以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施の形態に係る水系ポリエステル粒子分散液は、水と、二以上のスルホン酸基および芳香族環部位を有するアニオン界面活性剤(以下、「多価スルホン酸塩型界面活性剤」(PSS)とも言う)と、ポリエステルの粒子とを含有する。なお、本実施の形態において、「スルホン酸基」は、スルホン酸塩の形態であってもよい。
上記ポリエステルの粒子のポリエステルは、一種でもそれ以上でもよい。当該ポリエステルは、結晶性を有する結晶性ポリエステルでもよいし、結晶性を有さない非晶性ポリエステルでもよいし、これらの両方であってもよい。また、当該ポリエステルは、必要に応じてビニル系モノマーの付加重合体セグメントにより変性されたハイブリッドポリエステルであっても構わない。
上記「結晶性」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することを意味し、具体的には、昇温速度10℃/分で測定した際の吸熱ピークの半値幅が15℃未満であることを意味する。
また、上記ポリエステルは、スルホン酸基を有さないことが好ましい。上記ポリエステルがスルホン酸基を有さない方が良い事由としては、上記ポリエステルが多価カルボン酸またはその誘導体と多価アルコールまたはその誘導体との重縮合反応による生成物の構造を有することに起因する。より詳しくは、上記ポリエステルは、その末端にはカルボン酸やヒドロキシル基を有し、また、縮合部はエステル基を有している。このため、上記ポリエステルは、元来、空気中の水分をある程度抱き込みやすい。上記ポリエステルがスルホン酸基をさらに有すると、上記ポリエステルが空気中の水分をさらに抱き込みやすくなり、その結果、トナーの使用環境による帯電性能などの変動幅が大きくなってしまうことが懸念される。
なお、「スルホン酸基を有さない」とは、上記ポリエステルがスルホン酸基を実質的に有してはいないことを意味する。たとえば、上記ポリエステルは、少なくともポリエステルの分子構造にスルホン酸基を含まないことを意味する。ただし、意図せずスルホン酸基が導入されたポリエステル、例えばスルホン酸基が不純物としてごく微量混入したポリエステル、のように、スルホン酸基として実質的に作用する量未満であれば、上記ポリエステルは、スルホン酸基を有していてもよい。
上記ポリエステルは、多価カルボン酸またはその誘導体と多価アルコールまたはその誘導体との重縮合反応による生成物の構造を有し、当該重縮合反応によって製造することが可能である。当該重縮合反応には、必要に応じて公知の重合用触媒を使用可能である。上記多価カルボン酸の誘導体の例には、多価カルボン酸のアルキルエステル、酸無水物および酸塩化物が含まれ、上記多価アルコールの誘導体の例には、多価アルコールのエステル化合物およびヒドロキシカルボン酸が含まれる。
上記多価カルボン酸は、1分子中にカルボキシル基を2個以上含有する化合物である。カルボキシル基を2個有する2価のカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、マレイン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸およびドデセニルコハク酸等が挙げられる。
また、カルボキシル基を3個以上有する多価カルボン酸の例には、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸およびピレンテトラカルボンが含まれる。
多価アルコールは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。2個の水酸基を有する二価のポリオール(ジオール)の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ウンデカンジオール、ドデカンジオール、トリデカンジオール、テトラデカンジオール、オクタデカンジオール、エイコサンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、および、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物が含まれる。
また、水酸基を3個以上有する多価アルコール(ポリオール)の例には、グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミンおよびテトラエチロールベンゾグアナミンが含まれる。
上記結晶性ポリエステルの融点Tmは、当該結晶性ポリエステルを材料に含むトナーの低温定着性および高温保管性の両方を十分に発現させる観点から、65〜90℃であることが好ましく、70〜80℃であることがより好ましい。上記融点は、DSCにより測定することができ、二回の昇温工程とその間の冷却工程とを含む測定プログラムにおける二回目の昇温工程における吸熱ピークの頂点の温度とすることができる。
上記結晶性ポリエステルの重量平均分子量Mwは、当該ポリエステルを材料に含むトナーの定着分離性および低温定着性の両方を十分に発現させる観点から、3000〜50000であることが好ましく、5000〜40000であることがより好ましい。上記Mwは、スチレンを標準試料として用いるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から、検量線を用いて求めることが可能である。
また、上記ポリエステルは、その分子構造の一部に枝分かれ構造や架橋構造などを含んでいてもよい。
上記ポリエステルの粒子の体積平均粒径は、トナー母体粒子の材料として用いる観点から、50〜500nmであることが好ましく、70〜400nmであることがより好ましい。また、同じ観点から、上記水系ポリエステル粒子分散液における上記ポリエステルの粒子の含有量は、15〜50質量%であることが好ましく、18〜45質量%であることがより好ましい。
上記多価スルホン酸塩型界面活性剤は、一種でもそれ以上でもよい。当該多価スルホン酸塩型界面活性剤におけるスルホン酸基の数は、通常、2であるが、それ以上であってもよい。また、上記多価スルホン酸塩型界面活性剤における芳香族環部位の数は1以上であればよいが、それ以上であってもよい。当該芳香族環部位の例には、フェニル基およびフェニレン基が含まれる。
上記多価スルホン酸塩型界面活性剤は、例えば下記式で表される。下記式中、Rは炭素数が6〜14のアルキル基を表し、Xは独立して一価の金属イオン(例えばNa、K、Liなど)またはアンモニウムイオン、または2価の金属イオン(例えばCaなど)を表す。上記アルキル基Rの炭素数のより好ましい範囲は、10〜14である。
上記多価スルホン酸塩型界面活性剤の例には、デシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、および、テトラデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、が含まれる。中でも、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩がより好ましい。
上記水系ポリエステル粒子分散液における上記多価スルホン酸塩型界面活性剤の含有量は、上記記ポリエステルに対して2〜20質量%である。当該含有量が少なすぎると、トナー母体粒子の材料に用いたときに微粉や粗粉などの意図せぬ大きさの粒子が生成されることがある。上記含有量が多すぎると、トナー母体粒子内部にも上記多価スルホン酸塩型界面活性剤が残存しやすくなり、例えば、後述するトナーの母体粒子分散液を脱液、洗浄、乾燥しトナー母体粒子を得る過程において、上記多価スルホン酸塩型界面活性剤の除去に多大なエネルギーや時間を要し、生産性を著しく損なうことがある。
トナー母体粒子の材料に用いたときに所期の粒径を有するトナー母体粒子を生成し、かつ微粉および粗粉の発生を抑制する観点から、上記含有量は、2〜25質量%であることが好ましく、4〜20質量%であることがより好ましい。上記多価スルホン酸塩型界面活性剤の含有量は、上記水系ポリエステル粒子分散液またはその乾燥物から上記多価スルホン酸塩型界面活性剤を抽出し、得られた試験液をメチレンブルーによって呈色させ、当該試験液の吸光度から求めることができる。
上記水系ポリエステル粒子分散液のpHは、7〜10である。ポリエステルを含む一般的なカルボキシル基の等電点(全カルボキシル基の解離/未解離の比率が約50%で平衡となる)は、pHで言うと5〜6になるため、このように中性またはアルカリ性の上記水系ポリエステル粒子分散液では、上記ポリエステル中のカルボキシル基が水中で解離した状態となる。このため、このようなカルボン酸塩の基を有する上記ポリエステル自身が自己乳化分散作用を呈し、ポリエステルの粒子が上記水系ポリエステル粒子分散液中で長期に渡り安定に分散して存在し得る。
上記pHが低すぎると、ポリエステルの粒子自身のカルボキシル基の解離による自己乳化分散作用が弱まるため、上記水系ポリエステル粒子分散液の長期保管時の粒子の安定性の低下を補うためにより多くの上記多価スルホン酸塩型界面活性剤の添加を必要とする。そのため、上記水系ポリエステル粒子分散液をトナー母体粒子の材料に用いたときに微粉の発生の抑制が不十分になることがある。上記pHが高すぎると、ポリエステル粒子自身が有するカルボキシル基に対しアルカリ過多な状態となるため、解離したカルボキシル基と水との間で水素結合を形成するいわゆるアルカリ増粘が生じ、保管中に上記粒子の一部が再凝集を起こし、上記水系ポリエステル粒子分散液の凝集性が高くなる。このため、上記水系ポリエステル粒子分散液をトナー母体粒子の材料に用いたときに粗粉の発生の抑制が不十分になることがある。
上記水系ポリエステル粒子分散液の凝集安定性を十分に発現させる観点から、上記pHは、7〜10であることが好ましく、7.3〜9.5であることがより好ましい。
上記pHは、通常、塩基性化合物の添加によって調整することが可能である。当該塩基性化合物は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアおよびトリエチルアミン等が挙げられる。上記塩基性化合物は、弱塩基性化合物でもよいが、強塩基性化合物であることが好ましい。
上記水系ポリエステル粒子分散液は、本実施の形態の効果を奏する範囲において、他の成分をさらに含有していてもよい。たとえば、上記水系ポリエステル粒子分散液は、二価以上のスルホン酸基を有し、芳香族環部位を有さないアニオン性界面活性剤(多価スルホン酸塩型非芳香族系界面活性剤)をさらに含有していてもよい。
上記多価スルホン酸塩型非芳香族系界面活性剤の例には、ポリオキシエチレン1,10−デカンジオールジ硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレン1,12−ドデカンジオールジ硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレン1,2−ドデカンジオールジ硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンドデシルグリセリルエーテルジ硫酸ナトリウム塩およびポリオキシエチレンオクタデシルグリセリルエーテルジ硫酸ナトリウム塩が含まれる。
また、上記他の成分として、上記水系ポリエステル粒子分散液は、本実施の形態の効果を奏する範囲において、上記水系媒体に上記以外のアニオン性界面活性剤(例えば1価のスルホン酸塩型界面活性剤、硫酸塩、リン酸塩、カルボン酸塩など)、ノニオン性界面活性剤およびアルコールの一以上をさらに含有していてもよい。
上記水系ポリエステル粒子分散液は、ポリエステルを有機溶剤に溶解する工程(第1の工程)と、得られたポリエステル溶液に撹拌下で水系媒体を添加して上記ポリエステル溶液の液滴が上記水系媒体に分散したエマルションを生成する工程(第2の工程)と、上記エマルションから上記有機溶剤を除去する工程(第3の工程)と、上記多価スルホン酸塩型アニオン界面活性剤を、上記ポリエステルに対して3〜25質量%の量で、上記ポリエステル溶液、上記エマルション、および上記有機溶剤が除去されたエマルションからなる群から選ばれる一以上に添加する工程(第4の工程)と、最終pHが7〜10となるように、上記エマルションおよび上記有機溶剤が除去されたエマルションの一方または両方のpHを塩基性化合物の添加によって調整する工程(第5の工程)と、を含む方法によって製造することができる。
上記第1の工程において、ポリエステルには前述のポリエステルが用いられる。上記有機溶剤には、当該ポリエステルを溶解でき、かつ分液可能な程度に上記水系媒体に対して不溶な有機溶剤が用いられる。また、上記有機溶剤は、上記水系媒体から留去可能な沸点を有することが好ましい。上記有機溶剤は、一化合物からなっていてもよいし、二以上の化合物の混合液であってもよい。
上記有機溶剤の例には、メチルエチルケトンなどのケトン系化合物、酢酸エチルや酢酸メチルなどのエステル系化合物、および、トルエンなどの炭化水素系化合物が含まれる。上記有機溶剤は、必要に応じて、アルコールや水などの高極性溶剤を含んでいてもよい。上記有機溶剤の沸点は、樹脂の溶解性を確保する(低温側)と共に、エステル部位の加水分解を生じさせず、かつ生産性の観点から溶剤除去時に加える熱エネルギーを極力抑制することが望ましく、それらを勘案すると50〜120℃であることが好ましい。上記有機溶剤への上記ポリエステルの溶解では、上記有機溶剤を加温してもよい。
上記第2の工程では、上記ポリエステル溶液を上記水系媒体中に分散させる。前述したように、分散液のpHが7〜10であると、カルボキシル基が塩となっているポリエステルの乳化作用により、上記ポリエステル溶液の分散した液滴が安定して存在し、上記エマルションを構成する。上記第2の工程では、系内の流動状態を均一なものにできればよく、例えばアンカー型撹拌翼、ピッチドタービン、スリット型撹拌翼、ホモミキサーやホモジナイザーなどの、所期の大きさの上記液滴を生成可能な公知の攪拌機が使用される。
上記第3の工程では、得られたエマルションから、上記液滴中の上記有機溶剤が上記水系媒体から除去される。上記有機溶剤の除去は、通常、留去によって行うことができ、水系媒体の加熱を抑制する観点から、減圧濃縮によって行うことが好ましい。この他にも、上記エマルションへの水系媒体に対する貧溶媒の添加によっても上記有機溶剤の除去を行うことが可能である。
上記第4の工程では、上記ポリエステル溶液、上記エマルション、および上記有機溶剤が除去されたエマルションからなる群から選ばれる一以上に上記多価スルホン酸塩型界面活性剤が添加される。当該多価スルホン酸塩型界面活性剤の添加は、当該多価スルホン酸塩型界面活性剤が所期の量で上記水系ポリエステル粒子分散液に存在する範囲において、いつでも何回でも行うことが可能である。当該多価スルホン酸塩型界面活性剤を上記ポリエステルの粒子の表面に効率的に導入する観点から、当該多価スルホン酸塩型界面活性剤は、第3の工程後に上記水系媒体へ添加されることが好ましい。
上記第5の工程では、最終pHが7〜10となるように、上記エマルションおよび上記有機溶剤が除去されたエマルションの一方または両方のpHが、上記塩基性化合物の添加によって調整される。上記塩基性化合物の添加は、所期の最終pH、すなわち上記水系ポリエステル粒子分散液の所期のpH、となる範囲において、いつでも何回でも行うことが可能である。ポリエステル粒子の分散性を高める観点から、上記塩基性化合物は、少なくとも第2の工程または第3の工程で一度は上記水系媒体および上記エマルションの一方または両方に添加されることが好ましい。
上記水系ポリエステル粒子分散液の製造方法は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、上記の工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。
水系媒体中でカルボキシ基末端しか有さない従来の水系ポリエステル粒子分散液は、保管時の高温安定性が不十分になることがあり、また、トナー母体粒子の材料に用いたときに、生成する粒子成長における所期の粒径への制御が不十分となることがある。
これに対して、本実施の形態に係る上記水系ポリエステル粒子分散液は、貯蔵安定性に優れる。当該水系ポリエステル粒子分散液において、上記多価スルホン酸塩型界面活性剤は、例えば、その一方のスルホン酸基が上記ポリエステルの中和されたカルボキシル基と、ファンデルワールス力や水素結合などの相互作用により結合し、他方のスルホン酸基を外方に向けている、と推測される。あるいは、上記多価スルホン酸塩型界面活性剤は、例えば、その芳香族環部位が結晶性ポリエステルの骨格中のフェニレン基と、上記のような相互作用により結合し、両末端のスルホン酸基を外方に向けている、と推測される。
上記水系ポリエステル粒子分散液に上記多価スルホン酸塩型界面活性剤が存在することによって、上記ポリエステルの粒子間の静電反発力がより一層高められ、その結果、上記水系ポリエステル粒子分散液は、十分な貯蔵安定性を有する。
以上の説明から明らかなように、上記水系ポリエステル粒子分散液は、水と、上記多価スルホン酸塩型界面活性剤と、上記ポリエステルの粒子とを含有し、上記多価スルホン酸塩型界面活性剤の上記ポリエステルに対する含有量が3〜25質量%であり、かつ、pHが7〜10であることから、優れた凝集安定性を有する。
また、上記水系ポリエステル粒子分散液の製造方法は、上記第1から第5の工程を含むことから、優れた凝集安定性を有する水系ポリエステル粒子分散液を供給することができる。
上記水系ポリエステル粒子分散液およびその製造方法において、上記ポリエステルがスルホン酸基を有さない結晶性ポリエステルおよびスルホン酸基を有さない非晶性ポリエステルの一方または両方であることは、トナーの製造方法の材料に用いたときに生成するトナー母体粒子の低温定着性および高温安定性の一方または両方を高める観点からより一層効果的である。
また、上記水系ポリエステル粒子分散液およびその製造方法において、上記ポリエステルの粒子の体積平均粒径が50〜500nmであることは、所期の大きさおよび樹脂組成を有するトナー母体粒子を生成させる観点からより一層効果的である。
また、上記水系ポリエステル粒子分散液およびその製造方法において、上記ポリエステルの粒子の濃度が15〜50質量%であることは、当該水系ポリエステル粒子分散液の凝集安定性が保たれるとともに、トナー母体粒子の材料としてそのまま使用することができる観点から、より一層効果的である。
上記水系ポリエステル粒子分散液は、トナー母体粒子の材料に好適であり、トナーの製造方法に好適に用いられる。当該トナーの製造方法は、少なくともスルホン酸基を有するビニル系樹脂の粒子を凝集剤の存在下で水系媒体中において凝集させて会合粒子を生成する工程Iと、上記会合粒子の生成中および生成後の一方または両方において上記水系媒体に水系ポリエステル粒子分散液を添加して、上記水系ポリエステル粒子分散液中のポリエステルの粒子を上記会合粒子にさらに凝集させて上記会合粒子を成長させる工程IIと、上記会合粒子中の上記ビニル系樹脂の粒子および上記ポリエステルの粒子を融着、一体化させることによってトナー母体粒子を生成する工程IIIと、を含む。
上記工程Iにおいて、上記ビニル系樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。上記ビニル系樹脂は、ビニル基を有する化合物またはその誘導体を含むモノマーの付加重合体の構造を有する樹脂である。当該ビニル系樹脂は、一般に、結晶性を実質的に有しておらず、例えばその樹脂中に非晶部を含む。上記ビニル系樹脂は、その一部が変性されていてもよい。上記ビニル系樹脂は、例えば公知の合成法によって入手可能である。
上記ビニル系樹脂の例には、スチレン系モノマーとアクリル酸系モノマーとの付加重合体の構造を有するスチレンアクリル系共重合体が含まれる。上記スチレン系モノマーは、一種でもそれ以上でもよく、その例には、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレンおよび3,4−ジクロロスチレンが含まれる。
上記アクリル酸系モノマーも、一種でもそれ以上でもよく、その例には、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびメタクリル酸ジエチルアミノエチルが含まれる。
上記ビニル系樹脂は、そのモノマーの重合に通常用いられる過酸化物、過硫化物、アゾ化合物などの任意の重合開始剤の存在下で、塊状重合や溶液重合、乳化重合法、ミニエマルジョン法、懸濁重合法、分散重合法など公知の重合法により重合を行うことにより得られる。上記の重合では、上記ビニル系樹脂の分子量を調整する目的で、通常用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤の例には、アルキルメルカプタンおよびメルカプト脂肪酸エステルが含まれる。
上記ビニル系樹脂の粒子は、スルホン酸基を有する。当該スルホン酸基は、上記ビニル系樹脂が有していてもよいし、ビニル系樹脂の粒子が有していてもよいし、その両方であってもよい。上記スルホン酸基を有するビニル系樹脂は、例えば、過硫酸塩系の重合開始剤の存在下でビニル系モノマーがラジカル付加重合してなるビニル系樹脂である。このようなビニル系樹脂は、通常、その末端にスルホン酸基が導入される。上記過硫酸塩系の重合開始剤の例には、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸カリウムが含まれる。
上記スルホン酸基を有するビニル系樹脂の粒子は、例えば、前述の水系ポリエステル粒子分散液と同様に、ビニル系樹脂の水系媒体中における油滴からスルホン酸塩型界面活性剤の存在下で樹脂粒子を生成することにより得られる。当該粒子では、通常、その表面にスルホン酸基が存在する。
上記ビニル系樹脂の粒子の体積平均粒径は、トナー母体粒子の所期の組成を実現し、所期の生産性を達成する観点から、100〜800nmであることが好ましく、150〜600nmであることがより好ましい。
上記水系媒体における上記ビニル系樹脂の粒子の濃度は、低温定着性を発現させる観点、生産性の観点、およびトナーにおけるビニル系樹脂による効果を十分に発現させる観点から、10〜50質量%であることが好ましく、15〜45質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることがさらに好ましい。
上記凝集剤は、一種でもそれ以上でもよい。上記凝集剤は、上記ビニル系樹脂の粒子の凝集に通常使用される範囲において適宜に選ぶことができ、その例には、塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化リチウムなどの1価の金属塩、塩化カルシウムや塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウムなどの2価の金属塩、塩化アルミニウムや塩化鉄、硫酸アルミニウムなどの3価の金属塩、および、ポリ塩化アルミニウムやポリ水酸化アルミニウム、多硫化カルシウムなどの無機金属塩重合体、が含まれる。
上記会合粒子は、上記ビニル系樹脂などの樹脂粒子が一体的に集合してなる粒子であり、例えば、当該樹脂粒子の凝集体である。会合粒子の大きさは、トナー母体粒子の所望の大きさや、会合粒子の生成後の製造工程などに応じて、適宜に決めることができる。
上記工程IIにおいて、上記水系ポリエステル粒子分散液には、前述した本実施の形態にかかる水系ポリエステル粒子分散液、すなわちpH7〜10の上記水系ポリエステル粒子分散液、をそのまま用いてもよいし、トナーの定着性能などの調整を目的として上記範囲外のpH(例えばpH2〜6)にさらに調整された上記水系ポリエステル粒子分散液を用いてもよい。上記pHの再調整は、例えば、上記塩基性化合物、公知の酸性化合物、公知の塩、またはこれらの混合物の添加によって、常法により行うことが可能である。
また、上記工程IIにおいて、上記水系ポリエステル粒子分散液は、上記工程Iで得られた分散液へ、一度に添加されてもよいし、数回に分けて添加されてもよい。また、上記工程IIにおいて、上記凝集剤は、さらに追加されてもよい。上記工程IIにおいて、会合粒子の成長は、上記工程Iにおける会合粒子の生成、成長と同様に行うことができ、同じ条件で行われてもよいし、異なる条件で行われてもよい。
上記工程IIIにおいて、上記会合粒子における融着、一体化は、分散液の加温によって行うことが可能である。当該融着、一体化の終点は、常法のように、例えば生成する粒子(トナー母体粒子)の平均円形度によって、適宜に決めることが可能である。
なお、上記工程IおよびIIは、トナー母体粒子の他の材料を含有する粒子を、トナー母体粒子における当該他の材料の所期の量に応じて上記水系媒体にさらに添加してもよい。上記他の材料の例には、着色剤、離型剤および荷電制御剤が含まれる。これらの他の材料は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、上記ビニル系樹脂の粒子および上記ポリエステルの粒子の一方または両方に含まれていてもよい。
上記着色剤は、一種でもそれ以上でもよい。当該着色剤の例には、カーボンブラック、磁性体、染料および顔料が含まれる。着色剤の粒子の大きさは、10〜200nm程度であることが好ましい。
上記カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックおよびランプブラックが含まれる。
上記磁性体の例には、鉄やニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、および、フェライトやマグネタイトなどの強磁性金属の化合物、が含まれる。
上記染料の例には、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93および同95が含まれる。
上記顔料の例には、C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4および同60が含まれる。
上記離型剤は、一種でもそれ以上でもよい。上記離型剤の添加量は、上記樹脂粒子の全質量に対して2〜20質量%であることが好ましく、3〜18質量%であることがより好ましく、4〜15質量%であることがさらに好ましい。また、上記離型剤の融点は、電子写真法におけるトナーの低温定着性および離型性の観点から、50〜95℃であることが好ましい。
上記離型剤の例には、低分子量ポリエチレンワックスや低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスなどの炭化水素系ワックス、および、カルナウバワックスやペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニル、クエン酸ベヘニルなどのエステルワックス、が含まれる。
上記荷電制御剤は、一種でもそれ以上でもよい。上記荷電制御剤は、上記水系媒体中に分散可能であることが好ましく、より具体的には、水系媒体中における数平均粒径が1次粒子径で10〜500nm程度であることが好ましい。
上記荷電制御剤の例には、ニグロシン系染料、ナフテン酸や高級脂肪酸などの金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、および、サリチル酸金属塩およびその金属錯体、が含まれる。
また、上記製造方法における上記会合粒子の成長は、常法により、例えば、凝集剤のそれとは異なる価数の金属塩を添加することにより、あるいは、界面活性剤を添加することにより、停止させることができる。上記工程IIおよびIIIは、必要に応じて会合粒子の停止させる上記の工程をさらに含んでいてもよい。
さらに、上記製造方法は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、他の工程をさらに含んでいてもよい。当該他の工程の例には、上記水系媒体に添加する前の上記水系ポリエステル粒子分散液のpHをさらに調整する工程、得られたトナー母体粒子に外添剤を混合、付着させてトナー粒子を得る工程、および、得られたトナー粒子をキャリア粒子に混合して二成分現像剤としてのトナーを得る工程、が含まれる。
上記トナーは、一成分現像剤であれば上記トナー粒子そのものにより構成され、二成分現像剤であれば上記トナー粒子およびキャリア粒子により構成される。当該二成分現像剤におけるトナー粒子の含有量(トナー濃度)は、通常の二成分現像剤と同様でよく、例えば4.0〜8.0質量%である。
上記トナー粒子は、例えば、上記トナー母体粒子と、その表面に存在する外添剤とを有する。トナー粒子が外添剤を含有することは、トナー粒子の流動性や帯電性などを制御する観点から好ましい。当該外添剤は、一種でもそれ以上でもよい。当該外添剤の例には、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子および酸化ホウ素粒子が含まれる。
上記外添剤は、ゾル−ゲル法で作製されたシリカ粒子を含むことがより好ましい。ゾル−ゲル法で作製されたシリカ粒子は、粒度分布が狭いという特徴を有しているので、トナー母体粒子に対する外添剤の付着強度のばらつきを抑制する観点から好ましい。
また、上記シリカ粒子の個数平均一次粒子径は、70〜200nmであることが好ましい。個数平均一次粒子径が上記範囲内にあるシリカ粒子は、他の外添剤に比べて大きい。したがって、二成分現像剤においてスペーサーとしての役割を有する。よって、二成分現像剤が現像装置中で撹拌されているときに、より小さな他の外添剤がトナー母体粒子に埋め込まれることを防止する観点から好ましい。また、トナー母体粒子同士の融着を防止する観点からも好ましい。
上記外添剤の個数平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡で撮影した画像の画像処理によって求めることが可能であり、例えば、分級や分級品の混合などによって調整することが可能である。
上記外添剤は、その表面が疎水化処理されていることが好ましい。当該疎水化処理には、公知の表面処理剤が用いられる。当該表面処理剤は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、シランカップリング剤、シリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、そのエステル化物およびロジン酸が含まれる。
上記シランカップリング剤の例には、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、メチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシランおよびデシルトリメトキシシランが含まれる。上記シリコーンオイルの例には、環状化合物や、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサンなどが含まれ、より具体的には、オルガノシロキサンオリゴマー、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、および、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、が含まれる。
また、上記シリコーンオイルの例には、側鎖または片末端や両末端、側鎖片末端、側鎖両末端などに変性基を導入した反応性の高い、少なくとも末端を変性したシリコーンオイルが含まれる。上記変性基の種類は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、アルコキシ、カルボキシル、カルビノール、高級脂肪酸由来の有機基、フェノール、エポキシ、メタクリルおよびアミノが含まれる。
上記外添剤の添加量は、トナー粒子全体に対して0.1〜10.0質量%が好ましい。より好ましくは1.0〜3.0質量%である。
上記キャリア粒子は、磁性体により構成される。当該キャリア粒子の例には、当該磁性体からなる芯材粒子と、その表面を被覆する被覆材の層とを有する被覆型キャリア粒子、および、樹脂中に磁性体の微粉末が分散されてなる樹脂分散型のキャリア粒子、が含まれる。上記キャリア粒子は、感光体へのキャリア粒子の付着を抑制する観点から、上記被覆型キャリア粒子であることが好ましい。
上記芯材粒子は、磁性体、例えば、磁場によってその方向に強く磁化する物質、によって構成される。当該磁性体は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、鉄、ニッケルおよびコバルトなどの強磁性を示す金属、これらの金属を含む合金もしくは化合物、および、熱処理することにより強磁性を示す合金、が含まれる。
上記強磁性を示す金属またはそれを含む化合物の例には、鉄、下記式(a)で表されるフェライト、および、下記式(b)で表されるマグネタイト、が含まれる。式(a)、式(b)中のMは、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Mg、Zn、CdおよびLiの群から選ばれる一以上の1価または2価の金属を表す。
式(a):MO・Fe2O3
式(b):MFe2O4
また、上記熱処理することにより強磁性を示す合金または金属酸化物の例には、マンガン−銅−アルミニウムおよびマンガン−銅−錫などのホイスラー合金、および、二酸化クロム、が含まれる。
上記芯材粒子は、上記フェライトであることが好ましい。これは、被覆型キャリア粒子の比重は、芯材粒子を構成する金属の比重よりも小さくなることから、現像装置内における撹拌の衝撃力をより小さくすることができるためである。
上記被覆材は、一種でもそれ以上でもよい。被覆材には、キャリア粒子の芯材粒子の被覆に利用される公知の樹脂を用いることができる。当該被覆材は、シクロアルキル基を有する樹脂であることが、キャリア粒子の水分吸着性を低減させる観点、および、被覆材の層の芯材粒子との密着性を高める観点、から好ましい。当該シクロアルキル基の例には、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基およびシクロデシル基が含まれる。中でも、シクロヘキシル基またはシクロペンチル基が好ましく、被覆材の層とフェライト粒子との密着性の観点からシクロへキシル基がより好ましい。
上記シクロアルキル基を有する樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば10000〜800000であり、より好ましくは100000〜750000である。当該樹脂における上記シクロアルキル基の含有量は、例えば10〜90質量%である。上記樹脂中の当該シクロアルキル基の含有量は、例えば、P−GC/MSや1H−NMRなどの公知の機器分析法を利用して求めることが可能である。
上記二成分現像剤は、上記トナー粒子と上記キャリア粒子とを適量混合することによって製造することができる。当該混合に用いられる混合装置の例には、ナウターミキサー、WコーンおよびV型混合機が含まれる。
上記トナー粒子の大きさおよび形状は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。たとえば、上記トナー粒子の体積平均粒径は、3.0〜8.0μmであり、上記トナー粒子の平均円形度は、0.920〜1.000である。
上記トナー粒子の個数平均粒径は、「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用のコンピューターシステムを接続した装置を用いて測定、算出することができる。また、上記トナー粒子の個数平均粒径は、例えば、トナー粒子の製造における温度や攪拌の条件、トナー粒子の分級、トナー粒子の分級品の混合などによって調整することが可能である。
上記トナー粒子の平均円形度は、例えば、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(Sysmex社製)を用い、所定数のトナー粒子における、粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長L1と、粒子投影像の周囲長L2とから、下記式から算出した円形度Cの総和を、当該所定数で除することにより求められる。上記トナー粒子の平均円形度は、例えば、トナー粒子の製造における樹脂粒子の熟成の程度や、トナー粒子の熱処理、異なる円形度のトナー粒子の混合、などによって調整することが可能である。
(式) C=L1/L2
また、上記キャリア粒子の大きさおよび形状も、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。たとえば、上記キャリア粒子の体積平均粒径は、15〜100μmである。当該キャリア粒子の体積平均粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置「HELOS KA」(日本レーザー株式会社製)を用いて湿式にて測定することができる。また、上記キャリア粒子の体積平均粒径は、例えば、芯材粒子の製造条件による芯材粒子の粒径を制御する方法や、キャリア粒子の分級、キャリア粒子の分級品の混合などによって調整することが可能である。
上記トナーの製造方法において、結着樹脂に上記ビニル系樹脂および上記ポリエステルを含むトナー母体粒子の材料に、上記水系ポリエステル粒子分散液を用いることにより、上記ビニル系樹脂の粒子および上記ポリエステルの粒子における凝集均一性が高まる。その理由は、以下のように考えられる。
一般に、ビニル系樹脂であるスチレンアクリル系共重合体の乳化重合時には、重合開始剤として過硫酸塩が用いられる。このため、当該スチレンアクリル系共重合体の末端には、スルホン酸基が導入される。よって、水系媒体中における当該スチレンアクリル系共重合体の粒子の表面にはカルボキシ基の他にスルホン酸基が存在するので、当該粒子の凝集安定性は、一般に高い。
対して、ポリエステルは、一般に、多価カルボン酸と多価アルコールの重縮合により得られるため、その分子構造の末端には、カルボキシル基が存在するが、スルホン酸基は通常は存在しない。よって、水系媒体中における当該ポリエステルの粒子の表面にはカルボキシ基しか存在しないので、当該粒子の凝集安定性は、上記スチレンアクリル系共重合体の粒子のそれに比べて低い。
水系ポリスチレン分散液にも、例えば1価のスルホン酸塩型界面活性剤を分散剤として用いることで、当該粒子の凝集安定性は得られる。しかしながら、当該水系ポリエステル粒子分散液を水系スチレンアクリル系共重合体分散液とともにトナー母体粒子の材料として用いる場合では、凝集性の異なる二種の樹脂粒子を均一に凝集させるには、上記水系ポリエステル粒子分散液中のポリエステルの粒子の凝集性は不十分であり、よって、上記の場合では、微粉や粗粉を発生することなく所望の大きさおよび形状の粒子を形成することができないことがある。
本実施の形態では、上記ポリエステルの粒子の表面には、2価のスルホン酸基と芳香族環とを有するアニオン性界面活性剤が存在するので、当該表面におけるスルホン酸基の密度がより高まる。このため、樹脂粒子同士の静電反発力(斥力)、および、凝集剤と樹脂粒子との間の凝集引力、において、上記ポリエステルの粒子と上記スチレンアクリル系共重合体の粒子とのバランスがとれ、均一なヘテロ樹脂粒子凝集体が形成される。その結果、上記のトナー母体粒子の材料に使用することによって、微粉および粗粉の発生が少なくシャープな粒度分布を有するトナー母体粒子が得られる。
以上の説明から明らかなように、上記トナーの製造方法は、少なくともスルホン酸基を有するビニル系樹脂の粒子を凝集剤の存在下で水系媒体中において凝集させて会合粒子を生成する工程と、上記会合粒子の生成中および生成後の一方または両方において上記水系媒体に水系ポリエステル粒子分散液を添加して、上記水系ポリエステル粒子分散液中のポリエステルの粒子を上記会合粒子にさらに凝集させて上記会合粒子を成長させる工程と、上記会合粒子中の上記ビニル系樹脂の粒子および上記ポリエステルの粒子を融着、一体化させることによってトナー母体粒子を生成する工程と、を含み、水系ポリエステル粒子分散液として前述の本実施の形態の水系ポリエステル粒子分散液をそのまま、あるいはpHをさらに調整して用いることから、生成するトナー母体粒子の粒度分布が狭く、微粉および粗粉の発生を抑制可能なトナー母体粒子を製造することができる。
上記トナーの製造方法が、上記水系媒体に添加する前の上記水系ポリエステル粒子分散液のpHをさらに調整する工程をさらに含み、上記水系媒体に添加される上記水系ポリエステル粒子分散液にpHがさらに調整された上記水系ポリエステル粒子分散液を用いることは、得られるトナーの所期の物性を高める観点からより一層効果的である。
上記スルホン酸基を有するビニル系樹脂に、過硫酸塩系の重合開始剤の存在下でビニル系モノマーがラジカル付加重合してなるビニル系樹脂を用いることは、当該ビニル系樹脂へスルホン酸基が容易に導入される観点からより一層効果的であり、上記ビニル系樹脂がスチレンアクリル系共重合体であることは、所期のトナー特性を発現させる観点からより一層効果的である。
以上の説明から明らかなように、本実施の形態では、スルホン酸基の密度がより高い界面活性剤を用いることにより、貯蔵安定性に優れる水系ポリエステル粒子分散液を得ることができる。
また、スルホン酸基を分子中に有する、スチレンアクリル系共重合体などのビニル系樹脂の粒子と、ポリエステルの粒子とから凝集粒子を生成するにあたり、2価のスルホン酸基および芳香環を有するアニオン性界面活性剤を含むポリエステルの粒子を用いることにより、ビニル系樹脂の粒子とポリエステルの粒子との凝集のバランスを高精度に制御することができ、その結果、当該凝集を利用することにより、微粉および粗粉の発生が少ないトナー母体粒子を得ることができる。
なお、上記トナーは、通常の電子写真方式の画像形成方法に適用され、静電潜像の現像に供される。上記トナーは、例えば、図1に示される画像形成装置に収容され、記録媒体上でのトナー像の形成に供される。
図1に示す画像形成装置1は、画像読取部110、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50および定着装置60を有する。
画像形成部40は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット41Y、41M、41Cおよび41Kを有する。これらは、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略することがある。画像形成部40は、さらに、中間転写ユニット42および二次転写ユニット43を有する。これらは、転写装置に相当する。
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415を有する。感光体ドラム413は、例えば負帯電型の有機感光体である。感光体ドラム413の表面は、光導電性を有する。感光体ドラム413は、感光体に相当する。帯電装置414は、例えばコロナ帯電器である。帯電装置414は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム413に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置411は、例えば、光源としての半導体レーザーと、形成すべき画像に応じたレーザー光を感光体ドラム413に向けて照射する光偏向装置(ポリゴンモータ)とを含む。
現像装置412は、二成分現像方式の現像装置である。現像装置412は、例えば、二成分現像剤を収容する現像容器と、当該現像容器の開口部に回転自在に配置されている現像ローラー(磁性ローラー)と、二成分現像剤が連通可能に現像容器内を仕切る隔壁と、現像容器における開口部側の二成分現像剤を現像ローラーに向けて搬送するための搬送ローラーと、現像容器内の二成分現像剤を撹拌するための撹拌ローラーと、を有する。上記現像容器には、二成分現像剤としての上記トナーが収容されている。
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、中間転写ベルト421を感光体ドラム413に圧接させる一次転写ローラー422、バックアップローラー423Aを含む複数の支持ローラー423、およびベルトクリーニング装置426を有する。中間転写ベルト421は、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。
二次転写ユニット43は、無端状の二次転写ベルト432、および二次転写ローラー431Aを含む複数の支持ローラー431を有する。二次転写ベルト432は、二次転写ローラー431Aおよび支持ローラー431によってループ状に張架される。
定着装置60は、例えば、定着ローラー62と、定着ローラー62の外周面を覆い、用紙S上のトナー画像を構成するトナーを加熱、融解するための無端状の発熱ベルト63と、用紙Sを定着ローラー62および発熱ベルト63に向けて押圧する加圧ローラー64と、を有する。用紙Sは、記録媒体に相当する。
画像形成装置1は、さらに、画像読取部110、画像処理部30および用紙搬送部50を有する。画像読取部110は、給紙装置111およびスキャナー112を有する。用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、および搬送経路部53を有する。給紙部51を構成する三つの給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aなどの複数の搬送ローラー対を有する。
画像形成装置1による画像の形成を説明する。
スキャナー112は、コンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー112aにより読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部30において所定の画像処理が施され、露光装置411に送られる。
感光体ドラム413は一定の周速度で回転する。帯電装置414は、感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411では、ポリゴンモータのポリゴンミラーが高速で回転し、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光が、感光体ドラム413の軸方向に沿って展開し、当該軸方向に沿って感光体ドラム413の外周面に照射される。こうして感光体ドラム413の表面には、静電潜像が形成される。
現像装置412では、上記現像容器内の二成分現像剤の撹拌、搬送によってトナー粒子が帯電し、二成分現像剤は上記現像ローラーに搬送され、当該現像ローラーの表面で磁性ブラシを形成する。帯電したトナー粒子は、上記磁性ブラシから感光体ドラム413における静電潜像の部分に静電的に付着する。こうして、感光体ドラム413の表面の静電潜像が可視化され、感光体ドラム413の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。
感光体ドラム413の表面のトナー画像は、中間転写ユニット42によって中間転写ベルト421に転写される。転写後に感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーは、感光体ドラム413の表面に摺接されるドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置415によって除去される。
一次転写ローラー422によって中間転写ベルト421が感光体ドラム413に圧接することにより、感光体ドラム413と中間転写ベルト421とによって、一次転写ニップが感光体ドラム413ごとに形成される。当該一次転写ニップにおいて、各色のトナー画像が中間転写ベルト421に順次重なって転写される。
一方、二次転写ローラー431Aは、中間転写ベルト421および二次転写ベルト432を介して、バックアップローラー423Aに圧接される。それにより、中間転写ベルト421と二次転写ベルト432とによって、二次転写ニップが形成される。当該二次転写ニップを用紙Sが通過する。用紙Sは、用紙搬送部50によって二次転写ニップへ搬送される。用紙Sの傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により行われる。
上記二次転写ニップに用紙Sが搬送されると、二次転写ローラー431Aへ転写バイアスが印加される。この転写バイアスの印加によって、中間転写ベルト421に担持されているトナー画像が用紙Sに転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト432によって、定着装置60に向けて搬送される。
定着装置60は、発熱ベルト63と加圧ローラー64とによって、定着ニップを形成し、搬送されてきた用紙Sを当該定着ニップ部で加熱、加圧する。用紙S上のトナー画像を構成するトナー粒子は、加熱され、その内部でポリエステル(例えば結晶性ポリエステル)が速やかに融け、その結果、比較的少ない熱量で速やかにトナー粒子全体が融解し、トナー成分が用紙Sに付着する。付着している溶融トナー成分では、やはりポリエステルが速やかに結晶化し、当該溶融トナー成分全体が速やかに固化する。こうして、比較的少ない熱量で速やかにトナー画像が用紙Sに定着する。トナー像が定着された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。こうして、高画質の画像が形成される。
なお、二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残存する転写残トナーは、中間転写ベルト421の表面に摺接されるベルトクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置426によって除去される。
上記トナーにおいて、上記ポリエステルの粒子の凝集特性は、ビニル系樹脂のそれと同等であるため、上記ポリエステルは、トナー母体粒子においてビニル系樹脂に内包されやすい。よって、上記ポリエステルがトナー母体粒子から露出しにくいので、上記トナーの保管時に比較的高い温度の環境に晒されても上記ポリエステルと上記ビニル系樹脂との相溶が抑制される。したがって、上記トナーは、上記のように十分な低温安定性を有し、また、十分な高温保管性を有する。
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
[ポリエステルC1の製造]
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに、下記成分を下記の量で入れ、反応容器内を乾燥窒素ガスで置換した後、チタンテトラブトキサイド0.1質量部をさらに添加し、窒素ガス気流下において180℃で撹拌しながら8時間重合反応を行った。
1,9−ノナンジオール 252質量部
1,10−デカンジカルボン酸 315質量部
得られた反応液に、さらにチタンテトラブトキサイド0.2質量部を添加し、反応液の温度を220℃に上げて撹拌しながらさらに6時間重合反応を行った。次いで、反応容器内を10kPaまで減圧し、上記の温度にて減圧下でさらに1時間反応を行い、結晶性ポリエステルであるポリエステルC1を得た。ポリエステルC1の重量平均分子量Mwは14,000であった。
なお、ポリエステルC1のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めた。より詳しくは、GPC装置として、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC、SC−8020装置を用い、カラムはTSKgei,SuperHM−H(6.0mmID×15cm×2)を用い、溶離液として和光純薬工業株式会社製クロマトグラフ用THF(テトラヒドロフラン)を用いて行った。実験条件としては、試料濃度0.5%、流速0.6mL/分、サンプル注入量10μL、測定温度40℃、IR検出器を用いて実験を行った。また、検量線は、東ソー株式会社製「polystylene標準試料TSK standard」:A−500、F−1、F−10、F−80、F−380、A−2500、F−4、F−40、F−128、F−700の10サンプルから作製した。また試料解析におけるデータ収集間隔は300msとした。
ポリエステルC1の融点Tmは72℃であった。ポリエステルC1の融点Tmは、示差走査熱量測定(DSC)により求められる、3.0mgのポリエステルC1をアルミニウム製パンに封入し、下記温度プログラムにおける第2昇温工程時のDSC曲線における吸熱ピークのピーク温度である。
[温度プログラム]
第1昇温工程:試料の温度を10℃/分で室温(25℃)から150℃まで昇温し、150℃を5分間維持する工程
冷却工程:第1昇温工程に次いで、試料の温度を10℃/分で150℃から0℃まで下げ、0℃を5分間維持する工程
第2昇温工程:冷却工程に次いで、試料の温度を10℃/分で0℃から150℃まで昇温する工程
[ポリエステルC2の製造]
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに、下記成分を下記の量で入れ、反応容器内を乾燥窒素ガスで置換した後、チタンテトラブトキサイド0.1質量部を添加し、窒素ガス気流下において220℃で撹拌しながら6時間重合反応を行った。次いで、反応容器内を10kPaまで減圧し、上記の温度にて減圧下で1時間反応をさらに行った。次いで、得られた反応液を160℃まで一旦冷却した。
1,9−ノナンジオール 225質量部
1,10−デカンジカルボン酸 283質量部
下記成分を下記の量で含有する混合液を滴下ロートにより上記反応液に1時間かけて滴下した。なお、下記「ジ−t−ブチルパーオキサイド」は、重合開始剤である。次いで、160℃にて1時間、付加重合反応を行った。次いで、得られた反応液を200℃に昇温し、この温度にて10kPaで1時間保持して余剰のスチレンおよびブチルアクリレートを除去し、結晶性のビニル変性ポリエステルであるポリエステルC2を得た。ポリエステルC2のMwは15,600であった。また、ポリエステルC2のTmは70℃であった。
アクリル酸 5質量部
スチレン 42質量部
ブチルアクリレート 11質量部
ジ−t−ブチルパーオキサイド 7質量部
[ポリエステルA1の製造]
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに、下記成分を下記の量で入れ、反応容器内を乾燥窒素ガスで置換した後、チタンテトラブトキサイド0.2質量部を添加し、窒素ガス気流下において180℃で撹拌しながら6時間重合反応を行った。得られた反応液へ、さらにチタンテトラブトキサイド0.3質量部を添加し、当該反応液の温度を200℃に上げて撹拌しながら当該温度にて6時間重合反応を行った。次いで、反応容器内を1.5kPaまで減圧し、上記温度にて減圧下でさらに1時間反応を行い、非晶性ポリエステルであるポリエステルA1を得た。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 360質量部
イソフタル酸 52質量部
テレフタル酸 52質量部
トリメリット酸 32質量部
フマル酸 17質量部
ポリエステルA1のMwは17,200であった。また、ポリエステルA1のガラス転移点Tgは60.5℃であり、軟化点Tspは106℃であった。
なお、Tgは、上記DSCにおいて、測定温度0℃〜150℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat−cool−Heatの温度制御で行ったときの二回目のHeatにおける第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線との交点の温度である。
また、Tspは、下記に示すフローテスターによって測定される。すなわち、20℃、50%RHの環境下において、試料(ポリエステルA1)1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所社製)によって3820kg/cm2(37.5MPa)の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製する。上記Tspは、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所社製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したときのオフセット法温度Toffsetである。
[ポリエステルA2の製造]
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに、下記の成分を下記の量で入れ、反応容器内を乾燥窒素ガスで置換した後、チタンテトラブトキサイド0.2質量部をさらに添加し、窒素ガス気流下において180℃で撹拌しながら6時間重合反応を行った。次いで、反応容器内を10kPaまで減圧し、上記温度にて減圧下で1時間、さらに反応を行い、得られた反応液を160℃に一旦冷却した。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 288質量部
イソフタル酸 42質量部
テレフタル酸 42質量部
トリメリット酸 26質量部
フマル酸 14質量部
下記成分を下記の量で含有する混合液を滴下ロートにより上記反応液に1時間かけて滴下し、滴下後、160℃にて1時間、付加重合反応を行った。次いで、上記反応液を200℃に昇温し、当該温度にて10kPaで1時間保持して余剰のスチレンおよびブチルアクリレートを除去し、非晶性のビニル変性ポリエステルであるポリエステルA2を得た。ポリエステルA2のMwは18,900であった。また、ポリエステルA2のTgは58.9℃であり、Tspは107℃であった。
アクリル酸 5質量部
スチレン 75質量部
ブチルアクリレート 26質量部
ジ−t−ブチルパーオキサイド 16質量部
ポリエステルC1、C2、A1、A2の原料比率を表1に示す。下記表中、「PEs」はポリエステルを、「UPEs」はポリエステルユニットを、「UVr」はビニル樹脂ユニットを、「Pal」は多価アルコール成分を、「Pca」は多価カルボン酸成分を、「BPA」はビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物を、「NDO」は1,9−ノナンジオールを、「DCA」は1,10−デカンジカルボン酸を、「IPA」はイソフタル酸を、「TPA」はテレフタル酸を、「TA」はトリメリット酸を、「FA」はフマル酸を、「StAc」はスチレンアクリルグラフト部を、それぞれ表す。
[PEs分散液L1の製造]
150質量部のポリエステルC1をメチルエチルケトン100部と混合した後に70℃で撹拌溶解し、次いで、得られた溶液に、中和剤である25質量%水酸化ナトリウム水溶液を撹拌下で添加し、次いで、得られた分散液に70℃の純水を添加して、水系媒体中に油相のポリエステル含有液滴が分散した分散液を得た。
次いで、当該分散液から減圧濃縮によりメチルエチルケトンを除去し、次いで上記分散液を30℃まで冷却し、次いで、上記分散液にドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを樹脂固形分に対し3質量部%相当添加し、水系ポリエステル粒子分散液であるPEs分散液L1を得た。PEs分散液L1中の樹脂粒子の体積平均粒径を「NanotrackWave EX150」(日機装株式会社製)で測定したところ、155nmであった。
また、PEs分散液L1のpHは、ガラス電極式水素イオン濃度指示計「HM−20P」(東亜ディーケーケー株式会社製)にて、比較電極内部液「RE−4」をフタル酸標準液(pH4.01、25℃)、中性りん酸塩標準液(pH6.86、25℃)、ほう酸塩標準液(pH9.18、25℃)の3点校正を行った後に測定したところ、8.9であった。
なお、PEs分散液L1中のドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの量をPEs分散液L1から検出したところ、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの量は、上記の添加量と実質的に同じであることが確認された。PEs分散液L1中のドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの量は、当該分散液の乾固品0.1gを50mLのクロロホルムに溶解させ、100mLのイオン交換水でクロロホルム層より界面活性剤を抽出し、上記クロロホルム層を100mLのイオン交換水でもう一度抽出し、計200mLの抽出液(水層)を2000mLまで希釈し、得られた希釈液を試験液として、JIS K0170−8に規定の方法に従い当該試験液をメチレンブルーで呈色させ、当該試験液の吸光度を測定し、別途作成した検量線よりPEs分散液L1中のドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの量を算出することにより、求められる。
(保管性の評価)
PEs分散液L1をマグネチックスターラーで5分間混合し、NanotrackWave(日機装社製)にて体積平均粒径mvおよび個数平均粒径mnを計測し、分布指数I0(mv/mn)を算出した。次いで、PEs分散液L1を50℃の環境に1ヶ月間静置し、次いでマグネチックスターラーで5分間混合し、I0と同様にして、静置後の分布指数I1(mv/mn)を算出した。そして、下記式で求められる静置前後の分布指数の変化率ΔI(%)を求め、当該ΔIを下記基準によりPEs分散液L1の保管性を評価した。その結果、PEs分散液L1のΔIは7.7%であった。
ΔI={|I0−I1|/L0}×100
[評価基準]
○:ΔIが5%以内
△:ΔIが5%超10%以内
×:ΔIが10%超
[PEs分散液L2〜L5の製造]
ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの樹脂固形分に対する添加量を9質量部、20質量部、2.9質量部および25.1質量部にそれぞれ変更する以外は、PEs分散液L1の製造と同様にして、PEs分散液L2〜L5をそれぞれ得た。PEs分散液L2のpHは8.5であり、ΔIは4.4%であった。PEs分散液L3のpHは7.5であり、ΔIは3.9%であった。PEs分散液L4のpHは8.9であり、ΔIは8.5%であった。PEs分散液L5のpHは7.3であり、ΔIは2.9%であった。
[PEs分散液L6、L7の製造]
ポリエステルC1に代えてポリエステルC2、A1をそれぞれ用いる以外は、PEs分散液L2の製造と同様にして、PEs分散液L6、L7をそれぞれ得た。PEs分散液L6のpHは8.3であり、ΔIは4.2%であった。PEs分散液L7のpHは8.7であり、ΔIは2.2%であった。
[PEs分散液L8〜L12の製造]
ポリエステルC1に代えてポリエステルA2を用い、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの樹脂固形分に対する添加量を3質量%、10質量%、20質量%、2.9質量%および25.1質量%にそれぞれ変更する以外は、PEs分散液L1の製造と同様にして、PEs分散液L8〜L12をそれぞれ得た。PEs分散液L8のpHは9.0であり、ΔIは5.2%であった。PEs分散液L9のpHは8.5であり、ΔIは4.2%であった。PEs分散液L10のpHは7.4であり、ΔIは2.7%であった。PEs分散液L11のpHは8.6であり、ΔIは6.3%であった。PEs分散液L12のpHは7.3であり、ΔIは2.3%であった。
[PEs分散液L13、L14の製造]
ポリエステル分散液を得た後にpHを調整した以外はPEs分散液L9の製造と同様にして、PEs分散液L13、L14をそれぞれ得た。PEs分散液L13のpHは6.7であり、ΔIは5.4%であった。PEs分散液L14のpHは10.2であり、ΔIは5.3%であった。
[PEs分散液L15の製造]
ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムに代えてポリオキシエチレン(2)ドデシルグリセリルエーテルジ硫酸ナトリウムを用いる以外は、PES分散液L9と同様にして、PEs分散液L15を得た。PEs分散液L15のpHは7.8であり、ΔIは4.7%であった。
[PEs分散液L16、L17の製造]
ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムに代えてポリオキシエチレン(2)ラウリル硫酸ナトリウムを用い、その樹脂固形分に対する添加量を5質量部とする以外はPEs分散液L1の製造と同様にして、PEs分散液L16を得た。また、ポリエステルC1に代えてポリエステルA2を用いる以外はPEs樹脂分散液L16の製造と同様にして、PEs分散液L17を得た。PEs分散液L16のpHは7.3であり、ΔIは3.1%であった。PEs分散液L17のpHは7.6であり、ΔIは2.1%であった。
[PEs分散液L18の製造]
ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムに代えてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いる以外は、PES分散液L9と同様にして、PEs分散液L18を得た。PEs分散液L18のpHは7.9であり、ΔIは5.1%であった。
PEs分散液L1〜L18の材料の組成、pH、ΔIおよび保管性を表2に示す。表2中、「SS」はスルホン酸塩系のアニオン性界面活性剤を、「ArPSS1」はドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを、「AlPSS2」はポリオキシエチレン(2)ドデシルグリセリルエーテルジ硫酸ナトリウムを、「AlSS3」はポリオキシエチレン(2)ラウリル硫酸ナトリウムを、そして「ArSS4」はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、それぞれ表す。また、SSの「含有量(質量部)」は、当該分散液中のSSの質量部であり、「含有量(質量%)」は、樹脂固形分に対するSSの質量%であり、「Rv」はPEs分散液中のポリエステルの粒子の体積平均粒径である。
[VR分散液1の調製]
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で当該反応容器内の溶液1−1を撹拌しながら、上記反応容器の内温を80℃に昇温させた。次いで、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた溶液1−2を溶液1−1に添加し、得られた溶液1−3の液温を80℃とした。
スチレン 480質量部
n−ブチルアクリレート 250質量部
メタクリル酸 68質量部
次いで、上記成分を上記の量で含有する単量体混合液を1時間かけて溶液1−3に滴下し、次いで、得られた混合液を80℃で2時間加熱、撹拌することにより上記単量体の重合を行い、樹脂粒子x1が分散されてなる樹脂粒子分散液X1を調製した。
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水2000質量部に溶解させた溶液2−1を仕込み、98℃に加熱し、溶液2−1に260質量部の樹脂粒子x1と下記成分を下記の量で含有する溶液2−2を加えた。下記ベヘン酸ベヘネートは離型剤であり、その融点は73℃である。
スチレン 284質量部
n−ブチルアクリレート 92質量部
メタクリル酸 13質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 1.5質量部
ベヘン酸ベヘネート 190質量部
得られた混合液を、循環経路を有する機械式分散機「CREARMIX」(エム・テクニック株式会社製、「CREARMIX」は同社の登録商標)により、1時間混合、分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液2−3を調製した。
次いで、上記分散液2−3に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液2−4を添加し、得られた混合液を84℃で1時間撹拌することにより、上記単量体の重合を行い、樹脂粒子x2が分散されてなる樹脂粒子分散液X2を調製した。
(第3段重合)
樹脂粒子分散液X2に、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水300質量部に溶解させた溶液3−1を添加して混合液を得た。82℃の当該混合液に、下記成分を下記の量で含有する単量体混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン 350質量部
n−ブチルアクリレート 215質量部
アクリル酸 30質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8質量部
次いで、上記混合液を上記の温度で2時間撹拌することにより上記単量体の重合を行い、次いで上記混合液を28℃まで冷却し、こうして、ビニル系樹脂からなる非晶性樹脂の樹脂粒子VR1が分散されてなるVR分散液1を調製した。
VR分散液1中の樹脂粒子VR1の体積基準のメジアン径を測定したところ、220nmであった。また、樹脂粒子VR1を構成する樹脂の重量平均分子量を測定したところ、32000であった。さらに、当該樹脂のガラス転移温度を測定したところ、55℃であった。
[Cy分散液の調製]
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加し、撹拌しながら、得られた溶液に銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue 15:3)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、着色剤の粒子が分散されてなる水系のCy分散液を調製した。Cy分散液中の着色剤粒子の体積基準のメジアン径を動的光散乱式粒子径分布測定装置「NanotrackWave」(日機装株式会社製)を用いて測定したところ、120nmであった。
[トナー1の製造]
撹拌装置、温度センサーおよび冷却管を取り付けた反応容器に、固形分換算で200質量部のVR分散液1、着色剤固形分換算で14質量部のCy分散液、およびイオン交換水2000質量部を投入し、次いで上記反応容器に5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液をさらに添加して、上記反応容器中の混合液のpHを10に調整した。
次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて上記混合液に添加した。次いで、得られた混合液を90分間かけて80℃まで昇温し、次いで、当該混合液に、固形分換算で20質量部のPEs分散液L1を20分間かけて添加し、攪拌数を適宜下げ、「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、当該会合粒子の体積基準のメジアン径が6.0μmまで、粒子の凝集を行った。
次いで、上記メジアン径が6.0μmになった時点で、得られた分散液に、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子の成長(凝集)を停止させた。次いで、得られた分散液の昇温を行い、80℃にて撹拌することにより、上記粒子の融着を進行させた。分散液中の当該粒子の平均円形度を測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個として)測定し、当該平均円形度が0.955になった時点で上記分散液を30℃まで冷却し、上記粒子の融着を停止させた。こうして、トナー母体粒子1を含有するトナー分散液1を得た。
得られたトナー分散液1からトナー母体粒子1を分離、洗浄、乾燥し、得られたトナー母体粒子1に、疎水性シリカ粒子1質量%と疎水性酸化チタン粒子1.2質量%とを添加し、ヘンシェルミキサーを用い、回転翼の周速24m/sの条件で20分間かけて混合し、得られた混合粉体を400メッシュの篩に掛け、粗粉を分離した。こうして、トナー母体粒子1の表面に外添剤を付着させてなるトナー粒子1を得た。さらに、トナー粒子1に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径60μmのフェライトキャリアをトナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、二成分現像剤であるトナー1を製造した。
また、トナー母体粒子1中のArPSS1の含有量を下記の方法によって検出したところ、0.003質量%であった。
[検出方法]
1gのトナー母体粒子1を50mLのクロロホルムに溶解させ、100mlLのイオン交換水でクロロホルム層より界面活性剤を抽出し、次いでクロロホルム層を100mLのイオン交換水でもう一度抽出し、計200mLの抽出液(水層)を試験液として、高速液クロマトグラフィー(HPLC)測定法により下記の測定条件で測定する。
使用カラム:ODS−3
カラム長:150mm
カラム温度:40℃
溶離液A:0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)
溶離液B:メタノール
グラジエント:B65%(0分)−B100%(30分)
流速:1.0mL/分
検出器:コロナCAD
[トナー2〜8、17および18の製造]
PEs分散液L1に代えてPEs分散液L2〜L7、L9、L16およびL17のそれぞれを用いる以外は、トナー1の製造と同様にしてトナー分散液2〜8、17および18のそれぞれを得、トナー2〜8、17および18のそれぞれを製造した。トナー母体粒子2〜8、17および18のそれぞれにおけるSSの含有量は、いずれも0.002〜0.008質量%の範囲内であった。
[トナー9〜16、19および20の製造]
PEs分散液L1に代えてPEs分散液L2を添加して粒子を会合させ、かつ会合粒子の凝集を、当該会合粒子の体積基準のメジアン径が6.0μmまで行い、次いで、得られた分散液に、固形分換算で20質量部のPEs分散液L8〜L15、L17およびL18のそれぞれを20分間かけてさらに添加し、同温度にて15分間上記分散液を撹拌し、次いで上記塩化ナトリウム水溶液を当該分散液に添加して粒子の成長を停止させた以外は、トナー1の製造と同様にしてトナー分散液9〜16、19および20のそれぞれを得、トナー9〜16、19および20のそれぞれを製造した。トナー母体粒子9〜16、19および20のそれぞれにおけるSSの含有量は、いずれも0.002〜0.008質量%の範囲内であった。
[凝集性の評価]
(1)粒度分布
トナー粒子〜20のそれぞれについて、体積基準の粒径分布における変動係数CVを求め、当該トナー粒子の粒度分布を下記基準により評価した。本評価において、「○」および「△」が良品と判定される。
○:CVが18%未満
△:CVが18%以上20%未満
×:CVが20%以上
なお、上記変動係数CVは、「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)と、これに接続されている、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムとを有する測定装置を用いて測定、算出される。具体的には、トナー粒子1〜20のそれぞれ0.02gを、界面活性剤溶液20mLに添加して馴染ませ、十分に分散させて得られた試料液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。そして、上記測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにして、体積基準の変動係数(CV)を測定する。
上記界面活性剤溶液は、トナー粒子の分散を目的とし、例えば、中性洗剤を純水で10倍希釈した水溶液である。また、上記測定装置における表示濃度を上記のように「8%」程度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。
(2)微粉量の測定
トナー粒子1〜20のそれぞれを、界面活性剤入り水溶液にてなじませ、十分に分散させた後、「FPIA−3000」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、全トナー粒子に対する粒径3μm以下(0.6μm以上)の粒子の個数基準における割合Rn(%)を求め、以下の基準により微粉量を評価した。本評価において、「○」および「△」が良品と判定される。
○:Rnが0.5%未満
△:Rnが0.5%以上1.0%未満
×:Rnが1.0%以上
(3)粗粉量の測定
トナー粒子1〜20のそれぞれについて、「FPIA−3000」(Sysmex社製)を用いて上記モードの上記適性濃度における撮影結果から、全トナー粒子に対する粒径10μm以上(30μm以下)の粒子の体積基準における割合Rv(%)を求め、以下の基準により微粉量を評価した。本評価において、「○」および「△」が良品と判定される。
○:Rvが1.0%未満
△:Rvが1.0%以上2.0%未満
×:Rvが2.0%以上
トナー1〜20における製造条件および評価結果を表3に示す。表中、「昇温完了後」は、「PEs分散液の添加前における分散液の温度の昇温(80℃)の後」を表し、「6μm到達後」は、「樹脂分散液中の樹脂粒子の凝集による会合粒子の体積平均粒径(メジアン径)が6μmになった後」を表す。なお、本発明におけるトナー母体粒子の成長の終点の粒径は、任意に選ぶことができ、上記実施例の値(6μm)に限定されない。
表3から明らかなように、トナー1〜3および5〜11では、いずれも、粒度分布が十分に鋭く、微粉および粗粉の発生が十分に抑制されている。よって、トナー母体粒子の製造時において、当該トナー母体粒子の粒径が比較的整っており、かつ微粉および粗粉の発生が十分に抑制されていることがわかる。
これに対して、トナー4および12では、いずれも、微粉および粗粉の発生の抑制が不十分である。これは、PEs分散液L4、L11中のArPSS1の含有量がいずれも不十分であることから、PEs分散液添加後の凝集過程でPEs粒子単独での凝集が生じるため、あるいはPEs粒子のビニル系樹脂との凝集過程で急凝集を生じてしまうため、と考えられる。
また、トナー13は、微粉の発生の抑制が不十分である。これは、PEs粒子と成長完粒子との凝集を促進するArPSS1の含有量が多いことから、PEs分散液添加時にPes粒子同士の凝集も同時に生じてしまうため、と考えられる。なお、「成長完粒子」とは、トナー母体粒子としての成長が完了した粒子を意味し、例えば、トナー構造をコア/シェル構造やドメイン−マトリクス構造(表層にドメインを配置する)などの構造制御を水系造粒法で行う際のコア粒子やマトリクス粒子である。
また、トナー14では、微粉の発生の抑制が不十分である。これは、PEs分散液L13のpHは低すぎることから、PEs分散液添加時にPes粒子間のカルボキシル基の解離が不十分で不安定となり、Pes粒子同士の凝集が生じてしまうため、と考えられる。
また、トナー15は、粗粉の発生の抑制が不十分である。これは、PEs分散液L14のpHが高すぎることから、PEs分散液添加時にPes粒子間のカルボキシル基の解離量が過剰となって凝集性が高まり(アルカリ増粘)、Pes粒子と成長完粒子とのの凝集が複数個同時に生じてしまう(すなわち急凝集を生じてしまう)ため、と考えられる。
また、トナー16は、粒度分布の鋭さが不十分であり、微粉の発生抑制が不十分である。これは、PEs分散液中のアニオン界面活性剤AlPSS3が芳香族環基(フェニレン基)を有していないことから、ポリエステル粒子同士の凝集が生じるのと同時に、上記ポリエステル粒子とビニル系樹脂粒子とが凝集するために、ポリエステル粒子同士の凝集体由来の微粉が生じやすくなるとともに上記ポリエステル凝集粒子とビニル系樹脂粒子とが凝集するため、と考えられる。
また、トナー17、18は、いずれも、粒度分布の鋭さが不十分であり、また微粉の発生の抑制が不十分である。さらに、トナー19は、微粉の発生の抑制が不十分である。これは、PEs分散液中のアニオン界面活性剤AlSS3が、一価のスルホン酸型のアニオン界面活性剤であり、かつ芳香族環基を有していないことから、ポリエステル粒子同士の凝集が、ポリエステル粒子とビニル系樹脂粒子との凝集よりも優先して生じるため、と考えられる。
また、トナー20は、微粉の発生の抑制が不十分である。これは、PEs分散液中のアニオン界面活性剤ArSS4が、芳香族環基を有するものの、一価のスルホン酸型のアニオン界面活性剤であることから、ポリエステル粒子同士の凝集が、ポリエステル粒子とビニル系樹脂粒子との凝集よりも優先して生じる、と考えられる。