[第1の実施の形態]
<自由航走模型船試験方法>
自由航走する模型船に補助推力装置を搭載することによりプロペラ荷重度を自由に変化させることができる。模型船が直進している状態を考えると、補助推力装置により補助推力が与えられた模型船に加わる前後方向の力の釣り合いは数式(19)で表される。
ここで、(1−t)は推力減少係数、Tはプロペラ推力、TAは補助推力、RTは全抵抗を表す。
一般的に、推力減少係数は、船体とプロペラとの組み合わせによって特定の値となる。プロペラ推力は、船速とプロペラ回転数によって決まる。全抵抗は、船速によって決まる。補助推力は、船速及びプロペラ回転数に依存せず、任意に選ぶことができる。すなわち、ある船速について、補助推力を適当に選べば、プロペラ回転数を任意に設定することができる。また、あるプロペラ回転数について補助推力を適当に選ぶことによって船速を任意に設定することが可能である。これらの関係は、直進時以外の旋回や斜航中でも必要な特性がわかれば原理的には成り立つ。
模型船を用いた船の試験では一般にフルードの相似則に則って、すなわち模型船のフルード数を実船と同じ値になるように船速を定める。このとき、模型船のレイノルズ数は実船と大きく異なるので粘性に関する現象が模型船と実船では相似にならない。特に、粘性が支配的な影響をおよぼす摩擦抵抗については模型船と実船で大きく異なる。
ここで、数式(19)を無次元化すると次式を得る。
ここで、Sは船の浸水表面積、Dはプロペラ直径を表す。他の変数は次式で定義される。
ここで、uは船速の前後方向成分、ρは水の密度、τがプロペラ荷重度、CTが全抵抗係数を表す。
模型船と実船で幾何学的形状が相似とするとS/{π(D/2)2}は模型船と実船で同じ値である。また、一般に模型船と実船で推力減少係数(1−t)は同じと考えて良い。
摩擦抵抗が模型船と実船とで異なることは全抵抗係数CTが模型船と実船で異なることを意味する。補助推力がない場合、すなわちτAが0の場合、数式(20)より、全抵抗係数CTが模型船と実船とで同じであればプロペラ荷重度τも模型船と実船とで同じになるが、両者で全抵抗係数CTが異なるためτも異なることになる。
船の馬力推定あるいは抵抗・推進の分野で実施される自航試験では、船速はフルードの相似則に従って決め、プロペラ回転数は模型船のプロペラ荷重度が実船と同じになるように設定される。この時、数式(20)のτAあるいは数式(19)の補助推力TAに相当する力は試験水槽の曳引台車が受け持つことで数式(20)あるいは数式(19)が成立している。
このとき、模型船に加えるべき補助推力TAは次式で定義される摩擦抵抗修正量RSFCに対応した値として求めることができる。
添え字のmとsはそれぞれ模型船と実船の値であることを表す。推力減少係数(1+k)は船の形状によって決まる形状影響係数を表す。一般に模型船と実船で同じ値と考えて良い。CF0はレイノルズ数によって決まる相当平板の摩擦抵抗係数を表す。ΔCFは粗度修正係数で、実船の長さを用いて推定することができる。
以上、数式(24)で表される補助的な力を模型船に加えることを模型試験における摩擦抵抗修正あるいは単に摩擦修正と呼ぶ。なお、摩擦修正をおこなわない場合のプロペラ回転数を模型自航点、摩擦修正をおこなった場合のプロペラ回転数を実船自航点と呼ぶ。
さらに、本実施の形態では、任意の補助推力を発生することのできる荷重度変更自走試験装置を用いて、自由航走模型試験において舵効きを実船と相似にする補助推力設定法を提供する。
幾何学的な相似とフルードの相似則のもと、模型船の舵効きを実船相当にするためには、次式で表される舵直圧力FNの無次元値を模型船と実船とで一致させれば良いと考えられる。
ここで、ARは舵面積、fαは舵の縦横比で決まる直圧力係数勾配、URは舵有効流入速度、Vは船速、αRは舵有効流入角をそれぞれ表す。また、u/Vはcosβに等しく、斜航角が小さい場合はほぼ1とみなすことができる。なお、βは船の斜航角である。船速Vは船速の前後方向成分uと左右方向成分vに分けられ、斜航角βを介してu=Vcosβ、v=−Vsinβの関係がある。舵有効流入速度URは舵有効流入速度の前後方向成分uRと舵有効流入速度vRに分けられ、舵有効流入角αRを介してuR=UR cosαR、vR=−UR sinαRの関係がある。舵直圧力FNは舵有効流入速度UR、舵有効流入角αRによって決まるが、この時vRよりもuRが支配的影響をおよぼす。uRに大きな影響をおよぼすのはuとプロペラ回転数である。
URは前後方向成分uRと左右方向成分vRを用いて次式で表される。
ここで、αRは次式で表される。
ここで、vRPはプロペラの回転による横方向流速成分、γRは整流係数、lR’は舵の流体力学的前後位置、r’は無次元旋回角速度をそれぞれ表す。
数式(26)において左右方向成分vRは一般に前後方向成分uRに比べて小さく、支配的なのは舵有効流入速度の前後方向成分uRと船速の前後方向成分uとの比uR/uの項である。数式(27)においてもプロペラの回転による横方向流速成分vRPは舵有効流入速度の前後方向成分uRに比べて小さく、従って第二項は支配的ではない。さらに、問題の見通しをよくするために直進状態を考えると数式(27)の第3項は0となり、支配的な項のみを残すと数式(26)と数式(27)は次式のように書ける。
数式(28)から、直進状態においては、uR/uを模型船と実船で同じ値にすれば近似的に無次元直圧力すなわち舵効きを模型船と実船とで相似にすることができることがわかる。
uR/uは数式(29)で表される。
ここで、1−wは伴流係数、εは舵位置の伴流係数とプロペラ位置の伴流係数の比、κはプロペラ後流の増速率、ηはプロペラ直径と舵高さの比をそれぞれ表す。KTは次式で表される推力係数を表す。
ここで、nはプロペラ回転数を表す。Jは次式で表されるプロペラ前進率を表す。
なお、推力係数KTは一般にプロペラ前進率Jの関数である。
数式(29)によってuR/uに対してはプロペラ荷重度τが大きな影響をおよぼすことがわかる。同時に、模型船と実船でプロペラ荷重度τが同じでも、舵位置の伴流係数とプロペラ位置の伴流係数の比εとプロペラ後流の増速率κ、伴流係数1−wが異なれば無次元舵直圧力は同じにならないことがわかる。特に、伴流係数1−wは粘性の影響を受けて模型船と実船で明らかに異なることが知られている。
ここで、補助推力TAを次のように表す。
ここで、fTAは補助推力が摩擦修正量の何倍の値であるかを表す変数で、ここでは補助推力係数と呼ぶことにする。補助推力係数fTA=0が摩擦修正なしの模型自航点、補助推力係数fTA=1が摩擦修正有りの実船自航点を表す。
ある船速について補助推力係数を決めればその値に応じて数式(19)を解くことで対応するプロペラ回転数nやプロペラ荷重度τ、uR/u、プロペラ前進率J等を求めることができる。つまり、uR/uが実船の値と等しくなる補助推力係数fTAの値を求め、その値を使って数式(32)に従って補助推力とプロペラ回転数を設定すれば無次元舵直圧力すなわち舵効きを実船相当にした自由航走模型試験を実施することができる。
図1は、縮尺1/75.5(長さ約3m)の模型船が計画船速対応の船速での定常直進航行時を対象として補助推力係数fTAを変化させたときのuR/uが変化する様子を示す。図1において、実線が模型船の値を示し、破線は実船の推定値を示す。
摩擦修正なしに対応する補助推力係数fTA=0ではuR/uは模型船が実船より大きな値を示しており、無次元舵直圧力は模型船の方が実船より大きいことを意味する。すなわち模型自航点では舵効きは模型船の方が良いことを示している。一方、摩擦修正有りに対応する補助推力係数fTA=1ではプロペラ荷重度は模型船と実船で等しくなるが、uR/uは模型船が実船より小さな値を示している。これは、相対的に模型船の舵効きが実船より悪くなっていることを示している。uR/uが模型船と実船で等しくなるのはこの船の場合、補助推力係数fTAが約0.67のとき、摩擦修正量よりもやや小さめの補助推力を与えたときである。
次に、舵効き修正係数fRECを用いた補助推力とプロペラ回転数の設定について考察する。uR/uが模型船と実船で等しくなる補助推力係数fTAをあらためてfRECと書くことにする。
図2は、模型船の縮尺を変化させたときのfRECの変化を示す。図2に示されるように、一般的な船の場合、模型船の長さが変化してもfRECは大きくは変化しないことがわかる。
図3は、模型船の船速を変化させたときのfRECの変化を示す。図3に示されるように、一般的な船の場合、船速が大きくなるとややfRECが減少する傾向が見られる。
このように、舵を考慮した試験を行うために模型船と実船とのuR/uを一致させる場合、船速に応じて適切な補助推力係数fTAは変化するので、船速に応じて適切な補助推力係数fTAを設定することが好適である。また、船速に応じて適切な補助推力係数fTAは決定されるので、補助推力係数fTAの代わりに船速を用いて制御を行うことができる。
定常直進付近は操縦性能において重要な針路安定性を判定する上で重要であるため、この定常直進時のfRECが模型船と実船の舵効きの対応に関する基本となると考えられる。従って、定常直進中のfRECとそれに対応したプロペラ回転数で自由航走模型試験を実施するのが最も基本的な方法となる。
定常直進時のfRECを求めるためには伴流係数1−wと舵位置の伴流係数とプロペラ位置の伴流係数の比ε、プロペラ後流の増速率κ、プロペラ直径と舵高さの比η、推力係数KT、プロペラ前進率Jが必要である。伴流係数1−wは船の設計段階で何らかの推定値が得られているのが一般的である。プロペラ前進率Jは、定常直進時のプロペラ回転数と船速と伴流係数1−wで決まる。これらも設計段階で計画船速とそのときのプロペラ回転数が求められていると考えられる。プロペラ単独性能を表す推力係数KTに関しても設計段階でプロペラ前進率Jの関数として推定されているのが一般的である。プロペラ直径と舵高さの比ηは幾何学的に決まる値である。舵位置の伴流係数とプロペラ位置の伴流係数の比εとプロペラ後流の増速率κについては模型実験等で何らかの推定値が得られていればそれを用いればよい。推定値がない場合は、文献に挙げられている値や類似する船のデータを用いても大きな間違いとはならないと推察される。
図4は、20度Z試験について補助推力なし(fTA=0, Model(w/o corr.))の場合と摩擦修正をした場合(fTA=1, Model(SFC))、舵効き修正をした場合(fTA=fREC, Model(REC))、実船推定値それぞれの航跡と舵直圧力の時系列のシミュレーション結果を示す。実船推定値は、補助推力なしの場合と摩擦修正をした場合の間にあり、舵効き修正をした場合は実船推定値に近い値を示していることがわかる。
このように、定常直進時のfRECは、船の設計段階での推定値、船の幾何学的な構造、模型試験での推定値を用いて求めることができ、上記のように決定される補助推力係数fTAとfRECとを用いて補助推力TAを算出することができる。以下に説明する自由航走模型船試験装置を用いた自由航走模型船試験では、このようにして算出できる補助推力TAを用いて舵を考慮して試験を行う。
<自由航走模型船試験装置>
図5は、本発明の実施の形態における自由航走模型船試験方法を実現するための自由航走模型船試験装置100を示す図である。
自由航走模型船試験装置100は、図5に示すように、自由航走模型船10に搭載されたアナログ/パルス変換器12、モータ増幅器14、ダクトファンモータ16及び検力計18と、自動追尾台車20に搭載されたカメラ22、検力計増幅器24及び制御コンピュータ(制御PC)26と、を含んで構成される。
自由航走模型船10は、試験対象となる実際の船舶を模倣した模型船である。自由航走模型船10は、以下に説明する補助推力系とは別にプロペラ等の主推力系を有し、水上を自由航走することができるように構成されている。自動追尾台車20は、カメラ22によって自由航走模型船10を撮像し、その情報に基づいて制御コンピュータ26による制御によって自由航走模型船10を自動に追尾するように構成されている。例えば、自動追尾台車20は、試験用プール上に配置されたレールに取り付けられ、レール上を走行することによって自由航走模型船10を追尾できるように構成される。さらに、自動追尾台車20の追尾によって自由航走模型船10の速度(船速)が測定され、制御コンピュータ26に入力される。
自由航走模型船10には、補助推力付加手段としてダクトファンモータ16が搭載されている。ダクトファンモータ16は、アナログ/パルス変換器12に入力された補助推力指令信号に基づいて出力が制御され、その出力が自由航走模型船10の主推力系とは別に設けられた補助推力となる。アナログ/パルス変換器12に補助推力指令信号が入力されると、その信号に応じた推力を生み出すようにダクトファンモータ16を制御するパルス信号に変換され、パルス信号がモータ増幅器14によって増幅されてダクトファンモータ16に入力され、ダクトファンモータ16が駆動される。これにより、ダクトファンモータ16によって自由航走模型船10に対して所望の補助推力が与えられる。
また、自由航走模型船10には、ダクトファンモータ16の出力を検出して出力する検力計18が搭載されている。検力計18は、ダクトファンモータ16の補助出力を検出して、検力計増幅器24へ出力する。
自動追尾台車20には、検力計増幅器24が搭載されており、検力計18で検出された実際の補助出力が入力される。検力計増幅器24は、実際の補助出力を増幅して制御PC26に出力する。制御PC26は、検力計増幅器24から補助出力に応じた信号を受けて、補助出力を所望の値となるように補助推力指令信号を生成してアナログ/パルス変換器12へ出力する。このように、フィードバック制御を行うことによって、自由航走模型船10に対して所望の補助推力を付与することができる。
ここで、所望の補助推力は、上記の自由航走模型船試験方法にしたがって設定することができる。すなわち、uR/uが実船の値と等しくなるように補助推力係数fTAの値を求め、その値を使って数式(32)に従って補助推力とプロペラ回転数を設定する。このとき、補助推力係数fTAの値は、船速に応じて設定することが好適である。また、fRECは、例えば定常直進時であれば上記のように船の設計段階での推定値、船の幾何学的な構造、模型試験での推定値を用いて求めることができる。これにより、無次元舵直圧力すなわち舵効きを実船相当にした自由航走模型試験を実施することができる。
また、図6に示す自由航走模型船試験装置102のような構成としてもよい。自由航走模型船試験装置102では、検力計増幅器24及び制御コンピュータ(制御PC)26も自由航走模型船10に搭載される。なお、自由航走模型船試験装置100と同じ構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
自由航走模型船試験装置102では、さらに船速検出器70が自由航走模型船10に搭載される。船速検出器70は、自由航走模型船10の速度(船速)を計測し、制御コンピュータ26に入力する。船速検出器70は、例えば、ピトー管等の速度計測手段から船速を求めてもよいし、GPS等の位置計測手段から得られる自由航走模型船10の位置の時間的な変化から船速を求めてもよい。また、電磁LOGセンサやドップラーLOGセンサ等を用いて対水船速を求めてもよい。
制御コンピュータ26は、自由航走模型船試験装置100と同様に、上記の自由航走模型船試験方法にしたがってuR/uが実船の値と等しくなるように補助推力係数fTAの値を求め、その値を使って数式(32)に従って補助推力とプロペラ回転数を設定する。このとき、補助推力係数fTAの値は、船速に応じて設定することが好適である。また、fRECは、例えば定常直進時であれば上記のように船の設計段階での推定値、船の幾何学的な構造、模型試験での推定値を用いて求めることができる。
また、図7に示す自由航走模型船試験装置104のような構成としてもよい。自由航走模型船試験装置104では、船速検出器70の代わりに、自由航走模型船10には船速情報受信器72が搭載される。船速情報受信器72は、陸上に設けた船速検出器74から自由航走模型船10の船速の情報を受信し、制御コンピュータ26に入力する。船速検出器74は、例えば、光学的方法や無線を用いた方法により自由航走模型船10の船速を求めるようにすればよい。また、GPS等の位置計測手段から得られる自由航走模型船10の位置の時間的な変化から船速を求めてもよい。
自由航走模型船試験装置104においても、自由航走模型船試験装置100,102と同様に、上記の自由航走模型船試験方法にしたがってuR/uが実船の値と等しくなるように補助推力係数fTAの値を求め、その値を使って数式(32)に従って補助推力とプロペラ回転数を設定すればよい。
なお、自由航走模型船試験装置102,104では、自由航走模型船10に電池等の電源を搭載し、試験に必要な電力を当該電源から供給するようにしてもよい。これにより、自動追尾台車20等から外部電力を供給することなく、自由航走模型船10単体で試験を実施することができる。
また、図8に示すような荷重度変更自走試験装置200よる自由航走模型船試験装置によっても本発明の実施の形態における自由航走模型船試験方法を実現することができる。図8は、荷重度変更自走試験装置200に用いる試験水槽と曳引車の構造を示す要部平面図である。
図8に示すように、曳引車(追尾手段)Aは主台車32、主台車32上の副台車34、および副台車34上の回転盤36を含んで構成される。
水槽Hは、自由航走模型船30を自走させるためのものであり、X−Y−Z3次元直交座標系が設定されている。以下、水槽Hに設定されている座標系を用いて自由航走模型船30の位置・方向を特定する場合、大文字のX、Y、Z及びΨを用いる。本実施形態においては、X−Y−Z3次元直交座標系のX方向は、水槽Hに水が入った状態において水面の外郭により形成される長方形の長手方向をいう。そして、水面上でX軸に直交する方向をY方向、X方向およびY方向の何れとも直交する鉛直方向をZ方向とする。
曳引車Aは主台車32によってレール38上をX方向に動くことができる。主台車32には副台車34が設置されており、副台車34は主台車32上をY方向に動くことができる。副台車34は、回転盤36を備えている。回転盤36は、Z方向(Z軸)を回転軸として回転することができる。X軸を基準として、回転盤36がZ軸回りに回転する回転方向をΨ方向と記す。曳引車Aの位置をXc,Ycと記し、X軸を基準とした回転方向をΨcと記す。曳引車Aの位置と方向Xc,Yc,Ψcは外部からの信号によってそれぞれ制御することができる。
図9は、荷重度変更試験装置200の構造を示す要部斜視図であり、変位検出・補助推力付加のための荷重度変更試験装置200の構造の概略を示している。この荷重度変更試験装置200は、図8に示した曳引車Aの回転盤36上に設置される。そして、その下端の模型固定部40において、破線で示した自由航走模型船30の重心位置に固定される。自由航走模型船30を水平に保つためのジンバル部42を備えていることによって、図8に示す曳引車Aが自由航走模型船30の横揺れ・縦揺れ・船首揺れを拘束することがなくなる。すなわち、ジンバル部42により、自由航走模型船30のピッチ方向、ロール方向、ヨー方向に対する運動が許容される。
水槽Hに設定されているX−Y−Z3次元直交座標系(図8参照)とは別に、荷重度変更試験装置200にはx−y−z3次元直交座標系が設定されている。以下、荷重度変更試験装置200に設定されている座標系を用いて自由航走模型船30の位置・方向を特定する場合、小文字のx、y、z及びψを用いる。このx−y−z3次元直交座標系のx方向とは、回転盤36上に固定された水槽Hの水面に平行な所定方向をいう。そして、水面に平行でx軸に直交する方向をy方向、x方向およびy方向の何れとも直交する鉛直方向をz方向とする。x−y−z3次元直交座標系は、回転盤36上に固定されたものであるから、回転盤36の回転に伴って、x方向、y方向が変化する。ただし、z軸回りの回転方向の基準位置をx方向としているから、z軸回りの回転方向ψが回転盤36の回転に伴って変化することはない。
荷重度変更試験装置200では、模型固定部40およびジンバル部42を備えている支柱部44が、鉛直方向に移動可能な状態でx移動部(補助推力付加手段)46に取付けられている。支柱部44は、x移動部46内のローラー(補助推力付加手段)48によって、鉛直となるように保たれると同時に自由航走模型船30の上下揺れを拘束することはない。
x移動部46は下方にローラー48を備えており、ローラー48がxレール50上に乗っている。ローラー48が回転してxレール50を移動することにより、x移動部46はx方向に動くことができる。xレール50の下方にはローラー(補助推力付加手段)52が設けられており、ローラー52がyレール(補助推力付加手段)54上に乗っている。ローラー52が回転してyレール54上を移動することにより、xレール50はy方向に動くことができる。
自由航走模型船30のx方向の揺れはx揺れ検出用ポテンショメータ(運動状態検出手段)56によって検出される。自由航走模型船30のy方向の揺れはy揺れ検出用ポテンショメータ(運動状態検出手段)58によって検出される。自由航走模型船30の船首揺れは船首揺れ検出用ポテンショメータ(運動状態検出手段)60によって検出される。これらのポテンショメータによって検出されるx揺れとy揺れ、船首揺れの値をx,y,ψと記す。
x移動部46にはx揺れ用ワイヤー62を介してx力用サーボモータ(補助推力付加手段)64が接続されており、これらを介してx移動部46にx方向の力をかけることができる。xレール50にはy揺れ用ワイヤー66を介してy力用サーボモータ(補助推力付加手段)68が接続されており、これらを介してxレール50にy方向の力をかけることができる。x力用サーボモータ64が生み出すx方向の力をFx、y力用サーボモータ68が生み出すy方向の力をFyと記す。
ここで、所望の補助推力は、上記の自由航走模型船試験方法にしたがって設定することができる。これは、図8に示した自由航走模型船試験装置と同様である。
なお、模型固定部40、ジンバル部42および支柱部44の合計重量は自由航走模型船30の排水量に含むようにすることが好適である。
また、検出されたx,y,ψを信号に変換して曳引車Aに入力し、これらx,y,ψが0になるように例えばPID制御のようなフィードバック制御によってXc,Yc,Ψcを制御する。その結果、曳引車Aは自走する自由航走模型船30の位置と方位を追尾して動くことになる。
以上のように、舵効きを模型船と実船とで相似にすることによって、自由航走模型船で実船の操縦性能を直接調べることが可能となる。すなわち、検証の困難な実船対応のシミュレーション計算をおこなわなくても、幾何学的な寸法とフルードの相似則に従った時間の変換のみで、自由航走模型船の操縦運動を実船の操縦運動とみなすことができるようになる。様々な操舵に対する船の運動応答を模型船を使って直接の物理現象として再現して目で見ることができる、計測できることの意義は大きいといえる。
[第2の実施の形態]
<自由航走模型船試験方法>
上記第1の実施の形態では、直進時船速Vが一定、したがって船速の前後方向成分uが一定である場合に実船と模型船で舵効きを相似させる態様について説明した。第2の実施の形態では、直進時船速Vが一定の場合に限らず風や波等の外力の影響等により直進時に限らず斜航・旋回時の船速の前後方向成分uが一定とならない場合にも実船と模型船で舵効きを相似にする態様について説明する。
本実施の形態では、実船の基本的性能推定に基づき、外力下で変化する船速の前後方向成分uを計測しながらその計測データに基づきプロペラ回転数と補助推力装置の出力を制御することで外力下における模型船の船速応答を実船と相似にする。外力下では船は一般に操舵を必要とする。操舵は舵抵抗と斜航・旋回抵抗を誘起するので、船速応答を相似にするためにはこれらの抵抗成分も模型船と実船で相似にする必要がある。
まず、外乱下の操縦運動において実船と模型船で船速の前後方向成分uの応答が相似となる条件は数式(33)の運動方程式で表現される。
ここで、M’は付加質量を含む船の質量、u’は船速の前後方向成分、tは推力減少率、T’はプロペラ推力、TA’は補助推力、R’は直進時の抵抗成分、F’は舵と斜航・旋回による抵抗成分、E’は外乱による抵抗成分を示す。
また、「’」は水の密度ρ、船の代表長さL、重力加速度gによる無次元値であることを意味する。すなわち、質量はρL3、速度は√(Lg)、力はρL3g、時間は√(L/g)によって無次元化が行われる。ρとLは、実船と模型船のそれぞれに対応する値を用いる。例えば、船速u’を無次元化すると、数式(34)として表わすことができる。
船速応答が模型船と実船で相似になるためには数式(33)の2つの右辺が時々刻々の船速の変化に応じて等しい振る舞いをすればよい。ここで、F’は舵直圧力と操縦運動が、E’は実験条件と操縦運動が相似であればそれぞれ実船と模型船で相似性が確保される。舵直圧力とそれによって誘起される操縦運動の相似は数式(35)で近似される。
ここで、uRs’は、実船の舵有効流入速度の前後方向成分(無次元値uR’:プロペラ回転数と船速の関数)を示し、uRm’は、模型船の舵有効流入速度の前後方向成分(無次元値uR’:プロペラ回転数と船速の関数)を示す。
舵効きの相似を前提とすれば、任意のu’について次式が成立すれば実船と模型船の相似性が確保されると考えられる。
ここで、補助推力TA’は数式(37)で表わされる。
ここで、fTAは補助推力が摩擦修正量の何倍の値であるかを表す補助推力係数である。TSFC’は摩擦修正に必要な力である。
数式(37)を数式(36)に代入すると数式(38)が得られる。
F’及びE’に関する模型船と実船の相似が数式(35)により確保され、TA’の制御によって数式(38)が成り立つようにすることで数式(33)の右辺が実船と模型船の速度u’に対して等しく振ることになる。すなわち、数式(35)と数式(38)を非線形連立方程式とし、fTAと模型船のプロペラ回転数nm’をu’を助変数とする未知数として解けば補助推力とプロペラ回転数を船速に応じてどのように制御すれば外乱下において実船と模型船で船速の前後方向成分の応答を相似にすることができるかがわかる。このことによって、船速応答の相似性が確保される。
なお、舵有効流入速度uR’を具体的に求めるための推定式はいくつか提案されているが、たとえば数式(39)で推定することができる。
ここで、P’は数式(40)で定義されるプロペラピッチの無次元値を示す。
また、λSとλmは数式(41)の添字の*をそれぞれsとmに読み替えて得られる。
ここで、εは舵位置とプロペラ位置での伴流係数の比、ηはプロペラ直径と舵高さの幾何学的寸法比を表す。κはプロペラ増速率に関する係数を表す。また、sは数式(42)で定義されるプロペラスリップ比を表す。
図10は平水中操縦性能について模型船の4状態と実船の推定値を比較したものである。いずれも実船プロペラ回転数一定状態に対応するシミュレーション計算である。図10(a)は、左35度旋回を行ったときの航跡(X,Y)を示す。図10(b)は、左35°旋回を行ったときの舵直圧力(FN)の時間変化を示す。図10(c)は、左35°旋回を行ったときの縦距(Advance)及び旋回圏(Tactical d.)の対比を示す。図10(d)は、平水中において右20度Z試験を行った場合の航跡(X,Y)を示す。図10(e)は、平水中において右20度Z試験を行った場合の蛇角と船首方向(δ,Ψ)の時間変化を示す。図10(f)は、平水中において右20度Z試験を行った場合の舵直圧力(FN)の時間変化を示す。図10(g)は、平水中において右20度Z試験を行った場合の第1行き過ぎ角(Ψoa1)及び第2行き過ぎ角(Ψoa2)の対比を示す。
図中の添字NCは通常の自由航走模型試験のシミュレーション計算結果(小破線)、SFCは補助推力を使っていわゆる摩擦修正をおこなったシミュレーション計算結果(大破線)、REC及びRSCは本発明の手法に従ったシミュレーション計算結果を示す。RECは補助推力のみを制御した場合のシミュレーション計算結果(点線、第1の実施の形態)であり、RSCは補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御した場合のシミュレーション計算結果(実線、第2の実施の形態)である。なお、図中のプロット(点)は、実船における推定値を示す。
本発明の手法に従ったシミュレーション計算結果は、補助推力のみを制御した場合及び補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御した場合のいずれにおいても通常の自由航走模型試験のシミュレーション計算結果及び補助推力を使っていわゆる摩擦修正をおこなったシミュレーション計算結果に比べて改善された。補助推力のみを制御した場合と補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御した場合は大差なく、いずれも実船相似の平水中操縦性能を示した。厳密には、補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御した場合が補助推力のみを制御した場合よりも精度が高かった。
図11(a)〜図11(c)は、それぞれ波浪中定常航行時の平水中を基準とした船速比(V/V0)と斜航角(β)、舵角(δ)を、先の模型船4状態と実船の推定値を比較したものである。シミュレーション計算結果は、実船プロペラ回転数一定状態に対応している。入射波の方向は船首右舷30度、すなわち入射波との出会角は150度とした(船と正面からぶつかる波の出会角を180度とする)。波と船長との比(波高船長比:Hw/L)は1/60とした。横軸は波長船長比を表す。なお、図中の添字、線種等は図10と同様に示した。
波浪中の航行に対するシミュレーション計算結果も、通常の自由航走模型試験のシミュレーション計算結果及び補助推力を使っていわゆる摩擦修正をおこなったシミュレーション計算結果に比べて改善された。特に、補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御した場合が補助推力のみを制御した場合よりも精度が高かった。この結果から、補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御した場合、波等の外力の影響下においても実船と相似の操縦性能を示すことがわかる。
図12は、上記計算例において補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御した場合(RSC)において用いた補助推力と模型船のプロペラ回転数の制御特性を示す。横軸は、時々刻々と変化する船速(u’)と平水中船速(u0’)との比を表す。図12は、実船のプロペラ回転数nS’が一定(nS’=const.)、実船のトルクQS’が一定(QS’=const.)、実船の出力馬力WS’が一定(WS’=const.)の場合について示している。fTAは、制御に用いる補助推力と摩擦修正係数に必要な力の比を表す。nm’は、無次元の模型船プロペラ回転数を表す。
図10及び図11では、実船のプロペラ回転数が一定の状態に対応した自由航走模型試験をおこなう場合の例を示したが、図12の制御特性を利用することによって実船の任意の状態に対応した模型船の制御が可能である。また、補助推力のみを制御した場合(REC)の場合は、u’/u0’=1のときの補助推力と模型プロペラ回転数を用いればよい。
なお、数式(33)においてE’の項を考慮しない場合は船速変化の起源は操舵とこれが誘起する操縦運動のみとなる。この場合、船速応答の相似は舵効き応答の相似を必要とする。
自由航走模型試験で補助推力装置を用いた舵効き修正によって模型船の操縦運動を近似的に実船と相似にする手法では、プロペラ回転数一定の自由航走模型試験における補助推力係数の制御の簡単化と実用性を考慮して、平水中の定常直進時の状態をもとに舵効き修正係数を決め、その値を操縦運動中で一定としている。そのため、操縦運動中においては船速応答及び舵効きの相似が必ずしも厳密には保証されない。
ここで、操縦運動で現れる船速の左右方向成分ν’と無次元回頭角速度r’が伴流係数などの自航要素に及ぼす影響が直接ではなく、これらが船速u’やプロペラ荷重度τにおよぼす影響を通して考慮できると仮定すれば、複雑な操縦運動下での取り扱いが簡単化されて本実施の形態における手法が操縦運動中にも適用できる。
具体的には、舵効きと船速応答を同時に満足するプロペラ回転数n’と補助推力係数fTAを本実施の形態における自由航走模型船試験方法によってあらかじめ船速の関数としてあらかじめ求めておいて、操縦運動中の船速に応じてプロペラ回転数n’と補助推力係数fTAを制御してやればよい。これによって、操縦運動中も従来の手法より操縦運動の相似性の近似度を向上できる。
なお、プロペラ回転数も制御することで実船のプロペラ回転数一定状態だけでなくトルク一定と馬力一定、あるいは機関応答を模擬した実船の状態推定に基づいて舵効きと船速応答の相似性を実現できる。
<自由航走模型船試験装置>
図13は、第2の実施の形態における自由航走模型船試験方法を実現するための自由航走模型船試験装置300を示す図である。
自由航走模型船試験装置300の基本構成は、自由航走模型船試験装置100と同様であるが、プロペラ80及びプロペラ駆動部82を制御要素として含んで構成される。プロペラ駆動部82は、自由航走模型船10の主駆動系であるプロペラ80を駆動するためのモータを含む。プロペラ駆動部82は、サーボモータ等の回転数を制御可能なモータとすることが好適である。
第1の実施の形態と同様に、自動追尾台車20の追尾によって自由航走模型船10の速度(船速)が測定され、制御コンピュータ26に入力される。制御コンピュータ26では、図12に示したように試験条件及び自由航走模型船10の速度に基づいて補助推力及びプロペラ回転数が設定され、設定された補助推力及びプロペラ回転数に応じた補助推力指令信号及びプロペラ回転数指令信号が生成される。補助推力指令信号は、第1の実施の形態と同様に、アナログ/パルス変換器12、モータ増幅器14を介してダクトファンモータ16に入力され、ダクトファンモータ16が駆動される。これにより、ダクトファンモータ16によって自由航走模型船10に対して所望の補助推力が与えられる。また、プロペラ回転数指令信号は、プロペラ駆動部82に入力され、これによりプロペラ80の回転数が制御される。
また、図6や図7に示した自由航走模型船試験装置102,104のような構成にも同様に適用することができる。なお、自由航走模型船10の速度(船速)は、図6及び図7に示した構成の他、これらの説明に関連した段落0092,0094で述べた各種の手段で測定できる。
本実施の形態によれば、風や波等の外力の影響が考慮された自由航走模型試験を実現することができる。これにより、外力下においても自由航走模型試験によって実船の基本性能を推定することができる。
[第3の実施の形態]
<自由航走模型試験を使って実船の変動トルク及び変動推力を推定する方法>
以下、自由航走模型船の船体運動を実船相似にした上でプロペラ有効流入速度の波成分を推定し、これらをもとに実船の変動トルクを推定する方法について説明する。
上記第2の実施の形態と同様に、変数の右肩に付けたダッシュ’は重力加速度と水の密度、船の長さを用いて無次元化した値を示す。また、変数の上の〜(文章中においては記号の後ろに〜を付けて示す)は低周波数成分であること、変数の前のΔは高周波数成分であることを示す。また、添え字のmは模型船の値、sは実船の値であることを表す。添え字がないのは実船と模型船で同じ値をとる無次元変数である。
まず、舵効き船速修正を用いて自由航走模型船の外乱下における船体運動を実船相似にする。舵効き船速修正を用いれば、任意の外乱下において任意の操縦運動中の船体運動を実船相似にすることができる。
舵効き船速修正に基づいて模型船の補助推力とプロペラ推力を制御する。このとき、制御のための補助推力係数fTAと模型船プロペラ回転数nm’は、想定する実船プロペラ回転数ns’と模型船で計測される模型船の船速u’をもとにあらかじめ船速の関数として求めておくか、あるいは時々刻々決められた舵効き船速修正の手順に従って求める。ただし、プロペラ回転数の高周波数での変動が船体運動におよぼす影響は無視できるとの仮定に基づき、想定する実船プロペラ回転数ns’と計測される模型船のu’の低周波数成分、ns〜’とu〜’のみを用い、出会波周期で変動する高周波数成分は考慮しない。この仮定の有効性は模型実験で確認されている。したがって、制御する補助推力係数fTAと模型船プロペラ回転数nm’は出会波周期で変動せずゆっくり変動する低周波数成分のみからなる。したがって模型船プロペラ回転数nm’については次式が成り立つ。
次に、プロペラ有効流入速度中の波成分の推定を行う。プロペラ有効流入速度中の波成分Δuw’を推定するにあたって波成分Δuw’に尺度影響はないと仮定する。
模型船のプロペラ有効流入速度uAm’を計測されたトルクを用いたトルク一致法または計測された推力を用いた推力一致法によって求める。プロペラ流入速度が非定常の場合でもプロペラ回転数が一定の場合にはトルク一致法と推力一致法が有効であることは確認されている。今考えている模型船プロペラ回転数は一定ではないが、式(43)で示すように変動周波数が低周波数であることから同じ取り扱いが可能と考えられる。したがってトルク一致法と推力一致法にはそれぞれ式(44)及び式(45)を用いることができる。
ここで、Q’はトルク、T’は推力を示す。KQはトルク係数を、KTは推力係数を表す。また、n’はプロペラ回転数を、D’はプロペラ直径を示す。Jはプロペラ前進率を示し、模型船に関して次式で定義される。
ここで、トルクQm’又は推力Tm’を計測することで、模型船プロペラ回転数nm’、プロペラ直径D’は既知であるから、式(44)又は式(45)と式(46)との関係から模型船のプロペラ有効流入速度uAm’を求めることができる。
求めた模型船のプロペラ有効流入速度uAm’と計測された船速u’を用いて次式で波成分Δuw’を求める。
伴流係数(1−w)は別途推定されている、又は、計測される船速u’の低周波数成分u〜’と模型船のプロペラ有効流入速度uAm’の低周波数成分uAm〜’から次式で求めることができる。
ただし、船速u’と低周波数成分u〜’、模型船のプロペラ有効流入速度uAm’と低周波数成分uAm〜’は次の関係がある。
また、模型船のプロペラ有効流入速度の低周波成分uAm〜’と高周波成分ΔuAm’は次式で表される。
なお、波成分Δuw’は式(47)のほかにトルクの高周波成分ΔQm’または推力の高周波数成分ΔTm’を解析することによって次式で求めることもできる。式(53)及び式(54)の導出方法は付記として後述する。
なお、プロペラ前進率の低周波成分Jm〜は次式で表される。
このように、波成分Δuw’を求めた後、実船の変動トルクと変動推力の推定を行う。実船の変動トルクQs’は実船のプロペラ回転数ns’の高周波数での変動に基づく付加慣性モーメントを考慮して次式で推定する。
変数の上の・は時間微分を示す。Ia’はプロペラの付加慣性モーメントであり、別途推定されているとする。実船のプロペラ前進率Jsは実船のプロペラ有効流入速度uAs’とプロペラ回転数ns’を用いて次式で求める。
自由航走模型試験において補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御したRSCを適用することによって船速u’には尺度影響がなくなるので模型船の計測値を用いることができる。実船のプロペラ回転数ns’は別途あらかじめ決めておくこともできるし、適当な主機モデルを考慮することによって出会波周期で変動してもよい。伴流係数(1−ws)は(1−wm)等をもとに別途推定される。このときプロペラ荷重度等を考慮することもできる。
実船トルクQs’は式(56)の他に次式のようにトルクの低周波成分Qs〜’と高周波成分ΔQs’に分けて推定することもできる。
低周波成分Qs〜’は次式で推定することができる。
ここで、実船のプロペラ前進率の低周波成分Js〜は次式で求める。
実船のプロペラ回転数ns’は、高周波成分Δns’と低周波成分ns〜’と次式の関係がある。
実船トルクの高周波成分ΔQs’は次式で求められる。式(62)の導出方法は付記として後述する。
実船のプロペラ回転数の高周波成分の時間微分Δns・’に関しては低周波成分の時間微分ns〜・’が微少量として無視できるので次式の関係がある。
実船の変動推力は変動トルクQs’と同じ手順により推定できる。この場合も推力Ts’を直接推定する方法と低周波成分Ts〜’と高周波成分ΔTs’に分けて推定する方法が考えられ、その際、次式の関係を用いる。
ma’はプロペラ回転数変動に関する付加質量を表す。プロペラ回転数変動に関する付加質量ma’は別途推定されているとする。P’はプロペラピッチを示す。なお、実船のトルクQs’と推力Ts’の推定では必要に応じてプロペラ効率比を考慮する。
図14〜図17に、実船のトルクQs’と推力Ts’の推定手順を示す。上記のように、波成分Δuw’の推定方法とトルクQs’(推力Ts’)の推定方法はそれぞれ2種類あるので合わせて4つの組み合わせが考えられる。
図14では、舵効き船速修正(RSC)を用いて外乱下の自由航走模型船の船体運動を実船相似にし、補助推力係数fTAと模型船プロペラ回転数nm’(低周波成分nm〜’)を求める。次に、自由航走模型船のトルクQm’又は推力Tm’の計測データからプロペラ有効流入速度の波成分Δuw’を推定する。さらに、自由航走模型船の船速u’の計測データとプロペラ有効流入速度の波成分Δuw’の推定値から実船のプロペラ有効流入速度uAs’を推定する。そして、実船のプロペラ有効流入速度の推定値uAs’から実船の変動トルクQs’又は変動推力Ts’を推定する。
さらに、求められた実船の変動トルクQs’を主機モデル(図中エンジン(Engine)と記載)に導入することにより、指令回転数nsd’に応じた実船のプロペラ回転数の時間微分ns・’を求めることもできる。実船のプロペラ回転数の時間微分ns・’から実船のプロペラ回転数ns’を求めて、それを舵効き船速修正(RSC)を用いた外乱下の自由航走模型船試験に用いることにより連続的に推定を繰り返すことができる。
なお、実船のプロペラ回転数の時間微分ns・’に関する付加質量・付加慣性モーメント項は主機モデルに含めて考えることもできる。その場合は式(56)と式(62)、式(64)、式(67)から時間微分ns・’に関する項と時間微分ns・‘から実船の変動トルクQs’またはその高周波成分ΔQs’への矢印は不要となる。ただし、複雑な主機モデルを適用せずに回転数一定やトルク一定、馬力一定などの簡単な規則を適用してもよい。
図15〜図17においても同様に推定処理を行うことができる。なお、図15及び図17では、自由航走模型船のトルクQm’ の高周波成分ΔQm’又は推力Tm’の高周波数成分ΔTm’から波成分Δuw’を求める。図16及び図17では、実船の変動トルクQs’又は変動推力Ts’を式(58)及び式(65)に基づいて求める。
以上のように、第3の実施の形態によれば、波漂流力の左右力成分と回頭モーメント成分については補助推力と模型プロペラ回転数両方を制御したRSCを適用した自由航走模型試験により解決し、プロペラ有効流入速度中の波成分を推定し、推定された波成分に基づいて実船のプロペラ有効流入速度と変動トルク及び変動推力についても信頼できる推定方法を提供することができる。
また、実船のプロペラ回転数決定手段にトルクの推定値を入力とする主機モデルを導入できる。さらに、適切な主機モデルを導入することによって、外乱下における実船のプロペラ回転数・馬力の変動、実海域における実船の燃料消費量、自由航走模型試験で主機特性を考慮した実海域での速力を推定することができる。
また、主機特性・運転限界を考慮した実船相似の船体運動を自由航走模型船で実現でき、主機特性・運転限界を考慮した操船限界を自由航走模型船を使って明らかにすることができる。
<付記>
当該付録中では、簡単のため添え字のmとsを省略して一般論として論ずる。
変動トルクQ’を付加慣性モーメントを考慮して次式のように表す。
式(68)の右辺第2項は次式で近似できる。
式(68)式と式(69)より次式を得る。
式(69)の第2項に含まれる微分は次式で表される。
式(69)の第3項に含まれる微分は次式で表される。
以上より式(69)の右辺の第2項と第3項は次式のようになる。なお、第2行以降では、トルク係数KQ及びその微分値に関する条件を省略した。
以上より、式(68)の右辺第1式第2項は次式となる。
式(74)を模型船に適用するとプロペラ回転数の時間微分n・’とプロペラ回転数の高周波成分Δn’が0と見なせるから式(53)を得る。また、式(74)を実船に適用すれば式(62)が得られる。
また、推力に関しては次式を適用して式(53)と式(67)を得る。