JP6408487B2 - Hivの防止および療法のためのグリカン修飾された抗cd4抗体 - Google Patents
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Description
本開示は全体として、HIVの防止および治療に関する。本開示は全体として、抗体のグリカン修飾にも関する。特に、本開示は、HIVの防止および療法に有用な、グリカン修飾された抗CD4抗体に関する。
HIV-1侵入は、ウイルスエンベロープ(Env)糖タンパク質gp120と、T細胞受容体CD4のドメイン1(D1)との相互作用によって引き起こされる。イバリズマブ(iMab)は、強力かつ広域なHIV-1中和Abであり(Jacobson et al., Antimicrob. Agents Chemother. 53:450-457, 2009(非特許文献1);Kuritzkes et al., J. Infect. Dis. 189:286-291, 2004(非特許文献2))、宿主T細胞上のCD4受容体のドメイン2(D2)に主に結合し、したがって、これらのCD4受容体を用いてT細胞内に侵入しかつ感染をもたらすHIVの能力を遮断することによって、HIVを中和する(Burkly et al., J. Immunol. 149:1779-178, 1992(非特許文献3))。最近試験された初代分離株(118種のEnvシュードタイプウイルス)の大集団(panel)において、イバリズマブは、感染の50%抑制によって定義されるものとして、全ウイルスの92%を中和し、かつ感染の90%抑制によって定義されるものとして、ウイルスの47.4%を中和した。イバリズマブは、広範なHIV分離株を強力に抑制し得るものの、HIV変種のかなりの画分は、イバリズマブの抑制活性から依然として免れることができる。HIV 1型エンベロープの可変領域5におけるアスパラギン結合型グリコシル化部位の喪失が、イバリズマブに対する耐性に関連していることが最近報告されている(Toma et al., J. Virology 85(8):3872-2880, 2011(非特許文献4);Pace et al., J. Acquir. Immune Defic. Syndr. Epub ahead of print: September 2012(非特許文献5))。
本発明は、軽鎖の可変領域中のグリカン修飾により、モノクローナル抗体の活性を増強するための新規手法を提供する。本発明の種々の態様において、グリカン修飾された抗CD4モノクローナル抗体、そのような抗体の産生に有用な発現ベクターおよび細胞株、ならびにHIVの防止および療法のためのそのような抗体の使用が提供される。
[本発明1001]
グリカン修飾された抗CD4抗体であって、該抗体の可変領域に結合された1つまたは複数のN結合型グリカンを含む、抗CD4抗体。
[本発明1002]
前記1つまたは複数のN結合型グリカンが、前記抗体の軽鎖の可変領域に結合されている、本発明1001の抗体。
[本発明1003]
前記抗CD4抗体が、イバリズマブの修飾形態であり、該修飾形態が、遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位を軽鎖の可変領域中に含む、本発明1001の抗体。
[本発明1004]
前記抗CD4抗体が、MV1の修飾形態であり、該修飾形態が、遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位を軽鎖の可変領域中に含む、本発明1001の抗体。
[本発明1005]
前記MV1が、抗CD4 IgG 1抗体であり、SEQ ID NO: 2に示される重鎖のアミノ酸配列とSEQ ID NO: 3に示される軽鎖のアミノ酸配列とを有する、本発明1004の抗体。
[本発明1006]
前記重鎖のFc領域中またはFcRn領域中に1つまたは複数の修飾を含む、本発明1001〜1005のいずれかの抗体。
[本発明1007]
30E、52、53、54、60、65、67、76、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、前記軽鎖のアミノ酸位置に、前記遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位が配置されている、本発明1001〜1006のいずれかの抗体。
[本発明1008]
30EGln、52Ser、53Thr、54Arg、60Asp、65Ser、67Ser、76Ser、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、前記軽鎖のアミノ酸位置に、前記遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位が配置されている、本発明1007の抗体。
[本発明1009]
30EGln、52Ser、53Thr、54Arg、65Ser、および67Serからなる群より選択される、前記軽鎖のアミノ酸位置に、前記遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位が配置されている、本発明1008の抗体。
[本発明1010]
前記遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位が52Serに配置されている、本発明1009の抗体。
[本発明1011]
SEQ ID NO: 4に示される前記軽鎖のアミノ酸配列を含む、本発明1010の抗体。
[本発明1012]
SEQ ID NO: 4に示される前記軽鎖のアミノ酸配列とSEQ ID NO: 5に示される前記重鎖のアミノ酸配列とを含む、本発明1011の抗体。
[本発明1013]
SEQ ID NO: 4に示される軽鎖のアミノ酸配列とSEQ ID NO: 5に示される重鎖のアミノ酸配列とを含む、グリカン修飾された抗CD4抗体。
[本発明1014]
前記N結合型グリカンが、少なくとも7個の炭水化物単位を含む、本発明1001〜1010のいずれかの抗体。
[本発明1015]
前記N結合型グリカンが、10〜11個の炭水化物単位を含む、本発明1014の抗体。
[本発明1016]
遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位を本発明1001〜1013のいずれかで定義される軽鎖の可変領域中に有する抗CD4免疫グロブリン鎖をコードする核酸配列を含む、発現ベクター。
[本発明1017]
前記抗CD4免疫グロブリン鎖が、イバリズマブの軽鎖である、本発明1016の発現ベクター。
[本発明1018]
前記抗CD4免疫グロブリン鎖が、MV1の軽鎖である、本発明1016の発現ベクター。
[本発明1019]
遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位を本発明1011で定義される軽鎖の可変領域中に有する抗CD4免疫グロブリン鎖をコードする核酸配列を含む、本発明1016の発現ベクター。
[本発明1020]
本発明1016〜1019のいずれかの発現ベクターで形質転換された、宿主細胞。
[本発明1021]
本発明1001〜1015のいずれかの抗体と少なくとも1種の薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
[本発明1022]
本発明1001〜1015のいずれかの抗体の治療的有効量を対象に投与する工程を含む、該対象におけるHIV感染症を抑制する方法。
[本発明1023]
本発明1001〜1015のいずれかの抗体の治療的有効量をHIVに感染した対象に投与する工程を含む、該対象を治療する方法。
[本発明1024]
本発明1001〜1015のいずれかの抗体の治療的有効量を対象に投与する工程を含む、該対象におけるHIV感染症を予防する方法。
[本発明1025]
本発明1001〜1015のいずれかの抗体の治療的有効量をHIV陽性の妊娠中の対象に投与する工程を含む、該対象によってHIVウイルスが子どもに伝播されるのを予防する方法。
[本発明1026]
本発明1001〜1015のいずれかの抗体の治療的有効量をHIV陽性の対象またはHIV陰性のパートナーに投与する工程を含む、該HIV陽性の対象によってHIVウイルスが該HIV陰性のパートナーに伝播されるのを予防する方法。
[本発明1027]
向上した活性を有するグリカン修飾されたモノクローナル抗体であって、該抗体の可変領域に結合されたN結合型グリカンを含む、モノクローナル抗体。
[本発明1028]
前記N結合型グリカンが、前記抗体の軽鎖の可変領域に結合されている、本発明1027の抗体。
本発明は、可変領域中のグリカン修飾により、モノクローナル抗体の機能が向上し得ることを初めて実証した。特に、本発明において、抗CD4モノクローナル抗体の軽鎖の可変領域上にグリカンを接合させることにより、該抗体とHIVとの間のグリカン介在性相互作用が回復し得、それによって、グリカン修飾を有する該抗体は、(グリカン修飾のない)親抗体の活性から通常逃れるウイルス分離株の感染を強力に抑制し得ることが発見された。
「抗原」とは、1種または複数種のエピトープを含有し、かつ免疫応答を惹起し得る分子を指す。「抗原分子」もまた、本明細書において開示されるグリカン修飾されたタンパク質の結合標的である分子を指すように、一般的な意味で用いられる。
本明細書において開示されるこのグリカン修飾手法は、単一特異性、多特異性、キメラ、ヒト化、ヒト、非ヒト霊長類化、一本鎖、および/または単一ドメインの抗体であるモノクローナル抗体であり得る、抗CD4モノクローナル抗体に適用可能である。本手法は、抗CD4モノクローナル抗体の断片、とりわけ抗CD4モノクローナル抗体の抗原結合断片にも適用可能である。
30E Gln: 30E Gln、31Lys、32Asnから30E Asn、31Ala、32Thrへの変化、
52Ser: 52Ser、53Thr、54Argから52Asn、53Ser、54Thrへの変化、
53Thr: 53Thr、54Arg、55Gluから53Asn、54Ala、55Thrへの変化、
54Arg: 54Arg、55Glu、56Serから54Asn、55Ala、56Thrへの変化、
60Asp: 60Asp、61Arg、62Pheから60Asn、61Ala、62Thrへの変化、
65Ser: 65Ser、66Gly、67Serから65Asn、66Ala、67Thrへの変化、
67Ser: 67Ser、68Gly、69Thrから67Asn、68Ala、69Thrへの変化、
76Ser: 76Ser、77Ser、78Valから76Asn、77Ala、78Thrへの変化。
本明細書において開示されるグリカン修飾された抗体を含む薬学的組成物は、該抗体と1種または複数種の任意の薬学的に許容される担体とを混合することによって調製され得る。薬学的に許容される担体には、溶媒、分散媒、等張剤等が含まれる。担体は、液体、半固体、例えばペースト、または固体の担体であり得る。担体の例には、水、生理食塩溶液もしくは他の緩衝液(リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液など)、油、アルコール、タンパク質(血清アルブミン、ゼラチンなど)、炭水化物(単糖類、二糖類、およびグルコース、スクロース、トレハロース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、もしくデキストリンを含む他の炭水化物)、ゲル、脂質、リポソーム、樹脂、多孔質マトリックス、結合剤、充填剤、コーティング、安定剤、防腐剤、アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤;ナトリウムなどの塩形成対イオン;TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤、またはそれらの組み合わせが含まれる。
さらなる局面において、薬学的に許容される担体中に任意で提供される、本明細書において開示されるグリカン修飾された抗体を、対象におけるHIV感染症の治療および予防、ならびにHIV伝播の予防のために使用する。
SEQ ID NO: 1: ヒトCD4受容体のアミノ酸配列(シグナルペプチドであるアミノ酸1〜25、D1を構成するアミノ酸26〜122、およびD2を構成するアミノ酸123〜205):
SEQ ID NO: 2: MV1の重鎖のアミノ酸配列(リーダー配列を構成する最初の19個のアミノ酸残基を含む471個のアミノ酸):
SEQ ID NO: 3: MV1の軽鎖のアミノ酸配列(リーダー配列を構成する最初の19個のアミノ酸を含む238個のアミノ酸):
SEQ ID NO: 4: LM52の軽鎖のアミノ酸配列:
SEQ ID NO: 5: 抗体のリサイクリングが向上した、修飾されたMV1の重鎖のアミノ酸配列(2つの修飾を有する452個のアミノ酸):
1.細胞株、試薬、およびシュードタイプウイルス
TZM-bl細胞(カタログ番号8129)を、NIH、NIAID、AIDS部門、エイズ研究および参照試薬プログラム(AIDS Research and Reference Reagent Program)(ARRRP)から得た。これは、CD4、CXCR4、およびCCR5を発現し、かつHIV-1の長い末端反復の制御下にルシフェラーゼおよびβ-ガラクトシダーゼに対するTat応答性レポーター遺伝子を含有する、遺伝子改変されたHeLa細胞株である。急性かつ初期の感染由来のサブタイプB HIV-1 Envクローンの標準的な参照集団およびEnv欠損骨格プラスミド(SG3ΔEnv)も、NIH ARRRPから得た。Env発現プラスミドおよびSG3ΔEnvによる293A細胞(Invitrogen)の同時トランスフェクションによって、HIV-1 envシュードタイプウイルスを調製した。ヒトCD4の全長細胞外ドメインを含む組換えsCD4を、Progenics Pharmaceuticals, Inc.(Tarrytown, NY)から得た。イバリズマブタンパク質は、TaiMed Biologics(Irvine, CA)によって提供された。それぞれイバリズマブのH鎖およびL鎖をコードするプラスミドpMV1およびpLCを、cDNAから増幅し、かつpCDNA3.1(+)(Invitrogen)内にクローニングした。N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI陰性のGnT1(-)ヒト胎児腎臓(HEK)293S細胞を、ATCC(カタログ番号CRL-3022)から得た。
Asn-Ala-Thr(LM30E、LM53、LM54、LM60、LM65、LM67、およびLM76)またはAsn-Ser-Thr(LM52)配列を突然変異誘発によって導入して、WTイバリズマブまたはMV1など、抗CD4抗体の軽(L)鎖における変異体を作製した。突然変異誘発を、Quikchange mutagenesis kit(Stratagene, Santa Clara, VA)を用いて実施した。L(軽)鎖変異体(LM)構築物を、抗CD4 IgG1抗体から生成し(MV1など)、次いで配列決定し、かつポリエチレンイミン(PEI)-DNA複合体をHEK293A細胞に一過的にトランスフェクションした(1:1比の重鎖およびL鎖のプラスミド)。トランスフェクションの5日後に上清を回収し、かつLMタンパク質をプロテイン-Aアガロース(Thermo Scientific, Rockford, IL)カラムで精製した。SDS-PAGEによる解析の前に、WTイバリズマブ、ならびにLM30E、LM52、およびLM53を、変性条件下にてPNGase F(New England Biolabs, Ipswich, MA)で処理した。
改変を有するWeiら37の方法38に基づいて、中和アッセイ法を行った。簡潔には、96ウェルプレート中、10%ウシ胎仔血清を補給したDMEM(D10)の100μL/ウェル中に、1ウェルあたり10,000個の細胞を播種し、かつ一晩インキュベートした。翌日、連続希釈したイバリズマブまたはLMタンパク質を細胞に添加し、かつ1時間インキュベートした。次いで、DEAE-デキストラン(Sigma, St. Louis, MO)を含有するD10中で、200×の50%組織培養感染量(TCID50)の、複製能を有するHIV-1またはシュードタイプのHIV-1を調製し、かつ細胞に添加した。細胞を48時間インキュベートし、かつGalacto-Star System(Applied Biosystems, Cedarville, OH)を用いてβ-ガラクトシダーゼ活性を測定した。ウイルス感染力の阻害の百分率を、抗体処理ウェル対未処理-感染ウェルの比を1から差し引き、100を掛けたものとして算出した。IC50およびIC80の値(それぞれ、50%および80%の中和をもたらす抗体濃度)を非線形回帰分析によって算出した。
Biacore T3000光学バイオセンサー(GE Healthcare, Piscataway, NJ)を用いて、結合親和性解析を行った。標準的なアミンカップリング手順に従って、イバリズマブおよびすべてのグリカン変種の固定化を行った。簡潔には、0.2M N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミドおよび0.05M N-ヒドロキシコハク酸イミドを含有する溶液35μLの5μL/分の流速でのインジェクションによって、センサーチップ表面上のカルボキシル基を活性化した。次に、10mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.5中に2μg/mLの濃度のイバリズマブまたはその変異体変種を、反応タンパク質についての所望のレベルの応答単位(150〜200RU)が得られるまで、10μL/分の速度でチップ表面上を流した。未反応タンパク質を洗い流した後、35μLの1MエタノールアミンpH8.0の5μL/分の流速でのインジェクションによって、センサー表面上の過剰な活性エステル基をキャッピングした。装置および緩衝液の人為的影響を補正するためのバックグラウンドとして、タンパク質リガンドを除外した同じ条件下で、参照を作製した。HBS-EP緩衝液(0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% 容積/容積 界面活性剤P20(GE Healthcare))中25℃で、結合実験を行った。チップ表面の上を種々の濃度の分析物(ヒトsCD4タンパク質)を30μL/分の流速で3分間通過させることによって、結合反応速度を測定した。結合している分析物の解離を、表面を10分間洗いながらモニターした。残存する分析物を、50μL/分の流速での10mMグリシン-HCl pH2.0の2回の30秒間インジェクションにより除去した。反応速度データ解析に関して、BIAevaluation 4.1ソフトウェアを局所的に用いて、重ね合わせたセンサーグラムを、1:1 Langmuir結合モデルにひとまとめにしてフィッティングさせることによって、反応速度パラメーターを決定した。
3μgのLM52タンパク質を、50mM炭酸水素アンモニウム(ABC)/50%テトラフルオロエチレン中に溶解させ、かつ40mMジチオトレイトール(DTT)を添加することによって還元した。65℃で1時間のインキュベーション後、タンパク質サンプルを、40mMヨードアセトアミドを添加しかつ室温で1時間暗所においてインキュベートすることによって、アルキル化の過程に供した。40mM DTTを添加し、その後に1時間のインキュベーションが続くことによって、反応を抑えた。次いで、トリプシン消化の前に25mM ABCを添加した。次いで、タンパク質サンプルを0.2μgトリプシン(Promega)で一晩処理した。消化されたタンパク質サンプルを乾燥させ、かつLC-MS/MS解析の前に、20μLの水で再溶解させた。抗体上のN-グリカンの割り当てに関して、トリプシン消化された抗体についての測定された質量を、予測されるトリプシンペプチドおよびN結合型グリカンを組み合わせたデータベースと比較した。MS/MSスペクトルにおけるグリカン断片の出現によって、割り当てされた糖ペプチドを確認した。PNGase消化に関して、LM52をPNGase F(New England Biolabs)で一晩処理した。
GraphPad Prism v5.03ソフトウェアを用いた、50%および80%阻害濃度についてのパラメーター(対応スチューデントt検定)解析によって、図S2およびS3に示される抗体有効性の差異を査定した。P≦0.05の場合、統計的有意性が得られた。
実施例1.
118種のウイルス分離株の集団についての配列解析により、イバリズマブ耐性は、gp120のV5ループにおける潜在的N結合型グリコシル化部位(PNGS)の数と関連していたことが示唆されている(Pace et al., J. Acquir. Immune Defic. Syndr. Epub ahead of print: Sept. 2012)。図1に示されるように、V5に2つのN結合型グリコシル化部位を有するウイルスはイバリズマブに対して感受性であり、一方でV5にN結合型グリコシル化部位を有しないウイルスは耐性であった。バーは中央値を表す。興味深いことに、イバリズマブ単一療法に対して耐性を生じている臨床的ウイルス分離株も、潜在的V5グリコシル化部位の喪失を呈する(Toma et al., J. Virology 85(8):3872-2880, 2011)。
イバリズマブ耐性HIV-1系統の調査により、耐性は、HIV-1 Env gp120のV5ループからのグリカンの喪失によって主に付与されることが明らかとなった。イバリズマブ感度におけるV5グリコシル化の役割をさらに調べるために、本発明者らは、蛋白質構造データバンクに報告されている構造(アクセッション番号2NXYおよび3O2D)を用いて、gp120、CD4、およびイバリズマブの間の相互作用をモデル化した。V5 N末グリカンは、イバリズマブL鎖に最も近接して位置付けされ(図5A)、一方でV5 C末グリカンはイバリズマブからさらに離れている(図5B)。このモデルは、gp120とイバリズマブとの間の空間内へのN末グリカンの適合がgp120に対して質量効果を及ぼし、それによって、標的細胞内へのHIV-1侵入に必須であるその立体構造変化(ねじれおよび回転)が妨害される可能性を高める。このモデルは、イバリズマブL鎖への同程度のサイズのグリカンの導入により、それらのV5 N末グリカンを喪失しているHIV-1系統の侵入を阻害し得るその能力が強化され得ることも示唆する。
次に、本発明者らは、ヒト可溶性CD4(sCD4)へのこれらイバリズマブLMの結合の反応速度を表面プラズモン共鳴によって評価した。分析物としてsCD4を用いたBiacoreアッセイ法において、WTイバリズマブおよびLMは、同程度の結合反応速度でsCD4に結合した。sCD4に結合したこれらLMのうちの6種のKDは0.19nM〜0.8nMの範囲にあり(表1)、これらの数字は、野生型イバリズマブのKD(0.43nM)の2倍以内であった。これらのデータは、イバリズマブのL鎖のこれらの選択位置におけるN結合型グリカンの付加が、CD4に結合し得るその能力に著しい影響を及ぼさないことを示した。
グリカンサイズが、LMのHIV-1中和活性の向上に影響を与えるかどうかを調査した。調査は、その優れたHIV-1中和プロファイルが理由でLM52に焦点を合わせた(図7)。いかなるN結合型グリカンも欠くLM52の型を産生するために、GlcNAcホスホトランスフェラーゼを阻害するツニカマイシンを、LM52構築物による一過性トランスフェクションの直後に293A細胞に添加した。同様に、10〜11個の環のグリカン(高Man型のN-グリカンMan8GlcNAc2(Man8)またはMan9GlcNAc2(Man9))をタグ付けされたLM52の型を産生するために、本発明者らは、293A細胞にキフネンシンを添加した。最後に、7環グリカン(高マンノース(Man)型のN-グリカンMan5GlcNAc2(Man5))を担持するLM52の型を産生するために、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI陰性のGnT1(-) HEK293S細胞を用いた。SDS-PAGEによって示されるように、キフネンシンの添加はL鎖のサイズを顕著には変化させなかったが、ツニカマイシンの添加またはGnT1(-)細胞の成長は、L鎖のサイズを顕著に低下させた(図8A)。同様に、3種のHIV-1系統に対する中和活性は、キフネンシンの存在下で産生された抗体に対してよりも、ツニカマイシンの存在下でまたはGnT1(-)細胞において産生された抗体に対してより極度に低下した(図8B)。ゆえに、より大きなグリカンがL鎖の残基52に存在している場合に、より強いHIV-1中和活性が観察された。モデリングにより、より大きなグリカンほど、L鎖とgp120との間の空間をよりよく埋めるが(図4C)、グリカンの分枝の性質も、LM52のHIV-1中和活性に影響を及ぼし得ることが示唆される。
次いで、本発明者らは、11個のクレードを網羅する118種の多様なHIV-1ウイルス系統の集団に対して、LM52のHIV-1中和活性を試験した。この単一サイクルTZM-blアッセイ法において、LM52は、WTイバリズマブと比較して、有意に向上した中和の広域性および有効性を示した(図9および表3)。LM52は陰性対照(マウス白血病ウイルス)に対して中和活性を有しなかったが(表3)、それは、WTイバリズマブに関する92%の系統と比較して、試験されたすべてのHIV-1系統を中和した(≧50%阻害によって定義される)。実際、LM52は、WTイバリズマブに関するほんの31%と比較して、≧95%阻害に対して97%のウイルスを中和した(図5、上のパネル)。LM52は、また、WTイバリズマブに関する75%のウイルスと比較して、118種すべてのウイルスに関して<0.1μg/mLというIC50値を呈した(図9、中央のパネル)。実際に、ウイルスのすべてが<0.3μg/mLのIC80でLM52によって中和され、一方でWTイバリズマブでは10μg/mLの濃度でさえ、36%のウイルスが80%まで中和されなかった(図9、下のパネル)。
次に、本発明者らは、イバリズマブL鎖における関心対象の領域中の2つまたは3つのグリカンの配置の効果を検討した。本発明者らは、293A細胞において、LM30E-52、LM30E-53、およびLM52-67二重変異体、ならびにLM30E-52-67およびLM30E-53-67三重変異体を産生し、次いで精製し、かつSDS-PAGEによって抗体を解析した(図13A)。野生型(WT)イバリズマブまたは単一変異体LMと比較して、二重変異体のそれぞれにおいてわずかにより大きなL鎖が観察され、かつ三重変異体のそれぞれにおいてさらにより大きなL鎖が観察された。次に、本発明者らは、イバリズマブに対して完全にまたは部分的に耐性であることが知られるHIV-1系統の集団に対する、これら変種mAbのHIV-1中和プロファイルを調べた。概して、二重および三重変異体は、LM52のものと同等の中和活性を示した(表4;図13B、左のパネル)。実際、幾何平均IC80値は、三重変異体が、LM52と比較してわずかに強力でない可能性があることを示唆する。留意された唯一の例外は、LM52に対してよりも二重および三重変異体に対してより感受性のウイルスであるSHIVsf162P3Nに関してであった(表4;図13B、右のパネル)。全般的に言えば、本発明者らは、2つ以上のグリカンを付加することが、イバリズマブ感受性ウイルスに対するLM52のHIV-1中和プロファイルをさらに向上させるという証拠を見出さなかった。第2のグリカンの付加によるLM52の向上は、LM52に対して耐性であるかまたは部分的に耐性であるウイルスに関してのみ明らかであり得る。
いくつかのHIV-1中和mAbに共通する特性は、自己抗原とのそれらの交差反応性である29, 30。LM52もイバリズマブも、10μg/mLの濃度でさえ、HEp-2上皮細胞抽出物に結合しなかった(図14A)。加えて、LM52もイバリズマブも、一本鎖DNA、二本鎖DNA、インスリン、リポ多糖、またはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)との反応性を示さなかった(図14B)。イバリズマブの意図される標的であるヒトCD4タンパク質は、LM52によって認識される、試験された唯一の自己抗原であった。ゆえに、本発明者らは、LM52が自己抗原と多反応性であるという証拠を見出していない。
本発明において、変種LM52と称される、MV1から生成された優れたHIV-1侵入遮断mAb産物が提供され、それは、試験されたすべての試験されたHIV-1系統を比較的低濃度で中和し得た。LM52のウイルス中和特性は、イバリズマブの野生型のもの、ならびに現在までに報告されているいくつかの最良の抗Env mAb、例えばVRC01、PG9、10E8、およびNIH45-46G54Wのものよりも明らかに優れていた。ヒトにおけるイバリズマブについての確立された安全記録と合わせると、これらの観察結果は、LM52が、HIV-1の治療または防止のための臨床開発の良好な候補であろうことを示唆する。この修飾抗体は、(非経口イバリズマブの公知の薬物動態特性に基づいた)その予想される月1回投与のスケジュールを考慮すると、長時間作用型PrEP剤として特に適切であり得る。
Claims (11)
- グリカン修飾形態の抗CD4抗体であって、該抗体の可変領域に結合された1つまたは複数のN結合型グリカンを含み、該抗体が、SEQ ID NO: 2の配列を含む重鎖とSEQ ID NO: 3の配列を含む軽鎖とを含み、かつSEQ ID NO: 3のアミノ酸54(30EGln)、SEQ ID NO: 3のアミノ酸77(52Ser)、SEQ ID NO: 3のアミノ酸78(53Thr)、SEQ ID NO: 3のアミノ酸79(54Arg)、SEQ ID NO: 3のアミノ酸85(60Asp)、SEQ ID NO: 3のアミノ酸90(65Ser)、SEQ ID NO: 3のアミノ酸92(67Ser)、およびSEQ ID NO: 3のアミノ酸101(76ser)からなる群より選択される、SEQ ID NO: 3の配列中のアミノ酸位置に、遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位を含む、グリカン修飾形態の抗CD4抗体。
- 1つまたは複数のN結合型グリカンが抗体の軽鎖の可変領域に結合されている、請求項1に記載の抗体。
- 30EGln、52Ser、53Thr、54Arg、65Ser、および67Serからなる群より選択される、前記軽鎖のアミノ酸位置に、前記遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位が配置されている、請求項1に記載の抗体。
- 前記遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位が、52Serに配置されている、請求項1記載の抗体。
- 前記軽鎖が、SEQ ID NO: 4に示される前記軽鎖のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。
- SEQ ID NO: 2に示される重鎖およびSEQ ID NO: 4に示される軽鎖を含む、グリカン修飾形態の抗CD4抗体。
- 前記N-結合型グリカンが、少なくとも7個の炭水化物単位を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗体。
- 前記N結合型グリカンが、10〜11個の炭水化物単位を含む、請求項7に記載の抗体。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体と少なくとも1種の薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体を含む、対象におけるHIV感染症を抑制するための薬学的組成物。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体を含む、HIVに感染した対象を治療するための薬学的組成物。
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