JP6446012B2 - 人工皮革用基材 - Google Patents

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Description

本発明は、人工皮革用基材に関する。詳しくは、三次元絡合不織布と高分子弾性体からなる人工皮革用基材であって、機械的諸物性、柔軟性、風合いに優れた素材感、さらに軽量性を兼ね備えた人工皮革用基材に関する。
近年は、靴、鞄、衣料パーツ等の主要素材として人工皮革が広く用いられており、とりわけスポーツシューズ、カジュアルシューズ等の分野では、接着剥離強力や引裂き強力等の機械的諸物性に優れるだけでなく、軽量でかつ柔軟な素材による快適性能を備えた製品が求められている。
従来の人工皮革用基材の製造方法の多くは、概略次のようないくつかの工程からなる。溶解性、分解性を異にする2種類の重合体から紡糸した多成分系繊維をステープル化し、カード、クロスラッパー、ランダムウェーバー等を用いて所望の重量のウェブとし、次いでニードルパンチ、ウォータージェット等により繊維を互いに絡ませることで絡合不織布化した後、ポリウレタンに代表される高分子弾性体の溶液もしくはエマルジョン液を付与して凝固させ、その後で該多成分系繊維中の一成分の除去又は減量により極細繊維とする方法、あるいは前記において高分子弾性体を含浸・凝固させる工程と該多成分系繊維を極細繊維とする工程を逆の順序で行う方法である。
これらの方法により絡合不織布を構成する繊維を極細化させた柔軟な人工皮革用基材を得ることができ、それら基材をベースとする各種人工皮革素材を用いることで、製品は極細繊維特有の風合いと外観による優れた素材感が得られることが種々の製品市場で広く認知されている。
しかしながら、前記した従来の人工皮革用基材の製造工程では、多成分系繊維を極細繊維化する時に張力や圧縮等の外力が作用し絡合不織布の厚さが減少することによる、人工皮革用基材自身の見掛け密度の上昇は避け難い。このため、素材としての要求性能を確保した上で、軽量素材としての市場における優位性をも兼ね備えたものは、工業的には得ることができず、これまで様々な手法が提案されている。
軽量性に優れた人工皮革として、中空繊維を用いた製造方法が種々検討されてきた。例えば、中空率が40%を越えるポリエステル系繊維を用いた人工皮革が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、機械的物性、柔軟性、軽量性を兼ね備えた人工皮革として、0.5デシテックス以下の極細繊維(A)と、5デシテックス以下で横断面に5〜50個の中空部を有し、該中空部の総面積率が25〜50%の範囲であり、該中空部1個の占める面積が5%以下の繊維(B)とが、(A)/(B)の重量比で20/80〜80/20で三次元絡合されている不織布、及び高分子弾性体からなる人工皮革基体、その製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、中空繊維、あるいは極細繊維に対する高分子弾性体の拘束を防ぐため、不織布へポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVAと略記することがある。)を含浸した後、高分子弾性体を含浸する方法(例えば、特許文献3参照。)、さらには、不織布へ水系エマルジョンを含浸するにあたりエマルジョンと繊維との離型を目的として、水系エマルジョンへPVAを添加する方法がある(例えば、特許文献4参照。)。
一方、近年では有機溶剤の使用に対して、人体や環境への悪影響の懸念から無溶剤系での製造プロセスが要望されており、例えば、中空繊維発生型繊維の抽出成分として水溶性高分子成分を用いた繊維が提案されており(例えば、特許文献5参照。)、また人工皮革製造方法においては三次元絡合体不織布の内部に含浸する樹脂として高分子弾性体水分散液が検討されている。
特許3924360号公報 特開2002−242077号公報 特公平7−42652号公報 特公平6−55999号公報 特開2003−73924号公報
しかしながら、特許文献1に開示された人工皮革において、中空率が40%を越える中空繊維は、紡糸工程、不織布製造工程、さらにはその後の諸工程において、断面形状に由来する剛性不足により中空部が潰れて扁平化したり、中空部を形成するための外壁や隔壁が破壊されてしまいやすい。また、一度扁平化すると元のような高い中空率の断面形状には極めて回復し難く、中空部の壁が一度破壊されると中空部自体が無くなるため、40%以上といった高い中空率を有する繊維は不織布や人工皮革を製造する過程で中空繊維としての効果そのものを失いやすい。また、特許文献2に開示された製造方法は、高分子弾性体により中空繊維が拘束され易い構造であるため、機械的物性と柔軟性を高めるためには極細繊維の比率を高く設定する必要があり、また、極細繊維を用いることで中空繊維本来の軽量性が損なわれ、これらすべてを満足することができなかった。
また、特許文献3に開示された製造方法では、含浸したポリビニルアルコール系樹脂が、乾燥時のマイグレーションにより表面層へ移動するため、不織布内部へ残る量は少なくなり、特に中空繊維や直接紡糸繊維からなる不織布内部の高分子弾性体と繊維との離型性を充分に確保することはできず、ボキ折れ等がない十分な風合いが得られなかった。また、特許文献4に開示された製造方法はスエード前提のため、一度含浸したPVAは染色時に抽出することを想定しており、染色しない場合は別途抽出工程が必要となるばかりか、極細発生型繊維、あるいは中空繊維が溶剤抽出により発現する繊維であれば抽出工程が2段階必要になり、処理工程が増えることで生産プロセスが複雑化する問題がある。また、高分子弾性体水分散液を三次元絡合体不織布の内部に含浸する製造方法では、高分子弾性体を水系エマルジョンの形態で付与する場合は、中空繊維の表面に高分子弾性体が接着して、柔軟性の低下や物性の低下が顕著になるばかりでなく、中空繊維発生型繊維から島成分を抽出する際の抽出効率の低下をまねき、生産効率や軽量性が低下する問題がある。
また、人工皮革の各分野で一般的に用いられている0.3〜3.0mmの厚さ範囲の中で、より軽く、機械的物性に優れた、柔軟な製品が求められているが、特に製品が柔軟かつ軽量であることと機械的物性に優れていることとは裏腹の関係にあり、これらすべてを満足した無用剤系の人工皮革用基材は未だ開発されていない。
そこで本発明は、機械的諸物性、柔軟性、風合いに優れた素材感、さらに軽量性を兼ね備えた人工皮革用基材を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、下記の人工皮革用基材を提供する。
1.三次元絡合不織布と高分子弾性体とからなる人工皮革用基材であって、下記要件(1)〜(3)をみたす人工皮革用基材。
要件(1):三次元絡合不織布を形成する繊維の表面に高分子弾性体が不連続で存在する。
要件(2):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における350μm未満の空隙間内接円面積を除いた空隙間内接円面積の平均が1250μm以下である。
要件(3):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における空隙間内接円面積350〜3000μmの空隙間内接円数が、全空隙間内接円数に対し85%以上である。
2.前記高分子弾性体が、三次元絡合不織布に水系エマルジョン樹脂を含浸、凝固させて形成されたものである、前記1に記載の人工皮革用基材。
3.前記三次元絡合不織布を形成する繊維が、中空繊維発生型長繊維である、前記1又は2に記載の人工皮革用基材。
4.人工皮革用基材において、前記高分子弾性体と前記三次元絡合不織布を形成する繊維の水難溶性高分子成分との質量比(高分子弾性体/三次元絡合不織布を形成する繊維の水難溶性高分子成分)が、固形分換算で5/95〜50/50の範囲である、前記1〜3のいずれかに記載の人工皮革用基材。
本発明の人工皮革用基材は、高分子弾性体が繊維と一定の離型構造を有して繊維表面に不連続に存在し、かつ高分子弾性体が内部に均一に分散することで、繊維間空隙が均一に分布しており、スポーツシューズ等に用いられる、機械的物性に優れ、柔軟かつ軽量で風合いに優れた素材感を有する人工皮革基材である。
本発明の人工皮革用基材は、三次元絡合不織布と高分子弾性体とからなる人工皮革用基材であって、下記要件(1)〜(3)をみたす。
要件(1):三次元絡合不織布を形成する繊維の表面に高分子弾性体が不連続で存在する。
要件(2):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における350μm未満の空隙間内接円面積を除いた空隙間内接円面積の平均が1250μm以下である。
要件(3):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における空隙間内接円面積350〜3000μmの空隙間内接円数が、全空隙間内接円数に対し85%以上である。
本発明の人工皮革用基材は、要件(1):三次元絡合不織布を形成する繊維の表面に高分子弾性体が不連続で存在する。
ここで、「不連続」とは、高分子弾性体が、繊維の表面に帯状、面状等の連続した状態で存在するのではなく、繊維の表面に点状及び斑点状等の空間(高分子弾性体が存在しない部分)を規則的あるいは不規則的かつ均一に有して存在することである。
従来では、有機溶剤に溶解したバインダー樹脂を繊維質シート状物に含浸付与し、非溶剤で処理して湿式凝固させる方法が採用されており、バインダー樹脂が連続した発泡状態を形成して、少量のバインダー樹脂で形態安定化と天然皮革様の風合いを付与することが可能であった。しかし、化学薬品を使用せずに水系エマルジョン樹脂を用いる場合においては、バインダー樹脂が連続した構造体となるために多量の樹脂が必要となり、結果として風合いの硬化や軽量性や物性の低下を引き起こしてしまう。また、水系エマルジョン樹脂の使用量を単純に減らすと、均一な不連続状態ではなく部分的に連続層を形成してしまい、全体として不均一な構造体となり、結果として軽量性を確保できたとしてもボキ折れ等風合いの低下を招いてしまう。
そこで、本発明では、三次元絡合不織布に高分子弾性体を付与する場合、水溶性高分子成分を添加した高分子弾性体からなる水系エマルジョン樹脂を三次元絡合不織布に含浸、凝固させ、乾燥処理を行うことが好ましい。高分子弾性体からなる水系エマルジョン樹脂に水溶性高分子成分を添加することで、後述する抽出工程により、該水溶性高分子成分が抽出除去され、三次元絡合不織布の中空繊維発生型繊維を構成する繊維、すなわち水難溶性高分子成分と、水系エマルジョン樹脂に含まれる高分子弾性体との間の界面で空間が形成された離型構造が得られ、かつ高分子弾性体が繊維表面に不連続に存在することが可能となり、繊維間に形成される空隙が均一に分布した構造体が得られる。これによって柔軟性に優れ、挫掘皺の無いシートを得ることができるため、付与するバインダー樹脂の量を低減することも可能となり軽量化することができる。
上記のような効果を発現させるには、要件(2):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における350μm未満の空隙間内接円面積を除いた空隙間内接円面積の平均が1250μm以下であり、好ましくは1240μm以下、より好ましくは1200μm以下、さらに好ましくは1100μm以下である。また、上記空隙間内接円面積の平均の下限値としては、好ましくは350μm以上であり、より好ましくは400μm以上である。同時に、要件(3):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における空隙間内接円面積350〜3000μmの空隙間内接円数が、全空隙間内接円数に対し85%以上であり、好ましくは86%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。
該空隙間内接円平均面積が1250μmを超えると軽量性を損ない、該空隙間内接円面積350〜3000μmの割合が85%を下回ると、空隙の大きさが不均一となり人工皮革用基材を折り曲げたときにボキ折れ、挫掘皺等を生じ風合い面で問題が生じてしまう。
なお、「空隙間内接円」とは、人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面を30倍の倍率により走査型電子顕微鏡で観察し、得られた写真を画像解析ソフトを用い、動的閾値法で画像を二値化し、繊維と繊維との空隙部、高分子弾性体が付着した繊維と繊維又は高分子弾性体が付着した繊維との空隙部に描かれる円であり、繊維と2点以上接した円のことである。空隙間内接円面積及び数の具体的な測定法は、実施例において後述する走査型電子顕微鏡を用いた繊維間空隙面積測定のとおりである。
本発明の人工皮革用基材において、高分子弾性体と三次元絡合不織布を形成する繊維の水難溶性高分子成分との質量比(高分子弾性体/水難溶性高分子成分)が、固形分換算で好ましくは5/95〜50/50、より好ましくは10/90〜40/60、さらに好ましくは15/85〜30/70である。すなわち、人工皮革用基材としたときの三次元絡合不織布へ付与されている高分子弾性体の量としては、水難溶性繊維化後、高分子弾性体不織布と三次元絡合不織布を形成する繊維の水難溶性高分子成分との合計100質量に対して、固形分換算で好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは15〜30質量%である。5質量%以上であれば水難溶性繊維を固定することができ、折れ曲げ皺が生じず、形態安定性及び表面平滑性が良好となる。50質量%以下であれば風合いの硬化が生じることなく、高分子弾性体の弾性的な性質及び天然皮革の持つ低反発な柔軟性のバランスのとれたものとなり、軽量性が良好となる。
本発明の人工皮革用基材の厚さは、用途に応じて任意に選択でき、特に限定されるものではないが、好ましくは0.3〜3mm、より好ましくは0.7〜1.8mmの範囲である。0.3mm以上であれば実使用に耐え得る強度や均一性を得ることができ、3mm以下であれば目的とする軽量性が得られる。
また、人工皮革用基材の見掛け密度は0.3g/cm未満であることが好ましい。軽重において重要なのは人工皮革様基材を用いた靴や鞄等の製品自体の重量であり、その評価は使用する人の経験に基づいた相対的かつ感覚的なものである。既存製品の構成素材としての人工皮革あるいは人工皮革用基材の重量は、一般的には見掛け密度が0.35〜0.5g/cm、すなわち厚さが0.8mmの素材だと280〜400g/m程度である。厚さ0.8mmの人工皮革用基材や人工皮革等の素材一般に対する重量のイメージより少なくとも1割は軽く250g/mに満たないような場合、すなわち見掛け密度でいうと0.3g/cm未満の人工皮革用基材であれば、一般消費者にも容易に軽く感じられる。既存技術では現実問題として軽量、高物性、風合いの兼備が困難であったが、本発明によれば、見掛け密度0.3g/cm未満の軽量性を有し、かつ用途において求められる機械物性、人工皮革に求められる風合いや品位をも兼ね備えた人工皮革用基材を安定して製造することができる。
本発明の人工皮革用基材は、三次元絡合不織布と高分子弾性体とからなり、三次元絡合不織布を形成する繊維は、1種のポリマーからなる繊維、あるいは、化学的又は物理的性質の異なる少なくとも2種類の可紡性ポリマーからなる多成分系繊維(複合繊維)に、高分子弾性体を含浸させた後、適当な段階で少なくとも1種類のポリマーを抽出除去し、繊維形態を変えて形成することが可能な繊維である。
上記複合繊維は、海島型複合紡糸繊維、海島型混合紡糸繊維等で代表される海島型繊維や、花弁型や積層型繊維等の多成分系複合繊維のいずれも使用できるが、軽量の観点から中空繊維発生型繊維であることが好ましい。中空繊維発生型複合繊維は、チップブレンド(混合紡糸)方式や複合紡糸方式で代表される方法を用いて得られる。中空繊維発生型繊維の代表的な繊維の形態は、いわゆる海島型繊維と呼ばれるものである。
中空繊維発生型繊維の場合、後述のする抽出工程の後に繊維を形成するポリマー(海島型でいう海成分に相当)としては、水難溶性高分子である公知のポリマー、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系及びポリオレフィン系等であれば特に限定するものではない。中でもポリアミド系としてナイロンが好ましく、また、特にポリマーの比重が低く軽量性が発現しやすく、また高分子弾性重合体を水系エマルジョンの形態で含浸付与した際に、中空繊維との離型構造を発現しやすい点で、ポリオレフィン系の繊維形成能を有する重合体が好適であり、特に物性、紡糸安定性の点からポリプロピレン系樹脂が好適に使用される。
上記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜20のα−オレフィンとの結晶性ランダム共重合体もしくは結晶性ブロック共重合体等が挙げられる。コモノマーとして用いられる具体的なα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等を挙げられる。
これらのポリプロピレン系樹脂は、1種又は2種以上組み合わせて用いることもできる。また、ポリエチレン等の他のオレフィン樹脂を少量配合することもできる。
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと略すこともある。)は、紡糸性の観点から、好ましくは1〜200g/分、より好ましくは5〜100g/分、さらに好ましくは10〜50g/分である。ここで、MFRとは、JIS K6921−2付属書に準拠して230℃、荷重21.1Nで測定する値である。
また、ポリプロピレン系樹脂の融点は、紡糸性及び製品の耐熱性の観点から、140〜180℃が好ましく、160〜180℃がより好ましい。
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂は、高立体規則性重合触媒を用いてプロピレンを重合させることによって得ることができる。
高立体規則性重合触媒としては、塩化チタン、アルコキシチタン等を出発材料として調整されたチタン化合物を用いた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒、あるいはメタロセン化合物を用いたカミンスキー型触媒を使用することができる。
上記のような触媒を用いたプロピレンの重合様式は、触媒成分とモノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式の方法を採用することができる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーを実質的にガス状に保つ気相法等を採用することができる。また、連続重合、回分式重合も適用される。スラリー重合の場合には、重合溶媒としてヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族又は芳香族炭化水素の単独あるいは混合物を用いることができる。
これらの重合法においてポリプロピレンのMFRの調整は、水素の導入によって行われるが、その場合、水素の導入量は重合開始から終了まで一定としてもよく、連続的にあるいは段階的に変化させてもよい。
なお、上記のようなポリプロピレン系樹脂には、市販品の中から選択入手することができる。また、中空繊維を構成する樹脂には、染料、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、各種安定剤等を添加してもよい。
また、中空繊維発生型繊維の抽出成分を構成するポリマー(海島型でいう島成分に相当)は、水溶性高分子であり、抽出後の繊維を形成するポリマーとは溶剤又は分解剤に対する溶解性又は分解性を異にし、海成分との親和性の小さいポリマーであって、かつ紡糸条件下で海成分の溶融粘度より大きい溶融粘度であるか、あるいは表面張力の大きいポリマーであることが好ましい。このようなポリマーであれば、化学薬品等を用いることなく、さらに後述する高分子弾性体へ添加した水溶性高分子成分と同時に除去できる人工皮革用基材の製造が可能となる。
中空繊維発生型繊維の抽出成分を構成する上記ポリマーとしては、紡糸可能であり、かつ水溶液で抽出可能な水溶性高分子であれば公知のポリマーを使用できるが、熱水で溶解除去が容易であり、抽出の際の水難溶性高分子成分や高分子弾性体の分解反応が実質的に起こらず、水難溶性高分子成分や高分子弾性体が限定されない点、さらには環境に配慮した点等から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある。)が好ましい。
PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する。)としては、好ましくは200〜500、より好ましくは230〜470、さらに好ましくは250〜450である。重合度が200以上であれば溶融粘度が低すぎることなく、安定な複合化が得られる。重合度が500以下であれば溶融粘度が高すぎることなく、紡糸ノズルからの樹脂を良好に吐出できると共に、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。重合度が上記範囲にある時、本発明の目的がより好適に達せられる。
ここでいうPVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められるものである。
P=([η]10/8.29)(1/0.62)
本発明で用いられるPVAのケン化度は、好ましくは90〜99.99モル%、より好ましくは93〜99.98モル%、さらに好ましくは94〜99.97モル%、特に好ましくは96〜99.96モル%である。ケン化度が90モル%以上であれば、熱安定性が良好であり、熱分解やゲル化をしにくくなり溶融紡糸を良好に行うことができ、後述する生分解性が低下することがなく、さらには後述する共重合モノマーの種類によってPVAの水溶性が低下することもない。また、ケン化度が99.99モル%以下であれば、PVAを安定して製造することが可能である。
本発明で用いられるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋めておくと分解されて水と二酸化炭素になる。PVAを溶解した後のPVA含有廃液の処理には活性汚泥法が好ましい。該PVA水溶液を活性汚泥で連続処理すると2日間から1ヶ月の間で分解される。また、本発明に用いるPVAは燃焼熱が低く、焼却炉に対する負荷が小さいので、PVAを溶解した排水を乾燥させてPVAを焼却処理してもよい。
本発明に用いられるPVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃以上であれば、PVAの結晶性が低下することがなく、繊維強度及びPVAの熱安定性を維持でき、良好に繊維化することができる。また、融点が230℃以下であれば、溶融紡糸温度が高くなりすぎることがなく、紡糸温度とPVAの分解温度とが近づくことによるPVA繊維の製造不安定化を引き起こさない。
なお、PVAの融点は、示差走査熱量計を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温後、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で300℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
本発明に用いられるPVAは、ビニルエステル単位を主体として有する樹脂をケン化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを容易に得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
また、本発明で用いられるPVAは、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入した変性PVAを用いることが好ましい。
共重合単量体の種類としては、共重合性、溶融紡糸性及び繊維の水溶性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類が好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類及び/又はビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中にPVA構成単位が1〜20モル%存在していることが好ましく、4〜15モル%がより好ましく、6〜13モル%がさらに好ましい。さらに、α−オレフィン類がエチレンである場合には、繊維物性が高くなることから、エチレン変性PVAを用いることが好ましく、特にエチレン変性PVA中のエチレン単位含有量が、4〜15モル%であることが好ましく、より好ましくは6〜13モル%導入されたエチレン変性PVAである。
上記PVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法で製造することができる。その中でも、無溶媒あるいはアルコール等の溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。
溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられる。また、共重合に使用される開始剤としては、a、a’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネート等のアゾ系開始剤又は過酸化物系開始剤等の公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。
また、海成分/島成分の質量比は、断面形成性の観点から、10/90〜60/40が好ましく、20/80〜60/40がより好ましい。
本発明の人工皮革用記載を製造するには、含浸する水系エマルジョン樹脂へPVAを添加して水難溶性高分子で形成される繊維との適度な離型効果を発現させるが、この効果を補足するため、不織布に水系エマルジョン樹脂を含浸する前に、不織布へ事前にPVAを添加していてもよい。この際のPVA水溶液の固形分濃度は、粘度が高すぎることによる浸透性不良、あるいは付与量調整の絞りにおいて絞りきれない等の生産性低下を回避する観点から、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1.0〜9.0質量%であり、不織布へのPVA固形分付着率は、離型効果を効果的に発現させる観点から、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1.0〜15質量%である。
上述したとおり、本発明において好適な中空繊維発生型繊維は、機械的物性に優れることから長繊維であることが好ましい。長繊維とは、短繊維(繊維長10〜50mm)のように意図的に切断されていない繊維をいう。
長繊維の場合、短繊維と異なり繊維断面の露出が非常に少なく、後述する抽出工程において繊維の壁面から水溶性高分子の抽出を行うことが好ましい。このため抽出効率を上げるためには、水膨潤した際に繊維壁面へクラックを発生させることが好ましく、中空繊維発生型繊維の島成分である水溶性高分子の島成分間の距離、あるいは島成分と中空繊維発生型繊維外周との最短距離の平均が、7μm以下であることが好ましく、3μm以下がより好ましい。
ここで、各隔壁の最薄部の平均厚みとは、海島型繊維の横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で2000倍で観察した画像において、各島成分、及び、島成分と海島型繊維の輪郭とを隔離する海成分が形成する複数の隔壁において、最薄部の厚みtを測定し、その値を数平均して得られる厚みである。
上述したような中空繊維発生型繊維を形成することにより、後述する抽出工程の中空繊維発生型繊維からPVAを熱水により抽出除去する工程において、切断面、あるいは損傷部からPVAが水膨潤した時、海成分のポリオレフィン系樹脂(水難溶性高分子)で形成された隔壁にクラックが生じやすくなる。そして、クラックから海島型繊維の内部に水が浸入することにより、PVAがさらに膨潤溶解し、PVAの抽出効率が高くなる。従って、たとえ繊維断面の少ない海島型繊維からなるフィラメントを用いて形成された三次元絡合体であっても、PVAを効率的に抽出することができる。
本発明において好適である中空繊維発生型繊維の繊度は、5デシテックス以下が好ましく、3デシテックス以下がより好ましい。人工皮革等の繊維質シートでは、一般的に繊度が小さいほど目付斑が少なく柔軟な風合いが得られる。本発明においても繊度が5デシテックスを超える場合には基材の風合いが硬くゴワゴワとした触感が強調され適当でない。しかしながら、あまりに繊度が小さすぎると基材中の繊維が過密充填になるので、繊度は本発明の軽量性を達成する上で0.5デシテックス以上が好ましく、1デシックス以上がより好ましい。
また、繊度5デシテックス以下の繊維の横断面において存在する島成分は、好ましくは1個以上、より好ましくは5〜50個、さらに好ましくは10〜30個である。かつ繊維が中空繊維発生型繊維である場合、該中空部が下記式(1)及び(2)を同時に満足することにより、製品として使用時の屈曲により、中空部が潰れて扁平化、又は壁が破壊されたりすることなく、中空形状の回復性にも優れた性能を持ち、軽量性効果を安定して発揮することができる。
25≦100×sm/S≦50 (1)
100×s/S≦5 (2)
s:繊維断面中の中空部1個の面積
sm:繊維断面中の総中空部の面積
S:繊維外周に囲まれた部分の面積
上記式(1)で表される面積中空率、すなわち、繊維の横断面における該中空部の総面積の割合は25〜50%が好ましく、30〜40%がより好ましい。面積中空率が25%以上であれば軽量性効果を得ることができ、50%以下であれば島部除去工程以降にかかるテンションやプレスによる繊維断面の中空部分の潰れを最小限に抑えることができ、基材の密度を上げることなく軽量な基材を得ることができる。
さらに、中空繊維発生型繊維の断面における中空発生部1個の占める面積が5%以下であることが好ましい。5%以下であれば島部除去工程以降にかかるテンションやプレスによる繊維断面の中空部分の潰れを最小限に抑えることができ、また製品になってからの屈曲、圧縮による中空部の潰れ、変形が発生しにくくなる。また中空繊維中の1個の島部分(中空部分)の面積が少なすぎると、中空部を発生させる島部除去工程以降にかかるテンションやプレスによって、島成分を除去したにもかかわらず、中空部のないものとなるため、1〜4%がより好ましく、2〜4%がさらに好ましい範囲である。
また、中空繊維発生型繊維の島成分の繊度は、0.05〜0.5デシテックスが好ましく、さらには0.1〜0.5デシテックスの範囲をとることが島成分除去後の中空繊維の中空形状安定性の点でより好ましい。また、面積中空率は、中空繊維を形成する部分と、抽出除去後に中空部となる島成分部分との面積比率、及び島成分を除去した時の中空繊維成分からなる外壁や隔壁の形態維持性に依存するので、適宜島成分の繊度と海島中空比率とを組み合わせて中空形状を安定化することが好ましい。
本発明において好適な中空繊維発生型繊維は、従来の人工皮革用基材において最も一般的に実施されてきたように、目的の繊度に紡糸、延伸し、捲縮を付与した後で任意の繊維長にカットして、ステープルとし、カード、クロスラッパー、ランダムウェバー等を用いて複合繊維ウェブを製造してもよい。
あるいは、紡糸ノズル孔から吐出した中空繊維発生型繊維を冷却装置により冷却せしめた後、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて、目的の繊度となるように、1000〜6000m/min程度の引取り速度に該当する速度で高速気流により牽引細化させた後、開繊させながら移動式ネット等の捕集面上に堆積させて繊維ウェブを形成させ、さらに次工程に搬送するためにウェブの形態を安定化する必要がある場合は、引き続きこの繊維ウェブをプレス等により部分的に圧着して形態を安定化させる方法により製造してもよい。この方法は、従来の短繊維を経由する繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置及びカード機等の一連の大型設備を必要としないという生産上の利点がある。また、得られる長繊維不織布、あるいはそれを用いた人工皮革用基材は、構造において連続性の高い長繊維からなるので、強度等の物性面においても従来一般的であった短繊維不織布、あるいはそれを用いた人工皮革用基材に比べて高いものを得ることができるという利点がある。
上記のようにして得られた繊維ウェブを、目的とする目付の不織布を得るために複数枚重ね合わせ、下記のニードルパンチング工程を含む絡合処理によって、繊維を実質的に切断することなく、厚み方向に繊維を配向させつつ繊維同士を絡合させた三次元絡合不織布とすることができる。
ニードルパンチング工程で用いるフェルト針は、公知の物が用いられるが、繊維ウェブの厚さ方向への繊維同士の交絡を確実に行うためには、針をウェブへ突き刺す際に針1本当たりの抵抗がより低く、繊維を切断させにくい方が好ましいので、より細い針、あるいはバーブが少ない1バーブ針が好適に用いられる。また、三次元絡合不織布の表層領域の見掛け密度を中層付近より高くすることで、少ない中空繊維でも効率的に平滑でより緻密な表面状態を得るためには、バーブが多めの3バーブ、6バーブ、9バーブ等の針が効果的である。従って、これらの針を組み合わせて用いることで、例えば繊維同士が融着している等の交絡させにくい状態にある繊維ウェブを用いた場合でも、効果的に交絡させた上で表面層は平滑で緻密な状態にある三次元絡合不織布を得ることも可能である。
ニードルパンチング工程において、繊維ウェブに突き刺すフェルト針の単位面積辺りの本数は、使用する針の形状やウェブの目付により異なり、使用する針のスロートデプスが深く、ウェブを貫通するバーブ数が多く、ウェブの目付が高い場合は少ない本数で効果的に繊維同士を交絡させ易く、逆にスロートデプスが浅く、繊維ウェブを貫通するバーブ数が少なく、ウェブの目付が低い場合は必要な本数が多くなるが、一般に200〜2500本/cm、好ましくは500〜2000本/cmの範囲で設定される。一般的に海島型繊維のニードルパンチング工程において、ニードルパンチング条件が強すぎる場合には海島型繊維の切断や繊維の損傷がおこり交絡させにくく、またニードルパンチング条件が弱すぎる場合には厚さ方向への繊維の配列数が不足し易い傾向にある。ニードルパンチング工程により得られた三次元絡合不織布の目付けとしては好ましくは100〜3000g/m、より好ましくは150〜1500g/m、さらに好ましくは200〜1000g/mである。
ニードルパンチされた不織布は本発明の平滑化のためには例えばプレスすることが好ましく、プレスによる平滑化時に同時に厚さ調節も行うことが好ましい。
プレスの方法としては、複数の加熱ロール間を通す方法、予熱した不織布を冷却ロール間に通す方法等、従来公知の方法が利用できる。なおこの工程の際に、繊維の溶融・圧着状態の調整や、テンションやプレス等による工程の形態変化を抑制する目的で、PVAやデンプン、樹脂エマルジョン等の接着剤を添加することは差し支えない。プレスすることにより不織布の厚さが好ましくは5〜30%、さらに好ましくは10〜25%減少する程度の条件をとる。
三次元絡合不織布を形成する繊維の表面に高分子弾性体を不連続に存在させるためには、三次元絡合不織布の内部に、水溶性高分子成分を添加した高分子弾性体からなる水系エマルジョン樹脂を含浸、凝固させることが好ましい。
高分子弾性体へ添加する水溶性高分子成分としては、水溶液で抽出可能な成分であれば公知のポリマーが使用できるが、熱水で溶解除去が容易であり、抽出の際に水難溶性高分子成分や高分子弾性体成分の分解反応が実質的に起こらず、水難溶性高分子成分や高分子弾性体が限定されない点、さらには環境に配慮した点等からPVAが好ましい。なお、ここでいう水溶性高分子成分は、中空繊維発生型繊維の抽出成分を構成する水溶性高分子と同一であるものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。
PVA添加量は、水系エマルジョンの粘度が高くなり過ぎず、かつ離型効果を効果的に発現させるため、高分子弾性体の固形分に対して好ましくは7.0〜35質量%、より好ましくは8.0〜30質量%、さらに好ましくは9.0〜25質量%である。PVAの添加量が7.0質量%以上であれば、離型効果及び水系エマルジョン樹脂を繊維表面へ不連続にかつ均一分散状態を効果的に発現させることができ、さらには、水難溶性高分子成分と高分子弾性体の間に適度な滑りが生じて引裂強力や剥離強力等の物性も向上する効果があり、本発明における好適な組み合わせである中空繊維発生型繊維を長繊維とした場合に上記の効果が得られやすい。また、35質量%以下であれば、PVA添加により、水系エマルジョン樹脂の粘度が高くなり過ぎず、かつ風合いが柔らかくなり過ぎてコシが無くなることを防ぐことができる。
ここで公知の撥水処理剤を用いて後処理して撥水性を付与した場合は、水系の撥水処理剤は水性化する目的で撥水処理剤自体に親水基を有していたり、界面活性剤を含有していたりするため、水系エマルジョンバインダー樹脂を含浸、凝固、乾燥する工程中において、撥水性が低下してしまい、目的とする離型構造を安定して得ることが困難となる。
高分子弾性体を構成する樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステルエーテルコポリマー、ポリアクリル酸エステルコポリマー、ポリウレタン、ネオプレン、スチレンブタジエンコポリマー、シリコーン樹脂、ポリアミノ酸、ポリアミノ酸ポリウレタンコポリマー等の合成樹脂、天然高分子樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
なかでも、ポリウレタンあるいはこれに他の樹脂を加えたものは、柔軟な風合いが得られるので、高分子弾性体として好ましく用いられる。なお、必要によっては水系エマルジョン液中に、顔料、染料、架橋剤、充填剤、可塑剤、各種安定剤、界面活性剤等を添加してもよいが、自己乳化タイプのエマルジョンが好ましく用いられる。
水系エマルジョン中の樹脂濃度としては、前述したように高分子弾性体と繊維絡合体を形成する繊維の水難溶性高分子成分の比率が好ましい範囲を満たせば任意に設定することが可能だが、分散性、液の安定性、その他添加剤を混合する場合の添加剤安定性等の観点から、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは2〜40質量%である。この範囲内であれば上記中空繊維発生型繊維化後の不織布に対する高分子弾性体の質量を固形分換算で5〜50質量%に調整することが容易であり、繊維と弾性重合体とのバランスがよく、製品としての充実感や柔軟性が得られ、軽量性及び物性が良好となる。
水溶性高分子成分を添加した高分子弾性体からなる水系エマルジョン樹脂を、三次元絡合不織布の内部に含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬等により不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布する方法等が挙げられる。感熱ゲル化剤等を使用して、含浸した水系エマルジョンが不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)するのを防止し、水系エマルジョン樹脂を不織布中で均一に凝固させてもよい。
また、含浸した水系エマルジョン樹脂を不織布の表面と裏面に移行(マイグレーション)させ、その後凝固させて、高分子弾性体の存在量を厚み方向に略連続的に勾配させてもよい。すなわち、高分子弾性体の存在量を、厚み方向中央部よりも、両表層部近傍で多くしてもよい。このような分布勾配を得るためには、水系エマルジョン樹脂を含浸させた後、マイグレーション防止手段を講じることなく、不織布の表面と裏面を好ましくは100〜150℃で、好ましくは0.5〜30分間加熱する。このような加熱により水分が表面と裏面から蒸散し、それに伴って水系エマルジョン樹脂の水分が両表層部に移行し、水系エマルジョン樹脂が表面と裏面近傍で凝固する。マイグレーションのための加熱は、乾燥装置中等において熱風を表面及び裏面に吹き付けることにより行うことが好ましい。
上述した水溶性高分子成分を添加した高分子弾性体からなる水系エマルジョン樹脂を含浸し、凝固、乾燥処理を行った(好ましくはこの後に公知の方法で中空繊維化処理を行った)三次元絡合不織布から、該不織布を形成している好適な中空繊維発生型繊維の水溶性高分子成分、及び水系エマルジョン樹脂へ添加された水溶性高分子成分、さらには水系エマルジョン樹脂に最初から含まれている添加剤を、化学薬品を用いることなく同時に熱水抽出除去する。
例えば、中空繊維発生型繊維の水溶性高分子成分を先に抽出除去した後に水系エマルジョン樹脂を含浸すると、水系エマルジョン樹脂に含まれる水溶性高分子成分や添加剤の除去ために再び熱水抽出除去操作を行うことが必要となってしまうため、熱水抽出除去は水系エマルジョン樹脂を含浸した後に行い、一度で全ての水溶性高分子成分や添加剤を除去することが生産効率を高める上で好ましい。また、水溶性高分子成分を添加した高分子弾性体からなる水系エマルジョン樹脂を含浸する前に、先に中空繊維発生型繊維の水溶性高分子成分を抽出除去した場合、前記高分子弾性体による不織布補強効果が不足し、全体的に厚みくたりが大きく、不織布を構成する繊維同士が集毛しやすくなり、それらに伴い350〜3000μmの空隙間内接円で特定された空間が減少してしまうことで、風合いがペーパーライクになりやすくなってしまう。
本発明における三次元絡合不織布を形成する好適な中空繊維発生型繊維が、好適な長繊維である場合は、短繊維と異なり繊維断面の露出が実質的に無いあるいは少ないため、繊維の壁面からPVAで代表される水溶性高分子成分の抽出を行う必要がある。このためには海成分により形成される複数の隔壁における、各隔壁の最薄部の平均厚みが7μm以下であることが好ましく、この範囲であれば、熱水が島成分のPVAを膨潤させることで繊維側面に物性を低下させず微小なクラックを発生させPVAの抽出除去を行うことが容易となる。
抽出除去する方法としては、80〜95℃の水温が好ましく、液流染色機、ジッガー等の染色機や、オープンソーパー等の精練加工機を用いることができるが、抽出効率の向上のためには中空繊維に物理的な変形を与えることができる抽出方法が好ましく、液流染色機や、バイブロ洗浄機と搾液装置を多段に組み合わせた装置を用いることが好ましい。上記の抽出方法により、水溶性高分子成分の大半ないし全部を抽出除去する。
上述した本発明の人工皮革用基材は、種々の用途における、例えば種々の外観の銀付人工皮革の基材として用いることができる。
人工皮革用基材の表面に、離形紙上に形成した皮革様外観の樹脂フィルムを接着剤を介して転写したり、樹脂エマルジョン、樹脂溶液、溶融樹脂等の液化樹脂塗料をグラビアやコンマコーター等を用いて連続的にコートしたり、それらの前後でエンボスロールや鏡面ベルト等を用いて型押し加工や平滑化加工を行ったり、これらの加工を組み合わせたりする表面仕上げ加工を、本来目的とする軽量性を損なわない範囲で行った人工皮革を主要素材の全部又は一部として用いることで、本発明の効果を有する靴、鞄等の人工皮革製の製品を得ることが可能である。
上記表面仕上げ加工を行った表面の仕上げ加工部分、すなわち銀面層を構成する樹脂としては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等の従来公知の樹脂を使用可能であるが、人工皮革用基材の風合いや充実感とのバランスをとると共に、表面耐磨耗性、耐屈曲性、表面タッチ、耐久性等の性能バランスのためにポリウレタン樹脂又はアクリル樹脂を使用することが好ましい。
また、銀面層の構造は、前記した離形紙上に樹脂フィルムを形成する際や、基材表面にコートした液化樹脂塗料を凝固する際に、湿式法又は乾式法によって多孔質構造や非多孔質構造とすることで、所望の機能や風合い等を得ることができる。銀面層の厚さは、見掛け密度0.3未満レベルの軽量性を損なわず、用途において必要とされる表面強度等の機械物性を有し、かつ基材との風合いバランスや基材とトータルでの厚さが所望の範囲に入れば、特に限定されるものではないが、目安は20〜500μmの範囲であり、例えば平滑でありかつ柔軟で一体感のある風合いを特徴としつつ、機能性として通気性、透湿性をも向上させたような人工皮革を得たい場合等は、50〜300μmが好ましい。
実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、実施例中で記載される部及び%は、特にことわりのない限り質量に関するものである。以下の実施例及び比較例において融点の測定、機械的物性その他の評価は以下の方法に従った。
[樹脂の融点の測定方法]
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で室温から300℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300℃まで昇温したとき、樹脂の融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を採用した。
[抽出率測定]
抽出率は以下の式にて算出を行った。
高分子弾性体付与後不織布抽出率(%)=(A−B)/(A×C/100×D)×100
A:抽出前高分子弾性体付与後不織布質量
B:抽出後高分子弾性体付与後不織布質量
C:高分子弾性体付与後不織布の中空繊維発生型繊維成分質量比率
D:中空繊維発生型繊維の水溶性高分子成分質量比率
[人工皮革用基材の見掛け密度の測定]
人工皮革用基材の単位面積あたりの質量(g/cm)を厚さ(cm)で除した値を見掛け密度(g/cm)とし、人工皮革用基材の任意の10箇所について測定した見掛け密度を算術平均した値を、その人工皮革用基材の見掛け密度とした。なお、厚さは、JISL1096に準じて荷重240gf/cmで測定した。
[人工皮革用基材の剥離強力測定方法]
長さ15cm、巾2.5cm、厚さ5mmのポリウレタン製ゴム板の表面をサンドペーパーにて軽く削り取って二液架橋タイプのポリウレタン接着剤をいずれかの端部から長さ10cm程度の範囲に均一に塗布し、一方、人工皮革用基材を長さ25cm、巾2.5cmに切り出した試験片にも同様にいずれかの端部から長さ10cm程度の範囲に接着剤を均一塗布したものを、接着剤を塗布した端部同士が重なるように貼り合わせた。
貼り合わせた試験片とゴム板を2〜4kg/cm程度の圧力でプレスした後、25℃にて1昼夜放置した。試験片及びゴム板それぞれの接着剤を塗布していない端部を、初期間隔5cmにセットした引張試験機の上下それぞれのチャックに挟んで、引張速度10cm/分での引張時間に対応した、ゴム板と試験片との接着部分の剥離強力を測定し、チャートに記録した。チャート上に得られた引張時間−剥離強力曲線の剥離強力がほぼ一定している箇所についての平均値を読み取り、その試験片の剥離強力値とした。1種類の人工皮革用基材について、任意の3箇所から切り出した試験片3個の剥離強力測定値を算術平均した値を、その人工皮革用基材の剥離強力値とした。
[人工皮革用基材の引裂強力測定方法]
長さ10cm×巾4cmに切り出した試験片の短辺の中央(巾方向両端から2cmの箇所)に短辺と直角(長さ方向に平行)に5cmの切れ込みを入れ、各舌片を剥離強力測定方法と同様にセットした引張試験機の上下チャックにそれぞれ挟んで、引張速度10cm/minで引裂いたときの引裂応力を測定し、チャートに記録した。チャートから引裂応力の最大値を読み取り、その試験片の引裂強力値とした。1種類の人工皮革用基材について、任意の3箇所から切り出した試験片3個の引裂強力測定値を算術平均した値を、その人工皮革用基材の引裂強力値とした。
[風合い]
(1)屈曲時
20cm×20cmの正方形に切断した試料を上端と下端を合わせるように谷折りしたときに発生する折り曲げ形状を目視により観察した。
そして、以下の基準により判定した。
良好:牛皮革を折りこんだときと同様の、表面に緻密且つ均質な折れシワが発生した。
不良:折りこんだ表面にダンボールを折り込んだような荒い折れシワが発生した。
(2)触感(柔軟性)
得られた人工皮革用基材から20cm×20cmの試験片を切り出した。そして試験片を手のひらに入れてつかんだときの触感により判定した。
[繊維間空隙面積測定]
人工皮革用基材全層断面を30倍の倍率により走査型電子顕微鏡で観察した。得られた写真を画像解析ソフトPopImaging(Digitalbeingkids.Co製)を用い、動的閾値法で画像を二値化し、空隙部に内接円を描き、その内接円面積を空隙間内接円面積として計測した。描いた内接円面積の中で350μm未満のものを除去し、残りの描いた全ての内接円面積を数平均したものを空隙間内接円面積の平均とした。また、描いた内接円面積350〜3000μmの空隙間内接円数の、全空隙間内接円数に対する割合を算出した。
[実施例1]
ポリプロピレン(プライムポリマー社製プライムポリプロY−2005GP、融点162℃、JIS K7210のM法で測定したMFR:20g/分)を海成分に用い、水溶性熱可塑性PVA(クラレ社製エクセバールCP−4104MI、融点209℃、JIS K7210のM法で測定したMFR:80g/分、粘度平均重合度330、ケン化度98.4モル%)を島成分とし、海島型多成分系繊維1本あたりの島数が12個(島)となるような溶融複合紡糸用口金を用い、海成分/島成分の質量比50/50となるように240℃で口金より吐出した。単位時間辺りの吐出量と得られる長繊維の繊度の比率から間接的に求められる紡糸速度が2500m/minとなるように口金直下に設置したエアジェット吸引装置のエアーを調整して、口金から吐出させたポリマーを索引細化させつつ冷却することで平均繊度2.81デシテックスのポリプロピレン中空繊維発生型複合繊維を紡糸した。得られたポリプロピレン中空繊維発生型複合繊維のPVAを隔てる壁の厚みは1.24μmであった。その複合繊維を吸引装置直下に設置した移動式ネット上に連続的に捕集したのち、表面温度常温の金属ロールを用いて線圧17kg/cmでプレスすることにより目付け45g/mの複合繊維ウェブを得た。
得られた複合繊維ウェブを、クロスラッパーを用いてウェブ8枚分に相当する目付けになるように重ね合わせながら針折れ防止油剤をスプレーを用いてウェブ表面に均一に付与した。次いで、針先端からバーブまでの距離が5mmの9バーブおよび6バーブのフェルト針を用い、複合繊維ウェブに突き刺した針の先端が反対側から最大で10mm突き出すような設定にてウェブ両面へ交互にニードルパンチング処理を行った。突き刺した針本数が合計で1450本/cmとなるようにニードルパンチング処理をおこなって複合繊維同士を絡合させることで、目付298g/mの三次元絡合不織布を得た。この不織布へ固形分濃度1.8質量%のPVA水溶液をPVA固形分付着率2.8質量%となるよう含浸付与した後、145℃で表面が平滑な金属ロール同士でプレスして、厚さ1.62mm、密度0.194g/cm3で表面が平滑な三次元絡合不織布を得た。
表面が平滑な三次元絡合不織布に、自己乳化型水系ポリウレタンエマルジョン(100%モジュラス:27MPa)へエマルジョン固形分の9.3質量%のPVA(クラレ社製、PVA−117)を添加し、界面活性剤BK90NM(日華化学社製)を3.5g/L添加し、エマルジョン固形分濃度10.8質量%として含浸付与した後、乾燥機中で100℃の熱風にて30分間乾燥処理を施し高分子弾性体を含浸させた。
次いで、HLB9、曇点57℃のノニオン系界面活性剤(日華化学社製、サンモールBK−90NM)を0.5g/L含有させた95℃の熱水中で、熱水浸漬時間20分となるようdip×nip方式で三次元絡合不織布中の複合繊維から島成分PVAを溶解除去した。抽出率は96.8質量%であり、得られたものは厚さ1.06mm、目付218g/mで、横断面に12個の中空部を有するポリプロピレン中空繊維の三次元絡合不織布とポリウレタンからなる人工皮革用基材を得た。
得られた人工皮革用基材中のポリウレタンとポリプロピレン中空繊維との質量比は、ポリウレタン/ポリプロピレン中空繊維=24.3/75.7であり、ポリウレタンは繊維上に不連続に存在していた。また、上記の繊維間空隙面積測定に従い、得られた人工皮革用基材の断面を30倍の倍率で電顕観察し、得られた写真を画像解析ソフトPopImaging(Digitalbeingkids.Co製)を用い、動的閾値法で画像を二値化し、空隙部に内接円を描き、その内接円面積を空隙間内接円面積として計測した。描いた内接円面積の中で350μm未満のものを除去し、残りを描いた全ての内接円面積を数平均した空隙間内接円面積は平均1222μm、また、描いた内接円面積が350〜3000μmの空隙間内接円の数の全空隙間内接円数に対する割合が87.9%であった。
この人工皮革用基材は、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高く、タテ引裂強力4.5kg、ヨコ引裂強力4.8kg、見掛け密度が0.206g/cm3であり、機械的物性に優れていながら、軽いだけでなく、風合いは腰がある上に柔軟な触感であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に発現して良好であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として極めて優れた素材であった。
[実施例2]
PVA/Em量変更
三次元絡合不織布へ事前にPVAを添加せず、水系ポリウレタンエマルジョンへエマルジョン固形分の12.4質量%のPVAを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、人工皮革用基材を得た。
得られた人工皮革用基材中のポリウレタンは繊維上に不連続に存在しており、空隙間内接円面積は平均1044μm、350〜3000μmの空隙間内接円の割合が92.4%であった。また、タテ引裂強力4.0kg、ヨコ引裂強力3.1kg、見掛け密度0.218g/cm3であり、機械的物性に優れていながら、軽いだけでなく、風合いは腰がある上に柔軟な触感であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に発現して良好であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として極めて優れた素材であった。
[実施例3]
PVA/Em量変更
三次元絡合不織布へ事前にPVAを添加せず、水系ポリウレタンエマルジョンへエマルジョン固形分の18.6質量%のPVAを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、人工皮革用基材を得た。
得られた人工皮革用基材中のポリウレタンは繊維上に不連続に存在しており、空隙間内接円面積は平均1089μm、350〜3000μmの空隙間内接円の割合が91.7%であった。また、タテ引裂強力3.0kg、ヨコ引裂強力3.7kg、見掛け密度0.229g/cm3であり、機械的物性に優れていながら、軽いだけでなく、風合いは腰がある上に柔軟な触感であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に発現して良好であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として極めて優れた素材であった。
[実施例4]
PP繊維→NY繊維変更
海成分としてナイロン1015BK(宇部興産社製)に変更し、水系エマルジョンへ界面活性剤を無添加とした以外は実施例1と同様の操作を行い、人工皮革用基材を得た。
得られた人工皮革用基材中のポリウレタンは繊維上に不連続に存在しており、空隙間内接円面積は平均1175.5μm、350〜3000μmの空隙間内接円の割合が88.8%であった。また、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高く、タテ引裂強力4.9kg、ヨコ引裂強力4.6kg、見掛け密度0.223g/cm3であり、機械的物性に優れていながら、軽いだけでなく、風合いは腰がある上に柔軟な触感であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に発現して良好であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として極めて優れた素材であった。
[実施例5]
スエード繊維
海成分として水溶性熱可塑性PVA(クラレ社製、エクセバールCP−4104MI、融点209℃、JIS K7210のM法で測定したMFR:80)、島成分として変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(融点240℃)を用い、海島型多成分系繊維1本あたりの島数が25個(島)となるような溶融複合紡糸用口金を用い、海成分/島成分の質量比25/75として紡糸し、基材中のポリウレタンとポリエチレンテレフタレート繊維との質量比がポリウレタン/ポリエチレンテレフタレート=25.1/74.9とした以外は実施例1と同様の操作を行い、人工皮革用基材を得た。
得られた人工皮革用基材中のポリウレタンは繊維上に不連続に存在しており、空隙間内接円面積は平均959.6μm、350〜3000μmの空隙間内接円の割合が92.5%であった。また、タテ引裂強力4.2kg、ヨコ引裂強力4.3kg、見掛け密度0.454g/cm3であり、機械的物性に優れていながら、風合いは腰がある上に柔軟な触感であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に発現して良好であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として極めて優れた素材であった。
[比較例1]
PVA無添加
水系ポリウレタンエマルジョンへPVAを無添加とした以外は実施例1と同様の操作を行い、人工皮革用基材を得た。
得られた人工皮革用基材中のポリウレタンは繊維上に不連続に存在しているものの、空隙間内接円面積は平均1255μm、350〜3000μmの空隙間内接円の割合が84.6%であった。また、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高いものの、タテ引裂強力3.0kg、ヨコ引裂強力2.1kg、見掛け密度0.215g/cm3であり、機械的物性が低く、軽いものの、風合いはボキ折れが目立ち、屈曲時は皺が目立ち不良であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として劣ったものであった。
[比較例2]
PVA多量添加
水系ポリウレタンエマルジョンへエマルジョン固形分の30.0質量%のPVAを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、人工皮革用基材を得た。
PVA添加した水系エマルジョンを不織布へ含浸する際、粘度が高すぎて扱いにくく、不織布が伸びる等の弊害があった。得られた人工皮革用基材中のポリウレタンは繊維上に不連続に存在して軽いものの、空隙間内接円面積は平均1263μm、350〜3000μmの空隙間内接円の割合が90.7%であった。また、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高いものの、タテ引裂強力3.9kg、ヨコ引裂強力3.7kg、見掛け密度0.218g/cm3であり、機械的物性が高く軽いものの、風合いは柔らか過ぎでコシが無く、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として劣ったものであった。
[比較例3]
PVA少量添加
水系ポリウレタンエマルジョンへエマルジョン固形分の3.1質量%のPVAを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、人工皮革用基材を得た。
得られた人工皮革用基材中のポリウレタンは繊維上に不連続に存在しているものの、空隙間内接円面積は平均1300μm、350〜3000μmの空隙間内接円の割合が84.3%であった。また、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高いものの、タテ引裂強力2.9kg、ヨコ引裂強力2.1kg、見掛け密度0.207g/cm3であり、機械的物性が低く、軽いものの、風合いはボキ折れが目立ち、屈曲時は皺が目立って不良であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として劣ったものであった。
[比較例4]
先抽出含浸
実施例1の繊維として海成分/島成分の質量比60/40を使用した不織布の抽出成分を先に抽出した後、PVA添加水系エマルジョンを含浸し、その後PVA及びエマルジョン添加剤を除去するため再度抽出除去した以外は実施例1と同様の操作を行い、人工皮革用基材を得た。
得られた人工皮革用基材中のポリウレタンは繊維上に不連続に存在しているものの、空隙間内接円面積は平均1359μm、350〜3000μmの空隙間内接円の割合が83.9%であった。また、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力は高く、タテ引裂強力6.0kg、ヨコ引裂強力6.7kg、見掛け密度0.288g/cm3であり、機械的物性が高く軽いものの、得られた人工皮革用基材は、先に抽出しなかったものに比較し若干重くなる傾向で、また先に不織布の抽出成分を抽出したため、抽出工程による不織布のタテ伸びや厚みもくたるといった歪が残ったままであり、シワがあり、風合いがペーパーライクで劣ったものであった。
本発明の人工皮革用基材は、機械的物性に優れ、柔軟かつ軽量で風合いに優れた素材感を有することから、鞄、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革に仕上げるための基材として極めて有用である。

Claims (3)

  1. 三次元絡合不織布と高分子弾性体とからなる人工皮革用基材であって、下記要件(1)〜(3)をみたし、
    見掛け密度が0.3g/cm未満であり、
    人工皮革用基材において、前記高分子弾性体と前記三次元絡合不織布を形成する繊維の水難溶性高分子成分との質量比(高分子弾性体/三次元絡合不織布を形成する繊維の水難溶性高分子成分)が、固形分換算で15/85〜30/70の範囲である
    人工皮革用基材。
    要件(1):三次元絡合不織布を形成する繊維の表面に高分子弾性体が不連続で存在する。
    要件(2):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における350μm未満の空隙間内接円面積を除いた空隙間内接円面積の平均が400μm 以上1250μm以下である。
    要件(3):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における空隙間内接円面積350〜3000μmの空隙間内接円数が、全空隙間内接円数に対し85%以上である。
  2. 三次元絡合不織布に水系エマルジョン樹脂を含浸、凝固させて高分子弾性体を形成する工程を有する、請求項1に記載の人工皮革用基材の製造方法。
  3. 三次元絡合不織布にポリビニルアルコールを添加した水系エマルジョン樹脂を含浸、凝固させて高分子弾性体を形成する工程を有する人工皮革用基材の製造方法であり、
    ポリビニルアルコールの添加量が、高分子弾性体の固形分に対して7.0〜25質量%であり、
    前記人工皮革用基材が、下記要件(1)〜(3)を満たす人工皮革用基材の製造方法。
    要件(1):三次元絡合不織布を形成する繊維の表面に高分子弾性体が不連続で存在する。
    要件(2):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における350μm未満の空隙間内接円面積を除いた空隙間内接円面積の平均が400μm 以上1250μm以下である。
    要件(3):人工皮革用基材の厚さ方向に平行な断面における空隙間内接円面積350〜3000μmの空隙間内接円数が、全空隙間内接円数に対し85%以上である。
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