JP2019104745A - イミダゾールジペプチドを含有する、グリア細胞における神経栄養因子等の遺伝子の発現誘導剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】イミダゾールジペプチドが有する作用を利用した、新たな用途を有する剤を提供する。【解決手段】イミダゾールジペプチドを含有し、BDNF、NGF、NTF3、NTF4、CSF3およびCYR61からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の、グリア細胞における発現を誘導するための剤。【選択図】なし

Description

本発明は、イミダゾールジペプチドを含有する剤ならびにその用途、例えば当該剤を有効成分として含有する食品組成物や医薬組成物に関する。より詳しくは、本発明は、イミダゾールジペプチドを含有し、特定の細胞における特定の遺伝子の発現を調節する作用を有する剤ならびにその用途、例えば当該剤による特定の遺伝子の発現の調節が予防、治療などに有効な疾患や症状を対象とする食品組成物や医薬組成物に関する。
イミダゾールジペプチドは、イミダゾール基を有するアミノ酸と他のアミノ酸とからなるジペプチド(2個のアミノ酸からなるペプチド)である。代表的なイミダゾールジペプチドとしては、カルノシン(ヒスチジンとβ-アラニンとからなるジペプチド)、アンセリン(メチル化ヒスチジンとβ-アラニンとからなるジペプチド)が挙げられる。
近年、イミダゾールジペプチドが有する様々な生理活性作用が注目され、研究開発が進められている。例えば、カルノシンやアンセリンについては、皮膚代謝促進作用(特許文献1)、自律神経調節作用(特許文献2)、ストレス緩和作用(特許文献3)、学習機能向上および抗不安作用(特許文献4)などについて、比較的早くから検討されていた。
特許文献5には、イミダゾールジペプチドおよびその代謝産物が、神経心理機能(例えばアルツハイマー病または加齢に関連したもの、あるいは鬱)の改善作用、抗炎症作用、特定のサイトカインの血中濃度の制御作用、血糖値ないし血中のインスリン濃度の上昇抑制作用または低下作用、特定のトランスポーター遺伝子、ケモカイン遺伝子、老化関連遺伝子、神経系遺伝子、ミトコンドリア系遺伝子または抗老化遺伝子の発現を変動させる作用などを有することが記載されている。この文献ではさらに、イミダゾールジペプチドおよびその代謝産物を、上記のような作用を目的とする剤として利用し、その剤を有効成分として含有する、糖尿病や、アルツハイマー病ないし脳の機能老化および/または認知症などを治療ないし処置するための、医薬組成物や栄養組成物(いわゆる健康食品、サプリメント、保健機能食品などを含む。)が提案されている。
カルノシン、アンセリン等のイミダゾールジペプチドは、鶏肉などの食品に豊富に含まれている。一般的な認知症の治療方法として、ドネペジル塩酸塩(商品名「アリセプト」(登録商標))を用いて初期の認知症を遅らせることが行われており、また抗精神薬などを用いて幻覚や妄想等の精神病な症状や不安、不眠、鬱病等の症状を和らげることも行われている。しかしながら、このような薬物は症状の進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることはできるが、完治することはできない。日常的に摂取されるイミダゾールジペプチドのような食品成分により、認知症や鬱病などを予防する効果が発揮されることが期待されている。
特開2000−201649号公報 国際公開2002/076455号 特開2007−70316号公報 特開2000−116987号公報 特開2015−193582号公報
本発明は、イミダゾールジペプチドが有する作用を利用した、新たな用途を有する剤を提供することを課題とする。
代表的なイミダゾールジペプチドの一つであるカルノシンは、ヒトなどの哺乳類では脳や筋肉に比較的高い濃度で存在することが知られていたため、これまでは主に神経細胞や筋肉細胞に対する作用が研究の対象となっていた。しかしながら本発明者らは、意外なことに、カルノシンが神経細胞ではなくグリア細胞に対して、特定の神経栄養因子およびそれに類する機能を有する因子の遺伝子の発現を誘導(促進)する作用を有することを初めて見出した。
神経細胞は、神経伝達物質を合成し分泌することで、情報処理や興奮の伝達を行う細胞である。一方、グリア細胞は、脳を空間的に支えたり、神経細胞に栄養を与えたりしている細胞であって、脳細胞の9割を占める。脳科学の分野では近年、グリア細胞においても活動電位が確認されたことから、グリア細胞が脳内において重要な役割を持っていることが明らかになっている。今後は、神経細胞だけでなくグリア細胞の機能性を強化することも、脳を活性化する上で重要であると考えられる。
また、神経栄養因子は、神経細胞の生存、発生、機能に必要とされる因子(サイトカイン)であり、神経栄養因子ファミリーに属するもの、グリア細胞株由来神経栄養因子ファミリーに属するもの、およびそれら以外のものが存在する。このうち、神経栄養因子ファミリーに属するサイトカインとしては、NGF(Nerve growth factor:神経成長因子。NT-1とも呼ばれる。)、BDNF(Brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子。NT-2とも呼ばれる。)、NTF3(Neurotrophin-3。NT-3とも呼ばれる。)およびNTF4(Neurotrophin-4。NT-4とも呼ばれる。Neurotrophin-4/5またはNT-4/5と表記されることもある。)の4種類が知られている。本発明者らが培養されたグリア細胞にカルノシンを曝露したところ、神経栄養因子ファミリーに属する神経栄養因子の発現が誘導され、細胞からの分泌量が増強された。これに対して、神経細胞にカルノシンを曝露しても、それらの神経栄養因子の発現は誘導されなかった。一方、グリア細胞株由来神経栄養因子ファミリーに属するサイトカインとしては、GDNF(Glial-cell Derived Neurotrophil Factor)、ニュルツリン、アルテミン、パーセフィンが知られているが、例えばGDNFの発現量は、グリア細胞、神経細胞いずれにおいても、カルノシンによっては増加しなかった。
さらに、培養されたグリア細胞にカルノシンを曝露することにより、BDNF等の神経栄養因子の発現のみならず、CSF3やCYR61といった、神経栄養因子と同様に神経細胞の成長などに関与する因子の発現も誘導された。CSF3は、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)とも呼ばれ、顆粒球産出の促進や好中球の機能を高める作用を有することが知られているが、例えば損傷した脊髄などにおける、神経細胞のアポトーシスへの拮抗作用なども有することが報告されている(Pitzer et al. (2010) The hematopoietic factor granulocyte-colony stmulating factor improves outcome in experimental spinal cord injury. Journal of Neurochemistry. 113(4), 930-942)。CYR61(Cysteine-rich angiogenic inducer 61)は、血管新生因子として知られているが、神経細胞の樹状突起の成長を制御する機能も有することが近年報告されている(Malik et al. (2013) Cyr61, a matricellular protein, is needed for dendritic arborization of hippocampal neurons. J. Biol. Chem. 288(12), 8544-8559)。
神経栄養因子は、認知症や鬱病の患者の脳内において減少傾向にあることが明らかになっている。カルノシンの作用により、グリア細胞におけるBDNF等の神経栄養因子またはこれに類する機能を有する因子の発現が誘導され、細胞からの分泌が増強されれば、神経細胞の働きが活性化されることが予想され、認知症や鬱病の予防などにおける効果が期待できる。
このようなカルノシンのグリア細胞に対する作用は、特許文献5などの先行技術文献には記載も示唆もされていない。特許文献5には、前述したように、鶏肉等に由来するカルノシン等のイミダゾールジペプチドが認知症や鬱病の予防効果等を有することは記載されているが、そのような予防効果は、イミダゾールジペプチドについて知られている筋pH低下の緩衝作用、活性酸素を抑制する抗酸化作用、抗糖化作用などでは説明することができず、メカニズムは殆ど不明であった。カルノシンがグリア細胞において神経栄養因子等の発現を誘導する作用は、認知症や鬱病の予防効果等のメカニズムを合理的に説明することができるとともに、より本質的で効率的な予防効果等を追究するための手段となり得る。
本発明者らは、上記のような知見に基づいて本発明をするに至った。すなわち、本発明には以下の事項が包含される。
[1]
イミダゾールジペプチドを含有し、BDNF、NGF、NTF3、NTF4、CSF3およびCYR61からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の、グリア細胞における発現を誘導するための剤。
[2]
前記イミダゾールジペプチドとして鶏肉由来のものを含有する、項1に記載の剤。
[3]
前記イミダゾールジペプチドとしてカルノシンを含有する、項1または2に記載の剤。
本発明の発現誘導剤は、グリア細胞における特定の神経栄養因子等の遺伝子の発現を誘導する作用に関して、研究開発のためにin vitroの環境下で試験的に利用することができるとともに、食品組成物や医薬組成物の有効成分として配合して、ヒトまたはその他の動物に摂取させるまたは投与することにより、認知症や鬱病などを予防、治療または症状を改善するなど、in vivoの環境下で利用することもできる。
図1は、実施例の[2]グリア細胞のカルノシン処理および遺伝子発現解析において、無処理(control)およびカルノシン処理(10mM)それぞれの、BDNFの遺伝子発現量(β-アクチンの遺伝子発現量を1としたときの相対値、以下の図面においても同様)を測定した結果を表すグラフである。 図2は、実施例の[2]グリア細胞のカルノシン処理および遺伝子発現解析において、無処理(control)およびカルノシン処理(1mM, 10mM)それぞれの、GDNF、NGFおよびNTF4の遺伝子発現量を測定した結果を表すグラフである。 図3は、実施例の[2]グリア細胞のカルノシン処理および遺伝子発現解析において、無処理(control)およびカルノシン処理(10mM)それぞれの、BDNFの細胞から培養上清中への分泌量(pg/mL)を測定した結果を表すグラフである。 図4は、実施例の[3]神経細胞のカルノシン処理および遺伝子発現解析において、無処理(control)およびカルノシン処理(10mM)それぞれの、BDNFの遺伝子発現量を測定した結果を表すグラフである。 図5は、実施例の[3]神経細胞のカルノシン処理および遺伝子発現解析において、無処理(control)およびカルノシン処理(1mM, 10mM)それぞれの、GDNF、NGFおよびNTF4の遺伝子発現量を測定した結果を表すグラフである。 図6は、実施例の[5]神経突起の観察及び定量化における、ポジティブコントロール(BDNF 100ng/ml処理:グラフ「BDNF」)、カルノシン無処理(グラフ「培養上清」)、およびカルノシン処理(5mM:グラフ「Car.処理培養上清」)それぞれの、免疫染色後の蛍光顕微鏡による観察像(上)と、分光光度計で測定した(OD 562nm)神経突起の定量結果を表すグラフ(下)である。 図7は、実施例の[6]マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析において、グリア細胞のカルノシン処理による遺伝子発現量の増加が認められたBDNF、CSF3およびCYR6について、遺伝子発現量を測定した結果を表すグラフである。
本発明の剤は、イミダゾールジペプチドを含有し、BDNF、NGF、NTF3、NTF4、CSF3およびCYR61からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の、グリア細胞における発現を誘導するためのものである。このような剤を、本明細書において単に「本発明の発現誘導剤」と呼ぶことがある。換言すれば、本発明は、有効量のイミダゾールジペプチドでグリア細胞を処理することを含む、BDNF、NGF、NTF3、NTF4、CSF3およびCYR61からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を誘導する方法、を提供する。
(イミダゾールジペプチド)
イミダゾールジペプチドは、イミダゾール基を有するアミノ酸と他のアミノ酸とからなるジペプチドであって、下記の式Iまたは式IIで表すことができる。
式Iおよび式II中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、HまたはC1-6アルキルであり、XはHまたは-COR4であり、このときR4はH、C1-6アルキル、置換されていてもよいベンジルまたは-CH=C2Hである。
式Iにおいては、R1、R2は、いずれか一方がC1-6アルキルであり、他方がHであることが好ましい。式IIにおいては、R2、R3は、いずれか一方がC1-6アルキルであり、他方がHであることが好ましい。C1-6アルキルの好ましい例の一つは、メチルである。
-COR4であるXの具体例としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、アクリロイルが挙げられる。
式Iまたは式IIで表わされる化合物の製造方法等に関しては、特表2003-520221、特開2006-232686、特表2006-504701、特表2008-517911、特表2009-512459、特開2010-31004、特開2011-37891、特開2011-37892、特開2013-165728、特開2014-12735等を参考にすることができる。
代表的なイミダゾールジペプチドとして、カルノシン、アンセリン、バレニンおよびホモカルノシンが挙げられる。なお、これらのイミダゾールジペプチドは、いずれも水溶性である(例えばカルノシンの水に対する溶解度は、1g/3.1ml at 25℃)。
カルノシンはβ-アラニンとヒスチジンからなるジペプチドである。構成するヒスチジンの立体構造により、カルノシンにはL体とD体とが存在する。本発明およびその説明において、単に「カルノシン」というときは、特に記載した場合を除き、L-カルノシン、D-カルノシンまたはそれらの混合物を指すが、天然のカルノシンはL-カルノシンである。L-カルノシン(L-carnosine、IUPAC名:(2S)-2-[(3-Amino-1-oxopropyl)amino]-3-(3H-imidazol-4-yl)propanoic acid)の構造を以下に示す。
アンセリンは、β-アラニンと1-メチルヒスチジンとからなるジペプチドである。前述したカルノシンと同様、発明およびその説明において、単に「アンセリン」というときは、特に記載した場合を除き、L-アンセリン、D-アンセリンまたはそれらの混合物を指す。L-アンセリン(L-anserine、IUPAC名:(2S)-2-[(3-amino-1-oxopropyl)amino]-3-(3-methyl-4-imidazolyl)propanoic acid)の構造を以下に示す。
このほか、バレニン(オフィジンともいう。)は、β-アラニンと3−メチルヒスチジンとからなるジペプチドであり、ホモカルノシンはγ-アミノ酪酸(GABA)とヒスチジンとからなるジペプチドである。
イミダゾールジペプチドは、合成されたもの、発酵生産されたもの、天然物から得たもののいずれであってもよく、必要に応じて、単離されたもの、精製されたものであってもよい。例えば、イミダゾールジペプチドは、牛、馬、豚、鶏、クジラ、魚(例えば、かつお、まぐろ、うなぎ)などの種々の動物に豊富に含まれており、これらの天然物の抽出物、濃縮物、粗精製物等として剤中に配合することが好ましい。中でも鶏肉(胸肉、ささみ等)の抽出物は、カルノシンおよびアンセリンが豊富に含まれており、イミダゾールジペプチドの原料として特に好ましい。すなわち、本発明の発現誘導剤が含有するイミダゾールジペプチドは、鶏肉由来のものであることが好ましい。
本発明の発現誘導剤は、いずれか1種類のイミダゾールジペプチドを含有していてもよいし、2種類以上のイミダゾールジペプチドを含有していてもよい。なお、本発明またはその説明における、イミダゾールジペプチドの量に関する規定について、本発明の発現誘導剤が2種類以上のイミダゾールジペプチドを含有する場合は、別途記載した場合を除き、前記の量はそれらの合計量を指す。
イミダゾールの中でもカルノシンは特に、グリア細胞における所定の神経栄養因子等の遺伝子の発現誘導作用に優れているため、本発明の発現誘導剤はイミダゾールジペプチドとして、少なくともカルノシンを含有することが好ましく、カルノシンのみを含有する、つまりアンセリン、バレニン、ホモカルノシンなどのカルノシン以外の化合物を含有しないようにしてもよい。
また、本発明の発現誘導剤は、イミダゾールジペプチドのみからなるものであってもよいし、それらと同様にグリア細胞における所定の神経栄養因子等の遺伝子の発現誘導作用を有する、その他の物質をさらに含有するものであってもよい。また、本発明の発現誘導剤は、鶏肉抽出物のような天然物の抽出物、濃縮物、粗精製物等として、イミダゾールジペプチドとその他の物質とが一体不可分な状態にある(調製された組成物ではない)形態であってもよいし、水、緩衝液等の適切な溶媒に溶解した溶液の形態であってもよいし、乾燥粉末化された形態であってもよい。
イミダゾールジペプチドを含有する、天然物の抽出物等の調製方法は特に限定されるものではなく、公知の様々な技術を用いることができ、抽出条件も適宜調節することができる。鶏肉抽出物は一般的に、鶏肉を細切りし、温水を加え、必要に応じてpHを調節し、必要に応じ加温し(例えば50〜100℃)、数分間〜数日間(例えば1〜10時間)かけて抽出する、といった手順で調製することができる。原料である鶏肉の部位は特に限定されないが、カルノシン及び/又はアンセリンを多く含有することから、胸肉を含むことが好ましい。得られた抽出液に対してはさらに、必要に応じて、珪藻土ろ過、限外ろ過等による精製・分画処理や、脱塩処理、プロテアーゼ処理などを行うことができる。また、得られた抽出液は、必要に応じて濃縮液にしたり、熱風乾燥、スプレー乾燥、凍結乾燥等により乾燥物(乾燥粉末)にしたり、造粒して顆粒にしたりすることもできる。イミダゾールジペプチドを含有する抽出物は、使用時まで、そのような溶液の状態で保存してもよいし、乾燥粉末や顆粒の状態で保存してもよい。本発明者の検討によると、アンセリンおよびカルノシンは、常温では十分に安定であり、また加熱する場合も180℃以下であれば十分に安定であることが確認されている。さらに、溶液状態で少なくとも2年9月は安定に保存できることが確認されている。
(神経栄養因子等)
神経栄養因子には、神経栄養因子ファミリーに属するサイトカイン、グリア細胞株由来神経栄養因子ファミリーに属するサイトカイン、およびそれら以外のものが含まれる。本発明ではこのうち、神経栄養因子ファミリーに属するNGF、BDNF、NTF3およびNTF4を、グリア細胞における遺伝子の発現の誘導の対象とすることができる。また、本発明ではさらに、神経栄養因子に類する機能を有するCSF3およびCYR61も、グリア細胞における遺伝子の発現の誘導の対象とすることができる。これらの遺伝子を、本明細書においては「神経栄養因子等」と呼ぶことがある。
このような本発明の発現誘導剤の対象となる遺伝子は、NGF、BDNF、NTF3、NTF4、CSF3またはCYR61のいずれか1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。通常は、グリア細胞をイミダゾールジペプチドで処理すれば、程度の差はあるかもしれないが、そのグリア細胞が発現しているすべての神経栄養因子等の遺伝子について、同時に発現が誘導されると考えられる。
(グリア細胞)
グリア細胞(神経膠細胞とも呼ばれる。)は、神経系を構成する神経細胞ではない細胞の総称である。このようなグリア細胞には、ミクログリア(小膠細胞)、アストロサイト(星状膠細胞)、オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞・乏突起膠細胞・稀突起膠細胞)、上衣細胞、シュワン細胞(鞘細胞)、衛星細胞などが包含される。本発明の発現誘導剤は、これらのグリア細胞の中でも、脳などの中枢神経系において神経細胞の近傍にある、ミクログリア、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトを対象とすることが好ましい。例えばアストロサイトは、本発明の発現誘導剤による神経栄養因子等の遺伝子の発現誘導作用について優れた効果が認められる、特に好ましい対象である。
−用途−
本発明の発現誘導剤の用途は、特定の神経栄養因子等の遺伝子のグリア細胞における発現を誘導する作用を利用する限り特に限定されるものではない。
用途の一例として、本発明の発現誘導剤としてのイミダゾールジペプチドは、特定の神経栄養因子等の遺伝子のグリア細胞における発現を誘導する作用(薬理活性)について、さらに優れた化合物を探索する(スクリーニングする)ための、リード化合物として利用することが挙げられる。リード化合物とは、一般に、薬理活性のプロファイルが明らかであり、これを化学的に改変することで薬理活性の向上、安全性のさらなる向上(もしも有しているとすれば毒性の低減)、物性の安定化などをなどが期待できる化合物をいう。イミダゾールジペプチドも化学的に改変することで、上記のような薬理活性のさらなる向上などを図れる可能性がある。
化学的に改変するとは、薬理活性の向上などの点で最適化するために、リード化合物としてのイミダゾールジペプチド(式IまたはIIで表される化合物)を化学修飾することを指す。化学修飾の具体例としては、一部のアミノ酸の置換または除去、少なくとも1つのアミノ酸の付加または挿入、各アミノ酸における官能基の付加、置換または除去、天然でL体である各アミノ酸の、D体アミノ酸または人工アミノ酸への置換などが挙げられる。
また、用途の他の例として、本発明の発現誘導剤としてのイミダゾールジペプチドが有する上記の作用をさらに向上させたり、安全性をさらに向上させたりするために、併用することのできる化合物ないし物質を探索するため利用することも挙げられる。本発明の発現誘導剤とともにグリア細胞に作用させることにより、発現誘導剤が有する上記の作用の向上などが図れる化合物等が見つかれば、そのような化合物等は本発明の発現誘導剤とともに、食品組成物や医薬組成物に配合して利用できる可能性がある。
上記の2つの例に示した用途、またはこれらに準じた用途においては、本発明の発現誘導剤は、培養されたグリア細胞を対象とするin vitroの環境下で、または実験動物の体内にあるグリア細胞を対象とするin vivoの環境下で使用されることになる。
グリア細胞にin vitroで作用させる場合は、培養細胞を用いる従来の薬物試験と同様に、本発明の発現誘導剤を細胞培養液中に所定の濃度となるよう添加した後、所定の期間グリア細胞を培養すればよい。その際の処理濃度および処理時間は、本発明の発現誘導剤の作用が適切に発揮されるような濃度および時間としたり、作用の程度などを分析するために試験的に様々な段階の濃度および時間としたり、目的に応じて調節することができる。例えば、本発明の発現誘導剤が培養されたグリア細胞に対して所期の作用、すなわち特定の神経栄養因子等の遺伝子の発現を誘導する作用を発揮することや、そのときの細胞毒性などを確認したい場合は、発現誘導剤の培養液中の濃度は通常は1μM〜100mMの範囲、発現誘導剤が添加された培養液中でのグリア細胞の培養期間は通常は約6時間で調整することができる。発現誘導剤の作用の強さと細胞毒性の弱さのバランスが取れた条件としたい場合は、発現誘導剤の培養液中の濃度は100μM〜10mMとすることが好ましい。
グリア細胞にin vivoで作用させる場合は、実験動物を用いる従来の薬物試験と同様に、所定の量の本発明の発現誘導剤を、所定の期間に亘って、実験動物に投与すればよい。その際の投与量および投与期間も、本発明の発現誘導剤の作用が適切に発揮されるような投与量および投与期間としたり、作用の程度などを分析するために試験的に様々な段階の投与量および投与期間としたり、目的に応じて調節することができる。例えば、本発明の発現誘導剤が、マウスの生体内のグリア細胞に対して所期の作用、すなわち特定の神経栄養因子等の遺伝子の発現を誘導する作用を発揮することや、そのときの副作用などを確認したい場合は、通常、発現誘導剤の投与量は一回あたり0.1〜2g/kg体重の範囲、一日あたりの投与回数は1〜3回の範囲、投与期間は7〜180日の範囲で調整することができ、もしくは単回投与も考えられる。このような投与量の設定等については、食品組成物および医薬組成物に関して後述する明細書の記載を参照することもできる。実験動物の種類としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット、イヌ、ミニブタ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジなどが挙げられる。
本発明における所期の作用効果、すなわち特定の神経栄養因子等の遺伝子のグリア細胞における発現が誘導(促進)されることは、公知の技術を用いて確認することができる。特定の神経栄養因子等の遺伝子の発現が誘導されるとは、イミダゾールジペプチドでグリア細胞を処理した後に、処理する前と比較して、前記遺伝子の転写により生成したmRNAの量が増加していること、好ましくは統計学的な有意差で以て増加していることを指す。mRNAの生成量の代わりに、そのmRNAの翻訳により生成したタンパク質の量、すなわちグリア細胞から分泌されて培養液または組織中に分泌されたタンパク質の量を指標とし、その量が増加していること、好ましくは統計学的な有意差で以て増加していることから、遺伝子の発現が誘導されたとみなしてもよい。mRNAまたはタンパク質は、培養したグリア細胞またはその培地や実験動物の脳組織などからサンプルを採取し、公知の測定システムおよび測定部材(市販のキット等)を用いて、所望の精度で定量することができる。
本発明の発現誘導剤の用途の、他の好適な一例として、食品組成物または医薬組成物の有効成分としてそれらに配合することが挙げられる。本発明の発現誘導剤が有効成分となり得る疾患または症状は、グリア細胞において神経栄養因子等の発現が誘導され、細胞からの分泌が増強される結果、神経細胞の成長が促進等されることで、予防、治療、改善等(発症リスクの低減、発症の遅延、進行の停止、遅延を含む。)をすることができるものである。上記の疾患の代表例としては、認知症、鬱病および癲癇が挙げられる。また上記の症状の具体例としては、脳の萎縮、脳の機能(海馬との機能連結など)の低下、炎症によるニューロンの損傷が挙げられる。
すなわち、本発明は一つの側面において、本発明の発現誘導剤を有効成分として含有する、上記特定の疾患または症状の予防、治療、症状の改善用などの、食品組成物または医薬組成物を提供する。換言すれば、本発明は、有効量の本発明の発現誘導剤を含有する食品組成物または医薬組成物を食餌させるまたは投与することを含む、上記特定の疾患または症状の予防方法、治療方法、改善方法などを提供する。上記の食品組成物または医薬組成物を、本明細書においてそれぞれ「本発明の食品組成物」または「本発明の医薬組成物」と呼ぶことがある。
本発明の食品組成物または医薬組成物は、上記特定の疾患に現に罹患しているまたは症状を発症している、あるいは罹患または発症のおそれのある、ヒト(患者)またはヒト以外の哺乳動物(実験動物、ペット等)に対して処置することができる。
「処置」のための行為には、医師が行う、疾患の治療等を目的とした医療行為と、医師以外の者(例えば栄養士、管理栄養士、保健師、助産師、看護師、臨床検査技師、美容部員、エステティシャン、食品製造者、食品販売者等)が行う、非医療的行為とが含まれる。また処置には、特定の食品の投与または摂取の推奨、食餌方法指導、保健指導、栄養指導(傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導、および健康の保持増進のための栄養の指導を含む。)、給食管理、給食に関する栄養改善上必要な指導を含む。
(食品組成物)
食品組成物は、イミダゾールジペプチドまたはこれを含有する抽出物等と、食品として許容される種々の添加剤等やその他の成分とを、所定の配合比で混合するなど、公知の技術を用いて製造することができる。なお、イミダゾールジペプチドを含有するが、組成物として製造されていない天然の素材またはその調理・加工品、例えば鶏肉自体は、食品組成物には該当しない。
食品組成物は、保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品および機能性表示食品)、健康食品、サプリメント、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、介護食などとして製造することができる。食品組成物の形態の例としては、飲料、菓子、食肉加工品、魚介加工品、野菜加工品、惣菜、調味料組成物、食品添加物を挙げることができる。
(医薬組成物)
医薬組成物は、イミダゾールジペプチド(通常は精製物)と、医薬品として許容される種々の添加剤等やその他の成分とを、所定の配合比で混合するなど、公知の技術を用いて製造することができる。
医薬組成物の形態(剤型)の例としては、経口投与用であれば散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液状製剤(エリキシル剤、リモナーデ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、ドリンク剤を含む。)、ゲル状製剤など、非経口投与用であれば注射剤、点滴剤、座剤などが挙げられる。
食品組成物および医薬組成物の製造工程は、特に有効成分としてのイミダゾールジペプチドの溶解性、安定性などを考慮した、適切な条件下で実施することが適切である。イミダゾールジペプチドは、前述したような方法によりあらかじめ調製したもの、例えば鶏肉等の抽出物として得られたものを用いればよい。
食品組成物または医薬組成物に配合することのできる添加剤としては、例えば、賦形剤、酸化防止剤抗(酸化剤)、香料、調味料、甘味料、着色料、増粘安定剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料等、酵素、光沢剤、酸味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、結合剤、緊張化剤(等張化剤)、希釈剤(注射液)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、凝固剤などが挙げられる。
食品組成物または医薬組成物に配合することのできるその他の成分としては、本発明の発現誘導剤としてのイミダゾールジペプチド以外の機能性成分、例えば、分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)やオルニチンなどのアミノ酸、不飽和脂肪酸(EPA、DHA等)、ビタミン、微量金属、グルコサミン、コンドロイチンなどが挙げられる。
本発明の好ましい実施形態において、食品組成物または医薬組成物は、イミダゾールジペプチドのグリア細胞への送達効率を向上させるための成分を含有したり、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を応用したりすることができる。例えば、医薬組成物を静脈への注射剤等として調製する場合、グリア細胞によく認識されるトランスフェリン、レプチン等のタンパク質と複合体化(表面修飾等)された、エクソソームやポリエチレングリコールで形成されたベシクルなどを合成し、イミダゾールジペプチドをそこに内包させることで、グリア細胞内への取り込み効率を向上させることが可能である。
食品組成物の一食分または一日あたりの有効成分量、および医薬組成物の一投与または一日あたりの有効成分量は、摂取または投与対象の年齢、体重、性別や、適用される疾患または状態などに応じて、また非臨床的または臨床的な試験結果等に基づいて、適宜設定することができる。食品組成物または医薬組成物の摂取または投与の期間も適宜設定することができるが、特定の疾患の予防等のためであれば、長期間に亘って繰り返し、また日常的に、摂取または投与することが好ましいであろう。
本発明の食品組成物または経口投与用の医薬組成物が含有する有効成分、すなわちイミダゾールジペプチドの、摂取量または投与量は、例えば、200 mg/dayとすることができ、400 mg/dayとすることが好ましく、500 mg/day以上とすることがより好ましく、750 mg/day以上とすることがさらに好ましい。また、1,000 mg/day以上としてもよく、2,000 mg/day以上としてもよく、5,000 mg/day以上としてもよく、7,500 mg/day以上としてもよい。いずれの場合であっても、上記摂取量または投与量は、50,000 mg/day以下とすることができ、30,000 mg/day以下とすることが好ましく、20,000 mg/day以下とすることがよりに好ましく、10,000 mg/day以下とすることがさらに好ましい。医薬組成物が注射剤その他の非経口投与用である場合の有効成分の投与量も、上記の経口投与用の医薬組成物についての投与量と、投与経路の変更による換算比(例えば1/2〜1/3)に基づいて算出することが可能である。有効成分は、上記の一日当たりの量を一度に摂取または投与してもよいし、複数回に分けて摂取または投与してもよい。
本発明の食品組成物または経口投与用の医薬組成物に対する、有効成分として用いられるイミダゾールジペプチドの含有量または含有率は、上述したような一食分または一投与あたりの有効成分量や、食品組成物または医薬組成物の形態などを考慮して、さらに製造し易さや用い易さなども考慮して、適宜設定すればよい。上記含有量(食品組成物または医薬組成物100gあたりの有効成分の質量)は、例えば、1,000 mg/100 g以上とすることができ、1,500 mg/100 g以上とすることが好ましく、2,000 mg/100 g以上とすることがより好ましく、2,500 mg/100 g以上とすることがより好ましく、3,000 mg/100 g以上とすることがより好ましく、3,500 mg/100 g以上とすることがさらに好ましい。いずれの場合であっても、上記含有量は、50,000 mg/100 g以下とすることができ、40,000 mg/100 g以下とすることが好ましく、30,000mg/100 g以下とすることがより好ましく、20,000 mg/100 g以下とすることがさらに好ましい。上記含有率(食品組成物または医薬組成物の全質量に対する有効成分の質量の比率)は、例えば0.1〜99.9%、1〜95%、10〜90%、51〜90%などの範囲で調整することができる。また、有効成分の中でも特にカルノシンの含有率を、例えば21%以上などの範囲で調整することもできる。医薬組成物が注射剤その他の非経口投与用である場合の有効成分の含有量または含有率も、必要に応じて上記の経口投与用の医薬組成物についての含有量または含有率を参考に、投与経路(剤型)の相違を考慮しながら、適切に設定することが可能である。
本発明の食品組成物または医薬組成物の用途等、あるいは本発明の発現誘導剤の用途等は、直接的にまたは間接的に表示することができる。直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、展示会、看板、掲示板、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール等の場所または手段による、広告・宣伝活動を含む。本発明の食品組成物を機能性表示食品として製造する場合は、例えば「記憶力の維持」、「記憶低下を抑制」のように、有効成分として含まれる本発明の発現誘導剤の作用効果に基づく食品の機能性を表示することができる。
[1]カルノシン溶液の調製
本発明におけるカルノシンは全てL-カルノシン(和光純薬工業(株) Cat. 032-11031)であり、DPBS(Dulbecco's phophate buffered saline)(サーモフィッシャーサイエンティフィック Cat. 14190-144)に1Mとなるように溶液を調製した後、それぞれの終濃度に合わせて希釈して使用した。
[2]グリア細胞のカルノシン処理および遺伝子発現解析
グリア細胞株(U87-MG)について、以下の手順で、カルノシンによる処理および遺伝子発現の解析を行った。具体的には、培養中のグリア細胞にカルノシン溶液を添加し、6時間後の細胞からRNAを精製し、cDNAの合成を行い、定量RT-PCRにより遺伝子発現の変化を解析した。
方法
カルノシン処理及びRNAの回収、精製
12well plateに3×10^5 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後にカルノシンを添加する。6時間後、培養上清を除去し、Tri reagent(Molecular Research Center, Inc. Cat. TR118)(500μl/well)を添加し、細胞をホモジェナイズする。室温で5分静置させた後、クロロホルム溶液(100μl/500μl Tri reagent)を添加し10秒間Vortexにより撹拌する。その後再度5分間、室温に静置した後、15000rpmで10分間遠心しRNA(上層)、タンパク質(中間層)、有機物(下層)に分離させる。上層を回収し、100% エタノール溶液を回収した溶液の0.55倍量添加する。その後エコノスピン(ジーンデザイン(株) Cat. EP-21201)に回収し、10000 rpmで1分間遠心する。RNA wash solution(RWA)(プロメガ Cat. Z3091)(500μl/カラム)をカラムに添加し再度10000rpmで1分間遠心する。再びRNA wash solution(RWA)(500μl/カラム)を添加し15000rpmで1分間遠心する。遠心後カラムの蓋を開け、5分間風乾させる。風乾後、Ultra Pure Water(Dnase and Rnase-free)(Biological Industries Cat. 01-866-1A)(40 μl/カラム)を添加し、5分間静置する。その後15000rpmで1分間遠心し、RNAを回収する。
cDNAの合成
cDNAの合成には、ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT kit(TOYOBO Cat. FSQ-101)を用いた。RNAサンプル(500ng)にNuclease-free waterをtotal 7μlになるように添加し、65℃で5分間インキュベートした。その後氷上で急冷させ、5分後、5×RT Buffer 2μl, Primer Mix 0.5 μl, RT Enzyme Mix 0.5 μlをそれぞれ加え、37℃で15分、98℃で5分間反応させ、cDNAを合成させる。
定量RT-PCR
定量RT-PCRには、THUNDERBIRD(登録商標) SYBR(登録商標) qPCR MIX(TOYOBO Cat. QPS-201)を使用した。合成したcDNAの鋳型とprimer, 滅菌水, THUNDERBIRD(登録商標) SYBR(登録商標) qPCR MIXの混合溶液を調製し、95℃ 3分の後、95℃ 10秒、55℃ 30秒の2ステップを39サイクルという行程でPCR反応を行う。
データ解析
得られた結果をエクセルでグラフ化し、T検定により有意差を判定した。
結果
結果を図1および図2に示す。有意差レベルp<0.05に基づき、グリア細胞へのカルノシン10mM処理により有意にBDNF及びNGF、NTF4の遺伝子発現が増強されていることが明らかになった。
[3]グリア細胞のカルノシン処理およびタンパク質解析
方法
12well plateへグリア細胞を播種し、24時間後、カルノシン10mMを添加した。これを3日間続けた後培養上清を回収し、2000gで20分間遠心しタンパク質の定量を行った。BDNFのタンパク質の定量はBDNF Emax ImmunoAssay System(プロメガ Cat. G7610)を使用した。方法はKit付属のプロトコルに従った。
結果
結果を図3に示す。有意差レベルp<0.05に基づき、1日1回のカルノシン処理を3日行った後では、無処理と比較して有意にBDNF量が培養上清中に増加していることが明らかとなった。このことからカルノシンがグリア細胞を活性化させることで周りの神経細胞に影響を与えていることが明らかとなった。
[4]神経細胞のカルノシン処理および遺伝子発現解析
方法
グリア細胞株(U87-MG)の代わりに神経細胞株(SH-SY5Y)を用いて、それ以外は前記[2]と同様の手順で、カルノシンによる処理および遺伝子発現の解析を行った。
結果
結果を図4および図5に示す。神経細胞へのカルノシン10mM処理ではグリア細胞のような神経栄養因子の発現誘導効果は認められなかった。
[5]神経突起の観察及び定量化
方法
神経細胞(SH-SY5Y)の分化誘導
神経細胞をコラーゲンコーティング済み6cmディッシュ(IWAKI Cat. 4010-010-MYP)へ播種(2.8×10^5 cells/dish)し、24時間後、レチノイン酸(Wako Cat. 182-01116)を終濃度10μMで添加し5日間培養した。
グリア培養上清の調製
12well plateへグリア細胞を播種し、24時間後、培地交換を行った(DMEM / 1%FBS 1ml)。この時、カルノシン処理を行うサンプルについては終濃度5mMとなるようにカルノシンを添加した。処理24時間後、培養上清を回収し、2000gで20分間遠心した。その後分化誘導済み神経細胞へ添加し、神経突起の観察及び定量化を行った。また、余った培地は培地交換用に-80℃に保存した。
神経突起の観察
神経突起の観察は、分化誘導済み神経細胞に神経突起の伸長誘導処理を7日間行った後、ミリポア社のMilli-Mark(商標) FluoroPan Neuronal Marker(Cat. MAB2300X)で免疫染色することで行った。免疫染色の方法は付属のプロトコルに従って実験を行った。以下に神経突起伸長誘導処理の方法を記載する。
方法
レチノイン酸による分化誘導後の神経細胞をコラーゲンコート済みの12 well plate(住友ベークライト株式会社 Cat. MS-0012K)へ播種する。24時間後、グリア培養上清1 mlを添加し、ポジティブコントロールとしてBDNF 100ng/mlで処理するサンプルも用意する(培地血清濃度1%とする。)。24時間後、グリア培養上清に浸っているサンプルについては半量(500μl)を前もってストックしておいたグリア培養上清に交換する。これを1週間続ける。培養終了後、免疫染色を行い、顕微鏡観察を行う。
神経突起の定量
神経突起の定量化にはNeurite Outgrowth Assay kit(Merck Millipore Corporation Cat. NS225)を使用した。まず、24well plateのインサートをコラーゲン溶液でコーティング(ウシ真皮由来コラーゲンタイプI ペプシン可溶化, ニッピ Cat. PSC-1-100-20)する。PBS+(Ca2+, Mg2+)で300倍希釈したコラーゲン(10μg/mL)400μlにインサートを浸らせ37℃で2時間コーティングする。コーティング済みインサートをグリア培養上清入り(600μl)のwellへ移し、細胞を播種する(100μl)(SH-SY5Y : 5×10^4 cells/well)。15分間室温で静置後37℃のインキュベータへ移す。この時ポジティブコントロールとしてBDNF 100ng/mlで処理するサンプルも用意する(培地血清濃度1%とする。)。24時間後、グリア培養上清に浸っているサンプルについては半量(300μl)を新しい培養上清に交換する。これを1週間続ける。培養終了後、インサートから培地を除去し800μl のPBS(−)入りのwellへ移す。その後400μlの−20℃のメタノールに室温で20分間浸し、再び800μlのPBSで洗浄する。400μlのNeurite Stain Solutionで15-30分間 室温で染色し、800μlのPBSで洗浄する。その後PBSで濡らした付属の綿棒を使ってインサート上の細胞質を除去し神経突起のみを残す。パラフィルムに200μlのNeurite Stain Extraction Bufferを滴下し、その上にインサートの底を付け室温で5分間培養し神経突起を抽出する。パラフィルム上やインサートの底や内側に付着している溶液を回収し、96well plateへ移し、分光光度計で測定する(562nm)。得られたOD値をもとに結果を考察した。
結果
結果を図6に示す。カルノシン処理を行ったグリア細胞の培養上清にさらされた神経細胞では、統計学上有意に(p<0.05)、神経突起の伸長が増強される傾向にあった。
[6]マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析
グリア細胞株(U87-MG)について、以下の手順で、カルノシン処理による網羅的な遺伝子発現の解析を行った。具体的には、培養中のグリア細胞にカルノシン溶液を添加し、6時間後の細胞からRNAを精製し、マイクロアレイにより遺伝子発現の変化を解析した。
方法
マイクロアレイはAgilent社(CA, USA)のSurePrint G3 Human GEマイクロアレイキット 8x60K v3を用いて行った。
ラベリング
まず、RNAを[2]の方法で精製し、Agient Low-Input QuickAmp Labeling kit, one-colorを用いてラベリングした。予め準備した One-Color Spike Mix stock solution にラベル済みRNA を加え、次に、T7 Promoter Primerを加え、ヒートブロックで65℃ 10分間インキュベートした。その後5分間氷上で急冷し、さらに、予め調製したcDNA Master Mixを加え、2時間40℃のヒートブロックでインキュベートした。その後、70℃のヒートブロックに移し、さらに15分間インキュベートした。インキュベート後、氷上で5分間急冷し、予め調整したTranscription Master Mix 6 μLを加え、40℃のヒートブロックで遮光しながら2時間インキュベートした。その後、Nuclease-free water、Buffer RLT、エタノールを加え、RNeasyカラムに全量を添加し、13000 rpmで4℃ 30秒間遠心し、Buffer RPEによって2回洗浄した。その後、RNase-free waterによって溶出しハイブリダイゼーションに使用した。
ハイブリダイゼーション
Agilent社推奨のプロトコルで、ハイブリダイゼーションを行った。まず、先程溶出したRNAをFragmentation mix と混ぜ断片化し、60℃のヒートブロックで30分間インキュベートしてすぐに1分間氷冷した。次に、そのcRNA from Fragmentation Mix に2x GEx Hybridization Buffer HI-RPMを混合しHybridization mixを作製した。Hybridization mixをmicroarray slideにアプライした後、ハイブリダイゼーションチャンバーに設置し、ハイブリダイゼーションオーブンに設置し、65℃ 10 rpmにて17時間かけてハイブリダイズした。
microarray slideの洗浄とscanning
予め準備したGene Expression Wash Bufferを用いてmicroarray slideの洗浄を行った。まず、ハイブリダイゼーションが終わる前に、3つの洗浄用ガラス容器のうち2つにGene Expression Wash Buffer 1を、残りの1つに37℃のGene Expression Wash Buffer 2をそれぞれ満たした。ハイブリダイゼーションが終わったハイブリダイゼーションチャンバーを1つ目の洗浄用ガラス容器中で分解しmicroarray slideを取り出し、2つ目の洗浄用ガラス容器中で洗浄した。3つ目の洗浄用ガラス容器でさらにmicroarray slideを洗浄後、microarray slideを水面からゆっくり引き上げることで乾燥させ、最後に専用のスキャナーに設置しmicroarray slideのスキャンを行った。
データ解析
Agilent社Feature Extractionソフトウェアによってデータの数値化を行った。正規化は統計解析ソフトRを用い、quantile法にて行った。また、正規化後のシグナル値からZ-scoreとRatioを算出し、±2以上の変動があるもののみを抽出することで得られたデータを、アノテーションデータベース DAVID (http://david.abcc.ncifcrf.gov/)を用いて解析した。まず、データベースに変動が確認された遺伝子のGenBank Accession Numberを入力した後、Functional Annotation Clusteringを行い遺伝子変動が起きている機能ごとにクラスタリングを行った。また、同様にDAVIDを用いて、KEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)のパスウェイ解析を行った。
結果
有意差レベルp<0.05に基づく判定により、神経栄養因子であるBDNFのみならず、新たにCSF3、CYR61といった神経栄養因子に似た機能を有する因子の遺伝子の発現が確認された。図7には定量RT-PCRによる遺伝子発現レベルの確認を行った結果を示す。

Claims (3)

  1. イミダゾールジペプチドを含有し、BDNF、NGF、NTF3、NTF4、CSF3およびCYR61からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子の、グリア細胞における発現を誘導するための剤。
  2. 前記イミダゾールジペプチドとして鶏肉由来のものを含有する、請求項1に記載の剤。
  3. 前記イミダゾールジペプチドとしてカルノシンを含有する、請求項1または2に記載の剤。
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