以下、測定装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
まず、測定装置の構成について、図1,2を参照して説明する。同図に示す電流測定装置1は、「測定装置」の一例であるクランプ式電流測定装置であって、検出部2、レンジ切替部3、A/D変換部4、操作部5、表示部6、処理部7および記憶部8を備えて、「被検出量」の一例である測定対象(例えば電線)21を流れる電流(一例として交流電流)の電流値Mを測定対象21に対して金属非接触の状態(例えば電線の導体で構成された芯線に対して非接触の状態)で測定可能に構成されている。
また、電流測定装置1は、平面視形状がほぼ長方形に形成された装置本体部11と、一例として装置本体部11の長さ方向の一端側に配設されたクランプ部12とを備えている。クランプ部12は、装置本体部11に配設された開閉レバー13を操作することにより、開閉自在に構成されて、測定対象21をクランプすることが可能となっている。
検出部2は、一例として、クランプ部12の内部に配設されてクランプ部12が閉状態のときに閉磁路を構成するコア材、およびクランプ部12の内部に配設されてコア材内の磁界を検出する磁界検出センサ(いずれも図示せず)を備えている。磁界検出センサは、例えばホール素子で構成されて、コア材内の磁界を連続的に所定の感度で検出しつつ、検出している磁界の強さに比例した電圧値の検出信号(アナログ信号としての電圧信号)Saを出力する。なお、ホール素子に代えて、既知の他の磁気センサ(フラックスゲートセンサや磁気抵抗効果素子など)を使用してもよいのは勿論である。
レンジ切替部3は、一例として、増幅率を複数段階に変更可能な増幅回路(図示せず)で構成されて、複数の測定レンジに対応する複数の増幅率(変換率の一例)のうちの1つの増幅率であって、複数の測定レンジのうちから処理部7によって選択された1つの測定レンジ(以下、選択測定レンジともいう)に対応する選択増幅率で入力信号としての検出信号Saを変換(この例では増幅)して変換信号Sbとして出力する。なお、検出部2が、磁界の強さに比例した電流値の検出信号Sa(アナログ信号としての電流信号)を出力する構成のときには、レンジ切替部3は、電流から電圧への変換率を複数段階に変更可能な電流電圧変換回路で構成されて、複数の測定レンジに対応する複数の変換率(電流から電圧への変換率(電流電圧変換率))のうちの1つの変換率であって、選択測定レンジに対応する選択変換率で入力信号としての検出信号Saを電圧信号としての変換信号Sbに変換して出力する。
A/D変換部4は、A/D変換器(図示せず)を備えて構成されて、変換信号Sbを所定の周期(変換信号Sbの電圧値の変化に対して十分に短い周期。例えば、100μs未満の周期(10kHz以上のサンプリング周波数での周期))でサンプリングして、変換信号Sbの瞬時値を示す第1波形データDa(以下、単に波形データDaともいう)を出力する。なお、この波形データDaの最大値(A/D変換器から出力されるデジタル値の最大値)に対して、後述する第2しきい値の第2上限値に対応するデジタル値は小さく(例えば、A/D変換器のデジタル値の最大値の約90%程度の値)なるように予め規定されている。この構成により、処理部7は、各測定レンジにおいて、第2しきい値の第2上限値を若干超える程度の電流値まで正確に測定することが可能になっている。
操作部5は、装置本体部11の表面に配設された後述するデジタルフィルタ処理の実行/不実行(つまり、ディジタルフィルタの使用の有無)を選択するためのフィルタ入切スイッチなどの種々の操作スイッチを備え、操作されたスイッチに対応した操作信号(例えば、フィルタ入切スイッチに対応したデジタルフィルタ処理の実行/不実行を指示する操作信号Sc)を処理部7に出力する。表示部6は、一例として、装置本体部11の表面に配設された液晶ディスプレイで構成されて、測定された電流値Mなどを表示する。
処理部7は、一例としてコンピュータで構成されて、記憶部8に予め記憶されている動作プログラムに従い、デジタルフィルタ処理、第1測定処理、第2測定処理、第1レンジ選択処理、第2レンジ選択処理、および測定した電流値Mを表示部6に表示させる表示処理を実行する。また、処理部7は、A/D変換部4から出力される波形データDaを記憶部8に記憶させる記憶処理を実行する。また、処理部7は、レンジ切替部3に対して、検出信号Saを増幅する増幅率に関して、第1レンジ選択処理または第2レンジ選択処理によって選択した1つの測定レンジ(選択測定レンジ)に対応する増幅率(選択増幅率)に切り替える制御処理を実行する。
上記の各処理のうちのデジタルフィルタ処理については、処理部7は、操作部5から出力されているフィルタ入切スイッチに対応した操作信号Scがデジタルフィルタ処理の実行を指示する内容(デジタルフィルタを使用する内容)のときに実行し、操作信号Scがデジタルフィルタ処理の不実行を指示する内容(デジタルフィルタを不使用とする内容)のときには停止する。このデジタルフィルタ処理では、処理部7は、記憶部8に記憶されている波形データDaに対してデジタル処理を実行することにより、検出信号Saに含まれる周波数成分のうちの予め規定されたカットオフ周波数を超える高周波成分が波形データDaから除去された第2波形データDb(以下、単に波形データDbともいう)を算出して(求めて)、記憶部8に記憶させる。本例では一例として、測定対象21を流れる電流(交流電流)の基本周波数が数十Hzから数kHz程度であることから、デジタルフィルタ処理での上記したカットオフ周波数は、例えば数十kHz程度に規定されている。このため、このデジタルフィルタ処理により、波形データDaから十数kHz以上の高周波成分が除去される。
また、処理部7は、フィルタ入切スイッチに対応した操作信号Scによってデジタルフィルタ処理の実行が指示されているときには、上記したようにデジタルフィルタ処理を実行すると共に、上記の各波形データDa,Dbのうちの選択した一方の波形データ(具体的には波形データDb)と上記の選択変換率(本例では選択増幅率)とに基づいて被検出量としての電流値M(測定対象21を流れる電流の実効値や平均値。本例では一例として実効値)を算出(測定)する第1測定処理、波形データDbおよび上記の選択変換率に基づいて検出信号Saのピーク値(波高値)Pを算出(測定)する第2測定処理、および第1レンジ選択処理を実行する。この第1レンジ選択処理では、処理部7は、この第1測定処理において測定された電流値Mおよびこの第2測定処理において測定されたピーク値Pに基づいて上記した複数の測定レンジのうちから新たに選択測定レンジとする1つの測定レンジを選択する。また、この第1レンジ選択処理では、処理部7は、レンジ切替部3に対する制御処理を実行して、検出信号Saに対する増幅率をこの新たな選択測定レンジに対応した増幅率に切り替える。
一方、処理部7は、フィルタ入切スイッチに対応した操作信号Scによってデジタルフィルタ処理の不実行が指示されているときに、上記したようにデジタルフィルタ処理を停止すると共に第2測定処理も停止して、上記の各波形データDa,Dbのうちの選択した一方の波形データ(具体的には波形データDa)と上記の選択変換率とに基づいて電流値Mを算出(測定)する第1測定処理、および第2レンジ選択処理を実行する。この第2レンジ選択処理では、処理部7は、ピーク値Pを用いずに、この第1測定処理において測定された電流値Mにのみ基づいて上記した複数の測定レンジのうちから新たに選択測定レンジとする1つの測定レンジを選択する。また、この第2レンジ選択処理では、処理部7は、レンジ切替部3に対する制御処理を実行して、検出信号Saに対する増幅率をこの新たな選択測定レンジに対応した増幅率に切り替える。
記憶部8は、一例として半導体メモリで構成されて、この記憶部8には、処理部7がA/D変換部4から取得した波形データDaや、デジタルフィルタ処理で算出された波形データDbや、第1測定処理で算出された電流値Mや、第2測定処理で算出されたピーク値Pが処理部7によって記憶される。また、記憶部8には、電流値Mやピーク値Pに基づいて新たな選択測定レンジを選択(特定)するための判定テーブルTB1,TB2(図3,4参照)が予め記憶されている。この2つの判定テーブルTB1,TB2のうちの判定テーブルTB1は、第1レンジ選択処理において使用され、判定テーブルTB2は第2レンジ選択処理において使用される。
本例での複数の測定レンジは、一例として、1A、10A、100Aおよび1000Aの4つである。このため、判定テーブルTB1には、図3に示すように、新たな選択測定レンジを選択するためのしきい値(電流値Mに対する第1しきい値、およびピーク値Pに対する第2しきい値)が4つの測定レンジ毎に、選択測定レンジを選択するための動作内容と共に記憶され、判定テーブルTB2には、図4に示すように、新たな選択測定レンジを選択するためのしきい値(電流値Mに対する第1しきい値)が4つの測定レンジ毎に、選択測定レンジを選択するための動作内容と共に記憶されている。
この判定テーブルTB1について、100Aの測定レンジを例に挙げて説明すると、この測定レンジでの第1しきい値は、測定レンジの定格電流である100Aと同じ電流値である第1上限値、および定格電流の数%程度の電流値(本例では8%の電流値である8A)である第1下限値の2つの電流値が規定されている。また、この測定レンジの第2しきい値は、第1しきい値での第1上限値よりも大きい電流値(本例では定格電流の150%の電流値である150A)である第2上限値、および第1しきい値での第1下限値よりも若干大きい電流値(本例では定格電流の12%の電流値である12A)である第2下限値の2つの電流値が規定されている。また、判定テーブルTB2は、判定テーブルTB1での第1しきい値と同じ第1しきい値だけで構成されている。
次に、電流測定装置1を使用して測定対象21を流れる電流の電流値Mを測定する際の手順について、電流測定装置1の動作と併せて説明する。
まず、ユーザは、例えば、不図示の電源スイッチを操作して電流測定装置1を作動状態に移行させ、開閉レバー13を操作してクランプ部12で測定対象21を図2に示すようにクランプする。
作動状態の電流測定装置1では、検出部2が検出信号Saを出力し、レンジ切替部3が現時点で選択されている1つの測定レンジ(選択測定レンジ)に対応する選択増幅率で検出信号Saを増幅して変換信号Sbとして出力し、A/D変換部4がこの変換信号Sbを波形データDaに変換して処理部7に出力する。処理部7は、波形データDaを記憶部8に記憶させつつ、上記したように、操作部5から出力されている操作信号Scで指示されている内容(デジタルフィルタ処理の実行/不実行)に応じた処理を実行して、電流値Mの測定処理と、この電流値Mを表示部6に表示させる表示処理と、測定レンジを選択するレンジ選択処理(第1レンジ選択処理または第2レンジ選択処理)と、選択した測定レンジ(選択測定レンジ)に対応した増幅率(選択増幅率)にレンジ切替部3での増幅率を切り替える制御処理とを、例えば所定の周期(例えば、0.5秒(500ms)間隔)で繰り返し実行する。
以下、電流測定装置1の具体的な動作について、操作部5から出力されている操作信号Scによってデジタルフィルタ処理の実行が指示されている場合と、デジタルフィルタ処理の不実行が指示されている場合とに分けて説明する。
最初に、操作信号Scによってデジタルフィルタ処理の実行が指示されている場合について説明する。
この場合、この電流測定装置1では、処理部7は、記憶部8に新たな波形データDaを記憶する都度、例えばこの新たな波形データDaを含む直近の所定期間(例えば、500msの期間)にA/D変換部4から取得した波形データDaに対してデジタルフィルタ処理を実行することにより、波形データDaから検出信号Saに含まれている上記の高周波成分が除去された波形データDbを算出して、記憶部8に記憶させる。これにより、電流測定装置1では、例えば、電流測定装置1の使用場所の近傍において発生している外乱に起因して検出信号Saに混入した高周波成分(高周波ノイズ成分)を含む波形データDaからこの高周波成分を除去して、波形データDbとして記憶することが可能となっている。
また、処理部7は、算出した波形データDbを記憶部8に記憶しつつ、上記の所定期間毎に、この所定期間に記憶部8に記憶させた複数の波形データDbのそれぞれと、レンジ切替部3での現在の選択増幅率および検出部2の感度とに基づいて、測定対象21を流れる電流の瞬時値を算出すると共に、第1測定処理および第2測定処理を実行する。処理部7は、この第1測定処理では、この所定期間に含まれる複数の瞬時値に基づいて実効値を算出し、この算出した実効値を測定対象21を流れる電流の電流値Mとして記憶部8に記憶させる。また、処理部7は、この第2測定処理では、この所定期間に含まれる複数の瞬時値のうちの最大値をピーク値Pとして測定(検出)して、このピーク値Pを記憶部8に記憶させる。
また、処理部7は、上記の所定期間毎に、上記のようにして第1測定処理で算出した電流値Mおよび第2測定処理で測定したピーク値Pとに基づいて、図3に示す判定テーブルTB1を使用する第1レンジ選択処理を実行して、上記した複数の測定レンジ(本例では、1A、10A、100Aおよび1000Aの4つの測定レンジ)のうちから新たに選択測定レンジとする1つの測定レンジ(選択測定レンジ)を選択する。また、処理部7は、この第1レンジ選択処理において新たな選択測定レンジを選択したときには、レンジ切替部3に対する制御処理を実行して、検出信号Saに対する増幅率をこの新たな選択測定レンジに対応した増幅率(選択増幅率)に切り替える。これにより、電流測定装置1では、測定対象21を流れる電流の振幅が例えば一時的に増加するという現象(ピーク値Pが大きく変化するという現象)が周期的に発生するというような状況下において、A/D変換部4を構成するA/D変換器がこの電流の振幅の増加時に飽和する状態に当初なったとしても、ピーク値Pとして測定(検出)されるこの増加した振幅に対応する変換信号SbがこのA/D変換器の入力定格内になるような測定レンジ(このような測定レンジが複数存在する場合には、最も小さな測定レンジ)が処理部7によって選択測定レンジとして直ちに選択されることから、その後のピーク値P(増加した電流の振幅)についても処理部7において正確に測定することが可能となっている。
具体例を挙げて説明する。一例として、測定対象21を流れる電流が、例えばその実効値が50Aであって、その振幅が通常時は40Aで増加時に一時的に160Aとなる電流であったとする。この場合、この電流を測定し始めた時点での測定レンジが10Aであれば、処理部7は、第1測定処理で算出した電流値M(50A)と第2測定処理で測定したピーク値P(160A)とに基づいて、判定テーブルTB1を使用する第1レンジ選択処理を実行して、まず、現在の測定レンジ(10A)での第1しきい値の第1下限値(0.8A)および第1上限値(10A)と、電流値M(50A)とを比較すると共に、現在の測定レンジ(10A)での第2しきい値の第2下限値(1.2A)および第2上限値(15A)と、ピーク値P(160A)とを比較する。この比較の結果、電流値M(50A)が第1上限値(10A)を超え、かつピーク値P(160A)が第2上限値(15A)を超えることから、処理部7は、この電流値Mについての比較結果と、このピーク値Pについての比較結果との組み合わせで選択される動作内容(UP)を実行して、1つ上の測定レンジ(100A)を選択測定レンジの候補とする。
次に、処理部7は、この測定レンジ(100A)での第1しきい値の第1下限値(8A)および第1上限値(100A)と、電流値M(50A)とを比較すると共に、この測定レンジ(100A)での第2しきい値の第2下限値(12A)および第2上限値(150A)と、ピーク値P(160A)とを比較する。この比較の結果、電流値M(50A)が第1下限値(8A)以上第1上限値(100A)以下の範囲内に含まれ、かつピーク値P(160A)が第2上限値(150A)を超えることから、処理部7は、この電流値Mについての比較結果と、このピーク値Pについての比較結果との組み合わせで選択される動作内容(UP)を実行して、さらに1つ上の測定レンジ(1000A)を選択測定レンジの候補とする。
続いて、処理部7は、この測定レンジ(1000A)での第1しきい値の第1下限値(80A)および第1上限値(1000A)と、電流値M(50A)とを比較すると共に、この測定レンジ(1000A)での第2しきい値の第2下限値(120A)および第2上限値(1500A)と、ピーク値P(160A)とを比較する。この比較の結果、電流値M(50A)が第1下限値(80A)未満で、かつピーク値P(160A)が第2下限値(120A)以上第2上限値(1500A)以下の範囲内に含まれることから、処理部7は、この電流値Mについての比較結果と、このピーク値Pについての比較結果との組み合わせで選択される動作内容(OK)を実行して、この測定レンジ(1000A)を新たな選択測定レンジとして選択(決定)する。これにより、第1レンジ選択処理が完了する。
次いで、処理部7は、レンジ切替部3に対する制御処理を実行して、検出信号Saに対する増幅率をこの新たな選択測定レンジに対応した増幅率(選択増幅率)に切り替える。これにより、A/D変換部4のダイナミックレンジの有効利用度は低下するものの、測定対象21を流れる電流のピーク値PについてはA/D変換部4を飽和状態にさせることなく、正確に測定することができる結果、このピーク値Pを含む所定期間での電流値M(実効値)をより正確に測定することが可能となっている。
なお、具体例を挙げての説明は省略するが、判定テーブルTB1を使用する第1レンジ選択処理において、第1しきい値の第1下限値および第1上限値と、算出した電流値Mとの比較結果と、第2しきい値の第2下限値および第2上限値と、算出したピーク値Pとの比較結果との組み合わせで選択される動作内容が「DOWN」のときには、1つ下の測定レンジを新たな選択測定レンジの候補として第1レンジ選択処理を続行する。一方、処理部7は、この動作内容が「OVER」のときには、測定対象21を流れる電流のピーク値Pについては、A/D変換部4が飽和状態となって正確に測定できないことから、オーバーフロー状態であることを示す文字や図柄(例えば、「OVER」の文字)を表示部6に表示させて第1レンジ選択処理を完了させる。
次に、操作信号Scによってデジタルフィルタ処理の不実行が指示されている場合について説明する。
この場合、電流測定装置1では、処理部7は、デジタルフィルタ処理を停止すると共に第2測定処理も停止して、記憶部8に新たな波形データDaを記憶しつつ、上記の所定期間毎に、この所定期間に記憶部8に記憶させた複数の波形データDaのそれぞれと、レンジ切替部3での現在の選択増幅率および検出部2の感度とに基づいて、測定対象21を流れる電流の瞬時値を算出すると共に第1測定処理を実行する。処理部7は、この第1測定処理では、この所定期間に含まれる複数の瞬時値に基づいて実効値を算出し、この算出した実効値を測定対象21を流れる電流の電流値Mとして記憶部8に記憶させる。電流測定装置1の使用場所において外乱の発生がない場合には、外乱に起因する高周波成分が検出信号Saに混入するおそれもないことから、デジタルフィルタ処理を施さない波形データDaを使用しても、測定対象21を流れる電流の振幅がほぼ一定、または変化したとしてもその変化の度合いがゆっくりとしたものであるとき(ピーク値Pの変動が小さいとき)には、十分に高い精度で電流値Mを算出することが可能であり、しかも、処理に時間のかかるデジタルフィルタ処理の不実施により、電流値Mの算出に要する時間が短縮される。
また、処理部7は、上記の所定期間毎に、上記のようにして第1測定処理で算出した電流値Mに基づいて、図4に示す判定テーブルTB2を使用する第2レンジ選択処理を実行して、上記した複数の測定レンジ(本例では、1A、10A、100Aおよび1000Aの4つの測定レンジ)のうちから新たに選択測定レンジとする1つの測定レンジ(選択測定レンジ)を選択する。また、処理部7は、この第2レンジ選択処理において新たな選択測定レンジを選択したときには、レンジ切替部3に対する制御処理を実行して、検出信号Saに対する増幅率をこの新たな選択測定レンジに対応した増幅率(選択増幅率)に切り替える。これにより、電流測定装置1では、測定対象21を流れる電流に高周波ノイズが混入せず、かつこの電流の振幅がほぼ一定であるというような状況下において、上記したように十分な精度で、かつ短時間に算出される電流値Mに基づいて、適切な測定レンジを選択測定レンジとして短時間に選択することが可能となっている。
具体例を挙げて説明する。一例として、測定対象21を流れる電流が、例えばその実効値がほぼ50Aである電流であったとする。この場合、この電流を測定し始めた時点での測定レンジが10Aであれば、処理部7は、第1測定処理で算出した電流値M(50A)に基づいて、判定テーブルTB2を使用する第2レンジ選択処理を実行して、まず、現在の測定レンジ(10A)での第1しきい値の第1下限値(0.8A)および第1上限値(10A)と、電流値M(50A)とを比較する。この比較の結果、電流値M(50A)が第1上限値(10A)を超えることから、処理部7は、この電流値Mについての比較結果で選択される動作内容(UP)を実行して、1つ上の測定レンジ(100A)を選択測定レンジの候補とする。
次に、処理部7は、この測定レンジ(100A)での第1しきい値の第1下限値(8A)および第1上限値(100A)と、電流値M(50A)とを比較する。この比較の結果、電流値M(50A)が第1下限値(8A)以上第1上限値(100A)以下の範囲内に含まれることから、処理部7は、この電流値Mについての比較結果で選択される動作内容(OK)を実行して、この測定レンジ(100A)を新たな選択測定レンジとして選択(決定)する。これにより、第2レンジ選択処理が完了する。
次いで、処理部7は、レンジ切替部3に対する制御処理を実行して、検出信号Saに対する増幅率をこの新たな選択測定レンジに対応した増幅率(選択増幅率)に切り替える。これにより、A/D変換部4のダイナミックレンジを十分に有効利用しつつ、デジタルフィルタ処理を実行するときよりも短い時間で、測定対象21を流れる電流についての所定期間での電流値Mを正確に測定することが可能となっている。
なお、具体例を挙げての説明は省略するが、判定テーブルTB2を使用する第2レンジ選択処理においても、上記した判定テーブルTB1を使用する第1レンジ選択処理のときと同様にして、算出した電流値Mで選択される動作内容が「DOWN」のときには、1つ下の測定レンジを新たな選択測定レンジの候補として第2レンジ選択処理を続行する。一方、処理部7は、この動作内容が「OVER」のときには、測定対象21を流れる電流の電流値Mについて、A/D変換部4が飽和状態となって正確に測定できないことから、オーバーフロー状態であることを示す文字や図柄(例えば、「OVER」の文字)を表示部6に表示させて第2レンジ選択処理を完了させる。
このように、この電流測定装置1では、処理部7は、デジタルフィルタ処理の実行が指示されているときには、デジタルフィルタ処理、デジタルフィルタ処理で算出される波形データDbに基づいて電流値Mを測定する第1測定処理、およびこの波形データDbに基づいてピーク値Pを測定する第2測定処理を実行すると共に、この電流値Mおよびピーク値Pに基づいて新たな選択測定レンジを選択する第1レンジ選択処理を実行し、デジタルフィルタ処理の不実行が指示されているときには、波形データDaに基づいて電流値Mを測定する第1測定処理を実行すると共にこの電流値Mに基づいて新たな選択測定レンジを選択する第2レンジ選択処理を実行する。
したがって、この電流測定装置1によれば、ユーザが操作部5を操作することによってデジタルフィルタ処理の実行/不実行を任意に選択することができるため、電流測定装置1の測定環境(つまり、測定環境での外乱の有無)、および電流測定装置1で測定する測定対象21を流れる電流の状態(ピーク値Pの変動の大小)に基づいて、外乱の発生している測定環境であって、ピーク値Pの変動が大きい電流の電流値Mを測定するときには、ユーザがデジタルフィルタ処理の実行を選択することで、外乱の影響を排除しつつ、電流値Mだけでなくピーク値Pに基づく測定レンジの切り替え動作(オートレンジ動作)を実行してピーク値Pを正確に測定し得る測定レンジを選択測定レンジとして選択し、この選択測定レンジにおいて取得する波形データDbに基づいて正確な電流値Mを測定することができる。また、この電流測定装置1によれば、外乱の発生のない測定環境であって、ピーク値Pの変動が小さい電流の電流値Mを測定するときには、ユーザがデジタルフィルタ処理の不実行を選択することで、電流値Mのみに基づく測定レンジの切り替え動作(オートレンジ動作)を実行してこの電流値Mを正確に測定し得る測定レンジを選択測定レンジとして選択し、この選択測定レンジにおいて取得する波形データDaに基づいて正確な電流値Mをより短時間に測定することができる。
なお、測定装置の構成は、上記の電流測定装置1の構成に限定されない。例えば、測定対象21としての電線に流れる電流の電流値Mを「被検出量」の一例として挙げて、この電流値Mを測定する測定装置としての電流測定装置1について説明したが、「被検出量」は、電流値に限定されるものではなく、電圧値や電力値や温度や湿度など、様々な物理量とすることができることから、測定装置も電流測定装置に限定されず、A/D変換およびデジタルフィルタ処理を利用して被検出量としての物理量を測定する測定装置である限り、電圧測定装置や、電力測定装置や、温度計や、湿度計など様々な測定装置であってもよい。また、上記の測定装置では、検出部2を内蔵するクランプ部12を備えて、測定対象21の被検出量を検出部2で検出する際に、測定対象21をクランプ部12でクランプする状態にしているが、図示はしないが、例えばクランプ部12に代えて接触式のプローブを備えて、測定対象21の被検出量を検出部2で検出する際に、測定対象21にプローブを接触させて測定する構成に適用することもできる。