以下、本発明に係る魚釣用リールの実施形態について説明する。
まず、図1を参照して、本発明に係る魚釣用リールの基本的構成の一例を概略的に説明する。図示の魚釣用リールは、両軸受型リールとして構成されており、釣糸109を巻回可能なスプール101と、スプール101を回転可能に支持する支軸としてのスプール軸102と、印加される電流に応じてスプール101の回転に対する制動力を電磁的に変化可能な制動手段としての電磁ドラグ装置103と、スプール101の回転を検出する回転検出手段としての回転検出器104と、電磁ドラグ装置103に印加される電流を制御する制御手段としての制御装置105と、スプール101の回転に対する制動力を設定する(したがって、電磁ドラグ装置103に対する印加電流を設定する)ための設定手段としての操作レバー106と、スプール軸102を支持するリール本体を形成するサイドプレート107と、例えばハンドル操作によってスプール101を回転させるトルクを発生させるための駆動部108とを備える。
スプール101は、両側にフランジ101a,101aを有する円筒状を成し、両側のフランジ101a,101aを繋ぐ巻回胴部101bに釣糸109を巻回することができる。スプール101は駆動部108から伝わるトルクによって回転され、駆動部108からスプール101に伝わるトルクの大きさは、電磁ドラグ装置103によって調整される。なお、スプール101を回転可能に支持するスプール軸102はサイドプレート107によって両端が支持される。
特に、本構成では、スプール軸102が駆動部108によって回転され、駆動部108からのトルクがスプール軸102および電磁ドラグ装置103を介してスプール101に伝えられるようになっている。この場合、駆動部108は、スプール軸102に直結されるハンドルによって構成されてもよく、あるいは、ハンドルを歯車等の適切な伝達機構を介してスプール軸102に結合することによって構成されてもよい。また、駆動部108は、このようなハンドルによってユーザが手動でトルクを発生させるものであってもよいが、モーターや原動機によってトルクを発生させるものであってもよい。
また、電磁ドラグ装置103は、駆動部108とスプール101との間のトルク伝達を継脱する、いわゆるクラッチの役割を果たす。この電磁ドラグ装置103の作用により、スプール101に巻き取られる釣糸109に過大な張力がかかった際には、釣糸109の破断を避けるべくスプール101を空転させることができる。この場合、制御装置105から電磁ドラグ装置103に印加される電流の大きさによって、スプール101の空転が始まる閾値となる張力(ドラグ力)を調節することが可能となっている。また、操作レバー106は、ユーザが所望のドラグ力(制動力)を任意に設定入力できる操作部であり、入力されるドラグ力をボリューム抵抗等を利用して電気信号に変換する。
また、制御装置105は、回転検出器104から検出信号を受けてスプール101の回転の有無を検出する信号処理回路としての回転検出部1051と、回転検出部1051からの検出信号と操作レバー106からの操作信号とに基づいて電磁ドラグ装置103に印加すべき電流の大きさを決定する電流決定部1052と、電流決定部1052で決定される信号を外部電源(図示せず)から供給される電力によって増幅(制御)して電磁ドラグ装置103の励磁コイルに供給する増幅部1053とを有する。
この場合、回転検出部1051は、回転検出器104も含めて、例えば、一定の間隔でスリットを有するパルス板をスプール101の一端に設け、スリットの有無をフォトセンサにより検出することによって実現されてもよい。すなわち、スプール101と共に回転する羽根と、ハンドル(駆動部108)と共に回転する羽根とを設け、これらの羽根同士のずれをフォトインタラプタ(透過型フォトセンサ)によって検出することにより、スプール101の回転が検出されてもよい。しかしながら、スプール101の回転検出方法はこの方式に限らず、その他の公知技術を用いてもよい。
ところで、スプール101の回転に対する制動力、言い換えると、スプール101の空転が始まる閾値となる張力(ドラグ力)を調整するための電磁ドラグ装置103の調整形態は、例えば図2〜図6に示されるように様々なものが考えられる。なお、図2〜図4において、図1と同様の構成要素については、同一の参照符号を付してその詳しい説明を省略する。
図2は、電磁ドラグ装置103がパウダクラッチから成る構成を示す。図示のように、スプール101の一端には円筒容器1031が取り付けられ、一方、スプール軸102には摩擦板1032が円筒容器1031内に収納されるように取り付けられている。摩擦板1032および円筒容器1031は、それぞれが鉄などの強磁性材料によって形成され、わずかな空隙を隔てて対向している。この空隙には磁粉1033が充填されている。
円筒容器1031の外周には励磁コイル1034が配置される。制御装置105(図1参照)から励磁コイル1034に通電がなされると、摩擦板1032を軸方向(図中の左右方向)で貫くような磁場が形成される。この磁場によって磁粉1033が鎖状に繋がり、摩擦板1032から円筒容器1031へトルクが伝えられる。伝えられるトルクの大きさは、制御装置105(図1参照)から励磁コイル1034に通電される電流の大きさによって決まる。なお、励磁コイル1034への通電によって効率的に磁場を形成するために、適切な補助ヨークを設けてもよい。また、円筒容器1031に磁粉1033を封入する代わりに、後述する図5および図6に示されるように磁気粘性流体(Magnetorheological Fluid;MR流体とも称される)を封入してもよい。これにより、姿勢差によって磁粉が片寄ってしまう不具合を避けることができる。
図3は、電磁ドラグ装置103がヒステリシスクラッチ(ヒステリシスブレーキ)113から成る構成を示す。図示のように、スプール101は、硬磁性材料からなる円筒状のヒステリシスロータ1131を一端に有する。また、スプール軸102は外ヨーク1132および内ヨーク1133を有する。図3の(b)に示されるように、外ヨーク1132および内ヨーク1133は、その内周および外周に爪状の磁極1132a,1133aを有しており、ヒステリシスロータ1131とその内側および外側で対向する。また、外ヨーク1132の外周には励磁コイル1134が配置される。
制御装置105(図1参照)から励磁コイル1134に通電を行なうと、外ヨーク1132と内ヨーク1133との間に磁場が形成され、この磁場により、外ヨーク1132と内ヨーク1133との間に配置されたヒステリシスロータ1131が励磁される。ヒステリシスロータ1131にはヒステリシス特性があるため、この励磁には時間的な遅れが生じる。この遅れにより、スプール軸202からスプール201へトルクを伝達することができる。この方式では、駆動部108(図1参照)側とスプール101側とを接触させずにトルクを伝えることができるため、摩耗の影響が無く、耐久性のよい電磁ドラグ装置103を実現できる。なお、本構成では、効率よく磁場を形成するために、必要に応じて補助ヨークを設置してもよい。
図4は、電磁ドラグ装置103がボイスコイルモータやソレノイドアクチュエータなどの電磁アクチュエータ123を用いたクラッチから成る構成を示す。図示のように、スプール101の一端には摩擦板121が取り付けられている。また、非磁性材料からなる接触子122がスプール軸102に対して回転不能に且つ軸方向に移動可能に支持されている。接触子122には円筒形のコイル123が取り付けられている。また、コイル123には、径方向に着磁された円筒形状の永久磁石124およびコの字型断面を有する回転体である強磁性材料のヨーク125によって、径方向に磁場が作用している。
このような構成において制御装置105(図1参照)からコイル123に通電を行なうと、ローレンツ力が生じて接触子122に軸方向の力が作用する。この力により接触子122が摩擦板121に接触することによって、スプール軸102からスプール101へトルクが伝達される。このトルクは、ローレンツ力に半径と摩擦係数とを乗じたものとなるため、コイル123への通電を調整する(コイル123へ印加する電流の大きさを調整する)ことによってトルクを調整することができる。
図5および図6は、電磁ドラグ装置103が磁気粘性流体を用いたクラッチから成る構成を詳細に示す。この構成において、両軸受型リールである魚釣用リールのリール本体1は、左側板1A、右側板1B、および、両側板1A,1B間に回転自在に支持したスプール3(図1〜図4のスプール101に対応する)を備えている。この構成では、右側板1B側にハンドル5を設けており、ハンドル5を巻き取り操作することでスプール3を回転駆動する構成となっている(右ハンドル式)。
リール本体1は、左右の側板1A,1Bを構成するフレーム7(図1〜図4のプレート107に対応する)を備えている。このフレーム7は、例えば、アルミニウム合金の金属材等によって一体形成されており、左側板(反ハンドル側の側板)1Aそのものを構成するとともに、後述するカバー体15を装着した状態で右側板1Bを構成している。すなわち、フレーム7は、左側板7Aと右枠体7Bとを備えており、左側板7Aがリール本体1の左側板1Aを構成し、右枠体7Bにカバー体15を装着することでリール本体1の右側板1Bを構成している。
フレーム7は、左側板7Aと右枠体7Bとを連結する連結部を備えている。この連結部は、例えば、スプール3の前方および後方に設けるとともに、スプール3の下方に設けることができ(連結部7C)、これらの連結部は、左側板7Aおよび右枠体7Bとともに一体形成されている。なお、連結部7Cには、釣竿のリールシートに装着されるリール脚8が一体的に装着されている(リール脚はフレーム7と一体形成されていてもよい)。
フレーム7の左側板7Aは、外周形状が側面視円形状に構成されており、左側板7Aには、スプール3のフランジ部3Aが収容される環状の凹所7aが形成されている(凹所7aの内径は、スプール3のフランジ部3Aの外径よりも僅かに大きく形成されている)。また、左側板7Aの中心領域には、凹部7bが形成されており、その凹部7b内には軸受10が配設され、スプール3の中央部を挿通するスプール軸21(図1〜図4のスプール軸102に対応する)の左側端部を回転自在に支持している。
フレーム7の右枠体7Bは、スプール3が挿脱できるようにリング状に形成されている。この右枠体7Bには、カバー体15が止めビス16によって被着されており、カバー体15とスプール3のフランジ部3Aの外側面(円形の外側面)3bとの間にはスペースSが形成されている。このスペースS内には、ハンドル5の回転駆動力をスプール3に伝達する巻き取り駆動機構、磁気制動手段、および、磁場発生手段が配設されている。なお、リング状に形成された右枠体7Bの一部には、略半円状に膨出する膨出部7Dが形成されており、その部分に後述するドライブギアが収容できるように構成されている。
スプール3は、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部3Bと、その両側に形成されたフランジ部3Aとを備えている。スプール3の中心部は、スプール軸21が挿通されるように貫通孔3Cが形成されており、貫通孔3C内には、スプール3とスプール軸21との間に軸受17が配設されて、スプール3は、スプール軸21に対して相対回転可能に支持されている。
右枠体7Bに被着されるカバー体15は、スペースSが生じるように凹状に形成されている。この場合、カバー体15は、基本的に側面視で円形状に構成されているが、ハンドル5の巻き取り効率を向上するために、ハンドル軸5Aには大きいドライブギアを装着するようにしている。このドライブギアは、前述したように、右枠体7Bに形成された膨出部7Dに収容されることから、カバー体15には、この膨出部7Dを覆うように膨出部15Aが形成されている。
次に、前述したスペースS内に配設される巻き取り駆動機構、磁気制動手段、および、磁場発生手段について説明する。
前述したように、ハンドル5を回転操作すると、その回転駆動力は、巻き取り駆動機構20(図1〜図4の駆動部108に対応する)を介してスプール軸21に伝達され、スプール軸21の回転駆動力は、スプール軸21とスプール3との間に配設される磁気制動手段40(図1〜図4の電磁ドラグ装置103に対応する)によって生じる制動力によってスプール3に伝達される。本構成の巻き取り駆動機構20には、ハンドル5の巻き取り駆動力をスプール3側に伝達するに際して、高速巻き取り状態/低速巻き取り状態を切り換える公知の変速装置20Aが組み込まれている。
変速装置20Aは、スプール軸21に並設される高速従動ギア22、低速従動ギア23と、それぞれのギアに噛合され、ハンドル5が装着された筒状のハンドル軸5Aに並設された高速ドライブギア24、低速ドライブギア25とを備えている。なお、スプール軸21は、カバー体15に配設される軸受26、後述する収容部材(密閉空間を有するケース部材)との間に配設される軸受27、および、前述した軸受10,17によって左右側板間に回転自在に支持されている。また、ハンドル軸5Aは、カバー体15に配設される軸受28,29によって回転自在に支持されている。
変速装置20Aは、ハンドル軸5A内に軸方向に移動可能に配設され、複数のバネ部材30a,30bの付勢力によって位置決めされる切り換えシャフト30と、切り換えシャフト30の軸方向移動によって、高速ドライブギア24および低速ドライブギア25に対して選択的に係合して高速巻き取り状態/低速巻き取り状態に切り換える切換部材31と、ハンドル軸5A周りに回動可能に装着され、切り換えシャフト30を軸方向に駆動させる切換レバー33とを備えており、切換レバー33を所定角度回動操作することにより、切り換えシャフト30が軸方向に移動され、切換部材31が高速ドライブギア24または低速ドライブギア25に係合してスプール3の巻き取りスピードが変更されるようになっている。
また、ハンドル軸5Aには、カバー体15との間に公知の一方向クラッチ35が配設されており、ハンドル5の釣糸巻き取り方向の回転を許容し、逆回転を阻止している。なお、本発明の巻き取り駆動機構20は、この実施形態に限らず、スプール軸に直接ハンドル軸を取り付けるような構成でも実現可能である。また、駆動源としてモータやエンジン等を用い、巻き取り駆動機構がその駆動源からトルクを伝達しても良い。
スペースS内に配設される磁気制動手段40は、前述した巻き取り駆動機構20(変速装置20A)を介して回転駆動されるスプール軸21とスプール3との間に配設されている。
なお、本発明は、このような構成に限定されることはない。たとえば、ハンドル5に与えられた巻き取り駆動力は、従動ギアやドライブギアを介しスプール3に伝わるが、磁気制動手段40は、その間の任意の場所に配置可能である。
以下、磁気制動手段40について詳しく説明する。
磁気制動手段40は、磁界の大きさに応じて結合力が変化する磁気反応摩擦材であるMR流体を有する構成であり、このような磁気反応摩擦材を収容した収容部材を、スプール3とスプール軸21との間に配設し、磁気反応摩擦材に対する剪断応力によってスプール3に対して所望の制動力を付与するよう構成されている。磁気制動手段40は、スプール3のフランジ部3Aの外側面と対向して配設されており、両者の間にはリール本体を構成する枠体等が介在しない構成となっている。本構成では、フランジ部3Aの外側面に環状の凹所3aが形成されており、凹所3aの底面(フランジ部の外側面となる)3bに磁気制動手段40を構成する円板状のスプールヨーク41が固定されている。すなわち、磁気制動手段40の構成部材がフランジ部3Aの外側面3bに密着して配設されており、両者の間に間隙が存在しない状態で対向している。
円板状のスプールヨーク41は、フランジ部3Aの輪帯状の周縁面3cに当て付くとともに、凹所3a内に入り込むように屈曲部41aが形成されており、屈曲することで形成された当接面41bがフランジ部3Aの凹所3aの底面3bに密着して固定されている。また、スプールヨーク41の中心部分には、スプール軸21を挿通させる開口41cが形成されるとともに、その周囲には環状壁部41dが形成されており、環状壁部41dがスプール3の開口内壁部3dに圧入された状態でスプールヨーク41はスプール3のフランジ部3Aの外側面3bに密着、固定されている。なお、スプールヨーク41は、磁気回路が形成可能な材料、たとえば純鉄等の強磁性体によって構成されている。
磁気制動手段40は、スプールヨーク41に被着される収容部材43を備えている。収容部材43は収容空間(密閉空間)S1を備えた略カップ形状に形成されており、開口側に形成されたフランジ部43aをスプールヨーク41の屈曲部41aの段差に圧入することでスプールヨーク41に対して固定されている。収容部材43には、スプール軸21が挿通する開口43bが形成されるとともに、スプール軸21との間に軸受27を配設する環状突起43cが形成されており、スプール軸21に対して相対回転可能な関係となっている。なお、収容部材43は、アルミニウムや樹脂材料等、非磁性材料によって構成されている。
収容部材43の収容空間S1内には、磁気反応摩擦材(MR流体)が密封されるとともに、磁気反応摩擦材に対する剪断応力によってスプール3に対して制動力を付与する制動板が配設されている。この場合、磁気反応摩擦材は、そこに付与される磁界の大きさによってその結合力が変化する特性を備えており、制動板が回転することによって生じる剪断応力の大きさが変わることでスプール3に対する制動力が調整可能となっている。すなわち、後述する磁場発生手段によって生じる磁界の大きさを可変制御することによって、スプール3に対する制動力が調整される。
本構成の制動板は、スプール3に対して大きな制動力が作用するように多板式に構成されている。以下、制動板の構成について説明する。
収容部材43の内周面には、2枚の円板状の制動板(スプール側制動板;第1制動板)45が、スペーサ45aを介在して一体的に固定(収容部材に固定)されている。第1制動板45は、純鉄等の強磁性材料によって構成され、スペーサ45aは、アルミニウム等の非磁性材料によって構成されている。この場合、スペーサ45aは、2枚の第1制動板45の間、一方の第1制動板45と収容部材43の内壁面との間、および、他方の第1制動板45とスプールヨーク41の内面との間に、以下の第2制動板47が入り込んで所定の隙間を維持できる厚さに形成されている。
収容部材43に挿通されるスプール軸21には、スペーサ45aによって維持される間隔に制動板(スプール側制動板;第2制動板)47が回り止め固定されている。この場合、第2制動板47間には、スペーサ47aが介在されており、このスペーサ47aは、第2制動板47を所定の間隔で維持できる厚さに形成されている。第2制動板47は、純鉄等の強磁性材料によって構成され、スペーサ47aは、アルミニウム等の非磁性材料によって構成されている。
前述したように、本構成における制動板は、スプール3側の第1制動板45が2枚、スプール軸21側の第2制動板47が3枚で構成される多板式となっており、これにより、収容部材43の収容空間S1内に密封される磁気反応摩擦材に対して大きな制動力を生じさせることが可能となっている。なお、スプール軸21とスプールヨーク41との間、及び、スプール軸21と収容部材43との間には、環状の弾性シール材48a,48bが配設されており、収容部材43の収容空間S1内を密封している。
リール本体1には、前述した構成の磁気制動手段40に対して異なる強度の磁界を付与する磁場発生手段50が装着されている。この磁場発生手段50は、制御装置105(図1参照)からの電流の印加により異なる磁力を発生させる励磁コイル51を備えている。励磁コイル51は、スプール軸21を中心軸として円筒形状に巻回されるコイルであり、純鉄等の磁性材料で形成された励磁ヨーク52に装着されている。この場合、励磁ヨーク52は、断面L字型となった環状の周壁52aを備えており、側板を構成する右枠体7Bに固定されている。そして、励磁コイル51は、励磁ヨーク52の環状の周壁52aの内側に固定され、収容部材43の径方向外方に配設された状態となっている。すなわち、スプール3のフランジ部の外側面3bに対向する(密着する)ようにして磁気反応摩擦材を収容した収容部材43を配設するとともに、収容部材43の径方向外方に励磁コイル51を配設しており、これにより磁気制動手段40および磁場発生手段50を軸方向にコンパクト化することが可能となる。
前述したように、励磁コイル51が、断面L字型となった環状の励磁ヨーク52の周壁52aの内側に固定され、かつ、収容部材43の径方向外方に配設されることで、励磁コイル51に通電した際、スプールヨーク41から励磁ヨーク52に亘って磁気回路を形成することができ、収容部材43に配設された制動板を横切る磁界(スプール軸21方向に沿った磁界)を発生させる。この場合、スペースS内には、前述した駆動装置105が配設されており(図5参照)、この制御装置105により外部電源(図示せず)から供給される電流値を制御することにより、励磁コイル51で発生する磁場の強さ(制動板を通過する磁界の強度)を調整することが可能となっている。なお、励磁コイル51に対する電流量は、リール本体1の外部に装着した操作部材、たとえばカバー体15に対して回動可能な操作レバー57(図1〜図4の操作レバー106に対応する)を配設し、その回動位置に応じて印過電流を可変制御することで調整される。
このような構成によれば、制御装置105を介して励磁コイル51に対して電流を通電すると、励磁コイル51は磁束を発生し磁気回路を形成する。この磁気回路は、スプールヨーク41、制動板45,47、および、励磁ヨーク52を一周するように形成され、第1制動板45、第2制動板47の間に強力な磁場を発生させ、各制動板の間で磁気反応摩擦材が鎖状に連結する。
この状態でハンドル5を回転操作すると、巻き取り駆動機構20の一部である従動ギア22,23を介して一体回転するスプール軸21が回転駆動される。このとき、スプール軸21に回り止め固定された第2制動板47が回転駆動され、磁気反応摩擦材には剪断応力が作用して、第1制動板45を介して収容部材43と一体回転するスプール3に摩擦トルクを伝達する。この摩擦トルクは、磁気反応摩擦材に働く磁束密度の大きさ、すなわち、励磁コイル51に通電する電流の大きさによって調整することができ、これにより、スプール3に対して所望の制動力を付与した状態での巻き取りをすることが可能となる。この場合、制動板は多板で構成されているため、各制動板間で発生する剪断応力が大きくなり、大きな制動力を生じさせることが可能となる。
なお、釣糸の繰り出し(魚のヒット等)に伴うスプール3の逆回転に制動力を付与する制動状態について説明すると、励磁コイル51の通電状態(磁気反応摩擦材の鎖状連結状態)において、釣糸に張力が作用してスプール3に逆回転方向の力が作用した場合、スプール3と一体的な第1制動板45と、スプール軸21と一体的な第2制動板47は摩擦連結され、そして巻き取り駆動機構20を介して一方向クラッチ35でハンドル軸5Aは逆転止めされているので、励磁コイル51への制御電流値に応じてスプール3の制動状態を調節できる。
以上、電磁ドラグ装置103の様々な形態について概略的に或いは詳細に説明してきたが、いずれの場合においても、電磁ドラグ装置103に対する電流の印加形態は、制御装置105(図1参照)によって以下のように制御される。
図7は、電磁ドラグ装置103に対する電流の印加に関する制御装置105の制御動作(具体的には、電流決定部1052の動作)の一例を示すフローチャートである。
制御装置105は、例えば操作レバー106を用いてユーザにより設定される電流を電磁ドラグ装置103に印加可能な第1の通電モードと、第1の通電モード時よりも消費電力が少ない第2の通電モードとを有し、回転検出器104により検出されるスプール101の回転状態に基づいて第1の通電モードと第2の通電モードとの間を切り換えるようになっている。
具体的には、図7に示されるように、ユーザが制御装置105の電源を入れる(ステップS1)と、第1の通電モードに設定される(ステップS2)。この第1の通電モードにおいて、電流決定部1052は、操作レバー106からの操作信号に基づき、電磁ドラグ装置40,103の励磁コイル51,123,1034,1134に印加する電流の大きさを操作レバー106の操作量に比例する電流値に決定する。本実施形態では、電磁ドラグ装置40,103が伝えるトルクの大きさは、印加電流の大きさに比例するようになっており、操作レバー106の操作量に比例して伝達トルクが決まる。すなわち、第1の通電モードにおいて、電磁ドラグ装置103は、制御装置105から印加される電流の大きさ(操作レバー106の操作量)に比例する大きさのトルクをスプール3,101へ伝えるようになっている。
このようにして第1の通電モードに設定されると、次に、スプール3,101の回転の有無が検出される(ステップS3)。スプール3,101の回転の有無は、回転検出器104およびその処理回路である回転検出部1051(いずれも図1参照)によって行なわれる。なお、スプール3,1010の回転は、ユーザが駆動部20,108を操作して釣糸を巻き上げたときや、魚が釣針にかかって釣糸が引き出されたときなどに発生する。
ステップS3において回転検出器104および回転検出部1051によりスプール3,101の回転が検出された場合、制御装置105は、最終回転時刻TLを記録し(ステップS4)、ステップS2に戻る。すなわち、制御方式が第1の通電モードに設定されたまま先のループを繰り返す。
一方、ステップS3において回転検出器104および回転検出部1051によりスプール3,101の回転が検出されなかった場合、電流決定部1052は、ステップS4において記録された最終回転時刻TLから現時点までの経過時間を算出する(ステップS5)。そして、この経過時間が設定された所定の時間(例えば1分間)に達すると、制御装置105(電流決定部1052)は、制御方式を第1の通電モードから第2の通電モードへ切り換えて(ステップS6)、ステップS3へ戻り、再びスプール3,101の回転の有無を検出する。これにより、スプール3,101の回転が依然として検出されなければ第2の通電モードが維持され、一方、スプール3,101の回転が検出されれば、ステップS2で再び第2の通電モードから第1の通電モードへ切り換えられることになる。
本実施例では、第2の通電モードとして、非常に軽いドラグ力となるような電流を流す方式を採用している。すなわち、この第2の通電モードにおける消費電力は、第1の通電モードのそれよりも小さくなっている。無論、第1の通電モードおよび第2の通電モードは、以上のような方式以外にも様々な方式が考えられる。
例えば、第1の通電モードとしては、図示しない張力センサによって釣糸の張力を検出し、その検出信号を電流決定部1052にフィードバックする制御を行なってもよい。この場合、電流決定部1052は、張力の検出信号、回転検出器104からの検出信号、および、操作レバー106からの操作信号とに基づいて電磁ドラグ装置に印加すべき電流量を決定する。その場合、特に、操作レバー106の操作量によってフィードバック制御の目標値を決める方式も考えられる。また、操作レバー106による入力を受け付けずに、第1の通電モードとして所定の電流値に固定する方式を採用しても構わない。
また、第2の通電モードとしては、第1の通電モードよりも消費電力の低い各種方式が考えられる。例えば、操作レバー106の操作量に応じて、第1の通電モード時の印加電流に対して一定割合(例えば、半分)の電流に設定する方式や、印加電流を完全にゼロにする方式(第2の通電モードでは電流を電磁ドラグ装置に印加しない)などが考えられる。また、スプール3,101のクラッチOFF状態(自由回転状態)を検出し、その検出時に第2の通電モードに設定する方式を採用してもよい。
図8は、電磁ドラグ装置103に対する電流の印加に関する制御装置105の制御動作(具体的には、電流決定部1052の動作)の他の例を示すフローチャートである。
図示のように、この制御形態において、制御装置105は、第2の通電モード時よりも消費電力が少ない第3の通電モードを更に有し、スプール3,101の回転が第1の所定時間にわたって回転検出器104により検出されない場合に第1の通電モードから第2の通電モードへ切り換えるとともに、第1の所定時間経過後、更に第2の所定時間にわたってスプール3,101の回転が回転検出器104により検出されない場合に、第2の通電モードから第3の通電モードへ切り換えるようになっている。
具体的には、図8に示されるように、ユーザが制御装置105の電源を入れる(ステップS1)と、第1の通電モードに設定される(ステップS2)。このようにして第1の通電モードに設定されると、次に、スプール3,101の回転の有無が回転検出器104によって検出される(ステップS3)。ステップS3において回転検出器104によりスプール3,101の回転が検出された場合、制御装置105は、最終回転時刻TLを記録し(ステップS4)、ステップS2に戻る。すなわち、制御方式が第1の通電モードに設定されたまま先のループを繰り返す。
一方、ステップS3において回転検出器104によりスプール3,101の回転が検出されなかった場合、電流決定部1052は、ステップS4において記録された最終回転時刻TLから現時点までの経過時間を算出する(ステップS10)。そして、この経過時間が設定された第1の所定時間(例えば1分間)に達すると、制御装置105(電流決定部1052)は、制御方式を第1の通電モードから第2の通電モードへ切り換えて(ステップS11)、ステップS3へ戻り、再びスプール3,101の回転の有無を検出する。これにより、スプール3,101の回転が依然として検出されなければ第2の通電モードが維持され、一方、スプール3,101の回転が検出されれば、ステップS2で再び第2の通電モードから第1の通電モードへ切り換えられることになる。
また、第2の通電モードが維持されたままスプール3,101の回転が依然として検出されずに更に最終回転時刻TLから第2の所定時間(第1の所定時間よりも長い例えば5分間)に達する(ステップS12)と、制御装置105(電流決定部1052)は、制御方式を第2の通電モードから第3の通電モードへ切り換えて(ステップS13)、ステップS3へ戻り、再びスプール3,101の回転の有無を検出する。これにより、スプール3,101の回転が依然として検出されなければ第3の通電モードが維持され、一方、スプール3,101の回転が検出されれば、ステップS2で再び第3の通電モードから第1の通電モードへ切り換えられることになる。なお、この制御形態において、制御装置105は、第2の通電モードでは、第1の通電モード時の印加電流よりも小さい電流を電磁ドラグ装置103に印加するが、第3の通電モードでは、電流を電磁ドラグ装置103に印加しないようにしてもよい。あるいは、第3の通電モードでは、第2の通電モード時の印加電流よりも更に小さい電流を電磁ドラグ装置103に印加するようにしてもよい。
図9は、制御装置105による電流制御の一態様を示すグラフ図である。横軸に制御開始からの経過時間を、縦軸にスプールの回転速度および電流を示している。簡単のため、操作レバー106の操作は行なわずに、第1の通電モードでは最大電流を電磁ドラグ装置103に印加するようにし、また、第2の通電モードでは最大電流の10%の電流を電磁ドラグ装置103に印加するようにした。また、スプール回転が1分間検出されないと、第1の通電モードから第2の通電モードへ切り換わるようにした。
グラフの縦軸のスプール回転速度は、スプールをクラッチOFF状態にして仕掛けを落下させている(釣糸を繰り出している)ときの速度をマイナスとし、スプールをクラッチON状態にして仕掛け(釣糸)を巻き上げているときの速度をプラスとして示している。この例では、仕掛けの投入(A)、魚の当たり待ち(B)、仕掛けの回収(C)、仕掛けの再投入(A)を3サイクル繰り返している(グラフの上段参照)。魚の当たり待ちの間や仕掛け回収後から仕掛けの再投入までの間にそれぞれだ第2の通電モードに切り換わっており(グラフの下段参照)、全体の約6割の時間が第2の通電モードとなった。
消費電力は電流の2乗に比例するため、この例における消費電力は、本発明の制御形態(グラフの下段に実線で示される電流印加形態)を用いない従来の場合(グラフの下段に点線で示される電流印加形態)の39.6%となり、かなりの省電力化を達成できたことが分かる。このとき、操作レバー106の操作によってユーザ自身が必要に応じてドラグ力を切り換えることで、省電力化を達成する方式も考えられる。これに対して、本発明は自動で行なっているため、人為的なミス(例えば、通電OFFのし忘れなど)を防ぐことができ、また、第1の通電モードへの切り換えを高速化することができる、という効果がある。
また、以上のような制御形態によれば、リールの発熱を避けることもできる。前述したような電磁ドラグ装置103を用いた場合、ドラグ力の設定値を大きくしておくと、励磁コイルからは常時ジュール熱が発生し、この熱によってリールの温度が上昇してしまう。本発明では、前述したように最大電流を流す時間を短縮することが可能であるため、リールの温度上昇を低く抑えることができる。
また、同じ方式の電磁ドラグ装置によって所定のドラグ力を発生させる場合には、一般的に、より大型のドラグ装置の方が発熱量は小さくなる。したがって、電磁ドラグ装置に対して温度上昇の対策を行なうと、リールの大型化を招いてしまう場合がある。一方、本発明では、前述したように制御装置105によって余計な発熱を避けることができるため、電磁ドラグに対しての温度上昇の対策を行なわずに済む場合があり、リールの大型化を避けることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、前述した実施形態における各部材の材質、形状、寸法、形態、数、または、配置等は適宜変更され得る。また、前述した実施形態では、両軸受型リールを例にとって説明されたが、本発明の魚釣用リールはスピニングリールも含む。また、前述した実施形態では、スプールを手動で巻き取る形式の両軸受型リールについて説明したが、スプールを駆動モータによって回転駆動する電動タイプの両軸受型リールに適用することも可能である。このような構成では、駆動モータを駆動する外部電源から電流を励磁コイルに印加することも可能となる。