JP6510004B2 - イミダゾールジペプチドを含有するエクソソーム調節剤、およびエクソソームを含有する神経細胞活性化剤 - Google Patents

イミダゾールジペプチドを含有するエクソソーム調節剤、およびエクソソームを含有する神経細胞活性化剤 Download PDF

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Description

本発明は、イミダゾールジペプチドを含有する剤ならびにその用途、例えば当該剤を有効成分として含有する食品組成物や医薬組成物に関する。より詳しくは、本発明は、イミダゾールジペプチドを含有する、神経細胞に対する活性化作用を有するエクソソームを腸管上皮細胞から分泌させるための剤、およびそのようにして分泌されたエクソソームを含有する神経細胞活性化作用を有する剤、ならびにそれらの剤の用途、例えば神経細胞活性化剤としてのエクソソームが予防、治療などに有効な疾患や症状を対象とする、食品組成物や医薬組成物に関する。
イミダゾールジペプチドは、イミダゾール基を有するアミノ酸と他のアミノ酸とからなるジペプチド(2個のアミノ酸からなるペプチド)である。代表的なイミダゾールジペプチドとしては、カルノシン(ヒスチジンとβ-アラニンとからなるジペプチド)、アンセリン(メチル化ヒスチジンとβ-アラニンとからなるジペプチド)が挙げられる。
近年、イミダゾールジペプチドが有する様々な生理活性作用が注目され、研究開発が進められている。例えば、カルノシンやアンセリンについては、皮膚代謝促進作用(特許文献1)、自律神経調節作用(特許文献2)、ストレス緩和作用(特許文献3)、学習機能向上および抗不安作用(特許文献4)などについて、比較的早くから検討されていた。
特許文献5には、イミダゾールジペプチドおよびその代謝産物が、神経心理機能(例えばアルツハイマー病または加齢に関連したもの、あるいは鬱)の改善作用、抗炎症作用、特定のサイトカインの血中濃度の制御作用、血糖値ないし血中のインスリン濃度の上昇抑制作用または低下作用、特定のトランスポーター遺伝子、ケモカイン遺伝子、老化関連遺伝子、神経系遺伝子、ミトコンドリア系遺伝子または抗老化遺伝子の発現を変動させる作用などを有することが記載されている。この文献ではさらに、イミダゾールジペプチドおよびその代謝産物を、上記のような作用を目的とする剤として利用し、その剤を有効成分として含有する、糖尿病や、アルツハイマー病ないし脳の機能老化および/または認知症などを治療ないし処置するための、医薬組成物や栄養組成物(いわゆる健康食品、サプリメント、保健機能食品などを含む。)が提案されている。
近年、高齢化が進む日本では、2025年には65歳以上の3人に1人が認知症患者の時代が来ると言われ、その対策が急務となっている。一般的な認知症の治療方法として、ドネペジル塩酸塩(商品名「アリセプト」(登録商標))を用いて初期の認知症を遅らせることが行われており、また抗精神薬などを用いて幻覚や妄想等の精神病な症状や不安、不眠、鬱病等の症状を和らげることも行われている。しかしながら、このような薬物は症状の進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることはできるが、完治することはできない。引用文献1〜5に記載の発明で用いられているカルノシン、アンセリン等のイミダゾールジペプチドは、鶏肉などの食品に豊富に含まれている。日常的に摂取されるイミダゾールジペプチドのような食品成分により、認知症や鬱病などを予防する効果が発揮されることが期待されている。
特開2000−201649号公報 国際公開2002/076455号 特開2007−70316号公報 特開2000−116987号公報 特開2015−193582号公報
特許文献5には、前述したように、鶏肉等に由来するカルノシン等のイミダゾールジペプチドが認知症や鬱病の予防効果等を有することは記載されているが、そのような予防効果は、イミダゾールジペプチドについて知られている筋pH低下の緩衝作用、活性酸素を抑制する抗酸化作用、抗糖化作用などでは説明することができず、メカニズムは殆ど不明であった。そのため、イミダゾールジペプチドの機能をさらに活用し、より効率的な摂取方法等に展開させるための応用研究が実施できない状態にある。
本発明は、脳機能の改善効果等に関連するイミダゾールジペプチドが有する機能の一端を解明し、その機能を利用した新たな用途を有する剤を提供することを課題とする。
代表的なイミダゾールジペプチドの一つであるカルノシンは、ヒトなどの哺乳類では脳や筋肉に比較的高い濃度で存在することが知られていたため、これまでは主に神経細胞や筋肉細胞に対する作用が研究の対象となっていた。本発明者らは、イミダゾールジペプチドを経口摂取した際に、まず初めに体内に吸収される関門となる腸管上皮細胞に注目した。そして、腸管上皮細胞モデルであるCaco−2細胞にイミダゾールジペプチドを添加したところ、神経細胞を活性化させる作用を有するエクソソームが分泌されることを見出した。また、そのエクソソームに内包されるいくつかのmiRNAの含有量は、無処理の腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームの含有量と比較して変動しており、含有量が変動したmiRNAのほとんどは神経細胞の活性化に関連する情報を持つことなども見出した。エクソソームは、ほぼすべての細胞から分泌され、他の細胞に取り込まれることで情報の伝達を担っていると考えられている膜小胞であり、その内部には、由来する細胞により異なるmiRNAやタンパク質などの情報伝達物質を多く含んでいる。エクソソームのサイズは非常に小さく(直径40〜100nm)、血液脳関門を通過できると言われている。このようなエクソソームが、イミダゾールジペプチドを摂取した生体内で腸管上皮細胞から分泌され、血流に乗って脳に到達し、神経細胞を活性化することによって、前述したようなイミダゾールジペプチドによる認知症の予防効果等がもたらされる可能性がある。
なお、本出願人(本発明者)の一部は先に、カルノシン等のイミダゾールジペプチドがグリア細胞に対して、BDNF等の特定の神経栄養因子およびそれに類する機能を有する因子の遺伝子の発現を誘導(促進)する作用を有することを見出しており、その知見に基づいて、イミダゾールジペプチドを含有する、BDNF等の遺伝子のグリア細胞における発現を誘導するための剤を発明し、特許出願している(特願2016−163639号)。本発明におけるイミダゾールジペプチドの作用は、その先願に係る発明とは異なり、腸管上皮細胞に対するものであるが、先願と本願の発明に利用されているイミダゾールジペプチドの作用が協調することで、認知症や鬱病の予防効果等のメカニズムを合理的に説明することができるとともに、より本質的で効率的な予防効果等を追究するための手段となり得る。
本発明者らは、上記のような知見に基づいて本発明をするに至った。すなわち、本発明には以下の事項が包含される。
[項1]
イミダゾールジペプチドを含有する、神経細胞活性化作用を有するエクソソームを腸管上皮細胞から分泌させるための剤。
[項2]
イミダゾールジペプチドで処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームを含有する、神経細胞を活性化するための剤。
[項3]
前記エクソソーム内のmiRNAの含有量が、通常のエクソソーム内のmiRNAの含有量を基準としたときに変動しており、
前記miRNAは、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−24−3p、hsa−miR−26a−5p、hsa−miR−92−5p、hsa−miR−92a−3p、hsa−miR−103a−3p、hsa−miR−106a−5p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−320b、hsa−miR−320c、hsa−miR−619−5p、hsa−miR−937−5p、hsa−miR−1207−5p、hsa−miR−1227−5p、hsa−miR−1343−5p、hsa−miR−3141、hsa−miR−3162−5p、hsa−miR−3196、hsa−miR−3613−3p、hsa−miR−4281、hsa−miR−4485、hsa−miR−4487、hsa−miR−4507、hsa−miR−4532、hsa−miR−4668−5p、hsa−miR−4674、hsa−miR−4741、hsa−6732−5p、hsa−6752−5p、hsa−miR−6769b−5p、hsa−miR−6771−5p、hsa−miR−6775−5p、hsa−miR−6779−5p、hsa−miR−6794−5p、hsa−miR−6798−5p、hsa−miR−6821−5pおよびhsa−miR−8075からなる群より選択される少なくとも1種である、
項1または2に記載の剤。
[項4]
前記エクソソーム内のhsa−miR−6769−5pの含有量が、通常のエクソソーム内のmiRNAの含有量を基準としたときに増加している、項3に記載の剤。
[項5]
前記イミダゾールジペプチドが鶏肉または鶏肉抽出物に含まれた状態のカルノシンおよび/またはアンセリンを含有する、項1〜4のいずれか一項に記載の剤。
[項6]
前記イミダゾールジペプチドがカルノシンを含有する、項1〜5のいずれか一項に記載の剤。
[項7]
培養された腸管上皮細胞を対象とするin vitroの環境下で、または実験動物の体内にある腸管上皮細胞を対象とするin vivoの環境下で、腸管上皮細胞をイミダゾールジペプチドで処理する工程、および前記処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームを回収する工程を含む方法。
[項8]
さらに、前記回収されたエクソソーム内のmiRNAと、必要に応じて前記処理された腸管上皮細胞で発現したmiRNA、mRNAまたはタンパク質の一つ以上とを、定量する工程を含む、項7に記載の方法。
[項9]
さらに、培養された神経細胞を対象とするin vitroの環境下で、または実験動物の体内にある神経細胞を対象とするin vivoの環境下で、神経細胞を前記回収されたエクソソームまたはそこに含まれるmiRNAもしくはそのミミックで処理する工程を含む、項7または8に記載の方法。
[項10]
さらに、前記処理された神経細胞内のmiRNA、mRNAまたはタンパク質の一つ以上を定量する工程を含む、項9に記載の方法。
[項11]
前記イミダゾールジペプチドとして、項1、3〜6のいずれか一項に記載の剤に含有されているイミダゾールジペプチドを用いる、項7〜10のいずれか一項に記載の方法。
本発明のエクソソーム調節剤は、神経細胞活性化作用を有する、特定のmiRNAの含有量が変動したエクソソームを腸管上皮細胞から分泌させる作用を有する。そして、エクソソーム調節剤によって分泌されたエクソソームは、神経細胞を活性化させる作用を有する神経細胞活性化剤となる。このような作用を有するエクソソーム調節剤および神経細胞活性化剤は、研究開発のためにin vitroの環境下で試験的に利用することができるとともに、食品組成物や医薬組成物の有効成分として配合して、ヒトまたはその他の動物に摂取させることにより、認知症や鬱病などを予防、治療または症状を改善するなど、in vivoの環境下で利用することもできる。
また、本発明に関連して、イミダゾールジペプチドを摂取することによる脳機能改善効果のメカニズムの一端として、イミダゾールジペプチドで処理された(イミダゾールに曝露された)腸管上皮細胞から分泌される、特定のmiRNAを含有するエクソソームが関与していることが示された。このようなメカニズムにおけるエクソソームは、脳腸相関と呼ばれる、脳と腸がシグナル伝達によりお互いに密接に影響を及ぼし合うための、シグナル伝達手段の一つとして考えられている、分泌因子に該当する可能性がある。このような知見によって今後、イミダゾールジペプチドをより効率的に摂取し、生体内における作用をより積極的に活用できるようにするための応用研究に展開することも可能となる。
図1は、hsa−miR−6732−5pのターゲット遺伝子について、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)によるパスウェイ解析によって変動することが示された、軸索誘導パスウェイを表す図である。 図2は、hsa−miR−6732−5pのターゲット遺伝子について、KEGGによるパスウェイ解析によって変動することが示された、神経栄養因子シグナル伝達パスウェイを表す図である。 図3は、実施例の[2]カルノシン処理に伴うCaco−2細胞分泌エクソソームの網羅的解析、[2−2]miRNAのマイクロアレイおよびウエスタンブロッティング工程において、カルノシン処理(1mM)によりエクソソーム内の含有量が変動した(fold change (linear)が1.3より大きく増加または減少した)miRNAを表すグラフである。 図4は、実施例の[2]カルノシン処理に伴うCaco−2細胞分泌エクソソームの網羅的解析、[2−2]miRNAのマイクロアレイおよびウエスタンブロッティング工程において、カルノシン処理(10mM)によりエクソソーム内の含有量が変動した(fold change (linear)が1.3より大きく増加または減少した)miRNAを表すグラフである。 図5は、実施例の[3]hsa−miR−6732−5pの発現定量解析、[3−1]Caco−2細胞内の発現定量解析において、PBS処理した場合(control)およびカルノシン処理(1mMまたは10mM)した場合の、Caco−2細胞内のhsa−miR−6732−5pの発現量を測定した結果を表すグラフである。 図6は、実施例の[3]hsa−miR−6732−5pの発現定量解析、[3−2]エクソソーム内の発現定量解析において、PBS処理した場合(control)およびカルノシン処理(10mM)した場合の、Caco−2分泌エクソソーム内のhsa−miR−6732−5pの含有量を測定した結果を表すグラフである。 図7は、実施例の[4]hsa−miR−6769−5pの発現定量解析、[4−1]Caco−2細胞内の発現定量解析において、PBS処理した場合(ctrl)およびカルノシン処理(10mM)した場合の、Caco−2細胞内のhsa−miR−6769b−5pの発現量を測定した結果を表すグラフである。***はp<0.001の有意差を表す。 図8は、実施例の[4]hsa−miR−6769−5pの発現定量解析、[4−2]エクソソーム内の発現定量解析において、PBS処理した場合(ctrl)およびカルノシン処理(10mM)した場合の、Caco−2分泌エクソソーム内のhsa−miR−6769b−5pの含有量を測定した結果を表すグラフである。***はp<0.001の有意差を表す。 図9は、実施例の[5]神経細胞に対するCaco−2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その1−、[5−2]神経細胞の培養およびCaco−2細胞分泌エクソソームの添加−(1)BDNF様効果において行った、(A)BDNF添加(100ng/ml処理:positive control)、(B)PBS処理Caco−2細胞分泌エクソソーム添加(negative control)および(C)カルノシン処理(10mM)Caco−2細胞分泌エクソソーム添加それぞれについて、神経突起を免疫染色したときの蛍光顕微鏡による観察像である。 図10(図10−1および10−2)は、実施例の[5]神経細胞に対するCaco−2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その1−、[5−3]神経細胞の培養およびCaco−2細胞分泌エクソソームの添加−(2)レチノイン酸様効果において行った、(A)無処理、(B)レチノイン酸添加(10μM処理:positive control)、(C)PBS処理Caco−2細胞分泌エクソソーム添加(negative control)、(D)カルノシン処理(1mM)Caco−2細胞分泌エクソソーム添加、および(E)カルノシン処理(10mM)Caco−2細胞分泌エクソソーム添加それぞれについて、神経細胞を免疫染色したときの蛍光顕微鏡による観察像である。 図11は、実施例の[6]神経細胞に対するCaco−2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その2−において行った、PBS処理Caco−2細胞分泌エクソソーム添加(Exo-Crtl)、カルノシン処理(10mM)Caco−2細胞分泌エクソソーム添加(Exo0Car)、無処理、およびレチノイン酸添加(RA)それぞれについて、神経突起の長さを定量した結果を表すグラフである。*はp<0.05の有意差を表す。 図12は、実施例の[6]神経細胞に対するCaco−2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その2−において、PBS処理した場合(Exo-ctrl)およびカルノシン処理(10mM)した場合(Exo-Car)のCaco−2分泌エクソソームをSH−SY5Y細胞に添加したときの、当該細胞内におけるNestin、NEFMおよびVimentinの発現量を測定した結果を表すグラフである。***はp<0.001の有意差を表す。 図13は、実施例の[6]神経細胞に対するCaco−2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その2−において、PBS処理した場合(Exo-ctrl)およびカルノシン処理(10mM)した場合(Exo-Car)のCaco−2分泌エクソソームをSH−SY5Y細胞に添加したときの、当該細胞内におけるATXN1およびSLITRK5の発現量を測定した結果を表すグラフである。**はp<0.01、***はp<0.001の有意差を表す。 図14は、実施例の[6]神経細胞に対するCaco−2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その2−において、PBS処理した場合(Exo-ctrl)およびカルノシン処理(10mM)した場合(Exo-Car)のCaco−2分泌エクソソームをSH−SY5Y細胞に添加したときの、当該細胞内におけるhas−miR−6769b−5pの発現量を測定した結果を表すグラフである。*はp<0.05の有意差を表す。 図15は、実施例の[6]神経細胞に対するCaco−2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その2−において行った、hsa−miR−6769−5pミミック添加(6769-5p mimic)およびコントロール(mimic ctrl)それぞれについて、神経細胞を免疫染色したときの蛍光顕微鏡による観察像である。 図16は、実施例の[6]神経細胞に対するCaco−2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その2−において行った、hsa−miR−6769−5pミミック添加(6769-5p mimic)およびコントロール(mimic ctrl)それぞれについて、神経突起の長さを定量した結果を表すグラフである。**はp<0.01の有意差を表す。
本発明の第1の剤(本明細書において「エクソソーム調節剤」と呼ぶ。)は、イミダゾールジペプチドを含有する、神経細胞活性化作用を有するエクソソームを腸管上皮細胞から分泌させるための剤である。
本発明の第2の剤(本明細書において「神経細胞活性化剤」と呼ぶ。)は、イミダゾールジペプチドで処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームを含有する、神経細胞を活性化するための剤である。換言すれば、本発明は、生体内または生体外で、腸管上皮細胞を有効量のイミダゾールペプチドで処理すること、およびその腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームで神経細胞を処理する(典型的には、生体内にあっては血液による輸送により、生体外にあっては培養液への添加により、神経細胞に前記エクソソームを吸収させる)ことを含む、神経細胞を活性化させる方法を提供する。
エクソソーム調節剤に係る発明および神経細胞活性化剤に係る発明それぞれにおいて、エクソソーム内のmiRNAの含有量は、一般的に、通常の(イミダゾールジペプチドで処理されていない腸管上皮細胞から分泌される)エクソソーム内のmiRNAの含有量を基準としたときに変動している。
エクソソーム内の含有量が変動するmiRNAは、例えば、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−24−3p、hsa−miR−26a−5p、hsa−miR−92−5p、hsa−miR−92a−3p、hsa−miR−103a−3p、hsa−miR−106a−5p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−320b、hsa−miR−320c、hsa−miR−619−5p、hsa−miR−937−5p、hsa−miR−1207−5p、hsa−miR−1227−5p、hsa−miR−1343−5p、hsa−miR−3141、hsa−miR−3162−5p、hsa−miR−3196、hsa−miR−3613−3p、hsa−miR−4281、hsa−miR−4485、hsa−miR−4487、hsa−miR−4507、hsa−miR−4532、hsa−miR−4668−5p、hsa−miR−4674、hsa−miR−4741、hsa−6732−5p、hsa−6752−5p、hsa−miR−6769b−5p、hsa−miR−6771−5p、hsa−miR−6775−5p、hsa−miR−6779−5p、hsa−miR−6794−5p、hsa−miR−6798−5p、hsa−miR−6821−5pおよびhsa−miR−8075からなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明のエクソソーム調節剤は、別の側面において、イミダゾールジペプチドを含有する、腸管上皮細胞から分泌されるエクソソーム内の前記特定のmiRNAの含有量を調節する、および/または腸管上皮細胞における前記特定のmiRNAの発現量を調節するための剤(本明細書において「miRNA調節剤」と呼ぶことがある。)ともいえる。
さらに別の側面において、本発明は、生体内または生体外で、腸管上皮細胞を有効量のイミダゾールジペプチドで処理する(典型的には、生体内にあっては経口摂取により、生体外にあっては培養液への添加により、腸管上皮細胞をイミダゾールペプチドに曝露させる)ことを含む、腸管上皮細胞から分泌されるエクソソーム内の前記特定のmiRNAの含有量を調節する、および/または腸管上皮細胞における前記特定のmiRNAの発現量を調節する方法を提供する。
なお、以下の推察は本発明の技術的範囲や作用効果を必要以上に束縛するものではないが、エクソソーム内のmiRNAの含有量が(総量として)変化する理由としては、(i)上記特定のmiRNAの腸管上皮細胞内での発現が誘導または抑制され、発現量が増加または減少する結果、腸管上皮細胞から分泌されるエクソソーム内の上記特定のmiRNAの含有量も自ずと増加または減少すること、または(ii)エクソソームの分泌量が増加または減少することで、仮に1つのエクソソームに内包されるmiRNAの量が同じだとしても、総量として増加または減少すること、あるいは(i)および(ii)の両方の可能性が考えられる。本発明の作用効果に言及する際の「エクソソーム内のmiRNAの含有量」は、必ずしもエクソソーム1つあたりに含まれるmiRNAの量を指す狭義ではなく、エクソソームの集合全体に含まれるmiRNAの総量を指す広義で解釈する方が適切である。
また、イミダゾールジペプチドで処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームが神経細胞活性化作用を有する理由の一つとしては、エクソソームに内包される一または複数のmiRNAがそのような作用を有しており、しかもそれらのmiRNAの含有量がイミダゾールジペプチドで処理されていない(無処理の、通常の)腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームに比べて増加または減少していることが考えられる。しかしながら、その他の可能性、例えばイミダゾールジペプチドで処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームに内包される、タンパク質等のmiRNA以外の物質が、あるいはmiRNAおよびその他の物質を内包するエクソソーム全体として、神経細胞活性化作用を有している可能性も否定されるものではない。
エクソソームが「イミダゾールジペプチドで処理された」腸管上皮細胞から分泌されたものであるかどうかは、神経細胞を活性化させる作用を有するかどうかで判別することが可能である。「イミダゾールジペプチドで処理されていない」(無処理の、通常の)腸管上皮細胞から分泌されたエクソソーム」は、神経細胞を活性化させる作用は有さない。また別の観点からは、エクソソームが「イミダゾールジペプチドで処理された」腸管上皮細胞から分泌されたものであるかどうかは、エクソソームに内包される前記特定のmiRNAのうちの一または複数の(理想的には全ての)含有量が、「イミダゾールジペプチドで処理されていない」(無処理の、通常の)腸管上皮細胞から分泌されたエクソソーム」についての含有量と比較して、前記の通り変動(増加または減少)しているかどうかによって判別することも可能である。したがって、「イミダゾールジペプチドで処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソーム」は、「神経細胞活性化作用を有するエクソソーム」と表現したり、「イミダゾールジペプチドで処理されていない(無処理の、通常の)腸管上皮細胞から分泌されたエクソソーム」と比較して、前記特定のmiRNAのうちの一または複数の(理想的には全ての)の含有量が前記の通り変動(増加または減少)しているエクソソーム」と言い換えることも可能である。
(イミダゾールジペプチド)
イミダゾールジペプチドは、イミダゾール基を有するアミノ酸と他のアミノ酸とからなるジペプチドであって、下記の式Iまたは式IIで表すことができる。
式Iおよび式II中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、HまたはC1-6アルキルであり、XはHまたは-COR4であり、このときR4はH、C1-6アルキル、置換されていてもよいベンジルまたは-CH=C2Hである。
式Iにおいては、R1、R2は、いずれか一方がC1-6アルキルであり、他方がHであることが好ましい。式IIにおいては、R2、R3は、いずれか一方がC1-6アルキルであり、他方がHであることが好ましい。C1-6アルキルの好ましい例の一つは、メチルである。
-COR4であるXの具体例としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、アクリロイルが挙げられる。
式Iまたは式IIで表わされる化合物の製造方法等に関しては、特表2003-520221、特開2006-232686、特表2006-504701、特表2008-517911、特表2009-512459、特開2010-31004、特開2011-37891、特開2011-37892、特開2013-165728、特開2014-12735等を参考にすることができる。
代表的なイミダゾールジペプチドとして、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンが挙げられる。なお、これらのイミダゾールジペプチドは、いずれも水溶性である(例えばカルノシンの水に対する溶解度は、1g/3.1ml at 25℃)。
カルノシンはβ-アラニンとヒスチジンからなるジペプチドである。構成するヒスチジンの立体構造により、カルノシンにはL体とD体とが存在する。本発明およびその説明において、単に「カルノシン」というときは、特に記載した場合を除き、L-カルノシン、D-カルノシンまたはそれらの混合物を指すが、天然のカルノシンはL-カルノシンである。L-カルノシン(L-carnosine、IUPAC名:(2S)-2-[(3-Amino-1-oxopropyl)amino]-3-(3H-imidazol-4-yl)propanoic acid)の構造を以下に示す。
アンセリンは、β-アラニンと1-メチルヒスチジンとからなるジペプチドである。前述したカルノシンと同様、発明およびその説明において、単に「アンセリン」というときは、特に記載した場合を除き、L-アンセリン、D-アンセリンまたはそれらの混合物を指す。L-アンセリン(L-anserine、IUPAC名:(2S)-2-[(3-amino-1-oxopropyl)amino]-3-(3-methyl-4-imidazolyl)propanoic acid)の構造を以下に示す。
このほか、バレニン(オフィジンともいう。)は、β-アラニンと3−メチルヒスチジンとからなるジペプチドであり、ホモカルノシンはγ-アミノ酪酸(GABA)とヒスチジンとからなるジペプチドである。
イミダゾールジペプチドは、合成されたもの、発酵生産されたもの、天然物から得たもののいずれであってもよく、必要に応じて、単離されたもの、精製されたものであってもよい。例えば、イミダゾールジペプチドは、牛、馬、豚、鶏、クジラ、魚(例えば、かつお、まぐろ、うなぎ)などの種々の動物に豊富に含まれており、これらの天然物の抽出物、濃縮物、粗精製物等として剤中に配合することが好ましい。中でも鶏肉(胸肉、ささみ等)の抽出物は、カルノシンおよびアンセリンが豊富に含まれており、イミダゾールジペプチドの原料として特に好ましい。すなわち、本発明でエクソソーム調節剤として(またはmiRNA調節剤として)使用するイミダゾールジペプチドは、鶏肉または鶏肉抽出物に含まれた状態のカルノシンおよび/またはアンセリンであることが好ましい。
本発明で使用するイミダゾールジペプチドは、いずれか1種類のイミダゾールジペプチド単独からなるものであってもよいし、2種類以上のイミダゾールジペプチドからなる混合物であってもよい。なお、本発明またはその説明における、イミダゾールジペプチドの量に関する規定について、2種類以上のイミダゾールジペプチドの含有量を規定する場合は、別途記載した場合を除き、前記の量はそれらの合計量を指す。
イミダゾールジペプチドの中でもカルノシンは特に、腸管上皮細胞を処理したときに分泌されるエクソソームによる神経細胞活性化作用に優れているため、本発明で使用するイミダゾールジペプチドは、少なくともカルノシンを含有することが好ましく、カルノシンのみを含有する、つまりアンセリン、バレニン、ホモカルノシンなどのカルノシン以外の化合物を含有しないようにしてもよい。
本発明のエクソソーム調節剤は、イミダゾールジペプチドのみからなるものであってもよいし、それと同様に腸管上皮細胞に対して、神経細胞活性化作用を有するエクソソームを分泌させる作用、または分泌されるエクソソームに内包される前記特定のmiRNAの含有量または腸管上皮細胞内での所定のmiRNAの発現量を変動させる作用を有する、その他の物質をさらに含有するものであってもよい。また、本発明のエクソソーム調節剤は、鶏肉抽出物のような天然物の抽出物、濃縮物、粗精製物等として、イミダゾールジペプチドとその他の物質とが一体不可分な状態にある(調製された組成物ではない)形態であってもよいし、水、緩衝液等の適切な溶媒に溶解した溶液の形態であってもよいし、乾燥粉末化された形態であってもよい。
イミダゾールジペプチドを含有する、天然物の抽出物等の調製方法は特に限定されるものではなく、公知の様々な技術を用いることができ、抽出条件も適宜調節することができる。鶏肉抽出物は一般的に、鶏肉を細切りし、温水を加え、必要に応じてpHを調節し、必要に応じ加温し(例えば50〜100℃)、数分間〜数日間(例えば1〜10時間)かけて抽出する、といった手順で調製することができる。原料である鶏肉の部位は特に限定されないが、カルノシン及び/又はアンセリンを多く含有することから、胸肉を含むことが好ましい。得られた抽出液に対してはさらに、必要に応じて、珪藻土ろ過、限外ろ過等による精製・分画処理や、脱塩処理、プロテアーゼ処理などを行うことができる。また、得られた抽出液は、必要に応じて濃縮液にしたり、熱風乾燥、スプレー乾燥、凍結乾燥等により乾燥物(乾燥粉末)にしたり、造粒して顆粒にしたりすることもできる。イミダゾールジペプチドを含有する抽出物は、使用時まで、そのような溶液の状態で保存してもよいし、乾燥粉末や顆粒の状態で保存してもよい。本発明者の検討によると、アンセリンおよびカルノシンは、常温では十分に安定であり、また加熱する場合も180℃以下であれば十分に安定であることが確認されている。さらに、溶液状態で少なくとも2年9月は安定に保存できることが確認されている。
(エクソソーム)
本発明で神経細胞活性化剤として用いるエクソソームは、イミダゾールジペプチドで処理した腸管上皮細胞から分泌されるものである。そのようなエクソソームは、イミダゾールジペプチドを添加した培地で腸管上皮細胞を培養し、その培養後の培地から、必要に応じて遠心分離や限外濾過等による前処理を行った上で、市販されている一般的なキットを用いて、またはそれと同等の原理に基づく手段を用いて、例えば、ホスファチジルセリンアフィニティ法を用いて、単離、精製することができる。
本発明の一側面において、前記特定のmiRNAの少なくとも1種を、例えば人工的にエクソソーム内に導入して、実質的に「イミダゾールジペプチドで処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソーム」と同等のエクソソームを作出することも可能である。
上記のようなエクソソームを作出する場合、その他本発明においてmiRNAを用いる場合、miRNAの代わりにmiRNAミミック(疑似化合物)を用いることもできる。miRNAミミックは、miRNAに類似する構造を有する人工物であり、各種のものが市販されている(例えばQiagen社の製品)。
本発明の神経細胞活性化剤は、エクソソーム(精製物)のみからなるものであってもよいし、それと同様に神経細胞に対する所定の活性化作用を有する、その他の物質をさらに含有していてもよい。エクソソームは、緩衝液等の適切な溶媒に懸濁した形態であってもよい。
(miRNA)
本発明のエクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドによって処理されたときに、腸管上皮細胞から放出されるエクソソーム内の含有量が変動するmiRNA、換言すれば、本発明のmiRNA調節剤としてのイミダゾールジペプチドによって、エクソソーム中の含有量および/または腸管上皮細胞内の発現量が調節されるmiRNAは、下記のようなものである:hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−24−3p、hsa−miR−26a−5p、hsa−miR−92−5p、hsa−miR−92a−3p、hsa−miR−103a−3p、hsa−miR−106a−5p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−320b、hsa−miR−320c、hsa−miR−619−5p、hsa−miR−937−5p、hsa−miR−1207−5p、hsa−miR−1227−5p、hsa−miR−1343−5p、hsa−miR−3141、hsa−miR−3162−5p、hsa−miR−3196、hsa−miR−3613−3p、hsa−miR−4281、hsa−miR−4485、hsa−miR−4487、hsa−miR−4507、hsa−miR−4532、hsa−miR−4668−5p、hsa−miR−4674、hsa−miR−4741、hsa−6732−5p、hsa−6752−5p、hsa−miR−6769b−5p、hsa−miR−6771−5p、hsa−miR−6775−5p、hsa−miR−6779−5p、hsa−miR−6794−5p、hsa−miR−6798−5p、hsa−miR−6821−5pおよびhsa−miR−8075。
これらのmiRNAは、いずれか1種類を対象としてもよいし、2種類以上を対象としてもよい。通常は、腸管上皮細胞をイミダゾールジペプチドで処理すれば、上記のmiRNAの全部または一部について、エクソソーム内の含有量が変動すると同時に、腸管上皮細胞内の発現量も変動する。
本発明では、エクソソーム調節剤として用いるイミダゾールジペプチドの種類や組成によって、発現量が変動するmiRNAが変化する場合がある。
例えば、培養された腸管上皮細胞をカルノシンで処理する際に、培養液中のカルノシン濃度を1mMとする場合は、上記miRNAのうち、hsa−miR−92−5p、hsa−miR−320b、hsa−miR−1227−5p、hsa−miR−3141、hsa−miR−3196、hsa−miR−4507、hsa−miR−4674、hsa−6732−5p、hsa−miR−6769b−5p、hsa−miR−6771−5p、hsa−miR−6775−5p、hsa−miR−6794−5p、hsa−miR−6798−5pおよびhsa−miR−8075が、エクソソーム中の含有量が増加し、上記miRNAのうち、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−24−3p、hsa−miR−26a−5p、hsa−miR−92a−3p、hsa−miR−103a−3p、hsa−miR−106a−5p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−619−5p、hsa−miR−3162−5p、hsa−miR−3613−3p、hsa−miR−4485、hsa−miR−4532およびhsa−miR−4668−5が、エクソソーム中の含有量が減少する。
また、培養された腸管上皮細胞をカルノシンで処理する際に、培養液中のカルノシン濃度を10mMとする場合は、上記miRNAのうち、hsa−miR−106a−5p、hsa−miR−1207−5p、hsa−miR−1343−5p、hsa−miR−3162−5p、hsa−miR−4281、hsa−miR−4487、hsa−miR−4741、hsa−6732−5p、hsa−6752−5p、hsa−miR−6769b−5p、hsa−miR−6771−5p、hsa−miR−6775−5p、hsa−miR−6779b−5pおよびhsa−miR−6821−5pが、エクソソーム中の含有量が増加し、上記miRNAのうち、hsa−miR−103a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−320c、hsa−miR−619−5pおよびhsa−miR−937−5pが、エクソソーム中の含有量が減少する。
培養液中のカルノシンの濃度が上記の1mMまたは10mM以外の場合(好ましくは1〜10mMの範囲)でも、一または複数の(理想的には全ての)miRNAは上記と同様の増減を示すと推測される。カルノシン濃度が1mMか10mMかで増減が異なるmiRNA(hsa−miR−106a−5pおよびhsa−miR−3162−5p)については、培養液中のカルノシンの濃度(好ましくは1〜10mMの範囲)によって、増減のどちらかを示す。カルノシン以外のイミダゾールジペプチドを用いた場合も同様に、一または複数の(理想的には全ての)miRNA(A)および(B)は上記と同様の増減を示すと推測される。
上記のような、本発明のmiRNA調節剤によってエクソソーム中の含有量が変動するmiRNAは、Target Scanによるターゲット遺伝子の探索、および遺伝子データベースDAVID(http://david.abcc.ncifcrf.gov/)を用いたターゲット遺伝子の機能解析(Enrichment Score 1.3以上のAnnotation Cluster)によると、神経関連に注目した場合、以下のような機能に関与している。
・シナプス関連
・神経管の形成、発達
・神経伝達物質の分泌、輸送
・ニューロンの発達、分化
・軸索の誘導、形成
・カドヘリン(細胞接着を司る糖タンパクの一種で、シナプス形成、シナプス可塑性の機能を持つ)
・セマフォリン(軸索伸長、樹状突起の形態・機能の制御に関与する)
・海馬の発達
上記のターゲット遺伝子は、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)によるパスウェイ解析によると、特に軸索誘導パスウェイおよび神経栄養因子シグナル伝達パスウェイを有意に変動させる。一例として、hsa−miR−6732−5pのターゲット遺伝子についての軸索誘導パスウェイおよび神経栄養因子シグナル伝達パスウェイを、それぞれ図1および図2に示す。
また、前述したように、腸管上皮細胞のカルノシンでの処理により分泌されるエクソソーム中の含有量が増加するmiR−6769b−5p(カルノシン濃度1mMおよび10mM)、ならびに含有量が減少するmiR−619−5p(カルノシン濃度10mM)、miR−24−3p(カルノシン濃度1mM)およびmiR−937−5p(カルノシン濃度1mM)は、それぞれ下記表に示すように、神経細胞におけるターゲット遺伝子の発現量を増加または減少させる。これらの神経細胞におけるターゲット遺伝子の発現量の変化が、神経突起の伸長など神経細胞の活性化をもたらすと考えられる。
本発明の好ましい実施形態として、エクソソーム内のhsa−miR−6769−5pの含有量が、通常のエクソソーム内のmiRNAの含有量を基準としたときに増加していることが挙げられる。
(腸管上皮細胞)
腸管上皮細胞は、小腸、大腸等の消化管の表層の粘膜を構成している細胞の総称である。このような腸管上皮細胞には、吸収上皮細胞、杯細胞、パネート(Paneth)細胞、腸内分泌細胞、タフト細胞、M細胞などが包含される。なお、実施例で用いているCaco−2は、腸管上皮細胞のモデルとして慣用されている、ヒト大腸癌由来の細胞株であり、培養すると自然に単層を形成し、2〜3週間培養を継続すると分化してさまざまな小腸様の機能を発現する。
−用途−
本発明のエクソソーム調節剤および神経細胞活性化剤の用途は、それぞれ、神経細胞活性化作用を有するエクソソームを腸管上皮細胞から分泌させる作用、および神経細胞を活性化させる作用を利用する限り特に限定されるものではない。
用途の一例として、本発明のエクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドは、腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームが有する神経細胞活性化作用(薬理活性)について、さらに優れた化合物を探索する(スクリーニングする)ための、リード化合物として利用することが挙げられる。リード化合物とは、一般に、薬理活性のプロファイルが明らかであり、これを化学的に改変することで薬理活性の向上、安全性のさらなる向上(もしも有しているとすれば毒性の低減)、物性の安定化などをなどが期待できる化合物をいう。イミダゾールジペプチドも化学的に改変することで、上記のような薬理活性のさらなる向上などを図れる可能性がある。
化学的に改変するとは、薬理活性の向上などの点で最適化するために、リード化合物としてのイミダゾールジペプチド(式IまたはIIで表される化合物)を化学修飾することを指す。化学修飾の具体例としては、一部のアミノ酸の置換または除去、少なくとも1つのアミノ酸の付加または挿入、各アミノ酸における官能基の付加、置換または除去、天然でL体である各アミノ酸の、D体アミノ酸または人工アミノ酸への置換などが挙げられる。
また、用途の他の例として、本発明のエクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドが有する上記の作用をさらに向上させたり、安全性をさらに向上させたりするために、併用することのできる化合物ないし物質を探索するため利用することも挙げられる。本発明のエクソソーム調節剤とともに腸管上皮細胞に作用させることにより、エクソソーム調節剤が有する上記の作用の向上などが図れる化合物等が見つかれば、そのような化合物等は本発明のエクソソーム調節剤とともに、食品組成物や医薬組成物に配合して利用できる可能性がある。
上記の2つの例に示した用途、またはこれらに準じた用途においては、本発明のエクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドは、培養された腸管上皮細胞を対象とするin vitroの環境下で、またはヒトもしくは実験動物の体内にある腸管上皮細胞を対象とするin vivoの環境下で使用されることになる。
エクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドを腸管上皮細胞にin vitroで作用させる場合、または神経細胞活性化剤としてのエクソソームを神経細胞にin vitroで作用させる場合は、培養細胞を用いる従来の薬物試験と同様に、本発明のエクソソーム調節剤または神経細胞活性化剤を細胞培養液中に所定の濃度となるよう添加した後、所定の期間、腸管上皮細胞または神経細胞を培養すればよい。その際の処理濃度および処理時間は、本発明のエクソソーム調節剤または神経細胞活性化剤の作用が適切に発揮されるような濃度および時間としたり、作用の程度などを分析するために試験的に様々な段階の濃度および時間としたり、目的に応じて調節することができる。
例えば、本発明のエクソソーム調節剤が、培養された腸管上皮細胞に対して所期の作用、すなわち神経細胞活性化作用を有するエクソソームを分泌させる作用を発揮することや、そのときの細胞毒性などを確認したい場合は、エクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドの培養液中の濃度は通常は1μM〜100mM程度の範囲、miRNA調節剤が添加された培養液中での腸管上皮細胞の培養期間は通常は1〜2日程度の範囲で調整することができる。エクソソーム調節剤の作用の強さと細胞毒性の弱さのバランスが取れた条件としたい場合は、エクソソーム調節剤の培養液中の濃度は100μM〜10mM、例えば1mM〜10mMとすることが好ましい。
本発明の神経細胞活性化剤が、培養された神経細胞に対して所期の作用を発揮することや、そのときの細胞毒性などを確認したい場合は、神経細胞活性化剤としてのエクソソームの培養液中の濃度は通常5〜500ng/mL(例えば、実施例に示したような手順で精製したエクソソームの溶液として5〜500ng/mL)、神経細胞活性化剤が添加された培養液中での神経細胞の培養期間は通常は1〜5日程度の範囲で調整することができる。神経細胞活性化剤の作用の強さと細胞毒性の弱さのバランスが取れた条件としたい場合は、神経細胞活性化剤の培養液中の濃度は1〜100ng/mLとすることが好ましい。
腸管上皮細胞にin vivoで作用させる場合は、実験動物を用いる従来の薬物試験と同様に、所定の量の本発明のエクソソーム調節剤を、所定の期間に亘って、実験動物に投与すればよい。その際の投与量および投与期間も、本発明の発現誘導剤の作用が適切に発揮されるような投与量および投与期間としたり、作用の程度などを分析するために試験的に様々な段階の投与量および投与期間としたり、目的に応じて調節することができる。
例えば、本発明のエクソソーム調節剤が、マウスの生体内の腸管上皮細胞に対して所期の作用、すなわち神経細胞活性化作用を有するエクソソームを分泌させる作用を発揮することや、そのときの副作用などを確認したい場合は、通常、エクソソーム調節剤の投与量は一回あたり0.1〜2g/kg体重の範囲、一日あたりの投与回数は1〜3回の範囲、投与期間は7〜180日の範囲で調整することができ、もしくは単回投与も考えられる。このような投与量の設定等については、食品組成物および医薬組成物に関して後述する明細書の記載を参照することもできる。実験動物の種類としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット、イヌ、ミニブタ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジなどが挙げられる。
上記のようなエクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドに関する事項は、適宜、miRNA調節剤としてのイミダゾールジペプチドに関する事項に読み替えることができる。
本発明のエクソソーム調節剤によって処理された、腸管上皮細胞が分泌するエクソソームが有する神経細胞活性化作用、すなわち本発明の神経細胞活性化剤が奏する作用効果としては、神経突起(軸索)の伸長、樹状突起の伸長、神経細胞数の減少の抑制(神経細胞への分化の誘導)などが挙げられるが、これらの作用は公知の技術を用いて確認することができる。
一般的には、神経細胞活性化剤の有効成分としてのエクソソームで神経細胞を処理した後に、処理する前と比較して、または無処理に相当するコントロールと比較して、蛍光免疫染色法などを利用して、神経細胞の神経突起(軸索)や樹状突起の伸長量、またはヒト神経芽細胞から神経細胞に分化した細胞数が増加していること、好ましくはそれぞれ統計学的な有意差で増加していることをもって、上記の所期の作用効果が奏されたといえる。
なお、本発明のmiRNA調節剤が奏する作用効果、すなわち腸管上皮細胞から分泌されるエクソソーム内の特定のmiRNAの含有量を調節したり、および/または腸管上皮細胞における特定のmiRNAの発現量を調節したりする作用も、公知の技術を用いて確認することができる。
一般的には、miRNA調節剤の有効成分としてのイミダゾールジペプチドで腸管上皮細胞を処理した後に、処理する前と比較して、または無処理に相当するコントロールと比較して、腸管上皮細胞から分泌されるエクソソーム内の含有量が変動(増加または減少)していること、および/または腸管上皮細胞における特定のmiRNAの発現量が変動していること、好ましくはそれぞれ統計学的な有意差で変動していることをもって、上記の所期の作用効果が奏されたといえる。
細胞中またはエクソソーム中のmiRNAは、培養した腸管上皮細胞またはその培地や、実験動物の腸組織などからサンプルを採取し、公知の測定システムおよび測定部材(市販のキット等)を用いて、所望の精度で定量することができる。
本発明のエクソソーム調節剤または神経細胞活性化剤の用途の、他の好適な一例として、食品組成物または医薬組成物の有効成分としてそれらに配合することが挙げられる。ただし、エクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドは、腸管上皮細胞を標的とするため、非経口投与の医薬組成物に配合して用いても有効成分としての効能は期待しにくい。逆に、神経細胞活性化剤としてのエクソソームは、神経細胞を標的とするため、食品組成物として、または経口投与の医薬組成物に配合して用いても効能は期待しにくい。
本発明のエクソソーム調節剤または神経細胞活性化剤が有効成分となり得る疾患または症状は、腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームによって、予防、治療、改善等(発症リスクの低減、発症の遅延、進行の停止、遅延を含む。)をすることができるものである。特に、miRNA(前述したように、前記特定のmiRNAの少なくとも1種の含有量は通常と比較して変動している)、タンパク質等を包含するエクソソームが脳組織に到達し、神経細胞等に作用することで、予防、治療、改善等ができる疾患または症状が好ましい。上記の疾患の代表例としては、認知症、鬱病および癲癇が挙げられる。また上記の症状の具体例としては、脳の萎縮、脳の機能(海馬との機能連結など)の低下、炎症によるニューロンの損傷が挙げられる。
すなわち、本発明は一つの側面において、本発明のエクソソーム調節剤または神経細胞活性化剤を有効成分として含有する、上記特定の疾患または症状の予防、治療、症状の改善用などの、食品組成物または医薬組成物を提供する。換言すれば、本発明は、有効量の本発明のエクソソーム調節剤または神経細胞活性化剤を含有する食品組成物または医薬組成物を食餌させるまたは投与することを含む、上記特定の疾患または症状の予防方法、治療方法、改善方法などを提供する。上記の食品組成物または医薬組成物を、本明細書においてそれぞれ「本発明の食品組成物」または「本発明の医薬組成物」と呼ぶことがある。
本発明の食品組成物または医薬組成物は、上記特定の疾患に現に罹患しているまたは症状を発症している、あるいは罹患または発症のおそれのある、ヒト(患者)またはヒト以外の哺乳動物(実験動物、ペット等)に対して処置することができる。
「処置」のための行為には、医師が行う、疾患の治療等を目的とした医療行為と、医師以外の者(例えば栄養士、管理栄養士、保健師、助産師、看護師、臨床検査技師、美容部員、エステティシャン、食品製造者、食品販売者等)が行う、非医療的行為とが含まれる。また処置には、特定の食品の投与または摂取の推奨、食餌方法指導、保健指導、栄養指導(傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導、および健康の保持増進のための栄養の指導を含む。)、給食管理、給食に関する栄養改善上必要な指導を含む。
(食品組成物)
食品組成物は、エクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドまたはこれを含有する抽出物等と、食品として許容される種々の添加剤等やその他の成分とを、所定の配合比で混合するなど、公知の技術を用いて製造することができる。なお、イミダゾールジペプチドを含有するが、組成物として製造されていない天然の素材またはその調理・加工品、例えば鶏肉自体は、食品組成物には該当しない。
食品組成物は、保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品および機能性表示食品)、健康食品、サプリメント、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、介護食などとして製造することができる。食品組成物の形態の例としては、飲料、菓子、食肉加工品、魚介加工品、野菜加工品、惣菜、調味料組成物、食品添加物を挙げることができる。
(医薬組成物)
医薬組成物は、エクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドまたは神経細胞活性化剤としてのエクソソーム(それぞれ、通常は医薬品としての水準を満たす精製物)と、医薬品として許容される種々の添加剤等やその他の成分とを、所定の配合比で混合するなど、公知の技術を用いて製造することができる。
エクソソーム調節剤を含有する医薬組成物の形態(剤型)の例としては、経口投与用である、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液状製剤(エリキシル剤、リモナーデ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、ドリンク剤を含む。)、ゲル状製剤などが挙げられる。
一方、神経細胞活性化剤を含有する医薬組成物の形態(剤型)の例としては、非経口投与用である、注射剤、点滴剤、座剤などが挙げられる。
食品組成物および医薬組成物の製造工程は、特に有効成分としてのイミダゾールジペプチドまたはエクソソームの溶解性、安定性などを考慮した、適切な条件下で実施することが適切である。イミダゾールジペプチドは、前述したような方法によりあらかじめ調製したもの、例えば鶏肉等の抽出物として得られたものを用いればよい。エクソソームも、前述したような方法によりあらかじめ調製したもの、例えば培養した腸管上皮細胞が分泌したものの精製物を用いればよい。
食品組成物または医薬組成物に配合することのできる添加剤としては、例えば、賦形剤、酸化防止剤(抗酸化剤)、香料、調味料、甘味料、着色料、増粘安定剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料等、酵素、光沢剤、酸味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、結合剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、凝固剤などが挙げられる。
食品組成物または医薬組成物に配合することのできるその他の成分としては、本発明のエクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドまたは神経細胞活性化剤としてのエクソソーム以外の機能性成分、例えば、分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)やオルニチンなどのアミノ酸、不飽和脂肪酸(EPA、DHA等)、ビタミン、微量金属、グルコサミン、コンドロイチンなどが挙げられる。
食品組成物の一食分または一日あたりの有効成分量、および医薬組成物の一投与または一日あたりの有効成分量は、摂取または投与対象の年齢、体重、性別や、適用される疾患または状態などに応じて、また非臨床的または臨床的な試験結果等に基づいて、適宜設定することができる。食品組成物または医薬組成物の摂取または投与の期間も適宜設定することができるが、特定の疾患の予防等のためであれば、長期間に亘って繰り返し、また日常的に、摂取または投与することが好ましいであろう。
本発明の食品組成物または経口投与用の医薬組成物が含有する有効成分、すなわちエクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドの、摂取量または投与量は、例えば、200 mg/dayとすることができ、400 mg/dayとすることが好ましく、500 mg/day以上とすることがより好ましく、750 mg/day以上とすることがさらに好ましい。また、1,000 mg/day以上としてもよく、2,000 mg/day以上としてもよく、5,000 mg/day以上としてもよく、7,500 mg/day以上としてもよい。いずれの場合であっても、上記摂取量または投与量は、50,000 mg/day以下とすることができ、30,000 mg/day以下とすることが好ましく、20,000 mg/day以下とすることがよりに好ましく、10,000 mg/day以下とすることがさらに好ましい。有効成分は、上記の一日当たりの量を一度に摂取または投与してもよいし、複数回に分けて摂取または投与してもよい。
本発明の食品組成物または経口投与用の医薬組成物に対する、有効成分として用いられるイミダゾールジペプチドの含有量または含有率は、上述したような一食分または一投与あたりの有効成分量や、食品組成物または医薬組成物の形態などを考慮して、さらに製造し易さや用い易さなども考慮して、適宜設定すればよい。上記含有量(食品組成物または医薬組成物100gあたりの有効成分の質量)は、例えば、1,000 mg/100 g以上とすることができ、1,500 mg/100 g以上とすることが好ましく、2,000 mg/100 g以上とすることがより好ましく、2,500 mg/100 g以上とすることがより好ましく、3,000 mg/100 g以上とすることがより好ましく、3,500 mg/100 g以上とすることがさらに好ましい。いずれの場合であっても、上記含有量は、50,000 mg/100 g以下とすることができ、40,000 mg/100 g以下とすることが好ましく、30,000mg/100 g以下とすることがより好ましく、20,000 mg/100 g以下とすることがさらに好ましい。上記含有率(食品組成物または医薬組成物の全質量に対する有効成分の質量の比率)は、例えば0.1〜99.9%、1〜95%、10〜90%、51〜90%などの範囲で調整することができる。また、有効成分の中でも特にカルノシンの含有率を、例えば21%以上などの範囲で調整することもできる。
また、医薬組成物の有効成分として、神経細胞活性化剤としてのエクソソームを用いる場合も、その含有量または含有率は、前述したエクソソーム調節剤の投与量(それによって腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームの神経細胞活性化作用の強さ)を参考にしながら、適切に設定することが可能である。
本発明の食品組成物または医薬組成物の用途等、あるいは本発明のエクソソーム調節剤または神経細胞活性化剤の用途等は、直接的にまたは間接的に表示することができる。直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、展示会、看板、掲示板、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール等の場所または手段による、広告・宣伝活動を含む。本発明の食品組成物を機能性表示食品として製造する場合は、例えば「記憶力の維持」、「記憶低下を抑制」のように、有効成分として含まれる本発明のエクソソーム調節剤または神経細胞活性化剤の作用効果に基づく食品の機能性を表示することができる。あるいは、「脳腸相関機能の増強」のように、有効成分として含まれる本発明のエクソソーム調節剤が腸管上皮細胞(腸)に作用し、さらに腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームを介して間接的に神経細胞(脳)に作用するという関連性に基づく食品の機能性を表示することができる。
上述した食品組成物または医薬組成物におけるエクソソーム調節剤としてのイミダゾールジペプチドの利用に関する記載は、適宜、miRNA調節剤としてのイミダゾールジペプチドの利用に関する記載に読み替えることができる。
本発明は、別の側面において、イミダゾールジペプチドを腸管上皮細胞に作用させることにより、神経細胞活性化作用を有するエクソソームを分泌させ、そのようなエクソソームを血流等を介して脳組織の神経細胞に送達することにより、あるいはイミダゾールジペプチドで処理した腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームを注射剤その他の非経口投与の経路で脳組織の神経細胞に送達することにより、特定の疾患または症状を予防、治療、または改善する方法を提供する。このようなエクソソームを介した脳腸相関はこれまで報告されておらず、特定の疾患または症状を予防、治療、または改善するためのメカニズムとして新規なものである。上記の方法については、本明細書において、イミダゾールジペプチドの用途として、腸管上皮細胞にin vivoで作用させる場合や、医薬組成物の有効成分として利用する場合に関連する記載事項を、同様に適用することができる。
本明細書の記載、特に用途に関する記載や実施例より、例えば、本発明の実施形態の一つとして、培養された腸管上皮細胞を対象とするin vitroの環境下で、または実験動物の体内にある腸管上皮細胞を対象とするin vivoの環境下で、腸管上皮細胞をイミダゾールジペプチドで処理する工程、および前記処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームを回収する工程を含む方法が挙げられることが理解される。この方法はさらに、前記回収されたエクソソーム内のmiRNAと、必要に応じて前記処理された腸管上皮細胞で発現したmiRNA、mRNAまたはタンパク質の一つ以上とを、定量する工程を含むことができる。
本発明のさらなる実施形態の一つとして、上記の方法においてさらに、培養された神経細胞を対象とするin vitroの環境下で、または実験動物の体内にある神経細胞を対象とするin vivoの環境下で、神経細胞を前記回収されたエクソソームまたはそこに含まれるmiRNAもしくはそのミミックで処理する工程を含む方法が挙げられることも理解される。この方法はさらに、前記処理された神経細胞内のmiRNA、mRNAまたはタンパク質の一つ以上を定量する工程を含むことができる。
上記の方法に係る実施形態においては、イミダゾールジペプチドとして、本明細書に記載されたエクソソーム調節剤の有効成分として含有されるものを用いることができる。
[1]カルノシン溶液の調製
本発明におけるカルノシンは全てL-カルノシン(和光純薬工業(株) Cat. 032-11031)であり、DPBS(Dulbecco's phophate buffered saline)(サーモフィッシャーサイエンティフィック Cat. 14190-144)に1Mとなるように溶液を調製した後、それぞれの終濃度に合わせて希釈して使用した。
[2]カルノシン処理に伴うCaco-2細胞分泌エクソソームの網羅的解析
[2−1]ExoQuick-TCを用いたエクソソームの精製工程
Caco-2細胞を1×106 cells/dishになるように、100 mm dish に播種した。24時間後、PBS(コントロール)、カルノシン1 mMまたはカルノシン10 mMを添加した。その24時間後、培養上清10 mLを回収し、3000 g で15分間遠心分離し、上清中の細胞を取り除いた。滅菌した15 mLチューブに上清を移し、2 mLの「ExoQuick-TC」(SBI社、エクソソーム濃縮試薬)を加え、転倒混和によりしっかりと混合させた。4℃下で一晩静置させたのち、1500 g で30分間遠心分離した。上清を除去し、残りの液を1500 gで5分間遠心分離した。このとき、チューブの底に白っぽいペレットを確認した。1×RIPA bufferを加えてこのペレットを懸濁した。15秒間ボルテックスしたのち、室温で15分間静置し、完全にエクソソームを溶解させた。
[2−2]miRNAのマイクロアレイおよびウエスタンブロッティング工程
エクソソームの抽出は、ウェスタンブロッティングにより、エクソソームのマーカータンパク質(CD9, CD81およびCD63)を検出することで確認した。確認後、miRNA解析用のマイクロアレイ(アジレント社, GeneChip miRNA4.0 Array)を用いて、PBS(コントロール)、カルノシン1 mM、またはカルノシン10 mMで処理されたCaco-2細胞から放出された、エクソソームに内包されているmiRNAの解析を行った。解析は、セルイノベーター社に依頼し行った。
カルノシン1 mM処理、カルノシン10 mM処理それぞれのエクソソームに内包されているmiRNAの含有量を、PBS処理(コントロール)のものと比較して、fold change(linear)が1.3以上で増加または減少しているもの(t検定、p<0.05)を調べた。結果を図3および図4に示す。カルノシン1 mM処理のエクソソームは、hsa-miR-6798-5p, hsa-miR-92-5p, hsa-miR-8075, hsa-6732-5p, hsa-miR-6794-5p, hsa-miR-3141, hsa-miR-6771-5p, hsa-miR-6775-5p, hsa-miR-4507, hsa-miR-1227-5p, hsa-miR-6769b-5p, hsa-miR-320b, hsa-miR-3196, hsa-miR-4674の含有量が増加、hsa-miR-619-5p, hsa-miR-3162-5p, hsa-miR-92a-3p, hsa-miR-103a-3p, hsa-miR-4532, hsa-miR-106a-5p, hsa-miR-4485, hsa-miR-20a-5p, hsa-miR-194-5p, hsa-miR-24-3p, hsa-miR-26a-5p, hsa-miR-3613-3p, hsa-miR-4668-5pの含有量が減少していた。一方、カルノシン10 mM処理のエクソソームは、hsa-miR-6769b-5p, hsa-miR-6775-5p, hsa-miR-4487, hsa-miR-3162-5p, hsa-miR-6752-5p, hsa-miR-4281, hsa-miR-6821-5p, hsa-miR-6779-5p, hsa-miR-6732-5p, hsa-miR-1207-5p, hsa-miR-106a-5p, hsa-miR-6771-5p, hsa-miR-1343-5p, hsa-miR-4741の含有量が増加、hsa-miR-103a-3p, hsa-miR-937-5p, hsa-miR-619-5p, hsa-miR-194-5p, hsa-miR-320cの含有量が減少していた。カルノシンの処理濃度によって含有量が変動するmiRNAは同一ではなかった。どちらの濃度でも含有量が変動するmiRNAは、hsa-miR-194-5p, hsa-miR-619-5p, hsa-miR-103a-3p, hsa-miR-6771-5p, hsa-miR-106a-5p, hsa-miR-6732-5p, hsa-miR-3162-5p, hsa-miR-6775-5p, hsa-miR-6769b-5pの9のmiRNAであるが(下記表参照)、一方で含有量が増加し、他方で含有量が減少するものも含まれていた(hsa-miR-106a-5pおよびhsa-miR-3162-5p)。
[3]hsa-miR-6732-5pの発現定量解析
上記[2]のマイクロアレイを用いた解析において、カルノシン処理(1 mMおよび10 mM)によるエクソソーム内の発現量の増加が認められたmiRNAのうちの一つ、hsa-miR-6732-5pについて、以下の手順で、Caco-2細胞内およびエクソソーム内の発現量を定量リアルタイムPCRによって測定した。
[3−1]Caco-2細胞内の発現定量解析
Caco-2細胞を3×105 cells/dish になるように60 mm dishに播種した。24時間後、PBS(コントロール)、カルノシン1 mMまたはカルノシン10 mMを添加した。その24時間後、Caco-2細胞内のTotal RNAを、ISOSPIN Cell & Tissue RNA(NIPPON GENE社)を用いて、規定の手順に従い抽出した。抽出したTotal RNA溶液はNanoDrop2000(Thermo Fisher Scientic 社)により、260 nmでの吸光値をもとにRNA濃度を測定した。
2 μgのTotal RNAにPoly A付加処理を行い(Poly A polymerase; abm社)、miRNA cDNA Synthesis Kit(abm社)を用いて、規定の手順に従いmiRNA部位のcDNA合成を行い、後に行う定量リアルタイムPCRの鋳型として用いた。
定量リアルタイムPCRでは、ForwardとReverseのそれぞれのプライマーを終濃度300 nM, テンプレートcDNAを500 ng以下、EvaGreen miRNA qPCR Master Mix(abm社)を10 μl、滅菌水を加えて96 well PCRプレートの1ウェルあたりの反応液とした。内部標準コントロールにはSNORD44のプライマーを用い、ターゲットmiRNAとともにプライマーはabm社にて委託合成した。PCRのプログラムは、 95℃, 10秒; 63℃, 15秒; 72℃, 12秒の3 stepで、40サイクル行った。サンプルは3連で解析した。各プライマーはabm社に委託合成したものを用いた。また、PCR後の数値解析にはΔΔCt法を用い、ターゲットmiRNAの発現量を内部標準miRNAの発現量で割ることにより算出した。
結果を図5に示す。Caco-2細胞内のhsa-miR-6732-5pは、PBS処理(コントロール)よりもカルノシン処理(1 mMまたは10 mM)の方が発現量が有意に高かった。また、1 mMカルノシン処理よりも10 mMカルノシン処理の方が発現量が有意に高かった。
[3−2]エクソソーム内の発現定量解析
[2−1]で記載したとおりにCaco-2細胞由来のエクソソームを抽出し、SeraMir Exosome RNA Amplification Kit(SBI社)を用いて、規定の手順のとおりエクソソーム内RNAを抽出した。その後はCaco-2細胞内の発現定量解析と同様の手順で実験を進めた。
結果を図6に示す。エクソソーム内のhsa-miR-6732-5pも、PBS処理(コントロール)よりもカルノシン処理(10 mM)の方が含有量が高い傾向が示唆された。
[4]hsa-miR-6769-5pの発現定量解析
上記[2]のマイクロアレイを用いた解析において、カルノシン処理(1 mMおよび10 mM)によるエクソソーム内の発現量の増加が認められたmiRNAのうちの一つ、hsa-miR-6769-5pについて、以下の手順で、Caco-2細胞内およびエクソソーム内の発現量を定量リアルタイムPCRによって測定した。
[4−1]Caco-2細胞内の発現定量解析
[3−1]と同様の手順で、Caco-2細胞の培地にカルノシン10 mMを添加し、24時間培養後、Caco-2細胞内のhsa-miR-6769-5pの発現量を測定した。結果を図7に示す。PBS処理(コントロール)よりもカルノシン処理(10 mM)の方が発現量が有意に高かった。
[4−2]エクソソーム内の発現定量解析
[3−2]と同様の手順で、カルノシン10 mMを添加した培地で培養したCaco-2細胞由来のエクソソームを抽出し、そのエクソソーム内のhsa-miR-6769-5pの含有量を測定した。結果を図8に示す。エクソソーム内のhsa-miR-6769-5pも、PBS処理(コントロール)よりもカルノシン処理(10 mM)の方が含有量が有意に高かった。
[5]神経細胞に対するCaco-2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その1−
[5−1]神経細胞へ添加するCaco-2細胞分泌エクソソームの精製
神経細胞へ添加するCaco-2細胞分泌エクソソームは、最も高純度にエクソソームを精製することのできるMagCapture Exosome Isolation PS Kit(Wako社)を用いて精製した。
まず、ExoQuick-TCを用いてのエクソソーム精製の際と同様に、Caco-2細胞を1×106 cells/dishになるように100 mm dishに播種した。24時間後にPBS(コントロール)、カルノシン1 mM、またはカルノシン10 mMを添加した。その24時間後、細胞培養液10 mLを15 mLチューブに回収し、300 gで5分間遠心分離を行うことにより培養上清中の細胞の分離を行った。次に1200 gで20分間遠心分離し、細胞断片の分離を行った。さらに10000 gで30分間遠心分離を行うことで、エクソソームより大きい細胞外小胞の分離を行った。
細胞や大きいサイズの細胞外小胞を取り除いた培養上清は、限外濾過を行うことにより10倍濃縮した。その後、MagCapture Exosome Isolation PS Kitの規定の手順に従い、エクソソームを精製した。
[5−2]神経細胞の培養およびCaco-2細胞分泌エクソソームの添加−(1)BDNF様効果
神経モデル細胞であるSH-SY5Y細胞(ヒト神経芽細胞腫)を用いた。6×103 cells/wellになるように96 well black plateに播種した。1日後、レチノイン酸を終濃度10 μMで処理することで細胞の分化誘導を行った。5日後、上記のとおり精製したエクソソームを1μLずつ添加した。ポジティブコントロールとして、BDNFを50 ng/mlで処理した。6日間培養したのち、免疫染色の工程に進んだ。4%パラホルムアルデヒドで15分間細胞固定処理を行い、PBSで3回洗浄したのち4℃で1時間ブロッキングを行った。その後、1/200に希釈した1次抗体β3-Tubulin(Cell Signaling Technology)を一晩反応させた。1次抗体反応終了後、PBSで3回洗浄し、1/1000に希釈した蛍光標識二次抗体Alexa 555(Molecular Probe)を1時間半反応させ、再度PBSで3回洗浄した。その後DMEM培地で1/500希釈したHoechst33342(同仁化学研究所)を15分間処理し細胞核を染色し、PBSと入れ替えた後、共焦点レーザー顕微鏡で神経突起伸長の様子を観察および写真撮影を行った。
撮影画像を図9に示す。カルノシン処理(10 mM)を伴うCaco-2細胞が分泌するエクソソームが、BDNFと同様の、神経突起を伸長させる効果を有することが示唆された。
[5−3]神経細胞の培養およびCaco-2細胞分泌エクソソームの添加−(2)レチノイン酸様効果
[5−2]と同様、SH-SY5Y細胞を6×103 cells/wellになるように96 well plateに播種した。1日後、上記のとおり精製したエクソソームを10 μLずつ添加した。ポジティブコントロールとして、レチノイン酸を終濃度10 μMで処理した。5日間培養したのち、免疫染色の工程に進んだ。免疫染色は[5−2]と同様に行ったが、一次抗体には1/200に希釈したPan Neuronal Marker(Merck Millipore)を用いた。その後の処理は[5−2]と同様に行った。
撮影画像を図10に示す。カルノシン処理(1mM, 10mM)を伴うCaco-2細胞が分泌するエクソソームが、レチノイン酸と同様の、神経細胞への分化誘導の効果を有することが示唆された。
[6]神経細胞に対するCaco-2細胞分泌エクソソームの機能性解析−その2−
[5−1]と同様の手順で、Caco-2細胞にカルノシン10 mM(Exo-Car)またはコントロールとしてPBS(Exo-ctrl)を添加し、24時間後に培養上清を回収し、それらの中に含まれるエクソソームを単離・精製した(ホスファチジルセリンアフィニティ法)。回収されたエクソソームは、Exo-Car、Exo-ctrlどちらも、エクソソームマーカーとして知られているCD9, CD63およびCD81を発現していることを確認した(図示せず)。またそれらのエクソソームの直径はおよそ100 nmであることを確認した(図示せず)。
精製したエクソソーム(Exo-Car、Exo-ctrl)を蛍光標識二次抗体で蛍光(赤色)標識した後、[5−2]と同様の手順でSH-SY5Y細胞に添加し、12時間後に蛍光顕微鏡で観察した。どちらのエクソソームも、SH-SY5Y細胞に取り込まれたことを確認した(図示せず)。
精製したエクソソーム(Exo-Car、Exo-ctrl)を、[5−2]と同様の手順でSH-SY5Y細胞に添加し、24時間培養後、免疫染色法により神経突起を染色し、蛍光顕微鏡で観察した。[5−2]と同様、カルノシン処理をしたCaco-2細胞由来エクソソーム(Exo-Car)を添加した場合、コントロールとしてレチノイン酸を添加した場合と同様、SH-SY5Y細胞の神経突起が伸長した様子を確認した(図示せず)。また、IN Cell Analyzer 1000(GEヘルスケア・ジャパン)により、神経突起の長さを定量した。画像の取り込みは、プロトコール「Aging IF Alexa555」に基づき行い、画像データの数値化は、IN Cell Analyzer 1000 Developerソフトウェアに付属の解析用プロトコール「Neural dendrite」に則り行った。結果を図11に示す。Exo-Carの添加によるSH-SY5Y細胞の神経突起の伸長が定量的にも裏付けられた。
さらに、精製したエクソソーム(Exo-Car、Exo-ctrl)を、[5−2]と同様の手順でSH-SY5Y細胞に添加し、24時間培養後、定量RT-PCRでNestin、VimentinおよびNEFMの発現量を測定した。以下に詳細を示す。SH-SY5Y細胞からのTotal RNAの抽出は、High Pure RNA Isolation Kit (Roche, Indianapolis, IN, USA)を用い、プロトコールに則り行った。その後のcDNAの合成は、SuperScript IV Reverse Transcriptase (Thermo Fisher Scientific, Waltahm, MA, USA)を用い、Total RNA 1.0 μg及びOligo(dT)20プライマーを用いて、プロトコールに則り行った。合成したcDNAを用いた定量RT-PCRには、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (Toyobo)を用い、Thermal Cycler Dice Real Time PCR Systemにてプロトコールに則り行った。相対遺伝子発現量は、内部標準GAPDHの発現値で除して求めた。なおPCRのプライマーには、Nestin (5'-GAGAGGGAGGACAAAGTCCC-3', 5'-TCCCTCAGAGACTAGCGCAT-3')、Vimentin (5'-GTTTCCAAGCCTGACCTCAC-3', 5'-GCTTCAACGGCAAAGTTCTC-3')、NEFM (5'-AGACATCCACCGGCTCAAGG-3', 5'-CGACGCCTCCTCGATGTCTT-3')、GAPDH (5'-CGTGGAAGGACTCATGAC-3', 5'-CAATTCGTTGTCATACCAG-3')を用いた。結果を図12に示す。
同様に定量RT-PCRで、has-miR-6769b-5pの標的遺伝子であるATXN1およびSLITRK5の発現量も測定した。結果を図13に示す。Exo-Carの添加により、SH-SY5Y細胞において、ATXN1およびSLITRK5の発現が低下し、Nestin、VimentinおよびNEFMの発現が増加することによって、神経突起の伸長がもたらされたと考えられる。
同様に定量RT-PCRで、SH-SY5Y細胞内におけるhas-miR-6769b-5pの発現量も測定した。結果を図14に示す。Exo-Carの添加により、SH-SY5Y細胞内においてもhas-miR-6769b-5pの発現量が増加することが示された。
[4]において、カルノシン処理によりCaco-2細胞から分泌されるエクソソーム中の、hsa-miR-6769-5pの含有量は増加することが明らかになったが、エクソソームの代わりにhsa-miR-6769-5pミミック(UGGUGGGUGGGGAGGAGAAGUGC, MSY0027620, Qiagen)用いて、[5−2]と同様の手順でSH-SY5Y細胞に添加し、免疫染色法により神経突起を染色し、蛍光顕微鏡での観察と、IN Cell Analyzer 1000(GEヘルスケア・ジャパン)による神経突起の長さの定量を行った。蛍光顕微鏡による撮影画像を図15に、神経突起の長さの定量結果を図16に、それぞれ示す。エクソソームではなくhsa-miR-6769-5pミミックによる直接的な神経細胞の処理によっても、神経突起を伸長させることができることが示された。
以上の実施例の結果から、特に[4]と[6]の関連性から、カルノシン(本発明におけるエクソソーム調節剤)で処理された腸管上皮細胞において、一または複数の特定のmiRNAの発現が増加または減少し(例えば腸管上皮細胞におけるhas-miR-6769b-5pの発現量が増加し)、腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームにおける当該miRNAの含有量も同様に増加または減少し(例えばエクソソーム内のhas-miR-6769b-5pの含有量が増加し)、そのエクソソームを取り込んだ神経細胞においても同様に当該miRNAの発現量が増加または減少し(例えば神経細胞におけるhas-miR-6769b-5pの発現量が増加し)、それによって当該miRNAの標的遺伝子およびそれに関連する遺伝子の発現量が増加または減少する(例えば神経細胞のけるATXN1およびSLITRK5の発現量が低下する)結果、全体としては、神経突起が伸長するなど、神経細胞が活性化される、という関連性が存在することが推測された。したがって、カルノシン(本発明におけるエクソソーム調節剤)を摂取し、腸管上皮細胞が吸収することによって、その腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームが体内を移動して神経細胞まで運ばれ、そのエクソソームを受け取った神経細胞が活性化される、という脳腸相関が存在するものと推測された。

Claims (11)

  1. カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも1種のイミダゾールジペプチドを含有する、神経細胞活性化作用を有するエクソソームを腸管上皮細胞から分泌させるための剤。
  2. カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選択される少なくとも1種のイミダゾールジペプチドで処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームを含有する、神経細胞を活性化するための剤。
  3. 前記エクソソーム内のmiRNAの含有量が、通常のエクソソーム内のmiRNAの含有量を基準としたときに変動しており、
    前記miRNAは、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−24−3p、hsa−miR−26a−5p、hsa−miR−92−5p、hsa−miR−92a−3p、hsa−miR−103a−3p、hsa−miR−106a−5p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−320b、hsa−miR−320c、hsa−miR−619−5p、hsa−miR−937−5p、hsa−miR−1207−5p、hsa−miR−1227−5p、hsa−miR−1343−5p、hsa−miR−3141、hsa−miR−3162−5p、hsa−miR−3196、hsa−miR−3613−3p、hsa−miR−4281、hsa−miR−4485、hsa−miR−4487、hsa−miR−4507、hsa−miR−4532、hsa−miR−4668−5p、hsa−miR−4674、hsa−miR−4741、hsa−6732−5p、hsa−6752−5p、hsa−miR−6769b−5p、hsa−miR−6771−5p、hsa−miR−6775−5p、hsa−miR−6779−5p、hsa−miR−6794−5p、hsa−miR−6798−5p、hsa−miR−6821−5pおよびhsa−miR−8075からなる群より選択される少なくとも1種である、
    請求項1または2に記載の剤。
  4. 前記エクソソーム内のhsa−miR−6769−5pの含有量が、通常のエクソソーム内のmiRNAの含有量を基準としたときに増加している、請求項3に記載の剤。
  5. 前記イミダゾールジペプチドが鶏肉または鶏肉抽出物に含まれた状態のカルノシンおよび/またはアンセリンを含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の剤。
  6. ヒトまたはヒト以外の哺乳動物に、有効量の、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイミダゾールジペプチドを含有する食品組成物を摂取させることにより、前記ヒトまたはヒト以外の哺乳動物の体内の腸管上皮細胞から神経細胞活性化作用を有するエクソソームを分泌させる工程を含む、in vivoでの腸管上皮細胞からのエクソソーム分泌方法(但し、ヒトに対する医療的行為を除く。)。
  7. ヒトまたはヒト以外の哺乳動物に、有効量の、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイミダゾールジペプチドを含有する食品組成物を摂取させる工程を含む、in vivoでの神経細胞活性化方法(但し、ヒトに対する医療的行為を除く。)。
  8. 腸管上皮細胞を対象とするin vitroの環境下で、有効量の、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイミダゾールジペプチドを細胞培養液中に添加することにより、腸管上皮細胞から神経細胞活性化作用を有するエクソソームを分泌させる工程含む、in vitroでの腸管上皮細胞からのエクソソーム分泌方法。
  9. さらに、前記処理された腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームを回収する工程と、前記回収されたエクソソーム内のmiRNA、および必要に応じて前記処理された腸管上皮細胞で発現したmiRNA、mRNAまたはタンパク質の一つ以上定量する工程を含む、請求項に記載の方法。
  10. 有効量の、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイミダゾールジペプチドを添加した細胞培養液中で腸管上皮細胞を培養する工程と、
    前記細胞培養液の上清に含まれる前記腸管上皮細胞から分泌されるエクソソームまたはそこに含まれるmiRNAを神経細胞の細胞培養液中に添加し、神経細胞を培養する工程
    を含む、in vitroでの神経細胞活性化方法。
  11. さらに、前記処理された神経細胞内のmiRNA、mRNAまたはタンパク質の一つ以上を定量する工程を含む、請求項10に記載の方法。
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