JP6438725B2 - 蓄電デバイス用セパレータ、及び電気化学素子 - Google Patents

蓄電デバイス用セパレータ、及び電気化学素子 Download PDF

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Description

本発明は蓄電デバイス用セパレータ、及び電気化学素子に関する。
リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスには、正負極間に微多孔膜からなるセパレータが設けられている。セパレータの機能としては、例えば正負極間の直接的な接触を防止すること、イオンを透過させること等の他、安全の観点から、
蓄電デバイスが異常加熱した場合に速やかに電池反応を停止する「ヒューズ特性」、
高温になっても当初の形状を維持して正極物質と負極物質が直接反応する危険な事態を防止する「ショート特性」
等が求められている。
このようなセパレータを構成する材料としては、例えば不織布、紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン等が知られている。
近年、蓄電デバイスにおいて、充放電電流の均一化、リチウムデンドライトの成長抑制の観点から、電極とセパレータとの間の密着性を向上すべき要請が生じている。セパレータと電極との密接性を向上すれば、充放電電流が均一化し、リチウムデンドライトの成長が抑制されることが期待されるから、結果として、蓄電デバイスの充放電サイクル寿命が向上されることが期待されることとなる。
このような事情のもと、セパレータの密着性を向上させる目的で、ポリオレフィンからなる微多孔膜に接着性ポリマーを塗工する試みが行われている(例えば特許文献1及び2参照)。
特開2007−59271号公報 特開2011−54502号公報 特表2009−518809号公報 特開2012−38597号公報 国際公開第2014/017651号
上記特許文献1及び2の技術によると、蓄電デバイスのサイクル特性の向上については、確かに一定の効果が認められる。しかし、これらの技術は、リチウムイオンの透過性が満足できるものではないことの他、セパレータの表面に「べたつき」が生じ、ハンドリング性が低下するとの問題が新たに発生する。
この点、特許文献3には、電極との密着性と、セパレータ表面のべたつきの抑制とを両立するために、2種類以上の樹脂バインダーを混合使用する技術が;
特許文献4には、2種類以上の樹脂バインダーのマイグレーションをそれぞれ制御する技術が;
特許文献5には、2種類の樹脂バインダーを重ねて塗工する技術が、
それぞれ開示されている。
しかしながら前記の特許文献3〜5における試みは、あるものは目標未達であり、又あるものは生産性が損なわれる等、工業的に意味のある形態における改良の試みとしては、いずれも奏功していない。
本発明は、上記の現状を打開しようとしてなされたものである。従って、本発明の目的は、電極との密着性、多孔基材層との接着強度、及び無機充填剤の結着強度に優れるとともに、べたつきを生じず、ハンドリング性にも優れ、さら更に良好なサイクル特性を示す蓄電デバイス用セパレータを、優れた生産性で提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、多孔基材層上に、無機充填剤及び樹脂バインダーからなる多孔層を有するセパレータを製造する際に、前記樹脂バインダーとして、比重及びガラス転移温度が異なる複数種のものを混合使用することにより、複数種の樹脂バインダーの比重差によって樹脂バインダーのマイグレーションが所望の態様に制御されて、形成される多孔層の表面軟化温度を最適の範囲に制御することができ、従って前記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 多孔基材層(A)と、
無機充填剤(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む多孔層(B)と
を有する蓄電デバイス用セパレータであって、
前記樹脂バインダー(b−1)が2種類以上の樹脂バインダーを含み、
前記多孔層(B)の表面軟化温度が30〜60℃の範囲にあり、そして
前記多孔層(B)の断面における面積0.01μm以上の孔において、各孔の長軸と前記多孔基材層(A)と前記多孔層(B)の界面に平行な軸とによって形成される角度θが60度以上120度以下である孔の割合が30%以上である
ことを特徴とする、前記蓄電デバイス用セパレータ。
[2] 前記樹脂バインダー(b−1)が、
ガラス転移温度30℃以上の第1の樹脂バインダー(b−1−1)と、
ガラス転移温度30℃未満の第2の樹脂バインダー(b−1−2)と
を含む、[1]に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[3] 前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)の比重が、前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)の比重より大きいものである、[1]に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[4] 透気度が10〜500秒/100ccの範囲にある、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[5] 前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)が中空粒子である、[1]〜[4]のいずれか1記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[6] 前記多孔層(B)の外表面から0〜50%の厚み範囲(上半分領域)に存在する樹脂バインダー(b−1)のうち、前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)が60質量%以上である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[7] 前記多孔層(B)外表面から50%〜100%の厚み範囲(下半分領域)に存在する樹脂バインダー(b−1)のうち、前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)が60質量%以上90質量%以下である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、電極と、が積層して成ることを特徴とする、積層体。
[9] [8]に記載の積層体を用いて成ることを特徴とする、電気化学素子。
本発明によれば、電極密着性及びロール剥離性の両方が優れ、電池容量寿命が長く、生産性にも優れる蓄電デバイス用セパレータ、及び該セパレータを用いて成る電気化学素子が提供される。
多孔層(B)断面のSEM像から孔部を認定する基準を示す説明図である。 孔部の角度を決定する基準を示す説明図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において、マイグレーションとは、塗工液を多孔基材層(A)へ塗工した後に、該塗工層の不動化及び乾燥過程を経由して多孔層(B)を形成する工程において,樹脂バインダーが多孔層(B)中の外表面側へ移動する現象をいう。
本実施形態の蓄電デバイス用セパレータは、多孔基材層(A)と多孔層(B)と
を有する。
<多孔基材層(A)>
本発明における多孔基材層(A)について説明する。
上記多孔基材層(A)としては、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、孔径の微細なものが好ましい。
そのような多孔基材層(A)としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む多孔基材層;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を含む多孔基材層;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの(織布);ポリオレフィン系の繊維の不織布;紙;並びに、絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、塗工工程を経て多層多孔基材層、すなわち電池用セパレータを得る場合に塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚をより薄くして、電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン樹脂を含む多孔基材膜(以下、「ポリオレフィン樹脂多孔基材膜」ともいう。)が好ましい。
多孔基材層(A)は、電池用セパレータとした時のシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔基材層(A)を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔基材層であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
ポリオレフィン樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体、又は多段重合体等が挙げられる。また、これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、電池用セパレータとした時のシャットダウン特性の観点から、ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等が;
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等が;
共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレンプロピレンラバー、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体等が、
それぞれ挙げられる。
中でも、電池用セパレータとした時に低融点且つ高強度の要求性能を満たす観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、特に高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。なお、本発明において、高密度ポリエチレンとは密度0.942〜0.970g/cm3のポリエチレンをいう。なお、本発明においてポリエチレンの密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
また、多孔基材層(A)がポリオレフィン樹脂多孔基材膜である場合、耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を用いることが好ましい。この場合、ポリオレフィン樹脂組成物中の、総ポリオレフィン樹脂に対するポリプロピレンの割合は、耐熱性と良好なシャットダウン機能を両立させる観点から、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、更に好ましくは4〜10質量%である。
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;無機材;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることがシャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
多孔基材層(A)は、非常に小さな孔が多数集まって緻密な連通孔を形成した多孔構造を有しているため、イオン伝導性に非常に優れると同時に耐電圧特性も良好であり、しかも高強度であるという特徴を有する。
多孔基材層(A)は、上述した材料からなる単層であってもよく、積層であってもよい。
多孔基材層(A)の膜厚は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上50μm以下、更に好ましくは3μm以上25μm以下である。機械的強度の観点から0.1μm以上が好ましく、蓄電デバイスの高容量化の観点から100μm以下が好ましい。多孔基材層(A)の膜厚は、ダイリップ間隔、延伸工程における延伸倍率等を制御すること等によって調整することができる。
多孔基材層(A)の平均孔径は、0.03μm以上0.70μm以下が好ましく、より好ましくは0.04μm以上0.20μm以下、更に好ましくは0.05μm以上0.10μm以下、特に好ましくは0.06μm以上0.09μm以下である。高いイオン伝導性と耐電圧の観点から、0.03μm以上0.70μm以下が好ましい。多孔基材層(A)の平均孔径は、後述する測定法で測定することができる。
平均孔径は、組成比、押出シートの冷却速度、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御することや、これらを組み合わせることにより調整することができる。
多孔基材層(A)の気孔率は、好ましくは25%以上95%以下、より好ましく30%以上65%以下、更に好ましくは35%以上55%以下である。イオン伝導性向上の観点から25%以上が好ましく、耐電圧特性の観点から95%以下が好ましい。多孔基材層(A)の気孔率は、後述する方法で測定することができる。
多孔基材層(A)がポリオレフィン樹脂多孔基材膜からなる場合、その気孔率は、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御することや、これらを組み合わせることによって調整することができる。
多孔基材層(A)がポリオレフィン樹脂多孔基材膜である場合、該ポリオレフィン樹脂多孔基材膜の粘度平均分子量は、30,000以上12,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以上2,000,000未満、更に好ましくは100,000以上1,000,000未満である。粘度平均分子量が30,000以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり、成形性が良好になると共に、重合体同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が12,000,000以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。更に、蓄電デバイス用セパレータとした時に、粘度平均分子量が1,000,000未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。
多孔基材層(A)としてのポリオレフィン樹脂多孔基材膜を製造する方法としては特に制限はなく、公知の製造方法を採用することができる。例えば;
(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出することにより多孔化させる方法、
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン樹脂結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法、
(3)ポリオレフィン樹脂組成物と無機材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィン樹脂と無機材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法、
(4)ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィン樹脂に対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィン樹脂を凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法
等が挙げられる。
以下、多孔基材層(A)としてのポリオレフィン樹脂多孔基材膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、孔形成材を抽出する方法について説明する。
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と上記の孔形成材を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で孔形成材を導入して混練する方法が挙げられる。
上記孔形成材としては、可塑剤、無機材又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。更に、好ましくは、樹脂混練装置に投入する前に、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を、予めヘンシェルミキサー等を用いて所定の割合で事前混練しておく。より好ましくは、事前混練においては、可塑剤はその一部のみを投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温しサイドフィードしながら混練する。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレンやポリプロピレンの場合には、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こりにくく、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とからなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%である。可塑剤の質量分率が90質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが成形性向上のために十分なものとなる傾向にある。一方、可塑剤の質量分率が20質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン分子鎖の切断が起こらず、均一且つ微細な孔構造を形成し易く、強度も増加し易い。
無機材としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニアが好ましく、抽出が容易である点から、シリカが特に好ましい。
ポリオレフィン樹脂組成物と無機材との比率は、良好な隔離性を得る観点から、これらの合計質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、高い強度を確保する観点から、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、或いは可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むことは、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるためより好ましい。溶融混練物をTダイからシート状に押出す際のダイリップ間隔は200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジや欠点等膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において膜破断等のリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し最終的に得られる多孔基材層(A)の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚み方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
次いで、シート状成形体から孔形成材を除去して多孔基材層(A)とする。孔形成材を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して孔形成材を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。孔形成材を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔基材層(A)を構成する膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔基材層(A)中の孔形成材残存量は、多孔基材層(A)全体の質量に対して1質量%未満にすることが好ましい。
孔形成材を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、且つ孔形成材に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。また、孔形成材として無機材を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液を抽出溶剤として用いることができる。
また、上記シート状成形体又は多孔基材層(A)を構成する膜を延伸することが好ましい。延伸は前記シート状成形体から孔形成材を抽出する前に行ってもよい。また、前記シート状成形体から孔形成材を抽出した多孔基材層(A)を構成する膜に対して行ってもよい。更に、前記シート状成形体から孔形成材を抽出する前と後に行ってもよい。
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔基材層(A)の強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔基材層が裂けにくくなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点からは同時二軸延伸が好ましい。また面配向の制御容易性の観点からは遂次二軸延伸が好ましい。
ここで、同時二軸延伸とは、MD(多孔基材層(A)を連続成形する時の機械方向(長さ方向))の延伸とTD(多孔基材層(A)のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上70倍以下の範囲であることがより好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍以下、TDに4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MDに5倍以上8倍以下、TDに5倍以上8倍以下の範囲であることがより好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる多孔基材層(A)に十分な強度を付与できる傾向にあり、一方、総面積倍率が100倍以下であると、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
多孔基材層(A)を構成する膜の収縮を抑制するために、延伸工程後又は膜の成形後に、熱固定を目的として熱処理を行うこともできる。また、多孔基材層(A)を構成する膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
多孔基材層(A)を構成する膜には、収縮を抑制する観点から熱固定を目的として熱処理を施すことが好ましい。熱処理の方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行っても構わない。これらの熱処理は、テンターやロール延伸機を用いて行うことができる。
延伸操作は、膜のMD及び/又はTDに1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上の延伸を施すことが、更なる高強度且つ高気孔率な多孔基材層(A)が得られる観点から好ましい。
緩和操作は、膜のMD及び/又はTDへの縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、1.0以下であることが好ましく、0.97以下であることがより好ましく、0.95以下であることが更に好ましい。緩和率は膜品位の観点から0.5以上であることが好ましい。緩和操作は、MD、TD両方向で行ってもよいが、MD或いはTD片方だけ行ってもよい。
この可塑剤抽出後の延伸及び緩和操作は、好ましくはTDに行う。延伸及び緩和操作における温度は、ポリオレフィン樹脂の融点(以下、「Tm」ともいう。)より低いことが好ましく、Tmより1℃から25℃低い範囲がより好ましい。延伸及び緩和操作における温度が上記範囲であると、熱収縮率低減と気孔率とのバランスの観点から好ましい。
[多孔基材層(A)の物性]
本実施形態における多孔基材層(A)の突刺強度は、特に限定されないが、好ましくは200g/20μm以上、より好ましくは300g/20μm以上であり、好ましくは2,000g/20μm以下、より好ましくは1,000g/20μm以下である。突刺強度が200g/20μm以上であることは、蓄電デバイス捲回時における脱落した活物質等による破膜を抑制する観点から好ましい。また、充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する懸念を抑制する観点からも好ましい。一方、2,000g/20μm以下とすることは、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減できる観点から好ましい。ここで、突刺強度は、後記の実施例の記載の方法により測定される。
上記突刺強度は、延伸倍率、延伸温度を調整する等により調節可能である。
本実施形態における多孔基材層(A)の透気度は、特に限定されないが、好ましくは10sec/100cc以上、より好ましくは50sec/100cc以上であり、好ましくは1,000sec/100cc以下、より好ましくは500sec/100cc以下である。透気度を10sec/100cc以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましい。一方、1,000sec/100cc以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。ここで、透気度は後記の実施例の記載の方法により測定される。
なお、上記透気度は、延伸温度、延伸倍率の変更等により調節可能である。
本実施形態における多孔基材層(A)の耐熱性の指標であるショート温度は、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは160℃以上であり、更に好ましくは180℃以上であり、最も好ましくは200℃以上である。ショート温度を150℃以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの安全性の観点から好ましい。
<多孔層(B)>
本実施形態の蓄電デバイス用セパレータにおける多孔層(B)は、無機充填剤(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む。前記樹脂バインダー(b−1)は、2種類以上の樹脂バインダーを含む。
[無機充填剤(b−2)]
前記多孔層(B)に使用する無機充填剤(b−2)としては、特に限定されないが、耐熱性及び電気絶縁性が高く、且つリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機充填剤(b−2)としては、例えば、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、その他化合物が挙げられる。
アルミニウム化合物としては、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
マグネシウム化合物としては、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
その他化合物としては、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス、粘土鉱物、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂、ガラス繊維等が挙げられる。酸化物系セラミックスとしては、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等が挙げられる。窒化物系セラミックスとしては、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等が挙げられる。粘土鉱物としては、タルク、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、複数を併用してもよい。
上記の中でも、電気化学的安定性及び耐熱特性の観点から、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウムが好ましい。酸化アルミニウムの具体例としては、アルミナが挙げられる。水酸化酸化アルミニウムの具体例としては、ベーマイトが挙げられる。ケイ酸アルミニウムの具体例としては、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライトが挙げられる。
前記酸化アルミニウムとしては、電気化学的安定性の観点から、アルミナがより好ましい。多孔層(B)を構成する無機充填剤(b−2)として、アルミナを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層(B)を実現できる上に、より薄い多孔層(B)厚でもセパレータの高温における熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等、多くの結晶形態が存在するが、いずれも好適に使用することができる。この中でα−アルミナが熱的・化学的にも安定なので最も好ましい。
前記水酸化酸化アルミニウムとしては、リチウムデンドライトの発生に起因する内部短絡を防止する観点から、ベーマイトがより好ましい。多孔層(B)を構成する無機充填剤(b−2)として、ベーマイトを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層(B)を実現できる上に、より薄い多孔層厚でもセパレータの高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。電気化学素子の特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトが更に好ましい。
前記ケイ酸アルミニウムの中では、カオリン鉱物で主に構成されているカオリナイト(以下、カオリンともいう)が軽量性及び透気度の観点から好ましい。カオリンには湿式カオリン及びこれを焼成処理した焼成カオリンがあるが、焼成カオリンは焼成処理の際に結晶水が放出されるのに加え、不純物が除去されるので、電気化学的安定性の点で特に好ましい。多孔層(B)を構成する無機充填剤(b−2)として、焼成カオリンを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層(B)を実現できる上に、より薄い多孔層(B)厚でもセパレータの高温における熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。
前記無機充填剤(b−2)の平均粒径は、0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上5.0μm以下であることがより好ましく、0.4μm以上3.0μm以下であることが更に好ましい。無機充填剤(b−2)の平均粒径を上記範囲に調整することは、セパレータの透気度及び高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。
無機充填剤(b−2)の粒度分布としては、最小粒径は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上が更に好ましい。最大粒径は20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が更に好ましい。また、最大粒径/平均粒径の比率は、50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。無機充填剤(b−2)の粒度分布を上記範囲に調整することは、セパレータの高温における熱収縮を抑制する観点から好ましい。また、最大粒径と最小粒径の間に複数の粒径ピークを有してもよい。なお、無機充填剤(b−2)の粒度分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて無機充填剤(b−2)を粉砕し、所望の粒度分布に調整する方法、複数の粒径分布の充填剤(b−2)を調整後ブレンドする方法等を挙げることができる。
無機充填剤(b−2)の形状としては、板状、鱗片状、多面体、針状、柱状、球状、紡錘状、塊状等が挙げられ、上記形状を有する無機充填剤(b−2)を複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透過性向上の観点からは、板状、鱗片状、多面体が好ましい。
前記無機充填剤(b−2)が前記多孔層(B)中に占める割合としては、セパレータの透過性及び耐熱性、並びに多孔層(B)中に無機充填剤(b−2)を結着させる樹脂バインダー(b−1)の必要量等の観点から、適宜決定することができる。上記無機充填剤(b−2)の割合は、セパレータの透過性及び耐熱性の観点から、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは93質量%以上、最も好ましくは96質量%以上である。また、多孔層(B)中に無機充填剤(b−2)を結着させる樹脂バインダー(b−1)の必要量の観点から、無機充填剤(b−2)の割合は、100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、特に好ましくは98質量%以下である。
多孔層(B)中の無機充填剤(b−2)は、多孔層(B)中に均一に存在していることが好ましい。その指標として、多孔層(B)の外表面から0〜50%の厚み範囲にある無機充填剤量(b−2U)/50%を超えて100%までの厚み範囲に存在する無機充填剤量(b−2D)の比率が0.8〜1.2であることが好ましく、0.85〜1.15であることがより好ましく、0.9〜1.1であることが更に好ましい。該比率が0.8〜1.2であることにより、多孔層(B)中の孔径分布が均一になり、蓄電デバイスのサイクル特性の再現性が向上する。
多孔層(B)中の無機充填剤(b−2)の存在位置は、多孔層(B)の断面写真と元素マッピングとを組み合わせる手法を用いて知ることができる。前記断面写真としては、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)像を;
前記元素マッピング法としては、例えばEDX(エネルギー分散型X線分光法)を、それぞれ採用することができる。これらの分析において、無機充填剤(b−2)の主成分を構成する金属元素に着目して断面方向にマッピングすることにより、当該無機充填剤(b−2)の存在位置を知ることができる。無機充填剤(b−2)が例えばベーマイト又はカオリンである場合、その主成分を構成するAl(アルミニウム)元素の断面方向のマッピングにより、その存在位置を知ることができる。
[樹脂バインダー(b−1)]
樹脂バインダー(b−1)は、前述した無機充填剤(b−2)を相互に結着する役割を果たす樹脂である。また、無機充填剤(b−2)と多孔基材層(A)とを相互に結着する役割を果たす樹脂であることが好ましい。
樹脂バインダー(b−1)の種類としては、セパレータとしたときにリチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、且つリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
樹脂バインダー(b−1)の具体例としては、以下の1)〜6)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体;
6)融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル。特に、耐久性の観点から全芳香族ポリアミド、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
中でも、電極との馴染み易さの観点からは上記2)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記3)アクリル系重合体及び5)含フッ素樹脂が好ましい。
上記2)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3−ブタジエンが好ましい。
上記3)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つを示す。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸を挙げることができる。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート;
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上記2)共役ジエン系重合体及び3)アクリル系重合体は、これらと共重合可能な他の単量体をも共重合させて得られるものであってもよい。用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマール酸、イタコン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、上記2)共役ジエン系重合体は、他の単量体として上記(メタ)アクリル系化合物を共重合させて得られるものであってもよい。
樹脂バインダー(b−1)は、2種類以上の樹脂バインダーを含む。このような樹脂バインダー(b−1)としては、
30℃以上の領域にガラス転移温度を示す第1の樹脂バインダー(b−1−1)と、
30℃未満の領域にガラス転移温度を示す第2の樹脂バインダー(b−1−2)と、
を含む混合物であることが好ましい。
高いガラス転移温度を示す第1の樹脂バインダー(b−1−1)のガラス転移温度は、30℃以上であり、好ましくは45℃以上、更に好ましくは70℃以上である。ガラス転移温度が30℃以上の場合、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性の観点から好ましい。
低いガラス転移温度を示す第2の樹脂バインダー(b−1−2)のガラス転移温度は、30℃未満であり、好ましくは5℃以下であり、更に好ましくは−10℃以下である。ガラス転移温度が30℃未満の場合、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填剤(b−2)の結着強度の観点から好ましい。
第1の樹脂バインダー(b−1−1)及び第2の樹脂バインダー(b−1−2)として、それぞれ前記のガラス転移温度を示すバインダーを選択し、ガラス転移温度が相異なる樹脂バインダー(b−1)を各樹脂バインダーの比重差を利用して、分離しマイグレーションさせることができる。その結果、得られる多孔層(B)において、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填剤(b−2)の結着強度と、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性とを両立させることができるようになる。
前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)の比重が、前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)の比重より大きいものであることが好ましい。
樹脂バインダー(b−1)のガラス転移温度と比重との関係について説明する。
本実施態様のセパレータ中の多孔層(B)は、
多層基材層(A)と接触する側の面においては十分な接着性を有し、
外表面側(多孔基材層(A)との接触面の反対側)においては過度の粘着性(べたつき性)を示さないことが好ましい。従って、形成後の多孔層(B)においては、外表面側には、ガラス転移温度の高い第1の樹脂バインダー(b−1−1)が、
多層基材層(A)との接触面側には、ガラス転移温度の低い第2の樹脂バインダー(b−1−2)が、
それぞれ多く存在することが有利である。
一方、樹脂バインダー(b−1)の比重は、マイグレーションと関係する。樹脂バインダー(b−1)を含む塗工液を多孔基材層(A)へ塗工した後に、該塗工層の不動化及び乾燥過程を経由して多孔層(B)を形成する工程において,樹脂バインダー(b−1)は多孔層(B)中の外表面側へ移動(マイグレーション)する。この時、比重の小さい樹脂バインダーの方が、比重の大きいものよりもマイグレーションする程度が大きいので、形成される多孔層(B)の表面付近に偏在することになる。
従って、
ガラス転移温度の高い第1の樹脂バインダー(b−1−1)の比重をより小さくし、
ガラス転移温度の低い第2の樹脂バインダー(b−1−2)の比重をより大きくすることが、有利である。
ここで、第2の樹脂バインダー(b−1−2)と第1の樹脂バインダー(b−1−1)との比重差[(b−1−2)−(b−1−1)]は0.05g/cm以上であることが好ましく、より好ましくは0.10g/cm以上であり、更に好ましくは0.15g/cm以上である。比重差が0.05g/cm以上であることにより、第1の樹脂バインダー(b−1−1)と第2の樹脂バインダー(b−1−2)とが分離してマイグレーションすることとなり、電極との密着性と、セパレータの多孔層(B)表面のべたつき性及びハンドリング性とを両立させることができ、好ましい。
比重の大小関係が上記と逆になると、ガラス転移温度の低い第2の樹脂バインダー(b−1−2)が多孔層(B)の外表面側に、ガラス転移温度の高い第1の樹脂バインダー(b−1−1)が多孔層(B)の多孔基材(A)側に、それぞれ偏在した構造になるため、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性、並びに電極との密着性が悪化して、好ましくない。
樹脂バインダー(b−1−1)及び(b−1−2)の比重は、例えば以下のようにしてコントロールすることができる。
(1)樹脂バインダー(b−1)を合成する際に、
アクリル系モノマー及びフッ素モノマーから選択される1種以上の使用割合を多くすると、比重が大きくなる傾向にあり、
オレフィン系、ジエン系モノマー及びスチレン系モノマーの使用割合を高くすると、比重が小さくなる傾向にある。従って、第1の樹脂バインダー(b−1−1)を例えばスチレン/豚ジエン系共重合体とし、第2の樹脂バインダー(b−1−2)を例えばアクリル酸系共重合体とすることは、好ましい態様である。
(2)中実粒子は比重が大きくなる傾向にあり、
中空粒子は比重が小さくなる傾向にある。従って、第1の樹脂バインダー(b−1−1)を中空粒子とし、第2の樹脂バインダー(b−1−2)を中実粒子とすることは、好ましい態様である。
ガラス転移温度は、当業者によるモノマーの選択によって任意に設定可能であるから、該モノマーの選択と、上記の手法の1つ以上を適宜に組み合わせることによって、
所望の高いガラス転移温度及び小さな比重を有する第1の樹脂バインダー(b−1−1)と、
所望の低いガラス温度及び大きな比重を有する第2の樹脂バインダー(b−1−2)と
を、容易に得ることができる。
第1の樹脂バインダー(b−1−1)と第2の樹脂バインダー(b−1−2)とは、完全相溶性を示さないことが好ましい。これら2種の樹脂バインダーが完全相溶性を示さないことにより、性質の異なる樹脂バインダーが分離して存在し、それぞれの特性を示すことができる。そのため、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填剤(b−2)の結着強度と、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性とを、高いレベルで両立することができる。ここで、2種類の樹脂が完全相溶性を示すと、性質の異なる樹脂バインダーが1種類のポリマーであるかのような挙動を示すこととなる。その結果、相溶後に示す、混合物の総体としてのガラス転移温度に依存して、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、無機充填剤(b−2)の結着強度、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性において、平均化された性能を示すに留まることとなるため、好ましくない。
樹脂バインダー(b−1)の使用量は、多孔層(B)の全量に対して、0.5〜30質量%とすることが好ましく、1〜20質量%とすることがより好ましく、1.5〜10質量%とすることが更に好ましい。0.5質量%以上であることが、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填剤(b−2)の結着強度の観点から好ましく、30質量%以下であることが、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性の観点から好ましい。
第1の樹脂バインダー(b−1−1)と第2の樹脂バインダー(b−1−2)との使用割合は、樹脂バインダー(b−1)の全量に対する第1の樹脂バインダー(b−1−1)の使用割合{(b−1−1)/(b−1)の質量比}として、0.05〜0.95とすることが好ましく、0.1〜0.7とすることがより好ましく、0.15〜0.5とすることが更に好ましい。0.05以上であることが、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性の観点から好ましく、0.95以下であることが、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填剤(b−2)の結着強度の観点から好ましい。
[多孔層(B)]
本実施形態における多孔層(B)の層厚は、耐熱性及び絶縁性を向上させる観点から、1μm以上であることが好ましく、蓄電デバイスの高容量化及び透過性を向上させる観点から、50μm以下であることが好ましい。多孔層(B)の層厚は、より好ましくは1.5μm以上20μm以下、更に好ましくは2μm以上10μm以下、特に好ましくは2μm以上7μm以下である。
多孔層(B)の層密度は、0.5〜2.0g/cmであることが好ましく、0.7〜1.5g/cmであることがより好ましい。多孔層(B)の層密度が0.5g/cm以上であると、セパレータの高温における熱収縮率が良好となる傾向にあり、2.0g/cm以下であると、透気度が低下する傾向にある。
本実施形態における多孔層(B)の表面軟化温度は30〜60℃であり、好ましくは30〜50℃であり、より好ましくは30〜45℃であり、更に好ましくは35〜45℃である。表面軟化温度が30℃以上の場合、該多孔層(B)を有するセパレータを製造時にロール状に巻いた後、使用時にセパレータを巻出そうとする際に、セパレータ同志が密着せず、シワなく巻き出すことができるため、好ましい。表面軟化温度が60℃以下の場合、電極とセパレータとを高温プレス機を用いて圧着させる際に、プレス温度を低く設定することができる。そのため、セパレータを構成する多孔基材層(A)に一般的に用いられるガラス転移温度が低いポリオレフィン樹脂を使用した場合であっても、圧着後に得られる積層体におけるシワの発生を抑制でき、好ましい。
多孔層(B)中の外表面から0%〜50%の厚み範囲(上半分領域)に存在する樹脂バインダー(b−1)のうち、前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)が占める割合は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上95質量%以下、最も好ましくは70質量%以上90質量%以下である。この割合が55質量%以上であることは、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性の観点から好ましい。
多孔層(B)中の外表面から50%〜100%の厚み範囲(下半分領域)に存在する樹脂バインダー(b−1)のうち、前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)が占める割合は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上95%質量以下、最も好ましくは70質量%以上90%質量以下である。55質量%以上であることは電極との密着性、多孔基材層(A)との接着性、及び無機充填剤(b−2)との結着性の観点から好ましい。
多孔層(B)中の外表面から0〜50%の厚み範囲にある領域(上半分領域)及び50〜100%の厚み範囲にある領域(下半分領域)における各樹脂バインダー(b−1)の量は、該多孔層(B)を上半分領域と下半分領域とに分離後、各領域について、例えば以下の分析を行うことにより、知ることができる。
(1)TG−DTA(熱重量−示差熱分析法)を用いて各領域の重量減少率を測定することにより、その重量減少分から第1の樹脂バインダー((b−1−1)及び第2の樹脂バインダー(b−1−2)の合計量を調べる。次に、
(2)DSC(示差走査熱量測定)測定により、DDSC(DSCの微分曲線)における高温側のピークを第1の樹脂バインダー、低温側のピークを第2の樹脂バインダーとして、それぞれのピーク面積の比から、両樹脂バインダーの存在割合を算出する。
以上の操作により、多孔層(B)中上半分領域及び下半分領域における、第1の樹脂バインダー((b−1−1)及び第2の樹脂バインダー(b−1−2)の存在量及び存在割合を知ることができる。
本実施形態における多孔層(B)は、その断面における面積0.01μm以上の孔において、各孔の長軸と前記多孔基材層(A)と前記多孔層(B)の界面に平行な軸とによって形成される角度θが60度以上120度以下である孔の割合が30%以上である。このことによって、本実施形態のセパレータは、耐熱性と出力特性とに優れることになる。
前記孔面積は、多孔層(B)の断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影倍率1万倍で観察して得られる断面SEM像を2値化処理することによって求めることができる。
前記孔面積及び角度θは、具体的には、以下の方法により測定することができる。
先ず、セパレータに対し、BIB(ブロードイオンビーム)により断面加工を行う。この加工の際、熱ダメージを抑制するために、試料となるセパレータを必要に応じて加工直前まで冷却しておいてもよい。具体的には、−40℃の冷却装置にセパレータを一昼夜放置することができる。これにより、平滑なセパレータ断面が得られる。
次に、得られたセパレータ断面を、Cペースト及びOsコーティングによって導電処理を行う。その後、「HITACHI S−4700」(日立ハイテクフィールディング社製)を用いて、撮影倍率:1万倍、加速電圧:1.0kV、検出器:二次電子(上方UPPER)の設定で撮影を行う。得られた断面SEM像の電子画像を取得し、孔の角度θを算出する。
前記角度θは、画像処理ソフト「ImageJ」(バージョン1.46)を用いて以下の方法で算出することができる。所望の断面SEMの電子画像を開き、線選択ツール「Straight」を用いて画像中にある既知の距離の長さを測る。「Analyze」タブから「SET SCALE」を開き、測定単位及び既知の距離を入力し、スケールの設定を行う。次に、2値化処理の前処理として「Paintbrush Tool」を用いて多孔層(B)中の孔部を黒で塗りつぶす。
ここで、孔部の認定は、測定対象によっては必ずしも明確ではない場合もある。一例として、添付の図1を用いて説明する。図1は多孔層(B)の断面SEM画像である。例えば、図1の左端部の孔部(1)に着目すると、後方に無機充填剤(b−2)を確認できない暗部が存在する。このような暗部を中心として、輪郭が閉じた領域を孔部(空隙)として認定する。この場合、孔部として認定した内部にも無機充填剤(b−2)が観察されるが、この部分は空隙の一部を形成してイオン伝導性に寄与していると評価できるので、孔部と認定することに問題はない。一方、BIB加工断面から僅かに後方に位置する無機充填剤(b−2)2は、イオン伝導性に寄与していると評価できないため、孔部としては認定しない。
このように上述したSEM撮像条件で撮像された画像の暗部を中心に孔部を認定していくことにより、様々な測定対象において本実施形態の技術的意義に合致した孔部を認定することができる。
なお、上記暗部を中心に認定した輪郭がSEM画像の端部で切れている場合がある(例えば画像右端の孔部(3))。このような画像端部においては、たとえ暗部を中心に認定した輪郭が途切れていても、この部分が孔部を形成してイオン伝導性に寄与していることは明確であるから、孔部として認定する。
このように認定された孔部(空隙)を塗りつぶした後、2値化処理を行う。
具体的には、先ず評価エリアの選択を行うため、「Rectangular selections」を用いて、多孔層(B)の所望の領域を選択する。選択する際に、多孔層(B)の表層部は除外する。続いて、選択エリアを別ファイルへ作成するため、「Image」タブから「Dupulicate」を開いて、多孔層(B)のみの新しい電子画像を作成する。次に、得られた電子画像から、孔部を特定するための処理を行う。具体的には、「Image」から「Adjust」、更に「Threshold」を選択して、256階調のうち単色で塗りつぶす範囲を「0−100」として処理を行う。
続いて、前記2値化処理により単色で塗りつぶされた孔部を楕円化させる処理に進む。具体的には、「Analyze particles」を選択し、「Size」の項目に「0.01μm以上」を入力し、Showの項目として「Ellipse」を選択することにより、0.01μm以上の孔について、各孔を楕円化させた画像を得る。
最後に、楕円化させた各孔について、孔の長軸と、多孔基材層(A)と多孔層(B)の界面に平行な軸とによって形成される角度θを算出する(図2参照)。このようにして求めた角度θについてヒストグラムを作成し、孔全体に対する60°≦θ≦120°である孔の割合を算出する。
本実施の形態のセパレータは、上記のような孔構造を備えることにより、高いイオン伝導性を有し、膜抵抗が低い。そのため、高い出力特性を有する蓄電デバイスを実現し得る。その理由は定かではないが、多孔層(B)が前記孔構造を備えることにより、リチウムイオンの拡散移動がより速くなり、低い膜抵抗を維持することができるため、高い出力特性を有するものと考えられる。
前記角度θが60°≦θ≦120°である孔の割合は30%以上であり、好ましくは30%以上70%以下、より好ましくは35%以上70%以下、更に好ましくは35%以上50%以下、特に好ましくは40%以上50%以下である。60°≦θ≦120°の角度の割合が30%以上であることにより、電解液中のリチウムイオン電池の拡散が速く、蓄電デバイスの高出力化においてより有利となる傾向になり、70%以下であることにより、セパレータの高温時の熱収縮抑制の観点から好ましい。
前記角度θが60°≦θ≦120°である孔の割合は、樹脂バインダー(b−1)の多孔層(B)外表面へのマイグレーションを制御することにより調整することが可能である。特に、マイグレーションし易い第1の樹脂バインダー(b−1−1)が、孔の割合を変更する時に影響が大である。孔の割合の変更因子としては、樹脂バインダー(b−1)の量、及びガラス転移温度(特に、第1の樹脂バインダー(b−1−1));
無機充填剤(b−2)の形状、平均粒径、及び粒径分布、並びに
塗工液の乾燥温度、及び乾燥時の風量が挙げられる。
[蓄電デバイス用セパレータの製造方法]
多孔層(B)の形成方法としては、例えば、多孔基材層(A)の少なくとも片面に、無機充填剤(b−2)と樹脂バインダー(b−1)とを含む塗工液を塗工して多孔層(B)を形成する方法を挙げることができる。
塗工液の溶媒としては、前記無機充填剤(b−2)、及び前記樹脂バインダー(b−1)を均一かつ安定に分散できるものが好ましく、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられる。
該塗工液には、分散安定化及び塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むpH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去の際に同時に除去できるものが好ましいが、蓄電デバイスの使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば、多孔層(B)内に残存してもよい。
前記無機充填剤(b−2)と前記樹脂バインダー(b−1)とを、塗工液の溶媒に分散させる方法については、塗工工程に必要な塗工液の分散特性を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
塗工液を多孔基材層(A)に塗工する方法については、必要とする多孔層(B)厚や塗工面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗工法、スプレーコーター塗工法、インクジェット塗工等が挙げられる。これらのうち塗工形状の自由度が高く、好ましい面積割合を容易に得られる点でグラビアコーター法又はスプレー塗工法が好ましい。
更に、塗工液の塗工に先立ち、多孔基材層(A)表面に表面処理を施すことにより、塗工液を塗工し易くなるとともに、塗工後の多孔層(B)と多孔基材層(A)表面との接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、多孔基材層(A)の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
塗工後に塗工膜から溶媒を除去する方法については、多孔基材層(A)に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はなく、例えば、多孔基材層(A)を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。多孔基材層(A)及びセパレータのMD方向の収縮応力を制御する観点から、乾燥温度、巻取り張力等は適宜調整することが好ましい。
乾燥温度は、バインダーのマイグレーションの観点から、好ましくは20〜100℃、より好ましくは30〜80℃、更に好ましくは40〜70℃である。
乾燥時間は、バインダーのマイグレーションの観点から、好ましくは10秒〜30分、より好ましく30秒〜20分、更に好ましくは40秒〜10分、最も好ましくは1分〜3分である。
<蓄電デバイス用セパレータ>
本実施の形態に係る蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう。)は、上記のような多孔基材層(A)の片面又は両面に、上記のような多孔層(B)が形成されて成る。
本実施形態におけるセパレータの透気度は、好ましくは10〜500秒/100ccであり、より好ましくは20〜400秒/100cc、更に好ましくは30〜300秒/100ccである。透気度が10秒/100cc以上の場合、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましく、500秒/100cc以下の場合、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。
前記蓄電デバイス用セパレータのうちの、多孔層(B)が存在する最表面に対して、アルミ箔(正極集電体など)を、温度25℃及び圧力5MPaにおいて3分間加圧した後の剥離強度(以下、「常温剥離強度」ともいう。)は、8gf/cm以下が好ましく、より好ましくは7gf/cm以下、更に好ましくは6gf/cm以下である。8gf/cm以下であると、ベタツキ性が一層抑制され、セパレータのスリット性や捲回性に優れる傾向にある。剥離強度が上記範囲内であることにより、本実施形態のセパレータを電極に加熱プレスした際の密着性が向上する。このような効果が得られる理由は定かでないが、常温剥離強度が上記範囲内にある本実施形態のセパレータにおいて、セパレータの最表面側に第1の樹脂バインダー(b−1−1)が多く存在し、かつ、本実施形態のセパレータの多孔基材層(A)側に第2の樹脂バインダー(b−1−2)が多く存在していることを示していると考えられる。
すなわち、本実施形態のセパレータの最表面側にガラス転移温度の高い第1の樹脂バインダー(b−1−1)が多く存在することでベタツキ性が抑制され、更に、該樹脂バインダー(b−1−1)は電極との密着性に優れるため、結果としてベタツキ性が低く、かつ電極への密着性に優れたセパレータが得られたものと考えられる。
また、本実施形態のセパレータの多孔基材層(A)側にTgの低い第2の樹脂バインダー(b−1−2)が多く存在することにより、多孔基材層(A)と多孔層(B)との接着性が向上する結果、多孔基材層(A)と多孔層(B)との界面における剥離が抑制され、結果として電極への密着性に優れたセパレータが得られたものと考えられる。
セパレータの多孔層(B)側最表面に対して、アルミ箔(正極集電体など)を、温度80℃及び圧力10MPaにおいて3分間加圧した後の剥離強度(以下、「加熱剥離強度」ともいう。)は、10gf/cm以上が好ましく、15gf/cm以上がより好ましく、20gf/cm以上が更に好ましい。加熱剥離強度が上記範囲であるセパレータは、これを後述の蓄電デバイスに適用する際に、電極とセパレータとの密着性に優れることとなる点で好ましい。
また、電解液存在下でセパレータと負極を積層し、80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、セパレータと負極を剥離した場合にセパレータ上に活物質が面積にして10%以上付着することが好ましい。
本実施形態におけるセパレータにおいて、多孔基材層(A)と多孔層(B)との90°剥離強度は、6gf/mm以上が好ましく、7gf/mm以上がより好ましく、8gf/mm以上が更に好ましい。多孔基材層(A)と多孔層(B)との90°剥離強度が6gf/mm以上であることは、多孔基材層(A)と多孔層(B)との接着性(特に多孔基材層(A)と第2の樹脂バインダー(b−1−2)との接着性)が、より優れていることを意味する。その結果として、多孔層(B)の脱落が抑制され、或いは、セパレータと電極との密着性が優れることとなる。
蓄電デバイス用セパレータの膜厚は、多孔基材層(A)及び多孔層(B)の双方を含む値として、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上である。上限としては、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下である。膜厚を2μm以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータの強度確保の観点から好適である。一方、100μm以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。
蓄電デバイス用セパレータは、耐熱性の指標であるショート温度が、好ましくは140℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、更に好ましくは160℃以上である。ショート温度を160℃以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの安全性の観点から好ましい。
本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータは、捲回時のハンドリング性及び蓄電デバイスのレート特性が優れ、更には、多孔基材層(A)と多孔層(B)との接着性及び透過性にも優れる。そのため、当該蓄電デバイス用セパレータの用途としては、特に限定されないが、例えば、非水電解液二次電池等の電池、コンデンサー、キャパシタ等の蓄電デバイス用セパレータ、物質の分離等に好適に使用できる。
<積層体>
本実施形態に係る積層体は、上記セパレータと電極とが積層したものである。本実施形態のセパレータは、電極と接着することにより、積層体として用いることができる。ここで、「接着」とは、セパレータと電極との加熱剥離強度が、好ましくは10gf/cm以上、より好ましくは15gf/cm以上、更に好ましくは20gf/cm以上であることをいう。この加熱剥離温度は、上記に説明したのと同様にして測定することができる。
本実施形態の積層体は、捲回時のハンドリング性及び蓄電デバイスのレート特性が優れ、更には、多孔基材層(A)と多孔層(B)との接着性及び透過性にも優れる。そのため、積層体の用途としては、特に限定されないが、例えば、非水電解液二次電池等の電池やコンデンサー、キャパシタ等の蓄電デバイス等に好適に使用できる。
本実施形態の積層体に用いられる電極としては、後述の蓄電デバイスの項目に記載のものを用いることができる。
本実施形態のセパレータを用いて積層体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、本実施の形態のセパレータと電極とを重ね、必要に応じて加熱及び/又はプレスして製造することができる。上記加熱及び/又はプレスは、電極とセパレータとを重ねると同時に行うことができる。又、電極とセパレータとを重ねた後に、円又は扁平な渦巻き状に巻回して得られる巻回体に対して加熱及び/又はプレスを行うことによって製造することもできる。
本実施形態の積層体は、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順に平板状に積層し、必要に応じて加熱及び/又はプレスして製造される。より具体的には、本実施形態のセパレータを、幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4,000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ね、必要に応じて加熱及び/又はプレスして製造することができる。
上記加熱温度としては、40〜120℃が好ましい。加熱時間は5秒〜30分が好ましい。上記プレス時の圧力としては、1〜30MPaが好ましい。プレス時間は5秒〜30分が好ましい。また、加熱とプレスの順序は、加熱をしてからプレスをしても、プレスをしてから加熱をしても、プレスと加熱を同時に行ってもよい。このなかでも、プレスと加熱を同時に行うことが好ましい。
<蓄電デバイス>
本実施の形態のセパレータは、電池、コンデンサー、キャパシタ等におけるセパレータの他、物質分離用としても用いることができる。特に、非水電解液電池(特にリチウムイオン二次電池)用のセパレータとして用いた場合に、電極への密着性と優れた電池性能とを付与することが可能となり、好ましい。
以下、蓄電デバイスが非水電解液二次電池である場合についての好適な態様について説明する。
本実施形態のセパレータを用いて非水電解液二次電池を製造する場合、使用する正極、負極、及び非水電解液に限定はなく、公知のものを用いることができる。
正極材料としては、特に限定されないが、例えば、LiCoO、LiNiO、スピネル型LiMnO、オリビン型LiFePO等のリチウム含有複合酸化物等が挙げられる。
負極材料としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、複合炭素体等の炭素材料;シリコン、スズ、金属リチウム、各種合金材料等が挙げられる。
非水電解液としては、特に限定されないが、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が、;
解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩
等が、それぞれ挙げられる。
本実施の形態のセパレータを用いて蓄電デバイスを製造する方法は、特に限定されないが、蓄電デバイスが二次電池の場合、例えば、本実施の形態のセパレータを幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4,000m(好ましくは1,000〜4,000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ね、円又は扁平な渦巻状に巻回して巻回体を得、当該巻回体を電池缶内に収納し、更に電解液を注入することにより、製造することができる。この際、当該巻回体に対して加熱及び/又はプレスを行うことによって上述の積層体を形成してもよい。また、上記巻回体として上述の積層体を円又は扁平な渦巻き状に巻回したものを用いて製造することもできる。また、蓄電デバイスは、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順に平板状に積層したもの、又は上述の積層体を袋状のフィルムでラミネートし、電解液を注入する工程と、場合によって加熱及び/又はプレスを行う工程を経て製造することもできる。上記の加熱及び/又はプレスを行う工程は、前記電解液を注入する工程の前及び/又は後に行うことができる。
なお、上述した各種パラメータの測定値については、特に断りの無い限り,後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
<本発明の技術的意義>
本実施形態のセパレータにおける多孔層(B)は、多孔基材層(A)上へ、無機充填剤(b−2)、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上の第1の樹脂バインダー(b−1−1)、及びガラス転移温度(Tg)が30℃未満の第2の樹脂バインダー(b−1−2)を含む塗工液を塗工することによって、多孔層(B)を形成したセパレータであることが好ましい。
多孔層(B)を形成する工程(具体的には塗工・不動化・乾燥により多孔層(B)を形成する工程)において、第1の樹脂バインダー(b−1−1)及び第2の樹脂バインダー(b−1−2)として、比重差が大きい樹脂バインダーの組み合わせを選択することにより、樹脂バインダー間のマイグレーション差を明確に発現させることができる。すなわち、相対的に比重が大きい樹脂バインダーは、マイグレーションが小さく、又はほとんどマイグレーションしないから、多孔層(B)中の多孔基材層(A)側に偏在する。相対的に比重が小さい樹脂バインダーは、マイグレーションが大きいから、多孔層(B)中外表面側に偏在することなる。
この現象を利用して、Tgの高い第1の樹脂バインダー(b−1−1)として相対的に比重が小さい樹脂バインダーを選択し、かつ
Tgの低い第2の樹脂バインダー(b−1−2)として相対的に比重が大きい樹脂バインダーを選択する
ことにより、Tgの高い第1の樹脂バインダー(b−1−1)を多孔層(B)中の外表面側に偏在させ、かつ
Tgの低い第2の樹脂バインダー(b−1−2)を多孔層(B)中の多孔基材層(A)側に偏在させることできる。
このような機構により、樹脂バインダー(b−1)の結着性を維持しながら、多孔層(B)の表面軟化温度を特定範囲に制御することができることとなったのである。
更に、多孔層(B)を形成する工程において、比重が小さい第2の樹脂バインダーは、相対的に重力の影響を受け難いためにマイグレーションし易く、多孔層(B)中外表面側へ移動する際に、無機充填剤(b−2)と頻度良く衝突する。このことにより、無機充填剤(b−2)の長軸は、多孔層(B)の断面から見た場合に前記多孔基材層(A)と前記多孔層(B)の界面に対し、斜めに立った構造又は真っ直ぐに立った構造で配列される頻度が高くなった。その結果、多孔層(B)に形成される孔構造についても同様に、孔の長軸が斜めに立った構造又は縦穴構造になる頻度が高くなった。そのような孔構造をとる多孔層(B)を有することにより、セパレータのイオン透過性を向上させることができ、電気特性及びサイクル特性も向上できたのである。
上記孔構造は、例えば、無機充填剤(b−2)を含有する液を多孔基材層(A)に塗布した後の乾燥温度の設定や使用する無機充填剤(b−2)の形状、無機充填剤(b−2)の平均粒径、多孔層(B)の層密度等によってコントロールできる。例えば、前記乾燥温度を徐々に上昇する方法は、急激に上昇する方法に比べて、前記角度θが60°≦θ≦120°となる孔の割合が増加する傾向にある。また、ブロック形状の無機充填剤(b−2)を使用する方法は、板状の無機充填剤(b−2)を使用する方法に比べて、前記角度θが60°≦θ≦120°となる孔の割合が増加する傾向にある。更に、無機充填剤(b−2)の粒径を大きくすると、多孔層(B)中の層密度が減少方向になり、前記角度θが60°≦θ≦120°となる孔の割合が増加する傾向にある。
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて詳細に説明をするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の製造例、実施例、及び比較例において使用された各種物性の測定方法や評価方法は、以下のとおりである。なお、特に記載のない限り各種測定および評価は室温23℃、1気圧、相対湿度50%の条件で行った。
[測定方法]
(1)多孔基材層(A)の気孔率(%)
多孔基材層(A)から10cm×10cm角の試料を切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、膜密度を0.95(g/cm)として次式を用いて計算した。
気孔率=(体積−質量/膜密度)/体積×100
(2)セパレータの透気度(sec/100cc)
JIS P−8117に準拠し、(株)東洋精機製作所製のガーレ式デンソメータG−B2(商標)により測定した透気抵抗度を透気度とした。
(3)多孔基材層(A)の突刺強度(g)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで多孔基材層(A)を固定した。次に固定された多孔基材層(A)の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、及び突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(g)を得た。
(4)平均孔径(μm)、曲路率、及び孔数
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、多孔基材層(A)の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また多孔基材層(A)の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。
平均孔径d(μm)及び曲路率τa(無次元)は、空気の透過速度定数Rgas(m/(m・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m/(m・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力Ps(=101,325Pa)、気孔率ε(%)、及び膜厚L(μm)から、次式を用いて求めた。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×10
τa= (d×(ε/100)×ν/(3L×Ps×Pgas))1/2
ここで、Rgasは、透気度(sec)から次式を用いて求められる。
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10−4)×(0.01276×101,325))
また、Rliqは透水度(cm/(cm・sec・Pa))から次式を用いて求められる。
liq=透水度/100
なお、透水度は次のように求められる。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめエタノールに浸しておいた多孔基材層(A)をセットし、該膜のエタノールを水で洗浄した後、約50,000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、空気の分子速度νは、気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10−2kg/mol)から次式を用いて求められる。
ν=((8R×T)/(π×M))1/2
孔数B (個/μm) は、下記数式より求めることができる。
B=4×(ε/100)/(π×d×τa)
(5)厚み(μm)
(5)−1 多孔基材層(A)及びセパレータの膜厚(μm)
多孔基材層(A)及びセパレータから、各々、10cm×10cmのサンプルを切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)を選んで、膜厚を微小測厚器(東洋精機製作所(株) タイプKBM)を用いて室温23±2℃で測定した。各々、9箇所の測定値の平均値を、多孔基材層(A)及びセパレータの膜厚(μm)とした。
(5)−2 多孔層(B)の厚み(μm)
多孔層(B)の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)「型式S−4800、HITACHI社製」を用い、セパレータの断面観察により測定した。サンプルのセパレータを1.5mm×2.0mm程度に切り取り、ルテニウム染色した。ゼラチンカプセル内に染色サンプルとエタノールを入れ、液体窒素により凍結させた後、ハンマーでサンプルを割断した。サンプルをオスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、30000倍にて観察し、多孔層(B)の厚みを調べた。
(6−1)樹脂バインダー(b−1)のガラス転移温度(Tg)
樹脂バインダー(b−1)含有ラテックス(不揮発分=38〜42%、pH=9.0)を、アルミ皿に適量とり、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥した。乾燥後の乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(島津製作所社製、DSC6220)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC(DSCの微分)曲線を得た。なお測定条件は下記の通りとした。
(1段目昇温プログラム)
70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温。110℃に到達後5分間維持。
(2段目降温プログラム)
110℃から毎分40℃の割合で降温。−70℃に到達後5分間維持。
(3段目昇温プログラム)
−70℃から毎分15℃の割合で400℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得。DDSCのピークトップ温度をガラス転移温度とした。
(6−2)多孔層(B)における第1の樹脂バインダーと第2の樹脂バインダーとの比率
セパレータから、ナイフを使用して多孔層(B)をかきとって分離した。かきとった紛体について、DSC測定装置(島津製作所社製、DSC6220)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC曲線を得た。なお測定条件は下記の通りとした。
(1段目昇温プログラム)
70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温。110℃に到達後5分間維持。
(2段目降温プログラム)
110℃から毎分40℃の割合で降温。−70℃に到達後5分間維持。
(3段目昇温プログラム)
−70℃から毎分15℃の割合で300℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得。DDSCにおける低温側のピークトップ温度をTgの低い第2の樹脂バインダーのガラス転移温度、高温側のピークトップ温度をTgの高い第1の樹脂バインダーのガラス転移温度とした。またピークの開始点と終了点に線を引き、ピークと線で囲まれる面積をピーク面積として重量法で求めた。高温側のピーク面積をTgの高い第1の樹脂バインダーの量、低温側のピーク面積をTgの低い第2の樹脂バインダーの量とし、両樹脂バインダーの比率を求めた。
(6−3)多孔層(B)の上半分と下半分の高Tg樹脂バインダーと低Tg樹脂バインダーの比率
多孔層(B)外表面から0〜50%厚み範囲(上半分領域)と外表面から50〜100%厚み範囲(下半分領域)とについて、上記6−2と同様の処理および測定をして、各領域におけるTgの高い第1の樹脂バインダー(b−1−1)とTgの低い第2の樹脂バインダー(b−1−2)の比率をそれぞれ求めた。
(6−4)多孔層(B)中の無機充填剤(b−2)の厚み方向分布
多孔層(B)中の無機充填剤(b−2)の厚み方向の存在位置は、多孔層(B)の断面写真と元素マッピングを組み合わせる手法(SEM(走査型電子顕微鏡)−EDX(エネルギー分散型X線分光法))より求めた。
詳細には、EDX(エネルギー分散型X線分光)装置付きの走査型電子顕微鏡(SEM)「型式S−4800、HITACHI社製」を用いて行った。セパレータの断面を見るために、セパレータ試料を1.5mm×2.0mm程度に切り取り、ルテニウム染色した。ゼラチンカプセル内に染色サンプルとエタノールを入れ、液体窒素により凍結させた後、ハンマーでサンプルを割断した。サンプルをオスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、30,000倍にて観察し、多孔層(B)の断面を観察した。その時にEDX(エネルギー分散型X線分光)装置を用いて、無機充填剤(b−2)の主成分を構成する金属について、例えばアルミナ、ベーマイト、カオリンの場合、Al(アルミニウム)元素の断面方向の厚み方向マッピングより、無機充填剤(b−2)の存在位置を算出した。具体的な算出方法は、多孔層(B)を外表面から厚み方向に5分割し、すなわち0〜20%、20〜40%、40〜60%、60〜80%、80〜100%の分画に分割し、各分画同一面積当たりの元素ドット数をカウントした。
(7)樹脂バインダー(b−1)の比重
上記(6)で得たフィルム状試料から適当な大きさに切り出した測定用試料について、アルファーミラージュ社製の電子比重計SD−200Lを用いて、樹脂バインダーの比重を測定した。
(8−1)樹脂バインダー(b−1)の平均粒径
樹脂バインダーの平均粒径は、粒子径測定装置(日機装株式会社製、Microtrac UPA150)を使用し、測定した。測定条件としては、ローディングインデックス=0.15〜0.3、測定時間300秒とし、得られたデータにおいて50%粒子径の数値を粒子径として記載した。
(8−2)無機充填剤(b−2)の平均粒径
無機充填剤(b−2)を蒸留水に加え、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を少量添加してから超音波ホモジナイザーで1分間分散させた後、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて粒径分布を測定し、累積頻度が50%となる粒径(メジアン径)を平均粒径(μm)とした。
(9)セパレータの多孔層(B)の表面軟化温度
セパレータの多孔層(B)表面と黒ラシャ紙を合わせて、カレンダーを用い、ロール温度20℃、カレンダーロール間線圧10kgf/cmの条件下で圧着させた後、両者引き離して、黒ラシャ紙のセパレータへの転写有無を確認した。転写無しの場合、カレンダーのロール温度を5℃上昇させ、同様な試験を実施した。以降、5℃刻みでロール温度を上昇させ、同様な試験を繰り返し、黒ラシャ紙のセパレータへの転写が見られたもっとも低い温度を、セパレータの多孔層(B)の表面軟化温度とした。
(10)セパレータと電極との密着性
セパレータと電極との密着性は、以下の手順で評価した。
(正極の作製)
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を92.2質量%、並びに導電材としてリン片状グラファイト及びアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%(固形分換算)をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗工し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗工量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにした。
(負極の作製)
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、並びにバインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%及びスチレン−ブタジエンコポリマーラテックス(平均粒径80nm、ガラス転移温度−40℃)1.7質量%(固形分換算)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗工し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗工量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにした。
(密着性試験)
上記方法により得られた負極を幅20mm、長さ40mmにカットした。この電極上にエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液(富山薬品工業製)を負極が浸る程度にたらし、この上にセパレータを重ね、積層体を作製した。この積層体をアルミジップに入れ、80℃、10MPaの条件下で、2分間プレスを行った後、積層体を取り出してセパレータを電極から剥がし、いかの基準で評価した。
○:セパレータの30%以上に負極活物質が付着した場合。
△:セパレータの10%以上30%未満の面積に負極活物質が付着した場合。
×:セパレータの10%未満の面積に負極活物質が付着した場合。
(11)ベタツキ性、及び塗工層剥離強度)
セパレータと被着体として正極集電体(冨士加工紙(株)アルミ箔20μm)を30mm×150mmに切り取り、重ね合わせた後、その積層体をテフロン(登録商標)シート(ニチアス(株)ナフロンPTFEシート TOMBO‐No.9000)で挟んだ。各積層体について下記各条件にてプレスを行うことにより、プレス条件の異なる2種の試験用サンプルを得た。
条件1)温度25℃、圧力5MPaで3分間加圧
条件2)温度80℃、圧力10MPaで3分間加圧
得られた各試験用サンプルの剥離強度を、島津製作所製のオートグラフAG−IS型(商標)を用いて、JIS K6854−2に準じて引張速度200mm/分で測定した。得られた結果に基づいて、下記評価基準でセパレータの剥離強度を評価した。
[ベタツキ性]
条件1)のプレス後の剥離強度について、
◎(きわめて良好):剥離強度が、4gf/cm以下であった場合
○(良好):剥離強度が、4gf/cm超6gf/cm以下であった場合
△(可):剥離強度が、6gf/cm超8gf/cm以下であった場合
×(不良):剥離強度が、8gf/cm超であった場合
とし、ベタつき性、及びハンドリング性の指標とした。
[塗工層剥離強度]
条件2)のプレス後の剥離強度について、
○(良好):剥離強度が、10gf/cm以上
×(不良):剥離強度が、10gf/cm未満
とし、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填剤(b−2)の結着強度の指標とした。
(12)捲回性及び電池のサイクル特性
(12−1)評価用試料の作製
<電極>
正極及び負極を、上記「(10)セパレータと電極との密着性」と同様にして作製した。正極を幅約57mmに、負極を幅約58mmに、切断してそれぞれ帯状にすることにより評価用電極を作製した。
(12−2)非水電解液の調整
非水電解液は、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=2/3(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより調製した。
(12−3)セパレータの作製
実施例及び比較例で得られたセパレータを60mmにスリットして帯状にすることにより、評価用セパレータを作製した。
(12−4)捲回性の評価
上記(12−1)で得られた各部材を使用して、負極、セパレータ、正極、及びセパレータを、この順に重ね、250gfの巻取張力で渦巻状に複数回捲回することにより、電極積層体を作製した。10個作製した電極積層体について、セパレータの撚れやシワの有無を目視で観察し、下記評価基準にて評価をした。
−評価基準−
○(良好):撚れやシワ等の外観不良が全く生じなかったもの。
△(可):撚れやシワ等の外観不良が1個生じたもの。
×(不良):撚れやシワ等の外観不良が2個以上発生したもの。
(12−5)電池のサイクル特性の評価
(12−5−1)電池組立て
上記(12−1)で得られた、負極、セパレータ、正極、及びセパレータを、この順に重ね、巻取張力を250gf、捲回速度を45mm/秒として、渦巻状に複数回捲回して電極積層体を作製した。この電極積層体を、外径が18mm、高さが65mmのステンレス製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製タブを容器蓋端子部に、負極集電体から導出したニッケル製タブを容器壁に、それぞれ溶接した。その後、真空下、80℃において12時間の乾燥を行った。アルゴンボックス内にて、組立てた電池容器内に上記非水電解液を注入し、封口することにより、電池を組み立した。
(12−5−2)前処理
組立てた電池につき、1/3Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を8時間行い、その後1/3Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。次に、1Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を3時間行い、その後1Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。最後に1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電をした後、4.2Vの定電圧充電を3時間行い前処理とした。なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表す。
(12−5−3)サイクル試験
上記前処理を行った電池につき、温度25℃の条件下、放電電流1Aにて放電終止電圧3Vまで放電を行った後、充電電流1Aで充電終止電圧4.2Vまで充電を行った。これを1サイクルとして充放電を繰り返し、初期容量に対する200サイクル後の容量保持率を用いて、以下の基準でサイクル特性を評価した。
(評価基準)
◎(きわめて良好):容量保持率95%以上100%以下
○(良好):容量保持率90%以上95%未満
×(不良):容量保持率90%未満
(13)孔構造(角度θが60°≦θ≦120°である孔の割合)
多孔層(B)の孔構造の角度θを規定するために、先ず、セパレータについて、BIB(ブロードイオンビーム)による断面加工を行った。加工の際、熱ダメージを抑制するために必要に応じてセパレータを直前まで冷却させた。具体的には、−40℃の冷却装置にセパレータを一昼夜放置した。これにより、平滑なセパレータ断面が得られた。
次に、得られたセパレータ断面を、Cペースト及びOsコーティングによる導通処理を行った後、「HITACHI S−4700」(日立ハイテクフィールディング社製)を用いて、撮影倍率1万倍、加速電圧1.0kV、検出器:二次電子(上方UPPER)の設定で撮影を行った。得られた断面SEM像の電子画像を取得し、孔の角度θを算出した。
前記角度θは、画像処理ソフト「ImageJ」(バージョン1.46)を用いて以下の方法で算出した。
対象となる断面SEMの電子画像を開き、線選択ツール「Straight」を用いて画像中にある既知の距離を測定した。「Analyze」から「SET SCALE」を開き、測定単位及び既知の距離を入力し、スケールの設定を行った。次に、2値化処理の前処理として「Paintbrush Tool」を用いて多孔層(B)中の孔部を空隙として黒で塗りつぶした。
ここで、孔部の認定が明確でない場合は、先ず、後方にフィラーを確認できない暗部を認定し、この暗部を中心に輪郭が閉じた領域を孔部(空隙)として認定した。一方、BIB加工断面からわずかに後方に位置するフィラー部は、イオン伝導性に寄与していると評価できないため、孔部としては認定しなかった。また、SEM画像の右端および左端においては、上記暗部を中心に認定した輪郭が画像端部で途切れていても、孔部として認定した。
上述したように孔部(空隙)を塗りつぶした後、2値化処理を行った。具体的には、評価エリアの選択を行うため「Rectangular selections」を用いて、所望の領域を選択した。選択する際に、B層の表層部は除外した。続いて、選択エリアを別ファイルへ作成するため、「Image」タブ中の「Dupulicate」を用いて、B層のみの新しい電子画像を作成した。次に、得られた電子画像から、孔部を特定するための処理を行った。具体的には、「Image」から「Adjust」、更に「Threshold」を選択し、256階調のうち単色で塗りつぶす範囲を「0−100」として処理を行った。その後、「Analyze particles」を選択し、「Size」の項目に「0.01μm以上」を入力し、さらに、Showの項目に「Ellipse」を選択することで、一つ一つの孔を楕円化させた画像が得られた。最後に、楕円化させた孔の長軸と、多孔基材層(A)と多孔層(B)との界面に平行な軸線とによって形成される角度θを機械的に求め、面積が0.01μm以上である孔の角度θデータをヒストグラム化させ、60°≦θ≦120°となるθの割合を算出した。
<樹脂バインダー(b−1)の製造>
(製造例1a)アクリル系ポリマーラテックスの製造
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25質量%水溶液)0.085質量部(固形分換算)と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25質量%水溶液)0.085質量部(固形分換算)と、を投入し、反応容器内部温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液)を0.15質量部(固形分換算)添加した。
過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に、メタクリル酸メチル85質量部、アクリル酸n−ブチル5.4質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル2質量部、メタクリル酸0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、アクリルアミド5質量部、メタクリル酸グリシジル0.4質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT、新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25質量%水溶液)0.75質量部(固形分換算)、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25質量%水溶液)0.75質量部(固形分換算)、p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.05質量部、過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液)0.15質量部(固形分換算)、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。得られた乳化液を、滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンについて、水酸化アンモニウム水溶液(25質量%水溶液)を用いてpH=9.0に調整することにより、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー(1a)を含有するラテックスを得た。得られたアクリル系ポリマー(1a)の平均粒子径は161nm、比重は1.19g/cm、ガラス転移温度は90℃であった。
(製造例1b)アクリル系ポリマーラテックスの製造
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取りつけた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25質量%水溶液)0.15質量部(固形分換算)と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25質量%水溶液)0.15質量部(固形分換算)と、を投入し、反応容器内部温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液)を0.15質量部(固形分換算)添加した。
過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に、メタクリル酸メチル38.5質量部、アクリル酸n−ブチル19.6質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル31.9質量部、メタクリル酸0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、アクリルアミド5質量部、メタクリル酸グリシジル2.8質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT、新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25質量%水溶液)3質量部、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25質量%水溶液)3質量部、p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.05質量部、過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液)0.15質量部(固形分換算)、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。得られた乳化液を、滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルジョンにつき、水酸化アンモニウム水溶液(25質量%水溶液)を用いてpH=9.0に調整することにより、濃度40質量%のアクリル系ポリマー(1b)を含有するラテックスを得た。得られたアクリル系ポリマー(1b)の平均粒径は121nm、比重は1.19g/cm、ガラス転移温度は−20℃あった。
(製造例1d)スチレン−ブタジエン系ポリマーラテックスの製造
撹拌機を備えた温度調節可能な反応器の内部を予め窒素置換した後、イオン交換水850質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20質量部(固形分換算)、水酸化ナトリウム0.1質量部、亜硫酸水素ナトリウム0.5質量部、硫酸第二鉄0.0005質量部、スチレン15質量部、メタクリル酸メチル30質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル51質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、及びイタコン酸2質量部からなる単量体混合物を全量加えて、重合系内温度を90℃に調節した後、過硫酸アンモニウム1質量部(固形分換算)及びイオン交換水50質量部からなる均一な開始剤水溶液を一括添加した。その後2時間、重合系内温度を90℃に保持してから、重合系内温度を下げ、シードラテックスAを得た。得られたシードラテックスAの固形分濃度は10質量%、ポリマーの平均体積粒子径は16nm、ガラス転移温度は2℃、および質量平均分子量(Mw)は7万であった。
次に、シードラテックスA(固形分濃度10質量%)を0.05質量部(固形分換算)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部(固形分換算)、イオン交換水200質量部を、撹拌装置及び温度調節用ジャケットを取り付けた耐圧反応容器に入れた後、液温を60℃にし、過硫酸アンモニウム1.0質量部(固形分換算)を添加した。次いて、単量体としてスチレン70質量部、ブタジエン15質量部、メチルメタクリレート7質量部、アクリロニトリル3質量部、アクリル酸1質量部、メタクリル酸グリシジル2質量部、及びイタコン酸2質量部、並びに連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー0.2質量部、及びt−ドデシルメルカプタン0.5質量部からなる混合液を、液温を70℃に維持したまま6時間かけて追添した。最終重合率は98質量%であった。
生成したラテックスは、200メッシュ金網で濾過した後に、水酸化アンモニウム水溶液(25質量%)を添加し、pH8に調整後、未反応単量体を除去した。更に濃縮後、ポリアクリル酸アンモニウム0.5重量部(固形分換算)及び水酸化アンモニウム水溶液を加え、最終的に固形分濃度50質量%、pH8のスチレン−ブタジエン系ポリマー(1d)ラテックスを得た。得られたラテックスポリマーの平均粒子径は200nm、比重は1.07g/cm、ガラス転移温度は70℃であった。
(製造例1e)中空アクリルポリマーラテックスの製造
撹拌機を備えた温度調節可能な反応器の内部を予め窒素置換した後、製造例1dの前段で調製したシードラテックスA0.05質量部(固形分換算)を加え、反応系内の液温を75℃に維持したまま、メタクリル酸メチル25.5質量部、アクリル酸ブチル70質量部、メタクリル酸0.5質量部、アクリル酸0.5質量部、ジメタクリル酸エチレングリコール1質量部、メタクリル酸グリシジル2.5質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5質量部、及びイオン交換水200質量部からなる乳濁液と、過硫酸アンモニウム水溶液(固形分濃度5質量%)1質量部(固形分換算)と、をそれぞれ4時間かけて添加し、更に重合系内温度75℃を維持して2時間反応を継続し、平均粒径200nmのラテックスBを得た。
重合系内温度75℃にした後、前記ラテックスB9.6質量部(固形分換算)に対して、メタクリル酸メチル50質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2質量部(固形分換算)、及びイオン交換水からなる乳化液、並びにスチレン48質量部、ジビニルベンゼン2質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2質量部(固形分換算)、及びイオン交換するからなる乳化液2を、重合系内温度75℃を維持しながら、各5時間かけてグラジュエント添加した(乳化液1:0質量%から100質量%、乳化液2:100質量%から0質量%)、添加終了後、更に重合系内温度を75℃で2時間維持したまま、反応を継続し、平均粒径450nm、固形分濃度25.6質量%のラテックスCを得た。
ラテックスCを含む重合系内の温度を90℃にした後、pHが10.8なるように水酸化アンモニウム水溶液(25質量%水溶液)を加え、2時間アルカリ膨潤させることにより、中空アクリルポリマー(1e)を含有するラテックスを得た。得られたラテックスの粒径は500nm、中空径300nmの球形の単分散粒子、ポリマー比重は0.93g/cm、ガラス転移温度は60℃であった。なお、ポリマー粒子の中空孔直径は、電子顕微鏡による観察において無作為に抽出した100個の粒子の測定結果の平均値である。
実施例1
体積平均分子量70万のホモポリマーのポリエチレン47.5質量部と体積平均分子量25万のホモポリマーのポリエチレン47.5質量部と体積平均分子量40万のホモポリマーのポリプ口ピレン5質量部とを、タンブラ-ブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリマ一混合物99質量部に対して酸化防止剤としてペンタエリスリチルーテトラキスー[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒド口キシフェニル)フ口ピオネー卜]を1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマ一等混合物を得た。得られたポリマ一等混合物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が67質量%(樹脂組成物濃度が33質量%)となるように、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃であり、スクリユ一回転数100rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャス卜することにより、厚み1,600μmのゲルシートを得た。次に、同時二軸テンター-延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7/0倍、TD倍率6.1倍、設定温度121℃とした。次に、延伸後のゲルシートを、メチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。続いて、流動パラフィン除去後のゲルシートをTDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定温度は120℃、TD最大倍率を2.0倍、緩和率は0.90とした。その結果、膜厚17μm、気孔率60%、透気度84秒/100cc、気液法によって算出した平均孔径d=0.057μm、曲路率τa=1.45、孔数B=165個/μm、突刺強度が25μm換算で5,679fのポリオレフィン樹脂多孔膜(A1)を得た。
次に、無機充填剤(b−2)として焼成カオリン(2a)(カオリナイト(AlSi(OH)を主成分とする湿式カオリンを高温焼成処理したもの、平均粒径1.8μm)を93.0質量部、樹脂バインダー(b−1)としてアクリル系ポリマー(1a)ラテックス(固形分濃度40質量%)2.0質量部(固形分換算)、アクリル系ポリマー(1b)ラテックス(固形分濃度40質量%、平均粒径220nm、ガラス転移温度−15℃、最低成膜温度0℃以下)5.0質量部(固形分換算)、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製、SNディスパーサン卜5468、固形分濃度40質量%)0.5質量部(固形分換算)を180質量部の水に均一に分散させて塗工液を調製し、上記ポリオレフィン樹脂多孔膜の表面にグラビアコーターを用いて塗工した。60℃にて乾燥して水を除去し、ポリオレフィン樹脂多孔膜(A1)上の片面に厚さ2μmの多孔層(B)を形成したセパレータを得た。
このセパレータの評価結果は表1に示した。
実施例2
上記実施例1において、樹脂バインダー(b−1)の種類を表1に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様にして、セパレータを得た。
このセパレータの評価結果は表1に示した。
比較例1
上記実施例1において、塗工層の乾燥温度を80℃と高くしたほかは、実施例1と同様にして、セパレータを得た。
このセパレータの評価結果は表1に示した。
この比較例1は、電極密着性及び塗工層剥離強度に劣っていた。塗工層の乾燥温度が高くなったことにより、両樹脂バインダー{第1の樹脂バインダー(b−1−1)と第2の樹脂バインダー(b−1−2)}が独立して偏在せず、両樹脂バインダーとも多孔基材層(A)側に偏在したためであると考えられる。
比較例2
上記実施例1において、塗工層の乾燥温度を45℃と低くしたほかは、実施例1と同様にして、セパレータを得た。
このセパレータの評価結果は表1に示した。
この比較例2は、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着性、セパレータ最表面のべたつき性、及びハンドリング性のいずれも劣っていた。塗工層の乾燥温度が低くなったことにより、両樹脂バインダーが独立して偏在せず、両樹脂バインダーとも多孔層(B)にほぼ均一に存在することになったため、多孔層(B)の表面軟化温度が低くなったものと考えられる。
比較例3
上記実施例1において、樹脂バインダー(b−1)の種類を表1に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様にして、セパレータを得た。
このセパレータの評価結果は表1に示した。
この比較例3は、電極密着性、塗工層剥離強度、及びベタつき性のいずれも十分な結果ではなかった。本比較例では、2種類の樹脂バインダーの比重差[(b−1−2)−(b−1−1)]がなく、従って両樹脂バインダーがマイグレーション時に同様に挙動したためと思われる。
本発明のセパレータは、電極密着性とロール剥離性とが両立して優れ、電池容量寿命も長く、生産性にも優れている。従って、該セパレータは、非水系電解液二次電池等の電池やコンデンサー、キャパシタ等の蓄電デバイス用セパレータとしてとして好適に利用できる。

Claims (7)

  1. 多孔基材層(A)と、
    無機充填剤(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む多孔層(B)と
    を有する蓄電デバイス用セパレータであって、
    前記樹脂バインダー(b−1)が2種類以上の樹脂バインダーを含み、
    前記多孔層(B)の表面軟化温度が30〜60℃の範囲にあり、そして
    前記多孔層(B)の断面における面積0.01μm以上の孔において、各孔の長軸と前記多孔基材層(A)と前記多孔層(B)の界面に平行な軸とによって形成される角度θが60度以上120度以下である孔の割合が30%以上であり、
    前記樹脂バインダー(b−1)が、
    ガラス転移温度30℃以上の第1の樹脂バインダー(b−1−1)と、
    ガラス転移温度30℃未満の第2の樹脂バインダー(b−1−2)と
    を含み、
    前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)の比重が、前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)の比重より大きいものである
    ことを特徴とする、前記蓄電デバイス用セパレータ。
  2. 前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)が中空粒子である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  3. 前記多孔層(B)の外表面から0〜50%の厚み範囲(上半分領域)に存在する樹脂バインダー(b−1)のうち、前記第1の樹脂バインダー(b−1−1)が60質量%以上である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  4. 前記多孔層(B)外表面から50%〜100%の厚み範囲(下半分領域)に存在する樹脂バインダー(b−1)のうち、前記第2の樹脂バインダー(b−1−2)が60質量%以上90質量%以下である、請求項のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  5. 透気度が10〜500秒/100ccの範囲にある、請求項1〜のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  6. 請求項1〜のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、電極と、が積層して成ることを特徴とする、積層体。
  7. 請求項に記載の積層体を用いて成ることを特徴とする、電気化学素子。
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