JP6515698B2 - 潤滑剤組成物 - Google Patents

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本発明は、潤滑剤組成物に関する。さらに詳しくは、グリースの防錆性を向上させ、同時に軸受の微小回転時のトルクの増加につながらない潤滑剤組成物に関する。
グリース等の潤滑剤は、自動車、建設機械、産業機械、工作機械等の各種機械およびそれらを構成する各種部品の潤滑に広く使用されている。また、これらの機械の使用個所によっては水が侵入してくる可能性があり、防錆性に対する要求は益々強くなってきている。さらに、高速化、小型化、高性能化、軽量化などに伴い、これら周辺機器の使用温度は益々上昇する傾向にあるため、熱履歴を受けた後の防錆性も求められることになる。
本出願人は先に、パーフルオロポリエーテル基油に増稠剤としての脂肪族ジカルボン酸金属塩を添加した潤滑グリース組成物を提案しており、この組成物中にはさらに粉末状のフッ素樹脂を添加してもよいとされていて、相手材に対する耐摩耗性、耐漏洩性、洗浄性などの改善が達成されている(特許文献1)。
この潤滑グリース組成物において、増稠剤として用いられる脂肪族ジカルボン酸金属塩の添加割合は、組成物中約1〜50重量%、好ましくは3〜35重量%(実施例では15〜35重量%)とされており、これらの増稠剤とパーフルオロポリエーテル油との2成分よりなる潤滑グリース組成物についての実施例1〜14においても、このような好ましい添加割合の増稠剤が用いられている。
一方、さらに添加し得る成分である粉末状のフッ素樹脂については、その添加割合は組成物中約50重量%以下、好ましくは約3〜35重量%であるとされているが、これら3成分よりなる潤滑グリース組成物についての実施例15〜17では、粉末状のフッ素樹脂の添加割合が5重量%に対し、増稠剤である脂肪族ジカルボン酸金属塩の添加割合が15〜25重量%となっており、このような結果からも分るように、増稠剤としての脂肪族ジカルボン酸金属塩の添加割合を増すと、粉末状フッ素樹脂の添加割合を高めることができなくなってしまう。
本出願人はまた、増稠剤として適当な添加割合で粉末状フッ素樹脂をフッ素油に添加した潤滑剤組成物であって、防錆性にすぐれかつ熱履歴を受けた後の防錆性も良好なものを提供することを目的として、フッ素油、粉末状フッ素樹脂増稠剤および防錆性添加剤としての芳香族スルホン酸または飽和脂肪族ジカルボン酸のCa塩またはNa塩を含有してなり、これらの合計量中増稠剤が10〜40重量%を、また添加剤が0.3〜10重量%(セバシン酸ジナトリウムを用いた実施例ではいずれも3.4重量%)を占め、残りがフッ素油で構成された潤滑剤組成物を提案している(特許文献2)。
さらに、特許文献3では、高温条件にある転がり軸受に好適であり、すぐれた錆止め性を有するフッ素系グリース組成物として、基油がフッ素系合成油からなり、錆止め剤として脂肪族二塩基酸塩を0.1質量%以上、1.0質量%未満含有するグリース組成物が記載されており、0.1質量%未満ではEmcor防錆試験(IP220)での錆止め効果がなく、その実施例では0.2〜0.8質量%のセバシン酸Naが用いられている。しかしながら、錆止め剤として脂肪族二塩基酸塩をこのような割合で配合することにより、軸受のトルク、特に低速時のトルクの増加が懸念される。
この種の潤滑剤組成物は、自動車補機用の軸受、具体的には排ガス循環システム(EGR)、電子制御スロットル(ETC)、電動可変バルブタイミング機構(VVT)等の軸受として使用されるが、例えばETCバルブの駆動用モータは、高度な燃焼制御を目的とするスロットバルブを正転および逆転の微小回転をくり返し行い、制御される。
このような動作のため、微小回転時のトルクが大きいとトラブル発生の原因となる可能性がある。ここで言う微小回転時のトルクとは、グリースを封入した軸受をわずかに回転させたときに生ずる引っ掛りのことであり、起動トルクとは異なる。以下、トルクとはこの微小回転時のトルクを指している。
特開2001−354986号公報 特開2006−241386号公報 特開2008−13652号公報
本発明の目的は、グリースの防錆性を向上させ、同時に軸受の微小回転時のトルクの増加につながらない潤滑剤組成物を提供することにある。
かかる本発明の目的は、フッ素油、粉末状フッ素樹脂増稠剤および防錆性添加剤としてのセバシン酸ジナトリウムを含有してなり、これらの合計量中防錆性添加剤が0.01〜0.09重量%の割合で用いられた潤滑剤組成物によって達成される。
本発明に係る潤滑剤組成物は、極く少量のセバシン酸ジナトリウムを防錆性添加剤として用いることにより、後記防錆性試験で錆が発生せず、すなわち十分なる防錆性を有し、しかも軸受の微小回転時のトルクを実質的に増加させないという効果が得られるので、前記した如き自動車補機用の軸受に有効に適用することができる。
本発明の潤滑剤組成物は、フッ素油、粉末状フッ素樹脂増稠剤および防錆性添加剤としてのセバシン酸ジナトリウムを必須成分として含有してなる。
基油として用いられるフッ素油としては、一般にパーフルオロポリエーテル油が用いられる。かかるパーフルオロポリエーテルとしては、一般式
RfO(CF2O)x(C2F4O)y(C3F6O)zRf′
Rf、Rf′:C1〜C5、好ましくはC1〜C3のパーフルオロアルキル基
x+y+z:3〜200
ただし、x、y、zは0であり得る
で表わされるものが用いられる。具体的には、例えば下記一般式(1)〜(3)で表わされるようなものが用いられ、この他一般式(4)で表わされるようなものも用いられる。
(1) RfO(CF2CF2O)m(CF2O)nRf
ここで、Rf、Rf′は前記定義と同じであり、m+n=3〜200、m:n=10〜90:90〜10であり、またCF2CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、テトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することによって得られる。
(2) RfO[CF(CF3)CF2O]p(CF2CF2O)q(CF2O)rRf
ここで、Rf、Rf′は前記定義と同じであり、p+q+r=3〜200でqおよびrは0であり得、(q+r)/p=0〜2であり、またCF(CF3)CF2O基、CF2CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロペンおよびテトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することにより得られる。
(3) RfO[CF(CF3)CF2O]s(CF2CF2O)tRf
ここで、Rf、Rf′は前記定義と同じであり、s+t=3〜200でtは0であり得、t/s=0〜2であり、またCF(CF3)CF2O基およびCF2CF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロペンおよびテトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することにより、あるいはフッ化セシウム触媒の存在下にヘキサフルオロプロペンオキサイドまたはテトラフルオロエチレンオキサイドをアニオン重合させ、得られた末端-CF(CF3)COF基を有する酸フロライド化合物をフッ素ガスで処理することによって得られる。
(4) F(CF2CF2CF2O)2〜100C2F5
これは、フッ化セシウム触媒の存在下に2,2,3,3-テトラフルオロオキセタンをアニオン重合させ、得られた含フッ素ポリエーテル(CH2CF2CF2O)nを紫外線照射下に約160〜300℃でフッ素ガスで処理することによって得られる。
これらのパーフルオロポリエーテル基油は、単独であるいは混合して用いることができるが、潤滑油として用いる場合には、その粘度(40℃)が約5〜2000mm2/秒、好ましくは約10〜1500mm2/秒であることが望ましい。粘度がこれ以下のものは蒸発量が多く、耐熱用のグリースとしてJIS転がり軸受用グリース3種で規定されている蒸発量1.5%以下という条件を満さなくなり、一方これ以上の粘度を有するものは、流動点(JIS K-2283準拠)が10℃以上となり、通常の方法では低温時にベアリング、ギャ、チェーン等が起動せず、それを使用可能とするには加熱する必要があり、一般的なグリースとしては使用適格を欠くようになる。
増稠剤としてのフッ素樹脂としては、従来から潤滑剤として用いられているポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロペン共重合体〔FEP〕、パーフルオロアルキレン樹脂等が用いられる。ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンの乳化重合、けん濁重合、溶液重合などの方法によってポリテトラフルオロエチレンを製造し、それを熱分解、電子線照射分解、物理的粉砕などの方法によって処理して、数平均分子量Mnを約1,000〜1,000,000から約1,000〜500,000程度に低下させたものが用いられる。また、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロペンとの共重合反応および低分子量化処理も、ポリテトラフルオロエチレンの場合と同様にして行われ、数平均分子量Mnを約1,000〜600,000程度としたものが用いられる。特に、本発明で好適に使用される融点が300℃以上のPTFEを得るためには、Mnが約10,000以上であることが望ましい。なお、分子量の制御は、共重合反応時に連鎖移動剤を用いても行うことができる。得られた粉末状のフッ素樹脂の内、一般に約500μm以下、好ましくは約0.1〜30μmの一次粒径を有するものが用いられる。
これらの粉末状フッ素樹脂は、基油、防錆性添加剤との合計量中10〜40重量%、好ましくは15〜35重量%の割合で添加されて用いられる。フッ素樹脂増稠剤がこれ以上の割合で用いられると、組成物が硬くなりすぎるようになり、一方これ以下の割合で用いられると、フッ素樹脂等の増稠能力が発揮されず、離油の悪化を招き、耐飛散・漏洩性の向上が十分期待できなくなる。
また、これらの粉末状フッ素樹脂と共に他の増稠剤を併用することもでき、かかる増稠剤としては、金属石鹸、ウレア樹脂、ベントナイト、シリカ、粘土、グラファイト、カーボン、酸化亜鉛等の鉱物、有機顔料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドも使用できるが、耐熱性、潤滑性の面から考えると、好ましくはモノアミドモノカルボン酸金属塩、モノエステルカルボン酸金属塩、ジウレア、トリウレア、テトラウレアなどが用いられる。これらの他の増稠剤も、融点が300℃以上のものが好んで用いられる。
防錆性添加剤としてのセバシン酸ジナトリウムは、フッ素油、粉末状フッ素樹脂増稠剤との合計量中0.01〜0.09重量%の割合で用いられる。これより少ない割合で用いられると防錆効果がみられず、錆を発生するようになり、一方これよりも多い割合で用いられると、トルクの増加が許容できなくなる。すなわち、セバシン酸ジナトリウムはトルクを増加させる原因となるが、規定される範囲内、特に0.09重量%以下では数%のトルクの増加はみられるが、十分に低トルクである。
潤滑剤組成物中には、さらに従来潤滑剤に添加されている酸化防止剤、腐食防止剤、極圧剤、油性剤、固体潤滑剤等のその他の添加剤を必要に応じて添加することができる。酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェノール、4,4′-メチレンビス(2,6-ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系の酸化防止剤、アルキルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系の酸化防止剤などが挙げられる。
腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等のイオウ系化合物、ジアルキルジチオリン酸金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩等のイオウ系化合物金属塩などが挙げられる。
油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはそのエステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド等が挙げられる。また、他の固体潤滑剤としては、例えば二硫化モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素、窒化シラン等が挙げられる。
組成物の調製は、パーフルオロポリエーテル基油に粉末状フッ素樹脂増稠剤、防錆性添加剤および他の必要な添加剤を所定量添加し、攪拌釜等で十分攪拌した後、3本ロールまたは高圧ホモジナイザで均一化処理する方法などによって行われる。単に混合するだけでも調製し得る場合もある。
次に、実施例について本発明を説明する。
実施例1〜、比較例1〜3
パーフルオロポリエーテル基油(Solvay製品 80.00重量%
フォンブリンM15、粘度(40℃)85mm2/秒)
増稠剤(3M製品ダイニオンTFマイクロパウダー TF9207Z、 所定量
平均粒径(レーザー拡散法)4μm、一次粒径120nm)
セバシン酸ジナトリウム(BASFジャパン製品イルガコアDSSG) 所定量
以上の各成分は攪拌するだけで容易に混合することができ、これによって潤滑剤組成物を調製し、下記の試験を行った。
防錆性試験:
内径8mm、外径22mm、幅7mmの非接触ゴムシールの深溝玉軸受に、0.15mlのグリースを封入後、室温条件下で1800rpmの慣らし運転を60秒間行った後、温度80℃、湿度95%、時間24時間の条件下で静置させ、その後軸受内輪の錆の有無を確認(試験軸受表面を200倍のマイクロスコープで観察)
608軸受回転試験:
上記非接触ゴムシールの深溝玉軸受を2つ用い、室温条件下でスラスト荷重39.2N、グリース封入量0.15mlで、608軸受で支持されたシャフトに、トルク測定用ワイヤーロードセルに接続された試験軸受を取付け、シャフト部分を手動でゆっくりと回転させ、そのときのトルクを測定(グリースが軸受の球と摺動面に入り込んだときの引っ掛りをトルクとして測定)
実際の試験では、シャフトをわずかに正回転および逆回転をくり返し、引っ掛りを作
り、トルクを測定した
測定結果は、増稠剤およびセバシン酸Naの配合量と共に、次の表に示される。

実施例 比較例
1 2 3 4 5 1 2 3
増稠剤 (%) 19.99 19.97 19.95 19.93 19.91 20.00 19.80 19.70
セバシン酸Na (%) 0.01 0.03 0.05 0.07 0.09 − 0.20 0.30
錆の発生 なし なし なし なし なし あり なし なし
トルク
平均値(n=10)(N・cm) 0.41 0.46 0.49 0.51 0.53 0.36 0.69 0.75

Claims (5)

  1. フッ素油、粉末状フッ素樹脂増稠剤および防錆性添加剤としてのセバシン酸ジナトリウムを含有してなり、これらの合計量中防錆性添加剤が0.01〜0.09重量%の割合で用いられた潤滑剤組成物。
  2. フッ素油が、一般式
    RfO(CF 2 O) x (C 2 F 4 O) y (C 3 F 6 O) z Rf′ 〔I〕
    (ここで、RfおよびRf′は同一または互いに異なる炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基であり、x+y+z=3〜200で、x、yおよびzは0であり得る)で表わされるパーフルオロポリエーテルまたは一般式
    F(CF 2 CF 2 CF 2 O) n C 2 F 5 〔II〕
    (ここで、nは2〜100の整数である)で表わされるパーフルオロポリエーテルである請求項1記載の潤滑剤組成物。
  3. 一般式〔I〕で表わされるパーフルオロポリエーテルが、次の各一般式で表わされるパーフルオロポリエーテル
    (1) RfO(CF 2 CF 2 O) m (CF 2 O) n Rf′
    (ここで、Rf、Rf′は前記定義と同じであり、m+n=3〜200、m:n=10〜90:90〜10であり、またCF 2 CF 2 O基およびCF 2 O基は主鎖中にランダムに結合している)
    (2) RfO[CF(CF 3 )CF 2 O] p (CF 2 CF 2 O) q (CF 2 O) r Rf′
    (ここで、Rf、Rf′は前記定義と同じであり、p+q+r=3〜200でqおよびrは0であり得、(q+r)/p=0〜2であり、またCF(CF 3 )CF 2 O基、CF 2 CF 2 O基およびCF 2 O基は主鎖中にランダムに結合している)
    (3) RfO[CF(CF 3 )CF 2 O] s (CF 2 CF 2 O) t Rf′
    (ここで、Rf、Rf′は前記定義と同じであり、s+t=2〜200でtは0であり得、t/s=0〜2であり、またCF(CF 3 )CF 2 O基およびCF 2 CF 2 O基は主鎖中にランダムに結合している)
    の少くとも一種である請求項2記載の潤滑剤組成物。
  4. さらに他の増稠剤が添加された請求項1、2または3記載の潤滑剤組成物。
  5. グリースとして用いられる請求項1、2、3または4記載の潤滑剤組成物。
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