JP6526846B1 - 排ガス浄化触媒及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】触媒スラリーが基材隔壁の気孔を閉塞することによる圧力損失の上昇が抑制され、排ガス浄化性能の向上も達成された排ガス浄化触媒の製造方法、及び該製造方法により製造された排ガス浄化触媒を提供する。
【解決手段】内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の製造方法であって、多孔質の隔壁により複数の通路が画定されたウォールフロー型基材の排ガス導入側又は排ガス排出側の端部に、触媒スラリーを含浸保持させる含浸工程と、前記端部側から前記ウォールフロー型基材内に気体を流入させることにより、前記ウォールフロー型基材に含浸された前記触媒スラリーを多孔質の前記隔壁に塗工する塗工工程と、前記隔壁の気孔を閉塞する余剰の前記触媒スラリーを除去する除去工程と、を有する、排ガス浄化触媒の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。
内燃機関から排出される排ガスには、炭素を主成分とする粒子状物質(PM)、不燃成分からなるアッシュなどが含まれ、大気汚染の原因となることが知られている。従来より、ガソリンエンジンよりも比較的に粒子状物質を排出しやすいディーゼルエンジンでは、粒子状物質排出量が厳しく規制されていたが、近年、ガソリンエンジンにおいても粒子状物質の排出量の規制が強化されつつある。
粒子状物質の排出を抑制するための手段としては、内燃機関の排ガス通路に粒子状物質を堆積させ捕集することを目的としたパティキュレートフィルタを設ける方法が知られている。特に、近年では、搭載スペースの省スペース化等の観点から、粒子状物質の排出抑制と、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分の除去を同時に行うために、パティキュレートフィルタに触媒スラリーを塗工し、これを焼成することで触媒層を設けることが検討されている。
しかしながら、もともと粒子状物質の堆積により圧力損失が上昇しやすいパティキュレートフィルタに触媒層を設ければ、排ガスの流路がより狭くなり圧力損失がより一層上昇しやすくなり、エンジン出力の低下を招くという問題がある。このような問題を解決するため、例えば、特許文献1〜3には、圧力損失の上昇の抑制と、排ガス浄化性能の向上を目的として、触媒層の種類やそれらを設ける位置を工夫することが提案されている。また、特許文献4には、圧力損失の上昇の抑制を目的として、触媒コート層を形成するためのスラリー中の粉末の平均粒径と、基材への触媒のコート量とを調整することが提案されている。
WO2016/060048 WO2016/060049 WO2016/060050 特開2017−140602号公報
複雑な気孔形状を有し得るパティキュレートフィルタに触媒スラリーを含浸塗工した場合、触媒スラリーが表面張力により気孔の狭い部分を閉塞することがあり、この状態を維持したままパティキュレートフィルタを焼成して触媒層が形成されてしまうと、圧力損失を過度に上昇させる原因となる。このような狭小部の閉塞による圧力損失の上昇は、特許文献1〜3のように、触媒層の種類やそれらを設ける位置を工夫したとしても完全に回避することが不可能であり、また、特許文献4のようにスラリー中の粉末の平均粒径等を調整したとしても完全に回避することが不可能である。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒層の形成にともなう圧力損失の過度の増大が抑制され、排ガス浄化性能の向上も達成された排ガス浄化触媒の製造方法、及び該製造方法により製造された排ガス浄化触媒を提供することにある。なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、触媒スラリーの含浸塗工時に、余剰の触媒スラリーが気孔を閉塞することが圧力損失の上昇の一因となることを特定し、その閉塞を除去する工程を経ることにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
〔1〕
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の製造方法であって、
多孔質の隔壁により複数の通路が画定されたウォールフロー型基材の排ガス導入側又は排ガス排出側の端部に、触媒スラリーを含浸保持させる含浸工程と、
前記端部側から前記ウォールフロー型基材内に気体を流入させることにより、前記ウォールフロー型基材に含浸された前記触媒スラリーを多孔質の前記隔壁に塗工する塗工工程と、
前記気体を流入させた前記端部と反対側の端部から、前記ウォールフロー型基材内に気体を流入させることにより、前記隔壁の気孔を閉塞する余剰の前記触媒スラリーを除去する除去工程と、を有する、
排ガス浄化触媒の製造方法。
〔2〕
前記含浸工程において、前記ウォールフロー型基材の前記排ガス導入側の端部に、前記触媒スラリーを含浸保持させる、
〔1〕に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
〔3〕
前記除去工程においては、前記ウォールフロー型基材中の前記触媒スラリーの保持量を、処理前後で90〜98質量%に低減する、
〔1〕又は〔2〕に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
〔4〕
前記除去工程後、前記ウォールフロー型基材に400〜650℃の熱処理を行う焼成処理をさらに有する、
〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
本発明によれば、触媒層の形成にともなう圧力損失の過度の増大が抑制され、排ガス浄化性能の向上も達成された排ガス浄化触媒の製造方法、及び該製造方法により製造された排ガス浄化触媒を提供することができる。そして、この排ガス浄化触媒の製造方法は、触媒を担持したパティキュレートフィルタの圧力損失の上昇抑制手段として、ガソリンパティキュレートフィルター(GPF)のみならずディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等の他のパティキュレートフィルタにおいても利用することができ、このようなパティキュレートフィルタを搭載した排ガス処理システムの一層の高性能化が図られる。
本実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法を模式的に示す工程図である。 余剰の触媒スラリーが隔壁の気孔を閉塞している状態を示す模式図(左図)と、隔壁の気孔を閉塞する余剰の触媒スラリーがカウンターブローにて除去された状態を示す模式図(右図)である。 実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒、並びに、触媒スラリーを塗工する前の基材における圧力損失の測定結果を示すグラフである。 実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒におけるモデルガス評価の結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。本明細書において、「D50粒子径」とは、体積基準の粒子径の累積分布において小粒径からの積算値が全体の50%に達したときの粒子径をいい、「D90粒子径」とは、体積基準の粒子径の累積分布において小粒径からの積算値が全体の90%に達したときの粒子径をいう。また、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その上限値「1」及び下限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
[排ガス浄化触媒の製造方法]
本実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法は、内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の製造方法であって、多孔質の隔壁により複数の通路が画定されたウォールフロー型基材の排ガス導入側又は排ガス排出側の端部に、触媒スラリーを含浸保持させる含浸工程(S1)と、端部側からウォールフロー型基材内に気体を流入させることにより、前記ウォールフロー型基材に含浸された前記触媒スラリーを多孔質の隔壁に塗工する塗工工程(S4)と、隔壁の気孔を閉塞する余剰の触媒スラリーを除去する除去工程(S6)と、を少なくとも有することを特徴とする。また、本実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法は、上記除去工程後に触媒スラリーが塗工されたウォールフロー型基材を熱処理する焼成工程を有していてもよい。以下、図1に示す、本実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法を模式的に示す工程図を参照しつつ、各工程について説明する。
<含浸工程>
この含浸工程S1では、多孔質の隔壁により複数の通路が画定されたウォールフロー型基材1(以下、単に「基材1」ともいう。)の排ガス導入側1a又は排ガス排出側1bの端部に、触媒スラリー2を含浸保持させる(図1)。含浸方法としては、特に制限されないが、例えば、触媒スラリー中に基材の端部を浸漬させ、必要に応じて、反対側の端部から気体を流出(吸引)させることにより触媒スラリーを引き上げてもよい。この際、触媒スラリーの塗工量の少ない部分又は塗工されない部分が生じないよう、目標とする触媒の担持量よりも多くなるように基材の端部に触媒スラリーを含浸保持させることが好ましい。
触媒スラリーを含浸保持させる端部は、排ガス導入側又は排ガス排出側のどちらでもよいが、排ガス導入側の端部に触媒スラリーを含浸保持させることが好ましい。これにより、排ガスの流入方向と同じ方向で後述する塗工工程の気体を流入することができ、複雑な気孔形状に対して、排ガスの流れに沿った形で触媒スラリーを塗工することができる。そのため、圧力損失の上昇抑制が見込まれ、また、排ガス浄化性能の向上も期待できる。
(基材)
排ガス浄化触媒の骨格を構成するウォールフロー構造の基材について説明する。基材は、排ガス導入側の端部が開口した導入側セルと、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部が開口した排出側セルとが、多孔質の隔壁によって仕切られているウォールフロー構造を有する。このような構成を有する基材を用いた排ガス浄化触媒では、内燃機関から排出される排ガスが、排ガス導入側の端部(開口)から導入側セル内へと流入し、隔壁の気孔内を通過して隣接する排出側セル内へ流入し、排ガス排出側の端部(開口)から流出する。この過程において、粒子状物質(PM)は隔壁の気孔内を通り難いため、一般に、導入側セル内の隔壁上に堆積し、堆積したPMは、触媒層の触媒機能によって、或いは所定の温度(例えば500〜700℃程度)で燃焼され、分解される。また、排ガスは隔壁内に設けられる触媒層と接触し、これによって排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)は水(H2O)や二酸化炭素(CO2)などへ酸化され、窒素酸化物(NOx)は窒素(N2)へ還元され、有害成分が浄化(無害化)される。なお、本実施形態においては、粒子状物質の除去及び一酸化炭素(CO)等の有害成分の浄化をまとめて「排ガス浄化性能」ともいう。
基材としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の材質及び形体のものが使用可能である。例えば、基材の材質は、内燃機関が高負荷条件で運転された際に生じる高温(例えば400℃以上)の排ガスに曝された場合や、粒子状物質を高温で燃焼除去する場合などにも対応可能なように、耐熱性素材からなるものが好ましい。耐熱性素材としては、例えば、コージェライト、ムライト、チタン酸アルミニウム、及び炭化ケイ素(SiC)等のセラミック;ステンレス鋼などの合金が挙げられる。また、基材の形体は、粒子状物質の捕集能力および圧力損失上昇抑制等の観点から適宜調整することが可能である。例えば、基材の外形は、円筒形状、楕円筒形状、又は多角筒形状等とすることができる。また、組み込む先のスペースなどにもよるが、基材の容量(セルの総体積)は、好ましくは0.1〜5Lであり、より好ましくは0.5〜3Lである。また、基材の延伸方向の全長(隔壁の延伸方向の全長)は、好ましくは10〜500mm、より好ましくは50〜300mmである。
導入側セルと排出側セルは、筒形状の軸方向に沿って規則的に配列されており、隣り合うセル同士は延伸方向の一の開口端と他の一の開口端とが交互に封止されている。導入側セル及び排出側セルは、供給される排ガスの流量や成分を考慮して適当な形状および大きさに設定することができる。例えば、導入側セル及び排出側セルの形状は、三角形;正方形、平行四辺形、長方形、及び台形等の矩形;六角形及び八角形等のその他の多角形;円形とすることができる。また、導入側セルの断面積と、排出側セルの断面積とを異ならせたHigh Ash Capacity(HAC)構造を有するものであってもよい。なお、導入側セル及び排出側セルの個数は、排ガスの乱流の発生を促進し、かつ、排ガスに含まれる微粒子等による目詰まりを抑制できるように適宜設定することができ、特に限定されないが、200cpsi〜400cpsiが好ましい。
隣り合うセル同士を仕切る隔壁は、排ガスが通過可能な多孔質構造を有するものであれば特に制限されず、その構成については、粒子状物質の捕集能力や圧力損失の上昇抑制、基材の機械的強度の向上等の観点から適宜調整することができる。例えば、後述する触媒スラリーを用いて該隔壁の気孔内部に触媒層を形成する場合、気孔径(例えば、モード径(気孔径の頻度分布における出現比率がもっとも大きい気孔径(分布の極大値)))や気孔容積が大きい場合には、触媒スラリーによる気孔の閉塞が生じにくく、得られる排ガス浄化触媒は圧力損失が上昇しにくいものとなる傾向にあるが、粒子状物質の捕集能力が低下し、また、基材の機械的強度も低下し得る。一方で、気孔径や気孔容積が小さい場合には、触媒スラリーによる気孔の閉塞が生じやすく、圧力損失が上昇しやすいものとなるが、粒子状物質の捕集能力は向上し、基材の機械的強度も向上する傾向にある。この点、本実施形態の製造方法においては、後述する除去工程により触媒スラリーによる気孔の閉塞を除去することができるため、粒子状物質の捕集能力を高く維持しつつも圧力損失の上昇が抑制されたものとすることができる。
このような観点から、隔壁の気孔径(モード径)は、好ましくは8〜25μmであり、より好ましくは10〜22μmであり、さらに好ましくは13〜20μmである。また、隔壁の厚み(延伸方向に直交する厚さ方向の長さ)は、好ましくは6〜12milであり、より好ましくは6〜10milである。さらに、水銀圧入法による隔壁の気孔容積は、好ましくは0.2〜1.5cm3/gであり、より好ましくは0.25〜0.9cm3/gであり、さらに好ましくは0.3〜0.8cm3/gである。また、水銀圧入法による隔壁の気孔率は、好ましくは20〜80%であり、より好ましくは40〜70%であり、好ましくは60〜70%である。気孔容積又は気孔率が下限以上であることにより、圧力損失の上昇がより抑制される傾向にある。また、気孔容積又は気孔率が上限以下であることにより、基材の強度がより向上する傾向にある。なお、気孔径(モード径)、気孔容積、及び気孔率は、下記実施例に記載の条件において水銀圧入法により算出される値を意味する。
(触媒スラリー)
次いで、隔壁内の気孔表面に設けられる触媒層を形成するための触媒スラリーについて説明する。触媒スラリーは、触媒粉体と、水などの溶剤とを含む。触媒粉体は、触媒金属粒子と該触媒金属粒子を担持する担体粒子とを含む、複数の触媒粒子(以降において、単に「粒子」等と称する場合もある。)の集団であり、後述する焼成工程を経て、触媒層を形成する。触媒粒子は、本実施形態では、触媒金属粒子と該触媒金属粒子を担持する担体粒子とを含む複合粒子を用いているが、その種類は特に限定されず、公知の触媒粒子から適宜選択して用いることができる。なお、隔壁の気孔内部への塗工性の観点から、触媒スラリーの固形分率は、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜30質量%である。
触媒粉体のD90粒子径は、好ましくは1〜7μmであり、より好ましくは1〜6μmであり、さらに好ましくは1〜5μmである。D90粒子径が1μm以上であることにより、触媒粉体をミリング装置で破砕する場合の粉砕時間を短縮することができ、作業効率がより向上する傾向にある。また、D90粒子径が7μm以下であることにより、粗大粒子が隔壁内の気孔を閉塞することが抑制され、圧力損失の上昇が抑制される傾向にある。なお、本明細書において、D90粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(例えば、島津製作所社製、レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD−3100等)で測定される径を意味する。
触媒金属粒子を構成する触媒金属としては、種々の酸化触媒や還元触媒として機能し得る金属種を用いることができる。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)等の白金族金属が挙げられる。このなかでも、酸化活性の観点からはパラジウム(Pd)、白金(Pt)が好ましく、還元活性の観点からはロジウム(Rh)が好ましい。これら金属は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。排ガスとの接触面積を高める観点から、触媒スラリー中の触媒金属粒子の平均粒子径は小さいことが好ましい。具体的には、触媒金属粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜15nmであり、より好ましくは1〜10nmであり、さらに好ましくは1〜7nmである。なお、触媒金属粒子の平均粒子径は、例えば日立ハイテクノロジーズ社製HD−2000等の走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)を用いて確認することができ、本明細書では、無作為に抽出した10点の触媒金属粒子の円相当径を算出し、これらの平均値を触媒金属粒子の平均粒子径とする。
触媒金属粒子を担持する担体粒子としては、従来この種の排ガス浄化用触媒で使用される無機化合物を考慮することができる。特に限定されずに、酸化セリウム(セリア:CeO2)、セリア−ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物)等の酸素吸蔵材(OSC材)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al23)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化チタン(チタニア:TiO2)等の酸化物やこれらの酸化物を主成分とした複合酸化物を挙げることができる。ここで、酸素吸蔵材(OSC材)とは、排ガスの空燃比がリーンであるとき(即ち酸素過剰側の雰囲気)には排ガス中の酸素を吸蔵し、排ガスの空燃比がリッチであるとき(即ち燃料過剰側の雰囲気)には吸蔵されている酸素を放出するものをいう。
排ガス浄化性能の観点から、担体粒子の比表面積は、好ましくは10〜500m2/g、より好ましくは30〜200m2/gである。
排ガス浄化性能の向上や、触媒金属の粒成長(シンタリング)の進行の抑制などの観点から、ウォールフロー型基材に担持させた状態の触媒金属担持率(基材1Lあたりの触媒金属量)は、好ましくは0.5〜10g/Lであり、より好ましくは1〜8g/Lであり、さらに好ましくは1〜6g/Lである。
<塗工工程>
この塗工工程S4では、触媒スラリー2を含浸させた端部側1aからウォールフロー型基材1内に気体F1を流入させる(図1)。これにより、含浸した触媒スラリーが気体の導入側から基材の奥へ気体の流れに沿って移動し、気体の排出側の端部へ到達する。その過程において、隔壁の気孔内部を触媒スラリーが通過することで、気孔内部に触媒スラリーを塗工することができる。この際、気孔内部の特に狭くなっている部分1cにおいては触媒スラリー2がその部分を閉塞するように保持され得る(図2)。この隔壁の気孔を閉塞する余剰の触媒スラリーの除去については後述するが、気孔を閉塞する触媒スラリーを除去しない状態で後述する焼成工程を行うと、気孔を閉塞するように触媒層が形成されるため、圧力損失が増大する傾向にある。また、このように気孔を閉塞する触媒層が存在すると、排ガスの流路が制限されることにより、排ガス浄化性能の低下も生じ得る。
触媒スラリーを含浸させた端部側から基材内に気体を流入させる際の基材の向きは特に制限されないが、隔壁の延伸方向と鉛直方向とを略並行とし、かつ、触媒スラリーを含浸させた端部が鉛直方向上向きとなるように基材の向きを調整した上で(図1のS2〜S3)、鉛直方向上方から下方に向けて触媒スラリーを含浸させた端部側から基材内に気体を流入させることが好ましい(図1のS4)。これにより、流入する気体の流れ方向と重力方向(鉛直下方)とが一致するため、重力方向に逆らって鉛直方向下方から上方に向けて気体を流入させる場合や、重力方向と垂直に隔壁の延伸方向を水平方向にして気体を流入させる場合と比較して、隔壁により均一に触媒スラリーを塗工することができる。
<除去工程>
この除去工程S6では、隔壁の気孔を閉塞する余剰の触媒スラリー2を除去する。除去方法としては、特に制限されないが、例えば、触媒スラリーを含浸させた端部とは反対側の端部から、基材内に気体F2を流入させる方法(カウンターブロー)や(図1)、振動などの外力を加えることで閉塞を解除する方法が挙げられる。これにより、触媒スラリーを含浸させた端部側からの気体の流入では除去困難な触媒スラリーによる気孔の閉塞(例えば図2に示すように、気体F1の流入方向に向かって狭小化する気孔における触媒スラリーの閉塞)を、解消することが容易となる。そのため、後述する焼成工程を経て得られる排ガス浄化触媒は、気孔を閉塞するように形成される触媒層のより少ないものとなり、圧力損失が低下しまた排ガス浄化性能が向上したものとなる。
余剰の触媒スラリーを除去する際、基材中の触媒スラリーの保持量を、処理前後で90〜98質量%に低減することが好ましい。より具体的には、除去工程後において担持される触媒スラリーの量が、塗工工程後の基材に担持させる触媒スラリーの量に対して、90〜98質量%となるように調整することが好ましい。すなわち、塗工工程後の基材に担持させた触媒スラリーの2〜10質量%が、除去工程により除去されるよう調整することが好ましい。この際、除去工程後における触媒スラリーの量が必要以上に少なくなることがないように、除去工程後において担持される触媒スラリーの量は、塗工工程後の基材に担持させる触媒スラリーの量に対して、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。また、余剰の触媒スラリーを十分に除去する観点から、除去工程後において担持される触媒スラリーの量は、塗工工程後の基材に担持させる触媒スラリーの量に対して、好ましくは98質量%以下である。特に、除去工程を上記カウンターブロー法により実施する場合には、塗工工程後の基材に担持させた触媒スラリーの一部が、除去工程の気体の流入により気体の排出側の端部から流出するように気体の流入圧力と流入時間を調整することが好ましい。
除去工程を上記カウンターブロー法により実施する場合、基材内に気体を流入させる際の基材の向きは特に制限されないが、隔壁の延伸方向と鉛直方向とを略並行とし、かつ、触媒スラリーを含浸させた端部が鉛直方向下向きとなるように基材の向きを調整した上で(図1のS5)、鉛直方向上方から下方に向けて触媒スラリーを含浸させた端部側から基材内に気体を流入させることが好ましい(図1のS6)。これにより、流入する気体の流れ方向と重力方向(鉛直下方)とが一致するため、重力方向に逆らって鉛直方向下方から上方に向けて気体を流入させる場合や、重力方向と垂直に隔壁の延伸方向を水平方向にして気体を流入させる場合と比較して、より効果的に余剰の触媒スラリーを除去することができる。
<焼成工程>
この焼成工程では、除去工程後、ウォールフロー型基材に熱処理を行う。また、焼成温度は、特に制限されないが、好ましくは400〜650℃であり、より好ましくは450〜600℃であり、さらに好ましくは500〜600℃である。また、焼成時間は、好ましくは0.5〜2時間であり、好ましくは0.5〜1.5時間である。
また、この熱処理の前に触媒スラリーが塗工されたウォールフロー型基材を乾燥させてもよい。乾燥温度は、特に制限されないが、好ましくは100〜225℃であり、より好ましくは100〜200℃であり、さらに好ましくは125〜175℃である。また、乾燥時間は、好ましくは0.5〜2時間であり、好ましくは0.5〜1.5時間である。
[排ガス浄化触媒]
本実施形態の排ガス浄化触媒は、上記排ガス浄化触媒の製造方法により得られるものであり、内燃機関から排出される排ガスを浄化するために用いられるものである。特に、本実施形態の排ガス浄化触媒は、排ガスに含まれる粒子状物質を捕集し、除去できるガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)に用いられるものであることが好ましい。内燃機関(エンジン)には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給され、この混合気が燃焼されて、燃焼エネルギーが力学的エネルギーに変換される。このときに燃焼された混合気は排ガスとなって排気系に排出される。排気系には、排ガス浄化触媒を備える排ガス浄化装置が設けられており、排ガス浄化触媒により排ガスに含まれる有害成分(例えば、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx))が浄化されるとともに、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)が捕集され、除去される。
上記製造方法により得られる、触媒塗工後の排ガス浄化触媒の水銀圧入法による隔壁の気孔径(モード径)は、好ましくは10〜23μmであり、より好ましくは12〜20μmであり、さらに好ましくは14〜18μmである。また、触媒塗工後の排ガス浄化触媒の水銀圧入法による隔壁の気孔容積は、好ましくは0.2〜1.0cm3/gであり、より好ましくは0.25〜0.9cm3/gであり、さらに好ましくは0.3〜0.8cm3/gである。さらに、触媒塗工後の排ガス浄化触媒の水銀圧入法による隔壁の気孔率は、好ましくは20〜80%であり、より好ましくは30〜70%であり、好ましくは35〜60%である。なお、気孔径(モード径)、気孔容積、及び気孔率は、下記実施例に記載の条件において水銀圧入法により算出される値を意味する。
以下に試験例、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
(実施例)
D50粒子径が28μm、BET比表面積が141m2/gのアルミナ粉末に、硝酸パラジウム水溶液を含侵させ、その後、500℃で1時間焼成して、Pd担持アルミナ粉末(Pd含有量:4.3質量%)を得た。また、D50粒子径が29μm、BET比表面積が145m2/gのジルコニア−ランタン修飾アルミナ粉末に、硝酸ロジウム水溶液を含侵させ、その後、500℃で1時間焼成して、Rh担持ジルコニア−ランタン修飾アルミナ粉末(Rh含有量:0.7質量%)を得た。
得られたPd担持アルミナ粉末1kg及びRh担持ジルコニア−ランタン修飾アルミナ粉末1kgと、D50粒子径が10μm、BET比表面積が71m2/gのセリアジルコニア複合酸化物粉末1kgと、46質量%硝酸ランタン水溶液195gと、イオン交換水とを混合し、得られた混合物をボールミルに投入し、触媒粉体が所定の粒子径分布になるまでミリングし、D90粒子径が3.0μmの触媒スラリーを得た。
次いで、コージェライト製のウォールフロー型ハニカム基材(セル数/ミル厚:300cpsi/8mil、直径:118.4mm、全長:91mm、気孔率:65%)を用意した。この基材の排ガス導入側の端部を上記の触媒スラリーに浸漬させ、反対側の端部側から減圧吸引して、基材内に触媒スラリーを含浸保持させた。基材の端面側から基材内へ気体を流入させて、基材の隔壁の気孔内部の表面に触媒スラリーを塗工するとともに、気体の排出側の端部から過剰分の触媒スラリーを吹き払った(塗工工程)。
次いで、隔壁の気孔を閉塞する余剰の触媒スラリーを除去するため、触媒スラリーを含浸させた端面と反対側の端面側から基材内へ気体を流入させて(カウンターブロー)、隔壁の気孔を閉塞する余剰の触媒スラリーを除去した(除去工程)。その際、塗工工程後に担持された触媒スラリーの量に対して、除去工程後において担持される触媒スラリーの量が91質量%となるように気体流入時間を調整した。
その後、触媒スラリーを塗工した基材を150℃で乾燥させ、その後、大気雰囲気下、550℃で焼成することにより排ガス浄化触媒を作製した。なお、焼成後における触媒の塗工量は、基材1L当たり60.9g(白金族金属の重量を除く)であった。詳細を表1に示す。
(比較例)
触媒スラリーを吸入させた端面側から基材内へ気体流入をする際に、目標とする担持量となるよう気体流入時間を調整し、かつカウンターブローを行わなかったこと以外は実施例と同様にして、排ガス浄化触媒を作製した。詳細を表1に示す。
触媒組成は白金族金属の重量を除く
[粒子径分布測定]
触媒スラリーの粒子径分布は、島津製作所社製レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD−3100を用いて、レーザー散乱法によりD90粒子径を測定した。
[気孔率の算出]
実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒、並びに、触媒スラリーを塗工する前の基材の、排ガス導入側部分、排ガス排出側部分、及び中間部分の各隔壁から、気孔径(モード径)及び気孔容積の測定用サンプル(1cm3)をそれぞれ採取した。測定用サンプルを乾燥後、水銀ポロシメーター(Thermo Fisher Scientific社製、商品名:PASCAL140及びPASCAL440)を用いて、水銀圧入法により気孔分布を測定した。この際、PASCAL140により低圧領域(0〜400Kpa)を測定し、PASCAL440により高圧領域(0.1Mpa〜400Mpa)を測定した。得られた気孔分布から、気孔径(モード径)を求め、また、気孔径1μm以上の気孔における気孔容積を算出した。なお、気孔径及び気孔容積の値としては、排ガス導入側部分、排ガス排出側部分、及び中間部分それぞれで得られた値の平均値を採用した。
次いで、下記式により、実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒の気孔率を算出した。その結果を、下記表2に示す。表2に示されるように、実施例で作製した排ガス浄化触媒と、比較例で作製した排ガス浄化触媒の気孔径(モード径)は同程度であるが、実施例で作製した排ガス浄化触媒の方が気孔容積が高いことから、実施例で作製した排ガス浄化触媒においては触媒成分による気孔の閉塞が抑制されていると推察される。
コート後触媒の気孔率(%)=コート後触媒気孔容積(cc/g)÷コート前担体気孔容積(cc/g)×触媒スラリーを塗工する前のウォールフロー型基材の気孔率(%)
コート後触媒気孔容積(cc/g):実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒の気孔容積
コート前担体気孔容積(cc/g):実施例及び比較例で用いたウォールフロー型基材(触媒スラリー塗工前)の気孔容積
触媒スラリーを塗工する前のウォールフロー型基材の気孔率(%)=65%
[圧力損失の測定]
実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒、並びに、触媒スラリーを塗工する前の基材を圧力損失測定装置(ツクバリカセイキ株式会社製)にそれぞれ設置し、設置した排ガス浄化触媒に室温の空気を流入させた。排ガス浄化触媒からの空気の流出量が4m3/minとなったときの空気の導入側と排出側の差圧を測定して得られた値を、排ガス浄化触媒の圧力損失とした。その結果を図3に示す。図3に示されるとおり、実施例で作製した排ガス浄化触媒は、比較例で作製した排ガス浄化触媒よりも圧力損失が少ないことが分かる。
[コート状態観察]
実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒の隔壁から走査型電子顕微鏡(SEM)の測定用サンプル(1cm3)をそれぞれ作製した。測定用サンプルを樹脂に埋め、カーボン蒸着の前処理を行なった。前処理後の測定用サンプルを、走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss社製、商品名:ULTRA55)を用いて観察し、基材への触媒の担持状態を確認した。その結果、実施例における基材への触媒の担持状態は隔壁の気孔を閉塞する余剰の触媒スラリーがカウンターブローにて除去された状態を示す模式図(右図)のとおりであり、比較例における基材への触媒の担持状態は余剰の触媒スラリーが隔壁の気孔を閉塞している状態を示す模式図(左図)のとおりであった。
[電気炉耐久・モデルガス評価]
実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒の中心部から、円筒状にコアサンプル(直径25.4mm、全長91mm)を切り出し、電気炉にセットした。その後、以下に示すRich雰囲気、N2 purge雰囲気、Lean雰囲気、N2 purge雰囲気を1サイクルとして980℃で10時間電気炉による熱処理(電気炉耐久)を実施した。
その後、電気炉から取り出したコアサンプルをモデルガス反応装置にセットした。その後、下記に示す条件にてモデルガス評価を実施し、ライトオフ性能(浄化率が80%に達する温度)を測定した。その結果を図4に示す。図4に示されるとおり、実施例で作製した排ガス浄化触媒は、比較例で作製した排ガス浄化触媒よりもライトオフ温度が低く、ライトオフ性能の向上が確認された。これは、隔壁内の閉塞孔が減少し、触媒と排ガスとの接触が良化したためと考えられる。
本発明の排ガス浄化触媒の製造方法によれば、圧力損失の上昇が抑制された排ガス浄化触媒を比較的容易に得られる。このようにして、製造された排ガス浄化触媒は、ガソリンエンジンの排ガス中に含まれる粒子状物質を除去するため排ガス浄化触媒として広く且つ有効に利用することができる。また、本発明の排ガス浄化触媒は、ガソリンエンジンのみならず、ディーゼルエンジン、ジェットエンジン、ボイラー、ガスタービン等の排ガス中に含まれる粒子状物質を除去するため排ガス浄化触媒としても有効に利用可能である。
1 ・・・ウォールフロー型基材
1a・・・排ガス導入側
1b・・・排ガス排出側
2 ・・・触媒スラリー
F1・・・気体
F2・・・気体

Claims (4)

  1. 内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の製造方法であって、
    多孔質の隔壁により複数の通路が画定されたウォールフロー型基材の排ガス導入側又は排ガス排出側の端部に、触媒スラリーを含浸保持させる含浸工程と、
    前記端部側から前記ウォールフロー型基材内に気体を流入させることにより、前記ウォールフロー型基材に含浸された前記触媒スラリーを多孔質の前記隔壁に塗工する塗工工程と、
    前記気体を流入させた前記端部と反対側の端部から、前記ウォールフロー型基材内に気体を流入させることにより、前記隔壁の気孔を閉塞する余剰の前記触媒スラリーを除去する除去工程と、を有する、
    排ガス浄化触媒の製造方法。
  2. 前記含浸工程において、前記ウォールフロー型基材の前記排ガス導入側の端部に、前記触媒スラリーを含浸保持させる、
    請求項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
  3. 前記除去工程においては、前記ウォールフロー型基材中の前記触媒スラリーの保持量を、処理前後で90〜98質量%に低減する、
    請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
  4. 前記除去工程後、前記ウォールフロー型基材に400〜650℃の熱処理を行う焼成処理をさらに有する、
    請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
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