以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(無線通信システム)
図1に、本実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す。本無線通信システムは、例えば、セルラ無線通信システムに係る複数の基地局装置と、1つ以上の無線端末(以下、「端末」と呼ぶ。)とを含んで構成される。このとき、例えば、第1の基地局装置が送信した第1の信号と、第2の基地局装置が送信した第2の信号とでは、伝送経路の違いにより、同じ電力、同じ周波数および時間リソースで信号が送信されたとしても、受信電力が異なることとなる。本実施形態では、これを活用し、複数の基地局装置が、互いに協調して1つの端末に対して並行して無線信号を送信する。これにより、端末には、複数の受信電力の異なる信号成分が混在して受信されることとなるが、端末は、干渉キャンセル機能を用いて、これらの複数の信号成分を逐次的に復調及び除去することにより、複数の信号成分を全て復調することができる。なお、端末は、複数の信号成分のうち、その端末に宛てられたものでない信号成分を破棄することによって、自身に宛てられた信号成分のみを抽出することができる。これにより、1つの端末に対して、複数の基地局装置から信号を並行して送信することができるため、1つの端末に対するスループットを改善することが可能となる。
このとき、基地局装置は、他の基地局装置が送信した信号の端末における受信電力と、自身が送信した信号の端末における受信電力との、受信電力差の情報を取得して、その情報に基づいて、変調方式などを決定して送信信号を生成する。ここで、例えば、端末において、第1の基地局装置から受信した第1の信号の電力が、第2の基地局装置から受信した第2の信号の電力より大きいものとする。この場合、第1の基地局装置は、第2の信号による干渉を考慮して、端末における第1の信号のSINRを推定し、そのSINRの値に応じた変調方式及び誤り訂正符号の符号化率などを決定する。一方で、第2の基地局装置は、端末において第1の信号が復調及び除去された後の、第2の信号のSINRを推定し、そのSINRの値に応じた変調方式及び誤り訂正符号の符号化率などを決定する。
具体的には、端末における受信信号が第1の信号と第2の信号のみを含んでおり、第1の信号の受信電力が第2の信号の受信電力よりX[dB]だけ高く、さらに、第2の信号のSNRはY[dB]であったとする。ここで、Yが十分に大きい(すなわち、雑音電力が十分に小さい)とすると、第1の信号に関するSINRはほぼX[dB]となる。この場合、第1の基地局装置は、SINRがX[dB]である場合に、例えばフレーム誤り率が所定値以下となるような、変調方式と誤り訂正符号化率との組み合わせ(MCS)を選択する。一方で、端末において第1の信号が受信信号から理想的に除去された(すなわち、第1の信号の成分が残存しない)とすると、第2の基地局装置は、SINRがY[dB]である場合に、例えばフレーム誤り率が所定値以下となるようなMCSを選択する。選択されたMCSは、例えば各基地局装置から、又は複数の基地局装置のうちの1つの基地局装置から、端末へ通知される。
なお、第1の基地局装置は、第1の信号のSINRの値によらず、例えば所定期間の間、一定の変調方式及び誤り訂正符号化率の組み合わせ(MCS)を用いてもよい。このとき、第1の基地局装置は、例えば、そのMCSによって所定の通信品質(例えば所定のフレーム誤り率)を得るために送信電力制御をしてもよい。第2の基地局装置も、同様に、第2の信号のSINRによらず、一定のMCSを用いてもよい。使用されるMCSが一定の場合、基地局装置から端末へのMCSの通知はされなくてもよい。
端末は、複数の信号成分が混在する信号を受信すると、電力の大きい方の信号成分から復調及び除去を行う。端末は、このとき、基地局装置から所定のタイミングで通知された又は事前に定まっているなどにより取得したMCSに基づいて、信号成分の復調及び除去を行う。
例えば、第1の信号の変調方式がQPSKであることが通知された場合、端末は、受信信号に第1の信号のチャネル推定値の複素共役値を乗算した値の直交成分と同相成分とがそれぞれ正と負の値のいずれであるかを判定して、復調シンボル列を得る。そして、端末は、復調シンボル列に対応するビット列と通知された誤り訂正符号化率とに応じて、誤り訂正復号化を行い、第1の信号によって送信されたと考えられるビット列を得る。このとき、上述のように、第1の基地局装置が適切にMCSを選択していると、端末は、例えばフレーム誤り率が所定値以下となるレベルで第1の信号の復調を完了することができる。このようにして、端末は、受信信号に含まれる第1の信号に基づいて、自身に宛てられたデータ(ビット列)を取得することができる。
その後、端末は、その得られたビット列を、通知された誤り訂正符号化率で符号化して、符号化後のビット列を、2ビットずつ、QPSKで変調して変調シンボル列を取得する。そして、端末は、その変調シンボル列に、第1の信号のチャネル推定値を乗じて、第1の信号のレプリカ信号を生成し、その第1の信号のレプリカ信号を受信信号から減算する。これにより、受信信号から第1の信号の成分が除去されることとなる。
なお、端末は、受信信号に第1の信号のチャネル推定値の複素共役値を乗算した値から、第1の信号の送信時の同相成分及び直交成分の値(信号点)を推定した後に、その推定値にチャネル推定値を乗じて、第1の信号のレプリカ信号を生成してもよい。すなわち、この場合、端末は、例えばQPSKが第1の信号に用いられている場合、まず、そのコンスタレーションに相当する(±1,±1)/√2の4つの値のうちのどの値が送信されたかを推定する。そして、端末は、第1の信号の誤り訂正復号の結果を待たずに、送信されたと考えられる信号点((±1,±1)/√2の4つの値のいずれか)に、チャネル推定値を乗じてレプリカ信号を生成する。そして、端末は、このレプリカ信号を受信信号から減算することにより、受信信号から第1の信号の成分を除去することができる。この手法によれば、例えば第1の信号が端末自身に宛てられたものでない場合に誤り訂正符復号のための処理を省略することができ、また、第1の信号が端末自身に宛てられたものであっても第1の信号の除去を高速に行うことが可能となる。
その後、端末は、第2の信号について同様の処理を行う。なお、信号成分が第1の信号と第2の信号との2つのみである場合は、第2の信号については復調と誤り訂正復号化のみが行われればよく、除去に関する処理(レプリカ信号の生成など)は行われなくてもよい。このとき、受信信号に含まれる信号成分が第1の信号と第2の信号のみであり、第1の信号が理想的に除去されたとすると、残りの信号には、第2の信号と雑音のみが含まれることとなる。したがって、上述のように、第2の基地局装置が適切にMCSを選択していると、端末は、例えばフレーム誤り率が所定値以下となるレベルで第2の信号の復調を完了することができる。なお、実際には、理想的にレプリカ信号が除去されない場合があるため、第2の基地局装置が、その残差成分を考慮して、使用するMCSを選択することができる。これにより、第2の基地局装置は、端末による第2の信号の復調を例えばフレーム誤り率が所定値以下となるレベルで成功させることができる。このようにして、端末は、受信信号に含まれる第2の信号に基づいて、自身に宛てられたデータ(ビット列)を取得することができる。
以上のように、複数の基地局装置が同一の周波数および時間リソースを用いて並行して1つの端末に信号を送信し、端末が逐次的な信号の復調と除去とを実行することにより、その端末についてのスループットを改善することができる。なお、複数の基地局装置から並行して信号を送信するのではなく、1つの基地局装置によって、例えば変調多値数を上げることや誤り訂正符号化率を上げることにより、1つの端末に対するスループットを向上させることは可能である。しかしながら、非特許文献2には、複数の端末で非直交に重畳された複数の信号を逐次除去しながら通信を行う方が、信号成分の除去を伴わずに個別の端末に専用のリソースを割り当てる場合より、システム全体のスループットが改善されうることが示されている。したがって、1つの基地局装置によって変調多値数や誤り訂正符号化率を上げることと比して、1つの端末が複数の信号を逐次的に除去しながら通信を行う方が、1つの端末に対するスループットが向上する効果が大きくなることを見込むことができる。
また、複数の基地局装置が連携して1つの端末へ信号を送信することにより、その端末との通信の高速化を行うためのセル間協調送受信(CoMP)は、従来より存在する(非特許文献4参照)。しかしながら、CoMPでは、送信側におけるプリコーディングに必要なチャネル情報のフィードバック量が膨大になるという課題があった。これに対して、本実施形態では、複数の基地局装置のそれぞれからの信号の受信電力差が分かれば足りるため、CoMPと比べて少量のフィードバックのみしか必要としない。また、場合によっては、例えば基地局装置が端末から送信された信号の電力を測定することにより、受信電力差のフィードバックすらも必要ではない。なお、基地局装置は、端末の位置の情報を取得して、その位置に応じて受信電力差を推定することもできる。このとき、端末の位置の情報をネットワーク側で推定する場合などでは、フィードバックをなくすことが可能である。
このような無線通信システムでは、端末は、自身に対して並行して信号を伝送する基地局装置の数を知ることが重要となる。すなわち、端末は、複数の基地局装置が並行して送信した信号を受信すると、受信信号に含まれる複数の信号成分の逐次的な復調と除去とを行うが、その逐次的な復調と除去とが行われるべき回数を知らなければならない。本来復調されるべき信号成分の復調が行われないことや、信号成分が残存していない状況で過剰に信号成分の復調及び除去を行うことによって通信が不安定になることを防ぐ必要があるためである。
本実施形態では、この必要性に鑑みて、複数の基地局装置の少なくとも1つが、端末に対して並行して信号を送信する複数の基地局装置の数の情報を通知する。そして、端末は、その通知された数に応じた回数だけ、信号成分の逐次的な復調と除去とを繰り返し実行する。なお、信号成分の逐次的な復調と除去とが行われる回数は、例えば通知された数そのもの又はそれ以上の回数でありうる。すなわち、その端末に向けて信号を送信する基地局装置の数に等しい回数だけ信号成分の逐次的な復調及び除去を行うだけでは、例えば他の基地局装置から他の端末へ宛てて送信された信号が受信された場合には対処できない。このため、端末は、通知された数に所定数を加えた数だけ、信号成分の復調及び除去を繰り返してもよい。このとき、端末は、他の端末へ送信された信号成分については、復調後、その信号成分で伝送されたデータを廃棄して、自身に宛てられた信号成分のみを受信データとして取り扱うことができる。また、端末は、自身に宛てられた信号成分の復調が通知された数に等しい回数だけ行われたかを監視し、その復調回数が通知された数に等しくなった時点で信号成分の復調と除去とを終了するようにしてもよい。これにより、端末は、自身に宛てられた全ての信号の復調を行うことができる。なお、複数の基地局装置が、他の端末へ送信された信号成分が所定電力以上のレベルで受信されないような周波数および時間リソースを用いている場合は、端末は、基地局装置から通知された数に等しい回数だけ信号成分の逐次的な復調及び除去を行ってもよい。
なお、複数の基地局装置の少なくとも1つは、並行して信号を送信する複数の基地局装置の数の情報に加え、使用する周波数および時間リソースの情報を、端末に通知してもよい。また、情報の通知には、一例では物理下りリンク制御チャネル(PDCCH)が用いられるが、その他のチャネルが用いられてもよい。ここで、基地局装置は、他の基地局装置の状況を考慮せずに制御信号を用いて使用される周波数および時間リソース及び並列して信号を送信する基地局装置の数を端末へ通知しうるため、複数の基地局装置が並列に制御信号を送信する場合が考えられる。しかしながら、このように同じ情報を複数の基地局装置から送信するのは無線リソースの浪費につながる。したがって、情報の通知は、1つの端末へ信号を送信する複数の基地局装置のうちの、1つの基地局装置のみによって行われてもよい。すなわち、基地局装置は、自身と並列して端末へ信号を送信する他の基地局装置が存在し、当該他の基地局装置が端末へ上述の情報の通知を行う場合、自身はその情報の通知を行わないようにしてもよい。これにより、例えば情報の通知を行わない基地局装置におけるPDCCHのリソースが解放されることとなる。この結果、例えば、その基地局装置が収容できる端末の数を増やすことが可能となり、システムスループットも改善されうる。
以下では、このような処理を行う基地局装置及び端末の構成と、基地局装置及び端末が実行する処理の流れについて、詳細に説明する。
(基地局装置及び端末のハードウェア構成)
図2に、基地局装置及び端末のハードウェア構成例を示す。基地局装置及び端末は、一例において、図2に示すようなハードウェア構成を有し、例えば、CPU201、ROM202、RAM203、外部記憶装置204、及び通信装置205を有する。基地局装置及び端末では、例えばROM202、RAM203及び外部記憶装置204のいずれかに記録された基地局装置及び端末のそれぞれに関する各機能を実現するプログラムがCPU201により実行される。
そして、基地局装置は、例えばCPU201により通信装置205を制御して、基地局装置とコアネットワーク内の各ノード又は他の基地局装置との有線または無線による通信と、端末との無線通信とを行う。また、端末は、例えばCPU201により通信装置205を制御して、基地局装置との無線通信を行う。なお、図2では、基地局装置及び端末は、1つの通信装置205を有するとしているが、これに限られず、複数の通信装置を有し得る。例えば、基地局装置は、コアネットワーク内の各ノード又は他の基地局装置との有線または無線通信用の第1の通信装置と、端末との無線通信用の第2の通信装置とを有し得る。
なお、基地局装置及び端末は、各機能を実行する専用のハードウェアを備えてもよいし、ハードウェアにより一部の機能を実行し、プログラムを動作させるコンピュータでその他の機能を実行してもよい。また、基地局装置及び端末の全機能がコンピュータとプログラムにより実行されてもよい。
(基地局装置の機能構成)
図3に、基地局装置の機能構成例を示す。基地局装置は、例えば、その構成として、第1通信部301、第2通信部302、基地局数判定部303、及びMCS選択部304を有する。
第1通信部301は、例えば、他の基地局装置(及び場合によってはコアネットワーク内のノード等)と通信を行う、有線または無線による通信インタフェースである。第2通信部302は、例えば、端末との通信を行う、無線通信インタフェースである。基地局数判定部303は、端末との間で並行して通信を行う基地局装置の数を判定する。MCS選択部304は、端末における信号成分の復調と除去とを考慮して得られる通信品質に基づいて、端末との通信に用いる変調方式及び誤り訂正符号化率を決定する。なお、不図示のリソース選択部によって端末との通信に用いる周波数および時間リソースが決定されてもよい。
基地局装置は、他の基地局装置と並行してある端末へ信号を送信する場合、第1通信部301を介して、当該他の基地局装置との間で、端末への並行した信号の送信のための情報の送信と、受信との少なくともいずれかを行う。例えば、基地局装置は、第1通信部301を介して、他の基地局装置が送信した信号の端末における受信電力の情報を取得する。同様に、基地局装置は、第1通信部301を介して、自身が送信した信号の端末における受信電力の情報を、他の基地局装置へ送信してもよい。受信電力の情報は、例えばSNRによって表されてもよい。受信電力の情報は、例えばMCS選択部304に入力されうる。なお、この受信電力の情報は、各基地局装置が送信した信号の受信電力差を特定するのに用いられる。
なお、基地局装置は、第2通信部302を介して、受信電力の情報のフィードバックを受信することにより、自身が送信した信号の端末における受信電力の情報を取得することができる。また、基地局装置は、端末によって送信された信号(例えば、サウンディング参照信号(SRS))が第2通信部302において受信された際の受信電力から、基地局装置が信号を送信した際のその信号の端末における受信電力を推定し得る。なお、基地局装置は、受信電力を推定するのではなく、例えば端末の位置を何らかの測位方式によって取得し、複数の基地局装置の位置とその端末の位置との関係に基づいて、複数の基地局装置が送信した信号の受信電力差を推定してもよい。
ここで、基地局数判定部303は、例えば、周辺の他の基地局装置から取得した受信電力の情報に基づいて、端末と並行して通信を行う複数の基地局装置を選択しうる。この選択は、例えば、それぞれの受信電力差が十分に大きい複数の基地局装置を抽出することにより行われうる。すなわち、信号成分間の受信電力差がない状況においては、信号成分の復調及び除去が失敗する確率が高くなってしまう。このため、それぞれが送信した信号の受信電力差が所定値以下であるような複数の基地局装置が、並行して端末へ信号を送信することがないようにして、上述の選択が行われうる。なお、端末の位置に基づいて、端末と並行して通信を行う複数の基地局装置が選択されてもよい。これは、上述のように、端末の位置によって、複数の基地局装置が送信した信号の受信電力差が推定されうることによるものである。
基地局数判定部303は、この選択に基づいて、ある端末と並行して通信を行う複数の基地局装置の数の情報を取得する。なお、この選択は、他の基地局装置又はネットワークノードによって行われてもよく、その場合、基地局数判定部303は、第1通信部301を介して、ある端末と並行して通信を行う複数の基地局装置の数の情報を取得しうる。そして、基地局数判定部303は、例えば、第2通信部302を介して、ある端末と並行して通信を行う複数の基地局装置の数の情報を端末へ送信する。ここで、第2通信部302は、例えば物理下りリンク制御チャネル(PDCCH)を介してその情報を端末へ送信しうる。
基地局装置は、さらに、第1通信部301を介して、使用する周波数および時間リソースを特定する情報を、共に端末へ信号を送信する他の基地局装置に対して送信し、又は他の基地局装置から受信しうる。すなわち、基地局装置は、上述の不図示のリソース選択部によって端末との通信に用いる周波数および時間リソースが決定される場合は他の基地局装置へその決定の結果を通知し、他の基地局装置がその決定を行う場合はその決定の通知を受信する。基地局装置は、使用される周波数および時間リソースを特定する情報を、第2通信部302を介して、端末へ通知し得る。ここで、第2通信部302は、例えば物理下りリンク制御チャネル(PDCCH)を介して、その情報を端末へ送信しうる。
なお、第2通信部302は、他の基地局装置が端末へ上述の各情報の通知を行う場合は、その情報の端末への通知を行わなくてもよい。これにより、複数の基地局装置が並行して同じ情報を端末へ送信することを防ぐことができ、端末への情報通知に伴う無線リソースの浪費を防ぐことが可能となる。また、情報の通知にPDCCHが用いられる場合、ある端末へ並行して信号を送信する複数の基地局装置のうちの1つの基地局装置を除く基地局装置は、PDCCHのリソースを使用する必要がなくなる。このため、これらの基地局装置は、その使用されなかったPDCCHのリソースを用いて、他の端末に対する制御情報を送信することができる。この結果、通信可能な端末数を増やすことができ、システム全体のスループットを向上させることができる。
なお、基地局装置は、端末への情報通知を行う1つの基地局装置を、例えば、基地局装置間の通信によって情報交換することにより決定し得る。例えば、端末へ並行して信号を送信する複数の基地局装置がそれぞれ送信した信号の端末における受信電力(場合によっては推定値)の値が最も大きい基地局装置が、端末へ情報を通知する基地局装置として決定されうる。また、その時点でのその端末のサービング基地局装置が、端末への情報通知を行う基地局装置となってもよい。
また、基地局装置は、ある端末と並行して通信を行う複数の基地局装置の間で、第1通信部301を介して、並行した通信のための設定に関する通信を行い得る。この設定は、例えば、端末において各基地局装置が送信した信号が何番目に復調されるかの情報と、その信号の前に復調されて除去される信号成分の情報との交換が含まれうる。これにより、各基地局装置は、例えば、自身が送信した信号が復調される際の、すなわち、先に復調されて除去された信号成分の影響を取り除いた、SINR(SIR)を推定することが可能となる。なお、このSINRの推定は、MCS選択部304によって行われうる。MCS選択部304は、例えば、各基地局装置が送信した信号が復調される際にまだ除去されずに残っている他の基地局装置が送信した信号成分を干渉として、自身が送信した信号の受信電力と干渉電力の和との比に基づいてSINRを推定する。例えば、第1の信号の端末におけるSNRがX[dB]であり、第2の信号の端末におけるSNRがY[dB]であり、X>Yであるとする。このとき、端末は、第1の信号を先に復調及び除去してから、第2の信号の復調を行う。すると、MCS選択部304は、第1の信号のSINRは例えばX−Y[dB]であり、第1の信号の除去が理想的であるとすれば、第1の信号除去後の第2の信号のSINRはY[dB]であると推定することができる。したがって、MCS選択部304は、自身が含まれる基地局装置が第1の信号を送信する場合には、SINRがX−Y[dB]である場合に、例えば所定のフレーム誤り率(例えば0.1未満)を達成できるMCSを選択する。一方、MCS選択部304は、自身が含まれる基地局装置が第2の信号を送信する場合には、SINRがY[dB]である場合に、例えば所定のフレーム誤り率を達成できるMCSを選択する。なお、干渉電力の和は、信号成分の除去の際のレプリカの誤差によって生じうる除去された信号の残存成分を考慮した値として算出されてもよい。すなわち、上述の例では、MCS選択部304は、第2の信号のSINRを、第1の信号の除去時の誤差としてΔX[dB]分の残存成分があるとして、Y−ΔX[dB]と推定し、これに基づいて第2の信号のMCSを選択してもよい。なお、MCSの選択は、複数の基地局装置のそれぞれのMCS選択部304において行われてもよいし、ある端末に対する複数の基地局装置による並行した通信を主導する1つの基地局装置のMCS選択部304のみによって行われてもよい。すなわち、複数の基地局装置がそれぞれ使用するMCSを選択してもよいし、複数の基地局装置が使用するMCSを1つの基地局装置が集中的に選択してもよい。なお、1つの基地局装置が他の基地局装置が使用するMCSを決定した場合は、基地局装置間の通信によって、選択されたMCSの通知が行われる。
(端末の機能構成例)
図4に、端末の機能構成例を示す。端末は、例えば、通信部401、基地局数取得部402、及び復調除去部403を有する。なお、復調除去部403は、復調部404と除去部405とを含みうる。
通信部401は、複数の基地局装置が送信した無線信号を受信する能力と、少なくとも1つの基地局装置へ信号を送信する能力とを有する、無線通信インタフェースである。通信部401は、例えば、端末へ信号を並行して送信する複数の基地局装置のうちの少なくとも1つから、通信に使用する周波数および時間リソースを指定する情報を取得して、その周波数および時間リソースにおいて、複数の基地局装置からの信号を受信する。なお、周波数および時間リソースを指定する情報は、例えば物理下りリンク制御チャネル(PDCCH)を介して、上述の複数の基地局装置のうちの少なくとも1つの基地局装置によって送信される。
基地局数取得部402は、例えば、通信部401を介して受信される無線信号のうち物理下りリンク制御チャネル(PDCCH)を監視して、少なくとも1つの基地局装置から通知される、並行して端末へ信号を送信する複数の基地局装置の数の情報を取得する。基地局数取得部402は、取得した並行して端末へ信号を送信する複数の基地局装置の数を復調除去部403へ入力する。
復調除去部403は、基地局数取得部402から入力された数に応じた数の信号成分の復調と除去とを行う。この復調と除去は、逐次的に行われうる。例えば、通信部401が受信した信号は、まず復調部404へ入力され、復調部404は、最も受信電力の高い信号成分の復調を行う。その後、除去部405によって、受信信号から復調された信号のレプリカが減算され、減算後の信号が復調部404へ入力される。そして、復調部404は、入力された信号から、2番目に受信電力の高い信号成分の復調を行う。その後、3番目の信号成分が存在する場合、除去部405において、最初に復調された信号が除去された後の信号から、2番目に受信電力の高い信号成分が除去され、復調部404は、その除去後の信号に基づいて3番目に受信電力の高い信号成分の復調を行う。このようにして、復調除去部403は、端末へ並行して信号を送信する複数の基地局装置の数に応じた回数だけ、信号成分の復調と除去とを行う。ここで、信号成分の復調の回数は、例えば基地局数取得部402から入力された数に等しい数であり、その場合、信号成分の除去の回数は、基地局数取得部402から入力された数から1を減じた数である。すなわち、例えば受信信号に3つの信号成分が含まれる場合、復調は最低3回行われる一方で、信号成分の除去は最低2回行われることとなる。
なお、復調除去部403は、基地局数取得部402から入力された数に応じた数の信号成分の復調と除去とを、最尤推定などによって同時に行われてもよい。この場合であっても、復調除去部403は、基地局数取得部402から入力された数に等しい数の、復調除去部403を含む端末に宛てられた信号成分を復調によって取得する。なお、各信号成分はそれぞれ別個のMCSが用いられるため、それぞれが分離される必要がある。この点で、最尤推定などによって同時に複数の信号成分の復調を行う場合であっても、ある1つの信号成分に着目すると、他の信号成分が除去されることとなる。そして、このときに除去される信号成分の数は、少なくとも基地局数取得部402から入力された数から1を減じた個数となる。このように、復調除去部403は、信号成分の復調及び除去の手法によらず、基地局数取得部402から入力された数に応じた数の信号成分の復調と除去とを行うこととなる。
(処理の流れ)
図5に、本実施形態の基地局装置及び端末が実行する処理の流れの例を示す。本例では、第1の基地局装置及び第2の基地局装置が、並行して1つの端末にデータ信号を送信する場合の処理の流れについて説明するが、並行して端末へ信号を送信する基地局装置の数は3つ以上であってもよい。
まず、処理が開始されると、第1の基地局装置及び第2の基地局装置は、それぞれ、自身が送信した無線信号の端末における受信電力の情報を取得する(S501、S502)。ここで、受信電力の情報は、例えば、端末からそれぞれの基地局装置又はいずれかの基地局装置へのフィードバックによって取得されうる。端末は、例えば、サービング基地局(例えば第1の基地局装置)に対して、観測可能な複数の基地局装置のそれぞれ(例えば第1の基地局装置及び第2の基地局装置)からの複数の信号の受信電力の情報をフィードバックする。なお、端末が複数の基地局装置によって送信された信号の受信電力の情報を1つの基地局装置に対してのみフィードバックする場合、その1つの基地局装置は、他の基地局装置へ、受信電力の情報を通知してもよい。また、第1の基地局装置及び第2の基地局装置は、端末から送信された信号(例えばサウンディング参照信号(SRS)などの上りリンク信号)をそれぞれ受信して、その受信電力から、自身が送信した信号の端末における受信電力を推定してもよい。
第1の基地局装置及び第2の基地局装置は、取得した受信電力の情報から、第1の基地局装置と第2の基地局装置とがそれぞれ送信した信号の端末における受信電力の差を推定する。なお、第1の基地局装置及び第2の基地局装置は、端末の位置の情報を取得して、その位置に基づいて、第1の基地局装置と第2の基地局装置とがそれぞれ送信した信号の端末における受信電力の差を推定してもよい。ここで、本例では、第1の基地局装置が送信した第1の信号の方が、第2の基地局装置が送信した第2の信号よりも、端末において高い電力で受信されたとする。
その後、第1の基地局装置及び第2の基地局装置のうち、自身が送信した信号の方が他方が送信した信号より高い電力で受信される方の基地局装置は、受信信号において、自身が送信した信号成分の、信号成分が除去される前のSINRを推定する。ここで、本例では、上述のように、第1の基地局装置が送信した信号の方が、第2の基地局装置が送信した信号よりも、端末において高い電力で受信されている。したがって、第1の基地局装置は、自身が送信した第1の信号について、干渉除去前の受信信号におけるSINRを推定する(S503)。ここで、第1の信号と第2の信号との電力比がW[dB]であり、雑音電力が第1の信号の受信電力と比して十分に小さいとすると、ここで推定される第1の信号のSINRは、おおむねW[dB]となる。第1の基地局装置は、この推定したSINRに基づいて、端末へ信号を伝送する際に用いる変調方式及び誤り訂正符号化率の組み合わせ(MCS)を決定する(S505)。
一方で、自身が送信した信号の方が他方が送信した信号より低い電力で受信される方の基地局装置は、受信信号から自身が送信したものより高い電力で受信される信号成分が除去された後の信号において、自身が送信した信号成分のSINRを推定する。本例では、第2の基地局装置は、受信信号から第1の信号の成分が除去された後の信号における、自身が送信した第2の信号についてのSINRを推定する(S504)。ここで、第2の信号の端末における受信SNRがV[dB]であるものとし、第1の信号の信号成分が理想的に除去できたとすると、ここで推定される第2の信号のSINRはV[dB]となる。なお、干渉除去を考慮しなければ、第1の信号と第2の信号との電力比がW[dB]である場合、SINRは概ね−W[dB]となるはずであるが、第1の信号の成分が除去されることにより、SINRが改善してV[dB]となることに留意されたい。すなわち、第2の信号は、第1の信号が除去されることによって通信可能な程度のSINRのレベルを得ることができるものである。第2の基地局装置も、第1の基地局装置と同様に、この推定したSINRに基づいて、端末へ信号を伝送する際に用いるMCSを決定する(S506)。なお、少なくとも一定期間にわたって使用されるMCSが予め定まっている場合は、MCSの決定は行われなくてもよい。
続いて、第1の基地局装置と第2の基地局装置は、端末へ送信すべき信号を生成する(S507、S508)。第1の基地局装置と第2の基地局装置は、共に端末に対して制御情報を送信してもよいが、ここでは、制御情報伝送用の無線リソースの削減のために、第1の基地局装置のみが、制御情報を送信するものとする。ここで、制御情報は、例えば、制御情報の送信先の端末と並行して通信を行う基地局装置の数の情報を含む。また、制御情報は、その複数の基地局装置が端末との通信に用いる周波数および時間リソースの情報を含みうる。さらに、複数の基地局装置がそれぞれ送信する信号について、上述のようにして決定されたMCSの情報が制御情報として通知されてもよい。この場合、複数の基地局装置は、端末へ制御情報を送信する基地局装置に対して、決定したMCSの情報を通知するようにしてもよい。なお、少なくとも一定期間にわたって使用される周波数および時間リソースが予め定まっており、その周波数および時間リソースが基地局装置と端末との間で知られている場合には、その通知は行われる必要はない。また、上述のように少なくとも一定期間にわたって使用されるMCSが予め定まっており、そのMCSが基地局装置と端末との間で知られている場合には、MCSの通知は行われる必要はない。なお、制御情報は、例えば物理下りリンク制御チャネル(PDCCH)によって送信されうる。
図5では、簡単のため、制御情報として端末と並行して通信を行う基地局装置の数のみが端末へ通知される場合を示している。この情報は、端末において復調されるべき信号成分の数に対応するため、端末に通知されなければならない。この情報がないと、端末において、一部の信号成分の復調が行われないことや、過剰に復調処理が行われることにより処理負荷が増大すると共に誤った情報の取得によりシステムが不安定になることなどが生じうるからである。このため、本例では、第1の基地局装置は、送信対象データのみならず、そのデータ送信先の端末と並行して通信を行う基地局装置の数の情報を含む信号を生成する(S507)。なお、この場合のデータ送信先の端末と並行して通信を行う基地局装置は、第1の基地局装置及び第2の基地局装置であるから、通知される数は「2」に設定される。
一方、第2の基地局装置は、送信対象データを含み、データ送信先の端末と並行して通信を行う基地局装置の数の情報については含まない信号を生成する(S508)。データ送信先の端末と並行して通信を行う基地局装置の数の情報は、第1の基地局装置から送信されるため、第2の基地局装置が送信する必要はないからである。なお、第2の基地局装置は、一例において、データ送信先の端末に対しては、物理下りリンク制御チャネル(PDCCH)を送信しない。PDCCHで送信されるべき情報も、第1の基地局装置から端末に送信されれば足りるからである。
その後、第1の基地局装置と第2の基地局装置は、並行して、生成した信号を送信する(S509、S510)。
端末は、第1の基地局装置及び第2の基地局装置がそれぞれ送信した複数の信号成分を含む信号を受信すると、まず、例えば物理下りリンク制御チャネル(PDCCH)を参照して、並行して通信する基地局装置の数の情報を抽出する(S511)。この場合、端末は、第1の基地局装置から送信された第1の信号の成分に含まれるPDCCHを参照することにより、この基地局装置の数の情報を抽出することができる。なお、このとき、第1の信号の成分に対して、第2の基地局装置から送信された第2の信号の成分が干渉したとしても、第1の信号の成分の方が第2の信号の成分よりも高い電力で受信されるため、端末は必要な情報を取得することができる。
続いて、端末は、信号成分が除去されていない受信信号において、受信電力が高い第1の信号の成分について、復調処理を行う(S512)。本処理では、端末は、例えば、第1の基地局装置から通知された第1の信号のMCSの情報に基づいて、第1の信号の復調処理を行う。すなわち、端末は、第1の信号の変調方式で与えられる送信信号のコンスタレーションと受信信号のコンスタレーションとの対応関係から、送信された変調シンボル列を特定する。そして、端末は、特定された変調シンボル列に対応するビット列に対して、第1の信号のMCSの誤り訂正符号化率に応じた誤り訂正復号化を行い、誤り訂正後のビット列を得る。このビット列が、第1の信号で送信されたデータとなる。
その後、端末は、自身に宛てられた全信号を復調したかを判定する(S513)。すなわち、端末は、例えば、S511で抽出した並行して通信を行う基地局装置の数に等しい数の信号成分の復調が完了したかを判定する。ここで、第1の信号の復調が終わった時点では、復調が完了した信号成分の数は「1」である。一方で、第1の基地局装置が通知する、並行して端末と通信を行う基地局装置の数は「2」である。したがって、ここでは、端末は、まだ自身に宛てられた全信号を復調していないと判定する(S513でNO)。そして、端末は、この第1の信号の成分を受信信号から除去する(S514)。信号の除去では、端末は、例えば、S512で得られた第1の信号で送信されたビット列に、第1の信号のMCSの誤り訂正符号化率に応じた誤り訂正符号化を行い、誤り訂正符号化後のビット列を取得する。そして、端末は、その誤り訂正符号化後のビット列を第1の信号の変調方式で変調し、変調シンボル列を取得し、変調シンボル列に第1の信号のチャネル推定値を乗じることにより、第1の信号のレプリカを生成する。そして、端末は、このレプリカを受信信号から減算することにより、第1の信号の成分を受信信号から除去する。
続いて、端末は、第1の信号の成分の除去がなされた信号において、第1の信号の次に受信電力が高い第2の信号の成分についての復調処理を行う(S512)。この処理は上述の第1の信号の復調処理と同様である。その後、端末は、自身に宛てられた全信号を復調したかを判定する(S513)。ここで、第2の信号の復調が終わった時点では、復調が完了した信号成分の数は「2」であり、第1の基地局装置が通知した、並行して端末と通信を行う基地局装置の数は「2」と等しくなる。このため、端末は、自身に宛てられた全信号を復調したと判定し(S513でYES)、そのまま復調処理を終了する。
なお、上述の例では、端末が信号成分を逐次的に除去する処理の流れについて説明したが、端末は、複数の信号成分を一括して復調してもよい。この場合であっても、端末は、自身に宛てられた信号成分の全てについての復調が行われたかを判定し、自身に宛てられた全信号成分の復調が完了していない場合は、処理を繰り返す。このとき、端末は、先に行った復調処理の結果を用いてレプリカ信号を受信信号から除去した後に、同様の複数の信号成分の一括復調処理を繰り返すことができる。
なお、ここまでの説明では、基地局装置が、端末に対して、並行してその端末へ信号を送信する基地局装置の数を通知する場合の例について説明した。しかしながら、端末は、自身に対して並行して信号を送信する基地局装置の数を自律的に推定して、その推定に基づいて、信号成分の復調及び除去処理を繰り返してもよい。例えば、端末は、事前に複数の基地局装置から送信された信号を観測し、信号の復調を行うことができる程度の電力で受信される信号の送信元の基地局装置の数をカウントして、その基地局装置の数を限度に並行して信号が送信されうると推定してもよい。この場合、端末は、その記憶しておいた基地局装置の数に基づいて(例えばその数に等しい又はそれ以下の回数だけ)、信号成分の復調及び除去を繰り返す。また、端末は、受信信号に対して、復調によって有意な情報を取り出すことができなくなるまで、信号成分の復調及び除去を繰り返すようにしてもよい。ここで、有意な情報を取り出すことができる信号成分とは、例えば、誤り訂正復号によって誤りを訂正できる信号成分でありうる。これにより、端末は、並行して信号を送信する基地局装置の数の通知を受けなくても、複数の基地局装置から並行して信号を受信することが可能となる。
このようにして、複数の基地局装置が並行して1つの端末に非直交の信号を伝送し、端末がその信号を除去しながら復調することにより、1つの端末に対するスループットを高めることが可能となる。また、複数の基地局装置が並行して1つの端末に信号を送信する際の、端末からのフィードバック量を従来のシステムと比して大幅に低減し、又は場合によっては端末からのフィードバックをなくすことができる。また、上述のような手法が用いられることにより、複数の基地局装置が送信する信号が互いに干渉することが問題とならなくなるため、システム全体の通信容量が改善し得る。