以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100の構成の一例を示す構成図である。
燃料電池システム100は、燃料電池の発電に必要となる燃料を含むアノードガス、及び酸化剤を含むカソードガスをそれぞれ燃料電池スタック1に供給し、電気負荷に応じて燃料電池を発電させる電源システムを構成する。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、負荷装置5と、インピーダンス測定装置6と、コントローラ200とを含む。
燃料電池スタック1は、上述のとおり、複数の燃料電池が積層された積層電池である。燃料電池スタック1は、負荷装置5に接続される電源であり、負荷装置5に電力を供給する。燃料電池スタック1は、例えば数百V(ボルト)の直流の電圧を生じる。
カソードガス給排装置2は、カソードガスに含まれる酸化剤が流れる酸化剤系(空気系)を構成する。カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給すると共に、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを大気に排出する装置である。
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、コンプレッサ22と、流量センサ23と、カソード圧力センサ24と、カソードガス排出通路25と、カソード調圧弁26とを含む。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するための通路である。カソードガス供給通路21の一端は開口しており、他端は、燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
コンプレッサ22は、燃料電池の電解質膜に酸化剤を供給する酸化剤供給手段を構成すると共に、酸化剤供給手段により燃料電池の電解質膜で発生した水を排出する排水手段を構成する。コンプレッサ22は、酸化剤を含む空気を燃料電池に供給するアクチュエータである。コンプレッサ22は、大気から燃料電池までの経路であるカソードガス供給通路21の途中に設けられる。
コンプレッサ22は、カソードガス供給通路21の開口端から酸素を含有する空気を取り込み、その空気をカソードガスとして燃料電池スタック1に供給する。コンプレッサ22の回転速度はコントローラ200によって制御される。コンプレッサ22の回転速度を変化させることにより、カソードガス流路113を流れるカソードガスの流量を増減する。
流量センサ23は、コンプレッサ22と燃料電池スタック1との間のカソードガス供給通路21に設けられる。流量センサ23は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量のことを単に「カソードガス流量」という。流量センサ23は、カソードガス流量を検出した信号をコントローラ200に出力する。
カソード圧力センサ24は、コンプレッサ22と燃料電池スタック1との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ24は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力のことを単に「カソードガス圧力」という。カソード圧力センサ24は、カソードガス圧力を検出した信号をコントローラ200に出力する。
カソードガス排出通路25は、燃料電池スタック1からカソードオフガスを排出するための通路である。カソードガス排出通路25の一端は、燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端は開口している。
カソード調圧弁26は、酸化剤系の圧力を調整する酸化剤系圧力調整手段を構成する。カソード調圧弁26は、カソードガス排出通路25に設けられる。カソード調圧弁26としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。カソード調圧弁26はコントローラ200によって開閉制御される。この開閉制御によってカソードガス圧力が所望の圧力に調節される。カソード調圧弁26の開度が大きくなるほど、カソード調圧弁26が開き、カソード調圧弁26の開度が小さくなるほど、カソード調圧弁26が閉じる。
アノードガス給排装置3は、酸化剤系の流れと対向する方向にアノードガスが流れ、燃料電池スタック1内の電解質膜で発生した水を留保する燃料系(水素系)を構成する。アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給すると共に、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを燃料電池スタック1に導入して循環させる装置である。
アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、エゼクタ34と、アノードガス循環通路35と、アノード循環ポンプ36と、アノード圧力センサ37と、パージ弁38とを含む。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給される燃料である水素を高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31に貯蔵された燃料をアノードガスとして燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32の一端は、高圧タンク31に接続され、他端は、燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、燃料系を構成するアノードガス供給通路32の圧力を調整する燃料系圧力調整手段を構成する。アノード調圧弁33は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガス中の燃料の圧力を調整する。アノード調圧弁33は、高圧タンク31とエゼクタ34との間のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33の開度を変化させることにより、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力は上昇又は降下する。
アノード調圧弁33としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。アノード調圧弁33は、コントローラ200によって開閉制御される。この開閉制御によって、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力が調節される。
エゼクタ34は、アノード調圧弁33と燃料電池スタック1との間のアノードガス供給通路32に設けられる。エゼクタ34は、アノードガス供給通路32においてアノードガス循環通路35が合流する部分に設けられる機械式ポンプである。
アノードガス循環通路35は、燃料電池スタック1からのアノードオフガスをアノードガス供給通路32に導入して燃料電池スタック1に循環させる通路である。アノードガス循環通路35の一端は、燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端は、エゼクタ34の吸引口に接続される。
アノード循環ポンプ36は、アノードガスに含まれる燃料を燃料系のアノードガ循環通路35で循環させる燃料循環手段を構成する。アノード循環ポンプ36は、燃料を含むアノードガスの循環流量を調整するアクチュエータである。アノード循環ポンプ36の回転速度を変化させることにより、アノードガス循環通路35を流れるアノードガスの循環流量は増加又は減少する。
アノード循環ポンプ36は、アノードガス循環通路35に設けられる。アノード循環ポンプ36は、エゼクタ34を介してアノードオフガスを燃料電池スタック1に循環させる。アノード循環ポンプ36の回転速度はコントローラ200によって制御される。これにより、アノードガス循環通路35を循環するアノードガスの流量が調整される。以下では、アノードガス循環通路35を循環するアノードガスの流量のことを単に「アノードガス循環流量」という。
アノード圧力センサ37は、エゼクタ34と燃料電池スタック1との間のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ37は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力のことを単に「アノードガス圧力」という。アノード圧力センサ37は、アノードガス圧力を検出した信号をコントローラ200に出力する。
パージ弁38は、アノードガス循環通路35から分岐した不図示のアノードガス排出通路に設けられる。パージ弁38は、アノードオフガスに含まれる不純物を外部に排出する。不純物とは、燃料電池のカソード極から電解質膜を介してアノード極に透過してきた空気中の窒素ガスや、発電に伴う生成水などのことである。パージ弁38の開度はコントローラ200によって制御される。
なお、アノードガス排出通路は、図示していないが、カソード調圧弁26よりも下流側のカソードガス排出通路25に合流する。これにより、パージ弁38から排出されるアノードオフガスは、カソードガス排出通路25のカソードオフガスにより希釈されるので、希釈後のカソードオフガス中の水素濃度は規定値以下に維持される。
スタック冷却装置4は、燃料電池10の温度を冷却する装置である。スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、冷却水ポンプ42と、ラジエータ43と、バイパス通路44と、三方弁45と、入口水温センサ46と、出口水温センサ47とを含む。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1に冷却水を循環させる通路である。冷却水循環通路41の一端は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に接続され、他端は、燃料電池スタック1の冷却水出口孔に接続される。
冷却水ポンプ42は、冷却水循環通路41に設けられる。冷却水ポンプ42は、ラジエータ43を介して燃料電池スタック1に冷却水を供給する。冷却水ポンプ42の回転速度は、コントローラ200によって制御される。
ラジエータ43は、冷却水ポンプ42よりも下流の冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ43は、燃料電池スタック1の内部で温められた冷却水をファンによって冷却する。
バイパス通路44は、ラジエータ43をバイパスする通路であって、燃料電池スタック1から排出される冷却水を燃料電池スタック1に戻して循環させる通路である。バイパス通路44の一端は、冷却水ポンプ42とラジエータ43との間の冷却水循環通路41に接続され、他端は、三方弁45の一端に接続される。
三方弁45は、燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度を調整する。三方弁45は、例えばサーモスタットにより実現される。三方弁45は、ラジエータ43と燃料電池スタック1の冷却水入口孔との間の冷却水循環通路41においてバイパス通路44が合流する部分に設けられる。
入口水温センサ46及び出口水温センサ47は、冷却水の温度を検出する。入口水温センサ46及び出口水温センサ47によって検出される冷却水の温度は、燃料電池スタック1の温度、又は燃料電池スタック1内のカソードガス及びアノードガスの温度として用いられる。以下では、燃料電池スタック1の温度のことを「スタック温度」ともいう。
入口水温センサ46は、燃料電池スタック1に形成された冷却水入口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。入口水温センサ46は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に流入する冷却水の温度を検出する。以下では、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に流入する冷却水の温度のことを「スタック入口水温」という。入口水温センサ46は、スタック入口水温を検出した信号をコントローラ200に出力する。
出口水温センサ47は、燃料電池スタック1に形成された冷却水出口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。出口水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度を検出する。以下では、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度のことを「スタック出口水温」という。出口水温センサ47は、スタック出口水温を検出した信号をコントローラ200に出力する。
負荷装置5は、燃料電池スタック1からの発電電力を受けて駆動する。負荷装置5としては、例えば、車両を駆動する電動モータや、電動モータを制御する制御ユニット、燃料電池スタック1の発電を補助する補機などが含まれる。燃料電池スタック1の補機としては、例えば、コンプレッサ22や、アノード循環ポンプ36、冷却水ポンプ42などが挙げられる。
なお、負荷装置5を制御する制御ユニットは、燃料電池スタック1に対して要求する要求電力をコントローラ200に出力する。例えば、燃料電池システム100を搭載した車両では、アクセルペダルの踏込み量が大きくなるほど、負荷装置5の要求電力は大きくなる。
負荷装置5と燃料電池スタック1との間には、電流センサ51と電圧センサ52とが配置される。
電流センサ51は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負荷装置5の正極端子との間の電源線に接続される。電流センサ51は、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流を検出する。以下では、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流のことを「スタック出力電流」という。電流センサ51は、スタック出力電流を検出した信号をコントローラ200に出力する。
電圧センサ52は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負極端子1nとの間に接続される。電圧センサ52は、正極端子1pと負極端子1nとの間の電圧である端子間電圧を検出する。以下では、燃料電池スタック1の端子間電圧のことを「スタック出力電圧」という。電圧センサ52は、スタック出力電圧を検出した信号をコントローラ200に出力する。
インピーダンス測定装置6は、電解質膜111の湿潤状態を検出する装置である。インピーダンス測定装置6は、電解質膜111の湿潤状態と相関のある燃料電池スタック1の内部インピーダンスを測定する。
一般に、電解質膜の含水量(水分)が少なくなるほど、すなわち電解質膜が乾き気味になるほど、内部インピーダンスの電気抵抗成分は大きくなる。一方、電解質膜の含水量が多くなるほど、すなわち電解質膜が濡れ気味になるほど、内部インピーダンスの電気抵抗成分は小さくなる。このため、電解質膜111の湿潤状態を示すパラメータとして、本実施形態では燃料電池スタック1の内部インピーダンスが用いられる。
燃料電池スタック1には、正極端子1pと直列に接続された正極タブと、負極端子1nと直列に接続された負極タブとが設けられており、正極タブ及び負極タブの各々にインピーダンス測定装置6が接続される。インピーダンス測定装置6は、電解質膜111の電気抵抗を検出するのに適した周波数を有する交流電流を正極端子1pに供給する。電解質膜の電気抵抗を検出するのに適した周波数のことを以下では「電解質膜応答周波数」という。インピーダンス測定装置6は、電解質膜応答周波数の交流電流によって正極端子1pと負極端子1nとの間に生じる交流電圧を検出し、検出した交流電圧の振幅を、正極端子1pに供給した交流電流の振幅で除算することにより、内部インピーダンスを算出する。
本実施形態では、燃料電池スタック1に積層された燃料電池の中途に位置する燃料電池に中途タブが設けられ、その中途タブはインピーダンス測定装置6において接地される。インピーダンス測定装置6は、電解質膜応答周波数の交流電流を正極端子1p及び負極端子1nの双方に供給する。インピーダンス測定装置6は、正極端子1pと中途タブとの間の交流電圧の振幅を、正極端子1pに供給した交流電流の振幅で除算して正極側の内部インピーダンスを算出する。インピーダンス測定装置6は、負極端子1nと中途タブとの間の交流電圧の振幅を、負極端子1nに供給した交流電流の振幅で除算して負極側の内部インピーダンスを算出する。
以下では、電解質膜応答周波数によって測定された内部インピーダンスのことを計測HFR(High Frequency Resistance;高周波数抵抗)という。インピーダンス測定装置6は、算出した計測HFRをコントローラ200に出力する。
コントローラ200は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。
コントローラ200には、流量センサ23、カソード圧力センサ24、アノード圧力センサ37、入口水温センサ46、出口水温センサ47、電流センサ51、電圧センサ52及びインピーダンス測定装置6の各出力信号と負荷装置5の要求電力とが入力される。これらの入力信号は、燃料電池システム100の運転状態に関するパラメータとして用いられる。
コントローラ200は、燃料電池システム100における燃料電池スタック1の湿潤状態を制御する湿潤制御装置を構成する。コントローラ200は、燃料電池スタック1の発電状態に応じて、少なくともアノード調圧弁33及びアノード循環ポンプ36を操作して燃料電池スタック1の電解質膜の湿潤状態を制御する制御手段を構成する。また、コントローラ200は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、コンプレッサ22及びカソード調圧弁26を操作して、燃料電池スタック1の湿潤状態を制御する。さらにコントローラ200は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、冷却水ポンプ42及び三方弁45を操作して、燃料電池スタック1の湿潤状態を制御する。
例えば、コントローラ200は、負荷装置5の要求電力に基づいて、カソードガス流量及び圧力の目標値、並びにアノードガスの流量及び圧力の目標値を演算する。コントローラ200は、カソードガスの流量及び圧力の目標値に基づいて、コンプレッサ22の回転速度とカソード調圧弁26の開度とを制御し、アノードガスの流量及び圧力の目標値に基づいて、アノード循環ポンプ36の回転速度とアノード調圧弁33の開度とを制御する。
図2及び図3は、燃料電池スタック1に形成される燃料電池10の構成の一例を示す図である。図2は、燃料電池10の斜視図であり、図3は、図2に示した燃料電池10のII−II断面図である。
燃料電池10は、燃料極としてのアノード電極と、酸化剤極としてのカソード電極と、これら電極に挟まれるように配置される電解質膜とから構成されている。燃料電池のアノード電極には、燃料である水素を含有するアノードガスが供給される。燃料電池のカソード電極には、酸化剤である酸素を含有するカソードガスが供給される。
燃料電池10は、アノードガス中の水素及びカソードガス中の酸素を用いて発電する電池である。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は、以下の通りである。
アノード電極: 2H2 → 4H++4e- ・・・(A)
カソード電極: 4H++4e-+O2 → 2H2O ・・・(B)
これら(A)及び(B)の電極反応によって、燃料電池10は1V(ボルト)程度の起電力を生じる。
図2及び図3に示すように、燃料電池10は、膜電極接合体(MEA)11と、MEA11を挟むように配置されるアノードセパレータ12及びカソードセパレータ13と、を備えている。
MEA11は、電解質膜111と、アノード電極112と、カソード電極113とから構成されている。MEA11は、電解質膜111の一方の面側にアノード電極112を有しており、他方の面側にカソード電極113を有している。
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、適度な湿潤度で良好な電気伝導性を示す。ここにいう電解質膜111の湿潤度とは、電解質膜111に含まれる水分の量である含水量に相当する。電解質膜111の湿潤度が高くなるほど、電解質膜111の水分が増加して湿った状態となり、電解質膜111の湿潤度が低くなるほど、電解質膜111の水分が減少して乾いた状態となる。
アノード電極112は、触媒層112Aとガス拡散層112Bとを備えている。触媒層112Aは、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子により形成された部材であって、電解質膜111と接するように設けられている。ガス拡散層112Bは、触媒層112Aの外側に配置されている。ガス拡散層112Bは、ガス拡散性及び導電性を有するカーボンクロスで形成された部材であって、触媒層112A及びアノードセパレータ12と接するように設けられている。
カソード電極113についても、アノード電極112と同様に、触媒層113Aとガス拡散層113Bとを備えている。触媒層113Aは、電解質膜111とガス拡散層113Bとの間に配置され、ガス拡散層113Bは、触媒層113Aとカソードセパレータ13との間に配置されている。
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112Bの外側に配置されている。アノードセパレータ12は、アノード電極112にアノードガスを供給するための複数のアノードガス流路121を備える。アノードガス流路121は、溝状通路として形成されている。すなわち、アノードガス流路121は、電解質膜111の他方の面に対して燃料を通す燃料流路を構成する。
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113Bの外側に配置されている。カソードセパレータ13は、カソード電極113にカソードガスを供給するための複数のカソードガス流路131を備えている。カソードガス流路131は、溝状通路として形成される。すなわち、カソードガス流路131は、電解質膜111の一方の面に対して酸化剤を通す酸化剤流路を構成する。
また、カソードセパレータ13は、燃料電池10の冷却水を供給するための複数の冷却水流路141を備えている。冷却水流路141は、溝状に形成されている。
図2に示すように、カソードセパレータ13は、冷却水流路141を流れる冷却水の流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに同じ向きとなるように構成されている。なお、これらの流れ方向が互いに逆向きとなるように構成してもよく、所定の角度をもつように構成してもよい。
また、アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、アノードガス流路121を流れるアノードガスの流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに逆向きとなるように構成されている。また、これらの流れ方向が所定の角度をもつように構成してもよい。
このような燃料電池10においては、電解質膜111の含水量を示す湿潤度が高くなり過ぎたり低くなり過ぎたりすると、燃料電池スタック1の発電性能が低下する。燃料電池スタック1を効率的に発電させるには、電解質膜111を適度な湿潤度に維持することが重要である。そのため、コントローラ200は、負荷装置5の要求電力を確保できる範囲内で、燃料電池スタック1の湿潤状態が発電に適した状態に維持されるように、燃料電池スタック1の湿潤状態を制御する。
以下では、燃料電池スタック1の湿潤状態が発電に適した状態に維持されるように、アノードガスの流量及び圧力やカソードガスの流量及び圧力などの状態を制御することを「湿潤制御」という。そして、電解質膜111の余剰な水分を減らすために、燃料電池スタック1の湿潤状態を乾燥(ドライ)側に遷移させる湿潤制御のことを「ドライ操作」という。また、電解質膜111の水分を増やすために、燃料電池スタック1の湿潤状態を湿潤(ウェット)側に遷移させる湿潤制御のことを「ウェット操作」という。
燃料電池スタック1の湿潤制御において、コントローラ200は、主に、カソードガス流量、カソードガス圧力、アノードガス流量、及びアノードガス圧力の4つのパラメータを制御する。
コントローラ200によるカソードガス流量制御は、主にコンプレッサ22を用いて実行され、カソードガス圧力制御は、主にカソード調圧弁26を用いて実行される。
ドライ操作では、コントローラ200は、燃料電池スタック1から排出される水分が増加するように、カソードガス流量を大きくしたり、カソードガス圧力を低くしたりする。反対に、ウェット操作では、コントローラ200は、カソードガス流量を小さくしたり、カソードガス圧力を高くしたりする。
コントローラ200によるアノードガス流量制御は、主にアノード循環ポンプ36を用いて実行される。
図2に示したアノードガス流路121の上流側を流れるアノードガスは、カソードガス流路131の下流側から電解質膜111を介してリーク(透過)してきた水蒸気によって加湿される。このため、アノードガス循環流量が増加すると、アノードガス流路121の上流側で加湿されたアノードガスが下流側の電解質膜111まで行き渡りやすくなると共に、アノードガス流路121及びアノードガス循環通路35を循環するアノードガスに混入する水蒸気の総量が増加する。その結果、電解質膜111の水分が増加しやすくなる。
それゆえ、ウェット操作では、コントローラ200は、アノードガス流路121の上流側で加湿されたアノードガスが燃料電池スタック1の全体に行き渡るように、アノードガス循環流量を増加させる。反対に、ドライ操作では、コントローラ200は、アノードガス循環流量を減少させる。以下では、アノードガス循環流量を減少させる湿潤制御のことを「減量制御」という。
コントローラ200によるアノードガス圧力制御は、主にアノード調圧弁33を用いて実行される。
ドライ操作では、コントローラ200は、カソードガス流路131からアノードガス流路121へリークしてくる水蒸気のリーク量が減少するように、アノードガス圧力を上昇させ、ウェット操作では、反対にアノードガス圧力を低下させる。以下では、アノードガス圧力を上昇させる湿潤制御のことを「昇圧制御」という。
このような湿潤制御において、コントローラ200は、ドライ操作を実施する場合には、アノードガス循環流量を減少させる減量制御と、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御とを実行する。しかしながら、ドライ操作において、アノードガスの減量制御の実行よりも先にアノードガスの昇圧制御を実行すると、電解質膜111の水分が減少しない、又は殆ど減少しないことがあるということを発明者らは知見した。
図4は、ドライ操作におけるアノードガス流量制御とアノードガス圧力制御との関係を説明するための図である。図4では、縦軸が燃料電池スタック1の湿潤状態を示し、横軸がアノードガス圧力の変化量を示す。ここでは、「大」、「中」及び「小」のアノードガス循環流量ごとに、アノードガス圧力を高くしたときの燃料電池スタック1の湿潤状態が示されている。
図4に示すように、ドライ操作1においては、アノードガス圧力が低い状態で、アノードガス循環流量を「大」から「中」に減らしたときには、燃料電池スタック1の湿潤状態がドライ側に遷移する。すなわち、アノードガスの減量制御によってドライ操作が効率よく行われる。
一方、ドライ操作2においては、アノードガス循環流量が「大」のときにアノードガス圧力を高くしても、燃料電池スタック1の湿潤状態は変化しない。すなわち、アノードガス循環流量が大きい状態のままアノードガスの昇圧制御を実行しても、電解質膜111の水分は減少しない。このように、アノードガスの減量制御の実行よりも先にアノードガスの昇圧制御を実行してしまうと、ドライ操作の完了までに要する時間が長くなってしまうことがある。
これに対して、図4に示したドライ操作1のように、アノードガスの昇圧制御よりも優先してアノードガスの減量制御を実行することにより、ドライ操作が効率よく行われる。
そこで、本発明の実施形態では、コントローラ200は、少なくともドライ操作を実施する場合には、アノードガス圧力制御よりも優先してアノードガス流量制御を実行する。すなわち、コントローラ200は、少なくともドライ操作時には、アノード循環ポンプ36の動作をアノード調圧弁33の動作よりも優先して制御する。
図5は、本実施形態におけるコントローラ200の機能構成の一例を示すブロック図である。
コントローラ200は、膜湿潤状態取得部210と、スタック目標電流演算部220と、アノードガス循環流量推定部230と、カソード系指令部240と、アノード系指令部250と、湿潤制御部300とを含む。
膜湿潤状態取得部210は、燃料電池スタック1における電解質膜111の湿潤状態を示す信号を取得する取得手段を構成する。本実施形態では、膜湿潤状態取得部210は、電解質膜111の湿潤度を示す湿潤状態情報として、インピーダンス測定装置6から出力される計測HFRを取得する。
膜湿潤状態取得部210は、インピーダンス測定装置6からの計測HFRに基づいて、電解質膜111の湿潤状態を発電に適した状態に維持するための目標水収支を演算する。目標水収支は、電解質膜111の目標とする湿潤状態からの水分の過不足を表わすパラメータであり、電解質膜111の湿潤度と相関のあるパラメータである。
例えば、膜湿潤状態取得部210は、計測HFRが目標とする値よりも小さい場合には、電解質膜111の水分が多いと判定し、目標水収支としてマイナス(負)の値を算出する。電解質膜111の水分が多いと判定された場合には、湿潤制御部300により電解質膜111の余剰の水分を減らすためのドライ操作が実施される。
一方、計測HFRが目標とする値よりも大きい場合には、膜湿潤状態取得部210は、電解質膜111の水分が少ないと判定し、目標水収支としてプラス(正)の値を算出する。電解質膜111の水分が少ないと判定された場合には、湿潤制御部300により電解質膜111の水分を増やすためのウェット操作が実施される。
膜湿潤状態取得部210は、算出した目標水収支を湿潤制御部300に出力する。
なお、膜湿潤状態取得部210は、計測HFRの代わりに、燃料電池スタック1の温度を用いて湿潤状態情報を生成するものであってもよい。この場合には、膜湿潤状態取得部210は、スタック入口水温とスタック出口水温の平均値を燃料電池スタック1の温度として算出する。そして膜湿潤状態取得部210は、予め定められた湿潤推定マップを参照し、算出した燃料電池スタック1の温度に対応付けられた湿潤状態情報を特定し、特定した湿潤状態情報に基づいて目標水収支を算出する。
あるいは、膜湿潤状態取得部210は、負荷装置5の要求電力に基づいて湿潤状態情報を生成するものであってもよい。この場合には、膜湿潤状態取得部210は、負荷装置5の制御ユニットから要求電力を取得すると、予め定められた湿潤推定マップを参照し、取得した要求電力に対応付けられた湿潤状態情報を生成する。例えば、膜湿潤状態取得部210は、負荷装置5の要求電力が大きくなるほど、発電に伴う生成水の発生量が増加するため、湿潤状態情報に示される電解質膜111の湿潤度を大きくする。
スタック目標電流演算部220は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1から出力されるべき電流の目標値を示すスタック目標電流を演算する。
例えば、燃料電池スタック1のIV(電流−電圧)特性がスタック目標電流演算部220に予め記録される。スタック目標電流演算部220は、負荷装置5から要求電力を取得すると、予め記憶されたIV特性を参照し、取得した要求電力に関係付けられた電流値をスタック目標電流として算出する。なお、燃料電池スタック1のIV特性は、燃料電池スタック1の出力電流を変化させたときのスタック出力電流とスタック出力電圧との関係から推定したものであってもよい。
スタック目標電流演算部220は、算出したスタック目標電流を湿潤制御部300に出力する。
アノードガス循環流量推定部230は、アノードガス給排装置3の運転状態に基づいて、燃料電池スタック1を循環するアノードガスの循環流量を推定する。本実施形態では、アノード循環ポンプ36の回転速度とアノードガス循環流量との関係を示す流量推定マップがアノードガス循環流量推定部230に予め記録される。流量推定マップについては図6を参照して後述する。
アノードガス循環流量推定部230は、例えばアノード循環ポンプ36に設けられた回転速度センサから、アノード循環ポンプ36の回転速度を取得する。アノードガス循環流量推定部230は、アノード循環ポンプ36の回転速度を取得すると、流量推定マップを参照し、取得した回転速度に関係付けられたアノードガス循環流量Qaを算出する。さらに、アノードガス循環流量推定部230は、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力Pを取得し、入口水温センサ46からスタック入口水温Tinを取得する。
そして、アノードガス循環流量推定部230は、次式(1)のとおり、アノードガス循環流量Qaとアノードガス圧力Pa_sensとスタック入口水温Tinとに基づいて、標準状態でのアノードガス循環流量Qa_nlを算出する。アノードガス循環流量推定部230は、算出したアノードガス循環流量Qa_nlをアノードガス流量の計測値として湿潤制御部300に出力する。
なお、本実施形態ではアノードガス循環流量を推定したが、アノードガス循環通路35にアノードガス循環流量を検出する流量センサを設け、その流量センサの検出信号を用いてもよい。
湿潤制御部300は、湿潤状態取得部210から出力される信号に応じて、少なくともアノード調圧弁33とアノード循環ポンプ36とを操作して燃料電池10の湿潤状態を制御する制御手段を構成する。
湿潤制御部300は、目標水収支と、スタック目標電流と、カソードガスの流量及び圧力と、アノードガスの流量及び圧力とに基づいて、カソードガスの流量及び圧力の各目標値と、アノードガスの流量及び圧力の各目標値とを演算する。
本実施形態では、湿潤制御部300は、ドライ操作を実施する場合には、カソードガスの流量制御及び圧力制御によるドライ操作よりも優先して、アノードガスの流量制御及び圧力制御によるドライ操作を実施する。アノードガスの流量制御及び圧力制御によるドライ操作を実施する場合には、湿潤制御部300は、アノードガス循環流量を優先して減らし、目標水収支の大きさに応じてアノードガス圧力を上げる。
すなわち、湿潤制御部300は、膜湿潤状態取得部210からの信号に基づいて電解質膜111の水分を減らす必要があると判断した場合には、アノードガス循環流量を減少させる。これと共に湿潤制御部300は、膜湿潤状態取得部210からの出力信号に応じて、燃料電池スタック1にのアノードガス圧力を上昇させる。
湿潤制御部300は、アノードガス循環流量の目標値を示すアノード目標流量と、アノードガス圧力の目標値を示すアノード目標圧力とをアノード系指令部250に出力する。そして、湿潤制御部300は、カソードガス流量の目標値を示すカソード目標流量と、カソードガス圧力の目標値を示すカソード目標圧力とをカソード系指令部240に出力する。
カソード系指令部240は、カソード目標流量、及びカソード目標圧力に基づいて、コンプレッサ22の回転速度、及びカソード調圧弁26の開度のうちの少なくとも一方を制御する。
本実施形態では、カソード系指令部240は、カソードガス流量がカソード目標流量に収束するように、コンプレッサ22の回転速度を制御する。また、カソード系指令部240は、カソードガス圧力がカソード目標圧力に収束するように、カソード調圧弁26の開度を制御する。
アノード系指令部250は、アノード目標流量、及びアノード目標圧力に基づいて、アノード循環ポンプ36の回転速度、及びアノード調圧弁33の開度のうちの少なくとも一方を制御する。
本実施形態では、アノード系指令部250は、アノードガス循環流量がアノード目標流量に収束するように、アノード循環ポンプ36の回転速度を制御する。また、アノード系指令部250は、アノードガス圧力がアノード目標圧力に収束するように、アノード調圧弁33の開度を制御する。
図6は、アノードガス循環流量推定部230に設定される流量推定マップの一例を示す観念図である。ここでは、横軸がアノード循環ポンプ36の回転速度を示し、縦軸がアノードガス循環流量を示す。図6に示すように、アノード循環ポンプ36の回転速度が高くなるほど、アノードガス循環流量が大きくなる。
図7は、膜湿潤状態取得部210の詳細構成の一例を示すブロック図である。膜湿潤状態取得部210は、目標HFR演算部211と目標水収支演算部212とを含む。
目標HFR演算部211は、燃料電池スタック1の運転状態に応じて、電解質膜111の湿潤状態を目標とする状態に操作するための目標HFRを演算する。
本実施形態では、スタック出力電流と目標HFRとの関係を示す膜湿潤制御マップが目標HFR演算部211に予め記録される。目標HFR演算部211は、電流センサ51からスタック出力電流Isを取得すると、膜湿潤制御マップを参照し、取得したスタック出力電流Isに関係付けられた目標HFRを算出する。膜湿潤制御マップについては図8を参照して後述する。目標HFR演算部211は、算出した目標HFRを目標水収支演算部212に出力する。
なお、目標HFR演算部211は、予め定められた演算式を用いてスタック出力電流Isに基づき目標HFRを演算するものであってもよい。また、目標HFR演算部211は、スタック出力電流Isの代わりに負荷装置5の要求電力を用いて目標HFRを算出するものであってもよい。
目標水収支演算部212は、電解質膜111の湿潤状態が目標とする状態になるように、電解質膜111の水分を増減させるための目標水収支Qw_tを演算する。
本実施形態では、目標水収支演算部212は、目標HFR演算部211から目標HFRを取得し、インピーダンス測定装置6から計測HFRを取得する。そして目標水収支演算部212は、計測HFRと目標HFRとの偏差がゼロに収束するように目標水収支Qw_tを演算する。
例えば、目標水収支演算部212は、計測HFRから目標HFRを減算して計測HFRと目標HFRとの偏差を求め、その偏差に基づいてPI制御を実行して目標水収支Qw_tを算出する。目標水収支演算部212は、算出した目標水収支Qw_tを湿潤制御部300に出力する。
図8は、目標HFR演算部211に設定される膜湿潤制御マップの一例を示す観念図である。ここでは、横軸がスタック出力電流を示し、縦軸が目標HFRを示す。目標HFRが大きくなるほど、電解質膜111が乾き易くなり、また目標HFRが小さくなるほど、電解質膜111が湿り易くなる。
膜湿潤制御マップの目標HFRは、燃料電池スタック1の発電に伴って生成される液水が、カソードガス流路131に滞留してカソードガスの流れが阻害されないように設定される。
膜湿潤制御マップでは、スタック出力電流が所定の電流値I1よりも大きい大電流範囲内にあるときには、カソードガス流量が十分に大きくなるため、燃料電池スタック1内に滞留する液水の影響が小さい。そのため、膜湿潤制御マップでは、大電流範囲内の目標HFRは、小電流範囲内の目標HFRよりも小さく、且つ、一定の値に設定される。
一方、スタック出力電流がゼロから電流値I1までの小電流範囲内にあるときには、スタック出力電流が小さくなるほど、目標HFRが大きくなる。このように設定される理由は、カソードガス流量が少なくなるほど、カソードガス流路131に滞留する液水によってカソードガスの流れが阻害され易くなるからである。そのため、小電流範囲内の目標HFRは、大電流範囲内の目標HFRに比べて高く設定される。
図9は、本実施形態におけるコントローラ200の湿潤制御方法に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。この湿潤制御方法の処理手順は、所定の制御周期、例えば数msec(ミリセカンド)で繰り返し実行される。
ステップS1においてコントローラ200は、燃料電池スタック1の運転状態を検出する。本実施形態では、コントローラ200の指示に従って、図1に示したインピーダンス測定装置6が燃料電池スタック1のHFRを検出し、流量センサ23がカソードガス流量を検出し、カソード圧力センサ24がカソードガス圧力を検出する。
ステップS2においてコントローラ200のスタック目標電流演算部220は、負荷装置5から要求電力を取得し、その負荷装置5の要求電力に基づいて、スタック目標電流を演算する。
ステップS3においてコントローラ200は、流量センサ23からカソードガス流量を取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力を取得し、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力を取得する。さらにコントローラ200のアノードガス循環流量推定部230は、式(1)のように、アノード循環ポンプ36の回転速度に基づいて、アノードガス循環流量を推定する。
ステップS4においてコントローラ200の膜湿潤状態取得部210は、インピーダンス測定装置6から、電解質膜111の湿潤状態と相関のある計測HFRを取得する。
ステップS5においてコントローラ200の目標HFR演算部211は、燃料電池スタック1の発電性能を維持するための目標HFRを演算する。具体的には、目標HFR演算部211は、電流センサ51からスタック出力電流を取得すると、図8に示した膜湿潤制御マップを用いて、電流センサ51からのスタック出力電流に関係付けられた目標HFRを算出する。
ステップS6においてコントローラ200の目標水収支演算部212は、計測HFRが目標HFRに収束するように、電解質膜111の水分の過不足を補うための目標水収支を演算する。
ステップS7においてコントローラ200の湿潤制御部300は、電解質膜111の湿潤状態に基づいて、ドライ操作を実施する必要があるか否かを判断する。本実施形態では、湿潤制御部300は、計測HFRが所定の下限値に達したか否かを判断し、計測HFRが下限値に達した場合にドライ操作を実施する必要があると判定する。
ステップS8において湿潤制御部300は、ドライ操作を実施する場合には、アノード調圧弁33及びアノード循環ポンプ36のうちアノード循環ポンプ36の動作を優先して制御する。すなわち、湿潤制御部300は、ドライ操作時にアノード調圧弁33の負荷に対するアノード循環ポンプ36の負荷の割合を示す負荷割合を高くする。これにより、アノード循環ポンプ36の回転速度が優先して下げられるので、アノードガス循環流量が減少する。これにより、図4に示したように、アノードガス圧力を上げることにより電解質膜111の湿潤状態がドライ側に遷移する状態を確保することができる。
ステップS9において湿潤制御部300は、ステップS6で算出された目標水収支を達成するため、アノード循環ポンプ36の負荷制御によるドライ操作を補完するようにアノード調圧弁33の動作を制御する。これにより、アノード調圧弁33の開度が大きくなるので、燃料電池スタック1のアノードガス圧力が上昇する。したがって、図4に示したように、電解質膜111の湿潤状態がさらにドライ側に遷移する。この後、コンプレッサ22及びカソード調圧弁26の動作が制御される。
ステップS10において湿潤制御部300は、ドライ操作を実施しない場合には、通常の湿潤制御処理を実行する。例えば、湿潤制御部300は、目標水収支に基づいて、コンプレッサ22、カソード調圧弁26、アノード調圧弁33及びアノード循環ポンプ36の優先順位を定めずに各アクチュエータを制御する。なお、湿潤制御部300は、燃料電池スタック1の湿潤状態によってはステップS8及びS9の一連の処理を実行するものであってもよい。
ステップS9及びステップS10の処理が終了すると、コントローラ200の湿潤制御方法に関する一連の処理手順が終了する。
図10は、本実施形態の湿潤制御部300により実施されるドライ操作の一例を示すタイムチャートである。
図10(A)は、燃料電池スタック1における水収支の変化を示す図である。燃料電池スタック1の水収支とは、燃料電池スタック1の発電に伴って生成される生成水量と、燃料電池スタック1から燃料電池システム100の外部に排出される排水量との収支のことである。図10(B)は、アノードガス循環流量の変化を示す図である。図10(C)は、燃料電池スタック1のアノードガス圧力の変化を示す図である。
図10(D)は、アノード循環水量の変化を示す図である。アノード循環水量とは、アノードガス流路121及びアノードガス循環通路35内に留保する水の総量のことである。すなわちアノード循環水量は、アノードガス流路121及びアノードガス循環通路35内に保管される水量である。図10(A)から図10(D)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
図10の各図面では、アノードガスの減量制御を実行した後にアノードガスの減量制御を実行したときの本実施形態によるドライ操作が実線により示され、アノードガスの昇圧制御を実行した後にアノードガスの減量制御を実行したときのドライ操作が点線により示されている。
時刻t0では、図10(A)に示すように、燃料電池スタック1の水収支の目標値を示す目標水収支が大幅に低下し、ドライ操作が実施される。例えば、車両のアクセルペダルが踏まれて負荷装置5の要求電力が大幅に上昇すると、燃料電池スタック1の発電に伴い発生する多量の生成水によって電解質膜111が加湿され、その後に負荷装置5の要求電力が低下したときに目標水収支が大幅に低下する。
本実施形態では、図10(B)の実線で示すように、アノード循環ポンプ36の回転速度が下げられてアノードガス循環流量が低下する。これに伴って、図10(D)の実線で示すようにアノード循環水量が低下し、その結果、図10(A)の実線で示すように、燃料電池スタック1の水収支が低下する。すなわち、電解質膜111の水分が減少する。
時刻t1において、アノードガス循環流量がドライ操作の下限値に到達し、図10(C)の実線で示すように、アノード調圧弁33の開度が徐々に上げられてアノードガス圧力が上昇する。これに伴って、アノードガス流路121内の水蒸気分圧が上昇し、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流量する水蒸気量が減少するので、図10(D)の実線で示すようにアノード循環水量が減少する。これに伴って、図10(A)の実線で示すように燃料電池スタック1の水収支が低下する。
時刻t2において、燃料電池スタック1の水収支が目標値に到達してドライ操作が終了する。
ここで、図10(C)の点線で示すように、時刻t0においてアノードガス流量制御よりも先にアノードガス圧力を上昇させると、図10(D)の点線で示すようにアノード循環水量は殆ど減少しない。その結果、図10(A)の点線で示すように燃料電池スタック1の水収支は下らない。時刻t0から時刻t1までの期間は、図10(B)の点線で示すようにアノードガス循環流量は一定に維持されるため、アノード循環ポンプ36の電力が無用に消費されてしまう。さらに、図10(A)の点線で示すように、時刻t2を経過しても燃料電池スタック1の水収支が目標値に到達しないため、ドライ操作に要する時間が長くなってしまう。
これに対し、本実施形態の湿潤制御部300は、アノード調圧弁33によるアノードガスの昇圧制御よりも優先して、アノード循環ポンプ36によるアノードガスの減量制御を実行する。これにより、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減しつつ、早期にドライ操作を完了することができる。
本発明の第1実施形態によれば、燃料電池システム100は、酸化剤を含むカソードガスが流れるカソードガス給排装置(酸化剤系)2と、カソードガス給排装置2の流れと対向する方向に燃料を含むアノードガスが流れるアノードガス給排装置(燃料系)3とを備える。カソードガス給排装置(酸化剤系)2は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスにより燃料電池10の電解質膜111で発生した水を排出する排水手段を構成するコンプレッサ22及びカソード調圧弁26を備える。アノードガス給排装置3は、アノードガスを循環させるアクチュエータであるアノード循環ポンプ(燃料循環手段)36と、アノードガス給排装置3の圧力を調整するアノード調圧弁(燃料系圧力調整手段)とを備え、電解質膜111で発生した水を留保する。
そして、燃料電池システム100を制御するコントローラ(湿潤制御装置)200は、燃料電池スタック1に積層された電解質膜111の湿潤状態を示す信号を取得する膜湿潤状態取得部(取得手段)210を備える。さらにコントローラ200は、膜湿潤状態取得部210からの信号に応じて、少なくともアノード循環ポンプ36とアノード調圧弁33とを操作して電解質膜111の湿潤状態を制御する湿潤制御部(制御手段)300を備える。湿潤制御部300は、少なくとも電解質膜111の水分を減らすドライ操作時には、アノード循環ポンプ36の動作をアノード調圧弁33の動作よりも優先して制御する。
このため、ドライ操作を実施する場合には、アノード循環ポンプ36の動作に比べてアノード調圧弁33の動作が抑制されるので、アノード循環ポンプ36を先に動作させることができる。これにより、図4に示したように、アノード調圧弁33の開度を制御しても電解質膜111の水分が減り難いような状態では、ドライ操作の開始と共にアノード循環ポンプ36の動作が制御される。このため、少なくともドライ操作において、アノード調圧弁33に対する無駄な制御が抑制されるので、無用な待ち時間を削減することができる。したがって、効率よく燃料電池スタック1の湿潤状態を制御することができる。
また、本実施形態によれば、図2に示したように、燃料電池10は、電解質膜111の一方の面に対してカソードガスを通すカソードガス流路131と、電解質膜111の他方の面に対してカソードガス流路131に流れるカソードガスの向きとは反対の向きにアノードガスを通すアノードガス流路121とにより構成される。アノードガス給排装置3は、アノードガス流路121の一端から排出されるアノードガスをアノードガス流路121の他端に導入して循環させるアノードガス循環通路(燃料循環手段)35をさらに含む。アノードガス循環通路35に設けられたアノード循環ポンプ36の回転速度を変化させることにより、アノードガス循環通路35を流れるアノードガスの循環流量は増減する。そして、湿潤制御部300は、図10(D)及び図10(B)に示したように、少なくともドライ操作時において、アノードガス循環通路35を循環する水量であるアノード循環水量を減らす場合には、アノードガスの循環流量を減少させる。
このため、ドライ操作を実施する場合には、アノードガスの循環流量を減少させるためにアノード循環ポンプ36の回転速度が下げられるので、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減することができる。
このように、アノード循環ポンプ36の動作をアノード調圧弁33の動作よりも優先して制御することで、ドライ操作の開始と同時にアノード循環ポンプ36の回転速度が下げられるので、燃料電池システム100の消費電力を低減することができる。このため、ドライ操作に要する時間の短縮と、燃料電池システム100の消費電力の低減とを両立できる。
また、本実施形態によれば、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を調整するアノード調圧弁33の開度を変化させることにより、アノードガス流路121のアノードガス圧力は昇降する。そして、湿潤制御部300は、図10(C)及び図10(D)に示したように、少なくともドライ操作時において、アノード循環水量を減らす場合には、アノードガス流路121に供給されるアノードガスの圧力を上昇させる。
このように、ドライ操作を実施する場合には、燃料電池スタック1のアノードガス圧力が上昇するので、電解質膜111にアノードガスを十分に供給できる状態が確保される。これにより、負荷装置5の要求電力が急峻に高くなったとしても迅速に燃料電池スタック1の発電電力を増加させることができる。すなわち、ドライ操作を実施しつつ、燃料電池スタック1の出力を確保することができる。
これに加えて、アノード調圧弁33によるアノードガスの昇圧制御は、アノード循環ポンプ36によるアノードガスの減量制御の実行中又は実行後に行われる。このため、図4に示したように、アノードガス循環流量が減少してドライ操作への寄与度が得られる状態になってからアノードガスの昇圧制御が行われることになるので、ドライ操作をより効果的に実施することができる。このため、燃料電池スタック1の発電の応答性を確保しつつ、ドライ操作を効果的に実行することができる。
以上のように、本実施形態によれば、燃料電池スタック1の発電性能を確保しつつ、早期、かつ、効果的にドライ操作を完了することができるので、効率よく電解質膜111の湿潤状態を制御することができる。
(第2実施形態)
次に、ドライ操作を実施するときの湿潤制御部300の構成例について詳細に説明する。
図11は、本発明の第2実施形態における湿潤制御部300の機能構成の一例を示すブロック図である。
湿潤制御部300は、燃料電池スタック1の湿潤制御で実行される複数のガス状態量の制御に関する優先順位を設定する優先順位設定部301を含む。優先順位設定部301は、DRY操作モード切替部310と、出力重視DRY操作設定部311と、燃費重視DRY操作設定部312と、速乾性重視DRY操作設定部313とを含む。
優先順位設定部301は、燃料電池スタック1の湿潤状態に応じて、アノードガス及びカソードガスの各状態量を制御する制御順位を設定する。すなわち、優先順位設定部301は、コンプレッサ22、カソード調圧弁26、アノード調圧弁33及びアノード循環ポンプ36の各動作を制御する優先順位を設定する。このように、優先順位設定部301は、燃料電池スタック1の湿潤制御に用いられる複数のアクチュエータの各動作の負荷割合を設定する。
DRY操作モード切替部310は、インピーダンス測定装置6からの計測HFRが、目標HFR演算部211からの目標HFR以上である場合には、ウェット操作を実施する必要があると判断する。DRY操作モード切替部310は、ドライ操作を実施する必要があると判断した場合には、燃料電池スタック1の発電状態に応じて、出力重視モード、速乾性重視モード、及び燃費重視モードの中から1つのドライ操作モードを選択する。
出力重視モードは、第1実施形態のドライ操作に対応するものであり、燃料電池スタック1の出力(発電電力)を確保しつつ電解質膜111の水分を減らすドライ操作モードである。
速乾性重視モードは、電解質膜111の余剰の水分を速やかに減らすドライ操作モードである。燃費重視モードは、燃料電池システム100の消費電力の増加を低減しつつ電解質膜111の水分を減らすドライ操作モードである。
DRY操作モード切替部310は、電解質膜111の余剰の水分を速やかに減らす必要があるか否かを判断する。本実施形態では、DRY操作モード切替部310は、計測HFRと目標HFRとの差分が所定の速乾要求閾値を超えるか否かを判断する。DRY操作モード切替部310は、その差分が速乾要求閾値を超えた場合には、電解質膜111の水分を速やかに減らす必要があると判断し、速乾性重視モードを示す選択信号を速乾性重視DRY操作設定部313に出力する。
DRY操作モード切替部310は、電解質膜111の余剰の水分を速やかに減らす必要がないと判断した場合には、燃料電池スタック1の出力を確保する必要があるか否かを判断する。本実施形態では、DRY操作モード切替部310は、スタック目標電流演算部220からのスタック目標電流が所定の高負荷要求閾値を超えるか否かを判断する。DRY操作モード切替部310は、スタック目標電流が高負荷要求閾値を超えた場合には、燃料電池スタック1の出力を確保する必要があると判断し、出力重視モードを示す選択信号を出力重視DRY操作設定部311に出力する。
また、DRY操作モード切替部310は、スタック目標電流が高負荷要求閾値未満である場合には、燃料電池システム100の消費電力を抑制可能であると判断し、燃費重視モードを示す選択信号を燃費重視DRY操作設定部312に出力する。
出力重視DRY操作設定部311は、出力重視モードを示す選択信号を受信すると、出力重視ドライ操作を実施するための各制御に関する優先順位を設定する。
燃費重視DRY操作設定部312は、燃費重視モードを示す選択信号を受信すると、燃費重視ドライ操作を実施するための各制御に関する優先順位を設定する。
速乾性重視DRY操作設定部313は、速乾性重視モードを示す選択信号を受信すると、速乾性重視ドライ操作を実施するための各制御に関する優先順位を設定する。
なお、本実施形態では計測HFRに基づいてドライ操作を実施する必要があるか否かを判定したが、DRY操作モード切替部310は、目標水収支が所定の閾値よりも大きい場合にはドライ操作を実施する必要があると判定するものであってもよい。あるいは、DRY操作モード切替部310は、所定のサンプリング周期で目標水収支を取得し、目標水収支の今回値が前回値よりも小さい場合にドライ操作が開始する必要があると判定するものであってもよい。
図12は、出力重視ドライ操作を実施するときの湿潤制御部300の詳細構成の一例を示すブロック図である。
湿潤制御部300は、出力重視DRY操作設定部311と、アノード目標流量演算部320aと、アノード目標圧力演算部330aと、カソード目標圧力演算部340aと、カソード目標流量演算部350aとを含む。
出力重視DRY操作設定部311は、DRY操作モード切替部310から選択信号を受信すると、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス流量制御、及びカソードガス圧力制御の各制御についての優先順位を設定する。
例えば、出力重視DRY操作設定部311は、計測HFRが目標HFR以上である場合には、ウェット操作を実施するためのウェット操作パラメータとして、カソードガス圧力、カソードガス流量、及びアノードガス圧力の各計測値を出力する。
一方、出力重視DRY操作設定部311は、計測HFRが目標HFRよりも低い場合には、各制御の優先順位を設定するためのドライ操作パラメータとして、各計測値の代わりに、電解質膜111を現在よりもウェット状態にするときのWET操作値を出力する。
例えば、出力重視ドライ操作においては、カソードガス流量制御のWET操作値としては、カソードガス流量の計測値よりも小さな値が用いられ、カソードガス圧力制御のWET操作値としては、カソードガス圧力の計測値よりも大きな値が用いられる。また、アノードガス圧力制御のWET操作値としては、アノードガス圧力の計測値よりも小さな値が用いられる。
本実施形態では、出力重視DRY操作設定部311は、ドライ操作パラメータとして、カソード下限流量、カソード上限圧力、及びアノード下限圧力を出力する。これらのドライ操作パラメータは、電解質膜111を最も湿った状態に遷移させる場合に用いられるWET操作値である。
カソード下限流量は、燃料電池スタック1においてフラッディングが発生しないように定められたカソードガス流量の下限値である。すなわち、カソード下限流量は、燃料電池スタック1の発電性能を確保できる範囲で最も低いカソードガス流量に設定される。カソード下限流量は、実験データやシミュレーションなどを用いて予め設定される。なお、フラッディングとは、燃料電池スタック1の発電に伴う液水が電解質膜111に詰まり、燃料電池スタック1の発電が不安定になる状態のことをいう。
カソード上限圧力は、燃料電池スタック1の運転状態に応じて定められるカソードガス圧力の上限値である。例えば、カソード上限圧力は、負荷装置5の要求電力に基づいて算出されるカソードガス圧力の上限値や、アノードガス圧力と電解質膜111の許容差圧とに基づいて設定されるカソードガス圧力の上限値などの中から最も値が小さいカソードガス圧力に設定される。すなわち、カソード上限圧力は、燃料電池スタック1の発電性能を確保できる範囲で最も高いカソードガス圧力値に設定される。
アノード下限圧力は、燃料電池スタック1の運転状態に応じて定められるアノードガス圧力の下限値である。例えば、アノード下限圧力は、負荷装置5の要求電力に基づいて算出されるアノードガス圧力の下限値や、カソードガス圧力と電解質膜111の許容差圧とに基づいて設定されるアノードガス圧力の下限値などの中で値が最も大きいアノードガス圧力に設定される。すなわち、アノード下限圧力は、燃料電池スタック1の発電性能を確保できる範囲で最も低いアノードガス圧力値に設定される。
このように、出力重視DRY操作設定部311は、少なくともドライ操作時において、電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス圧力をアノード目標流量演算部320aに設定し、アノードガス流量の計測値又は推定値をアノード目標圧力演算部330aに設定する優先設定部を構成する。
アノード目標流量演算部320aは、電解質膜111の湿潤度と、燃料電池スタック1のアノードガス圧力とに基づいて、アノードガス循環通路35を循環するアノードガスの流量を制御する第1の流量制御部を構成する。
本実施形態では、アノード目標流量演算部320aは、目標水収支演算部212からの目標水収支と、カソードガス流量と、カソードガス圧力と、アノードガス圧力とに基づいて、アノード目標流量を演算する。アノード目標流量演算部320aは、演算したアノード目標流量をアノード系指令部250に出力する。
アノード目標流量演算部320aは、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の水分が増加するように、アノード目標流量を大きくする。一方、アノード目標流量演算部320aは、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の水分が減少するように、アノード目標流量を小さくする。
ドライ操作において、カソードガス流量が小さくなるほど、又はカソードガス圧力が大きくなるほど、カソードガスによって燃料電池スタック1から持ち出される水蒸気が減少して電解質膜111の水分が増加する。このため、アノード目標流量演算部320aは、カソードガス流量が小さくなるほど、又はカソードガス圧力が大きくなるほど、アノード目標流量を小さくする。また、アノード目標流量演算部320aは、アノードガス圧力が小さくなるほど、アノードガス流路121からカソードガス流路131に押し出される水蒸気が減少して電解質膜111の水分が増加するため、アノード目標流量を小さくする。
本実施形態では、アノード目標流量演算部320aは、出力重視DRY操作設定部311から、カソード下限流量、カソード上限圧力、及びアノード下限圧力を取得する。このため、アノード目標流量演算部320aは、カソードガス流量、カソードガス圧力、及びアノードガス圧力の各計測値を取得した場合に比べて、アノード目標流量を小さくすることができる。このように、出力重視DRY操作設定部311は、ドライ操作において、アノード流量制御の優先順位を、カソードガス流量制御、カソードガス圧力制御、及びアノードガス圧力制御の優先順位よりも高くすることができる。
アノード目標圧力演算部330aは、電解質膜111の湿潤度と、アノードガス循環通路35を循環するアノードガスの流量とに基づいて、燃料電池スタック1のアノードガス圧力を制御する第1の圧力制御部を構成する。
アノード目標圧力演算部330aは、目標水収支と、カソードガス流量と、カソードガス圧力と、アノードガス流量とに基づいて、アノード目標圧力を演算する。アノード目標圧力演算部330aは、演算したアノード目標圧力をアノード系指令部250に出力する。
アノード目標圧力演算部330aは、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の水分が増加するように、アノード目標圧力を小さくする。一方、アノード目標圧力演算部330aは、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の水分が減少するように、アノード目標圧力を大きくする。
ドライ操作において、アノード目標圧力演算部330aは、カソードガス流量が小さくなるほど、又はカソードガス圧力が大きくなるほど、カソードガスによって燃料電池スタック1から持ち出される水蒸気が減少するため、アノード目標圧力を大きくする。また、アノード目標圧力演算部330aは、アノードガス循環流量が大きくなるほど、アノード循環水量が増加して電解質膜111の水分が増加するため、アノード目標圧力を大きくする。
本実施形態では、アノード目標圧力演算部330aは、出力重視DRY操作設定部311は、カソード下限流量、及びカソード上限圧力を取得し、アノードガス循環流量推定部230から、アノードガス流量の推定値を取得する。このため、アノード目標圧力演算部330aは、カソードガス流量、カソードガス圧力の各計測値を取得した場合に比べて、アノード目標圧力を大きくすることができる。このように、出力重視DRY操作設定部311は、ドライ操作において、アノード圧力制御の優先順位を、カソードガス流量制御及び圧力制御の優先順位よりも高くすることができる。
カソード目標圧力演算部340aは、目標水収支と、カソードガス流量と、アノードガス流量と、アノードガス圧力とに基づいて、カソード目標圧力を演算する。カソード目標圧力演算部340は、演算したカソード目標圧力をカソード系指令部240に出力する。
カソード目標圧力演算部340aは、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の水分が増加するように、カソード目標圧力を大きくする。一方、カソード目標圧力演算部340は、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の水分が減少するように、カソード目標圧力を小さくする。
ドライ操作において、カソード目標圧力演算部340aは、カソードガス流量が小さくなるほど、カソードガスによって燃料電池スタック1から持ち出される水蒸気が減少して電解質膜111の水分が増加するため、カソード目標圧力を小さくする。また、カソード目標圧力演算部340は、アノードガス循環流量が大きくなるほど、又は、アノードガス圧力が小さくなるほど、アノード循環水量が増加して電解質膜111の水分が増加するため、カソード目標圧力を小さくする。
本実施形態では、カソード目標圧力演算部340aは、出力重視DRY操作設定部311からカソード下限流量を取得し、アノードガス循環流量推定部230からアノードガス循環流量の推定値を取得し、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力の計測値を取得する。このため、カソード目標圧力演算部340は、カソードガス流量の計測値を取得する場合に比べて、カソード目標圧力を小さくすることができる。このように、出力重視DRY操作設定部311は、ドライ操作において、カソード圧力制御の優先順位をカソードガス流量制御よりも高くすることができる。
カソード目標流量演算部350aは、目標水収支と、カソードガス圧力と、アノードガス流量と、アノードガス圧力とに基づいて、カソード目標圧力を演算する。カソード目標圧力演算部340は、演算したカソード目標圧力をカソード系指令部240に出力する。
カソード目標流量演算部350aは、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の水分が増加するように、カソード目標流量を小さくする。一方、カソード目標流量演算部350aは、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の水分が減少するように、カソード目標流量を大きくする。
ドライ操作において、カソード目標流量演算部350aは、カソードガス圧力が大きくなるほど、カソードガスによって燃料電池スタック1から持ち出される水分が減少して電解質膜111の水分が増加するため、カソード目標流量を大きくする。また、カソード目標流量演算部350aは、アノードガス循環流量が大きくなるほど、又はアノードガス圧力が小さくなるほど、アノード循環水量が増加するため、カソード目標流量を大きくする。
本実施形態では、カソード目標流量演算部350aは、アノードガス循環流量推定部230からアノードガス循環流量の推定値を取得し、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力の計測値を取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力の計測値を取得する。このため、カソード目標流量演算部350aは、カソードガス圧力、アノードガス流量、及びアノードガス圧力の計測値に従ってカソード目標圧力を適切に増減させることができる。
以上のように、出力重視DRY操作設定部311は、ドライ操作時に、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス圧力制御、カソードガス流量制御の順に優先順位を設定する。これにより、アノードガス圧力制御よりも優先してアノードガス流量制御が実行されるので、図10(B)に示したように、アノードガス循環流量が下がり、アノード循環ポンプ36の消費電力の低減しつつ、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
また、ドライ操作ではカソードガス流量制御を実行する際にはコンプレッサ22の回転速度を高くするので、コンプレッサ22の消費電力が増加する。本実施形態では、出力重視ドライ操作において最後にカソードガス流量制御が実行されるので、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。
また、アノード調圧弁33の異常などが原因でアノード調圧弁33が作動しない場合には、アノードガス圧力を上昇させる圧力制御が不能となることが懸念される。このような場合に出力重視DRY操作設定部311は、電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノード下限圧力に代えて、アノードガス圧力の計測値を出力する。すなわち、出力重視DRY操作設定部311は、ドライ操作時において、アノード調圧弁33が作動しない場合には、アノード目標流量演算部320aに設定されるアノードガス圧力を、アノードガス圧力のWET操作値からアノードガス圧力の計測値に切り替える。
このようにアノードガス圧力が制御不能な場合には、アノード目標流量演算部320aは、燃料電池スタック1に供給されている実際のアノードガス圧力を用いてアノード目標流量を算出するので、アノード圧力制御系の異常状態に適したドライ操作を実施することができる。なお、アノードガス圧力制御不能時には、出力重視DRY操作設定部311での演算を停止するようにしてもよい。
図13は、出力重視ドライ操作を実施するときのアノード目標流量演算部320aの詳細構成の一例を示すブロック図である。
アノード目標流量演算部320aは、飽和水蒸気圧演算部321と、発電生成水量演算部322と、目標排水量算出部323とを含む。さらにアノード目標流量演算部320aは、カソード相対湿度演算部324と、An/Ca流量比演算部325と、アノード湿潤要求流量演算部326と、アノード下限流量演算部327と、アノード目標流量設定部328とを含む。
飽和水蒸気圧演算部321は、燃料電池スタック1内の飽和水蒸気圧Psatを演算する。本実施形態では、飽和水蒸気圧演算部321は、入口水温センサ46及び出口水温センサ47から、それぞれスタック入口水温Tin及びスタック出口水温Toutを取得し、両者を平均した値を、スタック温度Tとして算出する。そして、飽和水蒸気圧演算部321は、スタック温度Tに基づいて、次式(2)のように、飽和水蒸気圧Psatを算出する。
発電生成水量演算部322は、燃料電池スタック1の出力に基づいて、各燃料電池10の発電により生成される生成水の総量を示す発電生成水量を演算する。
本実施形態では、発電生成水量演算部322は、電流センサ51からスタック出力電流Isを取得し、スタック出力電流Isに基づいて、次式(3)のように、発電生成水量Qw_inを算出する。
なお、Nは、燃料電池スタック1に積層される燃料電池10の枚数であり、F[C/mol]は、ファラデー定数(=96485.39)である。また、「60」は、単位時間あたりの発電生成水量を秒単位[sec]から分単位[min]に変換するための換算値である。「22.4」は、標準状態の理想気体1モル[mol]の体積である。
発電生成水量演算部322は、算出した発電生成水量Qw_inを目標排水量算出部323に出力する。
目標排水量算出部323は、発電生成水量Qw_inと目標水収支Qw_tとの差分に基づいて、燃料電池スタック1から排出すべき水分を示す目標排水量Qw_outを算出する。本実施形態では、目標排水量算出部323は、次式(4)のように、発電生成水量Qw_inから目標水収支Qw_tを減算して目標排水量Qw_outを算出する。
目標排水量算出部323は、算出した目標排水量Qw_outをカソード相対湿度演算部324に出力する。
カソード相対湿度演算部324は、目標排水量Qw_outに基づき、目標とするカソード出口相対湿度RHc_outを演算する。カソード出口相対湿度RHc_outは、カソードガス流路131の出口(下流)側のカソードガス湿度をアノードガス流路121の入口(上流)側のアノードガス湿度で除算した値である。
本実施形態では、カソード相対湿度演算部324は、目標排水量Qw_outと、飽和水蒸気圧Psatと、カソードガス流量と、カソードガス圧力とを用いて、燃料電池スタック1のカソード出口相対湿度RHc_outを演算する。
出力重視ドライ操作においては、カソード相対湿度演算部324は、出力重視DRY操作設定部311から、カソード下限流量Qc_min及びカソード上限圧力Pc_maxを取得する。そして、カソード相対湿度演算部324は、次式(5)のように、飽和水蒸気圧Psatとカソード上限圧力Pc_maxとカソード下限流量Qc_minと目標排水量Qw_outとに基づいて、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_minを算出する。
式(5)に示したように、カソードガス圧力が大きくなるほど、又はカソードガス流量が小さくなるほど、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_minは高くなる。したがって、カソード上限圧力Pc_max及びカソード下限流量Qc_minを用いることにより、カソード出口相対湿度RHc_out_minが最も高くなる。これは、カソード側で電解質膜111が最も湿り易い状態であることを意味する。
カソード相対湿度演算部324は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_minをAn/Ca流量比演算部325に出力する。
An/Ca流量比演算部325は、カソード出口相対湿度RHc_out_minに基づいて、カソードガス流量に対するアノードガス流量の比率を示すAn/Ca流量比Kac_minを演算する。
本実施形態では、アノードガス圧力とカソードガス圧力との差圧を示す極間差圧ΔPacがゼロのときのカソード出口相対湿度とAn/Ca流量比との関係を示す相対湿度/流量比マップが、An/Ca流量比演算部325に予め記録される。相対湿度/流量比マップについては、図14を参照して後述する。
An/Ca流量比演算部325は、カソード相対湿度演算部324からカソード出口相対湿度RHc_out_minを取得すると、極間差圧ΔPacがゼロのときの流量比マップを参照し、取得したカソード出口相対湿度RHc_out_minに関係付けられたAn/Ca流量比Kac_min_0を算出する。
一般に、An/Ca流量比は、極間差圧の大きさに応じて変化する。そのため、An/Ca流量比演算部325は、極間差圧ΔPacに応じてAn/Ca流量比Kac_min_0を補正する。
本実施形態では、アノードガス圧力とカソードガス圧力との極間差圧とAn/Ca流量比の補正係数との関係を示す流量比補正マップがAn/Ca流量比演算部325に予め記録される。なお、流量比補正マップについては図15を参照して後述する。
An/Ca流量比演算部325は、出力重視DRY操作設定部311からアノード下限圧力Pa_min及びカソード上限圧力Pa_maxを取得し、カソード上限圧力Pc_maxをアノード下限圧力Pa_minから減算して極間差圧ΔPac_minを算出する。
An/Ca流量比演算部325は、極間差圧ΔPac_minを算出すると、流量比補正マップを参照し、算出した極間差圧ΔPac_minに関係付けられた補正係数Eac_minを算出する。An/Ca流量比演算部325は、次式(6)のように、算出した補正係数Eac_minを、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_min_0に乗算することにより、極間差圧ΔPac_minに応じたAn/Ca流量比Kac_minを算出する。
An/Ca流量比演算部325は、算出したAn/Ca流量比Kac_minをアノード湿潤要求流量演算部326に出力する。
アノード湿潤要求流量演算部326は、An/Ca流量比Kac_minに基づいて、燃料電池スタック1の湿潤状態を目標とする状態にするためのアノード湿潤要求流量Qa_rwを演算する。
出力重視ドライ操作において、アノード湿潤要求流量演算部326は、出力重視DRY操作設定部311からカソード下限流量Qc_minを取得する。そして、アノード湿潤要求流量演算部326は、次式(7)のように、An/Ca流量比Kac_minをカソード下限流量Qc_minに乗算することにより、アノード湿潤要求流量Qa_rwを算出する。
アノード湿潤要求流量演算部326は、算出したアノード湿潤要求流量Qa_rwをアノード目標流量設定部328に出力する。
アノード下限流量演算部327は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、アノード下限流量を演算する。アノード下限流量は、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求によって設定されるアノードガス流量の下限値である。電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求としては、例えば、負荷装置5の発電要求や、電解質膜111の保護要求、フラッディング防止要求などが挙げられる。
例えば、アノード下限流量演算部327は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガス循環流量を示すアノード負荷要求流量を演算する。この例では、スタック目標電流とアノード負荷要求流量との関係を示す負荷要求流量マップがアノード下限流量演算部327に予め記録される。アノード下限流量演算部327は、スタック目標電流演算部220からスタック目標電流を取得すると、負荷要求流量マップを参照し、取得したスタック目標電流に関連付けられたアノード負荷要求流量を算出する。アノード下限流量演算部327は、算出したアノード負荷要求流量を、アノード下限流量としてアノード目標流量設定部328に出力する。
アノード目標流量設定部328は、アノード下限流量とアノード湿潤要求流量Qa_rwとのうち大きい方の値を、アノード目標流量としてアノード系指令部250に出力する。
図14は、An/Ca流量比演算部325に設定される相対湿度/流量比マップの一例を示す観念図である。ここでは、横軸が、カソードガス流量に対するアノードガス流量の比率を示すAn/Ca流量比Kacを示し、縦軸が、カソードガス流路131の出口でのカソードガス相対湿度であるカソード出口相対湿度RHc_outを示す。
カソード出口相対湿度RHc_outは、アノードガス流量が極めて少なく、発電に伴う生成水のほぼ全てがカソードガス流路131から外部に排出されている状態を「100%」としている。相対湿度/流量比マップは、カソードガス流量とアノードガス流量とを互いに変化させたときの実験データなどを用いて予め設定される。例えば、相対湿度/流量比マップは、スタック温度や、水素濃度などを変化させたときの平均値や、誤差が小さくなるように算術処理された統計値などにより設定される。
相対湿度/流量比マップには、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_0の特性が設定される。ここでは、An/Ca流量比Kac_0が実線により示されている。また、理解を容易にするために極間差圧ΔPacがゼロよりも大きいときのAn/Ca流量比と、極間差圧ΔPacがゼロよりも小さいときのAn/Ca流量比とが破線により示されている。なお、破線により示されたAn/Ca流量比の特性は、図15に示す流量比補正マップの補正係数EacをAn/Ca流量比Kac_0に掛け合わせることにより求めることができる。
相対湿度/流量比マップでは、An/Ca流量比Kacが小さくなるほど、カソードガスによって燃料電池スタック1から持ち出される水蒸気の排水量が増加するため、カソード出口相対湿度RHc_outは大きくなる。また、極間差圧ΔPacが大きくなるほど、カソードガス流路131からアノードガス流路121へ押し出される水蒸気の流量が減少するため、カソード出口相対湿度RHc_outは大きくなる。
図15は、An/Ca流量比演算部325に設定される流量比補正マップの一例を示す観念図である。ここでは、横軸が、アノードガス圧力Paからカソードガス圧力Pcを減算した極間差圧ΔPac(=Pa−Pc)を示し、縦軸が、An/Ca流量比を補正するための補正係数Eacを示す。補正係数Eacは、極間差圧ΔPacが0のときに「1」となるように規格化されている。流量比補正マップは、カソードガス圧力とアノードガス圧力とを互いに変化させたときの実験データ等により予め設定される。
流量比補正マップでは、極間差圧ΔPacがゼロよりも大きくなるほど、アノードガス流路121からカソードガス流路131へリークするアノードガスの流量が増加するため、補正係数Eacは「1」よりも大きくなる。一方、極間差圧ΔPacがゼロよりも小さくなるほど、カソードガス流路131からアノードガス流路121へリークするカソードガスの流量が増加するため、補正係数Eacは「1」よりも小さくなる。
このように、燃料電池スタック1では、極間差圧ΔPacに応じてアノードガス流量に対するカソードガス流量のAn/Ca流量比Kacが変化するため、補正係数Eacを用いてAn/Ca流量比Kacが補正される。
以上のように、カソード出口相対湿度RHc_outを大きくするには、上記の式(5)の関係から、カソードガス流量を計測値よりも小さくし、カソードガス圧力を計測値よりも大きくすればよい。また、極間差圧ΔPacを小さくするには、アノードガス圧力を計測値よりも小さくするか、カソードガス圧力を計測値よりも大きくすればよい。
このため、出力重視DRY操作設定部311は、アノードガス循環流量を速やかに減少させるために、カソード下限流量Qc_min、カソード上限圧力Pc_max及びアノード下限圧力Pc_minを、計測値の代わりにアノード目標流量演算部320aに出力する。
これにより、出力重視ドライ操作において、単にカソードガスの流量及び圧力の計測値を用いる場合に比べて、カソード出口相対湿度RHc_out_minが大きくなるので、An/Ca流量比Kac_minを小さくすることができる。さらにアノード下限圧力Pc_max及びカソード上限圧力Pc_maxを用いることにより、極間差圧ΔPac_minが小さくなるので、An/Ca流量比Kac_minをより一層小さくすることができる。したがって、出力重視ドライ操作におけるアノードガス流量制御の優先度(負荷)が最も高くなるので、アノード湿潤要求流量Qa_rwを早期に下げることができる。
図16は、出力重視ドライ操作を実施するときのアノード目標圧力演算部330aの機能構成の一例を示すブロック図である。
アノード目標圧力演算部330aは、アノード上限圧力演算部331と、カソード相対湿度演算部332と、An/Ca流量比演算部333と、アノード湿潤要求圧力演算部334と、アノード目標圧力設定部335とを含む。
アノード上限圧力演算部331は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、アノード上限圧力を演算する。アノード上限圧力は、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求により設定されるアノードガス圧力の上限値である。
例えば、アノード上限圧力演算部331は、予め定められた電解質膜111の許容圧力をカソード圧力センサ24からのカソードガス圧力に加算して電解質膜111を保護するためのアノードガス圧力の上限値を示すアノード膜保護要求圧力を算出する。また、アノード上限圧力演算部331は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガス圧力を示すアノード負荷要求圧力を算出する。そして、アノード上限圧力演算部331は、算出したアノード負荷要求圧力やアノード膜保護要求圧力などを、アノード上限圧力としてアノード目標圧力設定部335に出力する。
カソード相対湿度演算部332は、出力重視DRY操作設定部311から、カソード下限流量Qc_min及びカソード上限圧力Pc_maxを取得する。カソード相対湿度演算部332は、上述の式(5)のように、カソード下限流量Qc_minとカソード上限圧力Pc_maxと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_minを算出する。カソード相対湿度演算部332は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_minをAn/Ca流量比演算部333に出力する。
An/Ca流量比演算部333は、図13に示したものと同様の機能を有する。An/Ca流量比演算部333は、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_minに基づいて、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_min_0を演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部333は、カソード出口相対湿度RHc_out_minを取得すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、カソード出口相対湿度RHc_out_minに関係付けられたAn/Ca流量比Kac_min_0を算出する。
さらに、An/Ca流量比演算部333は、出力重視DRY操作設定部311からカソード下限流量Qc_minを取得し、アノードガス循環流量推定部230からアノードガス流量Qa_sensを取得する。An/Ca流量比演算部333は、カソード下限流量Qc_minをアノードガス流量Qa_sensにより除算して、An/Ca流量比Kac_qcminを算出する。
An/Ca流量比演算部333は、次式(8)のように、An/Ca流量比Kac_qcminを、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_min_0により除算して、補正係数Eac_3maxを算出する。
An/Ca流量比演算部333は、補正係数Eac_3maxを算出すると、図15の流量比補正マップを参照し、補正係数Eac_3maxに関係付けられた極間差圧ΔPac_3maxを算出する。An/Ca流量比演算部333は、算出した極間差圧ΔPac_3maxをアノード湿潤要求圧力演算部334に出力する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、極間差圧ΔPac_3maxに基づいて、燃料電池スタック1の湿潤状態を目標とする状態にするためのアノード湿潤要求圧力Pa_rwを演算する。
本実施形態では、アノード湿潤要求圧力演算部334は、出力重視DRY操作設定部311からカソード上限圧力Pc_maxを取得すると、次式(9)のように、極間差圧ΔPac_3maxにカソード上限圧力Pc_maxを加算することにより、アノード湿潤要求圧力Pa_rwを算出する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、アノード湿潤要求圧力Pa_rwをアノード目標圧力設定部335に出力する。
アノード目標圧力設定部335は、アノード湿潤要求圧力Pa_rwとアノード上限圧力演算部331からのアノード上限圧力とのうち小さい方の値を、アノード目標圧力としてアノード系指令部250に出力する。
以上のように、出力重視ドライ操作においてアノード湿潤要求圧力Pa_rwを速やかに大きくするには、式(8)の関係から、極間差圧ΔPac_3maxを大きくして補正係数Eac_3maxを大きくする必要がある。補正係数Eac_3maxを大きくするには、カソード出口相対湿度RHc_out_minを大きくすればよい。
このため、出力重視DRY操作設定部311は、出力重視ドライ操作時に、上式(5)の関係から、カソードガス流量及び圧力の計測値の代わりに、カソード下限流量Qc_min及びカソード上限圧力Pc_maxをアノード目標圧力演算部330aに出力する。これにより、出力重視ドライ操作時において、単にカソードガスの流量及び圧力の計測値を用いる場合に比べて、カソード出口相対湿度RHc_out_minが大きくなるので、An/Ca流量比Kac_min_0が小さくなる。そして、式(8)の関係から補正係数Eac_3maxが大きくなり、これに伴い、図15に示したように極間差圧ΔPac_3maxが大きくなるので、アノード湿潤要求圧力Pa_rwを大きくすることができる。
例えば、図10(B)に示したように、アノード湿潤要求流量Qa_rwが低下してアノードガス循環流量の計測値Qa_sensが低下するほど、アノード目標圧力演算部330aでは、An/Ca流量比Kac_qcminが低下する。An/Ca流量比Kac_qcminが低下するほど、式(8)の関係から、An/Ca流量比の補正係数Eac_3maxが小さくなり、アノード湿潤要求圧力Pa_rwは小さくなる。すなわち、アノード湿潤要求流量Qa_rwが低下するほど、アノード湿潤要求圧力Pa_rwは小さくなる。
一方、式(5)の関係から、目標水収支Qw_tが小さくなって目標排水量Qw_outが大きくなるほど、カソード出口相対湿度RHc_out_minは大きくなるので、An/Ca流量比の比率Eacが大きくなり、アノード湿潤要求圧力Pa_rwが大きくなる。
このように、アノード目標圧力演算部330aは、出力重視ドライ操作において、アノードガス流量を下げている状況であっても、目標排水量Qw_outが減少しなければ、アノード目標圧力を上昇させることができる。すなわち、湿潤制御部300は、出力重視ドライ操作時には、アノードガス循環流量が増加するほど、アノードガス圧力の上昇を抑制し、かつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス圧力を上昇させることができる。
図17は、出力重視ドライ操作を実施するときのカソード目標圧力演算部340aの機能構成の一例を示すブロック図である。
カソード目標圧力演算部340aは、An/Ca流量比演算部341と、カソード相対湿度演算部342と、カソード湿潤要求圧力演算部343と、カソード下限圧力演算部344と、カソード目標圧力設定部345とを含む。
出力重視ドライ操作において、An/Ca流量比演算部341は、出力重視DRY操作設定部311からカソード下限流量Qc_minを取得し、アノードガス循環流量推定部230からのアノードガス循環流量を計測値Qa_sensとして取得する。An/Ca流量比演算部341は、アノードガス流量Qa_sensをカソード下限流量Qc_minにより除算して、An/Ca流量比Kac_qcminを算出する。
カソード相対湿度演算部342は、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力Pa_sensを取得し、アノードガス圧力Pa_sensから暫定カソードガス圧力Pc_prを減算して暫定極間差圧ΔPac_prを算出する。暫定カソードガス圧力Pc_prは、所定の範囲で変化するパラメータである。
カソード相対湿度演算部342は、An/Ca流量比Kac_qcminを取得すると、図15の流量比補正マップを参照し、暫定極間差圧ΔPac_prに関係付けられた暫定補正係数Eac_prを算出する。カソード相対湿度演算部342は、その暫定補正係数Eac_prによりAn/Ca流量比Kac_qcminを除算して、極間差圧ΔPacがゼロのときの暫定An/Ca流量比Kac_qcmin_0を算出する。
カソード相対湿度演算部342は、暫定An/Ca流量比Kac_qcmin_0を算出すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、暫定An/Ca流量比Kac_qcmin_0に関係付けられた暫定カソード出口相対湿度RHc_out_prとして算出する。
カソード相対湿度演算部342は、暫定カソード出口相対湿度RHc_out_prと暫定カソードガス圧力Pc_prとをカソード湿潤要求圧力演算部343に出力する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、燃料電池スタック1の湿潤状態を目標とする状態にするためのカソード湿潤要求圧力Pc_rwを演算する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、カソード相対湿度演算部342から暫定カソード出口相対湿度RHc_out_prを取得し、出力重視DRY操作設定部311からカソード下限流量Qc_minを取得し、飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。そして、カソード湿潤要求圧力演算部343は、次式(10)のように、暫定カソード出口相対湿度RHc_out_prと、カソード下限流量Qc_minと、飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、暫定カソード湿潤要求圧力Pc_rw_prを算出する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、暫定カソードガス圧力Pc_prの圧力値を段階的に変更するようにカソード相対湿度演算部342に指示する。そして、カソード湿潤要求圧力演算部343は、暫定カソードガス圧力Pc_prと暫定カソード湿潤要求圧力Pc_rw_prとが一致したときの圧力値をカソード湿潤要求圧力Pc_rwとして設定する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、設定したカソード湿潤要求圧力Pc_rwをカソード目標圧力設定部345に出力する。
カソード下限圧力演算部344は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、カソード下限圧力を演算する。カソード下限圧力は、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求によって設定されるカソードガス圧力の下限値である。
例えば、カソード下限圧力演算部344は、アノード圧力センサ37からのアノードガス圧力から電解質膜111の許容圧力を減算することにより、電解質膜111を保護するためのカソードガス圧力の下限値を示すカソード膜保護要求圧力を算出する。また、カソード下限圧力演算部344は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要なカソードガスの圧力を示すカソード負荷要求圧力を算出する。カソード下限圧力演算部344は、算出したカソード負荷要求圧力やカソード膜保護要求圧力などを、カソード下限圧力としてカソード目標圧力設定部345に出力する。
カソード目標圧力設定部345は、カソード下限圧力とカソード湿潤要求圧力Pc_rwとのうち大きい方の値を、カソード目標圧力としてカソード系指令部240に出力する。
図18は、出力重視ドライ操作を実施するときのカソード目標流量演算部350aの機能構成の一例を示すブロック図である。
カソード目標流量演算部350aは、カソード上限流量演算部351と、An/Ca流量比演算部352と、カソード相対湿度演算部353と、カソード湿潤要求流量演算部354と、カソード目標流量設定部355と、遅延回路356とを含む。
カソード上限流量演算部351は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、カソード上限流量を演算する。カソード上限流量は、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求によって設定されるカソードガス流量の上限値である。
例えば、カソード上限流量演算部351は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるカソードガス流量を示すカソード負荷要求流量を演算する。この例では、スタック目標電流とカソード負荷要求流量との関係を示す負荷要求流量マップがカソード上限流量演算部351に予め記録される。カソード上限流量演算部351は、スタック目標電流演算部220からスタック目標電流を取得すると、負荷要求流量マップを参照し、取得したスタック目標電流に関連付けられたカソード負荷要求流量を算出する。カソード上限流量演算部351は、算出したカソード負荷要求流量を、カソード上限流量としてカソード目標流量設定部355に出力する。
An/Ca流量比演算部352は、アノードガス循環流量推定部230からのアノードガス循環流量を計測値Qa_sensとして取得し、遅延回路356からのカソード目標流量の前回値Qc_t_dlyを取得する。An/Ca流量比演算部352は、カソード目標流量の前回値Qc_t_dlyによりアノードガス流量Qa_sensを除算して、An/Ca流量比Kac_qctを算出し、An/Ca流量比Kac_qctをカソード相対湿度演算部353に出力する。
カソード相対湿度演算部353は、アノード圧力センサ37からのアノードガス圧力Pa_sensと、カソード圧力センサ24からのカソードガス圧力Pc_sensとの極間差圧ΔPac_sensを算出する。カソード相対湿度演算部353は、極間差圧ΔPac_sensを算出すると、図15の流量比マップを参照し、極間差圧ΔPac_sensに関係付けられた補正係数Eac_sensを算出する。
そして、カソード相対湿度演算部353は、補正係数Eac_sensによりAn/Ca流量比Kac_qctを除算して、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_qct_0を算出する。カソード相対湿度演算部353は、An/Ca流量比Kac_qct_0を算出すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、An/Ca流量比Kac_qct_0に関連付けられたカソード出口相対湿度RHc_out_sensを算出する。カソード相対湿度演算部353は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_sensをカソード湿潤要求流量演算部354に出力する。
カソード湿潤要求流量演算部354は、目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、燃料電池スタック1の湿潤状態を目標とする状態にするためのカソード湿潤要求流量Qc_rwを演算する。
カソード湿潤要求流量演算部354は、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力Qc_sensを取得し、飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得し、カソード相対湿度演算部353からカソード出口相対湿度RHc_out_sensを取得する。
カソード湿潤要求流量演算部354は、次式(11)のように、目標排水量Qw_outと、カソードガス流量Qc_sensと、飽和水蒸気圧Psatと、カソード出口相対湿度RHc_out_sensとに基づいて、カソード湿潤要求流量Qc_rwを算出する。
カソード湿潤要求流量演算部354は、算出したカソード湿潤要求流量Qc_rwをカソード目標流量設定部355に出力する。
カソード目標流量設定部355は、カソード湿潤要求流量Qc_rwとカソード上限流量とのうち小さい方の値を、カソード目標流量としてカソード系指令部240に出力する。
図19は、本実施形態における湿潤制御方法についての処理手順の一例を示すフローチャートである。この湿潤制御方法の処理手順は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
本実施形態の湿潤制御方法では、ステップS1〜S7、S10の一連の処理は、図9に示したものと同様であるため、ここでは、ステップS7以降の処理手順について説明する。なお、ステップS3aでは、図9に示したステップ3の処理に加えて、湿潤制御部300の飽和水蒸気圧演算部321が、入口水温センサ46及び出口水温センサ47からそれぞれスタック入口水温Tin及びスタック出口水温Toutを取得し、両者の平均値をスタック温度Tとして算出する。スタック温度Tは、燃料電池スタック1内の飽和水蒸気圧Psatの算出に用いられる。
ステップS7において湿潤制御部300のDRY操作モード切替部310は、計測HFRが所定の下限値に達したか否かを判断し、計測HFRが下限値に達した場合にドライ操作を実施する必要があると判定する。DRY操作モード切替部310は、ドライ操作を実施する必要がないと判定した場合には、図9で示したステップS10の処理に進む。
ステップS71においてDRY操作モード切替部310は、ドライ操作を実施する必要があると判定した場合には、電解質膜111の水分を速やかに減らす必要があるか否かを判断する。本実施形態では、DRY操作モード切替部310は、目標HFRから計測HFRを減算した値であるHFR偏差が所定の速乾要求閾値よりも大きいか否かを判断する。
速乾要求閾値は、早期に電解質膜111の湿潤状態を乾燥状態に遷移させる必要性が高いか否かを判定するための閾値である。速乾要求閾値は、例えば15[Ω・cm2]に設定される。
ステップS40においてDRY操作モード切替部310は、HFR偏差が速乾要求閾値よりも大きい場合には、電解質膜111の水分を速やかに減らす必要があると判断し、速乾性重視ドライ操作処理を実行する。速乾性重視ドライ操作処理については第4実施形態で説明する。
ステップS72においてDRY操作モード切替部310は、HFR偏差が速乾要求閾値以下である場合には、電解質膜111の水分を速やかに減らす必要がないと判断し、燃料電池スタック1の出力を確保する必要があるか否かを判断する。本実施形態では、DRY操作モード切替部310は、スタック目標電流が所定の高負荷要求閾値よりも大きいか否かを判断する。
高負荷要求閾値は、燃料電池スタック1の出力を増加させる必要性が高いか否かを判定するための閾値である。例えば、高負荷要求閾値は、車両が加速する際に必要となる燃料電池スタック1の出力電流値に基づいて設定される。あるいは、高負荷要求閾値は、高負荷運転が所定時間以上継続した場合に限り設定されるものであってもよい。
ステップS30においてDRY操作モード切替部310は、スタック目標電流が高負荷要求閾値以下である場合には、燃料電池システム100の消費電力を抑制可能であると判断し、燃費重視ドライ操作処理を実行する。燃費重視ドライ操作処理については第3実施形態で説明する。
ステップS20においてDRY操作モード切替部310は、スタック目標電流が高負荷要求閾値よりも大きい場合には、燃料電池スタック1の出力を確保する必要があると判断し、本実施形態の出力重視ドライ操作処理を実行する。出力重視ドライ操作処理については図20を参照して説明する。
ステップS10からステップS40までのいずれかの処理が終了すると、燃料電池システム100の湿潤制御方法の一連の処理が終了する。次にステップS20で実行される出力重視ドライ操作処理について詳細に説明する。
図20は、本実施形態における湿潤制御部300の出力重視ドライ操作処理についての処理手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS21において湿潤制御部300の出力重視DRY操作設定部311は、出力重視ドライ操作で実行される各制御の優先順位を設定する優先制御パラメータ(WET操作値)として、カソード下限流量、カソード上限圧力、及びアノード下限圧力を演算する。
ステップS22において湿潤制御部300のアノード目標流量演算部320aは、図12で述べたとおり、優先制御パラメータであるカソード下限流量、カソード上限圧力、及びアノード下限圧力と、目標水収支とに基づいて、アノード目標流量を演算する。3つの優先制御パラメータをアノード目標流量演算部320aに設定することにより、アノードガス循環流量を減少させる減量制御の優先順位が最も高くなる。
このため、アノード目標流量演算部320aは、出力重視ドライ操作において、カソードガス流量制御、カソードガス圧力制御、及びアノードガス圧力制御の3つの制御が全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもアノード目標流量を迅速に下げる。
ステップS23において湿潤制御部300のアノード目標圧力演算部330aは、図16で述べたとおり、優先制御パラメータであるカソード下限流量及びカソード上限圧力と、アノードガス流量と、目標水収支とに基づいて、アノード目標圧力を演算する。2つの優先制御パラメータをアノード目標圧力演算部330aに設定することにより、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御の優先順位が2番目に高くなる。
このため、アノード目標圧力演算部330aは、出力重視ドライ操作において、カソードガス流量制御及びカソードガス圧力制御の2つの制御が全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもアノード目標圧力を迅速に上げる。
ステップS24において湿潤制御部300のカソード目標圧力演算部340は、図17で述べたとおり、優先制御パラメータであるカソード下限流量、アノードガス流量、及びアノードガス圧力と、目標水収支とに基づいて、カソード目標圧力を演算する。1つの優先制御パラメータをカソード目標圧力演算部340に設定することにより、カソードガス圧力を降下させる降圧制御の優先順位が3番目に高くなる。
このため、カソード目標圧力演算部340は、出力重視ドライ操作においてカソードガス流量制御のみが全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもカソード目標圧力を迅速に下げる。
ステップS25において湿潤制御部300のカソード目標流量演算部350aは、図17で述べたとおり、カソードガス圧力、アノードガス流量、及びアノードガス圧力と、目標水収支とに基づいて、カソード目標流量を演算する。優先制御パラメータが用いられていないため、カソード目標流量演算部350aは、通常どおり、カソード目標流量を上げる。したがって、カソードガス流量を増加させる増量制御の優先順位が4番目になる。
ステップS200においてコントローラ200のカソード系指令部240及びアノード系指令部250は、アノード目標流量、アノード目標圧力、カソード目標圧力、及びカソード目標流量に基づいて、ガス状態調整処理を実行する。ガス状態調整処理については次図を参照して詳細に説明する。ガス状態調整処理が終了すると、図19に示した出力重視ドライ操作処理についての一連の処理手順が終了する。
図21は、ステップS200で実行されるガス状態調整処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS211においてコントローラ200は、アノードガス循環流量がアノード目標流量に収束するように、アノード循環ポンプ36の回転速度を下げる。これにより、アノードガス循環流量が減少する。
ステップS212においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS213においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、アノードガス循環流量がアノード下限流量に達しているか否かを判断し、アノード下限流量に達していない場合には、ステップS211の処理に戻る。
ステップS221においてコントローラ200は、アノードガス流量がアノード下限流量に達した場合には、アノードガス圧力がアノード目標圧力に収束するように、アノード調圧弁33の開度を大きくする。これにより、アノードガス圧力が上昇する。
ステップS222においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS223においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、アノードガス圧力がアノード上限圧力に達しているか否かを判断し、アノード上限圧力に達していない場合には、ステップS221の処理に戻る。
ステップS231においてコントローラ200は、アノードガス圧力がアノード上限圧力に達した場合には、カソードガス圧力がカソード目標圧力に収束するように、カソード調圧弁26の開度を小さくする。これにより、カソードガス圧力が低下する。
ステップS232においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS233においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、カソードガス圧力がカソード下限圧力に達したか否かを判断し、カソード下限圧力に達していない場合には、ステップS231の処理に戻る。
ステップS241においてコントローラ200は、カソードガス圧力がカソード下限圧力に達した場合には、カソードガス流量がカソード目標流量に収束するように、コンプレッサ22の回転速度を上げる。これにより、カソードガス流量が増加する。
ステップS242においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS243においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、カソードガス流量がカソード上限流量に達したか否かを判断する。カソードガス流量がカソード上限流量に達していない場合には、コントローラ200は、ステップS241の処理に戻り、カソードガス流量を増加させる。そして、ステップS242で計測HFRが目標HFRに達した場合、又は、ステップS243でカソードガス流量がカソード上限流量に達した場合に、ガス状態調整処理が終了する。
図22は、本実施形態の出力重視ドライ操作における燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図22(A)は、燃料電池スタック1の計測HFRの変化を示す図である。図22(B)及び図22(C)は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの流量及び圧力の変化を示す図である。図22(D)及び図22(E)は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力及び流量の変化を示す図である。図22(F)は、燃料電池スタック1の目標電流を示す図である。図22(A)から図22(F)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
時刻t10では、図22(A)に示すように、例えば、加速後に負荷装置5の要求電力の大幅な低下に伴って目標HFRが大幅に上昇する。これに伴って、DRY操作モード切替部310は、計測HFRが目標HFRよりも低くなるため、ドライ操作を実施する必要があると判定する。
そして、DRY操作モード切替部310は、計測HFRと目標HFRとの差分が速乾要求閾値よりも小さいため、電解質膜111の水分を迅速に減らす必要はないと判断する。次にDRY操作モード切替部310は、スタック目標電流が高負荷要求閾値よりも高いか否かを判断する。図22(F)に示すように、スタック目標電流が高負荷要求閾値よりも高いため、DRY操作モード切替部310は、燃料電池スタック1の出力を確保する必要があると判断し、3つのドライ操作モードの中から出力重視ドライ操作モードを選択する。
このため、出力重視DRY操作設定部311は、アノード目標流量演算部320aに対し、カソード下限流量、カソード上限圧力、アノード下限圧力を各計測値に代えて設定する。さらに出力重視DRY操作設定部311は、アノード目標圧力演算部330aに対し、計測値に代えてカソード下限流量、及びカソード上限圧力を設定すると共に、カソード目標圧力演算部340に対し、計測値に代えてカソード下限流量を設定する。すなわち、出力重視DRY操作設定部311は、出力重視ドライ操作時に、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス圧力制御、カソードガス流量制御の順に各制御に関する優先順位を設定する。
これにより、図22(B)に示すように、アノード目標流量演算部320aにより、他の制御よりも優先してアノード循環ポンプ36の回転速度が下げられてアノードガス循環流量が減少する。これに伴い、アノードガス循環通路35に保管されるアノード循環水量が減少するため、電解質膜111の水分が減少し、図22(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かって上昇する。このように、出力重視ドライ操作において、1番目に、アノードガス循環流量を減少させる減量制御を実行することにより、アノード循環ポンプ36の消費電力を早期に低減させることができる。
時刻t11では、図22(B)及び図22(C)に示すように、アノードガス循環流量がドライ操作の下限値に到達する。このため、アノードガス流量制御を補完するようにアノード目標圧力演算部330aによりアノード調圧弁33が開かれてアノードガス圧力が上昇する。これに伴って、アノードガス流路121中の水蒸気分圧が上昇し、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水蒸気の流量が減少し、アノード循環水量が減少するので、図22(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。また、アノードガス圧力を上昇させることにより、燃料電池スタック1の発電に必要となる水素を十分に確保することができるようになる。
このように、出力重視ドライ操作において、2番目に、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御を実行することにより、電解質膜111の水分を減らしつつ、燃料電池スタック1の高負荷運転時においける水素不足を回避することができる。
時刻t12において、図22(C)及び図22(D)に示すように、アノードガス圧力がドライ操作の上限値に到達する。このため、アノードガス圧力制御を補完するようにカソード目標圧力演算部340によりカソード調圧弁26が開かれてカソードガス圧力が低下する。これに伴って、アノード循環水量が減少するので、図22(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、出力重視ドライ操作において、3番目に、カソードガス圧力を降下させる降圧制御を実行することにより、コンプレッサ22によるカソードガス流量制御よりも優先してカソード調圧弁26によるカソードガス圧力制御が実行されることになる。このため、カソード調圧弁26の応答性がコンプレッサ22の応答性よりも良いので、カソードガス流量よりも迅速に、カソードガス圧力をドライ操作の限界値に収束させることができる。
時刻t13において、図22(D)及び図22(E)に示すように、カソードガス圧力がドライ操作の下限値に到達する。このため、カソードガス圧力制御を補完するようにカソード目標流量演算部350aによりコンプレッサ22の回転速度が上げられてカソードガス流量が増加する。これに伴って、燃料電池スタック1からカソードガスによって持ち出される水蒸気の排出量も増加するので、図22(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、出力重視ドライ操作において、4番目に、カソードガス流量を増加させる増量制御を実行することにより、コンプレッサ22の消費電力を増加させる機会を減らすことができる。
時刻t14において、図22(E)に示すように、カソードガス流量がドライ操作の上限値に到達し、図22(A)に示すように、計測HFRが目標HFRに到達する。
以上のように、出力重視ドライ操作において、アノードガス流量、アノードガス圧力、カソードガス圧力、カソードガス流量の順にそれぞれを制御することで、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減しつつ、燃料電池スタック1の出力を確保することができる。
なお、図22(B)では出力重視ドライ操作においてカソードガス循環流量が電解質膜111の湿潤要求によって設定されるDRY操作の下限値まで下げられたが、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求により設定される下限値により制限されることもある。
図23は、出力重視ドライ操作において、アノードガスの減量制御が湿潤要求とは異なる要求によって制限されたときの燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図23(A)は、燃料電池スタック1の目標HFRを示す図である。図23(B)及び図23(C)は、それぞれアノードガス循環流量及びアノードガス圧力を示す図である。図23(D)は、アノード循環水量を示す図である。これらの図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
ここでは、本実施形態の出力重視ドライ操作が実線により示され、図12に示したアノード目標圧力演算部330aがアノードガス流量の計測値の代わりにアノード湿潤要求流量を用いてアノード目標圧力を算出したときのドライ操作が点線により示されている。
時刻t20において、図23(A)に示すように、目標HFRが大幅に上昇する。そして、図23(B)に示すように、アノードガス循環流量が減少する。
時刻t21において、湿潤要求とは別の要求により設定された下限流量にアノードガス循環流量が到達したため、ドライ操作におけるアノードガス流量制御が制限される。この下限流量は、例えば、図13に示したアノード下限流量演算部327の演算結果である。
本実施形態では、アノード目標圧力演算部330aがアノードガス循環流量の推定値を用いてアノード目標圧力を演算するので、アノードガス流量制御が制限された直後にアノードガス圧力が上昇する。すなわち、アノードガスの減量制御によって電解質膜111の湿潤状態を操作しきれない部分を補完するようにアノードガスの昇圧制御が実行される。このため、図23(A)の実線で示すように、アノードガス流量制御が制限されたとしても計測HFRを継続して上昇させることができる。
一方、アノード目標圧力演算部330aが、図13で示したアノード湿潤要求流量演算部326の演算結果を用いてアノード目標圧力を演算したとすると、図23(C)の点線で示すように、時刻t31から時刻t32までの間、アノードガスの昇圧制御が実行されない。その結果、図23(A)の点線で示すように、ドライ操作が完了するのに要する時間が長くなってしまう。
このように、本実施形態では、アノード目標圧力演算部330aが、アノードガス流量として推定値を用いてアノード目標圧力を演算するので、アノード湿潤要求流量を用いる場合に比べて、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
図24は、目標HFRが急峻に上昇したときのドライ操作における燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図24(A)は、目標HFRの変化を示す図である。図24(B)から図24(D)までの各図面の縦軸は、図23(B)から図23(D)までの各図面の縦軸と同じであり、図24(A)から図24(D)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。また、図24(B)には、アノードガス循環流量が実線により示され、アノード目標流量が破線により示されている。
時刻t30において、図24(A)に示すように目標HFRがパルス状に上昇する。例えば、車両が加速状態から減速状態に切り替わることで負荷装置5の要求電力が極端に下った場合に、図8の特性から目標HFRが大幅に上昇する。
図24(B)に示すように、アノード目標流量演算部320aは、目標HFRを達成できるアノード目標流量を算出する。しかしながら、アノードガス循環流量は、アノード循環ポンプ36の応答遅れが原因でアノード目標流量よりも遅れて低下する。
時刻t30の直後は、アノードガス循環流量とアノード目標流量との乖離が大きいため、アノード循環ポンプ36によるドライ操作が十分に行われない。そのため、アノード目標圧力演算部330aが、アノードガス循環流量とアノード目標流量との差分を補完するようにアノード目標圧力を高くするので、図24(C)に示すようにアノードガス圧力が過渡的に上昇する。
時刻t30から時間が経過するにつれて、アノードガス循環流量とアノード目標流量との差分が小さくなるため、アノード目標圧力演算部330aは、過渡的に高くした分だけアノード目標圧力を下げる。このため、図24(C)に示すように、過渡的に上昇した後にアノードガス圧力が低下する。
時刻t31において、図24(B)に示すようにアノードガス循環流量がアノード目標流量に到達し、図24(C)に示すようにアノードガス圧力が定常状態となる。
このように、湿潤制御部300は、目標HFRが大幅に上昇する場合には、アノード循環ポンプ36による減量制御に遅れが生じるため、その遅れた分だけアノードガスの昇圧制御を実行する。すなわち、湿潤制御部300は、過渡状態での出力重視ドライ操作時には、アノードガス循環流量を減少させると共に、目標HFRと計測HFRとの差分が小さくなるようにアノードガス圧力を上昇させる。
以上のように、出力重視ドライ操作を実施するときには、アノードガス循環流量を減らす減量制御で調整しきれない部分を補完するように、アノードガス圧力を高くする昇圧制御が実行される。すなわち、出力重視ドライ操作では、電解質膜111の湿潤状態に応じて、アノードガスの減量制御及び昇圧制御のうち少なくとも減量制御が実行される。これにより、燃料電池スタック1の発電性能を維持しつつ、電解質膜111の水分を減らすことができる。
本発明の第2実施形態によれば、湿潤制御部300は、少なくともドライ操作時には、アノードガス循環流量が増加するほど、アノードガス圧力の上昇を抑制し、かつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス圧力を上昇させる。これにより、アノードガス循環流量を減少させる減量制御を実行しても電解質膜111の水分が減らないときには、その減らない部分を補完するようにアノードガス圧力を上昇させることができる。したがって、図23に示したように、ドライ操作に要する時間の増加を低減することができる。
また、本実施形態によれば、湿潤制御部300のアノード目標流量演算部320aは、電解質膜111の湿潤度と相関のある計測HFRとアノードガス圧力の計測値とに基づいて、アノード循環ポンプ36を用いてアノードガス循環流量を制御する。そして、湿潤制御部300のアノード目標圧力演算部330aは、計測HFRとアノードガス流量の計測値とに基づいて、アノード調圧弁33を用いてアノードガス圧力を制御する。
そして、ドライ操作を実施する場合には、出力重視DRY操作設定部311は、計測HFRに基づく目標水収支と、電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス圧力であるWET操作値とをアノード目標流量演算部320aに設定する。さらに、出力重視DRY操作設定部311は、計測HFRとアノードガス流量とをアノード目標圧力演算部330aに設定する。これにより、ドライ操作において、アノードガス循環流量を減少させる減量制御の優先順位、すなわち負荷割合を、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御よりも高くすることができる。
また、本実施形態によれば、ドライ操作において電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス圧力は、燃料電池10の性能を確保できる範囲で最も低い圧力値に設定される。これにより、アノードガスの昇圧制御に比べて、アノードガスの減量制御をより一層迅速に実行することができる。
また、本実施形態によれば、湿潤制御部300は、出力重視ドライ操作を実行する場合には、図22に示したように、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス圧力制御、カソードガス流量制御の順に各制御を実行する。
このため、アノードガスの昇圧制御よりも優先してアノードガスの減量制御が実行されるので、図4に示したように、ドライ操作に寄与しない状況でのアノードガスの昇圧制御の実行を抑制することができる。また、カソードガスの降圧制御よりも優先してアノードガスの昇圧制御が実行されるので、応答性の良いアノード調圧弁33を駆動してアノードガス圧力を迅速に高くするので、アノードガス流量制御で調整しきれない分を早期に補完ことができる。さらに、カソードガスの降圧制御よりも優先してアノードガスの昇圧制御が実行されるので、燃料電池スタック1の発電性能の確保を優先することができる。また、カソードガスの降圧制御がカソードガスの増量制御よりも優先して実行されるので、出力重視ドライ操作におけるコンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、湿潤制御部300は、少なくともドライ操作を実施する場合において、燃料電池スタック1の出力を確保する必要があるときに限り、アノードガス循環流量をアノードガス圧力よりも優先して制御する。これにより、ドライ操作を実施しつつ、燃料電池スタック1の発電性能の低下を抑制することができる。
(第3実施形態)
第2実施形態では出力重視ドライ操作を実施するときの湿潤制御部300の構成について説明したが、次の実施形態では、燃費重視ドライ操作を実施するときの湿潤制御部300の構成について詳細に説明する。
図25は、本発明の第3実施形態における湿潤制御部300の詳細構成の一例を示すブロック図である。
湿潤制御部300は、燃費重視DRY操作設定部312と、カソード目標圧力演算部340bと、アノード目標流量演算部320bと、カソード目標流量演算部350bと、アノード目標圧力演算部330bとを含む。
なお、アノード目標流量演算部320b、アノード目標圧力演算部330b、カソード目標圧力演算部340b、及びカソード目標流量演算部350bの各構成は、図12に示したものと基本的に同様の構成である。本実施形態の各構成は、第2実施形態に比べて入力パラメータの一部又は全部が相違し、また、各制御の優先順位も相違している。
燃費重視DRY操作設定部312は、DRY操作モード切替部310から選択信号を受信すると、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス流量制御、及びカソードガス圧力制御の各制御に関する優先順位を設定する。すなわち、燃費重視DRY操作設定部312は、アノード循環ポンプ36、アノード調圧弁33、コンプレッサ22、及びカソード調圧弁26の各動作を制御する順番を、電解質膜111の湿潤状態に応じて調整する。
燃費重視DRY操作設定部312は、計測HFRが目標HFR以上である場合には、ウェット操作パラメータとして、カソードガス圧力、カソードガス流量、及びアノードガス圧力の各計測値を出力する。一方、燃費重視DRY操作設定部312は、計測HFRが目標HFRよりも低い場合には、各制御の優先順位を設定するためのドライ操作パラメータとして、各計測値の代わりに、電解質膜111を現在よりもウェット状態にするときのWET操作値を出力する。
燃費重視DRY操作設定部312は、燃料電池スタック1の計測HFRが目標HFR以上である場合には、ウェット操作パラメータとして、カソードガス流量、カソードガス流量、及びアノードガス圧力の各計測値を出力する。
一方、燃費重視DRY操作設定部312は、計測HFRが目標HFRよりも低い場合には、各計測値の代わりに、ドライ操作パラメータとして、電解質膜111をウェット状態にするときのWET操作値をそれぞれ出力する。
例えば、燃費重視ドライ操作において、カソードガス流量制御のWET操作値としては、カソードガス流量の計測値よりも小さな値が用いられ、アノードガス流量制御のWET操作値としては、アノードガス流量の計測値よりも大きな値が用いられる。また、アノードガス圧力制御のWET操作値としては、アノードガス圧力の計測値よりも小さな値が用いられる。
本実施形態では、燃費重視DRY操作設定部312は、ドライ操作パラメータとして、カソード下限流量、アノード上限流量、及びアノード下限圧力を出力する。これらのドライ操作パラメータは、電解質膜111を最も湿った状態に遷移させる場合に用いられるWET操作値である。
カソード下限流量、及びアノード下限圧力は、それぞれ、図12で述べたとおり、燃料電池スタック1の発電性能を確保できる範囲で最も小さな値に設定される。
アノード上限流量は、アノード循環ポンプ36の動作特性により定められたアノードガス循環流量の上限値である。具体的には、アノード上限流量は、アノード循環ポンプ36のP−Q特性と、アノードガス循環系の圧力損失と、アノード循環ポンプ36の回転速度が上限値に達したときのアノードガス流量と、に基づいて設定される。すなわち、アノード上限流量は、燃料電池スタック1の発電性能を確保できる範囲で最も大きなアノードガス流量に設定される。
カソード目標圧力演算部340bは、電解質膜111の湿潤度と、燃料電池スタック1のアノードガス循環流量とに基づいて、燃料電池スタック1のカソードガス圧力を制御する第2の圧力制御部を構成する。
本実施形態では、カソード目標圧力演算部340bは、目標水収支演算部212からの目標水収支と、カソードガス流量と、アノードガス流量と、アノードガス圧力とに基づいて、カソード目標圧力を演算する。カソード目標圧力演算部340bは、演算したカソード目標圧力をカソード系指令部240に出力する。
燃費重視ドライ操作においては、カソード目標圧力演算部340bは、燃費重視DRY操作設定部312から、アノード上限流量、アノード下限圧力、及びカソード下限流量をWET操作値として取得する。このため、カソード目標圧力演算部340bは、アノードガス流量、アノードガス圧力、及びカソードガス流量の各計測値を取得する場合に比べて、カソード目標圧力を小さくすることができる。このように、燃費重視DRY操作設定部312は、ドライ操作において、カソード圧力制御の優先順位を、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、及びカソードガス流量制御の優先順位よりも高くすることができる。
アノード目標流量演算部320bは、電解質膜111の湿潤度と、燃料電池スタック1のカソードガス圧力とに基づいて、燃料電池スタック1のアノードガス循環流量を制御する第2の流量制御部を構成する。
本実施形態では、アノード目標流量演算部320bは、目標水収支と、カソードガス流量と、カソードガス圧力と、アノードガス圧力とに基づいて、アノード目標流量を演算する。アノード目標流量演算部320bは、演算したアノード目標流量をアノード系指令部250に出力する。
燃費重視ドライ操作において、アノード目標流量演算部320bは、燃費重視DRY操作設定部312から、カソード下限流量、及びアノード下限圧力をWET操作値として取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力の計測値を取得する。このため、アノード目標流量演算部320bは、カソードガス流量、及びアノードガス圧力の各計測値を取得した場合に比べて、アノード目標流量を小さくすることができる。したがって、燃費重視DRY操作設定部312は、ドライ操作において、アノード流量制御の優先順位を、カソードガス流量制御、及びアノードガス圧力制御の優先順位よりも高くすることができる。
カソード目標流量演算部350bは、目標水収支と、カソードガス圧力と、アノードガス流量と、アノードガス圧力とに基づいて、カソード目標流量を演算する。カソード目標流量演算部350bは、演算したカソード目標流量をアノード系指令部250に出力する。
燃費重視ドライ操作では、カソード目標流量演算部350bは、燃費重視DRY操作設定部312からアノード下限圧力をWET操作値として取得する。そして、カソード目標流量演算部350bは、アノードガス循環流量推定部230からアノードガス循環流量の推定値を計測値として取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力の計測値を取得する。このため、カソード目標流量演算部350bは、アノードガス圧力の計測値を取得した場合に比べて、カソード目標流量を大きくすることができる。したがって、燃費重視DRY操作設定部312は、ドライ操作において、カソードガス流量制御の優先順位を、アノードガス圧力制御の優先順位よりも高くすることができる。
アノード目標圧力演算部330bは、目標水収支と、カソードガス流量と、カソードガス圧力と、アノードガス流量とに基づいて、アノード目標圧力を演算する。アノード目標圧力演算部330bは、演算したアノード目標圧力をアノード系指令部250に出力する。
燃費重視ドライ操作では、アノード目標圧力演算部330bは、流量センサ23及びカソード圧力センサ24から、それぞれカソードガス流量及びカソードガス圧力の計測値を取得し、アノードガス循環流量推定部230から計測値としてアノードガス循環流量を取得する。このため、アノード目標圧力演算部330bは、カソードガス流量、カソードガス圧力、及びアノードガス流量の各計測値に従ってアノード目標圧力を適切に増減させることができる。
以上のように、燃費重視DRY操作設定部312は、燃費重視ドライ操作を実施する時に、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御、カソードガス流量制御、アノードガス圧力制御の順に各制御の優先順位を設定する。これにより、アノードガス流量制御よりも優先してカソードガス圧力制御が実行されることになるので、早期にコンプレッサ22の消費電力を低減することができる。
また、ドライ操作においてカソードガス流量制御を実行すると、コンプレッサ22の回転速度が高くなるため、コンプレッサ22の消費電力が増加する。上述のように、アノードガス流量制御がカソードガス流量制御よりも先に実行されるので、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。
さらに、アノード循環ポンプ36の異常などによりアノード循環ポンプ36が作動しない場合には、アノードガス循環流量を減少させる減量制御が不能となる。このような場合には、燃費重視DRY操作設定部312は、アノード上限流量に代えて、アノードガス流量の計測値を出力する。
このように、アノードガス流量が制御不能な場合には、カソード目標圧力演算部340bは、燃料電池スタック1に供給されている実際のアノードガス流量を用いてカソード目標圧力を算出するので、アノード流量制御系の異常状態に適したドライ操作を実行することができる。なお、アノードガス流量制御の不能時には、燃費重視DRY操作設定部312での演算を停止するようにしてもよい。
次に、本実施形態におけるカソード目標圧力演算部340b、アノード目標流量演算部320b、カソード目標流量演算部350b、及びアノード目標圧力演算部330bの各構成について説明する。なお、本実施形態の各構成については、第2実施形態の構成と基本的に同じであるため、同一符号を付して説明する。
図26は、燃費重視ドライ操作を実施するときのカソード目標圧力演算部340bの詳細構成の一例を示すブロック図である。
カソード目標圧力演算部340bは、An/Ca流量比演算部341と、カソード相対湿度演算部342と、カソード湿潤要求圧力演算部343と、カソード下限圧力演算部344と、カソード目標圧力設定部345とを含む。
An/Ca流量比演算部341は、燃料電池スタック1内のカソードガス流量に対するアノードガス流量の比率を示すAn/Ca流量比Kac_maxを演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部341は、燃費重視DRY操作設定部312から、アノード上限流量Qa_max及びカソード下限流量Qc_minを取得する。An/Ca流量比演算部341は、次式(12)のように、An/Ca流量比Kac_maxを演算する。
An/Ca流量比演算部341は、演算したAn/Ca流量比Kac_maxを、アノードガス圧力とアノードガス圧力との極間差圧ΔPacに応じて補正する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部341は、燃費重視DRY操作設定部312からアノード下限圧力Pa_minを取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力の計測値Pc_sensを取得する。そして、An/Ca流量比演算部341は、アノード下限圧力Pa_minからカソードガス圧力Pc_sensを減算して、極間差圧ΔPac_aminを算出する。
An/Ca流量比演算部341は、極間差圧ΔPac_paminを算出すると、図15の流量比補正マップを参照し、極間差圧ΔPac_paminに関係付けられた補正係数Eac_paminを算出する。An/Ca流量比演算部341は、次式(13)のように、算出した補正係数Eac_paminに基づいて、An/Ca流量比Kac_maxを、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_3max_0に補正する。
An/Ca流量比演算部341は、補正後のAn/Ca流量比Kac_3max_0をカソード相対湿度演算部342に出力する。
カソード相対湿度演算部342は、補正後のAn/Ca流量比Kac_3max_0に基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_3minを演算する。
本実施形態では、カソード相対湿度演算部342は、補正後のAn/Ca流量比Kac_3max_0を取得すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、An/Ca流量比Kac_3max_0に関連付けられたカソード出口相対湿度RHc_out_3minを算出する。
カソード相対湿度演算部342は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_3minをカソード湿潤要求圧力演算部343に出力する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、図13に示した目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outと、カソード出口相対湿度RHc_out_3minとに基づいて、カソード湿潤要求圧力Pc_rwを演算する。
燃費重視ドライ操作において、カソード湿潤要求圧力演算部343は、燃費重視DRY操作設定部312からカソード下限流量Qc_minを取得し、図13に示した飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。そして、カソード湿潤要求圧力演算部343は、次式(14)のように、カソード下限流量Qc_minと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとカソード出口相対湿度RHc_out_3minとに基づいて、カソード湿潤要求圧力Pc_rwを算出する。
式(14)に示したように、カソード下限流量Qc_minが小さくなるほど、アノード湿潤要求圧力Pa_rwは小さくなる。したがって、カソードガス流量の計測値Qc_sensの代りにカソード下限流量Qc_minを用いることにより、カソード湿潤要求圧力Pc_rwを早期に下げることができる。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、算出したアノード湿潤要求圧力Pa_rwをカソード目標圧力設定部345に出力する。
カソード下限圧力演算部344は、図17に示したカソード下限圧力演算部と同一の構成である。カソード下限圧力演算部344は、燃料電池スタック1の運転状態に応じてカソード下限圧力を演算し、演算したカソード下限圧力をカソード目標圧力設定部345に出力する
カソード目標圧力設定部345は、カソード下限圧力とカソード湿潤要求圧力Pc_rwとのうち大きい方の値を、カソード目標圧力としてカソード系指令部240に出力する。
このように、カソード目標圧力演算部340bにおいて、燃費重視ドライ操作を実施する場合にカソード湿潤要求圧力Pc_rwを速やかに小さくするには、式(14)の関係から、カソード出口相対湿度RHc_outを小さくすると共にカソードガス流量Qcを小さくする必要がある。
カソード出口相対湿度RHc_outを小さくするには、図14に示した相対湿度/流量比マップの関係からAn/Ca流量比Kac_0を大きくすればよい。An/Ca流量比Kac_0を大きくするには、カソードガス流量Qcを小さくし、アノードガス流量Qaを大きくすると共に、図15に示した流量比補正マップの関係から補正係数Eacが小さくなるようにアノードガス圧力Paを小さくすればよい。
本実施形態では、燃費重視DRY操作設定部312は、燃費重視ドライ操作において、WET操作値として、カソード下限流量Qc_min、アノード上限流量Qa_max及びアノード下限圧力Pa_minを計測値の代わりにカソード目標圧力演算部340bに出力する。これにより、カソードガス流量及びアノードガス流量の計測値を用いる場合に比べて、式(12)中のAn/Ca流量比Kac_maxが大きくなるので、式(13)中のAn/Ca流量比Kac_3max_0を大きくすることができる。さらに、アノード下限圧力Pa_minを用いることにより、An/Ca流量比の補正係数Eac_paminが小さくなるので、An/Ca流量比Kac_3max_0をより一層大きくすることができる。
このため、An/Ca流量比Kac_3max_0が最も大きくなり、カソード出口相対湿度RHc_out_minが最も小さくなる。したがって、燃費重視ドライ操作におけるカソードガス圧力制御の優先度が最も高くなるので、カソード湿潤要求圧力Pc_rwを早期に下げることができる。
図27は、燃費重視ドライ操作を実施するときのアノード目標流量演算部320bの機能構成の一例を示すブロック図である。
アノード目標流量演算部320bは、カソード相対湿度演算部324と、An/Ca流量比演算部325と、アノード湿潤要求流量演算部326と、アノード下限流量演算部327と、アノード目標流量設定部328とを含む。
カソード相対湿度演算部324は、目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_qcminを演算する。
本実施形態では、カソード相対湿度演算部324は、燃費重視DRY操作設定部312からカソード下限流量Qc_minを取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力Pc_sensを取得し、飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。
そして、カソード相対湿度演算部324は、次式(15)のように、カソード下限流量Qc_minとカソードガス圧力Pc_sensと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_qcminを算出する。
カソード相対湿度演算部324は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_qcminをAn/Ca流量比演算部325に出力する。
An/Ca流量比演算部325は、カソード出口相対湿度RHc_out_qcminに基づいて、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_qcmin_0を演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部325は、カソード出口相対湿度RHc_out_qcminを取得すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、カソード出口相対湿度RHc_out_qcminに関係付けられたAn/Ca流量比Kac_qcmin_0を算出する。
また、An/Ca流量比演算部325は、燃費重視DRY操作設定部312からアノード下限圧力Pa_minを取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力Pc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部325は、アノード下限圧力Pa_minからカソードガス圧力Pc_sensを減算して極間差圧ΔPac_paminを算出すると、図15の流量比補正マップを参照し、極間差圧ΔPac_paminに関係付けられた補正係数Eac_paminを算出する。
An/Ca流量比演算部325は、次式(16)のように、算出した補正係数Eac_paminを、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_qcmin_0に乗算して、極間差圧ΔPac_paminのときのAn/Ca流量比Kac_2minを算出する。
An/Ca流量比演算部325は、算出したAn/Ca流量比Kac_2minをアノード湿潤要求流量演算部326に出力する。
アノード湿潤要求流量演算部326は、An/Ca流量比Kac_2minに基づいて、アノード湿潤要求流量Qa_rwを演算する。
本実施形態では、アノード湿潤要求流量演算部326は、燃費重視DRY操作設定部312からカソード下限流量Qc_minを取得する。そして、アノード湿潤要求流量演算部326は、次式(17)のように、カソード下限流量Qc_minとAn/Ca流量比Kac_2minとに基づいて、アノード湿潤要求流量Qa_rwを算出する。
アノード湿潤要求流量演算部326は、算出したアノード湿潤要求流量Qa_rwをアノード目標流量設定部328に出力する。
アノード下限流量演算部327は、図13に示したアノード下限流量演算部と同一の構成である。アノード下限流量演算部327は、燃料電池スタック1の運転状態に応じてアノード下限流量を演算し、演算したアノード下限流量をアノード目標流量設定部328に出力する。
アノード目標流量設定部328は、アノード下限流量とアノード湿潤要求流量Qa_rwとのうち大きい方の値を、アノード目標流量としてアノード系指令部250に出力する。
このように、アノード目標流量演算部320bにおいて、ドライ操作時にアノード湿潤要求流量Qa_rwを速やかに小さくするには、式(17)の関係から、An/Ca流量比Kacを小さくすると共にカソードガス流量Qcを小さくする必要がある。
An/Ca流量比Kacを小さくするには、補正係数Eacを小さくし、図14に示した相対湿度/流量比マップの関係からカソード出口相対湿度RHc_outを大きくすればよい。補正係数Eacを小さくするには、カソードガス圧力Pc、又はアノードガス圧力Paを小さくすればよく、カソード出口相対湿度RHc_outを小さくするには、カソードガス流量Qcを小さくすればよい。
本実施形態では、燃費重視DRY操作設定部312は、燃費重視ドライ操作において、WET操作値であるカソード下限流量Qc_min、及びアノード下限圧力Pa_minを計測値の代わりにアノード目標流量演算部320bに出力する。これにより、カソードガス流量、及びアノードガス圧力の計測値を用いる場合に比べて、式(16)中のカソード出口相対湿度RHc_out_qcminが大きくなるので、式(17)中のAn/Ca流量比Kac_2minを小さくすることができる。さらに、アノード下限圧力Pa_minを用いることにより、An/Ca流量比の補正係数Eac_minが小さくなるので、An/Ca流量比Kac_2minがより一層小さくなる。
このように、An/Ca流量比Kac_2minを小さくすると共に、式(17)中のカソードガス流量にカソード下限流量Qc_minを設定することにより、アノード湿潤要求流量Qa_rwを早期に下げることができる。
以上のように、アノード目標流量演算部320bでは、式(15)の関係から、カソード湿潤要求圧力Pc_rwが低下してカソードガス圧力Pc_sensが低下するほど、カソード出口相対湿度RHc_out_qcminが小さくなる。カソード出口相対湿度RHc_out_qcminが小さくなるほど、図14に示した相対湿度/流量比マップの関係からAn/Ca流量比Kac_2minが大きくなり、アノード湿潤要求流量Qa_rwは大きくなる。すなわち、カソード湿潤要求圧力Pc_rwが低下するほど、アノード湿潤要求流量Qa_rwは大きくなるため、アノードガス循環流量を減少させる減量制御は抑制される。
一方、目標水収支Qw_tが小さくなって目標排水量Qw_outが大きくなるほど、式(15)の関係から、カソード出口相対湿度RHc_out_qcminは大きくなるので、An/Ca流量比Kac_2minが小さくなり、アノード湿潤要求流量Qa_rwは小さくなる。
このように、アノード目標流量演算部320bは、燃費重視ドライ操作において、カソードガス圧力を下げている状況であっても、目標排水量Qw_outが減少しなければ、アノード目標流量を減少させることができる。すなわち、湿潤制御部300は、燃費重視ドライ操作時には、カソードガス圧力が低下するほど、アノードガス循環流量の減少を抑制し、かつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス循環流量を減少させることができる。
図28は、燃費重視ドライ操作を実施するときのカソード目標流量演算部350bの機能構成の一例を示すブロック図である。
カソード目標流量演算部350bは、カソード上限流量演算部351と、An/Ca流量比演算部352と、カソード相対湿度演算部353と、カソード湿潤要求流量演算部354と、カソード目標流量設定部355と、遅延回路356とを含む。
カソード上限流量演算部351は、図18に示したカソード上限流量演算部と同一の構成である。カソード上限流量演算部351は、燃料電池システム100の運転状態に応じてカソード上限流量を演算し、演算したカソード上限流量をカソード目標流量設定部355に出力する。
An/Ca流量比演算部352は、アノードガス循環流量推定部230からのアノードガス循環流量を計測値Qa_sensとして取得し、遅延回路356からカソード目標流量の前回値Qc_t_dlyを取得する。An/Ca流量比演算部352は、カソード目標流量Qc_t_dlyとアノードガス流量Qa_sensとに基づいて、An/Ca流量比Kac_ctを算出する。
そして、An/Ca流量比演算部352は、燃費重視DRY操作設定部312からアノード下限圧力Pa_minを取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力Pc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部352は、アノード下限圧力Pa_minからカソードガス圧力Pc_sensを減算して極間差圧ΔPac_paminを算出する。
An/Ca流量比演算部352は、極間差圧ΔPac_paminを算出すると、図15の流量比補正マップを参照し、極間差圧ΔPac_paminに関係付けられた補正係数Eac_paminを算出する。An/Ca流量比演算部352は、An/Ca流量比Kac_ctを補正係数Eac_paminにより除算して、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pamin_0を算出する。
An/Ca流量比演算部352は、算出したAn/Ca流量比Kac_pamin_0をカソード相対湿度演算部353に出力する。
カソード相対湿度演算部353は、An/Ca流量比演算部352からAn/Ca流量比Kac_pamin_0を取得し、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、An/Ca流量比Kac_pamin_0に関連付けられたカソード出口相対湿度RHc_out_paminを算出する。
カソード相対湿度演算部353は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_paminをカソード湿潤要求流量演算部354に出力する。
カソード湿潤要求流量演算部354は、図13に示した目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outと、カソード出口相対湿度RHc_out_paminとに基づいて、カソード湿潤要求流量Qc_rwを演算する。
カソード湿潤要求流量演算部354は、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力Pc_sensを取得し、図13に示した飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。そして、カソード湿潤要求流量演算部354は、次式(18)のように、カソードガス圧力Pc_sensと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード湿潤要求流量Qc_rwを算出する。
カソード湿潤要求流量演算部354は、算出したカソード湿潤要求流量Qc_rwをカソード目標流量設定部355に出力する。
カソード目標流量設定部355は、カソード湿潤要求流量Qc_rwと、カソード上限流量演算部351からのカソード上限流量とのうち小さい方の値を、カソード目標流量Qc_tとしてカソード系指令部240に出力する。また、カソード目標流量設定部355は、カソード目標流量Qc_tを遅延回路356に出力する。
遅延回路356は、カソード目標流量設定部355からのカソード目標流量Qc_tを制御周期の1周期分だけ遅延させる。すなわち、遅延回路356は、カソード目標流量Qc_tを取得すると、前回のカソード目標流量Qc_t_dlyをAn/Ca流量比演算部352に出力する。
図29は、燃費重視ドライ操作を実施するときのアノード目標圧力演算部330bの機能構成の一例を示すブロック図である。
アノード目標圧力演算部330bは、アノード上限圧力演算部331と、カソード相対湿度演算部332と、An/Ca流量比演算部333と、アノード湿潤要求圧力演算部334と、アノード目標圧力設定部335とを含む。
アノード上限圧力演算部331は、図16に示したアノード上限圧力演算部と同一の構成である。アノード上限圧力演算部331は、燃料電池システム100の運転状態に応じてアノード上限圧力を演算し、演算したアノード上限圧力をアノード目標圧力設定部335に出力する
カソード相対湿度演算部332は、図13に示した目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_sensを演算する。
本実施形態では、カソード相対湿度演算部332は、カソード圧力センサ24及び流量センサ23からそれぞれカソードガス圧力Pc_sens及びカソードガス流量Qc_sensを取得し、図13に示した飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。
そして、カソード相対湿度演算部332は、次式(19)のように、カソードガス圧力Pc_sensとカソードガス流量Qc_sensと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_sensを算出する。
カソード相対湿度演算部332は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_sensをAn/Ca流量比演算部333に出力する。
An/Ca流量比演算部333は、カソード出口相対湿度RHc_out_sensに基づいて、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_sens_0を演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部333は、カソード出口相対湿度RHc_out_sensを取得すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、カソード出口相対湿度RHc_out_sensに関係付けられたAn/Ca流量比Kac_sens_0を算出する。
そして、An/Ca流量比演算部333は、アノードガス循環流量推定部230からのアノードガス循環流量を計測値Qa_sensとして取得し、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部333は、アノードガス流量Qa_sensをカソードガス流量Qc_sensにより除算して、An/Ca流量比Kac_sensを算出する。
An/Ca流量比演算部333は、An/Ca流量比Kac_sensと、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_sens_0とをアノード湿潤要求圧力演算部334に出力する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、An/Ca流量比Kac_sensと、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_sens_0とに基づいて、アノード湿潤要求圧力Pa_rwを演算する。
本実施形態では、アノード湿潤要求圧力演算部334は、次式(20)のように、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_sens_0と、実際のAn/Ca流量比Kac_sensとに基づいて、補正係数Eac_sensを算出する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、補正係数Eac_sensを算出すると、図15の流量比補正マップを参照し、補正係数Eac_sensに関係付けられた極間差圧ΔPac_sensを算出する。アノード湿潤要求圧力演算部334は、次式(21)のように、極間差圧ΔPac_sensと、カソードガス圧力Pc_sensとに基づいて、アノード湿潤要求圧力Pa_rwを算出する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、アノード湿潤要求圧力Pa_rwをアノード目標圧力設定部335に出力する。
アノード目標圧力設定部335は、アノード湿潤要求圧力Pa_rwと、アノード上限圧力演算部331からのアノード上限圧力とのうち小さい方の値を、アノード目標圧力としてアノード系指令部250に出力する。
図30は、本実施形態における湿潤制御部300の燃費重視ドライ操作処理についての処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の燃費重視ドライ操作処理は、図19に示したステップS30の処理に対応する。
ステップS31において湿潤制御部300の燃費重視DRY操作設定部312は、アノードガス及びカソードガスの各制御に関する優先順位を設定する優先制御パラメータとして、カソード下限流量、カソード上限圧力、及びアノード下限圧力を演算する。これらのパラメータは、電解質膜111を最も湿った状態にするときのWET操作値である。
ステップS32において湿潤制御部300のカソード目標圧力演算部340bは、図26で述べたとおり、優先制御パラメータであるアノード上限流量、アノード下限圧力、及びカソード下限流量と、目標水収支とに基づいて、カソード目標圧力を演算する。3つの優先制御パラメータをカソード目標圧力演算部340bに設定することにより、カソードガス圧力を降下させる降圧制御の優先順位が最も高くなる。
このため、カソード目標圧力演算部340bは、燃費重視ドライ操作において、カソードガス流量制御、アノードガス流量制御、及びアノードガス圧力制御の3つの制御が全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもカソード目標圧力を迅速に下げる。
ステップS33において湿潤制御部300のアノード目標流量演算部320bは、図27で述べたとおり、優先制御パラメータであるカソード下限流量及びアノード上限流量と、カソードガス圧力と、目標水収支とに基づいて、アノード目標流量を演算する。2つの優先制御パラメータをアノード目標流量演算部320bに設定することにより、アノードガス循環流量を減少させる減量制御の優先順位が2番目に高くなる。
このため、アノード目標流量演算部320bは、燃費重視ドライ操作において、カソードガス流量制御及びアノードガス圧力制御の2つの制御が全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもアノード目標流量を迅速に下げる。
ステップS34において湿潤制御部300のカソード目標流量演算部350bは、図28で述べたとおり、優先制御パラメータであるアノード下限圧力と、カソードガス圧力、及びアノードガス流量と、目標水収支とに基づいて、カソード目標流量を演算する。1つの優先制御パラメータをカソード目標流量演算部350bに設定することにより、カソードガス流量を増加させる増量制御の優先順位が3番目に高くなる。
このため、カソード目標流量演算部350bは、燃費重視ドライ操作においてアノードガス圧力制御のみが全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもカソード目標流量を迅速に上げる。
ステップS35において湿潤制御部300のアノード目標圧力演算部330bは、図29で述べたとおり、カソードガス流量、カソードガス圧力、及びアノードガス流量と、目標水収支とに基づいて、アノード目標圧力を演算する。優先制御パラメータが用いられていないため、アノード目標圧力演算部330bは、通常の湿潤制御どおり、アノード目標圧力を上げる。したがって、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御の優先順位が4番目になる。
ステップS300においてコントローラ200のカソード系指令部240及びアノード系指令部250は、カソード目標圧力、アノード目標流量、カソード目標流量、及びアノード目標圧力に基づいて、ガス状態調整処理を実行する。ガス状態調整処理については次図を参照して詳細に説明する。ステップS300でガス状態調整処理が終了すると、図19に示したステップS30の燃費重視ドライ操作処理に戻る。
図31は、ステップS300で実行されるガス状態調整処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS311においてコントローラ200は、カソードガス圧力がカソード目標圧力に収束するように、カソード調圧弁26の開度を大きくする。これにより、カソードガス圧力が低下する。
ステップS312においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS313においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、カソードガス圧力がカソード下限圧力に達したか否かを判断し、カソード下限圧力に達していない場合には、ステップS211の処理に戻る。
ステップS321においてコントローラ200は、カソードガス圧力がカソード下限圧力に達した場合には、アノードガス循環流量がアノード目標流量に収束するように、アノード循環ポンプ36の回転速度を下げる。これにより、アノードガス循環流量が減少する。
ステップS322においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS323においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、アノードガス循環流量がアノード下限流量に達したか否かを判断し、アノード下限流量に達していない場合には、ステップS321の処理に戻る。
ステップS331においてコントローラ200は、アノードガス循環流量がアノード下限流量に達した場合には、カソードガス流量がカソード目標流量に収束するように、コンプレッサ22の回転速度を上げる。これにより、カソードガス流量が上昇する。
ステップS332においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS333においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、カソードガス流量がカソード上限流量に達したか否かを判断し、カソード上限流量に達していない場合には、ステップS231の処理に戻る。
ステップS341においてコントローラ200は、カソードガス流量がカソード上限流量に達した場合には、アノードガス圧力がアノード目標圧力に収束するように、アノード調圧弁33の開度を大きくする。これにより、アノードガス圧力が上昇する。
ステップS342においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS343においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、アノードガス圧力がアノード上限圧力に達したか否かを判断する。アノードガス圧力がアノード上限圧力に達していない場合には、コントローラ200は、ステップS341の処理に戻り、アノードガス圧力を上昇させる。
そして、ステップS342で計測HFRが目標HFRに達した場合、又は、ステップS343でアノードガス圧力がアノード上限圧力に達した場合には、ガス状態調整処理が終了し、図30に示したステップS300の燃費重視ドライ操作処理に戻る。
図32は、本実施形態の燃費重視ドライ操作における燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図32(A)は、燃料電池スタック1の計測HFRの変化を示す図である。図32(B)及び図32(D)は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力及び流量の変化を示す図である。図32(C)及び図32(E)は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの流量及び圧力の変化を示す図である。図32(F)は、燃料電池スタック1の目標電流を示す図である。図32(A)から図32(E)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
時刻t40では、図32(A)に示すように、例えば、加速後に負荷装置5の要求電力の大幅な低下に伴って目標HFRが大幅に上昇する。これに伴って、計測HFRが目標HFRよりも低くなるため、図11に示したDRY操作モード切替部310は、ドライ操作を実施する必要があると判定する。
また、計測HFRと目標HFRとの差分が速乾要求閾値よりも小さいため、DRY操作モード切替部310は、電解質膜111の水分を迅速に減らす必要はないと判断する。次にDRY操作モード切替部310は、スタック目標電流が高負荷要求閾値よりも高いか否かを判断する。図32(F)に示すように、スタック目標電流は高負荷要求閾値よりも低いため、DRY操作モード切替部310は、燃料電池システム100の消費電力を低減可能であると判断し、ドライ操作モードの中から燃費重視ドライ操作を選択する。
そして、燃費重視DRY操作設定部312は、カソード目標圧力演算部340bに対し、測定値に代えてWET操作値であるカソード下限流量、アノード上限流量、及びアノード下限圧力を設定する。さらに燃費重視DRY操作設定部312は、アノード目標流量演算部320bに対し、カソード下限流量、及びアノード下限圧力を設定すると共に、カソード目標流量演算部350bに対し、アノード下限圧力を設定する。すなわち、燃費重視DRY操作設定部312は、燃費重視ドライ操作において、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御、カソードガス流量制御、アノードガス圧力制御の順に各制御に関する優先順位を設定する。
これにより、図32(B)に示すように、カソード目標圧力演算部340bにより、他の制御よりも優先してカソード調圧弁26が開かれてカソードガス圧力が低下する。これに伴い、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が減少し、アノード循環水量が減少するので、図32(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かって上昇する。
このように、燃費重視ドライ操作において、1番目に、カソードガス圧力を降下させる降圧制御を実行することにより、応答遅れの小さいカソード調圧弁26が作動するので、電解質膜111の水分を迅速に減らすことができる。さらにカソードガス圧力を降下させることにより、コンプレッサ22のトルクが低下するので、コンプレッサ22の消費電力を低減することができる。
時刻t41において、図32(B)及び図32(C)に示すように、カソードガス圧力がドライ操作の下限値に到達する。このため、カソードガス降圧制御を補完するようにアノード目標流量演算部320bによりアノード循環ポンプ36の回転速度が下げられてアノードガス循環流量が減少する。これに伴って、アノード循環水量が減少するので、電解質膜111の水分が減り易くなり、図32(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、燃費重視ドライ操作において、2番目に、アノードガス循環流量を減少させる減量制御を実行することにより、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減することができる。このため、カソードガス圧力を下げた後にアノードガス循環流量を下げることにより、湿潤制御の応答性を確保しつつ、燃料電池システム100の消費電力を抑制することができる。
さらに、カソードガス圧力をアノードガス循環流量よりも優先して制御することにより、ドライ操作時においてアノードガス循環流量を先に下げたことが原因となり、反って電解質膜111がウェット状態になってしまうという事態を回避することができる。
時刻t42において、図32(C)及び図32(D)に示すように、アノードガス循環流量がドライ操作の上限値に到達する。このため、アノードガス減量制御を補完するように、カソード目標流量演算部350bによりコンプレッサ22の回転速度が上げられてカソードガス流量が増加する。これに伴って、カソードガスによってカソードガス流路131から外部に持ち出される水蒸気の排水量が増加するため、アノード循環水量が減少し、図20(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、燃費重視ドライ操作において、3番目に、カソードガス流量を増加させる増量制御を実行することにより、コンプレッサ22の消費電力が増加する機会を極力減らしつつ、迅速に電解質膜111の水分を減少させることができる。
時刻t43において、図32(D)及び図32(E)に示すように、カソードガス流量がドライ操作の上限値に到達する。このため、カソードガス増量制御を補完するようにアノード目標圧力演算部330bによりアノード調圧弁33が開かれてアノードガス圧力が上昇する。これに伴って、アノードガス流路121中の水蒸気分圧が上昇してカソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が減少するので、アノード循環水量が減少し、図32(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、燃費重視ドライ操作において、4番目に、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御を実行することにより、応答性の良いアノード調圧弁33が作動するので、コンプレッサ22によるカソードガス増量制御の応答性の悪さを迅速に補うことができる。
時刻t44において、図32(E)に示すように、アノードガス圧力がドライ操作の上限値に到達し、図32(A)に示すように、計測HFRが目標HFRに到達する。
以上のように、燃費重視ドライ操作において、カソードガス圧力、アノードガス循環流量、カソードガス流量、アノードガス圧力の順に物理量を制御することで、燃料電池システム100の消費電力を抑制しつつ迅速に電解質膜111の水分を減らすことができる。
ここで、燃費重視ドライ操作において、アノードガス循環流量よりも優先してカソードガス圧力を制御することによる効果について説明する。
図33は、ドライ操作におけるアノードガス流量制御とカソードガス圧力制御との関係を説明するための図である。図33においては、縦軸が燃料電池スタック1の湿潤状態を示し、横軸がアノードガス循環流量を示す。ここでは、「大」、「中」及び「小」の各々のカソードガス圧力ごとに、アノードガス循環流量を大きくしたときの燃料電池スタック1の湿潤状態が示されている。
図33に示すように、ドライ操作1においては、アノードガス循環流量が多い状態で、カソードガス圧力を「大」から「中」に下げると、燃料電池スタック1の湿潤状態がドライ側に遷移する。すなわち、カソードガスの降圧制御によってドライ操作が効率よく行われる。
一方、ドライ操作2においては、カソードガス圧力が「大」のときにアノードガス循環流量を減らすと、燃料電池スタック1の電解質膜111は反って湿ってしまう。すなわち、ドライ操作において、カソードガス圧力が高い状態でアノードガスの減量制御を実行すると、電解質膜111の水分が減少せずに増加してしまう。
このように、カソードガスの降圧制御の実行よりも先にアノードガスの減量制御を実行してしまうと、ドライ操作に要する時間が長くなる可能性がある。これに対して、図33に示したドライ操作1のように、アノードガス循環流量を下げる前にカソードガス圧力を下げることにより、ドライ操作を効率よく実施することができる。
このため、燃費重視ドライ操作を実施する場合において、アノードガスの減量制御よりも優先してカソードガスの降圧制御を実行することにより、迅速、かつ、効率よく、電解質膜111を乾燥させることができる。
図34は、燃費重視ドライ操作時において、湿潤要求とは異なる要求によりカソードガス降圧制御が制限されたときの燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図34(A)は、燃料電池スタック1の目標HFRの変化を示す図である。図34(B)及び図34(C)は、それぞれ、カソードガス圧力及びアノードガス循環流量の変化を示す図である。図34(D)は、アノード循環水量の変化を示す図である。これらの図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
ここでは、本実施形態のドライ操作が実線により示され、図25に示したアノード目標流量演算部320bがカソードガス圧力の計測値Pc_sensの代わりにカソード湿潤要求圧力Pc_rwを用いてアノード目標流量を算出したときのドライ操作が点線により示されている。
時刻t50において、図34(A)に示すように目標HFRが大幅に上昇する。そして、図34(B)に示すようにカソードガス圧力が低下する。
時刻t51において、湿潤要求とは別の要求により設定された下限圧力にカソードガス圧力が到達したため、図34(B)の実線で示すように、燃費重視ドライ操作におけるカソードガスの降圧制御が制限される。この下限圧力は、例えば、図26に示したカソード下限圧力演算部344の演算結果である。
本実施形態では、アノード目標流量演算部320bがカソーガス圧力の計測値P_sensを用いてアノード目標流量を演算するので、図34(C)の実線で示すように、カソードガスの降圧制御が制限された直後にアノードガス循環流量が減少する。すなわち、カソードガスの降圧制御によって電解質膜111の湿潤状態を操作しきれない部分を補完するようにアノードガスの減量制御が実行される。このため、図34(A)の実線で示すように、カソードガスの降圧制御が制限された直後であっても計測HFRを上昇させることができる。
仮にアノード目標流量演算部320bが、図26で示したカソード湿潤要求圧力演算部343の演算結果を用いてアノード目標流量を演算したとすると、図34(C)の点線で示すように時刻t51から時刻t52までの間、アノードガスの減量制御が実行されない。その結果、図34(A)の点線で示すように、時刻t53では目標HFRに到達しないため、ドライ操作が完了するのに要する時間が長くなってしまう。
このように、本実施形態では、アノード目標流量演算部320bが、カソードガス圧力の測定値を用いてアノード目標流量を演算するので、カソード湿潤要求圧力を用いる場合に比べて、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
図35は、目標HFRが急峻に上昇したときのドライ操作における燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図35(A)は、目標HFRの変化を示す図である。図35(B)から図35(D)までの各図面の縦軸は、図33(B)から図33(D)までの各図面の縦軸と同じであり、図35(A)から図35(D)までの図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
図35(B)には、カソードガス圧力の計測値が実線により示され、カソード目標圧力が破線により示されている。
時刻t40において、図35(A)に示すように目標HFRがパルス状に上昇する。このような状況としては、例えば、車両が加速状態から減速状態に切り替わることで負荷装置5の要求電力が極端に小さくなったときに、図8の特性に起因して目標HFRが大幅に上昇する。
図35(B)の破線で示すように、カソード目標圧力演算部340bは、目標HFRを達成できるカソード目標圧力を算出する。一方、カソードガス圧力は、燃料電池スタック1の容積や配管抵抗などが原因でカソード目標圧力に比べて緩やかに低下する。
時刻t60の直後は、カソードガス圧力とカソード目標圧力との乖離が大きいため、カソードガスの降圧制御によるドライ操作が十分に行われない。その結果、アノード目標流量演算部320bが、カソードガス圧力とカソード目標圧力との差分を補完するようにアノード目標流量を下げるので、図35(C)に示すようにアノードガス循環流量が減少する。
時刻t60から時間が経過するにつれて、カソードガス圧力とカソード目標圧力との差分が小さくなるため、図35(C)に示すように、アノード目標流量演算部320bは、減らし過ぎた分だけアノード目標流量を上げる。このように、過渡的に減少したアノードガス循環流量は上昇し始める。
時刻t61において、図35(B)に示すようにカソードガス圧力がカソード目標圧力に到達し、図35(C)に示すようにアノードガス循環流量は若干上昇してから定常状態となる。
このように、湿潤制御部300は、目標HFRが大幅に上昇する場合には、カソードガスの降圧制御に若干の遅れが生じるため、その遅れた分だけアノードガスの減量制御を実行する。すなわち、過渡状態における燃費重視ドライ操作では、湿潤制御部300は、カソードガス圧力を降下させると共に、目標HFRと計測HFRとの差分が小さくなるようにアノードガス循環流量を減少させる。
このため、燃費重視ドライ操作時に電解質膜111の水分を速やかに減らす必要があるときには、カソードガスの降圧制御を実行しても電解質膜111の水分が減少しない部分を補完するように、アノードガスの減量制御が実行される。これにより、効率的、かつ、早期に、電解質膜111の水分を減らすことができる。
本発明の第3実施形態によれば、湿潤制御部300は、燃費重視ドライ操作時において、カソードガス圧力を降下させる降圧制御を実行しても電解質膜111の水分が減らないときには、その減らない部分を補完するようにアノードガス循環流量を減少させる減量制御を実行する。これにより、図32(C)に示したように、カソードガスの降圧制御を補完するようにアノードガスの減量制御が実行されるので、図33で述べたとおり、電解質膜111がウェット側に遷移することを回避することができる。したがって、電解質膜111の水分を効率よく減らすことができる。
また、本実施形態によれば、燃費重視ドライ操作時において、燃費重視DRY操作設定部312は、計測HFRと、電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス流量を示すWET操作値とをカソード目標圧力演算部340bに設定する。そして、燃費重視DRY操作設定部312は、計測HFRとカソードガス圧力の計測値とをアノード目標流量演算部320bに設定する。これにより、燃費重視ドライ操作において、カソードガスの降圧制御の優先順位を、アノードガスの減量制御の優先順位よりも高くすることができる。
また、本実施形態によれば、燃費重視ドライ操作において、電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス流量は、燃料電池10の性能を確保できる範囲で最も大きい流量に設定される。これにより、燃費重視ドライ操作において、カソードガス圧力をより一層迅速に下げることができる。
また、本実施形態によれば、アノード目標流量演算部320bは、燃費重視ドライ操作を実施する場合には、カソードガス圧力が低下するほど、アノードガス循環流量の減少を抑制しつつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス循環流量を減少させる。これにより、アノードガスの減量制御において、カソードガスの降圧制御によるドライ操作を早期に補完することができる。
また、本実施形態によれば、図32に示したように、燃費重視DRY操作設定部312は、ドライ操作を実行する場合には、カソードガスの降圧制御、アノードガスの減量制御、カソードガスの増量制御、アノードガスの昇圧制御の順に各制御を実行する。
このため、アノードガスの減量制御よりも優先してカソードガスの降圧制御が実行されるので、迅速にドライ操作を開始できると共に、ドライ操作に寄与しない状況でアノードガスの減量制御が実行されるのを抑制することができる。また、カソードガスの増量制御よりも優先してアノードガスの減量制御が実行されるので、アノード循環ポンプ36の消費電力を低減しつつ、コンプレッサ22の消費電力の増加を抑制することができる。すなわち、燃料電池システム100の消費電力を抑制しつつ、迅速、かつ、的確にドライ操作を実施することができる。さらに、アノードガスの昇圧制御よりも優先してカソードガスの増量制御が実行されるので、効果的に電解質膜111の水分を減らすことができる。
また、本実施形態によれば、湿潤制御部300は、速乾性重視ドライ操作を実施する必要がない場合において、燃料電池システム100の消費電力を抑える必要があるときには、燃料電池スタック1のカソードガス圧力をアノードガス循環流量よりも優先して制御する。これにより、ドライ操作を実施しつつ、燃料電池システム100の消費電力を低減することができる。
(第4実施形態)
第3実施形態では燃費重視ドライ操作を実施するときの湿潤制御部300の構成について説明したが、次の実施形態では、速乾性重視ドライ操作を実施するときの湿潤制御部300の構成について詳細に説明する。
図36は、本発明の第4実施形態における湿潤制御部300の詳細構成の一例を示すブロック図である。
湿潤制御部300は、速乾性重視DRY操作設定部313と、カソード目標流量演算部350cと、アノード目標圧力演算部330cと、カソード目標圧力演算部340cと、アノード目標流量演算部320cとを含む。
なお、アノード目標流量演算部320c、アノード目標圧力演算部330c、カソード目標圧力演算部340c、及びカソード目標流量演算部350cの各構成は、図12に示したものと基本的に同様の構成である。本実施形態の各構成は、第1実施形態に比べて入力パラメータの一部又は全部が相違している。
速乾性重視DRY操作設定部313は、DRY操作モード切替部310から選択信号を受信すると、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス流量制御、及びカソードガス圧力制御の各制御に関する優先順位を設定する。すなわち、速乾性重視DRY操作設定部313は、アノード循環ポンプ36、アノード調圧弁33、コンプレッサ22、及びカソード調圧弁26の各動作を制御する順番を、電解質膜111の湿潤状態に応じて調整する。
速乾性重視DRY操作設定部313は、計測HFRが目標HFR以上である場合には、ウェット操作パラメータとして、カソードガス圧力、カソードガス流量、及びアノードガス圧力の各計測値を出力する。一方、速乾性重視DRY操作設定部313は、計測HFRが目標HFR未満である場合には、各制御の優先順位を設定するためのドライ操作パラメータとして、電解質膜111を現在よりもウェット状態にするときのWET操作値を各計測値の代わりに出力する。
例えば、速乾性重視ドライ操作において、カソードガス流量制御のWET操作値としては、カソードガス流量の計測値よりも小さな値が用いられ、アノードガス流量制御のWET操作値としては、アノードガス流量の計測値よりも大きな値が用いられる。また、アノードガス圧力制御のWET操作値としては、アノードガス圧力の計測値よりも小さな値が用いられる。
本実施形態では、速乾性重視DRY操作設定部313は、ドライ操作パラメータとして、カソード上限圧力、アノード上限流量、及びアノード下限圧力を出力する。これらのドライ操作パラメータは、電解質膜111を最も湿った状態に遷移させる場合に用いられるWET操作値である。
カソード上限圧力、アノード上限流量、及びアノード下限圧力は、図12の出力重視DRY操作設定部311、及び図25の燃費重視DRY操作設定部312で用いられるWET操作値と同じものである。
カソード目標流量演算部350cは、電解質膜111の湿潤度と、燃料電池スタック1のアノードガス圧力とに基づいて、カソードガス流量を制御する第3の流量制御部を構成する。
本実施形態では、カソード目標流量演算部350cは、図7に示した目標水収支演算部212からの目標水収支と、カソードガス圧力と、アノードガス流量と、アノードガス圧力とに基づいて、カソード目標流量を演算する。カソード目標流量演算部350cは、演算したカソード目標流量をカソード系指令部240に出力する。
速乾性重視ドライ操作において、カソード目標流量演算部350cは、速乾性重視DRY操作設定部313から、アノード上限流量、アノード下限圧力、及びカソード上限圧力をWET操作値として取得する。このため、カソード目標流量演算部350cは、アノードガス流量、アノードガス圧力、及びカソードガス圧力の各計測値を取得する場合に比べて、カソード目標流量を小さくすることができる。このように、速乾性重視DRY操作設定部313は、速乾性ドライ操作において、カソード流量制御の優先順位を、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、及びカソードガス圧力制御の優先順位よりも高くすることができる。
アノード目標圧力演算部330cは、電解質膜111の湿潤度と、燃料電池スタック1のカソードガス流量とに基づいて、燃料電池スタック1のアノードガス圧力を制御する第3の圧力制御部を構成する。
本実施形態では、アノード目標圧力演算部330cは、目標水収支と、カソードガス流量と、カソードガス圧力と、アノードガス流量とに基づいて、アノード目標圧力を演算する。アノード目標圧力演算部330cは、演算したアノード目標圧力をアノード系指令部250に出力する。
速乾性重視ドライ操作において、アノード目標圧力演算部330cは、速乾性重視DRY操作設定部313から、カソード上限圧力、及びアノード上限流量をWET操作値として取得し、流量センサ23からカソードガス流量の計測値を取得する。このため、アノード目標圧力演算部330cは、カソードガス圧力、及びアノードガス流量の各計測値を取得した場合に比べて、アノード目標圧力を大きくすることができる。このように、速乾性重視DRY操作設定部313は、ドライ操作において、アノードガス圧力制御の優先順位を、カソードガス圧力制御、及びアノードガス流量制御の優先順位よりも高くすることができる。
カソード目標圧力演算部340cは、目標水収支と、カソードガス流量と、アノードガス流量と、アノードガス圧力とに基づいて、カソード目標圧力を演算する。カソード目標圧力演算部340cは、演算したカソード目標圧力をアノード系指令部250に出力する。
速乾性重視ドライ操作において、カソード目標圧力演算部340cは、速乾性重視DRY操作設定部313からアノード上限流量をWET操作値として取得し、流量センサ23からカソードガス流量の計測値を取得し、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力の計測値を取得する。このため、カソード目標圧力演算部340cは、アノードガス流量の計測値を取得した場合に比べて、カソード目標圧力を小さくすることができる。このように、速乾性重視DRY操作設定部313は、ドライ操作において、カソードガス圧力制御の優先順位を、アノードガス流量制御の優先順位よりも高くすることができる。
アノード目標流量演算部320cは、目標水収支と、カソードガス流量と、カソードガス圧力と、アノードガス圧力とに基づいて、アノード目標流量を演算する。アノード目標流量演算部320cは、演算したアノード目標流量をアノード系指令部250に出力する。
速乾性重視ドライ操作において、アノード目標流量演算部320cは、流量センサ23及びカソード圧力センサ24からそれぞれカソードガス流量及びカソードガス圧力の計測値を取得し、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力の計測値を取得する。このため、アノード目標流量演算部320cは、カソードガス流量、カソードガス圧力、及びアノードガス圧力の計測値に従ってアノード目標流量を適切に増減させることができる。
以上のように、速乾性重視ドライ操作において、速乾性重視DRY操作設定部313は、カソードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御の順に各制御の優先順位を設定する。これにより、アノードガス圧力制御よりも優先してカソードガス流量制御が実行されるので、アノード循環ポンプ36の消費電力の増加を抑制することができると共に、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
また、アノード調圧弁33の異常などが原因でアノード調圧弁33が作動しない場合には、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御が不能となる。このような場合には、速乾性重視DRY操作設定部313は、アノード下限圧力に代えて、アノードガス圧力の計測値を出力する。
このように、アノードガス圧力が制御不能な場合には、カソード目標流量演算部350cは、燃料電池スタック1に供給されている実際のアノードガス圧力を用いてカソード目標流量を算出するので、アノードガス圧力制御系の異常状態に適したドライ操作を実行することができる。なお、アノードガス圧力制御の不能時には、速乾性重視DRY操作設定部313での演算を停止するようにしてもよい。
次に、本実施形態におけるカソード目標流量演算部350c、アノード目標圧力演算部330c、カソード目標圧力演算部340c及びアノード目標流量演算部320cの各構成について説明する。なお、本実施形態の各構成については、第2実施形態の構成と基本的に同じであるため、同一符号を付して説明する。
図37は、速乾性重視ドライ操作を実施するときのカソード目標流量演算部350cの詳細構成の一例を示すブロック図である。
カソード目標流量演算部350cは、カソード上限流量演算部351と、An/Ca流量比演算部352と、カソード相対湿度演算部353と、カソード湿潤要求流量演算部354と、カソード目標流量設定部355と、遅延回路356とを含む。
カソード上限流量演算部351は、図18に示したカソード上限流量演算部と同じ構成である。カソード上限流量演算部351は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、カソード上限流量を演算し、演算したカソード上限流量をカソード目標流量設定部355に出力する。
An/Ca流量比演算部352は、燃料電池スタック1内のカソードガス流量に対するアノードガス流量の比率を示すAn/Ca流量比Kac_qamaxを演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部352は、速乾性重視DRY操作設定部313からアノード上限流量Qa_maxを取得し、遅延回路356からのカソード目標流量の前回値Qc_t_dlyを取得する。An/Ca流量比演算部352は、次式(5)のように、アノード上限流量Qa_maxとカソード目標流量Qc_t_dlyとに基づいて、An/Ca流量比Kac_qamaxを算出する。
An/Ca流量比演算部352は、アノードガス圧力及びカソードガス圧力の極間差圧ΔPacに応じてAn/Ca流量比Kac_qamaxを補正する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部352は、速乾性重視DRY操作設定部313から、アノード下限圧力Pa_min及びカソード上限圧力Pc_maxを取得し、アノード下限圧力Pa_minからカソード上限圧力Pc_maxを減算して、極間差圧ΔPac_minを算出する。
An/Ca流量比演算部352は、極間差圧ΔPac_minを算出すると、図15の流量比補正マップを参照し、極間差圧ΔPac_minに関係付けられた補正係数Eac_minを算出する。An/Ca流量比演算部325は、次式(23)のように、算出した補正係数Eac_minに基づいて、An/Ca流量比Kac_qamaxを、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_3max2_0に補正する。
An/Ca流量比演算部352は、補正後のAn/Ca流量比Kac_3max2_0をカソード相対湿度演算部353に出力する。
カソード相対湿度演算部353は、補正後のAn/Ca流量比Kac_3max2_0に基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_3min2を演算する。
本実施形態では、カソード相対湿度演算部353は、補正後のAn/Ca流量比Kac_3max2_0を取得すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、An/Ca流量比Kac_3max2_0に関連付けられたカソード出口相対湿度RHc_out_3min2を算出する。
カソード相対湿度演算部353は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_3min2をカソード湿潤要求流量演算部354に出力する。
カソード湿潤要求流量演算部354は、カソード出口相対湿度RHc_out_3min2と、図13に示した目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード湿潤要求流量Qc_rwを演算する。
速乾性重視ドライ操作において、カソード湿潤要求流量演算部354は、速乾性重視DRY操作設定部313からカソード上限圧力Pc_maxを取得し、図13に示した飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。そして、カソード湿潤要求流量演算部354は、次式(24)のように、カソード出口相対湿度RHc_out_minとカソード上限圧力Pc_maxと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード湿潤要求流量Qc_rwを算出する。
式(24)に示したように、カソード上限圧力Pc_maxが大きくなるほど、又は、カソード出口相対湿度RHc_out_3min2が小さくなるほど、カソード湿潤要求流量Qc_rwは大きくなる。このように、WET操作値であるアノード上限流量Qa_max、アノード下限圧力Pa_min、及びカソード上限圧力Pc_maxを用いることにより、カソード湿潤要求流量Qc_rwを早期に上げることができる。
カソード湿潤要求流量演算部354は、算出したカソード湿潤要求流量Qc_rwをカソード目標流量設定部355に出力する。
カソード目標流量設定部355は、カソード湿潤要求流量Qc_rwと、カソード上限流量演算部351からのカソード上限流量とのうち小さい方の値を、カソード目標流量Qc_tとしてカソード系指令部240及び遅延回路356に出力する。
遅延回路356は、カソード目標流量設定部355からのカソード目標流量Qc_tを制御周期の1周期分だけ遅延させる。すなわち、遅延回路356は、カソード目標流量Qc_tを取得すると、前回のカソード目標流量Qc_t_dlyをAn/Ca流量比演算部352に出力する。
以上のように、カソード出口相対湿度RHc_outを小さくするには、図14に示した相対湿度/流量比マップの関係からAn/Ca流量比Kac_0を大きくすればよい。An/Ca流量比Kac_0を大きくするには、アノードガス流量Qaを大きくすると共に、図15に示した流量比補正マップの関係から補正係数Eacが小さくなるように、アノードガス圧力Paを小さくし、カソードガス圧力Pcを大きくすればよい。
本実施形態では、速乾性重視DRY操作設定部313は、速乾性重視ドライ操作において、WET操作値であるカソード上限圧力Pc_max、アノード上限流量Qa_max及びアノード下限圧力Pa_minをカソード目標流量演算部350cに出力する。これにより、アノードガス圧力の計測値を用いる場合に比べて、式(22)中のAn/Ca流量比Kac_qamaxが大きくなるので、式(6)中のAn/Ca流量比Kac_3max2_0を大きくすることができる。さらに、アノード下限圧力Pa_min及びカソード上限圧力Pc_maxを用いることにより、An/Ca流量比の補正係数Eac_minが小さくなるので、An/Ca流量比Kac_3max2_0をより一層大きくすることができる。
このため、An/Ca流量比Kac_3max2_0が最も大きくなるので、カソード出口相対湿度RHc_out_3min2が最も小さくなる。これにより、速乾性重視ドライ操作において、カソードガス流量制御の優先度が最も高くなるので、カソード湿潤要求流量Qc_rwを早期に下げることができる。
図38は、速乾性重視ドライ操作を実施するときのアノード目標圧力演算部330cの機能構成の一例を示すブロック図である。
アノード目標圧力演算部330cは、アノード上限圧力演算部331と、カソード相対湿度演算部332と、An/Ca流量比演算部333と、アノード湿潤要求圧力演算部334と、アノード目標圧力設定部335とを含む。
アノード上限圧力演算部331は、図16に示したアノード上限圧力演算部と同一の構成である。アノード上限圧力演算部331は、燃料電池システム100の運転状態に応じてアノード上限圧力を演算し、演算したアノード上限圧力をアノード目標圧力設定部335に出力する
カソード相対湿度演算部332は、図13に示した目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxを演算する。
本実施形態では、カソード相対湿度演算部332は、速乾性重視DRY操作設定部313からカソードガス圧力Pc_maxを取得し、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得し、図13に示した飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。
そして、カソード相対湿度演算部332は、次式(25)のように、カソード上限圧力Pc_maxとカソードガス流量Qc_sensと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxを算出する。
カソード相対湿度演算部332は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxをAn/Ca流量比演算部333に出力する。
An/Ca流量比演算部333は、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxに基づいて、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pcmax_0を演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部333は、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxを取得すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxに関係付けられたAn/Ca流量比Kac_pcmax_0を算出する。
そして、An/Ca流量比演算部333は、速乾性重視DRY操作設定部313からアノード上限流量Qa_maxを取得し、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部333は、アノード上限流量Qa_maxをカソードガス流量Qc_sensにより除算して、An/Ca流量比Kac_qamaxを算出する。
An/Ca流量比演算部333は、An/Ca流量比Kac_qamaxと、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pcmax_0とをアノード湿潤要求圧力演算部334に出力する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、An/Ca流量比Kac_qamaxと、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pcmax_0とに基づいて、アノード湿潤要求圧力Pa_rwを演算する。
本実施形態では、アノード湿潤要求圧力演算部334は、次式(26)のように、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pcmax_0と、An/Ca流量比Kac_qamaxとに基づいて、補正係数Eac_2maxを算出する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、補正係数Eac_2maxを算出すると、図15の流量比補正マップを参照し、補正係数Eac_2maxに関係付けられた極間差圧ΔPac_2maxを算出する。アノード湿潤要求圧力演算部334は、次式(27)のように、極間差圧ΔPac_2maxと、カソード上限圧力Pc_maxとに基づいて、アノード湿潤要求圧力Pa_rwを算出する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、アノード湿潤要求圧力Pa_rwをアノード目標圧力設定部335に出力する。
アノード目標圧力設定部335は、アノード湿潤要求圧力Pa_rwと、アノード上限圧力演算部331からのアノード上限圧力とのうち小さい方の値を、アノード目標圧力としてアノード系指令部250に出力する。
このように、アノード目標圧力演算部330cにおいて、速乾性重視ドライ操作時にアノード湿潤要求圧力Pa_rwを速やかに大きくするには、式(27)の関係から、極間差圧ΔPacを大きくすると共に、カソードガス圧力Pcを大きくする必要がある。
極間差圧ΔPacを大きくするには、An/Ca流量比Kacを大きくして補正係数Eacを大きくすればよい。An/Ca流量比Kacを大きくするには、アノードガス流量Qaを大きくし、カソードガス流量Qcを小さくすればよい。
また、補正係数Eacを大きくするには、カソード出口相対湿度RHc_outを大きくして極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_0を小さくすればよい。カソード出口相対湿度RHc_outを大きくするには、カソードガス圧力Pcを大きくすればよい。
本実施形態では、速乾性重視DRY操作設定部313は、ドライ操作において、WET操作値として、カソード上限圧力Pc_max及びアノード上限流量Qc_maxをアノード目標圧力演算部330cに出力する。カソード上限圧力Pc_maxを用いることより、カソードガス圧力の計測値を用いる場合に比べて、式(25)中のカソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxが大きくなるので、図14に示した相対湿度/流量比の関係からAn/Ca流量比Kac_pcmax_0を小さくすことができる。それゆえ、式(26)の補正係数Eac_2maxを大きくすることができる。
さらに、アノード上限流量Qa_maxを用いることにより、アノードガス流量の計測値を用いる場合に比べて、An/Ca流量比Kac_qamaxが大きくなるので、補正係数Eac_2maxをより一層大きくすることができる。これにより、極間差圧ΔPac_2maxが大きくなると共に、式(27)中のカソードガス圧力にカソード上限圧力Pc_maxが設定されるので、アノード湿潤要求流量Qa_rwを早期に下げることができる。
以上のように、アノード目標圧力演算部330cでは、カソード湿潤要求流量Qc_rwが増加してカソードガス流量Qc_sensが増加するほど、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxが小さくなる。カソード出口相対湿度RHc_out_psが小さくなるほど、An/Ca流量比Kac_pcmax_0が大きくなるので、補正係数Eac_2maxが大きくなってカソード湿潤要求流量Qc_rwが大きくなる。すなわち、カソード湿潤要求流量Qc_rwが低下するほど、アノード湿潤要求圧力Pa_rwは小さくなるため、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御が抑制される。
一方、目標水収支Qw_tが小さくなって目標排水量Qw_outが大きくなるほど、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxは大きくなるので、An/Ca流量比Kac_pcmax_0が小さくなり、アノード湿潤要求圧力Pa_rwは大きくなる。
このように、アノード目標圧力演算部330cは、速乾性重視ドライ操作において、カソードガス流量を上げている状況であっても、目標排水量Qw_outが減少しなければ、アノード目標圧力を上昇させることができる。すなわち、湿潤制御部300は、速乾性重視ドライ操作において、カソードガス流量が増加するほど、アノードガス圧力の上昇を抑制し、かつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス圧力を上昇させることができる。
図39は、速乾性重視ドライ操作を実施するときのカソード目標圧力演算部340cの機能構成の一例を示すブロック図である。
カソード目標圧力演算部340cは、An/Ca流量比演算部341と、カソード相対湿度演算部342と、カソード湿潤要求圧力演算部343と、カソード下限圧力演算部344とを含む。
An/Ca流量比演算部341は、燃料電池スタック1内のカソードガス流量に対するアノードガス流量の比率を示すAn/Ca流量比Kac_qamaxを演算する。
本実施形態において、An/Ca流量比演算部341は、速乾性重視DRY操作設定部313からアノード上限流量Qa_maxを取得し、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部341は、アノード上限流量Qa_maxをカソードガス流量Qc_sensにより除算して、An/Ca流量比Kac_qamaxを算出する。
An/Ca流量比演算部341は、算出したAn/Ca流量比Kac_qamaxをカソード相対湿度演算部342に出力する。
カソード相対湿度演算部342は、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力Pa_sensを取得し、アノードガス圧力Pa_sensから暫定カソードガス圧力Pc_prを減算して暫定極間差圧ΔPac_prを算出する。暫定カソードガス圧力Pc_prは、所定の範囲で変化するパラメータである。
カソード相対湿度演算部342は、An/Ca流量比演算部341からAn/Ca流量比Kac_qamaxを取得すると、図15の流量比補正マップを参照し、暫定極間差圧ΔPac_prに関係付けられた暫定補正係数Eac_prを算出する。カソード相対湿度演算部342は、その暫定補正係数Eac_prによりAn/Ca流量比Kac_qamaxを除算して、極間差圧ΔPacがゼロのときの暫定An/Ca流量比Kac_qamax_0を算出する。
カソード相対湿度演算部342は、暫定An/Ca流量比Kac_qamax_0を算出すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、暫定An/Ca流量比Kac_qamax_0に関係付けられた暫定カソード出口相対湿度RHc_out_qamax_prを算出する。
カソード相対湿度演算部342は、暫定カソード出口相対湿度RHc_out_qamax_prと暫定カソードガス圧力Pc_prとをカソード湿潤要求圧力演算部343に出力する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、カソード湿潤要求圧力Pc_rwを演算する。
速乾性重視ドライ操作において、カソード湿潤要求圧力演算部343は、速乾性重視DRY操作設定部313からカソード下限流量Qc_minを取得し、カソード相対湿度演算部342から暫定カソード出口相対湿度RHc_out_qamax_prを取得する。さらに、カソード湿潤要求圧力演算部343は、図13に示した飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。カソード湿潤要求圧力演算部343は、次式(28)のように、暫定カソード出口相対湿度RHc_out_qamax_prと、カソード下限流量Qc_minと、飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、暫定カソード湿潤要求圧力Pc_rw_pr2を算出する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、暫定カソードガス圧力Pc_prの圧力値を変化させるようにカソード相対湿度演算部342に指示する。そして、カソード湿潤要求圧力演算部343は、暫定カソードガス圧力Pc_prと暫定カソード湿潤要求圧力Pc_rw_pr2とが一致したときの圧力値をカソード湿潤要求圧力Pc_rwとして設定する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、カソード湿潤要求圧力Pc_rwをカソード目標圧力設定部345に出力する。
カソード下限圧力演算部344は、図17に示したカソード下限圧力演算部と同一の構成である。カソード下限圧力演算部344は、燃料電池システム100の運転状態に応じてカソード下限圧力を演算し、演算したカソード下限圧力をカソード目標圧力設定部345に出力する
カソード目標圧力設定部345は、カソード下限圧力とカソード湿潤要求圧力Pc_rwとのうち大きい方の値を、カソード目標圧力としてカソード系指令部240に出力する。
図40は、速乾性重視ドライ操作を実施するときのアノード目標流量演算部320cの機能構成の一例を示すブロック図である。
アノード目標流量演算部320cは、カソード相対湿度演算部324と、An/Ca流量比演算部325と、アノード湿潤要求流量演算部326と、アノード下限流量演算部327と、アノード目標流量設定部328とを含む。
カソード相対湿度演算部324は、図13に示した目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_sensを演算する。
速乾性重視ドライ操作において、カソード相対湿度演算部324は、流量センサ23及びカソード圧力センサ24からそれぞれカソードガス流量Qc_sens及びカソードガス圧力Pc_sensを取得し、飽和水蒸気圧演算部321から飽和水蒸気圧Psatを取得する。そして、カソード相対湿度演算部324は、次式(29)のように、カソードガス流量Qc_sensとカソードガス圧力Pc_sensと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_sensを算出する。
カソード相対湿度演算部324は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_sensをAn/Ca流量比演算部325に出力する。
An/Ca流量比演算部325は、カソード出口相対湿度RHc_out_sensに基づいて、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_sens_0を演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部325は、カソード出口相対湿度RHc_out_sensを取得すると、図14の相対湿度/流量比マップを参照し、カソード出口相対湿度RHc_out_sensに関係付けられたAn/Ca流量比Kac_sens_0を算出する。
また、An/Ca流量比演算部325は、アノード圧力センサ37からのアノードガス圧力Pa_sensを取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力Pc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部325は、アノードガス圧力Pa_sensからカソードガス圧力Pc_sensを減算して、極間差圧ΔPac_sensを算出する。An/Ca流量比演算部325は、極間差圧ΔPac_sensを算出すると、図15の流量比補正マップを参照し、算出した極間差圧ΔPac_sensに関係付けられた補正係数Eac_sensを算出する。
そして、An/Ca流量比演算部325は、式(30)のように、補正係数Eac_sensを、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_sens_0に乗算することにより、極間差圧ΔPac_sensに応じたAn/Ca流量比Kac_sensを算出する。
An/Ca流量比演算部325は、算出したAn/Ca流量比Kac_sensをアノード湿潤要求流量演算部326に出力する。
アノード湿潤要求流量演算部326は、An/Ca流量比Kac_sensに基づいて、アノード湿潤要求流量Qa_rwを演算する。
本実施形態では、アノード湿潤要求流量演算部326は、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得し、次式(31)のように、カソードガス流量Qc_sensとAn/Ca流量比Kac_sensとに基づいて、アノード湿潤要求流量Qa_rwを算出する。
アノード湿潤要求流量演算部326は、算出したアノード湿潤要求流量Qa_rwをアノード目標流量設定部328に出力する。
アノード下限流量演算部327は、図13に示したアノード下限流量演算部と同一の構成である。アノード下限流量演算部327は、燃料電池システム100の運転状態に応じてアノード下限流量を演算し、演算したアノード下限流量をアノード目標流量設定部328に出力する。
アノード目標流量設定部328は、アノード下限流量とアノード湿潤要求流量Qa_rwとのうち小さい方の値を、アノード目標流量としてアノード系指令部250に出力する。
図41は、本実施形態における湿潤制御部300の速乾性重視ドライ操作処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の速乾性重視ドライ操作処理は、図19に示したステップS40の処理に対応する。
ステップS41において湿潤制御部300の速乾性重視DRY操作設定部313は、アノードガス及びカソードガスに対する各制御の優先順位を設定する優先制御パラメータとして、カソード上限圧力、アノード上限流量、及びアノード下限圧力を演算する。これらのパラメータは、電解質膜111を最も湿った状態にするときのWET操作値である。
ステップS42において湿潤制御部300のカソード目標流量演算部350cは、図37で述べたとおり、優先制御パラメータであるアノード上限流量、アノード下限圧力、及びカソード上限圧力と、目標水収支とに基づいて、カソード目標流量を演算する。3つの優先制御パラメータをカソード目標流量演算部350cに設定することにより、カソードガス流量を増量させる増量制御の優先順位を最も高くすることができる。
このため、カソード目標流量演算部350cは、速乾性重視ドライ操作において、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御、及びアノードガス圧力制御の3つの制御が全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもカソード目標流量を迅速に上げる。
ステップS43において湿潤制御部300のアノード目標圧力演算部330cは、図38で述べたとおり、優先制御パラメータであるカソード上限圧力及びアノード上限流量と、カソードガス流量と、目標水収支とに基づいて、アノード目標圧力を演算する。2つの優先制御パラメータをアノード目標圧力演算部330cに設定することにより、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御の優先順位を2番目に高くすることができる。
このため、アノード目標圧力演算部330cは、速乾性重視ドライ操作において、カソードガス圧力制御、及びアノードガス流量制御の2つの制御が全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもアノード目標圧力を迅速に上げる。
ステップS44において湿潤制御部300のカソード目標圧力演算部340cは、図39で述べたとおり、優先制御パラメータであるアノード上限流量と、アノードガス圧力及びカソードガス流量と、目標水収支とに基づいて、カソード目標圧力を演算する。1つの優先制御パラメータをカソード目標圧力演算部340cに設定することにより、カソードガス圧力を降下させる降圧制御の優先順位を3番目に高くすることができる。
カソード目標圧力演算部340cは、速乾性重視ドライ操作において、アノードガス流量制御のみが全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもカソード目標圧力を迅速に下げる。
ステップS45において湿潤制御部300のアノード目標流量演算部320cは、図40で述べたとおり、カソードガス流量、カソードガス圧力、及びアノードガス圧力と、目標水収支とに基づいて、アノード目標流量を演算する。優先制御パラメータが用いられていないため、アノードガス循環流量を減少させる減量制御の優先順位は4番目になり、アノード目標流量演算部320cは、通常の湿潤制御どおり、アノード目標流量を増減させる。
ステップS400においてコントローラ200のカソード系指令部240及びアノード系指令部250は、カソード目標流量、アノード目標圧力、カソード目標圧力、及びアノード目標流量に基づいて、ガス状態調整処理を実行する。このガス状態調整処理については次図を参照して詳細に説明する。
ステップS400で実行されるガス状態調整処理が終了すると、図19に示したステップS40の速乾性重視ドライ操作処理に戻る。
図42は、ステップS400で実行されるガス状態調整処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS411においてコントローラ200は、カソードガス流量がカソード目標流量に収束するように、コンプレッサ22の回転速度を上げる。これにより、カソードガス流量が増加する。
ステップS412においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS413においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、カソードガス流量がカソード上限流量に達したか否かを判断し、カソード上限流量に達していない場合には、ステップS411の処理に戻る。
ステップS421においてコントローラ200は、カソードガス流量がカソード上限流量に達した場合には、アノードガス圧力がアノード目標圧力に収束するように、アノード調圧弁33の開度を上げる。これにより、アノードガス圧力が上昇する。
ステップS422においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS423においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、アノードガス圧力がアノード上限圧力に達したか否かを判断し、アノード上限圧力に達していない場合には、ステップS421の処理に戻る。
ステップS431においてコントローラ200は、アノードガス圧力がアノード上限圧力に達した場合には、カソードガス圧力がカソード目標圧力に収束するように、カソード調圧弁26の開度を下げる。これにより、カソードガス圧力が低下する。
ステップS432においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS433においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、カソードガス圧力がカソード下限圧力に達したか否かを判断し、カソード下限圧力に達していない場合には、ステップS431の処理に戻る。
ステップS441においてコントローラ200は、カソードガス圧力がカソード下限圧力に達した場合には、アノードガス循環流量がアノード目標流量に収束するように、アノード循環ポンプ36の回転速度を下げる。これにより、アノードガス循環流量が減少する。
ステップS442においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS443においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、アノードガス流量がアノード下限流量に達したか否かを判断する。アノードガス流量がアノード下限流量に達していない場合には、コントローラ200は、ステップS241の処理に戻り、アノードガス循環流量を減少させる。
そして、ステップS442で計測HFRが目標HFRに達した場合、又は、ステップS243でアノードガス循環流量がアノード下限流量に達した場合には、ガス状態調整処理が終了し、図41に示したステップS40の速乾性重視ドライ操作処理に戻る。
図43は、本実施形態の速乾性重視ドライ操作における燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図43(A)は、燃料電池スタック1に関する計測HFRの変化を示す図である。図43(B)及び図43(D)は、それぞれ、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量及び圧力の変化を示す図である。図43(C)及び図43(E)は、それぞれ、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力及び流量の変化を示す図である。図43(A)から図43(E)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
時刻t70では、例えば車両の加速後に負荷装置5の要求電力が大幅に低下して、図43(A)に示すように目標HFRが大幅に上昇する。これに伴って、計測HFRが目標HFRよりも低くなり、計測HFRと目標HFRとの差分が速乾要求閾値よりも大きくなるため、DRY操作モード切替部310は、電解質膜111の水分を迅速に減らす必要があると判断する。これにより、DRY操作モード切替部310は、速乾性重視DRY操作設定部313に対し速乾性重視ドライ操作の実施を指示する。
速乾性重視DRY操作設定部313は、カソード目標流量演算部350cに対し、測定値に代えてWET操作値であるカソード上限圧力、アノード上限流量、及びアノード下限圧力を設定する。さらに速乾性重視DRY操作設定部313は、アノード目標圧力演算部330cに対し、WET操作値であるカソード上限圧力、及びアノード上限流量を設定すると共に、カソード目標圧力演算部340cに対し、WET操作値であるアノード上限流量を設定する。すなわち、速乾性重視DRY操作設定部313は、速乾性重視ドライ操作において、カソードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御の順に、各制御の優先順位を設定する。
これにより、図43(B)に示すように、カソード目標流量演算部350cにより、他の制御よりも優先してコンプレッサ22の回転速度が上げられてカソードガス流量が増加する。これに伴って、カソードガス流路131から排出される排水量が増加し、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が減少してアノード循環水量が減少するので、図43(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かって上昇する。
このように、ドライ操作において、1番目に、カソードガス流量を増加させる増量制御を実行することにより、燃料電池スタック1から排出される排水量が他の制御に比べて短時間で増加するので、電解質膜111の水分を迅速に減らすことができる。また、アノードガスの増量制御を1番目に実行することにより、その後に実行されるアノードガスの昇圧制御、及びカソードガスの降圧制御によるドライ操作の効果を高めることができる。
時刻t71において、図43(B)及び図43(C)に示すように、カソードガス流量がドライ操作の上限値に到達する。このとき、カソードガスの増量制御を補完するようにアノード目標圧力演算部330cによりアノード調圧弁33が開かれてアノードガス圧力が上昇する。これに伴って、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が減少してアノード循環水量が減少するので、図43(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、速乾性ドライ操作において、2番目に、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御を実行することにより、カソードガス流量が多い状態でアノードガス圧力が上げられるので、効率よく電解質膜111の水分を下げることができる。
また、カソードガスの増量制御の実行後に、コンプレッサ22よりも応答性の良いアノード調圧弁33を作動させるので、コンプレッサ22の応答遅れに起因する計測HFRの上昇量の低下を迅速に補完することができる。このように、カソードガス流量を上げた後にアノードガス圧力を上げることにより、電解質膜111の湿潤状態を迅速に乾いた状態に遷移させることができる。
時刻t72において、図43(C)及び図43(D)に示すように、アノードガス圧力がドライ操作の上限値に到達する。このとき、アノードガスの昇圧制御を補完するようにカソード目標圧力演算部340cによりカソード調圧弁26が開かれてカソードガス圧力が低下する。これに伴って、カソードガスによってカソードガス流路131から外部に持ち出される排水量が増加すると共に、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水蒸気の流量が減少する。その結果、アノード循環水量が減少するので、図43(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、速乾性重視ドライ操作において、3番目に、カソードガス圧力を降下させる降圧制御を実行することにより、排水量が増加しやすい状態で応答性の良いカソード調圧弁26を駆動するので、迅速に電解質膜111の水分を除去することができる。
時刻t73において、図43(D)及び図43(E)に示すように、カソードガス圧力がドライ操作の下限値に到達する。このとき、カソードガス降圧制御を補完するようにアノード目標流量演算部320cによりアノード循環ポンプ36の回転速度が下げられてアノードガス循環流量が減少する。これに伴って、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が減少するので、アノード循環水量が減少し、図43(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、速乾性重視ドライ操作において、4番目に、アノードガス循環流量を減少させる減量制御を実行することにより、アノード循環水量が減少して電解質膜111の水分を減らすことができる。
時刻t74において、図43(E)に示すように、アノードガス循環流量がドライ操作の下限値に到達し、図43(A)に示すように、計測HFRが目標HFRに到達する。
以上のように、速乾性重視ドライ操作において、カソードガス流量、アノードガス圧力、カソードガス圧力、アノードガス循環流量の順に各物理量を制御することで、迅速に電解質膜111の水分を減らすことができる。
具体的には、燃料電池スタック1の排水量が最も増やしやすいカソードガス流量制御を1番目に実行することにより、迅速に電解質膜111の水分を減らすことができる。またカソードガス流量を増加させることにより、アノードガス圧力制御、及びカソードガス圧力制御によるドライ操作の効果が得られやすくなる。アノードガス圧力制御は圧力の操作幅をカソードガス圧力制御に比べて確保しやすいので、アノードガス圧力制御を2番目に実行することにより、迅速にカソードガス流量制御の応答遅れを補完しつつ、より確実に電解質膜111の水分を減らすことができる。そして、カソードガス圧力制御を3番目に実行することにより、効果的に電解質膜111の水分を除去しつつ、4番目に実行されるアノードガス流量制御による効果が得られやすい状態にすることができる。
ここで、速乾性重視ドライ操作においてアノードガス圧力よりも優先してカソードガス流量を制御することによる効果について説明する。
図44は、ドライ操作における燃料電池スタック1の湿潤状態とカソードガス流量との関係、及び燃料電池スタック1の湿潤状態とアノードガス圧力との関係を説明するための図である。図44では、縦軸が、燃料電池スタック1の湿潤状態を示し、横軸が、アノードガス圧力の変化量を示す。ここでは、「大」、「中」及び「小」の各々のカソードガス流量ごとに、カソードガス圧力を一定にした状態でアノードガス圧力を高くしたときの燃料電池スタック1の湿潤状態が示されている。
図44に示すように、ドライ操作1においては、アノードガス圧力が低い状態で、カソードガス流量を「小」から「中」に上げると、燃料電池スタック1の湿潤状態がドライ側に遷移する。すなわち、カソードガスの増量制御によってドライ操作が効率よく行われる。
一方、ドライ操作2においては、カソードガス流量が「小」のときにアノードガス圧力を上げても、燃料電池スタック1の電解質膜111の湿潤状態は殆ど変化しない。すなわち、ドライ操作において、コンプレッサ22から燃料電池スタック1に供給されるカソード流量が少ない状態では、アノードガスの昇圧制御を実行しても、ドライ操作が効率よく行われない。
このように、カソードガスの増量制御よりも先にアノードガスの昇圧制御を実行すると、ドライ操作に要する時間が長くなる可能性がある。これに対して、図44に示したドライ操作1のように、アノードガス圧力を上げる前にカソードガス流量を上げることにより、ドライ操作を効率よく実施することができる。
このため、速乾性重視ドライ操作を実施する場合において、アノードガスの昇圧制御よりも優先してカソードガスの増量制御を実行することにより、迅速、かつ、効率よく、電解質膜111を乾燥させることができる。
図44は、速乾性重視ドライ操作において、湿潤要求とは異なる要求によりカソードガスの増量制御が制限されたときの燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図44(A)は、燃料電池スタック1の目標HFRの変化を示す図である。図44(B)及び図44(C)は、それぞれ、カソードガス流量及びアノードガス圧力の変化を示す図である。図44(D)は、アノード循環水量の変化を示す図である。これらの図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
ここでは、本実施形態の速乾性重視ドライ操作が実線により示されている。さらに、図12に示したアノード目標圧力演算部330cがカソードガス流量の計測値Qc_sensの代わりにカソード湿潤要求流量Qc_rwを用いてアノード目標圧力を算出したときのドライ操作が点線により示されている。
時刻t80において、図44(A)に示すように、目標HFRが大幅に上昇する。そして、図44(B)に示すように、カソードガス流量が増加する。
時刻t81において、湿潤要求とは別の要求により設定された上限流量にカソードガス流量が到達したため、図44(B)の実線で示すように、ドライ操作におけるカソードガスの増量制御が制限される。この上限流量は、例えば、図37に示したカソード上限流量演算部351の演算結果である。
本実施形態では、アノード目標圧力演算部330cがカソーガス流量の計測値Qc_sensを用いてアノード目標圧力を演算するので、図44(C)の実線で示すように、カソードガスの増量制御が制限された直後にアノードガス圧力が上昇する。すなわち、カソードガスの増量制御でも電解質膜111の湿潤状態を操作しきれない部分については、その部分が補完されるようにアノードガスの昇圧制御が実行される。このため、カソードガスの降圧制御が制限されたタイミングにおいて、直ぐにアノードガスの昇圧制御が実行されるので、図44(A)の実線で示すように、計測HFRを継続して上昇させることができる。
仮にアノード目標圧力演算部330cが、図37で示したカソード湿潤要求流量演算部354の演算結果を用いてアノード目標圧力を演算したとすると、図44(C)の点線で示すように時刻t81から時刻t82までの間は、アノードガスの昇圧制御が停止状態となる。その結果、図44(A)の点線で示すように、時刻t83を経過しても計測HFRが目標HFRに到達しないので、ドライ操作が完了するのに要する時間が長くなってしまう。
このように、本実施形態では、アノード目標圧力演算部330cが、カソードガス流量の測定値を用いてアノード目標圧力を演算するので、カソード湿潤要求流量Qc_rwを用いる場合に比べて、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
図46は、目標HFRが急峻に上昇したときの速乾性重視ドライ操作における燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図46(A)は、目標HFRの変化を示す図である。図46(B)から図46(D)までの各図面の縦軸は、図44(B)から図44(D)までの各図面の縦軸と同じであり、図46(A)から図46(D)までの図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
図46(B)には、カソードガス流量の計測値が実線により示され、カソード目標流量が破線により示されている。
時刻t90において、図46(A)に示すように目標HFRがパルス状に上昇する。
図46(B)の破線で示すように、カソード目標流量演算部350cは、目標HFRを達成できるカソード目標流量を算出する。一方、実際のカソードガス流量は、コンプレッサ22の応答遅れなどが原因でカソード目標流量に比べて緩やかに増加する。
時刻t90の直後は、実線のカソードガス流量と破線のカソード目標流量との乖離が大きいため、カソードガスの増量制御によるドライ操作が十分に行われない。その結果、アノード目標圧力演算部330cが、カソードガス流量とカソード目標流量との差分を補完するようにアノード目標圧力を上げるので、図46(C)に示すようにアノードガス圧力が上昇する。
時刻t90から時間が経過するにつれて、カソードガス流量とカソード目標流量との差分が小さくなるため、図46(C)に示すように、アノード目標圧力演算部330cは、アノードガス圧力を上げ過ぎた分だけアノード目標圧力を下げる。このため、アノードガス圧力は過渡的に上昇した後に下がり始める。
時刻t91において、図46(B)に示すようにカソードガス流量がカソード目標流量に到達し、図46(C)に示すようにアノードガス圧力は若干低下してから定常状態となる。
このように、湿潤制御部300は、目標HFRが大幅に上昇する場合には、カソードガスの増量制御に若干の遅れが生じるため、その遅れた分をアノードガスの昇圧制御により補完する。すなわち、過渡状態における速乾性重視ドライ操作では、湿潤制御部300は、カソードガス流量を増加させると共に、目標HFRと計測HFRとの差分が小さくなるようにアノードガス圧力を上昇させる。
すなわち、電解質膜111の水分を速やかに減らす必要があるときには、カソードガスの増量制御を実行しても電解質膜111の水分が減少しない部分を補完するように、アノードガスの昇圧制御が実行される。これにより、効率的、かつ、早期に、電解質膜111の水分を減らすことができる。
本発明の第4実施形態によれば、湿潤制御部300は、速乾性重視ドライ操作時において、カソードガス流量を増加させる増量制御を実行しても電解質膜111の水分が減らないときには、その減らない部分を補完するようにアノードガス圧力を上昇させる昇圧制御を実行する。これにより、図44(C)に示したように、カソードガスの増量制御を補完するようにアノードガスの昇圧制御が実行されるので、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
また、本実施形態によれば、速乾性重視ドライ操作においては、カソード目標流量演算部350cは、計測HFRと、電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス圧力を示すWET操作値とを用いてカソードガス流量を増加させる。これと共に、アノード目標圧力演算部330cは、計測HFRとカソードガス流量の計測値とを用いてアノードガス圧力を制御する。これにより、速乾性重視ドライ操作において、カソードガスの増量制御の優先順位を、アノードガスの昇圧制御の優先順位よりも高くすることができる。
また、本実施形態によれば、速乾性重視ドライ操作において電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス圧力は、燃料電池10の性能を確保できる範囲で最も小さい圧力に設定される。これにより、ドライ操作において、カソードガス流量をより一層迅速に増加させることができる。
また、本実施形態によれば、ドライ操作を実施する場合において、アノード目標圧力演算部330cは、カソードガス流量が増加するほど、アノードガス圧力の上昇を抑制しつつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス圧力を上昇させる。これにより、アノードガスの昇圧制御において、カソードガスの増量制御によるドライ操作を迅速に補完することができる。
さらに、本実施形態によれば、湿潤制御部300は、速乾性重視ドライ操作において、図43に示したように、カソードガスの増量制御、アノードガスの昇圧制御、カソードガスの降圧制御、アノードガスの減量制御の順に各制御を実行する。
このため、アノードガスの昇圧制御よりも優先してカソードガスの増量制御が実行されるので、燃料電池スタック1からの排水量を増やしつつ、ドライ操作に寄与しない状況でアノードガスの昇圧制御が実行されるのを抑制することできる。また、カソードガスの降圧制御よりも優先してアノードガスの昇圧制御が実行されるので、極間差圧ΔPacを早期に確保でき、かつ、効果的に燃料電池スタック1の排水量を増加させることができる。すなわち、効率よく電解質膜111を乾燥状態に遷移させることができる。さらに、アノードガスの減量制御よりも優先してカソードガスの降圧制御が実行されるので、電解質膜111の水分を減らしつつ、アノードガスの減量制御によるドライ操作の効果を高めることができる。
また、本実施形態によれば、湿潤制御部300は、少なくともドライ操作を実施する場合において、電解質膜111の水分を速やか減らす必要があるときには、燃料電池スタック1の出力を確保する必要がある否かに関わらず、カソードガス流量をアノードガス圧力よりも優先して制御する。これにより、電解質膜111の水分を早期に減らすことができる。
次に、上記実施形態におけるインピーダンス測定装置6の構成例について説明する。
図47は、インピーダンス測定装置6の構成の一例を示すブロック図である。
インピーダンス測定装置6は、燃料電池スタック1の正極端子(カソード極側端子)1B及び負極端子(アノード極側端子)1Aの他に、中途端子1Cに接続されている。なお、中途端子1Cに接続された部分はアースされている。
インピーダンス測定装置6は、中途端子1Cに対する正極端子1Bの正極側交流電位差V1を測定する正極側電圧測定センサ61と、中途端子1Cに対する負極端子1Aの負極側交流電位差V2を測定する負極側電圧測定センサ62と、を含む。
さらに、インピーダンス測定装置6は、正極端子1Bと中途端子1Cからなる回路に交流電流I1を印加する正極側交流電源部63と、負極端子1Aと中途端子1Cからなる回路に交流電流I2を印加する負極側交流電源部64と、これら交流電流I1及び交流電流I2の振幅や位相を調整するコントローラ65と、正極側交流電位差V1、V2及び交流電流I1、I2に基づいて、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを演算するインピーダンス演算部66と、を含む。
コントローラ65は、正極側交流電位差V1と負極側交流電位差V2が等しくなるように、交流電流I1と交流電流I2の振幅及び位相を調節する。
インピーダンス演算部66は、図示しないAD変換器やマイコンチップ等のハードウェア、及びインピーダンスを算出するプログラム等のソフトウェア構成を含む。
インピーダンス演算部66は、正極側交流電位差V1を交流電流I1で除して、中途端子1Cから正極端子1Bまでの内部インピーダンスZ1を算出し、負極側交流電位差V2を交流電流I2で除して、中途端子1Cから負極端子1Aまでの内部インピーダンスZ2を算出する。さらに、インピーダンス演算部66は、内部インピーダンスZ1と内部インピーダンスZ2の和をとることで、燃料電池スタック1の全インピーダンスZを算出する。
本実施形態によれば、インピーダンス測定装置6は、燃料電池スタック1に接続されて、該燃料電池スタック1に交流電流I1,I2を出力する交流電源部63,64と、燃料電池スタック1の正極側1Bの電位から中途部分1Cの電位を引いて求めた電位差である正極側交流電位差V1と、燃料電池スタック1の負極側1Aの電位から中途部分1Cの電位を引いて求めた電位差である負極側交流電位差V2と、に基づいて交流電流I1,I2を調整する交流調整部としてのコントローラ65と、調整された交流電流I1,I2並びに正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2に基づいて燃料電池スタック1のインピーダンスZを演算するインピーダンス演算部66と、を有する。
コントローラ65は、燃料電池スタック1の正極側の正極側交流電位差V1が負極側の負極側交流電位差V2と実質的に一致するように、正極側交流電源部63により印加される交流電流I1及び負極側交流電源部64により印加される交流電流I2の振幅及び位相を調節する。これにより、正極側交流電位差V1の振幅と負極側交流電位差V2の振幅とが等しくなるので、正極端子1Bと負極端子1Aが実質的に等電位となる(以下ではこれを等電位制御と記載する)。したがって、インピーダンス計測のための交流電流I1、I2が負荷装置5に流れることが防止されるので、燃料電池10による発電に影響を与えることが防止される。
また、燃料電池スタック1が発電状態であっても、発電により生じた電圧に計測用交流電位が重畳されることとなるので、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の値自体は大きくなるが、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の位相や振幅自体が変わるわけではないので、燃料電池10が発電状態ではない場合と同様に高精度なインピーダンス計測を実行することができる。
さらに、インピーダンスZの測定のための回路構成等も種々の変更が可能である。例えば、燃料電池スタック1に所定の電流源から交流電流を供給するようにして、出力される交流電圧を測定し、当該交流電流と出力交流電圧に基づきインピーダンスを計算するようにしても良い。
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、本実施形態では膜湿潤状態取得部210において、目標水収支Qw_tを演算して湿潤制御部300に出力したが、演算した目標水収支Qw_tに基づいて目標排水量Qw_outを算出し、目標排水量Qw_outを目標水収支w_tの代りに出力してもよい。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。