JP6544557B2 - 酸化生成物の抽出方法及び抽出システム - Google Patents
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Description
酸化生成物の抽出方法について、図1及び図2を参照して説明する。実施形態では、酸化生成物の抽出方法を、単に「抽出方法」という。抽出方法は、機械又は設備で使用された油を対象として行われる。油は、基油と酸化防止剤等の添加剤を含む。実施形態では、油は、添加剤として酸化防止剤を含むものとする。酸化防止剤を含む油としては、例えば、潤滑油が挙げられる。実施形態における油は、タービン油と、油圧作動油等の各種工業用の油(潤滑油)を含む。更に、実施形態における油は、合成油を含む。実施形態では、前述の記載から明らかな通り、基油と酸化防止剤を含む溶液を「油」又は「潤滑油」といい、溶媒としての油は「基油」という。
抽出方法は、抽出システムによって実行される。即ち、抽出システムは、極性溶媒である基油と、極性溶質である酸化防止剤を含む油から、酸化防止剤が酸化して生成された酸化生成物を抽出する。抽出システムは、注入部と、貯留部と、ろ過部を備える。注入部は、油に対して無極性溶媒を注入する。注入部は、スポイトとしての機能を有する。例えば、注入部は、無極性溶媒を収容し、所定の容器に貯留された油に、無極性溶媒を注入する。注入部によって実行される、油に対して無極性溶媒を注入する操作は、所定の容器に貯留された無極性溶媒に、油を注入して行うようにしてもよい。
抽出方法を確立し、有効性を確認するための実験を行った。以下、この実験について説明する。
今回の実験で用いた試料油及びろ過装置20について説明する。更に、油状態判定について概略を説明する。
試料油は、アミン系酸化防止剤が添加されたエステル系合成油(銘柄:Mobil Jet oil II)を、RPVOT法を用いて酸化させた酸化油である。前述のエステル系合成油(銘柄:Mobil Jet oil II)は、例えば、ジェットエンジン又はコンバインドサイクル発電機に用いられる。試料油は、アミン系酸化防止剤としてPANAとDODPAを含む。この点については、後述する。実験では、油を酸化させるために油と共に存在する酸素の低下圧力量を任意に変更することにより、段階的に酸化した試料油を作製した。即ち、試料油として、酸素の低下圧力量の違いから酸化の程度が異なる複数の酸化油を作製した。酸素の低下圧力量は、1,3,5,7及び9PSI(pound-force per square inch)の5種類のうちの何れかとした。低下圧力量が0PSIである試料油は、新油に相当する。1PSIは、6894.76Paである。
<RPVOT法の実験条件>
潤滑油量(g) :50±0.5
蒸留水量(g) :5(サンプルビーカー)
5(圧力室)
温度(℃) :150
回転速度(rpm):100±5
RPVOT試験機は、公知の装置である。従って、これに関する説明は省略する。但し、実験に用いたRPVOT試験機では、触媒として用いる銅コイルを使用しなかった。これは、触媒として用いる銅コイルにより析出する酸化銅が、Wurster塩を捕捉したメンブランフィルタ11の色に影響を与えるのを避けるためである。
ろ過装置20は、図3に示すように、防塵用蓋21と、シリンダ22と、フラスコ23と、真空ポンプ24を備える。シリンダ22とフラスコ23の間に、メンブランフィルタ11が取り付けられる。実験では、メンブランフィルタ11として、セルロースアセテート製のメンブランフィルタ(アドバンテック東洋株式会社製、製品名:C080A025A)を用いた。メンブランフィルタ11の仕様に関し、細孔径は、0.8μmで、厚みは、0.125mmである。試料油と後述する各種の無極性溶媒の混合液のろ過は、混合液をシリンダ22に貯留し、真空ポンプ24を使用してフラスコ23内を減圧して行った。図3で、ろ過装置20内に示す網点模様は、混合液を示すものである。即ち、図3でメンブランフィルタ11より上側の網点模様は、ろ過前の混合液を示す。メンブランフィルタ11より下側の網点模様は、ろ過後の混合液を示す。実験では、メンブランフィルタ11において、混合液をろ過する領域R(図4参照)は、直径が約18mm(面積:約992mm2)である。
試料油の状態を判定するため、メンブランフィルタ11の色を定量的に測定した。色の測定対象となるメンブランフィルタ11の領域は、Wurster塩を捕捉し、色の付いた領域Rである。実施形態では、判定の対象となるメンブランフィルタ11を、「メンブランパッチ12」という。メンブランパッチ12の色の測定は、発明者等が特許文献2において提案する手法によって行った。この手法では、例えば、メンブランパッチ12の表裏両面の側から、メンブランパッチ12に白色光が投射され、カラーセンサ30によって、投射された白色光の反射光と透過光が測定される(図4参照)。カラーセンサ30としては、例えば、図5に示すような、発明者等によって開発された色相判別装置(CPA Colorimetric patch Analyzer)を採用することができる。今回の実験では、カラーセンサ30として、この装置を採用した。但し、測定光のRGB値を出力する公知のカラーセンサを、カラーセンサ30として採用することもできる。カラーセンサ30は、メンブランパッチ12の表面及び/又は裏面に対向して設けられる。メンブランパッチ12の表面は、メンブランフィルタ11がろ過装置20にセットされた状態(図3参照)において、シリンダ22の側となる面である。メンブランパッチ12の裏面は、前述した状態において、フラスコ23の側となる面である。
<無極性溶媒とメンブランパッチの色の関係>
抽出方法において油と混合する無極性溶媒に関し、複数種の無極性溶媒とメンブランパッチの色の関係を、図6を参照して説明する。これによって、抽出方法において好ましい無極性溶媒を明らかにする。図6に示す混合液1〜混合液4は、一定の容量の試料油と、種類の異なる一定の容量の無極性溶媒を混合した溶液である。詳細には、次の通りである。
<混合液>
混合液1:試料油0.1ml+石油エーテル20ml
混合液2:試料油0.1ml+ヘキサン20ml
混合液3:試料油0.1ml+トルエン20ml
混合液4:試料油0.1ml+ジエチルエーテル20ml
混合液1〜混合液4に関し、各種の無極性溶媒と混合する試料油は、RPVOT法によって作製した低下圧力9PSIの酸化油とした。混合液1〜混合液4における各種の無極性溶媒の極性は、石油エーテルが最も低く、以下、ヘキサン、トルエンの順で高くなり、ジエチルエーテルが最も高い。石油エーテルの主成分は、ペンタンである。石油エーテルは、ペンタンとヘキサンの混合物である。混合液1〜混合液4における各種の無極性溶媒の誘電率と双極子モーメントは、次の通りである。参考値として、ペンタン及びヘプタン(何れも無極性溶媒)の誘電率と双極子モーメントと、アセトン、エタノール及び水(何れも極性溶媒)の誘電率と双極子モーメントも示す。
<極性>
石油エーテル(混合液1) :誘電率1.84 双極子モーメント0D
ヘキサン(混合液2) :誘電率1.89 双極子モーメント0D
トルエン(混合液3) :誘電率2.38 双極子モーメント1.20D
ジエチルエーテル(混合液4):誘電率4.30 双極子モーメント3.83D
ペンタン :誘電率1.84 双極子モーメント0D
ヘプタン :誘電率1.92 双極子モーメント0D
アセトン :誘電率21.0 双極子モーメント9.67D
エタノール :誘電率25.3 双極子モーメント5.64D
水 :誘電率78.5 双極子モーメント6.74D
図6から明らかな通り、無極性溶媒として、極性の低い石油エーテル(「混合液1」参照)とヘキサン(「混合液2」参照)を用いたメンブランパッチは、黒紫色となり、ΔERGBは大きな値を示した。一方、石油エーテル及びヘキサンより極性の高いトルエン(「混合液3」参照)とジエチルエーテル(「混合液4」参照)を用いたメンブランパッチでは、ほとんど着色が認められず、ΔERGBも小さな値を示した。
抽出方法において油と混合する無極性溶媒の容量に関し、試料油の容量と無極性溶媒の容量の関係を、図7〜図17を参照して説明する。これによって、抽出方法における好適な混合比を明らかにする。試料油は、RPVOT法によって作製した。試料油と混合する溶媒は、図6に基づき上述した実験結果から、無極性溶媒である石油エーテル(図6に示す「混合液1」参照)とした。
試料油は、低下圧力1,3,5PSIの各酸化油とした。低下圧力1,3,5PSIの各試料油において、その容量は、0.1mlで一定とした。低下圧力1,3,5PSIの各試料油0.1mlと、石油エーテル10,20,40,60mlを混合した各混合液をろ過したメンブランパッチは、図7に示すような状態であった。低下圧力1PSIの試料油0.1mlと石油エーテル60mlを混合した混合液については、実験を省略した。低下圧力1PSIの試料油では、RGB値とΔERGBは、石油エーテルの容量が増えても略一定である(図8及び図11参照)。
試料油は、低下圧力1,3,5PSIの各酸化油とした。低下圧力1,3,5PSIの各試料油において、その容量は、0.1,0.2,0.3,0.4,0.5mlとした。試料油に対する石油エーテルの混合比を、体積比で、試料油:石油エーテル=1:100として一定とした。即ち、試料油が0.1mlである場合、石油エーテルの容量は10mlとした。試料油が0.2mlである場合、石油エーテルの容量は20mlとした。試料油が0.3mlである場合、石油エーテルの容量は30mlとした。試料油が0.4mlである場合、石油エーテルの容量は40mlとした。試料油が0.5mlである場合、石油エーテルの容量は50mlとした。
<混合液>
混合比1:試料油25ml+石油エーテル50ml(試料油:石油エーテル=1:2)
混合比2:試料油1ml+石油エーテル10ml(試料油:石油エーテル=1:10)
混合比3:試料油1ml+石油エーテル15ml(試料油:石油エーテル=1:15)
混合比4:試料油1ml+石油エーテル20ml(試料油:石油エーテル=1:20)
メンブランパッチが図17に示すような状態となった原因としては、次のようなことが考えられる。即ち、混合比1〜混合比4では、試料油に対する石油エーテルの容量が少なく、石油エーテルによって、試料油の極性を十分に低下させることができていない。その結果、十分なWurster塩が析出していない。
試料油の低下圧力量とメンブランパッチの色の関係について、図18〜図20を参照して説明する。これによって、メンブランパッチの色は、低下圧力量と相関関係を有することを確認する。
ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)による定性・定量分析の結果について、図21及び図22を参照して説明する。これによって、上述したように低下圧力量と相関関係を有するメンブランパッチの色は、酸化防止剤の劣化度と相関関係を有し、酸化防止剤の劣化度の診断に用いることができることを確認する。
発明者等は、油をろ過した後のメンブランパッチ12の色と潤滑油の劣化の間に一定の関係性があることを明らかにし、上述した特許文献2において油状態監視方法等を提案している。例えば、エステル系合成油に、アミン系酸化防止剤が添加されたタービン油では、アミンの酸化変質物(酸化生成物)がパッチの色に影響を与えるため、従来の潤滑油の測定が困難になることが分かった。近年、使用環境が高温化及び/又は過酷化するタービン油には耐熱酸化安定性に優れるアミン系酸化防止剤が添加されている。従って、アミン系酸化防止剤の酸化生成物が、メンブランパッチ12の色に与える影響を解明することはとても重要である。
実施形態は、次のようにすることもできる。以下に示す変形例のうちの幾つかの構成は、適宜組み合わせて採用することもできる。以下では上記とは異なる点を説明することとし、同様の点についての説明は適宜省略する。
21 防塵用蓋、 22 シリンダ、 23 フラスコ、 24真空ポンプ
30 カラーセンサ、 R 領域
Claims (7)
- 極性溶媒である基油と、極性溶質である酸化防止剤と、を含む油から、前記酸化防止剤が酸化して生成された酸化生成物を抽出する抽出方法であって、
前記油と無極性溶媒とを混合し、前記酸化生成物が析出した、前記油と前記無極性溶媒とを含む混合液を生成する混合工程と、
前記混合工程で生成された前記混合液を、フィルタを通してろ過するろ過工程と、を含み、
前記混合工程では、前記油と前記無極性溶媒との混合比を、体積比で、油:無極性溶媒=1:100以下として、前記油と前記無極性溶媒とを混合する、酸化生成物の抽出方法。 - 極性溶媒である基油と、極性溶質である酸化防止剤と、を含む油から、前記酸化防止剤が酸化して生成された酸化生成物を抽出する抽出方法であって、
前記油と無極性溶媒とを混合し、前記酸化生成物が析出した、前記油と前記無極性溶媒とを含む混合液を生成する混合工程と、
前記混合工程で生成された前記混合液を、フィルタを通してろ過するろ過工程と、を含み、
前記混合工程では、前記油と前記無極性溶媒である石油エーテルとの混合比を、体積比で、油:石油エーテル=1:100以下として、前記油と石油エーテルとを混合する、酸化生成物の抽出方法。 - 前記混合工程では、前記油と、誘電率が1.92以下である前記無極性溶媒と、を混合する、請求項1に記載の酸化生成物の抽出方法。
- 前記混合工程では、前記油と、前記無極性溶媒である石油エーテル、ヘキサン、ペンタン又はヘプタンと、を混合する、請求項3に記載の酸化生成物の抽出方法。
- 前記混合工程では、前記酸化防止剤としてアミン系酸化防止剤を含む前記油と、前記無極性溶媒と、を混合する、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の酸化生成物の抽出方法。
- 前記混合工程では、前記酸化防止剤としてアミン系酸化防止剤であるN−フェニル−1−ナフチルアミンを含む前記油と、前記無極性溶媒と、を混合する、請求項5に記載の酸化生成物の抽出方法。
- 極性溶媒である基油と、極性溶質である酸化防止剤と、を含む油から、前記酸化防止剤が酸化して生成された酸化生成物を抽出する抽出システムであって、
前記油に対して無極性溶媒を注入する注入部と、
前記酸化生成物が析出した、前記油と前記無極性溶媒とを含む混合液を貯留する貯留部と、
フィルタを含み、前記貯留部に貯留された前記混合液を、前記フィルタを通してろ過するろ過部と、を備え、
前記注入部は、前記油に対して、前記油と前記無極性溶媒との混合比が、体積比で、油:無極性溶媒=1:100以下となる量の前記無極性溶媒を注入する、抽出システム。
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