以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る試料表面の付着物の計測装置(以下、「付着物計測装置」という。)100の構成を表すブロック図である。付着物計測装置100は、プローブ101と、分光部110と、第1光検出部121と、第2光検出部122と、制御部130と、レーザー光源140と、光ファイバケーブル150及び151を有する。図1の右端に、試料10を示している。試料10の表面に、付着物12が付着している。
上記の付着物計測装置100の構成のうち、分光部110は、図1において一点鎖線の楕円で囲んで表したレンズ112及びミラー113からなる。ミラー113は、入射光のうち一部の波長域の光を反射し、それ以外の波長域の光を透過するという特性を有する。このような特性を持つミラーは、ダイクロイックミラーとして知られている。ミラー113の反射光及び透過光の波長域の設定については、後述する。
第1光検出部121及び第2光検出部122は、例えばフォトダイオードである。制御部130は、例えば、演算装置、記憶装置及び入出力装置を備えたパーソナルコンピュータ(PC)であるが、PCとは限らず、以下に述べるような付着物計測装置100の動作の制御と、付着物の付着の程度を推定するための演算ができるものであれば、どのような構成のものでもよい。
レーザー光源140は、例えば固体レーザーであるが、それに限るものではない。レーザー光源140の出射光の波長は一定とする。ただし、出射光の波長が可変のレーザーの波長を一定にするように、制御部130からレーザー光源140を制御してもよい。なお、レーザー光源140を付着物計測装置100に含まず、付着物計測装置100の外部からレーザー光を入射するという構成であってもよい。
レーザー光源140から出射されたコヒーレント光は、光ファイバケーブル150を通してプローブ101に導かれる。プローブ101は、上記のコヒーレント光によって試料10において散射されたラマン散乱光及び付着物12から生じた蛍光を検出する。これらの検出された光は、光ファイバケーブル151を通して分光部110に導かれる。
図2は、プローブ101の構成を例示するブロック図である。プローブ101は、レンズ102、帯域通過フィルタ103、ミラー104、レンズ105、ミラー106、ロングパスフィルター107及びレンズ108を有する。図2の右端に、付着物12が表面に付着した試料10を図1と同様に示している。また、図2の左端に、光ファイバケーブル150及び151のプローブ101に近い側の端部をそれぞれ示している。
帯域通過フィルタ103は、コヒーレント光の主要な波長成分を通過させ、他の波長域の光を阻止するフィルタである。レーザー光源140から出射したコヒーレント光の波長域が、ラマン散乱光を散射し蛍光を放射するのに十分なだけ狭ければ、帯域通過フィルタ103を設けないでもよい。
ミラー104は、コヒーレント光の波長域の光を透過し、それ以外の波長域の光を反射するダイクロイックミラーである。ミラー106は、あらゆる波長域の光を透過せずに反射するミラーである。ロングパスフィルター107は、短波長側の光を阻止して長波長側の光を透過する特性を持つフィルタであって、図2に示す構成においてはコヒーレント光のもれが蛍光及びラマン散乱光に紛れ込むのを阻止する役割を果たす。
上記のプローブ101の構成のうち、レンズ102、帯域通過フィルタ103、ミラー104及びレンズ105は、光ファイバケーブル150を通して導かれたコヒーレント光を、試料10及び付着物12に照射する役割を果たす。また、レンズ105、ミラー104及び106、ロングパスフィルター107及びレンズ108は、上記のコヒーレント光によって試料10において散射されたラマン散乱光又は付着物12から生じた蛍光を集光する役割を果たす。
図1及び図2を参照して、付着物計測装置100の動作を説明する。レーザー光源140は、制御部130に制御されて、波長が一定に保たれたコヒーレント光を出射する。出射されたコヒーレント光は、光ファイバケーブル150を通してプローブ101に導かれ、光ファイバケーブル150のプローブ101側の端面からレンズ102に入射する。
レンズ102は、入射されたコヒーレント光の光束を整形し、帯域通過フィルタ103を経てミラー104に入射させる。ミラー104はコヒーレント光の波長域の光を透過するダイクロイックミラーであるから、コヒーレント光はミラー104を透過し、さらにレンズ105において合焦のうえ試料10及びその表面の付着物12を照射する。
試料10がコヒーレント光に照射されると、コヒーレント光の波数に対して試料10を構成する物質の主成分に固有のラマンシフトを隔てた波数を持つ(これに対応して波長が定まる)ラマン散乱光が散射される。ラマンシフトは絶対値が等しい正負の値を持ち、これに対応してコヒーレント光に対し長波長側と短波長側にそれぞれラマン散乱光を生じる。本実施例及び以下のすべての実施例においては、ラマン分光法で一般的に観測の対象とする長波長側のいわゆるストークス散乱光を集光するものとする。
付着物12がコヒーレント光に照射されると、コヒーレント光に対して長波長側にスペクトルの広がった蛍光が放射される。放射される蛍光の強度は、付着物の付着の程度及び光源であるコヒーレント光の強度の両方に依存する。付着の程度がはなはだしいほど(付着物が汚れである場合は、汚れの程度がひどいほど)、放射される蛍光の強度が大きい。
図3に、汚れが付着した歯牙の表面にコヒーレント光を照射して放射された蛍光とラマン散乱光のスペクトルを計測して得たデータの一例を示す。図3のグラフの横軸はラマンシフトであり、単位は波数(cm−1)である。図3のグラフの縦軸は、計測された光の強度を任意単位で表したものである。
図3に示したデータのうち上側のプロットは、歯牙汚れを軽減するための処置(例えば歯牙表面の切削、研磨等)を行う前の、汚れ成分により放射された蛍光のスペクトルを表す。同じく下側のプロットは、上記の汚れの軽減処置を行った後に残存する汚れ成分により放射された蛍光のスペクトルを表す。
図3に示した上下のプロットのいずれにも、ラマンシフトが約950(cm−1)の位置にほぼ同振幅(データプロット上で蛍光のスペクトルが与えるバイアス値から突出した振幅)のピークが現れている。これらのピークは、歯牙を構成する主成分であるヒドロキシアパタイトの固有のラマン散乱光が観測されたものである。ラマン散乱光の強度は、図3から明らかなように、上記の汚れの軽減処置の前後で変わることがない。
図4に、シリコン基板の表面が汚れている場合と汚れていない場合について、コヒーレント光を照射して放射された蛍光とラマン散乱光のスペクトルを計測して得たデータの一例を示す。図4のグラフの横軸はラマンシフトであり、単位は波数(cm−1)である。図4のグラフの縦軸は、計測された光の強度を任意単位で表したものである。
図4に示したデータのうち下側のプロットは、シリコン基板の表面が汚れていないときのスペクトルを表す。同じく上側のプロットは、シリコン基板の表面が機械油で汚れているときのスペクトルを表す。下側のプロットには蛍光のスペクトルがほとんど見られないのに対して、上側のプロットには蛍光のスペクトルが顕著に現れている。
図4に示した上下のプロットのいずれにも、ラマンシフトが約521(cm−1)の位置にほぼ同振幅(データプロット上で蛍光のスペクトルが与えるバイアス値から突出した振幅)のピークが現れている。これらのピークは、シリコンの固有のラマン散乱光が観測されたものである。図4に現れたラマン散乱光の強度は、図3の場合と同様に、汚れの有無や程度差によって変わることはない。
続いて、図2を参照する説明に戻る。試料10で散射されたラマン散乱光及び付着物12から生じた蛍光は、レンズ105を経てミラー104に(レーザー光源140からの入射光とは逆の向きに)入射する。上記のラマン散乱光及び蛍光は、コヒーレント光の波長域よりも長波長側の光であるから、ダイクロイックミラーであるミラー104によって反射される。上記のラマン散乱光及び蛍光は、さらにミラー106及びロングパスフィルター107を経て、レンズ108によって集光され光ファイバケーブル151のプローブ101側の端面に入射する。
光ファイバケーブル151のプローブ101側の端面に入射したラマン散乱光及び蛍光は、図1に示すように光ファイバケーブル151に導かれて、光ファイバケーブル151の分光部110側の端面からレンズ112に入射する。レンズ112は、入射されたラマン散乱光及び蛍光の光束を整形したうえで、ミラー113に入射させる。ミラー113は、入射されたラマン散乱光の波長(レーザー光源140の出射光の波長(一定値)を、試料10の主成分固有のラマンシフト相当分だけ長波長側にシフトさせた波長)域の光を反射し、他の波長域の光を透過するように設定されたダイクロイックミラーである。
そうすると、ミラー113に入射したラマン散乱光及び蛍光のうちミラー113によって反射される波長域の成分は図1における下方に向かって(矢印付き破線で表したように)反射され、第1光検出部121によって検出される。また、ミラー113に入射した蛍光のうち、ミラー113によって透過される波長域の成分は図1における左方に向かって(矢印付き実線で表したように)透過され、第2光検出部122によって検出される。第1光検出部121及び第2光検出部122は、これらの検出値をそれぞれ制御部130に送る。
上記の第1光検出部121の検出値は、例えば図3に示した上又は下のプロットの例では、横軸上で試料10の主成分固有のラマンシフトに対応する箇所におけるピークが示す強度と、ミラー113の反射光の帯域幅の積である(この場合の「帯域幅」は波数軸において定めるものとし、以下同様である。)。この値は、ラマン散乱光の寄与分と、蛍光のうち同じ波長域成分の寄与分の和である。一方、上記の第2光検出部122の検出値は、広範囲スペクトル(正確にいえば、試料10の主成分固有のラマンシフトに対応する箇所を除く)の蛍光強度の積分値(プロットより下の領域の面積で表現される)に相当する。
図3において、上又は下のプロットが概ね線形であって、かつ、試料10の主成分固有のラマンシフトの位置が既知であることに着目する。そうすると制御部130は、第1光検出部121の検出値のうち蛍光の寄与分(ピークの位置における蛍光成分によるバイアス分)を、比例関係にある第2光検出部122の検出値(プロットより下の領域の面積相当)から計算によって求めることができる。制御部130は、そのようにして求めた値を第1光検出部121の検出値から減算することによって、第1光検出部121の検出値のうちラマン散乱光の寄与分を求めることができる。図4のプロットの例においても、ほぼ同様の計算が可能である。
制御部130が第2光検出部122の検出値から求めた広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値は、付着物12の付着の程度に依存する。しかし、蛍光の強度はレーザー光源140からのコヒーレント光の強度にも比例するため、観測された蛍光強度の積分値から付着物12の付着の程度を推定するためには、コヒーレント光の強度に左右されない計測又はデータ処理を行う必要がある。
そのための一つの方法は、コヒーレント光の強度を一定に保つことである。しかしながら、例えば図1において試料10は歯牙であり、プローブ101はハンドヘルド型の歯科検査器具であると仮定する。その場合、試料10を照射するコヒーレント光の強度は、プローブ101と試料10の間の距離に左右される。一度目の計測の間に上記の距離を一定に保つことができたとしても、二度目以降の計測において同じ距離を維持することは必ずしも容易ではなく、データの再現性に難点がある。
一方、ラマン散乱光の強度もまた、レーザー光源140からのコヒーレント光の強度に比例する。他方、ラマン散乱光の強度は、試料10の主成分に固有の値であるから、付着物12の付着の程度には依存しない。したがって上述したように、第1光検出部121の検出値のうちラマン散乱光の寄与分を尺度として広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を評価することにより、付着物12の付着の程度を定量的に、かつ、再現性を保って推定することができる。具体的には、制御部130が蛍光強度の積分値を第1光検出部121の検出値のうちラマン散乱光の寄与分によって除算した結果の値で、付着物12の付着の程度を表すことができる。
上記の付着物計測装置100の構成において、ミラー113は入射されたラマン散乱光の波長域の光を反射し、他の波長域の光を透過するように設定されたものとした。これとは逆に、ミラー113は入射されたラマン散乱光の波長域の光を透過し、他の波長域の光を反射するように設定されたものとしてもよい。その場合に制御部130は、第1光検出部121の検出値が広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を表し、第2光検出部122の検出値が試料10の主成分固有のラマンシフトに対応する波長域におけるピークの強度と通過帯域幅の積であるとして、上記の演算を行えばよい。
図5及び図6を参照して、実施例1の変形例を説明する。図5は、当該変形例に係る付着物計測装置109の構成を表すブロック図である。付着物計測装置109は、実施例1に係る付着物計測装置100の構成のうち、分光部110を分光部111で置き換えたものであり、その他は付着物計測装置100のそれぞれ対応する構成と同じである。分光部111は、分光部110の構成に帯域通過フィルタ117を追加したものである。
帯域通過フィルタ117は、ミラー113に入射するラマン散乱光の波長域及び当該ラマン散乱光の波長域の前後の波長域を含む波長域の光を透過する特性を有する。その一例を、直線近似で表した蛍光及びラマン散乱光のスペクトルに重ねて、図6に示す。
図5において、第2光検出部122の検出値は、図6に示した帯域通過フィルタ117の通過波長域(ミラー113の反射波長域を除く。)における蛍光強度の積分値(図6でハッチングを付して表した領域)に相当する。蛍光スペクトルの形状は試料10及び付着物12の条件が変わらない限り、振幅を除いて一定であるから、上記のハッチング領域における蛍光強度の積分値が付着物12の付着の程度を表すとしてもよい。また、上記のハッチング領域における蛍光強度の積分値から、比例関係にある広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を算出してもよい。
スペクトルを直線近似したことによって、上記のハッチング領域の面積を計算することができるから、図6に示したように蛍光強度の平均値を求めることができる。そうすると、第1光検出部121の検出値におけるラマン散乱光の寄与分と蛍光の寄与分を、それぞれ容易に求めることができる。
従来の付着物の計測においては、蛍光及びラマン散乱光からなる光を回折格子に入射させて各波長成分を空間的に分離し、光検出素子が平面上に分布した例えばCCD検出器によって各波長成分の光を受けて入射光のスペクトルを分析するという、典型的な分光法を利用していた。このため規模が大きく高価な分光器を必要としていた。これに対して、実施例1の計測方法では、波長選択手段(実施例1においてはミラー113)を用いて所定のラマン散乱光の成分だけを蛍光の広範囲スペクトルから分離するという簡潔かつ単純な構成によって、ラマン散乱光の強度と通過帯域幅の積の値を尺度として広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を表すことができる。
本発明の実施例1によれば、従来よりも簡潔かつ単純な構成を用いて、付着物の付着の程度を定量的に、かつ、再現性をもって推定することができる。さらに、変形例に示したように蛍光の検出に帯域通過フィルタを併用すれば、推定のための演算を容易に行うことができる。なお、図2に示したプローブ101の構成は一例であって、コヒーレント光の照射並びにラマン散乱光及び蛍光の集光の機能を果たすものであれば、図2に示したものに限らずどのような構成であってもよい。実施例1では、ラマン散乱光及び蛍光の強度をそれぞれの帯域幅にわたって積分した値を用いるものとして説明したが、それぞれ適切な波数に対応する強度値を計測して積分せずに用いてもよい(以下の実施例においても同様である。)。
図7は、本発明の実施例2に係る付着物計測装置200の構成を表すブロック図である。図7に表した各構成は、符号114ないし116を付して表したものを除いて、図1に同じ符号を付して表した各構成とそれぞれ同じであるから、それらの説明は省略する。
付着物計測装置200は、実施例1に係る付着物計測装置100の分光部110に代えて、分光部114を有する。分光部114は、図7において一点鎖線の楕円で囲んで表したレンズ112、スプリッタ115及び帯域通過フィルタ116からなる。
スプリッタ115は、レンズ112から入射する光束(図1におけるのと同じラマン散乱光及び蛍光からなる。)を、図7において下方及び左方にそれぞれ向かう第1の部分光束と第2の部分光束に分割する。第1の部分光束は反射光であり、第2の部分光束は透過光である。反射光と透過光の強度比が1対1であるものを、ハーフミラーと呼ぶことがある。スプリッタ115の反射光と透過光の強度比は、必ずしも1対1でなくてもよい。帯域通過フィルタ116は、入射されたラマン散乱光の波長域を通過波長域とし、他の波長域の光を阻止するフィルタである。
図7を参照して、付着物計測装置200の動作を説明する。レーザー光源140からプローブ101を経てコヒーレント光を照射された試料10において散射されたラマン散乱光及び付着物12から生じた蛍光が、レンズ112に入射されるまでの動作は、実施例1の付着物計測装置100の動作と同じであるから、説明を省略する。
レンズ112は、入射されたラマン散乱光及び蛍光の光束を整形したうえで、スプリッタ115に入射させる。スプリッタ115は入射した光束の一部(第1の部分光束)を反射して図7の下方に向かわせると共に、他の一部(第2の部分光束)を透過して図7の左方に向かわせる。第1の部分光束及び第2の部分光束は、それぞれ、スプリッタ115に入射した光束におけるのと同じ強度比のラマン散乱光及び蛍光からなる。
第1の部分光束をなすラマン散乱光及び蛍光のうちラマン散乱光と同波長域の成分は、帯域通過フィルタ116を通過し、第1光検出部121によって検出される。第1の部分光束に含まれる蛍光のうちラマン散乱光の波長域を除く波長域の成分は、帯域通過フィルタ116によって阻止される。また、第2の部分光束に含まれるラマン散乱光及び蛍光は、第2光検出部122によって検出される。第1光検出部121及び第2光検出部122は、これらの検出値をそれぞれ制御部130に送る。
上記の第1光検出部121の検出値は、例えば図3に示した上又は下のプロットの例では、横軸上で試料10の主成分固有のラマンシフトに対応する箇所におけるピークが示す強度(ラマン散乱光の強度と、同じ波長域における蛍光成分の強度の和)と帯域通過フィルタ116の透過光の帯域幅の積に、スプリッタ115における分割比(これを、r<1で表す。)を乗じた値である。一方、上記の第2光検出部122の検出値は、広範囲スペクトルの蛍光とラマン散乱光の強度の積分値(プロットより下の領域の面積で表現される)に、係数(1−r)を乗じた値である。このうち、ラマン散乱光の寄与分は相対的に小さいので無視できると考えられるから、実質的には(広範囲スペクトルの蛍光の強度の積分値)×(1−r)である。
上記の係数rの値は既知であるから、制御部130は、第1光検出部121の検出値からラマン散乱光の寄与分及び蛍光のうち同じ波長域成分の寄与分の和を、第2光検出部122の検出値から広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を、それぞれ求めることができる。
したがって、制御部130は、実施例1の場合と同様の演算によって、第1光検出部121の検出値のうちラマン散乱光の寄与分を尺度として広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を表すことができる。
本発明の実施例2によれば、従来よりも簡潔かつ単純なもうひとつの構成を用いて、付着物の付着の程度を定量的に、かつ、再現性をもって推定することができる。
図8は、本発明の実施例3に係る付着物計測装置300の構成を表すブロック図である。図8に表した各構成は、符号118、119、142及び301を付して表したものを除いて、図1に同じ符号を付して表した各構成とそれぞれ同じであるから、それらの説明は省略する。
付着物計測装置300は、実施例1に係る付着物計測装置100の分光部110に代えて、分光部118を有する。分光部118は、図8において一点鎖線の楕円で囲んで表したレンズ112及び帯域通過フィルタ119からなる。帯域通過フィルタ119は、所定の波長域を通過波長域とし、他の波長域の光を阻止するフィルタである。帯域通過フィルタ119の通過波長域の中心波長に対応する波数を、k0で表す。
付着物計測装置300は、実施例1に係る付着物計測装置100のレーザー光源140に代えて、波長可変レーザー光源142を有する。波長可変レーザー光源142は、制御部130の制御にしたがって出射コヒーレント光の波長を変えることができる。なお実施例1と同様に、波長可変レーザー光源142を付着物計測装置300に含まず、付着物計測装置300の外部から波長可変のレーザー光を入射するという構成であってもよい。
付着物計測装置300は、実施例1に係る付着物計測装置100のプローブ101に代えて、プローブ301を有する。プローブ301は、プローブ101とほぼ同様に構成されるが、コヒーレント光の波長が可変であることに対応して各種フィルタの配置やカットオフ波長を選ぶものとする。
図8及び図9を参照して、付着物計測装置300の動作を説明する。図9は、波長可変レーザー光源142の出射コヒーレント光の波長を3通りに変えて、それぞれの場合に試料10において散射されるラマン散乱光及び付着物12から生じる蛍光のスペクトルを模式的に示す図である。
図9に示す符号「A」は、出射コヒーレント光の波長を対応する波数がk1(図9において横軸の右端寄りに位置する値)であるように選んだときのスペクトルを表す。図9に示す符号「B」は、出射コヒーレント光の波長を対応する波数が(k0+ks)であるように選んだときのスペクトルを表す(ksは、試料10の主成分物質に固有のラマンシフトの値(波数)を指す。)。図9に示す符号「C」は、出射コヒーレント光の波長を対応する波数がk2(図9において横軸の中央近くに位置する値)であるように選んだときのスペクトルを表す。
制御部130は、初めに、設定する波長可変レーザー光源142の出射コヒーレント光の波長を対応する波数がk1であるように選ぶ。このように波長を設定されたコヒーレント光が光ファイバケーブル150を経てプローブ301から試料10及び付着物12に対して照射されると、実施例1及び2と同様のラマン散乱光が散射され蛍光が放射される。ラマンシフトの値をksとしたから、ラマン散乱光は波数(k1−ks)の位置に現れる。蛍光は、実施例1及び2と同様に広がったスペクトルを示す(図3を参考に直線で近似した。)。これらを、符号「A」を付したスペクトル(以下、スペクトルAという。同様の意味で、スペクトルB、スペクトルCの用語を用いる。)で表している。
スペクトルAで表されるラマン散乱光及び蛍光は、実施例1又は2と同様にプローブ301で集光され、光ファイバケーブル151を経て分光部118のレンズ112に入射し、さらに帯域通過フィルタ119に到達する。帯域通過フィルタ119を通過して第1光検出部121で検出される光の強度帯域幅積は、図7に示すようにスペクトルAにおいて波数k0に対応する通過波長域における強度帯域幅積(符号「SA」で表す。)である。
第1光検出部121は、この検出値SAを制御部130に送る。制御部130は、波長可変レーザー光源142の波長を対応する波数がk1であるように選んだとき、第1光検出部121の検出値がSAであったというデータを、内部に記憶する。
制御部130は、次に、設定する波長可変レーザー光源142の出射コヒーレント光の波長を対応する波数が(k0+ks)であるように選ぶ。この条件下で試料10から散射されるラマン散乱光は、波数k0の位置に現れる。蛍光は、スペクトルAと同様に広がったスペクトルを示す。これらを合わせて、図9に示したスペクトルBを得る。
スペクトルBで表されるラマン散乱光及び蛍光は、実施例1又は2と同様にプローブ301で集光され、光ファイバケーブル151を経て分光部118のレンズ112に入射し、さらに帯域通過フィルタ119に到達する。帯域通過フィルタ119を通過して第1光検出部121で検出される光の強度帯域幅積は、図9に示すようにスペクトルBにおいて波数k0に対応する通過波長域における値(符号「SB」で表す。)である。これは、ラマン散乱光のスペクトルが帯域通過フィルタ119の通過波長域と一致した条件下での値である。
第1光検出部121は、この検出値SBを制御部130に送る。制御部130は、波長可変レーザー光源142の波長を対応する波数が(k0+ks)であるように選んだとき、第1光検出部121の検出値がSBであったというデータを、内部に記憶する。
制御部130は、さらに、設定する波長可変レーザー光源142の出射コヒーレント光の波長を対応する波数がk2であるように選ぶ。この条件下で試料10から散射されるラマン散乱光は、波数(k2−ks)の位置に現れる。蛍光は、スペクトルAと同様に広がったスペクトルを示す。これらを合わせて、図9に示したスペクトルCを得る。
スペクトルCで表されるラマン散乱光及び蛍光は、実施例1又は2と同様にプローブ301で集光され、光ファイバケーブル151を経て分光部118のレンズ112に入射し、さらに帯域通過フィルタ119に到達する。帯域通過フィルタ119を通過して第1光検出部121で検出される光の強度帯域幅積は、図9に示すようにスペクトルCにおいて波数k0に対応する通過波長域における値(符号「SC」で表す。)である。
第1光検出部121は、この検出値SCを制御部130に送る。制御部130は、波長可変レーザー光源142の波長を対応する波数がk2であるように選んだとき、第1光検出部121の検出値がSCであったというデータを、内部に記憶する。
図9に示したように、スペクトルAでは、強度が最小に近い波長域の蛍光の成分が帯域通過フィルタ119を通過して、値SAが検出される。また、スペクトルCでは、強度が最大に近い波長域の蛍光の成分が帯域通過フィルタ119を通過して、値SCが検出される。制御部130は、したがって、値SAと値SCの平均値を、蛍光強度の近似的な平均値として採用することができる。
一方、制御部130は、スペクトルBの計測から、ラマン散乱光の寄与分及び蛍光のうち同じ波長域成分の寄与分の和を値SBとして得ている。制御部130は、したがって、実施例1の場合と同様の演算によって、ラマン散乱光の強度帯域幅積を尺度として広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を表すことができる。
実施例3では、波長可変レーザー光源142の波長を2通りに設定したときの検出値SAとSCの平均として、蛍光強度を近似的に求めた。蛍光強度の算出はこれに限らず、波長を3通り以上に設定して検出値の平均をとるようにしてもよく、又は波長を連続的に変えて検出値の積分を計算してもよい。
本発明の実施例3によれば、波長選択手段として1個の帯域通過フィルタのみ、光検出手段として1個の光検出部のみという、さらに単純化された構成によっても、付着物の付着の程度を定量的に、かつ、再現性をもって推定することができる。
図10は、本発明の実施例4に係る付着物計測装置400の構成を表すブロック図である。図10に表した各構成は、符号410、420及び430を付して表したものを除いて、図1に同じ符号を付して表した各構成とそれぞれ同じであるから、それらの説明は省略する。
付着物計測装置400は、実施例1に係る付着物計測装置100の分光部110に代えて、分光部410を有する。分光部410は、図10において一点鎖線の楕円で囲んで表したレンズ112及び回折格子420からなる。
付着物計測装置400は、実施例1に係る付着物計測装置100の第1光検出部121及び第2光検出部122に代えて、CCD検出部430を備える。CCD検出部430は、複数の光検出器を包含したCCD以外の光検出装置で置き換えてもよい。
図10を参照して、付着物計測装置400の動作を説明する。レーザー光源140からプローブ101を経てコヒーレント光を照射された試料10において散射されたラマン散乱光及び付着物12において放射された蛍光が、レンズ112に入射されるまでの動作は、実施例1の付着物計測装置100の動作と同じであるから、説明を省略する。
レンズ112は、入射されたラマン散乱光及び蛍光の光束を整形したうえで、回折格子420に入射させる。すると、回折格子420からCCD検出部430に向かって、ラマン散乱光及び蛍光の異なる波長域ごとの成分が出射角を異にして出射される。それらの各成分は、CCD検出部430を構成する複数の光検出器によってそれぞれ検出され、各検出値が制御部130に送られる。
制御部130は、上記の各検出値を受けて、例えば図3又は図4に示したようなラマン散乱光及び蛍光のスペクトルを得ることができる。その結果、制御部130は、以上の各実施例に述べたのと同じように、ラマン散乱光の強度帯域幅積を尺度として広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を表すことができる。本発明の実施例4によれば、従来の典型的な分光器の構成に本発明を適用した場合にも、前述した各実施例と同様の効果を発揮することができる。
図11は、本発明の実施例5に係る付着物計測装置500の構成を表すブロック図である。図11に表した各構成は、符号510ないし512及び520を付して表したものを除いて、図1に同じ符号を付して表した各構成とそれぞれ同じであるから、それらの説明は省略する。
付着物計測装置500は、実施例1に係る付着物計測装置100の分光部110に代えて、分光部510を有する。分光部510は、図10において一点鎖線の楕円で囲んで表したレンズ112、第1帯域通過フィルタ511、第2帯域通過フィルタ512及びフィルタ入れ替え部520からなる。
フィルタ入れ替え部520は、レンズ112からの入射光を第1帯域通過フィルタ511又は第2帯域通過フィルタ512に入れ替えて入射させるための可動機構からなる。フィルタ入れ替え部520は、例えばレンズ112に対向する平面内においてレンズ112に対して相対的に回転したり平行移動したりすることによって、レンズ112からの光の入射先として第1帯域通過フィルタ511及び第2帯域通過フィルタ512を互いに入れ替えることができる。
フィルタ入れ替え部520の可動機構としては、上記のほかにもさまざまな形態があり得る。レンズ112(及び第1光検出部121)との関係における「可動」の意味は上述したように相対的であるから、いずれの側を可動とするかは任意である。制御部130はフィルタ入れ替え部520に接続され、図示しないアクチュエータ部を介して、上記のフィルタ入れ替え部520の入れ替え動作を制御することができる。
第1帯域通過フィルタ511は、例えば図7に示した帯域通過フィルタ116と同様に、入射されたラマン散乱光の波長域を通過波長域とし、他の波長域の光を阻止するフィルタである。第2帯域通過フィルタ512は、例えば図5に示した帯域通過フィルタ117と同様に、入射された蛍光の波長域を通過波長域とするフィルタである。
図11を参照して、付着物計測装置500の動作を説明する。レーザー光源140からプローブ101を経てコヒーレント光を照射された試料10において散射されたラマン散乱光及び付着物12において放射された蛍光が、レンズ112に入射されるまでの動作は、実施例1の付着物計測装置100の動作と同じであるから、説明を省略する。
まず第1段階において、レンズ112からの光の入射先を第1帯域通過フィルタ511とするように、制御部130がフィルタ入れ替え部520に対して制御信号を送る。そうすると、入射光のうちのラマン散乱光及びこれと同じ波長域の蛍光成分が第1帯域通過フィルタ511を通過し、その強度帯域幅積の値が第1光検出部121によって検出される。
次に第2段階において、レンズ112からの光の入射先を入れ替えて第2帯域通過フィルタ512とするように、制御部130からフィルタ入れ替え部520に対して制御信号を送る。そうすると、入射光のうち蛍光の広範なスペクトル成分が第2帯域通過フィルタ512を通過し、その強度の積分値が第1光検出部121によって検出される。
第1光検出部121は、上記の第1段階で、実施例1(図1)の第1光検出部121又は実施例2(図7)の第1光検出部121が検出したのと同様のスペクトル成分を検出する。また、第1光検出部121は上記の第2段階で、スペクトル範囲をいくぶん限定する点を除き、実施例1(図1)の第2光検出部122又は実施例2(図7)の第2光検出部122が検出したのと同様のスペクトル成分を検出する。
そこで制御部130は、上記の第1段階及び第2段階における第1光検出部121の検出値を、それぞれラマン散乱光の波長域の透過光(同波長域の蛍光成分を含む。)の強度帯域幅積及び蛍光の通過帯域にわたる強度の積分値として得ることができる。ここで、実施例1の変形例(図5、6)で説明したように、後者の値から蛍光強度の平均値さらには広範囲スペクトルにわたる積分値を近似的に求めることができる。したがって、制御部130は、以上の各実施例に述べたのと同じように、ラマン散乱光の強度帯域幅積を尺度として広範囲スペクトルの蛍光強度の積分値を表すことができる。
本発明の実施例5によれば、分光部にシンプルな可動機構を持たせて検出部の構成を単純化することによっても、前述した各実施例と同様の効果を発揮することができる。
図12は、本発明の実施例6を表す説明図である。図12に示すように、シリコン基板60を蛍光性溶液61に一定時間浸してから取り出すものとする。蛍光性溶液61は、例えばメタノール溶媒に溶質として蛍光性染料ローダミン6Gを溶融させたものであるが、それに限るものではない。シリコン基板60を蛍光性溶液61から取り出してメタノール溶媒を揮発させると、表面にローダミン6Gが付着したシリコン基板(以下、染料付着シリコン基板という。)62が得られる。
染料付着シリコン基板62に対して、例えば実施例1で説明した付着物計測装置100からコヒーレント光を照射すると、基材のシリコン及び表面に付着したローダミン6Gによって、それぞれラマン散乱光が散射され蛍光が放射される。付着物計測装置100は、実施例1について説明したように、これらのラマン散乱光及び蛍光を集光してローダミン6Gの付着の程度(換言すれば蛍光性溶液61におけるローダミン6Gの濃度)を計測することができる。付着物計測装置100を、これまでに説明した付着物計測装置109、200、300、400又は500のいずれかに置き換えてもよい。
図13に、ローダミン6Gを付着させたシリコン基板の表面にコヒーレント光を照射して放射された蛍光とラマン散乱光のスペクトルを計測して得たデータの一例を示す。図13のグラフの横軸はラマンシフトであり、単位は波数(cm−1)である。図13のグラフの縦軸は、計測された光の強度を任意単位で表したものである。図13は、上から順に、メタノール溶液中のローダミン6Gの濃度10ミリモル(mM)、8mM、5mM、3mM及び1mMの条件におけるスペクトルのプロットを表している。
図13に示したデータのそれぞれのプロットは、基材シリコンの表面に付着したローダミン6Gにより放射された蛍光のスペクトルを表し、それぞれ上述したローダミン6Gのメタノール溶液の濃度に対応する強度を示している。図13に示した5通りのプロットのいずれにも、ラマンシフトが約520(cm−1)の位置にほぼ同振幅(データプロット上で蛍光のスペクトルが与えるバイアス値から突出した振幅)のピークが現れている。これらのピークは、基材シリコンの固有のラマン散乱光が観測されたものである。ラマン散乱光の強度は、図13から明らかなように、ローダミン6Gのメタノール溶液中の濃度に依存しない。
したがって、例えば実施例1と同様に付着物計測装置100を用いて、ラマン散乱光の強度を尺度とする蛍光強度の値を、メタノール溶液中のローダミン6Gの各濃度値について求めることができる。図14は、そのようにして得たデータの一例を示す。図14のグラフの横軸はローダミン6Gのメタノール溶液の濃度(単位mM)である。図14のグラフの縦軸は、ラマン散乱光(520cm−1)の強度を尺度とする蛍光強度の値(無次元)である。
図14によれば、ラマン散乱光の強度を尺度とする蛍光強度は、ローダミン6Gの濃度に対してほぼ比例関係にある。したがって、ローダミン6Gの濃度が未知であっても、シリコン基板をその溶液中に浸して上述の計測を行い、ラマン散乱光の強度を尺度として得られた蛍光強度の値を図14の近似直線上にプロットすることにより、その未知の濃度を知ることができる。この方法は、基材が固有のラマンシフトを有し溶質が蛍光性物質からなる限り、それらの種類を問わず適用することができる。
本発明の実施例6によれば、付着物計測装置100等を用いた光学的計測により、溶液中の蛍光性溶質の濃度が未知であってもそれを知ることができるという、付加的な効果が得られる。
図15は、本発明の実施例7を表す説明図である。図15に示すように、例えばメタノール溶媒に溶質として蛍光性染料ローダミン6Gを溶融させた蛍光性溶液61に対して、計測装置700からコヒーレント光を照射する。計測装置700は、例えば付着物計測装置100、109、200、300、400又は500のいずれかと同様に構成されたものであるが、実施例7では計測の対象が付着物とはいえないため、「計測装置」と呼ぶ。
そうすると、蛍光性溶液61のメタノール溶媒及び溶質のローダミン6Gによって、それぞれラマン散乱光が散射され蛍光が放射される。計測装置700は、実施例6について説明したように、これらのラマン散乱光及び蛍光を集光して、蛍光性溶液61におけるローダミン6Gの濃度を計測することができる。
図16に、蛍光性溶液61に対してコヒーレント光を照射して放射された蛍光とラマン散乱光のスペクトルを計測して得たデータの一例を示す。図16のグラフの横軸はラマンシフトであり、単位は波数(cm−1)である。図16のグラフの縦軸は、計測された光の強度を任意単位で表したものである。図16のプロット上で、横軸の2940近辺、2830近辺及び1030近辺に現れたピークは、いずれもメタノール固有のラマン散乱光によるものである。図16のプロットは、蛍光性溶液61の溶質であるローダミン6Gにより放射された蛍光のスペクトルに、これらのラマン散乱光のスペクトルが重畳されたものである。
ローダミン6Gにより放射された蛍光のスペクトルは、実施例6について述べたのと同様に、ローダミン6Gのメタノール溶液中の濃度に依存する。その一方、メタノール固有のラマン散乱光の強度は、ローダミン6Gのメタノール溶液中の濃度に依存しない。
したがって、例えば実施例1と同様に計測装置700を用いて、ラマン散乱光の強度を尺度とする蛍光強度の値を、メタノール溶液中のローダミン6Gの各濃度値について求めることができる。図17は、そのようにして得たデータの一例を示す。図14のグラフの横軸はメタノール液中のローダミン6Gの濃度(単位mM)である。図14のグラフの縦軸は、メタノール固有のラマン散乱光(2837cm−1)の強度を尺度とする蛍光強度の値(無次元)である。
図14によれば、ラマン散乱光の強度を尺度とする蛍光強度は、ローダミン6Gの濃度に対してほぼ比例関係にある。したがって、濃度が未知であっても、ローダミン6Gのメタノール溶液に対して上述の計測を行い、ラマン散乱光の強度を尺度として得られた蛍光強度の値を図17の近似直線上にプロットすることにより、その未知の濃度を知ることができる。この方法は、溶媒が固有のラマンシフトを有し溶質が蛍光性物質からなる限り、それらの種類を問わず適用することができる。
本発明の実施例7によれば、計測装置700等を用いた光学的計測により、溶液中の蛍光性溶質の濃度が未知であってもそれを知ることができるという、付加的な効果が得られる。
以上の各実施例について説明した構成、形状、機能等は例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまな変形が可能である。コヒーレント光の光源としては、本発明の目的にかなうコヒーレント性を示すものであれば、レーザーに限るものではない。本発明の応用として歯牙汚れ、半導体表面の汚れ、シリコン基板に付着させた蛍光性染料、並びに蛍光性溶質をメタノール溶媒に溶融させた溶液の計測を例示したが、これらに限らず、主成分が固有のラマンシフトを示す試料に付加した対象物についてその付加の程度を評価するいかなる目的にも、本発明を適用することができる。