ところで、上記の通り、スマートフォンのカバーガラスには、強化ガラスが使用されているが、このカバーガラスは破損する場合がある。
本発明者の解析によると、カバーガラスの破損は、主に端面に衝撃が加わることにより発生する。この破損を低減する対策として、端面に存在するクラックが進展しないように、端面の応力深さを大きくすることが有効である。しかし、端面の応力深さを大きくすると、内部の引っ張り応力値が大きくなり、強化ガラスが自己破壊し易くなる。特に、カバーガラスを薄型化した場合に、その傾向が顕著になる。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、端面に衝撃が加わった場合でも破損し難い強化ガラス及びその製造方法を創案することである。
本発明者は、鋭意検討の結果、強化ガラス中に所定粒径の異物を導入すると、端面を起点に発生するクラックが進展し難くなることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスにおいて、ガラス内部に粒径0.1〜100μmの異物を有することを特徴とする。
本発明の強化ガラスは、ガラス内部に粒径0.1〜100μmの異物を有している。異物の粒径が小さ過ぎると、クラックの進展を阻害する効果を享受し難くなる。一方、異物の粒径が大き過ぎると、カバーガラスの透明性が低下し易くなる。ここで、「粒径」とは、異物の長径の寸法を指す。
第二に、本発明の強化ガラスは、異物がジルコン系異物(ジルコンを主成分として含む異物)であることが好ましい。図1は、ガラス内部に存在するジルコン系異物の顕微鏡写真であり、このジルコン系異物の粒径は約16μmである。
第三に、本発明の強化ガラスは、異物がガラス内部に分散した状態で存在することが好ましい。
第四に、本発明の強化ガラスは、異物の個数が0.05〜1000000個/kgであることが好ましい。ここで、「異物の個数」は、エッジライトを照射しながら目視でカウントしたものである。
第五に、本発明の強化ガラスは、ガラス内部にオーバーフローダウンドロー法による合わせ面を有し、異物が合わせ面の近傍に偏在していることが好ましい。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の成形体の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを成形体の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を製造する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面となるべき面は成形体の表面に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価に製造することができる。また、「異物が合わせ面の近傍に偏在している」とは、合わせ面から厚み方向に±0.05mmの領域における異物の個数割合(単位体積当たりの個数)が、それ以外の領域に比べて、2倍以上大きいことを意味する。
第六に、本発明の強化ガラスは、端面に圧縮応力層を有しない領域を有することが好ましい。従来まで、強化ガラスは、予め強化用ガラスを所定形状に切断した後、イオン交換処理する方法、所謂、「強化前切断」で作製されていたが、近年、大型の強化用ガラスをイオン交換処理した後、所定サイズに切断する方法、所謂、「強化後切断」が検討されている。強化後切断を行うと、強化ガラス板や各種デバイスの製造効率が飛躍的に向上するという利点がある。しかし、「強化後切断」の場合、端面に圧縮応力層を有しない領域、特に引っ張り応力層が露出するため、端面強度が低下し易くなり、端面を起点にして強化ガラスが破損し易くなる。そこで、強化ガラス中に所定粒度の異物を導入すると、端面を起点にしたクラックの発生を抑制し易くなる。
図2は、本発明の強化ガラスの一例を示す断面概念図である。図2から分かるように、強化ガラス1の両表面2、3には圧縮応力層4、5を有し、端面6、7には圧縮応力層を有しない領域8、9を有している。ガラス内部の厚み方向の中央部には、複数の異物(ジルコン系異物)10が分散した状態で存在している。なお、図2において、異物10の形状寸法は誇張して図示されており、実際の異物10の粒径は0.1〜100μmに規制されている。強化ガラス1は、オーバーフローダウンドロー法で成形されており、ガラス内部の厚み方向の中央部には、合わせ面11を有している。図2に示すように、端面6に機械的衝撃12が加わり、端面6からクラック13が発生した場合でも、そのクラック13の進展が異物10により阻害されて、強化ガラス1の破損が効果的に防止される。
第七に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50〜80%、Al2O3 5〜25%、B2O3 0〜15%、Na2O 1〜20%、K2O 0〜10%を含有することが好ましい。
第八に、本発明の強化ガラスは、タッチパネルディスプレイのカバーガラスに用いることが好ましい。
第九に、本発明の強化用ガラスは、強化処理に供される強化用ガラスにおいて、内部に粒径0.1〜100μmの異物を有することを特徴とする。
第十に、本発明の強化ガラスの製造方法は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスを製造する方法において、ガラスバッチをガラス溶融窯で溶融して、溶融ガラスを得る工程と、該溶融ガラスを成形体により板状に成形して、ガラス内部に粒径0.1〜100μmの異物を有する強化用ガラスを得る工程と、該強化用ガラスをイオン交換処理することにより、ガラス内部に粒径0.1〜100μmの異物を有する強化ガラスを得る工程と、を有することを特徴とする。
第十一に、本発明の強化ガラスの製造方法は、異物がジルコン系異物であることが好ましい。
第十二に、本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス溶融窯の炉壁として、ジルコニア系耐火物(ジルコニアを50質量%以上含む耐火物)を用いることが好ましい。
第十三に、本発明の強化ガラスの製造方法は、成形体として、ジルコン系成形体(ジルコンを50質量%以上含む成形体)を用いることが好ましい。
第十四に、本発明の強化ガラスの製造方法は、オーバーフローダウンドロー法により板状に成形することが好ましい。
本発明の強化ガラスは、ガラス内部に異物を有することを特徴とする。異物はどのような物質でもよいが、その中でもジルコン系異物は、クラックの進展を阻害する効果が大きいため好ましい。ガラス内部に異物を導入する方法として種々の方法が利用可能であり、例えば、異物と同じ材料をオーバーフローダウンドロー法の成形体の構成材料とする方法やガラス溶融窯等のガラス製造設備から溶融ガラスに異物になるべき成分を溶出させることによってガラス内部に異物を析出させる方法を採択することができる。特に、後者の方法は、ガラス製造設備等で溶融ガラスの温度を調整することにより、異物になるべき成分の溶出量と異物の析出量を制御し得るため好ましい。
異物の粒径は0.1〜100μmであり、好ましくは1〜50μm、5〜30μm、特に10〜20μmである。異物の粒径が小さ過ぎると、クラックの進展を阻害する効果が乏しくなる。一方、異物の粒径が大き過ぎると、強化ガラス(カバーガラス)の透明性が低下し易くなる。
異物は、ガラス内部に分散した状態で存在することが好ましい。これにより、強化ガラスの広範な領域に亘って、クラックの進展を阻害する効果を享受することができる。
異物の個数は、好ましくは0.05〜1000000個/kg、0.05〜100000個/kg、0.1〜10000個/kg、0.1〜1000個/kg、特に1〜100個/kgである。異物の個数が少な過ぎると、クラックの進展を阻害する効果が乏しくなる。一方、異物の個数が多過ぎると、強化ガラス(カバーガラス)の透明性が低下し易くなる。
本発明の強化ガラスは、ガラス内部にオーバーフローダウンドロー法による合わせ面を有し、異物が合わせ面の近傍に偏在していることが好ましい。また合わせ面から厚み方向に±0.05mmの領域における異物の個数割合(単位体積当たりの個数)は、それ以外の領域に比べて、2倍以上大きいことが好ましく、3倍超大きいことがより好ましく、4倍以上大きいことが更に好ましく、5倍以上大きいことが特に好ましい。合わせ面は、通常、強化ガラスの厚み方向の中央部に形成されるが、その中央部は、引っ張り応力が作用しているため、クラックが進展し易い傾向がある。特に、端面に面取り部(特にR面取り部)を形成する場合は、その傾向が顕著になる。よって、このような領域に異物を偏在させると、クラックの進展を阻害する効果を的確に享受することができる。
本発明の強化ガラスにおいて、厚み(板状の場合、板厚)は、好ましくは1.5mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下、特に0.6mm以下である。このようにすれば、表示デバイスの軽量化を図り易くなる。なお、太陽電池用カバーガラスに適用する場合は、厚みを1.0〜3.0mmとすることが好ましい。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50〜80%、Al2O3 5〜25%、B2O3 0〜15%、Na2O 1〜20%、K2O 0〜10%を含有することが好ましい。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は質量%を指す。
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiO2の含有量は、好ましくは50〜80%、53〜75%、56〜70%、58〜68%、特に好ましくは59〜65%である。SiO2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなる。
Al2O3は、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。Al2O3の含有量は5〜25%が好ましい。Al2O3の含有量が少な過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなることに加えて、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Al2O3の好適な下限範囲は7%以上、8%以上、10%以上、12%以上、14%以上、15%以上、特に16%以上である。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等でガラスを成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなり、更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。よって、Al2O3の好適な上限範囲は22%以下、20%以下、特に19%以下である。
B2O3は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、液相温度を低下させる成分である。またクラックレジスタンスを高める成分である。しかし、B2O3の含有量が多過ぎると、イオン交換処理によって、ヤケと呼ばれる表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の圧縮応力値が低下したり、圧縮応力層の応力深さが小さくなる傾向がある。よって、B2O3の含有量は、好ましくは0〜15%、0.1〜12%、1〜10%、1超〜8%、1.5〜6%、特に2〜5%である。
Na2Oは、主要なイオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、Na2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。Na2Oの含有量は1〜20%である。Na2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、Na2Oを導入する場合、Na2Oの好適な下限範囲は10%以上、11%以上、特に12%以上である。一方、Na2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、Na2Oの好適な上限範囲は17%以下、特に16%以下である。
K2Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の応力深さを増大させる効果が大きい成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。K2Oの含有量は0〜10%である。K2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、K2Oの好適な上限範囲は8%以下、6%以下、4%以下、特に2%未満である。
上記成分以外にも、例えば以下の成分を導入してもよい。
Li2Oは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。またヤング率を高める成分である。更にアルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を増大させる効果が大きい。しかし、Li2Oの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなる。また、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなると、かえって圧縮応力値が小さくなる場合がある。従って、Li2Oの含有量は、好ましくは0〜3.5%、0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、特に0.01〜0.2%である。
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり易く、またガラスが失透し易くなる。よって、MgOの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、8%以下、5%以下、特に4%以下である。なお、ガラス組成中にMgOを導入する場合、MgOの好適な下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0〜10%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、CaOの好適な含有量は0〜5%、特に0〜1%未満である。
ZrO2は、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZrO2の好適な上限範囲は10%以下、8%以下または6%以下、特に5%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ガラス組成中にZrO2を導入することが好ましく、その場合、ZrO2の好適な下限範囲は0.01%以上または0.5%、特に1%以上である。
は、
SnO2は、ジルコン系異物の析出を促進する成分であり、その好適な含有範囲は、好ましくは0〜10000ppm(1%)、500〜7000ppm、特に1000〜5000ppmである。なお、SnO2の含有量が多過ぎると、可視光透過率が低下し易くなる。
清澄剤として、As2O3、Sb2O3、F、Cl、SO3の群から選択された一種又は二種以上を0〜30000ppm(3%)導入してもよい。
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、特に700〜1500MPaである。圧縮応力値が大きい程、強化ガラスの機械的強度が高くなる。
圧縮応力層の応力深さは、好ましくは15μm以上、20μm以上、25μm以上、特に30〜60μmである。強化ガラスの表面に傷が付いた場合に、強化ガラスが破損し難くなる。ここで、「圧縮応力値」と「応力深さ」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
内部の引っ張り応力値は、好ましくは10〜200MPa、15〜150MPa、特に20〜100MPaである。内部の引っ張り応力値が小さ過ぎると、強化ガラスについて、所望の機械的強度を確保し難くなる。一方、内部の引っ張り応力値が大き過ぎると、機械的衝撃を起点にして、強化ガラスが自己破壊し易くなる。なお、内部の引っ張り応力値は、(圧縮応力値×応力深さ)/(強化ガラスの厚み−2×応力深さ)の式で算出された値を指す。
本発明の強化用ガラスは、強化処理に供される強化用ガラスにおいて、内部に粒径0.1〜100μmの異物を有することを特徴とする。ここで、本発明の強化用ガラスの技術的特徴は、本発明の強化ガラスの技術的特徴と重複しており、便宜上、その説明を省略する。
本発明の強化ガラスの製造方法は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスを製造する方法において、ガラスバッチをガラス溶融窯で溶融して、溶融ガラスを得る工程と、該溶融ガラスを成形体により板状に成形して、ガラス内部に粒径0.1〜100μmの異物を有する強化用ガラスを得る工程と、該強化用ガラスをイオン交換処理することにより、ガラス内部に粒径0.1〜100μmの異物を有する強化ガラスを得る工程と、を有することを特徴とする。ここで、本発明の強化ガラスの製造方法の技術的特徴は、本発明の強化ガラスの技術的特徴と重複している。本明細書では、その重複部分について、便宜上、説明を省略する。
本発明の強化ガラスの製造方法において、ガラス溶融窯の炉壁として、ジルコニア系耐火物を用いることが好ましい。強化用ガラスの製造工程において、溶融工程は、溶融ガラスの均質性を高めるため高温になり、ガラス溶融窯は高温に加熱される。よって、ガラス溶融窯の炉壁をジルコニア系耐火物とすれば、溶融工程で溶融ガラス中にZr成分を溶出させることが可能になる。結果として、ガラス内部にジルコン系異物を導入し易くなる。
本発明の強化ガラスの製造方法において、成形体として、ジルコン系成形体を用いることが好ましい。成形体として、ジルコン系成形体を用いると、成形時にガラス中の溶出成分が局所的に濃縮され易くなる。また、ジルコニア系耐火物を用いて、Zr成分を溶融ガラス中に溶出させる場合、溶融ガラス中のZr成分が結晶異物として析出し易くなる。結果として、成形時にガラス内部に異物を析出させ易くなる。特に、オーバーフローダウンドロー法を採択する場合に、成形体としてジルコン系成形体を用いると、合わせ面の近傍にジルコン系異物を偏在させ易くなる。また、ジルコニア系耐火物を用いる場合は、オーバーフローダウンドロー法による成形体として、アルミナ系成形体(アルミナを主成分とする成形体)を用いてもよい。なお、ジルコン、ジルコニア等の耐火物は、耐熱性が良好であるが、温度条件、使用環境等により、溶融ガラスに侵食されて、溶融ガラス中に溶出し、ガラス内部にジルコン系異物を析出させる要因になる。
本発明の強化ガラスの製造方法において、オーバーフローダウンドロー法により板状に成形することが好ましい。このようにすれば、強化ガラスの表面品位を高め易くなると共に、強化ガラスの厚み方向の中央部、つまり合わせ面の近傍に異物を偏在させ易くなる。
ガラスを所定寸法に切断する時期は、イオン交換処理の前、つまり「強化前切断」でもよいが、イオン交換処理の後、つまり「強化後切断」が好ましい。このようにすれば、強化ガラスの製造効率が向上する。また「強化後切断」を行うと、端面に圧縮応力層を有しない部分が露出するが、本発明では、ガラス内部に所定粒度の異物を有するため、端面強度の低下を可及的に防止することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法では、強化用ガラスを強化液に浸漬させることにより、強化ガラスを作製する。つまりイオン交換処理により強化ガラスを作製する。イオン交換処理は、強化用ガラスの歪点以下の温度でガラス表面にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。このようにすれば、強化用ガラスの厚みが小さい場合でも、圧縮応力層を適正に形成することができる。
強化液の組成、イオン交換温度及びイオン交換時間は、強化用ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。強化液として、種々の強化液が使用可能であるが、KNO3溶融塩又はNaNO3とKNO3の混合溶融塩が好ましい。このようにすれば、表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。イオン交換温度は380〜460℃が好ましく、またイオン交換時間は2〜8時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成することができる。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
次のようにして、強化用ガラス(試料No.1〜10)を作製した。まずガラス原料を調合し、ガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを連続溶融炉に投入し、得られた溶融ガラスを清澄、攪拌、供給した。この際、ガラス溶融窯の炉壁としてジルコニア系耐火物を用い、溶融窯の温度を制御することにより、溶融ガラス中へのZr成分の溶出量を制御した。続いて、成形体としてジルコン系成形体を用いて、オーバーフローダウンドロー法により0.7mm厚の板状に成形し、ガラス内部に粒度10〜20μmのジルコン系異物を析出させた。この際、成形温度を制御することにより、ガラス内部へのジルコン系異物の析出量と粒径を制御した。なお、得られた強化用ガラスのガラス組成は、質量%で、SiO2 61.4%、Al2O3 18%、B2O3 0.5%、Li2O 0.1%、Na2O 14.5%、K2O 2%、MgO 3%、BaO 0.1%、SnO2 0.4%であった。
更に、各試料について、430℃のKNO3溶融塩(新品KNO3溶融塩)中に4時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。イオン交換処理後に両表面を洗浄した。続いて、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値CSと厚みDOLを算出した。その結果、CSは740MPa、DOLは32μmであった。なお、算出に当たり、各試料の屈折率を1.50、光学弾性定数を30[(nm/cm)/MPa]とした。
最後に、各試料について、エッジライトを照射しながら、ジルコン系異物の個数を目視でカウントすると共に、端面衝撃試験と透明性検査を行った。その結果を表1に示す。
端面衝撃試験は、図3に示す振り子端面試験機を用いて行った。図3(a)は、試験片を挟持した金属製治具を示す概念斜視図である。試験片21は、一対のベークライト製の樹脂板22の間に挟んだ状態で金属製治具23に固定されている。試験片21の寸法は、20mm×30mm×0.7mm厚であり、試験片21の内、2mm×30mmの部分が金属製治具23から食み出した状態になっている。この食み出した部分の端面が試験ヘッド24と衝突することになる。図3(b)は、試験ヘッドの形状を示す概念斜視図である。試験ヘッド24は、SUS製であり、曲率半径R=2.5mmになっている。図3(c)は、端面衝撃試験の衝突方法を示す概念断面図である。図3(c)に示すように、まず試験ヘッド24を取り付けた振り子25を5mmの高さから振り下ろし、金属製治具23に挟持された試験片21の端面と衝突させた。その後、振り子25の高さを5mmずつ上昇させながら、この操作を試験片21が破損するまで続行し、試験片21が破損した時の高さを破損高さとした。イオン交換処理前の強化用ガラスとイオン交換処理後の強化ガラスの各試料について、この端面衝撃試験を15回行い、破損確率95%となる高さを算出した。
透明性評価は、板状の強化ガラスの背面から光を入射することにより、その外観を目視で評価したものであり、表中の○、△、×は、それぞれ良品レベル、準良品レベル、不良品レベルを表している。なお、透明性評価は、強化用ガラスと強化ガラスで相違しない。
表1から分かるように、試料No.1〜8は、試料No.9よりも異物の個数が多いため、端面衝撃試験の評価が良好であった。また試料No.1〜4は、透明性評価が良好であったが、試料No.10は透明性評価が不良であった。なお、試料No.10は、端面衝撃試験の評価が良好であったため、透明性が要求されない用途では使用可能である。
表1から分かるように、試料No.1は、試料No.3よりもジルコン系異物の個数が多いため、端面衝撃試験の評価が良好であった。同様にして、試料No.2は、試料No.4よりもジルコン系異物の個数が多いため、端面衝撃試験の評価が良好であった.
強化ガラスの内部に所定粒度の異物が存在する場合、表2に記載の強化用ガラス(試料a〜e)でも[実施例1]で示された傾向と同様の効果が得られるものと考えられる。