以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1Aは、本発明の一実施の形態に係る点滴灌漑用チューブの模式的な縦断面図であり、図1Bは、当該点滴灌漑用チューブの模式的な横断面図である。点滴灌漑用チューブ100は、チューブ110と、エミッタ120とによって構成されている。チューブ110は、例えばポリエチレン製である。
エミッタ120は、チューブ110の軸方向に所定の間隔(例えば200〜500mm)で配置されている。それぞれのエミッタ120は、チューブ110の内壁面に接合されている。エミッタ120は、チューブ110に密着しやすい形状に形成されている。たとえば、エミッタ120のXZ面で切断された断面における、チューブ110の内壁面に接合する面(後述する第2の表面)の形状は、送水時のチューブ110の内壁面に沿うように、チューブ110の内壁面に向けて突き出た略円弧形状となっている。エミッタ120は、チューブ110の吐出口130を覆う位置に配置されている。なお、X方向は、チューブ110の軸方向またはエミッタ120の長手方向を示し、Y方向は、エミッタ120の短手(幅)方向を示し、Z方向は、エミッタ120の高さ方向を示している。
吐出口130は、チューブ110の管壁を貫通する孔である。吐出口130の孔径は、例えば1.5mmである。なお、矢印Fは、チューブ110内における灌漑用液体が流れる方向を示している。
図2Aは、エミッタ120の平面、正面および側面を示す図であり、図2Bは、エミッタ120の底面、正面および側面を示す図である。また、図3Aは、エミッタ120の平面図であり、図3Bは、エミッタ120の正面図であり、図3Cは、エミッタ120の側面図である。また、図4Aは、エミッタ120の底面図であり、図4Bは、エミッタ120の、図3A中のB−B線に沿っての断面図である。
エミッタ120は、図2A、図2Bに示されるように、筐体様の外形を有する。エミッタ120の平面形状(Z方向に沿って見た形状)は、各角が丸く面取りされてなる略矩形であり、エミッタ120の側面形状(X方向に沿って見た形状)は、前述したように、半円とそれに連なる矩形とからなる形状(ベル型)である。たとえば、エミッタ120のX方向の長さは26mmであり、Y方向の長さは10mmであり、Z方向の長さは2.5mmである。
エミッタ120は、少なくとも凹部および貫通孔を有する樹脂成形体から構成され、チューブ110の内壁面に接合されるエミッタ本体200と、エミッタ本体200に接合されたフィルム300とを有する。先に、フィルム300について説明する。
フィルム300は、エミッタ本体200の少なくとも1つの面(後述する第1の表面201)に接合される。フィルム300は、エミッタ本体200に形成された凹部および貫通孔の少なくとも一部の開口部を塞ぐことで流路を形成する。フィルム300は、スリット301、ダイヤフラム部302および位置決め孔303を有する。スリット301は、X方向に沿う細長の開口である。フィルム300における後述する突条213に重なる位置に、三本のスリット301が並列に配置されている。フィルム300の厚さは、例えば0.5mmである。
ダイヤフラム部302は、フィルム300における、後述する凹部231および凸部232に重なるべき部分である。ダイヤフラム部302の厚さは、フィルム300の他の部分と同じであり、その平面形状は円形である。なお、ダイヤフラム部302の厚さは、後述する圧力に対する変形量に基づいて、例えばコンピュータシミュレーションや試作品による実験などによって決めることができる。
位置決め孔303は、フィルム300を貫通する、平面形状が円形の2つの孔であり、例えばフィルム300の一対角線上の、一対の向かい合う角のそれぞれに対応する位置に配置されている。
次いで、エミッタ本体200について説明する。図5Aは、エミッタ本体200にフィルム300が接合される前の成形品の平面、正面および側面を示す図であり、図5Bは、当該成形品の底面、正面および側面を示す図である。また、図6Aは、上記成形品の平面図であり、図6Bは、当該成形品の底面図である。
エミッタ本体200は、図5A、図5Bに示されるように、第1の表面201および第2の表面202を有する。第1の表面201は、フィルム300と接合する、Z方向における一方の面である。第2の表面202は、チューブ110の内壁面と接合する、Z方向における他方の面である。第1の表面201は、平面であり、第2の表面202は、略半円筒形状の非平面である。
エミッタ本体200は、図5A、図6A、図6Bに示されるように、ヒンジ部304を介してフィルム300と一体的に形成されている。ヒンジ部304は、エミッタ本体200の、Y方向における第1の表面201側の一側縁に配置されている。ヒンジ部304は、例えば、フィルム300と同じ厚さを有し、エミッタ本体200およびフィルム300と一体的に成形された、幅0.5mmの部分である。
エミッタ本体200は、図5Aおよび図5Bに示されるように、凹部211と、凹部211内に配置されている突条213と、凹部211の底面に形成された弁体214および固定部215と、第2の表面202から弁体214および固定部215に至る凹部216と、を有する。なお、スリット301、凹部211および突条213は、取水部を構成する。取水部は、前記灌漑用液体中の浮遊物を捕集する観点から、スクリーン部を含んでいてもよい。本実施の形態では、スクリーン部を含む。後述のとおり、スクリーン部は、スリット301、突条213および凹部211により構成される。弁体214および固定部215は、取水量調整部を構成する。
凹部211の平面形状は、矩形とその一辺に連なる半円形とからなるベル形であり、第1の表面201からの凹部211の深さは、例えば0.5mmである。当該ベル形の半円形部の直径は、例えば6mmである。
突条213は、凹部211の平面形状における矩形部に配置されている、その長手方向をY方向とする細長の並列する三本の凸部である。突条213の凹部211の底面から突条213の突端面までの高さは、例えば0.5mmである。X方向における突条213間または突条213と凹部211の壁面との間には隙間があり、また、Y方向における突条213の端部と凹部211の壁面との間にも隙間がある。突条213は、XZ面で切断された断面の形状が、図4Bに示されるように、突端部よりも基端部の方が幅狭となるように形成されている。すなわち、X方向における突条213間または突条213と凹部211の壁面との間の隙間は、凹部211の深さが増すにつれて大きくなっている。凹部211の底面に対して突条213の壁面がなす角度は、例えば80〜84°である。このように、突条213は、凹部211内においていわゆるウェッジワイヤー構造を構築している。
弁体214および固定部215は、いずれもその平面形状が円形を四分割にしてなる扇形であり、円周方向に沿って交互に配置されている。固定部215の形態は、平板であり、その一方の面は、凹部211の底面と同一平面を構成している。弁体214は、その円弧部が固定端、半径が自由端となっており、凹部211の底面から固定部215の厚さ分だけ窪んだ位置に配置されている。すなわち、弁体214の上流側の自由端縁は、固定部215の下流側の自由端縁に接している。弁体214および固定部215は、いずれの上記自由端もが平面視したときにX方向またはY方向に対して45°で交差する位置に配置されている。
弁体214は、図5B、図6Bに示されるように、上記固定端から延出する、可撓性を有する薄肉部2141と、薄肉部2141から延出する厚肉部2142とによって構成されている。薄肉部2141は、固定端となる円弧から均一な、固定部215に比べて十分に薄い厚さを有している。
厚肉部2142は、弁体214の下流側に肉厚な部分である。厚肉部2142は、例えば凹部216に向けて突出する略三角錐形状を有している。厚肉部2142の底面形状は、弁体214における上記扇形の中心を一頂点とする直角二等辺三角形であり、上記自由端から下流側に起立する二壁面と、上記直角三角形の斜辺から下流側へ斜めに延びる斜面とを有する。薄肉部2141と厚肉部2142との平面形状における境界は、一直線となっている。厚肉部2142の頂部は、例えば、エミッタ120がチューブ110に接合されたときのチューブ110の内壁面から厚肉部2142までの距離が0.5mm程度となるように、わずかに切り欠かれている。
凹部216は、図5Bに示されるように、その平面形状は凹部211の上記ベル形における半円形と同じ直径の円形であり、その底部が弁体214および固定部215で構成されている。
また、エミッタ本体200は、図5B、図6Bに示されるように、凹部221を有する。凹部221は、第2の表面202に、X方向に沿って延出する溝である。凹部221は、その一端で凹部216に連通し、その平面形状は略矩形である。第2の表面202からの凹部221の深さは、例えば0.5mmである。凹部221は、減圧流路部222(減圧部)および孔223を含む。
減圧流路部222は、その平面形状がジグザグ形状の溝に形成されている部分である。当該ジグザグ形状は、凹部221の側面から突出する略三角柱形状の凸部が凹部221の長手方向(X方向)に沿って交互に配置されてなる。当該凸部は、平面視したときに、当該凸部の突端が凹部221の中心軸を超えないように配置されている。減圧流路部222の深さは、例えば0.5mmであり、減圧流路部222の流路の幅(図4A中のW)は、例えば0.5mmである。
孔223は、凹部221の他端部に開口し、エミッタ本体200を貫通している。
また、エミッタ本体200は、図5A、図6Aに示されるように、凹部231、凸部232、端面233、孔234および溝235を含む。ダイヤフラム部302、凸部232、端面233、孔234および溝235は、吐出量調整部を構成する。
凹部231は、第1の表面201に開口する有底の凹部である。凹部231の平面形状は円形であり、凹部231の底には孔234が開口している。当該円形の直径は、例えば6mmであり、第1の表面201からの凹部231の深さは、例えば2mmである。
凸部232は、凹部231の底の中央部から起立している厚肉の略円筒体である。凸部232の高さは、凹部231の深さよりも小さい。たとえば、第1の表面201から凸部232までのZ方向における距離は、0.25mmである。
端面233は、凸部232の突端面である。端面233の平面形状は、円形であり、その直径は、例えば3mmである。端面233は、XY平面に平行な外環部2331と、外環部2331の内周縁から端面233の中心部に向けて第2の表面202側に傾斜する傾斜面2332とを含む(図8A)。
傾斜面2332は、第1の表面201側に対してわずかに窪んだ曲面である。傾斜面2332は、凹部231のその中心軸を含む断面における凹部231の開口端縁に接する仮想の曲線と重なるように形成されている。当該仮想の曲線とは、チューブ110内の灌漑用液体が設定値以上の圧力を受けたときにダイヤフラム部302が上記断面において描く曲線を含む(図8A、図8C)。当該曲線は、例えば、曲率半径Rが12mmの曲線である。このように、傾斜面2332は、ダイヤフラム部302が着座可能な弁座部となっている。
孔234は、端面233の中心に開口し、エミッタ本体200を貫通している。孔234は、Z方向に沿って、端面233側から凹部241側に向けて径が漸増するテーパ状の孔である。孔234の端面233側の開口は、凹部241側の開口よりも小さく、孔234の端面233側の孔径は、例えば1mmである。
溝235は、端面233に形成されており、端面233の外周縁から孔234に至る。すなわち、溝235は、凹部231と孔234とを連通する。溝235の数は、一本でもそれ以上でもよい。たとえば、溝235の幅は2mmであり、溝235の深さは0.05mmである。
また、エミッタ本体200は、図5B、図6Bに示されるように、凹部241および突条242を有する。凹部241は、吐出口130に面すべき吐出部となっている。
凹部241の平面形状は、略矩形である。より詳しくは、凹部241の平面形状は、X方向における凹部221側の第1の部分2411と、より深い第2の部分2412と、第1の部分2411と第2の部分2412とを繋げる傾斜部2413と、第1の部分2411の凹部221側の端縁に開口している孔234と、が合体した形状となっている。このように、凹部241の平面形状は、矩形の一辺に孔234による半円が接続した形状になっている。第1の部分2411および第2の部分2412のいずれの平面形状も略矩形である。傾斜部2413の、第2の部分2412の底面に対する傾斜角は、例えば60°である。
突条242は、第1の部分2411に、傾斜部2413との境界に沿って配置されている。また、突条242の高さは、第1の部分2411の深さと同じである。X方向において、突条242は、孔234とは離れている。また、Y方向において、突条242の長さは、第1の部分2411の長さよりも短く、突条242の両端は、いずれも第1の部分2411の内壁面から離れている。このように、突条242は、X方向に沿って第2の部分2412側から見たときに、孔234に完全に重なるように配置されている。
また、エミッタ本体200は、図5A、図6Aに示されるように、第1の表面201から突出する凸部251と、図5B、図6Bに示されるように、第2の表面202に開口する凹部252とを有する。
凸部251の平面形状は円形であり、フィルム300の位置決め孔303に嵌合する大きさを有する。凸部251は、位置決め孔303に対応する位置にそれぞれ配置されている。
凹部252は、X方向における凹部216と凹部241との間であって、Y方向における凹部221とエミッタ本体200の側縁との間の位置に、それぞれ配置されている。
エミッタ本体200およびフィルム300は、いずれも、可撓性を有する一種類の材料、例えばポリプロピレン、で成形されている。当該材料の例には、樹脂およびゴムが含まれ、当該樹脂の例には、ポリエチレンおよびシリコーンが含まれる。エミッタ本体200およびフィルム300の可撓性は、弾性を有する樹脂材料の使用によって調整することが可能であり、例えば、弾性を有する樹脂の種類や、硬質の樹脂材料に対する、弾性を有する樹脂材料の混合比、などによって調整することが可能である。エミッタ本体200およびフィルム300の一体成形品は、例えば、射出成形によって製造することが可能である。
エミッタ120は、フィルム300を、ヒンジ部304を軸に回動させ、エミッタ本体200の第1の表面201に接合することにより構成される。たとえば、フィルム300は、エミッタ本体200またはフィルム300を構成する樹脂材料の溶着や、接着剤による接着、エミッタ本体200へのフィルム300の圧着などによってエミッタ本体200に接合される。フィルム300を第1の表面201に接合することにより、凹部231はダイヤフラム部302によって水密に塞がれ、エミッタ120中の灌漑用液体の流路の一部となる。こうして、凹部211から凹部241に至る一連の上記流路が形成される。なお、ヒンジ部304は、そのまま残されていてもよいし、切断により取り除かれてもよい。
点滴灌漑用チューブ100は、エミッタ120をその第2の表面202でチューブ110の内壁面に接合することによって構成される。エミッタ120も、例えば、エミッタ本体200またはチューブ110を構成する樹脂材料の溶着や、接着剤による接着、エミッタ本体200のチューブ110への圧着などによってチューブ110の内壁面に接合される。吐出口130は、エミッタ120における第2の部分2412に開口するように形成される。吐出口130は、通常は、チューブ110へのエミッタ120の接合後に形成されるが、接合前に形成されてもよい。
次に、エミッタ120における灌漑用液体の流れを説明する。まず、チューブ110内に灌漑用液体として、例えば水が供給される。なお、当該灌漑用液体の例には、水、液体肥料、農薬およびこれらの混合液が含まれる。点滴灌漑用チューブ100への水の供給は、チューブ100およびエミッタ120の破損を防止するため、水圧が0.1MPaを超えない範囲で行われる。チューブ110内の水は、フィルム300のスリット301を通り、凹部211と突条213との隙間を通る。
スリット301の長手方向と突条213の長手方向は、互いに交差していることから、凹部211のチューブ110に対する開口部が点在するとともに各開口の面積が小さい。よって、チューブ110内の水中の浮遊物の凹部211への侵入が抑制される。このように、スリット301、突条213および凹部211は、チューブ110内からエミッタ120に取り入れられる水中の浮遊物を捕集するためのスクリーン部をも構成している。また、突条213は、いわゆるウェッジワイヤー構造を構築していることから、凹部211内に流入した水の圧力損失が抑制される。
凹部211内の水は、凹部211内の弁体214および固定部215の位置に到達する。図7Aは、チューブ110内の水の圧力が設定値未満であるときのエミッタ120の、図6A中のD−D線に沿っての断面を拡大して示す図であり、図7Bは、チューブ110内の水の圧力が設定値以上であるときのエミッタ120の、図6A中のD−D線に沿っての断面を拡大して示す図である。図7A、7B中の矢印は、水の流れを表している。
凹部211内の水は、弁体214および固定部215を、凹部211側から凹部216側にむけて押圧する。凹部211内の水圧が設定値(例えば0.005MPa)未満であると、図7Aに示されるように、弁体214および固定部215は、いずれも凹部216側には撓まず、水の流路は、弁体214および固定部215によって閉じられる。
凹部211内の水圧が設定値以上になると、図7Bに示されるように、薄肉部2141が固定部215よりも薄いことから、固定部215は撓まないが薄肉部2141のみが撓み、固定部215は凹部216側には開かないが弁体214のみが凹部216側に開く。こうして、弁体214および固定部215の間に隙間が形成され、凹部211内の水は、当該隙間を通って、凹部216に供給される。
凹部216内の水は、凹部221を通って減圧流路部222に供給される。減圧流路部222を流れる水は、減圧流路部222の平面形状(ジグザグ形状)によってもたらされる圧力損失によって減圧される。また、当該水中の浮遊物は、減圧流路部222の上記凸部間に発生する乱流に巻き込まれ、減圧流路部222に滞留する。このように減圧流路部222によって、上記水から浮遊物がさらに除去される。
減圧流路部222を通り、減圧され、上記浮遊物が除去された水は、孔223を通って凹部241内に供給される。
ここで、図8Aは、チューブ110内の水圧が第1の設定値以上であるときの図4B中のA部を拡大して示す図であり、図8Bは、チューブ110内の水圧が第1の設定値以上第2の設定値未満であるときの上記A部を拡大して示す図であり、図8Cは、チューブ110内の水圧が第2の設定値以上であるときの上記A部を拡大して示す図である。
水は、凹部241内に満ちると、図8Aに示されるように、フィルム300および端面233の隙間を通って孔234に供給される。チューブ110内の水圧が第1の設定値(例えば0.02MPa)以上であれば、チューブ110内の水圧の上昇に応じて、上記取水部における水の流量も増加し、凹部231に供給される水の量も増える。
一方で、チューブ110内の水圧が第1の設定値以上になると、図8Bに示されるように、チューブ110内の水圧によってダイヤフラム部302が押されて凹部231側に撓む。このため、ダイヤフラム部302と端面233との間隔が狭くなる。たとえば、端面233からダイヤフラム部302までの距離は0.15mmになる。よって、端面233とダイヤフラム部302との隙間を流れる水の量が減少する。
チューブ110内の灌漑用液体の圧力が第2の設定値(例えば0.05MPa)以上になると、図8Cに示されるように、ダイヤフラム部302は、凹部231側により押されてさらに撓み、傾斜面2332に密着する。孔234は、ダイヤフラム部302によって塞がれるが、その一方で、端面233は溝235を含むことから、溝235は、凹部231と孔234とを連通する。このため、凹部231内の水は、溝235を通って凹部231から孔234に供給される。このため、高水圧時には、孔234における水の流量は、溝235を通過可能な一定の流量に規制される。
孔234を通った水は、凹部241に供給される。すなわち、孔234を通った水は、まず第1の部分2411に供給され、凹部241の内壁面と突条242との隙間を通って第2の部分2412に供給される。第2の部分2412に供給された水は、第2の部分2412に開口する吐出口130を通って、チューブ110外に流出する。突条242は、エミッタ120がチューブ110に接合されたときに孔234と吐出口130とを結ぶ直線上となる位置に配置されており、また、孔234から吐出口130への水の流れを迂回させている。このように、突条242は、凹部241における水の流れを上記のように制御する整流部材となっている。
なお、点滴灌漑用チューブ100を使用していると、植物の根が水を求めて吐出口130から凹部241内に侵入することが考えられる。このような異物の侵入は、突条242によって遮られる。よって、当該異物により孔234が塞がれることが防止される。このように、上記吐出部は、吐出口130からの異物の侵入を防止する侵入防止部(突条242)を含んでいる。
上記の説明から明らかなように、エミッタ120は、少なくとも凹部および貫通孔を有する樹脂成形体から構成されるエミッタ本体200と、エミッタ本体200の少なくとも1つの面(第1の表面201)に接合され、エミッタ本体200の凹部および貫通孔の少なくとも一部の開口部を塞ぐことで流路を形成する可撓性を有するフィルム300とを有し、かつ、チューブ110の内壁面の吐出口130に対応する位置に接合され、チューブ110内の灌漑用液体(水)を吐出口130から定量的に吐出するためのエミッタであって、チューブ100内の水を取り入れるための取水部と、当該取水部から取り入れられた水の流量を当該取水部内の水圧に応じて調整するための上記取水量調整部と、当該取水量調整部から供給された水を減圧させながら流すための減圧流路部222と、減圧流路部222から供給された水の流量を、チューブ110内の水圧に応じて調整するための吐出量調整部と、当該吐出量調整部で流量が制御された水が供給される、吐出口130に面するべき吐出部とを有し、上記吐出量調整部は、減圧部(減圧流路部222)よりも下流側の流路とチューブ110内部との連通を遮断するように配置されている、フィルム300の一部であるダイヤフラム部302と、減圧流路部222よりも下流側の流路に、ダイヤフラム部302に面して非接触に配置され、ダイヤフラム部302が密着可能な、ダイヤフラム部302に対して窪んでいる弁座部(傾斜面2332)と、当該弁座部に開口する、吐出部(吐出口130)に繋がる孔234と、弁座部に形成され、弁座部よりも外側の流路と孔234とを連通する溝235と、を有し、ダイヤフラム部302は、チューブ110内の灌漑用液体の圧力が設定値以上であるときに弁座部に密着する。
吐出量調整部は、チューブ110内の水圧が高いときのエミッタ120から過剰に水が流出することを防止し、チューブ110内の水圧に依らずにエミッタ120から所期の量で安定して水を吐出させることができる。
また、端面233が、チューブ110内の水圧によって変形したダイヤフラム部302が密着可能な傾斜面2332を含むことは、エミッタ120から所期の量で安定して水を吐出させる観点からさらに一層効果的である。
また、エミッタ120が、チューブ110内に対して開口するスリット301と、スリット301に連通するとともにスリット301の長手方向に対して交差する方向に延出する、突条213間および突条213と凹部211の壁面との間の隙間である凹部と、によって構成されるスクリーン部を含むことは、チューブ110内からエミッタ120に取り入れられる水中の浮遊物を捕集し、エミッタ120中の水の、当該浮遊物に起因する流量の変動を防止する観点からより一層効果的である。
また、エミッタ本体200におけるエミッタ120の前述の構成要素は、エミッタ本体200に形成された凹部および貫通孔によって形成されていることから、これらの構成要素を備えるエミッタ本体200は、射出成形で一体的に作製することが可能である。よって、三部品からなる従来のエミッタに比べて、エミッタ120の製造に係るコストをさらに削減することができる。また、エミッタ120は、エミッタ本体200とフィルム300とを接着や圧着、溶着などにより接合することで、簡単に製造される。
上記取水量調整部は、エミッタ120内の流路内の固定端から突出し、上流側の水の圧力を受けて下流側に開く弁体214を含み、弁体214は、上記固定端から突出する、可撓性を有する薄肉部2141と、薄肉部2141から延出する厚肉部2142とを有する。そして、上記取水量調整部よりも上流側の水圧が設定値以上であるときに、薄肉部2141が撓み、弁体214が下流側に開く。
このように、エミッタ120が、上記取水量調整部を有することは、チューブ110内の水のエミッタ120からの吐出量をチューブ110内の水圧に応じて安定化する観点からより一層好ましい。
このように、エミッタ120は、弁体214を有することから、チューブ110内の水圧が低いときに、エミッタ120内への水の流入を止めることができるので、吐出口130からの水の流出を止めることが可能である。よって、チューブ110内の圧力が十分にかつ速やかに高く維持され、チューブ110内の水の吐出量を安定化することができる。
また、フィルム300が、平面視したときに凹部211内の突条213と交差するスリット301を有することは、エミッタ120内の流路の入口を小さな面積で簡易に多数形成するのに有効であり、また、チューブ110中の水の浮遊物のエミッタ120への侵入を防止する観点からより効果的である。
また、上記吐出部が上記水を当該吐出部へ供給するための孔234を含み、上記侵入防止部が、エミッタ120がチューブ110に接合されたときに孔234と吐出口130とを結ぶ直線上となる位置に配置され、孔234から吐出口130への水の流れを迂回させる突条242(整流部材)であることは、エミッタ120内への植物の根の侵入を防止する観点からより一層効果的である。
また、エミッタ120は、上記のスクリーン部を有することから、チューブ110内の水中の浮遊物がエミッタ120に侵入することを防止することができ、上記侵入防止部を有することから、吐出口130からエミッタ120内への異物の侵入を防止することができる。このため、エミッタ120内に水を所期の流量で安定して流すことができる。
また、厚肉部2142と薄肉部2141の境界の平面形状が直線形状であり、厚肉部2142が弁体214の下流側に肉厚な部分であることは、弁体214を下流側に開きやすくし、弁体214を開閉させるための上記設定値をより小さく設定し、またはより精密に弁体214を開閉させる観点から、より一層効果的である。
また、上記取水量調整部が、平面視したときに弁体214に隣接する位置に配置されている固定部215をさらに有し、弁体214および固定部215の平面形状がいずれも扇形であり、弁体214および固定部215が平面視したときに周方向に交互に配置されていることは、射出成形によるエミッタ本体200の生産性を高める観点から、より一層効果的である。
また、エミッタ120が可撓性を有する一種類の材料で成形されており、フィルム300がエミッタ120の一部として一体的に成形されていることは、エミッタ本体200およびフィルム300の両方を射出成形で一部品として成形することを可能であるので、フィルム300の接合位置による製造誤差の防止、リサイクルと廃棄の簡易化、および、製造に係るコストのさらなる削減、の観点からより一層効果的である。また、同じ材料を用いることで、エミッタ本体200とフィルム300との接合を容易に行う観点からより一層効果的である。
また、エミッタ本体200の第2の表面202におけるYZ平面での断面形状が略円弧状であることは、チューブ110の内壁面へのエミッタ120の接合強度を高める観点からより効果的である。
また、フィルム300が位置決め孔303を有し、エミッタ本体200が凸部251を有することは、フィルム300を所期の位置に簡易かつ正確に接合し、生産性を高め、また製造誤差による品質のばらつきを抑制する観点から、より一層効果的である。
また、エミッタ本体200が凹部252(肉抜き穴)を有することは、エミッタ本体200の成形精度を高め、生産性を高め、また所期の品質を確保する観点から、より一層効果的である。
また、弁体214および固定部215がいずれも扇型からなり、互いに隣り合い、かつ弁体214の上流側の自由端縁が固定部215の下流側の自由端縁に接するように弁体214および固定部215が配置されていることは、弁体214と固定部215との切断加工を要さないので射出成形のみによって弁体214および固定部215の両方を一度に成形する観点からより一層効果的である。
また、凹部241が、より上流側のより浅い第1の部分2411と、より下流側のより深い第2の部分2412とから構成されていることは、植物の根が吐出口130からさらに上流側へ侵入することを防止する観点から効果的であり、突条242が第1の部分2411にさらに配置されることは、上記の観点からより一層効果的である。
なお、前述の効果を奏する範囲において、点滴灌漑用チューブ100またはエミッタ120の前述の構成要件の一部が変更されていてもよいし、また、点滴灌漑用チューブ100またはエミッタ120が他の構成要件をさらに有していてもよい。
たとえば、チューブ110は、シームレスチューブであってもよいし、細長いシートを長手方向に沿って接合してなるチューブであってもよい。
また、吐出口130は、上記シートの接合部に、チューブ110の内外を連通するように形成された隙間や、当該接合部で上記シートに挟まれた管などであってもよい。さらに、吐出口の軸方向における形状は、一直線状でなくてもよい。当該吐出口を有するチューブの例には、上記シートの表面に流路となる所期の形状の窪みが形成されており、上記シートの接合によって上記接合部に当該流路である上記吐出口が構成されるチューブ、が含まれる。
また、エミッタ120は、チューブ110における水の流れ方向の上流側に上記取水部が位置するように配置されているが、上記取水部が下流側に位置するように配置されてもよい。また、一本のチューブ110中の複数のエミッタの向きは、同じであっても異なっていてもよい。
また、凸部251および位置決め孔303の平面形状は、円形に限定されず、四角形や三角形などであってもよい。
また、エミッタ本体200の樹脂材料とフィルム300の樹脂材料は、同じであっても異なっていてもよい。
また、エミッタ本体200は、樹脂の射出成形によって一体的に成形されるが、エミッタ本体200を、第1の表面201側の部品と第2の表面202側の部品の二部品で構成してもよい。この場合、第1の表面201側の部品には、フィルム300が一体的に成形される。エミッタ本体200を上記のような二部品で構成することにより、上記減圧流路などの流路をエミッタ本体200の内部に配置することが可能となる。なお、当該二部品を、ヒンジ部を介して一体的に成形してもよい。
また、上記スクリーン部は、並列する複数のスリット301と、スリット301の長手方向に交差する方向に延出する、並列する複数の上記凹部とによって構成されているが、スリット301および上記凹部の数は、いずれも一つであってもよい。また、上記スクリーン部は、ウェッジワイヤー構造を含んでいるが、当該構造を含んでいなくてもよい。たとえば、突条213は、凹部211の底から垂直に起立していてもよい。
また、上記取水量調整部は、弁体214と固定部215とによって構成されているが、弁体214と固定部215とが平面方向(周方向)において交互に配置されていなくてもよいし、あるいは、固定部215を含まず、弁体214のみから構成されていてもよい。また、弁体214は、設定された水圧以上で適度に開く弁体であればよく、たとえば均一な厚さの切片であってもよい。
また、上記取水量調整部は、他の構造によって構成されていてもよい。たとえば、取水量調整部は、凹部211および凹部216を隔てる部分と、当該部分を貫通する複数の細孔または当該細孔およびその上流側開口端に起立するバリなどの凸部と、によって構成されていてもよい。このような構成によっても、取水部調整部の上流側の水圧に応じて、取水量を適切に調整することが可能である。
また、上記減圧部は、吐出量調整部に供給されるべき水の圧力を適度に下げることが可能であればよく、たとえば、その平面形状が直線状の流路であってもよいし、あるいは、チューブ110内の水圧に応じて流路面積が変わる流路であってもよい。また、上記減圧部は、エミッタ本体200における、フィルム300によって覆われる第1の表面201上の溝であってもよい。
また、上記弁座部は、本実施の形態は、ダイヤフラム部302に密着可能な傾斜面2332であるが、孔234の周囲でダイヤフラム部302と密着可能な範囲において、他の適当な形態であってよく、例えば平面部であってもよい。
また、上記吐出量調整部は、ダイヤフラム部302がエミッタ120中の流路(孔234)を直接開閉するが、エミッタ120中の流路を開閉自在に配置された蓋を、ダイヤフラム部302が当該蓋に接近、離間することによって開閉する構成であってもよい。このような吐出量調整部によっても、チューブ110中の水圧に応じた吐出量の適切な調整が可能である。
また、上記侵入防止部は、吐出口130から孔234への根などの侵入を遮ることが可能であれば、上記整流部材でなくてもよい。たとえば、上記侵入防止部は、上記整流部材と同じ位置に配置された格子やスクリーンなどであってもよいし、侵入した根を吐出口130から孔234とは反対側に誘導するように配置された邪魔板などであってもよい。
なお、第2の表面202は、平面であってもよい。