JP6473679B2 - 硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液及びその製造方法 - Google Patents

硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、凝集剤として使用される硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液及びその製造方法に関するものである。
塩基性塩化アルミニウムは、水の浄化等に使用する凝集剤として、硫酸バンドと呼ばれることもある硫酸アルミニウムなどと共に広く使用されている。
このような塩基性塩化アルミニウムは、[Al(OH)Cl6−n]で表される単位が連なった、Al重合体を含む形態を有しており、OHのAlに対する結合割合を表す塩基度が45%以上のものが高い凝集力を示すことが知られており、さらに、硫酸根を含むものは、より高い凝集能力を示すことが知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。また、特許文献4には、塩基性塩化アルミニウム水溶液に溶けているAlの状態をNMRで定性的に規定する方法が提案されている。
ところで、このような塩基性塩化アルミニウムは、高い凝集力を有していたとしても、保存安定性に問題があり、例えば、水溶液の形態で保存しておくと、白濁、結晶析出や沈降分離を生じてしまうという問題があり、特に硫酸根が多く導入されているものほど、この傾向が強い。
従って、粉末の形態での保存が考えられるのであるが、この場合、輸送コスト等の点でメリットはあるとしても、実際の使用に際して、処理すべき液中に投入する作業が行い難いという問題があるばかりか、元々、水溶液の形態で製造される塩基性塩化アルミニウムから水分を除去するという作業を行うことは、生産コストの増大をもたらしてしまう。従って、水溶液の形態のまま保存や輸送に供され、そのまま処理液中に投入するという手法が多く採用されている。
また、塩基性塩化アルミニウム水溶液に溶け易いアルミナヒドロゲルを得るために炭酸根を含む原料を用いて調製する方法では、副生する過剰の塩、或いは不要な炭酸根を除去する必要がある。塩の除去は、ろ過と洗浄(特許文献1)或いは希釈とデカンテーション(特許文献2)により、炭酸根の除去は脱ガス(特許文献3)によるといった操作がある。
本出願人は、先に、特願2014−140679において、硫酸根が共存する硫酸根変性塩基性塩化アルミニウムの水溶液であって、優れた凝集性を発揮することができ、しかも水溶液の状態で沈降分離することなどがなく、安定に保存される硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液及びその製造方法を提案した。
本出願人が提案したこの特許出願は、硫酸根変性塩基性塩化アルミニウムのAl重合度分布を調整し、一定の塩基度を保持しながら重合度の高いAlの割合を少なくすることにより、凝集力を損なうことなく、保存安定性を向上させ得る、という知見に基づいてなされたものである。
特開昭57−71818号公報 特開平7−172824号公報 特開2000−264627号公報 特開2009−203125号公報
しかしながら、本出願人が提案した上記硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液には、生産性の点で課題が残されていた。即ち、この硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液は、塩基性塩化アルミニウム水溶液とアルミン酸ソーダ水溶液との反応過程を経て得られるものであるが、最終工程に至るまでに生成する水不溶解分の量が多く、このため、収率が低くなってしまっていた。
従って、本発明の目的は、高収率で製造することができ、しかも、優れた凝集性と保存安定性を有する、硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液及びその製造方法を提供することである。
本発明者らは、塩基性塩化アルミニウムとアルミン酸ソーダとの反応から硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する工程について鋭意検討を行い、収率の低下の要因となる水不溶解分の生成は、塩基性塩化アルミニウムとアルミン酸ソーダとの混合条件に大きく依存しており、二流体ノズルを用いて両者を噴流混合することにより水不溶解分の生成量が抑制され、しかもこのような噴流混合で得られたものは27Al−NMR測定において特徴的な化学シフトを示すという新たな知見を見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、硫酸根変性塩基性塩化アルミニウムの水溶液であって、硫酸根を0.5〜3.5質量%の量で含み、且つ27Al−NMR測定において、−4〜−2ppm、−1〜0.3ppm、0.3〜1ppm、3〜6ppm、8〜13ppm及び60〜65ppmでの化学シフトの積分値を、それぞれ、AS、A0、A1、A4、A10、A13とし、且つ検出されなかった高重合度ポリマーの積分値をApとしたとき、AS+A0+A1+A4+A10+A13+Ap=Σと表記して下記条件;
13.7%≦(A4/Σ)×100≦20.0%
を満足し、さらに塩基度が45〜80%の範囲にあることを特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液が提供される。
本発明の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液においては、
(1)さらに、下記条件を満足していること、
0%≦(AS/Σ)×100<0.1%
100%>(A1/Σ)×100≧19%
0%≦(A10/Σ)×100≦7%
0%≦(A13/Σ)×100≦0.1%
(2)Al濃度がAl換算で8〜12質量%の範囲にあること、
(3)凝集剤として使用されること、
が好ましい。
本発明によれば、また、塩基度が35〜63%の塩基性塩化アルミニウムの水溶液を用意し、前記塩基性塩化アルミニウム水溶液とアルミン酸ソーダ水溶液とを二流体ノズルを用いて50℃以下の温度で噴流混合し、得られた混合物を、50℃以下の温度で6〜48時間熟成し、次いで、得られた熟成液に硫酸アルミニウム水溶液を添加すること、を特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法(第一の製造方法)が提供される。
本発明によれば、さらにまた、塩基度が35〜63%の塩基性塩化アルミニウムの水溶液と硫酸アルミニウム水溶液との混合液を用意し、前記混合液とアルミン酸ソーダ水溶液とを二流体ノズルを用いて50℃以下の温度で噴流混合し、得られた混合物を、50℃以下の温度で6〜48時間熟成することを特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法(第二の製造方法)が提供される。
本発明の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液は、3〜6ppmの化学シフトの積分値A4(Alの3〜9量体)が先に本出願人が提案したものに比して多いという特徴を有しており、後述する実施例に示されているように、優れた凝集力を示すと同時に、その保存安定性が極めて高く、例えば、45℃の温度に約2週間以上保持した場合においても白濁、結晶析出などを生じない。従って、この硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液は、そのままの状態で凝集剤として販売され、そのまま、濁水等に投入され、水の浄化等に使用される。
加えて、本発明の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液は、硫酸根の導入に用いる硫酸アルミニウム添加のタイミングによって第一の製造方法または第二の製造方法により製造されるが、何れの方法により製造する場合においても、塩基性塩化アルミニウム水溶液とアルミン酸ソーダ水溶液とが噴流混合される。このような混合手段を採用することにより、反応過程で生成する水不溶解分の量が少なく、高収率で製造することができ、しかも水不溶解分除去のためのろ過工程での負担が少なく、場合によってはこのようなろ過工程を省略することもできる。従って、本発明の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液は、極めて高い生産効率で製造することができ、工業的に極めて有利である。
本発明で採用する二流体ノズルを用いた噴流混合の原理を説明するための説明図である。
<硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液(以下PACSと略記する)>
本発明のPACSにおいては、塩基性塩化アルミニウム(以下PACS前駆体と略記し、詳細は後述する)と共に硫酸根が共存しており、これにより、高い凝集性を示すが、硫酸根(硫酸イオン)濃度は、0.5〜3.5質量%、特に1〜3質量%の範囲にある。即ち、硫酸根濃度が低すぎると、凝集性が不満足となり、また、硫酸根濃度が高すぎると、保存安定性が損なわれたり、或いは凝集剤として使用したとき、浄化される水中に硫酸根が移行してしまい、浄化が不満足なものとなってしまったりするおそれもある。
また、このPACSの最も重要な特徴は、27Al−NMR測定において、−4〜−2ppm、−1〜0.3ppm、0.3〜1ppm、3〜6ppm、8〜13ppm及び60〜65ppmでの化学シフトの積分値を、それぞれ、AS、A0、A1、A4、A10、A13とし、且つ検出されなかった高重合度ポリマーの積分値をApとしたとき、AS+A0+A1+A4+A10+A13+Ap=Σと表記して下記条件;
13.7%≦(A4/Σ)×100≦20.0%
を満足している点にある。
具体的に説明すると、上記の条件式において、−4〜−2ppmの化学シフトASは、硫酸根と結合したAl、即ち、Al−OSO 2−を示すものであり、−1〜0.3ppmの化学シフトA0は、Alの単量体を示し、0.3〜1ppmの化学シフトA1はAlの二量体、3〜6ppmの化学シフトA4はAlの3〜9量体、8〜13ppmの化学シフトA10は10量体以上のAl、60〜65ppmの化学シフトA13は13量体の中心Alを示すものである。
尚、上記の条件式において、27Al−NMR(以下、単にNMRと略す)測定により検出されない高重合度ポリマーの積分値(Ap)は、後述する実施例に示されている方法で算出することができる。
上記の条件は、Alの3〜9量体の量が多い(13.7〜20.0%)ことを示し、これにより優れた凝集性と保存安定性が確保される。
Alの3〜9量体の量が上記範囲に調整されていることにより凝集性や保存安定性が得られるという現象は、多くの実験の結果見出されたものであり、その理由は明確に解明されていないが、本発明者らは、次のように推定している。
即ち、上記の量のAlの3〜9量体が存在するということは、凝集性に寄与すると思われる程度の重合体(Alの2〜10量体)の量が多く、その一方で、保存安定性低下の要因と思われる、高重合度のAl(例えば13量体)の量と硫酸根に結合したAlが両方とも著しく抑制されていることを意味しており、この結果として、優れた凝集性と保存安定性とが得られるものと考えられる。
Alの重合度は塩基度(OH含有割合に相当)にも関連しているが、Alに直接結合した硫酸根は遊離の硫酸根に比べて重合触媒活性が高いため、保存期間中にAlを容易に高重合度化し、凝集剤として使用する時点では凝集力にさほど寄与しないAlの存在割合が多くなるし、高重合度化したAlの特に13量体は凝集力に寄与せずしかも水溶液中で時間が経過するにしたがって結晶として析出し易くなる。このため、上記のような条件を満足するように、高重合度のAlの量及び硫酸根に結合したAlの量を制限することにより、凝集力を損なわずに、その保存安定性が向上するものと信じられる。
例えば、Alの3〜9量体が上述した範囲に設定されている本発明のPACSでは、一般に、
0%≦(AS/Σ)×100<0.1%
100%>(A1/Σ)×100≧19%
0%≦(A10/Σ)×100≦7%
0%≦(A13/Σ)×100≦0.1%
を満足している。このようなPACSは、ポリ塩化アルミニウムとも呼ばれ、様々な長さのAl−O−Al連鎖から成るために分布を持っているが、このようなAlの連なりの分布において、上記の条件は、Alの10量体以上の量が抑制されており、特にAlの13量体の量が著しく制限されている(好ましくはゼロ)し、硫酸根と結合したAlの量も著しく制限されている(好ましくはゼロ)。
また、本発明において、PACSの塩基度は、通常、45〜80%の範囲にある。即ち、本発明のPACSは、後述する方法で製造されるが、かかる方法では、Alの重合が制限されるため、この範囲よりも高い塩基度は得られず、一方、この塩基度が上記範囲よりも小さいと、凝集力が不満足となってしまい、例えば懸濁粒子のフロック化が不十分となる傾向がある。
さらに、本発明のPACSでは、Al濃度がAl換算で、8〜12質量%、特に10〜11質量%の範囲にあることが好適である。即ち、水溶液中でのAl濃度が低すぎると、凝集能が低くなり、また、水溶液中でのAl濃度が高すぎると、この水溶液の保存安定性が低下するおそれがある。
本発明のPACSは、凝集剤として水道水、工業用水や排水の処理に好適に使用され、これを添加してのフロック化により、各種の懸濁不純物を捕捉し、水を浄化することができる。
<PACSの製造>
上述した本発明のPACSの製造工程は、塩基度が35〜63%の塩基性塩化アルミニウム水溶液(以下BACと略記する)を原料とし、このBACとアルミン酸ソーダとの反応により、Alの重合度が一定のレベルに調整され、これに伴い塩基度が調整されたPACS前駆体を製造する工程と、硫酸アルミニウム(以下LASと略記する)を用いて硫酸根を導入する工程とを含むが、このLASの添加のタイミングによって、第一の製造方法または第二の製造方法により大きく分類される。
上記何れの方法においても、BACとアルミン酸ソーダとの反応は、噴流混合を利用して行われる。
上記のような塩基度を有しており且つ原料として使用されるBACは、それ自体公知であり、例えば特開平6−16416号公報や特開2000−271574号公報に記載されているように、水酸化アルミニウムと塩酸とを加圧下で反応させることにより得られる。
反応温度は100〜150℃程度の範囲であり、圧力は0.1〜0.5MPa程度であり、反応時間は、温度や圧力に応じて、塩基度が上記範囲内となる程度の時間、例えば2〜24時間程度であり、このような反応はオートクレーブを用いて行われる。
例えば、塩基度が上記範囲を超えるBACを使用すると、後に行われる混合工程で重合が過度に進行してしまい、重合度が一定の条件を満足するように調整された本発明のPACSを得ることが困難となってしまうばかりか、水不溶解分の生成量が増大し、収率の大きな低下が生じてしまう。
<第一の製造方法>
第一の製造方法においては、前述した硫酸根濃度調製のためのLASを、最終工程で加える。即ち、初めに、上述したPACS前駆体を製造し、この後、LASの添加により硫酸根の導入が行われる。
PACS前駆体の製造に際しては、まず、上記のBACとアルミン酸ソーダ水溶液とを50℃以下、特に0〜45℃の温度で混合し、この混合物を熟成するが、この混合手段として噴流混合が行われる。この混合を、上記温度よりも高温で行うと、Alの重合が一気に進行してしまい、Alの一部が高重合体となるだけでなく水不溶解分が生成してしまう。これをろ過すると、水不溶解分が取り除かれて収率の大きな低下が生じてしまい、結局、目的とする組成のPACSを得ることができなくなってしまう。
さらに、上記のアルミン酸ソーダ水溶液は、Al換算で、BAC100質量部当り10〜50の質量部で使用することが、Alの高重合度化を抑制し、重合度が調整されたPACS前駆体を得る上で好適である。
本発明において、上記の噴流混合は、二流体ノズルを用いて行われる。その例を図1に示すが、本発明に用いる二流対ノズルの形体は、図1に何ら限定されない。
図1において、全体として1で示す二流体ノズルは、二つに分岐している導入管3a、3bとストレートな合流管5とを有している。
前述したBACは一方の導入管3aに供給され、アルミン酸ソーダ水溶液は他方の導入管3bに供給される。二液が合一して形成する界面は時間と共にめまぐるしく更新されるが、その位置が実質的に移動しないで動的平衡を保てる限り、導入管3aと3bの位置関係に制約は無く、同一線上で合一しても、ある角度を持って合一してもよい。また、一方の管の軸に対して他方が半径方向から合一してもよく、例えば、内筒部と外筒部とを備え、内筒部の先に合流部及び合流部の先に吐出口があるノズルが使用され、さらには、内筒部と外筒部との間の環状部に他方の流体の通路があるものが使用できる。内筒部に一方の流体を軸方向に供給し、環状部に他方の流体を供給する際には、内筒部の接線方向から流体を導入して、旋回流を生じさせることもできる。合流管5内でBACとアルミン酸ソーダが混合されて、合流管5の先端から出口延長方向に続く空中の出口流れ領域7において混合物は噴流状態で吐出され、この混合物は、図示されていないが、熟成槽に供給される。
このような噴流混合では、BACとアルミン酸ソーダ水溶液の混合は、合流管の内部での混合と、合流管出口での混合(噴流混合)とにより行われ、著しい短時間内で、高剪断力による混合が行われるため、水不溶解分、例えば水酸化アルミニウムや難水溶性硫酸アルミニウムの生成が有効に抑制され、さらには局部的なAlの高重合度化も抑制され、一定の組成のPACS前駆体、ひいては前述した組成のPACSを得ることが可能となる。
本発明において、噴流混合により、水不溶解分の生成が有効に抑制されることは多くの実験により現象として確認されたことであり、その理由は明確に解明されていないが、本発明者等は、次のように推定している。
例えば、撹拌槽にBACとアルミン酸ソーダ水溶液とを供給して行う撹拌混合の場合には、撹拌槽に導入されている液量や、混合すべき液の添加のタイミング等(例えば添加液と撹拌羽等の位置)や、混合物の組成等が経時と共に変化しており、高剪断力で撹拌を行ったとしても、その混合条件は常に異なったものとなっている。即ち、BACとアルミン酸ソーダ水溶液との合一条件が常に変化していることとなる。このため、得られる混合物では、その組成やAlの重合度などが不安定となり、Alの局部的な高重合度化も生じ易くなり、水酸化アルミニウム等の副反応物や過度に重合したAlの重合体の生成を定常的に抑えることが困難となる。しかるに、上述した噴流混合では、合流管の内部での混合及び合流管出口での混合が著しい短時間に高い剪断力で行なわれるため、BACの供給流量及びアルミン酸ソーダ水溶液の供給流量さえ一定に調整しておけば、常に、一定した条件で両液が合一して混合が行われることとなる。即ち、温度や量比等を一定の範囲に調節しておくことにより、常に一定の組成の混合物を得ることができ、しかもAlの重合度を比較的狭い範囲にそろえることが出来るため、例えば、前述したAlの3〜9量体の生成量を安定的に多くし、Alの高重合体や水不溶解分の生成を有効に抑制することができると考えられるのである。
上記のような噴流混合においては、管内での混合及び管出口での混合をより密に行うために、BACとアルミン酸ソーダ水溶液との量比が前述した範囲内となる条件を維持しつつ、特に合流管内での液流のレイノルズ数Reが2000以上となるように、BAC及びアルミン酸ソーダ水溶液の導入管3a,3bへの供給量や合流管5の管内径や長さを調整することが好ましい。
即ち、Reは、下記式:
Re=(Qa+Qb)×D/(νA)
式中、Qaは、導入管3aを流れる流体の体積流量(m/s)、
Qbは、導入管3bを流れる流体の体積流量(m/s)、
Dは、合流管5の出口内径(m)、
νは、BACの動粘性係数(m/s)、
Aは、合流管5の断面積(m)である、
で表される無次元数であり、Reが2000以上であることは、合流管内での流れが層流ではなく、所謂、遷移流から乱流域にあることを示し、これにより、合流管内での混合を密に行うことができると同時に、合流管を出た混合物が渦輪を伴って拡散し、例えば、図1に示されているように、下方に行くほど拡径した円錐形状の流れとなり、この出口流れ領域での混合もさらに密に行うことができる。例えば、Reが2000未満の場合には、合流管内での流れが層流となって、BACとアルミン酸ソーダ水溶液との混合が不十分となるおそれがあると同時に、合流管から吐出される液もストレートな筒状となってしまい、この出口流れ領域での混合も不十分となり、この結果、難水溶性硫酸アルミニウムや水酸化アルミニウムの生成を効果的に抑制することが困難となり、水不溶解分の生成量が多くなってしまう。
尚、Reを上記範囲に設定するためには、アルミン酸ソーダ水溶液と混合するときの温度下でのBACの動粘性係数を測定しておき、この値と、用いる流体ノズルの合流管の管内径等に応じて、目的とするReとなるように両流体の供給流量を設定すればよい。
上記のように噴流混合においては、合流管の長さに応じて、合流管の内壁と混合物の間に管抵抗が生じ、混合物の流速が減少する。合流管の長さが不適切に長かったりすると、合流管の内部でAlのヒドロゲルが形成され、噴流混合といえども混合が密に行われなくなる場合もある。そのため、Alのヒドロゲルが形成される前に混合物が出口流れ領域に到達するように、合流管の長さ等も適宜選定することが好ましい。例えば合流管の長さを10cm以下とすることがより好適である。
このようにしてBACとアルミン酸ソーダ水溶液の混合物は、配置されている熟成槽(図示せず)に収容され、例えば、前記と同様、50℃以下、特に0〜45℃の温度で熟成が行われる。
一旦はAlのヒドロゲルが形成されるが、熟成後にほとんど全てが解膠して重合度が一定の範囲に収まり、透明なコロイド液となる。このような熟成は、特に制限されないが、緩やかな撹拌下で行ってもよく、熟成時間は、用いるアルミン酸ソーダ水溶液の量や温度によっても若干異なるが、通常、6〜48時間程度である。
尚、上記の熟成時間は、例えば、Alのヒドロゲルなどの濁りが目視できなくなった時点を終点とすればよく、これによりBACより塩基度が増大したPACS前駆体が得られる。
第一の製造方法においては、上記の熟成により得られたPACS前駆体にLASを添加することにより、目的とするPACSを得ることができる。
熟成後の液に沈降した難水溶性硫酸アルミニウムや水酸化アルミニウムなどの水不溶解分が存在する場合には、適宜、ろ過を行って水不溶解分を除去した後にLASが添加されるべきであるが、既に述べたように、噴流混合により水不溶解分の生成が抑えられているため、このようなろ過を省略することができ、また、ろ過を行ったとしても、取り除かれる水不溶解分の量が微量であり、ろ過に要する負担も極めて小さい。
LASの添加量は、前述したように硫酸根濃度が0.5〜3.5質量%、特に1〜3質量%の範囲となり、さらに好ましくは、LASが添加された液中でのAl換算のAl濃度が8〜12質量%となるような量とすればよい。
この混合は、適宜撹拌下に行われ、特に加熱を要せず室温でよく、さらに、特に熟成も必要ない。
前述した噴流混合により、PACS前駆体の塩基度は増大するが、LASの添加により、塩基度は、低下し、最終的には、45〜80%の範囲となる。また、LASを添加することにより、硫酸根が所定濃度で共存しており、且つNMR測定による化学シフトの積分値に関する条件を満足している本発明のPACSが得られる。
<第二の製造方法>
本発明のPACSを製造するための第二の製造方法では、LASを、最終工程での熟成液に添加するのではなく、二流体ノズルを用いての噴流混合に供するBACに添加する。即ち、本発明では、BACとアルミン酸ソーダ水溶液との混合を、二流体ノズルを用いての噴流混合により行っているため、水不溶解分の生成が効果的に抑制されるのであるが、LASをBACに添加しておき、この混合液とアルミン酸ソーダ水溶液を噴流混合する場合にも、水不溶解分の生成を効果的に抑制することができる。
LASの添加量は、基本的には、第一の製造方法と同じであるが、この場合には、二流体ノズルを用いてのBACとアルミン酸ソーダ水溶液との混合比を基準に設定される。
即ち、BACとアルミン酸ソーダ水溶液とは、第一の製造方法と同様、Al換算で、BAC100質量部当りアルミン酸ソーダ水溶液が10〜50の質量部となる量で混合される。
このような混合液中での硫酸根濃度が0.5〜3.5質量%となるように、LASは、BACに混合される。
LASとBACとの混合は、特に制限されず、通常の撹拌混合で十分である。
噴流混合では、LASとBACとの混合液が二流体ノズル1の導入管3aに供給され、アルミン酸ソーダ水溶液が他方の導入管3bに供給され、合流管内及び出口流れ領域で両液の混合がなされる。
この温度等の混合条件は、BACの代わりにLASとBACとの混合液が使用されていることを除けば第一の製造方法と同様であり、例えばReも、アルミン酸ソーダ水溶液と混合するときの温度下でのBACの動粘性係数を基に、第一の製造方法と同様に2000以上の範囲に設定されて、二流体ノズルを用いての噴流混合が行われる。
このようにして噴流混合が行われ、混合物は、熟成槽に導入され、第一の製造方法と同様にして、例えば、前記と同様、緩やかな撹拌下、50℃以下、特に0〜45℃の温度で熟成が行われる。
即ち、一旦はAlのヒドロゲルが形成されるが、熟成と共に、ほとんど全てが解膠して重合度が一定の範囲に収まり、目的とするPACSが透明なコロイド液として得られる。この熟成時間も、第一の製造方法と同様、用いるアルミン酸ソーダ水溶液の量や温度によっても若干異なるが、通常、6〜48時間程度である。
熟成の完了は、Alのヒドロゲルなどの濁りが目視できなくなった時点を終点とすればよく、これにより、目的とするPACSが得られる。
勿論、かかる方法においても、熟成に際して水不溶解分の生成は極力抑えられているため、水不溶解分除去のためのろ過は必要ではなく、仮に必要であったとしても、ろ過により取り除かれる水不溶解分は微量であり、収率の低下はほとんど生じない。
このように、第一及び第二の製造方法の何れにおいても、水不溶解分の生成が有効に抑えられているため、高収率で目的とする組成のPACSを安定的に得ることができ、また、ろ過工程を省略し或いはろ過の負担を軽減することができるので、その生産効率も極めて高い。
得られた本発明のPACSは、優れた凝集性と保存安定性を有しており、そのまま、凝集剤として適宜、保存、輸送され、水処理等に使用される。
尚、このPACSには、それ自体公知の各種添加剤を添加し、この際、場合によってはろ過を行うこともあるが、Alを含む水不溶解分の生成が有効に抑制されているため、かかるろ過による収率の低下は有効に回避される。
本発明を次の実験例で説明する。
尚、以下の実験で行った各種の測定は、次の方法により行った。
(1)凝集試験;
カオリンNUSURF(Engelhard製)0.2gを水道水10Lに添加し(20ppm)、2%NaOH水溶液を2.00ml加えてpH8.5に調整した供試水を用い、JWWA K 154:2005−2水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して行った。マイクロフロック形成時間とフロックの大きさから、凝集性能が優れた物を◎、良い物を○、可とする物を△、不可とする物を×で評価した。
(2)保存安定性;
50mL透明ガラス瓶に、試料液約30mLを入れ、蓋をした。温度45℃の恒温槽の中に入れ、白濁または結晶析出するまでの日数を調べた。
(3)化学分析:
アルミニウムの量(Al換算)〔質量%〕:JWWA K 154:2005−2水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して行った。
ナトリウムの量(NaO換算)〔mg/L〕:炎光光度法により測定した。
硫酸根の量(SO換算)〔質量%〕:硫酸バリウム生成による重量法で行なった。
(4)塩基度〔%〕:JWWA K 154:2005−2水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して行った。
(5)27Al−NMR測定;Bruker製Avance III 600MHz型のNMR装置を用い下記の表1に示す条件で測定を行った。
(6)NMRスペクトルの解析
Al濃度(Mr)の硝酸アルミニウム水溶液を標準液、水を空試験液として用いNMR測定を行い、−20〜120ppmの範囲における標準液の積分値(Ar)と空試験液の積分値(Ab)をそれぞれ求めた。
各試料についても同様の測定条件で−20〜120ppmの範囲における試料液積分値(At)を求めると共に、Al濃度(Ms)を測定した。
下記式:
Ap=(Ar−Ab)×Ms/Mr−(At−Ab)
で算出されるApを求め、これを、NMRで検出できなかったポリマーの積分値とした。
また、日本電子製DELTAを用い波形分離して得られた化学シフトが−4〜−2ppm、−1〜0.3ppm、0.3〜1ppm、3〜6ppm、8〜13ppm、60〜65ppmの各ピークIntegral値を、それぞれ、AS、A0、A1、A4、A10、A13とした。
(4)水不溶解分
試料液500gを、予め秤量したガラスフィルターGS25でろ過し、フィルターを40℃で一晩乾燥して求めた増加質量を試料質量で割って算出した。
(比較例1−1)
出入り3か所の管内径がいずれも4mm、合流管長22mmのY字型の導入管3aと3bにそれぞれ水を導入し、流量を1.54L/minと1.01L/minに設定した。BAC(Al:13.0%、Cl:16.5%)とアルミン酸ソーダ水溶液(Al:5.78%)を同時に切り替え、混合物を得た。レイノルズ数Reは1400であった。この混合物を室温下一晩静置した後、ろ過して得たろ液(PACS前駆体)に、LASを注加し、PACSを得た。生成物の特性及び性能は表1の通りである。
(実施例1−1)
合流管長55mmのY字型の導入管3aと3bの流量を2.50L/minと1.63L/minに設定した以外は比較例1−1と同様にして、本発明のPACSを得た。レイノルズ数Reは2200であった。
(比較例1−2)
出入り3か所の管内径がいずれも3mm、合流管長20mmのY字型の導入管3aと3bの流量を1.16L/minと0.759L/minに設定した以外は比較例1−1と同様にして、PACSを得た。レイノルズ数Reは1400であった。
(実施例1−2)
導入管3aと3bの流量を2.50L/minと1.63L/minに設定した以外は比較例1−2と同様にして、本発明のPACSを得た。レイノルズ数Reは3000であった。
(比較例1−3)
BAC(Al:12.8%、塩基度:38.2%)150gとアルミン酸ソーダ水溶液(Al:6.76%)95gを、株式会社エスエムテー製ハイフレックッスディスパーサーHG92(以後ディスパーサーと略記する)を用いて3000rpmで撹拌しているところへ同時注加しさらに5000rpmで3分撹拌して混合物を得た。この混合物を40℃にして、2時間攪拌した。室温下一晩静置した後、ろ過して得たろ液(PACS前駆体)に、LASを注加しPACSを得た。生成物の特性及び性能は表2の通りである。
H1−1、H1−2、J1−1、J1−2とを比較することによって、Reに好適範囲のあることが示された。
(比較例2−1)
合流管長200mmのY字型の導入管3aと3bを用いた以外は実施例1−1と同様にして、PACSを得た。レイノルズ数Reは2200であった。
(実施例2−1)
合流管長22mmのY字型の導入管3aと3bを用いた以外は実施例1−1と同様にして、本発明のPACSを得た。レイノルズ数Reは2200であった。
H2−1、J1−1、J2−1とを比較することによって、合流管の長さは短い方が好ましいことが示された。
(比較例3−1)
出入り3か所の管内径がいずれも2mm、合流管長7mmのY字型の導入管3aと3bにそれぞれ水を導入し、流量を0.568L/minと0.349L/minに設定した。BAC(Al:12.6%、Cl:16.4%)とアルミン酸ソーダ水溶液(Al:6.13%)を同時に切り替え、混合物を得た。レイノルズ数Reは1100であった。この混合物を室温下一晩静置した後、ろ過して得たろ液(PACS前駆体)に、LASを注加し、PACSを得た。生成物の特性及び性能は表2の通りである。
(実施例3−1)
合流管長20mmのY字型の導入管3aと3bの流量を1.30L/minと0.800L/minに設定した以外は比較例3−1と同様にして、本発明のPACSを得た。レイノルズ数Reは2400であった。
(実施例3−2)
出入り3か所の管内径がいずれも4mm、管長27mmの旋回型の軸方向導入管と半径方向導入管にそれぞれ水を導入し、流量を2.50L/minと1.63L/minに設定した。BAC(Al:12.9%、Cl:16.5%)とアルミン酸ソーダ水溶液(Al:6.56%)を同時に切り替え、混合物を得た。レイノルズ数Reは2300であった。この混合物を室温下一晩静置した後、ろ過して得たろ液(PAC)に、LASを注加し、本発明のPACSを得た。生成物の特性及び性能は表1の通りである。
J1−1、J2−1、J3−1、H1−1、H1−2、H3−1とを比較することによって、二流体ノズルの管内径に制限の無いことが示された。また、J3−1と異なる合一方法で混合したJ3−2においても、本発明のPACSが得られることが示された。
(実施例4−1)
出入り3か所の管内径がいずれも2mm、合流管長22mmのY字型の導入管3aと3bにそれぞれ水を導入し、流量を1.30L/minと0.639L/minに設定した。あらかじめLASを加えたBAC(Al:12.3%、Cl:16.5%、SO:1.62%)とアルミン酸ソーダ水溶液(Al:7.64%)を同時に切り替え、混合物を得た。レイノルズ数Reは2700であった。この混合物を室温下一晩静置した後、ろ過して得たろ液(PAC)に、LASを注加し、本発明のPACSを得た。生成物の特性及び性能は表2の通りである。
1:二流体ノズル
3a、3b:導入管
5:合流管
7:出口流れ領域

Claims (6)

  1. 硫酸根変性塩基性塩化アルミニウムの水溶液であって、硫酸根を0.5〜3.5質量%の量で含み、且つ27Al−NMR測定において、−4〜−2ppm、−1〜0.3ppm、0.3〜1ppm、3〜6ppm、8〜13ppm及び60〜65ppmでの化学シフトの積分値を、それぞれ、AS、A0、A1、A4、A10、A13とし、且つ検出されなかった高重合度ポリマーの積分値をApとしたとき、AS+A0+A1+A4+A10+A13+Ap=Σと表記して下記条件;
    13.7≦(A4/Σ)×100≦20.0
    を満足し、さらに塩基度が45〜80%の範囲にあることを特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液。
  2. さらに、下記条件;
    0≦(AS/Σ)×100<0.1
    100>(A1/Σ)×100≧19
    0≦(A10/Σ)×100≦7
    0≦(A13/Σ)×100≦0.1
    を満足している請求項1に記載の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液。
  3. Al濃度がAl換算で8〜12質量%の範囲にある請求項1または2に記載の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液。
  4. 凝集剤として使用される請求項1〜3のいずれかに記載の硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液。
  5. 塩基度が35〜63%の塩基性塩化アルミニウムの水溶液を用意し、
    前記塩基性塩化アルミニウム水溶液とアルミン酸ソーダ水溶液とを合流管の長さが10cm以下である二流体ノズルを用いて50℃以下の温度で、且つレイノルズ数2000以上になるように噴流混合し、
    得られた混合物を、50℃以下の温度で6〜48時間熟成し、
    次いで、得られた熟成液に硫酸アルミニウム水溶液を添加すること、
    を特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
  6. 塩基度が35〜63%の塩基性塩化アルミニウムの水溶液と硫酸アルミニウム水溶液との混合液を用意し、
    前記混合液とアルミン酸ソーダ水溶液とを合流管の長さが10cm以下である二流体ノズルを用いて50℃以下の温度で、且つレイノルズ数2000以上になるように噴流混合し、
    得られた混合物を、50℃以下の温度で6〜48時間熟成することを特徴とする硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
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