JP6462822B2 - 生分解性材料 - Google Patents
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Description
本実施形態に係る生分解性材料の構成成分に関して説明する。本実施形態に係る生分解性材料は、生分解性ポリエステルを基材とし、当該基材中にハイドロキシアパタイト粒子が練り込まれた材料である。以下に、本実施形態に係る生分解性材料の原材料である、ポリエステル(ポリエステル基材)及びリン酸カルシウム粒子に関して説明する。
本実施形態に係る生分解性材料は、ポリエステルを基材とする。当該ポリエステルを生分解性のポリエステルとすることで、このような材料を、例えば生体内に適用した場合には、経年により体内にて分解されることで、最終的には体内に残らない(異物として体内に残存しない)こととなる。ここで、生分解性ポリエステルとは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを主成分として重縮合した脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル、菌体内で生合成される脂肪族ポリエステル等の結晶性樹脂等を例示出来る。脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えばポリシュウ酸エステル、ポリコハク酸エステル、ポリヒドロキシ酪酸、ポリジグルコール酸ブチレン、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、例えば乳酸、リンゴ酸若しくはグルコール酸等のオキシ酸の重合体又はこれらの共重合体等のヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル樹脂等を例示出来る。中でも、成形性、耐熱性、耐衝撃性及び生分解性等の面から、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル樹脂(特にポリ乳酸)が好ましい。
次に、本実施形態に係る生分解性材料に用いられるリン酸カルシウム粒子の、種類、好適な態様としての焼成体、粒径、製造方法に関して説明する。
リン酸カルシウムは、カルシウムイオンと、リン酸イオンからなる塩であり、具体的には、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム(α−リン酸三カルシウムやβ−リン酸三カルシウム)、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、ハイドロキシアパタイト(HAp)、フルオロアパタイト(FAp)、炭酸アパタイト(CAp)、銀アパタイト(AgHAp)等が例示出来る。これらの内、リン酸カルシウム粒子をハイドロキシアパタイト粒子とすることにより、酸中和能を向上することが可能なため、特に好適である。尚、ここでいうハイドロキシアパタイト(HAp:Hydroxyapatite)とは、化学式Ca10(PO4)6(OH)2で示される塩基性のリン酸カルシウムを示す。
リン酸カルシウム粒子としては、焼成されたリン酸カルシウム粒子(以下、焼成リン酸カルシウム粒子等とする。)を用いることが好適である。リン酸カルシウム粒子を焼成(例えば、800℃で1時間)することにより、粒子の結晶性が高くなり、且つ複数の一次粒子の凝集体が熱により融着して、より強固で安定な粒子となる。尚、リン酸カルシウム粒子が焼成されているか否かは、当該粒子の結晶性の度合いにより判断することができる。リン酸カルシウム粒子の結晶性の度合いは、X線回折法(XRD)により測定することが出来、各結晶面を示すピークの半値幅が狭ければ狭いほど結晶性が高いといえる。例えば、リン酸カルシウムがハイドロキシアパタイトである場合には、本形態における焼成ハイドロキシアパタイト粒子とは、d=2.814での半値幅が0.8以下(好適には、0.5以下)の高結晶性のハイドロキシアパタイト粒子をいう。
本実施形態に係る生分解性材料に用いられるリン酸カルシウム粒子の粒径は、10nm以上1000nm以下である。本実施形態に係る生分解性材料を生体内に適用した場合、ポリエステル基材の分解に伴い、一部のリン酸カルシウム粒子がポリエステル基材から脱落し、生体内へと放出される。ここで、リン酸カルシウム粒子の粒径を10nm未満とした場合には、生体内へと放出されたリン酸カルシウム粒子は、リン酸カルシウム粒子が小さ過ぎることに起因し、生体における血管内皮細胞間の隙間(一般に、15〜20nmと言われている。)を容易に透過し拡散する可能性がある。対して、リン酸カルシウム粒子の粒径を10nm以上(血管内皮細胞間に存在する隙間の大きさに近いかそれ以上となる粒径)とすることにより、血管内皮細胞間の隙間を介したリン酸カルシウム粒子の拡散が行われ難くなる(換言すれば、リン酸カルシウム粒子が、ポリエステル基材が分解することにより生じる酸性成分の存在領域に留まり易くなる)。そのため、ポリエステル基材内部(又は表面)に存在するリン酸カルシウム粒子と合わせ、ポリエステル基材から放出されたリン酸カルシウム粒子をも、酸中和成分として寄与させることが可能となる。他方、リン酸カルシウム粒子の粒径を1000nm超とした場合には、リン酸カルシウム粒子は、ポリエステル基材に分散された際に、当該ポリエステル基材における欠陥となり得るため、生分解性材料の機械的強度が大幅に低下され得る。また、リン酸カルシウム粒子径が大き過ぎる場合には、ポリエステル基材からリン酸カルシウム粒子が脱落し易くなり、ポリエステル基材が分解することにより生じる酸性成分に対する中和能が低下してしまう(生分解性材料全体のpH安定性が保たれなくなる)。このような、リン酸カルシウム粒子の機能を十分に発揮させつつも、分解性材料の機械的強度の低下を防ぐ、という効果をより高めるために、リン酸カルシウム粒子の粒径は、10nm以上500nm以下であることがより好適である。
本実施形態に係るリン酸カルシウム粒子としては、一般的なリン酸カルシウム粒子の製造方法によって製造されたリン酸カルシウム粒子を用いればよい。溶液法(湿式法)、乾式法又は熱水法等が挙げられ、特に工業的に大量生産する際には、溶液法(湿式法)が用いられる。溶液法(湿式法)とは、中性若しくはアルカリ性の水溶液中でカルシウムイオンとリン酸イオンとを反応させることにより合成する方法であり、中和反応によるものや、カルシウム塩とリン酸塩を反応させるものがある。また、一次粒子を焼成する等し、粒子を凝集させたより粒径の大きい粒子としたり、より緻密な粒子としたりすることも可能である。また、例えば、micro−SHAp(IHM−100P000、ソフセラ社)等のように、種々のハイドロキシアパタイト粒子が市販されており、その製造法や形状・特性等も様々なものが入手可能である。
尚、本実施形態に係る生分解性材料は、その他の成分として、更に抗生剤、抗癌剤、免疫抑制剤、細胞増殖抑制剤、抗血栓剤、抗血小板薬、抗炎症薬、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗高脂血症剤、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質、タンパク質、サイトカイン、ビタミン類、糖類、生体由来材料、無機塩等を含んでいてもよい。
<配合量>
ポリエステルとリン酸カルシウム粒子との合計含有量は、本実施形態に係る生分解性材料の質量を基準として、1〜100質量%が好適であり、10〜100質量%がより好適であり、50〜100質量%がより好適である。
リン酸カルシウム粒子とポリエステルとの配合量比(リン酸カルシウム粒子:ポリエステル)としては、質量比で0.01:99.99〜70:30であることが好適であり、0.05:99.95〜60:40であることがより好適であり、0.1:99.9〜50:50であることが特に好適である。ポリエステルとリン酸カルシウム粒子の配合量比をこのような範囲とすることにより、機械的強度を保持しつつ、分解生成物に由来する酸の中和効果発現が期待できる。
次に、本実施形態に係る生分解性材料の、各物性に関して詳述する。
本形態に係る生分解性材料は、少なくとも数週間程度の形状保持性及び表面性状保持性を有する程度の機械的強度を有する。
測定対象となる生分解性材料を生理食塩水溶液中に浸漬し、適当な温度にて適当な時間静置した後、当該水溶液のpH値を調べることで、pH安定性を測定可能である。ポリエステル基材が浸漬された生理食塩水溶液では、ポリエステル基材の分解(酸性成分の放出)が進行し、pH値が低くなる方へ変化するが、当該試験にて測定されたpH値が7に近い程、生分解性材料のpH安定性が高く、生体内に生分解性材料を適用しても、炎症等を抑制することが可能であるといえる。本実施形態に係る生分解性材料は、リン酸カルシウム粒子による酸中和能が発揮され易いように構成されているため、pH安定性も高いものとなる。
以上、本実施形態に係る生分解性材料の構造及び物性等について説明したが、続いて、上述した構造及び物性を有する生分解性材料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る生分解性材料の製造方法における原料である、リン酸カルシウム粒子の種類や製造方法、ポリエステル基材のポリエステルの種類、並びにリン酸カルシウム粒子やポリエステルの配合量等に関しては上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
上記に示した配合量にて配合したポリエステル及びリン酸カルシウム粒子を混練することで、生分解性材料を製造する。尚、当該混練方法としてはどのような方法であってもよいが、例えばポリマーを各種溶媒へ溶解しリン酸カルシウム粒子を混合する、ポリマーを加熱溶融しリン酸カルシウム粒子を混合する、等とすればよい。次に、当該混合物を所望の用途に合わせた形状として成形する。このような成形方法としては、既存の方法(例えば、射出形成、押出成形、ブロー成形等)を適宜用いればよい。
本実施形態に係る生分解性材料は、高いpH安定性と、十分な機械的強度と、を有する生分解性材料であり、様々な用途に使用することが可能である。例えば、生体材料等として用いることが出来、特に体内留置型生体材料用(例えばステント等)としても好適に用いることが出来る。
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。尚、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
(SHApの製造)
(SHAp/PLGAフィルムの製造)
PLGA(シグマアルドリッチ社製RG 752 H/乳酸:グリコール酸=75:25)とSHAp(IHM−100P000、ソフセラ社製、焼成ハイドロキシアパタイト、平均粒径43nm)とを、質量比(SHAp/PLGA)で、0/100,1/99,5/95,10/90及び30/70にて混合し、当該混合物をシート状のサンプル(約400mg)に形成した。
リン酸生理食塩水(PBS)を充填させたサンプル管に前記サンプルを浸して蓋をし、37℃でインキュベートした。その後、異なるインキュベーション時間{0日(インキュベーション前)、1週間、3週間}にて前記サンプルを取り出し(それぞれn=7)、乾燥させた後の前記サンプルの質量を測定した。その後、重量変化及び表面性状(SEMで観察)及び重量平均分子量変化を評価した。尚、比較のため、SHApを含有しないものについての引張強度と、PBSでのインキュベーション前のサンプルの分子量と、も測定した。
(重量変化)
図1は、実施例及び比較例に係るフィルムの重量の経時変化を示した図である。この結果から、SHApの有無によらず、いずれのサンプルも同様の重量減少傾向が確認された。尚、当該結果から、21日を経ても重量減少が10%程度であるため、材料の「形」自体はほとんど変化を生じていないことが分かる。言い換えれば、分解によって表面が粗造になることも無く、ポリマー分解による血流の乱流発生が起こりにくいことが分かる。
図2は、実施例及び比較例に係るフィルムの表面性状のSEM写真である。当該写真から分かるように、SHApの有無による差異は見出せず、また、21日後でも表面の性状はほとんど変化しなかった。この結果から、SHApが多く含まれている系でも、表面に大きなクラックやホールを確認できず、21日経過では、分解が進んでいたとしても表面の性状が大きく変化しないことが判明した。
図3は、実施例及び比較例に係る各サンプルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に浸漬し、37℃で静置し、回収したPLGAフィルムの重量平均分子量を測定した結果を示した図である。ここで、縦軸は分子量(表記した数字は、実際の値の千分の一)、横軸は経過時間を表す。当該図から分かるように、スタート時は、約21万の分子量であったが、7日目には、当初の1/3程度まで分解が促進した。尚、7日経過の段階で、SHApの有無による差異は無かった。言い換えれば、SHApの有無がポリマーの分解速度に大きな影響を及ぼさないことが判明した(21日目でも同傾向)。尚、別実験にて、粒子径が大きいと、粒子の脱落が生じ、材料と媒体(生体内の水)との接触面積が大きくなるため、加水分解が促進され、分子量低下が加速し、十分な機械的強度が保てる期間が短くなってしまうことも確認された。
図4は、実施例及び比較例に係る各サンプルを生理食塩水中に浸漬し、37℃で静置し、得られた溶液のpHを測定した結果を示した図である。スタート時点の溶液はpH:6.37であった。尚、縦軸数値が小さくなるほど、酸性に偏っていることを示し、逆に、数値が大きくなるほど、中性(7)、それ以上であれば、アルカリ性に偏っていることを表している。7日後、生理食塩水中に何も浸していないコントロール群(Saline;破線)は、ほぼ横ばいの6.32であった(若干、経時的に酸性よりに変化しているが、大気中の二酸化炭素の溶存量の差による影響であり、誤差範囲)。また、SHApを含んでいないPLGAシートを浸したコントロール群(PLGA;破線)は、少し中性よりに変化し、6.55であった。他方、SHApを含むPLGAシートを浸した群では、すべて中性よりに変化した。特に、SHAp含有量が5重量%以上の実施例について特に大きく中性よりに変化した。尚、21日経過後は、生理食塩水中に何も浸していないコントロール群は、若干酸性に偏ったもののほぼ横ばいであった。また、SHApを含んでいないPLGAシートを浸したコントロール群は、顕著に酸性に偏った。一方、SHApを含むPLGAシートを浸した系は、いずれも、スタート時点よりも中性よりに液性が変化していることが明らかとなった。このように、SHApの有無で比較すると、SHApを含まない系と比べ歴然とした差を見出すことが出来た。
以上のデータより、従来より生分解性ポリマーの分解生成物が酸性を示すことにより炎症を惹起することが指摘されてきた問題をSHApが緩和できることが判明した。
Claims (4)
- ポリエステルを含有する生分解性材料を用いた体内留置型の部材であって、前記生分解性材料が、平均粒径が10〜500nmである焼成体リン酸カルシウム粒子を含み、前記焼成体リン酸カルシウム粒子が生分解性材料基材中に練り込まれていることを特徴とする部材。
- 前記焼成体リン酸カルシウム粒子が焼成体ハイドロキシアパタイト粒子である、請求項1記載の部材。
- 前記焼成体リン酸カルシウム粒子の含有量が、前記材料の総質量を基準として、0.1〜50質量%である、請求項1又は2記載の部材。
- ステントである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の部材。
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