以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明はそれらの例示に限定されない。
以下に説明する本発明の装置(第1〜第3の装置)はそれぞれ、水性液体の液質を調整するための装置である。液質には、溶存水素濃度、遊離塩素濃度、および酸化還元電位(ORP)が含まれる。別の観点では、本発明の装置は、溶存水素を含む水性液体を調製する装置、遊離塩素を含む水性液体を調製する装置、または、酸化還元電位を調整する装置である。以下では、溶存水素を含む水性液体を「水素水」という場合がある。別の観点では、本発明の装置は、水性液体の溶存水素濃度を高める装置である。
[第1の装置]
第1の装置は、水性液体が配置される容器と、容器を第1の槽と第2の槽とに仕切るセパレータと、第1の槽に配置された第1の電極と、第2の槽に配置された第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加するための電源とを含む。第1の槽の上方には第1の流出路が接続されている。第2の槽の上方には第2の流出路が接続されている。第1の流出路と第2の流出路とは接続されている。第2の槽および第2の流出路は、水性液体が流れる流路の一部を構成している。以下では、水性液体が流れる流路を、「流路(P)」という場合がある。なお、第1の流出路から流路(P)へは、第1の電極で発生したガスが主に流れる。
この明細書において、「水性液体」とは、水を含む液体を意味する。水性液体の例には、水道水などの水や、水溶液が含まれる。水性液体は、塩が溶解された水溶液であってもよい。また、水性液体は、水以外の有機溶媒(たとえばアルコール)を含んでもよい。通常、水性液体の溶媒に占める水の割合は、50重量%以上(たとえば80重量%以上や90重量%以上や95重量%以上)であり、且つ100重量%以下である。典型的には、水性液体の溶媒は水である。水性液体中のイオン濃度が低すぎると、電流が流れにくくなる。一方、イオン濃度が高すぎると、効率が低下したり、pHの変化が大きくなったりする。水性液体の導電率は、100μS/cm〜50mS/cm(たとえば140μS/cm〜2mS/cm)の範囲にあってもよい。イオンの濃度が低い場合には、必要に応じて、水性液体にイオンを添加してもよい。たとえば、水性液体に塩を溶解させてもよい。溶解させる塩に特に限定はなく、Na+、K+、Cl-、SO4 2-、PO4 3-、CO3 2-等を含む塩であってもよい。塩の例には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、およびこれらのナトリウムをカリウムに置き換えた塩が含まれる。
第1および第2の槽(容器)に特に限定はなく、水性液体を安定に保持できるものであればよい。第1の槽および第2の槽の例には、樹脂製の槽や、内面が樹脂製の槽が含まれる。典型的な一例では、1つの容器がセパレータ(あるいはセパレータおよび隔壁)で仕切られて、第1および第2の槽とされる。第1の槽の内容積に特に限定はない。好ましい一例では、第2の槽の内容積は、第1の槽の内容積と同じかそれよりも大きい。
セパレータには、電極間の短絡を抑制でき、且つ、電極の表面で発生したガスが通過することを抑制できるセパレータが用いられる。セパレータは、液体およびイオン(陽イオンおよび陰イオンの両方)を通過させる。一方、セパレータは、水性液体中のガス(気泡)の通過を抑制し、好ましくは防止する。セパレータは、絶縁性を有する。別の観点では、セパレータは、陽イオンおよび陰イオンの両方を通過させる隔膜(すなわちイオン交換能を有さない隔膜)であって、且つ、多孔性および絶縁性の隔膜である。本発明の装置は、通常、イオン交換膜(イオン交換材料)を含まない。
好ましい一例では、セパレータは、第2の槽における水性液体の流れと平行に配置される。そのようにセパレータを配置することによって、第1の槽内の水性液体と第2の槽内の水性液体との混合を抑制できる。
セパレータは親水性を有することが好ましい。親水性を有するセパレータを用いることによって、ガスの透過をより効果的に抑制できる。セパレータの例には、樹脂(たとえば樹脂繊維)からなるセパレータが含まれる。樹脂には、天然樹脂および合成樹脂が含まれる。セパレータの形態の例には、布(織布または不織布)や膜(多孔質膜)が含まれる。親水性を有するセパレータの例には、親水基を含有する樹脂を含むか、またはその樹脂からなるセパレータが含まれる。また、親水性を有するセパレータの例には、親水化処理された樹脂を含むか、またはその樹脂からなるセパレータが含まれる。セパレータは、綿、麻、レーヨン、毛、および絹などで形成された布や膜であってもよい。
親水性であるか否かの目安として、毛管現象のような現象が生じるか否かを目安の1つとして挙げることができる。具体的には、セパレータの一部を水に浸漬し、残りの部分は水から出しておく。その時に、水が重力に逆らって当該残りの部分を上昇するようであれば、そのセパレータは、親水性であると推定できる。
第2の槽には、水性液体の流入路と水性液体の流出路(第2の流出路)とが接続されている。第2の流出路は、第2の槽の上方に設けられる。好ましい一例では、流入路が第2の槽の下方に設けられる。この一例では、第2の槽の下方から流入した水性液体は、第2の槽の上方から流出する。この場合、第2の電極で発生したガスは、水性液体と共に第2の流出路から流出する。なお、流入路には、異物を除去するためのフィルタが設けられていてもよい(第2および第3の装置においても同様である)。
第1の槽は、セパレータを介して、水性液体が流れる流路(P)と接続されている。すなわち、流路(P)を流れる水性液体は、セパレータを介して第1の槽内へ移動する。原則として、第1の槽内の水性液体は、水性液体がセパレータを通過することによってのみ第1の槽の外の水性液体(すなわち、第2の槽内の水性液体)と混合されるか、またはそれに置き換えられる。この例には、第1の槽内の水性液体が排液路から排出され、それに伴って第2の槽内の水性液体が第1の槽内に移動する場合も含まれる。一方、第2の槽内の水性液体は、水性液体が流路(P)を流れることによって第2の槽の外の水性液体と混合されるか、またはそれに置き換えられる。
第1の槽の上方には第1の流出路が設けられている。第1の流出路と第2の流出路とは接続部で接続されている。第1の電極で発生したガスの少なくとも一部は、第1の流出路および接続部を通って流路(P)を流れる。
第1および第2の電極には、水の電気分解反応を生じさせることができる電極が用いられる。第1および第2の電極の表面には、水の電気分解反応が生じやすい金属が存在することが好ましい。水の電気分解反応が生じやすい金属の例には、白金が含まれる。第1および第2の電極の例には、金属電極が含まれ、電気分解工程において安定に存在できる金属電極が好ましく用いられる。第1および第2の電極の好ましい一例は、表面に白金が存在する金属電極である。具体的には、白金電極や、液体と接触する部分の表面が白金でコートされた金属電極が好ましく用いられる。白金でコートされる金属の例には、ニオブ、チタン、タンタル、およびその他の金属が挙げられる。酸素ガスが発生する電極(アノード)の表面は、白金でコートされることが好ましい。なお、金属以外の導電性材料(たとえば導電性の炭素材料)からなる電極を用いてもよい。また、それら導電性材料の表面を金属(白金その他の金属)でコートすることによって得られる電極を用いてもよい。
第1の電極と第2の電極との間の距離は、0.1mm〜10mmの範囲(たとえば0.1mm〜5mmの範囲)にあってもよい。第1の電極と第2の電極との間の距離が短いほど、水の電気分解に必要な電圧を低くすることができる。また、第1の電極と第2の電極との間の距離が短いほど、水素イオンおよび水酸化物イオンが一方の槽から他方の槽に移動しやすくなるため、第1の槽中の水性液体のpHと、第2の槽中の水性液体のpHとの差を小さくできる。第1の電極と第2の電極とが短絡しない限り、第1の電極および第2の電極はセパレータと接触していてもよい。第1の電極とセパレータとの間の距離、および、第2の電極とセパレータとの間の距離は、それぞれ、0mm〜5mmの範囲(たとえば0mm〜1mmの範囲)にあってもよい。
第1および第2の電極は、それぞれ、2次元状に広がる形状を有してもよい。たとえば、第1および第2の電極は、平板状の電極であってもよい。この平板状の電極には、貫通孔が形成されていてもよい。また、第1および第2の電極は、それぞれ、仮想の平面上に配置された複数の線状の電極で構成されていてもよい。第1および第2の電極が2次元状に広がる形状を有する場合、第1の電極と第2の電極とが、セパレータを挟んで互いに平行に対向することが好ましい。また、複数の第1の電極と複数の第2の電極とがセパレータを挟んで対向していてもよい。
第1の電極および第2の電極のそれぞれは、鉛直方向に沿ってストライプ状に配置された複数の線状の電極を含んでもよい。このような電極を用いることによって、電極の表面で発生したガスは、鉛直方向に上昇しやすくなり、電極の表面に滞留しにくくなる。
電源には、直流電源を用いることができる。電源は、コンセントから得られる交流電圧を直流電圧に変換するAC−DCコンバータであってもよい。また、電源は、太陽電池や燃料電池などの発電装置や電池(たとえば二次電池)であってもよい。発電装置や電池を電源として用いることによって、電力が供給されていない地域や状況において本発明の装置を用いることが可能となる。
第1の装置の一例では、第1の流出路と第2の流出路との接続部よりも高い位置に、第1の流出路の少なくとも一部が存在してもよい。当該一部は、ガスを保持することが可能な空間として機能する。換言すれば、この一例は、第1の流出路と第2の流出路との接続部よりも高い位置に、ガスを保持することが可能な空間を有する。この構成によれば、第1の槽の水性液体が第2の流出路に流れ込むことを抑制できる。
本発明の装置(第1〜第3の装置)は、流路(P)(たとえば第2の槽の下流側の流路)が接続された貯水槽をさらに含んでもよい。そして、貯水槽と第2の槽とを含む循環路(環状路)が形成されていてもよい。この貯水槽は、水素水を利用するための槽であってもよい。そのような槽の例には、身体やペットを水素水に浸すための槽が含まれる。そのような槽の例には、浴槽、足湯用の槽、洗顔用の槽、ペット用の槽が含まれる。また、水素水が使用される機器が貯水槽に接続されていてもよい。
本発明の装置(第1〜第3の装置)において、第2の槽に接続された流出路(第2の槽の下流側の流路)は、水素水が使用される機器に接続されていてもよい。たとえば、当該流出路は、シャワー器具に接続されていてもよい。
本発明の装置(第1〜第3の装置)は、手動で制御することが可能である。しかし、本発明の装置(第1〜第3の装置)は、コントローラを備えてもよい。コントローラは、演算処理装置と記憶手段とを含む。なお、記憶手段は、演算処理装置と一体化されていてもよい。記憶手段の例には、演算処理装置の内部メモリ、外部メモリ、磁気ディスク(たとえばハードディスクドライブ)などが含まれる。記憶手段には、必要な工程(たとえば電気分解工程)を実行するためのプログラムが記録される。コントローラの一例には大規模集積回路(LSI)が含まれる。本発明の装置は、各種機器(電源、ポンプ、バルブ、フィルタなど)および各種計測器(電流計、pH計、イオン濃度計、導電率計、溶存酸素計、および溶存水素計など)を含んでもよい。そして、コントローラは、これらの機器および計測器に接続されていてもよい。コントローラは、計測器の出力に基づいて機器を制御することによって電気分解工程を実行してもよい。
本発明の装置(第1〜第3の装置)は、電極に印加する電圧を決定するために、水性液体の導電率を測定する導電率計や、電極からのガス発生を確認するための装置(たとえばLEDやレーザダイオードなどの発光素子と、フォトダイオードなどの受光素子との組み合わせ)を備えてもよい。また、本発明の装置は、電極間に印加される電圧を測定するための電圧計や、電極間を流れる電流を測定するための電流計を備えてもよい。
コントローラは、各種の計測器から得られたデータ、および、溶存水素濃度の目標値に基づいて、電圧印加の条件および/または水性液体の流量を制御してもよい。
[液質の調整方法]
水性液体の液質を第1の装置を用いて調整する方法の一例について以下に説明する。なお、第1の装置について説明した事項は以下の方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、以下の方法について説明した事項は、第1の装置に適用できる。
この方法では、まず、流路(P)に水性液体を流す。これによって、第1および第2の槽に水性液体が配置される。次に、第1の電極と第2の電極との間に直流電圧を印加することによって、水性液体中の水を電気分解する(電気分解工程)。
電気分解工程は、水性液体が流路(P)(第2の槽が含まれる)を流れている状態で行われる。別の観点では、電気分解工程は、第1の槽の水性液体が実質的に通液状態ではなく且つ第2の槽の水性液体が通液状態である状態で行われる。この構成によれば、第2の槽で処理された水性液体のpHの変化を小さくすることが可能である。なお、「通液状態」とは、連続的に(典型的には、連続的且つ一定の方向に)液体が流れることによって、液体が連続的に入れ替わっている状態をいう。
電気分解工程において電極間に印加される電圧(直流電圧)は、アノードおよびカソードの両方において電気分解が生じるように設定される。印加電圧は、3ボルト〜50ボルトの範囲(たとえば6ボルト〜20ボルトの範囲)にあってもよい。
本発明の装置(第1〜第3の装置)では、電気分解工程として、以下の工程(a)および/または工程(b)が実行されてもよい。本発明の装置がコントローラを含む場合、以下の工程(a)および/または工程(b)がコントローラによって実行されてもよい。その場合、コントローラの記憶手段には、以下の工程(a)および/または工程(b)を実行するためのプログラムが格納される。
工程(a)では、水性液体が第2の槽を流れている状態で第1の電極がアノードとなるように第1の電極と第2の電極との間に直流電圧を印加することによって、溶存水素を含む水性液体を第2の槽で調製する。工程(a)では、第1および第2の電極のそれぞれにおいて水の電気分解が生じるように直流電圧が印加される。
工程(a)において、第2の電極(カソード)では、水酸化物イオン(OH-)と水素ガスとが発生する。その結果、第2の槽から流出する水性液体の溶存水素濃度は、第2の槽に流入する前の水性液体のそれよりも高くなる。一方、第1の電極(アノード)では、水素イオン(H+)と酸素ガスとが発生する。その結果、第1の槽の流出路からは酸素ガスが流出する。
工程(a)によれば、溶存水素を含む水性液体を調製することができ、溶存水素濃度が高い水素水を得ることが可能である。水素水の溶存水素濃度は、水性液体のイオン濃度、水性液体の流速、印加電圧などによって変化する。一例では、溶存水素濃度が0.4〜1.6ppmの範囲(たとえば0.8〜1.3ppmの範囲)の水素水を得ることが可能である。
溶存水素濃度は、水性液体の酸化還元電位(ORP)に影響を与え、溶存水素濃度が高いほどORPが低くなる。そのため、別の観点では、本発明の装置は、水性液体のORPを低下させる装置である。また、別の観点では、本発明の一例の装置は、ORPが低い水性液体(たとえば中性近辺でORPが−600mV〜−100mVの範囲にある水性液体)を調製することが可能な装置である。
水性液体が塩素イオンを含む場合(たとえば水性液体が水道水である場合)、工程(a)を行ったときに、第1の電極において塩素ガスが発生する。そのため、第1の槽では、遊離塩素(溶存塩素、次亜塩素酸および次亜塩素酸イオン)が発生する。発生した遊離塩素の一部は、セパレータを通って流路を流れる水性液体に取り込まれる。また、第1の装置では、第1の槽で発生した塩素ガスが、接続部において水性液体に溶解し、流路を流れる水性液体の遊離塩素濃度を上昇させる。そのため、水性液体が塩素イオンを含む場合、第1の装置では、工程(a)によって、殺菌力を有する水素水を調製することが可能である。そのため、第1の装置は、殺菌が必要になる用途に特に好ましく用いられる。
遊離塩素濃度が高い水性液体を調製する場合には、工程(b)が実行される。工程(b)では、塩素イオンを含む水性液体が第2の槽を流れている状態で第1の電極がカソードとなるように第1の電極と第2の電極との間に直流電圧を印加することによって、遊離塩素を含む水性液体を第2の槽で調製する。工程(b)では、第1の電極において水が電気分解され、第2の電極において塩素イオンが塩素分子となるように電極間に直流電圧が印加される。典型的な工程(b)では、第1および第2の電極のそれぞれにおいて水が電気分解されるように電極間に直流電圧が印加される。工程(b)によって第2の電極において塩素ガスが発生する。その結果、遊離塩素を含む水性液体が第2の槽で調製される。また、工程(b)によって第2の電極において酸素ガスが発生するため、第2の槽で調製される水性液体は、ORPが上昇する。そのため、工程(b)によれば、ORPおよび遊離塩素濃度が高い水性液体を調製できる。
工程(b)によれば、遊離塩素を含む水性液体を調製することができ、遊離塩素濃度が高い水性液体を得ることが可能である。この水性液体は、殺菌などに用いることができる。本発明の装置によれば、工程(a)によって溶存水素濃度が高い水性液体を調製し、工程(b)によって遊離塩素濃度が高い水性液体を調製することが可能である。循環風呂のように、循環路に水素水を流して用いる場合、循環路の殺菌が重要になる場合がある。そのような場合、通常は工程(a)を実行し、必要に応じて工程(b)を実行すればよい。工程(b)によって循環路の殺菌を行うことができる。また、工程(b)によって、電極の再生(堆積したスケールの除去)を行うことが可能である。本発明の装置によれば、水素水と殺菌用の水とを水道水から調製することが可能である。
本発明の装置では、工程(a)のみが実行されてもよいし、工程(b)のみが実行されてもよい。工程(a)と工程(b)とが実行される場合、いずれの工程が先に実行されてもよい。また、工程(a)と工程(b)とが繰り返し実行されてもよい。たとえば、工程(a)と工程(b)とが、工程(a)、工程(b)の順で繰り返し実行されてもよいし、工程(b)、工程(a)の順で繰り返し実行されてもよい。
流路(P)が循環路である場合、電気分解工程において、第1の槽に配置される水性液体の量(体積V1(cm3))と、流路(P)に存在する水性液体の量(体積V2(cm3))との比によって、第2の槽で処理された水性液体のpHが調整されてもよい。ここで、循環路の途中に貯水槽が含まれる場合、流路(P)には貯水槽が含まれる。(V2/V1)の値が大きいほど、第2の槽で処理された水性液体のpHの変化が小さくなる傾向がある。(V2/V1)の値は、10〜2×106の範囲(たとえば10〜50000の範囲や200〜15000の範囲)にあってもよい。
第2の槽が循環路の一部を構成しない場合(たとえば、第2の槽で処理された水性液体がそのまま使用される場合)、第2の槽を1分間あたりに流れる水性液体の量(体積)が、第1の槽に配置される水性液体の量(または第1の槽の内容積)の1倍〜106倍の範囲(たとえば10倍〜105倍の範囲や100倍〜105倍の範囲)にあってもよい。この倍率が高いほど、第2の槽で処理された水性液体のpHの変動が小さくなる。
なお、電極(第1および第2の電極)とセパレータとの距離を短くする(たとえば上述した距離とする)ことによって、第2の槽で処理される水性液体のpHの変化を特に抑制できる。
電気分解工程が行われた直後の状態では、第1の槽の中の水性液体のpHと第2の槽の中の水性液体のpHとは、大きく異なる場合が多い。そのため、第2の槽の中の水性液体のpHを電気分解工程が行われた直後の値に保って中性に近づけないようにする場合には、電気分解工程の後に、第1の槽の中の水性液体およびイオンが第2の槽に移動および拡散することを防止してもよい。たとえば、電気分解工程の後に第1の槽の水を排出してもよい。あるいは、電気分解工程の後に、第1の槽と第2の槽との間を遮蔽板で仕切って、水性液体およびイオンの移動および拡散を防止してもよい。電気分解工程後に、第2の槽中の水性液体を中性に戻したい場合は、電圧印加後に、pHがほぼ一定値になるまで槽中の水性液体を放置してもよい。水素イオンおよび水酸化物イオンがセパレータを透過することによって、pHが中性に近づく。このとき、電圧を印加しない状態で第2の槽中の水性液体を循環させることによって、pHが中性に戻ることを促進できる。
本発明の方法では、第1の槽に配置されている水性液体の一部を排出することによって、第2の槽を流れる水性液体のpHを制御してもよい。また、第1の槽および第2の槽の一方または両方に排液路を配置し、一方の槽から水性液体を排出することによって、水性液体のpHを調整してもよい。たとえば、中性の水を電気分解すると、アノード側の水性液体が酸性となり、カソード側の水性液体がアルカリ性となる。そのため、電圧印加中または電圧印加後において、第1の槽および第2の槽のいずれか一方の水性液体を排出することによって、水性液体全体のpHを変化させることが可能である。
本発明の装置(第1〜第3の装置)では、流路(P)に活性炭フィルタが配置されていてもよい。たとえば、第1の装置では、第1の流出路と第2の流出路との接続部よりも下流側の流路に、活性炭フィルタが配置されていてもよい。活性炭フィルタによって、水性液体中の不要な物質を除去することが可能である。たとえば、次亜塩素酸イオンや溶存酸素の濃度を活性炭フィルタによって低減することが可能である。活性炭フィルタに特に限定はなく、公知の活性炭フィルタを用いてもよい。活性炭フィルタのその他の例については後述する。
本発明の実施形態の例について、図面を参照しながら以下に説明する。なお、図面を参照した以下の説明において、同様の部分には同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
[実施形態1]
実施形態1では、本発明の第1の装置の一例について説明する。実施形態1の装置100の構成を図1に模式的に示す。装置100は、容器10、セパレータ13、第1の電極21、第2の電極22、および電源23を含む。装置100は、コントローラ、貯水槽、活性炭フィルタ、水性液体の移動を制御するためのポンプやバルブなどを備えてもよい。
容器10は、セパレータ13によって第1の槽11と第2の槽12とに仕切られている。第1の槽11には第1の電極21が配置されており、第2の槽12には第2の電極22が配置されている。第1の電極21および第2の電極22には、電源23が接続されている。
第1の槽11の上方には流出路(第1の流出路)11bが接続されている。第2の槽12の下方には流入路12aが接続されており、第2の槽12の上方には流出路(第2の流出路)12bが接続されている。第2の槽12において、水性液体は、下方の流入路12aから上方の流出路12bに向かって流れる。セパレータ13は、この水性液体の流れと平行に配置されている。
通常、水性液体を移動させるためのポンプが流入路12aに配置される。流出路11bと流出路12bとは、接続部15において接続され、さらに流路24に接続されている。流入路12a、第2の槽12、流出路12b、および流路24は、水性液体が流れる流路(P)として機能する。流出路11bの少なくとも一部は、接続部15よりも高い位置に存在する。なお、流出路11bには、ガスを大気に放出するための開閉可能な弁が設けられていてもよい。この弁は、接続部15よりも高い位置に設けられていることが好ましい。
流出路11bおよび流出路12bは、大気から遮断された管路となっていてもよい。大気から遮断された管路には、管路内が所定の圧力を超えたときに開放される弁が設けられていてもよい。電極で発生したガスが管路にたまることによって、第1の槽内の水性液体が流路24に流れ出ることが抑制される。
装置100における工程(a)について説明する。なお、工程(a)と逆方向に電圧を印加することによって工程(b)を実行できるため、工程(b)についての説明は省略する。工程(a)は、流路(流入路12a、第2の槽12、流出路12b、および流路24)に水性液体を流した状態で行われる。流路に水性液体を流すと、第1の槽11および第2の槽12に水性液体が配置される。その状態で、第1の電極21がアノードとなるように(第2の電極22がカソードとなるように)直流電圧を印加することによって、水性液体101中の水を電気分解する。これによって、図2に示すように、第1の電極21の表面で酸素ガスが発生し、第2の電極22の表面で水素ガスが発生する。なお、水性液体101が塩素イオンを含む場合には、第1の電極21の表面で塩素ガスも発生する。
第1の電極21で発生したガスは、第1の槽11の上方に接続された流出路11bにたまる。第1の槽11内の圧力が高まると、第1の槽11内の水性液体101の水位が上昇し、流出路11b内を水性液体101が上昇する。しかし、流出路11bのうち接続部15よりも高い位置にある部分はガスで満たされている。そのため、流出路11b内を水性液体101が上昇しても、その水位が接続部15よりも高くなることは抑制される。その結果、第1の槽11内の水性液体101が、流路に多量に流れ込むことを防止できる。また、装置100では、第1の槽11内の水性液体101の水位が過剰に上昇した場合でも、その水性液体101が流路に流れ込むだけであり、水性液体101が装置の外部に漏れることを防止できる。以上のように、実施形態1の装置100では、第1の槽11内の水性液体101の水位を制御することが基本的に不要である。
図3に示すように、流路24は貯水槽40に接続されていてもよい。また、流路24(接続部15の下流側)には、活性炭フィルタ50が配置されていてもよい。第2の槽12は、流入路12aによって貯水槽40に接続されている。流入路12aには、水性液体を移動させるためのポンプ25が設けられている。流入路12a、第2の槽12、流出路12b、流路24、および貯水槽40は、水性液体が流れる流路(P)として機能する。これらは、水性液体が流れる循環路を形成する。なお、第1の槽11および/または循環路(P)には、各種の計測器、バルブ、水性液体101を排出するための排液路などが設けられていてもよい。
図3の構成では、水性液体101が循環路を循環している状態で工程(a)が行われ、それによって水性液体101の溶存水素濃度が高められる。そのため、貯水槽40が開放状態にあっても、溶存水素濃度を高い状態に維持することが可能である。
水性液体101が塩素イオンを含む場合、第1の電極21の表面では塩素イオンが酸化されて塩素ガスが発生する。第1の電極21で発生した塩素ガスや酸素ガスの一部は、接続部15で水性液体101に混入し、水性液体101に溶解する。そのため、接続部15の下流側では、水性液体101中の次亜塩素酸イオン濃度や溶存酸素濃度が上昇する場合がある。しかし、接続部15において水性液体101と塩素ガスや酸素ガスとが接触する面積は小さいため、それらが水性液体101に溶解する量はわずかである。一方、電極の表面で発生した微少なガスが水性液体101に溶解する量は多い。そのため、第1の槽11内の水性液体101中の次亜塩素酸イオン濃度や溶存酸素濃度は高く、また、第2の槽12内の水性液体101中の溶存水素濃度は高い。流路を流れる水性液体101の遊離塩素濃度および溶存酸素濃度を低くしたい場合には、流路を流れる水性液体101に第1の槽11内の水性液体101が混入する量を少なくすること、および、第1の槽11内で発生した微少なガスが第2の槽12に移動することを抑制すること、が重要である。これらを達成するために、セパレータ13で第1の槽11と第2の槽12とを仕切り、且つ、第2の槽12を通液状態とし第1の槽11を通液状態としないことが重要である。
実施形態1の装置によれば、溶存水素濃度が高い水性液体や、遊離塩素濃度が高い水性液体や、溶存酸素濃度が高い水性液体が得られる。
接続部15の下流側において上昇した次亜塩素酸イオン濃度や溶存酸素濃度は、活性炭フィルタ50によって低減することが可能である。活性炭フィルタ50は、一般的な活性炭フィルタであってもよく、たとえば、家庭用の浄水器に用いられている活性炭フィルタであってもよい。活性炭フィルタ50は、後述する第1の活性炭フィルタまたは第2の活性炭フィルタであってもよく、たとえば、後述する活性炭フィルタ200または200aであってもよい。
なお、工程(a)を実施した場合、溶存水素濃度が高い水性液体(ORPが低い水性液体)が活性炭フィルタ50を流れることになる。その場合、活性炭フィルタ50が一般的な活性炭フィルタであっても、ORPが低い水性液体が流れることによって、活性炭フィルタ50中の活性炭が還元され、活性炭の電位が下がる。活性炭の電位が下がることによって、活性炭の能力が回復する。すなわち、溶存酸素や次亜塩素酸を分解・除去する活性炭の能力が回復する。そのため、工程(a)を実施する場合、一般的な活性炭フィルタの能力を長期間維持することが可能になる。
流出路11bには、弁が設けられていてもよい。第1の槽11には、排液路が設けられていてもよい。それらが設けられている装置の一例を図9に示す。図9の装置100は、弁11bvおよび排液路11pを備える点のみが図1の装置100とは異なる。弁11bvは、第1の槽11と接続部15とを結ぶ排出路11bの途中であって、接続部15よりも高い位置に設けられている。弁11bvは、大気圧よりも高い所定の圧力に到達したときに開放状態となる弁であってもよい。排液路11pは、第1の槽11の下方に設けられる。排液路11pに設けられた弁11pvを開放状態とすることによって、第1の槽11内の水性液体を第1の槽11から排出できる。
[第2の装置]
以下では、水性液体の液質を調整するための本発明の第2の装置について説明する。第2の装置は、水性液体が配置される容器と、容器を第1の槽と第2の槽とに仕切るセパレータと、第1の槽に配置された第1の電極と、第2の槽に配置された第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加するための電源とを含む。第2の槽の上方には流出路が接続されている。第2の槽および流出路は、水性液体が流れる流路の一部を構成している。一方、第1の槽は、セパレータを介して第2の槽と接続されており、実質的に通液状態とはならない。以上の点については、第1の装置と同様であるため、重複する説明は省略する。
第2の装置では、第1の流出路の代わりに、水性液体が上昇可能な筒状部が第1の槽の上方に接続されている。第2の槽の下流側の流路には、大気に開放されている開放部が存在する。開放部は、第2の槽の下流側の流路によるサイフォン効果が小さくなる位置に設けられる。サイフォン効果を小さくするために、流出路の最も高い位置と開放部との高低差が小さいことが好ましい。また、開放部は、第2の電極22の上端よりも上に位置することが好ましく、第2の槽の上端よりも上に位置することがより好ましい。
一例では、(高低差)が0cm〜50cmの範囲(たとえば0cm〜20cmの範囲や0cm〜10cm)にある。この一例において、第2の電極22の上端と流出路の最も高い位置との間の高低差が0cm〜20cmの範囲(たとえば1cm〜5cmの範囲)にあってもよい。
第2の装置では、第1の装置と同様に電圧印加を行うことによって、第1の装置と同様に水性液体の液質を調整できる。具体的には、工程(a)および/または工程(b)を行うことによって、水性液体の液質を調整できる。
[実施形態2]
実施形態2では、本発明の第2の装置の一例について説明する。第2の装置の一例を、図4に示す。図4の装置100aは、容器10、セパレータ13、第1の電極21、第2の電極22、および電源23を含む。装置100aの特徴として説明する事項以外は装置100aは実施形態1の装置100と同様であるため、重複する説明は省略する。たとえば、装置100aは、コントローラ、活性炭フィルタ、貯水槽、ポンプ、バルブなどを備えてもよい。また、装置100aでは、図3に示すように、貯水槽を含む循環路が形成されていてもよい。
第1の槽11の上方には筒状部11cが接続されている。筒状部11cは大気に開放されている。筒状部11cは、第1の槽11内の水性液体の水位が上昇したときに装置外に水性液体が漏れることを防止するために設けられる。筒状部11cには、気液分離膜などが配置されてもよい。
第2の槽12の下方には流入路12aが接続されており、第2の槽12の上方には流出路12bが接続されている。流出路12bは流路24に接続されている。流入路12a、第2の槽12、流出路12b、および流路24は、水性液体の流路として機能する。装置100aが貯水槽を含む場合、図3の装置と同様に、流入路12aおよび流路24は貯水槽に接続される。その場合、流入路12a、第2の槽12、流出路12b、流路24、および貯水槽は、水性液体が流れる流路として機能し、循環路を形成する。
装置100aでは、装置100と同様に電気分解工程が行われる。その結果、溶存水素濃度が高い水性液体や、遊離塩素濃度が高い水性液体や、溶存酸素濃度が高い水性液体が得られる。なお、装置100aでは、第1の電極21の表面で発生したガスは、筒状部11cを通って大気に放出される。
流出路12bと流路24との接続部には、大気に開放されている開放部12cが存在する。開放部12cがない場合、流路24の落差の分だけ、第2の槽12内の水性液体101には引っ張る力が加わる(サイフォン効果)。そのため、流路24の落差が大きいと、第2の槽12内の水性液体101に加わる力が大きくなり、その結果、第1の槽11内の水性液体101の水位が低下して第1の電極21が露出してしまうことがある。第1の電極21の露出は、電気分解の効率の低下や電極の劣化をもたらすため好ましくない。一方、開放部12cを設けた場合、サイフォン効果をもたらすのは、流出路12bの最も高い位置から開放部12cまでの落差(高低差)の部分のみである。そのため、流出路12bの最も高い位置から開放部12cまでの落差を小さくすることによって、サイフォン効果の影響を小さくすることができる。図4には、流出路12bの最も高い位置から開放部12cまでの落差がゼロである場合を示しているが、流出路12bの最も高い位置から開放部12cまでの落差があっても、それが小さければサイフォン効果の影響を抑制できる。このように、装置100aでは、第2の槽12の下流側の流路に開放部12cを設けることによってサイフォン効果を抑制することができる。その結果、第1の槽11内の水性液体101がサイフォン効果によって低下しすぎることを防止できる。
[第3の装置]
以下では、水性液体の液質を調整するための本発明の第3の装置について説明する。第3の装置は、水性液体が配置される容器と、容器を第1の槽と第2の槽とに仕切るセパレータと、第1の槽に配置された第1の電極と、第2の槽に配置された第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加するための電源とを含む。第2の槽の上方には流出路が接続されている。第2の槽および流出路は、水性液体が流れる流路の一部を構成している。一方、第1の槽は、セパレータを介して第2の槽と接続されており、実質的に通液状態とはならない。以上の点については、第1の装置と同様であるため、重複する説明は省略する。
第3の装置では、第1の流出路の代わりに、水性液体が上昇可能な筒状部が第1の槽の上方に接続されている。第2の槽の下流側の流路には、流路内の流れを制御するための流量調節器が設けられている。流量調節器は、第2の槽内の水性液体の圧力を調節する圧力調節器と考えることも可能である。流量調節器には、公知の流量調節バルブなどを用いてもよい。
第3の装置では、第1の装置と同様に電圧印加を行うことによって、第1の装置と同様に水性液体の液質を調整できる。具体的には、工程(a)および/または工程(b)を行うことによって、水性液体の液質を調整できる。
[実施形態3]
実施形態3では、本発明の第3の装置の一例について説明する。第3の装置の一例を、図5に示す。図5の装置100bは、容器10、セパレータ13、第1の電極21、第2の電極22、電源23、およびバルブ(流量調節器)26を含む。装置100bの特徴として説明する事項以外は装置100bは実施形態1の装置100と同様であるため、重複する説明は省略する。たとえば、装置100bは、コントローラ、活性炭フィルタ、貯水槽などを備えてもよい。また、装置100bでは、図3に示すように、貯水槽を含む循環路が形成されていてもよい。
第1の槽11の上方には筒状部11cが接続されている。筒状部11cは大気に開放されている。第2の槽12の下方には流入路12aが接続されており、第2の槽12の上方には流出路12bが接続されている。流出路12bは、流路24に接続されている。流入路12a、第2の槽12、流出路12b、および流路24は、水性液体の流路として機能する。装置100bが貯水槽を含む場合、図3の装置と同様に、流入路12aおよび流路24は貯水槽に接続される。その場合、流入路12a、第2の槽12、流出路12b、流路24、および貯水槽は、水性液体が流れる流路として機能し、循環路を形成する。
装置100bでは、装置100と同様に電気分解工程が行われる。その結果、溶存水素濃度が高い水性液体や、遊離塩素濃度が高い水性液体や、溶存酸素濃度が高い水性液体が得られる。なお、装置100bでは、第1の電極21の表面で発生したガスは、筒状部11cを通って大気に放出される。
流出路12b(第2の槽12の下流側)には、水性液体の流量を調節するためのバルブ26が配置されている。図5に示すように、第2の槽12の下流側の流路が下降している場合、その高低差によってサイフォン効果が生じる。そのため、第2の槽12内の水性液体には、流出路12b側に引っ張る力が加わる。この力によって、第2の槽12内の水性液体が引っ張られると、第1の槽11内の水性液体の水位が低下して第1の電極21が露出することがある。第1の電極21の露出は、電気分解の効率の低下や電極の劣化をもたらすため好ましくない。そのような問題を避けるために、第1の槽11内の水性液体の水位が低下した場合には、バルブ26を絞って第2の槽12内の水性液体の圧力を高めればよい。それによって、第1の槽11内の水性液体の水位を上昇させることができる。一方、第1の槽11内の水性液体の水位が上昇しすぎると、筒状部11cから水性液体があふれでてしまう。そのような場合には、バルブ26を開けることによって筒状部11c内の水性液体の水位を低下させることができる。このように、バルブ26の開度を制御することによって、槽内の水性液体の水位を調節することが可能である。
バルブ26の調節は自動化してもよい。その場合には、第1の槽11および筒状部11c内の水性液体の水位を計測する水位計測器と、コントローラとを用いる。水位計測器には、公知の水位計測器を用いることができる。コントローラは、水位計測器の出力に基づき、バルブ26の開度を制御する。具体的には、第1の槽11および筒状部11c内の水性液体の水位が低くなったときにはバルブ26が絞られ、水位が高くなったときにはバルブ26が開かれる。
以上のように、本発明の第1〜第3の装置では、槽内の水性液体の水位のコントロールが不要であるかまたは容易である。
上述したいずれの装置においても、流路に活性炭フィルタを設ける場合には、活性炭フィルタを含む第1の流路と、活性炭フィルタを迂回する第2の流路とを並列に設けてもよい。そして、第1の流路と第2の流路とを切り替えられるようにしてもよい。この構成によれば、活性炭フィルタで処理された水性液体と、活性炭フィルタで処理されない水性液体のいずれかを選択して利用することが可能になる。活性炭フィルタによって、溶存酸素濃度や次亜塩素酸イオン濃度が低減されるが、活性炭フィルタを迂回する第2の流路を用いることによって、これらの濃度が低減されていない水性液体を利用できる。たとえば、次亜塩素酸イオン濃度が高い水性液体を殺菌目的で利用することが可能となる。また、工程(a)を実行しているときには活性炭フィルタを通る流路を利用し、工程(b)を実行しているときには活性炭フィルタを迂回する流路を利用するようにしてもよい。
活性炭フィルタは、以下で説明する第1および第2の活性炭フィルタのいずれかであってもよい。あるいは、活性炭フィルタは、一般的に用いられる活性炭フィルタ(電極や水素吸蔵部を含まない活性炭フィルタ)であってもよい。
[第1の活性炭フィルタ]
第1の活性炭フィルタについて以下に説明する。第1の活性炭フィルタは、活性炭を含む吸着部と、吸着部と短絡していない電極とを含む。第1の活性炭フィルタでは、吸着部(吸着部の活性炭)がカソードとなるように(電極がアノードとなるように)、吸着部(吸着部の活性炭)と電極との間に直流電圧が印加される。
なお、第1の活性炭フィルタは、複数の吸着部と複数の電極とを備えてもよい。別の観点では、第1の活性炭フィルタは、吸着部と電極とのペアを複数備えてもよい。それらのペアは、並列に接続されてもよいし、直列に接続されてもよい。
吸着部は、活性炭を含み、全体としてある程度の導電性を有する。吸着部は、たとえば、粒状の活性炭のみで形成されてもよいし、あるいは、粒状の活性炭とカーボンブラックと結着剤とを含む材料で形成されてもよい。活性炭およびカーボンブラックは導電性を有するため、これらの材料を用いることによって導電性を有する吸着部が得られる。また、繊維状の活性炭を用いてもよい。また、活性炭繊維を用いて形成されたクロスを用いて吸着部を形成してもよい。吸着部は、活性炭を用いた公知の吸着材料で形成してもよい。たとえば、公知の活性炭フィルタに用いられている吸着材料で吸着部を形成してもよい。吸着部は、電圧をできるだけ均等に活性炭に印加するための導電体(金属配線や金属箔など)を含んでもよい。この導電体は、活性炭と直接接触するように配置されるか、または、導電性物質を介して活性炭と接続される。
電極に特に限定はなく、金属電極であってもよいし、導電性の炭素系材料(グラファイトなど)からなる電極であってもよいし、それらの組み合わせからなる電極であってもよい。いずれの場合でも、腐食が少なく、水の電気分解による酸素発生が生じやすい電極が好ましい。アノードとなる電極では、水の電気分解によって酸素が生じる。電極の一例には、白金でコートされた金属(たとえばステンレスやチタン)からなる電極が含まれる。電極は、液体が通過可能な形状を有することが好ましい。たとえば、電極は、ワイヤ状の電極線で構成されていてもよく、メッシュ状であってもよい。
第1の活性炭フィルタは、吸着部と電極との短絡を防止するためのセパレータを備えてもよい。セパレータは、吸着部と電極との間に配置される。セパレータは絶縁性であり、絶縁性の樹脂で形成されてもよい。セパレータは、液体が通過可能な形状を有することが好ましい。たとえば、セパレータは、メッシュ状であってもよいし、織布または不織布であってもよい。
第1の活性炭フィルタは、通常、直流電圧を印加するための電源を含む。電源は、コンセントから得られる交流電圧を直流電圧に変換するAC−DCコンバータであってもよい。また、電源は、太陽電池などの発電装置や電池(たとえば一次電池や二次電池)であってもよい。
特開平6−238264号公報は、活性炭に接触した2つの電極間に直流電圧を印加することによってジュール熱で活性炭を加熱し、それによって活性炭を再生する方法を開示している。第1の活性炭フィルタでも活性炭に直流電圧を印加するが、その電圧印加は活性炭の加熱を目的とするものではない。第1の活性炭フィルタでは、電極と吸着部とは接触しておらず、電極と吸着部との間には処理される水が存在する。そのため、電極と吸着部との間に電圧を印加しても、活性炭に電極が接触している特開平6−238264号公報の場合とは異なり、流れる電流は小さい。第1の活性炭フィルタでは、活性炭(吸着部)がカソードとなるように電圧を印加する。このとき、活性炭がイオンを吸着して電気二重層を形成する程度の電流が流れるように電圧印加を行うが、液温を大きく変えるほどの電流は流れないため、活性炭の温度上昇はほとんどない。具体的には、電圧印加による活性炭の温度上昇は、通常10℃以下(典型的には5℃以下)である。また、水が活性炭フィルタを流れている状態で電圧を印加する場合には、通常、活性炭の温度上昇はほとんどない(温度上昇は1℃未満である)。このように、第1の活性炭フィルタでは、直流電圧の印加による吸着部の活性炭の温度上昇は、通常10℃以下であり、たとえば5℃以下や1℃以下である。また、第1の活性炭フィルタでは、電圧印加時に活性炭1グラムあたりに流れる電流の量は、通常1A以下であり、典型的には0.1A以下である。
第1の活性炭フィルタでは、直流電圧の印加によって、吸着部の活性炭の電位を、標準水素電極基準で、−0.8V以上や−0.6V以上や−0.4V以上や−0.2V以上としてもよく、0.8V以下や0.6V以下や0.4V以下や0.3V以下や0.2V以下としてもよい。たとえば、−0.8V〜0.8Vの範囲や、−0.8V〜0.6Vの範囲や、−0.6V〜0.6Vの範囲や、−0.4V〜0.5Vの範囲や、−0.4V〜0.4Vの範囲や、−0.4V〜0.2Vの範囲や、−0.3V〜0.5Vの範囲や、−0.2V〜0.4Vの範囲としてもよい。これらの下限、上限、および範囲を、以下では「吸着部の活性炭の電位の例示(1)」という場合がある。好ましい一例では、吸着部の活性炭の電位が、標準水素電極基準で、−0.8V〜0.6Vの範囲や、−0.6V〜0.4Vの範囲や、−0.4V〜0.4Vの範囲にある。
[第1の活性炭フィルタの第1の例]
第1の活性炭フィルタは、2つの例を含む。まず、第1の例について説明する。第1の活性炭フィルタの第1の例では、使用時において、吸着部がカソードとなるように、吸着部と電極との間に7V以下の直流電圧が印加される。電圧は、2.5V以下であってもよく、0.5V〜2Vの範囲(たとえば1.2V〜2Vの範囲)にあってもよい。この明細書において、「使用時」とは、処理される水が活性炭フィルタを流れているときを意味する。第1の活性炭フィルタの第1の例において、処理される水が活性炭フィルタを流れていないときも直流電圧が印加されていてもよい。すなわち、第1の活性炭フィルタでは、直流電圧が常時印加されていてもよい。
活性炭の能力を高い状態で維持するには、印加電圧を0.5V以上(たとえば1.2V以上)とすることが好ましい。過電圧、水による電圧降下、および活性炭の抵抗などがない場合、約1.2Vの電圧印加で水が電気分解される。しかし、過電圧等を考慮すると、印加電圧が2.5V以下であれば水の電気分解による電力の消費はあまりない。そのため、電力消費を小さくするには、印加電圧を2.5V以下(たとえば2V以下)とすることが好ましい。ただし、印加電圧を大きくしても、吸着部側(カソード側)での水の電気分解による電力消費が増えるだけで、大きな問題とはならないため、印加電圧を大きくすることも可能である。
軟水の水道水のように電気伝導度が低い水(たとえば電気伝導度が250μS/cm以下の水)を処理する場合や、吸着部と電極との間の距離が比較的大きい場合(たとえば3mm〜30mmの範囲にある場合)には、電圧降下が大きくなる。電圧降下が大きい場合や、活性炭の能力を短時間で再生させる場合には、印加電圧を高くすることが好ましく、10V以下の範囲(たとえば1V〜7Vの範囲や1.2V〜6Vの範囲)で印加電圧を高くしてもよい。
印加される電圧が2V以下(たとえば1.2V〜2Vの範囲)の場合には水の電気分解がほとんど生じないため、電圧を常時印加しても電力はほとんど消費されない。なお、処理される水が流れているときのみオンになるようなスイッチを設けて、処理される水が流れているときのみ電圧が印加されるようにしてもよい。たとえば、水の流れによって機械的にオンになるスイッチを設けてもよい。
一例の活性炭フィルタでは、吸着部よりも下流側に電極が配置される。この活性炭フィルタを水が流れているときに電極がアノードとなるように電圧を印加する場合について考える。塩素イオンを含む水が流れているときに電圧の印加によって電極の電位が次亜塩素酸の発生電位に到達した場合には、次亜塩素酸が発生する。しかし、印加電圧が2V以下の場合、電極の電位が酸素発生電位よりもプラス側に大きくシフトすることはないため、次亜塩素酸が発生することが抑制される。
別の観点では、この明細書は、活性炭を含む吸着部と、吸着部と短絡していない電極とを含む活性炭フィルタの第1の使用方法を開示する。第1の使用方法では、活性炭フィルタの使用時において、吸着部がカソードとなるように(電極がアノードとなるように)、吸着部と電極との間に直流電圧(第1の活性炭フィルタの第1の例で例示した電圧であり、たとえば2.5V以下の直流電圧)が印加される。
[第1の活性炭フィルタの第2の例]
第1の活性炭フィルタの第2の例では、断続的に、吸着部がカソードとなるように吸着部と電極との間に直流電圧が印加される。第2の例の活性炭フィルタは、直流電圧の印加をオン/オフするためのスイッチを含んでもよい。電圧は、活性炭の能力が低下したときに印加されてもよい。あるいは、活性炭の能力が低下したかどうかに関わらず、電圧は、定期的に、または不定期に印加されてもよい。たとえば、定期的に、または不定期に、利用者がスイッチをオンにすることによって電圧が印加されてもよい。また、タイマーを用いて、定期的にスイッチをオンすることによって電圧が印加されてもよい。また、電源を太陽電池とし、太陽電池に光が照射されたときに太陽電池によって発生した電圧が印加されるようにしてもよい。電池(一次電池、二次電池、太陽電池など)を電源として用いる場合、直列接続される電池の数および種類を選択し、さらに必要に応じて電気抵抗を用いることによって、所定の電圧を印加することができる。
電圧が印加される際には、活性炭フィルタ内を水が流れていてもよいし流れていなくてもよいが、水が流れていることが好ましい。
電圧は、活性炭の能力の低下が予想される時期に印加されてもよい。また、活性炭の能力が低下したかどうかを判別し、活性炭の能力が低下したときに電圧を印加してもよい。
第2の例で印加される電圧に特に限定はなく、第1の例で例示した電圧を印加してもよい。ただし、印加電圧が小さいと、吸着部の活性炭の電位をマイナス側に移動させるのに時間がかかる。また、吸着部の活性炭の電位が水素発生電位に到達するまでは、吸着部の活性炭における水の電気分解は抑制される。そのため、第2の例では、比較的高い電圧を印加することが好ましい。たとえば、第2の例における印加電圧は1.2V以上であってもよく、3〜50Vの範囲(たとえば4〜20Vの範囲)にあってもよい。なお、上述したように、吸着部の活性炭の表面での水の電気分解が生じても、吸着部側での水の電気分解による電力消費が増えるだけで、大きな問題とはならない。
第2の例において電圧を印加する時間に特に限定はない。吸着部の活性炭の電位をある程度マイナス側に移動させることができると考えられる時間だけ、電圧印加を行ってもよい。電圧印加の時間は、印加電圧を大きくすることによって短縮することが可能である。電圧印加時間は、2分〜300分の範囲(たとえば5分〜100分の範囲)にあってもよい。
別の観点では、この明細書は、活性炭を含む吸着部と、吸着部と短絡していない電極とを含む活性炭フィルタの第2の使用方法を開示する。第2の使用方法では、断続的に、吸着部がカソードとなるように(電極がアノードとなるように)、吸着部と電極との間に直流電圧(第1の活性炭フィルタの第2の例で印加される電圧)が印加される。
[第2の活性炭フィルタ]
第2の活性炭フィルタは、活性炭を含む吸着部と、水素を可逆的に吸蔵する金属(水素を吸蔵・放出する金属)を含む水素吸蔵部とを含む。吸着部(吸着部の活性炭)と水素吸蔵部とは電気的に接続されており、両者の間を電気が流れるようになっている。典型的には、吸着部(吸着部の活性炭)と水素吸蔵部とは短絡されている。
吸着部には、第1の活性炭フィルタで説明した吸着部を用いることができる。水素吸蔵部は、水素吸蔵合金およびパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。水素吸蔵合金およびパラジウムはいずれも、水素を可逆的に吸蔵する。水素吸蔵合金に特に限定はなく、ニッケル−水素二次電池に用いられている水素吸蔵合金を用いてもよいし、パラジウム合金を用いてもよい。
なお、第2の活性炭フィルタは、複数の吸着部と複数の水素吸蔵部とを備えてもよい。別の観点では、第2の活性炭フィルタは、吸着部と水素吸蔵部とのペアを複数備えてもよい。
本発明で用いられる活性炭フィルタの具体例について、図面を参照しながら以下に説明する。なお、以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
[活性炭フィルタの具体例1]
活性炭フィルタの具体例1では、第1の活性炭フィルタの第1の例について一例を説明する。具体例1の活性炭フィルタ200の断面図を図6に示す。活性炭フィルタ200は、容器211、吸着部212、2つのセパレータ213、および2つの電極214を含む。スイッチ216がオンのときには、吸着部212と電極214との間に直流電源215によって直流電圧が印加される。なお、電圧を常時印加する場合や電源として太陽電池を用いる場合には、スイッチ216を省略することが可能である。
容器211は、処理される水が流入する流入口211aと、処理された水が流出する流出口211bとを備える。吸着部212は活性炭を含む。セパレータ213は絶縁性の樹脂からなる。セパレータ213は、水を通過させる形状(メッシュ状、織布、不織布など)を有する。セパレータ213は、吸着部212と電極214との間に配置され、それらの短絡を防止する。電極214は、白金コートされたチタンワイヤによって形成されたメッシュ状の電極である。
活性炭フィルタ200の使用時において、吸着部212がカソードとなるように、吸着部212と電極214との間に2.5V以下の直流電圧が印加される。活性炭の電位について、図7に模式的に示す。図7において、電位ECは、活性炭に電荷が蓄積されていないときの活性炭の電位である。電位EHは、水素イオンが還元され始める電位であり、電位EHよりもマイナス側の電位では水素イオンが還元されて水素分子が生成する。電位EOXは、酸素が還元分解され始める電位であり、電位EOXよりもマイナス側では酸素が還元分解される。電位EJは、遊離塩素が還元分解され始める電位であり、電位EJよりもマイナス側では遊離塩素が還元分解される。
吸着部212の電位が電位EJよりもマイナス側に存在する場合、吸着部212と接触した遊離塩素は還元分解される。また、吸着部212の電位が電位EOXよりもマイナス側に存在する場合、吸着部212と接触した溶存酸素は還元分解される。なお、電位EJは電位EOXよりもプラス側に存在するため、吸着部212の電位が電位EOXよりもマイナス側に存在する場合、吸着部212と接触した遊離塩素も還元分解される。
従来、活性炭フィルタでは、物理吸着によって物質を吸着する機能が注目されてきた。しかし、図7に示されるように、所定の電位にある活性炭は、遊離塩素や溶存酸素を電気的に還元分解する機能を有する。現在のところ明確ではないが、活性炭フィルタによる遊離塩素濃度の減少には、活性炭の還元機能が関与していると考えられる。たとえば、溶存酸素濃度を増加させた水道水(塩素イオンを含む)を、活性炭を含む活性炭電極と接触するように循環させると、活性炭電極の電位が上がり、且つ、水道水がアルカリ性となる。このことから、活性炭の表面において次の反応が起こっていると考えられる。なお、以下の式において、「C」は活性炭を表す。
C(表面電荷:n個の負電荷)/n(吸着Na+)−2e-→C(表面電荷:(n−2)個の負電荷)/(n−2)(吸着Na+)+2Na+
1/2O2+2e-+H2O→2OH-
活性炭表面の負電荷が溶存酸素の還元分解に利用されてナトリウムイオンが放出されると、その放出された分だけ、活性炭表面の負電荷が減る。溶存酸素が還元分解されることによって、水酸化物イオンが生成する。そのため、水道水はアルカリ性となると考えられる。また、遊離塩素も同様に、活性炭から電子を受け取って次の反応のように還元分解されると考えられる。
ClO-+2e-+H2O→Cl-+2OH-
本願発明者らは、従来注目されていなかった活性炭の還元機能に注目した。本願発明で用いられる活性炭フィルタの原理について、以下に説明する。まず、吸着部212の活性炭の電位をコントロールしない従来の活性炭フィルタについて説明する。吸着部212の活性炭の電位は、イオンを吸着していない初期の段階で図7の電位ECの位置にある。しかし、活性炭フィルタを使用すると、吸着部212の表面で、遊離塩素の還元分解や溶存酸素の還元分解が生じる。それらの還元分解のために、吸着部212の活性炭から電子が提供される。その結果、活性炭には正電荷が蓄積され、活性炭の電位はプラス側(図7の右側)に移動する。活性炭の電位がプラス側に移動すると、活性炭の電位と電位EOXとの差、および、活性炭の電位と電位EJとの差が小さくなる。それらの電位差が小さくなると、遊離塩素および溶存酸素の還元分解反応が生じにくくなる。これが、遊離塩素濃度および溶存酸素濃度を低減する活性炭の能力が使用によって低下する現象であると考えられる。従来は、活性炭の物理吸着に注目されてきた。そのため、活性炭を再生する従来の方法では、吸着された物質を加熱によって活性炭から脱離させている。しかし、遊離塩素濃度および溶存酸素濃度を低減する活性炭の能力は、活性炭の電位をコントロールすることによって維持することが可能である。
使用による活性炭の能力(遊離塩素および溶存酸素などを還元分解する能力)の低下を防止するために、第1の活性炭フィルタでは、使用時において、吸着部212がカソードとなるように電圧を印加する。これによって、活性炭の電位がマイナス側にシフトし、遊離塩素濃度および溶存酸素濃度を低減する活性炭の能力が復活する。ただし、吸着部212の電位が電位EHよりもマイナス側になると水素ガスの発生に電力が消費されてしまうため、吸着部212の電位は、電位EHよりもプラス側にあることが好ましい。好ましい一例では、吸着部212の電位は、電位EHよりもプラス側で且つ電位EHの近傍にある。以上の点を考慮して、第1の活性炭フィルタでは、上述した電圧が印加される。印加電圧を2.5V以下とすることによって、水の電気分解による電力の消費を抑制でき、電力の消費を極めて小さくすることができる。
遊離塩素濃度および溶存酸素濃度を効率よく低減するためには、吸着部12の電位は、電位EOXよりもマイナス側にあることが求められ、電位EHと電位ECとの間にあることが好ましい。水素過電圧を考慮しない場合、標準水素電極基準で電位EHは約−0.4Vである。一方、水素過電圧を考慮した場合、水素ガスが実質的に発生する電位EHは−0.6Vよりも低い。水素過電圧を考慮すると、活性炭の電位が約−0.8V程度でも水素ガスが多量に発生することはない。また、表面電荷が存在しない状態の活性炭の電位ECは約0.4Vであり、電位EOXは約0.8Vである。そのため、第1の活性炭フィルタでは、使用時における吸着部12の電位が、標準水素電極基準で、−0.8V以上0.8V以下であってもよく、上述した「吸着部の活性炭の電位の例示(1)」で示した電位にあってもよい。
[活性炭フィルタの具体例2]
活性炭フィルタの具体例2では、第1の活性炭フィルタの第2の例の一例について説明する。具体例2の活性炭フィルタの構成は、図6に示した活性炭フィルタ200と実質的に同じであるため、重複する説明を省略する。ただし、具体例2では、電圧の印加方法が異なる。
具体例2の活性炭フィルタでも、具体例1と同様に、吸着部212がカソードとなるように吸着部212と電極214との間に直流電圧を印加する。ただし、具体例2の活性炭フィルタでは、断続的に電圧を印加することによって吸着部212の活性炭を再生させる。印加電圧に特に限定はなく、上述した電圧を印加すればよい。
上述したように、活性炭フィルタを使用して活性炭の表面で遊離塩素や溶存酸素の還元分解が生じると、活性炭の電位がプラス側に移動し、その結果、遊離塩素や溶存酸素の還元分解が生じにくくなる。具体例2の活性炭フィルタでは、断続的に、吸着部212がカソードとなるように電圧を印加することによって、吸着部212の電位をマイナス側に移動させる。これによって、低下した活性炭の能力(遊離塩素および溶存酸素などを還元分解する能力)が復活する。そのため、具体例2の活性炭フィルタは、活性炭を交換することなく長期の使用が可能である。なお、第2の活性炭フィルタでは、電圧印加後の吸着部212の電位が、標準水素電極基準で、上述した「吸着部の活性炭の電位の例示(1)」で示した電位にあってもよい。
具体例2の活性炭フィルタでは、定期的に電圧を印加してもよいし、不定期に電圧を印加してもよい。たとえば、活性炭の能力が低下したときに電圧を印加して活性炭を再生しもよい。活性炭の能力が低下したかどうかを判断するために、吸着部の活性炭の電位の変化を測定するための参照用の活性炭電極を用いてもよい。参照用の活性炭電極は、活性炭フィルタよりも上流側に、オープン状態(フローティングの状態)で配置される。参照用の活性炭電極と吸着部の活性炭との電位差が最大となるのは、参照用の活性炭電極の活性炭の表面に正電荷が充分に蓄積されて当該活性炭の電位が電位EOXに到達し、吸着部の活性炭の電位が電圧印加によって電位EHに到達したときである。そのときの電位差は約1.4V以上である。参照用の活性炭電極の電位は、水の通過に伴って電位EOX近傍の電位となる。吸着部の活性炭の電位も、使用によってプラス側に移動する。吸着部の活性炭の電位と参照用の活性炭電極の電位(電位EOX近傍)との電位差が小さくなったときには、吸着部の活性炭の電位が電位EOXに近づいたと判断して電圧印加(再生処理)を行うことができる。たとえば、両者の電位差が、0.2V〜0.4Vの範囲にある所定の電位差に到達したときに、電圧を印加してもよい。
また、参照用の活性炭電極の電位と吸着部の電位との電位差に基づいて、電圧印加を停止してもよい。たとえば、その電位差が0.6V以上になったときに、活性炭の能力が再生されたとみなして電圧印加を停止してもよい。電圧印加前の電位差が0.4Vであり電圧印加によって電位差が0.6Vになった場合、活性炭の電位は電圧印加前よりも0.2Vだけマイナス側に移動したことになる。その結果、遊離塩素や溶存酸素が活性炭によって還元分解されやすくなる。
[活性炭フィルタの具体例3]
活性炭フィルタの具体例3では、第2の活性炭フィルタの一例について説明する。具体例3の活性炭フィルタ200aの断面図を図8に示す。活性炭フィルタ200aは、容器211、2つの吸着部212、および2つの水素吸蔵部231を含む。活性炭フィルタ200aは、複数の吸着部212および複数の水素吸蔵部231を備える活性炭フィルタの一例である。吸着部212の活性炭と水素吸蔵部231とは接触している。換言すれば、吸着部212の活性炭と水素吸蔵部231とは短絡されている。容器211および吸着部212については、具体例1で説明したものと同様である。水素吸蔵部231は、水素吸蔵合金またはパラジウムを含む。一例の水素吸蔵部231は、表面がパラジウムでコーティングされたメッシュ状のステンレスである。
活性炭フィルタ200aの動作について以下に説明する。活性炭フィルタ200aを流れる水が溶存水素を含む場合、溶存水素が水素吸蔵部231に吸蔵される。水素吸蔵部231がフローティングの状態にある場合であって且つ溶存水素の吸蔵・放出が平衡状態にある場合、水素吸蔵部231の電位は−0.6V程度である。水素吸蔵部231と吸着部212とは短絡されているため、吸着部212の電位は、水素吸蔵部231の電位に影響される。溶存水素を含む水が活性炭フィルタ200aを流れることによって溶存水素が水素吸蔵部231に吸蔵され、その結果、吸着部212の活性炭の電位がマイナス側に移動する。そのため、溶存水素を含む水が活性炭フィルタ200aを流れる限り、吸着部212の活性炭の能力(遊離塩素および溶存酸素などを還元分解する能力)は維持される。すなわち、具体例3の活性炭フィルタ200aによれば、活性炭を交換することなく、長期間にわたって所定の物質の濃度を低減することが可能である。
具体例3の活性炭フィルタは、電源が不要であるという利点を有する。具体例3の活性炭フィルタは、溶存水素濃度が高い水(「水素水」と呼ばれることがある)の溶存酸素濃度や遊離塩素濃度を低減するフィルタとして好ましく使用できる。
本発明について実施例によってさらに詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1では、図3に示した装置100と同様の構成を有する装置を用いて、工程(a)を実施した。貯水槽には、温度を約37℃にした10Lの水道水を配置した。第1および第2の電極には、白金でコートされたチタン電極を用いた。流路を流れる水の流量は、1.0L/分とした。水が循環している状態で、第1の電極がアノードとなるように、第1の電極と第2の電極との間に24Vの直流電圧を印加した。そして、電圧印加による水の物性の変化を測定した。なお、水の物性は、流路24の出口の水を採取して測定した。測定結果を表1に示す。
なお、表1の溶存水素濃度は、酸化還元試薬(メチレンブルー)を用いた滴定によって算出した。表1に示すように、電圧印加によって、溶存水素濃度が上昇し、ORPが低下した。pHはほとんど変化がなかったが、わずかに上昇する傾向が見られた。
(実施例2)
実施例2では、図3に示した装置100と同様の構成を有する装置を用いて、工程(b)を実施した。貯水槽には10Lの水道水(温度:約29℃)を配置した。第1の電極(カソード)にはニッケル電極を用いた。第2の電極(アノード)には、白金でコートされたチタン電極を用いた。流路を流れる水の流量は、1.5L/分とした。水が循環している状態で、第1の電極がカソードとなるように、第1の電極と第2の電極との間に36Vの直流電圧を印加した。そして、電圧印加による水の物性の変化を測定した。なお、水の物性は、貯水槽内の水を採取して測定した。測定結果を表2に示す。
表2に示すように、電圧印加によって、循環路に存在する水のORPが上昇し、遊離塩素濃度が上昇した。また、pHが少し低下した。ORPの上昇は、水中の遊離塩素濃度および溶存酸素濃度が上昇したことによるものであると考えられる。