JP6516280B2 - iPS細胞の樹立方法および幹細胞の長期維持方法 - Google Patents
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Description
(1)リプログラミング処理を施した体細胞を、無血清培地中でフィーダー細胞を用いずに培養することにより人工多能性幹細胞(iPS細胞)を誘導することを特徴とする、iPS細胞の製造方法。
(2)フィブロネクチンを接着因子として用いる、(1)に記載の方法。
(3)体細胞のリプログラミング処理が無血清培地中で行われる、(1)または(2)に記載の方法。
(4)リプログラミング前の体細胞が初代培養から無血清培地中で培養されたものである、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)iPS細胞がヒトiPS細胞である(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)フィブロネクチンを接着因子として含む、iPS細胞を誘導するための無血清培養基材(ただし該培養基材はフィーダー細胞を含まない)。
(7)無血清培地成分およびフィブロネクチンを構成成分として含む、iPS細胞を誘導するための無血清培養基材を製造するためのキット(ただし該培養基材はフィーダー細胞を含まない)。
(8)フィーダー細胞を用いずに、無血清培地中に腫瘍増殖因子−β(TGF−β)ファミリーに属する蛋白を添加して幹細胞を継代培養することを特徴とする、幹細胞の未分化状態および分化多能性を維持する方法。
(9)継代培養が、フィブロネクチンを接着因子として用いて行われる(8)に記載の方法。
(10)幹細胞がiPS細胞である(8)または(9)に記載の方法。
(11)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法により得られたiPS細胞を、TGF−βファミリーに属する蛋白を添加した無血清培地において、フィーダー細胞を用いずに継代培養することを特徴とする、iPS細胞の未分化状態および分化多能性を維持する方法。
(12)TGF−βファミリーに属する蛋白を含む、幹細胞の未分化状態および分化多能性を維持するための継代培養用無血清培養基材(ただし該培養基材はフィーダー細胞を含まない)。
(13)さらにフィブロネクチンを接着因子として含む、(12)に記載の培養基材。
(14)幹細胞がiPS細胞である(12)または(13)に記載の培養基材。
(15)無血清培地成分およびTGF−βファミリーの蛋白を含む、幹細胞の未分化状態および分化多能性を維持するための継代培養用無血清培養基材を製造するためのキット(ただし該培養基材はフィーダー細胞を含まない)。
(16)さらにフィブロネクチンを接着因子として含む、(15)に記載のキット。
(17)幹細胞がiPS細胞である(15)または(16)に記載のキット。
1−1 細胞培養液
1)無血清培地
使用した無血清培地はヒトES細胞用に開発されたhESF−GRO培地(Nipro)(L−アスコルビン酸−2−ホスフェート(100μg/ml)含有)(表1)に添加因子としてヒト組み換え型インスリン(10μg/ml)(CSTI 0105, Japan)、ヒトトランスフェリン(5μg/ml)(Sigma T-1147)、2−エタノールアミン(10 μM)(Sigma E-0135)、2−メルカプトエタノール(10μM)(Sigma M-7522)、セレン酸ナトリウム(20nM)(Sigma S-9133)、およびヒト組み換え型アルブミン(0.5mg/ml)(Cell Prime Albumin : Millipore 9301)に包含されたオレイン酸(4.7μg/ml)(Sigma O-1383)を加えたhESF6培地に、ヘパラン硫酸ナトリウム塩(100ng/ml)(Sigma H-7640)およびヒト組み換え型線維芽細胞増殖因子−2(10ng/ml)(FGF-2:R&D, 3718FB)を添加したhESF9培地(表2)を使用し、ウシ血漿由来フィブロネクチン(2μg/cm2)(Sigma F-1141)でコートしたディッシュ上にて培養を行った。
また、歯髄細胞の培養に使用した無血清培地RD6Fは、RPMI1640培地(Sigma)とDMEM培地(Sigma)を1:1で混合し、ビクシリン(90mg/ml)(Meiji, Japan)、カナマイシン(90mg/ml)(GIBCO)、ピルビン酸ナトリウム(110mg/ml)(Sigma)、15mM HEPES(Dojindo)、重炭酸ナトリウム(2g/L)(Sigma)を添加したRD培地を基礎培地として、6種類の添加因子(6F)つまり、ヒト組み換え型インスリン(10μg/ml)(CSTI 0105, Japan)、ヒトトランスフェリン(5μg/ml)(Sigma T-1147)、2−エタノールアミン(10μM)(Sigma E-0135)、2−メルカプトエタノール(10μM)(Sigma M-7522)、セレン酸ナトリウム(20nM)(Sigma S-9133)、およびヒト組み換え型アルブミン(500μg/ml)(Cell Prime Albumin : Millipore 9301)に包含されたオレイン酸(4.7μg/ml)(Sigma O-1383)を加えた培地であり、本培地を用いてタイプIコラーゲンコートディッシュ上で歯髄細胞の培養を行った。
DMEM−F12(GIBCO 12660-012)培地に20% Knock Out Serum Replacement : KSR (Invitrogen 12828-028)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(GIBCO 21985-023)、MEM non-essential amino acids (GIBCO 11140-050)、組み換え型ヒトFGF−2(4ng/ml)(R&D 3718FB)を添加した培地を用い、マイトマイシンC(10ug/ml)処理にて不活化したC57/BL6マウス胎仔線維芽細胞上(Millipore: EmbryoMax(R) PMEF-H)に播種し、培養を行った。
1)ヒト胎児肺由来正常線維芽細胞(TIG−3細胞)
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所にて樹立された日本人胎児肺由来線維芽細胞であるTIG−3細胞に、レトロウイルスを用いて4遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4,c−Myc)を遺伝子導入し、ヒトiPS細胞の誘導を試みた。TIG−3細胞はDMEM培地(Sigma)に10% ウシ胎児血清(Hyclone(R) Thermo Scientific, US)および1% ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO)を添加した培地を用い、2〜3日毎に1:4のスプリット比(split ratio)にて10cmディッシュ(Falcon)上に細胞を播種し、5%CO2/95%気相下、37℃インキュベーター内で培養を行った。
哺乳類への感染指向性を持ち、長期間安定してレトロウイルスの構造タンパク質(gag, pol, env)を産生可能なウイルスパッケージング細胞株Platinum-A Retroviral Packaging Cell, amphotropic (PLAT-A : Cell Biolabs Inc. CA, USA)を使用し、レトロウイルスの産生を行った。DMEM培地(Sigma)に10% FBS、1μg/ml ピューロマイシン(Sigma)および10μg/ml ブラスチシジン(Funakoshi, Tokyo, Japan)、1% ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO)を添加した培地を用いて、2日毎に1:4のスプリット比(split ratio)にて10cmディッシュ(Falcon)上に細胞を播種し、5%CO2/95%気相下、37℃のCO2インキュベーター内で培養を行った。
なお、トランスフェクションを行う際には、前日にDMEM培地に10% FBSを添加した培地を使用し、コラーゲンコートした25cm2フラスコ(BioCoat Collagen I Cellware, Falcon)に2x106個の細胞を播種し、16〜24時間後に細胞が70%〜80%コンフルエントになったところで遺伝子導入(トランスフェクション)に使用し、トランスフェクション開始48〜72時間後のウイルス上清を回収し、標的細胞に感染させた。
コントロールのiPS細胞として、国立成育医療研究センターの梅澤らが樹立し、医薬基盤研究所より供与されたTic(JCRB1331)を用いた。Ticをあらかじめ0.1%ゼラチンにてコートしたフラスコに、フィーダー細胞として播種した不活化マウス胎仔線維芽細胞(Millipore: PMEF-H)上に播種し、血清添加ES細胞用培地を用いて培養を行った。なお、細胞分散はデスパーゼII(1mg/ml)(Roche 4942078, Basel, Switzerland)を用いて継代を行った。
ヒト胎児肺線維芽細胞TIG−3細胞を用いて、Oct3/4、Sox2、Klf4、c−Mycの4遺伝子を、レトロウイルス(PLAT−Aパッケージング細胞)を用いて感染させ、ヒトiPS細胞を誘導した。
1−2 2)の方法に準じて継代維持したPLAT−A細胞に初期化4遺伝子を導入し、レトロウイルスを作成した。使用したプラスミドは京都大学 山中研究室にて作成されたpMXs−(hOct3/4)、pMXs−(hSox2)、pMXs−(hKlf4)、pMXs−(hc−Myc)(Cell Biolabs Inc. CA,USA)を用いた。
トランスフェクション前日に、PLAT−A細胞をタイプIコラーゲン処理した25cm2フラスコ(BioCoat Collagen I Cellware, Falcon)に2x106個の密度で細胞を播種し、16〜24時間経過後に70%〜80%コンフルエントになったところで、4μgのプラスミド溶液とトランスフェクション試薬をDMEM培地にて希釈した混合液を加えて、この複合体溶液をPLAT−A細胞を播種したフラスコに添加し、トランスフェクションした。さらに、4時間後に血清添加培地を加えて、翌日に10%FBS添加DMEM培地に交換し、トランスフェクション開始24〜48時間後のウイルス上清を回収後、標的細胞に感染させた。なお、プラスミド毎にトランスフェクションするため計4枚の25cm2フラスコを用意した。
(1)ウイルス感染および細胞外マトリックス上への播種
10%FBS添加DMEM培地で培養したPDL(集団細胞倍加数)24〜40のTIG−3細胞に、レトロウイルスを感染させ4遺伝子を導入した。その後、無血清培地hESF9に培地交換し、各種細胞外マトリックス上に播種し、リプログラミング過程における無血清培養条件の検討を行った。
ウイルス感染の前日(Day−1)に10%FBS添加DMEM培地で培養したTIG−3細胞を、3x105個の細胞数で6cmディッシュ上に播種した。翌日(Day0)、各ウイルス上清を等量混合したpMXs−(4F)を最終濃度8μg/mlとなるようにポリブレンを加えて、0.45μmフィルターで濾過した後、血清添加培地にて維持したTIG−3細胞へ感染させた。感染4時間後にポリブレンの毒性を弱めるため、ウイルス上清と等量の培地を加えた。感染24時間後(Day1)に培地交換し、4日間(Day4まで)培養を行った。なお、培地交換は2日毎に行った。感染4日後(Day4)にTIG−3細胞を0.05%トリプシン/EDTA処理により単一細胞に分散した。続いて、あらかじめ0.1%ゼラチン(Millipore ES-006B)あるいはタイプIコラーゲン(0.3mg/ml)(Nitta gelatin)あるいはフィブロネクチン(2μg/cm2)(Sigma)の各種細胞外マトリックスにてコートした10cmディッシュ上に1x105/ディッシュの細胞数となるよう播種した。再播種翌日(Day5)に無血清培地hESF9に培地交換し、フィーダー細胞を用いず、各種細胞外マトリックス上に播種することでヒトiPS細胞の誘導を試み、リプログラミング過程における無血清培養条件の及ぼす影響について検討を行った(図1)。再播種後の培地交換は2日毎に行った。
ゼラチン、タイプIコラーゲン、フィブロネクチンのいずれの細胞外マトリックス上においても、感染13日前後より、細胞質と比較して大きな核を持つ、小型で細胞境界が不明瞭なヒトES細胞様のコロニー形成を認めた(図1)。感染20日後より、顕微鏡下でピペットを用いてコロニーを回収し、あらかじめ各細胞外マトリックスでコートした4ウェルマルチディッシュ上に播種し、継代した。ゼラチン上に播種したディッシュでは細胞接着が弱く、接着したとしてもコロニーが著しい分化傾向にあった。さらにタイプIコラーゲン上に播種したディッシュではコロニーは接着するものの、辺縁より著しい分化傾向を示した。一方でフィブロネクチン上に播種したディッシュでは細胞接着後、ヒトiPS細胞の形態を保持し維持することが可能であった(図2)。また、感染36日後に未分化性の指標であるALP染色を行い、いずれのディッシュ上のコロニーも陽性反応を示した。フィブロネクチンおよびコラーゲン上に播種した細胞が、最も形態的にヒトiPS細胞に類似していた。
コントロールとして、ウイルス感染4日後(Day4)のTIG−3細胞を、あらかじめマイトマイシンC(10μg/ml)にて不活性化したフィーダー細胞を播種した10cmディッシュ上で培養し、翌日(Day5)からヒトES細胞用血清培地に交換し、以後2日毎に培地交換を行った。本培養条件でもコロニーは出現したが、初期化が不完全なコロニーが多く、またフィーダー細胞を用いない無血清培養条件に比べてコロニー出現時期は遅延した(図1)。
4遺伝子の感染と同時に、使用したレトロウイルスパッケージング細胞PLAT−Aの感染効率の評価のため、EGFPを用いFACS解析にて評価した。
前述 2−1 1)および2)の方法に準じて、PLAT−A細胞にpMXs−(EGFP)あるいはpMXs−(−)をトランスフェクションし、各ウイルス上清を回収した後、各々TIG−3細胞に感染させ、4日後にTIG−3細胞をセルストレーナー付FACS用チューブ(BD Falcon)に回収し、フローサイトメーター(FACS CaliburTM, Beckton Dickinson)にて解析を行った。
前述 2−1 1)および2)の方法に準じて、PLAT−A細胞にpMXs−(hOct3/4)、pMXs−(hSox2)、pMXs−(hKlf4)、pMXs−(hc−Myc)を各々トランスフェクションしたウイルス上清の等量混合液(以後pMXs−(4F)と表記)、あるいはpMXs−(4F)とpMXs−(EGFP)のウイルス上清を3:1の割合で混合したウイルス混合液を、各々TIG−3細胞に感染させ、4日後にTIG−3細胞をセルストレーナー付FACS用チューブ(BD Falcon)に回収し、フローサイトメーターにて解析を行い、便宜的に4因子感染効率とした。
1因子感染効率をFACSにて評価したところ、平均43.4%であった。次に4因子感染効率として評価したところ、26.6%とやや感染効率は低下したが、平均的な効率が得られたため、本システムを用いてヒトiPS細胞(hiPS細胞)の誘導を試みた。
レトロウイルス上清を無血清培地hESF9にて回収し、ウイルス感染が成立する24時間を無血清培地hESF9として、ウイルス感染成立時における無血清培地の影響について検討を行った(図3)。
DMEM培地に10%FBSを加えた血清添加培養条件下にてPLAT−A細胞にpMXs−(EGFP)あるいはpMXs−(−)をトランスフェクションし、DMEM培地に10%FBSを加えた血清培地条件(以後条件Aと表記)あるいはhESF9無血清培地条件(以後条件Bと表記)の各条件にてトランスフェクションの24〜48時間後のウイルス上清を回収し、標的細胞であるTIG−3細胞に感染させた。ウイルス感染の成立する24時間を上記AあるいはB条件にて行い、以後は両条件とも血清添加培地A条件にて培養を行い、3日後にTIG−3細胞をセルストレーナー付FACS用チューブに回収し、フローサイトメーター(FACS CaliburTM, Beckton Dickinson)にて解析を行った。
血清添加培養条件Aでは感染効率は62.6%、無血清培養条件Bでは感染効率は46.4%であった。条件Aに比べて、無血清培養条件Bは効率がやや低値を示したものの、一般的にhiPS誘導に必要なタイター(力価)は維持されていると考えられた。
これまでのTIG−3細胞を用いた実験結果をもとに、無血清培養条件下にてレトロウイルス上清を用いて、初代培養からウイルス感染を経てヒトiPS細胞誘導までの全過程を完全無血清培養系にて行い、ヒトiPS細胞が誘導可能であるか検討を行った(図4)。
広島大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会にて承認を得た研究計画に基づき、広島大学病院顎・口腔外科を受診し、同意の得られた患者の抜歯後の歯髄組織から歯髄由来細胞を分離し、explant培養法にて無血清培地を用いて初代培養を行った。
下顎埋伏智歯の抜去歯牙より分離した歯髄を70%エタノールに浸漬後、細切し、以下に記載したRD6F培地を用い、タイプIコラーゲン(0.15mg/ml)(Nitta gelatin)にてコートしたディッシュ上に、5%CO2/95%気相下、37℃下、CO2インキュベーター内で培養を行った。培地交換は2〜3日毎に行い、サブコンフルエントまで増殖した段階で0.05% trypsin/EDTA処理により細胞分散後、0.1%trypsin inhibitorを加えてtrypsin作用を中和し、ディッシュ上に細胞を播種し、3〜4日毎に継代を行った。
無血清培地として以下に示すRD6Fを用いた。すなわち、DMEM培地(Sigma)とRPMI1640培地(Sigma)を1:1で混合し、ビクシリン(90mg/ml)(Meiji, Japan)、カナマイシン(90mg/ml)(GIBCO)、ピルビン酸ナトリウム(110mg/ml)(Sigma)、15mM HEPES(Dojindo)、重炭酸ナトリウム(2g/L)(Sigma)を添加したRD培地を基礎培地として、6種類の添加因子インスリン(10μg/ml)(CSTI 0105)、トランスフェリン(5μg/ml)(Sigma T-1147)、2−エタノールアミン(10μM)(Sigma E-0135)、2−メルカプトエタノール(10μM)(Sigma M-7522)、セレン酸ナトリウム(10nM)(Sigma S-9133)、および脂肪酸不含ウシ血清アルブミン(Sigma O-3008)に抱合されたオレイン酸(4.7μg/ml)を加えた培地をRD6Fとし、培養を行った。
無血清培地RD6Fにて初代培養を行った歯髄由来細胞に、全過程を通して無血清条件下にてウイルス感染させ、フィブロネクチン上に播種し、誘導を行った。
初代培養開始から2週間程度継代培養を行った細胞を、ウイルス感染の前日(Day−1)に、3x105の細胞数で60mmディッシュ上に播種した。翌日(Day0)、無血清培地hESF9にて回収したレトロウイルス上清pMXs−(4F)にポリブレン(8μg/ml)を添加したのち、歯髄由来細胞に感染させた。感染4時間後に等量の無血清培地hESF9を追加し、24時間後に培地交換を行い、感染5日後(Day5)に各細胞を0.05%トリプシン−EDTA処理により単一細胞に分散し、あらかじめフィブロネクチン(2μg/cm2)にてコートしたディッシュ上に、細胞数1.0x105個/10cmディッシュとなるよう播種した。再播種後は2日毎に無血清培地hESF9培地を用いて培地交換を行った(図4)。感染15日後よりiPS様のコロニーが出現し、感染20日後のコロニーを回収し、フィブロネクチンコートしたディッシュ上に播種し、無血清培地hESF9あるいはhESF9にTGF−β1(2ng/ml)を添加した培地hESF9Tを用いて継代培養を行った。完全無血清培養系ではALP活性陽性コロニー数が多く(図4D)、iPS細胞誘導効率が0.39%と高い誘導効率を示した。また、同一のベクターを使用した文献と比較しても高い誘導効率を示した(表3)。さらに、ウイルス感染5日後に再播種せず、培地のみhESF9に交換した条件についても検討を行ったが、細胞形態の変化が乏しく、コロニーは全く形成されなかった。なお、KSR添加培養条件にて誘導されたヒトiPS細胞様のコロニーは、マイトマイシンCにて不活性化したフィーダー細胞上に播種し、ヒトES細胞用血清培地を用いて培養を行い、分化前に顕微鏡下でコロニーを回収し、継代を行った。
(1)ヒトiPS細胞の増殖能および未分化性の維持に及ぼすTGF−β1の影響
歯髄由来細胞から樹立したhiPS細胞を、マイクロピペットを用いて機械的に小さくした後、無血清培地hESF9あるいはTGF−β1を加えたhESF9T培地を用いてフィブロネクチンコートしたディッシュ上に播種した(図5A)。無血清培地hESF9で維持したhiPS細胞はディッシュに接着するものの、長期継代培養とともに未分化性を十分に維持することが困難となり、辺縁から次第に分化した細胞の遊走が観察された。一方、TGF−β1を含む無血清培地hESF9Tで維持したヒトiPS細胞は、未分化性を維持したまま継代培養することが可能であった(図7A)。また、hESF9培地に各種濃度(0、0.1、1、2、5、10ng/ml)のTGF−β1を添加し、培養4日後に全RNAを回収し、cDNA合成後、QX100TM Droplet DigitalTM PCR system (Bio-RAD)を用いて遺伝子発現解析を行った。Droplet DigitalTM PCRはddPCRTM supermix (Bio Rad)を用いて添付のプロトコールに準じ、QX100TMDroplet Generator (Bio Rad)にて液滴を作成しPCR反応にて増幅後、QX100TM Droplet Reader(Bio Rad)を用いて解析を行った。TGF−β1濃度依存的に未分化性を保持した細胞数は増加し、Oct3/4およびNanogの未分化マーカー遺伝子発現が増強した(図7B)。なお、TGF−β1濃度は2〜10ng/mlでもっとも未分化マーカーが高発現していたが、TGF−β1非存在下では著しく未分化マーカー遺伝子の発現が低下するとともに、中胚葉分化マーカーのプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター−1(PAI−1)および心筋などの内胚葉分化マーカーであるGATA結合タンパク質4(GATA4)といった分化マーカーの発現を認めた。また、無血清培地hESF9あるいはhESF9Tを用いて30代継代・維持されたヒトiPS細胞をフローサイトメトリーにて解析したところ、SSEA4陽性細胞率はhESF9T培地で91.7%でありhESF9培地での割合(12%)と比較し有意に高かった。また、Oct3/4陽性細胞率はhESF9T培地で67.5%であったが、hESF9培地では0.6%と低下していた(図5B)。無血清培地hESF9を用いることで、iPS細胞の樹立および短期間では未分化性を維持したヒトiPS細胞の継代・維持が可能であるが、TGF−β1を添加することで、未分化性を保持した細胞の長期継代・維持が可能となることが示された。
無血清培地hESF9あるいはhESF9Tを用いて、フィブロネクチン上で継代・維持したヒトiPS細胞からRNAを抽出し、Agilent Sure Print G3 Human GE 8x60K v2 MicroarrayにてGenespring12.0 (Agilent Technologies, Santa Clara, CA)を使用し遺伝子の網羅的発現解析(genome-wide gene expression profiling analysis)を行ったところ、ヒトES細胞用血清培地を用いてフィーダー細胞上で維持したヒトiPS細胞と比較して、概ね同一の遺伝子発現パターンを示した(図5C、図6)。一方でこれらのパスウェイ解析において、hESF9培地で継代・維持した細胞はhESF9T添加培地で培養した細胞と比較し、TGF−βシグナリングパスウェイ(WP560)、WNTシグナリングおよび多能性パスウェイ(WP399)、WNTシングナリングパスウェイ(WP428)およびアポトーシスモジュレーションおよびシグナリングパスウェイ(WP1772)において有意に異なる発現パターンを示していた。
以上より、無血清培地hESF9Tを用いてフィブロネクチン上で継代・維持したヒトiPS細胞は、従来の血清添加培地を用いてフィーダー細胞上で維持したヒトiPS細胞培養と同様の遺伝子発現を示しており、未分化性が保持されていることが確証された。
(1)未分化性の検討
(i)蛍光免疫染色を用いた未分化マーカー蛋白発現解析
無血清培地hESF9を使用しフィブロネクチンコートディッシュ上で誘導後、TGF−β1添加培地にて継代維持した細胞(DP-F-iPS-CL16 passage19)について、各種未分化マーカー抗体(Nanog、Oct3/4、SSEA−4、Tra−1−60およびTra−1−81)を使用して蛍光免疫染色を行うことにより未分化マーカーの発現解析を行った。各抗体はAlexa Fluor(R) 488にて可視化し、併せてDAPIにて核染色を行った。ヒトES細胞やiPS細胞の未分化マーカーであるOct3/4、Nanog、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81のすべてが発現していることを確認した(図7D)。
同培養条件にて継代維持した細胞からRNAを抽出し、各種未分化マーカー遺伝子の発現をRT−PCRにて解析した。RNA抽出は、illustra RNA spin Mini Isolation kit(GE Healthcare UK Ltd, England)を用いて添付のプロトコールに準じ、上記で培養した細胞の全RNAを抽出した。核酸の定量はNano Drop(R)(Nano Drop Technologies, Inc., USA)を使用した。細胞より抽出した各全RNA(1μg)をHigh Capacity RNA-to-cDNA Master Mix(Applied Biosystems, CA, USA)を用い、サーマルサイクラー(PTC-0220 DNA Engine Dyad : MJ Japan, Tokyo)を使用し、25℃下5分間、42℃下30分間、85℃下5分間インキュベーションし逆転写反応を行い、cDNAを合成した。RT−PCRはKOD FX Neo(Toyobo, Osaka, Japan)を用いて、変性反応98℃、10秒、アニーリング62℃、30秒、伸長反応68℃、30秒の条件で行い、これを1サイクルとして35サイクル行い、PCR産物を得た。このPCR産物を1.5%アガロースゲル(Invitrogen)にて電気泳動後、SYBR Safe DNA gel stain(Invitrogen)にて可視化した。ヒトES細胞の未分化マーカー遺伝子であるSox2、Nanog、Oct3/4、Esg1、Rex−1(Reduced- expression 1; Zfp42)の発現を検討した。対照として、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子の発現を検討した(図7C)。無血清培養条件下にて誘導・維持したヒトiPS細胞は未分化マーカーであるSox2、Nanog、Oct3/4、Esg1、Rex−1を発現していた。一方で、遺伝子導入前の歯髄由来細胞においては、これらの未分化マーカーは発現していなかった(図7C)。
ヒトiPS細胞をALP固定液(4.5mMクエン酸、2.25mMクエン酸三ナトリウム、3mM塩化ナトリウム、65%メタノール、3%ホルムアルデヒド)にて固定後、アルカリフォスファターゼ基質キット(ヒストファイン ファーストレッドII基質キット Nichirei, Tokyo, Japan)にて遮光下、室温で15分間反応させた後、数回洗浄後、位相差顕微鏡(Nikon ECLIPSE TE300)にて観察を行った。
(i)胚様体を用いた分化誘導
無血清培養条件にてhESF9培地あるいはhESF9T培地にて継代・維持したヒトiPS細胞(hESF9培地で維持したDP−A−iPS細胞あるいはhESF9T培地で維持したDP−F−iPS細胞)から胚様体と呼ばれる疑似胚を形成させ分化誘導を行った。分化誘導培地としてDMEM培地に10%FBSを添加し、96穴細胞低吸着プレート(SUMILON Prime Surface(R) U plate, 住友ベークライト)に播種し、4日間浮遊培養を行い、胚様体を形成させた後、ゼラチンコートしたプレートに細胞を播種し、さらに10日間分化誘導を行った。誘導14日後の細胞に対して各種分化マーカー抗体を用いて蛍光免疫染色を行った。各抗体はAlexa Fluor(R) 594にて可視化し、併せてDAPIにて核染色を行った。その結果、神経幹細胞系のマーカーであるネスチンや神経細胞のマーカーであるβIII−チューブリン、中胚葉マーカーであるα−平滑筋アクチン(SMA)、内胚葉マーカーであるα−フェトプロテイン(AFP)に対して発現を認めた。一方、未分化マーカーのOct3/4は発現していなかった(図8A)。
無血清培地、hESF9培地あるいはhESF9T培地にて継代・維持したヒトiPS細胞を、免疫不全マウス(CB17/Icr−Prkdcscid/CrlCrlj)の背部皮下に移植し、テラトーマの形成能を検討した。コントロールとしてヒトiPS細胞をKSR添加ES細胞培養用標準培地にてフィーダー細胞上にて誘導した細胞を用いた。各条件において、1×106個の細胞を50μlのPBSに懸濁し、同量のタイプIコラーゲンと混合し、50μlを免疫不全マウスの背部皮下に移植した。移植約10週間後に両条件とも腫瘤を形成したため、摘出した腫瘤を4%パラホルムアルデヒドにて4℃下一晩固定後、通法に従い脱脂、パラフィン包埋し、6μmの連続切片を作成し、2つのグループに分け、一方に対しては通法に従いヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行った。また、一方に対してアルシアンブルー/PAS染色を行った。脱パラフィン後、3%酢酸にて3分間処理し、pH2.5アルシアンブルー溶液(和光純薬、Osaka、Japan)にて30分間処理を行った。染色後水洗し、0.5%過ヨウ素酸溶液(和光純薬)にて5分間、コールドシッフ液(和光純薬)にて30分間処理を行い、亜硫酸水(和光純薬)で3分間処理を3回繰り返した後、水洗した。核染色をマイヤー・ヘマトキシリン溶液にて行い、脱水・封入後、顕微鏡にて観察を行った。切片では表皮や神経といった外胚葉の組織、軟骨や筋肉・結合組織といった中胚葉の組織、消化管や肝臓などの内胚葉に分化した組織を認め、摘出した腫瘤がテラトーマであることが示された(図8B)。なお、KSR添加ES細胞培養用標準培地にてフィーダー細胞上にて継代維持した細胞においても三胚葉へと分化した組織を認めた。
患者より採取した歯髄由来細胞および、無血清培養条件下にて初期化遺伝子を導入し作製したヒトiPS細胞からゲノムDNAを抽出し、Powerplex 16 system (Promega Corporation, Madison, WI)を用いてABI PRISM (R)3100 Genetic analyzer(Applied Biosystems)およびGene Mapper v3.5を使用しSTR解析を行ったところ16遺伝子座のアレルパターンがすべて一致した。
無血清培養条件にて誘導し、hESF9Tにて21代継代・維持したヒトiPS細胞の細胞倍加時(population doubling time)は16.6±0.8時間であった(図9A)。
無血清培地hESF9Tにて20代継代維持したヒトiPS細胞の核型解析を行った。培養中の細胞に対して、コルセミド溶液(Karyo Max(R), GIBCO)を最終濃度0.06μg/mlとなるように加え、6時間培養継続後、細胞を回収し、10μM Rockインヒビター(Y−27632:和光純薬)を添加したのち、細胞を分散した。続いて、37℃下10分間0.075M塩化カリウム溶液にて低張液処理し、カルノア固定液にて固定後、遠心し、再度カルノア固定液にて固定を繰り返したのち、細胞懸濁液をスライドガラス上に滴下し、風乾後、4%ギムザ染色液(武藤化学、Tokyo、Japan)にて染色後、光学顕微鏡にて検鏡し、核型解析を行った。無血清培地hESF9Tにて20代継代維持したヒトiPS細胞の核型簡易解析を行った結果、正常染色体数を示した。2n=46,XX(図9B)。
上記の研究結果をもとに、無血清培地hESF9Tを用いて維持されたヒトiPS細胞を用いて、hESF−GROのかわりに基礎培地としてDulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham培地(1:1の比率で混合)を使用し、前述の6種類の添加因子にFGF−2、Heparin、TGF−β1を添加した、DF8FT培地による、未分化性の維持に関して検討を行った。無血清培地DF8FTを用いて、フィブロネクチン上にヒトiPS細胞を播種したところ、形態の変化なく、未分化性を保持したまま継代・維持が可能であった(図10)。
一般的に、ES細胞やiPS細胞などの幹細胞は、不活性化したフィーダー細胞や血清などの動物由来成分を含む条件で培養されている。このような培養系では各種異種抗原の混入の恐れがあり、再生医療への応用は困難であり、さらにこれら幹細胞の増殖・分化制御機構やその制御因子を明らかにすることも非常に困難である。本発明によって、無血清培地培地を用いて、フィーダー細胞を用いず正常ヒト歯髄由来細胞から、ヒトiPS細胞を誘導することが可能となった。ヒトiPSコロニーは感染後約2週間で出現し、未分化性および多分化能を有していた。また、初代培養からウイルス感染を経てヒトiPS細胞樹立までの全過程を完全無血清培養系にて行い、初めてヒトiPS細胞を誘導できることも明らかとなった。また、本発明の未分化性および分化多能性を維持しつつ継代培養する方法は、ヒトiPS細胞のみならず、あらゆる動物の幹細胞に適用可能である。
Claims (4)
- HEPES、インスリン、トランスフェリン、2−エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、セレン酸ナトリウム、及びアルブミンに包含されたオレイン酸を含む体細胞培養用無血清培地中で、初代培養から培養されたヒト歯髄由来細胞に、前記体細胞培養用無血清培地中で初期化遺伝子を導入し、かかる初期化遺伝子が導入されたヒト歯髄由来細胞を、インスリン、トランスフェリン、2−エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、セレン酸ナトリウム、アルブミンに包含されたオレイン酸、FGF−2、アスコルビン酸、及びヘパラン硫酸を含むiPS細胞誘導用無血清培地中で、接着因子としてフィブロネクチンを用いて、培養することにより、ヒト人工多能性幹細胞(hiPS細胞)を誘導する、フィーダー細胞を用いないことを特徴とするhiPS細胞の製造方法。
- HEPES、インスリン、トランスフェリン、2−エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、セレン酸ナトリウム、及びアルブミンに包含されたオレイン酸を含む、ヒト歯髄由来細胞を培養するための無血清培養基材と、インスリン、トランスフェリン、2−エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、セレン酸ナトリウム、アルブミンに包含されたオレイン酸、FGF−2、アスコルビン酸、及びヘパラン硫酸を含み、接着因子としてフィブロネクチンを含む、hiPS細胞を誘導するための無血清培養基材とを含む、請求項1に記載のhiPS細胞の製造方法のためのキット(ただし該培養基材はフィーダー細胞を含まない)。
- HEPES、インスリン、トランスフェリン、2−エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、セレン酸ナトリウム、及びアルブミンに包含されたオレイン酸を含む、ヒト歯髄由来細胞を培養するための無血清培養基材と、
インスリン、トランスフェリン、2−エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、セレン酸ナトリウム、アルブミンに包含されたオレイン酸、FGF−2、アスコルビン酸、及びヘパラン硫酸を含み、接着因子としてフィブロネクチンを含む、hiPS細胞を誘導するための無血清培養基材と、
TGF−βファミリーの蛋白を含む、幹細胞の未分化状態及び分化多能性を維持するための継代培養用無血清培養基材とを含む、請求項1に記載のhiPS細胞の製造方法のためのキット。 - 請求項1に記載の方法によりhiPS細胞を得て、かかるhiPS細胞を、TGF−βファミリーに属する蛋白を添加した無血清培地において、フィーダー細胞を用いずに継代培養することを特徴とする、hiPS細胞の未分化状態及び分化多能性を維持する方法。
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