JP6486020B2 - 2,3−ブタンジオールの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、2,3−ブタンジオールの製造方法に関する。詳しくは、3−ヒドロキシ−2−ブタノン(慣用名:アセトイン)を水素化して2,3−ブタンジオールを効率的に製造する方法に関する。
2,3−ブタンジオールは、医薬品等の中間体原料、インク、香水、液晶、殺虫剤、可塑剤等の原料、エポキシ樹脂等の合成樹脂の原料モノマーなどに用いられる有用な化合物である。また、2,3−ブタンジオールは、脱水反応によりメチルエチルケトンや、アセチル化後の脱酢酸により1,3−ブタジエンを製造できるため、有用な化学中間体としても知られている。2,3−ブタンジオールは、工業的には2−ブテンオキシドの加水分解により製造されている。
一方、従来より石油資源を原料として製造されていた各種化学品について、バイオマス由来の資源を原料として転換することが検討されている。その中で2,3−ブタンジオールについても微生物発酵法が検討されている。さらに従来より1,3−ブタジエンは、ナフサクラッキングで得られた炭素数4以上の留分を溶媒抽出して製造されているが、微生物の発酵により得られた2,3−ブタンジオールを原料として製造することで、廃棄物負荷が小さく、かつ生産性の高い1,3−ブタジエンの製造も可能となる。これらのことから、2,3−ブタンジオールをバイオマス由来の原料から製造する技術の確立が強く求められている。
微生物発酵法による2,3−ブタンジオールの製造方法としては、Klebsiella pneumoniae等を用いた方法(例えば非特許文献1、2)、Paenibacillus polymyxaを用いた方法(特許文献1)、一酸化炭素を基質として、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)を用いた方法(特許文献2)等が知られている。しかしながら、これらの微生物発酵による2,3−ブタンジオールの生産は、いまだ歩留りが低く、工業的に十分な効率とはいえない。例えば、非特許文献3には、微生物発酵法によるグルコースから2,3−ブタンジオールの製造において、乳酸、エタノール、コハク酸、ギ酸、酢酸、アセトインが副生することが示されている。また、特に実際のバイオマス原料を用いた場合は、発酵阻害成分が原料中に存在するため、微生物発酵の効率が低下してしまうといった問題があり、微生物発酵によって2,3−ブタンジオールを工業的に得るにはいまだ不十分である。
国際公開第2013/054874号パンフレット 特表2011−522563号公報
Biotechnol Adv.,2011,May−Jun 29(3),p351−64 Appl Microbiol Biotechnol.,2009,Feb 82(1),p49−57 Journal of Bioscience and Bioengineering, vol.116, No.2, P186, 2013
本発明は、3−ヒドロキシ−2−ブタノンから2,3−ブタンジオールを効率的に製造する方法、特に、微生物発酵により得られた発酵生産物中のアセトインを効率的に還元処理して2,3−ブタンジオールを高い収率で、効率よく得る方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、微生物の発酵(以下、「微生物発酵」ともいう。)による2,3−ブタンジオールの生産において、2,3−ブタンジオールの歩留りが低い理由を詳細に検討したところ、2,3−ブタンジオールの発酵生産の際に、その反応中間体であるアセトイン、即ち、3−ヒドロキシ−2−ブタノンが生成し、かつこのアセトインが2,3−ブタンジオールに変換されずに発酵生産物中に残留していることが原因であることを見出した。
これに対し、本発明者らは、発酵生産物中のアセトインを化学変換によって2,3−ブタンジオールにまで押し切ることで高い収率で2,3−ブタンジオールを得ることができると考え、アセトインの2,3−ブタンジオールへの変換方法を検討した。その結果、アセトインは、水素ガス雰囲気下、不均一系金属触媒の存在下に還元処理することで、高い収率で2,3−ブタンジオールに変換できることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明の要旨は、
[1] 発酵法により得られた2,3−ブタンジオールと3−ヒドロキシ−2−ブタノンとを含む溶液中の3−ヒドロキシ−2−ブタノンを、水素ガス雰囲気下、ルテニウムを含有する不均一系金属触媒の存在下に還元反応させて、該3−ヒドロキシ−2−ブタノンを2,3−ブタンジオールに変換する2,3−ブタンジオールの製造方法であって、前記還元反応を、前記発酵により得られた2,3−ブタンジオールと3−ヒドロキシ−2−ブタノンとを含む前記溶液中で行うことを特徴とする2,3−ブタンジオールの製造方法。
[2] 前記発酵法により得られた2,3−ブタンジオールと3−ヒドロキシ−2−ブタノンとを含む前記溶液が、微生物による発酵生産物を含むことを特徴とする上記[1]に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法、
[3] 前記発酵生産物が、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、フマル酸、酢酸、ギ酸、エタノール及びトレハロースから選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする上記[2]に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法、
[4] 2,3−ブタンジオールの製造方法であって、微生物の発酵により、3−ヒドロキシ−2−ブタノンと2,3−ブタンジオールとを含む混合物を得る微生物発酵工程と、水素ガス雰囲気下、ルテニウムを含有する不均一系金属触媒の存在下に前記混合物を原料として還元反応を行ない、前記3−ヒドロキシ−2−ブタノンを2,3−ブタンジオールに変換する化学変換工程と、を含むことを特徴とする2,3−ブタンジオールの製造方法、
に存する。
本発明によれば、3−ヒドロキシ−2−ブタノンから2,3−ブタンジオールを高い収率で効率的に製造することができる。
特に、本発明によれば、糖類等のバイオマス原料から微生物発酵を経て2,3−ブタンジオールを製造する際に、発酵工程で副生するアセトインを2,3−ブタンジオールに変換することで、高い収率で2,3−ブタンジオールを製造することが可能となる。さらに発酵生産物中のアセトインを除去できることから2,3−ブタンジオールの純度も向上し、アセトインを分離する工程や装置が省略可能となり、設備や製造効率の面でも有利である。また微生物発酵により得られた2,3−ブタンジオールを、各種合成樹脂の原料モノマー等として使用する場合も、アセトインを含有しないことで、ポリマーの重合度に悪影響を及ぼすことなく所望の合成樹脂を製造できるという利点も有する。
本発明の2,3−ブタンジオールの製造方法を適用することにより、発酵法で直接2,3−ブタンジオールを製造することが困難な場合があっても、アセトインが製造できれば、これを2,3−ブタンジオールに変換して2,3−ブタンジオールを製造することが可能となる。本発明による化学変換法は、微生物を使用する反応に比べて、反応温度、反応圧力といった条件を容易に変更、調節、制御することができるため、発酵法での2,3−ブタンジオール収率ないしはアセトイン生成量に変動があった場合でも、それに続く本発明による還元反応の反応条件を変更、調節、制御することで2,3−ブタンジオールの生成量を制御することが可能となり、2,3−ブタンジオールの安定供給を図ることができるようになる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明
は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるもの
ではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)を含む原料]
本発明においては、後述の本発明の触媒の存在下、原料に含まれる水素ガス雰囲気下に、原料中の3−ヒドロキシ−2−ブタノン、例えば発酵生産物中のアセトインを還元反応させて、3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)のカルボニル基を水素化することにより2,3−ブタンジオールを製造する。
3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)は、キャラメル、バター、チーズなどの製品に甘味を与える目的で使用される。一般には2,3−ブタンジオンの部分還元やアセトアルデヒドの2分子付加反応によって得られる他、細菌類を使用した糖からのバイオ変換によっても得られる。
本発明の製造方法において、還元反応に供する原料としては、3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)を含むものであれば特に限定されない。また、原料中の3−ヒドロキシ−2−ブタノン含有量についても特に制限はない。
2,3−ブタンジオールを得るための原料として、微生物による発酵生産物を含む混合物を用いてもよく、例えば糖類、その他のバイオマス原料等から微生物発酵により2,3−ブタンジオールを製造する際に得られた発酵生産物を含む混合物を原料として還元反応に供することができる。
なお本明細書において、微生物発酵により、発酵生産物として3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)と2,3−ブタンジオールとを含む混合物を得る工程を、「微生物発酵工程」という。
この場合、この発酵生産物は、通常、3−ヒドロキシ−2−ブタノン及び2,3−ブタンジオールの他、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、フマル酸、酢酸、ギ酸、エタノール及びトレハロースから選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。特に、2,3−ブタンジオールを発酵法で得る際にピルビン酸を経由することから、発酵生産物中にはピルビン酸が含まれる可能性が高い。本発明では、このような発酵生産物を含む混合物も2,3−ブタンジオールの製造原料として用いることができる。
前記微生物発酵工程に用いられる微生物としては、アセトインと2,3−ブタンジオールを含む混合物を発酵生産できるものであれば特に限定されるものではなく、当初より2,3−ブタンジオールを生産する能力を持つものであっても、育種により生産能力を付与されたものであってもよい。具体的には、非特許文献1に記載のKlebsiella pneumoniae、Klebsiella oxymora、Klebsiella axytoca、Enterobacter aerogenes、特許文献1に記載のPaenibacillus polymyxa、WO2007/094178号明細書に示されるようなOchrobactrum属に属する微生物のような糖類を炭素源として発酵する微生物、特許文献2に記載のClostridium autoethanogenumのような一酸化炭素を炭素源として発酵する微生物などが挙げられる。
またこれらの他、変異処理や遺伝子組み換え処理等の育種により、2,3−ブタンジオール生産能を付与した微生物を用いてもよく、前記生産能を付与した微生物の種類は特に限定されないが、コリネ型細菌、大腸菌、バチルス(Bacillus)属細菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、マンヘミア(Mannheimia)属細菌、バスフィア(Basfia)属細菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、ザイモバクター(Zymobacter)属細菌、糸状菌、および酵母菌等が挙げられ、具体的にはWO2013/076144号明細書、Applied Microbiology and Biotechnology,Vol.87,(6),pp2001〜2009(2010)、Biotechnol Bioeng.,2012,Jul 109(7),p1610−21、Bioresour Technol.,2013,Oct 146,p274−81等に記載の方法が挙げられる。
前記の微生物発酵工程に用いる原料は、発酵に用いる微生物が炭素源として資化できる化合物であればよく、特に限定されない。微生物が炭素源として資化できる化合物としては、まず糖類が挙げられる。糖類は、特に限定はされず、いわゆる糖類一般を用いることができるが、具体的にはトリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース等の単糖類;、二糖類、三糖類、オリゴ糖類、デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グルカン、ペントサン等の多糖類;等が挙げられる。これら糖類は、上記の糖類1種類を単独で含有していてもよいし、2種類以上を含有していてもよい。
本発明で用いる糖類のうち、炭素数3以上7以下の単糖を構成成分として含む糖類が好ましい。これらの糖類の中でも、ヘキソース、ペントース、およびこれらを構成成分とする二糖類がより好ましい。これらは自然界、植物の構成成分となっていることから豊富に存在し、原料の入手が容易であるためである。
その他微生物が炭素源として資化できる化合物としては、再生資源や草木等を分解して得られる化合物(以下、「バイオマス原料」という)が挙げられ、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等やそれらを含んだ植物等を化学的、生物学的処理によって分解したもの等が挙げられる。具体的にはリグノセルロース分解物、スクロース含有物、デンプン分解物等である。
リグノセルロースとは、セルロース、ヘミセルロース、及び芳香族化合物の重合体のリグニンから構成される有機物である。リグノセルロースは、通常、非可食であり、通常であれば廃棄、焼却処理をされるものが多いため、安定して供給でき、資源を有効利用できる点で好ましい。具体的にはバガス、コーンストーバー、麦わら、稲わら、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、ササ、ススキ等の草木系バイオマスや、廃木材、オガ粉、樹皮、古紙等の木質系バイオマス等を好適に用いることができる。
リグノセルロースの分解方法は特に限定されず、常法により分解することができるが、リグノセルロースに対して必要に応じて前処理を施した後、酵素、酸、亜臨界水、超臨界水等による加水分解、または熱分解を行う方法等が挙げられる。
スクロース含有物は、細胞中にスクロースを蓄積できる植物、例えばサトウキビ、テンサイ、サトウカエデ、オウギヤシ、ソルガム等の砂糖の原料として使用されるものを、粉砕した後に圧搾または浸出を行ない得ることができるものをいう。同様に粗糖、廃糖蜜等もスクロース含有物として利用できる。
デンプン分解物としては、デンプンを含む植物、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦、甘藷、サゴヤシ、米、クズ、カタクリ、緑豆、ワラビ、オオウバユリ等から抽出したデンプンを加水分解して得ることができる。
また前記Clostridium autoethanogenumを用いた微生物発酵の場合、一酸化炭素を炭素源とすることができるため、石炭や石油、バイオマス資源の不完全燃焼、コークス炉等で発生するガス等から回収することができ、これらも微生物発酵の原料として使用できる(以下、上記微生物発酵に用いることができる原料を総称して「発酵原料」ということがある。)。前記発酵原料のうち、糖類、前記バイオマス原料が好ましく、糖類がより好ましい。
前記微生物発酵工程における2,3−ブタンジオールの製造条件は、特に限定されるものではなく、使用する微生物の種類によって、適宜最適条件を選択することができる。例えば発酵生産時の通気条件は、好気的条件であっても、嫌気的条件であってもよく、2,3−ブタンジオールの生産能に合わせて選択することができる。
前記微生物発酵工程において、特に限定はされないが、通常は水性媒体中で、前記発酵原料を前記微生物と作用させることで微生物発酵を行ない、アセトインと2,3−ブタンジオールの混合物を生産させる。本明細書において水性媒体とは、微生物発酵工程における2,3−ブタンジオール生産反応を行う水溶液(以下、「培養液」ということがある)のうち、前記発酵原料及び前記微生物以外の成分をいう。前記水性媒体は、例えば、微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよく、必要に応じ窒素源、無機塩などを含んでいてもよい。
前記窒素源としては、前記微生物の2,3−ブタンジオールの生成を阻害しない限り、特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。前記無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が挙げられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加してもよい。また、反応時の発泡を抑えるために、反応液には市販の消泡剤を適量添加してもよい。
前記微生物発酵の際、前記培養液中の発酵原料の濃度は2,3−ブタンジオールの生成を阻害しない限り特に限定されないが、通常は発酵原料の濃度が高い方が生産性の点で有利である。培養液中の発酵原料の濃度は、発酵原料が構成要素として含む糖の濃度に換算して、前記培養液の体積に対して、通常5%(質量/体積)以上、好ましくは10%(質量/体積)以上であり、一方、通常30%(質量/体積)以下、好ましくは20%(質量/体積)以下である。また、2,3−ブタンジオールの生産反応の進行に伴う前記発酵原料の減少にあわせて、発酵原料を追加で添加してもよい。
前記微生物発酵時の培養液のpHは特に限定されず、用いる微生物の種類に応じ適宜選択することができ、通常5.0以上、より好ましくは6.0以上であり、一方、通常10以下、好ましくは9.0以下とすることが好ましい。
前記微生物発酵時の培養液の温度は、特に限定はされず、通常30℃以上、好ましくは35℃以上、通常45℃以下である。
前記微生物発酵に要する時間は、特に限定はされず、通常1時間以上、好ましくは3時間以上であり、通常168時間以下、好ましくは72時間以下である。
なお、本発明では、原料中の3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)を還元反応させて2,3−ブタンジオールを変換することで、後述の通り、2,3−ブタンジオールに対する3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)の含有量が好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下の還元反応生成物を得る。従って、原料中の3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)は、当然、この還元反応生成物よりも2,3−ブタンジオールに対する3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)の割合が多いものであり、後述のように溶媒として2,3−ブタンジオールを用いる場合も含め、還元反応に供する原料中の2,3−ブタンジオールに対する3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)の割合は、1質量%以上、特に5質量%以上であることが、本発明による効果を有効に得る上で好ましい。
[触媒]
本発明の製造方法では、水素ガス雰囲気下、不均一系金属触媒(以下、「本発明の触媒」ということがある。)の存在下に、3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)を2,3−ブタンジオールに還元する。なお本発明において前記アセトインを還元する工程を、「化学変換工程」ということがある。
不均一系金属触媒とは、反応基質もしくは必要に応じて用いられる溶媒成分と少なくとも別の相で存在する金属触媒のことを示す。この不均一系金属触媒としては、担持金属触媒、合金触媒、金属酸化物触媒などが挙げられる。例えば活性炭や金属酸化物の担体に反応活性を有する金属を担持させたものや、ラネー触媒に代表されるような反応活性を有する金属のみの触媒が挙げられる。不均一系金属触媒は、反応基質や反応生成物と不均一に、別の相で存在するためで、反応後に触媒と反応生成物との分離が容易であり、一般に繰り返し使用や連続流通反応器での使用が容易であることから工業的にも生産性を高めるメリットがある。
本発明の触媒は、3−ヒドロキシ−2−ブタノンのカルボニル基を水素化して水酸基に変換できるものであれば特に限定はされないが、その水素化能力を発揮するものとして、周期表第8族、第9族、第10族及び第11族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むものが好ましく、特に水素化能力が高いことから周期表第8〜10族の金属元素を含むものが好ましい。本発明の触媒に含まれる金属元素としては、具体的には、ルテニウム、ニッケル、銅、パラジウム、金、白金、鉄、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム等が用いられ、中でも選択性が高いことから、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金が好ましく、特にカルボニル基の水素化能力の高さからルテニウム、ニッケルが好ましい。
本発明の触媒は、上記の金属を1種類含むものであっても、2種類以上含むものであってもよい。
金属を2種類以上用いる場合は、その組み合わせは特に限定されず、それぞれの金属が触媒活性を有するもの(共触媒)でも、1種類以上の金属の触媒活性を向上させるもの(助触媒)であってもよいが、これらのうち助触媒が好ましい。
例えば、ルテニウムとルテニウム以外の助触媒金属として、鉄、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、銅、スズ、白金等を用いる場合、ルテニウム以外の金属の含有率は特に限定されず、その金属のもたらす役割により、適宜最適化して使用することができる。上記の助触媒金属としては白金が好ましい。
不均一系金属触媒としては、合金触媒や、担体に触媒活性金属を担持させた担持金属触媒等が主として用いられ、このうち、合金触媒は、特に限定はされないが、ルテニウム、ニッケル、銅、パラジウム、金、白金等の金属を含む合金が用いられる。
また、担持金属触媒において、触媒活性金属は、カルボニル基を水素化し、水酸基に変換できるものであれば特に限定はされないが、通常、ルテニウム、ニッケル、銅、パラジウム、金、白金、鉄、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム等の金属が用いられる。
担持金属触媒における金属の含有量は、特に限定されないが、金属に換算した質量百分率で、通常、担体と金属の合計質量に対して0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、通常50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。金属含有量を前記範囲内とすることにより、十分な触媒活性を得ることができる。なお、以下の担持金属触媒の記載において、質量%と記載されている値は、その触媒の担体と金属の合計質量に対する金属含有量を示す。
前記担持金属触媒の担体としては特に限定はされないが、例えば活性炭、カーボンブラック等の炭素質担体;アルミナ、シリカ、ジルコニア、ニオビア、チタニア、セリア、珪藻土、ゼオライト等の金属酸化物担体等が挙げられる。中でも炭素質担体またはアルミナ、シリカを用いるのが、反応活性発現と触媒の活性安定化の面で好ましい。
本発明の触媒に用いられる担体の比表面積は特に限定されないが、通常1〜2000m/gであり、好ましくは10〜1500m/gである。比表面積が上記下限値以上のものを用いることで、金属を担体に高い分散度で担持することを可能とし、十分な触媒活性を得る上で好ましい。また、比表面積が上記上限値以下のものを用いることは、通常担体が有する細孔を有効に利用できる点で好ましい。特に担体として活性炭を用いる場合は、その比表面積が500〜1500m/gであることが、高い生産性を得る上でより好ましい。
本発明の触媒において活性種である金属は、本発明の触媒を用いて還元反応を行なう際に、通常金属の状態で担体に担持されているか、バルク触媒として金属状態となっていればよい。担持金属触媒については通常、金属源となる化合物を担持させ、乾燥、洗浄等の処理を行った後、還元処理によって、金属状態に変換して用いる。
本発明の触媒の形状は、本発明の触媒を用いて行なう反応の形式に応じて、適宜選択して用いることができる。本発明の触媒の具体的な形状としては、例えば粉末状、粒子状、ペレット状等の形状が挙げられるが、中でも操作性を向上する観点で、粒状、ペレット状が好ましい。
触媒の使用量は、用いる不均一系金属触媒の種類、活性金属種、反応形式等によっても異なるが、例えば、回分式反応の場合、3−ヒドロキシ−2−ブタノンに対する活性金属量として0.1〜20質量%程度用いることが好ましい。
[溶媒]
本発明における3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)から2,3−ブタンジオールへの還元反応は、溶媒を用いて行ってもよく、無溶媒でも行うことができる。還元反応に溶媒を用い、溶液中で還元処理を行う場合、用いる溶媒としては、特に限定されないが、通常、水;メタノール、エタノール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブテンジオールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;ヘキサン、デカリンなどの炭化水素類;等が挙げられる。これらの溶媒は、単独でも2種類以上の混合溶媒としても用いることができる。特に微生物による2,3−ブタンジオールの発酵生産により得られた発酵生産物には、アセトインと共に目的物である2,3−ブタンジオールが含有されているため、2,3−ブタンジオールが溶媒成分の一つとなる。本発明において行われる還元反応は、2,3−ブタンジオールが生成物であり、溶媒成分の分離が必要ないことから、2,3−ブタンジオールを溶媒として含むものであることが望ましく、また前記微生物発酵工程で通常水性媒体を用いることから、水と2,3−ブタンジオールを溶媒として含むものがより望ましい。
溶媒の使用量は、特に限定はされないが、原料に対して通常0.1質量倍以上、好ましくは0.5質量倍以上、より好ましくは1.0質量倍以上であり、通常50質量倍以下、好ましくは20質量倍以下、特に好ましくは10質量倍以下である。
[塩基]
本発明における還元反応においては、必要に応じて反応系に塩基を加えてもよい。
即ち、微生物による発酵生産物には、副生する有機酸が含まれているために酸性になっていることがある。このような酸性の発酵生産物を原料として用いると、アセトインの水酸基が水素化分解を起こす可能性があり、収率の低下を招く恐れがあるので、この酸の中和を目的に塩基を加えてもよい。
反応系に加える塩基としては、例えばアルカリ金属の炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物等、アルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物等、アンモニア水;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどの3級アミン;ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン等の2級アミン;の1種又は2種以上を用いることができる。
塩基の添加量は反応を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、少なすぎると水素化分解が抑制できず、多すぎると水素化反応を阻害してしまう可能性がある。
[反応条件]
本発明における還元反応の反応温度は特に限定されないが、通常20℃以上、好ましくは50℃以上、通常350℃以下、好ましくは250℃以下である。還元反応を前記温度範囲内で行うことにより、高い触媒活性が得られ、生産性が向上する。
本発明における還元反応は、通常、加圧水素ガス含有雰囲気下で行われる。還元反応時の圧力は特に限定されないが、通常0.1MPa以上、好ましくは1MPa以上、より好ましくは3MPa以上であり、通常30MPa以下であり、好ましくは25MPa以下、より好ましくは20MPa以下である。一般的には、反応圧力を上昇させると触媒への水素供給が促進され、反応速度が向上する。一方で、高い反応圧力で実施するには特別に耐圧性を高めた反応器等の設備が必要となる。
反応時間は、反応温度、反応圧力等の反応条件によっても異なるが、通常1〜16時間程度である。
本発明の製造方法の別の態様として、前記微生物発酵工程にて得られたアセトインと2,3−ブタンジオールの混合物を含む原料を、前記化学変換工程に供して2,3−ブタンジオールを製造することを含む。この方法は、前記微生物発酵工程で生じたアセトインを2,3−ブタンジオールに効率よく変換できるため、2,3−ブタンジオールの純度が向上し、アセトインを分離する工程や装置が省略可能となり、設備や製造効率の面でも有利になるため好ましい。
前記培養液中には、前記微生物発酵工程の後、アセトイン及び2,3−ブタンジオールが蓄積している。前記微生物発酵工程で得られた原料としては、前記培養液をそのまま前記化学変換工程に用いても、前記培養液中に含まれるアセトイン及び2,3−ブタンジオールを常法により、分離・回収する工程を経て、前記化学変換工程に用いてもよい。具体的な前記分離・回収する工程としては、例えば、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去する工程や、ナノ濾過膜処理後に蒸留する等の分離・回収する工程を含んでいてもよい。好ましくは菌体等の固形物を除去して使用することが好ましい。
また前記培養液中に含まれる2,3−ブタンジオールは、そのまま用いても分離・回収して用いてもよいが、分離・回収せずにそのまま前記化学変換工程に用いることが好ましい。本発明で用いる溶媒について記載した通り、2,3−ブタンジオールは前記化学変換工程における溶媒として用いることができるため、分離せずにそのまま用いることで、溶媒を追加する必要がないためである。この場合、前記化学変換工程に用いる培養液中に含まれる溶媒は、水と2,3−ブタンジオールが主な成分となる混合溶媒となる。
また前記化学変換工程において、アセトインを2,3−ブタンジオールに還元する反応を阻害する物質が含まれる場合、その阻害物質を除去する工程を含んでいてもよい。例えば本発明で用いられる不均一系金属触媒の触媒活性を低下させるような不純物、具体的には含硫黄化合物や含窒素化合物等の成分を除去・精製する工程が挙げられ、その方法として、各種常法による除去・精製方法を用いることができる。
[反応装置]
本発明における還元反応に使用される反応装置については、特に限定されないが、通常は高圧反応が可能なオートクレーブが使用される。反応には回分反応器の他、連続反応器の使用も可能であり、連続反応器では、触媒を反応器に充填し、原料液と水素含有ガスを流通させて、反応を行うこともできる。連続反応器の場合は、触媒の分離工程が不要であり、大量生産を行う場合は連続反応器を用いることが望ましい。
[精製]
本発明の製造方法により得られた2,3−ブタンジオールは、その用途に応じて必要な純度まで精製される。即ち、例えば、還元反応生成物の2,3−ブタンジオール中にアセトインが残存する場合、このような2,3−ブタンジオールを各種合成樹脂の原料モノマーとして用いると、アセトインの残存で得られる合成樹脂の物性が低下する可能性がある。このため、還元反応生成物は、必要に応じて、更に精製を行って2,3−ブタンジオールの純度を高めることが好ましい。この場合の、精製方法として、一般的には蒸留法が選択される。また、高分子膜やゼオライト膜などによる膜分離処理で、蒸留工程を省く、もしくは簡便な条件にすることもできる。
なお、上記のような精製工程の負荷を軽減するために、本発明における還元反応では、還元反応生成物中の2,3−ブタンジオールに対する3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)の割合が好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下となるように還元反応を進行させることが好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、実施例で得られた反応液のガスクロマトグラフィー(以下、GC)測定条件は以下の通りである。
<GC測定条件>
装置 : 島津製作所社製 GC−14A
カラム : Inertcap pure wax 0.3mm×50m 膜厚0.25μm
カラム温度 : 80℃から250℃まで
昇温速度 : 10℃/分
検出器 : FID
キャリアーガス: He
サンプル注入量: 0.4μl
[実施例1]
ミクロオートクレーブ(70ml)に、3−ヒドロキシ−2−ブタノン(アセトイン)0.5g(5.7mmol)、1.5質量%Ru担持活性炭触媒を0.1g(アセトインに対しRuが0.3質量%)、2,3−ブタンジオール(溶媒)3g、及び攪拌子を、アルゴン雰囲気下で仕込んだ。前記ミクロオートクレーブを密閉後、100体積%水素ガスで内圧3MPaとした。前記ミクロオートクレーブを反応温度である150℃に設定した電気炉内に設置して昇温し、15分経過した時点を反応開始とした。反応開始から1時間経過後、ミクロオートクレーブを電気炉から取り出し、室温まで放冷後、残圧をパージした後、ミクロオートクレーブ中の反応液を全量回収した。
ミクロオートクレーブ回収物から約2gを採取し、0.45μmシリンジフィルターにより濾過した後に秤量し、内部標準としてジグライムを0.2g加え、GC測定用サンプルとした。
このGC測定用サンプルについて、上記条件によるGC分析を行い、アセトイン転化率及び2,3−ブタンジオール収率(アセトインのうち2,3−ブタンジオールに変換された割合)を求めた。結果を表1に示した。
[実施例2]
触媒として3質量%Ru担持シリカ触媒を使用した以外は実施例1と同様の方法で反応を行ない、同様に得られた反応液のGC分析でアセトイン転化率及び2,3−ブタンジオール収率を求めた。結果を表1に示した。
Figure 0006486020
上記の結果より明らかなように、アセトインは定量的に転化され、高収率で2,3−ブタンジオールを得ることができた。すなわち、本発明の方法により、アセトインは2,3−ブタンジオールに効率よく変換することができることから、微生物による発酵生産によって2,3−ブタンジオールを製造する際に、得られた発酵生産物を更に本発明に従って化学変換することにより、高い収率で2,3−ブタンジオールを製造することが可能となること、さらに発酵生産物中のアセトインを除去できることから純度も向上し、アセトインを分離する工程や装置が省略可能となり、設備や製造効率の面でも有利であることが分かる。
本発明の2,3−ブタンジオールの製造方法は、特に糖類等から微生物発酵により2,3−ブタンジオールを製造する際の反応押切に好適である。発酵法では発酵生産物中にアセトインが副生成物として残存してしまうことが避けられないが、本発明の製造方法により、発酵生産物中のアセトインを2,3−ブタンジオールに水素化できるため、2,3−ブタンジオールの収率を向上させることができる。

Claims (4)

  1. 発酵法により得られた2,3−ブタンジオールと3−ヒドロキシ−2−ブタノンとを含む溶液中の3−ヒドロキシ−2−ブタノンを、水素ガス雰囲気下、ルテニウムを含有する不均一系金属触媒の存在下に還元反応させて、該3−ヒドロキシ−2−ブタノンを2,3−ブタンジオールに変換する2,3−ブタンジオールの製造方法であって、
    前記還元反応を、前記発酵により得られた2,3−ブタンジオールと3−ヒドロキシ−2−ブタノンとを含む前記溶液中で行うことを特徴とする2,3−ブタンジオールの製造方法。
  2. 前記発酵法により得られた2,3−ブタンジオールと3−ヒドロキシ−2−ブタノンとを含む前記溶液が、微生物による発酵生産物を含むことを特徴とする請求項1に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
  3. 前記発酵生産物が、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、フマル酸、酢酸、ギ酸、エタノール及びトレハロースから選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項2に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
  4. 2,3−ブタンジオールの製造方法であって、
    微生物の発酵により、3−ヒドロキシ−2−ブタノンと2,3−ブタンジオールとを含む混合物を得る微生物発酵工程と、
    水素ガス雰囲気下、ルテニウムを含有する不均一系金属触媒の存在下に前記混合物を原料として還元反応を行ない、前記3−ヒドロキシ−2−ブタノンを2,3−ブタンジオールに変換する化学変換工程と、
    を含むことを特徴とする2,3−ブタンジオールの製造方法。
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