以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100の構成の一例を示す構成図である。
燃料電池システム100は、燃料電池に対して外部から発電に必要となるアノードガス及びカソードガスを供給し、電気負荷に応じて燃料電池を発電させる電源システムを構成する。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、負荷装置5と、インピーダンス測定装置6と、コントローラ200とを含む。
燃料電池スタック1は、上述のとおり、複数の燃料電池が積層された積層電池である。燃料電池スタック1は、負荷装置5に接続されて負荷装置5に電力を供給する。燃料電池スタック1は、例えば数百V(ボルト)の直流の電圧を生じる。
カソードガス給排装置2は、カソードガスに含まれる酸化剤が流れる酸化剤系(空気系)を構成する。カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給すると共に、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを大気に排出する装置である。
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、コンプレッサ22と、流量センサ23と、カソード圧力センサ24と、カソードガス排出通路25と、カソード調圧弁26とを含む。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するための通路である。カソードガス供給通路21の一端は開口しており、他端は、燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
コンプレッサ22は、燃料電池の電解質膜に酸化剤を供給する酸化剤供給手段を構成すると共に、酸化剤供給手段により燃料電池の電解質膜で発生した水を排出する排水手段を構成する。コンプレッサ22は、酸化剤を含む空気を燃料電池に供給するアクチュエータである。コンプレッサ22は、大気から燃料電池までの経路であるカソードガス供給通路21の途中に設けられる。
コンプレッサ22は、カソードガス供給通路21の開口端から酸素を含有する空気を取り込み、その空気をカソードガスとして燃料電池スタック1に供給する。コンプレッサ22の回転速度はコントローラ200によって制御される。コンプレッサ22の回転速度を変化させることにより、カソードガス流路113を流れるカソードガスの流量を増減する。
流量センサ23は、コンプレッサ22と燃料電池スタック1との間のカソードガス供給通路21に設けられる。流量センサ23は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量のことを単に「カソードガス流量」という。流量センサ23は、カソードガス流量を検出した信号をコントローラ200に出力する。
カソード圧力センサ24は、コンプレッサ22と燃料電池スタック1との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ24は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力のことを単に「カソードガス圧力」という。カソード圧力センサ24は、カソードガス圧力を検出した信号をコントローラ200に出力する。
カソードガス排出通路25は、燃料電池スタック1からカソードオフガスを排出するための通路である。カソードガス排出通路25の一端は、燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端は開口している。
カソード調圧弁26は、酸化剤系の圧力を調整する酸化剤系圧力調整手段を構成する。カソード調圧弁26は、カソードガス排出通路25に設けられる。カソード調圧弁26としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。カソード調圧弁26は、コントローラ200によって開閉制御される。この開閉制御によってカソードガス圧力が所望の圧力に調節される。カソード調圧弁26の開度が大きくなるほど、カソード調圧弁26が開き、カソード調圧弁26の開度が小さくなるほど、カソード調圧弁26が閉じる。
アノードガス給排装置3は、酸化剤系の流れと対向する方向にアノードガスが流れ、燃料電池スタック1内の電解質膜で発生した水を留保する燃料系(水素系)を構成する。アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給すると共に、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを燃料電池スタック1に導入して循環させる装置である。
アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、エゼクタ34と、アノードガス循環通路35と、アノード循環ポンプ36と、アノード圧力センサ37と、パージ弁38とを含む。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31に貯蔵されたアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32の一端は、高圧タンク31に接続され、他端は、燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、燃料系を構成するアノードガス供給通路32の圧力を調整する燃料系圧力調整手段を構成する。アノード調圧弁33は、高圧タンク31とエゼクタ34との間のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33の開度を変化させることにより、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力は上昇又は降下する。
アノード調圧弁33としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。アノード調圧弁33は、コントローラ200によって開閉制御される。この開閉制御によって、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力が調節される。
エゼクタ34は、アノード調圧弁33と燃料電池スタック1との間のアノードガス供給通路32に設けられる。エゼクタ34は、アノードガス供給通路32に対してアノードガス循環通路35が合流する部分に設けられる機械式ポンプである。
アノードガス循環通路35は、燃料系を構成する通路であり、燃料電池スタック1からのアノードオフガスをアノードガス供給通路32に循環させる。アノードガス循環通路35の一端は、燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端は、エゼクタ34の吸引口に接続される。
アノード循環ポンプ36は、アノードガスに含まれる燃料を、燃料系を構成するアノードガス循環通路35に循環させる燃料循環手段を構成する。アノード循環ポンプ36は、燃料を含むアノードガスの循環流量を調整するアクチュエータである。アノード循環ポンプ36の回転速度を変化させることにより、アノードガス循環通路35を流れるアノードガスの循環流量は増加又は減少する。
アノード循環ポンプ36は、アノードガス循環通路35に設けられる。アノード循環ポンプ36は、エゼクタ34を介してアノードオフガスを燃料電池スタック1に循環させる。アノード循環ポンプ36の回転速度はコントローラ200によって制御される。これにより、アノードガス循環通路35を循環するアノードガスの流量が調整される。以下では、燃料電池スタック1に循環されるアノードガスの流量のことを「アノードガス循環流量」という。
アノード圧力センサ37は、エゼクタ34と燃料電池スタック1との間のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ37は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を検出する。以下では、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力のことを単に「アノードガス圧力」という。アノード圧力センサ37は、アノードガス圧力を検出した信号をコントローラ200に出力する。
パージ弁38は、アノードガス循環通路35から分岐したアノードガス排出通路に設けられる。パージ弁38は、アノードオフガスに含まれる不純物を外部に排出する。不純物とは、カソードガス流路131から電解質膜111を透過(リーク)してきた空気中の窒素ガスや、発電に伴う生成水などのことである。パージ弁38の開度は、コントローラ200によって制御される。
なお、図示されていないアノードガス排出通路は、カソード調圧弁26よりも下流側のカソードガス排出通路25に合流する。これにより、パージ弁38から排出されるアノードオフガスは、カソードガス排出通路25でカソードオフガスと混合されるので、混合ガス中の水素濃度が規定値以下に維持される。
スタック冷却装置4は、燃料電池10の温度を冷却する装置である。スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、冷却水ポンプ42と、ラジエータ43と、バイパス通路44と、三方弁45と、入口水温センサ46と、出口水温センサ47とを含む。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1に冷却水を循環させる通路である。冷却水循環通路41の一端は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に接続され、他端は、燃料電池スタック1の冷却水出口孔に接続される。
冷却水ポンプ42は、冷却水循環通路41に設けられる。冷却水ポンプ42は、ラジエータ43を介して燃料電池スタック1に冷却水を供給する。冷却水ポンプ42の回転速度は、コントローラ200によって制御される。
ラジエータ43は、冷却水ポンプ42よりも下流の冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ43は、燃料電池スタック1の内部で温められた冷却水をファンによって冷却する。
バイパス通路44は、ラジエータ43をバイパスする通路であって、燃料電池スタック1から排出される冷却水を燃料電池スタック1に戻して循環させる通路である。バイパス通路44の一端は、冷却水ポンプ42とラジエータ43との間の冷却水循環通路41に接続され、他端は、三方弁45の一端に接続される。
三方弁45は、燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度を調整する。三方弁45は、例えばサーモスタットにより実現される。三方弁45は、ラジエータ43と燃料電池スタック1の冷却水入口孔との間の冷却水循環通路41においてバイパス通路44が合流する部分に設けられる。
入口水温センサ46及び出口水温センサ47は、冷却水の温度を検出する。冷却水の温度は、燃料電池スタック1の温度、又はカソードガスの温度として用いられる。以下では、燃料電池スタック1の温度のことを「スタック温度」ともいう。
入口水温センサ46は、燃料電池スタック1に形成された冷却水入口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。入口水温センサ46は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に流入する冷却水の温度を検出する。以下では、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に流入する冷却水の温度のことを「スタック入口水温」という。入口水温センサ46は、スタック入口水温を検出した信号をコントローラ200に出力する。
出口水温センサ47は、燃料電池スタック1に形成された冷却水出口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。出口水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度を検出する。以下では、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度のことを「スタック出口水温」という。出口水温センサ47は、スタック出口水温を検出した信号をコントローラ200に出力する。
負荷装置5は、燃料電池スタック1から供給される発電電力を受けて駆動する。負荷装置5としては、例えば、車両を駆動する電動モータや、電動モータを制御する制御ユニット、燃料電池スタック1の発電を補助する補機などが挙げられる。燃料電池スタック1の補機としては、例えば、コンプレッサ22や、アノード循環ポンプ36、冷却水ポンプ42などが挙げられる。
なお、負荷装置5を制御する制御ユニットは、負荷装置5の作動に必要な電力を、燃料電池スタック1に対する要求電力としてコントローラ200に出力する。例えば、車両に設けられたアクセルペダルの踏込み量が大きくなるほど、負荷装置5の要求電力は大きくなる。
負荷装置5と燃料電池スタック1との間には、電流センサ51と電圧センサ52とが配置される。
電流センサ51は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負荷装置5の正極端子との間の電源線に接続される。電流センサ51は、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流を検出する。以下では、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流のことを「スタック出力電流」という。電流センサ51は、スタック出力電流を検出した信号をコントローラ200に出力する。
電圧センサ52は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負極端子1nとの間に接続される。電圧センサ52は、正極端子1pと負極端子1nとの間の電圧である端子間電圧を検出する。以下では、燃料電池スタック1の端子間電圧のことを「スタック出力電圧」という。電圧センサ52は、スタック出力電圧を検出した信号をコントローラ200に出力する。
インピーダンス測定装置6は、電解質膜111の湿潤状態を検出する装置である。インピーダンス測定装置6は、電解質膜111の湿潤状態と相関のある燃料電池スタック1の内部インピーダンスを測定する。
一般に、電解質膜の含水量(水分)が少なくなるほど、すなわち電解質膜が乾き気味になるほど、内部インピーダンスの電気抵抗成分は大きくなる。一方、電解質膜の含水量が多くなるほど、すなわち電解質膜が濡れ気味になるほど、内部インピーダンスの電気抵抗成分は小さくなる。このため、本実施形態では、電解質膜111の湿潤状態を示すパラメータとして、燃料電池スタック1の内部インピーダンスが用いられる。
燃料電池スタック1には、正極端子1pと直列に接続された正極タブと、負極端子1nと直列に接続された負極タブとが設けられており、正極タブ及び負極タブの各々にインピーダンス測定装置6が接続される。インピーダンス測定装置6は、電解質膜111の電気抵抗を検出するのに適した周波数を有する交流電流を正極端子1pに供給する。電解質膜の電気抵抗を検出するのに適した周波数のことを以下では「電解質膜応答周波数」という。インピーダンス測定装置6は、電解質膜応答周波数の交流電流によって正極端子1pと負極端子1nとの間に生じる交流電圧を検出し、検出した交流電圧の振幅を、正極端子1pに供給した交流電流の振幅で除算することにより、内部インピーダンスを算出する。
本実施形態では、燃料電池スタック1に積層された燃料電池のうち中途に位置する燃料電池10に中途タブが設けられ、その中途タブはインピーダンス測定装置6において接地される。そして、インピーダンス測定装置6は、電解質膜応答周波数の交流電流を正極端子1p及び負極端子1nの双方に供給する。インピーダンス測定装置6は、正極端子1pと中途タブとの間の交流電圧の振幅を、正極端子1pに供給した交流電流の振幅で除算して正極側の内部インピーダンスを算出する。さらにインピーダンス測定装置6は、負極端子1nと中途タブとの間の交流電圧の振幅を、負極端子1nに供給した交流電流の振幅で除算して負極側の内部インピーダンスを算出する。
以下では、電解質膜応答周波数の交流信号を用いて測定された内部インピーダンス(High Frequency Resistance;高周波数抵抗)のことを「計測HFR」という。インピーダンス測定装置6は、算出した計測HFRをコントローラ200に出力する。
コントローラ200は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。
コントローラ200は、流量センサ23、カソード圧力センサ24、アノード圧力センサ37、入口水温センサ46、出口水温センサ47、電流センサ51、電圧センサ52及びインピーダンス測定装置6の各出力信号と負荷装置5からの要求電力とを取得する。これらの信号は、燃料電池システム100の運転状態に関するパラメータとして用いられる。
コントローラ200は、燃料電池システム100における燃料電池スタック1の湿潤状態を制御する湿潤制御装置を構成する。コントローラ200は、燃料電池システム100の運転状態に関するパラメータに応じて、コンプレッサ22及びカソード調圧弁26を用いて、カソードガスの流量及び圧力を制御する。さらにコントローラ200は、アノード調圧弁33及びアノード循環ポンプ36を用いて、アノードガスの流量及び圧力を制御する。また、コントローラ200は、燃料電池システム100の運転状態に関するパラメータに応じて、冷却水ポンプ42及び三方弁45を用いて、燃料電池スタック1の温度を制御する。
例えば、コントローラ200は、負荷装置5の要求電力に基づいて、カソードガス流量及び圧力の目標値、並びにアノードガスの流量及び圧力の目標値を演算する。コントローラ200は、カソードガスの流量及び圧力の目標値に基づいて、コンプレッサ22の回転速度とカソード調圧弁26の開度とを制御し、アノードガスの流量及び圧力の目標値に基づいて、アノード循環ポンプ36の回転速度とアノード調圧弁33の開度とを制御する。
図2及び図3は、燃料電池スタック1に形成される燃料電池10の構成の一例を示す図である。図2は、燃料電池10の斜視図であり、図3は、図2に示した燃料電池10のII−II断面図である。
燃料電池10は、燃料極としてのアノード電極と、酸化剤極としてのカソード電極と、これら電極に挟まれるように配置される電解質膜とから構成されている。燃料電池のアノード電極には、燃料として水素を含有するアノードガスが供給される。燃料電池のカソード電極には、酸化剤として酸素を含有するカソードガスが供給される。
燃料電池10は、水素を含有するアノードガス及び酸素を含有するカソードガスを用いて発電する電池である。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は、以下の通りである。
アノード電極: 2H2 → 4H++4e- ・・・(A)
カソード電極: 4H++4e-+O2 → 2H2O ・・・(B)
これら(A)及び(B)の電極反応によって、燃料電池10は1V(ボルト)程度の起電力を生じる。
図2及び図3に示すように、燃料電池10は、膜電極接合体(MEA)11と、MEA11を挟むように配置されるアノードセパレータ12及びカソードセパレータ13と、を備えている。
MEA11は、電解質膜111と、アノード電極112と、カソード電極113とから構成されている。MEA11は、電解質膜111の一方の面側にアノード電極112を有しており、他方の面側にカソード電極113を有している。
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、適度な湿潤度で良好な電気伝導性を示す。ここにいう電解質膜111の湿潤度とは、電解質膜111に含まれる水分の量(含水量)に相当する。電解質膜111の湿潤度が高くなるほど、電解質膜111の水分が増加して湿った状態となり、電解質膜111の湿潤度が低くなるほど、電解質膜111の水分が減少して乾いた状態となる。
アノード電極112は、触媒層112Aとガス拡散層112Bとを備えている。触媒層112Aは、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子により形成された部材であって、電解質膜111と接するように設けられている。ガス拡散層112Bは、触媒層112Aの外側に配置されている。ガス拡散層112Bは、ガス拡散性及び導電性を有するカーボンクロスで形成された部材であって、触媒層112A及びアノードセパレータ12と接するように設けられている。
カソード電極113についても、アノード電極112と同様に、触媒層113Aとガス拡散層113Bとを備えている。触媒層113Aは、電解質膜111とガス拡散層113Bとの間に配置され、ガス拡散層113Bは、触媒層113Aとカソードセパレータ13との間に配置されている。
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112Bの外側に配置されている。アノードセパレータ12は、アノード電極112にアノードガスを供給するための複数のアノードガス流路121を備える。アノードガス流路121は、溝状通路として形成されている。すなわち、アノードガス流路121は、電解質膜111の他方の面に対して燃料を通す燃料流路を構成する。
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113Bの外側に配置されている。カソードセパレータ13は、カソード電極113にカソードガスを供給するための複数のカソードガス流路131を備えている。カソードガス流路131は、溝状通路として形成される。すなわち、カソードガス流路131は、電解質膜111の一方の面に対して酸化剤を通す酸化剤流路を構成する。
また、カソードセパレータ13は、燃料電池10の冷却水を供給するための複数の冷却水流路141を備えている。冷却水流路141は溝状に形成されている。
図2に示すように、カソードセパレータ13は、冷却水流路141を流れる冷却水の流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに同じ向きとなるように構成されている。なお、これらの流れ方向が互いに逆向きとなるように構成してもよく、所定の角度をもつように構成してもよい。
また、アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、アノードガス流路121を流れるアノードガスの流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに逆向きとなるように構成されている。また、これらの流れ方向が所定の角度をもつように構成してもよい。
このような燃料電池10においては、各電解質膜111の含水量を示す湿潤度が高くなり過ぎたり、低くなり過ぎたりすると、燃料電池スタック1の発電性能が低下する。燃料電池スタック1を効率的に発電させるには、電解質膜111を適度な湿潤度に維持することが重要である。そのため、コントローラ200は、負荷装置5の要求電力を確保できる範囲内において、燃料電池スタック1の湿潤状態が発電に適した状態に維持されるように、燃料電池スタック1の湿潤状態を制御する。
以下では、燃料電池スタック1の湿潤状態が発電に適した状態で維持されるように、アノードガスの流量及び圧力や、カソードガスの流量及び圧力などの燃料電池システム100の運転状態を制御することを「湿潤制御」という。そして、電解質膜111の余剰な水分を減らすために、燃料電池スタック1の湿潤状態を乾燥(ドライ)側に遷移させる湿潤制御のことを「ドライ操作」という。また、電解質膜111の水分を増やすために、燃料電池スタック1の湿潤状態を湿潤(ウェット)側に遷移させる湿潤制御のことを「ウェット操作」という。
燃料電池スタック1の湿潤制御において、コントローラ200は、主に、カソードガス流量、カソードガス圧力、アノードガス流量、及びアノードガス圧力の4つのパラメータを制御する。
コントローラ200によるカソードガス流量制御は、主にコンプレッサ22を用いて実行され、カソードガス圧力制御は、主にカソード調圧弁26を用いて実行される。
ドライ操作では、コントローラ200は、燃料電池スタック1から外部に排出される水の排水量が増加するように、カソードガス流量を大きくしたり、カソードガス圧力を低くしたりする。反対に、ウェット操作では、コントローラ200は、カソードガス流量を小さくしたり、カソードガス圧力を高くしたりする。以下では、カソードガス流量を増加させる流量制御のことを「増量制御」という。
コントローラ200によるアノードガス流量制御は、主にアノード循環ポンプ36を用いて実行される。
図2に示したアノードガス流路121の上流側を流れるアノードガスは、カソードガス流路131の下流側から電解質膜111を介してリークしてきた水蒸気によって加湿される。それゆえ、アノードガス循環流量が増加すると、アノードガス流路121の上流側で加湿されたアノードガスが下流側の電解質膜111まで行き渡りやすくなると共に、アノードガス流路121及びアノードガス循環通路35を循環するアノードガスに混入する水蒸気の総量が増加する。その結果、電解質膜111の水分が増加しやすくなる。
それゆえ、ウェット操作では、加湿されたアノードガスが燃料電池スタック1の全体に行き渡るように、コントローラ200は、アノードガス循環流量を増加させる。反対にドライ操作では、コントローラ200は、アノードガス循環流量を減少させる。
コントローラ200によるアノードガス圧力制御は、主にアノード調圧弁33を用いて実行される。
ドライ操作では、コントローラ200は、カソードガス流路131からアノードガス流路121へリークしてくる水蒸気量が減少するように、アノードガス圧力を上昇させる。以下では、アノードガス圧力を上昇させる圧力制御のことを「昇圧制御」という。反対にウェット操作では、カソードガス流路131からアノードガス流路121へリークしてくる水蒸気量が増加するように、コントローラ200は、アノードガス圧力を低下させる。
このような湿潤制御において、ドライ操作を実施する場合には、コントローラ200は、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御と、カソードガス流量を増加させる増量制御とを実行する。しかしながら、ドライ操作において、カソードガスの増量制御よりも先にアノードガスの昇圧制御を実行すると、電解質膜111の水分が殆ど減少しない場合があることを発明者らは知見した。
図4は、燃料電池スタック1の湿潤状態とカソードガス流量との関係、及び燃料電池スタック1の湿潤状態とアノードガス圧力との関係を説明するための説明図である。図4では、縦軸が、燃料電池スタック1の湿潤状態を示し、横軸が、アノードガス圧力の変化量を示す。ここでは、「大」、「中」及び「小」のカソードガス流量ごとに、カソードガス圧力を一定にした状態でアノードガス圧力を高くしたときの燃料電池スタック1の湿潤状態が示されている。
図4に示すように、ドライ操作1においては、アノードガス圧力が低い状態で、カソードガス流量を「小」から「中」に上げると、燃料電池スタック1の湿潤状態がドライ側に遷移する。すなわち、カソードガスの増量制御によってドライ操作が効率よく行われる。
一方、ドライ操作2においては、カソードガス流量が「小」のときにアノードガス圧力を上げても、燃料電池スタック1の電解質膜111の湿潤状態は殆ど変化しない。すなわち、ドライ操作において、燃料電池スタック1に供給されるカソード流量が少ない状態では、アノードガスの昇圧制御を実行しても、ドライ操作が効率よく行われない。
このように、カソードガスの増量制御よりも先にアノードガスの昇圧制御を実行すると、ドライ操作に要する時間が長くなってしまう。これに対して、図4に示したドライ操作1のように、アノードガス圧力を上げる前にカソードガス流量を上げることにより、ドライ操作を効率よく実施することができる。
そこで、本実施形態では、コントローラ200は、ドライ操作を実施する場合に、アノードガスの昇圧制御よりも優先してカソードガスの増量制御を実行する。すなわち、コントローラ200は、少なくともドライ操作時に、アノード調圧弁33の動作よりも優先してコンプレッサ22の動作を制御する。
図5は、本実施形態におけるコントローラ200の機能構成の一例を示すブロック図である。
コントローラ200は、膜湿潤状態取得部210と、スタック目標電流演算部220と、アノードガス循環流量推定部230と、カソードガス給排装置指令部240と、アノードガス給排装置指令部250と、湿潤制御部300とを含む。
膜湿潤状態取得部210は、燃料電池スタック1における電解質膜111の湿潤状態を示す信号を取得する取得手段である。本実施形態では、膜湿潤状態取得部210は、電解質膜111の湿潤度を示す湿潤状態情報として、インピーダンス測定装置6から出力される計測HFRを取得する。
膜湿潤状態取得部210は、インピーダンス測定装置6からの計測HFRに基づいて、電解質膜111の湿潤状態を発電に適した状態に維持するための目標水収支を演算する。目標水収支は、電解質膜111の目標とする湿潤状態からの水分の過不足を表わすパラメータであり、電解質膜111の湿潤度と相関のあるパラメータである。
例えば、膜湿潤状態取得部210は、計測HFRが目標とする値よりも小さい場合には、電解質膜111の水分が多いと判定し、目標水収支としてマイナス(負)の値を算出する。電解質膜111の水分が多いと判定された場合には、湿潤制御部300により電解質膜111の余剰の水分を減らすためのドライ操作が実施される。
一方、計測HFRが目標とする値よりも大きい場合には、膜湿潤状態取得部210は、電解質膜111の水分が少ないと判定し、目標水収支としてプラス(正)の値を算出する。電解質膜111の水分が少ないと判定された場合には、湿潤制御部300により電解質膜111の水分の不足分を増やすためのドライ操作が実施される。
膜湿潤状態取得部210は、算出した目標水収支を湿潤制御部300に出力する。
なお、膜湿潤状態取得部210は、計測HFRの代わりに、燃料電池スタック1の温度を用いて湿潤状態情報を生成するものであってもよい。この場合には、膜湿潤状態取得部210は、スタック入口水温とスタック出口水温の平均値を燃料電池スタック1の温度として算出する。そして膜湿潤状態取得部210は、予め定められた湿潤推定マップを参照し、算出した燃料電池スタック1の温度に対応付けられた湿潤状態情報を特定し、特定した湿潤状態情報に基づいて目水収支を算出する。
あるいは、膜湿潤状態取得部210は、負荷装置5の要求電力に基づいて湿潤状態情報を生成するものであってもよい。この場合には、膜湿潤状態取得部210は、負荷装置5の制御ユニットから要求電力を取得すると、予め定められた湿潤推定マップを参照し、取得した要求電力に対応付けられた湿潤状態情報を特定する。例えば、膜湿潤状態取得部210は、負荷装置5の要求電力が大きくなるほど、発電に伴う生成水の発生量が増加するため、湿潤状態情報に示される電解質膜111の湿潤度を大きくする。
スタック目標電流演算部220は、燃料電池スタック1に接続される負荷装置5の要求電力に基づいて、スタック目標電流を演算する。
例えば、燃料電池スタック1のIV(電流−電圧)特性がスタック目標電流演算部220に予め記録される。スタック目標電流演算部220は、負荷装置5から要求電力を取得すると、予め記憶されたIV特性を参照し、取得した要求電力に対応付けられた電流値をスタック目標電流として算出する。なお、燃料電池スタック1のIV特性は、燃料電池スタック1の出力電流を変化させたときのスタック出力電流とスタック出力電圧との関係から推定したものであってもよい。
スタック目標電流演算部220は、算出したスタック目標電流を湿潤制御部300に出力する。
アノードガス循環流量推定部230は、アノードガス給排装置3の作動状態に基づいて、燃料電池スタック1に供給されるアノードガス循環流量を推定する。本実施形態では、アノード循環ポンプ36の回転速度とアノードガス循環流量との関係を示す流量推定マップがアノードガス循環流量推定部230に予め記録される。流量推定マップについては図6を参照して後述する。
アノードガス循環流量推定部230は、アノード循環ポンプ36に設けられた回転速度センサから、アノード循環ポンプ36の回転速度を取得する。アノードガス循環流量推定部230は、アノード循環ポンプ36の回転速度を取得すると、流量推定マップを参照し、取得した回転速度に関係付けられたアノードガス循環流量Qを算出する。さらに、アノードガス循環流量推定部230は、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力Paを取得し、入口水温センサ46からスタック入口水温Tinを取得する。
そして、アノードガス循環流量推定部230は、次式(1)のとおり、アノードガス循環流量Qaとアノードガス圧力Paとスタック入口水温Tinとに基づいて、標準状態でのアノードガス循環流量Qa_nlを算出する。アノードガス循環流量推定部230は、算出したアノードガス循環流量Qa_nlを計測値として湿潤制御部300に出力する。
なお、本実施形態ではアノードガス循環流量を推定したが、アノードガス流量を検出する流量センサをアノードガス循環通路35に設けてその流量センサの出力信号を用いてもよい。
湿潤制御部300は、膜湿潤状態取得部210から出力される信号に応じて、少なくともコンプレッサ22とアノード調圧弁33とを操作して電解質膜111の湿潤状態を制御する制御手段を構成する。
湿潤制御部300は、目標水収支と、スタック目標電流と、カソードガスの流量及び圧力と、アノードガスの流量及び圧力とに基づいて、カソードガスの流量及び圧力の各目標値と、アノードガスの流量及び圧力の各目標値とを演算する。
湿潤制御部300は、ドライ操作を実施する場合には、アノードガス流量制御及びカソードガス圧力制御によるドライ操作よりも優先して、カソードガス流量制御及びアノードガス圧力制御によるドライ操作を実施する。カソードガス流量制御及びアノードガス圧力制御によるドライ操作を実施する場合には、湿潤制御部300は、カソードガス流量を増加させつつ、目標水収支の大きさに応じてアノードガス圧力を上昇させる。
すなわち、湿潤制御部300は、膜湿潤状態取得部210からの出力信号に基づき電解質膜111の水分を減らすときには、電解質膜111の水分を増やすときに比べて、カソードガス流量を増加させる。これと共に湿潤制御部300は、膜湿潤状態取得部210からの出力信号に応じてアノードガス圧力を上昇させる。
湿潤制御部300は、カソードガス流量の目標値を示すカソード目標流量と、カソードガス圧力の目標値を示すカソード目標圧力とをカソードガス給排装置指令部240に出力する。そして、湿潤制御部300は、アノードガス循環流量の目標値を示すアノード目標流量と、アノードガス圧力の目標値を示すアノード目標圧力とをアノードガス給排装置指令部250に出力する。
カソードガス給排装置指令部240は、カソード目標流量、及びカソード目標圧力に基づいて、コンプレッサ22の回転速度、及びカソード調圧弁26の開度のうちの少なくとも一方の作動を制御する。
本実施形態では、カソードガス給排装置指令部240は、カソードガス流量がカソード目標流量に収束するように、コンプレッサ22の回転速度を制御する。また、カソードガス給排装置指令部240は、カソードガス圧力がカソード目標圧力に収束するように、カソード調圧弁26の開度を制御する。
アノードガス給排装置指令部250は、アノード目標流量、及びアノード目標圧力に基づいて、アノード循環ポンプ36の回転速度、及びアノード調圧弁33の開度のうちの少なくとも一方の作動を制御する。
本実施形態では、アノードガス給排装置指令部250は、アノードガス循環流量がアノード目標流量に収束するように、アノード循環ポンプ36の回転速度を制御する。また、アノードガス給排装置指令部250は、アノードガス圧力がアノード目標圧力に収束するように、アノード調圧弁33の開度を制御する。
図6は、アノードガス循環流量推定部230に設定される流量推定マップの一例を示す観念図である。ここでは、横軸がアノード循環ポンプ36の回転速度を示し、縦軸がアノードガス循環流量を示す。図6に示すように、アノード循環ポンプ36の回転速度が高くなるほど、アノードガス循環流量が大きくなる。
図7は、膜湿潤状態取得部210の詳細構成の一例を示すブロック図である。
膜湿潤状態取得部210は、目標HFR演算部211と目標水収支演算部212とを含む。
目標HFR演算部211は、燃料電池スタック1の運転状態に応じて、電解質膜111の湿潤状態を目標とする状態に操作するための目標HFRを演算する。
本実施形態では、スタック出力電流と目標HFRとの関係を示す膜湿潤制御マップが目標HFR演算部211に予め記録される。目標HFR演算部211は、電流センサ51からスタック出力電流Isを取得すると、膜湿潤制御マップを参照し、取得したスタック出力電流Isに関係付けられた目標HFRを算出する。膜湿潤制御マップについては図7を参照して後述する。目標HFR演算部211は、算出した目標HFRを目標水収支演算部212に出力する。
なお、目標HFR演算部211は、予め定められた演算式を用いてスタック出力電流Isに基づき目標HFRを演算するものであってもよい。また、目標HFR演算部211は、スタック出力電流Isの代わりに、負荷装置5の要求電力を用いて目標HFRを算出するものであってもよい。
目標水収支演算部212は、電解質膜111の湿潤状態が目標とする状態になるように、電解質膜111の水分を増減させるための目標水収支Qw_tを演算する。
本実施形態では、目標水収支演算部212は、目標HFR演算部211から目標HFRを取得し、インピーダンス測定装置6から計測HFRを取得する。そして目標水収支演算部212は、計測HFRと目標HFRとの偏差がゼロに収束するように目標水収支Qw_tを演算する。
例えば、目標水収支演算部212は、計測HFRから目標HFRを減算して計測HFRと目標HFRとの偏差を求め、その偏差に基づきPI制御を実行して目標水収支Qw_tを算出する。目標水収支演算部212は、算出した目標水収支Qw_tを湿潤制御部300に出力する。
図8は、目標HFR演算部211に設定される膜湿潤制御マップの一例を示す観念図である。ここでは、横軸がスタック出力電流を示し、縦軸が目標HFRを示す。目標HFRが大きくなるほど、電解質膜111が乾き易くなり、また目標HFRが小さくなるほど、電解質膜111が湿り易くなる。
目標HFRは、燃料電池スタック1の発電に伴う生成水がカソードガス流路131に滞留してカソードガスの流れが阻害されないように設定される。
膜湿潤制御マップでは、スタック出力電流が所定の電流値I1よりも大きい大電流範囲内にあるときには、カソードガス流量が大きくなるため、燃料電池スタック1内に滞留する液水の影響が小さくなる。そのため、大電流範囲内の目標HFRは、小電流範囲内の目標HFRよりも小さく、かつ、一定の値に設定される。
一方、スタック出力電流がゼロから電流値I1までの小電流範囲内にあるときは、スタック出力電流が小さくなるほど、目標HFRが大きくなる。
このように設定される理由は、カソードガス流量が少なくなるほど、カソードガス流路131に滞留する液水によりカソードガスの流れが阻害され易くなるからである。そのため、小電流範囲内の目標HFRは、大電流範囲内の目標HFRに比べて高く設定される。
図9は、湿潤制御部300により実施されるドライ操作の一例を示すタイムチャートである。
図9(A)は、燃料電池スタック1内の水収支の変化を示す図である。水収支とは、燃料電池スタック1の発電に伴って生成される水量と、燃料電池スタック1から燃料電池システム100の外部に排出される水量との収支のことである。図9(B)は、カソードガス圧力の変化を示す図である。図9(C)は、アノードガス圧力の変化を示す図である。図9(D)は、アノード循環水量の変化を示す図である。アノード循環水量とは、アノードガス流路121及びアノードガス循環通路35内に保持される水の総量のことである。図9(A)から図9(D)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
図9の各図面では、カソードガスの増量制御を実行した後にアノードガスの昇圧制御を実行したときのドライ操作が実線により示され、アノードガスの昇圧制御を実行した後にカソードガスの増量制御を実行したときのドライ操作が点線により示されている。
時刻t0では、図9(A)に示すように、燃料電池スタック1の水収支の目標値である目標水収支が大幅に低下し、ドライ操作が実施される。例えば、アクセルペダルが踏まれて負荷装置5の要求電力が大幅に上昇すると、燃料電池スタック1の発電に伴う多量の生成水によって電解質膜111が加湿され、その後、負荷装置5の要求電力が低下したときに、図8に示したように目標HFRが増加して目標水収支が大幅に低下する。
本実施形態では、図9(B)の実線で示すように、コンプレッサ22の回転速度が徐々に上げられてカソードガス流量が増加する。これに伴って、カソードガスによってカソードガス流路131から外部に持ち出される排水量が増加するため、図9(D)の実線で示すように、カソードガス流路131からアノードガス流路121への水蒸気量が減少してアノード循環水量が低下する。これにより、図9(A)の実線で示すように、燃料電池スタック1の水収支が低下する。すなわち、電解質膜111の水分が減少する。
時刻t1において、カソードガス流量がドライ操作の上限値に到達し、図9(C)の実線で示すように、アノード調圧弁33の開度が徐々に上げられてアノードガス圧力が上昇する。これに伴って、アノードガス流路121内の水蒸気分圧も上昇するため、図9(D)の実線で示すように、カソードガス流路131からアノードガス流路121への水蒸気量が減少して、アノード循環水量が減少する。これにより、図9(A)の実線で示すように、燃料電池スタック1の水収支が低下する。
時刻t2において、燃料電池スタック1の水収支が目標値に到達し、ドライ操作が終了する。
一方、図9(B)及び図9(C)の点線で示すように、時刻t0において、カソードガスの増量制御よりも先にアノードガスの昇圧制御を実行すると、図9(D)の点線で示すようにアノード循環水量が減少しない。これは、カソードガスの流量が少ないため、カソードガス流路131から持ち出される排水量が少なく、アノードガス圧力を上げたとしても排水量は殆ど増加しないからである。そのため、図9(A)の点線で示すように、燃料電池スタック1の水収支も低下しない。
このとき、図9(C)の点線で示すように、アノードガス圧力が高くなるほど、アノード循環ポンプ36の消費電力は高くなるため、時刻t0から時刻t1までの期間は、水収支が減少しないままの状態でアノード循環ポンプ36の消費電力が増加してしまう。さらに、図9(A)の点線で示すように、時刻t2において、燃料電池スタック1の水収支が目標値に到達しないことから、ドライ操作に要する時間が長くなってしまう。
これに対し、本実施形態の湿潤制御部300は、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御よりも優先してカソードガス流量を増加させる増量制御を実行するので、アノード循環ポンプ36の消費電力の増加を低減しつつ、早期にドライ操作を完了することができる。
本発明の第1実施形態によれば、燃料電池システム100は、酸化剤を含むカソードガスが流れるカソードガス給排装置(酸化剤系)2と、カソードガス給排装置2の流れと対向する方向に燃料を含むアノードガスが流れアノードガス給排装置(燃料系)3とを備える。カソードガス給排装置(酸化剤系)2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するコンプレッサ(酸化剤供給手段)22を備え、コンプレッサ22から供給されるカソードガスにより燃料電池10の電解質膜111で発生した水を排出する排出手段を構成する。アノードガス給排装置3は、アノードガス給排装置3の圧力を調整するアノード調圧弁(燃料系圧力調整手段)を備え、電解質膜111で発生した水を留保する。
そして、燃料電池システム100を制御するコントローラ(湿潤制御装置)200は、燃料電池スタック1に積層された電解質膜111の湿潤状態を示す信号を取得する膜湿潤状態取得部(取得手段)210を備える。さらにコントローラ200は、膜湿潤状態取得部210からの信号に応じて、少なくともコンプレッサ22とアノード調圧弁33とを操作して電解質膜111の湿潤状態を制御する湿潤制御部(制御手段)300を備える。湿潤制御部300は、少なくとも電解質膜111の水分を減らすドライ操作時には、コンプレッサ22の動作をアノード調圧弁33の動作よりも優先して制御する。
このため、ドライ操作を実施する場合には、コンプレッサ22の動作に比べてアノード調圧弁33の動作が抑制されるので、コンプレッサ22を先に動作させることができる。これにより、図4に示したように、アノード調圧弁33の開度を制御しても電解質膜111の水分が減り難いような状態では、ドライ操作の開始と共にコンプレッサ22が最初に作動する。このため、少なくともドライ操作において、アノード調圧弁33に対する無駄な制御が抑制されるので、図9(B)の点線で示した無用な待ち時間を削減することができる。したがって、効率よく燃料電池スタック1の湿潤状態を制御することができる。
また、本実施形態によれば、図2に示したように、燃料電池10は、電解質膜111の一方の面に対してカソードガスを通すカソードガス流路131と、電解質膜111の他方の面に対してカソードガス流路131に流れるカソードガスの向きとは反対の向きにアノードガスを通すアノードガス流路121とにより構成される。コンプレッサ22は、大気から燃料電池10までの経路であるカソードガス供給通路21の途中に設けられ、燃料電池10に空気を供給するアクチュエータである。コンプレッサ22の回転速度を変化させることにより、カソードガス流路131を流れるカソードガスの流量を増減する。そして、湿潤制御部300は、図9(B)及び図9(D)に示したように、少なくともドライ操作時において、アノードガス流路121を循環する水量であるアノード循環水量を減らす場合には、カソードガス流量を増加させる。
このため、ドライ操作を実施する場合においてカソードガスの増量制御を実行することにより、直接的に燃料電池スタック1からの排水量を増やして、速やかにアノード循環水量を減らすことができる。したがって、ドライ操作の速効性を高めることができる。
また、本実施形態によれば、アノードガス流路121に供給されるアノードガスの圧力を調整するアノード調圧弁33の開度を変化させることにより、アノードガス流路121のアノードガス圧力は昇降する。そして、湿潤制御部300は、図9(C)及び図9(D)に示したように、少なくともドライ操作時において、アノード循環水量を減らす場合には、アノードガス流路121のアノードガス圧力を上昇させる。
このように、ドライ操作を実施する場合には、燃料電池スタック1のアノードガス圧力が上昇するので、電解質膜111にアノードガスを十分に供給できる状態が確保される。これにより、負荷装置5の要求電力が急峻に高くなったとしても迅速に燃料電池スタック1の発電電力を増加させることができる。すなわち、ドライ操作を実施しつつ、燃料電池スタック1の出力を確保することができる。
これに加えて、アノード調圧弁33によるアノードガスの昇圧制御は、コンプレッサ22によるカソードガスの増量制御の実行中又は実行後に行われる。このため、図4に示したように、アノードガスの昇圧制御は、カソードガス流量の増加によってドライ操作への寄与度が得られる状態になってから行われることになるので、ドライ操作をより効果的に実施することができる。このため、ドライ操作を効果的に実行することができると共に、燃料電池スタック1の発電の応答性を向上させることができる。
以上のように、本実施形態によれば、早期に、かつ、効果的に、ドライ操作を完了することができるので、効率良く電解質膜111の湿潤状態を制御することができる。
(第2実施形態)
次に、ドライ操作を実施するときの湿潤制御部300の構成例について詳細に説明する。
図10は、本発明の第2実施形態における湿潤制御部300の詳細構成の一例を示すブロック図である。ここでは、ドライ操作を実施するときの湿潤制御部300の構成が示されている。
湿潤制御部300は、DRY操作優先順位設定部(以下、単に「優先順位設定部」という。)310と、カソード目標流量演算部320と、アノード目標圧力演算部330と、カソード目標圧力演算部340と、アノード目標流量演算部350とを含む。
優先順位設定部310は、燃料電池スタック1の湿潤状態に応じて、湿潤制御に用いられるアノードガス及びカソードガスの各状態量を制御する各制御処理の優先度を設定する。
本実施形態では、優先順位設定部310は、インピーダンス測定装置6からの計測HFRに基づいて、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス流量制御、及びカソードガス圧力制御の各制御に関する優先順位を設定する。すなわち、優先順位設定部310は、アノード循環ポンプ36、アノード調圧弁33、コンプレッサ22、及びカソード調圧弁26の各動作を制御する順位を、電解質膜111の湿潤状態に応じて調整する。
まず、優先順位設定部310は、燃料電池スタック1の計測HFRと目標HFRとに基づいて、電解質膜111の水分を減らすドライ操作を実施する必要があるか、電解質膜111の水分を増やすウェット操作を実施する必要があるかの判断を行う。優先順位設定部310は、計測HFRが目標HFR以上である場合には、ウェット操作を実施する必要があると判断し、ウェット操作パラメータを出力する。また、優先順位設定部310は、計測HFRが目標HFRよりも低い場合には、ドライ操作を実施する必要があると判断し、各制御に関する優先順位を設定するためのドライ操作パラメータを出力する。
優先順位設定部310は、燃料電池スタック1の計測HFRが目標HFR以上である場合には、ウェット操作パラメータとして、カソードガス圧力、カソードガス流量、及びアノードガス圧力の各計測値を出力する。
一方、優先順位設定部310は、計測HFRが目標HFRよりも低い場合には、ドライ操作パラメータとして、電解質膜111をウェット状態にするときのWET操作値をそれぞれ出力する。
例えば、カソードガス流量制御のWET操作値としては、カソードガス流量の計測値よりも小さな値が用いられ、アノードガス流量制御のWET操作値としては、アノードガス流量の計測値よりも大きな値が用いられる。また、アノードガス圧力制御のWET操作値としては、アノードガス圧力の計測値よりも小さな値が用いられる。
本実施形態では、優先順位設定部310は、ドライ操作パラメータとして、カソード上限圧力、アノード上限流量、及びアノード下限圧力を出力する。これらのドライ操作パラメータは、電解質膜111を最も湿った状態に遷移させる場合に用いられるWET操作値である。
カソード上限圧力は、燃料電池スタック1の運転状態に応じて定められるカソードガス圧力の上限値である。例えば、カソード上限圧力は、負荷装置5の要求電力に基づいて算出されるカソードガス圧力の上限値や、電解質膜111の許容圧力とアノードガス圧力とに基づいて設定されるカソードガス圧力の上限値などの中から最も小さい値に設定される。すなわち、カソード上限圧力は、燃料電池スタック1の発電性能を確保できる範囲で最も高い圧力に設定される。
アノード上限流量は、アノード循環ポンプ36の動作特性を用いて定められたアノードガス循環流量の上限値である。具体的には、アノード上限流量は、アノード循環ポンプ36のP−Q特性と、アノードガス循環系の圧力損失と、アノード循環ポンプ36の回転速度が上限値に達したときのアノードガス流量と、から設定される。すなわち、アノード上限流量は、燃料電池スタック1の発電性能を確保できる範囲で最も大きな流量に設定される。
アノード下限圧力は、燃料電池スタック1の運転状態に応じて定められるアノードガス圧力の下限値である。例えば、アノード下限圧力は、負荷装置5の要求電力に基づいて算出されるアノードガス圧力の下限値や、電解質膜111の許容圧力とカソードガス圧力とに基づいて設定されるアノードガス圧力の下限値などの中から最も大きい値に設定される。すなわち、アノード下限圧力は、燃料電池スタック1の発電性能を確保できる範囲で最も低い圧力に設定される。
なお、本実施形態では優先順位設定部310が計測HFRに基づいて湿潤制御がドライ操作であるかウェット操作であるかを判定したが、目標水収支が所定の閾値よりも大きい場合にドライ操作が実施されると判定するものであってもよい。あるいは、優先順位設定部310は、所定のサンプリング周期で目標水収支を取得し、目標水収支の今回値が前回値よりも小さい場合にドライ操作が開始されると判定するものであってもよい。
カソード目標流量演算部320は、電解質膜111の湿潤度と、燃料電池10に供給されるアノードガス圧力とに基づいて、カソードガス流量を制御する流量制御部を構成する。
本実施形態では、カソード目標流量演算部320は、電解質膜111の湿潤度と相関のある目標水収支と、カソードガス圧力と、アノードガス流量と、アノードガス圧力とに基づいて、カソード目標流量を演算する。カソード目標流量演算部320は、演算したカソード目標流量をカソードガス給排装置指令部240に出力する。
カソード目標流量演算部320は、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の水分が増加するように、カソード目標流量を小さくする。一方、カソード目標流量演算部320は、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の水分が減少するように、カソード目標流量を大きくする。
ドライ操作において、カソード目標流量演算部320は、アノードガス流量が大きくなるほど、又は、アノードガス圧力が小さくなるほど、アノード循環水量が増加して電解質膜111の水分が増加してしまうので、カソード目標流量を大きくする。また、カソード目標流量演算部320は、カソードガス圧力が大きくなるほど、カソードガスにより燃料電池スタック1から持ち出される排水量が減少して電解質膜111の水分が増加してしまうので、カソード目標流量を大きくする。
本実施形態では、カソード目標流量演算部320は、優先順位設定部310から、アノード上限流量、アノード下限圧力、及びカソード上限圧力をWET操作値として取得する。このため、カソード目標流量演算部320は、アノードガス流量、アノードガス圧力、及びカソードガス圧力の各計測値を取得する場合に比べて、カソード目標流量を小さくすることができる。このように、優先順位設定部310は、ドライ操作において、カソード流量制御の優先順位を、アノードガス流量制御、アノードガス圧力制御、及びカソードガス圧力制御の優先順位よりも高くすることができる。
アノード目標圧力演算部330は、電解質膜111の湿潤度と、燃料電池10に供給されるカソードガス流量とに基づいて、アノードガス圧力を制御する圧力制御部を構成する。
本実施形態では、アノード目標圧力演算部330は、目標水収支と、カソードガス流量と、カソードガス圧力と、アノードガス流量とに基づいて、アノード目標圧力を演算する。アノード目標圧力演算部330は、演算したアノード目標圧力をアノードガス給排装置指令部250に出力する。
アノード目標圧力演算部330は、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の水分が増加するように、アノード目標圧力を小さくする。一方、アノード目標圧力演算部330は、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の水分が減少するように、アノード目標圧力を大きくする。
ドライ操作において、アノード目標圧力演算部330は、カソードガス流量が小さくなるほど、又は、カソードガス圧力が大きくなるほど、カソードガス流路131から持ち出される排水量が減少してしまうので、アノード目標圧力を大きくする。また、アノード目標圧力演算部330は、アノードガス圧力が小さくなるほど、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が増加してしまうので、アノード目標圧力を大きくする。
本実施形態では、アノード目標圧力演算部330は、優先順位設定部310から、カソード上限圧力、及びアノード上限流量をWET操作値として取得し、流量センサ23からカソードガス流量の計測値を取得する。このため、アノード目標圧力演算部330は、カソードガス圧力、及びアノードガス流量の各計測値を取得した場合に比べて、アノード目標圧力を大きくすることができる。このように、優先順位設定部310は、ドライ操作において、アノードガス圧力制御の優先順位を、カソードガス圧力制御、及びアノードガス流量制御の優先順位よりも高くすることができる。
カソード目標圧力演算部340は、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の水分が増加するように、カソード目標圧力を大きくする。一方、カソード目標圧力演算部340は、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の水分が減少するように、カソード目標圧力を小さくする。
ドライ操作において、カソード目標圧力演算部340は、カソードガス流量が小さくなるほど、カソードガス流路131から持ち出される排水量が減少してしまうので、カソード目標圧力を小さくする。また、カソード目標圧力演算部340は、アノードガス流量が大きくなるほど、又はアノードガス圧力が小さくなるほど、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が増加してしまうので、カソード目標圧力を小さくする。
本実施形態では、カソード目標圧力演算部340は、優先順位設定部310からアノード上限流量をWET操作値として取得し、流量センサ23からカソードガス流量の計測値を取得し、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力の計測値を取得する。このため、カソード目標圧力演算部340は、アノードガス流量の計測値を取得した場合に比べて、カソード目標圧力を小さくすることができる。このように、優先順位設定部310は、ドライ操作において、カソードガス圧力制御の優先順位を、アノードガス流量制御の優先順位よりも高くすることができる。
アノード目標流量演算部350は、目標水収支と、カソードガス流量と、カソードガス圧力と、アノードガス圧力とに基づいて、アノード目標流量を演算する。アノード目標流量演算部350は、演算したアノード目標流量をアノードガス給排装置指令部250に出力する。
アノード目標流量演算部350は、目標水収支が大きくなるほど、電解質膜111の水分が増加するように、アノード目標流量を大きくする。一方、アノード目標流量演算部350は、目標水収支が小さくなるほど、電解質膜111の水分が減少するように、アノード目標流量を小さくする。
ドライ操作において、アノード目標流量演算部350は、カソードガス流量が小さくなるほど、又はカソードガス圧力が大きくなるほど、カソードガス流路131から持ち出される排水量が減少してしまうので、アノード目標流量を小さくする。また、アノード目標流量演算部350は、アノードガス圧力が小さくなるほど、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が増加してしまうので、アノード目標流量を小さくする。
本実施形態では、アノード目標流量演算部350は、流量センサ23及びカソード圧力センサ24から、それぞれ、カソードガス流量及びカソードガス圧力の計測値を取得し、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力の計測値を取得する。このため、アノード目標流量演算部350は、カソードガス流量、カソードガス圧力、及びアノードガス圧力の計測値に従ってアノード目標流量を適切に増減させることができる。
以上のように、ドライ操作において、優先順位設定部310は、カソードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御の順に優先順位を設定する。これにより、アノードガス圧力制御よりも優先してカソードガス流量制御が実行されることになるので、図9で述べたとおり、アノード循環ポンプ36の消費電力の増加を抑制することができると共に、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
また、アノード調圧弁33の異常などが原因でアノード調圧弁33が作動しない場合には、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御が不能となる。このような場合には、優先順位設定部310は、アノード下限圧力に代えて、アノードガス圧力の計測値を出力する。
このように、アノードガス圧力が制御不能な場合には、カソード目標流量演算部320は、燃料電池スタック1に供給されている実際のアノードガス圧力を用いてカソード目標流量を算出するので、アノードガス圧力制御系の異常状態に適したドライ操作を実行することができる。なお、アノードガス圧力制御の不能時には、優先順位設定部310での演算を停止するようにしてもよい。
図11は、ドライ操作を実施するときのカソード目標流量演算部320の詳細構成の一例を示すブロック図である。
カソード目標流量演算部320は、カソード上限流量演算部321と、発電生成水量演算部322と、目標排水量算出部323と、飽和水蒸気圧演算部324とを含む。さらにカソード目標流量演算部320は、An/Ca流量比演算部325と、カソード相対湿度演算部326と、カソード湿潤要求流量演算部327と、カソード目標流量設定部328と、遅延回路329とを含む。
カソード上限流量演算部321は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、カソード上限流量を演算する。カソード上限流量は、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求により設定されるカソードガス流量の上限値である。電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求としては、例えば、負荷装置5の発電要求や、電解質膜111の保護要求、フラッディング防止要求などが挙げられる。
例えば、カソード上限流量演算部321は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるカソード負荷要求流量を演算する。この例では、スタック目標電流とカソード負荷要求流量との関係を示す負荷要求流量マップがカソード上限流量演算部321に予め記録される。カソード上限流量演算部321は、スタック目標電流演算部220からスタック目標電流を取得すると、負荷要求流量マップを参照し、取得したスタック目標電流に関連付けられたカソード負荷要求流量を算出する。
カソード上限流量演算部321は、算出したカソード負荷要求流量を、カソード上限流量としてカソード目標流量設定部328に出力する。
発電生成水量演算部322は、燃料電池スタック1の出力電流に基づいて、各燃料電池10の発電に伴い生成される生成水の総量を示す発電生成水量を演算する。
本実施形態では、発電生成水量演算部322は、電流センサ51からスタック出力電流Isを取得し、次式(2)のように、スタック出力電流Isに基づいて、発電生成水量Qw_inを算出する。
なお、Nは、燃料電池スタック1に積層される燃料電池10の枚数であり、F[C/mol]は、ファラデー定数(=96485.39)である。また、「60」は、単位時間あたりの発電生成水量を秒単位[sec]から分単位[min]に変換するための換算値である。「22.4」は、標準状態の理想気体1モル[mol]の体積である。
発電生成水量演算部322は、算出した発電生成水量Qw_inを目標排水量算出部323に出力する。
目標排水量算出部323は、発電生成水量Qw_inと目標水収支Qw_tとの差分を算出することにより、燃料電池スタック1から排出すべき水分を示す目標排水量Qw_outを算出する。本実施形態では、目標排水量算出部323は、次式(3)のように、発電生成水量Qw_inから目標水収支Qw_tを減算して目標排水量Qw_outを算出する。
目標排水量算出部323は、算出した目標排水量Qw_outをカソード湿潤要求流量演算部327に出力する。これと共に目標排水量算出部323は、目標排水量Qw_outをアノード目標圧力演算部330、カソード目標圧力演算部340、及びアノード目標流量演算部350に出力する。
飽和水蒸気圧演算部324は、燃料電池スタック1内の飽和水蒸気圧Psatを演算する。本実施形態では、飽和水蒸気圧演算部324は、入口水温センサ46及び出口水温センサ47から、それぞれ、スタック入口水温Tin及びスタック出口水温Toutを取得し、これらの平均値を、燃料電池スタック1の温度Tとして算出する。そして、飽和水蒸気圧演算部324は、次式(4)のように、燃料電池スタック1の温度Tに基づいて、飽和水蒸気圧Psatを算出する。
式(4)に示したように、スタック温度Tが高くなるほど、飽和水蒸気圧Psatは高くなる。飽和水蒸気圧演算部324は、算出した飽和水蒸気圧Psatをカソード湿潤要求流量演算部327に出力する。
An/Ca流量比演算部325は、カソードガス流路131から排出される排水量を把握するために、燃料電池スタック1内のカソードガス流量に対するアノードガス流量の比率を示すAn/Ca流量比Kac_qamaxを演算する。
An/Ca流量比演算部325は、優先順位設定部310からアノード上限流量Qa_maxを取得し、遅延回路329から出力されるカソード目標流量の前回値Qc_t_dlyを取得する。An/Ca流量比演算部325は、次式(5)のように、アノード上限流量Qa_maxとカソード目標流量Qc_t_dlyとに基づいて、An/Ca流量比Kac_qamaxを算出する。
一般に、An/Ca流量比は、アノードガス圧力とカソードガス圧力との差圧である極間差圧の変化に応じて変化する。そのため、An/Ca流量比演算部325は、極間差圧に応じてAn/Ca流量比Kac_qamaxを補正する。
本実施形態では、アノードガス圧力及びカソードガス圧力の極間差圧とAn/Ca流量比の補正係数との関係を示す流量比補正マップがAn/Ca流量比演算部325に予め記録される。なお、流量比補正マップについては、図12を参照して後述する。
An/Ca流量比演算部325は、優先順位設定部310から、アノード下限圧力Pa_min及びカソード上限圧力Pc_maxを取得し、アノード下限圧力Pa_minからカソード上限圧力Pc_maxを減算して、極間差圧ΔPac_minを算出する。
An/Ca流量比演算部325は、極間差圧ΔPac_minを算出すると、流量比補正マップを参照し、算出した極間差圧ΔPac_minに関係付けられた補正係数Eac_minを算出する。An/Ca流量比演算部325は、次式(6)のように、算出した補正係数Eac_minに基づいて、An/Ca流量比Kac_qamaxを、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_qamax_0に補正する。
An/Ca流量比演算部325は、補正後のAn/Ca流量比Kac_qamax_0をカソード相対湿度演算部326に出力する。
カソード相対湿度演算部326は、補正後のAn/Ca流量比Kac_qamax_0に基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_minを演算する。カソード出口相対湿度RHc_out_minは、カソードガス流路131の出口(下流)側のカソードガス湿度をアノードガス流路121の入口(上流)側のアノードガス湿度により除算した値である。
本実施形態では、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_0とカソード出口相対湿度RHc_outとの関係を示す相対湿度/流量比マップがカソード相対湿度演算部326に予め記録される。相対湿度/流量比マップについては、図13を参照して後述する。
カソード相対湿度演算部326は、補正後のAn/Ca流量比Kac_qamax_0を取得すると、相対湿度/流量比マップを参照し、An/Ca流量比Kac_qamax_0に関連付けられたカソード出口相対湿度RHc_out_minを算出する。
カソード相対湿度演算部326は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_minをカソード湿潤要求流量演算部327に出力する。
カソード湿潤要求流量演算部327は、カソード出口相対湿度RHc_out_minと目標排水量Qw_outとに基づいて、燃料電池スタック1の湿潤状態を目標とする状態にするためのカソード湿潤要求流量Qc_rwを演算する。
ドライ操作において、カソード湿潤要求流量演算部327は、優先順位設定部310からカソード上限圧力Pc_maxを取得し、飽和水蒸気圧演算部324から飽和水蒸気圧Psatを取得する。そして、カソード湿潤要求流量演算部327は、次式(7)のように、カソード出口相対湿度RHc_out_minとカソード上限圧力Pc_maxと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード湿潤要求流量Qc_rwを算出する。
式(7)に示したように、カソード上限圧力Pc_maxが大きくなるほど、又は、カソード出口相対湿度RHc_out_minが小さくなるほど、カソード湿潤要求流量Qc_rwは大きくなる。このように、アノード上限流量Qa_max、アノード下限圧力Pa_min、及びカソード上限圧力Pc_maxを計測値の代りに用いることで、カソード湿潤要求流量Qc_rwを上げることができる。
カソード湿潤要求流量演算部327は、算出したカソード湿潤要求流量Qc_rwをカソード目標流量設定部328に出力する。
カソード目標流量設定部328は、カソード湿潤要求流量Qc_rwと、カソード上限流量演算部321からのカソード上限流量とのうち小さい方の値を、カソード目標流量Qc_tとしてカソードガス給排装置指令部240及び遅延回路329に出力する。
遅延回路329は、カソード目標流量設定部328からのカソード目標流量Qc_tを制御周期の1周期分だけ遅延させる。すなわち、遅延回路329は、カソード目標流量Qc_tを取得すると、前回のカソード目標流量Qc_t_dlyをAn/Ca流量比演算部325に出力する。
図12は、An/Ca流量比演算部325に設定される流量比補正マップの一例を示す観念図である。ここでは、横軸が、アノードガス圧力Paからカソードガス圧力Pcを減算した極間差圧ΔPac(=Pa−Pc)を示し、縦軸が、An/Ca流量比を補正するための補正係数Eacを示す。
補正係数Eacは、極間差圧ΔPacが「0」のときに「1」となるように規格化されている。流量比補正マップは、カソードガス圧力とアノードガス圧力とを互いに変化させたときの実験データ等により予め設定される。
流量比補正マップでは、極間差圧ΔPacがゼロよりも大きくなるほど、アノードガス流路121からカソードガス流路131へリークするアノードガスの流量が増加するため、補正係数Eacは「1」よりも大きくなる。一方、極間差圧ΔPacがゼロよりも小さくなるほど、カソードガス流路131からアノードガス流路121へリークするカソードガスの流量が増加するため、補正係数Eacは「1」よりも小さくなる。
このように、燃料電池スタック1では、極間差圧ΔPacに応じて、アノードガス流量に対するカソードガス流量のAn/Ca流量比Kacが変化するため、補正係数Eacを用いてAn/Ca流量比Kacが補正される。
図13は、カソード相対湿度演算部326に設定される相対湿度/流量比マップの一例を示す観念図である。ここでは、横軸が、カソードガス流量に対するアノードガス流量の比率を示すAn/Ca流量比Kacを示し、縦軸が、カソードガス流路131の出口でのカソードガス相対湿度であるカソード出口相対湿度RHc_outを示す。
カソード出口相対湿度RHc_outは、アノードガス流量が極めて少なく、発電に伴う生成水のほぼ全てがカソードガス流路131から外部に排出されている状態を「100%」としている。相対湿度/流量比マップは、カソードガス流量とアノードガス流量とを互いに変化させたときの実験データなどを用いて予め設定される。例えば、相対湿度/流量比マップは、スタック温度や、水素濃度などを変化させたときの平均値や、誤差が小さくなるように算術処理された統計値などにより設定される。
相対湿度/流量比マップには、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_0の特性が設定されている。ここでは、An/Ca流量比Kac_0が実線により示されている。また、理解を容易にするために極間差圧ΔPacがゼロよりも大きいときのAn/Ca流量比と、極間差圧ΔPacがゼロよりも小さいときのAn/Ca流量比とが破線により示されている。なお、破線により示されたAn/Ca流量比の特性は、図12に示した流量比補正マップの補正係数EacをAn/Ca流量比Kac_0に掛け合わせることにより求めることができる。
相対湿度/流量比マップでは、An/Ca流量比Kacが小さくなるほど、カソードガスによって燃料電池スタック1から持ち出される排水量が増加するため、カソード出口相対湿度RHc_outは大きくなる。また、極間差圧ΔPacが大きくなるほど、カソードガス流路131からアノードガス流路121へ流入する水蒸気の流量が減少するため、カソード出口相対湿度RHc_outは大きくなる。
このように、カソード目標流量演算部320において、ドライ操作を実施する場合にカソード湿潤要求流量Qc_rwを極力速やかに大きくするには、式(7)の関係から、カソード出口相対湿度RHc_outを小さくすると共にカソードガス流量Qcを大きくする必要がある。
カソード出口相対湿度RHc_outを小さくするには、図13に示した相対湿度/流量比マップの関係から、An/Ca流量比Kac_0を大きくすればよい。An/Ca流量比Kac_0を大きくするには、アノードガス流量Qaを大きくすると共に、図12に示した流量比補正マップの関係から、補正係数Eacが小さくなるように、アノードガス圧力Paを小さくし、カソードガス圧力Pcを大きくすればよい。
本実施形態では、優先順位設定部310は、ドライ操作において、WET操作値であるカソード上限圧力Pc_max、アノード上限流量Qa_max及びアノード下限圧力Pa_minをカソード目標流量演算部320に出力する。これにより、アノードガス圧力の計測値を用いる場合に比べて、式(5)中のAn/Ca流量比Kac_qamaxが大きくなるので、式(6)中のAn/Ca流量比Kac_qamax_0を大きくすることができる。さらに、アノード下限圧力Pa_min及びカソード上限圧力Pc_maxを用いることにより、An/Ca流量比の補正係数Eacが小さくなるので、An/Ca流量比Kac_qamax_0をより一層大きくすることができる。
このため、An/Ca流量比Kac_qamax_0が最も大きくなるので、カソード出口相対湿度RHc_out_minが最も小さくなる。これにより、ドライ操作におけるカソードガス流量制御の優先度が最も高くなるので、カソード湿潤要求流量Qc_rwを早期に下げることができる。
図14は、ドライ操作を実施するときのアノード目標圧力演算部330の機能構成の一例を示すブロック図である。
アノード目標圧力演算部330は、アノード上限圧力演算部331と、カソード相対湿度演算部332と、An/Ca流量比演算部333と、アノード湿潤要求圧力演算部334と、アノード目標圧力設定部335とを含む。
アノード上限圧力演算部331は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、アノード上限圧力を演算する。アノード上限圧力は、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求により設定されるアノードガス圧力の上限値である。
例えば、アノード上限圧力演算部331は、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力を取得し、そのカソードガス圧力を、予め定められた電解質膜111の許容圧力に加算して電解質膜111を保護するためのアノード膜保護要求圧力を算出する。また、アノード上限圧力演算部331は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノードガス圧力を示すアノード負荷要求圧力を算出する。
アノード上限圧力演算部331は、算出したアノード負荷要求圧力やアノード膜保護要求圧力などを、アノード上限圧力としてアノード目標圧力設定部335に出力する
カソード相対湿度演算部332は、目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxを演算する。
本実施形態では、カソード相対湿度演算部332は、優先順位設定部310からカソードガス圧力Pc_maxを取得し、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得し、飽和水蒸気圧演算部324から飽和水蒸気圧Psatを取得する。
そして、カソード相対湿度演算部332は、次式(8)のように、カソード上限圧力Pc_maxとカソードガス流量Qc_sensと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxを算出する。
カソード相対湿度演算部332は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxをAn/Ca流量比演算部333に出力する。
An/Ca流量比演算部333は、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxに基づいて、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pcmax_0を演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部333は、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxを取得すると、図13の相対湿度/流量比マップを参照し、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxに関係付けられたAn/Ca流量比Kac_pcmax_0を算出する。
そして、An/Ca流量比演算部333は、優先順位設定部310からアノード上限流量Qa_maxを取得し、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部333は、アノード上限流量Qa_maxをカソードガス流量Qc_sensにより除算して、An/Ca流量比Kac_qamaxを算出する。
An/Ca流量比演算部333は、An/Ca流量比Kac_qamaxと、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pcmax_0とをアノード湿潤要求圧力演算部334に出力する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、An/Ca流量比Kac_qamaxと、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pcmax_0とに基づいて、電解質膜111の湿潤状態を目標とする状態にするためのアノード湿潤要求圧力Pa_rwを演算する。
本実施形態では、アノード湿潤要求圧力演算部334は、次式(9)のように、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_pcmax_0と、An/Ca流量比Kac_qamaxとに基づいて、補正係数Eac_2maxを算出する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、補正係数Eac_2maxを算出すると、図12の流量比補正マップを参照し、補正係数Eac_2maxに関係付けられた極間差圧ΔPac_2maxを算出する。アノード湿潤要求圧力演算部334は、次式(10)のように、極間差圧ΔPac_2maxとカソード上限圧力Pc_maxとに基づいて、アノード湿潤要求圧力Pa_rwを算出する。
アノード湿潤要求圧力演算部334は、アノード湿潤要求圧力Pa_rwをアノード目標圧力設定部335に出力する。
アノード目標圧力設定部335は、アノード湿潤要求圧力Pa_rwと、アノード上限圧力演算部331からのアノード上限圧力とのうち小さい方の値を、アノード目標圧力としてアノードガス給排装置指令部250に出力する。
このように、アノード目標圧力演算部330において、ドライ操作を実施する場合にアノード湿潤要求圧力Pa_rwを速やかに大きくするには、式(10)の関係から、極間差圧ΔPacを大きくすると共に、カソードガス圧力Pcを大きくする必要がある。
極間差圧ΔPacを大きくするには、An/Ca流量比Kacを大きくして補正係数Eacを大きくすればよい。An/Ca流量比Kacを大きくするには、アノードガス流量Qaを大きくし、カソードガス流量Qcを小さくすればよい。
また、補正係数Eacを大きくするには、カソード出口相対湿度RHc_outを大きくして極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_0を小さくすればよい。カソード出口相対湿度RHc_outを大きくするには、カソードガス圧力Pcを大きくすればよい。
本実施形態では、優先順位設定部310は、ドライ操作において、WET操作値であるカソード上限圧力Pc_max及びアノード上限流量Qc_maxをアノード目標圧力演算部330に出力する。カソード上限圧力Pc_maxを用いることより、カソードガス圧力の計測値を用いる場合に比べて、式(8)中のカソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxが大きくなるので、図13に示した相対湿度/流量比の関係からAn/Ca流量比Kac_pcmax_0を小さくすことができる。それゆえ、式(9)の補正係数Eac_2maxを大きくすることができる。
さらに、アノード上限流量Qa_maxを用いることにより、アノードガス流量の計測値を用いる場合に比べて、An/Ca流量比Kac_qamaxが大きくなるので、補正係数Eac_2maxをより一層大きくすることができる。これにより、極間差圧ΔPac_2maxが大きくなると共に、式(10)中のカソードガス圧力Pcとしてカソード上限圧力Pc_maxが設定されるので、アノード湿潤要求流量Qa_rwを早期に下げることができる。
以上のように、アノード目標圧力演算部330では、カソード湿潤要求流量Qc_rwが増加してカソードガス流量Qc_sensが増加するほど、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxが小さくなる。カソード出口相対湿度RHc_out_psが小さくなるほど、An/Ca流量比Kac_pcmax_0が大きくなるので、補正係数Eac_2maxが大きくなってカソード湿潤要求流量Qc_rwが大きくなる。すなわち、カソード湿潤要求流量Qc_rwが低下するほど、アノード湿潤要求圧力Pa_rwは小さくなるため、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御が抑制される。
一方、目標水収支Qw_tが小さくなって目標排水量Qw_outが大きくなるほど、カソード出口相対湿度RHc_out_pcmaxは大きくなるので、An/Ca流量比Kac_pcmax_0が小さくなり、アノード湿潤要求圧力Pa_rwは大きくなる。
このように、アノード目標圧力演算部330は、ドライ操作において、カソードガス流量を上げている状況であっても、目標排水量Qw_outが減少しなければ、アノード目標圧力を上昇させることができる。すなわち、湿潤制御部300は、少なくともドライ操作時には、カソードガス流量が増加するほど、アノードガス圧力の上昇を抑制し、かつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス圧力を上昇させる。
図15は、ドライ操作を実施するときのカソード目標圧力演算部340の機能構成の一例を示すブロック図である。
カソード目標圧力演算部340は、An/Ca流量比演算部341と、カソード相対湿度演算部342と、カソード湿潤要求圧力演算部343と、カソード下限圧力演算部344とを含む。
An/Ca流量比演算部341は、燃料電池スタック1内のカソードガス流量に対するアノードガス流量の比率を示すAn/Ca流量比Kac_qamax/csを演算する。
本実施形態において、An/Ca流量比演算部341は、優先順位設定部310からアノード上限流量Qa_maxを取得し、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部341は、次式(11)のように、アノード上限流量Qa_maxをカソードガス流量Qc_sensにより除算して、An/Ca流量比Kac_qamax/csを算出する。
An/Ca流量比演算部341は、算出したAn/Ca流量比Kac_qamax/csをカソード相対湿度演算部342に出力する。
カソード相対湿度演算部342は、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力Pa_sensを取得し、アノードガス圧力Pa_sensから暫定カソードガス圧力Pc_prを減算して暫定極間差圧ΔPac_prを算出する。暫定カソードガス圧力Pc_prは、所定の範囲で変化するパラメータである。
カソード相対湿度演算部342は、An/Ca流量比演算部341からAn/Ca流量比Kac_min_csを取得すると、図12の流量比補正マップを参照し、暫定極間差圧ΔPac_prに関係付けられた暫定補正係数Eac_prを算出する。カソード相対湿度演算部342は、その暫定補正係数Eac_prによりAn/Ca流量比Kac_qamax/csを除算して、極間差圧ΔPacがゼロのときの暫定An/Ca流量比Kac_qamax/cs_0を算出する。
カソード相対湿度演算部342は、暫定An/Ca流量比Kac_qamax_cs_0を算出すると、図13の相対湿度/流量比マップを参照し、暫定An/Ca流量比Kac_qamax/cs_0に関係付けられた暫定カソード出口相対湿度RHc_out_qamax_prを算出する。
カソード相対湿度演算部342は、暫定カソード出口相対湿度RHc_out_qamax_prと暫定カソードガス圧力Pc_prとをカソード湿潤要求圧力演算部343に出力する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、カソード湿潤要求圧力Pc_rwを演算する。
本実施形態では、カソード湿潤要求圧力演算部343は、優先順位設定部310からカソード下限流量Qc_minを取得し、カソード相対湿度演算部342から暫定カソード出口相対湿度RHc_out_qamax_prを取得する。さらに、カソード湿潤要求圧力演算部343は、図11に示した飽和水蒸気圧演算部324から飽和水蒸気圧Psatを取得する。カソード湿潤要求圧力演算部343は、次式(12)のように、暫定カソード出口相対湿度RHc_out_qamax_prとカソード下限流量Qc_minと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、暫定カソード湿潤要求圧力Pc_rw_prを算出する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、暫定カソードガス圧力Pc_prの圧力値を変化させるようにカソード相対湿度演算部342に指示する。そして、カソード湿潤要求圧力演算部343は、暫定カソードガス圧力Pc_prと暫定カソード湿潤要求圧力Pc_rw_pr2とが一致したときの圧力値をカソード湿潤要求圧力Pc_rwとして設定する。
カソード湿潤要求圧力演算部343は、カソード湿潤要求圧力Pc_rwをカソード目標圧力設定部345に出力する。
カソード下限圧力演算部344は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、カソード下限圧力を演算する。カソード下限圧力は、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求により設定されるカソードガス圧力の下限値である。
例えば、カソード下限圧力演算部344は、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力を取得し、そのアノードガス圧力から電解質膜111の許容圧力を減算して、電解質膜111を保護するためのカソード膜保護要求圧力を算出する。また、カソード下限圧力演算部344は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるカソードガス圧力を示すカソード負荷要求圧力を算出する。
カソード下限圧力演算部344は、算出したカソード負荷要求圧力やカソード膜保護要求圧力などを、カソード下限圧力としてカソード目標圧力設定部345に出力する
カソード目標圧力設定部345は、カソード下限圧力とカソード湿潤要求圧力Pc_rwとのうち大きい方の値を、カソード目標圧力としてカソードガス給排装置指令部240に出力する。
図16は、ドライ操作を実施するときのアノード目標流量演算部350の機能構成の一例を示すブロック図である。
アノード目標流量演算部350は、カソード相対湿度演算部351と、An/Ca流量比演算部352と、アノード湿潤要求流量演算部353と、アノード下限流量演算部354と、アノード目標流量設定部355とを含む。
カソード相対湿度演算部351は、目標排水量算出部323からの目標排水量Qw_outに基づいて、目標とするカソード出口相対湿度RHc_out_3sensを演算する。
本実施形態では、カソード相対湿度演算部351は、流量センサ23及びカソード圧力センサ24から、それぞれ、カソードガス流量Qc_sens及びカソードガス圧力Pc_sensを取得し、飽和水蒸気圧演算部324から飽和水蒸気圧Psatを取得する。
そして、カソード相対湿度演算部351は、次式(13)のように、カソードガス流量Qc_sensとカソードガス圧力Pc_sensと飽和水蒸気圧Psatと目標排水量Qw_outとに基づいて、カソード出口相対湿度RHc_out_sensを算出する。
カソード相対湿度演算部351は、算出したカソード出口相対湿度RHc_out_sensをAn/Ca流量比演算部352に出力する。
An/Ca流量比演算部352は、カソード出口相対湿度RHc_out_sensに基づいて、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_sens_0を演算する。
本実施形態では、An/Ca流量比演算部352は、カソード出口相対湿度RHc_out_sensを取得すると、図13の相対湿度/流量比マップを参照し、カソード出口相対湿度RHc_out_sensに関係付けられたAn/Ca流量比Kac_sens_0を算出する。
また、An/Ca流量比演算部352は、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力Pa_sensを取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力Pc_sensを取得する。An/Ca流量比演算部352は、アノードガス圧力Pa_sensからカソードガス圧力Pc_sensを減算して極間差圧ΔPac_sensを算出すると、図12の流量比補正マップを参照し、算出した極間差圧ΔPac_sensに関係付けられた補正係数Eac_sensを算出する。
そして、An/Ca流量比演算部352は、式(14)のように、補正係数Eac_sensを、極間差圧ΔPacがゼロのときのAn/Ca流量比Kac_sens_0に乗算することにより、極間差圧ΔPac_sensに応じたAn/Ca流量比Kac_sensを算出する。
An/Ca流量比演算部352は、算出したAn/Ca流量比Kac_sensをアノード湿潤要求流量演算部353に出力する。
アノード湿潤要求流量演算部353は、An/Ca流量比Kac_sensに基づいて、電解質膜111の湿潤状態を目標とする状態にするためのアノード湿潤要求流量Qa_rwを演算する。
本実施形態では、アノード湿潤要求流量演算部353は、流量センサ23からカソードガス流量Qc_sensを取得し、次式(15)のように、カソードガス流量Qc_sensとAn/Ca流量比Kac_sensとに基づいて、アノード湿潤要求流量Qa_rwを算出する。
アノード湿潤要求流量演算部353は、算出したアノード湿潤要求流量Qa_rwをアノード目標流量設定部355に出力する。
アノード下限流量演算部354は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、アノード下限流量を演算する。アノード下限流量は、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求により設定されるアノードガス流量の下限値である。
例えば、アノード下限流量演算部354は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1の発電に必要となるアノード負荷要求流量を演算する。この例では、スタック目標電流とアノード負荷要求流量との関係を示す負荷要求流量マップがアノード下限流量演算部354に予め記録される。アノード下限流量演算部354は、スタック目標電流演算部220からスタック目標電流を取得すると、負荷要求流量マップを参照し、取得したスタック目標電流に関連付けられたアノード負荷要求流量を算出する。
アノード下限流量演算部354は、算出したアノード負荷要求流量を、アノード下限流量としてアノード目標流量設定部355に出力する。
アノード目標流量設定部355は、アノード下限流量とアノード湿潤要求流量Qa_rwとのうち小さい方の値を、アノード目標流量としてアノードガス給排装置指令部250に出力する。
図17は、本実施形態における湿潤制御部300を備えるコントローラ200の制御方法に関する処理手順例を示すフローチャートである。この制御方法の処理手順は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
ステップS1においてコントローラ200は、燃料電池スタック1の運転状態を検出する。本実施形態では、コントローラ200の指示に従って、図1に示したインピーダンス測定装置6が燃料電池スタック1のHFRを検出し、流量センサ23がカソードガス流量を検出し、カソード圧力センサ24がカソードガス圧力を検出する。
ステップS2においてコントローラ200のスタック目標電流演算部220は、負荷装置5から要求電力を取得し、その負荷装置5の要求電力に基づいて、スタック目標電流を演算する。
ステップS3において、コントローラ200は、流量センサ23からカソードガス流量の計測値を取得し、カソード圧力センサ24からカソードガス圧力の計測値を取得し、アノード圧力センサ37からアノードガス圧力の計測値を取得する。さらにコントローラ200のアノードガス循環流量推定部230は、式(1)のように、アノード循環ポンプ36の回転速度に基づいて、アノードガス循環流量を推定する。また、湿潤制御部300の飽和水蒸気圧演算部324は、入口水温センサ46及び出口水温センサ47からそれぞれスタック入口水温及びスタック出口水温を取得し、両者の平均値をスタック温度として算出する。スタック温度は、燃料電池スタック1内の飽和水蒸気圧の算出に用いられる。
ステップS4においてコントローラ200の膜湿潤状態取得部210は、インピーダンス測定装置6から、電解質膜111の湿潤状態と相関のある計測HFRを取得する。なお、ステップS4は、電解質膜111の湿潤状態を示す信号を取得する取得ステップに対応する。
ステップS5においてコントローラ200は、燃料電池スタック1の発電性能を維持するための目標HFRを演算する。本実施形態では、図7に示した目標HFR演算部211が、電流センサ51からスタック出力電流を取得し、図8に示した目標HFRマップを用いて、取得したスタック出力電流に関係付けられた目標HFRを算出する。
ステップS6においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに収束するように、電解質膜111の水分の過不足を補うための目標水収支を演算する。本実施形態では、図7に示した目標水収支演算部212が、目標HFRと計測HFRとに基づいて目標水収支を算出する。
ステップS7においてコントローラ200は、電解質膜111の湿潤状態に基づいて、ドライ操作を実施するか否かを判断する。本実施形態では、図10に示した優先順位設定部310が、計測HFRが所定の下限値に達したか否かを判断し、計測HFRが下限値に達した場合にドライ操作が実施されると判定する。
ステップS8においてコントローラ200は、ドライ操作が実施されていないと判定された場合には、通常の湿潤制御処理を実行する。例えば、コントローラ200は、目標水収支に基づいて、アノードガスの流量及び圧力の計測値と、カソードガスの流量及び圧力の計測値とを用いてアノードガスの流量及び圧力と、カソードガスの流量及び圧力とを制御する。
ステップS10においてコントローラ200の湿潤制御部300は、ドライ操作が実施されると判定された場合には、ドライ操作処理を実行する。テップS10のドライ操作処理が完了すると、コントローラ200の制御方法についての一連の処理手順が終了する。次にドライ操作処理について図18を参照して詳細に説明する。
図18は、ステップ10で実行されるドライ操作処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS11において湿潤制御部300の優先順位設定部310は、アノードガス及びカソードガスに対する各制御の優先順位を設定する優先制御パラメータとして、カソード上限圧力、アノード上限流量、及びアノード下限圧力を演算する。これらのパラメータは、電解質膜111を最も湿った状態にするときのWET操作値である。
ステップS12において湿潤制御部300のカソード目標流量演算部320は、目標水収支と、優先制御パラメータアノード上限流量、アノード下限圧力、及びカソード上限圧力とに基づいて、図11で述べたとおり、カソード目標流量を演算する。このように、3つの優先制御パラメータをカソード目標流量演算部320に設定することにより、カソードガス流量を増量させる増量制御の優先順位を最も高くすることができる。
すなわち、カソード目標流量演算部320は、ドライ操作において、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御、及びアノードガス圧力制御の3つの制御が全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもカソード目標流量を迅速に上げる。
ステップS13において湿潤制御部300のアノード目標圧力演算部330は、目標水収支と、カソードガス流量と、優先制御パラメータであるカソード上限圧力及びアノード上限流量とに基づいて、図14で述べたとおり、アノード目標圧力を演算する。このように、2つの優先制御パラメータをアノード目標圧力演算部330に設定することにより、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御の優先順位を2番目に高くすることができる。
すなわち、アノード目標圧力演算部330は、ドライ操作において、カソードガス圧力制御、及びアノードガス流量制御の2つの制御が全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもアノード目標圧力を迅速に上げる。
ステップS14において湿潤制御部300のカソード目標圧力演算部340は、目標水収支と、アノードガス圧力及びカソードガス流量と、優先制御パラメータであるアノード上限流量とに基づいて、図15で述べたとおり、カソード目標圧力を演算する。このように、1つの優先制御パラメータをカソード目標圧力演算部340に設定することにより、カソードガス圧力を降下させる降圧制御の優先順位を3番目に高くすることができる。
すなわち、カソード目標圧力演算部340は、ドライ操作においてアノードガス流量制御のみが全く行われていないと判断し、通常の湿潤制御よりもカソード目標圧力を迅速に下げる。
ステップS15において湿潤制御部300のアノード目標流量演算部350は、目標水収支と、カソードガス流量、カソードガス圧力、及びアノードガス圧力とに基づいて、図16で述べたとおり、アノード目標流量を演算する。優先制御パラメータが用いられていないため、アノードガス循環流量を減少させる減量制御の優先順位は4番目になり、アノード目標流量演算部350は、通常の湿潤制御どおり、アノード目標流量を増減させる。
ステップS20においてコントローラ200のカソードガス給排装置指令部240及びアノードガス給排装置指令部250は、カソード目標流量、アノード目標圧力、カソード目標圧力、及びアノード目標流量に基づいて、ガス状態調整処理を実行する。ガス状態調整処理については図19を参照して詳細に説明する。
ステップS20で実行されるガス状態調整処理が終了すると、図17に示したドライ操作処理に戻る。
図19は、ステップS20で実行されるガス状態調整処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS211においてコントローラ200は、カソードガス流量がカソード目標流量に収束するように、コンプレッサ22の回転速度を上げる。これにより、カソードガス流量が増加する。
ステップS212においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS213においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、カソードガス流量がカソード上限流量に達したか否かを判断し、カソード上限流量に達していない場合には、ステップS211の処理に戻る。
ステップS221においてコントローラ200は、カソードガス流量がカソード上限流量に達した場合には、アノードガス圧力がアノード目標圧力に収束するように、アノード調圧弁33の開度を上げる。これにより、アノードガス圧力が上昇する。
ステップS222においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS223においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、アノードガス圧力がアノード上限圧力に達したか否かを判断し、アノード上限圧力に達していない場合には、ステップS221の処理に戻る。
ステップS231においてコントローラ200は、アノードガス圧力がアノード上限圧力に達した場合には、カソードガス圧力がカソード目標圧力に収束するように、カソード調圧弁26の開度を下げる。これにより、カソードガス圧力が低下する。
ステップS232においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS233においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、カソードガス圧力がカソード下限圧力に達したか否かを判断し、カソード下限圧力に達していない場合には、ステップS231の処理に戻る。
ステップS241においてコントローラ200は、カソードガス圧力がカソード下限圧力に達した場合には、アノードガス循環流量がアノード目標流量に収束するように、アノード循環ポンプ36の回転速度を下げる。これにより、アノードガス循環流量が減少する。
ステップS242においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達したか否かを判断する。計測HFRが目標HFRに達した場合には、ガス状態調整処理を終了する。
ステップS243においてコントローラ200は、計測HFRが目標HFRに達していない場合には、アノードガス流量がアノード下限流量に達したか否かを判断する。アノードガス流量がアノード下限流量に達していない場合には、コントローラ200は、ステップS241の処理に戻り、アノードガス循環流量を減少させる。
そして、ステップS242で計測HFRが目標HFRに達した場合、又は、ステップS243でアノードガス循環流量がアノード下限流量に達した場合には、ガス状態調整処理が終了し、図18に示したステップS20のドライ操作処理に戻る。
図20は、本実施形態のドライ操作における燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図20(A)は、燃料電池スタック1に関する計測HFRの変化を示す図である。図20(B)及び図20(D)は、それぞれ、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量及び圧力の変化を示す図である。図20(C)及び図20(E)は、それぞれ、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力及び流量の変化を示す図である。図20(A)から図20(E)までの各図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
時刻t20では、例えば車両の加速後に負荷装置5の要求電力が大幅に低下して、図20(A)に示すように、目標HFRが大幅に上昇する。これに伴って、優先順位設定部310は、ドライ操作が実施されると判断し、優先制御パラメータとしてWET操作値を演算する。
そして、優先順位設定部310は、カソード目標流量演算部320に対し、測定値に代えてWET操作値であるカソード上限圧力、アノード上限流量、及びアノード下限圧力を設定する。さらに優先順位設定部310は、アノード目標圧力演算部330に対し、カソード上限圧力、及びアノード上限流量を設定すると共に、カソード目標圧力演算部340に対し、アノード上限流量を設定する。すなわち、優先順位設定部310は、ドライ操作において、カソードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御の順に、各制御の優先順位を設定する。
これにより、図20(B)に示すように、他の制御よりも優先してカソード目標流量演算部320によりコンプレッサ22の回転速度が上げられてカソードガス流量が増加する。これに伴って、カソードガス流路131から排出される排水量が増加し、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が減少してアノード循環水量が減少するので、図20(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かって上昇する。
このように、ドライ操作において、1番目に、カソードガス流量を増加させる増量制御を実行することにより、燃料電池スタック1から排出される排水量が他の制御に比べて短時間で増加するので、電解質膜111の水分を迅速に減らすことができる。また、アノードガスの増量制御を1番目に実行することにより、その後に実行されるアノードガスの昇圧制御、及びカソードガスの降圧制御によるドライ操作の効果を高めることができる。
時刻t21において、図20(B)及び(C)に示すように、カソードガス流量がドライ操作の上限値に到達するため、アノード目標圧力演算部330により、カソードガスの増量制御を補完するようにアノード調圧弁33が開かれてアノードガス圧力が上昇する。これに伴って、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が減少してアノード循環水量が減少するので、図20(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、ドライ操作において、2番目に、アノードガス圧力を上昇させる昇圧制御を実行することにより、カソードガス流量が多い状態でアノードガス圧力が上げられるので、確実に電解質膜111の水分を下げることができる。
また、カソードガスの増量制御の実行後に、コンプレッサ22よりも応答性の良いアノード調圧弁33を作動させるので、コンプレッサ22の応答遅れに起因する計測HFRの上昇量の低下を迅速に補完することができる。このように、カソードガス流量を上げた後にアノードガス圧力を上げることにより、電解質膜111の湿潤状態を迅速に乾いた状態に遷移させることができる。
時刻t22において、図20(C)及び(D)に示すように、アノードガス圧力がドライ操作の上限値に到達するため、カソード目標圧力演算部340により、アノードガスの昇圧制御を補完するようにカソード調圧弁26が開かれてカソードガス圧力が低下する。これに伴って、カソードガスによってカソードガス流路131から外部に持ち出される排水量が増加すると共に、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水蒸気の流量が減少する。その結果、アノード循環水量が減少するので、図20(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、ドライ操作において、3番目に、カソードガス圧力を降下させる降圧制御を実行することにより、排水量が増加しやすい状態で応答性の良いカソード調圧弁26を駆動するので、迅速に電解質膜111の水分を除去することができる。
時刻t23において、図20(D)及び(E)に示すように、カソードガス圧力がドライ操作の下限値に到達するため、アノード目標流量演算部350により、カソードガス降圧制御を補完するようにアノード循環ポンプ36の回転速度が下げられてアノードガス循環流量が減少する。これに伴って、カソードガス流路131からアノードガス流路121に流入する水量が減少するので、アノード循環水量が減少し、図20(A)に示すように計測HFRが目標HFRに向かってさらに上昇する。
このように、ドライ操作において、4番目に、アノードガス循環流量を減少させる減量制御を実行することにより、アノード循環水量が減少して電解質膜111の水分を減らすことができる。
時刻t24において、図20(E)に示すように、アノードガス循環流量がドライ操作の下限値に到達し、図20(A)に示すように、計測HFRが目標HFRに到達する。
以上のように、ドライ操作において、カソードガス流量、アノードガス圧力、カソードガス圧力、アノードガス循環流量の順にそれぞれを制御することで、迅速に電解質膜111の水分を減らすことができる。
具体的には、燃料電池スタック1の排水量を最も増やすことができるカソードガス流量制御を1番目に実行することにより、迅速に電解質膜111の水分を減らすことができる。また、カソードガス流量を増加させることにより、アノードガス圧力制御、及びカソードガス圧力制御によるドライ操作の効果が得られやすくなる。ここで、アノードガス圧力制御及びカソードガス圧力制御のうち圧力の変化幅を確保しやすいアノードガス圧力制御を2番目に実行することにより、迅速にカソードガス流量制御の応答遅れを補完しつつ、効果的に電解質膜111の水分を減らすことができる。そして、カソードガス圧力制御を3番目に実行することにより、効果的に電解質膜111の水分を除去しつつ、4番目に実行されるアノードガス流量制御による効果を発揮し易くする状態にすることができる。
なお、図20(B)ではカソードガス流量を電解質膜111の湿潤要求により設定されたドライ操作の上限値まで増やしたが、電解質膜111の湿潤要求とは異なる要求により設定された上限値に達してカソードガス流量が制限されることもある。
図21は、ドライ操作において、湿潤要求とは異なる要求によってカソードガスの増量制御が制限されたときの燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図21(A)は、燃料電池スタック1の目標HFRの変化を示す図である。図21(B)及び図21(C)は、それぞれ、カソードガス流量及びアノードガス圧力の変化を示す図である。図21(D)は、アノード循環水量の変化を示す図である。これらの図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
ここでは、本実施形態のドライ操作が実線により示されている。さらに、図10に示したアノード目標圧力演算部330がカソードガス流量の計測値Qc_sensの代わりにカソード湿潤要求流量Qc_rwを用いてアノード目標圧力を算出したときのドライ操作が点線により示されている。
時刻t30において、図21(A)に示すように、目標HFRが大幅に上昇する。そして、図21(B)に示すように、カソードガス流量が増加する。
時刻t31において、湿潤要求とは別の要求により設定された上限流量にカソードガス流量が到達したため、図21(B)の実線で示すように、ドライ操作におけるカソードガスの増量制御が制限される。この上限流量は、例えば、図11に示したカソード上限流量演算部321により算出される。
本実施形態では、アノード目標圧力演算部330がカソーガス流量の計測値Qc_sensを用いてアノード目標圧力を演算するので、図21(C)の実線で示すように、カソードガスの増量制御が制限された直後にアノードガス圧力が上昇する。すなわち、カソードガスの増量制御でも電解質膜111の湿潤状態を操作しきれない部分について、その部分が補完されるようにアノードガスの昇圧制御が実行される。このため、カソードガスの降圧制御が制限された直後であっても、直ぐにアノードガスの昇圧制御が実行されるので、図21(A)の実線で示すように、計測HFRを継続して上昇させることができる。
仮にアノード目標圧力演算部330が、図11で示したカソード湿潤要求流量演算部327の演算結果を用いてアノード目標圧力を演算したとすると、図21(C)の点線で示すように時刻t31から時刻t32までの間は、アノードガスの昇圧制御が停止状態となる。その結果、図21(A)の点線で示すように、時刻t33では目標HFRに到達しないため、ドライ操作が完了するのに要する時間が長くなってしまう。
このように、本実施形態では、アノード目標圧力演算部330が、カソードガス流量の測定値を用いてアノード目標圧力を演算するので、カソード湿潤要求流量Qc_rwを用いる場合に比べて、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
図22は、目標HFRが急峻に上昇したときのドライ操作における燃料電池システム100の運転状態の変化を示すタイムチャートである。
図22(A)は、目標HFRの変化を示す図である。図22(B)から図22(D)までの各図面の縦軸は、図21(B)から図21(D)までの各図面の縦軸と同じであり、図22(A)から図22(D)までの図面の横軸は、互いに共通の時間軸である。
図22(B)には、カソードガス流量の計測値が実線により示され、カソード目標流量が破線により示されている。
時刻t40において、図22(A)に示すように目標HFRがパルス状に上昇する。このような状況としては、例えば、車両が加速状態から減速状態に切り替わることで負荷装置5の要求電力が極端に小さくなったときに、図8の特性に起因して目標HFRが大幅に上昇する。
図22(B)の破線で示すように、カソード目標流量演算部320は、目標HFRを達成できるカソード目標流量を算出する。一方、実際のカソードガス流量は、コンプレッサ22の応答遅れなどが原因でカソード目標流量に比べて緩やかに増加する。
時刻t40の直後は、実線のカソードガス流量と破線のカソード目標流量との乖離が大きいため、カソードガスの増量制御によるドライ操作が十分に行われない。その結果、アノード目標圧力演算部330が、カソードガス流量とカソード目標流量との差分を補完するようにアノード目標圧力を上げるので、図22(C)に示すようにアノードガス圧力が上昇する。
時刻t40から時間が経過するにつれて、カソードガス流量とカソード目標流量との差分が小さくなるため、図22(C)に示すように、アノード目標圧力演算部330は、アノードガス圧力を上げ過ぎた分だけアノード目標圧力を下げる。このため、アノードガス圧力は過渡的に上昇した後に下がり始める。
時刻t41において、図22(B)に示すようにカソードガス流量がカソード目標流量に到達し、図22(C)に示すようにアノードガス圧力は若干低下してから定常状態となる。
このように、湿潤制御部300は、目標HFRが大幅に上昇する場合には、カソードガスの増量制御に若干の遅れが生じるため、その遅れた分をアノードガスの昇圧制御により補完する。すなわち、過渡状態におけるドライ操作では、湿潤制御部300は、カソードガス流量を増加させると共に、目標HFRと計測HFRとの差分が小さくなるようにアノードガス圧力を上昇させる。
すなわち、電解質膜111の水分を速やかに減らす必要があるときには、カソードガスの増量制御を実行しても電解質膜111の水分が減少しない部分を補完するように、アノードガスの昇圧制御が実行される。これにより、効率的、かつ、早期に、電解質膜111の水分を減らすことができる。
本発明の第2実施形態によれば、湿潤制御部300は、少なくともドライ操作時には、カソードガス流量が増加するほど、アノードガス圧力の上昇を抑制し、かつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス圧力を上昇させる。これにより、カソードガス流量を増加させる増量制御を実行しても電解質膜111の水分が減らないときには、その減らない部分を補完するようにアノードガス圧力を上昇させることができる。したがって、図21(C)に示したように、カソードガスの増量制御を補完するようにアノードガスの昇圧制御が実行されるので、ドライ操作に要する時間を短縮することができる。
また、本実施形態によれば、カソードガス給排装置2は、燃料電池10にカソードガスを供給するコンプレッサ22を含み、アノードガス給排装置3は、燃料電池10に供給されるアノードガスの圧力を調整するアノード調圧弁33を含む。湿潤制御部300のカソード目標流量演算部320は、電解質膜111の湿潤度と相関のある計測HFRとアノードガス圧力の計測値とに基づいて、コンプレッサ22を用いてカソードガス流量を制御する。そして、湿潤制御部300のアノード目標圧力演算部330は、計測HFRとカソードガス流量の計測値とに基づいて、アノード調圧弁33を用いてアノードガス圧力を制御する。
そして、ドライ操作を実施する場合には、優先順位設定部310は、計測HFRに基づく目標水収支と、電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス圧力であるWET操作値とをカソード目標流量演算部320に設定する。さらに、優先順位設定部310は、計測HFRとアノードガス流量の計測値とをアノード目標圧力演算部330aに設定する。これにより、ドライ操作において、カソードガスの増量制御の優先順位(負荷割合)を、アノードガスの昇圧制御の優先順位よりも高くすることができる。
また、本実施形態によれば、ドライ操作において電解質膜111を現在よりも高い湿潤状態にするときのアノードガス圧力は、燃料電池10の性能を確保できる範囲で最も小さい圧力値に設定される。これにより、ドライ操作においてカソードガス流量をより一層迅速に増加させることができる。
また、本実施形態によれば、ドライ操作を実施する場合において、アノード目標圧力演算部330は、カソードガス流量が増加するほど、アノードガス圧力の上昇を抑制しつつ、電解質膜111の湿潤度が大きくなるほど、アノードガス圧力を上昇させる。これにより、アノードガスの昇圧制御において、カソードガスの増量制御によるドライ操作を迅速に補完することができる。
また、本実施形態によれば、図20に示したように、湿潤制御部300の優先順位設定部310は、ドライ操作において、カソードガス流量制御、アノードガス圧力制御、カソードガス圧力制御、アノードガス流量制御の順に各制御を実行する。
このため、アノードガスの昇圧制御よりも優先してカソードガスの増量制御が実行されるので、燃料電池スタック1からの排水量を直接増やしながら、ドライ操作に寄与しない状況でアノードガスの昇圧制御の実行を回避できる。また、カソードガスの降圧制御よりも優先してアノードガスの昇圧制御が実行されるので、極間差圧ΔPacを早期に確保でき、かつ、効果的に燃料電池スタック1の排水量を増加させることができる。すなわち、効率よく電解質膜111を乾燥状態に遷移させることができる。さらに、アノードガスの減量制御よりも優先してカソードガスの降圧制御が実行されるので、電解質膜111の水分を減らしつつ、アノードガスの減量制御によるドライ操作の効果を高めることができる。
なお、本実施形態ではドライ操作の速効性は高いものの、コンプレッサ22の消費電力が増加し、カソードガスの増量制御及びアノードガスの昇圧制御により燃料電池スタック1の発電量が増加する。そこで、電解質膜111の水分を早期に減らす必要性が高い場合に本実施形態のドライ操作を実施する例について、次図を参照して説明する。
(第3実施形態)
図23は、本発明の第3実施形態における燃料電池システム100の制御方法に関する処理手順例を示すフローチャートである。
本実施形態の制御方法は、図17に示した制御方法の各処理に加えて、ステップS30の処理を備えている。ここでは、ステップS30の処理についてのみ説明し、その他の処理については、図17に示した処理と同じであるため、同一符号を付して説明を省略する。
ステップS30において、図10に示した優先順位設定部310は、ステップS7でドライ操作が実施されると判定された場合に、図7に示した目標HFR演算部211から目標HFRを取得し、図1に示したインピーダンス測定装置6から計測HFRを取得する。
そして、優先順位設定部310は、目標HFRから計測HFRを減算した偏差が所定の速乾閾値Thよりも大きいか否かを判断する。速乾閾値Thは、早期に電解質膜111の湿潤状態を乾燥状態に遷移させる必要性が高いか否かを判定するための閾値であり、例えば、15[Ω・cm2]に設定される。
目標HFRと計測HFRの偏差が速乾閾値Thよりも大きい場合には、ステップS10の処理に進み、目標HFRと計測HFRの偏差が速乾閾値Th以下である場合には、ステップS8の処理に進む。
本実施形態では、速乾閾値Thは予め設定されるものであるが、必要に応じて設定されるものであってもよい。例えば、燃料電池スタック1の周囲温度が氷点温度よりも低い場合において燃料電池システム100を停止する停止処理を実行する際に、速乾閾値Thが設定されてもよい。この場合には、優先順位設定部310は、燃料電池システム100の停止用の目標HFRと計測HFRとの偏差が速乾閾値Thを超えるか否かを判断し、偏差が速乾閾値Thを超える場合にWET操作値を出力する。
このように、本発明の第3実施形態によれば、燃料電池スタック1の湿潤状態を早期に乾燥状態に遷移させる必要性が高いときに限りステップS10のドライ操作処理が実行される。これにより、ドライ操作の速乾性を確保しつつ、燃料電池システム100の燃費の向上を図ることができる。
次に、上記実施形態におけるインピーダンス測定装置6の構成例について説明する。
図24は、インピーダンス測定装置6の構成の一例を示すブロック図である。
インピーダンス測定装置6は、燃料電池スタック1の正極端子(カソード極側端子)1B及び負極端子(アノード極側端子)1Aの他に、中途端子1Cに接続されている。なお、中途端子1Cに接続された部分はアースされている。
インピーダンス測定装置6は、中途端子1Cに対する正極端子1Bの正極側交流電位差V1を測定する正極側電圧測定センサ61と、中途端子1Cに対する負極端子1Aの負極側交流電位差V2を測定する負極側電圧測定センサ62と、を含む。
さらに、インピーダンス測定装置6は、正極端子1Bと中途端子1Cからなる回路に交流電流I1を印加する正極側交流電源部63と、負極端子1Aと中途端子1Cからなる回路に交流電流I2を印加する負極側交流電源部64と、これら交流電流I1及び交流電流I2の振幅や位相を調整するコントローラ65と、正極側交流電位差V1、V2及び交流電流I1、I2に基づいて、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを演算するインピーダンス演算部66と、を含む。
コントローラ65は、正極側交流電位差V1と負極側交流電位差V2が等しくなるように、交流電流I1と交流電流I2の振幅及び位相を調節する。
インピーダンス演算部66は、図示しないAD変換器やマイコンチップ等のハードウェア、及びインピーダンスを算出するプログラム等のソフトウェア構成を含む。
インピーダンス演算部66は、正極側交流電位差V1を交流電流I1で除して、中途端子1Cから正極端子1Bまでの内部インピーダンスZ1を算出し、負極側交流電位差V2を交流電流I2で除して、中途端子1Cから負極端子1Aまでの内部インピーダンスZ2を算出する。さらに、インピーダンス演算部66は、内部インピーダンスZ1と内部インピーダンスZ2の和をとることで、燃料電池スタック1の全インピーダンスZを算出する。
本実施形態によれば、インピーダンス測定装置6は、燃料電池スタック1に接続されて、該燃料電池スタック1に交流電流I1,I2を出力する交流電源部63,64と、燃料電池スタック1の正極側1Bの電位から中途部分1Cの電位を引いて求めた電位差である正極側交流電位差V1と、燃料電池スタック1の負極側1Aの電位から中途部分1Cの電位を引いて求めた電位差である負極側交流電位差V2と、に基づいて交流電流I1,I2を調整する交流調整部としてのコントローラ65と、調整された交流電流I1,I2並びに正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2に基づいて燃料電池スタック1のインピーダンスZを演算するインピーダンス演算部66と、を有する。
コントローラ65は、燃料電池スタック1の正極側の正極側交流電位差V1が負極側の負極側交流電位差V2と実質的に一致するように、正極側交流電源部63により印加される交流電流I1及び負極側交流電源部64により印加される交流電流I2の振幅及び位相を調節する。これにより、正極側交流電位差V1の振幅と負極側交流電位差V2の振幅とが等しくなるので、正極端子1Bと負極端子1Aが実質的に等電位となる(以下ではこれを等電位制御と記載する)。したがって、インピーダンス計測のための交流電流I1、I2が負荷装置5に流れることが防止されるので、燃料電池10による発電に影響を与えることが防止される。
また、燃料電池スタック1が発電状態であっても、発電により生じた電圧に計測用交流電位が重畳されることとなるので、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の値自体は大きくなるが、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の位相や振幅自体が変わるわけではないので、燃料電池10が発電状態ではない場合と同様に高精度なインピーダンス計測を実行することができる。
さらに、インピーダンスZの測定のための回路構成等も種々の変更が可能である。例えば、燃料電池スタック1に所定の電流源から交流電流を供給するようにして、出力される交流電圧を測定し、当該交流電流と出力交流電圧に基づきインピーダンスを計算するようにしても良い。
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、本実施形態では膜湿潤状態取得部210が、目標水収支Qw_tを演算して湿潤制御部300に出力したが、演算した目標水収支Qw_tに基づいて目標排水量Qw_outを算出し、目標排水量Qw_outを目標水収支w_tの代りに出力してもよい。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。