JP6478132B2 - 水溶性ヒアルロン酸ゲル及びその製造方法 - Google Patents

水溶性ヒアルロン酸ゲル及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、水溶性ヒアルロン酸ゲル及びその製造方法に関する。
近年、生体適合性に優れ、保湿作用をはじめとする多くの有効作用を示すヒアルロン酸が、美容分野、医療分野、食品分野などにおいて注目されている。ヒアルロン酸は、β−D−N−アセチルグルコサミンとβ−D−グルクロン酸とが交互に結合した、直鎖状の高分子多糖であり、哺乳動物の結合組織に分布するほか、鶏の鶏冠、連鎖球菌の莢膜などにも存在することが知られている。市販されているヒアルロン酸は、一般に、鶏の鶏冠、臍帯等からの単離抽出、ストレプトコッカス属等の微生物を用いた発酵法などにより調製されている。
また、従来、高分子材料を含むゲル組成物が、美容分野、医療分野、食品分野などに用いられている。特に、美容分野、医療分野、食品分野などに用いられるゲル組成物は、人体に適用されるため、安全性と生体適合性に優れていることが求められている。このため、このようなゲル組成物に含まれる高分子材料として、天然素材であり、安全性と生体適合性に優れるヒアルロン酸を用いることが検討されている。さらに、このようなゲル組成物において、ポリアクリル酸またはその塩、キサンタンガム、グルコマンナン、グアーガム、ローカストビーン、寒天、カラギーナン、ポリビニルアルコールなどの従来使用されているゲル形成成分を用いずに、ヒアルロン酸を単独でゲル形成成分としたヒアルロン酸ゲルの開発が試みられている。
例えば、特許文献1には、架橋されたヒアルロン酸を用いてゲル組成物を調製する方法が開示されている。また、特許文献2には、ヒアルロン酸の構成2糖単位当たりに光二量化性架橋基が平均0.0005〜0.05個導入されたことを特徴とする光架橋性ヒアルロン酸誘導体のゲルが開示されている。さらに、特許文献3には、ヒアルロン酸10W/V%以上と、架橋剤と、水とを含む混合物を、酸又はアルカリ条件下で攪拌混合することを特徴とする架橋ヒアルロン酸ゲルの製造方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1〜3に開示されているように、ヒアルロン酸を単独でゲル形成成分としたヒアルロン酸ゲルの多くにおいて、ヒアルロン酸が化学修飾されたものが用いられており、ヒアルロン酸が本来備える天然素材としての特徴が失われているという問題がある。
また、例えば、特許文献4には、ヒアルロン酸と、ヒアルロン酸濃度5質量%以上にする水、及びヒアルロン酸のカルボキシル基と等モル以上の酸成分とを共存させ、該共存状態を保持することによりヒアルロン酸ゲルを形成することを特徴とするヒアルロン酸ゲルの製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献4で得られるヒアルロン酸ゲルは、水に難溶性であるため、水中にヒアルロン酸が溶け出し難い。このため、特許文献4に開示されたような難水溶性ヒアルロン酸ゲルは、皮膚などに適用された場合に、ヒアルロン酸による皮膚への潤いやハリを与える効果が低くなるため、美容分野などへの使用には適しない。また、特許文献4に開示されたヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸と、酸と、水とを少なくとも数日間低温下で静置して得られるものであり、ヒアルロン酸ゲルの製造に長時間を要するという問題もある。
また、例えば、特許文献5には、ヒアルロン酸溶液をpH2.0〜3.8下で、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどの水溶性有機溶媒に接触させることにより、ヒアルロン酸ゲルが得られることを開示している。しかしながら、特許文献5の方法では、ヒアルロン酸ゲル中にこれらの水溶性有機溶剤が多量に含まれるため、美容分野、医療分野、食品分野などには使用し難いという問題がある。また、美容分野、医療分野などにおいては、ゲル組成物をシート状とすることにより、皮膚に適用しやすくなるという利点がある。ところが、特許文献5に開示されたヒアルロン酸ゲルでは、例えばキャスト法などの簡便な方法でシート状にすることが困難であるという問題もある。
さらに、特許文献6には、ヒアルロン酸、多価カルボン酸若しくはオキシカルボン酸、及び多価アルコールを構成成分とするヒアルロン酸ゲルが開示されている。特許文献6に記載されたヒアルロン酸ゲルにおいては、化学修飾されていないヒアルロン酸を使用することができ、有機溶剤を多量に使用する必要がないという利点を有している。
特表平11−509256号公報 特開平8−143604号公報 国際公開第2006−051950号パンフレット 国際公開第01/57093号パンフレット 特開平5−58881号公報 特開2014−24828号公報
本発明は、多価アルコールを実質的に含まないにもかかわらず、ヒアルロン酸によって好適にゲル化している、水溶性ヒアルロン酸ゲルを提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法、当該水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた化粧料、医療用具用組成物、食品組成物、または医薬組成物を提供することも目的とする。
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ヒアルロン酸と、前記ヒアルロン酸1質量部に対して10〜160質量部の水と、ヒアルロン酸とは異なる酸とを含む水溶性ヒアルロン酸ゲルであって、以下の測定方法によって測定される水溶液のpHが、2.2〜3.4の範囲にあることにより、多価アルコールが実質的に含まれておらず、ヒアルロン酸が単独でゲル形成成分として含まれている場合(すなわち、他のゲル形成成分を実質的に含まない場合)にも、ヒアルロン酸がゲル形成成分として機能した水溶性ヒアルロン酸ゲルが形成されることを見出した。さらに、このような水溶性ヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水を混合してゲル形成用液を調製することにより、簡便に製造することができることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ヒアルロン酸と、前記ヒアルロン酸1質量部に対して10〜160質量部の水と、ヒアルロン酸とは異なる酸とを含む水溶性ヒアルロン酸ゲルであって、
以下の測定方法によって測定される水溶液のpHが、2.2〜3.4の範囲にある、水溶性ヒアルロン酸ゲル。
(pHの測定方法)
ヒアルロン酸1gを含む分量の前記水溶性ヒアルロン酸ゲルに含まれる成分のうち、水を除く全てのイオン性成分を水に溶解して200mLとなるように水溶液を調製し、得られた水溶液のpHを測定する。
項2. 前記ヒアルロン酸とは異なる酸が、リン酸、硫酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、グルコノラクトン、ラクトピオン酸、及びビタミンCからなる群から選択された少なくとも1種である、項1に記載の水溶性ヒアルロン酸ゲル。
項3. ヒアルロン酸の分子量が、5.0×104〜5.0×106ダルトンの範囲にある、項1または2に記載の水溶性ヒアルロン酸ゲル。
項4. シート状である、項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲル。
項5. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルが支持体上に形成されてなる、水溶性ヒアルロン酸ゲルシート。
項6. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた化粧料。
項7. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた食品組成物。
項8. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた医薬組成物。
項9. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた医療用具用組成物。
項10. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法であって、
ヒアルロン酸、水、及びヒアルロン酸とは異なる酸を混合してゲル形成用水溶液を調製する工程を備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
項11. 前記ゲル形成用水溶液に含まれる水を蒸発させる工程をさらに備える、項10に記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
項12. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法であって、
ヒアルロン酸及び水を混合してヒアルロン酸水溶液を調製する工程と、
前記ヒアルロン酸水溶液に対して、ヒアルロン酸とは異なる酸を添加する工程と、
を備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
項13. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法であって、
ヒアルロン酸及び水を混合してヒアルロン酸水溶液を調製する工程と、
前記ヒアルロン酸水溶液を乾燥させる工程と、
前記ヒアルロン酸水溶液に対して、ヒアルロン酸とは異なる酸を添加する工程と、
を備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
項14. 項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法であって、
ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水を混合して混合液を調製する工程と、
前記混合液にヒアルロン酸を添加して溶解させる工程と、
を備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
本発明によれば、多価アルコールを実質的に含まないにもかかわらず、ヒアルロン酸によって好適にゲル化している、水溶性ヒアルロン酸ゲルを提供することができる。また、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルにおいては、ヒアルロン酸が化学修飾されておらず、天然素材を使用することができる。さらに、本発明によれば、当該水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法、当該水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた化粧料、医療用具用組成物、食品組成物、または医薬組成物を提供することができる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸と、前記ヒアルロン酸1質量部に対して10〜160質量部の水と、ヒアルロン酸とは異なる酸とを含む水溶性ヒアルロン酸ゲルであって、以下の測定方法によって測定される水溶液のpHが、2.2〜3.4の範囲にあることを特徴とする。
(pHの測定方法)
ヒアルロン酸1gを含む分量の前記水溶性ヒアルロン酸ゲルに含まれる成分のうち、水を除く全てのイオン性成分を水に溶解して200mLとなるように水溶液を調製し、得られた水溶液のpHを測定する。
以下、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲル、当該水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法、当該水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた化粧料、医療用具用組成物、食品組成物、または医薬組成物(外用、経口など)について詳述する。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸と、前記ヒアルロン酸1質量部に対して10〜160質量部の水と、ヒアルロン酸とは異なる酸とを含む。後述の通り、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、例えば、ヒアルロン酸、水、及びヒアルロン酸とは異なる酸を含むゲル形成用液を調製し、水溶性ヒアルロン酸ゲルにおける水の量を、ヒアルロン酸1質量部に対して10〜160質量部に設定し、かつ、上記の水溶液のpHが2.2〜3.4の範囲となるように各成分の量を設定することにより、簡便に製造できる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルにおいては、ヒアルロン酸が、ゲル形成成分として含まれている。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲル中においては、ヒアルロン酸が単独でゲル形成成分として含まれており、他のゲル形成成分が実質的に含まれていなくてもよい。なお、本発明の効果を阻害しないことを限度として、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸に加えて、他のゲル形成成分を含んでいてもよい。他のゲル形成成分としては、特に制限されないが、例えば、ポリアクリル酸またはその塩、キサンタンガム、ゲランガム、グルコマンナン、グアーガム、ローカストビーンガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、カゼンイン、アラビアゴム、カラギーナン、アガロース、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースNa、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、デンプン/アクリル酸塩グラフト共重合体、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体等の公知のゲル形成成分が挙げられる。ただし、他のゲル形成成分を含む場合、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの特性を生かす観点から、他のゲル形成成分の含有量は、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの組成において、ヒアルロン酸を配合しない場合にはゲルが形成されない量以下であることが好ましい。たとえば、他のゲル形成成分の含有量は、他のゲル化成分の種類によっても異なるが、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲル中、5質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、より一層好ましくは0.1質量%以下であることが挙げられる。
本発明において、「ヒアルロン酸」は、ヒアルロン酸及びその塩を含む概念で使用される。従って、「ヒアルロン酸及びその塩」を、単に「ヒアルロン酸」と表記することがある。ヒアルロン酸の塩としては、特に制限されないが、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウムなどが挙げられる。本発明において、ヒアルロン酸及びその塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
ヒアルロン酸の分子量としては、ヒアルロン酸を単独でゲル形成成分とした場合にも、ゲルを形成することができれば特に制限されないが、多価アルコールを実質的に含まないにもかかわらず、ヒアルロン酸によって好適にゲルを形成して、水溶性ヒアルロン酸ゲルに適度な弾性、高い機械的強度、及び形状維持性を備えさせる観点からは、好ましくは5.0×104〜5.0×106ダルトン程度、より好ましくは1.0×105〜2.3×106ダルトン程度が挙げられる。ヒアルロン酸としては、単一分子量のものを用いてもよいし、複数種類の分子量のものを混合して用いてもよい。なお、本発明において、適度な弾性とは、例えば、水溶性ヒアルロン酸ゲルを指で押した際に適度に反発し、かつ、ゲルを引っ張って破断する際に糸ひきしない特性をいう。また、高い機械的強度とは、例えば、厚み2mm程度のシート状の水溶性ヒアルロン酸ゲルを指でつまんで持ち上げても、シートが破断しない程度の強度をいう。また、形態維持性とは、水溶性ヒアルロン酸ゲルを静置した場合に、高粘度溶液などとは異なり、静置した際の形状が維持される特性をいう。
ヒアルロン酸の由来は特に制限されず、例えば、鶏の鶏冠、臍帯等から単離抽出されたものや、ストレプトコッカス属等の微生物を用いた発酵法などにより調製されたものなどが好適に使用できる。本発明において、ヒアルロン酸としては、市販品を使用することができる。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸として化学修飾したものを用いる必要がないため、生体適合性に優れ、天然のヒアルロン酸が有する特徴を発揮することができる。すなわち、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルにおいて、ヒアルロン酸としては、実質的に化学修飾されていないヒアルロン酸のみを用いてよい。なお、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、本発明の効果を阻害しないことを限度として、化学修飾されたヒアルロン酸をさらに含んでいてもよい。
化学修飾されたヒアルロン酸の具体例としては、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム、加水分解ヒアルロン酸アルキル(C12-13)グリセリル、ヒアルロン酸プロピレングリコール、アセチル化ヒアルロン酸ナトリウムなどが挙げられる。化学修飾されたヒアルロン酸は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルにおいて、ヒアルロン酸の含有量としては、ゲルを形成することができれば特に制限されないが、多価アルコールを実質的に含まないにもかかわらず、ヒアルロン酸によって好適にゲルを形成して、水溶性ヒアルロン酸ゲルに適度な弾性、高い機械的強度、及び形状維持性を備えさせる観点からは、例えば0.6〜9質量%程度、好ましくは0.8〜5質量%程度、より好ましくは1〜2質量%程度が挙げられる。水溶性ヒアルロン酸ゲルにおけるヒアルロン酸の含有量が0.2質量%未満となる場合、後述のゲル形成用液からゲルが形成されない場合がある。また、水溶性ヒアルロン酸ゲルにおけるヒアルロン酸の含有量が9質量%を超える場合、水溶性ヒアルロン酸ゲルが固くなり過ぎて、後述の化粧料、食品組成物、医薬組成物、または医療用具用組成物などとして利用し難くなる場合がある。
ヒアルロン酸とは異なる酸としては、水と混合して酸性を示すものであれば、特に制限されず、無機酸、有機酸のいずれを使用することもできる。無機酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、炭酸などが挙げられ、好ましくはリン酸、塩酸、硫酸が挙げられる。また、有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、リポ酸等のモノカルボン酸;コハク酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸等のジカルボン酸;グリコール酸、クエン酸、乳酸、ピルビン酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸等のオキシカルボン酸;グルコノ-δ-ラクトン、ラクトピオン酸等のポリヒドロキシ酸;グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸;ナールスゲン(登録商標、カルボキシメチルフェニルアミノカルボキシプロピルホスホン酸メチル)等のアミノ酸誘導体;アスコルビン酸、アスコルビン酸エチル、アスコルビン酸グルコシド等のアスコルビン酸またはその誘導体が挙げられ、好ましくはリン酸、アスコルビン酸、クエン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸、アスコルビン酸エチル、アスコルビン酸グルコシド、グルコノ-δ-ラクトン、ラクトピオン酸などが挙げられる。酸は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
酸の含有量は、特に制限されないが、水溶性ヒアルロン酸ゲル中において、多価アルコールを実質的に含まないにもかかわらず、ヒアルロン酸によって好適にゲルを形成して、水溶性ヒアルロン酸ゲルに適度な弾性、高い機械的強度、及び形状維持性を備えさせる観点からは、以下の測定方法によって測定される水溶液のpHが、2.2〜3.4程度、好ましくは2.4〜2.9程度、より好ましくは2.5〜2.6程度の範囲となるように調整することが好ましい。
(pHの測定方法)
ヒアルロン酸1gを含む分量の前記水溶性ヒアルロン酸ゲルに含まれる成分のうち、水を除く全てのイオン性成分を水に溶解して200mLとなるように水溶液を調製し、得られた水溶液のpHを測定する。
水溶性ヒアルロン酸ゲルをそのまま水に溶解させてpHを測定すると、水溶性ヒアルロン酸ゲルに含まれる非イオン性成分の種類や量などによっては、本発明において好適なpHを測定することが困難になる場合があるため、上記のような測定方法によって調製した水溶液のpHを測定することが望ましい。例えば、水溶性ヒアルロン酸ゲル中に、非イオン性である水溶性有機溶媒などが多量に含まれている場合、多価アルコールを実質的に含まないにもかかわらず、ヒアルロン酸によって好適にゲル化させるために望ましいpHが正確に測定し難くなる。このため、本発明においては、ヒアルロン酸ゲルに配合する成分のうち、水を除く全てのイオン性成分のみを水に溶解し、得られた水溶液のpHを測定する方法を用いる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸1質量部に対して10〜160質量部の水を含む。水溶性ヒアルロン酸ゲル中の水の含有量は、この範囲内にあればよいが、多価アルコールを実質的に含まないにもかかわらず、ヒアルロン酸によって好適にゲルを形成して、水溶性ヒアルロン酸ゲルに適度な弾性、高い機械的強度、及び形状維持性を備えさせる観点からは、ヒアルロン酸1質量部に対して、好ましくは20〜120質量部程度、より好ましくは40〜80質量部程度が挙げられる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸と、ヒアルロン酸1質量部に対して10〜160質量部の水と、ヒアルロン酸とは異なる酸を含めばよく、他の成分を含んでいてもよい。
例えば、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルが水溶性有機溶媒を含む場合は、その含有量としては、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、特に制限されず、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトンなどが挙げられる。水溶性有機溶媒は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、後述の通り、美容分野、医療分野、食品分野において、好適に使用される。このような観点からは、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、水溶性有機溶媒を実質的に含まないことが好ましい。また、水溶性有機溶媒を用いると、後述のゲル形成用液の粘度が高くなりやすいため、ゲル形成用液を基板上などに薄く拡げることが困難になる場合がある。このため、水溶性有機溶媒を用いると、例えばキャスト法などの簡便な方法によって、水溶性ヒアルロン酸ゲルをシート状に形成することが困難となる場合がある。このような観点からも、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、水溶性有機溶媒を実質的に含まないことが好ましい。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの弾性、機械的強度、形状維持性などは、水溶性ヒアルロン酸ゲル中の各成分の含有量、ヒアルロン酸の分子量、または前述のpHの測定方法における水溶液のpHの範囲を所定範囲に設定することにより、調整することができる。例えば、水溶性ヒアルロン酸ゲル中のヒアルロン酸の含有量を多くする(割合を大きくする)と、水溶性ヒアルロン酸ゲルが固くなり、水溶性ヒアルロン酸ゲルの弾性、機械的強度、形状維持性が高くなる傾向がある。また、例えば、水溶性ヒアルロン酸ゲル中のヒアルロン酸の分子量を大きくすると、水溶性ヒアルロン酸ゲルが固くなり、水溶性ヒアルロン酸ゲルの弾性、機械的強度、形状維持性が高くなる傾向がある。さらに、例えば、前述のpH2.2〜3.4の範囲においては、pHが低くなると水溶性ヒアルロン酸ゲルが固くなり、水溶性ヒアルロン酸ゲルの弾性、機械的強度、形状維持性が高くなる傾向がある。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、水溶性である。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの水溶性とは、厚さ100μm、縦4cm、横4cmのシート状とした水溶性ヒアルロン酸ゲルをpH7.4のリン酸緩衝液100mL中に入れ、37℃で撹拌子を用いて120rpmで撹拌した場合に、4時間以内に完全に溶解することをいう。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの形状は、特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの形状としては、例えば、シート状、粒状、塊状などが挙げられる。
例えば、水溶性ヒアルロン酸ゲルがシート状(水溶性ヒアルロン酸ゲルシート)である場合、後述の通り、例えば、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを皮膚や口腔内などに貼り付けて、化粧料、医薬組成物、または医療用具用組成物などとして好適に使用することができる。また、シート状の水溶性ヒアルロン酸ゲルを、口腔衛生改善フィルム等の食品組成物や口腔内徐放フィルム等の経口医薬組成物などとしてもよい。水溶性ヒアルロン酸ゲルシートの厚みとしては、特に制限されず、例えば0.01〜10mm程度、好ましくは0.05〜5mm程度が挙げられる。また、例えば水溶性ヒアルロン酸ゲルが塊状である場合には、顔や身体をマッサージする化粧料組成物などとして好適に使用することができる。また、ゼリー飲料等の食品組成物や嚥下補助飲料等の経口医薬組成物などとしても好適に使用することができる。水溶性ヒアルロン酸ゲルが粒状である場合には、グミ等の食品組成物や経口医薬組成物などとして好適に使用することができる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、保湿作用などを有するヒアルロン酸を含むため、美容分野、医療分野などにおいて、皮膚などに適用することができる。また、ヒアルロン酸など、食用や医薬用として使用できる成分のみによって構成することもできるため、口腔内などにも好適に適用することができる。すなわち、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、化粧料、食品組成分、医薬組成物、または医療用具用組成物などとして好適に使用することができる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを化粧料、医薬組成物、または医療用具用組成物として使用する場合、化粧料、医薬部外品、医薬品、医療用具に配合される公知の成分をさらに配合することができる。このような成分としては、例えば、美白成分、抗老化成分、オイル成分、各種ビタミン及びその誘導体、各種動植物エキス、抗炎症剤、抗酸化剤、色素、香料(アロマ成分)、防腐剤などが挙げられる。また、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルに脂溶性成分を添加する場合、脂溶性成分をリポソーム、エマルジョン、ナノエマルジョンなどの状態にして添加することもできる。これらの成分は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
美白成分の具体例としては、ビタミンCまたはその誘導体、アスタキサンチンなどが挙げられる。抗老化成分の具体例としては、ナールスゲン(登録商標、カルボキシメチルフェニルアミノカルボキシプロピルホスホン酸メチル)、ピロロキノリンキノン、LR2412(登録商標、テトラハイドロジャスモン酸ナトリウム)、グリーンピール(登録商標、植物性精油)などが挙げられる。オイル成分の具体例としては、スクワラン、ホホバオイル、オリーブオイルなどが挙げられる。
また、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルには、コラーゲン、ポリフィリン、プロテオグリカン、アセチルグルコサミン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、リピジュア(登録商標、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのホモポリマーまたはコポリマー)、分子量が1万以下の低分子量のヒアルロン酸またはその塩などの水溶性高分子を配合してもよい。水溶性高分子は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルには、適度な弾性、適度な機械的強度、及び適度な形状維持性を付与することができるため、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルをそのままパック剤として使用することもできる。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルをパック剤として使用する場合、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルはシート状であることが好ましい。パック剤として使用する場合、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを直接皮膚に貼り付け、一定期間保持することにより、ヒアルロン酸による保湿効果などを皮膚に付与することができる。また、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルが上記のような化粧料、医薬部外品、医薬品、医療用具に配合される公知の成分を含む場合、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを直接皮膚に貼り付けることにより、これらの成分を経皮吸収させることができる。
また、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、水溶性を有するため、水分中にヒアルロン酸が溶け出しやすい。このため、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、皮膚などに適用された場合に、ヒアルロン酸による皮膚への潤いやハリを与える効果が高く、美容分野などへの使用に適している。例えば、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを皮膚に貼り付けた後、該シートに水をかけて徐々に溶解させながら皮膚をマッサージすることにより、水中に溶け出したヒアルロン酸による保湿効果をより高めることができる。
さらに、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、安全性と生体適合性に優れ、吸水性/保水性も高いことから、創傷部位、褥瘡部位を保護する医療用具などへの使用に適している。例えば、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、安全性と生体適合性に優れ、吸水性/保水性も高いことから、救急絆創膏のパットや褥瘡部位の被覆保護材などとして好適に使用することができる。また、このような用途に使用する場合、水溶性ヒアルロン酸ゲル中に上皮成長因子等の治癒促進成分や抗菌成分を配合することもできる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、支持体上に載せて用いてもよい。水溶性ヒアルロン酸ゲルを支持体上に形成することにより、好適に水溶性ヒアルロン酸ゲルシートとすることができる。支持体としては、特に制限されず、例えば、不織布、織布、織物、紙、高分子フィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンなどのポリオレフィン、塩化ビニル、ポリウレタン等のフィルム)などが挙げられ、より好ましくは、水溶性ヒアルロン酸ゲルと支持体との接着強度の観点から、不織布/高分子フィルムからなるラミネートフィルムや不織布などが挙げられる。また、支持体上の水溶性ヒアルロン酸ゲルを、皮膚に保持させる目的で、粘着テープ、ハイドロゲルテープ、サポーター、包帯、マスク、アイマスクなどで固定してもよい。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、そのまま製品として単独で使用することができる。また、当該ゲルと粘着テープや支持体などとを一体化したものを製品とすることもできるし、水溶性ヒアルロン酸ゲルを製品とし、粘着テープ、ハイドロゲルテープ、サポーター、包帯、マスク、アイマスクなどで当該ゲルを固定して使用するものとしてもよい。
また、前述の通り、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルは、ヒアルロン酸など、食用または医薬用として使用できる成分のみによって構成することができるため、水溶性ヒアルロン酸ゲルを含む食品組成物、経口医薬組成物などとしても好適に使用することができる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを食品組成物として使用する場合、食品組成物に配合される公知の成分をさらに配合することができる。このような成分としては、例えば、甘味料、香料、着色料、酸味料、抗酸化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤などが挙げられる。また、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを経口医薬組成物として使用する場合、経口医薬組成物に配合される公知の成分をさらに配合することができる。このような成分としては、例えば、薬効成分、香料、着色料、酸味料、抗酸化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤などが挙げられる。食品組成物または経口医薬組成物において、これらの成分は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた食品組成物または経口医薬品組成物は、ヒアルロン酸を含有しているため、当該食品組成物または経口医薬品組成物を経口摂取することによって、例えば、皮膚の含水量を増加させ、皮膚の保湿効果を高め得る効果などが期待できる。さらに、当該食品組成物や経口医薬組成物が、前述のような公知の成分を含む場合には、これらの成分による効果を発揮することができる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを食品組成物または経口医薬組成物とする場合、これらの形態としては特に限定されないが、例えば、口腔衛生改善フィルムのようなシート状、グミのような粒状、嚥下補助飲料/ゼリー飲料のような塊状などとすることができる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法は、特に制限されないが、例えば、上記のヒアルロン酸、ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水を混合してゲル形成用液を調製する工程を備える方法が挙げられる。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法において、各成分の混合順序は、特に制限されない。また、各成分の混合方法も特に制限されず、例えば攪拌機などを用いて攪拌すればよい。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法においては、前述のpHの測定方法において調製される水溶液のpHが、前述の値となるように、各成分の配合量を設定する。このようなpHに設定することにより、多価アルコールを実質的に含まないにもかかわらず、ヒアルロン酸によって好適にゲルを形成して、水溶性ヒアルロン酸ゲルに適度な弾性、高い機械的強度、及び形状維持性を備えさせることが可能となる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法において、ゲル形成用液を調製した後、上記のゲル形成用液をゲル化することや、水溶性ヒアルロン酸ゲルの弾性を高めることなどを目的として、ゲル形成用液に含まれる水のうち少なくとも一部を蒸発させる工程をさらに備えていてもよい。本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの弾性は、用途に応じて適宜設定される。このため、例えば本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを非常に柔らかくして用いる場合には、ゲル形成用液の各成分の割合、前述のpH測定方法における水溶液のpHなどを適宜調整することにより、ゲル形成用液から水を蒸発させずに、そのまま本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルとすることもできる。また、ゲル形成用液から少なくとも一部の水を蒸発させることにより、水溶性ヒアルロン酸ゲルの弾性、機械的強度、形状維持性を高めることもできる。
ゲル形成用液から水を蒸発させる方法としては、特に制限されず、例えば、ゲル形成用液を恒温槽などの乾燥機で加熱乾燥する方法、ゲル形成用液に温風を当てて加熱乾燥する方法、ゲル形成用液をホットプレート上で加熱乾燥する方法などが挙げられる。例えば、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルをシート状とする場合、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの基板上に均一の厚みとなるように拡げたゲル形成用液を加熱して乾燥させる(キャスト法)ことにより、水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを容易に製造することができる。
例えば、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを厚み0.01〜10mm程度のシート状とする場合、ゲル形成用液から少なくとも一部の水を蒸発させる際の温度としては、特に制限されないが、大気圧中において、20〜110℃程度が挙げられる。また、当該蒸発させる際の時間としては、特に制限されないが、このような温度範囲であれば、0.1〜48時間程度が挙げられる。
また、ゲルが所定の厚みとなるようにトレーやバット等の容器にゲル形成用液を入れ、恒温槽のような乾燥機中で乾燥させる(バッチ法)ことによっても、水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを容易に製造することができる。すなわち、ゲル形成用液を容器に入れて水を蒸発させることにより、例えば、容器内に形成された水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを、容器ごとそのまま最終製品とすることもでき、水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを切断するなどの加工工程を省略することができる。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法において、ゲル形成用液中のヒアルロン酸、ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水の含有量は、それぞれ、水溶性ヒアルロン酸ゲルとしたときに上記の含有量となるように設定すればよい。
本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの他の製造方法としては、例えば、上記のヒアルロン酸及び水を混合したヒアルロン酸溶液を調製する工程と、当該ヒアルロン酸溶液に対して、ヒアルロン酸とは異なる酸を添加する工程とを備える方法も挙げられる。ヒアルロン酸とは異なる酸の添加方法としては、特に制限されないが、例えば、当該酸を含む溶液をヒアルロン酸溶液の上から噴霧、塗布等する方法を採用することができる。これらの添加方法によれば、シート状に拡げられた前記ヒアルロン酸溶液に対して均一に酸を添加することができため、シート状の水溶性ヒアルロン酸ゲルを得る場合に好適である。この製造方法を採用する場合においても、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水の量は、それぞれ、上記と同様とすることができる。熱に不安定な酸や揮散性の酸を用いる場合などにおいては、加熱による水の蒸発を行わないことにより、ゲル中の酸量を好適に制御することができる。また、上記各種成分をゲルに含ませる場合にも、当該酸を添加する工程において熱に不安定な成分や揮発成分を添加することにより、ゲル中の成分量を好適に制御することができる。また、エマルジョン、ナノエマルジョンのように適量の水の存在が必要な場合にも、ゲル中に水分を好適に制御することができる。さらに、当該酸を添加する工程において、水を添加してもよい。
さらに、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの他の製造方法としては、ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水を混合して混合液を調製する工程と、前記混合液にヒアルロン酸を添加して溶解させる工程とを備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法が挙げられる。
さらに、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法において、例えば、化粧料、食品、医薬部外品、医薬品、医療用具に配合される上記の公知の成分をさらに配合する場合、水溶性ヒアルロン酸ゲルを調製した後に、これらの成分を添加してもよい。
また、本発明の水溶性ヒアルロン酸ゲルを塊状として製造する場合には、例えば、上記のヒアルロン酸及び水を混合したヒアルロン酸溶液を、ヒアルロン酸とは異なる酸を含む溶液中に浸漬することによって、塊状の水溶性ヒアルロン酸ゲルを製造してもよい。
これら水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法において、ヒアルロン酸水溶液中のヒアルロン酸、ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水の含有量は、それぞれ、水溶性ヒアルロン酸ゲルとしたときに上記の含有量となるように設定すればよい。
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた試薬は、以下の通りである。また、各表中の組成の単位は、質量部である。
<試薬>
ヒアルロン酸(120万):ヒアルロン酸ナトリウム、キューピー株式会社製の商品名「ヒアルロンサンHA−LQ」(製品表記:分子量85〜160万;平均分子量120万)ヒアルロン酸(230万):ヒアルロン酸ナトリウム、キューピー株式会社製の商品名「HYALURONSAN HA−LQSH」(製品表示:分子量160万〜290万、平均分子量230万)
ヒアルロン酸(10万):ヒアルロン酸ナトリウム、キッコーマンバイオケミファ株式会社製の商品名「ヒアルロン酸 FCH−SU」(製品表示:平均分子量5万〜11万)
リン酸:和光純薬工業株式会社製のリン酸(特級)
硫酸:和光純薬工業株式会社製の硫酸(特級)
ビタミンC:和光純薬工業株式会社製のL(+)−アスコルビン酸(特級)
クエン酸:和光純薬工業株式会社製のクエン酸一水和物(特級)
乳酸:和光純薬工業株式会社製のDL−乳酸(特級)
酒石酸:和光純薬工業株式会社製のD(−)-酒石酸(一級)
グルコノラクトン:和光純薬株式会社製のグルコノ-δ-ラクトン(薬添規)
ラクトピオン酸:和光純薬株式会社製のラクトピオン酸(一級)
[実施例1〜6及び比較例1]
表1に記載の配合比(質量部)となるように、ヒアルロン酸(ヒアルロン酸ナトリウム)、リン酸、及び蒸留水(pH測定用)を、プロペラ式回転型撹拌装置を用いて混合し、ヒアルロン酸1gを含む200mLのpH測定用ヒアルロン酸水溶液を得た。得られたヒアルロン酸水溶液のpHを、株式会社堀場製作所製のTwinpH(B−212)を用いて測定した。結果を表1に示す。
次に、表1に記載の配合比(質量部)となるように、ヒアルロン酸(ヒアルロン酸ナトリウム)、及び蒸留水(ヒアルロン酸水溶液調製用)を、プロペラ式回転型撹拌装置を用いて混合し、ヒアルロン酸水溶液を調製した。次に、このヒアルロン酸水溶液をプラスチックス製シャーレ(直径9cm)に均一の厚みとなるように入れて、12時間〜24時間、70℃で保管し、蒸留水の90%程度を蒸発させて高粘度ヒアルロン酸溶液を得た。この高粘度ヒアルロン酸溶液の重量を測定して含有する水分量を算出し、それぞれ、表1に記載のゲル中の水分量となる量の蒸留水とリン酸を均一に混合して、この高粘度ヒアルロン酸溶液の表面に均一に塗布し、室温で12時間保管して厚み約2mmのヒアルロン酸ゲルシートを得た。
Figure 0006478132
<ヒアルロン酸ゲルシートの性状評価>
実施例1〜6で得られたヒアルロン酸ゲルシート、及び比較例1で得られたシート状の高粘度液の性状を以下の基準により評価した。結果を表1に示す。
A:無色透明のゲルで、高い形状維持性と適度な弾性を有し、十分な機械的強度を有する。ゲルを手で持ち上げても破断しない。
B:無色透明のゲルで、適度な弾性を有するが、Aと比較して形状維持性と機械的強度は劣るものの、ゲルを手で持ち上げても破断しない。
C:無色透明のゲルで、適度な弾性を有するが、形状維持性は弱く、Bと比較して機械的強度は劣るものの、ゲルを手で持ち上げても破断しない。
D:無色透明なシート状物で、指で引っ張ると糸ひきする高粘度液
表1に示される結果から、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水を用いた実施例1〜6において、ヒアルロン酸ゲルシートの調製過程において、上記のpH測定方法に従ってヒアルロン酸、リン酸、及び蒸留水を混合して得られるヒアルロン酸水溶液のpHを2.2〜3.4の範囲に設定した場合には、弾性、形状維持性の観点から、化粧料、医薬組成物、または医療用具用組成物として皮膚などに特に好適に適用できることが明らかとなった。一方、ヒアルロン酸とは異なる酸を用いなかった比較例1の場合には、ゲルは得られず、シート状物を指で引っ張ると糸ひきする高粘度液が得られた。
[実施例7〜16]
表2に記載の配合比(質量部)となるように、ヒアルロン酸(ヒアルロン酸ナトリウム)、リン酸、及び蒸留水(pH測定用)を、プロペラ式回転型撹拌装置を用いて混合し、ヒアルロン酸1gを含む200mLのpH測定用ヒアルロン酸水溶液を得た。得られたヒアルロン酸水溶液のpHを、株式会社堀場製作所製のTwinpH(B−212)を用いて測定した。結果を表2に示す。
次に、表2に記載の配合比(質量部)となるように、ヒアルロン酸(ヒアルロン酸ナトリウム)及び蒸留水(ヒアルロン酸水溶液調製用)を、プロペラ式回転型撹拌装置を用いて混合し、ヒアルロン酸水溶液を調製した。次に、このヒアルロン酸水溶液をプラスチックス製シャーレ(直径9cm)に均一の厚みとなるように入れて、6時間〜24時間、70℃で保管し、蒸留水の20%〜95%程度を蒸発させて高粘度ヒアルロン酸溶液を得た。この高粘度ヒアルロン酸溶液の重量を測定して含有する水分量を算出し、それぞれ、表2に記載のゲル中の水分量となる量の蒸留水とリン酸を均一に混合して、この高粘度ヒアルロン酸溶液の表面に均一に塗布し、室温で12時間保管して厚み約2mmのヒアルロン酸ゲルシートを得た。
Figure 0006478132
表2に示される結果から、ヒアルロン酸1質量部に対して、ゲル中の水分量が10〜160質量部の範囲において、良好な水溶性ヒアルロン酸ゲルが得られることが分かる。
[実施例17〜19]
表3に記載の配合比(質量部)となるように、蒸留水(ゲル中の水分量)、リン酸の混合液を調製し、プラスチックス製シャーレ(直径9cm)に入れた。この水溶液中にヒアルロン酸を加えて、スパテュラで撹拌した後、48時間、室温で保管して厚み約2mmの水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを得た。次に、実施例1〜6と同様にして、実施例17〜19で得られた水溶性ヒアルロン酸ゲルシートの性状を評価した。この結果を表3に示す。
Figure 0006478132
表3に示される結果から、予め設定したゲル中のリン酸、及び蒸留水の量と同量の各成分を含む水溶液を調製し、この水溶液にヒアルロン酸を添加してゲルを作製した場合にも、実施例12、実施例14、及び実施例16と同様に良好な水溶性ヒアルロン酸ゲルが得られることが分かる。
[実施例20〜23]
ヒアルロン酸(分子量230万)の代わりに、ヒアルロン酸(分子量10万と120万)を用い、表4に記載の配合比(質量部)となるようにしたこと以外は、実施例1〜6と同様にして水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを得た。次に、実施例1〜6と同様にして、実施例20〜23で得られた水溶性ヒアルロン酸ゲルシートの性状を評価した。また、実施例1〜6と同様にして、実施例20〜23で得られたpH測定用ヒアルロン酸水溶液を調製して、当該水溶液のpHを測定した。これらの結果を表4に示す。
Figure 0006478132
表4に示される結果から、平均分子量が10万または120万のヒアルロン酸を用いた場合にも、水溶性ヒアルロン酸ゲルを好適に製造できることが分かる。
[実施例24〜30]
リン酸の代わりに、各種酸(硫酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、グルコノラクトン、ラクトピオン酸、ビタミンC)を表5に記載の配合比(質量部)となるように用いて混合したこと以外は、実施例1〜6と同様にして水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを得た。次に、実施例1〜6と同様にして、実施例24〜30で得られた水溶性ヒアルロン酸ゲルシートの性状を評価した。また、実施例1〜6と同様にして、実施例24〜30で得られたpH測定用ヒアルロン酸水溶液のpHを測定した。これらの結果を表5に示す。
Figure 0006478132
表5に示される結果から、酸としてリン酸以外の種々の酸(硫酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、グルコノラクトン、ラクトピオン酸、ビタミンC)を用いることにより、好適に水溶性ヒアルロン酸ゲルが得られることが分かる。
<ヒアルロン酸ゲルの溶解性試験>
ヒアルロン酸ゲルシートの厚みを約100μmとしたこと以外は、実施例1、実施例6、実施例25、実施例26、及び実施例27と同様にして得られたヒアルロン酸ゲルシート(4cm×4cm)をpH7.4のリン酸緩衝液100mL中に入れ、37℃で撹拌子を用いて120rpmで4時間撹拌した。その結果、いずれのヒアルロン酸ゲルシートも完全に溶解しており、ヒアルロン酸ゲルシートが水溶性であることが確認された。
<水溶性ヒアルロン酸ゲルシートの貼付試験による保湿効果評価>
ボランティア4名の右前腕部に実施例22の水溶性ヒアルロン酸ゲルシート(2cm×2cm)を1時間貼り付けた。その後、ゲルの上に精製水約10mLを少しずつ加えて約3分間マッサージしながら溶かしたのち、精製水で洗浄して、自然乾燥させた。この水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを処置した右前腕部と同一ボランティアの無処置の左前腕部の皮膚の保湿状況を観察した。
その結果、ボランティア4名全員において、実施例22で得られた水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを処置することによって、無処理の場合に比して、明らかな肌のしっとり感が確認された。また、水溶性ヒアルロン酸ゲルシートは適度な弾性を有し、形状維持性も優れているため、取り扱いも容易であり、皮膚刺激などの問題も生じなかった。
<水溶性ヒアルロン酸ゲルシートの経口投与評価>
[実施例31〜32]
表6に記載の配合比(質量部)となるように、ゲル中水分(蒸留水)、クエン酸の混合液を調製し、プラスチックス製シャーレ(直径9cm)に入れた。この水溶液中にヒアルロン酸を加えて、スパテュラで撹拌した後、48時間、室温で保管して厚み約5mmの水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを得た。次に、実施例1〜6と同様にして、実施例31〜32で得られたヒアルロン酸ゲルシートの性状を評価した。この結果を表6に示す。
Figure 0006478132
得られた実施例31の水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを約2cm×2cmにカットして、2名のボランティアに試食させた。その結果、ボランティア2名共に、グミのような弾力性のある食感を感じながら咀嚼すると共に、経時的に口腔内でゲルが溶解した。
得られた実施例32の水溶性ヒアルロン酸ゲルシートを約2cm×2cmにカットして、2名のボランティアに試食させた。その結果、ボランティア2名共に、経口栄養補助ゼリーのような柔らかい適度な弾力性のある食感を感じ、そのまま喉ごしよく嚥下することができた。

Claims (14)

  1. ヒアルロン酸と、前記ヒアルロン酸1質量部に対して10〜160質量部の水と、ヒアルロン酸とは異なる酸とを含む水溶性ヒアルロン酸ゲルであって、
    以下の測定方法によって測定される水溶液のpHが、2.2〜3.4の範囲にあり、
    多価アルコールを含まない、水溶性ヒアルロン酸ゲル。
    (pHの測定方法)
    ヒアルロン酸1gを含む分量の前記水溶性ヒアルロン酸ゲルに含まれる成分のうち、水を除く全てのイオン性成分を水に溶解して200mLとなるように水溶液を調製し、得られた水溶液のpHを測定する。
  2. 前記ヒアルロン酸とは異なる酸が、リン酸、硫酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、グルコノラクトン、ラクトピオン酸、及びビタミンCからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1に記載の水溶性ヒアルロン酸ゲル。
  3. ヒアルロン酸の分子量が、5.0×104〜5.0×106ダルトンの範囲にある、請求項1または2に記載の水溶性ヒアルロン酸ゲル。
  4. シート状である、請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲル。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルが支持体上に形成されてなる、水溶性ヒアルロン酸ゲルシート。
  6. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた化粧料。
  7. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた食品組成物。
  8. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた医薬組成物。
  9. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルを用いた医療用具用組成物。
  10. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法であって、
    ヒアルロン酸、水、及びヒアルロン酸とは異なる酸を混合してゲル形成用水溶液を調製する工程を備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
  11. 前記ゲル形成用水溶液に含まれる水を蒸発させる工程をさらに備える、請求項10に記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
  12. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法であって、
    ヒアルロン酸及び水を混合してヒアルロン酸水溶液を調製する工程と、
    前記ヒアルロン酸水溶液に対して、ヒアルロン酸とは異なる酸を添加する工程と、
    を備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
  13. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法であって、
    ヒアルロン酸及び水を混合してヒアルロン酸水溶液を調製する工程と、
    前記ヒアルロン酸水溶液を乾燥させる工程と、
    前記ヒアルロン酸水溶液に対して、ヒアルロン酸とは異なる酸を添加する工程と、
    を備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
  14. 請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法であって、
    ヒアルロン酸とは異なる酸、及び水を混合して混合液を調製する工程と、
    前記混合液にヒアルロン酸を添加して溶解させる工程と、
    を備える、水溶性ヒアルロン酸ゲルの製造方法。
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