以下、本発明のコイル部品とそれに用いる磁心の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
まずコイル部品に用いる磁心について説明する。磁心は軟磁性材料としてFe−Cr−Al系合金の磁性粉末を用い、所定の形状に成形し、成形体を、所定の温度で酸素(O)を含む雰囲気にて熱処理して形成される。
磁性粉末を構成するFe−Al−Cr系合金粒は、Feをベース元素とし、更にAlおよびCrを含有する。AlやCrは後述する合金粒表面の酸化物形成に寄与し、磁心の大気環境中での耐食性等を高める。またFe−Si系、Fe−Si−Al系、あるいはFe−Si−Cr系合金と比較して、相対的に低い成形圧でも、高い占積率と強度を備えた磁心を得ることができる。そのため、成形機の大型化・複雑化も回避することができる。また、低圧で成形できるため、金型の破損も低減し生産性が向上する。
Fe−Al−Cr合金粒の磁性粉末を所定の形状に圧縮成形した後、酸素を含む雰囲気にて成形体を所定の温度で熱処理すると、酸素に対して親和力の大きい非鉄金属(Al,Cr)とFeの酸化物がFe−Al−Cr合金粒から自己生成されて、合金粒の表面を覆う。形成された酸化物の一部は、磁心のFe−Al−Cr合金粒間に粒界相として現れて、合金粒間の抵抗を高めるとともに、Fe−Al−Cr合金粒間を強固に結合する。また、成形体の表面に現れたFe−Al−Cr合金粒にも酸化物が形成されるので、熱処理後の磁心の表面は酸化物で覆われたものとなって、磁心の絶縁性が向上する。
成形体の熱処理によって酸化物を形成することができるので、磁性粉末の絶縁処理工程を省略することが可能である上に、Fe,Al,Crを含む酸化物によって優れた絶縁性が発揮され、合金粒間の結合も簡易であるため、かかる点においても生産性が向上する。
Fe−Al−Cr合金粒の具体的な合金組成は、本発明のコイル部品に用いられる磁心を構成出来るものであれば特に限定するものではないが、各元素の好ましい範囲は、合金の粉末化の容易さや、磁心の磁気特性等を考慮して設定することが出来る。
AlやCrは合金粒表面の酸化物形成に寄与し、大気環境中での耐食性等を高める元素である。Alは透磁率等の磁気特性を改善する元素でもあるが、合金中に占める割合が多くなり過ぎると飽和磁束密度が低下する。また、Fe−Cr−Al系合金とする際に、溶湯からAlが酸化物のスラグとなって分離して合金組成のずれを生じ易くなる。その為、Alの組成量は10.0質量%以下が好ましい。より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下である。またAlの組成量が3質量%未満であると、Alによる酸化物の形成が十分でない場合があり、Alを3.0質量%以上含むのが好ましい。より好ましくは4.0質量%以上である。
Crの組成量もまた、磁気特性においてAlと同様の理由で、3.0質量%以上、10.0質量%以下とするのが好ましい。より好ましくは、Crは3.5質量%以上、7.0質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下である。
一般的なFe系合金の精錬工程においては、不純物である酸素を除くために脱酸剤として通常Siが用いられる。添加されたSiは不純物である酸素と結合し酸化物として分離し、精錬工程中に取り除かれるが、一部は合金中に残留する。そのため不可避不純物として0.5質量%程度まで合金中にSiを含む場合が多い。また、使用する原料の純度が低い場合や、原料を回収して利用する場合などには、1.0質量%程度まで合金中にSiを含む場合がある。Fe−Al−Cr系合金粒にSiを僅かに含む場合には、磁気特性向上の効果が得られる場合があり、また、Si量が多いと磁心の強度が低下する傾向がある。純度が高い原料を用い、真空鋳造するなどして精錬し、不純物を低減することは可能だが、Fe−Al−Cr系合金粒のSi量を0.05質量%未満とするのは量産性が乏しく、コストの面からも好ましくない。したがって本発明のFe−Al−Cr系合金粒においては、Siを0.05質量%以上1.0質量%未満含んでいても良い。Siは不可避不純物レベル(0.5質量%未満)であることがより好ましい。
上記Al、CrやSi以外の残部は他の不可避不純物を除き、主にFeで構成されるが、Fe−Al−Cr合金粒が持つ成形性等が優れる利点を発揮する限りにおいて、他の元素を含むことができる。例えば、Fe、Al、Crに加えてY、Zr、Nb、La、Hf、Taのいずれか一つ以上を含む磁心はその強度が向上する。但し、合金中に非磁性元素を多く含むと飽和磁束密度等が低下するため、Y、Zr、Nb、La、Hf、Taの総量は1.0質量%以下であることが好ましい。
Fe−Al−Cr合金粒の平均粒径(ここでは、累積粒度分布におけるメジアン径D50を用いる)は、これを限定するものではないが、例えば、1μm以上、100μm以下の平均粒径を有するものを用いることができる。平均粒径を小さくすることで、磁心の強度、磁心損失、高周波特性が改善されるので、メジアン径D50は、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。一方、平均粒径が小さい場合は透磁率が低くなるため、メジアン径D50は、より好ましくは5μm以上である。
また、Fe−Al−Cr合金粒の形態も特に限定するものではないが、例えば、流動性等の観点からは、所定組成に調整された溶湯から、比較的球状の粒が得られやすいアトマイズ法による合金粒を用いることが好ましい。前記Fe−Al−Cr合金粒は通常、多結晶であるが、磁性粉末中に単結晶のFe−Al−Cr合金粒を含んでいても良い。ガスアトマイズ、水アトマイズ等のアトマイズ法は、展性や延性が高く、粉砕しにくい合金の粉末作製に好適である。
次に、磁心の製造方法について説明する。磁心は基本3つの工程を経て形成される。前記工程は、Fe−Al−Cr合金粒でなる磁性粉末とバインダを混合する第1の工程(混合工程)と、前記第1の工程(混合工程)を経て得られた混合物を加圧成形する第2の工程(成形工程)と、前記成形工程を経た成形体を熱処理する第3の工程(熱処理工程)である。熱処理工程によって、磁心の表面及び内部に、Fe−Al−Cr合金粒に含有する元素を含む酸化物を形成する。前記酸化物によってFe−Al−Cr系合金粒間が繋がれると共に磁心の表面が覆うことが出来る。
更に、第2の工程(成形工程)と第3の工程(滅処理工程)との間であって、前記成形工程を経て得られた成形体に、研削加工および切削加工の少なくとも一方(以下、「研削加工等」ともいう)を施す第4の工程(加工工程)を有しても良い。前記加工工程によれば一層複雑な形状の磁心を得ることが出来る。更に成形工程と加工工程との間であって、バインダの分解温度よりも高温で、且つ熱処理工程の熱処理温度よりも低温で予備熱処理を行う第5の工程(加工前熱処理工程)を有しても良い。予備熱処理によってFe−Al−Cr系合金粒の表面にAlを含む酸化物層が形成し合金粒間を結合する。その強度は、熱処理工程での熱処理による合金粒間の結合によって得られる強度よりも弱く、成形工程でのバインダによる合金粒間の結合によって得られる強度よりも強い。研削加工等にて成形体よりも大きな強度が必要な場合には、加工前熱処理工程を設ければ良い。
次に、第1の工程(混合工程)で用いるバインダについて説明する。バインダは、第2の工程(成形工程)にて加圧成形する際、合金粒同士を結着させ、成形後の研削加工等やハンドリングに耐える強度を成形体に付与する。バインダの種類は、これを限定するものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル樹脂等の各種有機バインダを用いることができる。有機バインダは成形後の熱処理により熱分解するので、Fe−Al−Cr合金粒の表面に自己生成される酸化物による合金粒間の結合を妨げない。
バインダの添加量は、合金粒間に十分に行きわたり、十分な成形体強度を確保できる量にすればよい。一方、これが多すぎると熱処理後の密度や強度が低下するようになる。例えば、Fe−Al−Cr系合金粒でなる磁性粉末100重量部に対して、0.25〜3.0重量部にすることが好ましい。更に第4の工程(加工工程)で行う研削加工等に耐える強度とするためには、0.5〜1.5重量部とするのがより好ましい。
第1の工程(混合工程)における磁性粉末とバインダとの混合方法は、これを特に限定するものではない。従来から知られている混合方法や、混合機を用いることができる。バインダが混合された状態では、その結着作用により、混合粉は広い粒度分布をもった凝集粉になっている。かかる混合粉を、例えば振動篩等を用いて篩に通すことによって、成形に適した所望の二次粒子径の造粒粉を得ることができる。また、スプレードライヤを用いて造粒粉を得ることもできる。また、加圧成形時に磁性粉末と金型との摩擦を低減させるために、ステアリン酸、ステアリン酸塩等の潤滑剤を添加するのも好ましい。潤滑剤の添加量は、磁性粉末100重量部に対して0.1〜2.0重量部とすることが好ましい。一方で、潤滑剤は、金型に塗布する、または吹き付けて用いることも可能である。
次に、第1の工程(混合工程)を経て得られた混合物を加圧成形する、第2の工程(成形工程)について説明する。第1の工程(混合工程)で得られた混合物は、好適には上述のように造粒されて、第2の工程(成形工程)に供される。造粒された混合物は、成形金型を用いて、板形状、角柱形状、円柱形状、直方体形状、トロイダル形状、ドラム形状や他の所定形状に加圧成形される。第2の工程(成形工程)における成形は、室温成形でもよいし、有機バインダが消失しない程度に加熱して行う温間成形でもよい。第2の工程(成形工程)においては、必ずしもニアネットシェイプの成形体を得る必要は無い。後述する第4の工程(加工工程)で研削加工等を行い得るからである。
上述のようにFe−Al−Cr系合金粒からなる磁性粉末は、低い成形圧で磁心の占積率(相対密度)を高めることができ、磁心の強度も向上する。かかる作用を利用して、熱処理を経た磁心の占積率を80〜90%の範囲内にすることがより好ましい。占積率を80〜90%の範囲内とするのは、占積率を高めることで磁気特性が向上する一方、過度に占積率を高めようとすると、設備的、コスト的な負荷が大きくなるためである。
次に、前記第2の工程(成形工程)を経た成形体を熱処理する第3の工程(熱処理工程)について説明する。成形等で導入された応力歪を緩和して良好な磁気特性を得るために、またFe−Al−Cr系合金粒から酸化物を自己生成させるように、第2の工程(成形工程)を経た成形体に対して熱処理が施される。かかる熱処理によって、成形体を構成するFe−Al−Cr系合金粒の表面に、合金粒の含有元素であるFe,Al,Crを含む酸化物層が形成される。
熱処理は、大気中や、酸素と不活性ガスの混合気体中など、酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。また、水蒸気と不活性ガスの混合気体中など、水蒸気が存在する雰囲気中で熱処理を行うこともできる。これらの内、大気中の熱処理が容易であり好ましい。また、熱処理雰囲気の圧力もこれを特に限定するものではないが、圧力制御を必要としない大気圧下が好ましい。
上記の熱処理によってFe−Al−Cr系合金粒の表面が酸化されて酸化物が形成される。この酸化物は、Fe−Al−Cr系合金粒の表面全体を覆うように層状に形成されるとともに、Fe−Al−Cr系合金粒間を埋めるように形成される。前記第3の工程(熱処理工程)を経た磁心においては、その内部において、前記酸化物の一部が2つの合金粒間(2粒子粒界と呼ぶ)の粒界相を形成し、また他の一部は複数の合金粒間に囲まれる領域を埋めるように形成される。また磁心の表面には、Fe−Al−Cr系合金粒の表面の酸化物層と、複数の合金粒間に囲まれる領域を埋めるように形成された酸化物が表れる。以下、複数の合金粒間に囲まれる領域を埋めるように形成された酸化物を酸化物相として、Fe−Al−Cr系合金粒の表面の酸化物層と区別する。この様な構成によって磁心の絶縁性および耐食性が向上する。また、かかる酸化物は、成形体を構成した後に形成され、合金粒同士の結合に寄与し、もって強度に優れた磁心が得られる。
第3の工程(熱処理工程)の熱処理は、上記酸化物が形成される温度で行えばよい。この熱処理は成形等によってFe−Al−Cr系合金粒に与えられた歪を開放する焼鈍でもある。熱処理は、Fe−Al−Cr系合金粒の磁性粉末が著しく焼結しない温度で行うことが好ましい。ここで「著しく焼結」とは、熱処理により形成された酸化物による粒子間の結合が減じられ、多くの粒子間がネッキングにより直接結合する状態を言い、磁心損失の増加、絶縁性の劣化を招く。熱処理の「著しく焼結」しない温度は、具体的には、600〜900℃の範囲が好ましく、700〜850℃の範囲がより好ましい。
熱処理においては、成形体の内部よりも表面に酸素が供給され易いことは、あらためて説明するまでも無いが、そのような雰囲気差と熱処理温度によって、磁心の表面側のFe−Al−Cr系合金粒の酸化が進み、Fe酸化物であるヘマタイトが形成される場合がある。ヘマタイト自体は磁心の絶縁性を向上させるが、その量が多いとヘマタイト自体の色調によって磁心に発生した赤錆として認識され、外観上好ましくない場合がある。そのため、熱処理の温度は700〜800℃の範囲がより好ましい。保持時間は、磁心の大きさ、処理量、特性ばらつきの許容範囲などによって適宜設定される。例えば0.5〜3時間が好ましい。
次に、前記第2の工程(成形工程)を経て得られた成形体に、研削加工および切削加工の少なくとも一方を施す第4の工程(加工工程)について説明する。かかる研削加工等は、成形体を所定の形状、寸法にするための加工や、角部の面取り加工、成形時に生じたバリ取り加工を含んでも良い。磁心が相当に複雑な形状である場合や、磁心が小さくて、加圧成形では所定形状に形成するのが困難な場合に有効である。研削加工は回転砥石等を用い、切削加工は切削工具を用いて行うことができる。
第3の工程(熱処理工程)の前に第4の工程(加工工程)を行う理由を説明する。第3の工程(熱処理工程)の熱処理後の磁心は、形成された酸化物によって、硬くて加工が困難であり、磁心を所定の形状に加工するには時間を要するとともに、加工後の加工面の絶縁処理も必要となって工程が煩雑になるからである。それほどに、熱処理により形成された酸化物はFe−Al−Cr系合金粒間を強固に結合するが、第2の工程(成形工程)を経た段階での成形体は、酸化物が形成される前段階にあるため、研削加工等が容易で、加工時間を大幅に短縮することが出来る。
第4の工程(加工工程)後の成形体は、加工面の合金粒が剥がれたり、削られたりして内部の合金相が露出する。しかしながら、第3の工程(熱処理工程)の熱処理を経ることで、合金粒の表面が酸化物に覆われるため、加工面の絶縁性が確保される。また熱処理は、成形時や加工時の歪み除去、合金粒同士の結合および加工面の絶縁層形成を兼ねることができるため、複雑な形状であっても、高強度、高絶縁性の磁心の効率的な製造が可能になる。
上記のようにして得られる磁心は、磁心自体が優れた効果を発揮する。Fe−Al−Cr系合金粒の磁性粉末は、成形性に優れ、高い占積率と磁心強度を実現する上で好適である。また、前記酸化物によって、Fe−Al−Cr系合金粒間、ひいては磁心の絶縁性が確保され、磁心として十分な磁心損失が実現される。
前記磁心は、その断面観察像において各Fe−Al−Cr系合金粒の最大径の平均が15μm以下であることが好ましく、8μm以下がより好ましい。磁心を構成するFe−Al−Cr系合金粒が細かいことで、特に高周波での磁心損失が改善される。一方、透磁率の低下を抑える観点からは最大径の平均は0.5μm以上であることがより好ましい。最大径の平均は、磁心の断面を研磨して顕微鏡観察し、一定の面積の視野内に存在する粒子について最大径を読み取り、その個数平均を取って算出すればよい。このとき、30個以上の粒子についての平均をとることが好ましい。成形後のFe−Al−Cr系合金粒は塑性変形し、断面観察では、ほとんどの粒子が中心以外の部分の断面で露出するため、上記最大径の平均は粉末状態で評価したメジアン径D50よりも小さい値となる。
磁心は絶縁性、強度に優れるので、磁心の表面にコイルの端部を接続する端子を設けることが出来る。例えばSPCC、銅合金、Ni合金、ステンレス等の金属端子を接着固定したり、かしめて取り付けたりすることが出来る。金属端子には適宜Niめっき、Snめっき等のめっき皮膜を設けるのが好ましい。また、スパッタリング法、イオンプレーティング法、あるいは導体ペーストを用いた印刷法、転写法、ディップ法などの方法で膜状に端子を形成しても良い。前記端子は回路基板と接続する機能を有し、コイル部品を回路基板に面実装可能とするので好ましい。
スパッタリング法、イオンプレーティング法で端子用の金属材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Ti、AlやNi、あるいはCu−Cr合金、Au−Ni−Cr合金、Ni−Cr合金、Ni−Cu合金等が挙げられる。スパッタリング法やイオンプレーティング法で形成される電極は、その厚みを〜数μmに形成出来るので使用する金属材料が少なくて済む。また、端子の厚みが薄ければ、端子に生じる渦電流による磁心損失の低減も期待できる。
導体ペーストを用いた印刷法、転写法、ディップ法では、Ag、Cu、Ti、Niやその合金等の金属粒を含む導体ペーストを用いることが出来る。導体ペーストは前記金属粒とガラス粉末と有機ビヒクルと溶剤を含むのが望ましい。ガラス粉末を含む導体ペーストを用いると、焼付けた後、ガラスが端子と磁心の表面との界面に存在して、端子の密着強度を向上させる。導体ペーストを用いて第2の工程(成形工程)を経た成形体、或いは第3の工程(熱処理工程)を経た磁心の表面に、端子となるパターンを直接形成し、焼き付ければ良い。焼き付け後の厚みは10〜30μmであるのが好ましい。第2の工程(成形工程)を経た成形体に導体ペーストで端子となるパターンを形成すれば、前記第3の工程(熱処理工程)で導体ペーストを焼付けて端子を形成出来るので、工数を低減できて好ましい。
AgやAg合金の金属粒を含む導体ペーストを用いて、第2の工程(成形工程)にて端子となるパターンを形成する場合に、前記第3の工程(熱処理工程)の熱処理によって、Fe−Al−Cr系合金粒の表層の酸化物よりも厚く、端子直下に酸化物層が形成され易い。端子直下における厚い酸化物層の形成は、端子と磁心との絶縁と密着強度の向上に寄与するので好ましい。
導体ペーストには、焼き付け時の収縮率制御材として、Pd、Ir、Pt、Ru、Rh、Ti、及びCoからなる群から選ばれる一種以上の金属を添加する場合があり、それらを含む導体ペーストでは、端子直下における厚い酸化物層の形成が顕著となる。特にPt、RuあるいはRhは、Fe−Al−Cr系合金粒の酸化を促進する触媒として機能し、端子直下の厚い酸化物の形成を一層助長する傾向がある。
スパッタリング法、イオンプレーティング法、あるいは導体ペーストを用いた印刷法、転写法、ディップ法で形成する端子には、その保護や、耐熱性、はんだ付け性(濡れ性)等を向上するように、めっき皮膜を形成するのが好ましい。めっき皮膜は下地となる金属にもよるが、Au、Ag、Niや、はんだが用いられる。磁心の表面は酸化物によって高抵抗であるため、電解めっき法、無電解めっき法のどちらでも採用できる。一方で、電解めっき法を採用する場合には、めっきの際に電流が集中し易い角部を避けて端子を形成することで、めっきが伸びて端子間が短絡するのを防ぐのが望ましい。
非接触型表面粗さの面分析による磁心表面の面粗さは、成形したままの未加工面では、例えばRa(算術平均粗さ)が1.0μm〜2.5μm、Ry(最大高さ)が10μm〜30μmであり、成形後に研削加工等を施した加工面ではRaが3.0μm〜5.0μm、Ryが20μm〜40μmである。いずれ方法で形成された端子であっても、加工面、未加工面にかかわらず形成することが出来るが、スパッタリング法、イオンプレーティング法では、面粗さが小さい、成形したままの未加工面に端子を形成するのが好ましい。磁心の表面の微小な窪みがもたらすアンカー効果によって、金属端子の固着強度や、膜状の端子の密着強度の向上が期待できる。
得られた磁心にコイルを敷設しコイル部品とする。コイルは所定の線径を有しエナメルからなる絶縁被覆された単線や平角導体線、あるいは細いエナメル銅線を数十〜数百本撚り合せて導体線の導体表面積を大きくしたリッツ線等を用いることが出来、1ターン以上で巻回させて構成される。コイルの端部は適宜前記端子と、はんだ付け、溶接や熱圧着、あるいは超音波振動等の接続手段により接合される。磁心は絶縁性に優れるので、磁心に接してコイルを配置することが出来る。前記コイル部品は、例えばチョーク、インダクタ、リアクトル、トランス等として用いられる。
(実施例1)
以下の様にして、まずFe−Al−Cr系合金粒の磁性粉末を用いた磁心を作製した。磁性粉末として、質量百分率でFe−5.0%Al−4.0%Cr−0.2%Siの合金組成を有するアトマイズ粉を準備した。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)で測定したアトマイズ粉の平均粒径(メジアン系D50)は9.8μmであった。
前記磁性粉末100重量部に対して、バインダとしてエマルジョンのアクリル樹脂系のバインダ(昭和高分子株式会社製ポリゾールAP−604 固形分40%)を2.0重量部の割合で混合した。混合粉を120℃で1時間乾燥し、篩に通して平均粒径(D50)が60〜80μmの範囲内の造粒粉を得た。この造粒粉に、磁性粉末100重量部に対して0.4重量部の割合でステアリン酸亜鉛を添加、混合して成形用の混合物を得た。
得られた混合物を、プレス機を使用して、0.91GPaの成形圧で室温にて加圧成形した。得られたトロイダル形状の成形体に、大気中で、室温から450℃まで4時間で昇温し、450℃で1時間保持した後、750℃まで1時間で昇温し、750℃で1.0時間保持して熱処理を施した後、炉冷して磁心を得た。
(比較例1)
同様にして、比較用にFe−Cr−Si系合金粒の磁性粉末を用いた磁心を作製した。磁性粉末として、質量百分率でFe−4.0%Cr−3.5%Siの合金組成を有するアトマイズ粉を用いた。実施例1の場合と同様の条件で混合、加圧成形し、成形体を得た。それを大気中で熱処理を行い、磁心を得た。熱処理は、室温から700℃まで3時間で昇温し、700℃で1時間保持した後、炉冷する条件とした。
(比較例2)
同様にして、比較用にFe−Si系合金粒の磁性粉末を用いた磁心を作製した。磁性粉末として、質量百分率でFe−3.5%Siの合金組成を有するアトマイズ粉を用いた。実施例1の場合と同様の条件で混合、加圧成形し、成形体を得た。それを大気中で熱処理を行い、磁心を得た。熱処理は、室温から500℃まで2時間で昇温し、500℃で1時間保持した後、炉冷する条件とした。Fe−Si系合金粒の磁性粉末を用いた場合は、500℃を超える温度で熱処理すると磁心損失が劣化するため、熱処理温度を実施例1や比較例1よりも低い500℃とした。
以上の工程により、図1に示すトロイダル形状の磁心を作製した。磁心の外形寸法は、外径φ13.4mm、内径φ7.74mm、高さ4.3mmである。得られた磁心を用いて強度や比抵抗を含む物性を評価した。
(密度及び占積率)
磁心の密度をその寸法および質量から算出し、更に磁心の密度を合金の真密度で除して占積率(相対密度)を算出した。
(圧環強度σr)
磁心の径方向に荷重をかけ、破壊時の最大加重P(N)を測定し、次式から圧環強度σr(MPa)を求めた。なお磁心の肉厚dは、磁心の外径と磁心の内径との差分を1/2にして算出する。
σr=P×(D−d)/(Id2)
(ここで、D:磁心の外径(mm)、d:磁心の肉厚(mm)、I:磁心の高さ(mm)である。)
(磁心損失Pcv)
一次側巻線と二次側巻線として、それぞれ導線を15ターン巻回し、岩通計測株式会社製B−HアナライザーSY−8232により、最大磁束密度30mT、周波数300kHzの条件で磁心損失Pcvを室温で測定した。
(実効透磁率μe)
周波数100kHz〜10MHzでは、磁心に導線を8ターン巻回してコイル部品とし、ヒューレット・パッカード社製LCRメータ4285Aにより自己インダクタンスLと損失抵抗Rsを測定し、周波数10MHz〜100MHzでは、磁心をアジレント・テクノロジー社製インピーダンスアナライザE4991Aにより、16454Aのテストフィクスチャを用いて自己インダクタンスLと損失抵抗Rsを測定し、実効透磁率の実数成分(μ’e)と虚数成分(μ”e)を次式にて算出することにより求めた。
μ’e=(le×L)/(μ0×Ae×N2)
(le:磁路長、L:試料の自己インダクタンス(H)、μ0:真空の透磁率=4π×10−7(H/m)、Ae:磁心の断面積、N:コイルの巻数)
μ”e=〔le×(Rs−Rw)〕/(μ0×ω×Ae×N2)
(le:磁路長、Rs:試料の損失抵抗(Ω)、Rw:巻線の抵抗(Ω)、μ0:真空の透磁率=4π×10−7(H/m)、ω:角周波数(2πf)、Ae:磁心の断面積、N:コイルの巻数)
μe=μ’e−jμ”e
(比抵抗ρ)
トロイダル形状の磁心と同様の条件で円板状の磁心を作製した。その対向する二平面に導電性接着剤を塗り、乾燥・固化の後、電極の間にセットし、電気抵抗測定装置(株式会社エーディーシー製8340A)を用いて、50Vの直流電圧を印加し、抵抗値R(Ω)を測定した。磁心の平面の面積A(m2)と厚みt(m)とを測定し、次式により比抵抗ρ(Ω/m)を算出した。磁心の代表寸法は、外径φ13.5mm、厚みt=4mmである。
比抵抗ρ(Ω・m)=R×(A/t)
上記測定にて得られた結果を表1に纏めて示す。なお実効透磁率は100kHzでの値を示す。また実施例1について実効透磁率の周波数特性を図4に示す。
表1に示すように、磁性粉末としてFe−Al−Cr系合金粒を用いた実施例1の磁心は、優れた磁気特性を発揮しつつ、比較例1,2の磁心と比べて圧環強度が高く、100MPaを超える圧環強度が得られた。また比抵抗は、比較例2の磁心と比べて2桁も大きく、104Ω/mを超えた。また、周波数が10MHzでも実効透磁率は100kHzと変わらず大きくて、高周波特性に優れていた。すなわち、実施例1に係る構成によれば、簡易な加圧成形によって得られ、高い強度を有し、比抵抗が高く、磁気特性に優れた磁心を用いたコイル部品の提供が可能である。
実施例1の磁心について、走査型電子顕微鏡(SEM/EDX:Scanning Electron Microscope/energy dispersive X−ray spectroscopy)を用いて磁心の表面、及び断面の観察を行った。観察時の加速電圧は10kVである。加速電圧20kVで磁心の表面と断面にて組成の定性分析を行った。結果をSEM写真として図2、図3に示す。
図2は磁心の表面を1000倍で観察したSEM写真であって、写真中央の四角で表されたマーカaは組成の定性分析位置を示している。定性分析では一つのFe−Al−Cr系合金粒に焦点し、そのビーム径は2μmである。磁心の表面は金型との当接面であるため、表面側のFe−Al−Cr系合金粒は平坦に押し潰された状態になっている。そして大きな合金粒間に、小さな合金粒と、後述する酸化物相が分散して位置し、合金粒間は窪み状を呈していた。SEM写真において明度の濃淡で、合金粒は明るく、窪みは暗く観察されるが、大きな合金粒が隣り合う間の窪みは、小さな合金粒が隣り合う間の窪みと比べて一層暗く、その磁心表面からの深さが相対的に深く観察された。前記窪みの大部分は50μm2以下の面積で、後述する断面観察によれば、深さは10μm以下であった。定性分析によれば、磁心の表面を構成するFe−Al−Cr系合金粒の表面では、Fe−Al−Cr系合金粒を構成するFe、Al、CrとともにOが検出され、酸化物となっていることを確認した。Fe、Al、Cr、Oの総量を100質量%とし、各成分元素を定量した結果を表2に示す。
図3(a)は磁心の断面を1000倍で観察したSEM写真であって、四角で表されたマーカb、cは組成の定性分析位置を示している。図3(b)は磁心の表面に位置するFe−Al−Cr系合金粒を50000倍で観察したSEM写真である。図3(a)(b)のSEM写真では、その上方側が成形によって現れた磁心の表面となる。図3(a)に示したSEM写真において、Fe−Al−Cr系合金粒12は明度の濃淡で明るく、空孔18は暗く観察される。また、複数のFe−Al−Cr系合金粒12に囲まれた領域の組織17や、磁心の表面側にあってFe−Al−Cr系合金粒12と隣り合う組織は同じ明度で観察され、Fe−Al−Cr系合金粒12と空孔18との間の明度で確認される。
図3(b)に示したSEM写真において、磁心の最表面側に明るく確認される層は、観察のために形成したPt膜である。前記Pt膜とFe−Al−Cr系合金粒12との間には、明度の異なる層状の組織11が観察された。この層状の組織11が前記表面観察で確認されたFe−Al−Cr系合金粒表面の酸化物層である。Fe−Al−Cr系合金粒12の表面の組織11は、Fe−Al−Cr系合金粒12の二粒子粒界の粒界相の厚みとほぼ同じ、10nm程度の厚みで構成されていた。断面観察によれば、磁心の表面側に位置するFe−Al−Cr系合金粒12の表面の組織11はFe−Al−Cr系合金粒12の二粒子粒界の粒界相にまで及び、Fe−Al−Cr系合金粒12の表面全体を覆っているのが観察された。
断面観察にて、位置bではFe−Al−Cr系合金粒12に焦点し、そのビーム径を5μmとしている。また位置cではFe−Al−Cr系合金粒と隣り合う組織に焦点し、そのビーム径を2μmとしている。定性分析の結果に基づいてFe、Al、Cr、Oの総量を100質量%とし、各成分元素を定量した結果を表3に示す。
組成分析によれば、磁心の表面に位置するFe−Al−Cr系合金粒12と隣り合う組織(分析位置c)では、Fe、Al、CrとともにOが検出され、その成分量はFe−Al−Cr系合金粒表面の酸化物層(分析位置a)と異なっていた。Fe−Al−Cr系合金粒表面の酸化物層(分析位置a)は、Fe−Al−Cr系合金粒(分析位置b)よりも、Fe、AlおよびCrの和に対するAlの比率が高く、Fe−Al−Cr系合金粒12と隣り合う組織である酸化物相(分析位置c)は、前記酸化物層(分析位置a)よりもFe、CrおよびAlの和に対するFeの比率が高い酸化物であることが分かる。なお、合金粒内の分析位置bにて本来不純物とされる酸素(O)が検出されるが、この酸素 は、元々合金粒に含まれるものでは無くて、観察試料作製等の際に試料表面が酸化した等の要因によると推察される。
また、磁心内部であってFe−Al−Cr系合金粒12に囲まれた領域の組織17も、磁心の表面側にあってFe−Al−Cr系合金粒12と隣り合う組織(酸化物相)と同様に、Fe、CrおよびAlの和に対するFeの比率が高い酸化物となっていた。
この様な形態の酸化物層や酸化物相は成形体では確認されず、また検出される金属元素は、Fe−Al−Cr系合金粒に由来するものであるので、成形体を熱処理することでFe−Al−Cr系合金粒より自己形成されたことが分かる。
前述の通り、磁心の表面及び内部には、Fe−Al−Cr系合金粒から自己形成された酸化物(酸化物相、酸化物層)を備える。前記酸化物はFe−Al−Cr系合金粒の表面の極近傍では層状であって、Fe−Al−Cr系合金粒の二粒子粒界の薄い粒界相を構成する。また、Fe−Al−Cr系合金粒に囲まれた領域では、その領域を埋めるように酸化物が存在し、もって磁心を構成するFe−Al−Cr系合金粒は互いに結着され、また磁心の表面は前記酸化物で覆われる。それによって前記磁心を用いたコイル部品は、優れた磁気特性、高強度と絶縁性を有するものとなる。
Fe−Al−Cr系合金粒を用いた磁心とそれを用いたコイル部品は様々な形態を採用することが出来る。以下、その主な形態について説明する。
実施例2のコイル部品10は、磁心をドラム型磁心とし、それにコイルを巻回したものである。図5はドラム型磁心を用いたコイル部品の上面図であり、図6はその下面図であり、図7はそのA−A’断面図である。図8はドラム型磁心の外観を示す斜視図であり、図9はドラム型磁心の正面図であり、図10はその鍔部のA部拡大図である。
図8及び図9に示すように、ドラム型磁心1は、コイル用の導線が巻回される柱状の導線巻回部5(胴部とも呼ばれる)の両端に、鍔部3a、3b(フランジ部とも呼ばれる)を有する形状である。他の形態として、例えば、導線巻回部5が円柱状でその両端側の鍔部3a、3bが円板状のもの、導線巻回部が円柱状でその一端側の鍔部が円板状、他端側が方形を含む多角形板状のもの、導線巻回部が円柱状でその両端側の鍔部が方形を含む多角形板状のもの、導線巻回部が四角柱状でその両端側の鍔部が方形を含む多角形板状のもの等があるが、これに限定されるものではない。
一方の鍔部3bに、エポキシ系接着剤160でSPCCからなる金属端子50a、50bが固定される。金属端子50a、50bの固定は、他に溶着、かしめ等の手段が採用できる。ドラム型磁心1の導線巻回部5に敷設されたコイル20の両端部25a,25bは、金属端子50a、50bにはんだ付けや溶着等によって接続される。
ドラム型磁心1の両鍔部3a、3bの角部は面取り100が施されており、図示した例では片几帳の面取りとしている。図10に示すように、鍔部の側面から内側に引き下がる部分は実質的に平坦に形成された面で構成され、更に、そこから突出する様に、傾斜をもって段差が設けられて鍔部の主面に至る。このような構成によれば、成形体において鍔部の角部の密度上げることが出来て、欠け、割れ等が生じるのを防ぐことが出来る。
鍔部の主面について、KEYENCE社の超深度形状測定顕微鏡VK−8500を用いてRa(算術平均粗さ)、Ry(最大高さ)を測定した。鍔部の主面は成形したままの面である。結果、十点の平均値で、Raが1.4μm、Ryが17.0μmであった。
このドラム型磁心1も高強度と絶縁性とともに優れた磁気特性が確保されており、優れた特性を有するコイル部品を得ることが出来た。
ドラム型磁心1は、加圧成形で得たブロック体(成形体)を加工して形成することも出来る。例えば、少なくとも一部が円柱状、あるいは角柱状の成形体を作製し、研削加工等によって、かかる成形体の側面方向から中心方向に向かってコイルを収める凹部を形成し、研削加工後の成形体を熱処理して、鍔部と導線巻回部を備えたドラム型磁心としても良い。この場合も、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
実施例3はドラム型磁心を用いた他のコイル部品である。図11はコイル部品の上面図であり、図12はその下面図であり、図13はそのA−A’断面図であり、図14は端子を含む領域の部分拡大図である。図15はドラム型磁心の外観を示す斜視図である。
ドラム型磁心1の一方の鍔部3bには、その主面を横断し、対向する2側面に至る窪み部6a、6bが設けられている。そこに、Ag‐Pt合金の金属粒とガラス粉末とを含む導体ペーストを用いた端子60が形成されている。端子60の外縁は鍔部3bの外縁よりも内側に間隔をもって形成されている。端子60にコイル20の両端部25a、25bをはんだ70で接続してコイル部品10とした。端子60は、成形体の窪み部に導体ペーストを印刷し、熱処理して焼き付けて形成されている。熱処理は実施例1と同じ条件とした。成形体の熱処理(焼鈍、酸化物形成)工程で、端子を焼き付けすることで、別に焼き付け工程を設けることなく端子を形成することが出来た。なお図12では、はんだ70が端子60の全体を覆っている状態を示し、同じ引き出し線に2つの符号を付与している。
図14に端子60を含む領域の部分拡大図を示す。端子60の近傍の磁心の表面には、前記Fe−Al−Cr系合金粒12の表面の酸化物層よりも厚い酸化物の層7が形成されている。その厚みは断面観察によれば100nm程度であった。SEM/EDXによる分析の結果、酸化物の層7はFeとOを多く含み、Fe−Al−Cr系合金粒の表面の酸化物層よりも、Fe、CrおよびAlの和に対するFeの比率が高い酸化物となっていた。この場合も前述のコイル部品と同様に、優れた特性を有するコイル部品が得られた。
図16〜図19に磁気シールド型のコイル部品を示す。実施例4のコイル部品を図16に断面図として示す。両鍔のドラム型磁心1の鍔部間に配置されたコイル20を、磁性粉末を含有する磁性樹脂35で覆っている。磁性樹脂35はシリコーン樹脂やエポキシ樹脂などの樹脂に磁性粉末を混合したものである。磁性粉末としては、Ni系フェライト、Mn系フェライト等のフェライト材や、磁心を構成するFe−Al−Cr系合金粒等を用いることが出来る。更に、磁性樹脂35の収縮率を調整するように、SiO2を混ぜる場合もある。磁性樹脂35の透磁率はコイル部品として必要なインダクタンス値に応じて適宜設定され得る。この場合も前述のコイル部品と同様に、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
実施例5のコイル部品を図17に示す。片鍔のドラム型磁心を用いたコイル部品で、磁性粉末を含有する磁性樹脂35で、コイル20を含むドラム型磁心1の一面を除く部分全体を覆っている。コイル20の両端部は前記ドラム型磁心1の前記一面側に現れており、磁性樹脂35で覆われたドラム型磁心1の角部に、ディップ法にて導体ペーストを用いて端子80を形成し、加熱して固着している。この場合も前述のコイル部品と同様に、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
実施例6のコイル部品を図18に示す。両鍔のドラム型磁心を用い、その外周側に筒状磁心を配置したコイル部品である。筒状磁心8はドラム型磁心と同じ、Fe−Al−Si系合金の磁心であっても良いし、Fe−Cr−Si系合金、Fe−Al−Si系合金、パーマロイ等、他の金属系の磁性材料の磁心を使うこともできるし、フェライト材を使うこともできる。筒状磁心8は複数に分割された磁心を組み合わせて構成する場合もある。筒状磁心8に形成された端子50は金属端子で構成している。筒状磁心8の透磁率は、コイル部品として必要なインダクタンス値に応じて適宜設定され得る。また、筒状磁心8とドラム型磁心1との間に形成される磁気ギャップによってもインダクタンス値を調整することが出来る。この場合も前述のコイル部品と同様に、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
実施例7のコイル部品を図19に示す。磁心としてI型磁心を用いている。I型磁心1は前述のドラム型磁心と同様に、コイル20が敷設される導線巻回部を有し、その両端側に鍔部を備える。両端側の鍔部にはディップ法によって形成された端子80が設けられており、コイル20の端部が接続される。そして鍔部間を繋ぐように板状磁心301が橋架けされて接着剤300で固定される。板状磁心301はNi系フェライト、Mn系フェライト等のフェライト材や金属系の磁性材料で形成された磁心が用いられる。この場合も前述のコイル部品と同様に、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
実施例8のコイル部品を図20に示す。磁心として2つのE型磁心を用い、2つのコイル20a、20bを配置している。各コイル20a、20bは耐熱樹脂製の巻枠160a、160bに敷設されており、組み立てが容易である。この場合も前述のコイル部品と同様に、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
上記実施例1〜8のコイル部品は、例えばチョークコイル、リアクトル、ノイズフィルタ等のインダクタとして用いるのが好適である。
図21は本発明のコイル部品の使用例を示す回路構成図である。棒状の磁心1にコイル20を敷設したコイル部品(チョークコイル)10と、環状の磁心1に2つのコイル20を敷設したコイル部品(コモンモードチョークコイル)10を用いた構成例である。この様な構成によって、ノーマルモードノイズとコモンモードのノイズを低減できて、コイル部品10は自動車のエンジンルーム内のインバータ回路等に用いるのが好適である。
実施例9のコイル部品を図22に示す。磁心として平板状の磁心1を用いた、近距離通信用アンテナ、あるいは非接触充電用コイルとして使用可能なコイル部品である。平板状の磁心1に平面コイル20を重ねて配置する構造である。平板状の磁心1は0.3mm〜5mm程度の厚みで、縦5mm以上、横5mm以上の寸法で形成されるのが好ましい。磁心1に割れ等が生じてもその形態が保持されるように、保護用の樹脂フィルム360を貼着しても良い。平板状の磁心1を薄く形成しても磁心が高強度なので、外力によって意図しない割れが生じるのを防ぐことが出来る。この場合も、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
実施例10のコイル部品を図23に示す。棒状であって、その長手方向に貫通する孔部を備えた磁心1に導線を通して構成された、地上デジタルテレビ放送の受信用等のモノポールアンテナとして使用可能なコイル部品である。図示した例では、コイルの端部25a、25bを折り曲げているが、それを回路基板に設けられたスルーホールに通してはんだ固定することで、コイル部品10の回路基板への実装を容易としている。磁心1は、長手方向に連続する溝部を有する棒状の磁心を2つ組み合わせて形成しても良い。また、長手方向に複数の磁心1を並べた構成としても良い。この場合も、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
実施例11のコイル部品を図24に示す。棒状の磁心1にコイル20を巻設したキーレスエントリー用の一軸アンテナや、近距離通信用アンテナ、あるいは非接触充電用コイルとして使用可能なコイル部品である。また、実施例12のコイル部品を図25に示す。片鍔のドラム型磁心1の導線巻回部5にコイル20を敷設したコイル部品10である。近距離通信用アンテナ、あるいは非接触充電用コイルとして使用可能である。ドラム型磁心1の鍔部3には複数の窪み部122が設けられており、コイル20の端部25a、25bは、窪み部122を通って鍔部3の主面に設けられた端子(図示せず)に接続される。窪み部122は成形で形成しても良いし、研削加工で形成しても良い。いずれの場合も、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
図26〜図28にコイル部品に用いる磁心の他の例としてU型の磁心を示す。図26は、円柱状の脚部45a、45bを備え、それらを繋ぐ連結部48が一体に形成された磁心であって、図26(a)は上面図であり、図26(b)はa−a’断面図である。また図27は、長円柱状の脚部45a、45bを備え、それらを繋ぐ連結部48が一体に形成された磁心であって、図27(a)は上面図であり、図27(b)はa−a’断面図である。また図28は、矩形柱状の脚部45a、45bを備え、それらを繋ぐ連結部48が一体に形成された磁心であって、図28(a)は上面図であり、図28(b)はa−a’断面図である。
図26〜図28に示した磁心は、実施例12として図29に示す、トランス等のコイル部品に用いるのが好適である。コイル部品は、U型の磁心1bと板状の磁心1aと、2つの脚部に敷設されたコイル20a、20bとを有する。Fe−Al−Cr系合金粒を用いた磁性粉末は成形し易く、脚部45a、45bの形状の選択肢が広がる。板状の磁心1aもFe−Al−Cr系合金粒を用いた磁心であって良い。このコイル部品も、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
図30、図31にコイル部品に用いる磁心の他の例として、E型の磁心を示す。磁心1は脚部45a、45b、45cを備え、それらを繋ぐ連結部48が一体に形成されている。また、図32はEP型の磁心である。脚部45c、45dを備え、それらを繋ぐ連結部48が一体に形成された磁心である。それらの磁心はコイル部品としてトランス等の用途に好適である。
図33にコイル部品に用いる磁心としてU型の磁心の他の例を示す。脚部45c、45eを備え、それらを繋ぐ連結部48が一体に形成された磁心である。この磁心もコイル部品としてトランス等の用途に好適である。
図34は実施例12のコイル部品に用いる磁心を示す。この磁心1は長円柱状の外形を有し、2つの貫通孔部55a、55bを有する構成となっていて、2つの貫通孔部にコイルを巻いて、インピーダンス変換、平衡信号―不平衡信号変換用のバルントランス等のコイル部品となる。この場合も前述のコイル部品と同様に、優れた特性を有するコイル部品が得られる。
実施例において、幾つかの磁心とコイル部品の構成例、用途を示したが、例示した磁心の構造は一例であって、その形態に限定されるものでは無く、またコイル部品が適用される用途も前述の用途に限定されない。