次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る成形最適化方法を実施できる射出成形機M(実験機)及びデータ処理部Eの構成について、図3〜図5を参照して説明する。
図3中、Mは一部を仮想線で描いた射出成形機であり、機台Mbと、この機台Mbの上に搭載された射出装置Mi及び型締装置Mcを備える。射出装置Miは、加熱筒31を備え、この加熱筒31の内部には回転動作及び進退動作するスクリュを収容するとともに、加熱筒31の前端には図に現れない射出ノズルを備える。一方、加熱筒31の後部には、通常、成形材料(樹脂ペレット)を供給するホッパーを備えるが、実験機として用いる際は、このホッパーの代わりに、供給量を制御できる材料供給機32を取付けて使用した。材料供給機32は、成形材料を収容する材料収容部32dと、この材料収容部32dに収容された成形材料を加熱筒31の内部に供給する回転供給部32mを備える。この回転供給部32mは、回転数を可変制御することにより、加熱筒31に供給する成形材料の供給量を増減することができる。また、型締装置Mcには可動型と固定型の組合わせからなる金型33を備えるとともに、機台Mb上には側面パネル34を起設し、この側面パネル34に液晶ディスプレイ等を用いたタッチパネル付のディスプレイ35を配設する。
一方、射出成形機Mには、各種の制御処理及び演算処理を行うとともに、外部との通信処理を行うコンピュータ機能を有する成形機コントローラ41を内蔵し、この成形機コントローラ41に上述した回転供給部32m及びディスプレイ35を接続する。さらに、射出成形機Mの稼働時における温度,回転数,電力,圧力,速度,位置,時間等の各種物理量を検出(計測)する各種センサを含むセンサ群42を備え、このセンサ群42(各種センサ)は、成形機コントローラ41のアナログ入力ポート(又はデジタル入力ポート)に接続する。したがって、成形機コントローラ41は、本実施形態に係る成形最適化方法の実施に用いる機能部として、少なくとも、センサ群42の一部又は全部の計測結果を取り込む計測結果取込処理機能部Uiを備えるとともに、計測結果に対して一定の周期でサンプリングして検出値(成形データ)を得るサンプリング処理機能部Usを備える。
他方、Eoは一部を仮想線で描いた一般的なコンピュータシステムであり、Edはディスプレイ、Ekはキーボードを示す。また、ディスプレイEdには、コンピュータ本体部Emを内蔵し、このコンピュータ本体部Emは、各種の制御処理及び演算処理を行うとともに、外部との通信処理を行う汎用的なコンピュータ機能を備えており、本実施形態に係る成形最適化方法で用いるデータ処理部Eを構成する。
したがって、コンピュータ本体部Emは、CPU及び内部メモリ等のハードウェアを内蔵するとともに、この内部メモリには、本実施形態に係る成形最適化方法の実施に用いる処理プログラム、即ち、数理計画法による最適化に用いるための最適化処理プログラムPsを格納するとともに、ニューラルネットワークNの学習に基づく予測関数F…を作成するための予測関数作成処理プログラムPnを格納する。なお、コンピュータ本体部Emと成形機コントローラ41は、LANシステム等により接続することにより相互通信を行うことができる。
このコンピュータ本体部Emには、最適化処理プログラムPsに関連して、数理計画法に基づく制約条件Xc…となる成形工程時の成形データ及び成形品質に係わる評価情報を設定するとともに、数理計画法による最適化に用いるための目的関数Xp…となる予測関数F…を設定する機能を有する。
本実施形態では、制約条件Xc…となる成形工程時の成形データとして、射出工程における成形データ、具体的には、射出速度,速度制御−圧力制御切換位置,保圧力を設定するとともに、計量工程における成形データとして計量状態を示す計量情報、具体的には、計量トルクを設定した。このように、制約条件Xc…となる成形工程時の成形データとして、計量工程及び/又は射出工程における成形データを選定するとともに、特に、射出工程における成形データに、射出速度,速度制御−圧力制御切換位置,保圧力の一又は二以上を選定すれば、計量工程が外乱により影響を受けるような場合であっても、射出工程における樹脂の挙動に関係する成形データの最適化が可能になり、金型の充填量に関係する成形不良(ショートショット不良及び/又はバリ不良等)を低減できる利点がある。
また、成形品質に係わる評価情報としては、成形品の成形不良に係る情報又は成形品の性能評価に係る情報を設定できるとともに、特に、成形品の成形不良には、ショートショット不良及び/又はバリ不良を含ませることができる。本実施形態では、評価情報として、複数の製品を同時に成形するいわゆる多数個取成形品に、ショート状態が発生した際におけるショートショット不良を有する製品数(製品不良数)を設定した。このように、成形品質に係わる評価情報として、成形品の成形不良に係る情報又は成形品の性能評価に係る情報を選定すれば、成形品質に大きく関連する成形不良或いは成形品性能に係わる効果的な改善を行うことができるため、成形品質を高める観点から最適な形態として実施できる利点がある。
さらに、目的関数Xp…として、予測関数F…を適用したため、試し成形により得られた所定数の検出データを学習し、パターン認識させることにより、ある物理現象を疑似的にモデル化することが可能となり、実際に射出成形機を運転させることなく、入力パラメーターDf…による成形条件から成形結果に対するシミュレーションを容易に行うことができる利点がある。
図4は、本実施形態に係る成形最適化方法の有効性を説明するための、当該成形最適化方法を適用しない場合のショート状態の多数個取成形品における製品不良数と供給機回転数の関連性を示す実験データである。通常、ホッパーには成形材料(樹脂ペレット)が収容され、成形工程中、ホッパー内の成形材料は、適宜、加熱筒31の内部に供給される。しかし、生産の時期や進行状況等により湿度や気温等の外部環境が変動した場合、これらの変動は、加熱筒31に供給される供給量に対して外乱として作用する。特に、成形材料の物性が影響を受けるなどにより、加熱筒31に対する供給量が減少した場合、この減少はショートの直接的な発生原因となる。
また、本実施形態における成形対象となる多数個取成形品の場合、多数存在する全ての製品キャビティに対して、樹脂を均等に充填することは、金型のゲートバランス等の関係から容易でなく、成形品の一部、即ち、多数個存在する製品キャビティの一部に充填不足が発生しやすい。しかし、充填不足となる製品キャビティを除く他の製品キャビティでは良品が得られる。このような多数個取成形品の場合、充填不足をゼロに近付ければ、他の製品キャビティではバリ不良が発生し易く、成形不良をゼロにすることは困難な場合が多い。なお、ショートショット不良は、一般に、金型キャビティ(製品キャビティ)に充填される樹脂量が不足している場合に生じる成形不良である。
そこで、実験機として構成した図3の射出成形機Mを使用し、図4に示すように、材料供給機32の回転数(供給機回転数)を50〔rpm〕から90〔rpm〕まで段階的に速くすることにより供給量を増加させ、このとき発生するショート状態の多数個取成形品における製品不良数を確認した。この結果、図4から明らかなように、供給機回転数が50〔rpm〕のときは、製品不良数が8〔個〕(16個取成形品のうち、良品が8個、ショートショット不良品が8個)であったが、供給機回転数を90〔rpm〕まで速めたときは、供給量が増加し、製品不良数が0〔個〕になった。この結果は、外部環境の変化により金型への樹脂の充填量が変化していることを示しており、外部環境の変化により、成形条件が一定であっても、ショートショット不良とバリ不良の相反する不良が発生する可能性を示唆している。
即ち、外部環境が変動するなどの外乱が作用した場合、製品キャビティへの充填量の変動により製品不良数が変動することを確認できるとともに、成形材料の供給量に関係する成形条件を最適化すれば、製品キャビティへの充填量をコントロールすることにより製品不良数を抑制できることを示している。本実施形態は、加熱筒31に供給される成形材料の供給量が外乱により変動した場合であっても、本実施形態に係る成形最適化方法に用いる予測関数作成処理プログラムPnと最適化処理プログラムPsにより成形条件を最適化し、ショット単位での製品不良数を常にほぼ一定個数となるようにした。
以下、予測関数作成処理プログラムPnと最適化処理プログラムPsの基本的な処理機能について、図5〜図9を参照して説明する。
まず、予測関数作成処理プログラムPnは、基本的な処理機能として、射出成形機Mの成形条件を含む入力パラメーターDf…に係わる成形データとこの入力パラメーターDf…に基づく試し成形により得る出力パラメーターDs…に係わる成形データによりニューラルネットワークNの学習に基づく予測関数F…を求め、この予測関数F…により所定の成形条件を予測する処理機能を備えている。
図5は、ニューラルネットワークNの多層構造モデルを示している。入力層Niには処理対象となるパターンが入力され、その入力は中間層Nmで重みを付けられ、出力層Moに伝達される。その伝達総量oiは、[数1]で表される。[数1]において、xiは中間層Nmからの入力信号、即ち、中間層Nmから出力層Noへの出力信号を示すとともに、wijは重みを示す。
この場合、中間層Nmは、入力層Niからの信号入力を受け、出力層Noへ信号を出力する。また、複数の中間層Nmから信号を受けた出力層Noは、各信号に反応して最終的な出力を行う。この際の出力関数には、[数2]に示すシグモイド関数を使用する。なお、出力関数には、例示のシグモイド関数の他、ガウス関数や三角関数なども使用できる。
図6は、ニューラルネットワークNにより、計量工程及び射出工程に係わる成形データにより予測関数F…を求める疑似的な予測モデルを示している。即ち、試し成形51により検出データ52が得られる。この検出データ52には、射出成形機Mの成形条件を含む入力パラメーターDf…(入力層Ni)に係わる成形データ、具体的には、スクリュの射出速度に係わる成形データ53,V−P切換位置(速度制御−圧力制御切換位置)に係わる成形データ54,保圧期間に金型33内の樹脂に対して付与する保圧力に係わる成形データ55等が含まれるとともに、この入力パラメーターDf…に基づく試し成形51により得る出力パラメーターDs…(出力層No)に係わる成形データ、具体的には、成形品の重量に係わる成形データ56,成形品の不良数(実施形態は製品不良数)に係わる成形データ57等が含まれる。そして、これらの各成形データに基づき、ニューラルネットワークNの学習により目的とする予測関数F…が求められる。また、本実施形態における入力パラメーターDf…には、計量情報58、具体的には、計量工程におけるスクリュの計量回転に伴う負荷を表す計量トルクが含まれている。
なお、本実施形態の対象とする射出工程には、金型33のキャビティ内に溶融樹脂が射出充填される射出充填期間と、この射出充填期間の終了後、金型33内の樹脂に対して所定の保圧力が付与される保圧期間が含まれる。射出工程では、スクリュが所定の射出速度で前進し、加熱筒31(射出ノズル)から金型33内に樹脂が射出充填されるとともに、速度制御−圧力制御(V−P制御)切換位置が設定されるため、このV−P制御切換位置において射出速度が制御される射出充填期間から保圧力が制御される保圧期間に切換えられる。
図7及び図8は、ニューラルネットワークNにより予測関数F…を求める一例を示している。図7は、供給機回転数を60〔rpm〕に固定したときの制約条件Xc…となる射出工程時の成形データ、即ち、V−P制御切換位置〔mm〕,保圧力〔MPa〕,射出速度〔mm/s〕の成形データ(検出データ)を示すとともに、これより得られる目的関数Xp…となる製品不良数と成形品の重量〔kg〕を示している。具体的には、「成形No.1」の場合、V−P制御切換位置を「7.4〔mm〕」、保圧力を「28〔MPa〕」、射出速度を「195〔mm/s〕」に設定し、これらの成形条件の下で複数回のショットを行った結果、製品不良数の平均個数が「3.9〔個〕」、平均重量が「0.633〔kg〕」になったことを示している。
したがって、射出速度,V−P制御切換位置,保圧力は、入力パラメーターDf…になるとともに、製品不良数,成形品の重量は、出力パラメーターDs…となる。そして、これらのデータは所定の成形データ(検出データ52)として成形機コントローラ41に取り込まれるとともに、データ処理部Eを構成するコンピュータ本体部Emに送られる。なお、本実施形態では、前述した計量情報(計量トルク)も入力パラメーターDf…に含まれる。
また、ニューラルネットワークNを用いる予測関数作成処理プログラムPnは、試し成形により得られた所定数の検出データ52を学習し、パターン認識させることにより、ある物理現象を疑似的にモデル化する。これにより、実際に射出成形機Mを運転させなくても、入力パラメーターDf…による成形条件により、成形結果をシミュレーションすることができる。
図8(a),(b)は、ニューラルネットワークNに学習させた結果を示しており、検出データ52がプロット(プロットの図示は省略)されることにより、疑似的な相関曲線La,Lbが得られる。この相関曲線La,Lbは、各入力パラメーターDf…(射出速度,V−P制御切換位置)により出力パラメーターDs…を予測する予測関数となる。図8(a)は、射出速度を変化させた際における製品不良数の変化を示す相関曲線La、図8(b)は、V−P制御切換位置を変化させた際における製品不良数の変化を示す相関曲線Lbである。また、図8(c)は、入力パラメーターDf…に含めた計量トルク〔N・m〕が変化した際における製品不良数の変化を示す相関曲線Kである。
他方、図7及び図8における検出データを入力層Ni(入力パラメーターDf…)とし、製品不良数及び重量を出力層(出力パラメーターDs…)とする予測関数F…(予測モデル)を作成することができる。そして、予測関数作成処理プログラムPn(ニューラルネットワークN)により学習処理させれば、図8と同様の相関曲線を得ることができる。具体的には、学習された成形データがプロットされた疑似的な相関曲線が得られ、この相関曲線が目的の予測関数F…(予測モデル)となり、製品不良数(出力パラメーターDs)を目的の個数にするための成形条件(入力パラメーターDf…)を予測可能となる。この予測モデルを以下に示す最適化処理プログラムPsの目的関数Xpとして利用する。
最適化処理プログラムPsは、基本的な処理機能として、数理計画法により制約条件Xc…及び目的関数Xpを満たす入力パラメーターDf…に係わる最適化した成形条件を求める処理機能を備えており、この処理には、入力パラメーターDf…及び出力パラメーターDs…に係わる成形データに対して、数理計画法に基づいて設定する制約条件Xc…と目的関数Xpが用いられる。
最適化処理プログラムPsの処理機能の理解を容易にするため、数理計画法に基づき成形条件を最適化するためのアルゴリズムについて説明する。なお、数理計画法に基づいて設定する制約条件Xc…と目的関数Xpを用いて最適化するアルゴリズムとしては様々なアルゴリズムが考えられるが、本実施形態に好適な一例として、内点法の一つである信頼領域法を用いたアルゴリズムについて説明する。
今、[数3]に示す非線形関数の最適化問題を考える。なお、目的関数Xpに非線形関数を適用すれば、任意の非線形関数として表現される様々な課題に対処できるため、射出成形機Mの成形条件を最適化する上では最も望ましい態様として利用できる利点がある。[数3]におけるf(x)は、ニューラルネットワークNにおける一つの出力層Noを示す。
信頼領域法では、目的関数Xpの二次近似モデルを最小化又は最大化することにより最適化を行うことができる。
最初に、二次近似モデルが妥当であると思われる領域(信頼領域)の大きさ(信頼半径)を暫定的に与えることにより探索方向を決定する。k回目の反復計算における信頼半径をΔkとしたとき、f(x)の二次近似モデルを考えれば、探索方向は[数4]の部分問題の解として得られる。
次に、初期点x0,初期信頼半径Δ0を与える。パラメーター0<η1≦η2<1,0<γ1<1<γ2を決め、k=0とする。
これにより、もし、xkが局所的最適解の近似になっていると判断できたならば終了する。
一方、部分問題[数4]を解いてpkを求める。これにより、[数5]が成立すれば、xk+1=xk+pkとする。
この際、もし、[数6]が成立すれば、Δk+1∈[Δk,γ2Δk]として、信頼領域を拡大するとともに、そうでなければ、Δk+1=Δkとして現状を維持する。
もし、[数5]が成立しなければ、Δk+1∈[γ1Δk,Δk]として、信頼領域を減少する。
そして、k=k+1とし、終了条件を調べる。
以上が数理計画法における内点法の一つである信頼領域法を用いたアルゴリズムとなり、データ処理部Eでは、取得した出力パラメーターDs…に係わる成形データから、前述した予測関数F…(予測関数作成処理プログラムPn)及び最適化処理プログラムPsにより最適化した成形条件を求めることが可能となる。
次に、本実施形態に係る成形最適化方法の具体的な処理手順について、図3〜図14を参照しつつ図1及び図2に示すフローチャートに従って説明する。
まず、本実施形態に係る成形最適化方法を実施する際における生産稼働前の処理手順について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
生産稼働前の処理は、基本的に、試し成形を行い、前述した入力パラメーターDf…に係わる成形データ及び出力パラメーターDs…に係わる成形データを採取し、ニューラルネットワークNの学習により予測関数F…を作成するとともに、数理計画法による最適化に用いるための制約条件Xc…及び目的関数Xp…を設定する処理となる。
本実施形態に係る成形最適化は、成形品の歩留まりを高めたり最適な性能を確保するなど、成形品質をより高めるべく成形条件の最適化を図るものである。このため、最初に、対象となる射出成形機Mの現状を把握する(ステップS31)。即ち、成形条件の最適化に関係する制御因子となる入力パラメーターDf…及び出力パラメーターDs…を設定する。具体的には、前述したように、「加熱筒31に供給される成形材料の供給量と製品不良数は関係がある」などの現状を把握し、入力パラメーターDf…に関連する制御因子となる、射出速度,V−P制御切換位置,保圧力,を成形条件として設定するとともに、加熱筒31に供給される成形材料の供給量に関連する計量情報となる計量トルクを設定する(ステップS32)。この場合、前述した計量トルクを成形条件として設定することにより、より的確な処理を行うことができる。また、出力パラメーターDs…に関連する制御因子となる、成形不良種別を設定する(ステップS33)。例示の場合、種別としてショートショット不良(製品不良数)を選定した。ショートショット不良を制御因子として選定することにより、金型33のキャビティ内への充填量の変動をコントロールすることができる。
制御因子の設定が終了したなら入力パラメーターDf…を用いて試し成形を行う(ステップS34,S35)。そして、試し成形時には、設定した制御因子、即ち、入力パラメーターDf…に係わる成形データと出力パラメーターDs…に係わる成形データを収集する(ステップS36)。具体的には、センサ群42により計測された計測結果に対して一定の周期でサンプリングして検出データ(成形データ)を得る。
所定回数の試し成形を行い、成形データの収集が終了したなら、予測関数作成処理プログラムPnを実行し、収集した成形データによりニューラルネットワークNの学習に基づく予測関数F…を求める(ステップS37,S38)。予測関数F…を求めたなら、最適化モデルとして最適化処理プログラムPsに組み込む(ステップS39,S40)。
一方、最適化処理プログラムPsを機能させる際に必要となる数理計画法による最適化に用いるための制約条件Xc…と目的関数Xp…を設定する。即ち、制約条件Xc…として、成形工程時の成形データとなる、射出速度,V−P制御切換位置,保圧力、更には成形品質に係わる製品重量に対する範囲や制限値等を設定する(ステップS41)。また、一ショット当たりの成形不良、即ち、多数個取成形品における許容される製品不良数(平均)、例えば、「2個」以上を設定する(ステップS42)。さらに、目的関数Xpとして、製品不良数を予測する予測関数F…をその最小化を目的として設定する。即ち、金型33のキャビティ内への、バリが発生しない充填量の上限を設定し、この範囲で充填量を最大化することができる。
図9は、制約条件Xc…として、一ショット当たりの製品不良数の許容される個数をN個に設定した場合における本実施形態に係る成形最適化方法の処理原理を示している。図9(a)は、本実施形態に係る成形最適化方法を適用しない場合であり、成形条件として、射出速度が200〔mm/s〕、V−P制御切換位置が7.5〔mm〕、保圧力が30〔MPa〕に設定されている。この場合、Bt点は、計量トルクが16.0〔N・m〕の場合、製品不良数は約5.6個発生することを予測している。図9(a)は、図8(c)と同じである。
これに対して、本実施形態に係る成形最適化方法を適用した場合、図9(b)に示すように、計量トルクが16.0〔N・m〕であっても、射出速度を変化させることにより、Bv点における、製品不良数を2.4個に減少させることができる。図9(b)は、図8(a)と同じである。即ち、入力パラメーターDf…である射出速度,V−P制御切換位置,保圧力,計量トルク等の成形条件の最適値を探索することにより、製品不良数をN個にできることを示している。
次に、本実施形態に係る成形最適化方法を実施する際における実際の生産稼働時の処理手順について、図1に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、射出成形機Mの運転(稼働)を開始する(ステップS1)。この場合、射出成形機Mは、前述した実験機から材料供給機32を取り外すとともに、この材料供給機32の代わりにホッパーを取り付け、通常の射出成形機Mとして使用する。また、射出成形機Mは自動運転モードとなり、型締装置Mcは型開状態にあるとともに、射出装置Miは計量終了状態にある。
一方、成形工程の開始により型締工程が行われる(ステップS2,S3)。型締工程では、型開状態にある可動型が固定型に対して前進移動し、設定された型締力により金型33の型締めが行われる。また、射出装置Miでは射出工程が行われる(ステップS4,S5)。射出工程では、加熱筒31内のスクリュが前進移動する。これにより、計量された溶融樹脂が射出ノズルから射出され、金型33のキャビティ内に充填される。射出工程では、スクリュの前進移動により、溶融樹脂が金型33のキャビティ内に射出充填される射出充填処理が行われるとともに、スクリュがV−P制御切換位置に達することにより、保圧処理が行われる。即ち、V−P制御切換位置では速度制御から圧力制御に切換わり、金型33内の樹脂に対して所定の保圧力が付与される。
射出工程の終了により計量工程が行われる(ステップS6,S7)。計量工程では、加熱筒31内のスクリュが設定された回転数で回転するとともに、ホッパー内の成形材料(樹脂ペレット)が加熱筒31に取り込まれる。これにより、成形材料は、加熱筒31の温度とスクリュの回転により可塑化溶融され、前方に移送されることにより加熱筒31の前部に計量蓄積される。
計量工程の終了により、型締装置Mcでは型開工程が行われる(ステップS8)。型開工程では、金型33の冷却が行われた後、型締状態にある可動型が固定型から型開位置まで後退移動し、金型33に対する型開きが行われる。型開工程の終了により成形品取出工程が行われる(ステップS9)。成形品取出工程では、金型33に付属するエジェクタ機構により固定型に付着した成形品の取り出しが行われる。
以上により、射出成形機Mの1ショット分の成形工程(成形サイクル)が完了する。この後、生産(生産計画)が終了するまで、同様の成形工程が繰り返される(ステップS10,S2…)。また、計画した生産が終了したなら射出成形機Mの運転(稼働)は停止する(ステップS10,S11)。
一方、各成形サイクルにおいては、本実施形態に係る成形最適化方法に従って成形最適化処理が行われる。
まず、計量工程が開始したなら、計量トルク等を含む計量情報を取得する(ステップS6,S12)。この計量情報は、計量された樹脂の状態から金型33のキャビティ内への充填量を予測することにより成形条件の変更が必要か否かの判定に使用する。即ち、取得した計量情報と試し成形から予測した予測モデルを使用し、次ショットにおける製品不良数を予測する(ステップS13)。予測結果と目標値(例示は、「2個」)を比較し、成形条件の要否を判定する(ステップS14)。この際、製品不良数が「2個」であれば、成形条件を変更せずに自動運転を継続する。これに対して、製品不良数が「2個」を越えている場合又は下回っている場合は、成形条件(入力パラメーターDf…)に対する最適化処理を実行する。
この場合、まず、予測した製品不良数に係るデータをデータ処理部E(コンピュータシステムEm)に送信する(ステップS15)。データ処理部Eでは、受信したデータを、最適化処理プログラムPsに格納されている最適化モデルに入力して最適化処理を行う。即ち、最初に、受信したデータから最適化モデル(予測関数F)により入力パラメーターDf…に係わる成形条件を求めるとともに、数理計画法による最適化に用いるための制約条件Xc…及び目的関数Xp…を満たす成形条件を導出する(ステップS16,S17)。この処理を対応する成形条件に対して繰り返し行うことにより、最適化した成形条件を求めることができる(ステップS18)。そして、この最適化された成形条件は、データ処理部Eから成形機コントローラ41に送信する(ステップS19)。これにより、成形機コントローラ41は、既設定の成形条件を、受信した成形条件により変更する処理を行う(ステップS20)。この場合、変更処理の実行タイミングは、次回のショットにおける型締工程を開始する前までに行う。
図11は、本実施形態に係る成形最適化方法の有効性(有為性)を確認するための実験データを示す。この実験は、図3に示した射出成形機(実験機)Mを用いて行ったものであり、製品不良数と材料供給機32の供給機回転数の関連性を示している。この場合、本実施形態に係る成形最適化方法を適用、即ち、図1及び図2に示した処理手順に従うとともに、材料供給機32を制御することにより、成形材料の供給量に対して、意図的に強調した外乱を作用させたものである。
図4に示した実験結果のように、本実施形態に係る成形最適化方法を適用しない場合、供給機回転数が比較的低速(50〔rpm〕)であれば、供給量が減少するため、製品不良数が「8個」になるとともに、供給機回転数が比較的高速(90〔rpm〕)であれば、供給量が増加し、製品不良数は「0個」となる。
これに対して、本実施形態に係る成形最適化方法を適用した場合、図11に示すように、前段及び後段共に、同成形最適化方法による成形条件の最適化が行われており、前段での製品不良数は、ほぼ「1個」前後に収まっているとともに、後段での製品不良数は、ほぼ「4個」前後に収まっていることを確認できる。即ち、外乱の発生に対し、金型33のキャビティ内への充填量をコントロールできていることを示している。なお、図11は、供給機回転数を、前段では、60→70→80〔rpm〕と段階的に速くし、Kc時点で、条件を変更するとともに、この後、後段では、(80)→70→60〔rpm〕と段階的に遅くした例を示したものであり、前段では、製品不良数を「1個」に設定し、後段では、製品不良数を「4個」に設定した。
一方、図12〜図14は、図11における最適化された成形条件の実際の変動状態を示したものであり、図12は、V−P切換位置を実測した変動特性、図13は、保圧力を実測した変動特性、図14は、射出速度を実測した変動特性をそれぞれ示している。図12〜図14から明らかなように、いずれの場合も外乱状態等に応じて、常に最適化処理が行われていることを確認できる。
よって、このような本実施形態に係る射出成形機の成形最適化方法によれば、基本的処理態様として、予め、データ処理部Eに、入力パラメーターDf…及び出力パラメーターDs…に係わる成形データに対して数理計画法による最適化に用いるための制約条件Xc…として成形工程時の成形データ及び成形品質に係わる評価情報を設定し、かつ数理計画法による最適化に用いるための目的関数Xp…として予測関数F…を設定するとともに、当該数理計画法により当該制約条件Xc…及び目的関数Xp…を満たす入力パラメーターDf…に係わる最適化した成形条件を求める最適化処理プログラムPsを設定し、生産稼働時に、データ処理部Eにより、一又は二以上のショット時における成形工程中の出力パラメーターDs…に係わる成形データを検出するとともに、当該出力パラメーターDs…に係わる成形データに基づいて、最適化処理プログラムPsにより最適化した成形条件を求め、求めた成形条件により既設の成形条件を変更する処理を行うようにしたため、制約条件Xc…として設定した成形工程時の成形データ及び成形品質に係わる評価情報(成形不良等)と、目的関数Xp…として設定した予測関数F…により、成形条件の最適化を容易かつ迅速に行うことができるとともに、成形品質に係わる改善を効果的(有効)に行うことができる。また、目的関数Xp…として、予測関数F…を適用したため、試し成形により得られた所定数の検出データを学習し、パターン認識させることにより、ある物理現象を疑似的にモデル化することが可能となり、実際に射出成形機を運転させることなく、入力パラメーターDf…による成形条件から成形結果に対するシミュレーションを容易に行うことができる。
しかも、成形条件を設定(最適化)した後、生産の時期や進行状況等により、湿度や気温等の外部環境が変動し、成形材料の物性が影響を受けたり設定値がドリフトするような場合であっても、最適化処理の高速化が可能になるため、成形条件に対する最適化を一又は二以上のショット単位で行うことができる。これにより、成形品質が一時的に低下する事態も回避できるなど、常に最適化された最良のコンディションで生産を行うことができる。さらに、一又は二以上のショット単位で成形条件に対する最適化が、いわば自動的に行われるため、再設定に伴う別途の設定工程が不要になる。これにより、工数低減に伴う生産性の向上や生産効率の向上に伴うコストダウンを図れるとともに、実際の生産現場における実用性の高い成形最適化方法として利用できる。
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、制約条件Xc…として設定する成形工程時の成形データに、射出工程における成形データを選定するとともに、射出工程における成形データとして、射出速度,速度制御−圧力制御切換位置及び保圧力を選定する場合を示したが、これらの一又は二以上を選定してもよいし、射出工程の他の制御因子を選定してもよい。さらに、当該成形データとして、計量工程における成形データ或いは実施形態のように計量工程及び射出工程の双方の成形データを選定してもよい。また、成形品質に係わる評価情報として、成形品の成形不良に係る情報を適用した場合を例示したが、成形品の性能評価に係る情報を適用してもよい。加えて、成形品の成形不良として、ショート状態の多数個取成形品における製品不良数を適用した場合を例示したが、他の成形不良に対しても同様に適用又は応用可能である。一方、データ処理部Eは、射出成形機Mに対して別途用意したコンピュータシステムEmを用いた場合を示したが、成形機コントローラ41と一体に構成してもよい。また、数理計画法として、内点法の一つである信頼領域法を例示したが、その他、線形計画法,分枝限定法など、公知である様々な数理計画法を利用することができる。さらに、実施形態では、多数個取成形品を前提として一ショット単位で成形条件に対する最適化を行う場合を示したが、単一成形品を前提として二以上のショット単位で不良数の判定を行うことにより成形条件に対する最適化を行ってもよい。