以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
<第一実施形態>
最初に図1〜図12を参照して、本発明の第一実施形態について説明する。
<内燃機関全体の説明>
図1は、本発明の第一実施形態に係る硫黄酸化物検出装置(以下、「SOx検出装置」という)が用いられる内燃機関を概略的に示す図である。図1に示される内燃機関は、圧縮自着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である。内燃機関は例えば車両に搭載される。
図1を参照すると、内燃機関は、機関本体100と、各気筒の燃焼室2と、燃焼室2内に燃料を噴射する電子制御式燃料噴射弁3と、吸気マニホルド4と、排気マニホルド5とを備える。吸気マニホルド4は吸気管6を介してターボチャージャ(過給機)7のコンプレッサ7aの出口に連結される。コンプレッサ7aの入口は吸気管6を介してエアクリーナ8に連結される。吸気管6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁9が配置される。さらに、吸気管6周りには吸気管6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置13が配置される。図1に示した内燃機関では機関冷却水が冷却装置13内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。吸気マニホルド4及び吸気管6は、空気を燃焼室2に導く吸気通路を形成する。
一方、排気マニホルド5は排気管27を介してターボチャージャ7のタービン7bの入口に連結される。タービン7bの出口は、排気管27を介して、排気浄化触媒28を内蔵したケーシング29に連結される。排気マニホルド5及び排気管27は、燃焼室2における混合気の燃焼によって生じた排気ガスを排出する排気通路を形成する。排気浄化触媒28は、例えば、排気ガス中のNOxを還元浄化する選択還元型NOx低減触媒(SCR触媒)又はNOx吸蔵還元触媒である。また、排気通路には、排気ガス中の粒子状物質(PM)を低減するために、酸化触媒、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等が配置されてもよい。
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、「EGR」という)通路14を介して互いに連結される。EGR通路14内には電子制御式EGR制御弁15が配置される。また、EGR通路14周りにはEGR通路14内を流れるEGRガスを冷却するためのEGR冷却装置20が配置される。図1に示した実施形態では機関冷却水がEGR冷却装置20内に導かれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。
燃料は電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ19によって燃料タンク33から燃料配管34を介してコモンレール18内に供給される。コモンレール18内に供給された燃料は各燃料供給管17を介して各燃料噴射弁3に供給される。
内燃機関の各種制御は電子制御ユニット(ECU)80によって実行される。ECU80はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス81によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)82、RAM(ランダムアクセスメモリ)83、CPU(マイクロプロセッサ)84、入力ポート85及び出力ポート86を備える。負荷センサ101、エアフロメータ102及び空燃比センサ104の出力が、対応するAD変換器87を介して入力ポート85に入力される。一方、出力ポート86は、対応する駆動回路88を介して、燃料噴射弁3、スロットル弁駆動用ステップモータ、EGR制御弁15及び燃料ポンプ19に接続されている。
負荷センサ101は、アクセルペダル120の踏込み量に比例した出力電圧を発生させる。したがって、負荷センサ101は機関負荷を検出する。エアフロメータ102は、吸気通路においてエアクリーナ8とコンプレッサ7aとの間に配置され、吸気管6内を流れる空気流量を検出する。空燃比センサ104は、排気通路においてタービン7bと排気浄化触媒28との間に配置され、排気ガスの排気空燃比を検出する。さらに、入力ポート85には、クランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ108が接続され、クランク角センサ108によって機関回転数が検出される。
なお、SOx検出装置が用いられる内燃機関は、燃焼室に点火プラグが配置された火花点火式内燃機関であってもよい。また、気筒配列、吸排気系の構成及び過給機の有無のような内燃機関の具体的な構成は、図1に示した構成と異なっていてもよい。
<SOx検出装置の説明>
以下、図1〜図3を参照して、本発明の第一実施形態に係るSOx検出装置1について説明する。SOx検出装置1は、内燃機関の排気通路内を流通する排気ガス中の硫黄酸化物(SOx)濃度を検出する。
図2は、本発明の第一実施形態に係るSOx検出装置1の構成を示す概略的なブロック図である。図2に示されるように、SOx検出装置1は、素子部10と、素子部10に接続されたヒータ制御回路60、電圧印加回路61及び電流検出回路62と、ECU80とを備える。ECU80は、算出部80a、電圧制御部80b及びヒータ制御部80cを備える。また、SOx検出装置1は、ECU80の電圧制御部80b及び電圧印加回路61に接続されたDA変換器63と、ECU80の算出部80a及び電流検出回路62に接続されたAD変換器87とを更に備える。
図1に示されるように、素子部10は内燃機関の排気通路においてタービン7bと排気浄化触媒28との間に配置されている。言い換えれば、素子部10は排気通路において排気浄化触媒28の排気流れ方向上流側に配置されている。なお、素子部10は、排気通路の他の位置、例えば排気浄化触媒28の排気流れ方向下流側に配置されてもよい。
図3は、SOx検出装置1の素子部10の構成を示す概略的な断面図である。図3に示されるように、素子部10は、複数の層を積層して構成されている。具体的には、素子部10は、第一固体電解質層11、拡散律速層16、第一不透過層21、第二不透過層22、第三不透過層23、第四不透過層24及び第五不透過層25を備える。
第一固体電解質層11は、酸化物イオン伝導性を有する薄板体である。第一固体電解質層11は、例えば、ZrO2(ジルコニア)、HfO2、ThO2、Bi2O3等にCaO、MgO、Y2O3、Yb2O3等を安定剤として添加した焼結体により形成されている。また、拡散律速層16は、ガス透過性を有する薄板体である。拡散律速層16は、例えば、アルミナ、マグネシア、けい石質、スピネル、ムライト等の耐熱性無機物質の多孔質焼結体により形成されている。不透過層21〜25は、ガス不透過性の薄板体であり、例えばアルミナを含む層として形成されている。
素子部10の各層は、図3の下方から、第一不透過層21、第二不透過層22、第三不透過層23、第一固体電解質層11、拡散律速層16及び第四不透過層24、第五不透過層25の順に積層されている。第一固体電解質層11、拡散律速層16、第四不透過層24及び第五不透過層25によって、被測ガス室30が区画形成されている。被測ガス室30は、素子部10が排気通路に配置されたときに、被測ガス室30内に拡散律速層16を介して内燃機関の排気ガス(被測ガス)が流入するように構成されている。すなわち、素子部10は、拡散律速層16が排気ガスに曝されるように排気通路に配置されている。したがって、被測ガス室30は拡散律速層16を介して排気通路内と連通している。なお、被測ガス室30は、第一固体電解質層11に隣接し且つ被測ガスが流入するように構成されていれば、如何なる態様で構成されてもよい。
また、第一固体電解質層11、第二不透過層22及び第三不透過層23によって、第一大気室31が区画形成されている。図3からわかるように、第一大気室31は、第一固体電解質層11を挟んで、被測ガス室30の反対側に配置されている。第一大気室31は、排気通路の外部の大気に開放されている。したがって、第一大気室31には大気が流入する。なお、第一大気室31は、第一固体電解質層11に隣接し且つ大気が流入するように構成されていれば、如何なる態様で構成されてもよい。
素子部10は第一電極41及び第二電極42を更に備える。第一電極41は第一固体電解質層11の被測ガス室30側の表面上に配置されている。したがって、第一電極41は、被測ガス室30内の被測ガスに曝されている。一方、第二電極42は第一固体電解質層11の第一大気室31側の表面上に配置されている。したがって、第二電極42は、第一大気室31内のガス(大気)に曝されている。第一電極41と第二電極42とは、第一固体電解質層11を挟んで互いに対向するように配置されている。第一電極41、第一固体電解質層11及び第二電極42は、第一電気化学セル51を構成する。
素子部10はヒータ(電気ヒータ)55を更に備える。本実施形態では、ヒータ55は、図3に示したように、第一不透過層21と第二不透過層22との間に配置される。ヒータ55は、例えば、白金(Pt)とセラミックス(例えば、アルミナ等)とを含むサーメットの薄板体であり、通電によって発熱する発熱体である。素子部10のヒータ55はヒータ制御回路60に接続されている。ECU80のヒータ制御部80cは、ヒータ制御信号をヒータ制御回路60に入力し、ヒータ制御回路60を介してヒータ55を制御する。このことによって、ヒータ55は第一電気化学セル51を活性温度以上に加熱することができる。
第一電極41及び第二電極42は電圧印加回路61に接続されている。電圧印加回路61は、第二電極42の電位が第一電極41の電位よりも高くなるように、第一電極41と第二電極42との間に電極間電圧を印加する。ECU80の電圧制御部80bは、DA変換器63を介して電圧制御信号を電圧印加回路61に入力し、電圧印加回路61から印加される電極間電圧を制御する。
電流検出回路62は、第一電極41と第二電極42との間に流れる電極間電流(すなわち、第一固体電解質層11内を流れる電極間電流)を検出する。電流検出回路62の出力はAD変換器87を介してECU80の算出部80aに入力される。したがって、算出部80aは、電流検出回路62によって検出された電極間電流を電流検出回路62から取得することができる。
電圧印加回路61は、第一電極41と第二電極42との間に電極間電圧を印加する電圧印加部として機能する。電流検出回路62は、第一電極41と第二電極42との間に流れる電極間電流を検出する電流検出部として機能する。ECU80は、素子部10を制御する制御装置として機能する。
<SOx濃度の検出原理>
次に、SOx検出装置1によるSOxの検出原理について説明する。SOxの検出原理を説明するにあたり、まず、素子部10における酸素の限界電流特性について説明する。素子部10では、被測ガス室30側の第一電極41を陰極、第一大気室31側の第二電極42を陽極としてこれら電極間に電圧を印加すると、被測ガス中に含まれている酸素が還元分解されて酸化物イオンとなる。この酸化物イオンは、第一電気化学セル51の第一固体電解質層11を介して陰極側から陽極側へと伝導されて酸素となり、大気中へ排出される。本明細書では、このような陰極側から陽極側への固体電解質層を介する酸化物イオンの伝導による酸素の移動を「酸素ポンピング作用」と称する。
このような酸素ポンピング作用に伴う酸化物イオンの伝導により、第一電気化学セル51を構成する第一電極41と第二電極42との間には電極間電流が流れる。この電極間電流は、第一電極41と第二電極42との間に印加される印加電圧が高くなるほど大きくなる。これは、印加電圧が高くなるほど、酸化物イオンの伝導量が多くなるためである。
しかしながら、印加電圧を徐々に高くして或る一定値以上になると、電極間電流はそれ以上大きくならずに一定の値に維持される。このような特性は酸素の限界電流特性と称され、酸素の限界電流特性が生じる電圧領域は酸素の限界電流領域と称される。このような酸素の限界電流特性は、電圧印加に伴って固体電解質層11内を伝導可能な酸化物イオンの伝導速度が、拡散律速層16を介して被測ガス室30内に導入される酸素の導入速度を超えることによって生じる。すなわち、陰極における酸素の還元分解反応が拡散律速状態になることによって生じる。
したがって、第一電気化学セル51において酸素の限界電流領域内の電圧を印加したときの電極間電流(限界電流)は、被測ガス中の酸素濃度に対応する。このように酸素の限界電流特性を利用することにより、被測ガス中の酸素濃度を検出し、検出された濃度に基づいて排気ガスの空燃比を検知することができる。
ところで、上述したような酸素ポンピング作用は、被測ガス中に含まれている酸素のみに発現する作用ではない。分子中に酸素原子を含むガスの中には酸素ポンピング作用を発現しうるガスが存在する。このようなガスとしては、SOx及び水(H2O)が挙げられる。したがって、第一電気化学セル51の第一電極41と第二電極42との間に、SOx及び水の分解開始電圧以上の電圧を印加することにより、被測ガス中に含まれる水及びSOxが分解される。SOx及び水の分解によって生じた酸化物イオンは、酸素ポンピング作用により、第一電極41から第二電極42へと伝導される。このため、第一電極41と第二電極42との間には電極間電流が流れる。
しかしながら、排気ガス中のSOx濃度は極めて低く、SOxの分解に起因して生じる電極間電流も極めて小さい。特に、排気ガス中には水が多く含まれており、水の分解に起因して電極間電流が生じる。このため、SOxの分解に起因して生じる電極間電流を精度良く区別して検出することは困難である。
これに対して、本願の発明者は、酸素ポンピング作用を有する電気化学セルにおいて水及びSOxを分解させたときの分解電流が排気ガス中のSOx濃度に応じて変化することを見出した。斯かる現象が生じる具体的な原理は必ずしも明確ではないが、以下のようなメカニズムによって生じるものであると考えられる。
上述したように、第一電気化学セル51の第一電極41と第二電極42との間に、SOxの分解開始電圧以上の所定電圧を印加すると、被測ガス中に含まれるSOxが分解される。この結果、SOxの分解生成物(例えば、硫黄及び硫黄化合物)が、陰極である第一電極41上に吸着する。この結果、水の分解に寄与することができる第一電極41の面積が減少する。被測ガス中のSOx濃度が高いと、第一電極41上に吸着する分解生成物が多くなる。この結果、第一電極41と第二電極42との間に水の分解開始電圧以上の所定電圧を印加したときに電極間に流れる水の分解電流が相対的に小さくなる。一方、被測ガス中のSOx濃度が低いと、第一電極41上に吸着する分解生成物が少なくなる。この結果、第一電極41と第二電極42との間に水の分解開始電圧以上の所定電圧を印加したときに電極間に流れる水の分解電流が相対的に大きくなる。したがって、被測ガス中のSOx濃度に応じて、電極間に流れる水の分解電流が変化する。この現象を用いて、被測ガス中のSOx濃度を検出することが可能となる。
ここで、水の分解開始電圧は、測定条件等により若干の変動は見られるが、約0.6Vである。また、SOxの分解開始電圧は、水の分解開始電圧と同程度か、或いはそれよりも僅かに低い。したがって、本実施形態では、上述した方法によって第一電気化学セル51によって被測ガス中のSOx濃度を検出するために、第一電極41と第二電極42との間に0.6V以上の電圧が印加される。また、印加電圧が過度に高い場合には、第一固体電解質層11の分解を招く可能性がある。この場合、電極間電流に基づいて被測ガス中のSOx濃度を精度良く検出することが困難になる。このため、本実施形態では、上述した方法によって被測ガス中に含まれるSOx濃度を検出するために、第一電極41と第二電極42との間に0.6V以上2.0V未満の電圧が印加される。
また、本願の発明者は、被測ガス中のSOx濃度に応じて変化する水の分解電流の変化量が、第一電極41がロジウム(Rh)から構成されている場合に大きくなることも見出した。このため、本実施形態では、第一電極41はロジウム(Rh)から構成される。例えば、第一電極41は、ロジウム(Rh)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。また、本実施形態では、第二電極42は白金(Pt)から構成される。例えば、第二電極42は、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。しかしながら、第二電極42を構成する材料は、必ずしも上記材料に限定されるものではなく、第一電極41と第二電極42との間に所定の電圧を印加したときに、第一電極41と第二電極42との間で酸化物イオンを移動させることができれば、いかなる材料であってもよい。
以下、印加電圧と電極間電流との関係について具体的に説明する。図4は、第一電気化学セル51において印加電圧を徐々に上昇させた(昇圧スイープさせた)ときの印加電圧と電極間電流との関係を示す模式的なグラフである。図示した例では、被測ガス中に含まれるSO2(すなわちSOx)の濃度が異なる4種類(0ppm、100ppm、300ppm及び500ppm)の被測ガスを使用した。なお、第一電気化学セル51の第一電極(陰極)41に到達する被測ガス中の酸素濃度は、いずれの被測ガスにおいても一定(ほぼ0ppm)に維持されている。
図4における実線L1は、被測ガス中のSO2濃度が0ppmである場合の印加電圧と電極間電流との関係を示している。図4に示した例では、被測ガス中の酸素濃度がほぼ0ppmに維持されているため、印加電圧が約0.6V未満の領域では、電極間電流はほぼ0である。一方、印加電圧が約0.6V以上になると、印加電圧の増大に伴って電極間電流が増大し始める。この電極間電流の増大は、第一電極41における水の分解が開始されたことに起因する。
図4における破線L2は、被測ガス中のSO2濃度が100ppmである場合の印加電圧と電極間電流との関係を示している。この場合でも、印加電圧が約0.6V未満の領域では、実線L1の場合と同様に、電極間電流はほぼ0である。一方、印加電圧が約0.6V以上であるときには、水の分解に起因して電極間電流が流れる。しかしながら、このとき(破線L2)の電極間電流は実線L1と比較して小さく、また、印加電圧に対する電極間電流の増加率(破線L2の傾き)も実線L1と比較して小さい。
図4における一点鎖線L3は、被測ガス中のSO2濃度が300ppmである場合の印加電圧と電極間電流との関係を示している。また、図4における二点鎖線L4は、被測ガス中のSO2濃度が500ppmである場合の印加電圧と電極間電流との関係を示している。これらの場合においても、印加電圧が約0.6V未満の領域では、実線L1及び破線L2の場合と同様に、電極間電流はほぼ0である。一方、印加電圧が約0.6V以上であるときには、水の分解に起因して電極間電流が流れる。しかしながら、被測ガス中のSO2濃度が高いほど、電極間電流が小さく、印加電圧に対する電極間電流の増加率(一点鎖線L3及び二点鎖線L4の傾き)も小さい。
このように、図4に示した例からも、印加電圧がSOx及び水の分解開始電圧である約0.6V以上であるときの電極間電流の大きさは、被測ガス中に含まれるSO2(すなわちSOx)の濃度に応じて変化することがわかる。例えば、図4に示したグラフにおける印加電圧が1.0Vであるときの線L1〜L4における電極間電流の大きさを被測ガス中のSO2濃度に対してプロットすると、図5に示したグラフが得られる。
図5からわかるように、所定の電圧(図5に示した例では、1.0V)を印加した場合の電極間電流の大きさは、被測ガス中に含まれるSO2(すなわち、SOx)の濃度に応じて変化する。したがって、上述したように、水及びSOxの分解開始電圧以上の所定電圧を印加したときの電極間電流に基づいて、SOx濃度を検出することができる。
<ステップ状の電圧印加の問題点>
しかしながら、SOx濃度を検出するために、第一電気化学セル51の第一電極41と第二電極42との間に印加される印加電圧を徐々に上昇させた(昇圧スイープさせた)場合、SOx濃度の検出時間が長くなる傾向にある。そこで、SOx濃度の検出時間を短くすべく、印加電圧をステップ状に上昇させることが考えられる。
図6は、第一電気化学セル51にステップ状に電圧を印加したときの印加電圧及び電極間電流のタイムチャートである。図示した例では、被測ガス中に含まれるSO2(すなわちSOx)の濃度が異なる4種類(0ppm、50ppm、100ppm及び300ppm)の被測ガスを使用した。図6における実線L1、破線L2、一点鎖線L3及び二点鎖線L4は、それぞれ、被測ガス中のSO2濃度が0ppm、50ppm、100ppm及び300ppmである場合の電極間電流のタイムチャートを示している。
図示した例では、印加電圧はステップ状に0.3Vから1.1Vに上昇せしめられる。図6に示したように、印加電圧を1.1Vに上昇させた直後には、電極間電流にスパイク状のノイズが発生し、電極間電流はSO2濃度の値に関わらずほぼ同じ値を示す。その後、SOxの分解によって電極(陰極)に吸着するSOxの分解生成物が増加することで、電極間電流は徐々に低下していく。印加電圧を1.1Vに上昇させてから電極間電流がSO2濃度に応じた値を示すまでに約60秒を要する。ノイズが発生する具体的な原理は必ずしも明確ではないが、以下のようなメカニズムによって生じるものであると考えられる。
図7は、第一電気化学セル51の等価回路を示す図である。Rgは固体電解質バルクの抵抗成分を示し、Ri及びCiはそれぞれ固体電解質粒界の抵抗成分及び容量成分を示し、Rf及びCfはそれぞれ電極界面の抵抗成分及び容量成分を示す。ステップ状の電圧波形で印加電圧を瞬時に上昇させると、固体電解質粒界の容量成分Ci及び電極界面の容量成分Cfに電荷が瞬時に蓄えられる。この結果、印加電圧を上昇させた直後に電極間電流にスパイク状のノイズが発生すると考えられる。
また、印加電圧を上昇させたときのスパイク状のノイズの影響を回避するために、水及びSOxの分解開始電圧以上の電圧を常に第一電気化学セル51に印加しておくことが考えられる。しかしながら、以下に説明するように、この方法では、第一電極41の硫黄被毒によって被測ガス中のSOx濃度を精度良く検出することができない。
<電極の硫黄被毒>
上述したように、水及びSOxの分解開始電圧以上の電圧を第一電気化学セル51に印加すると、第一電気化学セル51の第一電極41上には、SOxの分解生成物(例えば、硫黄及び硫黄化合物)が吸着する。この結果、第一電極41が硫黄被毒する。このため、SOxの分解生成物が第一電極41に吸着した状態でSOx濃度を再び検出しようとすると、検出される電極間電流は、第一電極41上に吸着した分解生成物の影響を受ける。具体的には、検出される電極間電流が、被測ガス中に含まれるSOx濃度に対応する値よりも小さくなる場合がある。このため、被測ガス中のSOx濃度を精度良く検出するためには、第一電極41に吸着したSOxの分解生成物を除去した状態でSOx濃度を検出することが必要である。
上述した酸素ポンピング作用によれば、電気化学セルの固体電解質層の両側に電圧を印加すると、陰極側から陽極側へ酸化物イオンが伝導する旨を説明した。しかしながら、電気化学セルの固体電解質層の両側に電圧を印加していると、陰極側における被測ガス室内がリッチ空燃比であって被測ガス中に含まれる酸素濃度が極端に少ない場合には、むしろ陽極側から陰極側へ酸化物イオンが移動する。
このような酸化物イオンの移動が生じる理由について簡単に説明する。固体電解質層の両側面間に酸素濃度の差が生じると、濃度の高い側面側から濃度の低い側面側へと酸化物イオンを移動させようとする起電力が発生する(酸素電池作用)。これに対して、上述したように固体電解質層の両側の電極間に電圧を印加すると、上述したような起電力が発生してもこれら電極間の電位差が印加電圧に等しくなるように酸化物イオンの移動が生じる。
この結果、電気化学セルの固体電解質層の両側に配置された電極間に電圧を印加すると、両電極上の酸素濃度差が両電極の電位差に応じた濃度差になるように酸化物イオンの移動が行われる。具体的には、陽極上の酸素濃度が陰極上の酸素濃度に比べて、電位差に相当する濃度差分だけ高くなるように酸化物イオンの移動が行われる。
このため、電気化学セルの両電極間に或る電圧を印加した場合、陽極上の酸素濃度が陰極上の酸素濃度に比べてこの或る電圧に相当する濃度差ほど高くないときには、酸素濃度差が大きくなるように陰極から陽極へ向かって酸化物イオンの移動が行われる。この結果、陰極上の酸素濃度が低下し、両電極上の酸素濃度差は上記或る電圧に相当する濃度差に近づく。逆に、陽極上の酸素濃度が陰極上の酸素濃度に比べてこの或る電圧に相当する濃度差よりも高いときには、酸素濃度差が小さくなるように陽極から陰極へ向かって酸化物イオンの移動が行われる。この結果、陰極上の酸素濃度が上昇し、両電極上の酸素濃度差は、上記或る電圧に相当する濃度差に近づく。
ここで、固体電解質層の両側面上に配置された電極間の電位差が0.45Vであるときには、この電位差に相当する濃度差は、大気中に含まれる酸素濃度と平衡状態(すなわち、過剰な未燃成分(HC、CO等)や過剰な酸素がない状態、或いは空燃比が理論空燃比である状態)における酸素濃度との濃度差に等しくなる。したがって、電気化学セルの陽極が大気に曝され、陰極が被測ガスに曝されている場合、これら電極間に0.45Vの電圧を印加すると、被測ガス室に曝されている陰極周りが平衡状態になるように酸化物イオンの移動が行われる。
このため、被測ガスの酸素濃度が平衡状態における酸素濃度よりも高い場合、すなわち被測ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンである場合(未燃成分に対して酸素が過剰な状態である場合)、被測ガス室内の陰極から陽極へ酸化物イオンの移動が行われる。この結果、被測ガスの酸素濃度は平衡状態における酸素濃度に近づく。一方、被測ガスの酸素濃度が平衡状態における酸素濃度よりも低い場合、すなわち被測ガスの空燃比が理論空空燃比よりもリッチである場合(酸素に対して未燃成分が過剰な状態である場合)、陽極から被測ガス室内の陰極へ酸化物イオンの移動が行われる。この結果、被測ガスの酸素濃度は平衡状態における酸素濃度に近づく。
一方、固体電解質層の両側面上に配置された電極間の電位差が、0.45V未満であるときには、この電位差に相当する濃度差は、大気中の酸素濃度と平衡状態における酸素濃度との濃度差よりも小さくなる。したがって、電気化学セルの陽極が大気に曝され、陰極が被測ガスに曝されている場合、これら電極間に0.45V未満の電圧を印加すると、被測ガスに曝されている陰極上が平衡状態よりも僅かに酸素過剰になるように酸化物イオンの移動が行われる。この結果、電気化学セルの陰極は平衡状態に比べて僅かに酸素過剰な状態に維持されることになる。
したがって、第一電気化学セル51の第一電極41と第二電極42との間に、第一電極41を陰極とし、第二電極を陽極として0.45V未満の電圧を印加すると、第一電極41上が僅かに酸素過剰な状態に維持されることになる。第一電極41上にSOxの分解生成物が吸着している場合でも、第一電極41上が酸素過剰な状態に維持されると、吸着している分解生成物が酸素と反応し、SOxとなって第一電極41から脱離する。したがって、SOx検出処理に伴って第一電極41上にSOxの分解生成物が吸着している場合には、第一電気化学セル51への印加電圧を0.45V未満にすることにより、分解生成物を第一電極41から脱離させることができる。
したがって、SOx濃度の検出によってSOxの分解生成物が第一電極41に吸着した場合、第一電気化学セル51に0.45V未満の電圧、例えば0.3Vの電圧を印加することによってSOxの分解生成物を第一電極41から除去することが望ましい。このため、SOx濃度を再び検出するときには、第一電気化学セル51への印加電圧を0.45V未満の電圧から水及びSOxの分解開始電圧以上の電圧に上昇させる必要がある。
<本実施形態における電圧制御>
本願の発明者は、第一電気化学セル51への適切な電圧の印加方法を見出すために、第一電気化学セル51のインピーダンス特性を測定した。図8は、第一電気化学セル51に交流電圧(0.7V±0.4V)を印加したときの第一電気化学セル51のインピーダンスと交流電圧の周波数との関係を示す図である。図示した例では、被測ガス中に含まれるSO2(すなわちSOx)の濃度が異なる4種類(0ppm、100ppm、300ppm及び500ppm)の被測ガスを使用した。丸、四角、菱形及び三角でプロットされたデータは、それぞれ、SO2濃度が0ppm、100ppm、300ppm及び500ppmである場合のインピーダンスと周波数との関係を示している。
印加電圧の周波数が比較的高い場合には、第一電気化学セル51のインピーダンスはSO2濃度の値に関わらずほぼ同じ値を示す。一方、印加電圧の周波数が比較的低い場合には、第一電気化学セル51のインピーダンスはSO2濃度の値に応じた値を示す。図8からわかるように、印加電圧の周波数が10Hz以下の領域では、SO2濃度に対するインピーダンスの値にある程度の差異が生じている。このため、この領域では、SOx濃度に応じた電極間電流の検出が可能となり、ひいては被測ガス中のSOx濃度の検出が可能となる。
また、図8からわかるように、印加電圧の周波数が0.01Hz未満の領域ではインピーダンスの値はほぼ飽和している。さらに、上述したように、印加電圧をステップ状に0.3Vから1.1Vに上昇させた場合には、電極間電流がSO2濃度に応じた値を示すまでに約60秒を要する。この時間は、0.008Hz(1/(60×2))の周波数に相当する。
したがって、本実施形態では、被測ガス中のSOx濃度を検出するために第一電気化学セル51に印加する電極間電圧の電圧波形を0.008Hz以上10Hz以下の周波数を有する正弦波に設定する。以下、印加電圧の電圧波形を0.05Hzの周波数を有する正弦波に設定した場合のSOx濃度の検出方法について簡単に説明する。
図9は、0.05Hzの周波数を有する正弦波の電圧波形で第一電気化学セル51に電圧を印加したときの印加電圧及び電極間電流のタイムチャートである。図示した例では、被測ガス中に含まれるSO2(すなわちSOx)の濃度が異なる4種類(0ppm、50ppm、100ppm及び300ppm)の被測ガスを使用した。図9における実線L1、破線L2、一点鎖線L3及び二点鎖線L4は、それぞれ、被測ガス中のSO2濃度が0ppm、50ppm、100ppm及び300ppmである場合のタイムチャートを示している。
図示した例では、印加電圧は、0.05Hzの周波数を有する正弦波の電圧波形で0.3Vと1.1Vとの間で変化する。図9からわかるように、0.05Hzの周波数を有する正弦波の電圧波形で印加電圧を0.3Vから1.1Vに上昇させたときに検出される電極間電流の最大値は被測ガス中に含まれるSO2(すなわち、SOx)の濃度に応じて変化する。したがって、0.05Hzの周波数を有する正弦波の電圧波形で第一電気化学セル51に電圧を印加した場合、例えば、電圧の印加によって得られる電極間電流の最大値に基づいてSOx濃度を検出することができる。
なお、図10に示されるように、所定の時定数Tを有する矩形波は正弦波と同様の波形を有する。また、0.008Hzの周波数は60秒の時定数に相当し、10Hzの周波数は0.05秒の時定数に相当する。このため、本実施形態では、被測ガス中のSOx濃度を検出するために第一電気化学セル51に印加する電極間電圧の電圧波形を0.05秒以上60秒以下の時定数を有する矩形波に設定してもよい。例えば、電圧印加回路61に設けられたローパスフィルタ(LPF)のカットオフ周波数を適切に設定することによって所望の時定数を設定することができる。この場合、ECU80によって出力されたステップ状のデジタル信号は、DA変換器63及びLPFを通過して、所望の時定数を有する信号に変換される。なお、図10からわかるように、本明細書において、電圧を第一電圧から第二電圧に上昇させるときの時定数とは、電圧が第一電圧から上昇し始めてから第二電圧に到達するまでの時間を意味する。また、電圧を第二電圧から第一電圧に下降させるときの時定数とは、電圧が第二電圧から下降し始めてから第一電圧に到達するまでの時間を意味する。
<SOx濃度を検出するための制御>
そこで、本実施形態では、以下のようにして被測ガス中のSOx濃度の検出が行われる。本実施形態では、被測ガス中のSOx濃度を検出するために、ECU80の電圧制御部80bは、第一電気化学セル51の電極間電圧を水及びSOxの分解開始電圧未満の第一電圧から水及びSOxの分解開始電圧以上の第二電圧に上昇させる昇圧制御を実行する。このとき、電圧制御部80bは、0.008Hz以上10Hz以下の周波数を有する正弦波又は0.05秒以上60秒以下の時定数を有する矩形波の電圧波形で昇圧制御を実行する。第一電圧は、例えば、第一電極41に吸着したSOxの分解生成物の脱離を可能とする0.45V未満の電圧であり、例えば0.3Vである。第二電圧は例えば1.1Vである。
ECU80の算出部80aは、昇圧制御が実行されたときに電流検出回路62によって検出された電極間電流に基づいて、被測ガス中のSOx濃度を算出する。例えば、算出部80aは、昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流の最大値に基づいてSOx濃度を算出する。また、算出部80aは、電極間電圧が所定電圧に到達したときの電極間電流に基づいてSOx濃度を算出してもよい。この場合の所定電圧は例えば第二電圧又は第二電圧近傍の値である。また、電圧制御部80bが昇圧制御を複数回実行し、算出部80aは、各昇圧制御において検出された電極間電流の平均値に基づいてSOx濃度を算出してもよい。
また、算出部80aは、昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流に基づいて算出された電極間の電気抵抗に基づいて被測ガス中のSOx濃度を算出してもよい。この場合も、抵抗値は電極間電流に基づいて算出されるため、算出部80aは、昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流に基づいてSOx濃度を算出していると言える。
昇圧制御における電圧波形を上記のように設定することで、昇圧制御が実行されたときに検出される電極間電流は、第一電極41上へのSOxの分解生成物の吸着量、すなわち被測ガス中のSOx濃度に応じて変化する。このため、本実施形態では、昇圧制御が実行されたときに検出される電極間電流に基づいてSOx濃度を算出することで、被測ガス(排気ガス)中のSOx濃度の検出精度を向上させることができる。また、第一電気化学セル51において印加電圧を徐々に上昇させる(昇圧スイープさせる)場合に比べて、SOx濃度の検出時間を短縮することができる。
<タイムチャートを用いた制御の説明>
以下、図11のタイムチャートを参照して、SOx濃度を検出するための制御について具体的に説明する。図11は、被測ガス中のSOx濃度を検出する際の、エンジン(内燃機関)のオン・オフ、車速、素子部10の活性状態、第一電気化学セル51への印加電圧及び電極間電流の所得値のタイムチャートである。図示した例では、SOx濃度を算出するために三回の昇圧制御が実行されている。
図示した例では、時刻t1においてイグニッションキーがオンにされてエンジン(内燃機関)が始動される。エンジンの始動後、SOxの分解生成物が第一電極41に吸着することを抑制すべく、第一電気化学セル51への印加電圧は0.3Vに設定される。エンジンが始動してから所定時間が経過すると、素子部10が活性状態となる。素子部10はヒータ55で加熱されることで活性化される。その後、時刻t2において、エンジンが搭載された車両の車速がゼロとなり、エンジンの運転状態がアイドル運転状態となる。この結果、時刻t2において、エンジンの運転状態がアイドル運転状態であり且つ素子部10が活性状態にあるため、SOx濃度の検出条件が成立する。
時刻t2において、SOx濃度の算出のための昇圧制御が開始される。具体的には、時刻t2から時刻t3にかけて第一電気化学セル51への印加電圧が0.3Vから1.1Vに上昇せしめられる。このときの電圧波形は、0.008Hz以上10Hz以下の所定の周波数を有する正弦波に設定される。
時刻t3において昇圧制御が終了すると、昇圧制御中に検出された電極間電流が取得される。この値は、例えば、昇圧制御中に検出された電極間電流の最大値である。図示した例では、昇圧制御後に第一電気化学セル51への印加電圧が1.1Vから0.3Vに低下せしめられる。このときの電圧波形は、昇圧制御時と同じ周波数を有する正弦波に設定される。その後、二回目の昇圧制御が実行され、時刻t4において二回目の昇圧制御中に検出された電極間電流の最大値が取得される。
時刻t4〜時刻t5においても時刻t3〜時刻t4と同様の電圧制御が実行される。この結果、時刻t5において三回目の昇圧制御中に検出された電極間電流の最大値が取得される。その後、三回取得された電極間電流の平均値が算出され、この平均値に基づいてSOx濃度が算出される。また、時刻t5の後、第一電極41に吸着したSOxの分解生成物を脱離すべく、第一電気化学セル51への印加電圧は再び0.3Vに設定される。
<SOx濃度算出処理の制御ルーチン>
以下、図12のフローチャートを参照して、SOx濃度を検出するための制御について詳細に説明する。図12は、本発明の第一実施形態におけるSOx濃度算出処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンはECU80によって所定の時間間隔で繰り返し実行される。
最初に、ステップS101において、算出部80aが、被測ガス中のSOx濃度の検出要求が有るか否かを判定する。SOx濃度の検出要求は、例えば、燃料タンク33に燃料が補給されたときに発生し、SOx濃度が一回又は複数回算出されたときに消滅する。また、SOx濃度の検出要求は、イグニッションキーがオンにされたときに発生し、SOx濃度が一回又は複数回算出されたときに消滅してもよい。ステップS101において被測ガス中のSOx濃度の検出要求が有ると判定された場合、本制御ルーチンはステップS102に進む。
ステップS102では、算出部80aが、SOx濃度の検出条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、例えば、内燃機関の運転状態がアイドル運転状態又は定常運転状態であり且つ素子部10が活性状態にある場合には、SOx濃度の検出条件が成立していると判定される。一方、内燃機関の運転状態がアイドル運転状態又は定常運転状態でない場合、或いは素子部10が活性状態にない場合には、SOx濃度の検出条件が成立していないと判定される。ステップS102において、SOx濃度の検出条件が成立していると判定された場合、本制御ルーチンはステップS103に進む。
ステップS103では、算出部80aが、脱離完了フラグがオンであるか否かを判定する。脱離完了フラグは、イグニッションキーがオフにされたときにオフに設定される。また、脱離完了フラグは、SOx濃度が算出されたときにもオフに設定される。一方、脱離完了フラグは、第一電気化学セル51への印加電圧が0.45V未満の電圧(例えば0.3V)に設定されてからの経過時間が脱離時間以上になったときにオンに設定される。脱離時間は、昇圧制御によって第一電極41に吸着した分解生成物を第一電極41から脱離するのに十分な時間とされる。このため、脱離完了フラグがオフであるときには第一電極41にSOxの分解生成物が吸着していると推定され、脱離完了フラグがオンであるときには第一電極41にSOxの分解生成物が吸着していないと推定される。
ステップS103において、脱離完了フラグがオンであると判定された場合、本制御ルーチンはステップS104に進む。ステップS104では、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51に印加される電極間電圧を、水及び硫黄酸化物の分解開始電圧未満の第一電圧から水及び硫黄酸化物の分解開始電圧以上の第二電圧に上昇させる昇圧制御を実行する。例えば、第一電圧は0.3Vであり、第二電圧は1.1Vである。また、電圧制御部80bは、0.008Hz以上10Hz以下の周波数を有する正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行する。ステップS104において昇圧制御が実行されている間、電流検出回路62は第一電気化学セル51の電極間電流を検出する。
次いで、ステップS105では、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51に印加される電極間電圧を第二電圧から第一電圧に低下させる降圧制御を実行する。電圧制御部80bは降圧制御における電圧波形の周波数を昇圧制御における電圧波形の周波数以上に設定する。なお、降圧制御における電圧波形はステップ状であってもよい。また、ステップS104における昇圧制御及びステップS105における降圧制御は、第一電気化学セル51に印加される電極間電圧を第一電圧から第二電圧に上昇させ且つ第二電圧から第一電圧に低下させる電圧制御として、同一のステップにおいて電圧制御部80bによって実行されてもよい。このときの電圧波形も、0.008Hz以上10Hz以下の周波数を有する正弦波に設定される。
次いで、ステップS106では、算出部80aが、昇圧制御が実行されたときに電流検出回路62によって検出された電極間電流を取得する。電極間電流の取得値は、例えば、昇圧制御中に検出された電極間電流の最大値である。なお、電極間電流の取得値は、電極間電圧が第二電圧又は第二電圧近傍の値に到達したときに検出された電極間電流であってもよい。また、電極間電流の取得値は、昇圧制御及び降圧制御中に検出された電極間電流の最大値であってもよい。
次いで、ステップS107では、算出部80aが、ステップS106において取得した電極間電流に基づいてSOx濃度を算出する。具体的には、算出部80aは、電極間電流とSOx濃度との関係を示すマップを用いてSOx濃度を算出する。このマップは、例えば図5に示したようなマップである。このマップでは、SOx濃度は、電極間電流が小さくなるほど高くなるものとして示される。したがって、本実施形態では、算出部80aは、昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流が相対的に小さい場合には、昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流が相対的に大きい場合よりもSOx濃度を高く算出する。
しかしながら、被測ガス中のSOx濃度が所定値以上の場合、検出される電極間電流はほぼゼロに収束する。このため、ステップS106において取得された電極間電流が下限電流値以下の場合、SOx濃度は検出限界上限値として算出される。下限電流値は、例えば、測定バラツキ等を考慮して、ゼロよりも僅かに高い値に設定される。検出限界上限値は例えば1000ppmに設定される。
次いで、ステップS108では、算出部80aが脱離完了フラグをオフに設定する。次いで、ステップS109では、第一電極41に吸着したSOxの分解生成物を第一電極41から脱離させるべく、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51への印加電圧を、0.45V未満の電圧、例えば0.3Vに設定し又は維持する。なお、ステップS109において第一電気化学セル51への印加電圧をゼロにしてもよい。ステップS109の後、本制御ルーチンは終了する。
また、ステップS101においてSOx濃度の検出要求が無いと判定された場合、ステップS102においてSOx濃度の検出条件が成立していないと判定された場合、又はステップS103において脱離完了フラグがオフであると判定された場合には、本制御ルーチンはステップS109に進む。ステップS109では、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51への印加電圧を0.3Vに設定する。ステップS109の後、本制御ルーチンは終了する。
なお、ステップS104において、電圧制御部80bは、0.05秒以上60秒以下の時定数を有する矩形波の電圧波形で昇圧制御を実行してもよい。この場合、電圧制御部80bは降圧制御における電圧波形の時定数を昇圧制御における電圧波形の時定数以下に設定する。また、好ましくは、ステップS104において、電圧制御部80bは、0.05Hz以上5Hz以下の周波数を有する正弦波又は0.1秒以上10秒以下の時定数を有する矩形波の電圧波形で昇圧制御を実行する。より好ましくは、電圧制御部80bは、0.1Hz以上1Hz以下の周波数を有する正弦波又は0.5秒以上5秒以下の時定数を有する矩形波の電圧波形で昇圧制御を実行する。上記のような電圧波形で昇圧制御を実行することによって、SOx濃度の検出精度を確保しつつ、SOx濃度の検出時間を更に短縮することができる。
また、ステップS105の降圧制御は省略されてもよい。また、ステップS104〜ステップS106が複数回繰り返され、ステップS106において取得された複数の電極間電流の平均値に基づいて、ステップS107においてSOx濃度が算出されてもよい。
<第二実施形態>
第二実施形態に係るSOx検出装置の構成及び制御は、以下に説明する点を除いて、基本的に第一実施形態に係るSOx検出装置1の構成及び制御と同様である。このため、以下、本発明の第二実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
図13(A)は、本発明の第二実施形態に係るSOx検出装置の素子部10aの構成を示す概略的な断面図である。図13(B)は、図13(A)の線A−Aに沿った断面図である。第二実施形態に係るSOx検出装置は素子部10aを備える。素子部10aは、第一電気化学セル51に加えて第二電気化学セル52を備える点を除いて、第一実施形態における素子部10と同様の構成を有する。図13(A)及び図13(B)からわかるように、第二電気化学セル52は、拡散律速層16からの距離が、第一電気化学セル51と等しくなるように、第一電気化学セル51と並んで配置される。
素子部10aは、第三電極43及び第四電極44を更に備える。第三電極43は、第一固体電解質層11の被測ガス室30側の表面上に配置されている。したがって、第三電極43は、被測ガス室30内の被測ガスに曝されている。第三電極43は第一電極41と同じ表面積を有する。また、第三電極43は、拡散律速層16からの距離が第一電極41と等しくなるように、第一電極41と並んで配置される。一方、第四電極44は、第一固体電解質層11の第一大気室31側の表面上に配置されている。したがって、第四電極44は、第一大気室31内のガス(大気)に曝されている。第四電極44は第二電極42と同じ表面積を有する。また、第四電極44は、拡散律速層16からの距離が第二電極42と等しくなるように、第二電極42と並んで配置される。第三電極43と第四電極44とは、第一固体電解質層11を挟んで互いに対向するように配置されている。第三電極43、第一固体電解質層11及び第四電極44は、第二電気化学セル52を構成する。
本実施形態では、第三電極43を構成する材料は、白金(Pt)、金(Au)、鉛(Pb)、銀(Ag)等の金属元素又はこれらの合金を主成分として含む。好ましくは、第三電極43は、白金(Pt)、金(Au)、鉛(Pb)、銀(Ag)の少なくとも一つを主成分として含む多孔質サーメット電極である。また、第四電極44は、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。なお、第三電極43を構成する材料は、必ずしも上記材料に限定されるものではなく、第一電極41と比較して、SOxの分解速度が低くなるように電極が構成されれば、いかなる材料であってもよい。特に、本実施形態では、第三電極43を構成する材料は、第三電極43においてSOxが分解される速度が実質的に0となるような材料であることが好ましい。また、第四電極44を構成する材料は、必ずしも上記材料に限定されるものではなく、第三電極43と第四電極44との間に所定の電圧を印加したときに、第三電極43と第四電極44との間で酸化物イオンを移動させることができれば、いかなる材料であってもよい。
なお、図13に示した例では、第二電気化学セル52は、第一固体電解質層11を第一電気化学セル51と共有している。しかしながら、第二電気化学セル52は、第一電気化学セル51を構成する第一固体電解質層11とは別の固体電解質層を備えてもよい。
第三電極43及び第四電極44は電圧印加回路61に接続されている。電圧印加回路61は、第四電極44の電位が第三電極43の電位よりも高くなるように、第三電極43と第四電極44との間に電極間電圧を印加する。印加される電極間電圧はECU80の電圧制御部80bによって制御される。
電流検出回路62は、第三電極43と第四電極44との間に流れる電極間電流(すなわち、第一固体電解質層11内を流れる電極間電流)を検出する。電流検出回路62の出力はAD変換器87を介してECU80の算出部80aに入力される。したがって、算出部80aは、第二電気化学セル52の電極間電流を電流検出回路62から取得することができる。
<第二電気化学セルの機能>
第一電気化学セル51では、上述したように、第一電極41と第二電極42との間にSOx及び水の分解開始電圧以上の所定電圧を印加することで、第一電極41上で水及びSOxを分解させると共に水の分解に伴う電極間電流を検出している。このため、被測ガス中のSOx濃度が同じであっても、被測ガス中の水濃度が異なる場合には、第一電気化学セル51から異なる電極間電流が検出される。具体的には、被測ガス中の水濃度が高くなると、第一電極41上で分解される水の量が増えるため、電極間電流が大きくなる。一方、被測ガス中の水濃度が低くなると、第一電極41上で分解される水の量が減るため、電極間電流は小さくなる。したがって、被測ガス中の水濃度が安定していない場合、電極間電流が変動し、被測ガス中のSOx濃度の検出精度が低下する。そこで、第二実施形態では、以下に説明するように、第二電気化学セル52を用いて被測ガス中の水濃度の変動によるSOx濃度の検出精度の低下を抑制する。
上述したように、第二電気化学セル52では、第一電気化学セル51と同一の印加電圧が印加されても、被測ガス中に含まれるSOxを分解する速度が第一電気化学セル51よりも極めて遅い。具体的には、第三電極43においてSOxが分解される速度は、第一電極41においてSOxが分解される速度よりも極めて遅く、実質的には0である。したがって、被測ガス中に含まれるSOxの分解生成物が電極に吸着する速度も第三電極43の方が第一電極41よりも低い。具体的には、第三電極43には、SOxの分解生成物は実質的に吸着しない。したがって、第一電極41における水の分解に対する活性の低下速度よりも、第三電極43における水の分解に対する活性の低下速度の方が小さい。具体的には、第三電極43における水の分解に対する活性は実質的に低下しない。この結果、第二電気化学セル52における電極間電流は、SOxの分解に起因する影響を受けない。
このため、第二電気化学セル52の電極間電流は被測ガス中のSOx濃度に応じてほとんど変化しない。一方、第二電気化学セル52の電極間電流は被測ガス中の水濃度に応じて第一電気化学セル51と同様に変化する。したがって、第一電気化学セル51及び第二電気化学セル52に同一の電圧を印加し、第一電気化学セル51の電極間電流と第二電気化学セル52の電極間電流との差を算出することによって、SOxの分解によって減少する水の分解電流の変化量を抽出することができる。このことによって、被測ガス中の水濃度の変動によるSOx濃度の検出精度の低下を抑制することができる。
<SOx濃度を検出するための制御>
第二実施形態では、ECU80の電圧制御部80bは、SOx濃度を検出するとき、第一電気化学セル51と同一の電圧を第二電気化学セル52にも印加する。具体的には、電圧制御部80bは、第一電気化学セル51及び第二電気化学セル52の電極間電圧を水及びSOxの分解開始電圧未満の第一電圧から水及びSOxの分解開始電圧以上の第二電圧に上昇させる昇圧制御を実行する。また、ECU80の算出部80aは、昇圧制御が実行されたときに電流検出回路62によって検出された第一電気化学セル51の電極間電流と第二電気化学セル52の電極間電流との差を算出し、この差に基づいて被測ガス中のSOx濃度を算出する。
第二実施形態では、図12に示したSOx濃度算出処理の制御ルーチンが以下のように変更される。第二実施形態では、ステップS104の昇圧制御及びステップS105の降圧制御において、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51に加えて、第二電気化学セル52にも第一電気化学セル51と同一の電圧を印加する。ステップS104において昇圧制御が実行されている間、電流検出回路62は第一電気化学セル51及び第二電気化学セル52の電極間電流を検出する。
ステップS106では、算出部80aが、昇圧制御が実行されたときに電流検出回路62によって検出された電極間電流を取得する。このときに取得される電極間電流の値は、例えば、昇圧制御中に検出された第一電気化学セル51の電極間電流の最大値と第二電気化学セル52の電極間電流の最大値とである。
ステップS107では、算出部80aが、ステップS106において取得した第一電気化学セル51の電極間電流と第二電気化学セル52の電極間電流との差に基づいてSOx濃度を算出する。具体的には、算出部80aは、電極間電流の差とSOx濃度との関係を示すマップを用いてSOx濃度を算出する。このマップでは、SOx濃度は、電極間電流の差が大きいほど高くなるものとして示される。したがって、本実施形態では、算出部80aは、昇圧制御中に検出された第一電気化学セル51の電極間電流と第二電気化学セル52の電極間電流との差が相対的に大きい場合には、この差が相対的に小さい場合よりもSOx濃度を高く算出する。
ステップS109では、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51及び第二電気化学セル52への印加電圧を、0.45V未満の電圧、例えば0.3Vに設定する。
<第三実施形態>
第三実施形態に係るSOx検出装置の構成及び制御は、以下に説明する点を除いて、基本的に第一実施形態に係るSOx検出装置1の構成及び制御と同様である。このため、以下、本発明の第三実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
図14は、本発明の第三実施形態に係るSOx検出装置の素子部10bの構成を示す概略的な断面図である。第三実施形態に係るSOx検出装置は素子部10bを備える。素子部10bは、第一電気化学セル51に加えて第三電気化学セル53を備える点を除いて、第一実施形態における素子部10と同様の構成を有する。
図14に示されるように、素子部10bは、複数の層を積層して構成されている。具体的には、素子部10bは、第一固体電解質層11、第二固体電解質層12、拡散律速層16、第一不透過層21、第二不透過層22、第三不透過層23、第四不透過層24、第五不透過層25及び第六不透過層26を備える。
第二固体電解質層12は第一固体電解質層11と同様の構成を有する。第六不透過層26は第一不透過層21〜第五不透過層25と同様の構成を有する。素子部10bの各層は、図14の下方から、第一不透過層21、第二不透過層22、第三不透過層23、第一固体電解質層11、拡散律速層16及び第四不透過層24、第二固体電解質層12、第五不透過層25、第六不透過層26の順に積層されている。
第一固体電解質層11、第二固体電解質層12、拡散律速層16及び第四不透過層24によって、被測ガス室30が区画形成されている。なお、被測ガス室30は、第一固体電解質層11及び第二固体電解質層12に隣接し且つ被測ガスが流入するように構成されていれば、如何なる態様で構成されてもよい。
第二固体電解質層12、第五不透過層25及び第六不透過層26によって、第二大気室32が区画形成されている。図14からわかるように第二大気室32は、第二固体電解質層12を挟んで、被測ガス室30の反対側に配置されている。第二大気室32は、排気通路の外部の大気に開放されている。したがって、第二大気室32にも、大気ガスが流入する。なお、第二大気室32は、第二固体電解質層12に隣接し且つ大気が流入するように構成されていれば、如何なる態様で構成されてもよい。
素子部10bは第五電極45及び第六電極46を更に備える。第五電極45は第二固体電解質層12の被測ガス室30側の表面上に配置されている。したがって、第五電極45は、被測ガス室30内の被測ガスに曝されている。また、第五電極45は、被測ガス室30内において、第一電極41よりも拡散律速層16側に配置される。したがって、拡散律速層16を介して被測ガス室30内に流入した被測ガスは、最初に第五電極45周りを流通し、その後、第一電極41周りを流通することになる。一方、第六電極46は第二固体電解質層12の第二大気室32側の表面上に配置されている。したがって、第六電極46は、第二大気室32内のガス(大気)に曝されている。第五電極45と第六電極46とは、第二固体電解質層12を挟んで互いに対向するように配置されている。第五電極45、第二固体電解質層12及び第六電極46は、第三電気化学セル53を構成する。
第五電極45及び第六電極46は、白金(Pt)を主成分として含む多孔質サーメット電極である。しかしながら、第五電極45を構成する材料は、必ずしも上記材料に限定されるものではなく、第五電極45と第六電極46との間に所定の電圧を印加したときに、被測ガス室30内の被測ガス中に含まれる酸素を還元分解することができれば、いかなる材料であってもよい。また、第六電極46を構成する材料も、必ずしも上記材料に限定されるものではなく、第五電極45と第六電極46との間に所定の電圧を印加したときに、第五電極45と第六電極46との間で酸化物イオンを移動させることができれば、いかなる材料であってもよい。
なお、上記実施形態では、第三電気化学セル53は、第一電気化学セル51を構成する第一固体電解質層11とは異なる第二固体電解質層12を含んで構成されている。しかしながら、第一固体電解質層と第二固体電解質層とは同一の固体電解質層であってもよい。すなわち、図14の第一固体電解質層11が第二固体電解質層としても機能し、よって第三電気化学セル53が第一固体電解質層11を含んで構成されてもよい。この場合、第五電極45は第一固体電解質層11の被測ガス室30側の表面上に配置され、第六電極46は第一固体電解質層11の第一大気室31側の表面上に配置される。
第五電極45及び第六電極46は電圧印加回路61に接続されている。電圧印加回路61は、第六電極46の電位が第五電極45の電位よりも高くなるように、第五電極45と第六電極46との間に電極間電圧を印加する。印加される電極間電圧はECU80の電圧制御部80bによって制御される。
電流検出回路62は、第五電極45と第六電極46との間に流れる電極間電流(すなわち、第二固体電解質層12内を流れる電極間電流)を検出する。電流検出回路62の出力はAD変換器87を介してECU80の算出部80aに入力される。したがって、算出部80aは、第三電気化学セル53の電極間電流を電流検出回路62から取得することができる。
<第三電気化学セルの機能>
第一電気化学セル51では、上述したように、第一電極41と第二電極42との間にSOx及び水の分解開始電圧以上の所定電圧を印加することで、第一電極41上で水及びSOxを分解させると共に水の分解に伴う電極間電流を検出している。しかしながら、第一電気化学セル51に到達する被測ガス中に酸素が含まれている場合には、第一電極41上で酸素の分解(イオン化)が生じると共に、これによって生じた酸化物イオンが第一電極41から第二電極42へと流れることになる。このように、酸素の分解に伴って第一電極41と第二電極42との間に分解電流が流れてしまうと、電極間電流に基づいてSOxの濃度を正確に検出することが困難になる。
ここで、酸素の限界電流領域内の電圧を第三電気化学セル53に印加すると、第三電気化学セル53により伝導可能な酸化物イオンの伝導速度が、拡散律速層16を介して被測ガス室30内に導入される酸素の導入速度よりも速くなる。したがって、酸素の限界電流領域内の電圧が第三電気化学セル53に印加されていると、拡散律速層16を介して被測ガス室30内に流入した被測ガス中に含まれる酸素のほとんどを除去することができる。
そこで、第三実施形態では、第一電気化学セル51によって被測ガス中のSOx濃度を検出するときに、第一電気化学セル51よりも拡散律速層16側に配置された第三電気化学セル53に酸素の限界電流領域内の電圧を印加する。酸素の限界電流領域は、印加電圧をそれ以上上昇させても電極間電流がほとんど変化しない下限電圧(例えば、0.1V)以上の領域である。また、第三電気化学セル53への印加電圧は、SOx及び水の分解開始電圧(約0.6V)未満の電圧とされる。このことによって、第三電気化学セル53において、水及びSOxを分解することなく、酸素を分解して除去することができる。したがって、第三電気化学セル53は、被測ガス室30内から水及びSOxを排出することなく酸素を排出するポンプセルとして機能する。このことによって、被測ガスが第一電気化学セル51に到達する前に被測ガス中の酸素が第三電気化学セル53において除去されるため、第一電気化学セル51におけるSOx濃度の検出精度を更に向上させることができる。
<SOx濃度を検出するための制御>
第三実施形態では、ECU80の電圧制御部80bは、SOx濃度を検出するとき、第一電気化学セル51に加えて第三電気化学セル53にも電圧を印加する。具体的には、電圧制御部80bは、少なくとも昇圧制御の間、0.1V以上0.6V未満の電圧、例えば0.4Vの電圧を第三電気化学セル53に印加する。
第三実施形態では、図12のSOx濃度算出処理の制御ルーチンが以下のように変更される。ステップS104において、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51に加えて第三電気化学セル53に電圧を印加する。電圧制御部80bは、第三電気化学セル53への印加電圧を、0.1V以上0.6V未満の電圧、例えば0.4Vに設定する。また、ステップS109において、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51への印加電圧を0.3Vに設定し、第三電気化学セル53への印加電圧をゼロに設定する。なお、第三電気化学セル53への印加電圧は0.4Vに設定されたままであってもよい。
また、上述したように、第三電気化学セル53に酸素の限界電流領域の下限電圧以上の電圧を印加することにより、被測ガスに含まれる酸素が第五電極45において分解され、この分解によって生成された酸化物イオンが被測ガス室30から第二大気室32へと排出される。このとき、第五電極45と第六電極46との間に流れる電極間電流を電流検出回路62によって検出することにより、被測ガス中の酸素濃度を検出することができる。したがって、第三電気化学セル53は、排気空燃比を検出する空燃比センサとして用いられてもよい。
<第四実施形態>
第四実施形態に係るSOx検出装置の構成及び制御は、以下に説明する点を除いて、基本的に第一実施形態に係るSOx検出装置1の構成及び制御と同様である。このため、以下、本発明の第四実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
図15(A)は、本発明の第四実施形態に係るSOx検出装置の素子部10cの構成を示す概略的な断面図である。図15(B)は、図15(A)の線B−Bに沿った断面図である。第四実施形態に係るSOx検出装置は素子部10cを備える。素子部10cは、第一電気化学セル51及び第三電気化学セル53に加えて第二電気化学セル52を備える点を除いて、第三実施形態における素子部10bと同様の構成を有する。また、素子部10cの第二電気化学セル52は、図13に示される素子部10aの第二電気化学セル52と同様の構成を有する。このため、SOx検出装置についての詳細な説明は省略する。
<SOx濃度を検出するための制御>
第四実施形態では、ECU80の電圧制御部80bは、SOx濃度を検出するとき、第一電気化学セル51と同一の電圧を第二電気化学セル52にも印加する。具体的には、電圧制御部80bは、第一電気化学セル51及び第二電気化学セル52の電極間電圧を水及びSOxの分解開始電圧未満の第一電圧から水及びSOxの分解開始電圧以上の第二電圧に上昇させる昇圧制御を実行する。また、電圧制御部80bは、SOx濃度を検出するとき、第三電気化学セル53にも電圧を印加する。具体的には、電圧制御部80bは、少なくとも昇圧制御の間、0.1V以上0.6V未満の電圧、例えば0.4Vの電圧を第三電気化学セル53に印加する。また、ECU80の算出部80aは、昇圧制御が実行されたときに電流検出回路62によって検出された第一電気化学セル51の電極間電流と第二電気化学セル52の電極間電流との差を算出し、この差に基づいて被測ガス中のSOx濃度を算出する。
第四実施形態では、図12のSOx濃度算出処理の制御ルーチンが以下のように変更される。第四実施形態では、ステップS104の昇圧制御及びステップS105の降圧制御において、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51に加えて、第二電気化学セル52にも第一電気化学セル51と同一の電圧を印加する。ステップS104において昇圧制御が実行されている間、電流検出回路62は第一電気化学セル51及び第二電気化学セル52の電極間電流を検出する。また、ステップS104において、電圧制御部80bが第三電気化学セル53に電圧を印加する。電圧制御部80bは、第三電気化学セル53への印加電圧を、0.1V以上0.6V未満の電圧、例えば0.4Vに設定する。
ステップS106では、算出部80aが、昇圧制御が実行されたときに電流検出回路62によって検出された電極間電流を取得する。このときに取得される電極間電流の値は、例えば、昇圧制御中に検出された第一電気化学セル51の電極間電流の最大値と第二電気化学セル52の電極間電流の最大値とである。
ステップS107では、算出部80aが、ステップS106において取得した第一電気化学セル51の電極間電流と第二電気化学セル52の電極間電流との差に基づいてSOx濃度を算出する。具体的には、算出部80aは、電極間電流の差とSOx濃度との関係を示すマップを用いてSOx濃度を算出する。このマップでは、SOx濃度は、電極間電流の差が大きいほど高くなるものとして示される。したがって、本実施形態では、算出部80aは、昇圧制御中に検出された第一電気化学セル51の電極間電流と第二電気化学セル52の電極間電流との差が相対的に大きい場合には、この差が相対的に小さい場合よりもSOx濃度を高く算出する。
ステップS109において、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51及び第二電気化学セル52への印加電圧を、0.45V未満の電圧、例えば0.3Vに設定する。また、電圧制御部80bは、第三電気化学セル53への印加電圧をゼロに設定する。なお、第三電気化学セル53への印加電圧は0.4Vに設定されたままであってもよい。
第四実施形態では、上述した方法でSOx濃度を算出することによって、被測ガスが第一電気化学セル51に到達する前に被測ガス中の酸素が第三電気化学セル53において除去されると共に、水の分解によって発生する電極間電流の影響が低減されるため、第一電気化学セル51におけるSOx濃度の検出精度を更に向上させることができる。
<第五実施形態>
第五実施形態に係るSOx検出装置の構成及び制御は、以下に説明する点を除いて、基本的に第一実施形態に係るSOx検出装置1の構成及び制御と同様である。このため、以下、本発明の第五実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
図16は、第一電気化学セル51の電極間に流れる電極間電流と、被測ガス中のSOx濃度との関係を示す図である。図16における実線は、低周波数(1Hz)を有する正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行した場合の電極間電流とSOx濃度との関係を示している。一方、図16における破線は、高周波数(10Hz)を有する正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行した場合の電極間電流とSOx濃度との関係を示している。
図16からわかるように、SOx濃度が所定値(図16の例では100ppm)以上の領域では、SOx濃度に対する電極間電流の傾きは、低周波数の正弦波よりも高周波数の正弦波が印加されたときに大きくなる。したがって、この領域では、高周波数の正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行することによって、SOx濃度の検出精度を高めることができる。一方、SOx濃度が所定値(図16の例では100ppm)未満の領域では、SOx濃度に対する電極間電流の傾きは、高周波数の正弦波よりも低周波数の正弦波が印加されたときに大きくなる。したがって、この領域では、低周波数の正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行することによって、SOx濃度の検出精度を高めることができる。また、SOx濃度の検出時間を短縮するには、昇圧制御における電圧波形の周波数をできるだけ高くすることが望ましい。
<SOx濃度を検出するための制御>
そこで、第五実施形態では、ECU80の電圧制御部80bは、SOx濃度を検出するとき、最初に、第一周波数を有する第一正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行する。第一周波数は、0.008Hz以上10Hz以下の周波数であり、例えば10Hzである。電圧制御部80bは、昇圧制御を実行し、昇圧制御を実行したときに電流検出回路62によって検出された電極間電流を取得する。電圧制御部80bは、電圧波形が第一正弦波に設定されているときに検出された電極間電流が基準電流値よりも大きい場合には、第二周波数を有する第二正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行する。第二周波数は、0.008Hz以上10Hz以下であり且つ第一周波数よりも低い周波数であり、例えば1Hzである。なお、第五実施形態では、図2に示されたAD変換器87は算出部80a及び電圧制御部80bに接続される。このため、電流検出回路62の出力はAD変換器87を介して算出部80a及び電圧制御部80bに入力される。
基準電流値は、例えば、被測ガス中のSOx濃度が100ppmである場合に第一正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行したときに検出される電極間電流の値である。したがって、第一正弦波の電圧波形で昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流が基準電流値よりも大きい場合には、被測ガス中のSOx濃度が100ppmよりも低いと推定される。この場合、電圧制御部80bは、SOx濃度の検出精度を高めるために、第二正弦波の電圧波形で昇圧制御を実行する。ECU80の算出部80aは、第二正弦波の電圧波形で昇圧制御が実行されたときに電流検出回路62によって検出された電極間電流を取得する。算出部80aは、第二正弦波の電圧波形で昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流に基づいて被測ガス中のSOx濃度を算出する。この結果、被測ガス中のSOx濃度が低濃度である場合に、SOx濃度の検出精度を高めることができる。なお、電圧波形の周波数の切替は、例えば、ECU80から出力される電圧制御信号の周波数を切り替えることによって行われる。
一方、算出部80aは、第一正弦波の電圧波形で昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流が基準電流値以下である場合には、第一正弦波の電圧波形で昇圧制御が実行されたときに検出された電極間電流に基づいて被測ガス中のSOx濃度を算出する。このことによって、被測ガス中のSOx濃度が高濃度である場合に、SOx濃度の検出精度を確保しつつSOx濃度の検出時間を短縮することができる。
第五実施形態では、SOx濃度算出処理の制御ルーチンとして、図12に示した制御ルーチンの代わりに図17に示した制御ルーチンが実行される。図17は、本発明の第五実施形態におけるSOx濃度算出処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンはECU80によって所定の時間間隔で繰り返し実行される。図17におけるステップS201〜ステップS205は、図12におけるステップS101〜ステップS105と同様であることから説明を省略する。
図17に示した制御ルーチンでは、ステップS206において、算出部80a及び電圧制御部80bが、昇圧制御が実行されたときに電流検出回路62によって検出された電極間電流を取得する。次いで、ステップS207において、電圧制御部80bが、昇圧制御における電圧波形の周波数が第一周波数F1であったか否かを判定する。第一周波数F1は例えば10Hzである。昇圧制御における電圧波形の周波数は、イグニッションキーがオフにされたときには第一周波数F1に設定される。ステップS207において、昇圧制御における電圧波形の周波数が第一周波数F1であったと判定された場合、本制御ルーチンはステップS208へと進む。
ステップS208では、電圧制御部80bが、ステップS206において取得した電極間電流が基準電流値よりも大きいか否かを判定する。基準電流値は、例えば、昇圧制御における電圧波形の周波数が第一周波数F1に設定され且つ被測ガス中のSOx濃度が100ppmである場合に電流検出回路62によって検出される電極間電流の値である。ステップS208において、電極間電流が基準電流値以下であると判定された場合、すなわち被測ガス中のSOx濃度が所定値(100ppm)以上であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS209へと進む。
ステップS209では、図12におけるステップS107と同様に、算出部80aが、ステップS206において取得した電極間電流に基づいてSOx濃度を算出する。この結果、被測ガス中のSOx濃度が高濃度(例えば100ppm以上)である場合に、SOx濃度の検出精度を確保しつつSOx濃度の検出時間を短縮することができる。
次いで、ステップS210では、算出部80aが脱離完了フラグをオフに設定する。次いで、ステップS211では、電圧制御部80bが、第一電気化学セル51への印加電圧を0.3Vに設定する。ステップS211の後、本制御ルーチンは終了する。
一方、ステップS208において、電極間電流が基準電流値よりも大きいと判定された場合、すなわち被測ガス中のSOx濃度が所定値(100ppm)よりも小さいと判定された場合、本制御ルーチンはステップS212へと進む。この場合、SOx濃度の検出精度を高めるべく、ステップS212では、電圧制御部80bが、昇圧制御における電圧波形の周波数を第二周波数F2に設定する。したがって、昇圧制御における電圧波形の周波数は第一周波数F1から第二周波数F2に切り替えられる。第二周波数F2は、第一周波数F1よりも低い周波数であり、例えば1Hzである。また、ステップS212では、算出部80aが脱離完了フラグをオフに設定する。次いで、ステップS211では、電圧制御部80bが第一電気化学セル51への印加電圧を0.3Vに設定する。ステップS211の後、本制御ルーチンは終了する。
その後、ステップS204において昇圧制御が実行されるとき、昇圧制御における電圧波形の周波数は第二周波数F2に設定されている。この場合、ステップS207において、昇圧制御における電圧波形の周波数が第二周波数F2であったと判定され、本制御ルーチンはステップS213に進む。ステップS213では、電圧制御部80bが、昇圧制御における電圧波形の周波数を第一周波数F1に設定する。したがって、昇圧制御における電圧波形の周波数は第二周波数F2から第一周波数F1に切り替えられる。
次いで、ステップS209では、算出部80aが、ステップS206において取得した電極間電流に基づいてSOx濃度を算出する。この結果、被測ガス中のSOx濃度が低濃度(例えば100ppm未満)である場合に、SOx濃度の検出精度を高めることができる。
次いで、ステップS210では、算出部80aが脱離完了フラグをオフに設定する。次いで、ステップS211では、電圧制御部80bが第一電気化学セル51への印加電圧を0.3Vに設定する。ステップS211の後、本制御ルーチンは終了する。
なお、ステップS205の降圧制御は省略されてもよい。また、ステップS204〜ステップS206が複数回繰り返され、ステップS206において取得された複数の電極間電流の平均値に基づいて、ステップS209においてSOx濃度が算出されてもよい。
また、ステップS204において、電圧制御部80bは、第一時定数を有する第一矩形波の電圧波形で昇圧制御を実行してもよい。第一時定数は、0.05秒以上60秒以下の時定数であり、例えば0.05秒である。この場合、制御ルーチンの他のステップは以下のように変更される。ステップS207において、電圧制御部80bが、昇圧制御における電圧波形の時定数が第一時定数であったか否かを判定する。また、ステップS212において、電圧制御部80bが、昇圧制御における電圧波形の時定数を第二時定数に設定する。したがって、昇圧制御における電圧波形の時定数は第一時定数から第二時定数に切り替えられる。第二時定数は、0.05秒以上60秒以下であり且つ第一時定数よりも長い時定数であり、例えば0.5秒である。また、ステップS213では、電圧制御部80bが、昇圧制御における電圧波形の時定数を第一時定数に設定する。したがって、昇圧制御における電圧波形の周波数は第二時定数から第一時定数に切り替えられる。なお、電圧波形の時定数の切替は、例えば、異なるカットオフ周波数が設定された複数のLPFを電圧印加回路61に設け、ECU80から出力される電圧制御信号が通過するLPFを切り替えることによって行われる。
以上、本発明に係る好適な実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内で様々な修正及び変更を施すことができる。例えば、上述した実施形態は、任意に組み合わせて実施可能である。例えば、第五実施形態に係るSOx濃度検出装置は、第二実施形態〜第四実施形態における素子部10a〜10cのいずれか一つを備えていてもよい。