JP6522313B2 - 有機エレクトロルミネッセンス素子および電子機器 - Google Patents
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Description
蛍光型の有機EL素子は、近年、長寿命化技術が進展し、携帯電話やテレビ等のフルカラーディスプレイへ応用されつつあるものの、高効率化が課題であった。
このTTF機構による遅延蛍光を利用すると、蛍光型発光においても理論的に内部量子効率を40%まで高めることができると考えられている。しかしながら、遅延蛍光を利用する蛍光型発光の有機EL素子は、依然として燐光型発光の有機EL素子に比べて高効率化の課題を有する。そこで、内部量子効率のさらなる向上を図るべく、他の遅延蛍光のメカニズムを利用する有機EL素子が検討されている。
非特許文献1には、TADF発光材料として、カルバゾリルジシアノベンゼン(CDCB)が記載されている。また、非特許文献1には、このCDCBをドーパント材料として用い、CBPをホスト材料として用いた有機EL素子が記載されている。
非特許文献2には、カルバゾリル基を4つ有するフタロニトリル誘導体((4s,6s)-2,4,5,6-tetra(9H-carbazol-9-yl)isophthalonitrile (4CzIPN))をドーパント材料として用い、m−CBP(3,3-di(9H-carbazol-9-yl)biphenyl)をホスト材料として用いた有機EL素子が記載されている。
X1〜X12は、それぞれ独立して、窒素原子またはC−RAであり、
RAは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3〜20のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜50のアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜50のアリールシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、または置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基を表し、複数のRAは、互いに同一でも異なっていてもよい。)
Z1〜Z6は、それぞれ独立に、窒素原子、CNと結合する炭素原子、または前記第二の材料の分子中における他の原子と結合する炭素原子である。前記一般式(2)で表される6員環構造は、任意の位置で環構造を構築してもよい。)
mは、0あるいは1である。
mが1の場合には、Y20は、単結合、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、炭素原子、ケイ素原子、またはゲルマニウム原子を表す。)
(有機EL素子の素子構成)
第一実施形態に係る有機EL素子の構成について説明する。
有機EL素子は、一対の電極間に有機層を備える。この有機層は、有機化合物で構成される層を一つ以上有する。有機層は、無機化合物をさらに含んでいてもよい。
本実施形態の有機EL素子において、有機層のうち少なくとも1層は、発光層である。ゆえに、有機層は、例えば、一層の発光層で構成されていてもよいし、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、正孔障壁層、電子障壁層等の有機EL素子で採用される層を有していてもよい。
(a)陽極/発光層/陰極
(b)陽極/正孔注入・輸送層/発光層/陰極
(c)陽極/発光層/電子注入・輸送層/陰極
(d)陽極/正孔注入・輸送層/発光層/電子注入・輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入・輸送層/第1発光層/第2発光層/電子注入・輸送層/陰極
(f)陽極/正孔注入・輸送層/発光層/障壁層/電子注入・輸送層/陰極
などの構造を挙げることができる。
上記の中で(d)の構成が好ましく用いられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
上記「正孔注入・輸送層」は「正孔注入層および正孔輸送層のうちの少なくともいずれか1つ」を意味し、「電子注入・輸送層」は「電子注入層および電子輸送層のうちの少なくともいずれか1つ」を意味する。ここで、正孔注入層および正孔輸送層を有する場合には、陽極側に正孔注入層が設けられていることが好ましい。また、電子注入層および電子輸送層を有する場合には、陰極側に電子注入層が設けられていることが好ましい。また、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層は、それぞれ、一層で構成されていても良いし、複数の層が積層されていてもよい。
本実施形態において電子輸送層といった場合には、発光層と陰極との間に存在する電子輸送領域の有機層のうち、最も電子移動度の高い有機層をいう場合がある。電子輸送領域が一層で構成されている場合には、当該層が電子輸送層である。また、発光層と電子輸送層との間には、構成(f)に示すように発光層で生成された励起エネルギーの拡散を防ぐ目的で、必ずしも電子移動度の高くない障壁層が設けられることがある。そのため、発光層に隣接する有機層が電子輸送層に必ずしも該当しない。
有機EL素子1は、透光性の基板2と、陽極3と、陰極4と、陽極3と陰極4との間に配置された有機層10と、を有する。
有機層10は、発光層5を有する。有機層10は、発光層5と陽極3との間に、正孔注入・輸送層6、を有する。さらに、有機層10は、発光層5と陰極4との間に、電子注入・輸送層7を有する。
本実施形態の有機EL素子において、発光層には、第一の材料と第二の材料が含有されている。第一の材料は、第二の材料とは異なる構造を有する化合物である。
本実施形態に係る第一の材料は、下記一般式(1)で表される。
RB、RC、RDおよびREは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3〜20のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜50のアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜50のアリールシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、または前記一般式(1b)におけるAraとの結合手であり、RB、RC、RDおよびREのうちのいずれか1つが当該Araとの結合手である。複数のRBは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のRCは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のRDは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のREは、互いに同一でも異なっていてもよい。
Y11、Y12、Y21およびY22は、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、硫黄原子、またはCRDREであることが好ましい。
または、前記一般式(1)におけるX1〜X12がC−RAであることが好ましい。この場合、前記一般式(1)は、下記一般式(1p)で表される。
前記一般式(1p)のRAのうち少なくともいずれかが、前記一般式(1b)で表されることが好ましい。例えば、前記一般式(1)は、下記一般式(1p−1)や下記一般式(1p−2)で表されることが好ましい。
本実施形態では、前記一般式(1p−1)および一般式(1p−2)において、Arbが前記一般式(1c)、一般式(1d)、一般式(1e)、一般式(1f)、一般式(1g)、一般式(1h)、一般式(1k)、一般式(1m)、および一般式(1n)のいずれかで表されることが好ましい。
前記一般式(1p−1)および一般式(1p−2)において、rは1であり、Araは、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜15のアリーレン基であることが好ましい。
前記一般式(1p−1)および前記一般式(1p−2)において、Arbが前記一般式(1e)、一般式(1f)、一般式(1g)、一般式(1h)、一般式(1k)、一般式(1m)、および一般式(1n)のうちいずれかで表される場合、RFがAraとの結合手であることが好ましい。
本実施形態に係る第二の材料は、一つの分子中に下記一般式(2)で表される部分構造および下記一般式(3)で表される部分構造を有する。
nは、1以上の整数である。nは、1以上5以下の整数であることが好ましく、2以上4以下の整数であることがより好ましい。
Z1〜Z6は、それぞれ独立に、窒素原子、CNと結合する炭素原子、または前記第二の材料の分子中における他の原子と結合する炭素原子である。例えば、Z1がCNと結合する炭素原子である場合、残りの5つ(Z2〜Z6)のうち少なくとも一つが、前記第二の材料の分子中における他の原子と結合する炭素原子となる。当該他の原子は、下記一般式(3)で表される部分構造を構成する原子でもよいし、当該部分構造との間に介在する連結基や置換基を構成する原子でもよい。
本実施形態に係る第二の材料は、Z1〜Z6で構成される6員環を部分構造として有していてもよいし、当該6員環にさらに環が縮合して構成される縮合環を部分構造として有していてもよい。
mは、0あるいは1である。mが1の場合には、Y20は、単結合、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、炭素原子、ケイ素原子、またはゲルマニウム原子を表す。)
(i)Lが、AとDとの間に介在している場合、Lは、単結合、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜14の複素環基、CR81R82、NR83、O、S、SiR84R85、CR86R87−CR88R89、CR90=CR91、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環基、または置換もしくは無置換の脂肪族複素環基であり、前記R81〜R91は、それぞれ独立に、前記Rと同義である。
(ii)Lが、前記第二の材料の分子中で末端に位置する場合、Lは、前記Rと同義である。
一分子のΔSTを小さく保持する目的において、前記Lは分子設計上、縮合芳香族環ではないことが好ましい。しかしながら、熱活性遅延蛍光発光を得ることが可能な範囲において、前記Lには、縮合芳香族環も採用することができる。また、一分子中にAとDを正確に配置する分子設計が必要となる事から、本実施形態に係る第二の材料は低分子材料であることが好ましい。従って、本実施形態に係る第二の材料は、分子量が5000以下であることが好ましく、分子量が3000以下であることがより好ましい。本実施形態に係る第二の材料は、前記一般式(2)および前記一般式(3)の部分構造を含み、この結果、第二の材料を含む有機EL素子は熱活性遅延蛍光発光する事ができる。
cは、1以上4以下の整数である。cが2以上4以下の整数の場合、複数の環構造Eは、互いに同一でも異なっていてもよい。したがって、例えば、cが2のとき、環構造Eは、下記一般式(3c)で表される環構造が2つでもよいし、下記一般式(3d)で表される環構造が2つでもよいし、下記一般式(3c)で表される環構造を1つと、下記一般式(3d)で表される環構造を1つとの組み合わせでもよい。
前記一般式(3e)において、R1〜R9から選ばれる置換基同士の組み合せのうち少なくとも1組は、互いに結合して、環構造を構築していてもよい。この環構造を構築する場合とは、すなわち、前記一般式(3e)において、R1〜R9がそれぞれ結合する6員環の炭素原子または5員環の窒素原子の内、隣り合う炭素原子にそれぞれ結合するR1〜R8および5員環の窒素原子に結合するR9から選ばれる置換基同士が環構造を構築し得る。具体的には、前記一般式(3e)において、R1とR2、R2とR3、R3とR4、R4とR5、R5とR6、R6とR7、R7とR8、R8とR9、並びにR1とR9からなる置換基の組み合わせのうち、少なくとも1組が、互いに結合して、環構造を構築し得る。
本実施形態において、置換基同士が結合して構築する環構造は、縮合環であることが好ましい。例えば、前記一般式(3e)において当該環構造を構築する場合には、縮合6員環構造が構築されていることが好ましい。
ただし、R11〜R19のうち少なくともいずれかは、前記第二の材料の分子中における他の原子と結合する単結合である。
前記一般式(3f)において、R11〜R19から選ばれる置換基同士の組み合せのうち少なくとも1組は、互いに結合して、環構造を構築していてもよい。
前記一般式(3f)において、Eは、下記一般式(3g)で表される環構造、または下記一般式(3h)で表される環構造を示し、この環構造Eは、隣接する環構造と任意の位置で縮合している。
cは、環構造Eの数であり、1以上4以下の整数である。cが2以上4以下の整数の場合、複数の環構造Eは、互いに同一でも異なっていてもよい。したがって、例えば、cが2のとき、環構造Eは、下記一般式(3g)で表される環構造が2つでもよいし、下記一般式(3h)で表される環構造が2つでもよいし、下記一般式(3g)で表される環構造を1つと、下記一般式(3h)で表される環構造を1つとの組み合わせでもよい。
前記一般式(3h)において、Z8は、CR22R23、NR24、硫黄原子、または酸素原子を表し、R22〜R24は、それぞれ独立に、前記R1〜R9と同義である。
前記一般式(3f)中、R11〜R24から選ばれる置換基同士の組み合せのうち少なくとも1組は、互いに結合して、環構造を構築していてもよい。
LAは、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30の芳香族炭化水素環または環形成原子数6〜30の複素環である。
CNは、シアノ基である。
D1およびD2は、それぞれ独立に、前記一般式(3)で表され、ただし、前記一般式(3)における環構造Fおよび環構造Gは、無置換でも置換基を有していても良く、mは、0あるいは1であり、mが1の場合には、Y20は、単結合、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、カルボニル基、CR21R22、SiR23R24またはGeR25R26を表し、R21〜R26は、前記Rと同義である。また、mが1である場合、前記一般式(3)は、前記一般式(31)〜(34)並びに前記一般式(38)〜(41)のいずれかで表される。
D1とD2とは同じであっても異なっていても良い。tが2以上の場合、複数のD1は、互いに同一でも異なっていてもよい。uが2以上の場合、複数のD2は、互いに同一でも異なっていてもよい。
また、前記LAにおける環形成原子数6〜30の複素環としては、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、キナゾリン、フェナントロリン、ベンゾフラン、ジベンゾフランなどが挙げられる。
X31〜X38およびY31〜Y38は、それぞれ独立に、窒素原子、R30と結合する炭素原子、またはL33と結合する炭素原子を表す。ただし、X35〜X38のうち少なくともいずれかが、L33と結合する炭素原子であり、Y31〜Y34のうち少なくともいずれかが、L33と結合する炭素原子である。
R30は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルキル基、または置換もしくは無置換のシリル基を表す。複数のR30は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
L31およびL32は、それぞれ独立に、単結合または連結基であり、L31およびL32における連結基としては、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、前記芳香族炭化水素基から選ばれる2個から4個の基が結合してなる多重連結基、前記複素環基から選ばれる2個から4個の基が結合してなる多重連結基、又は前記芳香族炭化水素基及び前記複素環基から選ばれる2個から4個の基が結合してなる多重連結基である。
L33は、置換もしくは無置換の環形成炭素数6以下の単環炭化水素基、または置換もしくは無置換の環形成原子数6以下の単環複素環基を表す。
wは、0〜3の整数を表す。wが0のとき、X35〜X38のうち少なくともいずれかと、Y31〜Y34のうち少なくともいずれかとが直接結合する。
なお、単環炭化水素基は、縮合環ではなく、単一の炭化水素環(脂肪族環状炭化水素または芳香族炭化水素)から誘導される基であり、単環複素環基は、単一の複素環から誘導される基である。
(i)A31およびB31の少なくともいずれかが、シアノ基で置換された環形成炭素数6〜30の芳香族炭化水素基、またはシアノ基で置換された環形成原子数6〜30の複素環基である。
(ii)X31〜X34およびY35〜Y38の少なくともいずれかが、R30と結合する炭素原子であり、当該R30の少なくともいずれかが、シアノ基で置換された環形成炭素数6〜30の芳香族炭化水素基、またはシアノ基で置換された環形成原子数6〜30の複素環基である。
または、前記一般式(21)において、前記(ii)の条件を満たし、前記(i)の条件を満たさないことが好ましい。
または、前記(i)の条件および前記(ii)の条件を満たすことも好ましい。
また、前記一般式(21)において、X36とY32とが、L33を介して結合しているか、もしくは直接結合していることが好ましい。
また、前記一般式(21)において、X37とY33とが、L33を介して結合しているか、もしくは直接結合していることが好ましい。
または、前記一般式(21)において、wが1であることが好ましい。
第一の材料は、例えば以下のように製造することができる。
例えば一般式(1)で表される部分構造を有する化合物を製造する場合、まず、一般式(1)においてX1〜X12が、窒素原子、または水素原子と結合した炭素原子である市販の化合物を出発物質とする。この出発物質の水素原子を、公知の方法によりハロゲン原子やアルキル基等で置換して得られる。このハロゲン原子をSuzukiカップリング等の方法によりアリール基などさらに別の基に置換することもできる。
また、第二の材料は、例えば一般式(2)で表される部分構造を有し、Z1〜Z6のうち少なくとも1つがハロゲン原子と結合した炭素原子である市販の化合物を、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等の触媒および塩基の存在下で、一般式(3)で表され、環構造Fおよび環構造Gと結合した窒素原子に水素原子が結合した化合物を反応させて製造することができる。
本実施形態では、特定構造を有する第一の材料と第二の材料とを組み合わせて発光層に用いる。このような組み合せは、過渡PLの測定によって導き出すことができる。
そこで、過渡PLに基づく、第一の材料および第二の材料の相関性について説明する。
本実施形態の過渡PL測定装置100は、所定波長の光を照射可能なパルスレーザー部101と、測定試料を収容する試料室102と、測定試料から放射された光を分光する分光器103と、2次元像を結像するためのストリークカメラ104と、2次元像を取り込んで解析するパーソナルコンピュータ105とを備える。なお、過渡PLの測定は、本実施形態で説明する装置に限定されない。
試料室102に収容される試料は、マトリックス材料に対し、ドーピング材料が12質量%の濃度でドープされた薄膜を石英基板に成膜することで得られる。
試料室102に収容された薄膜試料に対し、パルスレーザー部101からパルスレーザーを照射して励起させる。励起光の90度の方向から発光を取り出し、分光器103で分光し、ストリークカメラ104内で2次元像を結像する。その結果、縦軸が時間に対応し、横軸が波長に対応し、輝点が発光強度に対応する2次元画像を得ることができる。この2次元画像を所定の時間軸で切り出すと、縦軸が発光強度であり、横軸が波長である発光スペクトルを得ることができる。また、当該2次元画像を波長軸で切り出すと、縦軸が発光強度の対数であり、横軸が時間である減衰曲線を得ることができる。
また、参考化合物H1の三重項エネルギーは、化合物D1の三重項エネルギーより高い。このことから過渡PLにおいて観測される発光スペクトルは、参考化合物H1よりも低い三重項エネルギーを有する化合物D1由来、または新たに形成されたエキサイプレックス由来と考えられる。また、化合物D1のようにCN基を有するアクセプター性の高い化合物は、三重項エネルギーが高いという理由でのみマトリックス材料を選択したとしても、励起子を保持できないことが分かった。
一方、遅延蛍光は、寿命の長い三重項励起子を経由して生成する一重項励起子からの発光であるため、ゆるやかに減衰する。このように最初のPL励起で生成する一重項励起子からの発光と、三重項励起子を経由して生成する一重項励起子からの発光とでは、時間的に大きな差がある。そのため、遅延蛍光由来の発光強度を求めることができる。
薄膜試料AおよびBともに、ドーピング材料として遅延蛍光発光性の化合物である化合物D1を用い、化合物D1がマトリックス材料中に分散した薄膜を有している。そのため、これら薄膜試料の共蒸着膜の過渡PLは、単一指数関数として観測されると考えられた。
しかしながら、薄膜試料Aの共蒸着膜の過渡PLについては、図3に示すように、減衰曲線の遅延蛍光由来の曲線部分が、非単一指数関数による発光成分として観測されている。これは、エキサイプレックスの発光準位と化合物D1の発光準位との間におけるエネルギー移動のやり取りが行われたため、非単一指数関数として観測されたと考えられる。
一方で、薄膜試料Bの共蒸着膜の過渡PLについては、図3に示すように、減衰曲線の遅延蛍光由来の曲線部分が、単一指数関数による発光成分として観測されている。そのため、参考化合物H2と化合物D1とは、エキサイプレックスを形成しにくい組み合わせであることが推測される。
本実施形態に係る第一の材料および第二の材料は、エキサイプレックスを形成し難くなるように化合物を選択して組み合わせることが好ましい。エキサイプレックスの形成は、上述のような共蒸着膜の過渡PL測定によって確認できる。
なお、本実施形態に係る第一の材料および第二の材料は、第一の材料の77[K]におけるエネルギーギャップT77K(M1)と、第二の材料の77[K]におけるエネルギーギャップT77K(M2)とが下記数式(数1)の関係を満たす化合物から選択されることが好ましい。77[K]におけるエネルギーギャップについては後述する。
T77K(M1) > T77K(M2) …(数1)
過渡PL測定によって、縦軸を発光強度とし、横軸を時間とする発光減衰曲線を得ることができる。この発光減衰曲線に基づいて、光励起により生成した一重項励起状態から発光する蛍光と、三重項励起状態を経由して生成する一重項励起状態から発光する遅延蛍光との、蛍光強度比を見積もることができる。遅延蛍光発光性の材料では、素早く減衰する蛍光の強度に対し、緩やかに減衰する遅延蛍光の強度の割合が、ある程度大きい。本発明における遅延蛍光発光性の材料とは、室温で測定した発光減衰曲線において、光励起後から1マイクロ秒以降の発光強度を時間に対して積算した値が、1マイクロ秒以内の発光強度を時間に対して積算した値の5%以上である材料とする。
ただし、光励起により生成する励起状態の中で三重項励起状態の割合が極端に小さく、本来、遅延蛍光発光性の材料であっても遅延蛍光が微弱にしか観測されない場合がある。このような材料については、室温で三重項励起状態が基底状態へ緩和する過程において、一重項励起状態を経由して発光する割合が、無輻射失活する割合よりも大きい場合に遅延蛍光性の材料であるとする。なお、ここでの過渡PLの測定は、エキサイプレックスの形成や三重項励起状態の消光剤などが無い条件で行う必要がある。
一般的に、イオン化ポテンシャルが大きな材料をアクセプター分子と呼び、イオン化ポテンシャルの小さい材料をドナー分子と呼ぶ。アクセプター分子とドナー分子が隣接すると、エキサイプレックスを起こしやすいと考えられている。本実施形態に係る第二の材料は、強いアクセプター性であるCN基を有している。そのため、第二の材料と、有機EL素子の正孔輸送材料として一般的なアミン系材料とは、エキサイプレックスを形成しやすいと考えられる。
参考化合物H1と、第二の材料である化合物D1との組み合わせの場合は、マトリックス材料としての参考化合物H1のイオン化ポテンシャルよりも、ドーピング材料としての化合物D1のイオン化ポテンシャルの方が大きい。この場合、高い確率でエキサイプレックスを形成する。一方、参考化合物H2と化合物D1との組み合わせの場合は、化合物D1のイオン化ポテンシャルよりも、参考化合物H2のイオン化ポテンシャルの方が大きくなるため、エキサイプレックスの形成を効率良く阻止できる。参考化合物H1と参考化合物H2は共にジカルバゾール骨格を有する化合物であるが、一般的にカルバゾール骨格の結合の仕方により、ドナー性能が変わることが知られている。本参考例の場合、参考化合物H1の方が、イオン化ポテンシャルが小さく、ドナー性能が強い事が知られている。
さらに、下記参考化合物H3のイオン化ポテンシャルは、化合物D1のイオン化ポテンシャルよりも大きい。そのため、下記参考化合物H3と化合物D1との組み合わせにより、エキサイプレックスの形成を効率よく阻止することができる。下記参考化合物H3は、本実施形態に係る第一の材料に相当する。
したがって、本実施形態の有機EL素子1では、前記数式(数1)の関係を満たすように、第一の材料として前記一般式(1)で表される部分構造を有する化合物と、前記第二の材料とを発光層に含有させることで、有機EL素子の発光効率を向上させ、寿命を延ばすことができる。
このような関係を満たすことで、エキサイプレックスの形成を抑制することができる。
したがって、例えば、一つの分子中に前記一般式(2)で表される部分構造、および前記一般式(3)で表される部分構造を有する第二の材料を用いる場合には、第一の材料として、非アミン系化合物を用いることが好ましい。
また、CN基を有する第二の材料は、アクセプター性が高く、電子をトラップして発光層内における電子の移動を妨げる傾向がある。そのため、第一の材料のホール輸送性が電子輸送性に対して相対的に高過ぎると、ホールや励起エネルギーが陰極や陰極側に形成された有機層に逃げ、発光効率が低下してしまう。本実施形態における第一の材料は、適度なホール輸送性と電子輸送性を有するため、発光効率をより一層向上させることができる。さらに第一の材料は、縮合環からなる剛直な構造を有するため、熱による化学的な変化や薄膜の物理的変化が少なく、有機EL素子を長寿命化させることができる。
本実施形態の有機EL素子では、第二の材料の一重項エネルギーS(M2)と、第二の材料の77[K]におけるエネルギーギャップT77K(M2)との差ΔST(M2)が下記数式(数2)を満たすことが好ましい。
ΔST(M2)=S(M2)−T77K(M2)<0.3[eV] (数2)
また、ΔST(M2)は、0.2[eV]未満であることが好ましい。
参考文献1:安達千波矢ら、有機EL討論会 第10回例会予稿集、S2−5,p11〜12
参考文献2:徳丸克己、有機光化学反応論、東京化学同人出版、(1973)
このような材料は、量子計算により分子設計を行い合成することが可能であり、具体的には、LUMO、及びHOMOの電子軌道を重ねないように局在化させた化合物である。
本実施形態の第二の材料に用いるΔSTの小さな化合物の例としては、分子内でドナー要素とアクセプター要素とを結合した化合物であり、さらに電気化学的な安定性(酸化還元安定性)を考慮し、ΔSTが0eV以上0.3eV未満の化合物が挙げられる。
また、より好ましい化合物は、分子の励起状態で形成される双極子(ダイポール)が互いに相互作用し、交換相互作用エネルギーが小さくなるような会合体を形成する化合物である。本発明者らの検討によれば、このような化合物は、双極子(ダイポール)の方向がおおよそ揃い、分子の相互作用により、さらにΔSTが小さくなり得る。このような場合、ΔSTは、0eV以上0.2eV以下と極めて小さくなり得る。
前述したとおり、第二の材料のΔST(M2)が小さいと、外部から与えられる熱エネルギーによって、第二の材料の三重項準位から第二の材料の一重項準位への逆項間交差が起こり易くなる。有機EL素子内部の電気励起された励起子の励起三重項状態が、逆項間交差によって、励起一重項状態へスピン交換がされるエネルギー状態変換機構をTADF機構と呼ぶ。
本実施形態の有機EL素子では、第二の材料としてΔST(M2)が小さい化合物を用いることが好ましく、外部から与えられる熱エネルギーによって、第二の材料の三重項準位から第二の材料の一重項準位への逆項間交差が起こり易くなる。
図4は、発光層における第二の材料と第一の材料とのエネルギー準位の関係の一例を示す。図4において、S0は、基底状態を表し、S1Hは、第一の材料の最低励起一重項状態を表し、T1Hは、第一の材料の最低励起三重項状態を表し、S1Dは、第二の材料の最低励起一重項状態を表し、T1Dは、第二の材料の最低励起三重項状態を表し、破線の矢印は、各励起状態間のエネルギー移動を表す。図4に示すように、第二の材料としてΔST(M2)の小さな材料を用いることにより、第一の材料の最低励起三重項状態T1Hからのデクスター移動により第二の材料の最低励起一重項状態S1Dまたは最低励起三重項状態T1Dにエネルギー移動する。さらに第二の材料の最低励起三重項状態T1Dは、熱エネルギーにより、最低励起一重項状態S1Dに逆項間交差が可能である。この結果、第二の材料の最低励起一重項状態S1Dからの蛍光発光を観測することができる。このTADF機構による遅延蛍光を利用することによっても、理論的に内部効率を100%まで高めることができると考えられている。
なお、本発明は、図4に示したような第二の材料と第一の材料のエネルギー準位の関係に限定されない。例えば、ΔST(M2)の小さな第二の材料を用いることで、熱エネルギーにより最低励起三重項状態T1Dから最低励起一重項状態S1Dに逆項間交差を起こり易くさせ、第二の材料の最低励起一重項状態S1Dから、第一の材料の最低励起一重項状態S1Hへエネルギー移動させるように発光層を構成してもよい。
ここで、三重項エネルギーと77[K]におけるエネルギーギャップとの関係について説明する。本実施形態では、77[K]におけるエネルギーギャップは、通常定義される三重項エネルギーとは異なる点がある。
三重項エネルギーの測定は、次のようにして行われる。まず、測定対象となる化合物を石英基板上に蒸着した試料、または適切な溶媒中に溶解した溶液を石英ガラス管内に封入した試料を作製する。この試料について、低温(77[K])で燐光スペクトル(縦軸:燐光発光強度、横軸:波長とする。)を測定し、この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値に基づいて、所定の換算式から三重項エネルギーを算出する。
ここで、本実施形態に用いる化合物としては、ΔSTが小さい化合物であることが好ましい。ΔSTが小さいと、低温(77[K])状態でも、項間交差、及び逆項間交差が起こりやすく、励起一重項状態と励起三重項状態とが混在する。その結果、上記と同様にして測定されるスペクトルは、励起一重項状態および励起三重項状態の両者からの発光を含んでおり、いずれの状態から発光したかについて峻別することは困難であるが、基本的には三重項エネルギーの値が支配的と考えられる。
そのため、本実施形態では、通常の三重項エネルギーTと測定手法は同じであるが、その厳密な意味において異なることを区別するため、次のようにして測定される値をエネルギーギャップT77Kと称する。薄膜を用いて測定する場合には、測定対象となる化合物を石英基板上に膜厚100nmで蒸着して試料を作製する。この試料について、低温(77[K])で燐光スペクトル(縦軸:燐光発光強度、横軸:波長とする。)を測定し、この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]に基づいて、次の換算式1から算出されるエネルギー量をエネルギーギャップT77Kとする。
換算式1:T77K[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線(すなわち変曲点における接線)が、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の15%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
燐光の測定には、(株)日立ハイテクノロジー製のF−4500形分光蛍光光度計本体を用いることができる。なお、測定装置はこの限りではなく、冷却装置及び低温用容器と、励起光源と、受光装置とを組み合わせることにより、測定してもよい。
一重項エネルギーSは、次のようにして測定される。
測定対象となる化合物を石英基板上に膜厚100nmで蒸着して試料を作製し、常温(300K)でこの試料の発光スペクトル(縦軸:発光強度、横軸:波長とする。)を測定する。この発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]に基づいて、次に示す換算式2から算出される。
換算式2:S[eV]=1239.85/λedge
吸収スペクトルは、分光光度計で測定する。例えば、日立社製の分光光度計(装置名:U3310)等を用いることができる。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の15%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、石英基板上に蒸着した試料を用いた測定結果と、溶液を用いた測定結果とが大きく異なる場合には、その原因として分子の会合体の形成や溶媒との強い相互作用などが考えられる。そのため、測定対象となる化合物と、エネルギーギャップが大きくエキサイプレックスを形成しない適切な他の材料とを、石英基板上に共蒸着した試料を用いて上記の測定を行うこともできる。
また、本実施形態の有機EL素子において、発光層には金属錯体が含有されていないことが好ましい。
基板は、有機EL素子の支持体として用いられる。基板としては、例えば、ガラス、石英、プラスチックなどを用いることができる。また、可撓性基板を用いてもよい。可撓性基板とは、折り曲げることができる(フレキシブル)基板のことであり、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニルからなるプラスチック基板等が挙げられる。また、無機蒸着フィルムを用いることもできる。
基板上に形成される陽極には、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。具体的には、例えば、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛、酸化タングステン、および酸化亜鉛を含有した酸化インジウム、グラフェン等が挙げられる。この他、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、または金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。
これらの材料は、通常、スパッタリング法により成膜される。例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛は、酸化インジウムに対し1質量%以上10質量%以下の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いることにより、スパッタリング法で形成することができる。また、例えば、酸化タングステン、および酸化亜鉛を含有した酸化インジウムは、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5質量%以上5質量%以下、酸化亜鉛を0.1質量%以上1質量%以下含有したターゲットを用いることにより、スパッタリング法で形成することができる。その他、真空蒸着法、塗布法、インクジェット法、スピンコート法などにより作製してもよい。
陽極上に形成されるEL層のうち、陽極に接して形成される正孔注入層は、陽極の仕事関数に関係なく正孔(ホール)注入が容易である複合材料を用いて形成されるため、電極材料として可能な材料(例えば、金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物、その他、元素周期表の第1族または第2族に属する元素も含む)を用いることができる。
仕事関数の小さい材料である、元素周期表の第1族または第2族に属する元素、すなわちリチウム(Li)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属、およびマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、およびこれらを含む合金(例えば、MgAg、AlLi)、ユーロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)等の希土類金属およびこれらを含む合金等を用いることもできる。なお、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびこれらを含む合金を用いて陽極を形成する場合には、真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。さらに、銀ペーストなどを用いる場合には、塗布法やインクジェット法などを用いることができる。
陰極には、仕事関数の小さい(具体的には3.8eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。このような陰極材料の具体例としては、元素周期表の第1族または第2族に属する元素、すなわちリチウム(Li)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属、およびマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、およびこれらを含む合金(例えば、MgAg、AlLi)、ユーロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)等の希土類金属およびこれらを含む合金等が挙げられる。
なお、アルカリ金属、アルカリ土類金属、これらを含む合金を用いて陰極を形成する場合には、真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、銀ペーストなどを用いる場合には、塗布法やインクジェット法などを用いることができる。
なお、電子注入層を設けることにより、仕事関数の大小に関わらず、Al、Ag、ITO、グラフェン、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ等様々な導電性材料を用いて陰極を形成することができる。これらの導電性材料は、スパッタリング法やインクジェット法、スピンコート法等を用いて成膜することができる。
正孔注入層は、正孔注入性の高い物質を含む層である。正孔注入性の高い物質としては、モリブデン酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、レニウム酸化物、ルテニウム酸化物、クロム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、タンタル酸化物、銀酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等を用いることができる。
また、正孔注入性の高い物質としては、低分子の有機化合物である4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、4,4’−ビス(N−{4−[N’−(3−メチルフェニル)−N’−フェニルアミノ]フェニル}−N−フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTPD)、1,3,5−トリス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ベンゼン(略称:DPA3B)、3−[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,6−ビス[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3−[N−(1−ナフチル)−N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)アミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等の芳香族アミン化合物等も挙げられる。
また、正孔注入性の高い物質としては、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)を用いることもできる。例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4−ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N−(4−{N’−[4−(4−ジフェニルアミノ)フェニル]フェニル−N’−フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略称:PTPDMA)、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)ベンジジン](略称:Poly−TPD)などの高分子化合物が挙げられる。また、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の酸を添加した高分子化合物を用いることもできる。
正孔輸送層は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。正孔輸送層には、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体等を使用する事ができる。具体的には、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)やN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BAFLP)、4,4’−ビス[N−(9,9−ジメチルフルオレン−2−イル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DFLDPBi)、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物等を用いることができる。ここに述べた物質は、主に10−6cm2/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。
正孔輸送層には、CBP、CzPA、PCzPAのようなカルバゾール誘導体や、t−BuDNA、DNA、DPAnthのようなアントラセン誘導体を用いても良い。ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)やポリ(4−ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)等の高分子化合物を用いることもできる。
但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、正孔輸送性の高い物質を含む層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
電子輸送層は、電子輸送性の高い物質を含む層である。電子輸送層には、1)アルミニウム錯体、ベリリウム錯体、亜鉛錯体等の金属錯体、2)イミダゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、アジン誘導体、カルバゾール誘導体、フェナントロリン誘導体等の複素芳香族化合物、3)高分子化合物を使用することができる。具体的には低分子の有機化合物として、Alq、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq3)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq2)、BAlq、Znq、ZnPBO、ZnBTZなどの金属錯体等を用いることができる。また、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3−ビス[5−(ptert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:p−EtTAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン(略称:BzOs)などの複素芳香族化合物も用いることができる。ここに述べた物質は、主に10−6cm2/Vs以上の電子移動度を有する物質である。なお、正孔輸送性よりも電子輸送性の高い物質であれば、上記以外の物質を電子輸送層として用いてもよい。また、電子輸送層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
また、電子輸送層には、高分子化合物を用いることもできる。例えば、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(ピリジン−3,5−ジイル)](略称:PF−Py)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(2,2’−ビピリジン−6,6’−ジイル)](略称:PF−BPy)などを用いることができる。
電子注入層は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入層には、リチウム(Li)、セシウム(Cs)、カルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF2)、リチウム酸化物(LiOx)等のようなアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を用いることができる。その他、電子輸送性を有する物質にアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を含有させたもの、具体的にはAlq中にマグネシウム(Mg)を含有させたもの等を用いてもよい。なお、この場合には、陰極からの電子注入をより効率良く行うことができる。
あるいは、電子注入層に、有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子供与体によって有機化合物に電子が発生するため、電子注入性および電子輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した電子の輸送に優れた材料であることが好ましく、具体的には、例えば上述した電子輸送層を構成する物質(金属錯体や複素芳香族化合物等)を用いることができる。電子供与体としては、有機化合物に対し電子供与性を示す物質であればよい。具体的には、アルカリ金属やアルカリ土類金属や希土類金属が好ましく、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、エルビウム、イッテルビウム等が挙げられる。また、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物が好ましく、リチウム酸化物、カルシウム酸化物、バリウム酸化物等が挙げられる。また、酸化マグネシウムのようなルイス塩基を用いることもできる。また、テトラチアフルバレン(略称:TTF)等の有機化合物を用いることもできる。
本実施形態の有機EL素子の各層の形成方法としては、上記で特に言及した以外には制限されないが、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ法、イオンプレーティング法などの乾式成膜法や、スピンコーティング法、ディッピング法、フローコーティング法、インクジェット法などの湿式成膜法などの公知の方法を採用することができる。
本実施形態の有機EL素子の各有機層の膜厚は、上記で特に言及した以外には制限されないが、一般に膜厚が薄すぎるとピンホール等の欠陥が生じやすく、逆に厚すぎると高い印加電圧が必要となり効率が悪くなるため、通常は数nmから1μmの範囲が好ましい。
本明細書において、環形成原子数とは、原子が環状に結合した構造(例えば単環、縮合環、環集合)の化合物(例えば、単環化合物、縮合環化合物、架橋化合物、炭素環化合物、複素環化合物)の当該環自体を構成する原子の数を表す。環を構成しない原子(例えば、環を構成する原子の結合手を終端する水素原子)や、当該環が置換基によって置換される場合の置換基に含まれる原子は環形成原子数には含まない。以下で記される「環形成原子数」については、特筆しない限り同様とする。例えば、ピリジン環は、環形成原子数が6であり、キナゾリン環は、環形成原子数が10であり、フラン環は、環形成原子数が5である。ピリジン環やキナゾリン環の炭素原子にそれぞれ結合している水素原子や置換基を構成する原子については、環形成原子数の数に含めない。また、フルオレン環に置換基として例えばフルオレン環が結合している場合(スピロフルオレン環を含む)、置換基としてのフルオレン環の原子数は環形成原子数の数に含めない。
次に本明細書における前記一般式に記載の各置換基について説明する。
本実施形態におけるアリール基としては、環形成炭素数が6〜20であることが好ましく、6〜14であることがより好ましく、6〜12であることが更に好ましい。上記アリール基の中でもフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ターフェニル基、フルオレニル基が特に好ましい。1−フルオレニル基、2−フルオレニル基、3−フルオレニル基および4−フルオレニル基については、9位の炭素原子に、後述する本実施形態における置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルキル基や置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜18のアリール基が置換されていることが好ましい。
本実施形態における複素環基の環形成原子数は、5〜20であることが好ましく、5〜14であることがさらに好ましい。上記複素環基の中でも1−ジベンゾフラニル基、2−ジベンゾフラニル基、3−ジベンゾフラニル基、4−ジベンゾフラニル基、1−ジベンゾチオフェニル基、2−ジベンゾチオフェニル基、3−ジベンゾチオフェニル基、4−ジベンゾチオフェニル基、1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、4−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基が特に好ましい。1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基および4−カルバゾリル基については、9位の窒素原子に、本実施形態における置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基または置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基が置換されていることが好ましい。
本実施形態における直鎖または分岐鎖のアルキル基の炭素数は、1〜10であることが好ましく、1〜6であることがさらに好ましい。上記直鎖または分岐鎖のアルキル基の中でもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、アミル基、イソアミル基、ネオペンチル基が特に好ましい。
本実施形態におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が挙げられる。シクロアルキル基の環形成炭素数は、3〜10であることが好ましく、5〜8であることがさらに好ましい。上記シクロアルキル基の中でも、シクロペンチル基やシクロヘキシル基が特に好ましい。
アルキル基がハロゲン原子で置換されたハロゲン化アルキル基としては、例えば、上記炭素数1〜30のアルキル基が1以上のハロゲン基で置換されたものが挙げられる。具体的には、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、トリフルオロメチルメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。
ジアルキルアリールシリル基は、例えば、上記炭素数1〜30のアルキル基で例示したアルキル基を2つ有し、上記環形成炭素数6〜30のアリール基を1つ有するジアルキルアリールシリル基が挙げられる。ジアルキルアリールシリル基の炭素数は、8〜30であることが好ましい。
アルキルジアリールシリル基は、例えば、上記炭素数1〜30のアルキル基で例示したアルキル基を1つ有し、上記環形成炭素数6〜30のアリール基を2つ有するアルキルジアリールシリル基が挙げられる。アルキルジアリールシリル基の炭素数は、13〜30であることが好ましい。
トリアリールシリル基は、例えば、上記環形成炭素数6〜30のアリール基を3つ有するトリアリールシリル基が挙げられる。トリアリールシリル基の炭素数は、18〜30であることが好ましい。
アルコキシ基がハロゲン原子で置換されたハロゲン化アルコキシ基としては、例えば、上記炭素数1〜30のアルコキシ基が1以上のハロゲン基で置換されたものが挙げられる。
環形成炭素数6〜30のアリールチオ基は、−SRWと表される。このRWの例として、上記環形成炭素数6〜30のアリール基が挙げられる。アリールチオ基の環形成炭素数は、6〜20であることが好ましい。
また、本明細書において、水素原子とは、中性子数の異なる同位体、すなわち、軽水素(Protium)、重水素(Deuterium)、三重水素(Tritium)を包含する。
ここで挙げた置換基の中では、アリール基、複素環基、アルキル基、ハロゲン原子、アルキルシリル基、アリールシリル基、シアノ基が好ましく、さらには、各置換基の説明において好ましいとした具体的な置換基が好ましい。
これらの置換基は、上記の置換基によって更に置換されてもよい。また、これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成してもよい。
なお、本明細書において、「置換もしくは無置換の炭素数XX〜YYのZZ基」という表現における「炭素数XX〜YY」は、ZZ基が無置換である場合の炭素数を表すものであり、ZZ基が置換されている場合の置換基の炭素数は含めない。ここで、「YY」は「XX」よりも大きく、「XX」と「YY」はそれぞれ1以上の整数を意味する。
本明細書において、「置換もしくは無置換の原子数XX〜YYのZZ基」という表現における「原子数XX〜YY」は、ZZ基が無置換である場合の原子数を表すものであり、置換されている場合の置換基の原子数は含めない。ここで、「YY」は「XX」よりも大きく、「XX」と「YY」はそれぞれ1以上の整数を意味する。
以下に説明する化合物またはその部分構造において、「置換もしくは無置換の」という場合についても、前記と同様である。
本明細書において、連結基における芳香族炭化水素基および複素環基としては、上述した一価の基から、さらに1つ以上の原子を除いて得られる二価以上の基が挙げられる。
また、本明細書において、芳香族炭化水素環および複素環としては、上述した一価の基の由来となる環構造が挙げられる。
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変更、改良などは、本発明に含まれるものである。
また、有機EL素子が複数の発光層を有する場合、これらの発光層が互いに隣接して設けられていてもよいし、中間層を介して複数の発光ユニットが積層された、いわゆるタンデム型の有機EL素子であってもよい。
発光層が複数層積層されている場合としては、例えば図5に示される有機EL素子1Aが挙げられる。有機EL素子1Aは、有機層10Aを有し、この有機層10Aは、正孔注入・輸送層6と電子注入・輸送層7との間に、第1発光層51及び第2発光層52を有する点で、図1に示された有機EL素子1と異なる。第1発光層51及び第2発光層52のうち少なくともいずれかが前記一般式(1)で表される化合物を含んでいる。その他の点においては、有機EL素子1Aは、有機EL素子1と同様に構成される。
次に、本実施例で使用した化合物の物性を測定した。測定方法および算出方法を以下に示すとともに、測定結果および算出結果を表5に示す。
化合物TD−1の10μmol/Lトルエン溶液を調製して石英セルに入れ、常温(300K)でこの試料の発光スペクトル(縦軸:発光強度、横軸:波長とする。)を測定した。この発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を次に示す換算式2に代入して一重項エネルギーを算出した。
換算式2:S[eV]=1239.85/λedge
本実施例では、発光スペクトルを日立社製の分光光度計(装置名:U3310)で測定した。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の15%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とした。
化合物TD−1と化合物TH−2とを、化合物TD−1の割合が12質量%となるように石英基板上に共蒸着し、膜厚100nmの薄膜を形成して試料を作製した。
この試料に室温でパルス励起光を照射したところ、化合物TD−1からの発光が観察された。また、光照射後の発光強度の時間に対する変化(過渡PLスペクトル)を測定した。過渡PLスペクトルにおける光照射後1マイクロ秒以降の発光強度を時間に対して積算した値は、1マイクロ秒以内の発光強度を時間に対して積算した値の5%以上であったことから、化合物TD−1が遅延蛍光発光性を示すことを確認した。
測定試料を以下のように作製した。
化合物TD−1以外の化合物については、測定対象となる化合物を溶媒となるEPA(ジエチルエーテル:イソペンタン:エタノール=5:5:2(容積比))中に、濃度が10μmol/Lとなるように溶解し、この溶液を石英セル中に入れて測定試料とした。
化合物TD−1は、前述したとおり遅延蛍光発光性を示したので、測定試料を変更した。具体的には、化合物TD−1と化合物TH−2とを、化合物TD−1の割合が12質量%となるように石英基板上に共蒸着し、膜厚100nmの薄膜を形成し、測定試料とした。
これらの測定試料について、低温(77[K])で燐光スペクトル(縦軸:燐光発光強度、横軸:波長とする。)を測定し、この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]に基づいて、次の換算式1から算出されるエネルギー量をエネルギーギャップT77Kとした。
換算式1:T77K[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は前述のとおり引いた。燐光の測定には、(株)日立ハイテクノロジー製のF−4500形分光蛍光光度計本体を用いた。
化合物TD−1のΔSTを、上述の方法で測定したSとT77Kとの差として求めた結果、0.16[eV]であった。
大気下で光電子分光装置(理研計器株式会社製:AC−3)を用いて測定した。具体的には、測定対象となる化合物に光を照射し、その際に電荷分離によって生じる電子量を測定することにより測定した。
有機EL素子を以下のように作製し、評価した。
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極(陽極)付きガラス基板(ジオマティック社製)を、イソプロピルアルコール中で5分間超音波洗浄を行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。ITOの膜厚は、130nmとした。
洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に透明電極を覆うようにして化合物HIを蒸着し、膜厚5nmの正孔注入層を形成した。
次に、正孔注入層上に、化合物HT−1を蒸着し、HI膜上に膜厚20nmの第一正孔輸送層を形成した。
次に、この第一正孔輸送層上に、化合物HT−2を蒸着し、膜厚5nmの第二正孔輸送層を形成した。
次に、この第二正孔輸送層上に、化合物CBPを蒸着し、膜厚5nmの第三正孔輸送層を形成した。
さらに、この第三正孔輸送層上に、第一材料としての化合物TH−1と、第二材料としての化合物TD−1とを共蒸着し、膜厚25nmの発光層を形成した。化合物TH−1と化合物TD−1との質量比は、1:1とした。
次に、この発光層上に、化合物EB−1を蒸着し、膜厚5nmの正孔ブロック層を形成した。
次に、この正孔ブロック層上に、化合物ET−1を蒸着し、膜厚50nmの電子輸送層を形成した。
次に、この電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を蒸着し、膜厚1nmの電子注入性電極(陰極)を形成した。
そして、この電子注入性電極上に、金属アルミニウム(Al)を蒸着し、膜厚80nmの金属Al陰極を形成した。
実施例1の有機EL素子の素子構成を略式的に示すと、次のとおりである。
ITO(130) / HI(5) / HT-1(20) / HT-2(5) / CBP(5) / TH-1 :TD-1(25, 50%) / EB-1(5) / ET-1(50) / LiF(1) / Al(80)
なお、括弧内の数字は、膜厚(単位:nm)を示す。また、同じく括弧内において、パーセント表示された数字は、発光層における第二の材料の割合(質量%)を示す。
比較例1の有機EL素子は、実施例1における発光層の第一の材料をTH−1から化合物CBPに変更した以外は、実施例1と同様にして作製した。
比較例1の有機EL素子の素子構成を略式的に示すと、次のとおりである。
ITO(130) / HI(5) / HT-1(20) / HT-2(5) / CBP(5) / CBP :TD-1(25, 50%) / EB-1(5) / ET-1(50) / LiF(1) / Al(80)
実施例1、および比較例1において作製した有機EL素子について、以下の評価を行った。評価結果を表6に示す。
電流密度が10.0mA/cm2となるようにITO電極と金属Al陰極との間に通電したときの電圧(単位:V)を計測した。
電流密度が10.0mA/cm2となるように素子に電圧を印加した時の分光放射輝度スペクトルを分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタ社製)で計測した。得られた上記分光放射輝度スペクトルから、ランバシアン放射を行なったと仮定し外部量子効率EQE(単位:%)を算出した。
電流密度が50mA/cm2となるように有機EL素子に電圧を印加し、初期輝度に対して50%となるまでの時間(単位:h)を測定した。
Claims (17)
- 陽極と、
発光層と、
陰極と、を有し、
前記発光層は、第一の材料と第二の材料とを含み、
前記第一の材料は、下記一般式(1)で表され、
前記第二の材料は、一つの分子中に下記一般式(2)で表される部分構造および下記一般式(3)で表される部分構造を含み、
前記第二の材料は、遅延蛍光発光を示し、
前記第一の材料が下記化合物H−53であり、かつ、前記第二の材料が下記化合物F−1である場合、
前記第一の材料が下記化合物H−54であり、かつ、前記第二の材料が下記化合物F−1である場合、
前記第一の材料が下記化合物H−171であり、かつ、前記第二の材料が下記化合物F−1である場合、
前記第一の材料が下記化合物H−174であり、かつ、前記第二の材料が下記化合物F−1である場合、
前記第一の材料が下記化合物H−214であり、かつ、前記第二の材料が下記化合物F−1である場合、並びに
前記第一の材料が下記化合物H−221であり、かつ、前記第二の材料が下記化合物F−1である場合を除く、
有機エレクトロルミネッセンス素子。
X1〜X12は、それぞれ独立して、窒素原子またはC−RAであり、
X 1 〜X 12 の少なくとも1つがC−R A であり、
RAは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3〜20のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜50のアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜50のアリールシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、または置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基を表し、
R A の少なくとも1つが下記一般式(1b)で表され、
複数のRAは、互いに同一でも異なっていてもよい。)
rは、0以上5以下の整数であり、
Ar a は、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜15のアリーレン基、または置換もしくは無置換の環形成原子数5〜15のヘテロアリーレン基であり、複数のAr a は、互いに同一でも異なっていてもよく、
Ar b は、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜20のアリール基、または置換もしくは無置換の環形成原子数5〜20の複素環基である。)
Z1〜Z6は、それぞれ独立に、窒素原子、CNと結合する炭素原子、または前記第二の材料の分子中における他の原子と結合する炭素原子である。前記一般式(2)で表される6員環構造は、任意の位置で環構造を構築してもよい。)
mは、0あるいは1である。
mが1の場合には、Y20は、単結合、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、炭素原子、ケイ素原子、またはゲルマニウム原子を表す。
ただし、前記一般式(2)で表される部分構造におけるZ 1 〜Z 6 のうち少なくとも一つは、前記一般式(3)で表される部分構造のN原子と単結合を介して結合する炭素原子である。)
- 請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記一般式(1b)において、Arbが下記一般式(1c)または一般式(1d)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子。
pは、0または1であり、
X21〜X30は、それぞれ独立に、窒素原子またはC−RBであり、
Y11、Y12、Y21およびY22は、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、硫黄原子、NRC、またはCRDREである。ただし、Y11およびY12のうちのいずれか一方が単結合であり、Y21およびY22のうちのいずれか一方が単結合であり、
RB、RC、RDおよびREは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3〜20のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜50のアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜50のアリールシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、または前記一般式(1b)におけるAraとの結合手であり、RB、RC、RDおよびREのうちのいずれか1つが当該Araとの結合手であり、複数のRBは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のRCは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のRDは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のREは、互いに同一でも異なっていてもよい。) - 請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記一般式(1b)において、Arbが下記一般式(1e)、一般式(1f)、一般式(1g)、一般式(1h)、一般式(1k)、一般式(1m)、または一般式(1n)のうちのいずれかで表される有機エレクトロルミネッセンス素子。
Y31およびY32は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、NRC、またはCRDREであり、
RC、RD、RE、およびRFは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3〜20のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜50のアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜50のアリールシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、または前記一般式(1b)におけるAraとの結合手であり、RC、RD、RE、およびRFのうちのいずれか1つが当該Araとの結合手であり、複数のRCは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のRDは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のREは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のRFは、互いに同一でも異なっていてもよい。) - 請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記Y31が、酸素原子、硫黄原子、または前記CRDREである有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記一般式(1)におけるX1〜X12のうちの少なくとも1つが窒素原子である有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記第一の材料は、下記一般式(1p)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記第一の材料は、カルバゾリル基を有さない有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記第二の材料の一重項エネルギーS(M2)と、前記第二の材料の77[K]におけるエネルギーギャップT77K(M2)との差ΔST(M2)が、下記数式(数2)の関係を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
ΔST(M2)=S(M2)−T77K(M2)<0.3[eV] …(数2) - 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記一般式(3)は、下記一般式(3a)および一般式(3b)のうち少なくともいずれかで表される有機エレクトロルミネッセンス素子。
cは、1以上4以下の整数である。cが2以上4以下の整数の場合、複数の環構造Eは、互いに同一でも異なっていてもよい。)
- 請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記第一の材料の77[K]におけるエネルギーギャップT77K(M1)と、前記第二の材料の77[K]におけるエネルギーギャップT77K(M2)とが下記数式(数1)の関係を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
T77K(M1) > T77K(M2) …(数1) - 請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記第一の材料は、下記一般式(1p)で表され、
前記第一の材料の77[K]におけるエネルギーギャップT77K(M1)と、前記第二の材料の77[K]におけるエネルギーギャップT77K(M2)とが下記数式(数1)の関係を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
T77K(M1) > T77K(M2) …(数1)
Y31は、酸素原子、または硫黄原子であり、
RFは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数3〜20のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数3〜50のアルキルシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜50のアリールシリル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、または前記一般式(1b)におけるAraとの結合手であり、RFのうちのいずれか1つが当該Araとの結合手であり、複数のRFは、互いに同一でも異なっていてもよい。) - 請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記第二の材料が発光する有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記発光層には金属錯体が含有されていない有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記発光層中に前記第二の材料は、20質量%以上含有されている有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記陽極と前記発光層との間に正孔輸送層が設けられている有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記陰極と前記発光層との間に電子輸送層が設けられている有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える電子機器。
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