JP6499610B2 - 穴明け工具 - Google Patents

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Description

本発明は、穴明け工具に関するものである。
止まり穴の底面に平面を要する穴明け加工(ザグリ加工)を行う場合や、傾斜面や曲面に穴明け加工を行う場合等、一般的な先端角(100°〜150°、特に118°。)のドリル形状では穴位置精度の悪化が懸念されるような場合には、例えば特許文献1に開示されるように、シンニングが設けられ、先端角を約180°に設定したドリル(以下、「フラットドリル」という。)が用いられることが多い。
特開2009−56534号公報
従来のフラットドリルは、工具の欠損や穴径の拡大・穴曲がりが発生し易いという問題があり、ひいては早期に工具折損に至る場合があった。
本発明者等が、フラットドリルのシンニング形状や切れ刃形状に着目し検討したところ、従来のシンニング形状や切れ刃形状では、シンニングによって形成される工具中心側の切れ刃が、ヒール側から離れた位置に形成されることから、切り屑が十分に小さくカールされず、また、切り屑分断効果も十分でないために切り屑排出性を妨げていることを見出した。
即ち、従来のフラットドリルは、上記の現象により、切り屑詰まりによる工具折損が発生し易く、また、切り屑排出性が十分でないことによる工具負荷の増大から、工具振動が発生し、工具の欠損や穴径の拡大・穴曲がりが発生し易いという問題が生じていた。そのため、安定に加工し且つ加工精度を向上させるためには、加工速度を落とす必要があった。
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、切り屑を小さくカールさせて切り屑排出溝領域(以下、「溝領域」という。)に対して1つの切り屑が占める割合を低減して切り屑排出性を向上させることができ、高精度で高能率な穴明け加工が可能となる実用的な穴明け工具を提供するものである。
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝3が設けられ、この工具本体1の先端に開放される前記切り屑排出溝3の縁に切れ刃2が設けられ、前記工具本体1の先端部にシンニングすくい面6とシンニングヒール面7とを有するシンニング部が設けられ、前記シンニングヒール面7と前記切り屑排出溝3の工具回転方向後方側を向く溝壁面との交差稜線部に切れ刃対向稜線8が設けられた穴明け工具であって、前記シンニング部のシンニング通し角αは30°以上60°以下に設定され、工具先端視において前記切れ刃2の工具中心側の端点aと工具中心点Oとを通る直線L1と、この直線L1と平行で前記切れ刃2の工具回転方向前方側に対向する前記切れ刃対向稜線8上の点bを通り且つ前記直線L1との距離が最大となる直線L2との間隔Xが、工具外径Dの15%以上35%以下となるように構成されており、前記切れ刃2の工具外周側に主マージン11が設けられ、この主マージン11の工具回転方向後方側に副マージン12が設けられ、工具先端視において前記シンニングヒール面7と該シンニングヒール面7の工具回転方向前方側逃げ面13との交差稜線上の工具外周側の端点e及び前記工具中心点Oを通る直線L5と、前記副マージン12の工具回転方向前方側の端点f及び前記工具中心点Oを通る直線L6とがなす角度δが、前記直線L5の工具回転方向前方側を正として−20°以上+30°以下であり、前記主マージン11の幅W1及び副マージン12の幅W2が夫々工具外径Dの1%以上6%以下に設定されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項1記載の穴明け工具において、前記切れ刃2の工具外周側に外周側切れ刃9が設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項2記載の穴明け工具において、前記外周側切れ刃9は工具外周側ほど工具回転方向後方側に後退するように設けられ、工具先端視において前記切れ刃2及び前記外周側切れ刃9の連設点cと該外周側切れ刃9の外周側の端点dとを通る直線L3と、前記直線L1とがなす角度βが10°以上50°以下に設定されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項2,3いずれか1項に記載の穴明け工具において、外周側切れ刃9の長さNが工具外径Dの1%以上15%未満に設定されていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項2〜4いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記切れ刃2の工具中心側に中心側切れ刃10が設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項5記載の穴明け工具において、工具先端視において前記切れ刃2の工具中心側の端点aと工具中心点Oとの間隔Yが工具外径Dの1%以上19%以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項5,6いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具軸直角方向視において前記外周側切れ刃9及び前記中心側切れ刃10が、工具中心軸に直角な線L4に対し工具中心側から工具外周側に向かうほど工具先端側に突出する方向を正として−5°以上+5°以下の角度γで設けられていることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の穴明け工具において、溝幅比が0.7以上1.2以下であることを特徴とする穴明け工具に係るものである。
本発明は上述のように構成したから、切り屑を小さくカールさせて溝領域に対して1つの切り屑が占める割合を低減して切り屑排出性を向上させることができ、高精度で高能率な穴明け加工が可能となる実用的な穴明け工具となる。
本実施例の(a)概略説明平面図、(b)概略説明側面図である。 本実施例の図1と異なる回転位相の(a)概略説明平面図、(b)概略説明側面図である。 本実施例の拡大概略説明平面図である。 従来例の(a)概略説明平面図、(b)概略説明側面図である。 従来例の図4と異なる回転位相の(a)概略説明平面図、(b)概略説明側面図である。 (a)本実施例と従来例の切り屑排出溝の位置及び形状を比較する概略説明図である。(b)中心側切れ刃10、10’が形成される位置を図6(a)上に示した模式図である。 角度γを説明する拡大概略説明側面図である。 角度γを説明する拡大概略説明側面図である。 比較例の(a)平面写真、比較例で加工した際の(b)切り屑写真である。 実験例の(a)平面写真、実験例で加工した際の(b)切り屑写真である。 比較例及び実験例の穴径拡大量を比較したグラフである。 工具A及び工具Bの外周側切れ刃の長さ及び工具欠損の有無を示す表である。 工具A〜Dの外周側切れ刃の長さ、工具欠損の有無及び穴径拡大量を示す表である。 工具A〜Dの穴径拡大量を比較したグラフである。 溝幅比の測定方法を説明する説明図である。 溝幅比の測定方法の別例を説明する説明図である。
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
シンニング通し角αを30°以上60°以下とし、直線L1と直線L2との間隔Xを工具外径Dの15%以上35%以下として切れ刃中心側から切れ刃対向稜線8までの間隔を従来より短く設定することで、切れ刃中心側で生成された切り屑をより早期に切れ刃対向稜線8、この切れ刃対向稜線8を交差稜線として形成する切り屑排出溝3の工具回転方向後方側を向く溝壁面若しくはシンニングヒール面7に接触させてより小さい径でカールさせることが可能となり、それだけ溝領域を広く使って切り屑を良好に排出させることが可能となる。
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
本実施例は、工具本体1の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝3が設けられ、この工具本体1の先端に開放される前記切り屑排出溝3の縁に切れ刃2が設けられ、前記工具本体1の先端部にシンニングすくい面6とシンニングヒール面7とを有するシンニング部が設けられ、前記シンニングヒール面7と前記切り屑排出溝3の工具回転方向後方側を向く溝壁面との交差稜線部に切れ刃対向稜線8が設けられた穴明け工具であって、前記シンニング部のシンニング通し角αは30°以上60°以下に設定され、工具先端視において前記切れ刃2の工具中心側の端点aと工具中心点Oとを通る直線L1と、この直線L1と平行で前記切れ刃2と対向する切れ刃対向稜線8上の点bを通り且つ前記直線L1との距離が最大となる直線L2との間隔Xが、工具外径Dの15%以上35%以下となるように構成されているものである。なお、図中、矢印Tは工具回転方向を示し、矢印Tが向く方向が工具回転方向の前方である。
具体的には、本実施例は、工具本体1には2つの切り屑排出溝3と複数の先端逃げ面(第1逃げ面5及び第2逃げ面13(後述するシンニングヒール面7の工具回転方向前方側逃げ面13))が形成され、これらの切り屑排出溝3のすくい面と工具本体1の先端逃げ面(第1逃げ面5)との交差稜線部には、夫々工具本体1と一体に切れ刃が設けられたドリルである。
また、前記シンニングヒール面7と切り屑排出溝3のすくい面の工具回転方向前方側に位置し工具回転方向後方側を向く溝壁面との交差稜線部には、切れ刃対向稜線8が形成されている。また、工具本体1の外周には二番取り面4が設けられている。
溝幅比(M2/M1)は0.7以上1.2以下(本実施例では0.7)に設定されている。
溝幅比は切り屑排出溝以外の部分と切り屑排出溝とが占める比率を表すものであり、本実施例では、以下のように算出している(図15)。
即ち、測定顕微鏡等を使用し、工具軸直角方向視において、工具中心軸上で工具軸方向の切り屑排出溝以外の部分の幅(M1)と切り屑排出溝3の幅(M2)とを夫々測定し、これらの比率M2/M1を溝幅比としている。
具体的には、本実施例では、切り屑排出溝以外の部分の幅(M1)は、工具中心軸上に切り屑排出溝3の工具回転方向前方側端点P1(本実施例では、切り屑排出溝3と二番取り面4との交差稜線上の点)が位置するように工具の回転位相を合わせ、その点P1から工具軸方向後方側に位置する主マージン11の工具軸方向後方側端点Q1(本実施例では、前記切り屑排出溝3の工具回転方向前方側に存在する切り屑排出溝3と主マージン11との交差稜線上の点)までの工具軸方向距離としている。
また、切り屑排出溝3の幅(M2)は、工具中心軸上に切り屑排出溝3の工具回転方向後方側端点P2(本実施例では、切り屑排出溝3と主マージン11との交差稜線上の点)が位置するように工具の回転位相を合わせ、その点P2から工具軸方向後方側に位置する当該切り屑排出溝3の工具軸方向後方側端点Q2(本実施例では、当該切り屑排出溝3と二番取り面4との交差稜線上の点)までの工具軸方向距離としている。
なお、前記M1とM2の測定にあたり、測定領域内(P1Q1間またはP2Q2間)に先端逃げ面やシンニングヒール面7が含まれないようにすること、または、工具先端からP1までの距離S1と工具先端からP2までの距離S2を同一にすることで、バラツキが少なくより正確な溝幅比(M2/M1)の測定が可能となる。
溝幅比が0.7未満の場合、溝領域が狭くなることで切り屑の排出性が妨げられ、1.2より大きい場合、溝領域が広くなり過ぎることで工具剛性が低下してしまう。
なお、上述のようにして溝幅比を測定する場合には、工具を破壊することなく溝幅比を測定することができるが、図16に示すように、工具を切断するなどして先端部を除去し、工具軸直角断面の先端視において、工具中心点Oを頂点として切り屑排出溝以外の部分が占める角(μ1:本実施例では、主マージン11、副マージン12及び二番取り面4が占める角)と切り屑排出溝3が占める角(μ2)とを夫々測定し、これらの比率μ2/μ1を溝幅比としても良い。
前記μ1とμ2の測定にあたり、測定領域内に先端逃げ面やシンニングヒール面7が含まれないように工具の先端部を除去した工具軸直角断面上で測定することで、バラツキが少なくより正確な溝幅比(μ2/μ1)の測定が可能となる。
更に、図示しないが、例えばレーザーや発光ダイオードを採用した光学式測定機などの非破壊測定器を用いて、工具を破壊することなく工具中心軸周りに工具を回転させてμ1とμ2を測定し、これらの比率μ2/μ1を溝幅比としても良い。
また、シンニング通し角αは、工具本体1(ドリル)の工具中心軸とシンニングヒール面7とが成す角度であり、30°以上60°以下に設定する。本実施例では30°に設定されている。シンニング通し角αが30°未満の場合、工具軸直角方向視において切れ刃対向稜線8が工具先端から離れた位置に存在することになり、切り屑を接触させてより小さい径でカールさせる効果が得られず、60°よりも大きい場合、切れ刃中心部(切れ刃2の工具中心側及び後述する中心側切れ刃10)で発生する切り屑の排出が妨げられてしまう。
また、本実施例は、工具先端視において工具回転方向後方側に凹状に湾曲する凹湾曲形状の切れ刃2の工具中心側の端点aと工具中心点Oとを通る直線L1と、この直線L1と平行で前記切れ刃2と対向する切れ刃対向稜線8上の点bを通り且つ前記直線L1からの距離が最大となる直線L2との間隔X(直線L1を平行移動した際に直線L1が切れ刃対向稜線8と接する最大の移動量X)が、工具外径Dの15%以上35%以下となるように構成されている。本実施例では25%に設定されている。また、本実施例の工具外径Dは、工具本体1(刃部)の最大直径である。
間隔Xが工具外径Dに対して15%未満の場合、前記切れ刃中心部で発生する切り屑の排出が妨げられてしまい、35%より大きい場合、切り屑を小さくカールさせる効果が得られない。
また、本実施例においては、切れ刃2の工具外周側に外周側切れ刃9が連設されている。外周側切れ刃9は、切り屑排出溝3の先端にしてすくい面の工具外周側に設けられた外周側切れ刃形成用すくい面14と第1逃げ面5との交差稜線部に形成される。また、前記外周側切れ刃9は工具外周側ほど工具回転方向後方側に後退するように設けられ、工具先端視において前記切れ刃2及び前記外周側切れ刃9の連設点cと該外周側切れ刃9の外周側の端点dとを通る直線L3と、前記直線L1とがなす角度βが10°以上50°以下に設定されている。本実施例では20°に設定されている。
直線L1に対して外周側切れ刃9を所定の角度で工具外周側ほど工具回転方向後方側に後退するように傾斜させて設けることで、切り屑が分断し易くなり、更に切れ刃最外周のチッピングを防止でき、穴径拡大を抑制することが可能となる。角度βが10°未満の場合、切り屑を分断する効果が得られず、50°より大きい場合、工具外周面(主マージン11)と外周側切れ刃形成用すくい面14とが成す角度が大きくなることで、傾斜面や曲面加工時に切削抵抗が大きくなり、工具の欠損や穴曲がりが発生し易くなる。
また、外周側切れ刃9の長さNは、工具外径Dの1%以上15%未満に設定されている。本実施例では3%に設定されている。なお、外周側切れ刃9の長さNは、工具先端視において前記切れ刃2及び前記外周側切れ刃9の連設点cと該外周側切れ刃9の外周側の端点dとを結ぶ直線の長さとする。外周側切れ刃9の長さNが工具外径Dの1%未満の場合、切れ刃外周部(外周コーナ部)が欠損し易くなり、15%以上の場合、切れ刃のすくい面が工具軸方向に対してなすすくい角(所謂、軸方向すくい角)の小さい外周側切れ刃形成用すくい面14で形成される切れ刃の割合が高くなることで切削抵抗が増加し、穴径拡大や工具欠損を招く。
工具回転方向後方側に凹状に湾曲する凹湾曲形状の切れ刃2の工具中心側には、直線状の中心側切れ刃10が連設されている。中心側切れ刃10は、シンニングすくい面6と第1逃げ面5との交差稜線部に形成される。中心側切れ刃10を設けることで、工具剛性を保つ心厚としても工具中心付近まで切れ刃を設けることができ、切削抵抗を低減することができる。また、工具中心付近まで切り屑排出のための切り屑ポケットを有することができ、中心側切れ刃10と切れ刃2とが所定の角度で連設されることによりその連設部において切り屑を分断する効果も得ることができ、切り屑排出性の向上を図ることができる。
また、工具先端視において前記切れ刃2の工具中心側の端点aと工具中心点Oとの間隔Yが工具外径Dの1%以上19%以下に設定されている。本実施例では12%に設定されている。間隔Yが工具外径Dの1%未満の場合、切り屑を分断させる効果が得られず、19%より大きい場合、工具軸方向に対してなすすくい角(所謂、軸方向すくい角)の小さいシンニングすくい面6で形成される切れ刃の割合が高くなることで切削抵抗が増加し、穴径拡大や工具欠損を招く。
なお、本実施例において外周側切れ刃9及び中心側切れ刃10を直線状に形成しているが、工具回転方向前方側に凸状に湾曲する凸湾曲形状等、直線状以外の形状に形成しても良い。
また、本実施例は、より好ましい実施の形態として複数のマージンを有する形状としており、1つの主マージンに対して1つの副マージンを設ける所謂ダブルマージン形状を採用している。ダブルマージンとすることで、加工した穴の内壁に工具がガイドされ、穴曲がりの少ない加工を行うことができる。
具体的には、前記切れ刃2の工具外周側に主マージン11が設けられている。より具体的には図1〜3に示す本実施例においては切れ刃2の工具外周側に連設される外周側切れ刃9に主マージン11が連設され(即ち、切れ刃2の工具外周側に外周側切れ刃9を介して主マージン11が設けられ)、この主マージン11の工具回転方向後方側に副マージン12が設けられている。また、工具先端視において前記シンニングヒール面7と該シンニングヒール面7の工具回転方向前方側逃げ面13(第1逃げ面5の工具回転方向後方側に連なる第2逃げ面13と一致する)との交差稜線上の工具外周側の端点e及び前記工具中心点Oを通る直線L5と、前記副マージン12の工具回転方向前方側の端点f及び前記工具中心点Oを通る直線L6とがなす角度δが、前記直線L5の工具回転方向前方側を正として−20°以上+30°以下となるように構成されている。本実施例では角度δは+3°に設定されている。
角度δが+30°より大きい場合、主マージン11と副マージン12の間隔が狭くなりすぎるためガイド効果を十分に得ることができず、−20°未満の場合、シンニングヒール面7が形成されることにより副マージン12の工具先端側の位置が工具軸方向後端側に配置されることになってしまうため、穴加工時にガイド効果を得るまで一定の穴深さを要することになり、穴上面の穴位置精度を悪化させ結果として穴曲がりを抑制する十分な効果を得にくくなる。
なお、本実施例では1つの主マージンに対して1つの副マージンを設ける所謂ダブルマージン形状としたが、1つの主マージンに対して2つの副マージンを設けるなど、1つの主マージンに対して複数の副マージンを設けても良い。
また、前記主マージン11の幅W1及び副マージン12の幅W2は、夫々工具外径Dの1%以上6%以下に設定されている。本実施例ではいずれも3%に設定されている。
幅W1,W2が工具外径Dの6%より大きい場合、穴の内壁とマージンとの接触面積が大きくなり、工具負荷が増加し工具の折損や欠損を引き起こし、1%未満の場合、マージンの摩耗が促進され、工具外径の縮小を早めてしまう。
なお、本実施例では、前記主マージン11の幅W1及び副マージン12の幅W2は、切り屑排出溝3に沿う方向(ねじれ方向)に直交する方向に測定している(図1)。
図4,5に従来の一般的なシンニング付きフラットドリルの構成を示す。なお、図4,5中、本実施例と同様の名称の部位には’付き同一番号符号を付した。また、図6(a)は本実施例と従来例の切り屑排出溝の位置及び形状を工具先端視で比較した図である。具体的には、本実施例(図1(a))と従来例(図4(a))の夫々について、工具先端部の加工(先端逃げ面とシンニング加工)および二番取り面加工を実施する前の工具先端視形状を、後に形成される中心側切れ刃10、10’の位置が一致するように回転位相を合わせて比較した図である(実線が本実施例、破線が従来例)。ここでは本実施例と従来例とを比較し易くするため、夫々の切り屑排出溝の形状を同一に設定している。つまり本実施例と従来例とにおいて、中心側切れ刃10、10’の位置に対する切り屑排出溝の位置(回転位相)が異なるのである。図6(b)は、中心側切れ刃10、10’が形成される位置を図6(a)上に模式的に示したものである(中心側切れ刃10、10’:太い実線)。
本実施例は以上の構成とすることで、従来構成のX’に比し、図6に図示したように溝容積を変えずにXを小さくして、切れ刃中心部で生じた切り屑を早期に切れ刃対向稜線8、この切れ刃対向稜線8の近傍にして該切れ刃対向稜線8を交差稜線として形成する切り屑排出溝3のすくい面の工具回転方向前方側に位置し工具回転方向後方側を向く溝壁面若しくはシンニングヒール面7に接触させてより小さい径でカールさせることが可能となり、それだけ小さくカールさせて溝領域を占める割合が小さい切り屑として円滑に工具基端側に送ることが可能となる。
また、本実施例においては、切れ刃2、外周側切れ刃9及び中心側切れ刃10は、工具軸直角方向視において工具中心軸に直角な線と略平行に設けているが(先端角θを略180°としているが)、図7,8に図示したように、これらを工具中心軸に直角な線L4に対して所定角度傾斜させて設ける構成としても良い。即ち、前記外周側切れ刃9及び前記中心側切れ刃10が、工具中心軸に直角な線L4に対し工具中心側から工具外周側に向かうほど工具先端側に突出する方向を正として−5°以上+5°以下(つまり、ドリルの先端角θとして表現した場合、−は先端角θが180°未満となる方向)の角度γで設けられている構成としても良い。なお、工具軸直角方向視において前記外周側切れ刃9及び前記中心側切れ刃10の夫々について、工具中心側の端点と外周側の端点とが夫々同一平面上にあるときの両点を結ぶ直線を用いて角度γを測定する。
図7,8の構成のフラットドリルを用いて傾斜面や曲面を加工する際、角度γが−5°未満の場合、被削材に食いつき難くなり工具径方向にして被削材から離れる方向に穴曲がりが発生し易くなり、+5°より大きい場合、片刃での切削時に切削抵抗の影響から工具径方向にして被削材に食い込む方向に穴曲がりが発生し易くなる。
図7は角度γを夫々−4°に設定した例、図8は角度γを夫々+4°に設定した例である。
本実施例は上述のように構成したから、切れ刃中心側で生成された切り屑をより早期に切れ刃対向稜線8、この切れ刃対向稜線8を交差稜線として形成する切り屑排出溝3の工具回転方向後方側を向く溝壁面若しくはシンニングヒール面7に接触させてより小さい径でカールさせることが可能となり、それだけ溝領域を広く使って切り屑を良好に排出させることが可能となる。
よって、本実施例は、切り屑を小さくカールさせて溝領域に対して1つの切り屑が占める割合を低減して切り屑排出性を向上させることができ、高精度で高能率な穴明け加工が可能となる実用的なものとなる。
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
・実験1
実験1は、比較例(従来形状)と実験例(本実施例に係る形状)とで切り屑形状及び穴径拡大量を比較したものである(図9〜11)。
比較例、実験例のいずれも工具外径Dは6mm、切り屑排出溝3のねじれ角は30°の仕様とした。
実験例(図10(a))は、工具回転方向後方側に凹状に湾曲する凹湾曲形状の切れ刃2と外周側切れ刃9と中心側切れ刃10を有する形状とした。シンニング通し角αは40°、角度βを20°、溝幅比は0.91とし、間隔Xが工具外径Dに対し25%となる形状とした。また、外周側切れ刃9の長さNは工具外径Dの3%、間隔Yは工具外径Dの12%とした。また、角度γは−0.5°(ドリルの先端角θとして表現した場合は179°(=180°−2×0.5°))とした。
比較例(図9(a))は、工具先端視において、前記角度βを5°とした。溝幅比は0.91とし、シンニング通し角は40°とした。また、前記間隔Xが工具外径Dに対し37%となる形状とした。角度γは−0.5°(ドリルの先端角θとして表現した場合は179°(=180°−2×0.5°))とした。
以上の実験例及び比較例を用い、被削材:機械構造用炭素鋼鋼材S50C(JIS規格)、回転速度:5300min−1、送り速度:500mm/min、穴深さ:板厚18mmに対する貫通穴、という条件で工具中心軸に略直交する面から30°傾斜する傾斜面に穴明け加工を行った。
その結果、比較例では、10穴目で切り屑詰まりから折損が発生したが、実験例では27穴の加工を完了し、工具損傷も無く継続して使用できることを確認した。
また、1穴目の穴径拡大量を測定したところ、比較例では0.38mmの穴径拡大量であるのに対し、実験例では0.001mmの穴径拡大量に抑えることができた(図11参照)。
また、切り屑の形状を比較したところ、実験例では比較例より切り屑がよりカールされている(カール径が小さくなる)ことが確認できた(図9(b)及び図10(b)参照)。
・実験2
実験2は、外周側切れ刃9の長さNを変えたA〜Dの工具において、工具欠損及び穴径拡大量を比較したものである(図12〜14)。
工具A〜Dは、いずれも工具外径Dを6mm、切り屑排出溝3のねじれ角は30°の仕様とした。また、外周側切れ刃9の長さN(図3参照)を工具外径Dに対する割合として図12及び図13に示した。
また、工具A〜Dは、いずれも工具回転方向後方側に凹状に湾曲する凹湾曲形状の切れ刃2と外周側切れ刃9と中心側切れ刃10を有する形状とした。シンニング通し角αは40°、角度βを20°、溝幅比は0.87とし、間隔Xが工具外径Dに対し25%となる形状とした。また、間隔Yは工具外径Dの11%とした。また、角度γは−0.5°(ドリルの先端角θとして表現した場合は179°(=180°−2×0.5°))とした。
実験2(1)では工具A及びBを用い、被削材:機械構造用炭素鋼鋼材S50C(JIS規格)、回転速度:5300min−1、送り速度:500mm/min、穴深さ:2mm(浅い側)(深い側は約5.5mm)、加工穴数:各4穴、という条件で工具中心軸に略直交する面から30°傾斜する傾斜面にザグリ加工をしたところ、外周側切れ刃9の長さが短い工具Aで、切れ刃の外周コーナ部において工具の欠損が確認された(図12)。
傾斜面の加工においては、被削材に工具の外周側から接触するため、外周側にかかる負荷が大きくなる。そのため、外周側切れ刃9の長さが短い場合に工具剛性不足から欠損を招くと考えられる。
また、実験2(2)では工具A,B,C及びDを用い、被削材:一般構造用圧延鋼材SS400(JIS規格)、回転速度:5300min−1、送り速度:500mm/min、穴深さ:12mm、加工穴数:各27穴、という条件で工具中心軸に略直交する平面にザグリ加工をしたところ、外周側切れ刃9の長さが短い工具Aで、切れ刃の外周コーナ部において工具の欠損が確認された(図13)。また、外周側切れ刃9が長い工具Dで穴径の拡大量が大きくなることを確認した(図14)。
外周側切れ刃9及び中心側切れ刃10のすくい面は外周側切れ刃形成用すくい面14及びシンニングすくい面6で形成されるのに対し、切れ刃2のすくい面は切り屑排出溝3で形成される。切れ刃2のすくい角は切り屑排出溝3のねじれ角と略同一となり(厳密には切れ刃2のすくい角は工具中心側ほど小さい角度となる。)、外周側切れ刃9及び中心側切れ刃10よりも鋭角なすくい角となる。外周側切れ刃9が長くなることで、切れ刃全体に対する切れ刃2の割合が少なくなり、工具にかかる負荷が大きくなることから、穴径拡大量が大きくなると考えられる。
以上から、本実施例に示す構成によれば、切り屑排出性を向上させることができると共に、穴径の拡大を防止でき、高精度で高能率な穴明け加工が可能となることが確認できた。
1 工具本体
2 切れ刃
3 切り屑排出溝
6 シンニングすくい面
7 シンニングヒール面
8 切れ刃対向稜線
9 外周側切れ刃
10 中心側切れ刃
11 主マージン
12 副マージン
13 シンニングヒール面7の工具回転方向前方側逃げ面
α シンニング通し角
β 直線L3と直線L1とがなす角度
γ 線L4に対する角度
δ 直線L5と直線L6とがなす角度
D 工具外径
N 外周側切れ刃9の長さ
O 工具中心点
W1 主マージン11の幅
W2 副マージン12の幅
X 直線L1と直線L2との間隔
Y 切れ刃の工具中心側の端点aと工具中心点Oとの間隔
a 切れ刃2の工具中心側の端点
b 切れ刃対向稜線8上の点
c 切れ刃2及び外周側切れ刃9の連設点
d 外周側切れ刃9の外周側の端点
e シンニングヒール面7と逃げ面13との交差稜線上の工具外周側の端点
f 副マージン12の工具回転方向前方側の端点

Claims (8)

  1. 工具本体の外周に工具先端から基端側に向かう複数の螺旋状の切り屑排出溝が設けられ、この工具本体の先端に開放される前記切り屑排出溝の縁に切れ刃が設けられ、前記工具本体の先端部にシンニングすくい面とシンニングヒール面とを有するシンニング部が設けられ、前記シンニングヒール面と前記切り屑排出溝の工具回転方向後方側を向く溝壁面との交差稜線部に切れ刃対向稜線が設けられた穴明け工具であって、前記シンニング部のシンニング通し角は30°以上60°以下に設定され、工具先端視において前記切れ刃の工具中心側の端点と工具中心点とを通る直線L1と、この直線L1と平行で前記切れ刃の工具回転方向前方側に対向する前記切れ刃対向稜線上の点を通り且つ前記直線L1との距離が最大となる直線L2との間隔が、工具外径の15%以上35%以下となるように構成されており、前記切れ刃の工具外周側に主マージンが設けられ、この主マージンの工具回転方向後方側に副マージンが設けられ、工具先端視において前記シンニングヒール面と該シンニングヒール面の工具回転方向前方側逃げ面との交差稜線上の工具外周側の端点及び前記工具中心点を通る直線L5と、前記副マージンの工具回転方向前方側の端点及び前記工具中心点を通る直線L6とがなす角度が、前記直線L5の工具回転方向前方側を正として−20°以上+30°以下であり、前記主マージンの幅及び副マージンの幅が夫々工具外径の1%以上6%以下に設定されていることを特徴とする穴明け工具。
  2. 請求項1記載の穴明け工具において、前記切れ刃の工具外周側に外周側切れ刃が設けられていることを特徴とする穴明け工具。
  3. 請求項2記載の穴明け工具において、前記外周側切れ刃は工具外周側ほど工具回転方向後方側に後退するように設けられ、工具先端視において前記切れ刃及び前記外周側切れ刃の連設点と該外周側切れ刃の外周側の端点とを通る直線L3と、前記直線L1とがなす角度が10°以上50°以下に設定されていることを特徴とする穴明け工具。
  4. 請求項2,3いずれか1項に記載の穴明け工具において、外周側切れ刃の長さが工具外径の1%以上15%未満に設定されていることを特徴とする穴明け工具。
  5. 請求項2〜4いずれか1項に記載の穴明け工具において、前記切れ刃の工具中心側に中心側切れ刃が設けられていることを特徴とする穴明け工具。
  6. 請求項5記載の穴明け工具において、工具先端視において前記切れ刃の工具中心側の端点と工具中心点との間隔が工具外径の1%以上19%以下であることを特徴とする穴明け工具。
  7. 請求項5,6いずれか1項に記載の穴明け工具において、工具軸直角方向視において前記外周側切れ刃及び前記中心側切れ刃が、工具中心軸に直角な線L4に対し工具中心側から工具外周側に向かうほど工具先端側に突出する方向を正として−5°以上+5°以下の角度で設けられていることを特徴とする穴明け工具。
  8. 請求項1〜7いずれか1項に記載の穴明け工具において、溝幅比が0.7以上1.2以下であることを特徴とする穴明け工具。
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