小型の機器で位置センサを使用するため、又は小スペースで位置センサを使用するために、位置センサの小型化のニーズがある。特許文献1に開示された位置センサは、位置検出が可能な範囲が拡大しているものの、永久磁石の他に補助磁石を配置することによって位置センサの大きさも拡大している。このため、位置検出が可能な範囲を広く保ちながら位置センサを小型化することはできない。
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、位置検出が可能な範囲を広く保ちながらも位置センサの大きさを小さくできる永久磁石、位置センサ、永久磁石の製造方法及び着磁装置を提供することにある。
本発明に係る永久磁石は、二極着磁された磁極面を有する永久磁石において、前記磁極面は非平面状であり、前記磁極面に、前記磁極面上の磁極の境界の位置で最も深く前記境界から離れるほど浅い窪みが、前記境界から両磁極側にわたって形成されており、前記磁極面上の磁束密度の大きさが最大になる磁束密度最大部が、夫々の磁極側に、同一の仮想平面に含まれる直線状に分布しており、前記窪みは、各磁極側の前記磁束密度最大部の間に形成されており、前記磁極面は、前記磁束密度最大部よりも前記境界から遠い側に、前記仮想平面との間の間隙が前記境界から遠いほど広がるように前記仮想平面に対して傾斜した傾斜部を含んでいることを特徴とする。
本発明に係る永久磁石は、前記磁極面上の磁極の境界は、直線状であり、前記窪みは、前記磁極面上の直線状の前記境界に直交する平面内で、一定の曲率半径を保つように形成されていることを特徴とする。
本発明に係る永久磁石は、前記傾斜部が前記仮想平面に対して傾斜した傾きは30°以上50°以下であることを特徴とする。
本発明に係る永久磁石は、前記仮想平面からの前記窪みの最大の深さは、0.3mm以上0.5mm以下であることを特徴とする。
本発明に係る永久磁石は、両磁極側の直線状の前記磁束密度最大部に交差する方向の長さは、両磁極側の前記磁束密度最大部の間の長さの二倍以下であることを特徴とする。
本発明に係る位置センサは、本発明に係る永久磁石と、該永久磁石の磁極面に対向して配置されてあり、非接触で相対的に移動することが可能な磁気検出素子と、該磁気検出素子による磁気検出の結果に基づいて、前記永久磁石に対する前記磁気検出素子の相対位置を検出する手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る永久磁石の製造方法は、本発明に係る永久磁石を製造する方法であって、等方性の磁性体を前記永久磁石の形状に形成した磁石素体を作成し、断面が三角形の第1電線を、三角形の一辺が前記磁石素体の表面の窪みに対向するようにして配置し、断面が三角形の第2電線を、前記表面の前記窪みから離れた部分に三角形の一辺が対向するようにして、前記第1電線の両脇に並行して配置し、前記第1電線及び前記第2電線に互いに逆方向の電流を流すことを特徴とする。
本発明に係る着磁装置は、本発明に係る永久磁石を製造するために磁石素体に着磁する装置であって、断面が三角形になっており、三角形の一辺を同一方向に向けた状態で並列に配置された三本の電線と、該三本の電線に電流を供給する手段とを備え、前記三本の電線は、中央に配置された電線と他の二本の電線とで逆方向の電流が流れるように結線されていることを特徴とする。
本発明においては、位置センサに用いられる永久磁石は、二極着磁された非平面状の磁極面に、磁極の境界の位置で最も深く境界から離れるほど浅くなる窪みが、両磁極側に亘って形成されている。磁極面に対向した位置と磁極面との間のギャップによって、磁極面に対向した位置での磁束密度の大きさが磁極の境界に直交する方向の位置の変化に応じてほぼ直線的に変化する範囲が広がる。磁束密度の大きさが直線的に変化する範囲は、位置センサで位置検出が可能な範囲である。
本発明においては、永久磁石の磁極面の夫々の磁極側には、磁束密度の大きさが最大になる磁束密度最大部が、同一の仮想平面に含まれる直線状に分布している。また、窪みは、各磁極側の磁束密度最大部の間に形成されている。これにより、磁極面に対向した位置での磁束密度の大きさは、両磁極側の磁束密度最大部の間を結ぶ直線に平行な位置の変化に応じてほぼ直線的に変化する。
本発明においては、磁極面の窪みの形状は、磁極面上で直線状になっている磁極の境界に直交する平面内で、一定の曲率半径を有する。これにより、磁極面に対向した位置で、両磁極側の磁束密度最大部の間を結ぶ直線に平行に移動した場合の磁束密度の大きさの変化の直線性が向上する。
本発明においては、永久磁石の磁極面は、磁束密度最大部よりも磁極の境界から離れた部分では、両磁極側の磁束密度最大部を含む仮想平面との距離が広がるように傾斜した傾斜部になっている。これにより、磁束密度最大部の近傍で磁束密度が低下し、磁極面に対向した位置での磁束密度の大きさの変化の直線性が向上する。
本発明においては、傾斜部の傾きは、両磁極側の磁束密度最大部を含む仮想平面に対して30°以上50°以下である。これにより、磁極面に対向した位置での前記仮想平面に直交する方向の磁束密度の大きさの変化の直線性が適切になる。
本発明においては、磁極面の窪みの深さは、0.3mm以上0.5mm以下である。これにより、磁極面に対向した位置での磁束密度の大きさの変化の直線性が適切になる。
本発明においては、永久磁石の長さは、磁束密度最大部の間の距離の二倍以下である。磁極面に対向した位置での磁束密度の大きさが直線状に変化する範囲を長くしながらも、永久磁石全体の長さが短い。
本実施の形態においては、永久磁石は、補助磁石を必要とせずに位置センサでの位置検出が可能な範囲が広い。従って、位置検出が可能な範囲を広く保ちながらも位置センサを小型化することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る永久磁石1の斜視図であり、図2は、実施形態1に係る永久磁石1の正面図である。永久磁石1は、ブロック状の形状をなす二極の磁石である。永久磁石1は、底面16と、底面16の反対側に存在する非平面状の頂面部15とを有する。頂面部15は二極着磁された非平面状の磁極面である。この磁極面は、N極及びS極を含み、磁束が交差している面である。磁極の境界13は略平面状であり、頂面部15上では境界13は直線状になっている。底面16及び四つの側面は平面であり、頂面部15には凹凸が存在する。頂面部15上で境界13よりもS極側はS極部11であり、境界13よりもN極側はN極部12である。頂面部15上での直線状の境界13に平行な方向をz軸方向とする。z軸方向は底面16に対して平行であり、底面16に直交する方向をy軸方向とし、y軸方向及びz軸方向に直交する方向をx軸方向とする。x軸方向は境界13に直交する。
S極部11中には、底面16からの高さが最大になるピーク部111が存在している。同様に、N極部12中には、底面16からの高さが最大になるピーク部121が存在している。ピーク部111及び121は、共に頂面部15上での直線状の境界13に平行な(z軸方向の)直線状になっている。また、直線状のピーク部111及び121は、底面16に平行な同一の仮想平面に含まれている。直線状のピーク部111及び121を含む仮想平面をxz仮想平面17とする。xz仮想平面17は、略平面状の境界13に直交する。また、頂面部15上でのxz仮想平面17に直交する方向(y軸方向)の磁束密度の大きさは、位置に応じて異なっている。本実施形態では、本発明における磁束密度最大部は、S極部11及びN極部12の夫々においてy軸方向の磁束密度の大きさが最大になっている部分である。磁束密度最大部は、S極部11及びN極部12の夫々において直線状に分布している。S極部11中の磁束密度最大部の位置はピーク部111の位置に一致しており、N極部12中の磁束密度最大部の位置はピーク部121の位置に一致している。即ち、直線状のピーク部111及び121は、夫々に、本発明における磁束密度最大部に相当する。永久磁石1の形状は、z軸方向の並進対称性をほぼ有し、略平面状の境界13に対する鏡面対称性をほぼ有している。
頂面部15には、窪み14が形成されている。窪み14は、S極部11及びN極部12の両方にまたがって形成されており、境界13の位置で最も深く、境界13から離れるほど浅くなっている。窪み14の形状は、頂面部15上の直線状の境界13に直交するxy平面(x軸及びy軸を含む平面)内で曲率半径が一定になるようになっている。窪み14は、ピーク部111とピーク部121との間に形成されている。
S極部11中でピーク部111よりも境界13から遠い部分は、傾斜部112になっている。傾斜部112は、境界13から遠いほどxz仮想平面17との間の間隙が広がるように傾斜しており、このため、傾斜部112の底面16からの高さは、境界13から遠いほど低くなっている。傾斜部112のxz仮想平面17に対する傾きはほぼ一定である。同様に、N極部12中でピーク部121よりも境界13から遠い部分は、傾斜部122になっている。傾斜部122は、境界13から遠いほどxz仮想平面17との間の間隙が広がるように傾斜しており、このため、傾斜部122の底面16からの高さは、境界13から遠いほど低くなっている。傾斜部112のxz仮想平面17に対する傾きはほぼ一定である。
図2に示した永久磁石1のx軸方向の長さBは、ピーク部111及び121の間のx軸方向の長さAの二倍である。x軸方向は直線状のピーク部111及び121に交差する方向であるので、直線状のピーク部111及び121に交差する方向の永久磁石1の長さは、この方向のピーク部111及び121の間の長さの二倍である。例えば、A=3mmでありB=6mmである。また、xz仮想平面17から窪み14の底までの深さDは、典型的には0.3mm以上0.5mm以下である。窪み14の曲率半径Cは、C={(A/2)2 +D2 }/2Dで得られる値である。図2に示した傾斜部112及び122のxz仮想平面17に対する傾きθは、典型的には30°以上50°以下である。
図3は、永久磁石1内の各部分での磁束の向きを示す模式的断面図である。図3には、略平面状の境界13に直交する断面を示している。また図中には、磁束の向きを矢印で模式的に示しており、yz仮想平面(y軸及びz軸を含む仮想平面)を破線で示している。永久磁石1内の磁束は、両磁極間で非平行であり、xz仮想平面17に対して直交していない。境界13よりもS極側の部分では、各位置での磁束は、磁束の向かう先がピーク部111を通るyz仮想平面から離れるように、yz仮想平面に対して傾いている。また、境界13よりもN極側の部分では、各位置での磁束は、磁束の向かう先がピーク部121を通るyz仮想平面へ近づくように、yz仮想平面に対して傾いている。S極部11及びN極部12における磁束の向きのxz仮想平面17に対する角度φは、典型的には0より大きく15°以下である。なお、角度φは、全ての位置で同一である必要は無い。
図4は、本発明に係る位置センサの構成を模式的に示すブロック図である。永久磁石1の頂面部15に対向した位置に磁気検出素子2が配置されている。例えば、磁気検出素子2はホール素子である。磁気検出素子2は、ピーク部111及び121に交差する線に沿った方向(典型的にはx軸方向)に相対的に移動することが可能になっている。例えば、相対的に移動することが可能な二つの物体の一方に永久磁石1が固定され、他方に磁気検出素子2が固定されている。磁気検出素子2には、磁気検出素子2の位置でピーク部111及び121を含むxz仮想平面17に直交する方向(y軸方向)の磁束密度を測定する磁束密度測定部3が接続されている。磁束密度測定部3は、磁気検出素子2での磁気検出結果に基づいて磁束密度を測定する。例えば、磁束密度測定部3は、ホール素子である磁気検出素子2に電流を供給し、磁気検出素子2は、発生した電圧を示す電圧信号を出力し、磁束密度測定部3は、電圧信号が示す電圧に基づいてy軸方向の磁束密度を計算する。磁束密度測定部3には、磁束密度に基づいて永久磁石1に対する磁気検出素子2の相対位置を検出する位置検出処理部4が接続されている。例えば、位置検出処理部4は、y軸方向の磁束密度の値と磁気検出素子2の相対位置とを対応付けたデータを予め記憶しており、磁束密度測定部3が測定した磁束密度の値を入力され、入力された磁束密度に対応付けられた相対位置を求める処理を行う。なお、位置センサは、磁気検出素子2が出力する信号から直接に相対位置を求める形態であってもよい。
位置センサで高精度に位置検出を行うためには、磁気検出素子2の位置変化に応じて磁束密度の大きさが直線的に変化することが望ましい。永久磁石1の形状は、磁束密度の大きさが直線的に変化する範囲を可及的に広げるようにシミュレーションにより決定した。シミュレーションでは、コンピュータにより、磁石のモデルを作成し、発生する磁束密度を有限要素法により計算した。
まず、頂面部15上での磁束をxz仮想平面17に対して傾けるシミュレーションを行った。図5は、磁束を傾けた磁石のモデルを示す斜視図である。磁石のモデルは直方体であり、頂面は底面に平行である。頂面には、図1の永久磁石1のS極部11及びN極部12に対応するS極部51及びN極部52がある。頂面上で磁極の境界53は直線状になっている。S極部51の中央には、y軸方向の磁束密度の大きさが最大となる直線状のピーク部511が存在し、N極部52の中央には、y方向の磁束密度の大きさが最大となる直線状のピーク部521が存在する。頂面上の境界53、ピーク部511及び521は互いに平行である。ピーク部511及び521の間の距離Aは3mmとし、磁石のモデルのx軸方向の長さは9mmとした。有限要素法により、図5中に矢印で示すように、モデル中にxz仮想平面(x軸及びz軸を含む仮想平面)に対して傾いた磁束を生成し、頂面から0.4mm離隔した位置でのy軸方向の磁束密度を計算した。
図6は、磁束が傾いた磁石のモデルにおける磁束密度をシミュレーションした結果を示す特性図である。横軸は、磁束密度を計算した地点のx軸方向の位置を示す。境界53の直上の位置を0とし、S極側の位置をプラス、N極側の位置をマイナスとしている。図中には、x軸方向の位置が±1.5mmの範囲である結果を示す。縦軸は、頂面から0.4mm離隔した位置でのy軸方向の磁束密度を示し、単位はテスラ(T)である。y軸のプラスの向きの磁束密度の大きさをプラスとし、y軸のマイナスの向きの磁束密度の大きさをマイナスとしている。図6中には、モデル内の磁束のxz仮想平面に対する傾きφが90°の場合の計算結果を太い破線で示し、45°の場合の計算結果を細い実線で示し、30°の場合の計算結果を細い破線で示し、15°の場合の計算結果を太い実線で示している。
磁束のxz仮想平面に対する傾きφが90°の場合は、従来例であり、磁束はxz仮想平面に直交しており、モデル内の磁束は両極間で反平行になっている。図6に示すように、傾きφが90°の場合は、x軸方向の位置の変化に応じたy軸方向の磁束密度の大きさの変化の直線性が得られる範囲は、x=0近傍の非常に狭い範囲である。45°、30°、15°と磁束のxz仮想平面に対する傾きφを小さくするに従って、磁束密度の大きさの変化の直線性が得られる範囲が広がる。傾きφが15°の場合は、y軸方向の磁束密度の大きさは、x軸方向の位置の変化に応じて、最大値から最小値まで直線状に近い変化をする。このように、永久磁石1で磁束がxz仮想平面17に直交する向きから傾いていることにより、磁束密度の大きさの変化の直線性が得られる範囲が広がる。
次に、頂面部15に窪み14を設けた場合のシミュレーションを行った。図7は、頂面部に窪みが形成された磁石のモデルを示す斜視図である。磁石のモデルは直方体状であり、頂面部には、S極部51、N極部52及び境界53が含まれている。S極部51及びN極部52は、y軸方向の磁束密度の大きさが最大となる直線状のピーク部511及び521を含んでいる。モデル内の磁束のxz仮想平面に対する傾きは15°である。また、頂面部には、ピーク部511及び521の間に窪み56が形成されている。窪み56はxy平面内で曲率半径が一定になるようになっており、境界53の位置で深さが最大になっている。磁石のモデルのその他のサイズは、図5に示したモデルと同様である。有限要素法により、ピーク部511及び521を含むxz仮想平面から0.4mm離隔した位置でのy軸方向の磁束密度を計算した。
図8及び図9は、窪み56が設けられた磁石のモデルにおける磁束密度をシミュレーションした結果を示す特性図である。横軸は、磁束密度を計算した地点のx軸方向の位置を示す。図8はx軸方向の位置が境界53から±5mmの範囲である結果を示し、図9はx軸方向の位置が±1.5mmの範囲を拡大したものである。縦軸は、ピーク部511及び521を含むxz仮想平面から0.4mm離隔した位置でのy軸方向の磁束密度を示す。図8及び図9中には、窪み56が無い場合の計算結果を太い破線で示し、窪み56の底までの深さDが0.3mmである場合の計算結果を太い実線で示し、深さDが0.4mmである場合の計算結果を細い破線で示し、深さDが0.7mmである場合の計算結果を細い実線で示し、深さDが1.5mmである場合の計算結果を一点鎖線で示している。
図8及び図9に示されたように、窪み56が無い場合は、x=0前後の位置において、位置の変化に対して磁束密度の変化が大きすぎる。窪み56を形成することによって、磁束密度の測定位置と磁石との間のギャップが広がり、磁束密度の大きさが低下し、位置の変化に対する磁束密度の変化も低下する。窪み56の底までの深さDが0.3mmである場合は、位置の変化に対する磁束密度の変化が低下し、磁束密度の大きさの変化がより直線的になる。同様に、深さDが0.4mmである場合も、磁束密度の大きさの変化の直線性が得られる。深さDが0.7mmである場合、及び1.5mmである場合は、磁束密度の大きさが低下し過ぎており、磁束密度の大きさの変化の直線性は悪化している。このように、位置の変化に対する磁束密度の大きさの変化の直線性を得るためには、永久磁石1の窪み14のxz仮想平面17から底までの深さは、0.3mm以上0.5mm以下であることが望ましい。なお、永久磁石1の大きさを拡大したとしても、xz仮想平面17から離隔した位置での磁束密度は飽和してあまり変わらないので、窪み14の底までの深さは同様に0.3mm以上0.5mm以下であることが望ましい。
次に、頂面部15に傾斜部112及び122を設けた場合のシミュレーションを行った。図10は、頂面部に傾斜部が形成された磁石のモデルを示す斜視図である。S極部51に傾斜部512を設け、N極部52に傾斜部522を設けた。磁石のモデルは、図1に示す本実施形態の永久磁石1と同等の形状になっている。モデル内の磁束のxz仮想平面に対する傾きは15°である。窪み56の底までの深さDは0.3mmである。モデルのx軸方向の長さBは、ピーク部511及び521の間の長さAの二倍である。具体的には、A=3mm、B=6mmとした。傾斜部512及び522のxz仮想平面に対する傾きθは互いに同一とした。有限要素法により、ピーク部511及び521を含むxz仮想平面から0.4mm離隔した位置でのy軸方向の磁束密度を計算した。
図11は、傾斜部512及び522が設けられた磁石のモデルにおける磁束密度をシミュレーションした結果を示す特性図である。横軸は、磁束密度を計算した地点のx軸方向の位置を示し、縦軸は、ピーク部511及び521を含むxz仮想平面から0.4mm離隔した位置でのy軸方向の磁束密度を示す。図中には、傾斜部512及び522がxz仮想平面に対して傾斜していない場合の計算結果を太い破線で示し、傾斜部512及び522のxz仮想平面に対する傾きθが10°である場合の計算結果を細い実線で示し、傾きθが20°である場合の計算結果を細い破線で示し、傾きθが30°である場合の計算結果を太い一点鎖線で示し、傾きθが40°である場合の計算結果を細い一点鎖線で示している。更に、傾きθを40°とし、ピーク部511及び521の角を取って所定の曲率半径で丸みを付けた場合の計算結果を太い実線で示している。
傾斜が無い場合の計算結果が示すように、磁束密度の大きさの変化の直線性はほぼ保たれたものの、X=1.5mm及びX=−1.5mmの近傍において、位置の変化に対して磁束密度の変化が大きくなる。これは、磁石のエッジの影響であると考えられる。傾斜部512及び522を形成することによって、ピーク部511及び521よりも境界53から離れた位置で磁束密度の測定位置と磁石との間のギャップが広がり、位置の変化に対する磁束密度の変化も低下する。傾斜部512及び522のxz仮想平面に対する傾きθが10°である場合は、X=1.5mm及びX=−1.5mmの近傍において磁束密度の変化が低下し、磁束密度の大きさの変化がより直線的になる。傾きθが、20°、30°、40°となるに従って、磁束密度の大きさの変化はより直線的になる。但し、傾きθを大きくし過ぎた場合は、磁束密度の大きさが低下し過ぎて磁束密度の大きさの変化の直線性は悪化する。位置の変化に対する磁束密度の大きさの変化の直線性を得るためには、永久磁石1の傾斜部112及び122のxz仮想平面17に対する傾きθは、30°以上50°以下であることが望ましい。また図11に示されたように、ピーク部511及び521に丸みを付けた場合にも、磁束密度の大きさの変化の直線性は向上する。このように、永久磁石1は、位置の変化に対して磁束密度の大きさが直線的に変化する範囲がx=0前後の範囲から広がっており、その一方で永久磁石1のx軸方向の長さは拡大していない。なお、永久磁石1は、磁束密度の大きさの変化の直線性を保ちながら、x軸方向の長さBをピーク部511及び521の間の長さAの二倍よりも若干短くすることも可能である。すなわち、直線状のピーク部111及び121に交差する方向の永久磁石1の長さは、この方向のピーク部111及び121の間の長さの二倍以下である。なお、より一般的に、直線状のピーク部111及び121に交差する方向の永久磁石1の長さは、この方向のピーク部111及び121の間の長さの二倍以下であってもよい。
図12は、磁束密度の大きさの変化の直線性を示す特性図である。ピーク部511及び521の間の長さAを3mm、x軸方向の長さBを6mm、窪み56の底までの深さDを0.3mm、窪み56の曲率半径Cを3.9mm、磁束のxz仮想平面に対する傾きφを15°、磁石のモデルの傾斜部512及び522のxz仮想平面に対する傾きθを40°とし、ピーク部511及び521に丸みを付けて計算を行った。図中には、計算結果を実線で示しており、原点を通る直線に対して変動の最大値が±5%以内になる範囲を示す直線を破線で示している。図12に示すシミュレーション結果によれば、永久磁石1は、xz仮想平面17から所定距離離隔した位置でのy軸方向の磁束密度の大きさが、X=−1.5〜1.5mmの範囲でx軸方向の位置の変化に応じて直線的に変化する。磁束密度の大きさの変化の直線からのずれは、±5%以内の範囲に収まっており、十分な直線性が得られる。図12に示す計算結果は、底面からピーク部511及び521までの高さを3mmとした結果である。但し、高さを変更しても、磁束密度の計算結果にはほとんど影響は見られない。従って、永久磁石1では、xz仮想平面17から所定距離離隔した位置におけるy軸方向の磁束密度の大きさの変化の直線性は、高さに関わらず保たれる。
図13は、磁石のモデルのサイズを変えた場合の磁束密度の変化の直線性を示す特性図である。ピーク部511及び521の間の長さAを10mm、x軸方向の長さBを20mm、窪み56の底までの深さDを0.3mm、窪み56の曲率半径Cを41.5mm、磁束のxz仮想平面に対する傾きφを15°、磁石のモデルの傾斜部512及び522のxz仮想平面に対する傾きθを40°とし、ピーク部511及び521に丸みを付けて計算を行った。図中には、計算結果を実線で示しており、原点を通る直線に対して変動の最大値が±5%以内になる範囲を示す直線を破線で示している。図13に示すシミュレーション結果によれば、A=10mmとした永久磁石1は、xz仮想平面17から所定距離離隔した位置でのy軸方向の磁束密度の大きさが、X=±5mmの範囲でx軸方向の位置の変化に応じて直線的に変化する。磁束密度の大きさの変化の直線からのずれは、±5%以内の範囲に収まっており、十分な直線性が得られる。本実施形態に係る永久磁石1は、ピーク部111及び121の間の長さAを1mm以上10mm以下の範囲とすることが望ましい。Aが10mmより大きい場合は、サイズが大きくなりすぎる。Aが1mmより小さい場合は、磁束密度の大きさが直線的に変化する範囲の長さが1mm以下となり、実用性に乏しい。
図14は、永久磁石1を製造するための着磁装置の構成を示す模式図である。着磁装置は、断面が三角形の第1電線61と、断面が三角形の二本の第2電線62とを備えている。また、着磁装置は、並行した三本の三角溝を天面に形成してあるヨーク63を備えている。第1電線61及び第2電線62は、ヨーク63に形成された三角溝に収められている。即ち、第1電線61及び第2電線62は、断面の三角形の一辺を天側に向けて並列に配置されている。二本の第2電線62は、第1電線61の両脇に配置されている。また、着磁装置は、電線に電流を供給する電流供給部64を備えている。第1電線61及び第2電線62は、互いに逆方向の電流が流れるように、互いに結線されている。第2電線62は、電流供給部64に接続されている。電流供給部64は、直流の電流を供給し、第1電線61及び第2電線62には図中に矢印で示すように互いに逆向きの電流が流れる。
次に、永久磁石1の製造方法を説明する。等方性の磁性体を材料として、図1に示すごとき永久磁石1と同一形状の磁石素体を作成する。ここで、磁石素体とは、永久磁石1の形状に形成されており、後述する着磁装置によって着磁される前の磁性体である。例えば、磁性体を直方体の形状に形成し、頂面を掘削して窪み14及び傾斜部112及び122を形成する。また、例えば、粉末状の磁性体を圧縮成形することにより、永久磁石1と同一形状の磁石素体を作成する。作成した磁石素体を、頂面部を下側にして着磁装置に装着する。図15は、着磁装置に磁性素体7を装着した状態を示す模式的断面図である。図15に示すように、磁石素体7は、窪み14が第1電線61の天側の三角形の断面の一辺に対向し、傾斜部112及び122が夫々に第2電線62の天側の三角形の断面の一辺に対向するように配置される。また、磁石素体7は、ピーク部111及び121が第1電線61と平行になり、夫々に、第1電極61と第2電極62との間に位置するように配置される。また、磁石素体7の傾斜部112及び122と第2電線2の三角形の断面の一辺及びヨーク63の天面との間の空間を充填する充填材71が配置される。充填材71は、磁石素体7と同一の磁性体であることが望ましい。但し、充填材71は非磁性材であってもよい。充填材71によって磁石素体7の位置が安定する。なお、第1電極61と窪み14との間を充填する充填材を更に用いてもよい。
図15に示すように磁石素体7を着磁装置に配置した状態で、図14に示すように電流供給部64から第1電線61及び第2電線62へ電流を供給する。図15中に示すように、図15の手前から奥へ向けた電流が第1電線61に流れ、逆向きの電流が第2電線62に流れる。第1電線61及び第2電線62の夫々の周りに磁界が発生し、磁石素体7に着磁される。図15中には、発生する磁界を矢印で示す。夫々の電線の三角形の断面の周りをまわりこむように磁界が発生するので、磁石素体7中に、ピーク部111及び121を含む仮想平面に対して傾いた磁束が生じる。この結果、ピーク部111はS極中の磁束密度最大部となり、ピーク部121はN極中の磁束密度最大部となる。図15中には、図3中に破線で示したピーク部111及びピーク部121の夫々を通るyz仮想平面並びに略平面状の境界13に対応する仮想平面を二点鎖線で示している。以上のようにして、永久磁石1が製造される。
以上詳述したごとく、本実施形態における永久磁石1は、xz仮想平面17から離隔した位置でのy軸方向の磁束密度の大きさは、ピーク部111に対向する位置とピーク部121に対向する位置との間の範囲で、x軸方向の位置の変化に対して直線的に変化する。このため、図4に示すごとき位置センサでは、ピーク部111に対向する位置とピーク部121に対向する位置との間の範囲内で高精度に位置検出を行うことができる。また、永久磁石1のx軸方向の長さは、y軸方向の磁束密度の大きさの変化の直線性が保たれるx軸方向の範囲の長さの二倍以下である。永久磁石1の他に補助磁石を配置することなく、y軸方向の磁束密度の大きさの変化の直線性が保たれるx軸方向の範囲の長さが拡大している。永久磁石1を用いた位置センサは、位置検出が可能な範囲を広く保ちながらも、補助磁石を必要としないので、従来に比べて全体の大きさが小さくなっている。従って、位置検出が可能な範囲を広く保ちながらも位置センサを小型化することが可能となる。なお、永久磁石1を構成する頂面部15以外の面の形状は、図1に示した形状と厳密に同一でなくてもよい。例えば、底面16は、ピーク部111及び121を含む仮想平面に対して厳密に平行でなくてもよい。
(実施形態2)
図16は、実施形態2に係る永久磁石8の斜視図である。永久磁石8は、底面及び頂面部84を有する二極の磁石である。頂面部84は二極着磁された非平面状の磁極面である。底面及び四つの側面は平面である。頂面部84の半分はS極部81になっており、もう半分はN極部82になっている。磁極の境界83は略平面状であり、頂面部84上では境界83は直線状になっている。略平面状の境界83を細い二点鎖線で示しており、頂面部84上での直線状の境界83は実線で示している。頂面部84上での境界83に平行な方向をz軸方向とする。底面に直交する方向をy軸方向とし、y軸方向及びz軸方向に直交する方向をx軸方向とする。S極部81及びN極部82は傾斜しており、境界83に近づくほど底面からの高さが低くなっている。このため、S極部81及びN極部82は全体で、境界83の位置で最も深くなる窪みを形成している。
S極部81中には、底面からの高さが最大になるピーク部811が存在しており、ピーク部811はS極部81の端である。同様に、N極部82中には、底面からの高さが最大になるピーク部821が存在しており、ピーク部821はN極部82の端である。ピーク部811及び821は、共に境界83に平行(z軸方向に平行)な直線状になっている。直線状のピーク部811及び821は、底面に平行な同一の仮想平面に含まれている。直線状のピーク部811及び821を含む仮想平面をxz仮想平面85とする。また、図中に矢印で示したように、S極部81及びN極部82での磁束は、xz仮想平面85に直交している。即ち、頂面部84では両磁極の磁束は反平行になっている。また、図中には、S極部81内でピーク部811と境界83との中央に位置するS極中央部812を太い二点鎖線で示し、N極部81内でピーク部821と境界83との中央に位置するN極中央部822を太い二点鎖線で示している。永久磁石8の形状は、z軸方向の並進対称性をほぼ有し、略平面状の境界83に対する鏡面対称性をほぼ有している。
永久磁石8の長手方向(x軸方向)の長さBは、S極中央部812及びN極中央部822の間のx軸方向の長さAの二倍である。例えば、A=3mmでありB=6mmである。また、xz仮想平面85から境界83の位置での窪みの底までの深さDは、典型的には1.5mm以上2mm以下である。
永久磁石8を位置センサに用いるためには、実施形態1と同様に、xz仮想平面85から所定距離離隔した位置においてx軸方向に位置変化に応じてy軸方向の磁束密度の大きさが直線的に変化することが望ましい。永久磁石8のモデルを作成し、発生する磁束密度を有限要素法により計算するシミュレーションを行った。A=3mm及びB=6mmとし、両磁極の磁束は反平行でxz仮想平面85に直交しているとし、xz仮想平面85から0.4mm離隔した位置での磁束密度を計算した。境界83の位置をx=0mmとして、S極中央部812の位置はx=15mmであり、N極中央部822の位置はx=−1.5mmである。
図17は、実施形態2に係る永久磁石8のモデルにおける磁束密度をシミュレーションした結果を示す特性図である。横軸は、磁束密度を計算した地点のx軸方向の位置を示し、縦軸は、xz仮想平面85から0.4mm離隔した位置でのy軸方向の磁束密度を示す。図中には、xz仮想平面85から境界83の位置での窪みの底までの深さDが0mmである場合の計算結果を太い破線で示し、D=0.5mmである場合の計算結果を細い実線で示し、D=1.0mmである場合の計算結果を一点鎖線で示し、D=1.5mmである場合の計算結果を細い破線で示し、D=2.0mmである場合の計算結果を太い実線で示している。
図17に示されたように、D=0であってS極部81及びN極部82が傾斜していない場合は、x軸方向の位置の変化に応じた磁束密度の大きさの変化の直線性が得られる範囲は、x=0近傍の非常に狭い範囲である。xz仮想平面85から境界83の位置での窪みの底までの深さDを0.5mm、1.0mm、1.5mm、2.0mmと大きくするのに従って、磁束密度の絶対値が低下するものの、磁束密度の大きさの変化の直線性が得られる範囲が広がる。D=1.5mm及び2.0mmの場合は、x=−1.5〜1.5mmの範囲で、y軸方向の磁束密度の大きさは直線状に近い変化をする。深さDの大きさがより大きい場合は、磁束密度の絶対値の低下が著しくなる。このように、磁束が両磁極で反平行になっている永久磁石8においても、頂面部84に窪みを設けることにより、磁束密度の大きさの変化の直線性が得られる範囲が広がる。
以上のように、本実施形態における永久磁石8では、xz仮想平面85から離隔した位置でのy軸方向の磁束密度の大きさは、S極中央部812に対向する位置とN極中央部822に対向する位置との間の範囲で、x軸方向の位置の変化に対して直線的に変化する。このため、頂面部84に対向するように磁気検出素子を配置した位置センサでは、S極中央部812に対向する位置とN極中央部822に対向する位置との間の範囲内で高精度に位置検出を行うことができる。また、永久磁石8のx軸方向の長さは、y軸方向の磁束密度の大きさの変化の直線性が保たれるx軸方向の範囲の長さの二倍以下である。永久磁石8を用いた位置センサは、位置検出が可能な範囲を広く保ちながらも、補助磁石を必要としないので、従来に比べて全体の大きさが小さくなっている。従って、位置検出が可能な範囲を広く保ちながらも位置センサを小型化することが可能となる。