(第1の実施形態)
以下、車両質量推定処理を具体化した第1の実施形態を図1〜図7に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両質量推定装置であるブレーキ用ECU42(「ブレーキ用電子制御装置」ともいう。)を備える車両が図示されている。図1に示すように、車両は、動力源であるエンジン11を備えており、このエンジン11からの出力は、クラッチ12、変速機13、ディファレンシャルギア14を通じて複数の車輪15に伝達される。クラッチ12は、運転者によるクラッチペダルの操作によって、動力伝達を許可したり、禁止したりするように動作する。変速機13は、運転者によるシフトレバーの操作態様に応じた変速段を選択するようになっている。
また、車両は、各車輪15に対して個別に設けられている複数の制動機構20と、制動機構20によって車輪15に付与される制動力を調整可能な制動装置30とを備えている。制動機構20は、ディスクブレーキである。制動機構20には、車輪15と一体回転する回転体の一例であるディスクロータ21と、制動装置30からブレーキ液が供給されるホイールシリンダ22と、ディスクロータ21に接触可能な一対のパッド23とが設けられている。両パッド23が摩擦材に相当する。こうした両パッド23は、ホイールシリンダ22内のWC圧が増大されるとディスクロータ21に接近する一方、WC圧が減少されるとディスクロータ21から離れるようになっている。そして、両パッド23がディスクロータ21に接触している場合、WC圧が高いほど、両パッド23をディスクロータ21に押し付ける力が大きくなり、制動機構20によって車輪15に付与される制動力が大きくなる。
制動装置30は、液圧発生装置31とブレーキアクチュエータ32とを備えている。液圧発生装置31には、運転者によるブレーキペダル33の操作に応じた液圧であるMC圧Pmcを発生するマスタシリンダ311が設けられている。そして、ブレーキアクチュエータ32の非作動時にあっては、マスタシリンダ311内のMC圧Pmcに応じた量のブレーキ液が制動機構20のホイールシリンダ22内に供給される。すなわち、MC圧Pmcが高いほど、WC圧が高くなる。
ブレーキアクチュエータ32は、運転者によってブレーキペダル33が操作されていない場合であっても各ホイールシリンダ22内のWC圧を個別に調整できるように構成されている。例えば、ブレーキアクチュエータ32は、MC圧PmcとWC圧との間の差圧を調整する差圧調整弁と、ホイールシリンダ22内にブレーキ液を供給するための電動ポンプとを備えている。また、ブレーキアクチュエータ32には、各ホイールシリンダ22内のWC圧を個別に調整するための各種弁が設けられている。
車両の制御装置は、エンジン11を制御するエンジン用ECU41(「エンジン用電子制御装置」ともいう。)と、制動装置30を制御するブレーキ用ECU42とを有している。そして、各ECU41,42は、各種の情報及び指令を送信したり受信したりすることができるように構成されている。こうした制御装置には、アクセル開度センサSE1、クラッチセンサSE2、回転数検出センサSE3、ブレーキスイッチSW1、液圧センサSE4、車輪速度センサSE5、前後方向加速度センサSE6及び横方向加速度センサSE7が電気的に接続されている。アクセル開度センサSE1は、アクセルペダルの操作量に応じたアクセル開度ACを検出する。クラッチセンサSE2は、クラッチペダルの操作の有無を検出する。回転数検出センサSE3は、変速機13の出力軸の回転数NTを検出する。
ブレーキスイッチSW1は、ブレーキペダル33の操作の有無を検出する。液圧センサSE4は、マスタシリンダ311内のMC圧Pmcを検出する。車輪速度センサSE5は、車輪15毎に個別に設けられており、対応する車輪15の車輪速度VWを検出する。前後方向加速度センサSE6は、車両の前後方向の加速度である前後加速度Gxを検出する。横方向加速度センサSE7は、車両の横方向の加速度である横加速度Gyを検出する。
なお、前後加速度Gxは、車両が加速しているときには正方向に大きくなり、車両が減速しているときには負方向に大きくなる。本明細書では、前後加速度Gxに「−1」を乗じた値が、「車両の減速度SD」に相当する。
ところで、本実施形態の車両質量推定装置であるブレーキ用ECU42では、車両が走行している最中に、車両質量の推定値Meを演算するようにしている。本明細書でいう「車両質量」とは、車両自体の質量と、車両に積載された貨物の積載質量及び車両に搭乗した乗員に基づく質量とを少なくとも含んだ概念である。
ここで、車両加速時における車両質量の推定値Meの演算方法について説明する。すなわち、ブレーキ用ECU42では、前後方向加速度センサSE6によって検出される前後加速度Gxと、エンジン用ECU41によって演算される、車輪15に伝達される駆動力Fdとに基づいて、車両質量の推定値Meが演算される。
例えば、車両加速中においてクラッチ12が切断され、エンジン11からの駆動力が車輪15に伝達されない状況下での駆動力Fd1(Fd)と、同状況下での前後加速度Gx1(Gx)とが取得される。その後、クラッチ12が接続され、エンジン11からの駆動力が車輪15に伝達されるようになった時点での駆動力Fd2(Fd)と、同時点の前後加速度Gx2(Gx)とが取得される。そして、以下に示す関係式(式1)を用い、車両質量の推定値Meが演算される。
Md = (Fd2−Fd1)/(Gx2−Gx1) ・・・(式1)
こうした車両質量の推定値Meの演算方法は、車両の非制動時に適用可能な演算方法であり、車両制動時には適用することができない。そこで次に、車両制動時での車両質量の推定値Meの演算方法について説明する。
運転者によるブレーキペダル33の操作によって車両に制動力が付与されており、車両が減速している場合、同車両に付与されている制動力Fbと、車両の減速度SDとを用いることにより、車両質量の推定値Meが演算される。この制動力Fbは、各車輪15に付与される制動力の総和と等しい値であり、運転者によるブレーキペダル33の操作に伴って車両に付与される制動力である。そして、制動力Fbは、以下に示す関係式(式2)を用いることにより演算することができる。なお、関係式(式2)において、「Pmc」はマスタシリンダ311内のMC圧であり、「A」はマスタシリンダ311のピストンの面積である。また、「RR」はディスクロータ21の有効径であり、「μ」はパッド23の摩擦係数であり、「RT」はタイヤ径である。
Fb = Pmc×A×RR×μ×RT ・・・(式2)
パッド23の摩擦係数μは、パッド23の温度、及び、ディスクロータ21の回転速度、すなわち車輪15の車輪速度VWなどに応じて変化する。そして、このようにパッド23の摩擦係数μが変化すると、制動力Fbもまた変化する。また、車両の減速度SDは、車両に対する空気抵抗やタイヤの転がり抵抗などの変化に応じて変化する。そのため、単純に、制動力Fbを車両の減速度SDで除することで車両質量の推定値Meを求めた場合、その演算精度が高いとは言い難い。
そこで、車両走行中における1回の制動期間の2つの時点の各々の制動力Fb及び車両の減速度SDが取得される。1回の制動期間とは、運転者によるブレーキペダル33の操作の開始時点から、ブレーキペダル33の操作の終了時点までの期間である。例えば、ブレーキスイッチSW1がオフからオンに移行した時点から、ブレーキスイッチSW1がオンからオフに移行した時点までの期間を、1回の制動期間ということができる。
制動力Fb及び車両の減速度SDが取得される2つの時点のうち、先の第1の時点で取得された制動力Fbを第1の制動力Fb1とした場合、後の第2の時点とは、同時点で取得される制動力Fbである第2の制動力Fb2が第1の制動力Fb1と相違する時点のことである。より具体的には、第2の時点は、第2の制動力Fb2と第1の制動力Fb1との差分が予め設定されている規定制動力ΔFbと等しくなる時点である。
そして、このように第1の時点で取得した制動力である第1の制動力Fb1及び車両の減速度SD1(SD)と、第2の時点で取得した制動力である第2の制動力Fb2及び車両の減速度SD2(SD)とを以下に示す関係式(式3)に代入することにより、車両質量の推定値Meが求められる。すなわち、第1の制動力Fb1と第2の制動力Fb2との差分である制動力差分を、車両の減速度SD1と車両の減速度SD2との差分である減速度差分で除することにより、車両質量の推定値Meが求められる。
Me = (Fb2−Fb1)/(SD2−SD1) ・・・(式3)
ブレーキ用ECU42では、このように関係式(式1)又は(式3)を用いて車両質量の推定値Meが演算される毎に、同車両質量の推定値Meが記憶される。そして、複数の車両質量の推定値Meの平均値を演算し、同値が車両質量Mとされる。
ここで、図2を参照し、パッド23の摩擦係数μと車両の車体速度VSとの関係について説明する。車両の車体速度VSは、各車輪15のうち少なくとも1つの車輪の車輪速度VWに基づいて演算される値であり、車輪速度VWとほぼ対応関係にある。図2に示すように、パッド23の摩擦係数μは、車体速度VSが小さいほど大きくなる。特に、車体速度VSが判定速度VSTh未満である場合、車体速度VSの変化量に対するパッド23の摩擦係数μの変化量の比が非常に大きくなる。すなわち、車体速度VSが判定速度VSTh未満となる状態が、パッド23の摩擦係数μが変化しやすい状態であるということができる。
車両質量の推定値Meの演算精度を高めるためには、制動機構20の構成部品であるパッド23の摩擦係数μの変化(すなわち、特性の変化)が比較的小さい2つの時点で取得した制動力Fbを用いることが望ましい。言い換えると、車体速度VSが判定速度VSTh未満である場合のようにパッド23の摩擦係数μが変化しやすい状況下では、制動力Fbを取得する2つの時点でのパッド23の摩擦係数μが大きく相違している可能性が高い。そして、こうした制動力Fbを用いて車両質量の推定値Meを演算した場合、その演算精度が高いとは言い難い。そこで、本実施形態の車両質量推定装置であるブレーキ用ECU42では、車体速度VSが判定速度VSTh未満である状況下で取得した制動力Fbが、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。
また、上述したように、パッド23の摩擦係数μは、パッド23の温度の変化に応じても変動する。そして、パッド23の温度は、パッド23がディスクロータ21に接触している時間が長いほど高くなる。すなわち、パッド23がディスクロータ21に接触している状態の継続時間が長くなるほど、パッド23の摩擦係数μの変化量が多くなる。そのため、第1の制動力Fb1が取得される第1の時点と、第2の制動力Fb2が取得される第2の時点との時間的な差が大きすぎることは、車両質量の推定値Meの演算精度の低下の抑制を図る上では望ましくない。そこで、本実施形態の車両質量推定装置であるブレーキ用ECU42では、第1の時点からの経過時間が予め設定された規定時間を経過しても第2の時点に達しないときには、同第1の時点で取得した第1の制動力Fb1が、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。
ところで、車両制動時にあっては、マスタシリンダ311内のMC圧Pmcが高くなり、制動力Fbが大きくなるにつれて車両の減速度SDが大きくなる。また、マスタシリンダ311内のMC圧Pmcが低くなり、制動力Fbが小さくなるにつれて車両の減速度SDが小さくなる。しかし、MC圧Pmcの増大速度が大きい急制動時の制動初期では、MC圧Pmcの増大に対して車両の減速度SDに応答遅れが生じる。そして、このように車両の減速度SDに応答遅れが生じているときに取得した減速度SDを用いて車両質量の推定値Meを演算したとしても、その演算精度が高いとは言い難い。
そこで、本実施形態の車両質量推定装置であるブレーキ用ECU42では、運転者によるブレーキペダル33の操作が開始された場合、MC圧Pmcの増大速度に基づき、急制動であるか否かが判定される。例えば、MC圧Pmcが増大している最中における制動力の増大速度DFbが規定速度DFbTh以上になったか否かが判定され、制動力の増大速度DFbが規定速度DFbTh以上になったときには今回の制動が急制動であると判定することができる。そして、このように今回の制動が急制動である場合には、ブレーキペダル33の操作量が増大している最中、すなわち制動力Fbが増大している最中で取得した車両の減速度SDが、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。
ただし、上記のように運転者が急制動を行った際、車両が停止される前に運転者がブレーキペダル33の操作量を少なくすることがある。この場合、MC圧Pmcが減少され、制動力Fbが減少されることにより、車両の減速度SDが小さくなる。そこで、本実施形態の車両質量推定装置であるブレーキ用ECU42では、制動力Fbが減少している最中の2つの時点の各々で制動力Fb及び車両の減速度SDを取得し、これら制動力Fb及び車両の減速度SDを用いて車両質量の推定値Meが演算される。こうした場合であっても、第1の時点で取得される制動力である第1の制動力Fb1と、第2の時点で取得される制動力である第2の制動力Fb2との差分が上記規定制動力ΔFbと等しくなるようにすることが望ましい。
次に、図3に示すフローチャートを参照し、車両質量Mを演算するためにブレーキ用ECU42が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、予め設定されている制御サイクル毎に実行されるルーチンである。
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU42は、車両の車体速度VSを演算する(ステップS11)。例えば、ブレーキ用ECU42は、各車輪15のうち少なくとも1つの車輪の車輪速度VWに基づき車体速度VSを演算することができる。続いて、ブレーキ用ECU42は、前後方向加速度センサSE6によって検出されている前後加速度Gxを取得し(ステップS12)、この前後加速度Gxに「−1」を乗じて車両の減速度SDを求める(ステップS13)。この点で、ブレーキ用ECU42により、車両の減速度SDを取得する「減速度取得部」の一例が構成される。
そして、ブレーキ用ECU42は、液圧センサSE4によって検出されているマスタシリンダ311内のMC圧Pmcを取得し(ステップS14)、このMC圧Pmcを上記関係式(式2)に代入することにより、車両に付与されている制動力Fbを求める(ステップS15)。このときに用いられる摩擦係数μは、図2に示すグラフに準じたマップを参照して決定することができる。この点で、ブレーキ用ECU42により、車両に付与される制動力Fbを取得する「制動力取得部」の一例が構成される。続いて、ブレーキ用ECU42は、エンジン用ECU41から駆動力Fdを取得する(ステップS16)。
そして、ブレーキ用ECU42は、加速時車両質量推定処理を実施する(ステップS17)。この加速時車両質量推定処理では、ブレーキペダル33が操作されていない期間、すなわちブレーキスイッチSW1がオフである期間での車両加速時に、上記関係式(式1)を用いて車両質量の推定値Meが演算される。そのため、ブレーキペダル33が操作されている場合、すなわちブレーキスイッチSW1がオンである場合、ブレーキ用ECU42は、ステップS17では車両質量の推定値Meを演算することなく、その処理を次のステップS18に移行する。
ステップS18において、ブレーキ用ECU42は、図4及び図5を用いて後述する制動時車両質量推定処理を実施する。この制動時車両質量推定処理では、ブレーキペダル33が操作されている制動期間で、上記関係式(式3)を用いて車両質量の推定値Meが演算される。そのため、ブレーキペダル33が操作されていない場合、すなわちブレーキスイッチSW1がオフである場合、ブレーキ用ECU42は、ステップS18では車両質量の推定値Meを演算することなく、その処理を次のステップS19に移行する。
ステップS19において、ブレーキ用ECU42は、演算した複数の車両質量の推定値Meに基づいて車両質量Mを演算する。例えば、ブレーキ用ECU42は、複数の車両質量の推定値Meの平均値を演算し、この平均値を車両質量Mとする。その後、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを一旦終了する。
次に、図4及び図5のフローチャートを参照し、上記ステップS18の制動時車両質量推定処理ルーチン(制動時車両質量推定処理)について説明する。
図4及び図5に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU42は、後述する演算済みフラグFLG3にオフがセットされているか否かを判定する(ステップS31)。演算済みフラグFLG3にオンがセットされている場合(ステップS31:NO)、ブレーキ用ECU42は、車両質量の推定値Meの演算に用いる各種の値を初期化するリセット処理を実施する(ステップS32)。このリセット処理では、後述する各種のフラグFLG1,FLG2にオフがセットされ、第1の制動力Fb1及び第2の制動力Fb2の各々に初期値が代入される。その後、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。
一方、ステップS31において、演算済みフラグFLG3にオフがセットされている場合(YES)、ブレーキ用ECU42は、ブレーキスイッチSW1がオンであるか否かを判定する(ステップS33)。ブレーキスイッチSW1がオフである場合(ステップS33:NO)、ブレーキ用ECU42は、その処理を前述したステップS32に移行する。一方、ブレーキスイッチSW1がオンである場合(ステップS33:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS11で演算した車両の車体速度VSが判定速度VSTh以上であるか否かを判定する(ステップS34)。車体速度VSが判定速度VSTh未満である場合(ステップS34:NO)、ブレーキ用ECU42は、その処理を前述したステップS32に移行する。一方、車体速度VSが判定速度VSTh以上である場合(ステップS34:YES)、ブレーキ用ECU42は、その処理を次のステップS35に移行する。車体速度VSが判定速度VSTh未満となる場合には、車両が停止している場合、及び、制動機構20のパッド23の摩擦係数μが大きく変化しやすい状況である場合が含まれている。そして、こうした場合に取得された制動力Fb及び車両の減速度SDは、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。
ステップS35において、ブレーキ用ECU42は、制動力Fbが減少している最中であるか否かを判定する。このステップS35では、制動力Fbの変化速度から同制動力Fbが減少している最中であるか否かを判定してもよいし、MC圧Pmcの変化速度や車両の減速度SDの変化速度に基づいて制動力Fbが減少している最中であるか否かを判定するようにしてもよい。
そして、制動力Fbが増大している最中や制動力Fbが保持されている最中である場合(ステップS35:NO)、ブレーキ用ECU42は、制動力Fbの変化速度である制動力の増大速度DFbを演算する(ステップS36)。例えば、ブレーキ用ECU42は、制動力Fbを時間微分することにより制動力の増大速度DFbを求めることができる。この点で、ブレーキ用ECU42により、制動力Fbが増大されているときに、同制動力の増大速度DFbを取得する「増大速度取得部」の一例が構成される。
続いて、ブレーキ用ECU42は、演算した制動力の増大速度DFbを用い、運転者が急制動を要求しているか否かを判定する急制動判定処理を実施する(ステップS37)。例えば、このステップS37では、今回の制動期間で制動力Fbが増大されている最中で、制動力の増大速度DFbが規定速度DFbTh以上になる期間があったときには、急制動を運転者が要求していると判断することができる。そして、ブレーキ用ECU42は、急制動が要求されているか否かを判定する(ステップS38)。急制動が要求されている場合(ステップS38:YES)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。すなわち、急制動が要求されていると判定された場合、制動力Fbが増大されているときに取得した制動力Fb及び車両の減速度SDが、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。
一方、急制動が要求されていない場合(ステップS38:NO)、ブレーキ用ECU42は、第1制動フラグFLG1にオフがセットされているか否かを判定する(ステップS39)。この第1制動フラグFLG1は、第1の時点の制動力Fb及び車両の減速度SDが既に取得されているときにオンをセットし、第1の時点の制動力Fb及び車両の減速度SDが未だ取得されていないときにオフをセットするフラグである。そして、第1制動フラグFLG1にオンがセットされている場合(ステップS39:NO)、ブレーキ用ECU42は、その処理を後述するステップS44に移行する。
一方、第1制動フラグFLG1にオフがセットされている場合(ステップS39:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS14で取得したMC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11以上であるか否かを判定する(ステップS40)。この第11の制動力基準値PmcTh11は、制動力Fbが増大している最中で第1の時点になったか否かを判断するための基準値である。すなわち、MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11未満の状態から、MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11以上の状態に移行したタイミングが、第1の時点に相当する。なお、第11の制動力基準値PmcTh11は、第1の時点を制動初期の時点とするために比較的小さい値に決定されている。
MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11未満である場合(ステップS40:NO)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。一方、MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11以上である場合(ステップS40:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS15で取得した最新の制動力Fbを第1の制動力Fb1とする(ステップS41)。続いて、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS13で取得した最新の車両の減速度SDを第1の減速度SD1とする(ステップS42)。そして、ブレーキ用ECU42は、第1制動フラグFLG1にオンをセットし(ステップS43)、その処理を次のステップS44に移行する。
ステップS44において、ブレーキ用ECU42は、第2制動フラグFLG2にオフがセットされているか否かを判定する。この第2制動フラグFLG2は、第2の時点の制動力Fb及び車両の減速度SDが既に取得されているときにオンをセットし、第2の時点の制動力Fb及び車両の減速度SDが未だ取得されていないときにオフをセットするフラグである。この処理ルーチンでは、第2制動フラグFLG2にオンがセットされている場合、車両質量の推定値Meが既に演算されている。そのため、第2制動フラグFLG2にオンがセットされている場合(ステップS44:NO)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。
一方、第2制動フラグFLG2にオフがセットされている場合(ステップS44:YES)、ブレーキ用ECU42は、ステップS43で第1制動フラグFLG1にオンがセットされた時点(すなわち、第1の時点)からの経過時間T1を取得し、この経過時間T1が規定時間T1Th未満であるか否かを判定する(ステップS45)。このステップS45では、第1の制動力Fb1を取得した第1の時点からある程度時間が経過したか否かが判断される。そして、経過時間T1が規定時間T1Th以上である場合(ステップS45:NO)、ブレーキ用ECU42は、その処理を前述したステップS32に移行する。すなわち、第1の時点からの経過時間T1が規定時間T1Th以上になっても、MC圧Pmcが後述する第21の制動力基準値PmcTh21に達しないときには、既に取得している第1の制動力Fb1及び第1の減速度SD1が、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。
一方、経過時間T1が規定時間T1Th未満である場合(ステップS45:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS14で取得したMC圧Pmcが第21の制動力基準値PmcTh21以上であるか否かを判定する(ステップS46)。すなわち、MC圧Pmcが第21の制動力基準値PmcTh21未満の状態から、MC圧Pmcが第21の制動力基準値PmcTh21以上の状態に移行したタイミングが、第2の時点に相当する。なお、第21の制動力基準値PmcTh21は、第11の制動力基準値PmcTh11よりも大きい値である。より具体的には、第21の制動力基準値PmcTh21は、上記ステップS41で取得した第1の制動力Fb1に規定制動力ΔFbを加算した値と等しくなるように設定されている。
MC圧Pmcが第21の制動力基準値PmcTh21未満である場合(ステップS46:NO)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。一方、MC圧Pmcが第21の制動力基準値PmcTh21以上である場合(ステップS46:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS15で演算した制動力Fbを第2の制動力Fb2とする(ステップS47)。続いて、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS13で演算した車両の減速度SDを第2の減速度SD2とし(ステップS48)、第2制動フラグFLG2にオンをセットする(ステップS49)。そして、ブレーキ用ECU42は、その処理を次のステップS50に移行する。
ステップS50において、ブレーキ用ECU42は、取得している第1の制動力Fb1、第2の制動力Fb2、第1の減速度SD1及び第2の減速度SD2を上記関係式(式3)に代入することにより、車両質量の推定値Meを求める。この点で、ブレーキ用ECU42により、車両走行中における1回の制動期間での第1の時点と第2の時点との各々で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用い、車両質量の推定値Meを演算する「演算部」の一例が構成される。その後、ブレーキ用ECU42は、演算済みフラグFLG3にオンをセットし(ステップS51)、本処理ルーチンを終了する。なお、ブレーキスイッチSW1がオンからオフに移行されると、この演算済みフラグFLG3にオフがセットされる。
その一方で、上記ステップS35において、制動力Fbが減少している最中である場合(YES)、ブレーキ用ECU42は、第1制動フラグFLG1にオフがセットされているか否かを判定する(ステップS61)。第1制動フラグFLG1にオンがセットされている場合(ステップS61:NO)、ブレーキ用ECU42は、その処理を後述するステップS66に移行する。
一方、第1制動フラグFLG1にオフがセットされている場合(ステップS61:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS14で取得したMC圧Pmcが第12の制動力基準値PmcTh12以下であるか否かを判定する(ステップS62)。この第12の制動力基準値PmcTh12は、制動力Fbが減少している最中で第1の時点になったか否かを判断するための基準値であり、第21の制動力基準値PmcTh21と同等又は第21の制動力基準値PmcTh21よりも大きい値に設定されている。すなわち、MC圧Pmcが第12の制動力基準値PmcTh12よりも大きい状態から、MC圧Pmcが第12の制動力基準値PmcTh12以下の状態に移行したタイミングが、第1の時点に相当する。
MC圧Pmcが第12の制動力基準値PmcTh12よりも大きい場合(ステップS62:NO)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。一方、MC圧Pmcが第12の制動力基準値PmcTh12以下である場合(ステップS62:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS15で取得した最新の制動力Fbを第1の制動力Fb1とする(ステップS63)。続いて、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS13で取得した最新の車両の減速度SDを第1の減速度SD1とする(ステップS64)。そして、ブレーキ用ECU42は、第1制動フラグFLG1にオンをセットし(ステップS65)、その処理を次のステップS66に移行する。
ステップS66において、ブレーキ用ECU42は、第2制動フラグFLG2にオフがセットされているか否かを判定する。第2制動フラグFLG2にオンがセットされている場合(ステップS66:NO)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。一方、第2制動フラグFLG2にオフがセットされている場合(ステップS66:YES)、ブレーキ用ECU42は、ステップS65で第1制動フラグFLG1にオンがセットされた時点(すなわち、第1の時点)からの経過時間T2を取得し、この経過時間T2が規定時間T2Th未満であるか否かを判定する(ステップS67)。このステップS67では、第1の制動力Fb1を取得した第1の時点からある程度時間が経過したか否かが判断される。なお、規定時間T2Thは、上記規定時間T1Thと等しい値であってもよいし、規定時間T1Thとは異なる値としてもよい。
そして、経過時間T2が規定時間T2Th以上である場合(ステップS67:NO)、ブレーキ用ECU42は、その処理を前述したステップS32に移行する。すなわち、第1の時点からの経過時間T2が規定時間T2Th以上になっても、MC圧Pmcが後述する第22の制動力基準値PmcTh22に達しないときには、既に取得している第1の制動力Fb1及び第1の減速度SD1が、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。
一方、経過時間T2が規定時間T2Th未満である場合(ステップS67:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS14で取得したMC圧Pmcが第22の制動力基準値PmcTh22以下であるか否かを判定する(ステップS68)。すなわち、MC圧Pmcが第22の制動力基準値PmcTh22よりも大きい状態から、MC圧Pmcが第22の制動力基準値PmcTh22以下の状態に移行したタイミングが、第2の時点に相当する。なお、第22の制動力基準値PmcTh22は、第12の制動力基準値PmcTh12よりも小さい値である。より具体的には、第22の制動力基準値PmcTh22は、上記ステップS63で取得した第1の制動力Fb1から規定制動力ΔFbを減じた差と等しくなるように設定されている。
MC圧Pmcが第22の制動力基準値PmcTh22よりも大きい場合(ステップS68:NO)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。一方、MC圧Pmcが第22の制動力基準値PmcTh22以下である場合(ステップS68:YES)、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS15で演算した制動力Fbを第2の制動力Fb2とする(ステップS69)。続いて、ブレーキ用ECU42は、上記ステップS13で演算した車両の減速度SDを第2の減速度SD2とし(ステップS70)、第2制動フラグFLG2にオンをセットする(ステップS71)。そして、ブレーキ用ECU42は、その処理を前述したステップS50に移行する。
次に、図6のタイミングチャートを参照し、車両制動時に車両質量の推定値Meを演算する際の作用について説明する。なお、図6には、制動初期では制動力Fbがゆっくりと増大される場合の一例が図示されている。
図6(a),(b),(c)に示すように、車両走行中の第1のタイミングt11で、運転者によってブレーキペダル33の操作が開始されると、マスタシリンダ311内のMC圧Pmcが、ブレーキペダル33の操作量の増大に伴って次第に増大される。また、このようにMC圧Pmcが増大されると、上記関係式(式2)を用いて演算される制動力Fbもまた次第に増大される。すると、制動初期の第2のタイミングt12が、MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11未満の状態から、MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11以上の状態に移行するタイミングとなる(ステップS40:YES)。この際、急制動ではないため(ステップS38:NO)、この第2のタイミングt12が第1の時点となる。したがって、第2のタイミングt12の制動力Fbが第1の制動力Fb1とされ(ステップS41)、第2のタイミングt12の車両の減速度SDが第1の減速度SD1とされる(ステップS42)。
その後もMC圧Pmcが増大されると、制動力Fb及び車両の減速度SDの双方が大きくなる。そして、このようにMC圧Pmcが増大している最中の第3のタイミングt13が、MC圧Pmcが第21の制動力基準値PmcTh21未満の状態から、MC圧Pmcが第21の制動力基準値PmcTh21以上の状態に移行するタイミングとなる(ステップS46:YES)。なお、この第3のタイミングt13は、第1の時点である第2のタイミングt12からの経過時間T1が規定時間T1Thに達する第4のタイミングt14よりも前のタイミングである。
したがって、図6に示す例では、第3のタイミングt13が第2の時点とされる。そのため、第3のタイミングt13の制動力Fbが第2の制動力Fb2とされ(ステップS47)、第3のタイミングt13の車両の減速度SDが第2の減速度SD2とされる(ステップS48)。ちなみに、この第2の制動力Fb2と第1の制動力Fb1との差分は、規定制動力ΔFbとほぼ等しい。
そして、このように車両走行中における1回の制動期間中の第1の時点及び第2の時点の各々で、制動力Fb(Fb1,Fb2)及び車両の減速度SD(SD1,SD2)が取得されると、上記関係式(式3)を用いて車両質量の推定値Meが演算される(ステップS50)。
次に、図7のタイミングチャートを参照し、車両の急制動時に車両質量の推定値Meを演算する際の作用について説明する。
図7(a),(b),(c)に示すように、車両走行中の第1のタイミングt21で、運転者によってブレーキペダル33の操作が開始されると、マスタシリンダ311内のMC圧Pmcが、ブレーキペダル33の操作量の増大に伴って増大される。この際の制動は急制動であるため、MC圧Pmcが急速に増大される。この場合、制動開始時では、MC圧Pmcの増大に対して車両の減速度SDに応答遅れが生じる。そして、制動力Fbが増大されているときに制動力の増大速度DFbが規定速度DFbTh以上になるため(ステップS38:YES)、制動力Fbが増大されている期間で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDが、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。
しかし、図7に示す例では、車両の車体速度VSが判定速度VSTh以上である状況下で(ステップS34:YES)、運転者によるブレーキペダル33の操作によってMC圧Pmcが減少されるようになる(ステップS35:YES)。すると、制動力Fb及び車両の減速度SDもまた次第に小さくなる。
そして、MC圧Pmcの減少途中の第2のタイミングt22が、MC圧Pmcが第12の制動力基準値PmcTh12よりも大きい状態から、MC圧Pmcが第12の制動力基準値PmcTh12以下の状態に移行するタイミングとなる(ステップS62:YES)。すなわち、この第2のタイミングt22が第1の時点となる。したがって、第2のタイミングt22の制動力Fbが第1の制動力Fb1とされ(ステップS63)、第2のタイミングt22の車両の減速度SDが第1の減速度SD1とされる(ステップS64)。
その後もMC圧Pmcが減少されると、制動力Fb及び車両の減速度SDの双方が小さくなる。そして、車両が未だ停止していない第3のタイミングt23が、MC圧Pmcが第22の制動力基準値PmcTh22よりも大きい状態から、MC圧Pmcが第22の制動力基準値PmcTh22以下の状態に移行するタイミングとなる(ステップS68:YES)。なお、この第3のタイミングt23は、第1の時点である第2のタイミングt22からの経過時間T2が規定時間T2Thに達する第4のタイミングt24よりも前のタイミングである。
したがって、図7に示す例では、第3のタイミングt23では車体速度VSが判定速度VSTh以上であるため(ステップS34:YES)、第3のタイミングt23が第2の時点とされる。そのため、第3のタイミングt23の制動力Fbが第2の制動力Fb2とされ(ステップS69)、第3のタイミングt23の車両の減速度SDが第2の減速度SD2とされる(ステップS70)。ちなみに、この第2の制動力Fb2と第1の制動力Fb1との差分は、規定制動力ΔFbとほぼ等しい。
そして、このように車両走行中における1回の制動期間中の第1の時点及び第2の時点の各々で、制動力Fb(Fb1,Fb2)及び車両の減速度SD(SD1,SD2)が取得されると、上記関係式(式3)を用いて車両質量の推定値Meが演算される(ステップS50)。
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両の減速度SDには、車両の走行抵抗やタイヤの転がり抵抗などに起因する減速成分が含まれている。そこで、車両走行中における1回の制動期間の第1の時点及び第2の時点の各々で、制動力Fb及び車両の減速度SDが取得される。そして、第1の時点と第2の時点との制動力差である制動力差分を、第1の時点と第2の時点との減速度差である減速度差分で除することにより、車両質量の推定値Meを求めている。このように減速度差分を用いることにより、車両の減速度SDに含まれる上記減速成分を相殺した上で、車両質量の推定値Meを演算することができる。したがって、車両制動時に車両質量の推定値Meを演算することができる。
(2)制動力Fbがゆっくりと増大されるときには、制動初期における車両の減速度SDに応答遅れが生じにくい。そのため、制動力Fbが増大されている最中における制動力の増大速度DFbが規定速度DFbTh未満であるときには、制動力Fbがゆっくりと増大されていると判断できるため、制動力Fbの増大途中で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用いて車両質量の推定値Meが演算される。したがって、制動力Fbがゆっくりと増大されているときでも車両質量の推定値Meを演算することができる。
(3)一方、急制動が要求され、制動力Fbが急速に増大されるときには、制動初期でMC圧Pmcの増大に対して車両の減速度SDの応答遅れが生じやすい。そのため、制動力Fbが増大されている最中で制動力の増大速度DFbが規定速度DFbTh以上になったときには、急制動が要求されていると判断できるため、制動力Fbの増大途中で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDが、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。したがって、精度の低い車両質量の推定値Meが取得される事象を生じさせにくくすることができる。
(4)しかし、急制動が要求される場合であっても、車両が未だ停止されていない状況下で運転者によるブレーキペダル33の操作量が減少されることがある。この場合、制動力Fbの減少途中で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用いて車両質量の推定値Meが演算される。そのため、急制動を含む制動期間中に取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用いて車両質量の推定値Meを演算することができる。特に、制動力Fbがゆっくりと減少される場合には、減少中の制動力Fb及び車両の減速度SDを用いることにより、車両質量の推定値Meを精度よく演算することができる。
(5)ところで、車両の車体速度VSが判定速度VSTh未満であるときには、制動機構20のパッド23の摩擦係数μが変化しやすい状況であると判断することができる。そのため、こうした状況下で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDは、車両質量の推定値Meの演算に用いられない。したがって、精度の低い車両質量の推定値Meが取得される事象を生じさせにくくすることができる。
(6)また、車両質量の推定値Meを演算するに際し、第1の制動力Fb1と第2の制動力Fb2との制動力差が規定制動力ΔFbと等しくなり、当該制動力差が規定制動力ΔFb未満にならない。そして、こうした制動力差を用いて車両質量の推定値Meを演算することとなるため、その演算精度の低下を抑制することができる。
(7)第1の制動力Fb1を取得した第1の時点からの経過時間が規定時間以上になってから第2の時点に達した場合、第1の時点と第2の時点とでは、制動機構20のパッド23の温度上昇によって同パッド23の摩擦係数μが大きく相違している可能性がある。このようにパッド23の摩擦係数μが大きく相違する2つの時点の制動力Fb及び車両の減速度SDを用いて車両質量の推定値Meを演算しても、その演算精度が高いとは言い難い。この点、本実施形態では、第1の時点からの経過時間が規定時間になっても第2の時点に達しない場合には、同第1の時点の制動力Fb(Fb1)及び車両の減速度SD(SD1)を用いた車両質量の推定値Meの演算が行われない。したがって、精度の低い車両質量の推定値Meが取得される事象を生じさせにくくすることができる。
(8)そして、このように車両制動時でも車両質量の推定値Meを演算することができるようになったことにより、車両質量の推定値Meの演算機会が増える。したがって、複数の車両質量の推定値Meに基づいて車両質量Mを演算する場合にあっては、その演算精度を高くすることができる。
(第2の実施形態)
次に、車両質量推定装置を具体化した第2の実施形態を図8及び図9に従って説明する。なお、第2の実施形態では、第2の時点の決定方法が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
図8は、上記ステップS18の制動時車両質量推定処理ルーチン(制動時車両質量推定処理)を説明するフローチャートの一部である。
図8に示すように、ステップS43で第1制動フラグFLG1にオンをセットした場合、及び第1制動フラグFLG1に既にオンがセットされている場合(ステップS39:NO)、ブレーキ用ECU42は、第2制動フラグFLG2にオフがセットされているか否かを判定する(ステップS44)。第2制動フラグFLG2にオンがセットされている場合(ステップS44:NO)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。
一方、第2制動フラグFLG2にオフがセットされている場合(ステップS44:YES)、ブレーキ用ECU42は、ステップS43で第1制動フラグFLG1にオンをセットした時点(すなわち、第1の時点)からの経過時間T1を取得し、この経過時間T1が取得時間T11Th未満であるか否かを判定する(ステップS451)。この取得時間T11Thは、制動機構20のパッド23の摩擦係数μの第1の時点からの変化量が多いか少ないかを判断するための基準として設定されている。すなわち、経過時間T1が取得時間T11Th以下であるときには、パッド23の摩擦係数μが第1の時点からあまり変化していないと判断することができる。一方、経過時間T1が取得時間T11Thよりも大きいときには、パッド23の摩擦係数μが第1の時点から大きく変化していると判断することができる。
そして、経過時間T1が取得時間T11Th未満である場合(ステップS451:YES)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。一方、経過時間T1が取得時間T11Th以上である場合(ステップS451:NO)、ブレーキ用ECU42は、経過時間T1が取得時間T11Thと等しいか否かを判定する(ステップS452)。経過時間T1が取得時間T11Thよりも大きい場合(ステップS452:NO)、ブレーキ用ECU42は、その処理を前述したステップS32に移行する。一方、経過時間T1が取得時間T11Thと等しい場合(ステップS452:YES)、ブレーキ用ECU42は、現時点の制動力Fbを第2の制動力Fb2とし(ステップS47)、現時点の車両の減速度SDを第2の減速度SD2とする(ステップS48)。すなわち、経過時間T1が取得時間T11Thと等しい時点の制動力Fbが第2の制動力Fb2とされ、同時点の車両の減速度SDが第2の減速度SD2とされる。そして、ブレーキ用ECU42は、第2制動フラグFLG2にオンをセットし(ステップS49)、車両質量の推定値Meを演算する(ステップS50)。その後、ブレーキ用ECU42は、演算済みフラグFLG3にオンをセットし(ステップS51)、本処理ルーチンを終了する。
また、ステップS65で第1制動フラグFLG1にオンをセットした場合、及び第1制動フラグFLG1に既にオンがセットされている場合(ステップS61:NO)、ブレーキ用ECU42は、第2制動フラグFLG2にオフがセットされているか否かを判定する(ステップS66)。第2制動フラグFLG2にオンがセットされている場合(ステップS66:NO)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。
一方、第2制動フラグFLG2にオフがセットされている場合(ステップS66:YES)、ブレーキ用ECU42は、ステップS65で第1制動フラグFLG1にオンをセットした時点(すなわち、第1の時点)からの経過時間T2を取得し、この経過時間T2が取得時間T21Th未満であるか否かを判定する(ステップS671)。この取得時間T21Thは、制動機構20のパッド23の摩擦係数μの第1の時点からの変化量が多いか少ないかを判断するための基準として設定されている。すなわち、経過時間T2が取得時間T21Th以下であるときには、パッド23の摩擦係数μが第1の時点からあまり変化していないと判断することができる。一方、経過時間T2が取得時間T21Thよりも大きいときには、パッド23の摩擦係数μが第1の時点から大きく変化していると判断することができる。なお、取得時間T21Thは、上記取得時間T11Thと等しい値であってもよいし、上記取得時間T11Thとは異なる値であってもよい。
そして、経過時間T2が取得時間T21Th未満である場合(ステップS671:YES)、ブレーキ用ECU42は、本処理ルーチンを終了する。一方、経過時間T2が取得時間T21Th以上である場合(ステップS671:NO)、ブレーキ用ECU42は、経過時間T2が取得時間T21Thと等しいか否かを判定する(ステップS672)。経過時間T2が取得時間T21Thよりも大きい場合(ステップS672:NO)、ブレーキ用ECU42は、その処理を前述したステップS32に移行する。一方、経過時間T2が取得時間T21Thと等しい場合(ステップS672:YES)、ブレーキ用ECU42は、現時点の制動力Fbを第2の制動力Fb2とし(ステップS69)、現時点の車両の減速度SDを第2の減速度SD2とする(ステップS70)。すなわち、経過時間T2が取得時間T21Thと等しい時点の制動力Fbが第2の制動力Fb2とされ、同時点の車両の減速度SDが第2の減速度SD2とされる。そして、ブレーキ用ECU42は、第2制動フラグFLG2にオンをセットし(ステップS71)、その処理を前述したステップS50に移行する。
次に、図9のタイミングチャートを参照し、車両制動時に車両質量の推定値Meを演算する際の作用について説明する。なお、図9には、制動初期では制動力Fbがゆっくりと増大される場合の一例が図示されている。
図9(a),(b),(c)に示すように、車両走行中の第1のタイミングt31で、運転者によってブレーキペダル33の操作が開始されると、マスタシリンダ311内のMC圧Pmcが、ブレーキペダル33の操作量の増大に伴って次第に増大される。また、このようにMC圧Pmcが増大されると、上記関係式(式2)を用いて演算される制動力Fbもまた次第に増大される。すると、制動初期の第2のタイミングt32が、MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11未満の状態から、MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11以上の状態に移行するタイミングとなる(ステップS40:YES)。この際、急制動ではないため(ステップS38:NO)、この第2のタイミングt32が第1の時点となる。したがって、第2のタイミングt32の制動力Fbが第1の制動力Fb1とされ(ステップS41)、第2のタイミングt32の車両の減速度SDが第1の減速度SD1とされる(ステップS42)。
その後もMC圧Pmcが増大されると、制動力Fb及び車両の減速度SDの双方が大きくなる。そして、第3のタイミングt33で、第1の時点である第2のタイミングt32からの経過時間T1が取得時間T11Thと等しくなる(ステップS452:YES)。したがって、図9に示す例では、第3のタイミングt33が第2の時点とされる。そのため、第3のタイミングt33の制動力Fbが第2の制動力Fb2とされ(ステップS47)、第3のタイミングt33の車両の減速度SDが第2の減速度SD2とされる(ステップS48)。
そして、このように車両走行中における1回の制動期間中の第1の時点及び第2の時点の各々で、制動力Fb(Fb1,Fb2)及び車両の減速度SD(SD1,SD2)が取得されると、上記関係式(式3)を用いて車両質量の推定値Meが演算される(ステップS50)。
以上、上記構成及び作用によれば、上記第1の実施形態における効果(1)〜(5)及び(8)と同等の効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(9)第2の時点は、第1の時点からの経過時間が取得時間と等しくなった時点とされる。そのため、取得時間を適切な値に設定することにより、制動機構20のパッド23の摩擦係数μの相違が比較的小さい2つの時点の各々で取得した制動力Fbを用いて車両質量の推定値Meが演算される。そのため、車両質量の推定値Meを精度よく演算することができる。
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・車両には、ブレーキペダル33の操作に伴って車両に付与される制動力Fbと、ブレーキペダル33の操作とは無関係に車両に付与される制動力とが付与されるようになっている。ここでいう「ブレーキペダル33の操作とは無関係に車両に付与される制動力」としては、例えば、エンジンブレーキや排気ブレーキを挙げることができる。そして、ブレーキペダル33の操作とは無関係に車両に付与される制動力が変化しても、車両の減速度SDが変化してしまう。そのため、制動力Fbを用いた車両質量の推定値の演算精度を高めるためには、ブレーキペダル33の操作とは無関係に車両に付与される制動力が変化するようなときに取得した車両の減速度SD及び制動力Fbを、車両質量の推定値Meの演算に用いないようにしてもよい。
この場合、第1の時点から第2の時点までの間で、変速機13の変速段が変更されたり、クラッチペダルが操作されたりした場合には、それ以前までに取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを、車両質量の推定値Meの演算を用いないようにしてもよい。この構成によれば、精度の低い車両質量の推定値Meが取得される事象を生じさせにくくすることができる。
なお、1回の制動期間で、ブレーキペダル33の操作とは無関係に車両に付与される制動力が変化した場合であっても、同制動力がほぼ等しいと見なせる期間内で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用いた車両質量の推定値Meの演算を行うようにしてもよい。
・車両の減速度SDは、車両の旋回状態に応じて変化しうる。そのため、車両の旋回状態が大きく変化している最中で取得した車両の減速度SDを用いて車両質量の推定値Meを演算したとしても、その演算精度が高いとは言い難い。そこで、車両の旋回状態を示す旋回状態値を取得し、この旋回状態値の変動幅が規定変動幅以上であるときに取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを、車両質量の推定値Meの演算に用いないようにしてもよい。旋回状態値としては、車両の旋回に伴って変化するパラメータであればよく、例えば横方向加速度センサSE7によって検出される横加速度Gy、ヨーレートセンサによって検出される車両のヨーレートであってもよい。この場合、横加速度Gyやヨーレートを取得するブレーキ用ECU42により、車両の旋回状態を示す旋回状態値を取得する「旋回状態取得部」の一例が構成される。
上記構成によれば、旋回状態値の変動幅が規定変動幅以上であるときには、車両の旋回状態が大きく変化していると判断することができるため、こうした状況下で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用いた車両質量の推定値Meの演算が行われない。したがって、精度の低い車両質量の推定値Meが取得される事象を生じさせにくくすることができる。
・第1の実施形態において、第1の時点からの経過時間(T1,T2)が規定時間(T1Th、T2Th)以上になってから第2の時点に達した場合であっても、各時点で取得した制動力Fb1,Fb2及び車両の減速度SD1,SD2を用いて車両質量の推定値Meを演算するようにしてもよい。
・上述したように、制動機構20のパッド23の摩擦係数μは、車体速度VSが小さいときほど変化しやすい。そのため、第1の実施形態では、規定時間T1Th、T2Thを、制動開始時点の車体速度VSが小さいときほど小さくなるようにしてもよい。同様に、第2の実施形態では、取得時間T11Th、T21Thを、制動開始時点の車体速度VSが小さいときほど小さくなるようにしてもよい。
・車両の車体速度VSが判定速度VSTh未満であるときの制動力Fb及び車両の減速度SDを用いた車両質量の推定値Meの演算を行うようにしてもよい。
・急制動であると判断された制動期間で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用いた車両質量の推定値Meの演算を行わないようにしてもよい。
・急制動であると判断された場合であっても、制動力Fbが増大されている最中で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用いた車両質量の推定値Meを演算するようにしてもよい。
・制動力Fbが増大されている最中に第1の時点を設定する場合にあっては、MC圧Pmcが第11の制動力基準値PmcTh11以上になる時点を第1の時点とするのではなく、制動開始時点から基準時間が経過した時点を第1の時点とするようにしてもよい。この場合、第1の実施形態では、第1の時点でのMC圧Pmcに応じて第21の制動力基準値PmcTh21が変更されることとなる。
・制動力Fbが減少されている最中に第1の時点を設定する場合にあっては、MC圧Pmcが第12の制動力基準値PmcTh12以下になる時点を第1の時点とするのではなく、制動力Fbの減少の開始時点から基準時間が経過した時点を第1の時点とするようにしてもよい。この場合、第1の実施形態では、第1の時点でのMC圧Pmcに応じて第22の制動力基準値PmcTh22が変更されることとなる。
・車両の減速度SDとして、車両の車体速度VSを時間微分した値に「−1」を乗じた値を採用してもよい。
・1回の制動期間は、MC圧Pmcが基準液圧以上になった時点から、MC圧Pmcが基準液圧以下になる時点までとしてもよい。
・上記各実施形態では、MC圧Pmcに基づいて第1の時点及び第2の時点を特定するようにしているが、これに限らず、例えばブレーキペダル33の操作量や操作力を検出することができるのであれば、こうした操作量や操作力に基づいて第1の時点及び第2の時点を特定するようにしてもよい。また、WC圧を検出することができるのであれば、WC圧に基づいて第1の時点及び第2の時点を特定するようにしてもよい。
・車両限界に達したために制動制御が行われている場合にあっては、当該制動期間で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを、車両質量の推定値Meの演算に用いないようにしてもよい。なお、こうした制動制御としては、アンチロックブレーキ制御や横滑り抑制制御などを挙げることができる。
その一方で、車両限界に達していない状態で制動制御が行われる場合にあっては、当該制動期間で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを用いた車両質量の推定値Meの演算を行うようにしてもよい。なお、こうした制動制御としては、ブレーキアシストなどを挙げることができる。
ブレーキアシストとは、ブレーキアクチュエータ32を作動させることにより、ブレーキペダル33の操作量以上の制動力を車両に付与させる制御である。こうしたブレーキアシストが実施されるときには、上記関係式(式2)を用いて演算した制動力と、ブレーキアクチュエータ32の作動によって増大された制動力の増大量との和を制動力Fbとし、この制動力Fbを用いて車両質量の推定値Meを演算するようにしてもよい。
・第1の時点を特定してから第2の時点を特定するまでの間に、車両の走行する路面の勾配が変わったことが検知されたときには、第1の時点で取得した制動力Fb及び車両の減速度SDを、車両質量の推定値Meの演算に用いないようにしてもよい。
・制動機構は、摩擦式の制動機構であれば、ディスクブレーキ以外の他のブレーキであってもよい。例えば、制動機構として、車輪と一体回転するドラムと、同ドラムに押し付けられるブレーキシューとを備えたドラムブレーキを採用してもよい。この場合、ドラムが回転体に相当し、ブレーキシューが摩擦材に相当する。