信ウエイトベクトルを乗算し、各アンテナ素子から送信された信号が空間上で合成された後の受信信号処理、及び受信側で受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子の信号が加算合成された後の受信信号処理のいずれにおいても、上述の各構成例では従来のSC−FDEで行われる処理をそのまま適用可能とする構成としているために、全てのバリエーションのSC−FDEに適用可能である。この場合には、OFDM変調方式の信号処理の代わりにシングルキャリアでの信号処理を行った後、ダウンリンクであればシングルキャリアの時間軸上の信号に対してFFT処理を施すことで各サブキャリアの信号成分を生成し、これらの信号成分をOFDM変調方式で生成される各サブキャリアの信号と見なして本発明の実施形態により生成された送信ウエイトベクトルを乗算すれば良い。同様にアップリンクであれば、受信信号をFFT処理した信号をOFDM変調方式の場合と同様に扱い、本発明により生成された受信ウエイトベクトルを乗算することで信号分離するが、その信号分離されたサブキャリアの信号に対してIFFT処理を施すことで時間軸上のシングルキャリアの信号に変換すれば良い。この様に一部の信号処理にOFDM変調方式とSC−FDEでは差異があるが、送受信ウエイトの生成と乗算処理などは共通であり、これらどちらの信号方式であっても本発明の実施形態は適用可能である。
また、空間多重伝送では複数系列の信号がパラレル伝送されるが、これらの信号系列に対して行う誤り訂正などの処理は、上述の実施形態ではそれぞれの信号系列ごとに独立に施す場合を例に取って説明したが、当然ながら送信側において誤り訂正符号化後の信号をシリアル/パラレル変換して空間多重する信号系列に分離し、受信側においては誤り訂正処理を行う前の状態の信号に対してパラレル/シリアル変換を施し、その後に1系統のビタビ復号などの誤り訂正処理を施しても構わない。更にはその他のバリエーションも含めて本発明の実施形態の本質とは関係なく、任意の誤り訂正処理を行っても構わない。この場合、MAC層処理回路と第2の信号処理部などとの信号の交換は空間多重数系統にて行われるのではなく、例えば1系統の信号として情報交換が行われたりすると共に、シリアル/パラレル変換及びパラレル/シリアル変換や、誤り訂正に対応する機能などが第2の信号処理部などに含まれることになる。
また、上記の説明では特異値分解の右特異ベクトルを活用する旨説明をしたが、特異値分解対象の行列を転置した行列を特異値分解した左特異ベクトルは、転置しない行列に対する特異値分解の右特異ベクトルと等価である。同様に、元のチャネルベクトルにエルミート共役のベクトルを乗算して固有値分解を行っても、右特異ベクトルないしは左特異ベクトルと等価なベクトルを求めることが出来る。この意味で「右特異ベクトル」に数学的に等価なベクトルを活用する場合も、本発明の実施形態の意図する「右特異ベクトル」の範囲となる。同様に、左特異ベクトルに数学的に等価なベクトルを活用する場合も、本発明の実施形態の意図する「左特異ベクトル」の範囲となる。
更に、上記の説明では基地局側の各第1の信号処理部と端末局装置との間では、第1特異値に対応する仮想的伝送路のみを利用し、第2特異値以降の特異値に対応する仮想的伝送路は利用しないとして説明したが、例えばV偏波とH偏波などの複数の偏波に関する共用アンテナを利用する場合などは、一つの第1の信号処理部においてそれぞれの偏波アンテナにおいて第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用することになるため、形式上は一つの第1の信号処理部において二つの特異値に対応する仮想的伝送路を活用していることに相当する。特に、若干の偏波間の漏れ込みが存在する場合には、2種類の偏波アンテナの全てを第1の信号処理部が一括で収容及び信号処理することで偏波間のクロストーク成分を抑圧することが可能になり、即ち第1特異値と第2特異値に対応する仮想的伝送路を利用することが伝送効率的には優れることになる。この場合、数学的な表現上は第1特異値と第2特異値を活用することに相当するが、実効上は、各偏波アンテナ群ごとに第1特異値に対応した仮想的伝送路を利用することに相当する。本発明の意図するところは、この様な偏波アンテナを活用する場合の様に相互に相関が非常に低いことが予想される複数のアンテナ群を利用する場合においては、信号処理的ないしは回路的には同一の第1の信号処理部にて活用する場合でも、それぞれのアンテナ群に対して実効的に対応する第1特異値に対応する仮想的伝送路を並列的に活用する場合を含め、実効的な意味での第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用した空間多重伝送を複数の第1の信号処理部を用いて伝送するところにある。また、基地局装置が備える複数の第1の信号処理部においては、それぞれ個別のローカル発振器信号を用いてベースバンドと無線周波数間のアップコンバート及びダウンコンバート処理を行うことを基本とする。ただし、それぞれのローカル発振器の信号は可能な限り準同期的に振る舞うことが好ましく、このために共通の基準クロックなどの基準信号を第3の信号処理部から供給しても構わない。ないしは、第2の信号処理部から中間周波数の基準信号を第1の信号処理部に供給し、それを例えば逓倍処理することでベースバンドと無線周波数間のアップコンバート及びダウンコンバートを行うための無線周波数の信号を生成することも可能である。ここで用いる中間周波数の値、及び逓倍処理を行う回路の安定性次第では、送信信号処理においても複数の第1の信号処理部間の無線信号の複素位相の不確定性が限定的である場合もあり、この場合には第2の信号処理部における複数の第1の信号処理部間のプリコーディング処理を実施することも可能になる。しかし、基本的には少なくとも第2の信号処理部から複数の第1の信号処理部に供給される基準信号は、第2の信号処理部における複数の第1の信号処理部間のケーブル上での損失を低減するために、ベースバンドと無線周波数間のアップコンバート及びダウンコンバート処理に用いるローカル信号の周波数の1/2以下とすることが基本となり、この意味でローカル発振器は複数の第1の信号処理部間で独立となる。ただし、基地局装置と端末局装置が近距離で配置される場合には、式(29)のLが小さくなり、結果的に第1の信号処理部間の間隔を短縮することが可能であり、ケーブル損失の値次第では、第2の信号処理部からローカル発振器の信号を複数の第1の信号処理部に対して直接供給する構成とすることも可能である。
また、第3の実施形態を実現する上で統括基地局は、サテライト基地局装置と統括基地局間の通信を管理するのみならず、サテライト基地局装置と端末局装置間の通信も合わせて管理を行うことになる。上述の様に、複数のサテライト基地局装置の中から着目する端末局装置にとって相関の低い通信を行うことが可能なサテライト基地局装置を選択して通信を行う場合などは、統括基地局装置が利用すべきサテライト基地局装置をスケジューリング処理として選択し、その選択結果をサテライト基地局装置に指示して通信を行うことになる。更には、図33に示す様に複数のスモールセルにまたがった通信を行う場合などは特に、利用するサテライト基地局装置との距離にばらつきが見られ、回線設計上の利得差がある場合などは、送信電力制御などの管理が必要になる場合もある。これらの管理機能は統括基地局装置側で実装し、各種無線通信制御を安定的に実現することになる。
また、第10の実施形態の説明においては、BBU内の送信ウエイト処理回路432、464、470から光ファイバ455、455a、455bを介してRRH側に送信ウエイトを通知する構成とすると共に、BBU内の受信ウエイト処理回路467、480、482から光ファイバ475a、475b、485a、485bを介してRRH側に受信ウエイトを通知及びRRH側の相関算出回路481a、481b、483a、483bから光ファイバ475a、475b、485a、485bを介してBBU側に受信ウエイト情報又は受信側のチャネル情報を通知する構成を示したが、ここでBBUとRRH間で交換される情報は必ずしも送受信ウエイト情報そのものをデジタル的に表記したものである必要はない。例えば、RRH側が送受信時に利用するビームパターンがメニュー化されており、各ビームパターンに対応させて多数の送受信ウエイトを形成するための係数がRRH内でリスト化されているのであれば、そのビームパターンの識別子としての番号をコードブックとして管理し、そのコードブック値をBBUとRRH間で交換しても構わない。この場合には、RRH側の相関算出回路481a、481b、483a、483bでは、算出された各アンテナ素子ごとの相関値をコードブック上の係数と比較し、最も係数との誤差が小さいコードブック値を選択する機能と、その選択されたコードブック値を通知する構成とすることも可能である。
更に、特に本発明をアクセス系で利用する場合などでは、基地局装置のアンテナ設置位置が低所に設置されている場合などにおいて、端末局装置のアンテナ素子と基地局装置のアンテナ素子が見通し環境にない条件下でも安定して通信を行えることが求められる場合がある。この場合には、第1特異値の第2特異値以降に対する優位性が薄れ、結果的にアンテナ素子全体を複数のグループに分割して信号処理することによる分割損の影響で、十分な利得を確保できない場合も考えられる。この様な場合、例えば複数の第1の信号処理部に分割した場合よりも従来通りに全てのアンテナ素子を一か所に集約し、普通にMIMO伝送を行った方が特性的には優れることが予想される。この様な場合も含めてシステムを設計する場合、一例としては複数の第1の信号処理部の中の一部(例えばひとつ)に他の第1の信号処理部よりもアンテナ素子数を多く実装し、状況に応じてその特殊な第1の信号処理部にて第2特異値以降をも活用したMIMO伝送を行う場合と、各第1の信号処理部がそれぞれ第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いてMIMO伝送を行う場合とを、モード切替しながら運用することも可能である。例えば、この特殊な第1の信号処理部のアンテナ素子数を256素子、その他の第1の信号処理部のアンテナ素子数を64とし、端末装置との見通しが概ね確保できると判断された場合には第1特異値に対応する仮想的伝送路を四つ利用して4多重を行い、見通しが確保できない場合には特殊な第1の信号処理部の256素子アンテナ素子を用いて通常のMIMO通信を行っても良い。この時、この特殊な第1の信号処理部は他の複数の第1の信号処理部の近傍に設置されている必然性はなく、例えば特殊な第1の信号処理部は低所に、残りの複数の第1の信号処理部は高所に設置するなど、物理的に明確な差を設けても構わない。この場合、低所に設置した特殊な第1の信号処理部は端末局装置との見通しが確保されている可能性が低いのであれば、第1特異値に対応した仮想的伝送路を活用するのは高所に設置した第1の信号処理部のみとしても構わない。これらを適宜、モード切替をするなどすれば、環境に対応して最適な条件にて常に通信を行うことが可能である。なお、この特殊な第1の信号処理部に対応した装置は必ずしも同一の第2の信号処理部に収容されている必要はない。例えば、本発明実施形態に示す第1特異値に対応した仮想的伝送路を活用したMIMO伝送を行う基地局装置とは別に、第2特異値以降も活用する従来の基地局装置をもその近傍に設置し、両者が協調しながら状況に応じて端末局装置が最適な基地局装置を選択して通信を行う構成とすることも可能である。
また、第2の実施形態においては、基地局装置側の第1の信号処理部又は指向性アンテナ素子を直線上に配置する場合に関する規定を行ったが、その他の実施形態においては第1の信号処理部の配置は直線上に配置される必然性はなく、2次元的な広がりを持つ配置であっても構わない。特に本発明をアクセス系で利用する場合などは、ビルの壁面への第1の信号処理部の配置を2次元的に配置することで、各第1の信号処理部間の相関を低減することも可能となる。
なお、以上に説明した各実施形態では、Massive MIMOのインプリシット・フィードバックを前提とした構成について説明した。しかし、厳密にはMAC効率を無視して議論すれば、制御情報を用いてエクスプリシット・フィードバックを用いる方法でも問題はない。
また、以上の説明においては送受信信号と送受信ウエイトの乗算処理はベースバンド上で行うこととして説明を行ったが、それは典型的な信号処理を示すものであり、それと等価な信号処理をベースバンド信号と無線周波数のRF信号の間の中間的なIF(Intermediate Frequency)信号上で実施することも当然ながら可能である。信号処理的にはより低い周波数帯で処理を行う方が簡易ではあるが、第5世代移動通信ではミリ波帯などの高周波数帯で、数百から1GHzもの帯域幅で通信を行うため、中心周波数を数GHzのIF帯で処理を行っても処理の困難さは大きく変わらない。本発明明細書におけるベースバンド信号ないしはベースバンド帯とは、デジタル信号処理を行うことが可能な周波数帯という広義の意味で用いており、この意味では狭義の意味でのベースバンド帯とは異なるIF帯での信号処理であっても、本質的に本発明を適用することは可能であり、本発明の請求の範囲はこの様な広義のベースバンド信号、ベースバンド帯を含むものである。
また、本発明では無線局装置が備えるアンテナ素子の数が膨大であるために、その内の例えば若干の本数のアンテナ素子を例外的な信号処理の対象としても、残りの大多数のアンテナ素子の効果により概ね期待する特性を得ることが可能である。しかし、この様な一部のアンテナ素子を例外的に処理したとしても、大勢的には残りのアンテナ素子を用いた信号処理の結果が特性の大勢を決めることになるため、この様な一部の例外処理の適用を行ったとしても、その例外適用による拡張効果が得られることなく寧ろ効果が制限されるのであれば、本発明の請求の範囲とするべきである。
前述した実施形態における基地局装置、端末局装置をコンピュータで実現する様にしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線の様に、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリの様に、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、更に前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。