JP6525214B2 - 抗体またはその可変領域を含む抗体断片、抗原ポリペプチド、およびその利用 - Google Patents

抗体またはその可変領域を含む抗体断片、抗原ポリペプチド、およびその利用 Download PDF

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Description

本発明は、抗体またはその可変領域を含む抗体断片、抗原ポリペプチド、およびその利用に関する。
H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)をはじめとするH5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは、2003年以降各地で家禽における鳥インフルエンザの発生を引き起こし、アジアを中心に常在化の様相を呈している。このような高病原性鳥インフルエンザウイルスが鳥類に感染し、その感染症が蔓延すると、畜産業等に甚大な損害を及ぼすと共に、ヒトへの感染も危惧される。日本国内におけるHPAIVの防疫は摘発淘汰を基本としているため、現場レベルにおける早期検出が重要である。現在現場で簡易的に用いられる検査系として、A型インフルエンザウイルスを検出するものが用いられているが、H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザを即座に判定するものではない。既存の診断キットとして、例えば、インフルエンザ核タンパク質を標的抗原とした診断キットが挙げられるが、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルス特異性がなく、他のインフルエンザウイルスにも反応するという問題がある。また、その他の例としては、H5N1亜型不活化ウイルスのリコンビナントH5ヘマグルチニン(HA、ウイルス赤血球凝集素)タンパク質を標的抗原とした診断キットが挙げられるが、イムノドミナントな抗原に対する抗体ができるため、ウイルスの遺伝子に変異があった場合、反応性が低下または検出できないという可能性があるという問題がある。そのため、H5亜型鳥インフルエンザウイルス感染の診断試薬の開発が望まれている。効果的な診断試薬の開発のためには、広くH5亜型鳥インフルエンザウイルスを認識する抗体作製が必要である。
例えば、特許文献1には、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのHAエンベロープ糖タンパク質またはN1亜型のノイラミニダーゼ糖タンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体が記載されている。また、特許文献2には、HAのHA2サブユニットにおけるエピトープを認識および結合することができ、H5亜型の鳥インフルエンザウイルスに対して中和活性を有するモノクローナル抗体等が記載されている。
また、特許文献3には、鳥インフルエンザウイルスのHAタンパク質のステム領域のエピトープに結合し、H5N1亜型を包含するA型インフルエンザウイルスを中和する、単離されたモノクローナル抗体が記載されている。
日本国公開特許公報「特表2010−539162号公報(2010年12月16日公表)」 日本国公開特許公報「特表2010−502207号公報(2010年1月28日公表)」 日本国公開特許公報「特表2011−506344号公報(2011年3月3日公表)」
上述の特許文献1〜3における抗体のスクリーニングに際し、抗体の活性の評価は、ウイルスの中和試験によって行われている。例えば血球凝集阻害試験などにより、HAタンパク質活性の有無を試験することによって行われている。すなわち、従来技術における抗体は、ヒト等に感染した場合、当該抗体を用いてH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスを中和することを目的としている。その為、それらの抗体を検出試薬に供したとしても、ウイルスの変異が起こってしまった場合、抗体の反応性が失われ、ウイルスを検出できなくなる可能性が高い。
しかし、亜型ウイルス特異的な検出の標的となるウイルス赤血球凝集素(ヘマグルチニン、HA)タンパク質においてアミノ酸置換が頻繁に起こっており、広くH5亜型HAを認識する抗体の作製が困難である。そのため、抗原検出によるH5亜型鳥インフルエンザウイルス感染の診断試薬の普及が遅れている。
上記の課題を解決するために、本願発明者らは鋭意検討をし、広くH5亜型HAを認識し得る抗体の作出に成功した。
本発明は以下の何れかの一態様を包含する。
<1> H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする、抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<2> H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を製造する方法であって、下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、方法:(a)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドをトリに免疫する工程;(b)上記工程(a)で免疫したトリから上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を含むファージ抗体ライブラリーを得る工程;および(c)上記工程(b)で得られたファージ抗体のうち、上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を濃縮および選抜する工程。
<3> 配列番号10に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、ポリペプチド。
本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片は、H5亜型鳥インフルエンザウイルスに特異的に結合し、且つH5以外の他の亜型の鳥インフルエンザウイルスには結合しないという優れた効果を奏する。したがって、本発明に係る抗体を用いれば、H5亜型鳥インフルエンザウイルスを正確、迅速且つ簡便に検出することができる。
本発明の実施例1に係る、抗体の作製方法における一工程を示す図である。ニワトリの免疫および免疫ニワトリ脾臓からのscFvファージ抗体ライブラリーの作製の工程を示している。 本発明の実施例1に係る、抗体の作製方法における一工程を示す図である。scFvファージライブラリーの、パニング選択の工程を示している。 本発明の実施例1に係る、抗体の作製方法における一工程を示す図である。scFvファージライブラリーの、ELISAを用いたスクリーニングの工程を示している。 本発明の実施例1に係る、得られた野生型の単鎖抗体のアミノ酸配列の可変領域を示す図である。 本発明の実施例1に係る、抗体の作製方法における一工程を示す図である。二価抗体発現ベクターへの組換えによる二価抗体の作製の工程を示している。 本発明の実施例1に係る、野生型の二価抗体タンパク質を電気泳動後にCBB染色した結果を示す図である。 本発明の実施例1に係る、野生型の二価抗体の抗体価を示す図である。 本発明の実施例1に係る、野生型の二価抗体のH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスの変異体および複数種類のH5以外の亜型鳥インフルエンザウイルスに対する抗体結合性を示す図である。 本発明の実施例2に係る、野生型の単鎖抗体のH鎖のCDR3のアミノ酸配列と変異型抗体のH鎖のCDR3のアミノ酸配列とのアライメントを示す図である。 本発明の実施例2に係る、変異型の二価抗体の抗体価を示す図である。 本発明の実施例2に係る、変異型の二価抗体の、各亜型鳥インフルエンザウイルスに対する抗体結合性を示す図である。 本発明の実施例に係る、H5亜型鳥インフルエンザウイルスの抗原として用いた合成ペプチドの配列(右)およびHAタンパク質の立体構造(左)を示す図である。 本発明の参考例に係る、H1〜H16亜型鳥インフルエンザウイルスにおけるすべての亜型間(a)およびH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスに存在しているすべてのクレード間(b)の配列同一性を示す図である。
本発明の実施の形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
〔用語等の定義〕
本明細書において、「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体を意図している。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、特に言及のない限り、デオキシリボヌクレオチドの配列またはリボヌクレオチドの配列を意図している。また、ポリヌクレオチドは、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、一本鎖の場合はセンス鎖であってもアンチセンス鎖であってもよい。
本明細書において、「ポリペプチド」は、「タンパク質」または「タンパク質断片」とも換言できる。
本明細書において、「H5亜型鳥インフルエンザウイルス」および「H5N1亜型鳥インフルエンザウイルス」は、鳥インフルエンザウイルスのサブタイプの一種を指している。
「鳥インフルエンザウイルス」は、それらの核タンパク質およびマトリックスタンパク質の抗原特異性に従って分類される。鳥インフルエンザウイルスは主にA、BおよびC血清型に類別される。このうち、A型鳥インフルエンザウイルスは、8個のRNA分節を有し、10個のウイルスタンパク質をコードしている。
「ヘマグルチニン」(以下、“HA”と称する)は、インフルエンザウイルスのエンベロープ糖タンパク質を意味する。HAは、インフルエンザウイルスの宿主細胞への吸着および侵入を可能にする。「ノイラミニダーゼ」(以下、“NA”と称する)は、ウイルス粒子が感染後期に細胞表面から離れる際にシアル酸を切断する働きを有しており、感染性を獲得する役割を担っている。
全ての既知のA型インフルエンザウイルスは鳥類に由来し、A型のインフルエンザウイルスは、HAおよびNAの抗原性の性質によって亜型にさらに分類される。HAには、H1〜H16の16個のサブタイプがあり、NAには、N1〜N9の9個のサブタイプがある。これらのHAとNAとの種々の組合せを有する、種々のA型インフルエンザウイルスのサブタイプが存在している。これらの組み合わせのうち、鳥由来インフルエンザウイルスのH5N1、H6N1、H7N3、H7N7、H7N9、H9N2およびH10N8の亜型は、ヒトへの感染を引き起こすことが知られている。H5およびH7亜型のインフルエンザウイルスのうち、一部のウイルスは本来の宿主である水禽類に対する病原性はそれほど高くないが、鶏等の家禽に感染した場合死に至らしめるほどの高い病原性を示すことが知られ、高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)と呼ばれている。さらに、近年では、家禽におけるH5N1亜型ウイルス感染によるインフルエンザの発生から、ヒトへの感染事例が相次いで報告されている。このような状況から、H5N1亜型HPAIVが、ヒトからヒトへ効率的に感染できるように変異し、新型インフルエンザウイルスとなることが懸念されている。
近年アジアを中心に家禽に常在化しているH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスは、HA遺伝子の塩基配列の相同性に基づいて、さらに複数種のクレードに分類することができる。米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)により提供されるGenBankデータベース(ウェブページ:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)において、所定のアクセッション番号(Accession No.)により登録されているH5N1亜型HPAIVのHA遺伝子は、WHO/OIE/FAO H5N1 Evolution Working Groupによって、クレード0から9まで、およびさらにそのサブクレードに分類されている。例えば、クレード0としてA/Hong Kong/156/1997、クレード1としてA/duck/Vietnam/2/2007、クレード2.1.1としてA/chicken/Indonesia/7/2003、クレード2.1.2としてA/Indonesia/CDC596/2006、クレード2.1.3としてA/Indonesia/CDC940/2006、クレード2.2としてA/Egypt/1394-NAMRU3/2007、クレード2.3.1としてA/duck/Hunan/127/2005、クレード2.3.2としてA/whooper swan/Akita/1/2008、クレード2.3.3としてA/chicken/Guiyang/3055/2005、クレード2.3.4としてA/Viet Nam/HN31242/2007、クレード2.4としてA/Chicken/Yunnan/493/2005、クレード2.5としてA/chicken/Yamaguchi/7/2004、クレード3としてA/Pheasant/HongKong/FY155/2001、クレード4としてA/goose/Guiyang/337/2006、クレード5としてA/goose/Guangxi/914/2004、クレード6としてA/duck/Hubei/wg/2002、クレード7としてA/Beijing/01/2003、クレード8としてA/chicken/Hong Kong/61.9/2002、およびクレード9としてA/Goose/Shantou/1621/2005が、それぞれのクレードの代表株として挙げられる。
また、本明細書において、「HA1領域」および「HA2領域」とは、それぞれ、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質(HA)のタンパク質分解酵素切断部位およびそれに連なる融合ペプチド領域を挟む2つの領域を指している。また、HAタンパク質のHA1−HA2接合部におけるタンパク質分解による切断はウイルスの増殖性と関連しており、この切断部位周辺に疎水性アミノ酸が連続して存在していることがHPAIVに特徴的である。そして、HA1領域およびHA2領域は、鶏における高病原性に関与する。
また、上述のH5N1亜型におけるすべてのクレード間のHA1領域全域の配列同一性は、各クレードの株について、上に挙げたものを用いた場合、いずれの異なるクレードの組み合わせにおいても、91〜99%の配列同一性を有している。一方で、H1〜H16すべての亜型間のHA1領域全域の配列同一性は、いずれの異なる亜型の組み合わせにおいても、7〜51%の範囲である。中でも、H1〜H4亜型およびH6〜H16亜型それぞれのHA1領域全域と、H5型のHA1領域全域との配列同一性は、非常に低く、すべて8%〜21%の範囲である。
また、上述のH5N1亜型におけるすべてのクレード間のHA2領域全域の配列同一性は、各クレードの株について、上に挙げたものを用いた場合、いずれのクレードの組み合わせにおいても、94〜100%の配列同一性を有している。一方で、H1〜H16すべての亜型間のHA1領域全域の配列同一性は、いずれの異なる亜型の組み合わせにおいても、42〜81%の範囲である。中でも、H1〜H4型およびH6〜H16亜型それぞれのHA2領域全域と、H5亜型のHA2領域全域との配列同一性は、45〜75%である。
また、本明細書において、「二価抗体」とは、1分子あたり抗原結合部位を2つ有する抗体、つまり、抗原との結合価が二価の抗体を意味する。上記「二価抗体」は、それぞれ相同な2本の軽鎖(軽鎖可変領域および軽鎖定常領域)と2本の重鎖(重鎖可変領域および重鎖定常領域)とがジスルフィド結合(S−S結合)により結合した構造を有する抗体である。但し、完全長の抗体分子である必要はなく、2本の重鎖がS−S結合により結合することができる構造、すなわち少なくともF(ab’)2フラグメントを有する構造であれば「二価抗体」の範疇に含まれる。
また、本明細書において、「一本鎖可変領域断片(single-chain variable fragment、(scFv))」とは、軽鎖(Light chain、L鎖とも称する)可変領域と重鎖(Heavy chain、H鎖とも称する)可変領域とがリンカーによってつながれ、2種類の可変領域が接近することよって、1つの抗原結合部位を形成した抗体を意味する。上記「一本鎖可変領域断片」は、1分子あたり1つの抗原結合部位を有する抗体である。例えば、ファージディスプレイ法を用いた抗体作成方法によって得られる抗体を指す。本明細書においては「単鎖抗体」とも記載する。
本明細書において、「Aおよび/またはB」は、AおよびBとAまたはBとの双方を含む概念であり、「AおよびBの少なくとも一方」とも換言できる。
〔1.本発明に係るHA1抗原ポリペプチド〕
本発明に係るHA1抗原ポリペプチドは、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。
また、本発明に係るHA1抗原ポリペプチドは、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド中の、連続する15個以上16個以下のアミノ酸からなるポリペプチドであり得る。
本明細書中において使用される場合、「配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるHA1抗原ポリペプチド」の機能が阻害されない限り、「配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」にリンカーペプチドが付加されたもの、他のアミノ酸またはタンパク質が連結されたもの(例えば、タグ化されたタンパク質または融合タンパク質)であってもよい。
配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるHA1抗原ポリペプチドに連結される、リンカーポリペプチドとしては、10〜25個のアミノ酸からなるポリペプチド等が挙げられ、タグとしては、Hisタグ、MycタグおよびFlagタグ等が挙げられる。
本発明に係るHA1抗原ポリペプチドの作製方法は、化学合成であっても発現ベクターを用いるものであってもよい。化学合成による場合は、本発明に係るHA1抗原ポリペプチドは、公知のポリペプチド合成法によって製造することができる。ポリペプチド合成法としては、液相ポリペプチド合成法、固相ペプチド合成法等の化学合成法が挙げられるが、これらに限定されない。発現ベクターを用いる場合は、発現ベクターを導入した形質転換体からポリペプチドを生成しても、インビトロ翻訳系を用いてポリペプチドを生成してもよい。例えば、配列番号10に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを挿入した発現ベクターを導入した宿主細胞中にて目的のポリペプチドを生成することができる。例えば、以下の〔4.組換えベクター〕の項目に記載の方法が好適に用いられる。また、形質転換体についても、例えば、以下の〔5.形質転換体〕の項目に記載の方法が用いられる。
なお、本発明に係るHA1抗原ポリペプチドは、宿主細胞中において安定的に発現していることが好ましいが、一過性に発現していてもよい。このようにして生成されたポリペプチドを、公知の方法に従って精製することができる。ポリペプチドの精製方法としては、特に限定されないが、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、およびアフィニティクロマトグラフィー等が挙げられる。
本発明に係るHA1抗原ポリペプチドは、実施例および図12にも示す通り、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスのHA1領域のアミノ酸配列のうち、H5N1亜型の異なる株間において非常に高く保持されており、且つ立体構造上、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスタンパク質の表面に出ている部位のアミノ酸配列である。一方で、H1〜H4型およびH6〜H16型において、このアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列の配列同一性は非常に低い。すなわち本発明に係るHA1抗原ポリペプチドは、宿主内においても変異が起こりにくく且つ、構造上、抗体との結合性能が非常に優れている。したがって、本発明に係るHA1抗原ポリペプチドであれば、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスに非常に特異的な抗体の作製に好適に利用することができる。
〔2.本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片〕
本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片は、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする。
ここで、「HA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する」とは、当該HA1抗原ポリペプチドの配列を認識して結合することを意味しており、例えば、当該HA1抗原ポリペプチドの配列を含む、より長い配列を有するポリペプチド等にも結合する。
本明細書において、上記「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgY、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗イディオタイプ抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体等の二価抗体および一本鎖可変領域断片および抗体の相補性決定領域(CDR)を含むペプチド等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
また、本発明の抗体の断片であって、上記抗体の可変領域を含む抗体断片も本発明の範囲に含まれる。かかる抗体断片としては、上記抗体の可変領域を含む抗体断片であってH5亜型鳥インフルエンザウイルスを認識する抗体断片であれば特に限定されるものではない。かかる抗体断片は、本発明の抗体のH鎖全長、L鎖全長、H鎖の可変領域、およびL鎖の可変領域のいずれかの領域の断片であってもよい。このような抗体断片であれば、例えば、フローサイトメトリー法またはELISA法に好適に用いることができる。また、抗体断片は、ヒトその他の動物の抗体に移植することによって、キメラ抗体を作製するために好適に用いることができる。
また、本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片の一態様は、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるHA1抗原ポリペプチド中の、連続する15個以上16個以下のアミノ酸に特異的に結合する。
また、上述の抗体またはその可変領域を含む抗体断片と、HA1抗原ポリペプチドとの特異的な結合は、HA1抗原ポリペプチド中の1箇所の特定の領域に生じているか、または2か所以上の異なる領域に同時に生じていてもよい。
本発明に係る抗体の一態様は、H鎖が配列番号26に示されるアミノ酸配列からなり、且つ、L鎖が配列番号28に示されるアミノ酸配列からなる二価抗体である。また、本発明に係る抗体の別の例は、H鎖が配列番号52に示されるアミノ酸配列からなり、且つ、L鎖が配列番号28に示されるアミノ酸配列からなる二価抗体である。
また、配列番号2に示すアミノ酸配列は、本発明の一態様に係る抗体のH鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号3に示すアミノ酸配列は、本発明の一態様に係る抗体のL鎖可変領域のアミノ酸配列である。図4に本発明の一態様に係る抗体のH鎖可変領域のアミノ酸配列およびL鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。図4に示すように、本発明の一態様に係る抗体のH鎖可変領域は、四角で囲んで示しているCDRの領域である、CDR1、CDR2およびCDR3を有している。すなわち本発明の一態様に係る抗体のH鎖可変領域は、配列番号1に示すアミノ酸配列の1番目〜130番目のアミノ酸配列からなり、31番目〜35番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号1に示すアミノ酸配列の50番目〜66番目のアミノ酸配列からなるCDR2および配列番号1に示すアミノ酸配列の99番目〜119番目のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。また、図4に示すように、本発明の一態様に係る抗体のL鎖可変領域は、四角で囲んで示しているCDR1、CDR2およびCDR3を有している。すなわち本発明の一態様に係る抗体のL鎖可変領域は、配列番号1に示すアミノ酸配列の148番目〜270番目のアミノ酸配列からなり、配列番号1に示すアミノ酸配列の168番目〜176番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号1に示すアミノ酸配列の193番目〜203番目のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号1に示すアミノ酸配列の232番目〜240番目のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。また、本発明の一態様の抗体は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる抗体である。また、本発明の別の一態様の抗体はH鎖可変領域が配列番号45に示すアミノ酸配列からなり、且つ、L鎖可変領域が配列番号3に示すアミノ酸配列からなる。さらに、本発明の別の一態様の抗体は配列番号44に示すアミノ酸配列からなる抗体である。
本発明の一態様に係る抗体のH鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号4〜6に示し、本発明に係る抗体のL鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号7〜9に示す。本発明の別の一態様に係る抗体のH鎖可変領域のCDR3のアミノ酸配列および塩基配列をそれぞれ配列番号46および47に示す。
また、本発明に係る抗体の他の態様は、H鎖可変領域中に、配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2および配列番号6に示されるCDR3のすべてを含んでおり、且つ、L鎖可変領域中に、配列番号7に示されるCDR1、配列番号8に示されるCDR2および配列番号9に示されるCDR3のすべてを有している、抗体またはその可変領域を含む抗体断片である。
また、本発明に係る抗体のさらに他の態様は、H鎖可変領域中に、配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2および配列番号46に示されるCDR3のすべてを含んでおり、且つ、L鎖可変領域中に、配列番号7に示されるCDR1、配列番号8に示されるCDR2および配列番号9に示されるCDR3のすべてを有している、抗体またはその可変領域を含む抗体断片である。
また、本発明に係る抗体のさらに他の態様は、H鎖可変領域中に、配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2および配列番号6または配列番号46に示されるCDR3のうち少なくとも1つを含んでおり、且つ、L鎖可変領域中に、配列番号7に示されるCDR1、配列番号8に示されるCDR2および配列番号9に示されるCDR3のうちの少なくとも1つを有している、抗体またはその可変領域を含む抗体断片である。
また、本発明に係る抗体のさらに他の態様は、H鎖可変領域中に、配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2および配列番号6または配列番号46に示されるCDR3のうち少なくとも1つを有しているか、またはL鎖可変領域中に、配列番号7に示されるCDR1、配列番号8に示されるCDR2および配列番号9に示されるCDR3のうちの少なくとも1つを有している、抗体またはその可変領域を含む抗体断片である。
また、本発明に係る抗体、またはその可変領域を含む抗体断片は、以下の特徴を有するものも包含している。
H鎖可変領域が、配列番号2に示されるアミノ酸配列、または、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1〜13個、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜2個または3個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ
L鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列、または、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個または3個、さらにより好ましくは1個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/もしくは付加されたアミノ酸配列からなる、抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
一例として、本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片は、H鎖可変領域が配列番号2に示すアミノ酸配列からなり、且つL鎖可変領域が配列番号3に示すアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片を挙げることができる。
本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片の別の例は、H鎖可変領域が、配列番号45に示されるアミノ酸配列からなり、且つL鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片を挙げることができる。ここで、配列番号45に示されるアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列の105番目のアミノ酸YをRに、106番目のアミノ酸SをRに、107番目のアミノ酸YをVに、それぞれ置換した配列である。このような配列を有する抗体は、H5亜型鳥インフルエンザウイルスへの特異性を維持しながら、HA1抗原に対するより高い反応性を有しており、より好ましい。
さらに、本発明に係る抗体またはその可変領域を含む抗体断片は、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその可変領域を含む抗体断片であって、以下の(1)〜(4)の何れかに示すものを包含する。
(1)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片、
(2)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列において1〜35個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片、
(3)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する抗体またはその可変領域を含む抗体断片、
(4)上記(1)に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片をコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片。なお、ストリンジェントな条件については、本発明に係るポリヌクレオチドの欄で後述する。
また、本発明に係る抗体の一態様は、下記に示す、(a)〜(c)の工程を含む製造方法によって得られたものである。
(a)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドをトリに免疫する工程;(b)上記工程(a)で免疫したトリから上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を含むファージ抗体ライブラリーを得る工程;および(c)上記工程(b)で得られたファージ抗体のうち、上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を濃縮および選抜する工程。
上記工程を含む製造方法については、以下の〔6.本発明に係る抗体の製造方法〕において詳細に記載する。
また、本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片は、一本鎖可変領域断片または二価抗体であり、好ましくは二価抗体である。
本発明に包含される単鎖抗体の例としては、配列番号44に示されるアミノ酸配列からなる抗体が挙げられる。
本発明に包含される単鎖抗体の他の例としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列の252番目〜351番目のアミノ酸を配列番号44に示されるアミノ酸配列の252番目〜359番目のアミノ酸に置換したアミノ酸配列からなる抗体が挙げられる。
本発明に包含される単鎖抗体のさらに他の例としては、配列番号44に示されるアミノ酸配列の252番目〜359番目のアミノ酸を配列番号1に示されるアミノ酸配列の252番目〜351番目のアミノ酸に置換したアミノ酸配列からなる抗体が挙げられる。
また、本発明に係る二価抗体の一例は、以下の特性:可変領域がニワトリ由来であり、定常領域がマウスIgG1由来である、二価のマウスキメラ型抗HA1抗体であって、免疫グロブリンのサブタイプはIgG1であり、分子量は約150kDaである;を有するものである。
本発明に係る二価抗体のさらに具体的な一例としては、H鎖が配列番号26に示されるアミノ酸配列からなり、且つ、L鎖が配列番号28に示されるアミノ酸配列からなるものが挙げられる。さらに、本発明に係るより好ましい二価抗体の他の例としては、H鎖が配列番号52に示されるアミノ酸配列からなり、且つ、L鎖が配列番号28に示されるアミノ酸配列からなるものが挙げられる。
本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片は、標識剤によって、標識化された抗体も包含している。標識化された抗体は、以下の〔7.本発明に係るキット〕および〔8.H5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法〕において用いることができる。
上述の標識剤としては、酵素、酵素基質、放射性同位元素、発光物質、蛍光物質、ビオチンおよび着色物質等が挙げられる。酵素の例としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼおよびグルコース−6−リン酸脱水素酵素を挙げることができる。これら酵素と抗体との結合は、マレイミド化合物およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化合物等の架橋剤を用いる公知の方法により行うことができる。酵素基質としては、使用する酵素に応じて公知の物質を使用することができる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、OPD(オルトフェニレンジアミン)およびTMB(テトラメチルベンジジン)等を、また酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合には、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファターゼp−トルイジニル塩(BCIP)の混合基質等を用いることができる。
放射性同位元素としては、125I、Hまたは35S等の通常のラジオイムノアッセイで用いられているものを使用することができる。本発明に係る抗体への放射標識は公知の方法を用いて行うことができる。上記蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネートおよびフィコエリスリン等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。また、蛍光物質として、蛍光シリカナノ粒子を使用してもよい。また、上記発光物質としては、イソルミノール、アクリジンエステルおよびルシゲニン等を用いることができる。この際、標識の方法は、公知の方法を用いることができる。また、上記着色物質としては、例えば、着色ラテックス粒子および金コロイド等を挙げることができる。
また、本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片は、固体支持体に固相化されていてもよい。使用できる固体支持体としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレンまたはポリビニール性のマイクロタイタープレート、試験管、キャピラリー、ビーズ(ラテックス粒子および金属化合物など)、膜(リポソームなど)およびフィルターなどが挙げられる。これらのうち、特にポリスチレンが好ましい。このように固相化された抗体は、例えば、後述する〔8.H5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法〕における方法において好適に用いられる。
後述する実施例においても示す通り、本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片は、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのHA1領域のアミノ酸配列のうち、H5亜型の異なる株間において高く保持されており、且つ立体構造上、H5亜型鳥インフルエンザウイルスタンパク質の表面に出ている部位に結合する。さらに、H5以外の亜型に対する結合性は著しく低い。そのため、本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片は、H5亜型鳥インフルエンザウイルスを特異的に、簡便、且つ高感度に検出することができる。したがって、本発明に係る抗体は、H5亜型鳥インフルエンザウイルスの検出するキットおよび検出方法等に、好適に利用することができる。
また、H5亜型鳥インフルエンザウイルスは、N1〜N9のサブタイプを含んでおり、本発明において検出の対象として用いられるH5亜型鳥インフルエンザウイルスとしては、例えば、H5N1亜型、H5N2亜型およびH5N8亜型が挙げられる。
〔3.本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片をコードするポリヌクレオチド〕
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記抗体およびその可変領域を含む抗体断片をコードするものである。このポリヌクレオチドは、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)の何れかに記載のポリヌクレオチドが挙げられる。
(1)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列を有し、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする抗体またはその可変領域を含む抗体断片をコードするポリヌクレオチド。
(2)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列において1〜35個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有し、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする抗体またはその可変領域を含む抗体断片をコードするポリヌクレオチド。なお、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸の個数は、1〜17個であることが好ましく、1〜13個であることが好ましく、1〜10個であることがより好ましく、1〜8個であることがさらに好ましく、1〜5個であることがさらに好ましく、1〜2個または3個であることが特に好ましい。
(3)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする抗体またはその可変領域を含む抗体断片をコードするポリヌクレオチド。なお、アミノ酸配列の配列同一性は、95%以上であることが好ましく、96%以上であることがさらに好ましく、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
(4)上記(1)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチド。なお、ストリンジェントな条件下とは、例えば、参考文献:“Molecular cloning-a Laboratory manual 2nd edition(Sambrookら、1989)”に記載の条件などが挙げられる。ストリンジェントな条件下とは、より具体的には例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハートおよび100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。なお、このポリヌクレオチドは、上記(1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有することがさらに好ましく、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上の配列同一性を有することがさらに好ましい。
本発明にかかるポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。本発明にかかるポリヌクレオチドの一例としては、配列番号1、および配列番号44に示すポリペプチドをコードするDNAである。配列番号1に示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列の一例を配列番号54に示し、配列番号44に示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列の一例を配列番号55に示す。本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列、シグナル配列およびイントロンなどの付加的な配列を含むものであってもよい。
本発明に係るポリヌクレオチドを取得する(単離する)方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記ポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。或いは、本発明に係るポリヌクレオチドを、ホスホロアミダイト法などの核酸合成法に従って合成してもよい。
また、本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法として、PCRなどの増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、当該ポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)などを鋳型にしてPCRなどを行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
本発明に係るポリヌクレオチドとしては、さらに、本発明の二価抗体をコードしているDNA(配列番号27および29および53)などを挙げることができる。
〔4.組換えベクター〕
本発明に係るポリヌクレオチド(例えばDNA)は、適当なベクター中に挿入された組換えベクターとして利用に供することもできる。当該ベクターの種類は、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミドなど)でもよいし、或いは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
上記ベクターは、好ましくは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明に係るポリヌクレオチドは、転写に必要な要素(例えば、プロモーターなど)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜することができる。
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、大腸菌のlac、trpおよびtacプロモータなどが挙げられる。
昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、polhプロモータ、p10プロモータ、およびpB1プロモータなどが挙げられる。酵母細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、およびホスホグリセリン酸キナーゼプロモータなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータ、およびtpiAプロモータなどが挙げられる。
哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、ウシ・パピローマ・ウイルス(BPV)プロモータおよびヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモータなどが挙げられる。
また、本発明に係るポリヌクレオチドは必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネータまたは真菌宿主についてはTPI1ターミネータもしくはADH3ターミネータのような適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。本発明に係る組換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル、転写エンハンサ配列および翻訳エンハンサ配列のような要素を有していてもよい。
本発明に係る組換えベクターは、さらに、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。
本発明に係る組換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシンまたはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
〔5.形質転換体〕
本発明に係るポリヌクレオチド、または、本発明に係る組換えベクター(本発明の核酸構築物と総称する)を適当な宿主細胞に導入することによって形質転換体を作製することができる。
宿主細胞としては、例えば、細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞および高等真核細胞などが挙げられる。
細菌細胞の例としては、バチルスおよびストレプトマイセスなどのグラム陽性菌または大腸菌などのグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌細胞の形質転換は、例えば、プロトプラスト法、またはコンピテント細胞を用いる方法などによって行えばよい。
酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する生物の細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)などが挙げられる。本発明の核酸構築物の酵母宿主への導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法および酢酸リチウム法などを挙げることができる。
酵母細胞以外の真菌細胞の例は、糸状菌、例えば、アスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する生物の細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、本発明の核酸構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることによって形質転換を行うことができる。核酸構築物の宿主染色体への組み込みは、例えば、相同組換えまたは異種組換えによって行うことができる。
高等真核細胞の例としては、植物細胞、動物細胞および昆虫細胞等が挙げられ、動物細胞としては、哺乳動物細胞および鳥類細胞がさらに挙げられる。
昆虫細胞の例としては、Sf9細胞およびSf21細胞などが挙げられる。宿主細胞として昆虫細胞を用いる場合、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法またはリポフェクション法などを挙げることができる。
植物細胞の例としては、T87細胞などが挙げられる。宿主細胞として植物細胞を用いる場合、植物細胞の形質転換には、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、リポソーム法、DEAEデキストラン法およびマイクロインジェクション法などを用いることができる。
哺乳動物細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞、CHO細胞、SP2/0細胞およびNSO細胞などが挙げられる。宿主細胞として哺乳動物細胞を用いる場合、哺乳動物細胞の形質転換には、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、リポソーム法、DEAEデキストラン法およびマイクロインジェクション法などを用いることができる。
上記の形質転換体は、導入された核酸構築物の発現を可能にする条件下で、適切な培養培地中で培養する。次いで、必要に応じて、形質転換体の培養物から、本発明に係る抗体またはその可変領域を含む抗体断片を単離精製する。
なお、形質転換体は、細胞に限定されない。すなわち、形質転換体は、例えば、本発明に係る核酸構築物で形質転換された組織、器官、および個体であってもよい。
ただし、細胞以外の形質転換体は、非ヒト由来のものであることが好ましい場合があり、特に個体は非ヒト由来のものであることが好ましい。
〔6.本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片の製造方法〕
本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片の製造方法の一例は、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を製造する方法であって、下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、方法である:(a)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドをトリに免疫する工程;(b)上記工程(a)で免疫したトリから上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を含むファージ抗体ライブラリーを得る工程;および(c)上記工程(b)で得られたファージ抗体のうち、上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を濃縮および選抜する工程。
以下に、それぞれの工程について説明する。
(工程(a))
工程(a)は、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるHA1抗原ポリペプチドをトリに免疫する工程である。抗原をトリに投与する方法は特に限定されない。例えば、抗原ポリペプチドを腹腔内に投与してもよいし、抗原ポリペプチドを静脈内に投与してもよい。また、抗原の免疫原性を高める観点から、初回免疫は、抗原ポリペプチドと免疫賦活剤とを等量混合して投与することが好ましい。上記「免疫賦活剤」としては、例えば、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、または水酸化アルミニウムゲルアジュバント等のこの分野で通常用いられるものを利用することができる。
抗原ポリペプチドを投与する間隔としては、例えば、初回免疫後4週間後に追加免疫(2次免疫)を行ない、さらに3〜4週間後に追加免疫(3次免疫)を行なうことができる。血清の上昇が認められない場合は、さらに2〜3週間後に追加免疫を行なうことができる。
HA1抗原ポリペプチドを免疫するトリとしては、ニワトリ、ダチョウ、ウズラおよび七面鳥などが挙げられ、飼育の容易さおよび飼料の確保の観点からニワトリが最も好ましい。
(工程(b))
工程(b)は、上記工程(a)で免疫したトリから抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を含むファージ抗体ライブラリーを得る工程である。抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を得る方法は特に限定されない。例えば、ハイブリドーマを作製することによってモノクローナル抗体を作製する方法(参照文献:J.Vet. Med. Sci 58 1053 1996)またはファージディスプレイ法によりトリ型ファージ抗体を作製する方法(日本国公開特許公報「特許3908257号公報」の記載を参照)等によって製造することができる。後述する実施例では、簡便且つ効率よく抗体を製造できることから、ファージディスプレイ法を用いている。
ここで、一例として、ファージディスプレイ法を用いてHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を得る方法について説明する。
ファージディスプレイ法では、まず、上記工程(a)で免疫したトリから脾臓を摘出し、当該脾臓からRNAを抽出する。得られたRNAを鋳型としてRT−PCRを行ない、トリ抗体の、様々なH鎖可変領域とL鎖可変領域の遺伝子を含むcDNAを回収する。
次いで、得られたH鎖可変領域とL鎖可変領域の遺伝子の複数の組合せを、リンカー((GGGGS)×3)をコードする遺伝子およびスペーサー(Asp−Val)をコードする遺伝子を介して結合させ、scFv遺伝子を構築する。
次いで、トリのCλと、g3p遺伝子とを組み込んだプラスミドに、得られたscFv遺伝子を導入し、ファージミドベクターを作製する。
次いで、作製したファージミドベクターを宿主(例えば、大腸菌等)に形質転換する。
次いで、ファージミドベクターを形質転換した大腸菌にさらにヘルパーファージを感染させる。このようにして得られた大腸菌を培養すればscFvを発現するファージを得ることができる。
これらの複数の単鎖のファージ抗体(ファージ抗体ライブラリー)の中からHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を濃縮する方法として、例えば、パニング選択を行なうことができる。
上記「パニング選択」の方法としては特に限定されないが、例えば、抗原ポリペプチドをイムノモジュールプレートに固定化し、固定化した抗原ポリペプチドにファージ抗体群を反応させ、結合しなかったファージを洗浄により除去し、抗原ポリペプチドに結合したファージだけを溶出して大腸菌に感染させて増殖させるという操作を数回繰り返す方法がある。パニング選択を行なうことによって、抗原ポリペプチドのみに特異的に結合するファージを濃縮することができる。
なお、このパニング選択の操作は、1回〜6回繰り返すことが好ましく、6回繰り返すことがより好ましい。
(工程(c))
工程(c)は、上記工程(b)で得られた抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体のうち、上記HA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を選抜する工程である。
選抜する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリー法および分子間相互作用解析等を行なうことができる。
例えば、ELISA法を行なう場合は、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるHA1抗原ポリペプチドを固相抗原として用いた、上記パニング選択によって濃縮されたファージ抗体について固相ELISAを行なうことによって、上記HA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を、選抜することができる。
本発明に係る抗体の製造方法では、上記工程(a)〜(c)に加えて、得られたファージ抗体をもとにニワトリ型二価抗体を作製する工程(ニワトリ型二価抗体を作製する方法については、国際公開第2006/093080号パンフレットを参照のこと)、またはニワトリの天然抗体の可変領域を有するキメラ化抗体を作製する工程(キメラ化抗体を作製する方法については、日本国公開特許公報「特開2006−282521号公報」および日本国公開特許公報「特開2005−245337号公報」を参照のこと)、またはニワトリの天然抗体の抗原結合領域を有するヒト化抗体を作製する工程(ヒト化抗体を作製する方法については、日本国公開特許公報「特開2006-241026号公報」を参照のこと)を含んでいてもよい。
このようなニワトリ型二価抗体またはキメラ化抗体の作製方法として、具体的には、例えば、〔4.組換えベクター〕において記載した発現用ベクターを用いる方法が挙げられ、好ましくは、H鎖用発現用ベクターとL鎖用発現用ベクターとを用い、これらにニワトリ抗体の可変域領域をそれぞれ導入して宿主となる哺乳動物細胞で発現させる方法を挙げることができる。
また、本発明に係る抗体の可変領域を含む抗体断片を作製する場合は、得られたファージ抗体をコードしているDNAを鋳型としたPCRによる目的の領域の増幅等を含む方法が挙げられる。例えば、本発明に係る抗体の作製方法は、得られたファージ抗体または二価抗体もしくはキメラ抗体をコードしているDNAを鋳型として、Inverse PCR法等を用いたランダム変異導入、または公知の変異導入法を用いた点変異導入等を行うことによって、目的の部位のアミノ酸配列を変異させる工程を包含していてもよい。
例えば、ニワトリ型二価抗体であれば、ニワトリ由来の試料における非特異的反応が低いと考えられるため、養鶏場などの現場におけるH5亜型鳥インフルエンザウイルスの検出等に好適且つより効果的に用いることができる。
なお、上記工程(a)〜(c)を含むものは本発明に係る製造方法の一例であり、本発明に係る他の一例としては、上述の〔5.形質転換体〕に記載された形質転換体を導入された核酸構築物の発現を可能にする条件下で、宿主細胞に適した適切な培養培地中で培養し、次いで、必要に応じて、形質転換体の培養物から、本発明に係る抗体またはその可変領域を含む抗体断片を単離精製する方法が挙げられる。
また、ヒト化抗体であれば、ヒト由来の試料における非特異的反応が低いと考えられるため、ヒトに対するH5亜型鳥インフルエンザウイルスの検出方法等に好適に用いることができる。
〔7.本発明に係るキット〕
本発明に係るキットは、試料中に含まれるH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出するためのキットであって、少なくとも本発明に係る抗体またはその可変領域を含む抗体断片を備えている。本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片については、〔1.本発明に係る抗体〕で説明した通りである。
また、本発明に係るキットは、本発明に係る抗体またはその可変領域を含む抗体断片以外の、H5亜型鳥インフルエンザウイルスを認識する少なくとも一種類の抗体またはその可変領域を含む抗体断片をさらに備えていてもよい。例えば、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのHA2領域に含まれるアミノ酸配列を有するHA2抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体およびその可変領域を含む抗体断片が挙げられる。より具体的には、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのHA2領域のうち、配列番号17のアミノ酸配列からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体およびその可変領域を含む抗体断片が挙げられる。このような抗体としては、H鎖が配列番号18に示されるアミノ酸配列からなり、且つ、L鎖が配列番号20に示されるアミノ酸配列からなる二価の抗HA2抗体およびH鎖が配列番号22に示されるアミノ酸配列からなり、且つ、L鎖が配列番号24に示されるアミノ酸配列からなる二価の抗HA2抗体が挙げられる。また、これらの抗HA2抗体の例としては、上記配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるH鎖をコードしているDNAが配列番号19に示される塩基配列からなり、且つ上記配列番号20に示されるアミノ酸配列からなるL鎖をコードしているDNAが、配列番号21に示される塩基配列からなる抗HA2抗体、および上記配列番号22に示されるアミノ酸配列からなるH鎖をコードしているDNAが配列番号23に示される塩基配列からなり、且つ上記配列番号24に示されるアミノ酸配列からなるL鎖をコードしているDNAが、配列番号25に示される塩基配列からなる抗HA2抗体がさらに挙げられる。
本発明に係るキットは、本発明に係る抗体以外にも、イムノクロマトグラフィー法、ELISA法およびウエスタンブロット法等の免疫反応を行うために必要な部材(二次抗体、発色試薬、ブロッキング試薬等)、プレート(96ウェルプレート等)およびチューブ等が含まれていてもよい。またウエスタンブロット法を行うために必要なメンブレン、電気泳動用ゲル、電気泳動装置、ブロッティング装置およびブロッティング用試薬等が含まれていてもよい。例えば、本発明に係る抗体を検出するための二次抗体および二次抗体に結合させた標識酵素の基質等を備えていてもよい。
上記二次抗体としては、例えば、アルカリホスファターゼ標識抗IgG抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗IgG抗体等を挙げることができる。なお、用いる抗IgG抗体の由来は特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。
また、HRP検出用の基質としては、例えば、OPD、TMBおよびECL(Electro-generated chemiluminesence)等を挙げることができる。また、アルカリホスファターゼの基質としては、例えば、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファターゼp−トルイジニル塩(BCIP)の混合基質等を挙げることができる。
また上記キットを構成する成分を格納するための1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプルおよびビンなど)が含まれていてもよい。また、上記キットにおいて使用する検出方法について詳細が記載された使用説明書がさらに含まれていてもよい。当該検出方法としては、後述する〔8.H5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法〕で説明される検出方法が挙げられる。
本発明に係るキットとしては、例えば、本発明に係る抗体、本発明に係る抗体以外の抗体、および検出感度を高めるために必要な部材を備えた、イムノクロマトグラフィーを利用したキットが挙げられる。
〔8.H5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法〕
本発明に係るH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法は、本発明に係る抗体またはその可変領域を含む抗体断片と、生体から調製した試料とを反応させる工程を含む。ここで、本発明に係る抗体については、〔2.本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片〕に記載した通りである。
上述の本発明に係る抗体またはその可変領域を含む抗体断片と、生体から調製した試料とを反応させる工程は、本発明に係る抗体またはその可変領域を含む抗体断片を含む組成物に生体から調製した試料を接触させる工程と、上記抗体またはその可変領域を含む抗体断片を含む組成物と上記試料との間に生じる反応を検出する工程とを含んでいてもよい。
上記反応を検出に用いられる手法としては、ELISA法、放射線免疫測定法、蛍光免疫測定法、ウエスタンブロット法、イムノクロマトグラフィー法、アフィニティクロマトグラフィー法、免疫沈降法、免疫拡散法および赤血球凝集抑制試験等が挙げられる。
上述の反応を検出する方法は、例えば、標識剤で標識された抗体を用いた、サンドイッチ法、競合法および直接吸着法等が挙げられる。これらの方法により、試料中に存在する、目的とする抗原の量を測定することができる。
本発明に係る検出方法に用いる試料としては、特に限定されるものではないが、対象のタンパク質を少なくとも含み得るものであればよい。生体試料としては、例えば、細胞試料、組織試料および拭い液試料が挙げられ、中でも試料採取方法の容易性の観点から、拭い液試料が好ましい。拭い液試料としては、気管の拭い液、咽喉頭の拭い液、口腔の拭い液、および鳥類の総排泄腔の拭い液等が挙げられる。また、最適なウイルス増殖部位がウイルス毎に異なるため、一個体から採取した、気管の拭い液、咽喉頭の拭い液、口腔の拭い液および総排泄腔(鳥類の場合)の拭い液試料を全て検査に用いることが好ましい。生体試料の由来となる生物は、例えば、鳥類、ヒトおよびブタ等の哺乳動物が挙げられる。このうち、好ましくは、鳥類であり、鳥類のうち、より好ましくは家禽のニワトリである。
採取された生体試料は、必要に応じてタンパク質を抽出する操作を行ってからか、または、不要な成分を除去する操作を行ってから、検査に供してもよい。
また、得られた生体試料は、必要に応じて凍結保存等の、生体試料の種類に適した方法で保存してもよい。
また、本発明に係る検出方法は、本発明に係る抗体以外の、H5亜型鳥インフルエンザウイルスを認識する少なくとも一種類の抗体またはその可変領域を含む抗体断片と、生体から調製した試料とを反応させる工程をさらに含んでいてもよい。本発明に係る抗体およびその可変領域を含む抗体断片以外の抗体およびその可変領域を含む抗体断片については、〔7.本発明に係るキット〕に記載した通りである。
本発明に係る検査方法は、さらに、上記生体試料におけるウイルスの存在の有無を判定するか、上記生体試料におけるH5亜型鳥インフルエンザウイルスの量、より具体的には、生体試料の単位量あたりに含まれるH5亜型鳥インフルエンザウイルスの量を測定する工程を含んでいてもよい。ここでH5亜型鳥インフルエンザウイルスの量とは、例えばH5亜型鳥インフルエンザウイルスタンパク質の量である。
但し、生体試料の単位量あたりに含まれるH5亜型鳥インフルエンザウイルスの量を測定するという概念には定量的測定および定性的測定の両方が含まれ、濃度測定の他、対照と比較可能な形式でH5亜型鳥インフルエンザウイルスの量を提示することが含まれる。より具体的には、例えば、検量線等を用いて濃度換算する以前の取得した時点でのデータ比較、またはH5亜型鳥インフルエンザウイルスの量がある一定の閾値を超えているか否かという形式での結果の提示等も含まれる。
また、本発明に係るH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法は、対象となる個体における、H5亜型鳥インフルエンザウイルスの感染の可能性を判定する工程を包含していてもよい。
ここで、「H5亜型鳥インフルエンザウイルスの感染の可能性を判定する」とは、対象となる生物個体について、当該インフルエンザを発症しているか否かにかかわらず、当該インフルエンザウイルスに感染しているか否かを判定することを指す。
また、ここで、H5亜型鳥インフルエンザウイルスによって引き起こされる鳥インフルエンザの発症とは、対象となる生物に、H5亜型鳥インフルエンザウイルスが感染することによって、当該感染した生物に鳥インフルエンザの症状が生じることを指している。鳥インフルエンザのニワトリにおける症状としては、沈うつ、肉冠、肉垂および脚部のチアノーゼ、顔面浮腫、神経症状、羽毛削ごう、ならびに下痢などの症状が挙げられる。
当該判定する工程として、具体的には、例えば、対象となる生物がニワトリの場合、H5亜型鳥インフルエンザウイルスを排泄しているか否かを判定する工程が挙げられる。
当該判定方法としては、顕性化したウイルス由来物質について、上述したH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する工程において用いられる手法において得られた発色および数値等のデータの目視により判定する方法が挙げられる。
当該工程を行うことにより、H5亜型鳥インフルエンザウイルスによって引き起こされる鳥インフルエンザを発症する前に、感染しているか否かを知ることができる。
判定の一例では、健常な対照と比較して被験個体の生体試料における当該ウイルスの量があらかじめ規定した閾値を超えた場合、被験個体は、H5亜型鳥インフルエンザウイルス感染によってウイルスを排泄していると判定される。なお、ウイルスの量があらかじめ規定した閾値を超えることとは、定量的測定による結果であっても定性的測定による結果であってもよく、具体的な数値の比較はもちろん、相対的な量の比較(実際に量を算出する必要は無く、ある基準より高いか低いかを判断する)も含む概念である。
対照試料の上記検査は、被験個体の試料の検査と同時に行われてもよく、また別々に行われてもよい。すなわち、被験個体の数値と比較される対照試料の数値は、被験個体の試料が検査されるときとは異なるときに行われた検査で得られた値であってもよい。また、対照試料の検査は、被験個体の検査を行う個体自身が行う必要は無く、例えば、既に取得されデータベース等に蓄積されている対照試料の検査値を閾値として用いることもできる。
判定に用いられる対照試料の数値については、健常個体の試料の数値を直接利用してもよく、一定の人数の健常個体の試料の数値を母集団としたときに得られる平均値を利用してもよい。また、カットオフ値をあらかじめ設定しておき、被験個体の数値とこのカットオフ値とを比較してもよい。
このような方法により、H5亜型鳥インフルエンザウイルスに感染の可能性を早期に判定できるため、H5亜型鳥インフルエンザウイルス感染個体を有している農場内および当該農場から他の家禽農場への感染拡大を最小限に食い止める為の早期初動対応をとることができる。
本発明に係るH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法によれば、既存の検出方法よりも試料中に含まれるH5亜型鳥インフルエンザウイルスを特異的に、正確、迅速且つ高感度に検出することができる。
〔9.まとめ〕
本発明は以下の何れかの一態様を包含する。
<1> H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする、抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<2> 重鎖可変領域中に、配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2および配列番号6または配列番号46に示されるCDR3のすべてを含んでおり、且つ、軽鎖可変領域中に、配列番号7に示されるCDR1、配列番号8に示されるCDR2および配列番号9に示されるCDR3のすべてを含んでいることを特徴とする、<1>に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<3> 重鎖可変領域が、配列番号2に示されるアミノ酸配列、または、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1〜13個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列、または、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/もしくは付加されたアミノ酸配列からなることを特徴とする、<1>または<2>に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<4> 重鎖可変領域が、配列番号45に示されるアミノ酸配列からなり、且つ
軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、<3>に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<5> 以下の(1)〜(4)の何れかに示す、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする、<1>〜<4>のいずれかに記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片:(1)配列番号1または配列番号44に示されるアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片、(2)配列番号1または配列番号44に示されるアミノ酸配列において1〜35個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片、(3)配列番号1または配列番号44に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する抗体またはその可変領域を含む抗体断片、(4)上記(1)に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片をコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<6> 下記の(a)〜(c)の工程を含む製造方法によって得られたことを特徴とする、<1>〜<5>のいずれかに記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片:
(a)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドをトリに免疫する工程;(b)上記工程(a)で免疫したトリから上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を含むファージ抗体ライブラリーを得る工程;および(c)上記工程(b)で得られたファージ抗体のうち、上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を濃縮および選抜する工程。
<7> 一本鎖可変領域断片または二価抗体であることを特徴とする、<1>〜<6>のいずれかに記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<8> 重鎖が配列番号26または配列番号52に示されるアミノ酸配列からなり、且つ、軽鎖が配列番号28に示されるアミノ酸配列からなる二価抗体であることを特徴とする、<1>〜<7>のいずれに記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<9> <1>〜<8>のいずれかに記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片をコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチド。
<10> <9>に記載のポリヌクレオチドを有することを特徴とする、組換えベクター。
<11> <9>に記載のポリヌクレオチドまたは<10>に記載の組換えベクターが導入されていることを特徴とする、形質転換体。
<12> H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を製造する方法であって、下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、方法:(a)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドをトリに免疫する工程;(b)上記工程(a)で免疫したトリから上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を含むファージ抗体ライブラリーを得る工程;および(c)上記工程(b)で得られたファージ抗体のうち、上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を濃縮および選抜する工程。
<13> 上記抗体は、一本鎖可変領域断片または二価抗体であることを特徴とする、<12>に記載の方法。
<14> 配列番号10に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、ポリペプチド。
<15> 試料中に含まれるH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出するためのキットであって、<1>〜<8>のいずれかに記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片を備えていることを特徴とする、キット。
<16> 試料中に含まれるH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法であって、<1>〜<8>のいずれかに記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片と、生体から調製した試料とを反応させる工程を含むことを特徴とする、方法。
<17> 上記試料は、気管、咽喉頭、口腔または総排泄腔の、拭い液であることを特徴とする<16>に記載の方法。
<18> 鳥インフルエンザウイルスのうちH5亜型鳥インフルエンザウイルスのみに特異的に結合することを特徴とする、抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<19> H5亜型鳥インフルエンザウイルスに特異的に結合し、かつH1〜H4およびH6〜H16亜型鳥インフルエンザウイルスに特異的に結合しないことを特徴とする、抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<20> 上記H5亜型鳥インフルエンザウイルスはH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスであることを特徴とする、<18>または<19>に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
<21> H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域における、配列番号10に示されるアミノ酸配列で示される領域に特異的に結合することを特徴とする、<18>〜<20>のいずれかに記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
〔実施例1:野生型抗体の作製および反応性の評価〕
(1−1.抗体の作製)
<ニワトリの免疫および免疫ニワトリ脾臓からのscFvファージ抗体ライブラリーの作製>
60日齡のメスのニワトリに、H5亜型インフルエンザウイルス由来ヘマグルチニンの合成ポリペプチド:HA1抗原ポリペプチド(“ペプチド番号:1111059N−1”)(配列番号10)を免疫した(0.3mg/羽)。一次免疫には完全フロイントアジュバンド(014-09541、Wako)、二次および三次免疫には不完全フロイントアジュバンド(011-09551、Wako)を用いて抗原を免疫した。4回目の免疫はPBS(phosphate bufferedsaline)に希釈した抗原を静脈注射した。4回目の免疫から3日後にニワトリの脾臓を
回収し、Ficoll paque PLUS(17-1440-03、GE Healthcare)を用いた密度勾配遠心によりリンパ球を単離し、得られたリンパ球からTRIzole Reagent(15596026、Life Technologies)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNAからPrimeScript II 1st Strand cDNA Synthesis Kit(6210A、TAKARA)を用いたRT−PCRによりcDNAの合成を行い、scFvファージライブラリーを作製した。scFvファージライブラリーの作製は、参考文献:“Nakamura et al., J Vet Med Sci. 2004 Ju;66 (7): 807-814”に記載の方法に従って行った。
上述の工程の模式図を図1に示す。図1は、抗体の作製方法における一工程を示す図であり、上述のニワトリの免疫および免疫ニワトリ脾臓からのscFvファージ抗体ライブラリーの作製の工程を示している。
<パニング選択>
scFvファージ抗体ライブラリーを用いて、合成ペプチドを固相化したプレートによるパニングを行った。パニングは参考文献:“Nakamura et al., J Vet Med Sci. 2004 Ju;66 (7): 807-814”に記載の方法に従って行った。5回パニングを行った後、ライブラリーの反応性を、合成ペプチドを固相化したプレートを用いたELISAによって確認し、反応性が上昇し始めたライブラリーからファージのスクリーニングを行った。スクリーニングの手法は以下の通りである。ファージを大腸菌に感染させてアンピシリン(50μg/ml、nacalai)を含む2×YTAgar plateにプレーティングし、得られたコロニーをアンピシリン含有2×YT液体培地中で培養した。ヘルパーファージに感染させた後、アンピシリン(50μg/ml)、カナマイシン(25μg/ml、明治製菓株式会社)、IPTG(100μg/ml、nacalai)含有2×YT液体培地中でファージの誘導を行った。得られた培養上清中のscFvファージ抗体の反応性を、抗原HA1固相化プレートを用いたELISAによって確認した。
上述の工程の模式図を図2に示す。図2は、抗体の作製方法における一工程を示す図であり、scFvファージライブラリーの、パニング選択の工程を示している。
続いて、上述のライブラリーのスクリーニングを行った。スクリーニングは以下の<ELISA>の項目に示す、ELISA法を用いて行った。
<ELISA>
スクリーニングでは、5μg/mlの合成ペプチドを含むPBSを50μl/ウェルで96ウェルプレート(442404、Thermo)に入れ、一晩、4℃で抗原を固相化した。固相化の後、25%Block Ace(UK-B80、DSファーマバイオメディカル)を含むPBSでウェルをブロッキングし、scFvファージ抗体を含む培養上清を反応させた。二次抗体として、HRP標識Goat anti-chickenIgG (H+L)(14-24-06 、KPL)を10%Block Aceに1000倍希釈した溶液を加え、基質として用いたOPDの発色をプレートリーダー(Model 680、BIO-RAD社)で490nmおよび630nmの吸光度を測定した。
上述の工程の模式図を図3に示す。図3は、本発明の実施例に係る、抗体の作製方法における一工程を示す図であり、scFvファージライブラリーの、ELISAを用いたスクリーニングの工程を示している。
さらに、上述の工程で得られた陽性クローンを選択し、DNAシークエンサー(ABI PRISM 3100−Genetic Analyzer、Applied Biosystems)を用いてシークエンスを行うことによって、選択された陽性クローンのうち、陽性クローン番号No. 6-2-5のアミノ酸の配列を決定した。シークエンスに用いたプライマーを配列番号11および配列番号12として示し、No. 6-2-5のアミノ酸配列を配列番号1に示す。また、No. 6-2-5のH鎖およびL鎖におけるCDR1、2および3の配列を図4に示す。図4は、得られた抗体のアミノ酸配列の可変領域を示す図である。
<組換えマウス/ニワトリキメラ(IgG1)抗体発現ベクターへの組換え>
上記で選択したクローンのscFv抗体をコードするDNA鎖を鋳型にして、ニワトリ由来抗体遺伝子H鎖可変領域およびL鎖可変領域のPCR増幅を行った後、PCR産物をSacIIおよびNheI制限酵素処理(R0157S、R0131S、BioLabs)し、H鎖可変領域お
よびL鎖可変領域のそれぞれについて、同じように制限酵素処理したマウス/ニワトリキメラ抗体(IgG1)発現ベクター(H鎖用発現ベクター:pcDNA4/myc-His、L鎖用発現ベクター:pcDNA3/myc-His、Invitrogen)に組換えた。作製したH鎖およびL鎖のコンストラクトをほ乳類培養細胞にトランスフェクトした後、発現した抗体(抗HA1マウス/ニワトリキメラモノクローナル抗体)の精製をProteinG Sepharose 4 Fast Flow(17-018-02、GE healthcare)を用いて行った。以上により、本発明に係る二価抗体のクローンを得た(No. 6-2-5)。得られたNo. 6-2-5の二価抗体のH鎖全長のアミノ酸配列を配列番号26に、H鎖全長の塩基配列を配列番号27にそれぞれ示す。また、L鎖全長のアミノ酸配列を配列番号28に、L鎖全長の塩基配列を配列番号29にそれぞれ示す。なお、以降、実施例1で得られたNo. 6-2-5の配列を野生型とし、以下の実施例2においてこれを改変した配列を変異型配列として記載する。
上述の工程の模式図を図5に示す。図5は、抗体の作製方法における一工程を示す図であり二価抗体発現ベクターへの組換えによる二価抗体の作製の工程を示している。
得られた精製抗体を5〜20%のc-Pagel(C520L、ATTO社)を用いてSDS−PAGE電気泳動を行い、CBB染色(178-00551、Wako)によってその精製度を確認した。
結果を図6に示す。図6は、野生型の二価抗体タンパク質を電気泳動後にCBB染色した結果を示す図である。
なお、上述の組換えに関しては、参考文献:“Tateishi et al., J Vet Med Sci. 2008Apr;70(4): 397-400”に記載の方法に従った。また、H鎖可変領域のPCRに用いたプ
ライマー配列を配列番号13および配列番号14に、L鎖可変領域のPCRに用いたプライマー配列を配列番号15および配列番号16にそれぞれ示す。
(1−2.H5N1亜型鳥インフルエンザウイルス抗体の活性測定)
抗体価の測定については、以下の通り行った。5μg/mlのrecombinant hemagglutinin(rHA)(H5N1ウイルス由来、A/Vietnam/1203/2004、CT6450、Protein Sciences Corp.)またはウシ血清アルブミン(BSA(bovine serum albumin))を含むPBSを同様に固相化し、ブロッキング後にマウス/ニワトリキメラ抗体の精製抗体(No. 6-2-5)を、0〜2μg/mlの濃度で反応させた。二次抗体としてHRP標識Goat anti-mouse IgG (H+L)(474-1806、KPL社)を用い、上記2.と同様にして抗体の反応性を検出した。結果を図7に示す。図7は、野生型の二価抗体の抗体価を示す図である。
(1−3.抗体結合特異性の評価)
異なる株のH5N1亜型鳥インフルエンザウイルス、およびH5以外の亜型鳥インフルエンザウイルスと本発明に係る抗体の反応性の測定を、以下の方法を用いて行った。
10μg/mlの各種ウイルス、rHAまたはBSAのいずれかを含むPBSを上記と同様に固相化し、ブロッキング後にマウス/ニワトリキメラ本発明に係る抗体の精製抗体(No. 6-2-5)を2μg/mlの濃度で反応させた。二次抗体にHRP標識Goat anti-mouse IgG(H+L)を用い、上記2.と同様にして検出した。結果を図8に示す。図8は、野生型の二価抗体のH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスの変異体および複数種類のH5以外の鳥インフルエンザウイルス亜型に対する抗体結合性を示す図である。図8に示されるように、本実施例で得られた野生型の精製二価抗体(No. 6-2-5)はH5亜型以外の鳥インフルエンザウイルスに対する結合性はほぼない一方、何れのH5亜型の鳥インフルエンザウイルスに対しても結合性が高く、特異性があることが示された。
〔実施例2:変異型抗体の作製および反応性の評価〕
(2−1.抗体の作製)
<変異ライブラリーの作製>
上述のクローン番号No. 6-2-5のH鎖を鋳型として、Inverse PCR法を用いてNo. 6-2-5のH鎖のCDR3に9塩基ずつランダムな変異を導入したランダム変異体を7種類作製した(SMK-101、TOYOBO)。用いたプライマーセットは配列番号30〜43に示す。
得られた7種類のランダム変異体のH鎖の可変領域およびL鎖の可変領域をそれぞれPCRで増幅したものをリンカーでつなぎ合わせ、scFvファージライブラリーを作製した。scFvファージライブラリーの作製方法の詳細は、参考文献:“Nakamura et al., J Vet Med Sci. 2004 Ju;66 (7): 807-814”に記載の方法に従って行った。
<パニング選択>
scFvファージ抗体ライブラリーを用いて、rHA(11700-V08H 、Sino Biological Inc.)に対するパニングを行った。パニングは参考文献:“Nakamura et al., J Vet Med Sci. 2004 Ju;66 (7): 807-814”に記載の方法に従って行った。4回パニングを実施した後、反応性の上昇をELISAによって確認した。反応性が上昇してきた2回目のパニングライブラリからスクリーニングを実施した。スクリーニングは、〔実施例1〕における(1−1.抗体の作製)<パニング選択>に記載の方法と同様の方法を用いて行った。
外部委託によって、配列確認を実施した(ユーロフィンジェノミクス)。その結果、新規な配列の抗体の取得が確認できた。新規取得クローンNo. 6-2-5-21の単鎖抗体全長のアミノ酸配列を配列番号44に示す。新規に取得されたクローンであるNo. 6-2-5-21の配列は、No. 6-2-5と比較して、H鎖のCDR3の配列以外は同一の配列を有していた。No. 6-2-5-21のH鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号45に、CDR3のアミノ酸列を配列番号46に、CDR3の塩基配列を配列番号47にそれぞれ示す。さらに、No. 6-2-5-21のH鎖におけるCDR3の配列を図9に示す。図9は、野生型抗体No. 6-2-5のH鎖のCDR3のアミノ酸配列と変異型抗体No. 6-2-5-21のH鎖のCDR3のアミノ酸配列とのアライメントを示す図である。
<二価抗体への組換え>
次に、新規に取得されたクローンであるNo. 6-2-5-21の二価抗体への組換えを行った。まず、新規に取得されたクローンであるNo. 6-2-5-21のscFv抗体をコードするDNA鎖を鋳型にして、ニワトリ由来抗体遺伝子H鎖可変領域およびL鎖可変領域のPCR増幅を行った後、SacII(R0157S、BioLabs)およびNheI(R0131S、BioLabs)で制限酵素処理したマウス/ニワトリキメラ抗体(IgG1)発現ベクター(H鎖用発現ベクター:pcDNA4/myc-His、L鎖用発現ベクター:pcDNA3/myc-His、Invitrogen)に、GeneArt(登録商標)Seamless Cloning and Assembly(A14606、lifetechnologies)を用いて組換えた。実施例1と同様に、使用したマウスキメラ発現ベクターはTateishi et al., J Vet Med Sci. 2008 Apr;70(4): 397-400に記載されているベクターを使用した。可変領域増幅用プライマーの配列を配列番号48〜51に示す。
<二価抗体の製造>
作製したH鎖およびL鎖のコンストラクトを、ほ乳類培養細胞にExpi293Expression system(Cat#A14635、Invitrogen)を用いてトランスフェクトした後、発現した抗体の精製をProtein G Sepharose 4 Fast Flow(17-018-02、GE healthcare)を用いて行った。以上により、本発明に係る変異型の二価抗体のクローンを得た(No. 6-2-5-21)。得られた精製抗体を各種結合活性の測定に用いた。なお、得られたNo. 6-2-5-21の二価抗体のH鎖全長のアミノ酸配列を配列番号52に、H鎖全長の塩基配列を配列番号53にそれぞれ示す。また、L鎖全長のアミノ酸配列および塩基配列は、野生型No. 6-2-5の配列と同一であった。
(2−2.変異型抗体の活性測定)
<ELISAを用いた二価抗体の反応性評価>
5μg/mlのrHA(11700-V08H、Sino Biological Inc.)を含むPBSを50μl/ウェルの濃度で96ウェルプレート(442404、Thermo)に入れ、一晩、4℃で抗原を固相化させた。固相化の後、25%Block Ace(UK-B80DS、ファーマバイオメディカ)を含むPBSでウェルを37℃で1時間ブロッキングした。PBS−Tで1回洗浄した後、1μg/mlの濃度から段階希釈をしたNo. 6-2-5またはNo. 6-2-5-21を含むPBSを37℃で1時間反応させた。二次抗体として、HRP標識Goat anti-mouse IgG (H+L)(474-1806、KPL)を10%Block Aceに1000倍希釈した溶液に加え、基質として用いたOPDの発色をプレートリーダー(Model 680、BIO-RAD)で490nmおよび630nmの吸光度を測定した。結果を図10に示す。図10は、変異型の二価抗体の抗体価を示す図である。
<Biacoreを用いた二価抗体の反応性評価>
Biacore(Biacore T200、GE Healthcare)を行い、No. 6-2-5およびNo. 6-2-5-21のrHA(11700-V08H、Sino Biological)に対する親和性を評価した。No. 6-2-5およびNo. 6-2-5-21のFc部位はマウス型であるため、Mouse Antibody Capture Kit(BR-1008-38、GE Healthcare)を用いて、親和性を測定した。具体的には、メーカー提供の標準プロトコルに従い、NHS/EDCを使用し、CM5チップ表面のフリーカルボキシル基を利用したアミンカップリング法によって、ウサギ抗マウスポリクローナル抗体をCM5チップ表面に固定化した。次に、No. 6-2-5およびNo. 6-2-5-21をウサギ抗マウスポリクローナル抗体にキャプチャーした。Biacore T200に種々の濃度のrHAを供し、カイネティクスセンサーグラムを作成し、結合定数を計算した。結果を以下の表1に示す。
(2−3.抗体結合特異性の評価)
H5亜型以外の亜型の鳥インフルエンザウイルスとNo. 6-2-5-21抗体の反応性の測定を、以下の方法を用いて行った。
5μg/mlのH5亜型およびH5以外の各亜型のrHAを含むPBSを上記と同様に固相化し、ブロッキング後にマウス/ニワトリキメラ抗体No. 6-2-5-21を1μg/mlの濃度で反応させた。二次抗体にHRP標識Goat anti-mouse IgG (H+L)を用い、<ELISAを用いた二価抗体の反応性評価>と同様にして検出した。結果を図11に示す。図11は変異型の二価抗体の、各亜型鳥インフルエンザウイルスに対する抗体結合性を示す図である。
〔参考例〕
(1.HA1抗原ポリペプチドの配列の解析)
NCBIのインフルエンザウイルスリソース(ウェブページ:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/FLU/FLU.html)から、19795個の鳥インフルエンザウイルスのHA遺伝子のアミノ酸配列を取得した。なお、これらの全HA遺伝子は、H1〜H16までの全亜型を含んでいる。遺伝子解析ソフトウェアであるBioEdit(ウェブページ:http://www.mbio.ncsu.edu/bioedit/bioedit.html)を用いて配列のアライメントを作成し、H1〜H16の各亜型のコンセンサス配列をそれぞれ作成した。立体構造解析ソフトウェアであるPymol(ウェブページ:http://www.pymol.org/)を用い、プロテインデータバンク(ウェブページ:http://pdbj.org/)に登録されているH5亜型のHAタンパク質(PDB ID:2IBX)の立体構造とH5亜型のアミノ酸の配列とを比較した。
図12は、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスの抗原として用いた合成ポリペプチドの配列(右)およびHAタンパク質の立体構造(左)を示す図である。
図12に示すように、本実施例の抗体作製に用いた抗原ポリペプチドは、配列番号10として示す16個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は、HA1領域のうち、H5N1亜型の異なるクレード0〜9の株間で保存されていた。また、このアミノ酸配列は、NCBIに登録されている1997年以降に分離された2812株のH5亜型の99.4%において、保存されていた。
また、図12にも示されている通り、この16個のアミノ酸からなるアミノ酸配列は、H5亜型の異なる株間において高く保持され、且つ立体構造上タンパク質の表面に出ていた。
(2.H1〜H16の亜型鳥インフルエンザウイルス間およびH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスに存在しているすべてのクレード間の配列同一性)
H1〜H16の亜型鳥インフルエンザウイルスにおいて、NCBIのインフルエンザウイルスリソース(ウェブページ:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/FLU/FLU.html)から、H1亜型について8781個、H2亜型について231個、H3亜型について4536個、H4亜型について608個、H5亜型について2812個、H6亜型について687個、H7亜型について787個、H8亜型について65個、H9亜型について739個、H10亜型について190個、H11亜型について187個、H12亜型について84個、H13亜型について53個、H14亜型について4個、H15亜型について12個、H16亜型について19個の鳥インフルエンザウイルスのHA遺伝子全長のアミノ酸配列を取得した。続いて、H1〜H16亜型それぞれのアミノ酸配列のコンセンサス配列を亜型毎に作成し、遺伝子解析ソフトウェアGENETYX-MAC ver.17(株式会社ゼネティクス)を用いて、それらのアミノ酸のコンセンサス配列について、H1〜H16のすべての亜型間の配列同一性を調べた。また、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスに存在するすべてのクレードについて、すべてのクレード間の配列同一性を調べた。ただし、各クレードの配列は、それぞれ図13に記載した株のアミノ酸配列を用いた。結果を図13に示す。図13は、H1〜H16亜型鳥インフルエンザウイルスにおけるすべての亜型間およびH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスに存在しているすべてのクレード間の配列同一性を示す図である。(a)はH1〜H16亜型鳥インフルエンザウイルスにおけるすべての亜型間の配列同一性を示しており、(b)は、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスに存在しているすべてのクレード間の配列同一性を示している。

Claims (16)

  1. H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする、抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
  2. 重鎖可変領域中に、配列番号4に示されるCDR1、配列番号5に示されるCDR2および配列番号6または配列番号46に示されるCDR3のすべてを含んでおり、且つ、軽鎖可変領域中に、配列番号7に示されるCDR1、配列番号8に示されるCDR2および配列番号9に示されるCDR3のすべてを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
  3. 重鎖可変領域が、配列番号2に示されるアミノ酸配列、または、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1〜13個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ
    軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列、または、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/もしくは付加されたアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
  4. 重鎖可変領域が、配列番号45に示されるアミノ酸配列からなり、且つ
    軽鎖可変領域が、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項3に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
  5. 以下の(1)〜(4)の何れかに示す、H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片:
    (1)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片、
    (2)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列において1〜35個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片、
    (3)配列番号1または44に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有する抗体またはその可変領域を含む抗体断片、
    (4)上記(1)に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片をコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
  6. 下記の(a)〜(c)の工程を含む製造方法によって得られたことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片:
    (a)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドをトリに免疫する工程;
    (b)上記工程(a)で免疫したトリから上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を含むファージ抗体ライブラリーを得る工程;および
    (c)上記工程(b)で得られたファージ抗体のうち、上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を濃縮および選抜する工程。
  7. 一本鎖可変領域断片または二価抗体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
  8. 重鎖が配列番号26または配列番号52に示されるアミノ酸配列からなり、且つ、
    軽鎖が配列番号28に示されるアミノ酸配列からなる二価抗体であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片をコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチド。
  10. 請求項9に記載のポリヌクレオチドを有することを特徴とする、組換えベクター。
  11. 請求項10に記載のポリヌクレオチドまたは請求項10に記載の組換えベクターが導入されていることを特徴とする、形質転換体。
  12. H5亜型鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA1領域のうち、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を製造する方法であって、
    下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、方法:
    (a)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドをトリに免疫する工程;
    (b)上記工程(a)で免疫したトリから上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合するファージ抗体を含むファージ抗体ライブラリーを得る工程;および
    (c)上記工程(b)で得られたファージ抗体のうち、上記ヘマグルチニンHA1抗原ポリペプチドに特異的に結合する抗体を濃縮および選抜する工程。
  13. 上記抗体は、一本鎖可変領域断片または二価抗体であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
  14. 試料中に含まれるH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出するためのキットであって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片を備えていることを特徴とする、キット。
  15. 試料中に含まれるH5亜型鳥インフルエンザウイルスを検出する方法であって、
    請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体またはその可変領域を含む抗体断片と、生体から調製した試料とを反応させる工程を含むことを特徴とする、方法。
  16. 上記試料は、気管、咽喉頭、口腔または総排泄腔の、拭い液であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
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