JP6489379B2 - 重金属元素の定量方法および分離方法 - Google Patents

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Description

本発明は、重金属元素の定量方法および分離方法に関する。
ニッケル(Ni)の湿式治金においては、硫酸浴と塩化浴を用いた製錬法があり、そのプロセスの1つとして、塩化浴における電解採取法がある。このプロセスでは、まず、浸出工程において、原料であるニッケル硫化物を塩素浸出し、精製工程を経てニッケル電解液を電解してニッケルを得る(例えば、特許文献1や2参照)。なお、こうして得られたニッケルのことを、電気ニッケルと称する。
電気ニッケルを得る際に、Ni以外の不純物元素への対応が求められる。特に、不純物元素の中でも亜鉛(Zn)は、数百ppmから数wt%程度の濃度で、原料となるニッケル硫化物に含有される。これに対応すべく、原料となるニッケル硫化物からZnを分離する手法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
特公平7−91599号公報 特開平11−236630号公報 特開2008−38236号公報
ニッケル硫化物を原料とする場合、不純物元素としては、銅(Cu)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、そして先に挙げたZnなどの重金属元素がある。不純物元素の処理量を低減させることは、精製工程において原料中に含まれる不純物元素を十分に除去することに繋がり、ひいては、最終製品となる電気ニッケルの品質を向上させることが可能となる。
最終的に不純物元素が除去されていれば事足りるという見方もあるが、生産現場における品質管理やトータルコストの削減という点では、ニッケル電解液を得るまでの精製過程において、不純物元素の濃度を正確に把握するための手法が必要がある。
上記の手法としては、フレーム原子吸光法、黒鉛炉原子吸光法、ICP発光分光分析法やICP質量分析法などが挙げられる。ただ、これらの分析方法は、共存物質の影響を大きく受ける。例えば、共存物質の濃度が高い場合、物理干渉やイオン化干渉により、感度低下や信号の変動が大きくなることが影響として挙げられる。仮に、原料であるニッケル硫化物を塩素浸出した後の塩化ニッケル溶液における不純物元素の分析を行おうとしても、当該塩化ニッケル溶液は通常だと高塩濃度試料であるため、上記の分析方法をそのまま採用することは困難である。上記の分析方法を採用するためには、共存物質の影響の排除、そして分析対象となる不純物元素の濃縮を目的として、定量対象元素をマトリックスから分離し、濃縮する手段が不可欠になる。
上記の分離・濃縮手段としては、沈殿分離法、溶媒抽出法、固相抽出法などが挙げられる。
ただ、沈殿分離法や溶媒抽出法は、分離操作が比較的煩雑であり、分離操作や分析操作中に液体試料が汚染等によりに変質する可能性もある。種々の工程および装置を有する生産現場においてはなおさらである。そのため、これらの方法は、正確な定量に際して考慮すべき点がある。
一方、固相抽出法は他の分析法に比べて操作が簡便である。そのため、分離操作や分析操作中に液体試料が汚染されるリスクを低減できる。ただ、固相抽出法を採用するとしても、不純物元素の中の一つの種類の元素の分析(特に定量)を行うためには、不純物元素の中の一つの種類の元素に対応する固相(例えばイオン交換体)を準備する必要がある。そうなると、複数の種類の不純物元素の分析を行うとなると、複数の種類のイオン交換体を用意する必要がある上、液体試料をイオン交換体に接触させるという作業を、分析対象の不純物元素の種類の数だけ行わなければならない。そうなると、固相抽出法の利点であるところの簡便性が損なわれてしまい、結局のところ、分離操作や分析操作中に液体試料が汚染等により変質するおそれが生じてしまう。
前述の観点から、不純物元素であるところの重金属元素の分析に関し、生産現場でも対応可能かつ簡便な手法の開発が望まれている。
本発明は、液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を簡便に分離する方法を提供し、さらには当該複数の種類の重金属元素を高感度に定量する方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を行った。検討に際し、本発明者は、従来の手法を再検討した。
例えば、先にも挙げたが、固相抽出法を採用するとしても、不純物元素であるところの重金属元素の中の一つの種類の元素の分析を行うためには、重金属元素の中の当該一つの種類の元素に対応するイオン交換体を準備する必要がある。
しかしながら、本発明者は発想を転換し、一つのイオン交換体に対し、分析対象となる複数の種類の重金属元素を一緒に吸着させればよいのでは、という知見を得た。
ただ、重金属元素がイオン単体(例えばZn2+、Pb2+)となっているままだと、結局は従来と同様に、重金属元素に応じたイオン交換体が必要となってしまう。そこで本発明者は、複数の種類の重金属元素が共通の配位子により各々錯化され、それにより得られた各々の錯イオンならば、分析対象となる重金属元素の種類が異なっていても、一つのイオン交換体に一緒に吸着させられるという知見を得た。
それに加え、重金属元素の中にはイオンにおいて酸化度合いが足りずに(すなわち価数が低いせいで)錯イオンを安定して形成できないもの(例えばPb2+)があることを鑑み、液体試料に対して酸化剤を加えておくという知見も得た。
さらに、上記の知見を実現すれば、先にも挙げた分析方法すなわちフレーム原子吸光法、黒鉛炉原子吸光法、ICP発光分光分析法やICP質量分析法などを使用したとしても、既に分離された定量対象となる複数の種類の重金属元素が主として存在する溶液に対して測定を行うため、共存物質の影響を大きく受けることがなくなり、分析対象となる複数の種類の重金属元素を分析する際に高感度に定量可能となるという知見を得た。
上記の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を定量する方法であって、
酸化剤が加えられた前記液体試料に含まれる前記複数の種類の重金属元素を共通した種類の配位子により各々錯化して得た錯イオンをイオン交換体に吸着させる吸着工程と、
前記錯イオンを吸着させた前記イオン交換体から前記複数の種類の重金属元素を分離する分離工程と、
分離された前記複数の種類の重金属元素を定量する定量工程と、
を有し、
前記複数の種類の重金属元素のうちの少なくとも一種は、前記酸化剤により酸化されて前記配位子により錯化される、重金属元素の定量方法である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記液体試料は、ニッケル鉱石から湿式製錬方法によって得られたニッケル硫化物を塩素浸出して得られる塩化ニッケル溶液である。
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、
前記液体試料における塩化ニッケルの濃度は10g/l以上である。
本発明の第4の態様は、第2または第3の態様に記載の発明において、
前記吸着工程の前に、前記イオン交換体を塩酸に接触させておく。
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の発明において、
前記分離工程の前に、塩酸を用い、前記錯イオンを前記イオン交換体に吸着させた状態を維持しつつ前記イオン交換体を洗浄する。
本発明の第6の態様は、第1〜第5のいずれかの態様に記載の発明において、
前記複数の種類の重金属元素には鉛が含まれる。
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の発明において、
前記分離工程の際に、還元剤を含む溶離液を使用する。
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の発明において、
前記還元剤は、アスコルビン酸、チオ尿素または過酸化水素を含む。
本発明の第9の態様は、第6〜第8のいずれかの態様に記載の発明において、
前記酸化剤は次亜塩素酸ナトリウムを含む。
本発明の第10の態様は、第6〜第9のいずれかの態様に記載の発明において、
前記複数の種類の重金属元素には亜鉛が含まれる。
本発明の第11の態様は、第6〜第10のいずれかの態様に記載の発明において、
前記分離工程においては、硝酸を含む溶離液を使用する。
本発明の第12の態様は、第6〜第11のいずれかの態様に記載の発明において、
前記イオン交換体は陰イオン交換樹脂である。
本発明の第13の態様は、第1〜第12のいずれかの態様に記載の発明において、
前記定量工程においては、フレーム原子吸光法、黒鉛炉原子吸光法、ICP発光分光分析法またはICP質量分析法を使用する。
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の発明において、
前記定量工程においては、前記複数の種類の重金属元素を一度に定量する。
本発明の第15の態様は、
液体に含まれる複数の種類の重金属元素を分離する方法であって、
酸化剤が加えられた前記液体に含まれる前記複数の種類の重金属元素を共通した種類の配位子により各々錯化して得た錯イオンをイオン交換体に吸着させる吸着工程と、
前記錯イオンを吸着させた前記イオン交換体から前記複数の種類の重金属元素を分離する分離工程と、
を有し、
前記複数の種類の重金属元素のうちの少なくとも一種は、前記酸化剤により酸化されて前記配位子により錯化される、重金属元素の分離方法である。
本発明の第16の態様は、第1の態様に記載の発明において、 前記液体試料は、硫酸ニッケル溶液、塩化コバルト溶液、硫酸コバルト溶液、塩化銅溶液、硫酸銅溶液の少なくともいずれかである。
本発明によれば、液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を簡便に分離でき、さらには当該複数の種類の重金属元素を高感度に定量できる。
本実施形態における重金属元素の定量方法のフローチャートを示す図である。
以下、本発明の実施の形態について、図1のフローチャートを基に説明する。本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.重金属元素の定量方法
1−1.準備工程
1−1−1.液体試料を準備する工程
1−1−2.酸化剤添加工程
1−1−3.イオン交換体を準備する工程
1−1−4.イオン交換体に対するコンディショニング工程
1−2.吸着工程
1−3.洗浄工程
1−4.分離工程
1−5.定量工程
2.重金属元素の分離方法
3.実施の形態に係る効果
4.変形例
なお、本明細書においては、重金属元素とは、Fe以上の比重を有する金属元素のことを指し、例えばCu、Co、Fe、Zn、Pb、Cd等が挙げられる。
また、本明細書においては、例えばNiやZnのような元素表記は、原子のみならずイオンを含めたものを意味する。
<1.重金属元素の定量方法>
本実施形態においては、液体試料に含まれる重金属元素を定量する。そのために、以下の工程を行う。
・液体試料、そして液体試料中の定量対象となる複数の種類の重金属元素の錯イオンを吸着するイオン交換体を準備する準備工程
・当該錯イオンをイオン交換体に吸着させる吸着工程
・錯イオンを吸着させた状態を維持しつつイオン交換体を洗浄する洗浄工程
・当該イオン交換体から複数の種類の重金属元素を分離する分離工程
・分離された複数の種類の重金属元素を定量する定量工程
以下、各工程について説明する。
1−1.準備工程
本工程においては、重金属元素を定量するための準備を行う。具体的には、分析対象となる液体試料に関しては、分析対象となる液体試料を準備する工程、当該液体試料に酸化剤を加える酸化剤添加工程を行う。その一方、イオン交換体に関しては、イオン交換体を準備する工程、当該イオン交換体を酸溶液によりコンディショニングする工程を行う。
1−1−1.液体試料を準備する工程
本工程においては、分析対象となる液体試料を準備する。本実施形態において、分析対象としては、定量対象となる複数の種類の重金属元素を含む液体試料であれば特に制限は無い。
例えば、原料であるニッケル硫化物を塩素浸出し、精製工程を経て電気ニッケルを得るニッケルの湿式製錬工程において、ニッケル硫化物を原料とする場合、不純物としてZnやPbを含有する。そのため、ニッケル電解液を得るまでの精製過程で得られる塩化ニッケル溶液、すなわちニッケル鉱石から湿式製錬方法によって得られたニッケル硫化物を塩素浸出して得られる塩化ニッケル溶液を分析対象とすることができる。
もちろん、液体試料は当該塩化ニッケル溶液以外であってもよい。例えば液体試料は、硫酸ニッケル溶液、塩化コバルト溶液、硫酸コバルト溶液、塩化銅溶液、硫酸銅溶液のいずれかであっても構わないし、それらの組み合わせであっても構わない。
また、後述の吸着工程の前に、ニッケル塩に対して塩酸を加えて塩酸酸性条件となった液体試料を使用しても構わない。
本実施形態においては、塩酸酸性条件となった塩化ニッケル液を例示し、特に、Zn、Pbおよびカドミウム(Cd)を含む塩化ニッケル液を例示する。つまり、本実施形態においては、Zn、PbおよびCdを、塩化物イオン(Cl)により各々錯化し、各々の錯イオンを形成し、各々の錯イオンを一緒にイオン交換体へと吸着させる。
上記の液体試料を採用する本実施形態においては、定量対象となるのは、最終製品である電気ニッケルに係るNiではなく、液体試料中に微量に存在する不純物元素としての重金属元素(先に列挙したCu、Co、Fe、Zn、Pb、Cd等)である。なお、本実施形態において、不純物元素としての各重金属元素の濃度は0.01g/l以下(好ましくは0.001g/l以下)とする。
このように準備した液体試料のうち所定量を、密閉可能な容器に採取する。なお、採取量を増減させれば液体試料に含まれる重金属元素の濃度を高くしたり低くしたりできる。本実施形態ならば、このように濃度が高くなったり低くなったりしたとしても、液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を簡便に分離でき、さらには当該複数の種類の重金属元素を高感度に定量できる。その理由については、詳しくは後述する。
1−1−2.酸化剤添加工程
本工程においては、上記の液体試料すなわちZn、PbおよびCdを含む塩化ニッケル液に対し、酸化剤を添加する。以下、酸化剤を添加する意味について述べる。
Zn、PbおよびCdのうちPbは、ニッケル電解液を得るまでの精製過程で得られる塩化ニッケル液の段階では、主にPb2+となっている。このままPbをClにより錯化して錯イオンを形成しても、当該錯イオンは非常に不安定であるため、イオン交換体にほとんど吸着しない。ところが、Pb2+をさらに酸化させたPb4+ならば、Clにより錯イオンを形成した場合に当該錯イオンは安定となり、イオン交換体に吸着される。そのため、後述の吸着工程の前に、液体試料に対して酸化剤を添加し、以下の酸化処理を実施する。
Pb2+→Pb4++2e ・・・(式1)
なお、具体的な酸化剤としては公知のものを用いればよいが、例えば、次亜塩素酸ナトリウムを含んだもの(好ましくは次亜塩素酸ナトリウムそのもの)を使用することができる。
また、酸化処理の方法も公知の手法を採用すればよいが、例えば、液体試料が入った密閉可能な容器に、次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加後、密閉し、撹拌しても構わない。
1−1−3.イオン交換体を準備する工程
本工程においては、液体試料の準備とは別に、イオン交換体を準備する。当該イオン交換体は、定量対象となる複数の種類の重金属元素を共通した種類の配位子により各々錯化して得た錯イオンを一緒に吸着させるためのものであり、当該吸着を実施可能ならばイオン交換体の種類に特に制限は無い。例えは、強塩基性の陰イオン交換樹脂であっても構わない。むしろ、本実施形態のように、塩化ニッケル溶液を液体試料として用いる場合、液体試料中の各々の重金属元素のクロロ錯イオンも形成されることから、強塩基性の陰イオン交換樹脂が好ましい。
強塩基性の陰イオン交換樹脂としては、例えば、メタクリレートのポリマーをベースに、強陰イオン交換基を導入した固相であるところの、ジーエルサイエンス製InertSep MA−1を使用することができる。
なお、本実施形態に係る重金属元素の分離を行うのに使用されたイオン交換体を再度使用する場合のように、定量対象となる重金属元素がイオン交換体に残留している可能性がある場合は、後の工程のために、当該重金属元素を除去しておくのが望ましい。
除去方法としては公知の手法を採用しても構わないが、例えば、除去用の試薬中にイオン交換体を添加して撹拌を行うという方法や、当該イオン交換体をカラムに充填した後に当該試薬を通液する方法を採用しても構わない。
ちなみに、除去用の試薬としては、イオン交換体から重金属元素を溶離可能な公知のものを採用すればよい。例えば、後述の分離工程すなわち重金属元素をイオン交換体から分離する際に使用する溶離液を採用するのがよい。なお、当該溶離液は、詳しくは分離工程にて後述するが、本実施形態においては硝酸に加え、還元剤を含むのが好ましい。仮に、本実施形態に係る重金属元素の分離を行うのに使用されたイオン交換体を再度使用する場合、Pb4+のクロロ錯イオンがイオン交換体に残留している可能性もある。それに対し、還元剤によりPb2+に還元し、今度はイオン交換体からPbを溶離しやすくし、残留するPb4+のクロロ錯イオンをイオン交換体から除去する。
1−1−4.イオン交換体に対するコンディショニング工程
本工程においては、イオン交換体に対するコンディショニングを行う。例えば、イオン交換体に吸着する重金属元素の錯イオンの配位子と同種の化合物またはイオンを含む酸溶液を、イオン交換体に対して接触させる(通液する)。こうすることにより、重金属元素の錯イオンとイオン交換体とのなじみを良くすることができる。本実施形態においては、当該酸溶液としては、例えば塩酸を使用するのが好ましい。
1−2.吸着工程
本工程においては、先の工程で準備したイオン交換体に対し、同じく先の工程で準備した液体試料を接触させる。そして、液体試料に含まれる重金属元素であって測定対象となる複数の種類の重金属元素を、共通した種類の配位子により各々錯化して得た錯イオンを、イオン交換体に吸着させる。
なお、本実施形態における「複数の種類の重金属元素」とは、少なくとも二種の重金属元素のことを指す。また、本実施形態においては、二種の重金属元素は以下の通りである。
・定量対象となる重金属元素のうちの一つであって、酸化剤により酸化されて配位子により錯化される重金属元素α
・定量対象となる重金属元素のうちの一つであって重金属元素αとは異なる種類の重金属元素β
ここで、重金属元素αは、本実施形態においてはPbであるが、それ以外の重金属元素であっても構わない。ただ、重金属元素αは、酸化剤により酸化される重金属元素である必要がある。先ほど酸化剤添加工程にて述べたように、液体試料中の重金属元素(イオン)の価数を増加させ、イオン交換体に吸着するような錯イオンを形成することが、酸化剤を添加する目的である。仮に、重金属元素αがそのような元素でなければ、酸化剤を添加する意味合いが薄れてしまう。だからこそ、重金属元素αは、酸化剤により酸化される重金属元素である必要がある。
ちなみに酸化剤は、後述の吸着工程の直前に、液体試料中に存在していればよい。そのため、既に酸化剤が液体試料中に存在し、その液体試料を吸着工程にかけるのならば、本工程は省略しても構わない。
また、重金属元素βは、本実施形態においてはZnであるが、それ以外の重金属元素であっても構わない。本実施形態において、Znは、Pbとは異なり、酸化剤を添加せずともClを配位子として安定した錯イオンを形成可能である。そのため、重金属元素βに関しては、酸化剤により酸化されるという条件には縛られない。とはいえ、重金属元素βとして、酸化剤により酸化されるという条件に従った元素を選択することを妨げるものではない。
また、上記の重金属元素α、重金属元素β以外にも、第三の重金属元素γ、第四の重金属元素δ等を定量対象としても構わない。その際、重金属元素γ等としては、酸化剤により酸化されるという条件に従った元素を採用しても構わないし、従わない元素を採用しても構わない。本実施形態においては、重金属元素γがCdである場合を例示する。
なお、本工程の具体的な手法としては、イオン交換体を準備する工程にて述べたように、液体試料をイオン交換体に対して通液するという手法を採用して構わない。こうすることにより、重金属元素α〜γ各々のクロロ錯イオンを一緒にイオン交換体に吸着させることができる。
ちなみに本実施形態においては、上記の「共通した種類の配位子」としてClを好ましい例として採用しているが、これ以外のものを配位子として採用してももちろん構わない。例えばチオ硫酸イオン(S 2−)やEDTAが例示される。
1−3.洗浄工程
吸着工程を経たイオン交換体の表面には、定量対象となる重金属元素以外の元素が付着している。定量精度を向上させるためには、後述の分離工程の前に、当該成分を除去しておくのが好ましい。そこで、本工程においては、重金属元素α〜γ各々の錯イオンをイオン交換体に吸着させた状態を維持しつつイオン交換体を洗浄する。
本工程に用いられる洗浄試薬としては、錯イオンをイオン交換体に吸着させた状態を維持させられれば公知のものを使用しても構わないが、本実施形態においては、イオン交換体に対するコンディショニング工程にて用いた酸溶液(例えば塩酸)を使用するのが好ましい。ただ、定量対象となる重金属元素以外の元素の存在量よりも重金属元素α〜γの存在量の方が非常に多く、定量に大きな影響を与えない場合は、本工程を省略しても構わない。
1−4.分離工程
本工程においては、錯イオンを吸着させたイオン交換体から重金属元素α〜γを分離する。詳しく言うと、イオン交換体に吸着した錯イオンから、重金属元素をイオン状態にしてイオン交換体から分離する。本実施形態の例でいうと、重金属元素αであるPb(4価)のクロロ錯イオンからPbを溶離する。なお、クロロ錯イオンからPbを溶離するべく、溶離液に還元剤を含ませるのが好ましい。この構成を採用することにより、イオン交換体に吸着していた4価のPbのクロロ錯イオンにおいて、以下の式に示すようにPbを2価へと還元させることが可能となる。
Pb4++2e→Pb2+ ・・・(式2)
酸化剤添加工程にて述べたように、4価のPbのクロロ錯イオンは安定であり、だからこそイオン交換体に吸着可能となる。その逆に、2価のPbのクロロ錯イオンは不安定であり、イオン交換体に吸着しづらい。本工程においては、この特性を、イオン交換体からの重金属元素の分離に活用している。
なお、溶離液自体は公知のものであっても構わないが、重金属元素を分離するという目的を鑑み、液体試料に含まれる酸溶液や、イオン交換体に対するコンディショニング工程で用いる酸溶液とは異なるものであるのが好ましい。本実施形態においては、硝酸を含む溶離液を使用するのが好ましい。また、当該溶離液は、先ほど述べた還元剤を含むのがより好ましい。硝酸と還元剤とを含む溶離液を採用する場合、本工程に要する液量は、硝酸のみを用いる場合に比べて約半分程度に抑えることができる。そうなると後述の定量工程にかける際の溶液の総量を相当低減することが可能となり、ひいては濃縮率を向上させることができ、その結果、より高感度な測定が可能になる。
なお、還元剤としては、アスコルビン酸、チオ尿素または過酸化水素を含んだもの(好ましくはそれらそのもの、またはそれらの組み合わせ)を使用することができる。
また、本工程の具体的な手法としては、上記の溶離液をイオン交換体に対して接触させる(通液する)という手法を採用して構わない。こうすることにより、重金属元素α〜γがイオン化したものをイオン交換体から溶離可能となる。
ところで、重金属元素β(すなわちZn)や重金属元素γ(すなわちCd)は、酸化剤の力を借りずとも安定したクロロ錯イオンを形成可能である。また、硝酸によりイオン交換体からZnやCdは溶離可能である。そのため、溶離液に還元剤が含まれていたとしても、溶離の度合いはあまり変わらない。ただし、先ほど述べたように、重金属元素α(すなわちPb)を溶離させる際に還元剤が存在すると硝酸の液量を約半分に減らせられることから、液量を相当低減できるため、Pbの他にZnやCdが定量対象である場合でも溶離液は還元剤を含むのが好ましい。
1−5.定量工程
本工程においては、分離された重金属元素α〜γを定量する。ここでいう定量とは、主に濃度の特定のことを指すが、量の特定であっても構わない。定量の手法としては、公知の手法を用いればよい。例えば、先にも挙げた各手法すなわちフレーム原子吸光法、黒鉛炉原子吸光法、ICP発光分光分析法またはICP質量分析法を採用し、それらの手法を適用した機器分析法により、検量線法等にて定量しても構わないし、むしろその方が好ましい。なぜなら、これらの各手法を使用したとしても、本工程にかけられる対象は、これまでの各工程によって液体試料から分離された複数の種類の重金属元素を主として含む溶離液である。そのため、本発明の課題で述べたような、上記の各手法の考慮点であるところの共存物質の影響を大きく受けることがなくなる。その結果、定量対象となる複数の種類の重金属元素を定量する際に高感度に定量可能となる。また、上記の各手法ならば、複数の種類の重金属元素を一度に定量することが可能であるため、定量に要する手間を大きく軽減することが可能となる。
<2.重金属元素の分離方法>
本実施形態は、上記のように、重金属元素の定量方法に適用した場合について述べた。その一方、定量工程を行うまでの内容も、本発明の技術的思想が反映されている。具体的に言うと、工業用排水等の液体に含まれる重金属元素を分離する方法にも大きな特徴がある。この分離方法を採用することにより、定量目的での重金属元素の分離のみならず、液体からの重金属元素の除去にも一役買える。
上記の分離方法をまとめて表現すると以下の構成となる。
「液体に含まれる複数の種類の重金属元素を分離する方法であって、
酸化剤が加えられた前記液体に含まれる前記複数の種類の重金属元素を共通した種類の配位子により各々錯化して得た錯イオンをイオン交換体に吸着させる吸着工程と、
前記錯イオンを吸着させた前記イオン交換体から前記複数の種類の重金属元素を分離する分離工程と、
を有し、
前記複数の種類の重金属元素のうちの少なくとも一種は、前記酸化剤により酸化されて前記配位子により錯化される、重金属元素の分離方法。」
なお、上記の重金属元素の分離方法においても、課題として、液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を簡便に分離するという課題は、重金属元素の定量方法と同様に存在する。そして、上記の構成を採用することにより当該課題を解消可能であることは、これまでに説明した内容からも明らかである。また、上記の重金属元素の分離方法には、液体から当該重金属元素を分離して回収することも含まれるのは言うまでもない。
<3.実施の形態に係る効果>
本実施形態によれば、簡便な固相抽出法を採用することができ、しかも、一つのイオン交換体に対し、分析対象となる複数の種類の重金属元素を一緒に吸着させられる。そのため、不純物元素であるところの重金属元素の中の一つの種類の元素の分析を行うために、重金属元素の中の当該一つの種類の元素に対応するイオン交換体を準備しなくとも済む。
また、その際に、重金属元素の中にはイオンにおいて酸化度合いが足りずに(すなわち価数が低いせいで)錯イオンを安定して形成できないものに対しては、液体試料に対して酸化剤を加えておくことにより、分析対象となる複数の種類の重金属元素を一緒に吸着させられる。
それにより、上記の知見を実現すれば、先にも挙げた分析方法すなわちフレーム原子吸光法、黒鉛炉原子吸光法、ICP発光分光分析法やICP質量分析法などを使用したとしても、複数の種類の重金属元素を分離した後なので、共存物質の影響を大きく受けることがなくなり、分析対象となる複数の種類の重金属元素を分析する際に高感度に定量可能となる。
また、本実施形態において液体試料として用いた塩化ニッケル溶液が高塩濃度試料(例えば塩化ニッケルの濃度が10g/l以上、さらに言うと100g/l以上)の場合、感度が大きく変動してしまうことにより定量が困難となってしまう。しかしながら、本実施形態に記載の手法を採用することにより、重金属元素を分離した後の溶離液を定量工程にかければ済むため、上記の影響を排することが可能となる。
以上の結果、本実施形態によれば、液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を簡便に分離でき、さらには当該複数の種類の重金属元素を高感度に定量できる。
<4.変形例>
(複数の種類の重金属元素を一緒に吸着させることに焦点を当てた発明)
本実施形態においては酸化剤添加工程を設ける場合を挙げた。ただ、一つのイオン交換体に対し、分析対象となる複数の種類の重金属元素を一緒に吸着させるという本発明の知見に従えば、酸化剤を加えなくとも錯イオンを形成した際にイオン交換体に吸着可能な複数の種類の重金属元素(例えば先に挙げたZnとCd)を定量対象(または分離対象)としても、本発明の効果を奏するという点では差し支えない。
上記の変形例をまとめて表現すると以下の構成となる。
「液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を定量する方法であって、
前記液体試料に含まれる前記複数の種類の重金属元素を共通した種類の配位子により各々錯化して得た錯イオンをイオン交換体に吸着させる吸着工程と、
前記錯イオンを吸着させた前記イオン交換体から前記複数の種類の重金属元素を分離する分離工程と、
分離された前記複数の種類の重金属元素を定量する定量工程と、
を有する、重金属元素の定量方法。」
(酸化剤を加えることに焦点を当てた発明)
また、本発明の知見のうち、重金属元素の中にはイオンにおいて酸化度合いが足りずに(すなわち価数が低いせいで)錯イオンを安定して形成できないもの(例えばPb2+)があることを鑑み、液体試料に対して酸化剤を加えておくことそのものにも、本発明の技術的思想において大きな特徴がある。この構成を採用することにより、分離工程で述べたように、分離工程で用いられる液量は、硝酸のみを用いる場合に比べて約半分程度に抑えることができる。そうなると定量工程にかける際の溶液の総量を相当低減することが可能となり、ひいては濃縮率を向上させることができ、その結果、より高感度な測定が可能になる。
この場合、定量対象は、本実施形態におけるPb2+のみでも構わなくなる。
なお、本発明の課題の一つであるところの重金属元素の高感度な定量については、上記の構成においても変わらず適用可能である。また、本実施形態と同様に、イオン交換体から重金属元素を分離しやすくなる。
上記の変形例をまとめて表現すると以下の構成となる。
「液体試料に含まれる重金属元素を定量する方法であって、
前記液体試料に含まれる前記重金属元素を酸化剤により酸化し、錯化して得た錯イオンをイオン交換体に吸着させる吸着工程と、
前記錯イオンを吸着させた前記イオン交換体から前記重金属元素を分離する分離工程と、
分離された前記重金属元素を定量する定量工程と、
を有する、重金属元素の定量方法。」
なお、上記の各変形例を重金属元素の分離方法へと転換させる際には、<2.重金属元素の分離方法>で述べたのと同様に、定量工程を省略可能である。また、上記の実施形態における好ましい例を上記の変形例に適用可能である。
以下、本実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、<実施例1>においては、模擬液としての液体試料を作製し、本実施形態に応じた内容が本発明の効果を奏することを示すことを主目的としつつ、副目的は、以下の2つの確認することとした。
(1)酸化剤添加工程にて添加される酸化剤の効果の確認
(2)分離工程にて用いられる還元剤の効果の確認
また、<実施例2>においては、実際の電気ニッケルの精製過程にて生じた塩化ニッケル溶液を使用した上で試験を行った。
<実施例1>
(1)酸化剤添加工程にて添加される酸化剤の効果の確認
[酸化剤の調整]
酸化剤としては次亜塩素酸ナトリウムを採用し、次亜塩素酸ナトリウム溶液を作製した。次亜塩素酸ナトリウム溶液は、市販の次亜塩素酸ナトリウム五水和物(和光純薬製、和光一級)約25gを純水で溶解し、500mlに定容して得た。
[液体試料の調整]
100mlメスフラスコを準備し、Zn、PbおよびCdの混合標準液100mg/lを1ml、塩酸20ml、次亜塩素酸ナトリウム溶液(5w/v%)を0〜20mlの範囲にて割り振った量を、当該メスフラスコに添加し、純水で定容して模擬液としての液体試料を得た。なお、次亜塩素酸ナトリウム溶液の割り振り量に応じた次亜塩素酸ナトリウム溶液の濃度を後述の表1に記載した。
得られた液体試料の各成分の濃度は、Zn、PbおよびCdは1mg/l、塩酸2.4M、次亜塩素酸ナトリウム0〜10g/lとした。
なお、ここで、次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加しなかった例(次亜塩素酸ナトリウムがゼロg/lの場合)が、本項目においては本実施形態に対する比較例に該当する。
[液体試料中の重金属元素(Zn、PbおよびCd)の定量]
まず、陰イオン交換樹脂カラムとしてジーエルサイエンス製InertSep MA−1、樹脂充填量は1.5gのものを使用した。各試薬とイオン交換体との接触には、カラムに充填されたイオン交換樹脂に当該試薬を通液する方法を採用した。
また、定量対象となる重金属元素が陰イオン交換樹脂に付着している可能性を鑑み、当該重金属元素を陰イオン交換樹脂から洗浄除去するため、陰イオン交換樹脂に対して硝酸1.4Mを約10ml通液した。次に、陰イオン交換樹脂をコンディショニングするため、陰イオン交換樹脂に対して塩酸2.4Mを約10ml通液した。
そして、先ほど定容して得た液体試料を正確に10ml分取し、陰イオン交換樹脂に対して通液した。なお、次亜塩素酸ナトリウムの濃度を異ならせた各々の液体試料を、陰イオン交換樹脂に対して通液した。こうして吸着工程を行った。
その後、陰イオン交換樹脂に対して塩酸2.4Mを約10ml通液し、洗浄工程を行った。
そして、定量対象となるPb、Zn、Cdを陰イオン交換樹脂から溶離するため、硝酸1.4Mを正確に20ml分取し、陰イオン交換樹脂に対して通液した。このときに通液した液を全量回収し、ICP発光分光分析法(SPECTRO製ARCOS)で定量し、各重金属元素の回収率を得た。その結果を示すのが以下の表である。
なお、回収率が100%を超えているものがあるが、本実施例においては回収率に±10%の誤差が生じ得るため、このような結果となっている。
Figure 0006489379
表1によれば、次亜塩素酸ナトリウムを用いなかった場合(すなわちゼロg/lの場合)、Pbは一桁の回収率にとどまっていた。その一方、次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合、Pbは二桁の回収率を達成できた。特に、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05g/lを超えた場合(好ましくは0.5g/l以上の場合)、回収率が著しく向上して80%以上となった。
つまり、本実施例によれば、固相抽出法という簡便な手法が採用可能となり、複数の種類の重金属元素を液体試料から分離することが可能であることが確認できた。その結果、当該分離が可能ならば、Zn、PbおよびCdを一度に定量することも可能になることが示された。
(2)分離工程にて用いられる還元剤の効果の確認
[酸化剤および液体試料の調整]
酸化剤および液体試料の調製は上記の(1)と同様とした。なお、液体試料は、各成分濃度が、ZnおよびPb1mg/l、塩酸2.4M、次亜塩素酸ナトリウム1g/lのものを使用した。
[液体試料中の重金属元素(ZnおよびPb)の定量]
洗浄工程までは上記の(1)と同様とした。分離工程においては、酸溶液としては硝酸1.4Mを使用しつつ、還元剤として、各々アスコルビン酸、過酸化水素水、またはチオ尿素を混合したものも使用した。還元剤の濃度は、アスコルビン酸10mM、過酸化水素水1vol%、チオ尿素10mMになるように調製した。(これらを溶離液と呼ぶ。)
なお、溶離液の液量は、上記の各々の溶離液から10ml採取したものについて各々試験を行った。それと同様に、各々の溶離液から20ml採取したものについても各々試験を行った。
上記の各種溶離液を陰イオン交換樹脂に通液し、通液した液を全量回収し、ICP発光分光分析法(SPECTRO製ARCOS)で定量し、各重金属の回収率を得た。その結果を示すのが以下の表である。
Figure 0006489379
表2によれば、還元剤を使用しない場合であっても、ZnにしてもPbにしても二桁の回収率が得られた。その一方、還元剤としてアスコルビン酸、過酸化水素水またはチオ尿素を使用した場合だと、溶離液を10mlとした少量の場合であっても80%以上という高い回収率が得られた。
上記の実施の形態にて述べたように、溶離液の液量が少ない条件である程、濃縮率が大きくなる。その結果、本実施例ならば、機器分析法による定量の際、高感度な測定が期待でき、しかも固相抽出法を採用しているため各操作が簡便になることが示された。
<実施例2>
本実施例においては、実際の電気ニッケルの精製過程にて生じた塩化ニッケル溶液(すなわち実試料)を使用した上で試験を行い、重金属(ZnおよびPb)の定量分析および回収率を確認した。ただ、手法としては<実施例1>と同様としている。
[分析試料準備]
実試料には、原料であるニッケル硫化物を塩素浸出し、精製工程を経て電気ニッケルを得るニッケルの湿式製錬工程において、ニッケル電解液を得るまでの精製過程で得られる塩化ニッケル溶液とした。この時に用いた実試料の共存元素の濃度は、Ni:50〜200g/l、Na:5〜20g/l、S:5〜10g/lであり、pHは0〜4であった。
密栓可能な容器に分析試料を50ml分液した。分析精度を確認するため、3個のサンプル各々に対して併行して試験を行った。
また、回収率を確認するため、ZnおよびPbの混合標準液を定量値と等倍から二倍相当量、更に添加したものを準備した。この結果は、後述の表3の回収率+A、+Bの項目に対応する。
[酸化剤の調製および酸化剤添加工程]
酸化剤の調製は、実施例1の(1)と同様とした。次亜塩素酸ナトリウム溶液(5w/v%)を、(1)で準備した試料に1ml添加した。容器を密栓し、目安として塩素ガスの気泡が発生するまで10〜20回程度撹拌した。
[その他の準備工程〜洗浄工程]
陰イオン交換樹脂に係る各種準備、吸着工程、洗浄工程は、<実施例1>と同様とした。
[分離工程]
溶離液としては、酸として硝酸1.4M、還元剤としてアスコルビン酸10mMを含む混合溶液を10ml使用し、陰イオン交換樹脂に対して通液した。
[定量工程]
分離工程にて通液した液を全量回収し、フレーム原子吸光分析法(HITACHI製Z−2300)を使用し、ZnおよびPbの濃度と添加回収率を得た。フレーム原子吸光分析法は検量線法で測定値を得た。この時の検量線には、ZnおよびPb濃度が既知で、液性が硝酸1.4Mの標準溶液を使用した。
試料量は50ml、溶離液の回収量が10mlであるため、濃縮比は5となる。従って、フレーム原子吸光分析法で得られた測定値を5で除算することで、分析試料中のZnおよびPbの定量値を得た。その結果を示すのが以下の表である。
Figure 0006489379
分析精度の指標となる相対標準偏差RSD%は10%を下回っており、微量分析における精度としては十分であった。なお、ここでの精度は、機器分析法による測定時の感度に支配されるため、より高精度に定量したい場合は、分析試料量を増やし濃縮比を上げるのが効果的である。
ちなみに回収率としては、二つの水準を採用した。つまり、表3でいうところの+Aとは、酸化剤添加工程の直前に例えばZnを定量値相当量、予め液体試料に添加しておき、最終的に回収されたZnの総量において、予め添加された定量値相当のZn量がどの程度回収されたのかを表3にて示した。なお、+Aが一つの水準である。もう一つの水準とは+Bすなわち例えばZnを定量値に対して二倍相当量、予め液体試料に添加しておき、最終的に回収されたZnの総量において、予め添加されたZn量すなわち定量値に対して二倍相当のZn量がどの程度回収されたのかを示したものである。
本実施例においては、二つの水準いずれも回収率が80%以上となっており、吸着工程および溶離工程において、当該試料の共存成分による妨害が極めて少ないことが確認できた。
また、定量対象となる重金属元素(ZnおよびPb)と実試料中の共存元素との間の分離効果を確認するため、定量工程に供した液中のNi、NaおよびS濃度をICP発光分析法で定量した。
その結果、Niの濃度は100mg/l未満、NaおよびSの濃度は5mg/l未満であり、共存元素が十分除去できていることを確認できた。つまり、0.01mg/l以上という定量下限を達成することができた。
以上の結果、本実施例によれば、液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を簡便に分離でき、さらには当該複数の種類の重金属元素を高感度に定量できることが示された。

Claims (16)

  1. 液体試料に含まれる複数の種類の重金属元素を定量する方法であって、
    酸化剤が加えられた前記液体試料に含まれる前記複数の種類の重金属元素を共通した種類の配位子により各々錯化して得た錯イオンをイオン交換体に吸着させる吸着工程と、
    前記錯イオンを吸着させた前記イオン交換体から前記複数の種類の重金属元素を分離する分離工程と、
    分離された前記複数の種類の重金属元素を定量する定量工程と、
    を有し、
    前記複数の種類の重金属元素のうちの少なくとも一種は、前記酸化剤により酸化されて前記配位子により錯化される、重金属元素の定量方法。
  2. 前記液体試料は、ニッケル鉱石から湿式製錬方法によって得られたニッケル硫化物を塩素浸出して得られる塩化ニッケル溶液である、請求項1に記載の重金属元素の定量方法。
  3. 前記液体試料における塩化ニッケルの濃度は10g/l以上である、請求項2に記載の重金属元素の定量方法。
  4. 前記吸着工程の前に、前記イオン交換体を塩酸に接触させておく、請求項2または3に記載の重金属元素の定量方法。
  5. 前記分離工程の前に、塩酸を用い、前記錯イオンを前記イオン交換体に吸着させた状態を維持しつつ前記イオン交換体を洗浄する、請求項4に記載の重金属元素の定量方法。
  6. 前記複数の種類の重金属元素には鉛が含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の重金属元素の定量方法。
  7. 前記分離工程の際に、還元剤を含む溶離液を使用する、請求項6に記載の重金属元素の定量方法。
  8. 前記還元剤は、アスコルビン酸、チオ尿素または過酸化水素を含む、請求項7に記載の重金属元素の定量方法。
  9. 前記酸化剤は次亜塩素酸ナトリウムを含む、請求項6〜8のいずれかに記載の重金属元素の定量方法。
  10. 前記複数の種類の重金属元素には亜鉛が含まれる、請求項6〜9のいずれかに記載の重金属元素の定量方法。
  11. 前記分離工程においては、硝酸を含む溶離液を使用する、請求項6〜10のいずれかに記載の重金属元素の定量方法。
  12. 前記イオン交換体は陰イオン交換樹脂である、請求項6〜11のいずれかに記載の重金属元素の定量方法。
  13. 前記定量工程においては、フレーム原子吸光法、黒鉛炉原子吸光法、ICP発光分光分析法またはICP質量分析法を使用する、請求項1〜12のいずれかに記載の重金属元素の定量方法。
  14. 前記定量工程においては、前記複数の種類の重金属元素を一度に定量する、請求項13に記載の重金属元素の定量方法。
  15. 液体に含まれる複数の種類の重金属元素を分離する方法であって、
    酸化剤が加えられた前記液体に含まれる前記複数の種類の重金属元素を共通した種類の配位子により各々錯化して得た錯イオンをイオン交換体に吸着させる吸着工程と、
    前記錯イオンを吸着させた前記イオン交換体から前記複数の種類の重金属元素を分離する分離工程と、
    を有し、
    前記複数の種類の重金属元素のうちの少なくとも一種は、前記酸化剤により酸化されて前記配位子により錯化される、重金属元素の分離方法。
  16. 前記液体試料は、硫酸ニッケル溶液、塩化コバルト溶液、硫酸コバルト溶液、塩化銅溶液、硫酸銅溶液の少なくともいずれかである、請求項1に記載の重金属元素の定量方法。
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