以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。以下では、同様の機能を有する機能部YがZ個ある場合、z番目(z=1,…,Z)の機能部Yを機能部Y−zと記載する。機能部Y−1〜Y−Zを総称する場合、又は、特に区別しない場合には、機能部Yと記載する。
[本発明の背景技術]
見通し波が支配的な環境での空間多重伝送手段として、非特許文献1では以下の技術を紹介している。この技術では、無線エントランス基地局装置側をサブアレー化する。そして、無線エントランス基地局装置の各サブアレーと中継局装置のアレーアンテナの間の部分MIMOチャネル行列に対し、第1固有モードの送受信ウエイトを抽出する。無線エントランス基地局装置の各サブアレーは、それぞれの第1固有モード伝送を並列的に行う。非特許文献1には、この際に無線エントランス基地局装置の各サブアレーを等間隔で配置する場合のサブアレー間距離の最適値についても示されている。
図10は、無線エントランス基地局装置の100本のアンテナ素子が等間隔に配置されたリニアアレーの例を示す図である。図10において、符号40は無線通信システムであり、符号301は無線エントランス基地局装置であり、符号302は中継局装置である。図10では、無線エントランス基地局装置301の100本のアンテナ素子は、リニアアレー状に実装されている。無線エントランス基地局装置301の100本のアンテナ素子は、長さD1にわたって等間隔に配置されている。また、中継局装置302の16本のアンテナ素子は、長さD2にわたってリニアアレー状に等間隔に配置されている。
図11は、無線エントランス基地局装置の100本のアンテナ素子が25本ごとの4個のグループに分けて配置されたリニアアレーの例を示す図である。図11において、符号50は無線通信システムであり、符号303は無線エントランス基地局装置、符号302は中継局装置、符号304−1〜304−4は第1の信号処理部、符号305は第2の信号処理部(厳密にはインタフェース回路、MAC層処理回路、通信制御回路などのその他の無線エントランス基地局装置機能を含む)である。図11では、無線エントランス基地局装置303の100本のアンテナ素子は、25本のアンテナ素子ごとの4個のグループに分けられている。同じグループの25本のアンテナ素子は、図10の場合に比べて非常に狭い間隔で、長さD1よりも短い長さD3にわたって、リニアアレー状に配置されている。
図11では、無線エントランス基地局装置303の100本のアンテナ素子は、グループ(25本のアンテナ素子)ごとに、リニアアレー状に実装されている。すなわち、無線エントランス基地局装置303の100本のアンテナ素子は、第1の信号処理部304ごとに、リニアアレー状に実装されている。第1の信号処理部304−1〜304−4は、信号処理により、グループ(25本のアンテナ素子)ごとに一つの指向性ビームを形成する。また、中継局装置302の16本のアンテナ素子は、長さD2にわたってリニアアレー状に等間隔に配置されている。
ここで、図10と図11とに示すふたつのケースのそれぞれにおいて、四つの信号系統を空間多重(4多重)して伝送する場合の伝送特性を比較する。図10に示すケースでは、例えばダウンリンクを想定し、無線エントランス基地局装置301が送信局、中継局装置302が受信局であるとすれば、チャネル行列のサイズは16×100となる。この行列に対して特異値分解を行う。
一方、図11に示すケースでは下記の手順を想定し、その特性を把握する。まず、無線エントランス基地局装置303は、無線エントランス基地局装置303の各25本のアンテナ素子と、中継局装置302の16本のアンテナ素子とにより形成される16×25のチャネル行列(ダウンリンクの場合)を基に特異値分解を行い、第1右特異ベクトルを用いて送信する、と仮定する。具体的には、無線エントランス基地局装置303は、第1の信号処理部304−1〜304−4に接続された各25本のアンテナ素子と、中継局装置302の16本のアンテナ素子の間の部分チャネル行列H1〜H4を特異値分解する。部分チャネル行列H1〜H4を、式(1)に示す。Ui及びViはユニタリー行列、Diは第i番目の部分チャネル行列Hiの非ゼロの特異値λi,j(λi,1≧λi,2≧…)を対角成分に持ち、非対角成分がゼロの対角行列である(i=1,2,3,4)。
ここでの各部分チャネル行列H1〜H4は16×25の行列である。したがって、Viの列ベクトルである各右特異ベクトルを形成するvi,jはそれぞれ25次元ベクトルであり、四つのグループのアンテナ群のi番目のグループの中の第j特異値λi,jに対応する右特異ベクトルを表している。同様に、Uiの列ベクトルである各左特異ベクトルを形成するui,jはそれぞれ16次元ベクトルであり、四つのグループのアンテナ群のi番目のグループの中の第j特異値λi,jに対応する左特異ベクトルを表している。ここで、無線エントランス基地局装置303の全アンテナ素子と中継局装置302との間の全体チャネル行列Hallを、式(2)に示す。
ここでの送信ウエイト行列WTxを、式(3)に示す。
ここでは表記の都合上、送信ウエイト行列WTxのエルミート共役の表現を用いているが、送信ウエイト行列WTx自体のサイズは100×4である。この結果、全体チャネル行列Hallと送信ウエイト行列WTxの積は、式(4)に示される。
ここで、Hivi,1は16×1の行列(列ベクトル)であり、式(4)によりλiui,1と一致する。この結果、全体チャネル行列と送信ウエイト行列の積の全体のサイズは16×4となる。一般には部分チャネル行列H1〜H4の第1左特異ベクトルはそれぞれ直交していないため、受信時には信号分離のための受信ウエイトを形成して乗算する。ただし、部分チャネル行列H1〜H4の第1左特異ベクトルがそれぞれ概ね直交している環境にある場合には、全体チャネル行列と送信ウエイト行列との積で表される行列を特異値分解した4個の特異値の絶対値の2乗値が、送信局と受信局と間で仮想的なチャネルの伝送路がパラレルに張られた状況における伝送路の回線利得に概ね一致する。ここでの評価では、見通し波のみを考慮した自由空間伝搬モデルにより、チャネル行列の各要素hi,jが下記の式(5)で表されるものとする。
ここで、ri,jは送信側の第iアンテナと受信側の第jアンテナとの間の距離を表し、λは波長を表す。全体の特徴を把握するため、全体に係数として乗算される係数はここでは簡単化のため省略している。
そこで、図11においてL=100m、D1=12m、D2=10cm、D3=30cm、周波数80GHzの場合について、それと同程度のアンテナ開口長で設置した図10の特性を比較する。ここでは回線利得として特異値の絶対値をXとしたとき、回線利得を20Log(X)[dB]として評価する。このとき、図10の4本の回線の利得は計算機による数値計算によればそれぞれ−56.5dB、−83.4dB、−118.3dB、−157.2dBであるのに対し、図11に対し上述の処理を施したものはそれぞれ−62.5dBとなる。図10の場合には、第1特異値に相当する利得最大の回線のみが大きな値を持ち、残りの特異値に相当する回線の利得は相対的に小さく、送信電力やアンテナ利得などのパラメータの値にも依存するが、実質的には第1特異値に相当する回線しか利用できない状況にある。これに対し、図11の場合には4本の伝送路がほぼ均等に利用可能であることが分かる。ここで、図10の第1特異値に対する利得と図11の特異値に対する利得差は6dBであるが、これは図11では指向性ビーム形成に用いるアンテナ素子数が100本から25本に1/4となっており、その分の10Log(1/4)=−6dBに相当する。言い換えれば、アンテナ素子群を4分割することにより効率が1/4になるが、シャノン限界によるチャネル容量的には、SNRを6dB改善するよりも4本の信号系列を多重化した方が、伝送容量増大の観点では圧倒的に効率が良い。
送信電力やアンテナ利得などのパラメータの値の設定により、第1特異値とは大きなギャップがある第2特異値以降の特異値に相当する回線の回線利得が十分に有効利用可能なほど、反射波成分の受信信号電力が強ければ別だが、一般にはミリ波等の高周波数帯の利用に伴い減少する回線利得を補うためにアンテナ素子数を増大させるのであれば、第2特異値以降の特異値に相当する回線の回線利得が十分であるという状況は一般的には考えにくく、データ伝送としては実質1回線分の伝送を行う図10のケースよりも、4回線分の伝送を並列的に行う図11の方が伝送容量を増大するのに適しているとみることができる。この様にアンテナをグループ化し、それぞれのグループで第1特異値に相当する仮想的伝送路を効率的に利用することが有効である。
ここで、ローノイズアンプやハイパワーアンプの増幅率がアンテナ素子ごとに差がない(ないしは、一定値であると近似可能な)場合には、一般にチャネルの対称性を利用したインプリシット・フィードバック技術により、所定のキャリブレーション行列を用いることで、アップリンクのチャネル行列からダウンリンクのチャネル行列を算出可能であることが知られている。本発明の実施形態及び本発明の背景技術の説明ではインプリシット・フィードバック技術ないしはその他の既存技術などを用いることで、送信局側でチャネル情報の取得は可能であることを前提として説明を進める。
(本発明の背景技術における無線エントランス基地局装置の回路構成について)
以下に、本発明の背景技術における無線エントランス基地局装置303の回路構成を図に従って説明する。
図12は、本発明の背景技術のMIMOシステムにおける無線エントランス基地局装置70の構成の一例を示す概略ブロック図である。図11では無線エントランス基地局装置303が1台と、中継局装置302が1台とのPoint−to−Point型の1対1通信の場合を例示したが、当然ながら複数の中継局装置302が存在していても構わない。図11の信号の送受信は、着目するサブキャリアで見れば同時に1台の中継局装置302としか通信しておらず、シングルユーザMIMO伝送の形態となり、スケジューリングにより通信対象は一つの中継局装置302が選択される。アクセス制御でOFDMA(Orthogonal frequency-division multiple access:直交周波数分割多元接続)を用いるのであれば、サブキャリア毎に異なる中継局装置302が割り当てられても良いが、各サブキャリアに着目すれば、一つの中継局装置302に割り当ては限定されている。また、Point−to−Point型の通信で端末が固定されている場合には、スケジューリングにおいて通信相手の中継局装置302を選択する処理は不要になる。本発明の背景技術においては、Point−to−MultiPoint型の1対多通信のマルチユーザMIMO伝送の形態のバリエーションにおいても利用可能であるが、以下の説明ではこの様なバリエーションに関係なく、一般的なシングルユーザMIMO伝送を典型的な代表例として説明を行う。また以下の説明では、説明を簡単にするために広帯域のシステムを想定しOFDMないしはSC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization:シングルキャリア周波数領域等化)などの様に周波数軸でのサブキャリア毎の信号処理を行う場合について説明を行うが、その他のシステム(例えば一般的なシングルキャリアのシステムなど)においても拡張可能である。
図12に示すように、無線エントランス基地局装置303に対応する無線エントランス基地局装置70は、第1の送信信号処理部181−1〜181−4と、第2の送信信号処理部71と、第1の受信信号処理部185−1〜185−4と、第2の受信信号処理部75と、インタフェース回路77と、MAC(Medium Access Control)層処理回路78と、及び通信制御回路120とを備えている。MAC層処理回路78はスケジューリング処理回路781を有している。
無線エントランス基地局装置70は、インタフェース回路77を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路77は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路78に出力する。MAC層処理回路78は、無線エントランス基地局装置70全体の動作の管理制御を行う通信制御回路120の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路77で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換と、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路781は、空間多重を行う中継局装置302の各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路781は、スケジューリング結果を通信制御回路120に出力する。MIMO伝送では、複数の信号系列の信号を一度に空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路78から第2の送信信号処理部71に出力される。
第2の送信信号処理部71の動作は後述するが、基本的にはMAC層処理回路78からの複数系列の信号に所定の変調処理を行い、必要に応じて何らかのプリコーディング処理(送信側での等化処理や信号分離などの処理)などを施し、第1の送信信号処理部181−1〜181−4に出力する。この際、OFDMやSC−FDEを用いる場合にかかわらず、第1の送信信号処理部181−1〜181−4にて周波数軸上の信号処理を行う場合には、第2の送信信号処理部71内で周波数軸上の信号を生成し、これを第1の送信信号処理部181−1〜181−4に出力する。第1の送信信号処理部で時間軸上の信号処理を行う場合には、第2の送信信号処理部71内にて時間軸の信号を生成し、これを出力する構成としても良い。第1の送信信号処理部181−1〜181−4はそれぞれ図11に示す様に複数のアンテナが接続され、それぞれのアンテナに対して送信信号を出力する。この際、第1の送信信号処理部181−1〜181−4毎にグループ化されたアンテナ素子群の中で、第1の特異値に相当する送信ウエイトベクトルを乗算した信号(厳密には、例えばOFDMであれば各サブキャリアの信号を合成した信号を時間軸成分に変換し、これを無線周波数にアップコンバートした信号)が各アンテナから送信される。
次に受信時においては、各第1の受信信号処理部185−1〜185−4に接続された複数のアンテナで受信した信号(正確には受信した無線周波数の信号をベースバンド信号にダウンコンバートし、例えばOFDMであればこの時間軸信号をFFTで周波数軸の信号に変換したもの)に所定の受信ウエイトベクトルを乗算し、サブキャリア毎に一つの複素スカラー量に変換し、これらを第2の受信信号処理部75に出力する。第2の受信信号処理部75では、この例では4本の受信信号系列を参照し、まずは受信信号の先頭に付与された既知のトレーニングシング信号を用いてサブキャリア毎のチャネル推定を行い、4×4のMIMOチャネル行列をサブキャリア毎に取得する。このチャネル行列を基に受信ウエイト行列を算出し、取得された受信ウエイト行列を基に送信された信号の検出処理を行う。例えば、ZF(Zero Forcing)型の逆行列を利用したり、MMSE(Maximum Mean Square Error)型の受信ウエイト行列を利用したりする。信号処理能力に余裕があれば、MLD(Maximum Likelihood Detection)やQR分解を用いた簡易MLD(QR-MLD)等を用いても良い。この受信信号処理で検出された信号はMAC層処理回路78に出力され、所定のMAC層の処理を行い、インタフェース回路77を介してネットワーク側に出力される。
図13は、本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置70における第1の送信信号処理部181の構成の一例を示す概略ブロック図である。図13に示すように、第1の送信信号処理部181−i(iは1〜NSDM)は、第1の送信信号処理回路111−iと、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−N’BS−Antと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−(N’BS−Ant)と、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)と、フィルタ817−1〜817−(N’BS−Ant)と、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−(N’BS−Ant)と、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)と、第1の送信ウエイト処理部130とを備えている。N’BS−Antは、無線エントランス基地局装置70のアンテナ素子の総数NBS−Antを空間多重数NSDMで除算した値(=NBS−Ant/NSDM)である。N’BS−Antは、端的にいえば一つの第1の送信信号処理部181が備える複数のアンテナ素子の数を表す。第1の送信信号処理回路111は図12において示した第2の送信信号処理部71に接続されている。また、第1の送信信号処理回路111と、第1の送信ウエイト処理部130とは、図12において示した第2の送信信号処理部71を介して通信制御回路120に接続されている。図12の例では、無線エントランス基地局装置70に4個の第1の送信信号処理部(181−1〜181−4)が接続されているが、その一つに着目した説明を下記で行う。
第1の送信ウエイト処理部130は、第1のチャネル情報取得回路131と、第1のチャネル情報記憶回路132と、第1の送信ウエイト算出回路133とを備えている。ここで、IFFT&GI付与回路813−1〜813−(N’BS−Ant)からアンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)までの回路の添え字の(N’BS−Ant)は、無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181が備えるアンテナ素子数を表す。
本発明の背景技術では、一つの中継局装置302宛に複数系統NSDM(=4)の信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路78から第2の送信信号処理部71を介して各第1の送信信号処理部181−1〜181−4に送信信号が入力される。第2の送信信号処理部71では、宛先の中継局装置302に送信すべきデータがMAC層処理回路78から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号はサブキャリアごとに変調処理が行われる。変調処理が行われた信号は、必要に応じてプリコーディング処理を行う。ここでのプリコーディング処理とは、複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路間での信号の漏れ込みを抑圧するための送信ウエイト行列の乗算であっても良い。または、この様なプリコーディング処理を行わなくても良い。この様にして生成されたNSDM系統の信号は、各第1の送信信号処理部181−1〜181−4に入力される。
各第1の送信信号処理部181−1〜181−4では、入力されたデータ入力#i(iは、1〜NSDM)が第1の送信信号処理回路111−iに入力される。第1の送信信号処理回路111では、基本的に送信ウエイトの乗算と、残りの物理レイヤの信号処理を行う。例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、入力された変調処理がなされたベースバンド信号にサブキャリアごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)に対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、IFFT&GI付与回路813−1〜813−(N’BS−Ant)にて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換される。変換された信号は、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)ごとに、D/A変換器814−1〜814−(N’BS−Ant)でデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)で乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−(N’BS−Ant)で帯域外の信号を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−(N’BS−Ant)で増幅され、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)より送信される。
なお、第1の送信信号処理回路111で乗算される送信ウエイトベクトルは、信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部130に備えられている第1の送信ウエイト算出回路133より取得する。第1の送信ウエイト処理部130では、第1のチャネル情報取得回路131において、第1の受信信号処理部185−1〜185−4にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120経由(厳密には、本明細書の説明上では第2の受信信号処理部75及び第2の送信信号処理部71も合わせて経由する)で別途取得しておき、これを必要に応じて逐次更新しながら、第1のチャネル情報記憶回路132に記憶する。信号の送信時には通信制御回路120からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路133は、宛先とする中継局装置に対応したチャネル情報を第1のチャネル情報記憶回路132から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを算出する。
第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する場合のチャネル推定の方法及び送受信ウエイトの算出方法には幾つかのバリエーションがあり、これを効率的に取得する手法についての詳細は後述する。その一例としては、送信ウエイトベクトルは、例えば取得したチャネル行列に対して特異値分解を行い、その結果得られる第1右特異ベクトルを用いても良い。
受信時のチャネルベクトルが既知であれば、インプリシット・フィードバックの手法でアップリンクのチャネル情報を取得することが可能であり、この様にして求めたアップリンクのチャネルベクトルを基に、送信ウエイトベクトルを同様に算出しても良い。また同様に、アップリンクの受信ウエイトベクトルを基に、これに直接キャリブレーション処理を施すインプリシット・フィードバックの手法で、送信ウエイトベクトルを算出しても良い。
第1の送信ウエイト算出回路133は、この様にして算出した送信ウエイトベクトルを第1の送信信号処理回路111に出力する。また、宛先とする中継局装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。上述の送信ウエイトの算出に係る信号処理を行う第1の送信ウエイト処理部130に対し、通信制御回路120は宛先とする中継局装置等を示す情報を出力する。
なお、上述の説明では第1のチャネル情報取得回路131において、第1の受信信号処理部185−1〜185−4にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120経由で取得し、このチャネル情報を逐次更新するとして説明したが、チャネル時変動が無視可能な高所の見通し環境であれば、頻繁にチャネル情報の更新は必要ない。第1のチャネル情報取得回路131は、例えばサービス運用開始前に事前にチャネル情報を取得しておき、さらにそのチャネル情報の値から算出した送信ウエイトベクトルを記憶しておき(図中には記載がないが、この場合には「送信ウエイト記憶回路」を実装して記録する構成にて実現する)、それを繰り返し利用することとしても構わない。また、これらの中間として、基本的に第1の送信ウエイト記憶回路から送信ウエイトベクトルを読み出す構成としながらも、逐次取得したチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを更新し、その更新されたチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを所定の時間間隔で更新する構成とすることも可能である。
図14は、本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置70における第1の受信信号処理部185の構成の一例を示す概略ブロック図である。図14に示すように、第1の受信信号処理部185−j(jは1〜NSDM)は、アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)と、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−(N’BS−Ant)と、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)と、フィルタ855−1〜855−(N’BS−Ant)と、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)と、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−(N’BS−Ant)と、第1の受信ウエイト処理部160と、第1の受信信号処理回路158−jとを備えている。また、第1の受信信号処理回路158−1〜158−4は、図12において示した第2の受信信号処理部75に接続されている。また、第1の受信信号処理回路158−1〜158−4と、第1の受信ウエイト処理部160とは、図12において示した第2の受信信号処理部75を介して通信制御回路120に接続されている。第1の受信ウエイト処理部160は、第1のチャネル情報推定回路161と、第1の受信ウエイト算出回路162とを備えている。なお、第1の送信信号処理部181の説明と同様に、図12の例では無線エントランス基地局装置70に4個の第1の受信信号処理部(185−1〜185−4)が接続されているが、その一つに着目した説明を下記で行う。
まず、アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)で受信した信号をローノイズアンプ852−1〜852−(N’BS−Ant)で増幅する。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)で乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の信号も含まれるため、フィルタ855−1〜855−(N’BS−Ant)で帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)でデジタルベースバンド信号に変換される。デジタルベースバンド信号は、例えばOFDMの場合には全てFFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)に入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各サブキャリアの信号に分離)する。この各サブキャリアに分離された信号は、第1の受信信号処理回路158に入力されるとともに、第1のチャネル情報推定回路161にも入力される。なお、図14ではOFDMのシンボルタイミング検出のための回路は省略しているが、既存の何らかの手法でシンボルタイミングの把握は可能である。
第1のチャネル情報推定回路161では、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各中継局装置302のアンテナ素子と、無線エントランス基地局装置70の各アンテナ素子851との間のチャネル情報をサブキャリアごとに推定し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路162に出力する。第1の受信ウエイト算出回路162では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトベクトルをサブキャリアごとに算出する。この際、各アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)で受信された信号を合成する受信ウエイトは、第1の受信信号処理部185−1〜185−4ごとに異なり、第1の受信信号処理部185−1〜185−NSDMそれぞれ個別に算出する。
第1の受信信号処理回路158では、FFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)から入力されたサブキャリアごとの信号(正確には、複数のアンテナ素子からの信号を要素とする受信信号ベクトル)に対し、第1の受信ウエイト算出回路162から入力された受信ウエイト(正確には、複数のアンテナ素子に対応する受信ウエイトを要素とする受信ウエイトベクトル)を乗算し、乗算した結果である各アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)で受信された信号をサブキャリアごとに加算合成する。第1の受信信号処理回路158は、加算合成した信号を第2の受信信号処理部75に出力する。なお、ここでの加算合成は、サブキャリア毎のベクトル積におけるベクトルの各成分の乗算後の加算を意味し、受信信号と受信ウエイトの乗算とその結果の加算合成全体が、数学的にはベクトル積の処理に対応する。
なお、第1の受信信号処理回路158で乗算される受信ウエイトベクトルは、信号受信処理時に、第1の受信ウエイト処理部160に備えられている第1の受信ウエイト算出回路162より取得する。第1の受信ウエイト処理部160では、第1のチャネル情報推定回路161において取得されたチャネル情報を用い、第1の受信ウエイト算出回路162にて受信ウエイトベクトルを算出する。例えば、中継局装置302の備えるアンテナ素子と無線エントランス基地局装置70の備える第1の受信信号処理部185のそれぞれの複数のアンテナ素子851との間のチャネル行列に対し、特異値分解して得られる第1左特異ベクトルのそれぞれを受信ウエイトベクトルとして用いても良い。第1の受信ウエイト算出回路162は、この様にして算出した受信ウエイトベクトルを第1の受信信号処理回路158に出力する。また、送信元局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。
なお、上述の説明では第1のチャネル情報推定回路161において取得したチャネル情報を用いて逐次受信ウエイトを算出するとして説明したが、チャネル時変動が無視可能な高所の見通し環境であれば、頻繁なチャネル情報の更新は必要ない。第1のチャネル情報推定回路161は、例えばサービス運用開始前に事前にチャネル情報を取得しておき、そのチャネル情報の値から算出した受信ウエイトベクトルを記憶しておき(図中には記載がないが、この場合には「第1の受信ウエイト記憶回路」を第1の受信ウエイト算出回路162の後段に実装して記録する構成にて実現する)、それを繰り返し利用することとしても構わない。この場合には、受信ウエイトの出力を行う第1の受信ウエイト記憶回路に対し、通信制御回路120は送信元の中継局装置等を示す情報を出力する。また、これらの中間として、基本的に第1の受信ウエイト記憶回路から受信ウエイトベクトルを読み出す構成としながらも、逐次取得したチャネル情報を基に受信ウエイトベクトルを更新し、その更新されたチャネル情報を基に受信ウエイトベクトルを所定の時間間隔で更新する構成とすることも可能である。
なお、図12における第2の受信信号処理部75では、前述の第1の受信信号処理部185−1〜185−4からの受信ウエイトベクトルが乗算されて各1系統(合計4系統)に集約された受信信号が入力されるが、これらは実質的に4×4のMIMOチャネルの受信信号と等価であり、従来技術の受信信号検出処理により空間多重された信号系列の処理を行うことが可能である。具体的には、送信側で送信される4系統の信号系列に対し、受信側(無線エントランス基地局装置70側)の複数本アンテナで構成された4組の仮想的アンテナで受信した場合の4×4のMIMOチャネルに対し、受信信号の先頭に付与されたチャネル推定用の既知のトレーニング信号で4×4のチャネル行列をサブキャリア毎に取得する。このチャネル行列を基に受信ウエイト行列を算出し、取得された受信ウエイト行列を基に送信された信号の検出処理を行う。例えば、ZF(Zero Forcing)型の逆行列を利用したり、MMSE(Maximum Mean Square Error)型の受信ウエイト行列を利用したりする。信号処理に余裕があれば、MLD(Maximum Likelihood Detection)やQR分解を用いた簡易MLD(QR-MLD)等を用いても良い。また、ここでの信号検出処理では、例えば一旦受信信号の軟判定を行い、必要に応じてデインタリーブ処理を行い、その後に誤り訂正処理を行うなどして最終的な信号検出を行う構成としても良い。この受信信号処理で検出された信号はMAC層処理回路78に出力され、所定のMAC層の処理を行い、インタフェース回路77を介してネットワーク側に出力される。
また、MAC層処理回路78は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路77に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。Point−to−Point型の通信の場合にはスケジューリング処理回路781は実質的には不要であるが、複数の中継局装置302との間でPoint−to−MultiPoint型の通信を行う場合には、通信を行う中継局装置302を選択する各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路120に出力する。MAC層処理回路78にて処理された受信データは、インタフェース回路77を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
また、送信元の中継局装置302の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う第1の受信ウエイト処理部160に対し、通信制御回路120から送信元の中継局装置等を示す情報が入力される。
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC−FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算はサブキャリアごとに行われる。つまりA/D変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)から出力される信号に対し、FFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)でFFTを行い各サブキャリアに分離し、分離したサブキャリアごとに、第1のチャネル情報推定回路161での信号処理、及び、第1の受信信号処理回路158での受信信号処理が実施されることになる。
以上が本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置70の説明である。ここで重要なのは、第1の送信信号処理部181におけるローカル発振器815が同一の第1の送信信号処理部181内の各アンテナ系統におけるミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)で共通化されている点、一方で異なる第1の送信信号処理部181間ではローカル発振器815は共通化されていない(ないしはローカル発振器815を共通化する必要がない)点である。また同様に、第1の受信信号処理部185におけるローカル発振器853が同一の第1の受信信号処理部185内の各アンテナ系統におけるミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)で共通化されている点、一方で異なる第1の受信信号処理部185間ではローカル発振器853は共通化されていない(ないしはローカル発振器853を共通化する必要がない)点も重要である。図11に示す様に、一般に第1の送信信号処理部181−1〜181−4(図11では第1の信号処理部304−1〜304−4)は物理的に数メートルのオーダーで離れて設置されることが想定され、ミリ波等の高い周波数帯ではケーブルで取り回した際の損失が通常のケーブルでは1メートル当たり10dB以上と非常に大きい。第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185に接続されるアンテナ素子が多数であるため、ミキサ816や854には信号を複数系統に分岐させて入力させる必要がある。しかし、この分岐に伴うレベルの低下を考えると、数メートル単位のケーブル長の損失は無視できないため、個別の第1の送信信号処理部181及び個別の第1の受信信号処理部185内に閉じてローカル発振器815及び853をそれぞれ共用化し、異なる第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185間では共用化しない構成が有効である。
ここで、各アンテナでは指向性制御のために送受信信号の位相を調整することになるが、同一の第1の送信信号処理部181−1〜181−4(図11では第1の信号処理部304−1〜304−4)内では、それぞれのローカル発振器815ないしはローカル発振器853から入力される信号の位相関係が常に一定になる様にすることが容易であり、ローカル発振器815ないしはローカル発振器853に依存しない部分で、どの様な位相関係となる様に送受信ウエイトを乗算すれば良いかが判断可能となる。しかし、ローカル発振器815が第1の送信信号処理部181内で(又はローカル発振器853が第1の受信信号処理部185内で)非同期のものを複数利用する場合には、少なくとも第1の送信信号処理部181において送信ウエイトを乗算する際に、複数のローカル発振器815(又は853)の間の複素位相関係を考慮して調整する必要があり、この調整を怠ると指向性制御が効果的に機能しなくなる。装置の設計においては、この点に注意が必要である。本発明の背景技術では、同一の第1の送信信号処理部181では上述の理由でローカル発振器815を共通化し、同一の第1の受信信号処理部185では上述の理由でローカル発振器853を共通化するが、空間多重する4系統の信号系列間の信号分離は受信側において実施することが可能であるため、マルチユーザMIMOの様に送信側で完全な信号分離を実施する必要はない。
なお、この様に受信側での信号処理で基本的に複数の信号系列は分離可能であるが、例えば第1の送信信号処理部181−1〜181−4の間でローカル発振器815を共通化し、且つチャネルのフィードバックなどで第1の送信信号処理部181−1〜181−4の間の位相関係が既知であるならば、送信側で事前に信号分離の送信ウエイト行列を乗算(すなわち送信プリコーディング)することも可能である。この場合には、無線エントランス基地局装置70の第2の送信信号処理部71にてこの送信ウエイト行列を乗算することになる。この送信ウエイト行列の算出においては、第2の受信信号処理部75により取得された受信ウエイトベクトルを乗算した後の4系統の信号系列に関するアップリンクのチャネル情報を基にキャリブレーション処理を用いて取得しても構わない。ただし、前述の様にダウンリンクにおいても受信側の中継局装置302では送信信号に付与されたトレーニング信号によりチャネル行列が取得可能であるため、受信側での信号処理を活用すれば、必ずしも第2の送信信号処理部71での送信ウエイト行列の乗算は必要ではない。
(本発明の背景技術における中継局装置302に対応する中継局装置60の回路構成について)
図15は、本発明の背景技術における、中継局装置302に対応する中継局装置60の構成の一例を示す概略ブロック図である。図15に示すように、中継局装置60は、送信部61、受信部65、インタフェース回路67、MAC(Medium Access Control)層処理回路68、及び通信制御回路121を備えている。
中継局装置60は、インタフェース回路67を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路67は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路68に出力する。MAC層処理回路68は、中継局装置60全体の動作の管理制御を行う通信制御回路121の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路67で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。MIMO伝送では、一つの中継局装置60宛に信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路68から送信部61に出力される。
図16は、本発明の背景技術の中継局装置60における送信部61の構成の一例を示す概略ブロック図である。図16に示すように、送信部61は、送信信号処理回路811−1〜811−NSDM(NSDMは2以上の整数)と、加算合成回路812−1〜812−NMT−Ant(NMT−Antは2以上の整数)と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−NMT−Antと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−NMT−Antと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−NMT−Antと、フィルタ817−1〜817−NMT−Antと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−NMT−Antと、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antと、第1の送信ウエイト処理部140とを備えている。送信信号処理回路811−1〜811−NSDMと、第1の送信ウエイト処理部140とは、図15において示した通信制御回路121に接続されている。
第1の送信ウエイト処理部140は、チャネル情報取得回路141と、チャネル情報記憶回路142と、第1の送信ウエイト算出回路143とを備えている。ここで、図16における送信信号処理回路811−1〜811−NSDMの添え字のNSDMは、同時に空間多重を行う多重数を表す。すなわち、上述の無線エントランス基地局装置70との間でPoint−to−Point型の通信を行う場合にはNSDM=4となる。また、加算合成回路812−1〜812−NMT−Antからアンテナ素子819−1〜819−NMT−Antまでの回路の添え字のNMT−Antは、中継局装置60が備えるアンテナ素子数を表す。NMT−Antは、例えば、16である。
本発明の背景技術では、一つの中継局装置60が無線エントランス基地局装置70宛に信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路68から送信部61に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに入力される。送信信号処理回路811−1〜811−NSDMは、宛先の無線エントランス基地局装置70に送信すべきデータ(データ入力#1〜#NSDM)がMAC層処理回路68から入力されると、これに対して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号はサブキャリアごとに変調処理が行われる。更に、変調処理がなされたベースバンド信号にサブキャリアごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして各送信信号処理回路811−1〜811−NSDMから加算合成回路812−1〜812−NMT−Antに入力される。
加算合成回路812−1〜812−NMT−Antに入力された信号は、サブキャリアごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NMT−Antにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antごとに、D/A変換器814−1〜814−NMT−Antでデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−NMT−Antで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の領域に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−NMT−Antで帯域外の信号を除去し、送信すべき信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−NMT−Antで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antより送信される。
なお、図16では、各サブキャリアの信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−NMT−Antで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにてこれらの処理を行い、IFFTされた時間軸上のサンプリング信号を加算合成回路812−1〜812−NMT−Antで合成することとして、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NMT−Antを省略する構成(厳密には、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにこれらを含める)としてもよい。この場合、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにおける送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を指す。
また、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMで乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部140に備えられている第1の送信ウエイト算出回路143より取得する。第1の送信ウエイト処理部140では、チャネル情報取得回路141において、受信部65にて取得されたチャネル情報を通信制御回路121経由で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路142に記憶する。信号の送信時には通信制御回路121からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路143は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路142から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。第1の送信ウエイト算出回路143は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに出力する。なお、通常の通信では中継局装置が通信する相手は特定の無線エントランス基地局装置に限られるため、上述の説明では宛先とする宛先局に関する管理を明示的に示したが、通信の宛先局が単一であるものとして処理を行うことも当然可能である。
なお、本発明の背景技術の特徴は、送信ウエイトの算出において、中継局装置60と無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4との間で、第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用することである。この第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する場合のチャネル推定の方法及び送受信ウエイトの算出方法には幾つかのバリエーションがある。例えば、中継局装置60から無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4に向けてのアップリンクでの各チャネル行列に対し、特異値分解した際の第1右特異ベクトルを送信ウエイトベクトルに用いても良い。この場合、第1の送信ウエイト算出回路143はこの第1右特異ベクトルを算出する機能を有することになる。
図17は、本発明の背景技術の中継局装置60における受信部65の構成の一例を示す概略ブロック図である。図17に示すように、受信部65は、アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−NMT−Antと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−NMT−Antと、フィルタ855−1〜855−NMT−Antと、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−NMT−Antと、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−NMT−Antと、受信信号処理回路145−1〜145−NSDMと、第1の受信ウエイト処理部144とを備えている。受信信号処理回路145−1〜145−NSDMと、第1の受信ウエイト処理部144とは、図15において示した通信制御回路121に接続されている。第1の受信ウエイト処理部144は、第1のチャネル情報推定回路146と、第1の受信ウエイト算出回路147とを備えている。
まず、アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信した信号は、ローノイズアンプ852−1〜852−NMT−Antで増幅される。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−NMT−Antで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の信号も含まれるため、フィルタ855−1〜855−NMT−Antで帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−NMT−Antでデジタルベースバンド信号に変換される。例えばOFDMを用いる場合には、デジタルベースバンド信号はFFT回路857−1〜857−NMT−Antに入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各サブキャリアの信号に分離)する。この各サブキャリアに分離された信号は、受信信号処理回路145−1〜145−NSDMに入力されるとともに、第1のチャネル情報推定回路146にも入力される。
第1のチャネル情報推定回路146では、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の各送信ウエイトベクトルにより形成される仮想的アンテナ素子と、中継局装置60の各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antとの間のチャネル情報のチャネルベクトルをサブキャリアごとに推定し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路147に出力する。第1の受信ウエイト算出回路147では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトをサブキャリアごとに算出する。この受信ウエイトに関しては、例えば前述の様に、ZF型の擬似逆行列を利用したり、MMSE型の受信ウエイト行列を利用したりする。この際、各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信された信号を合成するための受信ウエイトベクトルは、信号系列ごとに異なり、上述のZF型の擬似逆行列ないしはMMSE型の受信ウエイト行列などの行ベクトルに相当し、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路145−1〜145−NSDMにそれぞれ入力される。
受信信号処理回路145−1〜145−NSDMでは、FFT回路857−1〜857−NMT−Antから入力されたサブキャリアごとの信号に対し、第1の受信ウエイト算出回路147から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信された信号をサブキャリアごとに加算合成する。受信信号処理回路145−1〜145−NSDMは、加算合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路68に出力する。
ここで、異なる受信信号処理回路145−1〜145−NSDMでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、複数の受信信号処理回路145−1〜145−NSDMにまたがった受信信号処理として、MLDやQR分解を用いた簡易MLD等を用いても良い。また、MAC層処理回路68は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路67に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。MAC層処理回路68にて処理された受信データは、インタフェース回路67を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。また、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路121が管理する。
ここで、送信側と同様に受信時の中継局装置60側においても第1特異値に対応する仮想的伝送路を意識的に利用する信号処理とすることも可能である。図18に、本発明の背景技術の中継局装置60における受信部65の別の構成の一例を示す。
図18において、符号154は第1の受信ウエイト処理部、符号155は第1の受信信号処理回路、符号156は第1のチャネル情報推定回路、符号157は第1の受信ウエイト算出回路、符号159は第2の受信信号処理回路を示し、その他は図17と同様である。先の説明においては、第1の受信ウエイト算出回路157ではNSDM系統の信号系列を直接信号分離するための受信ウエイトを算出するものとして説明したが、一旦、第1特異値に対応する仮想的伝送路で信号分離を行いながら、それでも残る信号系列間の残留干渉を2段階で除去することも可能である。
この場合、第1の受信ウエイト算出回路157では、例えば無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の各アンテナ素子から中継局装置60の各アンテナ素子に向けてのチャネル情報を取得できる場合、このチャネル情報を成分とするチャネル行列に対し、特異値分解した際の第1左特異ベクトルを受信ウエイトベクトルとして算出する。
そして、第1の受信ウエイト算出回路157は、求めた受信ウエイトベクトルを、各第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMに対して入力する。ただし、この後段では第2の受信信号処理回路159にて残留干渉を分離する信号処理を実施するため、リアルタイムで頻繁に受信ウエイトベクトルを更新する必要はなく、例えば100ms周期程度の、見通し波のチャネル情報が急激には変動しないと期待される時間領域において、共通の受信ウエイトベクトルを使いまわすことも可能である。
第1のチャネル情報推定回路156及び第1の受信ウエイト算出回路157では、この様な視点から逐次受信ウエイトを更新するのではなく、例えばある程度のチャネル推定結果を第1のチャネル情報推定回路156で平均化することでチャネル推定精度を向上させ、その平均化されたチャネル情報を基に所定の周期で第1の受信ウエイト算出回路157は第1の受信ウエイトベクトルを算出し、これを第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMに対して入力する構成とすることも可能である。この場合には、平均化に際してはチャネル情報は基準アンテナ(例えば第1アンテナ)の複素位相を基準とする相対チャネル情報(ないしは、各チャネル情報を基準アンテナのチャネル情報で除算したものと考えても良い)を活用することが好ましい。
第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMでは、これらの第1特異値に対応する仮想的伝送路からの信号を第2の受信信号処理回路159に入力する。この第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMと第2の受信信号処理回路159の機能分担は、図12に示した無線エントランス基地局装置の第1の受信信号処理部185と第2の受信信号処理部75の関係に類似している。すなわち、アンテナ素子数NMT−Antに相当する膨大な受信信号の信号を、第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMにて空間多重された信号系列数NSDMに縮小した信号に変換して第2の受信信号処理回路159に入力し、第2の受信信号処理回路159では次元が縮小された空間内での一般的なMIMO信号処理を実施する。
具体的には、第2の受信信号処理回路159は、受信信号の先頭に付与された既知のトレーニング信号を参照し、NSDM系統の信号系列に対しNSDM×NSDMのチャネル行列を取得し、そのチャネル行列を基に受信信号検出処理を行う。先にも示した様に、第2の受信信号処理回路159は、ZF型の逆行列やMMSE型の線形受信ウエイト行列を乗算すること、ないしはMLDや簡易MLD(QR−MLD等)などの非線形の信号処理を行うことも可能である。第2の受信信号処理回路159は、この様に信号分離されたNSDM系統の信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路68に出力する。これは無線エントランス基地局装置の第2の受信信号処理部75の信号処理と同等である。
ここで、無線エントランス基地局装置70の第2の受信信号処理部75ないしは中継局装置60の第2の受信信号処理回路159における装置構成の例(基本的に処理は無線エントランス基地局装置と中継局装置で共通である)を図19に示す。基本的な動作は上述の通りであり、NSDM本の第1特異値に対応する仮想的伝送路の受信信号としてNSDM系列の信号系列が第2の受信信号処理回路190(図18の第2の受信信号処理回路159に相当)に入力(ここでは明示していないが、例えばOFDMであれば各サブキャリアの信号が入力されて、同様の信号処理をサブキャリア毎に行うことになる)されると、チャネル行列取得回路191では受信信号の先頭に付与された既知のトレーニング信号を参照し、NSDM系統の信号系列に対しNSDM×NSDMのチャネル行列を取得する。受信ウエイト行列算出回路192は、そのチャネル行列を基に受信ウエイト行列をZF型の逆行列やMMSE型の線形受信ウエイト行列として算出し、これを受信ウエイト行列乗算回路193に入力する。受信ウエイト行列乗算回路193は、後続するデータに受信ウエイト行列を乗算し、異なる仮想的伝送路間のクロストーク成分である干渉信号を抑圧する。信号検出回路194は、SINR特性が高められた各信号に対して信号検出を行う。ここでの信号検出とは一般的な復調処理を意図する。例えば受信信号の軟判定を行い、デインタリーブの後に誤り訂正を行い、最終的な信号検出を行う。複数の信号系列に展開されてパラレル伝送されたデータはパラレル/シリアル変換で1系列のデータに変換され、これらをMAC層処理回路に出力する。なお、ここでは典型的な例として線形の信号処理の例を示したが、信号検出回路194は、MLDないしQR−MLDなどの非線形の信号処理を行うことも可能である。
本発明の背景技術の特徴は、中継局装置60と無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4との間で、第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用することである。したがって、中継局装置60から無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4に向けての各チャネル行列に対し、特異値分解した際の第1右特異ベクトルに送信ウエイトベクトルを用いることになり、第1の送信ウエイト算出回路143はこの第1右特異ベクトルを算出する機能を有することになる。なお、この第1右特異ベクトルの近似解として、無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の中の1本のアンテナ素子との間でチャネルベクトルを求め、このチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル(等価的には最大比合成の受信ウエイトベクトル)、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルの何れかを、送信ウエイトベクトルとして利用しても構わない。本来、無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4のアンテナ素子群が全体で仮想的な指向性アンテナを形成することになるが、その代替としてこの手法は例えばそのアンテナ素子群の中の物理的に中央付近に存在するアンテナ1本で代表した場合を近似解と見なすことに相当する。この場合、近似解のウエイトは厳密解のウエイトとは異なるものとなるのであるが、シミュレーションで評価すればその結果得られる利得は後述するように極端に大きな劣化がある訳ではない。
以上が、本発明の背景技術における中継局装置60、送信部61、及び受信部65の構成の説明である。ここで重要なのは、送信部61におけるローカル発振器815が送信部61の各アンテナ系統におけるミキサ816−1〜816−NMT−Antで共通化されている点、受信部65におけるローカル発振器853が受信部65の各アンテナ系統におけるミキサ854−1〜854−NMT−Antで共通化されている点である。指向性制御においてはアンテナ素子毎で送受信信号の位相を調整することになるが、それぞれのローカル発振器815ないしはローカル発振器853から入力される信号の位相関係が常に一定になる様にすることで、どの様な位相関係で送受信ウエイトを乗算すれば良いかが判断可能となる。一方、ローカル発振器815ないしはローカル発振器853が送信部61内または受信部65内で非同期のものを複数利用する場合には、少なくとも送信部61において送信ウエイトを乗算する指向性制御が効果的に機能しなくなる。装置の設計においては、この点に注意が必要である。なお、ローカル発振器815とローカル発振器853を共用することも可能である。
以上のように、本発明の背景技術の無線通信システム50は、無線エントランス基地局装置70及び中継局装置60を備える。無線エントランス基地局装置70は、複数の第1の送信信号処理部181と、複数の第1の受信信号処理部185と、第2の送信信号処理部71、第2の受信信号処理部75とを有する。複数の第1の送信信号処理部181は、複数のアンテナ素子819を有する。複数の第1の受信信号処理部185は、複数のアンテナ素子851を有する。第2の送信信号処理部71は、複数の第1の送信信号処理部181に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。第2の受信信号処理部75は、複数の第1の受信信号処理部185に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。中継局装置60は、複数のアンテナ素子819と、複数のアンテナ素子851と、送信部61と、受信部65とを有する。送信部61は、複数のアンテナ素子819を介して、複数の第1の受信信号処理部185と、第1の受信信号処理部185に対応付けられた第2の受信信号処理部75との無線通信を実行する。受信部65は、複数のアンテナ素子851を介して、複数の第1の送信信号処理部181と、第1の送信信号処理部181に対応付けられた第2の送信信号処理部71との無線通信を実行する。第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185は、第1のアンテナ素子群と第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトルの少なくとも一方を、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方又は第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて算出する。複数の第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185は、第1の送信信号処理部181又は第1の受信信号処理部185に対応した当該送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトルのうち少なくとも一方を用いて、それぞれ独立な信号系列を空間多重伝送する。
これによって、本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置70、中継局装置60、無線通信システム50及び無線通信方法は、見通し環境が支配的な環境においてもMIMOによって伝送容量を増大させることが可能となる。例えば、無線エントランス基地局装置70、中継局装置60、無線通信システム50及び無線通信方法は、将来モバイルネットワークにおける無線通信システムにおいて、見通し環境が支配的でありながら、高次空間多重及び高周波数帯を利用して大容量化を実現することが可能となる。
本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置303としての無線エントランス基地局装置70は、狭い領域にアンテナ素子を束ねた第1の信号処理部304と、それらを集約する第2の信号処理部305を備える。第1の信号処理部304では個々の信号処理部内に閉じたビームフォーミングを行い、異なる第1の信号処理部304にまたがったビームフォーミングは必要としない。個別の第1の信号処理部304は、「見通し波」を最大限に活用する「第1特異値に対応する仮想的伝送路」のための送受信ウエイトを生成し、複数の第1の信号処理部304における個々の送受信ウエイトを用いて空間多重伝送を行う。
ここで、以上の説明では見通し環境が支配的な環境であることを典型的な形態として説明してきたが、例えば完全な見通し環境でない場合でも、非常に強い反射波が特定の方向から到来したり、見通し波と遜色ない回折波が到来したりする場合には、第1特異値に相当する仮想的伝送路はその到来方向に形成されることになる。この意味で、第1特異値に相当する仮想的伝送路とは見通し波により構成される伝送路である必然性はなく、本発明の背景技術では、第1特異値に相当する仮想的伝送路を複数系統、積極的に活用して空間多重伝送することであるために、見通し外環境であっても本発明の背景技術は適用可能である。その場合の回路構成は上記説明と全く変わることなく、そのままの内容で適用することが可能である。
[見通しMIMO伝送の直交化のためのアンテナ配置条件]
ここで、複数の仮想的伝送路が概ね直交関係になるための条件を整理する。上記の図11では、25本のアンテナ素子ごとに実効的に一つの指向性ビームが形成されているので、これは近似的には指向性利得の非常に高い1本のアンテナ(例えばパラボラアンテナ)を利用していることに相当する。そこで、図20に無線エントランス基地局装置に4本のパラボラアンテナ、中継局装置に16本のアンテナ素子をリニアアレー状に実装したケースの例を示す。図20において、符号306は無線エントランス基地局装置、符号302は中継局装置、符号307−1〜307−4はパラボラアンテナを示す。中継局装置302は、中継局装置60に相当する。無線エントランス基地局装置306は、等価的には無線エントランス基地局装置70に相当する。基本的には、図20に示すパラボラアンテナ307−1〜307−4と等価な伝送を、無線エントランス基地局装置70の多数のアンテナ素子をグループ化することで実現する。
本発明の背景技術によれば、中継局装置60のアンテナ数NMT−Antに対し、NMT−Antの整数倍でもゼロでもない整数Kに対し、中継局装置60のアンテナ素子の間隔d、中継局装置60と無線エントランス基地局装置70の距離L、無線通信の信号波の波長λ(帯域幅が無視できない場合には、中心周波数の波長で代表してもよい)に対し、任意の2本のパラボラアンテナ(すなわち、無線エントランス基地局装置70のグループ化されたアンテナ素子に相当)の間隔ΔDが下記の式(6)を満たす間隔になる様に設定すればよい。
この条件を幾何学的に解釈すると、例えば以下の様な条件であれば簡易にこの条件を実現することができる。例えば最も簡易な条件としては、中継局装置60側のリニアアレーと距離がL離れ且つ正対する直線上に、その直線方向に任意のオフセットを許容し、λL/(NMT−Antd)間隔でNMT−Ant点の地点を直線的に設定し、このNMT−Ant点の中からM地点を選択して無線エントランス基地局装置70のM本(図20の中では4本)のパラボラアンテナを配置すればよい。これは、連続するNMT−Ant個の整数の中から任意の二つの整数を選び、その差分を求めると必ずその絶対値が(NMT−Ant−1)以下になり、K2がNMT−Antの整数倍になることを回避できることを利用している。なお、個別の任意のふたつの整数の差分がNMT−Antの整数倍とならない配置を検索して設定すれば、その他のより広い条件の中から無線エントランス基地局装置のアンテナ設置個所を選ぶことも可能である。
図20に示す様に、発明の背景技術では中継局装置60側のアンテナ素子数NMT−Antを増やす一方、無線エントランス基地局装置70のアンテナ素子数Mは想定する空間多重数の上限に設定するため、Mの値は中継局装置60側のアンテナ素子数NMT−Antよりも小さいことが想定される。つまり、NMT−Ant>Mのときには、上述の最も簡易な条件においても無線エントランス基地局装置70側のM本のアンテナは等間隔である必要はなく、上述のNMT−Ant地点の中から間欠的にアンテナ素子の配置場所を設定しても構わない。なお、図11の場合には実際のアンテナ素子数は100本であるが、25本単位にグループ化して仮想的な4本のアンテナ素子と見なすことができるので、図11におけるMは4であるとみなすべきである。式(6)で用いた近似は精度が若干低い。しかし、パラメータの設定次第ではあるが、式(6)の無線エントランス基地局装置70のアンテナ素子の間隔が仮に1m程度としたとき、±数cm程度(すなわち数%程度)の誤差があっても概ね直交状態にあることには違いはない。本発明の実施形態及び本発明の背景技術でも同様であるが、基本的に受信側において複数の仮想的伝送路間の干渉成分がある場合でも、受信側の信号処理でその干渉を抑圧することは可能であり、その様な信号処理を想定すれば、あくまでも概ね直交状態にすることにより損失の最小化が可能なので、式(6)の近似精度はシステム運用上において大きな影響を与えない。
この様な性質も考慮すれば、図11で表される各グループ化されたアンテナ素子群を仮想的な一つのアンテナと見なせば、物理的に広がりを持つ多素子アンテナのその中心点を仮想的アンテナの物理的な位置と見なし、これらの複数のアンテナ素子群を上述のアンテナ配置で設置すれば、それぞれ第1特異ベクトルで表現されるウエイトベクトルを用い、所望の特性で複数の信号系列を空間多重して伝送することが可能になる。
なお、上述の説明では無線エントランス基地局装置側のアンテナ素子と端末装置側のアンテナ素子は、図20に示す様にお互いに向かい合い正対している状態を例に取り説明を行ったが、一般的には図21に示す様に、正対関係にない場合が想定される。これは、無線エントランス基地局装置306や中継局装置302の設置場所に関する制約に起因する。この様な場合には、若干、各パラメータを換算することで所望の効果を導くことができる。図21では、無線エントランス基地局装置306から中継局装置302を見たときに、正面から角度θずれた方向に中継局装置302が存在し、また中継局装置302から無線エントランス基地局装置306を見たときに、正面から角度θ’ずれた方向に無線エントランス基地局装置306が存在している。この場合、無線エントランス基地局装置306のパラボラアンテナ307−1と307−4との間隔D1は等価的にはD1’(=D1cosθ)に狭まった状態に見える。同様に、中継局装置302のリニアアレーである中継局装置アンテナ素子群312の幅D2は等価的にはD2’(=D2cosθ’)に狭まった状態に見える。言い換えれば、アンテナ素子間隔dがdcosθ×cosθ’倍に変換された状態と捉えることができる。無線エントランス基地局装置306のパラボラアンテナ307−1〜307−4の概ね重心付近と中継局装置302の距離をLとすれば、これらの換算を行った上で上述の条件式を用いて最適なアンテナ配置の条件を算出することができる。すなわち、無線エントランス基地局装置70は、見通し方向の直線に対して直交する軸上に各リニアアレーを仮想的に投影する。同様に、中継局装置60は、見通し方向の直線に対して直交する軸上に各リニアアレーを仮想的に投影する。仮想的に投影した軸上のアンテナ素子の間隔に基づいて式(6)のdは、dcosθ×cosθ’に換算される。仮想的に投影した軸上のアンテナ素子の間隔に基づいて式(6)のdは、換算装置又は人によって換算される。
ちなみに、図20及び図21において無線エントランス基地局装置306のパラボラアンテナ307−1〜307−4の概ね重心付近と中継局装置302の距離をLとしているが、個々のアンテナ素子の厳密な距離は共通の距離Lではなく、それぞれが誤差を持つことになる。しかし、式(6)は近似式であるため、距離Lもある程度の誤差は許容可能であり、図20で示した様に正対したアンテナ素子の間隔(平行な直線上に並ぶアンテナ素子の、2本の直線の間の距離)としても良いし、図21に示した様に概ねアンテナ素子の重心を結んだ距離としても良い。この様に、距離Lはその近似値ないしは概算値として扱えば良い。
なお、本説明における図20における説明では、中継局装置はリニアアレーにより構成される場合を典型的な例として示している。この特徴は、無線エントランス基地局装置側のパラボラアンテナ307−1〜307−4(図11では第1の信号処理部304−1〜304−4それぞれのアンテナ素子群に相当)は直線上に配置されており、同様に中継局装置側のアンテナ素子も直線上にリニアアレーを構成して配置されている。上述の直交化条件の算出においては、このふたつの直線は平行関係にあるものとして説明した。具体的に説明すれば、例えばビル壁面ないしはビルの屋上などに、ビルの壁面に平行な水平軸を仮定し、その水平軸に沿って複数の第1の信号処理部及びパラボラアンテナ307−1〜307−4を設置する場合には、中継局装置のリニアアレーも道を隔てた反対側のビルの壁面に平行で且つ水平な軸上に配置することが好ましい。ここで、中継局装置側のこの水平軸に対して直交する垂直軸を設定し、この水平軸及び垂直軸に平行な格子を仮定し、先に説明した中継局装置のリニアアレーを垂直方向にN’段積み上げた正方格子アレーを利用する場合について考える。この時、中継局装置の全アンテナ素子数はN×N’素子になる。しかし、この中継局装置から無線エントランス基地局装置の複数の第1の信号処理部のパラボラアンテナ307−1〜307−4を見ると、水平方向に対してはそれぞれ角度差があるものの、垂直方向の仰角に関してはパラボラアンテナ307−1〜307−4毎に差がないため、上述の正方格子アレーのN’段のそれぞれは独立なアンテナ素子とはみなされず、実質的には垂直方向に並ぶN’素子が等価的に一つの仮想的アンテナ素子として振る舞い、この仮想的アンテナ素子が水平軸上にリニアアレー状にN素子配置されているものと理解される。実際、シミュレーション評価においてもこの効果は確認されており、無線エントランス基地局装置側のパラボラアンテナ307−1〜307−4を結ぶ軸に対し、中継局装置のアンテナ素子を、この軸と平行な軸及びこの軸と直交する軸で構成される格子状にN×N’素子を配置する場合には、無線エントランス基地局装置側のパラボラアンテナ307−1〜307−4を結ぶ軸と平行な軸上のN素子で且つそのN素子の素子間隔のリニアアレーと見なして、式(6)に当てはめて無線エントランス基地局装置側のパラボラアンテナ307−1〜307−4の素子間隔を最適すれば良い。当然ながら、無線エントランス基地局装置側のパラボラアンテナ307−1〜307−4がビルの壁面などに垂直方向に整列している場合には、中継局装置側のアンテナ素子も垂直方向にN素子、水平方向にN’素子を格子状に並べ、これを垂直方向に並んだ等価的なN素子のリニアアレーと見なして式(6)を適用すればよい。また、ここでは中継局装置側のアンテナ配列を正方格子アレーとして説明したが、必ずしも正方格子である必要はなく、長方形状に水平方向と垂直方向の素子間隔が異なっていても構わない。この場合には、無線エントランス基地局装置側のパラボラアンテナ307−1〜307−4が整列する軸と平行な中継局装置側の軸に並ぶアンテナ素子の間隔を、式(6)のアンテナ素子間隔dとして算出すればよい。
以上のように、本発明の背景技術の無線通信システム53は、無線エントランス基地局装置306及び中継局装置302を備える。無線エントランス基地局装置306はパラボラアンテナ307−1〜307−4(アンテナ素子群)を備え、中継局装置302は中継局装置アンテナ素子群312を備える。無線エントランス基地局装置306の複数のパラボラアンテナ307−1〜307−4(アンテナ素子群)における第m素子と第n素子の間隔ΔDは、式(6)に示されているように、中継局装置302と無線エントランス基地局装置306の距離Lと、無線通信の信号波の波長λと、中継局装置302のアンテナ数NMT−Antと、中継局装置302のアンテナ素子の間隔dとに基づいて配置される。パラボラアンテナ307−1〜307−4は、例えば、それぞれが単一の高利得アンテナ素子(単一アンテナ素子)である。パラボラアンテナ307−1〜307−4は、単一の高利得アンテナ素子である代わりにアンテナ素子群でもよい。この様にアンテナ素子群を用いる場合には、無線エントランス基地局装置306は図11に示す無線エントランス基地局装置303及び図12の無線エントランス基地局装置70であっても良い。図12における無線エントランス基地局装置70は、複数の第1の送信信号処理部181と、複数の第1の受信信号処理部185と、第2の送信信号処理部71と、第2の受信信号処理部75とを有する。複数の第1の送信信号処理部181は、複数のアンテナ素子819を有する。複数の第1の受信信号処理部185は、複数のアンテナ素子851を有する。第2の送信信号処理部71は、複数の第1の送信信号処理部181に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。第2の受信信号処理部75は、複数の第1の受信信号処理部185に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。中継局装置60は、複数のアンテナ素子819と、複数のアンテナ素子851と、送信部61と、受信部65とを有する。送信部61は、複数のアンテナ素子819を介して複数の第1の受信信号処理部185との無線通信を実行する。受信部65は、複数のアンテナ素子851を介して複数の第1の送信信号処理部181との無線通信を実行する。
すなわち、アンテナ素子の間隔又はアンテナ素子グループの間隔が、無線エントランス基地局装置306と中継局装置302との距離Lと、無線通信の信号波の波長λと、第2のアンテナ素子群を構成するリニアアレー状のアンテナ素子の数Nまたは格子状に配置された縦方向又は横方向のいずれかのアンテナ素子の数Nと、第2のアンテナ素子群を構成する縦方向又は横方向のいずれかのアンテナ素子の間隔dとに基づいて算出された値の整数倍になる様に、複数の第1のアンテナ群を構成する各単一アンテナ素子又はアンテナ素子グループは配置される。
これによって、本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置306又は70、中継局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、見通し環境が支配的な環境でMIMOによって伝送容量を増大させることが可能となる。本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置306又は70、中継局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、所望の特性で複数の信号系列を空間多重して伝送することが可能になる。本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置306又は70、中継局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、SIR特性を改善することができる。本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置306又は70、中継局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、より高い空間多重を実現することができる。
本発明の背景技術の無線エントランス基地局装置306又は70、中継局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、見通しが支配的な環境で、無線エントランス基地局装置306又は70側の複数のパラボラアンテナ307と、中継局装置302又は60側の複数素子アンテナとのMIMOチャネルにおいて、各チャネルが直交化されるためのアンテナ設置条件を規定している。ただし、ここでは議論を単純化するために基地局側にパラボラアンテナを実装する場合の条件を示したが、当然ながらパラボラアンテナ以外の高指向性アンテナを用いたり、更には基地局側が複数アンテナ素子で構成される図11に示す様な第1の信号処理部を用いたりする様な場合であっても、同様の条件で各伝送路間の直交化を概ね図ることができる。これにより、伝送路上での通信品質の向上と、伝送容量の増大を図ることが可能になる。
[本発明の第1の実施形態]
以上の本発明の背景技術においては、無線エントランス基地局装置が備える第1の信号処理部(サブアレーアンテナ)の数をM1とし、中継局はサブアレー化していないアレーアンテナの間で空間多重を行う場合について説明した。空間多重可能な信号系統数は無線エントランス基地局装置の備える第1の信号処理部の数M1であり、例えば16多重を行うためには基地局側に16(=M1)個の第1の信号処理部を所定の間隔で設置する必要があった。仮に、上述の式(6)で与えられる間隔で第1の信号処理部を配置するためには、この間隔の15倍の幅で等間隔に第1の信号処理部を配置しなければならない。仮にこの間隔が1mだとすると、15mもの幅に対して第1の信号処理部を設置し、それらと第2の信号処理部との間で信号を交換するための有線のケーブルでの接続が必要になる。本発明の背景技術の狙いは、中継局側のサイズを小さくするところに目的があったのだが、その代償として空間多重数を高めた運用においては無線エントランス基地局装置側の第1の信号処理部を多数且つ広範囲に設置する必要があった。
そこで本発明の実施形態においては、中継局装置側もサブアレー化し、中継局装置に複数の第1の信号処理部を実装する構成とする。図1に、本発明の第1の実施形態におけるシステム構成の概要を示す。また、比較対象として図2に複数のアンテナ素子を対向させた場合の従来技術におけるシステム構成の概要を示す。
図1に示すように、無線通信システム350は、無線エントランス基地局装置313と、中継局装置323とを備える。無線エントランス基地局装置313は、第1の信号処理部314−1〜314−M1(M1は2以上の整数)と、第2の信号処理部315(厳密にはインタフェース回路、MAC層処理回路、通信制御回路などのその他の無線エントランス基地局装置機能を含む)とを備える。中継局装置323は、第1の信号処理部324−1〜324−M2(M2は2以上の整数)と、第2の信号処理部325(厳密にはインタフェース回路、MAC層処理回路、通信制御回路などのその他の中継局装置を含む)とを備える。M1は、無線エントランス基地局装置313が備える第1の信号処理部314の数を示し、M2は、中継局装置323が備える第1の信号処理部324の数を表す。
無線エントランス基地局装置313の第1の信号処理部314−1〜314−M1が備えるアンテナ素子は長さD1にわたって配置される。第1の信号処理部314−1〜314−M1のそれぞれが備えるアンテナ素子の素子数はN1、素子間隔はd1である。中継局装置323の第1の信号処理部324−1〜324−M2が備えるアンテナ素子は長さD4にわたって配置される。第1の信号処理部324−1〜324−M2のそれぞれが備えるアンテナ素子の素子数はN2、素子間隔はd2である。また、無線エントランス基地局装置313と中継局装置323との間の距離はLである。
また、図2に示すように、従来技術における無線通信システム351は、無線エントランス基地局装置306と、中継局装置336とを備える。無線エントランス基地局装置306は、アンテナ素子308−1〜308−M1を備え、中継局装置336は、アンテナ素子337−1〜337−M2を備える。アンテナ素子308−1〜308−M1及びアンテナ素子337−1〜337−M2は、例えばパラボラアンテナである。同図においても、M1は、無線エントランス基地局装置313が備える第1の信号処理部314の数を示し、M2は、中継局装置323が備える第1の信号処理部324の数を表す。無線エントランス基地局装置306が備えるアンテナ素子308−1〜308−M1は長さD1にわたって配置され、中継局装置336が備えるアンテナ素子337−1〜337−M2は長さD4にわたって配置される。無線エントランス基地局装置306と中継局装置336の距離はLである。
本発明背景技術との違いを理解するために、本実施形態と背景技術との対比を基に以下に説明を行う。まず図11に示す中継局装置302はアンテナ素子がサブアレー化されておらず、アレーアンテナないしはサブアレーアンテナを単位に見れば、無線エントランス基地局装置303と中継局装置302のアレーアンテナは、M対1(図11では4対1であり、一方が単数である)の関係であった。しかし、本発明の第1の実施形態においては、これをM1対M2(両方が複数である)としている点が最大の違いである。本発明の背景技術の説明では、図11のサブアレーを実装した第1の信号処理部304−1〜304−4を、図20ではパラボラアンテナ307−1〜307−4に置き換えて説明をしていた。これは、第1の信号処理部304−1〜304−4が形成するビームをそれぞれひとつずつとしていたからであり、この構成における空間多重数の数は、無線エントランス基地局装置303の備える第1の信号処理部304−1〜304−4の数に一致する。これとは異なり、図2に示す中継局装置336にも複数のアンテナ素子337−1〜337−M2を実装することで構成した無線通信システム351の場合、中継局装置336が有する複数のアンテナ素子337−1〜337−M2は全体で図11又は図20に示す中継局装置302のアレーアンテナである中継局装置アンテナ素子群312に対応するため、結局のところ一般的なMIMO伝送と同様に実現可能な空間多重数はM1とM2の内の小さい方の値が上限になる。すなわち本発明の背景技術(本発明に対する従来技術)では、図11の無線エントランス基地局装置303の第1の信号処理部304−1〜304−4の各アンテナ素子群を等価的に図20のパラボラアンテナ307−1〜307−4とみなし、これらのパラボラアンテナ307−1〜307−4(M1=4)と中継局装置302の備えるM2本のアンテナ素子の間のM1×M2のMIMO伝送における最適なパラボラアンテナの間隔を近似的に求めていた。この結果、実現可能な空間多重数はM1(ここではM1<<M2と仮定していたため)が上限値となっていた。
しかし、図1に示した無線通信システム350においては、第1の信号処理部314−1〜314−M1はそれぞれ図11または図20の中継局装置302がそうであったように、それぞれが対向する中継局装置323の各第1の信号処理部324−1〜324−M2に対して指向性ビームを複数形成可能である。それと同様に、中継局装置323の各第1の信号処理部324−1〜324−M2は無線エントランス基地局装置313の第1の信号処理部314−1〜314−M1のそれぞれに対して指向性ビームを複数形成可能である。この結果、図11又は図20に示した様なPoint−toPoint型の通信でありながら、無線エントランス基地局装置313のM1個の第1の信号処理部314−1〜314−M1がそれぞれ空間多重数M2を実現可能であるため、これらを同時並行的に実施すれば、トータルではM1×M2の空間多重度を実現することが可能になる。
例えば、M1=M2=5の場合を想定すると、合計でM1+M2=10個の第1の信号処理部314−1〜314−M1及び324−1〜324−M2を用いて、5×5=25多重を実現可能になる。これにより、中継局装置側のアンテナ開口を第1の信号処理部の間隔ΔDのM2−1倍にする必要はあるが、全体としてのサイズは多重数−1倍よりも小さく抑えることが可能になる。例えば、本実施形態の背景技術の場合、無線エントランス基地局装置においてM1=1である場合に、25多重であれば中継局装置については、ΔD×(25−1)=24ΔDのサイズを用意しなければならない。しかし、本実施形態の図1の構成の場合には、無線エントランス基地局装置、中継局装置共に4ΔDの幅で25多重できるため、全体としては省スペースを図れることになる。即ち、本実施形態における第1の信号処理部314−1〜314−M1及び324−1〜324−M2が備えるサブアレーのアンテナ素子はそれ全体で複数の指向性ビームを形成可能であるが故に、図2に示した構成の従来技術における無線通信システム351とは全く違った動作が可能となる。
上述のように、図1において第1の信号処理部314−1〜314−M1の各アンテナ素子は素子間隔d1で素子数N1であり、第1の信号処理部324−1〜324−M2の各アンテナ素子は素子間隔d2で素子数N2である。この時、無線エントランス基地局装置313の第1の信号処理部314−1〜314−M1の間隔がΔD1、中継局装置323の第1の信号処理部324−1〜324−M2の間隔がΔD4、無線エントランス基地局装置313と中継局装置323の距離がL、波長がλであるとすると、式(6)に対応する以下の式(7)及び式(8)の関係式が成立するものとする。なお、無線エントランス基地局装置と中継局装置が概ね正対する方向から大きくずれる場合には、図21に示す様な補正が本発明の第1の実施形態においても同様に必要である。
次に、本発明の第1の実施形態における装置構成の特徴を、図を基に説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態における無線エントランス基地局装置270の構成の一例を示す概略ブロック図である。無線エントランス基地局装置270は、図1に示す無線エントランス基地局装置313に対応する。同図において、図12に示す本発明の背景技術における無線エントランス基地局装置70と同一の部分には同一の符号を付している。図3に示すように、無線エントランス基地局装置270は、第1の送信信号処理部281−1〜281−M1と、第2の送信信号処理部271と、第1の受信信号処理部285−1〜285−M1と、第2の受信信号処理部275と、インタフェース回路77と、MAC(Medium Access Control)層処理回路78と、通信制御回路120と、スケジューリング処理回路781とを備えている。
MAC層処理回路78は、スケジューリング処理回路781を有している。同図では明示的に示していないが、通信制御回路120は、第2の送信信号処理部271を介して第1の送信信号処理部281−1〜281−M1と接続されていると共に、第2の受信信号処理部275を介して第1の受信信号処理部285−1〜285−M1と接続されている。図12に示した本発明の背景技術における無線エントランス基地局装置70では、第2の送信信号処理部71から各第1の送信信号処理部181−1〜181−4に1系統の信号を出力するのみであったが、図3に示す本発明の第1の実施形態の無線エントランス基地局装置270では、第1の送信信号処理部281−1〜281−4それぞれにM2系統の信号が出力される。同様に、図12に示した本発明の背景技術における無線エントランス基地局装置70では、各第1の受信信号処理部185−1〜185−4それぞれから第2の受信信号処理部75に1系統の信号を出力するのみであったが、図3に示す本発明の第1の実施形態の無線エントランス基地局装置270では、各第1の受信信号処理部285−1〜285−4それぞれから第2の受信信号処理部275にM2系統の信号が出力される。
以下、詳細に説明を行う。無線エントランス基地局装置270は、インタフェース回路77を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路77は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路78に出力する。MAC層処理回路78は、無線エントランス基地局装置270全体の動作の管理制御を行う通信制御回路120の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路77で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換と、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路781は、空間多重を行う中継局装置323の各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路781は、スケジューリング結果を通信制御回路120に出力する。MIMO伝送では、複数の信号系列の信号を一度に空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路78から第2の送信信号処理部271に出力される。
なお、図1の第1の信号処理部314−1〜314−M1のそれぞれと第1の信号処理部324−1〜324−M2のそれぞれとの組み合わせの数だけ空間多重が可能である。従って、MAC層処理回路78と第2の送信信号処理部271及び第2の受信信号処理部275との間で交換される信号系列の数NSDMは、本発明の第1の実施形態では基本的にM1×M2で与えられる。ただし、一部の信号系列に関しては反射波などの影響などで相関が十分低減できていない場合もあるため、その場合には空間多重の最大数であるNSDM=M1×M2以下の信号系列を交換する構成であっても構わない。
第2の送信信号処理部271は、MAC層処理回路278からの複数系列の信号に所定の変調処理を行い、必要に応じてプリコーディング処理(送信側での等化処理や信号分離などの処理であり、省略することも可能である)などを施し、第1の送信信号処理部281−1〜281−M1に出力する。この際、OFDMやSC−FDEを用いる場合にかかわらず、第1の送信信号処理部281−1〜281−M1にて周波数軸上の信号処理を行う場合には、第2の送信信号処理部271内で周波数軸上の信号を生成し、これを第1の送信信号処理部281−1〜281−M1に出力する。一方、第1の送信信号処理部281−1〜281−M1で時間軸上の信号処理を行う場合には、第2の送信信号処理部271は、時間軸の信号を出力する構成としても良い。
第1の送信信号処理部281−1〜281−M1のそれぞれには図1に示す様に複数のアンテナが接続され、各第1の送信信号処理部281−1〜281−M1は、それぞれのアンテナに対して送信信号を出力する。この際、第1の送信信号処理部281−1〜281−M1毎にグループ化されたアンテナ素子群の中で、図1の無線エントランス基地局装置313の第1の信号処理部314−1〜314−M1と中継局装置323の第1の信号処理部324−1〜324−M2との組み合わせ毎に、第1の特異値に相当する送信ウエイトベクトルを乗算した信号(厳密には、例えばOFDMであれば各サブキャリアの信号を合成した信号を時間軸成分に変換し、これを無線周波数にアップコンバートした信号)が各アンテナから送信される。
次に受信時においては、各第1の受信信号処理部285−1〜285−M1に接続された複数のアンテナで受信した信号(正確には受信した無線周波数の信号をベースバンド信号にダウンコンバートし、例えばOFDMであればこの時間軸信号をFFTで周波数軸の信号に変換したもの)に所定の受信ウエイトベクトルを乗算し、例えばOFDMであればサブキャリア毎に一つの複素スカラー量に変換し、これらを第2の受信信号処理部275に出力する。第1の受信信号処理部285−1〜285−M1で時間軸上の信号処理を行う場合には、周波数軸上では共通の値となる受信ウエイトを時間軸上でアンテナ素子毎に乗算し、時間軸の信号を出力する構成としても良い。
第2の受信信号処理部275は、例えばOFDMであれば、NSDM=M1×M2であるNSDMに対しNSDM系統のサブキャリア毎の受信信号系列を参照し、まずは受信信号の先頭に付与された既知のトレーニングシング信号を用いてサブキャリア毎のチャネル推定を行い、NSDM×NSDMのMIMOチャネル行列をサブキャリア毎に取得する。一方、第2の受信信号処理部275で時間軸上の信号処理を行う場合には、NSDM系統の受信信号系列を参照し、まずは受信信号の先頭に付与された既知のトレーニングシング信号の相関値を用いてチャネル推定を行い、全周波数帯に共通のNSDM×NSDMのMIMOチャネル行列を取得する。このチャネル行列を基に受信ウエイト行列を算出し、取得された受信ウエイト行列を基に送信された信号の検出処理を行う。例えば、ZF(Zero Forcing)型の逆行列を利用したり、MMSE(Maximum Mean Square Error)型の受信ウエイト行列を利用したりする。信号処理に余裕があれば、MLD(Maximum Likelihood Detection)やQR分解を用いた簡易MLD(QR-MLD)等を用いても良い。一方、時間軸の信号処理を行う場合には、第2の受信信号処理部275は、全信号系列のサンプリングデータをベクトル形式にし、これに全周波数帯に共通の受信ウエイト行列を乗算したサンプリングデータを基に、受信信号検出処理を実施しても構わない。これらの受信信号処理で検出された信号はMAC層処理回路78に出力され、所定のMAC層の処理(空間多重で並列伝送された信号系列を1系統に組み直す処理を含む)を行い、インタフェース回路77を介してネットワーク側に出力される。また、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。
図4は、本発明の第1の実施形態における中継局装置470の構成の一例を示す概略ブロック図である。中継局装置470は、図1に示す中継局装置323に対応する。同図において、図15に示す本発明の背景技術における中継局装置60と同一の部分には同一の符号を付している。図4に示すように中継局装置470は、第1の送信信号処理部481−1〜481−M2と、第2の送信信号処理部471と、第1の受信信号処理部485−1〜485−M2と、第2の受信信号処理部475と、インタフェース回路67と、MAC層処理回路68と、通信制御回路121とを備えている。本図では明示的に示していないが、通信制御回路121は、第2の送信信号処理部471を介して第1の送信信号処理部481−1〜481−M2と接続されていると共に、第2の受信信号処理部475を介して第1の受信信号処理部485−1〜485−M2と接続されている。
図4に示す中継局装置470も基本的な構成は図3に示す無線エントランス基地局装置270と同様であり、第1の送信信号処理部481−1〜481−M2は第1の送信信号処理部281−1〜281−M1に対応し、第2の送信信号処理部471は第2の送信信号処理部271に対応し、第1の受信信号処理部485−1〜485−M2は第1の受信信号処理部285−1〜285−M1に対応し、第2の受信信号処理部475は第2の受信信号処理部275に対応し、インタフェース回路67はインタフェース回路77に対応し、MAC層処理回路68はMAC層処理回路78に対応し、通信制御回路121は通信制御回路120にそれぞれ対応する。これらの対応するそれぞれの動作は、第2の送信信号処理部271が第1の送信信号処理部281−1〜281−M1のそれぞれに出力する信号系統数はM2系統であるが、第2の送信信号処理部471が第1の送信信号処理部481−1〜481−M2のそれぞれに出力する信号系統数がM1系統である点、第1の受信信号処理部285−1〜285−M1それぞれが第2の受信信号処理部275に出力する信号系統数はM2系統であるが、第1の受信信号処理部485−1〜485−M2それぞれが第2の受信信号処理部475に出力する信号系統数はM1系統である点を除き、基本的には全く同じである。
また図3に示す無線エントランス基地局装置270と図4に示す中継局装置470の違いは、無線エントランス基地局装置270のMAC層処理回路78は無線エントランス基地局装置としての機能であるスケジューリング処理回路781を有しており、帯域割り当てのスケジューリング処理を行うが、中継局装置470のMAC層処理回路68にはスケジューリング処理回路781に対応するものはなく、無線エントランス基地局装置270の指示に従い通信制御回路121が動作を管理する。
以上説明した様に図3に示す無線エントランス基地局装置270の第1の送信信号処理部281−1〜281−M1、第2の送信信号処理部271、第1の受信信号処理部285−1〜285−M1及び第2の受信信号処理部275、ならびに、図4に示す中継局装置470の第1の送信信号処理部481−1〜481−M2、第2の送信信号処理部471、第1の受信信号処理部485−1〜485−M2及び第2の受信信号処理部275が処理する信号系統数がそれぞれ増加しているが、個々の信号処理の流れは図12に示す無線エントランス基地局装置70ないしは図15に示す中継局装置60で示した処理と基本的には変わらない。
また、図1に示した様に第1の信号処理部314−1〜314−M1はそれぞれ送信機能及び受信機能を備えているが、図3では送信機能を第1の送信信号処理部281−1〜281−M1及び第2の送信信号処理部271で示し、受信機能を第1の受信信号処理部285−1〜285−M1及び第2の受信信号処理部275で示し、それぞれが分離しているものとして説明していた。しかし、実際には第1の信号処理部314−1〜314−M1のそれぞれに、第1の送信信号処理部281−1〜281−M1及び第1の受信信号処理部285−1〜285−M1をひとつずつ組み合わせたペアを実装し、送信アンテナと受信アンテナを共用する構造としても構わない。同様に、図1に示した第1の信号処理部324−1〜324−M2はそれぞれ送信機能及び受信機能を備えているが、図4では送信機能を第1の送信信号処理部481−1〜481−M2及び第2の送信信号処理部471で示し、受信機能を第1の受信信号処理部485−1〜485−M2及び第2の受信信号処理部475で示し、それぞれが分離しているものとして説明していた。しかし、実際には第1の信号処理部324−1〜324−M2のそれぞれに、第1の送信信号処理部481−1〜481−M2及び第1の受信信号処理部485−1〜485−M2をひとつずつ組み合わせたペアを実装し、送信アンテナと受信アンテナを共用する構造としても構わない。この送信アンテナと受信アンテナをペアにする場合には、例えばTDDスイッチを用い、通信制御回路120又は通信制御回路121からの指示でTDDスイッチを切り替え、送信と受信とを時間的に棲み分ける構成としてもよい。特にインプリシット・フィードバックを適用する場合には、この構成をとることが好ましい。
図5は、本発明の第1の実施形態の無線エントランス基地局装置270における第1の送信信号処理部281の構成の一例を示す概略ブロック図である。図5に示す様に、第1の送信信号処理部281−i(iは1〜M1)は、送信信号処理回路211−1〜211−M2と、加算合成回路812−1〜812−NBS−Antと、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NBS−Antと、D/A変換器814−1〜814−NBS−Antと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−NBS−Antと、フィルタ817−1〜817−NBS−Antと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−NBS−Antと、アンテナ素子819−1〜819−NBS−Antと、第1の送信ウエイト処理部240とを備えている。NBS−Antは、第1の送信信号処理部281が備えるアンテナ素子の数である。送信信号処理回路211−1〜211−M2と、第1の送信ウエイト処理部240とは、図3において説明した様に第2の送信信号処理部271を介して通信制御回路120に接続されている。第1の送信ウエイト処理部240は、チャネル情報取得回路241と、チャネル情報記憶回路242と、第1の送信ウエイト算出回路243とを備えている。
本発明の背景技術では、ひとつの第1の送信信号処理部181はひとつの信号系列のみを送信するため、第2の送信信号処理部71からは1系統ずつが入力される構成となっていた。一方、本発明の第1の実施形態では、ひとつの第1の送信信号処理部281はM2系統の信号系列を空間多重して送信するため、第2の送信信号処理部271からは、それぞれM2系統の信号系列が入力される。この結果、第1の送信信号処理部281の構成は本発明背景技術における図13の構成の代わりに、中継局装置60に関する図16の構成に類似の構成となっている。
この結果、M2系統の変調処理が施された信号系列が第2の送信信号処理部271から第1の送信信号処理部281に入力され、入力されたM2系統の信号系列が送信信号処理回路211−1〜211−M2に入力される。送信信号処理回路211−1〜211−M2は、宛先の中継局装置470の各第1の受信信号処理部485−1〜485−M2に対して送信すべきデータ(データ入力#1〜#M2)が入力されると、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、変調処理がなされたベースバンド信号にサブキャリアごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−NBS−Antに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして各送信信号処理回路211−1〜211−M2から加算合成回路812−1〜812−NBS−Antに入力される。
加算合成回路812−1〜812−NBS−Antに入力された信号は、サブキャリアごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NBS−Antにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−NBS−Antごとに、D/A変換器814−1〜814−NBS−Antでデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−NBS−Antで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の領域に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−NBS−Antで帯域外の信号を除去し、送信すべき信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−NBS−Antで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−NBS−Antより送信される。
なお、図5では、各サブキャリアの信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−NBS−Antで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路211−1〜211−M2にてこれらの処理を行い、IFFTされた時間軸上のサンプリング信号を加算合成回路812−1〜812−NBS−Antで合成することとして、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NBS−Antを省略する構成(厳密には、送信信号処理回路211−1〜211−M2にこれらを含める)としてもよい。この場合、送信信号処理回路211−1〜211−M2における送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を指す。
また、送信信号処理回路211−1〜211−M2で乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部240に備えられている第1の送信ウエイト算出回路243より取得する。第1の送信ウエイト処理部240では、チャネル情報取得回路241において、第1の受信信号処理部285にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120経由(厳密には更に第2の送信信号処理部271及び第2の受信信号処理部275を介している)で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路242に記憶する。信号の送信時には通信制御回路120からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路243は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路242から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。第1の送信ウエイト算出回路243は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路211−1〜211−NSDMに出力する。なお、上述の説明では宛先とする中継局装置に関する管理を明示的に示したが、通信相手である中継局装置が単一である場合には通信の宛先局の管理を省略することも当然可能である。
なお、本発明の背景技術の特徴は、送信ウエイトの算出において、中継局装置60と無線エントランス基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4との間で、第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用することであり、この点は本発明の第1の実施形態においても同様である。この第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する場合のチャネル推定の方法及び送受信ウエイトの算出方法には幾つかのバリエーションがあり、これを効率的に取得する手法については、既存の如何なる手法を用いても構わない。
例えば、無線エントランス基地局装置270(無線エントランス基地局装置313)の第1の信号処理部314−1〜314−M1と中継局装置470(中継局装置323)の第1の信号処理部324−1〜324−M2間のチャネル行列に対し、特異値分解した際の第1右特異ベクトルを送信ウエイトベクトルに用いても良い。この場合、無線エントランス基地局装置270の第1の送信ウエイト算出回路243はこの第1右特異ベクトルを算出する機能を有する。
ないしは、中継局装置470側が第1の信号処理部324−1〜324−M2のそれぞれの複数のアンテナ素子に所定の送信ウエイトベクトルを乗算して信号送信している場合には、実際には複数の送信アンテナから送信されているにも関わらず、実効的には第1の信号処理部324−1〜324−M2のそれぞれが1本の仮想的アンテナ素子から送信しているものと等価である。このため、この1本の仮想的アンテナ素子と無線エントランス基地局装置270の各受信アンテナとの間のチャネル情報のベクトルを取得し、このチャネルベクトルにキャリブレーション処理を施すインプリシット・フィードバックの手法でダウンリンクのチャネル情報を取得することも可能である。
無線エントランス基地局装置270の第1の送信ウエイト算出回路243は、この様にして求めたアップリンクのチャネルベクトルを基に、最大比合成ないしは等利得合成(それぞれ、複素位相が同位相になる様な合成)としてこのチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルの何れかを、送信ウエイトベクトルとして利用しても良い。
これらの説明の通り、図5における第1の送信ウエイト処理部240、チャネル情報取得回路241、チャネル情報記憶回路242、第1の送信ウエイト算出回路243は、無線エントランス基地局装置と中継局装置との差はあるが、図16における第1の送信ウエイト処理部140、チャネル情報取得回路141、チャネル情報記憶回路142、第1の送信ウエイト算出回路143に対応するものとなっており、基本的な動作も対応したものとなっている。
図6は、本発明の第1の実施形態の無線エントランス基地局装置270における第1の受信信号処理部285の構成を示す概略ブロック図である。図6に示すように、第1の受信信号処理部285−i(iは1〜M1)は、アンテナ素子851−1〜851−NBS−Antと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−NBS−Antと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−NBS−Antと、フィルタ855−1〜855−NBS−Antと、A/D変換器856−1〜856−NBS−Antと、FFT回路857−1〜857−NBS−Antと、受信信号処理回路255−1〜255−M2と、第1の受信ウエイト処理部254とを備えている。受信信号処理回路255−1〜255−M2と、第1の受信ウエイト処理部254とは、図3において示した通信制御回路120に接続されている。第1の受信ウエイト処理部254は、第1のチャネル情報推定回路256と、第1の受信ウエイト算出回路257とを備えている。本発明の第1の実施形態における第1の受信信号処理部285は、本発明の背景技術における図18に示す中継局装置60の受信部65に類似の構成である。図18では、受信部65の中に第2の受信信号処理回路159を含めて記述していたが、無線エントランス基地局装置270では第2の受信信号処理部275がこの機能を備えており、受信部65から第2の受信信号処理回路159の機能を除外したものに対応している。
まず、アンテナ素子851−1〜851−NBS−Antで受信した信号は、ローノイズアンプ852−1〜852−NBS−Antで増幅される。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−NBS−Antで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の信号も含まれるため、フィルタ855−1〜855−NBS−Antで帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−NBS−Antでデジタルベースバンド信号に変換される。例えばOFDMを用いる場合には、デジタルベースバンド信号はFFT回路857−1〜857−NBS−Antに入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各サブキャリアの信号に分離)する。この各サブキャリアに分離された信号は、受信信号処理回路255−1〜255−M2に入力されるとともに、第1のチャネル情報推定回路256にも入力される。
第1のチャネル情報推定回路256は、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に無線エントランス基地局装置270の第1の送信信号処理部281−1〜281−M1の各送信ウエイトベクトルにより形成される仮想的アンテナ素子と、中継局装置470の各アンテナ素子との間のチャネル情報のチャネルベクトルをサブキャリアごとに推定し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路257に出力する。第1の受信ウエイト算出回路257は、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトをサブキャリアごとに算出する。
本発明の背景技術の特徴は、受信ウエイトの算出において、中継局装置60と無線エントランス基地局装置70の第1の受信信号処理部185−1〜185−4との間で、第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用することであり、この点は本発明の第1の実施形態においても同様である。この第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する場合のチャネル推定の方法及び送受信ウエイトの算出方法には幾つかのバリエーションがあり、図5での説明と同様に、これを効率的に取得する手法については、既存の如何なる手法を用いても構わない。
例えば、無線エントランス基地局装置270(無線エントランス基地局装置313)の第1の信号処理部314−1〜314−M1と中継局装置470(中継局装置323)の第1の信号処理部324−1〜324−M2の各組み合わせの各チャネル行列に対し、特異値分解した際の第1左特異ベクトルを受信ウエイトベクトルに用いても良い。この場合、第1の受信ウエイト算出回路257はこの第1右特異ベクトルを算出する機能を有することになる。
ないしは、中継局装置470側が第1の信号処理部324−1〜324−M2のそれぞれの複数のアンテナ素子に所定の送信ウエイトベクトルを乗算して信号送信している場合には、実際には複数の送信アンテナから送信されているにも関わらず、実効的には第1の信号処理部324−1〜324−M2のそれぞれが1本の仮想的アンテナ素子から送信しているものと等価である。このため、この1本の仮想的アンテナ素子と無線エントランス基地局装置270の各受信アンテナとの間のチャネル情報のベクトルを取得することも可能である。ないしは、送信ウエイトベクトルを乗算して得られる1本の仮想的アンテナ素子から送信する代わりに、実際に第1の信号処理部324−1〜324−M2に備えられるアンテナ素子からそれぞれ1本を選択し、物理的にこれらの各1本のアンテナ素子から送信した信号を基に、これらの1本のアンテナ素子と無線エントランス基地局装置270の各受信アンテナとの間のチャネル情報のベクトルを取得することも可能である。
無線エントランス基地局装置270の第1の受信ウエイト算出回路257は、この様にして求めたチャネルベクトルを基に、最大比合成ないしは等利得合成(それぞれ、複素位相が同位相になる様な合成)としてこのチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルの何れかを、受信ウエイトベクトルとして利用しても良い。
これらの説明の通り、図6における第1の受信ウエイト処理部254、第1のチャネル情報推定回路256、第1の受信ウエイト算出回路257は、無線エントランス基地局装置と中継局装置との差はあるが、図18における第1の受信ウエイト処理部154、第1のチャネル情報推定回路156、第1の受信ウエイト算出回路157に対応するものとなっており、基本的な動作も対応したものとなっている。
受信信号処理回路255−1〜255−M2では、FFT回路857−1〜857−NBS−Antから入力されたサブキャリアごとの信号に対し、第1の受信ウエイト算出回路257から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851−1〜851−NBS−Antで受信された信号をサブキャリアごとに加算合成する。受信信号処理回路255−1〜255−M2は、それぞれ加算合成した信号を第2の受信信号処理部275に出力する。
以上が無線エントランス基地局装置270の第1の受信信号処理部285に関する説明である。なお、第2の受信信号処理部275に関しては、本発明の背景技術に関して図19で説明した無線エントランス基地局装置70の第2の受信信号処理部75ないしは中継局装置60の第2の受信信号処理回路159における装置構成の例と同様である。
NSDM本の第1特異値に対応する仮想的伝送路の受信信号としてNSDM系列の信号系列が第2の受信信号処理部275に入力(ここでは明示していないが、OFDMの場合には、各サブキャリアの信号が入力されて、同様の信号処理を行うことになる)されると、チャネル行列取得回路191では受信信号の先頭に付与された既知のトレーニング信号を参照し、NSDM系統の信号系列に対しNSDM×NSDMのチャネル行列を取得する。
受信ウエイト行列算出回路192は、チャネル行列取得回路191が取得したそのチャネル行列を基に受信ウエイト行列をZF型の逆行列やMMSE型の線形受信ウエイト行列として算出し、これを受信ウエイト行列乗算回路193に入力する。受信ウエイト行列乗算回路193は、後続するデータに受信ウエイト行列を乗算し、異なる仮想的伝送路間のクロストーク成分である干渉信号を抑圧する。
信号検出回路194は、SINR特性が高められた各信号に対して信号検出を行う。ここでの信号検出とは一般的な復調処理を意図する。例えば受信信号の軟判定を行い、デインタリーブの後に誤り訂正を行い、最終的な信号検出を行う。複数の信号系列に展開されてパラレル伝送されたデータはパラレル/シリアル変換で1系列のデータに変換され、これらをMAC層処理回路に出力する。なお、ここでは典型的な例として線形の信号処理の例を示したが、信号検出回路194は、MLDないしQR−MLDなどの非線形の信号処理を行うことも可能である。
以上が無線エントランス基地局装置に関する説明である。続いて、中継局装置に関する説明を行う。
図7は、本発明の第1の実施形態の中継局装置470における第1の送信信号処理部481の構成の一例を示す概略ブロック図である。図7に示す様に、第1の送信信号処理部481−i(iは1〜M2)は、送信信号処理回路411−1〜411−M1と、加算合成回路812−1〜812−NMT−Antと、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NMT−Antと、D/A変換器814−1〜814−NMT−Antと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−NMT−Antと、フィルタ817−1〜817−NMT−Antと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−NMT−Antと、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antと、第1の送信ウエイト処理部440とを備えている。送信信号処理回路411−1〜411−M1と、第1の送信ウエイト処理部440とは、第2の送信信号処理部471を介して通信制御回路121に接続されている。第1の送信ウエイト処理部440は、チャネル情報取得回路441と、チャネル情報記憶回路442と、第1の送信ウエイト算出回路443とを備えている。
図8は、本発明の第1の実施形態の中継局装置470における第1の受信信号処理部485の構成の一例を示す概略ブロック図である。第1の受信信号処理部485は、アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−NMT−Antと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−NMT−Antと、フィルタ855−1〜855−NMT−Antと、A/D変換器856−1〜856−NMT−Antと、FFT回路857−1〜857−NMT−Antと、受信信号処理回路455−1〜455−M1と、第1の受信ウエイト処理部454とを備えている。第1の受信ウエイト処理部454は、第1のチャネル情報推定回路456と、第1の受信ウエイト算出回路457とを備えている。受信信号処理回路455−1〜455−M1と、第1の受信ウエイト処理部454とは、図4において示した通信制御回路121に接続されている。
基本的に、本発明の第1の実施形態では無線エントランス基地局装置270と中継局装置470では、無線エントランス基地局装置270にはスケジューリング等の一部の機能が付加されていることを除き、ほぼ同一であり、概略ブロックもほぼ等しい。したがって、無線エントランス基地局装置270が中継局装置470に変更になることにより、アンテナ素子数がNBS−AntからNMT−Antに変更になることに対応し、NBS−Ant系統分の回路からNMT−Ant系統分の回路に変更になると共に、それに対応して図5の送信信号処理回路211−1〜211−M2、第1の送信ウエイト処理部240、チャネル情報取得回路241、チャネル情報記憶回路242及び第1の送信ウエイト算出回路243、ならびに、図6の受信信号処理回路255−1〜255−M2、第1の受信ウエイト処理部254、第1のチャネル情報推定回路256及び第1の受信ウエイト算出回路257から、図7の送信信号処理回路411−1〜411−M1、第1の送信ウエイト処理部440、チャネル情報取得回路441、チャネル情報記憶回路442及び第1の送信ウエイト算出回路443、ならびに、図8の受信信号処理回路455−1〜455−M1、第1の受信ウエイト処理部454、第1のチャネル情報推定回路456及び第1の受信ウエイト算出回路457にそれぞれ変更されている。信号系統数の増加に伴う回路規模の変更等は有り得るが、基本的な機能、動作は全く同じであるために詳細説明は省略する。
[本発明の第2の実施形態]
上述の本発明の第1の実施形態においては、図1に示した様に、無線エントランス基地局装置313の複数の第1の信号処理部314−1〜314−M1、及び中継局装置323の第1の信号処理部324−1〜324−M2はそれぞれ直線上に並び、それぞれがリニアアレー状の構成をとっていた。これに対し、より狭い領域に設備を設置するためには、各第1の信号処理部の配置を2次元的に構成することも可能である。
図9に、本発明の第2の実施形態における2次元アンテナ配置の場合の構成例を示す。本実施形態の無線通信システムは、図9に示す無線エントランス基地局装置371及び中継局装置372を備える。無線エントランス基地局装置371は、第1の信号処理部361−1〜361−9を備え、中継局装置372は、第1の信号処理部362−1〜362−9を備える。無線エントランス基地局装置371の第1の信号処理部361は、アンテナ素子363を備え、中継局装置372の第1の信号処理部362は、アンテナ素子364を備える。
無線エントランス基地局装置371の各第1の信号処理部361には、アンテナ素子363が2次元的に配置されている。第1の信号処理部361には、水平方向に素子数N1X(同図では4素子)のアンテナ素子363が素子間隔d1Xで、垂直方向に素子数N1Y(同図では4素子)のアンテナ素子363が素子間隔d1Yで配置されている。さらに、これらの第1の信号処理部361は2次元的に配置されており、水平方向には間隔ΔD1Xの間隔で3つの第1の信号処理部361が、垂直方向には間隔ΔD1Yで3つの第1の信号処理部361が配置されている。つまり、無線エントランス基地局装置371には、3×3の合計9個の第1の信号処理部361が配置されている。
中継局装置372の各第1の信号処理部362には、アンテナ素子364が2次元的に配置されている。第1の信号処理部362には、水平方向に素子数N2X(同図では3素子)のアンテナ素子364が素子間隔d2Xで、垂直方向に素子数N2Y(同図では3素子)のアンテナ素子364が素子間隔d2Yで配置されている。さらに、これらの第1の信号処理部362は2次元的に配置されており、水平方向には間隔ΔD4Xで3つの第1の信号処理部362が、垂直方向には間隔ΔD4Yで3つの第1の信号処理部362が配置されている。つまり、中継局装置372には、3×3の合計9個の第1の信号処理部362が配置されている。
この時、無線エントランス基地局装置371と中継局装置372の距離をL、中心周波数の波長をλとすると、下記の式(9)〜式(12)の条件式を満たす様にΔD1X、ΔD1Y、ΔD4X、ΔD4Yを設定する。
この条件を満たすことで、本発明の背景技術における直交化条件を2次元的に活用し、例えば図9に示す様に、合計で9個の第1の信号処理部361が無線エントランス基地局装置371に設置され、合計で9個の第1の信号処理部362が中継局装置372に設置されている場合に、原理的には9×9=81多重を実現することが可能になる。ただし、実際には反射波等の影響で直交性が低い第1の信号処理部の組み合わせもあり得るので、状況に応じて空間多重数を低く設定することも可能である。
本発明の背景技術では、図11に示す様に複数の第1の信号処理部304−1〜304−4が多素子アンテナで形成されるにもかかわらず、これを図20に示す様に個々の第1の信号処理部を仮想的な1つの(パラボラ)アンテナの様に見做し、その結果として式(6)に示す最適な間隔ΔDが算出される。この算出では、中継局装置302のアンテナ素子は複数のアンテナ素子である一方、基地局装置306はパラボラアンテナ307−1〜307−4を備えていると見なすことによって、図11に示す無線通信システムを図20のMIMOシステムと見なしている。これは、第1の信号処理部304−1〜304−4を多素子アンテナとして算出すると近似解(または厳密解)が求まらなくなるためである。したがって、この様に基地局装置306がパラボラアンテナ307−1〜307−4を備えていると見なす場合には、中継局装置側を複数サブアレー(複数の第1の信号処理部)の構成とすることはできない。
しかし、基地局装置の第1の信号処理部304−1〜304−4のアンテナ開口長を揃えると、開口長の定義は{N−1}×dであるが、これが一致するとN×dも一致することになるので、中継局装置側をサブアレー化する場合のΔDの最適値が、エントランス基地局装置側の各サブアレーで一致することになる。式(6)を満たす条件について記載した「任意のオフセットを許容」とは、図11で言えば中継局装置302のアンテナ素子の中心と、第1の信号処理部304−1〜304−4の全体の重心が真正面に来る状況である必然性はなく、横方向及び又は縦方向に任意のオフセットが加わってズレていても問題はない。この二つの特徴を組み合わせると、図1の無線エントランス基地局装置313の第1の信号処理部314−1〜314−M1のいずれにとっても、図1の中継局装置323の第1の信号処理部324−1〜324−M2が完全に共用可能な形で図11の裏返し状態になっており、相互に低相関で空間多重が出来ることになる。本実施形態では、横方向に任意のオフセットが加わり、ズレがあっても問題ないことを活用して、M1×M2多重が可能となる。
なお、式(7)〜式(12)で示した関係式は、本発明の背景技術に関する図21の説明と同様に、無線エントランス基地局装置及び中継局装置がお互いに正対していない状況では、そのための補正を行い、ΔD1とΔD4、ないしはΔD1XとΔD1YとΔD4XとΔD4Yの値を補正することで対処することも可能である。
以上説明した本実施形態によれば、見通し環境で固定設置する無線通信装置間で超高次の空間多重を実現する際に、空間多重数に対してより少ない装置(信号処理部等)数の装置構成で、且つ、より限定的な範囲に装置(アンテナ)を設置しながら、高い回線利得と安定的な空間多重特性を実現することが可能になる。本実施形態を適用することで、背景技術と比較して中継局のサイズは大きくなるが、無線エントランス基地局装置のサイズを大幅に抑えることが可能となり、無線通信システム全体としては設置範囲が狭くなり、設置の容易性を高めることが可能となる。
上述した本発明の実施形態によれば、無線通信システムは、第1の無線通信装置と第2の無線通信装置とを備える。第1の無線通信装置は、第1のアンテナ素子群を有する複数の第1の指向性形成信号処理部と、複数の前記第1の指向性形成信号処理部に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する第1の信号分離処理部とを備える。また、第2の無線通信装置は、第2のアンテナ素子群を有する複数の第2の指向性形成信号処理部と、複数の第2の指向性形成信号処理部に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する第2の信号分離処理部とを備える。
第1の指向性形成信号処理部は、第1の指向性形成信号処理部が備える第1のアンテナ素子群と第2の指向性形成信号処理部が備える第2のアンテナ素子群との間の全ての組み合わせ又は一部の組み合わせに対応した個別のMIMOチャネル行列を基に受信指向性ビームを形成する処理と、当該MIMOチャネル行列のそれぞれに対する受信ウエイトベクトルを、当該MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1左特異ベクトル又は第1左特異ベクトルの近似解に基づいて算出する処理とを行う第1の指向性形成部を備える。第2の指向性形成信号処理部は、第1の指向性形成信号処理部が備える第1のアンテナ素子群と第2の指向性形成信号処理部が備える第2のアンテナ素子群との間の全ての組み合わせ又は一部の組み合わせに対応した個別のMIMOチャネル行列を基に送信指向性ビームを形成する処理と、当該MIMOチャネル行列のそれぞれに対する送信ウエイトベクトルを、当該MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル又は第1右特異ベクトルの近似解に基づいて算出する処理とを行う第2の指向性形成部を備える。第1の信号分離処理部は、第1の指向性形成信号処理部が形成した受信指向性ビームを用いて受信した信号を基に、第2の無線通信装置が送信した信号を再生する第1の信号再生部を備える。
また、第1の指向性形成部は、個別のMIMOチャネル行列を基に送信指向性ビームを形成する処理と、当該MIMOチャネル行列のそれぞれに対する送信ウエイトベクトルを、当該MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル又は第1右特異ベクトルの近似解に基づいて算出する処理とを行う。第2の指向性形成部は、個別のMIMOチャネル行列を基に受信指向性ビームを形成する処理と、当該MIMOチャネル行列のそれぞれに対する受信ウエイトベクトルを、当該MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1左特異ベクトル又は前記第1左特異ベクトルの近似解に基づいて算出する処理とを行う。第2の信号分離処理部は、第2の指向性形成信号処理部が形成した受信指向性ビームを用いて受信した信号を基に、第1の無線通信装置が送信した信号を再生する第2の信号再生部を備える。
例えば、第1の無線通信装置が無線エントランス基地局装置313、270である場合、第1の指向性形成信号処理部は第1の信号処理部314であり、第1の信号分離処理部は第2の信号処理部315であり、第1の指向性形成部は送信信号処理回路211、第1の送信ウエイト処理部240、受信信号処理回路255及び第1の受信ウエイト処理部254であり、第1の信号再生部は第2の受信信号処理部275である。また例えば、第2の無線通信装置が中継局装置323、470である場合、第2の指向性形成信号処理部は第1の信号処理部324であり、第2の信号分離処理部は第2の信号処理部325であり、第2の指向性形成部は送信信号処理回路411、第1の送信ウエイト処理部440、受信信号処理回路455及び第1の受信ウエイト処理部454であり、第2の信号再生部は第2の受信信号処理部475である。なお、第1の無線通信装置が中継局装置323、470であり、第2の無線通信装置が、無線エントランス基地局装置313、270であってもよい。
第1の無線通信装置と第2の無線通信装置との間の距離をL、第1の無線通信装置と第2の無線通信装置との間で用いる無線信号の中心周波数の波長をλとする。そして、第1の無線通信装置の各第1の指向性形成信号処理部が備える第1のアンテナ素子群にアンテナ素子が、水平方向に素子間隔d1XでN1X素子かつ垂直方向に素子間隔d1YでN1Y素子の2次元格子状に設置され、第2の無線通信装置の各第2の指向性形成信号処理部が備える第2のアンテナ素子群に各アンテナ素子が、水平方向に素子間隔d2XでN2X素子かつ垂直方向に素子間隔d2YでN2Y素子の2次元格子状に設置される。このとき、(a)と(b)の一方又は両方を満たすように、第2の無線通信装置に複数の第2の指向性形成信号処理部が配置され、(c)と(d)の一方又は両方を満たすように、第1の無線通信装置に複数の第1の指向性形成信号処理部が配置される。すなわち、(a)第2の無線通信装置が水平方向に2以上の第2の指向性形成信号処理部を備える場合には、それら第2の指向性形成信号処理部は、水平方向の間隔が式(13)又は式(13)の近似値となるように位置し、(b)第2の無線通信装置が垂直方向に2以上の第2の指向性形成信号処理部を備える場合には、それら第2の指向性形成信号処理部は、垂直方向の間隔が式(14)又は式(14)の近似値となるように位置する。また、(c)第1の無線通信装置が水平方向に2以上の第1の指向性形成信号処理部を備える場合には、それら第1の指向性形成信号処理部は、水平方向の間隔が式(15)又は式(15)の近似値となるように位置し、(d)第1の無線通信装置が垂直方向に2以上の第1の指向性形成信号処理部を備える場合には、それら第1の指向性形成信号処理部は、垂直方向の間隔が式(16)又は式(16)の近似値となるように位置する。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。例えば、本発明の実施形態の説明においてはOFDM変調方式を想定した装置構成及び信号処理を中心に説明を行ったが、その他の方式を適用するためには、従来技術におけるその方式の装置構成を本発明の実施形態において反映させた構成とすればよい。また、Point−to−Point型の通信を中心に説明を行ったが、複数の中継局装置を備えたPoint−to−Multipoint型の通信形態であっても全く同様の議論が成り立つ。更に、マルチユーザMIMO伝送により、複数の中継局装置と同時並行的に通信を行う構成に拡張することも可能である。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。