以下、図面を参照して、実施形態に係る超音波診断装置、画像処理装置及び画像処理プログラムを説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aの構成例を示す図である。図2は、第1の実施形態に係る変位分布演算部92aの構成例を示す図である。図3は、第1の実施形態に係る歪み分布演算部93aの構成例を示す図である。図1に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aは、超音波プローブ2と、モニタ3と、入力装置4と、装置本体5aとを有する。
超音波プローブ2は、超音波の送受信を行う。超音波プローブ2は、装置本体5aに着脱可能に設けられ、バッキング材、整合層及び複数の振動子を有する。超音波プローブ2が有する複数の振動子は、装置本体5aが有する送受信部6から供給される駆動信号に基づいて、被検体Pの組織へ超音波を送信する。超音波プローブ2が有する複数の振動子は、被検体Pの組織により反射された超音波を受信し、これを電気信号に変換する。
振動子は、ジルコン酸チタン酸塩、ポリフッ化ビニリデン等、圧電効果を示す材料で作製されている。バッキング材は、振動子に対して被検体Pとは反対側に設けられている。バッキング材は、振動子から被検体Pへ向う方向以外の方向への超音波の伝搬を抑制する。整合層は、振動子と被検体Pとの間に設けられている。整合層は、振動子が送信した超音波を被検体Pの組織に効率的に伝搬させる役割を果たす。第1の実施形態では、超音波プローブ2として、全ての振動子が直線上に配列されたリニア電子スキャンプローブを例に挙げて説明する。
超音波プローブ2から被検体Pの組織へ送信された超音波は、音響インピーダンスの不連続面で反射され、超音波プローブ2が有する振動子によって受信される。受信される反射波の振幅は、超音波が反射される点における音響インピーダンスの差に依存する。超音波が反射される点における音響インピーダンスの差が大きい程、超音波が強く反射される。
モニタ3は、装置本体5aが生成した表示用画像データに基づいて画像を表示する。また、モニタ3は、超音波診断装置1aの操作者が入力装置4を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示する。
入力装置4は、超音波診断装置1aの操作者から各種設定要求を受け付け、これを装置本体5aへ転送する。入力装置4は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール等である。例えば、操作者が、入力装置4が有するフリーズボタンを押下すると、超音波の送受信が終了し、超音波診断装置1aは、一時停止状態となる。また、例えば、フリーズボタンを操作者が押下すると、超音波診断装置1aは、リアルタイム表示モードから動画再生モードに移行する。
装置本体5aは、図1に示すように、送受信部6と、信号処理部7aと、リファレンス情報生成部10と、内部記憶部20と、画像生成部30と、画像メモリ40と、制御部50とを有する。
送受信部6は、パルサ回路、送信遅延回路及びトリガ発生回路を有する。送受信部6は、超音波プローブ2に超音波走査、すなわち超音波による走査を実行させる。パルサ回路は、所定のレート周波数で、被検体Pへ送信する超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生させる。送信遅延回路は、超音波プローブ2が有する各振動子に必要な送信遅延時間を、パルサ回路が発生させた各レートパルスに与える。これにより、超音波プローブ2が送信する超音波をビーム状にし、送信指向性を持たせることができる。トリガ発生回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ2の各振動子に駆動信号を印加する。超音波プローブ2の各振動子に印加された駆動信号は、振動子によって超音波を発生させる機械的振動に変換される。送受信部6は、送信遅延時間を振動子ごとに調整することにより、超音波の送信方向やフォーカス点を変化させることができる。
なお、送受信部6は、後述する制御部50の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更することができる。例えば、送信駆動電圧の変更は、瞬時にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路又は複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
送受信部6は、アンプ回路、A/D変換器、加算器等を有する。送受信部6は、超音波プローブ2が受信した反射波に基づく受信信号に各種処理を行って受信データを生成する。ここで、受信データは、振幅、周波数、位相、波長、波数、包絡線等の情報を含む。アンプ回路は、受信信号をチャンネルごとに増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正された受信信号をA/D変換し、受信指向性を決定するために必要な受信遅延時間をチャンネルごとに与える。加算器は、与えられた受信遅延時間に基づき、受信信号の加算処理を行って受信データを生成する。加算器の加算処理により、受信信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。送受信部6が生成した受信データは、信号処理部7aへ送信される。受信データの形態は、RF信号やIQ信号と呼ばれる位相が含まれた信号、包絡線検波処理後の振幅等を選択することができる。
なお、送受信部6は、後述する制御部50の制御により、受信遅延時間、送信周波数、送信駆動電圧、開口素子数等を瞬時に変更することができる。また、送受信部6は、一つのフレーム又はレートパルスごとに、異なる波形を送信して受信することもできる。
例えば、送受信部6は、超音波の送受信ごとに走査線の位置をずらすことにより、1フレーム分の受信データを生成する。送受信部6が超音波プローブ2の各振動子に駆動信号を印加して、超音波の送受信を行う領域は、走査範囲と呼ばれる。
信号処理部7aは、送受信部6から受信データを受信し、受信した受信データに対して信号処理を行う。図1に示すように、信号処理部7aは、Bモード処理部8と、組織情報処理部9aとを有する。
Bモード処理部8は、送受信部6から受信した受信データに対して対数増幅、包絡線検波処理等を行い、受信データの振幅を輝度に変換したBモードデータを生成する。Bモードデータは、後述する画像生成部30によって、走査範囲内の各点で反射された反射波の強度を輝度で表示したBモード画像データに変換される。なお、図示していないが、信号処理部7aは、受信データを周波数解析することでドプラ効果に基づく移動体の運動情報を抽出したドプラデータを生成するドプラ処理部を有する。移動体としては、血流、組織、造影剤エコー成分等が挙げられる。ドプラ処理部は、例えば、移動体の運動情報として、平均速度、分散値、パワー値等を多点に渡り抽出したドプラデータを生成する。
組織情報処理部9aは、図1に示すように、境界特定部91と、変位分布演算部92aと、歪み分布演算部93aと、歪み比演算部94とを有する。組織情報処理部9aは、送受信部6から受信した受信データに基づいて、走査範囲の組織の変位、歪み及び歪み比を所定の時間間隔で算出する。すなわち、組織情報処理部9aは、エラストグラフィーを行うエラストモードが指定された場合に、組織の硬さをカラースケールで表示するために用いる各種情報を受信データから算出する。
境界特定部91は、走査範囲内又は超音波画像内で隣接する領域の境界を特定する。境界特定部91は、例えば、BモードデータやBモード画像データから隣接する領域のエッジを検出し、検出したエッジにカーブフィッティングを行い、このカーブフィッティングの結果を隣接する領域の境界と特定する。なお、境界は、走査範囲内において二次元的又は三次元的に存在する。
変位分布演算部92aは、第2の領域を設定する前に、境界を含む第1の領域を設定し、第1の領域の受信データを削除し、第1の領域に変位の算出に使用する受信データを付加し、変位分布を演算する。変位分布演算部92aは、図2に示すように、第1の領域特定部921a、受信データ削除部922a、受信データ付加部923a及び変位算出部924aを有する。変位分布演算部92aは、走査範囲内の変位分布を演算する。例えば、変位分布演算部92aは、同一の走査線上において、変位の算出に使用する第1局所領域の各位置における受信データの相互相関を隣接するフレーム間で算出し、走査範囲内の変位分布を演算する。或いは、変位分布演算部92aは、隣接するフレーム間で、同一の走査線の受信データを周波数解析することで、走査範囲内の各点の移動速度を算出し、移動速度を時間積分することで、走査範囲内の変位分布を演算してもよい。また、変位分布演算部92aは、第1の領域の受信データを削除し、第1の領域に変位の算出に使用する受信データを付加する代わりに、第1の領域の受信データに定数倍等の処理を施してもよい。
歪み分布演算部93aは、境界を含む第2の領域を設定し、第2の領域に歪みの演算に使用する変位を付加した変位分布に基づいて、歪み分布を演算する。歪み分布演算部93aは、図3に示すように、第2の領域特定部931a、変位付加部933a及び歪み算出部934aを有する。歪み分布演算部93aは、走査範囲内の歪み分布を演算する。例えば、歪み分布演算部93aは、走査線上において、歪みの算出に使用する第2局所領域において、変位分布演算部92aが演算した変位分布を空間微分することで、走査範囲内の歪み分布を演算する。なお、例えば、第2局所領域における変位の空間微分により得られた歪みは、第2局所領域の中心の歪みとされる。
歪み比演算部94は、走査範囲内の所定の二つの領域内の歪み分布の統計値の比である歪み比を演算する。まず、操作者は、歪み比を算出するために、歪み分布上で標的領域及び参照領域を設定する。標的領域は、例えば、操作者が病変部であると判断した領域に設定される。参照領域は、例えば、操作者が正常であると判断した領域や、超音波プローブ2と被検体Pとの間に挟まれた超音波カプラに設定される。次に、歪み比演算部94は、標的領域における歪みの統計値及び参照領域における歪みの統計値を演算する。統計値は、標的領域又は参照領域の歪みの平均値、中央値、上位「n」位の値等である。ここで、上位「n」位の値とは、標的領域又は参照領域の内部の歪みの中で、大きい値から順に「n」番目の値を意味し、「n」は自然数となる。最後に、歪み比演算部94は、標的領域における歪みの統計値を参照領域における歪みの統計値で割った値を歪み比として算出する。
なお、組織情報処理部9aが有する境界特定部91、変位分布演算部92a、歪み分布演算部93a及び歪み比演算部94の詳細については後述する。信号処理部7aが生成する各種データは、生データとも呼ばれる。
リファレンス情報生成部10は、エラストグラフィーを行うために、例えば、操作者が超音波プローブ2を被検体Pの表面に接触させた状態で加振して、組織に対する圧迫及び解放を繰り返すことで組織に応力を加えている状態に関する指標を縦軸とし、経過時間を横軸とするリファレンス情報を生成する。指標としては、例えば、歪み分布表示領域に表示されている領域内の歪みの平均を歪み分布表示領域に表示されている領域内の歪みの分散で割った値が挙げられる。この指標は、値が大きいほど平均値に対するばらつきが小さく、組織への応力の加え方が適切であることを意味する。このため、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aの操作者は、リファレンス情報を参照することにより、組織への応力の加え方が適切か否かを判断することができる。生成されたリファレンス情報は、モニタ3へ送信される。ここで、指標は、上述した値に限定されない。例えば、指標として、組織の平均移動速度を採用することができる。また、指標を演算するタイミングは、特に限定されない。
操作者は、リファレンス情報を参照し、例えば、組織への応力の加え方が適切であると判断した時点でフリーズボタンを押下し、モニタ3に表示されている画像を静止状態とし、装置本体5aの処理を停止させる。フリーズボタンが押下され、動画再生モードへの移行要求を受け付けられると、後述する制御部50の制御により、後述する画像メモリ40は、動画再生モードへの移行要求を受け付ける直前から過去に所定期間だけ遡った分の指標及び表示用画像データを記憶する。操作者は、画像メモリ40に記憶された複数のフレームを動画再生し、診断に最適であると思われるフレームを選択する。そして、操作者は、選択したフレーム上で標的領域及び参照領域を選択する。
内部記憶部20は、医師の所見等の診断情報、装置本体5aを制御するための制御プログラム、診断プロトコル、各種グラフィック等を記憶する。また、内部記憶部20は、必要に応じて、後述する画像メモリ40が記憶する表示用画像データの保管に使用してもよい。なお、内部記憶部20が記憶しているデータは、図示しないインターフェース回路を経由して、外部の周辺装置へ転送することができる。
画像生成部30は、信号処理部7a及びリファレンス情報生成部10により得られた走査線上の信号をテレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査に変換し、モニタ3にBモード画像、歪み分布画像、リファレンス情報、各種グラフィック等を表示するための表示用画像データを生成する。この処理を、スキャンコンバートと呼ぶ。表示用画像データとは、Bモード画像データ、歪み画像データ、リファレンス情報画像データ、合成画像データ等である。
例えば、画像生成部30は、Bモード処理部8が生成したBモードデータから、モニタ3にBモード画像を表示するためのBモード画像データを生成する。画像生成部30は、歪み分布演算部93aが演算した歪み分布から、モニタ3に被検体Pの組織の歪みをカラースケールで表示するための歪み画像データを生成する。画像生成部30は、リファレンス情報生成部10が生成したリファレンス情報から、モニタ3にリファレンス情報を表示するためのリファレンス情報画像データを生成する。画像生成部30は、モニタ3に各パラメータの文字情報、各種グラフィックを表示するための合成画像データを生成する。
なお、画像生成部30は、スキャンコンバート以外に、例えば、スキャンコンバート後の複数のフレームを用いて、輝度の平均値画像を生成する平滑化処理を行う。また、画像生成部30には、表示用画像データを格納する記憶メモリが搭載されている。
画像メモリ40は、画像生成部30が生成した表示用画像データを記憶するメモリである。例えば、画像メモリ40は、フリーズボタンが押下される直前の複数のフレームに対応する表示用画像データを保存する。超音波診断装置1aは、この画像メモリ40に記憶されている画像を連続表示(シネ表示)することで、動画を表示することができる。また、画像メモリ40は、生データを記憶することもできる。画像メモリ40に記憶された生データは、例えば、診断の後に呼び出すことが可能となっており、画像生成部30を経由して表示用画像データとなる。
制御部50は、超音波診断装置1aにおける処理全体を制御する。具体的には、制御部50は、入力装置4を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部20から読み込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部6、信号処理部7a、リファレンス情報生成部10、内部記憶部20及び画像生成部30を制御する。また、制御部50は、画像メモリ40が記憶する表示用画像データ等をモニタ3にて表示するように制御する。
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aの全体構成について説明した。このような構成の下で、超音波診断装置1aは、エラストグラフィーを行う。なお、上記の説明では、超音波プローブ2を被検体Pの表面に接触させた状態で加振して、組織に対する圧迫及び解放を繰り返すことで組織に応力を加え、歪み情報を生成する場合について説明した。ただし、第1の実施形態は、上記以外の方法により行なわれるエラストグラフフィーにも適用することができる。例えば、被検体Pの組織を振動させるために、高音圧の超音波であるプッシュパルスを送信して、組織内を伝搬する横波であるせん断波を発生させるエラストグラフフィーにも適用することができる。また、例えば、超音波診断装置1aとは別の機器を用いて、被検体Pの組織に振動を与えるエラストグラフフィーにも適用することができる。
次に、図4及び図5を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aの処理の一例について説明する。図4は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aの処理例を示すフローチャートである。図5は、第1の実施形態に係るモニタ3の表示例を示す図である。
図4に示すように、制御部50が、エラストグラフィーのリアルタイム表示モードの開始要求を受け付けたか否かを判定する(ステップS101)。リアルタイム表示モードの開始要求を受け付けない場合(ステップS101否定)、制御部50は、リアルタイム表示モードの開始要求を受け付けるまで待機する。リアルタイム表示モードの開始要求を受け付けた場合(ステップS101肯定)、制御部50は、エラストモードでの処理を開始させる。
制御部50が、送受信部6によって、1フレーム分の受信データが生成されたか否かを判定する(ステップS102)。1フレーム分の受信データが生成されていない場合(ステップS102否定)、制御部50は、1フレーム分の受信データが生成されるまで待機する。1フレーム分の受信データが生成された場合(ステップS102肯定)、制御部50の制御により、組織情報処理部9aが歪み分布を演算する(ステップS103)。ステップS103の詳細は後述する。
リファレンス情報生成部10が、リファレンス情報を生成する(ステップS104)。画像生成部30が、モニタ3にBモード画像、歪み分布画像、リファレンス情報、各種グラフィック等を表示するための表示用画像データを生成する(ステップS105)。
制御部50の表示制御により、モニタ3が、表示用画像データに基づいた画像を表示する(ステップS106)。具体的には、図5に示すように、モニタ3には、歪み分布画像表示領域31、Bモード画像表示領域32、リファレンス情報表示領域33、演算結果表示領域34、カラースケールC及びグレースケールGが表示される。歪み分布画像表示領域31には、歪み分布画像が表示される。Bモード画像表示領域32には、Bモード画像が表示される。リファレンス情報表示領域33には、リファレンス情報が表示される。演算結果表示領域34には、後述する歪み及び歪み比の演算結果が表示される。カラースケールCは、歪み分布演算部93aによって算出された歪みの大きさを示す。グレースケールGは、Bモード画像の輝度の大きさを示す。
制御部50が、動画再生モードへの移行要求を受け付けたか否か、すなわち、フリーズボタンが押下されたか否かを判定する(ステップS107)。動画再生モードへの移行要求を受け付けない場合(ステップS107否定)、制御部50は、ステップS102に戻って、新たな1フレーム分の受信データが生成されたか否かを判定する。動画再生モードへの移行要求を受け付けた場合(ステップS107肯定)、制御部50が、リファレンス情報に基づいて、操作者が組織への応力の加え方が適切であると判断したフレームを取得する(ステップS108)。ここで、ステップS107肯定の場合、制御部50は、動画再生モードへの移行要求を受け付ける直前から過去に所定期間だけ遡った分の指標及び表示用画像データを画像メモリ40に保存する。制御部50が、ステップS108で選択したフレーム上で操作者が設定した標的領域T及び参照領域Rを取得する(図5及びステップS109)。
歪み比演算部94が、標的領域Tにおける歪みの統計値を参照領域Rにおける歪みの統計値で割った値である歪み比を演算する(ステップS110)。図5に示すように、標的領域Tにおける歪みの統計値は、演算結果表示領域34の「Strain T」欄に、参照領域Rにおける歪みの統計値は、演算結果表示領域34の「Strain R」欄に、歪み比は、演算結果表示領域34の「Strain Ratio T」欄に表示される。図5では、標的領域Tにおける歪みの統計値は「a%」、参照領域Rにおける歪みの統計値は「b%」、歪み比は「c」と表示されている。
次に、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aの歪み分布の演算方法について説明する。図6は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aの歪み分布の演算方法を示すフローチャートである。以下では、図6のフローチャートを中心に、図7〜図14を適宜参照しながら、超音波診断装置1aの歪み分布の演算方法について説明する。第1の実施形態に係る超音波診断装置1aは、次のような処理を行う。まず、変位分布演算部92aが、境界の位置に基づく第1の領域を設定し、第1の領域に対応する受信データを変更し、第1の変位分布を演算する。次に、変位付加部933aが、境界の位置に基づく第2の領域を設定し、第2の領域に第2の変位分布を付加する。最後に、歪み分布演算部が、変位分布演算部が演算した第1の変位分布に基づいて、歪み分布を演算する、歪み分布を演算する。以下、これらの詳細について説明する。
第1の実施形態では、超音波カプラと被検体Pとの音響インピーダンスの差が大きいため、両者の境界で強い超音波の反射が起こる場合を考える。
図7は、境界特定部91が、超音波カプラCaと被検体Pとの境界Baを特定した状態を示す図である。図6のステップS11及び図7に示すように、境界特定部91が、超音波カプラCaと被検体Pとのエッジを検出し、検出したエッジにカーブフィッティングを行い、境界Baを特定する。つまり、カーブフィッティングの結果が境界Baとなる。エッジを検出する方法としては、例えば、キャニー法が挙げられる。また、検出したエッジにカーブフィッティングを行う方法としては、例えば、RANSAC(Random Sample Consensus)等のロバスト推定法、最小二乗法、最尤推定法が挙げられる。
図8は、第1の領域特定部921aが、第1の領域Daを設定した状態を示す図である。図6のステップS12及び図8に示すように、第1の領域特定部921aが、第1の領域Daを設定する。第1の領域Daは、例えば、強い超音波の反射が起こっている境界Ba全てを含むように設定される。
図9は、受信データ削除部922aが、第1の領域Daの受信データを削除し、受信データ付加部923aが、第1の領域Daに受信データを付加することを説明する図である。図6のステップS13及び図9に示すように、走査線Xa上において、受信データ削除部922aが、第1の領域Daの受信データを削除し(図9(a)から図9(b))、受信データ付加部923aが、第1の領域Daの内部に変位分布を演算するための受信データを付加する(図9(b)から図9(c))。受信データ付加部923aは、第1の領域Daに、例えば、走査線Xa上において、第1の領域Daに隣接する領域の受信データから推定した受信データを付加する。具体的には、図9(c)の矢印Aで示すように、受信データ付加部923aは、走査線Xa上において、第1の領域Daに隣接する領域の受信データと同様の受信データを付加する。なお、第1の領域Daに付加する受信データの推定に用いる受信データを取得する領域は、走査線Xaと平行な方向に沿って近似的に決定するようにしてもよい。
図10は、変位算出部924aが、受信データ付加部923aが付加した受信データに基づいて、走査線上の変位分布を演算した状態を示す図である。図6のステップS14及び図10に示すように、変位算出部924aが、変位分布を演算する。具体的には、変位算出部924aが、受信データ付加部923aが付加した受信データに基づいて、走査線上で第1局所領域LDaを用いた変位分布の演算を行う。より具体的には、変位算出部924aが、走査線上で第1局所領域LDaをずらしながら、隣接するフレーム間で第1局所領域LDaにおけるRF信号の相互相関を取ることにより各点の変位を逐一計算し、変位分布を求める。図10に示す一例では、変位分布は、屈曲した折れ線で表されている。変位分布が屈曲している点は、超音波カプラCaと被検体Pとの境界Ba上の点である。図10において点線で囲まれた部分が、受信データ付加部923aが付加した受信データに基づいて演算された変位分布である。受信データ付加部923aが、特異的に大きくない適正な大きさの受信データを付加しているため、変位算出部924aは、第1局所領域LDaを用いて、第1の領域Da内の変位を正確に算出することができる。変位分布演算部92aは、上述した計算を走査範囲内の走査線上で行うことで、変位分布を演算する。変位分布演算部92aが演算した変位分布は、第1の変位分布とも呼ぶこともある。
これまでに説明したように、変位分布演算部92aは、送受信部6から受信した受信データに基づいて、超音波カプラCa及び被検体Pの組織の変位分布を演算する。ただし、変位分布演算部92aが変位分布を演算する方法は、上述した方法に限定されるものではない。例えば、変位分布演算部92aは、ドプラ法により算出された組織の移動速度を時間積分することにより、超音波カプラCa及び被検体Pの組織の変位分布を演算してもよい。
図11は、第2の領域特定部931aが境界Baによって隔てられた二つの領域を分割し、第2の領域Saを設定した状態を示す図である。図6のステップS15及び図11に示すように、第2の領域特定部931aが、境界Baによって隔てられた二つの領域を分割し、第2の領域Saを設定する。第2の領域Saは、境界Ba全体に接触した帯状の領域である。また、第2の領域Saは、各走査線上における幅が、前記境界の近傍の変位分布に基づいて算出される歪みの精度が低下する幅以上となっている。
図12は、変位付加部933aが、走査線上において、第2の領域Saに歪み分布算出部934aが歪みを算出する際に使用する変位を付加した状態を示す図である。図6のステップS16及び図12に示すように、変位付加部933aが、第2の領域Saに歪み算出部934aが歪み分布の演算に使用する変位を付加する。図12に示すように、変位付加部933aは、走査線上において、被検体P側の変位分布を超音波カプラCa側に伸ばした線分L11及び超音波カプラCa側の変位分布を被検体P側に伸ばした線分L12で表される変位を付加する。すなわち、変位付加部933aは、走査線毎に第2の変位分布を付加する。なお、線分L11の下端及び線分L12上端は、境界Baと各走査線の交点と一致している。図12は、変位付加部933aが、一本の走査線上で行う処理を示した図である。変位付加部933aは、この処理を走査範囲内の走査線上で行う。
図13は、歪み算出部934aが、走査線上において、変位付加部933aが付加した変位に基づいて、歪み分布を算出した状態を示す図である。図14は、歪み算出部934aが、図13に示した変位分布及び歪み分布を接続した図である。図6のステップS17、図13及び図14に示すように、歪み算出部934aが、歪みを演算し、境界Baによって分割された二つの領域を接続する。
まず、歪み算出部934aが、変位付加部933aが付加した変位に基づいて、走査線上で第2局所領域LSaを用いた歪み分布の演算を行う。具体的には、歪み算出部934aが、走査線上で第2局所領域LSaをずらしながら、第2局所領域LSa上で変位分布の空間微分を取って各点の歪みを逐一計算し、歪み分布を求める。
この時点で、図13に示すように、歪み分布は、送受信方向に平行な二本の線分で表されている。変位付加部933aが、線分L11で表される変位を付加しているため、歪み算出部934aは、第2局所領域LSaを用いて、被検体P側の歪みを正確に算出することができる。この歪みの算出結果は、図13に線分L13で示されている。同様に、変位付加部933aが、線分L12で表される変位を付加しているため、歪み算出部934aは、第2局所領域LSaを用いて、超音波カプラCa側の歪みを正確に算出することができる。この歪みの算出結果は、図13に線分L14で示されている。歪み分布演算部93aは、上述した計算を走査範囲内の走査線上で行うことで、歪み分布を演算する。すなわち、歪み分布演算部93aは、走査範囲を構成する走査線毎に歪み分布を演算する。
図6のステップS17及び図14に示すように、歪み算出部934aが、分割された二つの領域を接続する。一本の走査線上で最終的に演算された歪み分布は、送受信方向に平行な二本の線分と、これらに直交する線分とを組み合わせた折れ線で表されている。また、被検体P側の歪みを正確に算出するために付加された変位及び超音波カプラCa側の歪みを正確に算出するために付加された変位は、削除されている。図14において、点線で囲まれた歪み分布が、図6に示した演算方法により演算された歪み分布である。
歪み算出部934aによって算出された歪み分布は、必要に応じて規格化される。歪みは、組織の硬さを示す指標となる。これは、硬い組織は変形し難いため、歪みの値は小さくなり、軟らかい組織は変形し易いため、歪みの値は大きくなるからである。
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aにおける歪み分布の演算方法について説明した。第1の領域特定部921aが、算出される変位の精度が他の領域よりも低い可能性が高い領域である第1の領域Daを設定する。受信データ削除部922aが、第1の領域Daの受信データを削除し、受信データ付加部923aが、第1の領域Daに変位分布を算出する受信データを付加する。変位算出部924aが、変位分布を算出する。このため、超音波診断装置1aは、境界Baで強い超音波の反射が起っている場合でも、第1の領域Daの変位分布をより正確に演算することができる。
第2の領域特定部931aが、算出される歪みの精度が他の領域よりも低くなる領域である第2の領域Saを設定する。変位付加部933aは、歪みの算出に使用する変位を付加する。歪み算出部934aが、歪み分布を算出する。このため、超音波診断装置1aは、第2の領域Saの歪み分布をより正確に算出することができる。また、より正確な歪み分布が算出されるため、超音波診断装置1aは、歪み分布の規格化及び歪み比の算出を適切に行うことができる。また、超音波診断装置1aは、第2の領域Saの歪み分布をより正確に算出することができるため、歪み比を算出する際に使用する参照領域R及び標的領域Tを設定することができる範囲が狭くなることを抑制することができる。
なお、境界特定部91が所定の走査範囲のBモード情報から隣接する領域の境界Baを特定し、生成部がBモード情報に基づいて所定の走査範囲の第1の歪み情報を生成し、変位付加部が第2の領域Saに付加した変位に基づいて第1の歪み情報のうち境界Baの近傍の歪みが変更された第2の歪み情報を生成し、モニタ3が第2の歪み情報に基づいて、第2の歪み情報を表示してもよい。なお、生成部は、例えば、図1に示した画像生成部30である。Bモード情報は、上述したBモード画像データに対応する。第1の歪み情報は、第2の領域Saに変位を付加しない変位分布に基づいて演算した歪み分布に対応する。第2の歪み情報は、第2の領域Saに変位を付加した変位分布に基づいて演算した歪み分布に対応する。このような方法でも、上述した効果が実現される。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、超音波カプラと被検体Pとの音響インピーダンスの差が小さいため、第1の実施形態とは異なり、両者の境界で強い超音波の反射が起こらない場合を考える。第2の実施形態に係る超音波診断装置1bは、次のような処理を行う。まず、変位分布演算部が、境界を含む第1の領域に対応する受信データに基づいて、第1の領域に対応する第1の変位分布を演算する。次に、境界の位置に基づく第2の領域を設定し、第2の領域に第2の変位分布を付加する。最後に、歪み分布演算部が、第1の変位分布の境界の位置に基づく一部と第2の変位分布に基づいて、歪み分布を演算する。以下の説明では、上述した実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、重複する内容の説明は省略する。
図15は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1bの構成例を示す図である。図15に示すように、第2の実施形態に係る超音波診断装置1bは、装置本体5bを有する。装置本体5bは信号処理部7bを有し、信号処理部7bは組織情報処理部9bを有する。組織情報処理部9bは、変位分布演算部92b及び歪み分布演算部93aを有する。変位分布演算部92bは、受信データに基づいて、超音波診断装置1bの走査範囲内の変位分布を演算する。歪み分布演算部93aは、第1の実施形態と同様である。なお、第2の実施形態に係る超音波診断装置1bの処理全体の流れは、例えば、図4と同様の流れとすることができる。
次に、第2の実施形態に係る超音波診断装置1bの歪み分布の演算方法について説明する。図16は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1bの歪み分布の演算方法を示すフローチャートである。以下では、図16のフローチャートを中心に、図17〜図21を適宜参照しながら、超音波診断装置1bの歪み分布の演算方法について説明する。なお、以下で説明する超音波診断装置1bの歪み分布の演算方法は、図4のステップS103の詳細である。
図17は、境界特定部91が、超音波カプラCbと被検体Pとの境界Bbを特定した状態を示す図である。図16のステップS21及び図17に示すように、境界特定部91が、超音波カプラCbと被検体Pとのエッジを検出し、検出したエッジにカーブフィッティングを行い、境界Bbを特定する。
図18は、第2の領域特定部931aが、境界Bbによって隔てられた二つの領域を分割し、第2の領域Sbを設定した状態を示す図である。図16のステップS22及び図18に示すように、変位分布演算部92bが、走査範囲内の変位分布を演算した後、第2の領域特定部931aが、境界Bbによって隔てられた二つの領域を分割し、第2の領域Sbを設定する。
図19は、変位付加部933aが、走査線上において、第2の領域Sbに歪み算出部934aが歪みを算出する際に使用する変位を付加した状態を示す図である。図16のステップS23及び図19に示すように、変位付加部933aが、第2の領域Sbに、歪み算出部934aが歪み分布を算出する際に使用する変位を付加する。図19に示すように、変位付加部933aは、走査線上において、被検体P側の変位分布を超音波カプラCb側に伸ばした線分L21及び超音波カプラCb側の変位分布を被検体P側に伸ばした線分L22で表される変位を付加する。なお、線分L21の下端及び線分L22上端は、境界Bbと各走査線の交点と一致している。図19は、変位付加部933aが、一本の走査線上で行う処理を示した図である。変位付加部933aは、この処理を走査範囲内の走査線上で行う。
図20は、歪み算出部934aが、走査線上において、変位付加部933aが付加した変位に基づいて、歪み分布を算出した状態を示す図である。図16のステップS24に示すように、歪み算出部934aが、歪み分布を算出し、境界Bbによって分割された二つの領域を接続する。
まず、歪み算出部934aが、変位付加部933aが付加した変位に基づいて、走査線上で第2局所領域LSbを用いた歪み分布の演算を行う。具体的には、歪み算出部934aが、走査線上で第2局所領域LSbをずらしながら、第2局所領域LSb上で変位分布の空間微分を取って各点の歪みを逐一計算し、歪み分布を求める。
この時点で、図20に示すように、歪み分布は、送受信方向に平行な二本の線分で表されている。変位付加部933aが、線分L21で表される変位を付加しているため、歪み算出部934aは、第2局所領域LSbを用いて、第2の領域Sbのうち被検体P側の歪みを正確に算出することができる。この歪みの算出結果は、図20に線分L23で示されている。同様に、変位付加部933aが、線分L22で表される変位を付加しているため、歪み算出部934aは、第2局所領域LSbを用いて、第2の領域Sbのうち超音波カプラCb側の歪みを正確に算出することができる。この歪みの算出結果は、図20に線L24で示されている。歪み分布演算部93aは、上述した計算を走査範囲内の走査線上で行うことで、歪み分布を算出する。
図21は、歪み算出部934aが、図20に示した歪み分布を接続した図である。図16のステップS24及び図21に示すように、歪み算出部934aが、ステップS22で分割された二つの領域を接続する。一本の走査線上で最終的に算出された歪み分布は、送受信方向に平行な二本の線分と、これらに直交する線分とを組み合わせた折れ線で表されている。図21において、点線で囲まれた歪み分布が、図16に示した演算方法により演算された歪み分布である。
以上、第2の実施形態に係る超音波診断装置1bにおける歪み分布の演算方法について説明した。第2の領域特定部931aが、算出される歪みの精度が他の領域よりも低くなる領域である第2の領域Sbを設定する。変位付加部933aは、歪みの算出に使用する変位を付加する。歪み算出部934aが、歪み分布を算出する。このため、超音波診断装置1bは、第2の領域Sbの歪み分布をより正確に算出することができる。また、より正確な歪み分布が算出されるため、超音波診断装置1bは、歪み分布の規格化及び歪み比の算出を適切に行うことができる。また、超音波診断装置1bは、第2の領域Sbの歪み分布をより正確に算出することができるため、歪み比を算出する際に使用する参照領域R及び標的領域Tを設定することができる範囲が狭くなることを抑制することができる。
また、第2の実施形態に係る超音波診断装置1bは、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aとは異なり、第1の領域の設定、第1の領域の受信データの削除及び第1の領域の受信データの付加を行わない。このため、第2の実施形態に係る超音波診断装置1bは、第1の実施形態に係る超音波診断装置1aに比べて、歪み分布を迅速に演算することができる。
なお、歪み分布を演算する際に、第1の実施形態の演算方法と第2の実施形態の演算方法のいずれを採用するかは、例えば、操作者が、モニタ3に表示されたBモード画像を参照し、場面に応じた演算方法を選択できるようにしてもよい。
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、走査範囲内に、病変部及び歪みを算出することができない組織が存在する場合を考える。歪みを算出することができない組織としては、例えば、血管等の内腔が挙げられる。以下の説明では、上述した実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、重複する内容の説明は省略する。
図22は、第3の実施形態に係る超音波診断装置1cの構成例を示す図である。図23は、第3の実施形態に係る変位分布演算部92cの構成例を示す図である。
図22に示すように、第3の実施形態に係る超音波診断装置1cは、装置本体5cを有する。装置本体5cは信号処理部7cを有し、信号処理部7cは組織情報処理部9cを有する。組織情報処理部9cは、変位分布演算部92c及び歪み分布演算部93cを有する。
変位分布演算部92cは、図23に示すように、第1の領域特定部921c、受信データ付加部923c及び変位算出部924cを有する。第1の領域特定部921cは、第1の領域を設定する。受信データ付加部923cは、第1の領域に変位算出部924cが変位を算出する際に使用する受信データを付加する。変位算出部924cは、受信データ付加部923cが付加した受信データに基づいて、走査線上で第1局所領域を用いた変位分布の算出を行う。歪み分布演算部93cは、受信データに基づいて、走査範囲内の変位分布を演算する。
次に、第3の実施形態に係る超音波診断装置1cの歪み分布の演算方法について説明する。図24は、第3の実施形態に係る超音波診断装置1cの歪み分布の演算方法を示すフローチャートである。以下では、図24のフローチャートを中心に、図25〜図28を適宜参照しながら、超音波診断装置1cの歪み分布の演算方法について説明する。
図25は、境界特定部91が正常部F3と歪みを算出することができない組織Tとの境界Bcを設定した状態を示す図である。図24のステップS31及び図25に示すように、境界特定部91が、正常部F3と歪みを算出することができない組織Tとのエッジを検出し、検出したエッジにカーブフィッティングを行い、境界Bcを設定する。
図26は、第1の領域特定部921cが、第1の領域Dcを設定した状態を示す図である。図24のステップS32及び図26に示すように、第1の領域特定部921cが、境界Bcの内側に、境界Bcに接触している第1の領域Dcを設定する。第1の領域Dcは、境界Bc全体に接触している。また、第1の領域Dcは、各走査線上において、第1局所領域LDc上で隣接するフレーム間でRF信号の相互相関を取ることによる変位の算出を、境界Bcまで正確に及び行うために十分な長さを有する。例えば、第1局所領域の相互相関で得られた変位が、第1局所領域の中心の変位とされる場合、各走査線上における第1の領域Dcの長さは、第1局所領域LDcの長さの半分以上の長さを有する。
図27は、受信データ付加部923cが、第1の領域Dcに変位分布を演算するための受信データを付加することを説明する図である。図24のステップS33及び図27に示すように、受信データ付加部923cが、走査線Xc上において、第1の領域Dcに変位分布を演算するための受信データを付加する。受信データ付加部923cが受信データを付加する方法は、第1の実施形態に係る受信データ付加部923aが行う方法と同様である。
図24のステップS34に示すように、変位算出部924cが、組織T以外の領域の変位分布を算出する。変位算出部924cは、変位分布を演算する際に、図26に示した第1局所領域LDcを使用する。変位算出部924cが行う変位分布の算出の具体的な方法は、上述した実施形態と同様である。
図24のステップS35に示すように、歪み分布演算部93cが、歪みを正確に算出できる領域のみ歪み分布を算出する。具体的には、歪み分布演算部93cが、歪み分布の演算に使用する第2局所領域をずらしながら、第2局所領域上で変位分布の空間微分を取って各点の歪みを逐一計算し、歪み分布を求める。歪み分布演算部93cが行う歪み分布の演算の具体的な方法は、上述した実施形態と同様である。なお、歪み分布演算部93cが歪み分布を演算しなかった領域は、モニタ3において、歪み分布の演算を行っていないことを示す色やパターンを表示するようにしてもよい。歪み分布の演算を行っていないことを示す色としては、例えば、上述したカラースケールで使用しない色が挙げられる。
以上、第3の実施形態に係る超音波診断装置1cにおける歪み分布の演算方法について説明した。超音波診断装置1cは、歪みを正確に算出できる領域のみ歪み分布の演算を行う。このため、超音波診断装置1cは、より正確な歪み分布を演算することができる。また、超音波診断装置1cは、算出される歪みが不正確になる領域の歪み分布を演算しないため、歪みの規格化に使用する値が不正確になることを抑制することができる。
図28は、歪み分布演算部93cが演算し、規格化した歪み分布を示す図である。図28は、図25及び図26に示した病変部LEcと交差する走査線上において、歪み分布演算部93cが演算した歪み分布の一例を示す図である。歪み分布演算部93cが、歪みを正確に演算できない領域まで歪み分布を演算した場合、歪みの規格化に使用する値が不正確になる。このため、図28に点線で示したように、病変部LEcの歪みと正常部F3の歪みとの差が不明確になってしまい、操作者が両者を識別することが困難になってしまう。しかし、歪み分布演算部93cが、歪みを正確に算出できる領域のみ歪み分布を演算した場合、歪みの規格化に使用する値が不正確になることを抑制することができる。このため、図28に実線で示したように、病変部LEcの歪みと正常部F3の歪みとの差が明確になり、操作者が両者を識別することが容易になる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、走査範囲内に、超音波を強く反射する膜に覆われた病変部が存在する場合を考える。以下の説明では、上述した実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、重複する内容の説明は省略する。
図29は、第4の実施形態に係る超音波診断装置1dの構成例を示す図である。図30は、第4の実施形態に係る変位分布演算部92dの構成例を示す図である。
図29に示すように、第4の実施形態に係る超音波診断装置1dは、装置本体5dを有する。装置本体5dは信号処理部7dを有し、信号処理部7dは組織情報処理部9dを有する。組織情報処理部9dは、変位分布演算部92d及び歪み分布演算部93cを有する。
図30に示すように、変位分布演算部92dは、第1の領域特定部921d、受信データ削除部922d及び変位算出部924dを有する。第1の領域特定部921dは、第1の領域を設定する。受信データ削除部922dは、第1の領域に変位算出部924dが変位を算出する際に使用する受信データを付加する。変位算出部924dは、走査線上で第1局所領域を用いた変位分布の算出を行う。歪み分布演算部93cは、受信データに基づいて、走査範囲内の変位分布を演算する。
次に、第4の実施形態に係る超音波診断装置1dの歪み分布の演算方法について説明する。図31は、第4の実施形態に係る超音波診断装置1dの歪み分布の演算方法を示すフローチャートである。以下では、図31のフローチャートを中心に、図32〜図35を適宜参照しながら、超音波診断装置1dの歪み分布の演算方法について説明する。
図32は、境界特定部91が正常部F4と病変部LEdとの境界Bdを特定した状態を示す図である。図31のステップS41及び図32に示すように、境界特定部91が、正常部F4と病変部LEdとのエッジを検出し、検出したエッジにカーブフィッティングを行い、境界Bdを特定する。図32に示すように、境界Bdは、超音波を強く反射する膜Mと重複している。
図33は、第1の領域特定部921dが、境界Bdを第1の領域Ddとした状態を示す図である。図31のステップS42及び図33に示すように、第1の領域特定部921dが、境界Bdを第1の領域Ddと設定する。つまり、第1の領域Ddは、境界上Bdに設定される。走査線上において、第1の領域Ddは点となる。
図34は、受信データ削除部922dが、第1の領域Ddの受信データを変更することを説明する図である。図31のステップS43及び図34に示すように、受信データ削除部922dが、第1の領域Ddの受信データを変更する。図34に示すように、走査線Xd上において、受信データ削除部922dが受信データを変更する領域は、二点のみである。
図31のステップS44に示すように、変位算出部924dが、変位を正確に算出できる領域の変位分布を算出する。変位算出部924dが行う変位分布の算出の具体的な方法は、上述した実施形態と同様である。
図35は、歪み分布演算部93cが演算した歪み分布を示す図である。図31のステップS45及び図35に示すように、歪み分布演算部93dが、歪みを正確に算出できる領域のみ歪み分布を演算する。具体的には、歪み分布演算部93cが、歪み分布の演算に使用する第2局所領域が境界Bdに接触しない範囲で、第2局所領域をずらしながら、第2局所領域上で変位分布の空間微分を取って各点の歪みを逐一計算し、歪み分布を求める。歪み分布演算部93cが行う歪み分布の演算の具体的な方法は、上述した実施形態と同様である。なお、第3の実施形態と同様に、歪み分布演算部93cが歪み分布を演算しなかった領域は、モニタ3において、歪み分布の演算を行っていないことを示す色やパターンを表示するようにしてもよい。
以上、第4の実施形態に係る超音波診断装置1dにおける歪み分布の演算方法について説明した。超音波診断装置1dは、歪みを正確に算出できる領域のみ歪み分布の演算を行う。このため、超音波診断装置1dは、より正確な歪み分布を演算することができる。また、超音波診断装置1dは、算出される歪みが不正確になる領域の歪み分布を演算しないため、歪みの規格化に使用する値が不正確になることを抑制することができる。
図35は、図32及び図33に示した病変部LEdと交差する走査線上において、歪み分布演算部93cが算出した歪み分布の一例を示している。歪み分布演算部93cが、歪みを正確に算出できない領域まで歪み分布を演算した場合、歪みの規格化に使用する値が不正確になる。このため、図35に点線で示したように、病変部LEdの歪みと正常部F4の歪みとの差が不明確になってしまい、操作者が両者を識別することが困難になってしまう。しかし、歪み分布演算部93cが、歪みを正確に算出できる領域のみ歪み分布を演算した場合、歪みの規格化に使用する値が不正確になることを抑制することができる。このため、図35に実線で示したように、病変部LEdの歪みと正常部F4の歪みとの差が明確になり、操作者が両者を識別することが容易になる。
(第5の実施形態)
これまでは、境界が自動で特定される場合について説明したが、第5の実施形態では、操作者が境界を特定する。以下の説明では、上述した実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、重複する内容の説明は省略する。
図36は、第5の実施形態に係る超音波診断装置の処理例を示すフローチャートである。まず、モニタが、Bモード画像を表示する(ステップS401)。境界特定部が、操作者の指示に基づいて、境界を特定する(ステップS402)。例えば、境界特定部は、操作者がモニタに表示されたBモード画像上でポインタ等のGUIを用いて決めた位置を境界として特定する。最後に、超音波診断装置の制御部が、図4のステップS101〜ステップS110の処理を行う(ステップS403)。
以上、第5の実施形態に係る超音波診断装置における歪み分布の演算方法について説明した。第5の実施形態に係る超音波診断装置は、境界特定部が、操作者が決めた位置を境界として特定するため、エッジ検出やカーブフィッティングを適切に行うことが困難な場合でも、適切な境界を特定することができる。したがって、第5の実施形態に係る超音波診断装置は、第1の領域や第2の領域を適切に特定することができる。このため、第5の実施形態に係る超音波診断装置は、第2の領域の歪み分布をより正確に演算することができる。また、より正確な歪み分布が演算されるため、第5の実施形態に係る超音波診断装置は、歪み分布の規格化及び歪み比の算出を適切に行うことができる。また、第5の実施形態に係る超音波診断装置は、第2の領域の歪み分布をより正確に演算することができるため、歪み比を算出する際に使用する参照領域及び標的領域を設定することができる範囲が狭くなることを抑制することができる。
上述の実施形態では、超音波診断装置がリニア電子スキャンプローブを有し、リニア走査を行う場合を例に挙げて説明したが、超音波プローブの方式及び走査方式は特に限定されない。超音波プローブの方式としては、例えば、コンベックス電子スキャンプローブ、セクタ電子スキャンプローブ、穿刺プローブ、術中プローブ、体腔内プローブを採用することができる。また、走査方式としては、例えば、セクタ走査、オフセットセクタ走査、アーク走査、ラジアル走査を採用することができる。
上記の実施形態では、いずれも、境界特定部が一つの境界を特定する場合について説明したが、境界は複数特定されてもよい。
なお、上記の実施形態で説明した画像処理方法は、超音波診断装置とは独立に設置され、上記の信号処理部7a〜7d等の機能を有する画像処理装置が、送受信部6から受信データを取得して、実行する場合であっても良い。
また、上記の実施形態で図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
また、上記の実施形態で説明した画像処理方法は、予め用意された画像処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この画像処理プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この画像処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
以上、説明したとおり、上記の実施形態によれば、被検体の組織の歪みをより正確に算出することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。