以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
<SPCCI燃焼>
本願発明者らは、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせる燃焼形態を考えた。SI燃焼は、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行うことにより開始する火炎伝播を伴う燃焼である。CI燃焼は、燃焼室の中の混合気が圧縮自己着火することにより開始する燃焼である。SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた燃焼形態とは、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行って、火炎伝播による燃焼を開始させると、SI燃焼の発熱及び火炎伝播による圧力上昇によって、燃焼室の中の未燃混合気が圧縮着火により燃焼する形態である。この燃焼形態を、以下においてはSPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)燃焼と呼ぶ。
圧縮着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室の中の温度がばらつくと、圧縮着火のタイミングが大きく変化する。SPCCI燃焼において、SI燃焼の発熱量を調整することによって、圧縮開始前の燃焼室の中の温度のばらつきを吸収することができる。圧縮開始前の燃焼室の中の温度に応じて、例えば点火タイミングの調整によってSI燃焼の開始タイミングを調整すれば、圧縮着火のタイミングをコントロールすることができる。SPCCI燃焼は、SI燃焼によってCI燃焼をコントロールすることができる。
火炎伝播によるSI燃焼は、圧力上昇がCI燃焼よりも緩やかであるため、SPCCI燃焼は、燃焼騒音の発生を抑制することが可能になる。また、CI燃焼は、SI燃焼よりも燃焼期間が短縮するため、SPCCI燃焼は、燃費の向上に有利になる。
<エンジンの具体例>
図1に、このSPCCI燃焼による燃焼技術を適用した過給機付きエンジン(エンジン1)の全体構成を示す。
エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載される。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。エンジン1の燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。これらシリンダブロック12及びシリンダヘッド13により、エンジン本体100が構成されている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときの空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から、後述するインジェクタ6の噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
ピストン3の上面は燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、後述するインジェクタ6に向かい合う。
キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1に対して排気側にずれている。キャビティ31の中心は、インジェクタ6の噴射軸心X2と一致している。キャビティ31は、凸部311を有している。凸部311は、インジェクタ6の噴射軸心X2上に設けられている。凸部311は、略円錐状である。凸部311は、キャビティ31の底部から、燃焼室17の天井面に向かって上向きに伸びている。
キャビティ31はまた、凸部311の周囲に設けられた凹陥部312を有している。凹陥部312は、凸部311の全周を囲むように設けられている。キャビティ31は、噴射軸心X2に対して対称な形状を有している。
凹陥部312の周側面は、キャビティ31の底面からキャビティ31の開口に向かって噴射軸心X2に対して傾いている。キャビティ31の内径は、キャビティ31の底部からキャビティ31の開口に向かって次第に拡大する。
尚、燃焼室17の形状は、図2に例示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ31の形状、ピストン3の上面の形状、及び、燃焼室17の天井面の形状等は、適宜変更することが可能である。例えば、キャビティ31は、シリンダ11の中心軸X1に対して対称な形状にしてもよい。傾斜面1311と、傾斜面1312とは、シリンダ11の中心軸X1に対して対称な形状にしてもよい。また、キャビティ31において、後述する点火プラグ25に向かい合う箇所に、凹陥部312よりも底の浅い浅底部を設けてもよい。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、13以上30以下(好ましくは20以下)に設定されている。エンジン1は、一部の運転領域において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼を行う。このエンジン1は、混合気の自着火のためにピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(つまり、圧縮端温度)を高くする必要がない。つまり、エンジン1は、CI燃焼を行うものの、その幾何学的圧縮比は、比較的低く設定されている。幾何学的圧縮比を低くすることによって、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度)においては、14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度)においては、15〜18としてもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、図3に示すように、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182の、二つの吸気ポートを有している。第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182は、クランクシャフト15の軸方向、つまり、エンジン1のフロント−リヤ方向に並んでいる。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、吸気弁21の動弁機構は、電動S−VTに代えて、液圧式のS−VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、図3に示すように、第1排気ポート191及び第2排気ポート192の、二つの排気ポートを有している。第1排気ポート191及び第2排気ポート192は、エンジン1のフロント−リヤ方向に並んでいる。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、排気電動S−VT24を有している。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、排気弁22の動弁機構は、電動S−VTに代えて、液圧式のS−VTを有していてもよい。
このエンジン1は、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24によって、吸気弁21の開弁時期と排気弁22の閉弁時期とに係るオーバーラップ期間の長さを調整する。このことによって、燃焼室17の中に熱い既燃ガスを閉じ込める。つまり、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入する。また、オーバーラップ期間の長さを調整することによって、燃焼室17の中の残留ガスを掃気する。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射するよう構成されている。インジェクタ6は、吸気側の傾斜面1311と排気側の傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部において、燃焼室17内に臨んで配設されている。インジェクタ6は、図2に示すように、その噴射軸心が、シリンダ11の中心軸X1に平行に配設されている。インジェクタ6の噴射軸心X2は、中心軸X1とずれている。インジェクタ6の噴射軸心と、キャビティ31の凸部311の位置とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。尚、インジェクタ6の噴射軸心は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その場合も、インジェクタ6の噴射軸心と、キャビティ31の凸部311の位置とは一致していることが望ましい。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔を有する多噴孔型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がりかつ、燃焼室17の天井部から斜め下向きに広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、本構成例においては、10個の噴孔を有しており、噴孔は、周方向に等角度に配置されている。噴孔の軸は、図2の上図に示すように、後述する点火プラグ25に対して、周方向に位置がずれている。つまり、点火プラグ25は、隣り合う二つの噴孔の軸に挟まれている。これにより、インジェクタ6から噴射された燃料の噴霧が、点火プラグ25に直接当たって、電極を濡らしてしまうことが回避される。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄えるよう構成されている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴孔から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能に構成されている。燃料供給システム61の最高燃料圧力は、例えば120MPa程度にしてもよい。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、この構成例では、図2にも示すように、シリンダ11の中心軸X1を挟んだ吸気側に配設されている。点火プラグ25は、インジェクタ6に隣接している。点火プラグ25は、二つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。吸気通路40は、燃焼室17に導入する吸気(主には新気であるが、EGRガスを含む場合もある、単に「ガス」ともいう)が流れる通路である。吸気通路40の上流端部には、新気を濾過するエアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調整することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調整するよう構成されている。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入するガスを過給するよう構成されている。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、例えばルーツ式としてもよい。機械式の過給機44の構成はどのような構成であってもよい。機械式の過給機44は、リショルム式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45(切替部)が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44はオン(駆動)とオフ(非駆動)とが切り替わる。
このエンジン1は、過給機44が、燃焼室17に導入するガスを過給、つまり自然吸気よりも高い圧力で吸気を燃焼室17に導入すること(過給状態)と、過給機44が、燃焼室17に導入するガスを過給しない、つまり自然吸気によって吸気を燃焼室17に導入すること(非過給状態)とを切り替えることができるよう構成されている。
過給機44は、例えば、吸気の圧力を圧縮比で1.5〜2.5まで高めることができる。過給機44は、エンジン1の吸気性能よりも高い吐出力を有している。過給圧を高めることにより、燃焼室17に導入できる吸気量よりも十分に多量の吸気を、吸気通路40の過給機44の下流側に送り出すことができる。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却するよう構成されている。インタークーラー46は、例えば水冷式(油冷式でもよい)に構成すればよい。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48(ABV、流量制御弁)が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調整する。この構成例においては、過給機44、バイパス通路47、インタークーラー46、及びエアバイパス弁48によって、過給システム49が構成されている。
図1において二点鎖線Kで囲む過給システム49を含む吸気通路40は、ユニット化されており、エンジン本体100の周囲に組み付けられている。具体的には、ユニット化されたエアクリーナー41、吸気通路40、過給機44、インタークーラー46、バイパス通路47等が、エンジン本体100の外面に近接した状態で、エンジン本体100に一体的に組み付けられている。
エンジン1は、燃焼室17内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部は、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56である。スワールコントロール弁56は、第1吸気ポート181につながるプライマリ通路401と、第2吸気ポート182につながるセカンダリ通路402の内、セカンダリ通路402に配設されている。スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路の断面を絞ることができる開度調整弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、エンジン1の前後方向に並んだ第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182の内、第1吸気ポート181から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に増えかつ、第2吸気ポート182から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に減るから、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のそれぞれから燃焼室17に流入する吸気流量が、略均等になるから、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流が発生しない。尚、スワール流は、矢印で示すように、図3における反時計方向に周回する(図2の白抜きの矢印も参照)。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、既燃ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、既燃ガスを冷却するよう構成されている。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる既燃ガスの流量を調整するよう構成されている。EGR弁54の開度を調整することによって、冷却した既燃ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調整することができる。
この構成例において、EGRシステム55は、EGR通路52及びEGR弁54を含んで構成されている外部EGRシステムと、前述した吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24を含んで構成されている内部EGRシステムとによって構成されている。
エンジン1の冷却装置71は、図5に示すように、メイン回路71A(主冷却部)とサブ回路71B(副冷却部)とを備えている。メイン回路71A及びサブ回路71Bは、互いに独立している。つまり、メイン回路71Aとサブ回路71Bとの間で、冷媒(冷却水)は相互に行き来しない。
メイン回路71Aは、走行風を利用して冷媒を冷却するメインラジエータ72と、メインラジエータ72によって冷却された冷媒をエンジン本体100に供給する可変容量型のウォータポンプ74と、を有している。ウォータポンプ74は、エンジン1によって駆動される。エンジン本体100に供給された冷媒は、エンジン本体10の各部を冷却した後、エンジン本体100から排出され、メインラジエータ72に戻る。
サブ回路71Bは、メインラジエータ72と同様に、走行風を利用して冷媒を冷却するサブラジエータ75と、サブラジエータ75によって冷却された冷媒をインタークーラー46へ供給する電動ウォータポンプ76と、を有している。インタークーラー46に供給された冷媒は、インタークーラー46を通過するガスを冷却した後に、インタークーラー46から排出され、サブラジエータ75に戻る。
メイン回路71Aを流れる冷媒は、エンジン本体100の内部を通過する。サブ回路71Bを流れる冷媒は、エンジン本体100の内部を通過しない。そのため、サブ回路71Bを流れる冷媒は、メイン回路71Aを流れる冷媒よりもエンジン本体100の温度の影響を受け難い。そのため、サブ回路71は、エンジン本体100から独立した状態で、インタークーラー46を効果的に冷却できるようになっている。
エンジン1は、ECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図4に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU10は、制御部の一例である。
ECU10には、図1及び図4に示すように、各種のセンサSW1〜SW17が接続されている。センサSW1〜SW17は、検知信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
すなわち、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を検知するエアフローセンサSW1、及び、新気の温度を検知する第1吸気温度センサSW2、吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を検知する第1圧力センサSW3、吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の接続位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を検知する第2吸気温度センサSW4、サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を検知する第2圧力センサSW5、各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力を検知する指圧センサSW6、排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検知する排気温度センサSW7、排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検知するリニアO2センサSW8、上流の触媒コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検知するラムダO2センサSW9、エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を検知する水温センサSW10、エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を検知するクランク角センサSW11、アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検知するアクセル開度センサSW12、エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を検知する吸気カム角センサSW13、エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を検知する排気カム角センサSW14、EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧を検知するEGR差圧センサSW15、並びに、燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を検知する燃圧センサSW16である。更には、サージタンク42の下流側の近傍に配置され、サージタンク42から流出して燃焼室17に導入されるガスの温度を検知する第3吸気温度センサSW17である。
ECU10は、これらの検知信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、各デバイスの制御量を計算する。ECU100は、計算をした制御量に係る制御信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56に出力する。
例えば、ECU10は、第1圧力センサSW3及び第2圧力センサSW5の検知信号から得られる過給機44の前後差圧に基づいてエアバイパス弁48の開度を調整することにより、過給圧を調整する。また、ECU10は、EGR差圧センサSW15の検知信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調整することにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量を調整する。
(エンジンの運転領域)
図6は、エンジン1の運転領域マップ501、502を例示している。エンジン1の運転領域マップ501、502は、負荷及び回転数によって定められており、負荷の高低及び回転数の高低に対し、五つの領域に分けられている。具体的に、五つの領域は、アイドル運転を含みかつ、低回転及び中回転の領域に広がる低負荷領域(1)−1(「低負荷側領域」に相当)、低負荷領域よりも負荷が高くかつ、低回転及び中回転の領域に広がる中負荷領域(1)−2(「高負荷側領域」に相当)、中負荷領域(1)−2よりも負荷が高い領域でかつ、全開負荷を含む高負荷領域の中回転領域(2)、高負荷領域において中回転領域(2)よりも回転数の低い低回転領域(3)、及び、低負荷領域(1)−1、中負荷領域(1)−2、高負荷中回転領域(2)、及び、高負荷低回転領域(3)よりも回転数の高い高回転領域(4)である。
ここで、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の略三等分にしたときの、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域とすればよい。図6の例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上N2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm程度、回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。
図6においては、理解容易のために、エンジン1の運転領域マップ501、502を二つに分けて描いている。マップ501は、各領域における混合気の状態及び燃焼形態を示している。マップ502は、過給機44が駆動される過給領域と、過給機44が駆動されない非過給領域とを示している。尚、図6における二点鎖線は、エンジン1のロード−ロードライン(Road-Load Line)を示している。
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、低負荷領域(1)−1、中負荷領域(1)−2、及び、高負荷中回転領域(2)において、SPCCI燃焼を行う。エンジン1はまた、その他の領域、具体的には、高負荷低回転領域(3)及び高回転領域(4)においては、SI燃焼を行う。以下、各領域におけるエンジン1の運転について、図7に示す燃料噴射時期及び点火時期を参照しながら説明をする。
(低負荷領域(1)−1)
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転しているときには、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
図7の符号601は、エンジン1が低負荷領域(1)−1において、図6に示す運転状態601にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6011、6012)及び点火時期(符号6013)、並びに、燃焼波形(つまり、クランク角に対する熱発生率の変化を示す波形、符号6014)それぞれの一例を示している。
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする。
SI燃焼の発熱量を調整することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらついていても、例えば点火タイミングの調整によってSI燃焼の開始タイミングを調整すれば、自己着火のタイミングをコントロールすることができる。
SPCCI燃焼を行うときには、圧縮上死点付近の所定タイミングで、点火プラグ25が混合気に点火する、これによって、火炎伝播による燃焼が開始する。SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。従って、熱発生率の波形は、立ち上がりの傾きが相対的に小さくなる。図示はしないが、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
SI燃焼によって、燃焼室17の中の温度及び圧力が高まると、未燃混合気が自己着火する。図7の例では、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化している。つまり、熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで、変曲点を有している。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。但し、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、ピストン3がモータリングによって下降している。CI燃焼による、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時のdp/dθも比較的穏やかになる。
dp/dθは、燃焼騒音を表す指標として用いることができるが、前述の通りSPCCI燃焼は、dp/dθを小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えることができる。
CI燃焼が終了することによって、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。言い換えると、SPCCI燃焼は、膨張行程中の燃焼終了時期を、圧縮上死点に近づけることが可能である。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、エンジン1の燃費性能の向上に有利である。
エンジン1の燃費性能を向上させるために、EGRシステム55は、エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転しているときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。
また、エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転しているときには、燃焼室17の中には、強いスワール流が形成される。スワール流は、燃焼室17の外周部において強く、中央部において弱くなる。スワールコントロール弁(SCV)56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。前述したように、吸気ポート18はタンブルポートであるため、燃焼室17の中には、タンブル成分とスワール成分とを有する斜めスワール流が形成される。
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、スワール比は、2以上、好ましくは4以上になる。ここで、スワール比を定義すると、「スワール比」は、吸気流横方向角速度をバルブリフト毎に測定して積分した値を、エンジン角速度で除した値である。
スワールコントロール弁56の開度によってスワール比は調整できる。例えば、このエンジン1では、スワールコントロール弁56が全開のときには、スワール比は6程度になる。例えば、スワール比を4以上6以下とするには、スワールコントロール弁56の開度を、開口比率が0〜15%となる範囲で調整すればよい。
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比よりもリーンである。つまり、燃焼室17の全体において、混合気の空気過剰率λは1を超える。より詳細に、燃焼室17の全体において混合気のA/Fは30以上である。混合気が燃焼を開始する直前での空気過剰率は2以上である。こうすることで、RawNOxの発生を抑制することができ、排出ガス性能を向上させることができる。
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、燃焼室17内の中央部と外周部との間において、混合気は成層化している。中央部の混合気の燃料濃度は、外周部の燃料濃度よりも濃い。具体的に、中央部の混合気のA/Fは、20以上35以下であり、外周部の混合気のA/Fは、35以上50以下である。尚、空燃比の値は、混合気が燃焼を開始する直前に相当する点火時における空燃比の値であり、以下の説明においても同じである。
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、インジェクタ6は、基本的には、吸気行程中と、圧縮行程中とのそれぞれにおいて燃料を燃焼室17の中に噴射する(符号6011、6012)。吸気行程中に噴射した燃料は、点火時期までの間に燃焼室17の中の全体に拡散をする。吸気行程中に噴射した燃料は、中央部及び外周部の混合気を形成する。圧縮行程中に噴射した燃料は、点火時期までの時間が短いため、あまり拡散せずに、スワール流によって、燃焼室17の中央部の点火プラグ25の付近に輸送される。圧縮行程中に噴射した燃料は、吸気行程中に噴射した燃料の一部と共に、中央部の混合気を形成する。燃焼室17の中央部と外周部とにおいて、混合気が成層化する。
燃料噴射の終了後、圧縮上死点前の所定のタイミングで、点火プラグ25は、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6013)。中央部の混合気は燃料濃度が相対的に高いため、着火性が向上すると共に、火炎伝播によるSI燃焼が安定化する。SI燃焼が安定化することによって、適切なタイミングで、CI燃焼が開始する。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。その結果、エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、燃焼騒音の発生の抑制と、燃焼期間の短縮による燃費性能の向上とが両立する。
低負荷領域(1)−1においてエンジン1は、混合気を理論空燃比よりもリーンしてSPCCI燃焼を行うため、低負荷領域(1)−1は、「SPCCIリーン領域」と呼ぶことができる。
(中負荷領域(1)−2)
エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転しているときも、低負荷領域(1)−1と同様に、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
図7の符号602は、エンジン1が中負荷領域(1)−2において、図6に示す運転状態602にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6021、6022)及び点火時期(符号6023)、並びに、燃焼波形(符号6024)それぞれの一例を示している。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が中負荷領域(1)−2にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。
また、エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転するときにも、低負荷領域(1)−1と同様に、燃焼室17の中には、スワール比が2以上、好ましくは4以上の、強いスワール流が形成される。スワールコントロール弁(SCV)56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。スワール流を強くすることにより、燃焼室17内の乱流エネルギが高くなるから、エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転するときに、SI燃焼の火炎が速やかに伝播してSI燃焼が安定化する。SI燃焼が安定することによってCI燃焼のコントロール性が高まる。SPCCI燃焼におけるCI燃焼のタイミングが適正化することによって、燃焼騒音の発生を抑制することができると共に、燃費性能の向上が図られる。また、サイクル間におけるトルクのばらつきを抑制することができる。
エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)である。混合気が燃焼を開始する直前での空気過剰率は1かそれ以下である。三元触媒が、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することによって、エンジン1の排出ガス性能は良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。従って、混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。
エンジン1が運転状態602にて運転しているときは、吸気行程中の燃料噴射(符号6021)と、圧縮行程中の燃料噴射(符号6022)とを行う。吸気行程中に噴射6021を行うことによって、燃焼室17の中に燃料を略均等に分布させることができる。圧縮行程中に噴射6022を行うことによって、中負荷領域(1)−2内において負荷が高いときに、燃焼室17内の温度を燃料の気化潜熱により低下させてノッキング等の異常燃焼を防止する。噴射6021の噴射量と噴射6022の噴射量との割合は一例として、95:5としてもよい。中負荷領域(1)−2における負荷の低い運転状態では、噴射6022を省略してもよい。
圧縮上死点の前の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気に点火をする(符号6023)ことによって、混合気は、火炎伝播により燃焼する。火炎伝播による燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火して、CI燃焼する。噴射6022によって噴射された燃料は、主にSI燃焼する。噴射6021によって噴射された燃料は、主にCI燃焼する。
中負荷領域(1)−2においてエンジン1は、混合気を理論空燃比にしてSPCCI燃焼を行うため、中負荷領域(1)−2は、「SPCCIλ=1領域」と呼ぶことができる。
(高負荷中回転領域(2))
エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転しているときも、低負荷領域(1)−1及び中負荷領域(1)−2と同様に、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
図7の符号603は、エンジン1が高負荷中回転領域(2)において、図6に示す低回転側の運転状態603にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6031、6032)及び点火時期(符号6033)、並びに、燃焼波形(符号6034)それぞれの一例を示している。
図7の符号604は、エンジン1が高負荷中回転領域(2)において、図6に示す高回転側の運転状態604にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6041)及び点火時期(符号6042)、並びに、燃焼波形(符号6043)それぞれの一例を示している。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が高負荷中回転領域(2)にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。エンジン1は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。全開負荷では、EGRガスをゼロにすればよい。
また、エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転するときにも、低負荷領域(1)−1と同様に、燃焼室17の中には、スワール比が2以上、好ましくは4以上の、強いスワール流が形成される。スワールコントロール弁(SCV)56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。
エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチである(つまり、混合気の空気過剰率λは、λ≦1)。
エンジン1が低回転側の運転状態603において運転するときに、インジェクタ6は、吸気行程において燃料を噴射する(符号6031)と共に、圧縮行程の終期に燃料を噴射する(符号6032)。噴射6031の噴射量と噴射6032の噴射量との割合は、一例として、95:5としてもよい。
点火プラグ25は、圧縮上死点付近において、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6033)。点火プラグ25は、例えば圧縮上死点以降に点火を行う。点火プラグ25は燃焼室17の中央部に配置されているため、点火プラグ25の点火によって、中央部の混合気が火炎伝播によるSI燃焼を開始する。SI燃焼の火炎は、燃焼室17内の強いスワール流れに乗って、周方向に伝播する。燃焼室17の外周部における、周方向の所定の位置において、未燃混合気が圧縮着火をし、CI燃焼が開始する(燃焼波形6034参照)。
エンジン1が高回転側の運転状態604にて運転するときに、インジェクタ6は、吸気行程において燃料噴射を開始する(符号6041)。
吸気行程に開始する噴射6041は、吸気行程の前半に燃料噴射を開始してもよい。噴射6041の終了は、吸気行程を超えて圧縮行程中になる場合がある。噴射6041の噴射開始を、吸気行程の前半にすることによって、燃焼室17の外周部においてCI燃焼用の混合気を形成すると共に、燃焼室17の中央部においてSI燃焼用の混合気を形成することができる。回転数が高く異常燃焼が発生し難いため、後段噴射を省略することができる。
点火プラグ25は、圧縮上死点付近において、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6042)。点火プラグ25は、例えば圧縮上死点以降に点火を行う。これにより、SPCCI燃焼が行われる(燃焼波形6043参照)。
高負荷中回転領域(2)においてエンジン1は、混合気を理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチしてSPCCI燃焼を行うため、高負荷中回転領域(2)は、「SPCCIλ≦1領域」と呼ぶことができる。
(高負荷低回転領域(3))
エンジン1の回転数が低いと、クランク角が1°変化するのに要する時間が長くなる。高負荷低回転領域(3)において、高負荷中回転領域(2)と同様に、例えば吸気行程や圧縮行程の前半に、燃焼室17内に燃料を噴射すると、燃料の反応が進みすぎてしまって過早着火を招く恐れがある。エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転しているときには、前述したSPCCI燃焼を行うことが困難になる。
そこで、エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転しているときに、エンジン1は、SPCCI燃焼ではなく、SI燃焼を行う。
図7の符号605は、エンジン1が高負荷低回転領域(3)において、図6に示す運転状態605にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6051、6052)及び点火時期(符号6053)、並びに、燃焼波形(符号6054)それぞれの一例を示している。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が高負荷低回転領域(3)にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。エンジン1は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。全開負荷では、EGRガスをゼロにすればよい。
エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転しているときに、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)である。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。従って、混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。混合気の空燃比を、理論空燃比にすることにより、高負荷低回転領域(3)において、燃費性能が向上する。尚、エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転するときに、燃焼室17の全体の混合気の燃料濃度を、空気過剰率λにおいて1以下でかつ、高負荷中回転領域(2)における空気過剰率λ以上、好ましくは高負荷中回転領域(2)における空気過剰率λよりも大にしてもよい。
エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転するときに、インジェクタ6は、吸気行程中と、圧縮行程終期から膨張行程初期までの期間(以下、この期間をリタード期間と呼ぶ)との、各々のタイミングで、燃焼室17内に燃料を噴射する(符号6051、6052)。圧縮行程の終期は、圧縮行程を、初期、中期及び終期に三等分したときの終期とすればよい。また、膨張行程の初期は、膨張行程を、初期、中期及び終期に三等分したときの初期とすればよい。
二回に分けて燃料を噴射することにより、リタード期間内に噴射する燃料量を少なくすることができる。吸気行程中に燃料を噴射することにより(符号6051)、混合気の形成時間を十分に確保することができる。また、リタード期間に燃料を噴射することにより(符号6052)、点火直前に、燃焼室17の中の流動を高めることができ、SI燃焼の安定化に有利になる。この燃料噴射の形態は、エンジン1の幾何学的圧縮比が低いときに特に有効である。
点火プラグ25は、燃料の噴射後、圧縮上死点付近のタイミングで、混合気に点火を行う(符号6053)。点火プラグ25は、例えば圧縮上死点後に点火を行ってもよい。混合気は、膨張行程においてSI燃焼をする。SI燃焼が膨張行程において開始するため、CI燃焼は開始しない(燃焼波形6054参照)。
高負荷低回転領域(3)においてエンジン1は、燃料を圧縮行程終期から膨張行程初期までのリタード期間に噴射をしてSI燃焼を行うため、高負荷低回転領域(3)は、「リタード−SI領域」と呼ぶことができる。
(高回転領域(4))
エンジン1の回転数が高いと、クランク角が1°変化するのに要する時間が短くなる。そのため、例えば高負荷領域における高回転領域において、前述したように、圧縮行程中に分割噴射を行うことにより、燃焼室17内において混合気の成層化をすることが困難になる。エンジン1の回転数が高くなると、前述したSPCCI燃焼を行うことが困難になる。
そのため、エンジン1が高回転領域(4)において運転しているときには、エンジン1は、SPCCI燃焼ではなく、SI燃焼を行う。尚、高回転領域(4)は、低負荷から高負荷まで負荷方向の全域に広がっている。
図7の符号606は、エンジン1が高回転領域(4)において、図6に示す運転状態606にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6061)及び点火時期(符号6062)、並びに、燃焼波形(符号6063)それぞれの一例を示している。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が高回転領域(4)にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。エンジン1は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。全開負荷では、EGRガスをゼロにすればよい。
エンジン1は、高回転領域(4)において運転するときには、スワールコントロール弁(SCV)56を全開にする。燃焼室17内にはスワール流が発生せず、タンブル流のみが発生する。スワールコントロール弁56を全開にすることによって、高回転領域(4)において充填効率を高めることができると共に、ポンプ損失を低減することが可能になる。
エンジン1が高回転領域(4)において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)は、基本的には、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)である。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。尚、高回転領域(4)内の、全開負荷を含む高負荷領域においては、混合気の空気過剰率λを1未満にしてもよい。
エンジン1が高回転領域(4)において運転するときに、インジェクタ6は、吸気行程に燃料噴射を開始する。インジェクタ6は、燃料を一括で噴射する。尚、運転状態605は、エンジン1の負荷が高いため、燃料噴射量が多い。燃料の噴射量に応じて、燃料の噴射期間は変化する。吸気行程中に燃料噴射を開始することによって、燃焼室17の中に、均質又は略均質な混合気を形成することが可能になる。また、エンジン1の回転数が高いときに、燃料の気化時間をできるだけ長く確保することができるため、未燃損失の低減及び煤の発生の抑制を図ることもできる。
点火プラグ25は、燃料の噴射終了後、圧縮上死点前の適宜のタイミングで、混合気に点火を行う(符号6062)。
高回転領域(4)においてエンジン1は、燃料噴射を吸気行程に開始してSI燃焼を行うため、高回転領域(4)は、「吸気−SI領域」と呼ぶことができる。
(過給機の運転)
図6の下図502に示すように、エンジン1の全運転領域における低負荷・低回転側である、低負荷領域(1)−1の一部、及び、中負荷領域(1)−2の一部においては、過給機44がオフ、つまり非駆動の状態とされ、エンジン1の運転は非過給の状態となる(この非過給の領域が「所定領域」に相当)。
詳細には、低負荷領域(1)−1における低回転側の領域においては、過給機44がオフにされる。低負荷領域(1)−1における高回転側の領域においては、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンにされて、過給圧を高くする。また、中負荷領域(1)−2における低負荷低回転側の領域においては、過給機44がオフにされ、中負荷領域(1)−2における高負荷側の領域においては、燃料噴射量が増えることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンにされ、高回転側の領域においては、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンになる。
高負荷中回転領域(2)、高負荷低回転領域(3)、及び、高回転領域(4)の各領域においては、その全域に亘って過給機44がオンになり(S/C ON参照)、エンジン1の運転は過給の状態となる。
図8に、ECU10が、エンジン1の運転を過給の状態と非過給の状態とに切り替える流れを示す。ECU10は、各センサSW1〜SW17の信号を読み込む(ステップS1)。ECU10は、エンジン1の運転領域を判断し、過給要求があるか否かを判断する(ステップS2)。その結果、ECU10が、過給要求があると判断した場合には(ステップS2でYES)、電磁クラッチ45が接続され、エアバイパス弁48(ABV)が閉じ側で開度が調整されることにより、過給運転が実行される(ステップS3)。
図9に、過給運転時における過給システム49を示す。エアバイパス弁48(ABV)は、ほとんど閉じられた状態で保持される。電磁クラッチ45が接続されて、過給機44が駆動されることにより、過給機44の上流側のガスは、過給機44に引き込まれ、加圧された状態で過給機44の下流側に吐出される。加圧によってガスの温度は上昇するが、インタークーラー46によって冷却され、適切な温度に調節された後、サージタンク42に流入する。
燃焼室17に導入するガスの過給圧を調整するため、エアバイパス弁48の開度が調整される。それにより、サージタンク42に流入したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。過給状態では、吸気通路40のうち、過給機44の下流側は、過給機44の上流側よりも高い圧力で保持される(静的にも動的にも、第1圧力センサSW3が検出する圧力よりも第2圧力センサSW5が検出する圧力の方が高い)。
ECU10が、過給要求がないと判断した場合には(ステップS2でNO)、電磁クラッチ45の接続が遮断され、エアバイパス弁48(ABV)が全開か全開と同等レベルに開度調整されることにより、非過給運転(自然吸気)が実行される(ステップS4)。
図10に、非過給運転時における過給システム49を示す。エアバイパス弁48は全開又は全開と同等のレベルの開度に調整される。過給機44は、電磁クラッチ45の接続が遮断されているので、作動(回転)はしない。吸気通路40における過給機44の上流側を流れるガスは、過給機44及びインタークーラー46を迂回し、バイパス通路47を通ってサージタンク42に流入する。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流側及び下流側の双方に連通した状態となっているので、ガスは抵抗を受けることなくバイパス通路47を通過する。非過給状態では、吸気通路40における過給機44の上流側及び下流側のいずれも、静的には同じ圧力に保持される(第1圧力センサSW3が検出する圧力と、第2圧力センサSW5が検出する圧力とがほぼ同じ)。
(非過給運転時における外気温の影響)
過給運転時には、インタークーラー46によって燃焼室17に導入されるガスの温度が調整されるが、非過給運転時には、ガスは直接燃焼室に導入されるため、ガスの温度は、外気温(外気の温度)に依存する。従って、外気温が過度に高くなった場合、燃焼室の温度が適正な範囲を逸脱し、適切な燃焼が実現できなくなる恐れがある。
特に、このエンジン1では、非過給運転が行われる低負荷領域(1)−1及び中負荷領域(1)−2の所定領域では、SPCCI燃焼が行われるので、燃焼室の温度を適正な範囲に維持する必要がある。詳しくは、圧縮端温度が高くな過ぎると、CI燃焼が開始するタイミングが早まるなど、SI燃焼によるCI燃焼の制御が不安定になり、過早着火などの不具合を招く恐れがある。
そこで、このエンジン1では、そのような所定領域においても、外気温の影響を抑制し、燃焼室の温度を適正な範囲に維持できるよう、予回転制御及び強制回転制御が実行できるように構成されている。
具体的には、自然吸気によって燃焼室の温度を適正な範囲に維持できる場合には、そのままの状態で非過給運転が行われる。対して、外気温が高くなり、自然吸気によっては、燃焼室17に導入される吸気の温度(吸気温度)が高くなり、燃焼室の温度を適正な範囲に維持できなくなる場合(外気温が所定の第1温度TS1以上であるとき)には、予回転制御又は強制回転制御が実行され、燃焼室の温度を適正な範囲に維持できるよう、吸気の冷却が実行される。
(予回転制御)
図11に、予回転制御時における過給システム49を示す。予回転制御の実行時には、ECU10は、非過給の状態で過給機44がその上流と下流の圧力差によって作動するよう、過給機44の非駆動を維持した状態でエアバイパス弁48を閉じるように制御する。
エアバイパス弁48を略全開の状態から閉じ側に制御することで、バイパス通路47の流路断面積が小さくなって、バイパス通路47の流路抵抗が増加する。その結果、過給機44の上流と下流とで圧力差が発生し、その差圧に基づいて過給機44が回転、詳しくは過給機44のロータが回転する(予回転)。いったん過給機44が予回転し始めれば、慣性力が作用するため、その後は、比較的弱い差圧であっても安定して過給機44を予回転させることができる。
過給機44が予回転することで、吸気通路40における過給機44の上流側を流れるガスの一部は、図11に破線で示すように、過給機44に引き込まれる。過給機44に引き込まれたガスは、インタークーラー46を通過してサージタンク42へ流入する。インタークーラー46を通過することでガスは冷却される。一方、バイパス通路47を通過するガスは冷却されない。インタークーラー46を通過するガスの流量に応じて燃焼室17に導入されるガスが冷却される。
図12に、バイパス通路47を通過するガスの流量に対するインタークーラー46を通過するガスの流量の割合(以下、単に「流量割合」という)と、サージタンク42内のガス温度との関係を示す。同図に示す領域S1は、燃焼室の温度を適正な範囲に維持できる、サージタンク42におけるガス温(以下、「サージタンク内温度」という)の領域である。
同図において、複数の三角印を含む実線で示すように、サージタンク内温度は、流量割合が大きくなるにしたがって減少するようになる。サージタンク内温度は、燃焼室17に導入されるガス温と実質的に等しい。すなわち、流量割合を介してサージタンク内温度を調整すれば、燃焼室17に導入されるガス温を所定の適切な範囲内に収めることが可能となる。
流量割合を調整してサージタンク内温度を適切な範囲内に収めるために、エアバイパス弁48は、外気温が高いときには、低いときよりも閉じ側に調整される。この構成例では、ECU10は、制御マップに基づいて、外気温が高くなるに従い、全開状態から全閉状態に向かって、徐々に閉じるようにエアバイパス弁48を制御する。
具体的に、ECU10は、第1吸気温度センサSW2に基づいて外気温を取得し、第3吸気温度センサSW17に基づいてサージタンク内温度を取得する。サージタンク内温度は、負荷、エンジン回転数など、エンジン1の運転状態を示す種々のパラメータと、外気温とに基づいて、間接的にサージタンク内温度を決定してもよい。
ECU10には、サージタンク内温度と絞り量を関連付ける制御マップが予め記憶されている。ECU10は、その制御マップに基づいて、サージタンク内温度が適正範囲S1に収まるように、サージタンク内温度に対応するエアバイパス弁48の開度を決定して調整する。
エアバイパス弁48が閉じ側に調整されるほど、バイパス通路47の流路抵抗は増加する。それにより、過給機44の上流側と下流側との間の差圧が大きくなり、過給機44の予回転が促進され、インタークーラー46を通過するガス量が増大し、流量割合もまた増大する。そうすることにより、サージタンク内温度が適正範囲S1に収まるように調整される。予回転制御の実行時には、第1圧力センサSW3が検出する圧力及び第2圧力センサSW5が検出する圧力(動的圧力)は、エアバイパス弁48の開度に応じて変化する。但し、通常の非過給運転(自然吸気)の状態よりもその圧力差は大きく、過給運転の状態よりもその圧力差は小さい傾向にある。
尚、予回転制御の実行時には、スロットル弁43の開度は、全開又は全開と同等の開度に調整される。すなわち、スロットル弁43の開度を絞ると、過給機44を予回転させようとしたときにポンプ損失が増大する虞がある。スロットル弁43の開度を最大にすることで、ポンプ損失の増大を回避できる。強制回転制御の実行時も同様であり、強制回転制御の実行時には、スロットル弁43の開度は、全開又は全開と同等の開度に調整される。
(強制回転制御)
外気温が更に高くなると、図12に仮想線で示すように、サージタンク内温度が上昇し、予回転制御による冷却では、サージタンク内温度を適正範囲S1に収めることが困難になる場合がある。そのような場合に、このエンジン1では、強制回転制御が行われるように構成されている。
具体的には、外気温が、自然吸気では燃焼室の温度を適正な範囲に維持できなくなる第1温度TS1以上であるときには予回転制御が行われ、予回転制御によっても燃焼室の温度を適正な範囲に維持できなくなる所定の第2温度TS2を超える場合に強制回転制御が行われる(第2温度TS2>第1温度TS1)。
図13に、強制回転制御時における過給システム49を示す。強制回転制御時には、吸気通路40を流れるガスがバイパス通路47を通じて循環するよう、エアバイパス弁48を開いた非過給の状態で、過給機44が強制的に駆動される。
具体的には、エアバイパス弁48は全開又は全開と同等のレベルの開度に調整される。その状態で、過給機44は、電磁クラッチ45が接続されて駆動される。それにより、吸気通路40における過給機44の上流側を流れるガスは、過給機44に引き込まれる。過給機44に引き込またガスは、インタークーラー46を通って冷却された後、サージタンク42に流入する。
バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流側及び下流側の双方に連通した状態となっているので(静的には同圧状態)、燃焼室17に導入される分以外のガスは、抵抗を受けることなくバイパス通路47を逆流し、吸気通路40における過給機44の上流側へと戻る。吸気通路40における過給機44の上流側へと戻ったガスは、再度、過給機44に引き込まれる。
すなわち、過給システム49において、過給機44、インタークーラー46、サージタンク42、及びバイパス通路47を経由して、吸気通路40を流れるガスが繰り返し循環するようになる。循環する過程でインタークーラー46を繰り返し通過することから、燃焼室17に導入するガスを効果的に冷却することができる。予回転制御の場合、インタークーラー46を通過するのは1回であるため、強制回転制御は、予回転制御よりも冷却性能の面では優れている。
従って、外気温が過度に高くなり、予回転制御では吸気温度を適正に保持することが困難になった場合でも、強制回転制御を行うことで、吸気温度を適正に保持することができる。強制回転制御によれば、自然吸気を行う場合に比べて、エアバイパス弁48の開度調整により、燃焼室17に導入する吸気量も精度高く調整できるようになる。その結果、外気温が過度に高くなる場合であっても、燃焼室17の温度を適正な範囲に保持することができ、安定したSPCCI燃焼が実現できる。
強制回転制御の実行時には、第1圧力センサSW3が検出する圧力及び第2圧力センサSW5が検出する圧力は、静的には同圧であるが、動的には過給機44の駆動状態等に応じて変化する。但し、通常の非過給運転(自然吸気)の状態よりもその圧力差は大きく、過給運転の状態よりもその圧力差は小さい傾向にある。
これら予回転制御及び強制回転制御は、低負荷領域(1)−1及び中負荷領域(1)−2に亘る所定領域で行われるが、これら制御を実行する基準となる第1温度TS1及び第2温度TS2は、低負荷領域(1)−1に位置する領域(低負荷側領域)よりも、中負荷領域(1)−2に位置する領域(高負荷側領域)の方が低い値となっている。
すなわち、低負荷側領域では、燃焼開始前の混合気は、燃料濃度の薄いリーンな状態とされる。対して、高負荷側領域では、燃焼開始前の混合気は、燃料濃度の濃いリッチな状態とされる。従って、高負荷側領域は、低負荷側領域よりも燃焼温度が高くなるため、圧縮端温度は低負荷側領域よりも高くなり易い。そのため、外気温が高いときには、高負荷側領域は低負荷側領域よりも、燃焼室17の温度が適正な範囲を逸脱し易い。
従って、これら予回転制御及び強制回転制御を行う基準となる第1温度TS1及び第2温度TS2を、低負荷側領域よりも高負荷側領域を低い値とすることで、燃焼室17の温度が適正な範囲を逸脱するのを、より確実に回避できる。
特に高負荷側領域では、予回転制御よりも強制回転制御を積極的に行うのが好ましい。低負荷領域及び高負荷側領域は、いずれも非過給運転の領域であり、燃焼室17に導入される吸気量は比較的少ない。それに対し、高負荷側領域は、低負荷領域よりも負荷が大きいため、出力される動力は低負荷側領域よりも大きい。従って、出力される動力が大きい分、高負荷側領域では、過給機44を駆動することによって増加する駆動負荷の影響が低負荷領域に比べて小さくなる。駆動負荷の影響が小さくなる分、高負荷側領域では、過給機44の駆動力を高めて、より吸気の循環量を増やすことができるので、強制回転制御の実行により、インタークーラー46による吸気の冷却を促進できる。吸気温度を、より安定して適正に保持することができる。
(エンジンの温度の影響)
前述したように、過給システム49を含む吸気通路40は、ユニット化された状態で、燃焼によって高温になるエンジン本体100の外面に密着するようにして、エンジン本体100に組み込まれている。
そのため、吸気通路40及びバイパス通路47を通過するガスは、これらを通過する間に、エンジン本体100が発する熱を受熱する。エンジン本体100の温度が高くなると、吸気通路40及びバイパス通路47を経由してガスが繰り返し循環する強制回転制御の場合、ガスがエンジンから受熱する熱量が大幅に増加する。その結果、強制回転制御は、冷却能力が優れていても、エンジン本体100からの受熱量の増加によって、実質的な冷却能力が低下する場合がある。エンジンからの受熱量が、強制回転制御による冷却能力を超えてしまい、逆効果を招く恐れもある。
対して、予回転制御では、インタークーラー46で冷却されたガスは、直接燃焼室17に導入される。そのため、エンジン本体100の温度が高くなっても、強制回転制御に比べるとその影響は少なく、高い冷却性能を発揮することができる。
そこで、このエンジン1では、予回転制御と強制回転制御とが、エンジン本体100の温度に応じて切り替えられるように構成されている。
具体的には、エンジン本体100の温度が所定の基準温度Te以上の場合に予回転制御が行われ、エンジン本体100の温度が基準温度Te未満の場合に強制回転制御が行われる。基準温度Teは、例えば、90℃以上の温度であり、ECU10に予め設定されている。基準温度Teは、それ以上になると、強制回転制御を行っても適切な冷却が行えず、冷却能力が予回転制御と同等かそれ以下となるような温度である。ECU10は、例えば水温センサSW10が検出する、メイン回路71Aを流れる冷却水の温度からエンジン本体100の温度を取得する。
このように、このエンジン1では、エンジン本体100の温度に応じて、冷却能力が適切に発揮できる制御に切り替えられるので、吸気の冷却が効率的に行える。その結果、エンジン本体100の温度による影響を抑制した状態で、燃焼時における燃焼室17を適切な温度に調整することができる。
(非過給運転時における吸気の冷却制御)
図14に、非過給運転時における吸気の冷却制御の流れの一例を示す。非過給運転が実行されている間、ECU10は、第1吸気温度センサSW2から入力される検知信号に基づいて外気温を取得しており、外気温が第1温度TS1以上か否かを、連続的に判断している(ステップS11)。
それにより、ECU10は、外気温が第1温度TS1以上でないと判断した場合には(ステップS11でNO)、通常通りの非過給運転を継続して実施する(ステップS12)。
対して、ECU10は、外気温が第1温度TS1以上であると判断した場合には(ステップS11でYES)、予回転制御を実行する(ステップS13)。具体的には、電磁クラッチ45は遮断され、過給機44に機械的動力が作用しない非駆動を維持した状態で、エアバイパス弁48を閉じるように制御する。
ECU10は、更に、外気温が第2温度TS2以上か否かについても、連続的に判断している(ステップS14)。ECU10は、外気温が第2温度TS2以上でないと判断した場合には(ステップS14でNO)、予回転制御を継続して実施する。予回転制御の継続中に、ECU10は、外気温が第1温度TS1以上でないと判断した場合には(ステップS11でNO)、通常通りの非過給運転に復帰する(ステップS12)。
対して、外気温が更に高くなり、ECU10が、外気温が第2温度TS2以上であると判断した場合には(ステップS14でYES)、強制回転制御による吸気の冷却が実行される。
このとき、ECU10は、水温センサSW10から入力される検知信号に基づいて間接的にエンジン本体100の温度を取得しており、エンジン本体100の温度が基準温度Te以上か否かを、連続的に判断している(ステップS15)。
そして、ECU10が、エンジン本体100の温度が基準温度Te以上であると判断した場合には(ステップS15でYES)、強制回転制御では適正な冷却が行えず、予回転制御の方が冷却性能が優れるので、予回転制御を継続する。予回転制御であれば、強制回転制御よりも駆動抵抗が小さいため、燃費性能の面でも有利である。
一方、ECU10が、エンジン本体100の温度が基準温度Te以上でないと判断した場合には(ステップS15でNO)、強制回転制御を実行する(ステップS16)。強制回転制御であれば、吸気を効果的に冷却できるので、短時間で吸気温度を適正な状態に復帰させることができ、燃焼時における燃焼室内の温度を適切に調整できるようになる。
そうして、ECU10は、外気温が第1温度TS1以上でないと判断した場合には(ステップS11でNO)、通常通りの非過給運転に戻る(ステップS12)。
<エンジン1の応用例>
予回転制御と強制回転制御との切り替えは、運転者の加速要求操作に応じて行ってもよい。
具体的には、前述した所定領域において、外気温が第1温度TS1以上であるときには、まず予回転制御が行われ、運転者の加速要求操作が行われた場合に、強制回転制御が行われるように構成する。
強制回転制御が行われる時には、過給機44は非駆動から駆動に切り替えられる。その切り替え時に衝撃が発生し、その衝撃が運転者に伝わると、運転者が操作を行っていない場合などに、運転者が違和感を覚える恐れがある。それに対し、この構成では、所定領域において外気温が第1温度TS1以上であるときには、過給機44が非駆動の状態で吸気を冷却できる予回転制御が行われ、運転者の加速要求操作が行われた場合に強制回転制御が行われる。
予回転制御であれば、過給機44を非駆動の状態に維持できるので、運転者に違和感を感じさせることなく、吸気を冷却することができる。そして、運転者が、アクセルの踏み込み等、加速要求操作を行った場合には、強制回転制御を実行する。加速要求操作を行っていれば、過給機44の切り替えによる衝撃が加わっても、運転者はその操作による衝撃と認識するため、運転者が違和感を覚えるのを回避できる。
図15に、この応用例に基づく吸気の冷却制御の流れの一例を示す。基本的な流れは、図14の流れと同じであるため、同じ構成には同じ符号を用いてその説明は省略する。
ECU10は、予回転制御が実施されている間、例えば、アクセル開度センサSW12から入力される検知信号などから、運転者から加速要求があったか否かを連続的に判断している(ステップS20)。
そして、ECU10は、運転者から加速要求がない場合には(ステップS20でNO)、予回転制御を継続して実施する。
対して、運転者から加速要求があった場合には(ステップS20でYES)、強制回転制御による吸気の冷却が実行され、エンジン本体100の温度が基準温度Te以上でない限り、強制回転制御が実施される(ステップS16)。
強制回転制御の実施により、過給機44が非駆動から駆動に切り替えられて衝撃が発生しても、運転者は、自身が行った加速要求操作による衝撃と認識するため、運転者が違和感を覚えるのを回避できる。そして、強制回転制御であれば、吸気を効果的に冷却できるので、短時間で吸気温度を適正な状態に復帰させることができ、燃焼時における燃焼室内の温度を適切に調整できるようになる。