JP6399509B2 - 高強度フェライト系耐熱鋼構造体およびその製造方法 - Google Patents

高強度フェライト系耐熱鋼構造体およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高強度フェライト系耐熱鋼構造体およびその製造方法に関し、例えば、高温で長期に亘って応力が負荷される、溶接によって製造される鋼構造体、特に、発電プラント、化学プラントなどの部材に使用される高強度フェライト系耐熱鋼構造体及びその製造方法に関する。
地球温暖化の防止は喫緊の課題であり、エネルギー資源を有効に活用するための技術開発は極めて重要である。特に、エネルギー資源の中でも化石燃料や核燃料を電気エネルギーに変換する電力プラント、具体的には石炭火力発電プラント、天然ガス直接燃焼式火力発電プラント、原子力発電プラントでは、エネルギー資源の寿命の問題もあり、発電効率(エネルギーの変換効率)を更に改善する必要性に迫られている。また、石油精製プラントや石炭ガス化プラントでも、製造効率の改善が必要とされている。
しかし、現状、例えば、火力発電の効率は40〜50%、原子力発電の効率は30%で停滞しており、今後、二酸化炭素の排出や高レベル放射性廃棄物の増加を抑制するために、発電の高効率化が求められている。
また、上記のような発電プラントに限らず、各プラントにおける熱効率は、プラントの操業温度と圧力でほぼ決定し、特に発電プラントでは、発電機のタービンを駆動させる蒸気の温度が高いほど、エネルギーの変換効率が上昇する。
現在、石炭火力発電所及び原子力発電所の蒸気温度は、それぞれ、620℃及び350℃であるが、この蒸気温度を100℃上昇させると約5%、200℃上昇させると約10%の効率向上を期待することができる。しかし、発電機のタービンを駆動させる蒸気の温度を高めるには、タービンの部材だけでなく、熱交換器や配管に使用される耐熱鋼の性能を向上させなければならない。
耐熱鋼に要求される性能のうち、クリープ特性は重要であり、数十年間、プラントを稼働させることができるように、長期に亘ってクリープ破断しないことが必要である。
クリープ特性を向上させた耐熱鋼としてこれまでに、600℃を使用温度の上限として、9%Crフェライト系耐熱鋼の研究開発が行われ、JISでは火STBA28や火STBA29などの高温用フェライト系耐熱鋼が開発され、実用化されている。これらフェライト系耐熱鋼は熱膨張率が低く、熱応力起因のクリープ疲労破壊や配管部材の変形に対する耐久性が有り、しかも溶接性施工性において、一般の鉄鋼材料と変わらない点が特徴である。また、これらフェライト系耐熱鋼の合金含有量は、より高温で使用されるオーステナイト系耐熱鋼と比較して少なく、その分経済性にも優れている点は工業的な観点から魅力的である。
しかしながら、これらフェライト系耐熱鋼における鉄の原子構造はBCC(体心立方格子)であるために格子定数が大きく、その分高温において強度が低い。また鋼中の原子拡散もオーステナイト系耐熱鋼に比較して速いため、クリープ強度がオーステナイト系耐熱鋼に比較して低い事が材料特性としての課題である。
これらのことから近年では、クリープ破断強度が高いフェライト系耐熱鋼の開発に対する期待が高まっており、オーステナイト系耐熱鋼を代替するフェライト系耐熱鋼の開発が進められている。
フェライト系耐熱鋼の金属組織は、転位密度が高いマルテンサイトやベイナイトであり、600℃を超える高温でのクリープ特性を向上させるためには、クリープ回復の抑制が重要になる。このようなフェライト系耐熱鋼においては、高温では鋼中の原子の拡散が速いものの、鋼中の析出物が転位の移動の抑制に有効に作用する。そのため、高温での転位の移動、即ちクリープ変形を効果的に抑制する目的で、フェライト系耐熱鋼においては、主に鋼中に安定な析出物を導入するための成分設計及び製造方法の確立が求められてきた。
ただし、こうした技術開発は、耐熱鋼を発電プラントの構成部材として考える際、いわゆる「母材」としてのクリープ特性向上を主たる目的として実施されたものがほとんどで有り、「溶接継手」のクリープ強度向上にまで留意したものは多くない。
例えば米国ASME規格にはP/T91あるいはP/T92と類別される9%Cr高強度フェライト系耐熱鋼が規定されているが、その許容応力は母材のクリープ特性と高温強度でほぼ決まっている。
フェライト系耐熱鋼は、出発組織に低温変態組織(主にベイナイトまたはマルテンサイト)を用いる場合、室温で安定なフェライト相(α相)と高温で安定なオーステナイト相(γ相)の間に相変態する温度、いわゆる変態点を有する。この変態点が高密度の転位を内包する高強度の低温変態組織生成に寄与する。しかし一方で、変態点そのものは鋼材の組織の大きな変化(結晶格子を形成する原子の並び替え)を伴うことから、変態点を跨ぐ熱履歴を受けた耐熱鋼の組織は、元々高いクリープ強度を与えるために導入した初期の調質組織とは大きく異なることになる。
この現象の影響を最も強く受けるのが溶接継手の熱影響部(以降、本願発明ではHAZと称する)の組織である。HAZは、1500℃以上の高温である溶接金属から母材に向かって熱影響が及ぶとき、溶接金属からの距離に応じた部位毎の最高到達温度(最高加熱温度)で変化する組織の連続体となる。すなわちHAZは、最高加熱温度が室温から1500℃まで変化する際に生じる金属組織が、溶接金属からの距離に応じて連続するといった組織構成を有している。ただし、このHAZの組織構成は、最高加熱温度による保持時間が数秒という短時間であるために特徴的で、溶接金属に近い側から「粗粒HAZ」、「細粒HAZ」、「二相域HAZ」に大きく分類される。
図1に、溶接継手のHAZを含む各部位と、組織構成をこの分類に従って示す。図1に示すように、溶接金属1と母材5との間にHAZが形成され、このHAZは、溶接金属1側より順に、粗粒域HAZ2、細粒域HAZ3、二相域HAZ4の順で構成される。
HAZの各部位の内、「細粒域」(以下,細粒HAZまたは細粒HAZ域ともいう)にて生じるクリープ損傷によって溶接継手から破壊する現象を「Type IV損傷」と呼称されている。当該Type IV損傷は、フェライト系耐熱鋼構造体において未だ解決されておらず、その解決が近年の課題とされている。すなわち、Type IV損傷は、母材はクリープ環境にあって、健全に使用できる時間、温度条件であるにもかかわらず、溶接継手のみがクリープ変形して破壊に至る、溶接継手特有の破壊現象である。
最近では、この現象が従来材料(既に規格に登録されて許容応力が決定している材料)で生じることが必然である事が経験的に判明している。そのことから、溶接継手まで含めて安全に運用するための「溶接継手クリープ強度低減係数」と言われる、クリープ強度の安全係数が提案される状況にまでなっている。
特開2008−214753号公報 特開2008−248385号公報 特開2008−266785号公報 特開2008−266786号公報 特開2009−293063号公報 特開2010−7094号公報 特開2001−003120号公報
このType IV損傷は、実用化されている全てのフェライト系耐熱鋼で発生し不可避とされており、その発生機構は種々議論がなされている。
溶接前におけるHAZ細粒域となる領域は、元々母材と同じ組織を有しているフェライト系耐熱鋼であるが、この領域は溶接によって、変態点直上の温度に数秒間曝されるHAZの熱サイクルを受ける。また溶接による熱によって、母相そのものはα→γ変態を生じ、α相とγ相のCの固溶限度の差から元々粗大に析出していた炭化物(フェライト系耐熱鋼では主にM23C6型炭化物)以外の炭化物はγ相に瞬時に再固溶する。しかし、特にHAZ細粒域においては、粗大に析出していた炭化物の数十パーセントは、縮小はするものの未固溶のまま残存する事がType IV損傷の最大の原因であると考えられている。
通常、溶接後の継手には、溶接後熱処理(応力除去焼鈍、SR処理とも称される)が施される。その熱処理温度が焼戻し温度と数十度しか違わない高温である場合には、前述の未固溶のまま残留した炭化物は固溶した炭素とともに、炭化物形成元素の新たな析出核となる。結果として当該析出核は、熱サイクルにより粗大化すると同時に、微細炭化物の析出機会を減少させる。つまり、溶接前に析出していた粗大炭化物が未固溶のまま残存することは、いわゆる炭化物による「析出強化能」を喪失してしまうことによるものであることを、本発明者らは研究の結果知見した。
したがって、前述のような変態点を有し、炭素を含有させて炭化物を析出させる事によってクリープ破断強度を高めている耐熱鋼においては、Type IV損傷は不可避である事を実験的に確認した。つまり、Type IV損傷は、炭化物を利用したクリープ強化を図る耐熱鋼であればいずれの鋼種でも起こり得るものであり、高Cr鋼に限ること無く、低Cr耐熱鋼でも生じる現象である。換言すれば、炭化物による析出強化能をクリープ強化に適用していないフェライト系耐熱鋼は皆無と言って良いことから、Type IV損傷をフェライト系耐熱鋼で防止することは極めて困難であるとも言える。
従来は、Type IV損傷が細粒域で発生することから、Type IV損傷の原因は「細粒域における強度の軟化」であると考えられたり、結晶粒径が小さいことによって生じる「焼入れ性の低下」による転位強化因子の喪失とも考えられたりしていた時期があった。しかし、「細粒域」は、「二相域」もしくは「二相域」近傍母材よりも室温の強度が高いことが詳細な研究の結果明らかとなっており、これらの仮説は現在支持されていない。また「焼き入れ性の低下」の有無については確証が得られていないものの、長時間のクリープ強度を支配する強化因子は転位では無く析出物であるとの理解が一般的で有り、この考え方から細粒組織であるが故のクリープ強度低下機構に根拠が示されていない。すなわち、これらの仮説にType IV損傷の直接の原因たる根拠を求めることが出来ていない。
さらに、クリープ強度と結晶粒径の関係は、粒界のみが変形できるオーステナイト系耐熱鋼では逆比例することが実験的にも知られているが、組織が均一に変形できるフェライト系耐熱鋼では相関が無いことが知られている。したがって「細粒域」を生成しない溶接熱影響部の創出、または「細粒域」が生じがたいフェライト系耐熱鋼を仮に提示できたとしても、炭化物のHAZ熱サイクルによる粗大化が防止できなければ、Type IV損傷を完全に防止することは困難であるとの結論に至った。
特許文献1〜4には、こうした細粒域の生成を従来のフェライト系耐熱鋼で防止することを目的として、Bを50ppm以下含有する鋼管全体に対し、溶接前に熱処理(短時間の焼準し処理)を実施し、Type IV損傷防止を可能とする技術が開示されている。
当該技術は、溶接前の短時間焼準し処理によって残留γをマルテンサイトラスまたはベイナイト粒界に残存させて、溶接時の再加熱においてこれらの成長および合体を促し、溶接の前の母材において高温で生成していた旧γ粒を再現する「組織メモリー効果(以下、単にメモリー効果とも称する)」を活用した技術である。
この技術では、細粒域の生成防止は完全に達成されるとともに、短時間焼準し処理によって前記炭化物を完全固溶してしまうことから、確かにType IV損傷を完全防止できる技術ではある。しかし、溶接前の開先を含む部材(ほとんどの場合長さ10m超の鋼管)全体に高温の熱処理を施すための炉が必要となるため、現地での施工が困難である。さらに、鋼管全体を加熱することによって製品である鋼管の変形が生じるリスク、さらには再加熱のための時間、工程負荷が大きいことが課題となり、現地施工に関しては現実的な解決策になっていない。
一方で、同じ「組織メモリー効果」で有りながら、残留γの成長および合体を必要としない鋼材成分を用いる鋼管の提案が特許文献5および6に開示されている。
しかしながら、特許文献5及び6に記載の技術は、100ppmを超える高濃度のBを添加することで生じる剪断型α→γ変態式のメモリー効果を発揮させる技術で知られている。また、特許文献5及び6に記載の技術は、母材の旧γ粒を高温で再現する点は前記した特許文献1〜4に記載の技術と同一であり、細粒域を生じさせない技術であることから、Type IV損傷を生じないと考えられてきた。
しかし、特許文献5及び6に記載のような高B含有鋼の場合は「細粒域の生成防止」は図られるものの、細粒域相当部位では、炭化物の短時間での再固溶に伴う部分固溶と再析出を通じた「炭化物の粗大化」が回避できていない。特許文献5および6に記載の技術は、結晶組織こそ母材同等で有り、かつメモリー効果によって炭化物の析出位置が大角粒界のままである点から、完全に再結晶して細粒域を生成し、粗大化する炭化物の析出位置が新たに生成する結晶粒界とは無関係な位置である従来のフェライト系耐熱鋼に比較するとType IV損傷の発生は軽減(遅延)される効果は認められる。従って、引用文献5および6に記載のような高B含有鋼の場合は、数万時間までの試験ではType IV損傷は発生しないものと同等のクリープ強度を与えることができる。しかし、さらに長時間のクリープ環境下では、炭化物の粗大化が先行している分、HAZのクリープ強度の低下は避けることが出来ないことも、長時間のクリープ試験結果から明らかとなった。
なお、これらの方法以外に、溶接した鋼管を、溶接構造体全体の再熱処理(焼準し−焼戻し)にて母材と同等な組織とする技術が特許文献7に記載されている。この方法は溶接金属も含めて熱処理をすることで継手の強度の不均一を解消することが狙いでもあるが、特許文献1に記載の熱処理炉よりも大型の炉が必要であり、現地での施工が困難である。
すなわち、現地施工性に優れ、完全にType IV損傷を生起しない、低温変態組織を有するフェライト系耐熱鋼構造体は未開発であり、またこれまでに、Type IV損傷の防止技術は提案されていなかった。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、溶接継手熱影響部(HAZ)でのType IV損傷を確実に防止し、優れたクリープ特性と靭性とを備えた高強度フェライト系耐熱鋼構造体およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明は、本発明者らによる上記の新たな知見を基にしてなされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
[1]母材、溶接熱影響部、溶接金属から構成される高強度フェライト系耐熱鋼構造体であって、
前記溶接熱影響部及び前記溶接金属によって溶接継手が構成され、
前記母材の組成が、質量%で、
C:0.03〜0.12%、
Si:0.02〜0.45%、
Mn:0.20〜0.60%、
Cr:8.0〜11.0%、
W:2.00〜4.00%、
Nb:0.02〜0.10%、
V:0.10〜0.50%、
N:0.003〜0.015%、
B:0.010〜0.020%、
Co:0.50〜3.00%
を含有し、
Mo<0.05%、
Ni<0.10%、
Cu<0.05%、
Al<0.005%、
P<0.020%、
S<0.010%、
O<0.010%
に制限し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
溶接前熱処理の施行幅または長さが、前記高強度フェライト系耐熱鋼構造体の幅または長さの50%以下であり、
前記溶接熱影響部の大角粒界上に析出するM23C6系炭化物(MはCr,Fe,Wを合計して、70%以上)の円相当粒径の平均値が150nm以下であって、前記M23C6系炭化物が前記大角粒界を被覆する割合が40%以上であり、
前記母材の、700℃×1000時間の条件下でのクリープ試験におけるクリープ強度BCRが80MPa以上であり、
前記母材のクリープ強度BCRに対する、前記溶接継手の前記クリープ試験におけるクリープ強度の比率CRHAZが95.0%以上であり、
前記母材の室温での吸収エネルギーBCHが27J以上であり、
金属組織において、残留オーステナイト量RAAが0.2体積%以下であることを特徴とする高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
[2] さらに、前記母材の組成が、質量%で、
Ti:0.005〜0.15%、
Zr:0.005〜0.15%
の内、一種または2種以上を含有することを特徴とする上記[1]に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
[3] さらに、前記母材の組成が、質量%で、
Ca:0.0003〜0.0050%、
Mg:0.0003〜0.0050%、
Y :0.0100〜0.0500%、
Ce:0.0100〜0.0500%、
La:0.0100〜0.0500%
の内から1種または2種以上を含有することを特徴とする上記[1]または上記[2]に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
[4]上記[1]〜上記[3]の何れか一項に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体の製造方法であって、
上記[1]〜上記[3]の何れか一項に記載の組成の母材を用いて開先を加工し、
開先面が母材表面と接する位置から溶接線に直交する方向に向かって20mm以上100mm以下の部位、かつ前記高強度フェライト系耐熱鋼構造体の幅または長さの50%以下である部位を、1000℃以上1250℃以下の温度に加熱して、該温度に10分以上保持した後、放冷し、次いで前記開先を溶接した後、前記開先面から前記母材に向かって、20mm以上100mm以内の部位を720℃以上760℃以下に加熱して、該温度に1時間以上保持した後、放冷することを特徴とする高強度フェライト系耐熱鋼構造体の製造方法。
本発明によれば、溶接継手のクリープ破断強度を低下させるType IV損傷を確実に防止し、優れたクリープ特性と靭性とを備えた高強度フェライト系耐熱鋼構造体およびその製造方法を提供できる。特に、本発明によれば、10万時間クリープ破断強度が母材と同等であるフェライト系耐熱鋼構造体が得られる。
図1は、溶接継手の熱影響部を含む各部位と、各組織を説明するための継手の概略断面模式図である。 図2は、炭化物固溶を目的とした溶接開先への溶接前熱処理の条件と、当該条件が及ぼす炭化物の存在形態への影響を示すグラフである。 図3は、溶接継手の溶接前突き合わせ状況と各部名称、および溶接前後の熱処理付与範囲を説明するための、継手の概略斜視図である。 図4は、溶接継手試験体の溶接熱影響部におけるM23C6型炭化物の円相当直径と溶接後熱処理温度の関係を示すグラフである。 図5は、溶接熱影響部の組織モデルと粒界の析出物による被覆率の計測方法を説明するための、大角粒界近傍の断面概略図を示す。 図6は、溶接継手試験体の溶接熱影響部におけるM23C6型炭化物の大角粒界被覆率と溶接後熱処理温度の関係を示すグラフである。 図7は、溶接継手試験体の、700℃、1千時間促進クリープ破断試験時のクリープ破断強度と溶接後熱処理温度の関係を示すグラフである。 図8は、溶接前熱処理の、溶接継手を含む部材あるいは構造体に占める施工幅(長さ)の割合と、700℃、1千時間促進クリープ破断試験時のクリープ破断強度の関係を示すグラフである。
まず、本発明をするに至った、本発明者らの検討結果、ならびに当該検討結果より得られた新たな知見について説明する。
なお、本発明のフェライト系耐熱鋼構造体とは、母材、溶接熱影響部、溶接金属から構成されるものであって、その形状は特に限定せず、管状や板状であって構わない。また、構造体の形状が管状である場合は長さが200mm以上のもの、板状である場合は、長さもしくは幅が200mm以上であるものに好適である。
本発明の課題であるType IV損傷の防止のために必要な技術は、Type IV損傷の根本原因である炭化物の部分固溶を通じたHAZ熱サイクルによる粗大化を完全に防止することである。そのために本発明では、構造体自体にType IV損傷が発生しがたい化学成分となるよう、成分設計上の措置を極力講じるとともに、溶接継手の開先の近傍部分に対し、溶接前に熱処理を施すとともに当該処理の条件を限定して適用する。
以下に、本発明の根幹を成す技術を、本発明者らの検討結果(実験結果)と当該検討結果より得られた新たな知見と共に説明する。なお、下記に示す実験結果は、以下のごとく作製した試験片を用いて得られたものである。
まず実験室で、300kgの鋼材容量を有する高周波誘導加熱式真空溶解炉にて表1に示した化学成分の鋼材を溶解して鋳造し、300kg重量の鋼塊とした。その後、この鋼塊を大気雰囲気の電気炉で1220℃に再加熱して後60分間炉中で保持し、その後熱間圧延実験装置で30mm厚みの鋼板試験片に熱間圧延した。熱間圧延は900℃以上の温度で終了して、その後放冷した。得られた鋼板試験片はその後、770℃で2時間焼戻し、この段階でラスマルテンサイト構造を有すること、M23C6型炭化物を主体とする炭化物が析出していることを、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電解抽出残渣定量分析法にて確認した。析出物の種類は透過電子顕微鏡に付属したEDX分析装置、および電解抽出残渣のX線回折による反射ピークのパターン解析で実施した。なお、M23C6型炭化物による粒界被覆率は、倍率1万倍の走査型電子顕微鏡観察像と薄膜の透過電子顕微鏡像によって、大角粒界上の析出物の長さ占有率によって決定した。
ここで、「M23C6型炭化物」におけるMは、Cr,Fe,Wを合計して70%以上であるものである。
Figure 0006399509
また、溶接するに際し、得られた上記30mm厚みの鋼板試験片の片幅を100mmとした溶接開先の加工してある試験片対を機械加工で作製した。開先角度は片側22.5°、開先対として45°のV開先を形成した。突き合わせのルートは1mmとし、入熱量を約1kJ/mmとし、溶接速度約10cm/分の速度で、30〜35パスを盛り上げて溶接継手を形成した。全長400mmの開先を複数準備して、その継手特性を評価し、また溶接熱影響部の組織観察を実施した。クリープ試験は平行部直径6mm、平行部長さ30mm、全長70〜86mmのクリープ試験片にて評価した。なお、溶接の際は、市販のNi基合金であるInconel625(登録商標)成分相当の溶材(溶接ワイヤ)を用いて、溶接し、溶接金属の靭性を上げ、溶接金属からの破断を防止してHAZの特性評価が確実に出来るようにした。
<溶接前熱処理>
本発明においては、炭化物の部分固溶と溶接後熱処理による炭化物の粗大化を防止する目的で、溶接前に、溶接継手の溶接熱影響部となる部位(HAZ相当部位)に析出している炭化物を、溶接直前に実施する、Type IV損傷防止のための熱処理で完全に再固溶しておき、炭化物の粗大化を抑制する。なお、以降ではこの溶接直前に実施する、Type IV損傷防止のための熱処理を「溶接前熱処理」ともいう。
本発明者らは、この溶接前熱処理でHAZ相当部位の炭化物を完全に固溶させる条件を明らかにするために、50mm角、30mm厚みの上記鋼板試験片の一部カット品を複数用意して、各種温度、時間だけ熱処理し、その後断面を切断加工して透過電子顕微鏡組織観察で炭化物の析出有無を確認し、熱処理条件を検討した。検討結果を図2に示す。
図2はその際の最高加熱温度保持時間と温度が及ぼす炭化物形態への影響を示す図である。図中の「●」は熱処理後、放冷した後に試験片中に分解途中で未固溶のまま残留したM23C6型炭化物を認めた例、「○」は炭化物全てが固溶し全く観察されなかった場合である。「□」はM23C6型炭化物を認めたが、母材と同じ形態で有り、かつ分解固溶途上では無い安定なM23C6型炭化物が見られた例である(ただし、析出量は温度の上昇と共に減少傾向であった)。
別途、前述の熱処理を実施した溶接継手においてクリープ試験を行ったところ、上記各炭化物の形態の中で、Type IV損傷を誘引する析出物形態は「●」で示した分解途中で未固溶のまま残留した炭化物だけであり、その他の形態(「□」)、または炭化物が観察されない場合(「○」)はType IV損傷を発生しないことが明らかとなった。すなわち、溶接前熱処理において、1000℃以上の温度で10分以上保持することにより、分解途中で未固溶のまま残留したM23C6型炭化物は全く観察されなくなり、分解して再固溶することが可能であることが分かった。なお、1000℃以下の温度帯ではM23C6型炭化物が観察されるものの未固溶炭化物では無く、高温まで分解固溶しない、熱力学的に安定な炭化物(平衡析出炭化物)であると考えられる。すなわち、今回の実験により、低温かつ短時間の熱処理では、母鋼板で焼戻し処理時に析出していたM23C6型炭化物の内、熱力学的平衡状態になく、本来分解固溶すべき炭化物を完全には再固溶出来ない事が分かった。
また、図2に示すグラフより、未固溶炭化物はType IV損傷発生の原因となる事から、最高加熱温度を1000℃以上とし、この最高加熱温度で10分以上保持する、という溶接前熱処理条件は必須となることが分かる。ただし、当該溶接前熱処理の最高加熱温度が1250℃を超える場合は、本発明の範囲内の耐熱鋼のγ相安定領域、すなわち鉄−Cr平衡状態図中のγループの上限温度を超えてしまい、熱処理後の組織はマルテンサイトとδフェライトの二相組織となってしまう。ここでの二相組織は、HAZ外縁に生じる焼戻しマルテンサイト+フレッシュマルテンサイトの二相組織とは別のもので、本来細粒域の生成帯に熱処理の結果生じるδフェライトとマルテンサイトの混合組織である。しかし、δフェライトはクリープ破断強度の低下を来すことから、本発明において焼戻しマルテンサイト+フレッシュマルテンサイトの二相組織の形成は好ましくない。したがって、本発明では溶接前熱処理における最高加熱保持温度を1250℃に限定する。
以上より、本発明における溶接前熱処理の条件は、1000℃〜1250℃の温度範囲で10分以上とする。また、加熱方法が高周波誘導加熱等の簡便な装置である場合は、温度のばらつき等を考慮し、望ましくは最高加熱温度が1200℃である。
なお、保持時間の長時間化については制限が無く、対象とする鋼材の板厚に応じて適宜決定して良いが、開先の高温酸化によるダメージ回避の観点から、実質的には最長5時間が好ましい。
以上述べた本発明者らの検討結果より、上記条件での溶接前熱処理を実施することで、溶接熱サイクルが付与された段階における炭化物析出を、溶接継手の開先においては消失させることができ、当然ながら、続く溶接後熱処理において、未固溶炭化物の粗大化を発生させる可能性を奪取できることが分かった。
したがって、Bを100ppm以上添加した本発明範囲内の耐熱鋼では、細粒組織も生じないことから、HAZにおいて、母材と同等の組織構造を有する上に炭化物の熱サイクルによる粗大化を防止した析出状態が得られることになる。
次に、溶接前熱処理の付与の方法について説明する。
前記溶接前熱処理は、本発明においては溶接開先の近傍部分にのみ付与することが重要である。図3に、溶接継手の溶接前突き合わせ状況と各部名称、および溶接前後の熱処理付与範囲を説明するための継手の概略斜視図を示す。
具体的には、溶接前熱処理は、図3に示したように溶接開先面6から片側20mm以上100mm以下の部位のみに付与する。
熱処理の付与方法につては、熱処理が局部加熱であり、かつ現地施工性の向上を意図したものであることから、「高周波誘導加熱」、「通電加熱」、バンドヒーター等の抵抗発熱帯(開先とは通電しないような絶縁体で保護してあるものに限る)の直接巻き付け、または被覆によって実施することができる。これら加熱方法は何れも、ボイラ建設現地において容易に開先加熱を実施出来る機能を有するという観点で選択しているが、熱処理の付与方法については、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択してよい。
また、熱処理の加熱範囲を、溶接開先面6から片側20mm以上100mm以下と限定する。このような範囲とした理由は、溶接開先面から母材へ向かっての溶接熱影響部の幅(HAZ幅)は、通常のアーク溶接を用いる限り数十mmしかなく、100mmを超える事が実質的に無いことによる。
また本発明の高強度フェライト系耐熱鋼構造体は、溶接する際、最大でも数万kJ/mmまでの溶接入熱しか用いないため、実質的にHAZ幅は極厚部材であっても30mm以下である例がほとんどである。したがって熱処理の加熱範囲は、加熱装置の出力、取り扱いの簡便さに応じてさらに縮減する方が工程上好ましく、80mm以下とすることが更に好ましい。より更に好ましくは50mm以下である。
なお、溶接入熱が大きい時に、溶接熱影響部幅が、溶接開先面と母材の表面が接する(交わる)位置(図3中の符号7)から片側20mm以上離れた母材側に位置してしまうことがある。つまり、溶接前熱処理の加熱範囲として溶接開先面6から20mm未満の範囲のみを加熱した場合、当該溶接前熱処理が溶接熱影響部の細粒域相当部位に及ばず、結果としてType IV損傷を発生する場合がある。そのため、溶接前熱処理の加熱範囲の下限値として溶接開先面6から20mmと限定する。なお、溶接前熱処理の加熱範囲が溶接開先面6から100mmを超えても、本発明の効果を享受できるが、このような場合、広い幅を簡易な熱処理装置によって熱処理する必要性が生じること、および実質的に直径200mmを僅かに超える程度の鋼管や鋼部材であれば、これが全体加熱と同様の効果および、後述する局部加熱による効果が実質的に得られなくなることと、熱処理時間が長くなること等、施行コストの観点から溶接前熱処理の加熱範囲は、溶接開先面6から100mm以下とする。
なお、図3中の符号8は、溶接前熱処理を付与すべき最低幅を示し、符号9は、当該熱処理を付与すべき最大幅を示す。
以上説明したような、熱処理条件および熱処理付与方法によって、Type IV損傷の原因となるM23C6型炭化物は、溶接熱影響を受ける部位において、完全に固溶した状態とすることが出来る。
<溶接後熱処理ならびに金属組織>
次に、本発明に係る高強度フェライト系耐熱鋼構造体の金属組織ならびに溶接後熱処理の詳細について説明する。
本発明の溶接後熱処理とは、開先を溶接した後に開先面から母材に向かって、20mm以上100mm以内、かつ構造体の体積の50%以下の部位を720℃以上760℃以下に加熱して、該加熱温度に1時間以上保持する処理である。
ここで、溶接後熱処理は通常、(母材の焼戻し温度−20)℃以下の温度にて、板厚に応じた時間だけ付与することが一般的であるが、母材と同じクリープ破断強度を発揮させるためにはM23C6型炭化物の析出状態を母材と同等に制御する必要がある。好ましくは溶接後熱処理温度が溶接前の母材の焼戻し温度と同等である事だが、溶接後熱処理は同時に溶接金属も加熱するため、そのクリープ強度についても同時に留意しなければならない。
溶接金属は通常、溶接により得られる凝固組織が継手のクリープ強度向上を図れるよう、特に溶接金属の高温強度低下を避けるために、溶接後熱処理の温度を母材の焼戻し温度よりも20℃以上低い温度とすることを前提とした合金設計となっているのが通例である。つまり、溶接金属の合金は、低温で焼戻した場合でも母材と同等の高温強度を発揮するように設計されている。ただし、母材の化学成分は10万時間後のクリープ破断強度を向上させるために最適化されたものであるから、初期の高温強度を重視した溶接金属は、継手全体として規格の許容応力に影響しない範囲(破断強度の平均値−5%以内の値を有する)でクリープ強度が低いことが一般的である。したがって、母材の焼戻し条件と同一の溶接後熱処理を付与することは、溶接金属の高温強度の低下および継手としてのクリープ強度の観点の両方から好ましくない。
そこで、本発明では金属組織における析出物の制御によってこの課題を解決することとした。
母材の組織と溶接継手の組織を比較したとき最も大きく異なるのは旧γ粒径とその内部の亜粒界の形状、さらには析出物の形態(主にM23C6型炭化物の形態)である。これらの組織上の違いの内、結晶粒径や亜粒界の形態的変化はクリープ破断強度には大きく影響しない。一方でM23C6型炭化物の形態はクリープ破断強度に大きく影響し、このことがType IV破壊の最大の原因となっていることから、本発明者らは、溶接熱影響部のM23C6型炭化物の存在状態を母材と同等にすれば良いことに着目した。しかし、通常の溶接継手において、これを実現する事は容易ではない。その最大の理由は、溶接熱サイクルによって、M23C6型炭化物を溶接後の焼戻し処理の制御によって母材同等に制御することが出来ないからである。その最大の原因はM23C6型炭化物の溶接熱サイクルによる不完全固溶を通じた粗大化である事は既に述べた。しかし、本発明のように、上記の溶接前熱処理を予め実施し炭化物を完全に再固溶させていれば、溶接完了時において、溶接熱影響部にM23C6型炭化物が全く析出していない状態とすることができ、続く溶接後熱処理によって炭化物の析出形態を制御することが可能となるのである。
本発明者らは、母材と同じクリープ破断強度を発揮させるために、溶接熱影響部において母材同等のM23C6型炭化物の析出形態を実現すべく検討した。その結果、母材の出発組織、すなわちクリープ試験前の初期状態の組織を参照して、M23C6型炭化物平均粒子直径が150nm以下であり、M23C6型炭化物による大角粒界の被覆率が40%以上となることが必要である事を見いだした。これらの条件は本発明に係る化学成分特有のものであり、化学成分依存性を有する。
なお、本発明における「大角粒界」とは、隣接する結晶方位が<110>共通回転軸まわりで比較して、相対的に15°以上となる結晶の境界または粒界のことを示す。
M23C6型炭化物は溶接後熱処理中に析出するが、その大きさは溶接後熱処理条件によって概略決定する。図4は溶接後熱処理(PWHT)温度と、溶接熱影響部中のM23C6型炭化物のサイズ(円相当直径)の関係を示すグラフである。
ここで大角粒界上の析出物の円相当直径は次のごとくして求めた。
まず、溶接後熱処理を施した後の試験片の断面組織を走査型電子顕微鏡で観察し、次いで、フェライト組織を構成する粒界構造をより詳細にEBSP(電子線後方散乱回折パターン解析装置)にて観察した。その中で、隣接する結晶方位差が15°以上で、なおかつ隣接結晶方位間の<110>共通回転軸回りの角度が、マルテンサイト変態時に選択される、ブロック粒界特有の回折角、すなわち54°と60°、および16°のものを画像処理して「ブロック粒界(大角粒界)」と決定し、その大角粒界上に析出する、M23C6型炭化物の結晶構造と同じ電子線回折パターンを有する析出物のみを特定した。そして、それら析出物の10000倍の電子顕微鏡写真を元に、断面上の粒子の直径を写真上で決定した。
10000倍の画像写真は一つの継手の熱影響部で5視野以上を観察し、その粒子全てについて析出物の断面積を測定し、これが全て円であると仮定して、面積から逆算して円相当直径とした。
図4のグラフから、溶接後熱処理温度が760℃以下であれば、当該円相当直径が150nm以下となる事が明らかである。
なお、M23C6型炭化物の析出位置は主に大角粒界であり、粒内には析出しがたい。したがって母材の組織を電子顕微鏡で観察すると、M23C6型炭化物が粒界を被覆する割合(粒界被覆率)は概略40%以上であることを別途、本発明の範囲内の鋼の試作材(母材)で確認した。
図5に、溶接熱影響部の組織モデルと粒界の析出物による被覆率の計測方法を説明するための、大角粒界近傍の断面概略図を示す。なお、図5中のL〜Lは、各析出物(析出物A〜C)の長さを示し、La及びLbは、大角粒界長さを示す。
「粒界被覆率」とは、図5に示すように、大角粒界11上の析出物長さの総和(図5では、L〜Lまでの総和、)を大角粒界長さの総和(La+Lb)で除した値で有り、完全に被覆されている場合は100%となり、全く被覆していない場合を0%と判断するパラメータである。
「粒界被覆率」は、まず1万倍の電子顕微鏡観察により、大角粒界上に析出した粒子を、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)または同じく1万倍の薄膜透過型電子顕微鏡解析における透過電子線回折パターン解析によってM23C6型炭化物と判断出来る析出物を特定する。そして、その粒子が大角粒界を被覆する長さを測定し、当該測定を、少なくとも1試料あたり5視野、1合金あたり5個以上の試験片を採取して行い、合計25試料以上のその場観察、または電子顕微鏡写真の解析によって求めることができる。
母材におけるM23C6型炭化物の粒界被覆率は概略40%以上であることが前記のとおりであるが、溶接熱影響部も、この40%をしきい値として考えることができ、この値以上の粒界被覆率を達成するべく、同様に溶接後熱処理温度との関係を解析した。溶接後熱処理温度とM23C6型炭化物による大角粒界被覆率の関係を図6に示す。
図6のグラフに示すとおり、溶接後熱処理温度が720℃以上であれば、M23C6型炭化物による粒界被覆率は、その析出と成長によって40%を超えることが明らかである。一方で、溶接後熱処理温度が760℃以上ではM23C6型炭化物の粗大化が加速されることによりかえって粒界被覆率は低下し、40%未満となることも分かる。
以上説明してきた、本発明の溶接継手を形成する鋼の化学成分範囲における精密な検討によって、溶接後熱処理の温度範囲を720℃〜760℃に限定する。なお、粒界被覆率に関する焼戻し時間の限定は、本来、析出現象が体拡散律速である場合には存在するが、図4および図6においては溶接後熱処理時間を1時間および2時間に限定して実施したため、その効果は顕著では無い。溶接後熱処理は溶接継手の残留応力除去、または水素遅れ破壊防止の観点から実施するものであり、この目的からマルテンサイト系耐熱鋼では最低温度である720℃で少なくとも1時間必要であり、長いほど好ましいことから、最低1時間以上必要とする。
本発明範囲内の鋼成分を有する溶接継手の、700℃、1千時間促進クリープ破断強度(650℃、10万時間クリープ試験相当の簡易温度加速クリープ試験条件)と溶接後熱処理温度の関係を図7に示す。溶接後熱処理時間は2時間である。
図7のグラフに示すとおり、溶接後熱処理温度が760℃を超える場合は、溶接熱影響部のM23C6型炭化物の平均直径が150nm以上となってしまい、結果的に大角粒界被覆率も40%以下となり、本発明が目標とする、母材のクリープ破断強度80MPaを超えないことがわかる。また、溶接後熱処理温度が760℃を超える場合には、溶接金属が軟化しすぎるために溶接金属破断(図中●)が頻発することが分かる。また、溶接後熱処理温度が720℃未満の場合、大角粒界上のM23C6型炭化物の占有率が40%未満となって、その場合でもクリープ破断強度は低下することが分かる。
なお、一般に厚手鋼板では板厚の関数で施工条件を定めることが有り、必要PWHT時間(TP)は、板厚tが25mmを超える場合には、
TP≧(t/25+1)×60分、
にて概略決定される。
本発明もおおよそこの式に従うことが可能である。一方、溶接後熱処理の処理時間をあまりに長時間とすると、本発明の効果はさらに高まるものの、施工コストの増大を招くことから、最長168時間(1週間)とすることが好ましい。
本発明の最大の特徴は、既に述べた「溶接熱サイクルによるHAZにおける炭化物の粗大化の完全防止を目的とした溶接前熱処理」と当該熱処理効果を発揮する本化学成分の組み合わせである。そのうちでも最も重要な溶接前熱処理の適用において、特許文献1〜4に記載の技術との最大の相違点は、「局部加熱」に限定していることにある。この「局部加熱」の適用の効果は既に記載したが、「溶接部材の全体加熱」よりも「局部加熱」がクリープ強度において有利であることがもう一つの特徴である。
「局部加熱」がクリープ強度において有利である理由を以下に詳述する。
特許文献1〜4に記載の技術は「溶接前熱処理」を、溶接部材、例えば鋼管(熱交換器の場合は定尺12m)全体に対し、溶接の開先加工後に行う。このため、全鋼管中に残留γが生成してしまう。
このような大型部材ではどうしても製鋼一貫工程で製造した鋼材における材質不均一は完全には払拭できない。例えば、本発明で添加するWやV等の元素は、その濃度が高濃度となる偏析部分が存在する。
つまり、このような偏析部分を有する部材を全体加熱して残留γを生成した後に、溶接した継手での細粒域生成を防止し、かつM23C6型炭化物の粗大化を防止できたとしても、その後のPWHTもまた、溶接後の部材全体に実施しなければ、溶接熱影響とは無関係の母材は残留γを残したままの組織となってしまうからである。
もし、鋼材全体の残留γを完全に分解したい場合は、9%以上の高Cr鋼においては、760℃以上で少なくとも1時間以上の熱処理を行って十分な偏析元素の拡散を生じさせなければならないことが、本発明者らの研究によって明らかとなった。ところが、既に述べたごとく(母材の焼戻し温度−20)℃の温度でのPWHTを鋼材全体に実施する場合、母材の焼戻し温度が740〜780℃の間に規定されている従来鋼や、Ac1変態点が800℃以下となるフェライト系耐熱鋼では、例えば母材の焼戻し温度を780℃以下とすると、PWHTは760℃未満となる可能性があって、残留γの完全分解は実現しない可能性を残すこととなる。
すなわち、「溶接部材の全体加熱」の場合は、溶接後熱処理も全体加熱となり、母材に残留γが残存する事を回避しようとすれば、極めて限定された焼戻し温度、PWHT温度にする必要がある。しかしながら、実際のPWHT施工装置の加熱能力は、温度の精度が±20℃であるのが実態であり、厳格な温度管理には必ずしも対応していない。
このことから、部材全体に対し溶接前熱処理を行う場合、現地施工性までを考慮すると、母材の残留γの存在可能性を完全には否定できない。すなわち残留γが少なからず存在するまま、このような鋼材を高温機器(例えばボイラ等)に適用すると、残留γ起因の変形や割れが生じるおそれがある。
ボイラ等の高温圧力機器の使用温度は、現在600℃程度であるから、残留γの分解には時間がかかり、場合によっては数千時間を要すると考えられる。この間、使用環境において残留γはフェライトと炭化物に徐々に変態していくことで熱膨張を生じる。この局部的な熱膨張は当然、部材の変形、または割れを誘引することから、残留γの存在は許容されていない。つまり、残留γが存在する可能性のある材料は実環境に適用できない場合がある。
これに対して、「局部加熱」の場合は、母材の残留γ生成は全くない。また、溶接継手の開先面から100mm以内の部位のみを加熱することから、当該部位に残留γの生成の可能性が生じるが、加熱範囲が狭いために温度制御は極めて容易で有り、全体加熱の場合に比較して遙かに残留γの存在確率は小さい。また、仮に僅かに残留するγがあったとしても、開先面から片側100mm以内の範囲にのみ熱処理を実施する場合は、熱膨張の影響を残留γの無い母材部位でも担保することでその影響を著しく軽減できる。
実際に、溶接前熱処理を部分的に限定して適用する本発明の効果が、以上に述べた残留γの存在によって低減されてしまう場合とは、溶接前熱処理を、溶接開先面から片側100mmを超えて付与する場合である。
すなわち、溶接部に施工する「溶接前熱処理」の施工範囲が溶接開先面と母材表面の接する部位よりも100mm超となり、溶接継手を含む部材(構造体)そのものの大きさが、溶接金属部分の幅を除外して200mm以上となり、溶接前熱処理の溶接継手を含む部材に占める施工幅(長さ)の割合が構造体の幅または長さの50%を超える場合に、母材に生成する残留γの影響が現れ、残留γの生成量が0.2体積%という軽微な場合でも、クリープ条件における残留γの分解によって生起する熱応力割れのために、クリープ寿命が短くなり、結果としてクリープ破断強度が低下する事になる。換言するに、構造体の体積の50%以上の部位において、金属組織における残留γの面積率が0.2%以下であれば、残留γ起因の熱膨張による変形へ割れを防止できる。なお、残留γの面積率が0.2%以下である部位は広ければ広いほどよく、構造体の体積の100%であることが好ましいことは言うまでもない。
本発明に係る構造体は、溶接前熱処理の施行幅または長さが、構造体の幅または長さの50%以下であることを特徴とするが、溶接前熱処理を施した部位は以下のようにして見分けることができる。
「溶接前熱処理の施行幅または長さ」よりも「溶接後熱処理の施行幅または長さ」が小さい場合、得られた構造体には、M23C6型炭化物が析出していない領域が存在することになる。そのため、M23C6型炭化物が析出していない領域が存在する場合は、当該領域が、溶接前熱処理が施されたか否かの境界と判断できる。
一方、溶接前熱処理を施していない部位に溶接後熱処理を施しても、M23C6型炭化物による粒界被覆率を40%以上まで向上させることができない。したがって、「溶接前熱処理の施行幅または長さ」よりも「溶接後熱処理の施行幅または長さ」が大きい場合は、溶接前熱処理が施された否かの境界は、M23C6型炭化物による粒界被覆率が40%以上であるか否かで判断できる。
なお、M23C6型炭化物の有無やM23C6型炭化物による粒界被覆率は、上記のように、電子顕微鏡観察または薄膜透過型電子顕微鏡解析における透過電子線回折パターン解析によって確認できる。
図8は溶接前熱処理を付与する範囲(施工幅(長さ))の、溶接継手を含む部材あるいは構造体全体に占める割合と、700℃、1千時間促進クリープ破断試験(650℃、10万時間クリープ試験相当の簡易温度加速クリープ試験)時の母材クリープ破断強度(10万時間推定クリープ破断強度)の関係を示すグラフである。溶接前熱処理温度は1100℃、溶接前熱処理時間は2時間、溶接後熱処理時間は2時間である。
熱処理の施工幅の、溶接継手を含む部材あるいは構造体全体に占める割合が50%を超えるとき、母材自体の10万時間推定クリープ破断強度は、熱応力割れ起因によって、目標とする80MPaを下回り、その割合が増大するほど、強度は低下することが分かる。すなわち、この場合は母材で破断し、目的とする溶接継手は達成出来ないことになる。この結果は、良好であった試験結果○と区別して、●にて図中に示した。目標値を下回ったクリープ試験片の解析によって、破断位置には全て残留γが分解したと推定される粗大炭化物とα相が観察された。なお、これら粗大炭化物とα相は、周囲の焼戻しマルテンサイト組織とは異なることから、明瞭に区別することが出来た。
なお、この熱応力割れは、例えば溶接継手を含む部材あるいは構造体を発電設備に適用した場合にはその操業条件によっても影響を受ける。
月単位で最高蒸気温度の上昇、下降を実施して発電量を調整するMSS運転(Monthly Start and Stop)の場合を基準として熱応力の発生を再現した場合は、残留γが構造体全体に占める割合でほぼ50%以下の場合で熱応力割れは回避できるが、より頻度高く蒸気温度を上下させるWSS運転(Weekly Start and Stop)の場合には40%以下、毎日温度を周期的に変動させるDSS運転(Daily Start and Stop)運転の場合には30%以下である事が、これまでのプラント操業経験の上からは好ましい。このことは、溶接線が例えば管軸に対して垂直の、いわゆる「周溶接継手」において顕著である。
一方、溶接線が管軸に対して平行な場合は、例えば発電用ボイラの配管に見られるが、これは大直径の鋼管となり、350〜700mmの直径があるとすると周長さは1100〜2200mmと大きく、このうち片側100mm、最大で200mmの部位に熱膨張がおきたとしても、他の部位(例えば母材等)での膨張応力緩和が容易である。また、溶接前熱処理幅を実際の溶接熱影響部幅を考慮して狭くする場合は、さらに影響を減ずることが可能となる。
一方で、一般的に、「局部加熱」による熱処理はいかなる場合でも、共通の「中間温度加熱帯(中間温度域)」の問題を有する。すなわち、目標とする温度に、対象とする部位のみを加熱すると、その隣接した部位では、目標温度よりも低い温度帯に加熱され、目的とする組織や効果が現出しない部位が生じる可能性と、低温部位で特殊な組織変化を生じる可能性を常に考慮しておく必要がある。
しかし、本発明の場合には、この点の問題が生起しない点がもう一つの特徴である。
すなわち、溶接前熱処理を1000〜1250℃で実施した場合、その隣接部位は1000℃以下の温度帯に再加熱される。このような場合では、炭化物の不完全固溶が生じる可能性も考えられる。しかし、炭化物の不完全固溶は、溶接熱影響のような僅か数秒間だけ加熱されるような場合、つまり炭化物の分解再固溶に必要な時間が十分に与えられない場合にのみ生じるのであって、相変態後に十分な保持時間さえ与えられれば、γ相の炭素の固溶限がα相に比較して遙かに大きいことから、炭化物の分解固溶は完了することとなり、不完全固溶炭化物は生じないのである。したがって、本発明に係る溶接前熱処理は、中間温度域における炭化物の粗大化の懸念が無いことが特徴である。
なお、組織の細粒化は中間温度域で生じることは従来鋼であれば十分にあり得るが、本発明に係る耐熱鋼は、B濃度が高く、剪断型のα→γ変態が生じることで細粒化しないことにより、結晶組織についても、母材と同等になる事が理論的に明らかである。
PWHT処理を局部的に実施する事については、応力除去焼鈍の目的からは中間温度域について考慮する必要が無く、母材と同等な組織の粒界にM23C6型炭化物を析出させる処理としては、溶接熱影響を受けていない母材部分までを含んで熱処理を実施する関係上、限定したPWHT温度を厳守さえすれば、全く問題ないことが同様に明らかである。
すなわち、本発明の化学成分と溶接前熱処理においては、中間温度域の加熱について考慮する必要がなく、「局部加熱」による溶接前熱処理を実施することが有効で、かつ技術として「局部加熱」を実施する事で「全体加熱」に対して残留γの影響を軽減できる点で望ましく、また特性が優れている。
なお、本発明は溶接継手(溶接熱影響部及び溶接金属)を備えた耐熱鋼構造体に関し、中でも溶接熱影響部の特性に関する技術である。
したがって、本発明においては、溶接継手の構成要素ではあるが、溶接金属成分については特に限定しない。また、溶接金属はフェライト系の共金成分系であっても、オーステナイト系あるいはNi基合金であっても良く、何れの場合も溶接熱影響部からType IV破壊することなく、また溶接金属破断が生じさえしなければ、本発明の効果に影響を及ぼさない。
次に、本発明の耐熱鋼の化学成分について述べる。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
C:0.03〜0.12%
Cは、炭化物を生成し、焼入れ性を高める元素である。本発明では、クリープ破断強度を向上させるために、C量を0.03%以上とする。析出強化能を高めるには、0.05%以上のCを添加することが好ましい。一方、C量が多すぎると、析出物が粗大になり、粒界の占有率が低下するため、C量を0.12%以下とする。また、C量が過剰であると、粒界に生成した炭化物が粗大化し、クリープ破断強度を低下させることがあるため、C量を0.10%以下にすることが好ましい。
N:0.003〜0.015%
Nは、窒化物を形成する元素であり、VNを析出させて初期のクリープ強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を享受するために、Nを0.003%以上を含有させる。また、耐火物等から混入するAlがNと結合し、VN生成のためのN量を十分に確保できない場合がある。このような場合を考慮すると、N量は0.005%以上が好ましい。しかし、N量が0.015%を超えると、BNが析出する場合があるため、上限を0.015%とする。また、Nは、中性子の照射により放射化して鋼を脆化させる元素であることから、耐熱鋼を原子力発電のプラントに使用する際には、N量を0.010%以下にすることが好ましい。
B:0.010〜0.020%
Bは、固溶状態(粒界に偏析した状態を含む)では鋼材の焼入れ性を高めて、転位密度の高いマルテンサイト組織、下部ベイナイト組織を生成させる元素である。本発明では、Bは、炭化物、金属間化合物に固溶して熱的な安定性を高め、これら析出物の粗大化を遅延させるか、あるいは硼化物として析出し、析出強化能を高める極めて重要な元素である。クリープ破断強度の向上にはBを0.010%以上添加する必要があり、0.012%以上の添加が好ましい。一方、Bを過剰に添加すると、溶接性が劣化することから、B量は0.020%以下とすることが必要である。溶接入熱を大きくする必要がある場合は、B量を0.017%以下にすることが好ましい。より好ましいB量は0.015%以下である。
V:0.10〜0.50%
Vは、Nと結合して窒化物を生成する元素であり、粒内にNbCに整合して複合析出する。本発明では、クリープ破断強度を高めるために、0.10%以上のVを添加する。析出強化の効果を高めるには、0.15%以上のVの添加が好ましく、0.17%以上のVの添加がより好ましい。一方、0.50%を超えるVを添加すると、粗大なVCが析出して靱性に影響するため、V量を0.50%以下とする。靱性を高めるためには、V量を0.40%以下にすることが好ましく、より好ましいV量は0.35%以下である。
Si:0.02〜0.45%
Siは脱酸元素であり、0.02%以上を添加する。脱酸の効果を高めるためには、0.10%以上のSiを添加することが好ましい。また、Siは、耐酸化性の向上にも有効であり、0.20%以上を添加することがより好ましい。一方、0.45%を超えるSiを添加すると、Siを含む酸化物が脆性破壊の起点となって靭性を損なうことがある。また、過剰なSiの添加は、固溶しているWのサイトに置換してFeWの析出を促進し、クリープ破断強度が低下する場合があるため、Si量は0.45%以下とする。靭性を高めるには、Si量は0.40%以下が好ましく、0.35%以下がより好ましい。
Mn:0.20〜0.60%
Mnは脱酸剤であり、本発明では0.20%以上を添加する。脱酸が不十分であると靱性が低下するため、0.35%以上のMnを添加することが好ましい。一方、Mnは、オーステナイト生成元素であり、転位の易動度を上げて局部的に組織回復を加速させるため、過剰に添加するとクリープ特性が劣化する。本発明では、クリープ強度を確保するために、Mnを0.60%以下とする。クリープ破断強度を更に高めるには、Mn量を0.55%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.50%未満とする。
Cr:8.0〜11.0%
Crは、鋼材の焼入れ性を高め、炭化物として鋼材を析出強化させる重要な元素である。650℃以上の高温で高いクリープ破断強度を得るには、Crを主体としたM23型炭化物の量を確保し、かつ、過剰な粗大化を抑制することが必要であり、本発明では、8.0%以上を添加する。耐水蒸気酸化特性を考慮すると、8.5%以上のCrを添加することが好ましい。一方、Crを過剰に添加すると、650℃の温度ではM23の粗大化が加速し、クリープ特性が劣化するため、Cr量を11.0%以下とする。Cr量を9.5%以下とすることが好ましく、より好ましいは9.20%以下である。
W:2.00〜4.00%
Wは、Feとの金属間化合物を形成し、クリープ特性の向上に寄与する元素である。2.00%以上のWを添加すると、長期間の使用中に金属間化合物が析出し、クリープ破断強度に大きく寄与する。また、粒界への析出密度を向上させるために2.5%以上のWの添加が好ましく、2.7%以上のWの添加がより好ましい。一方、Wを過剰に添加すると、FeW型金属間化合物(Laves相)の粗大化が速くなるため、W量を3.5%以下とする。Laves相の粗大化を抑制するには、W量を3.3%以下にすることが好ましく、3.2%以下がより好ましい。
Nb:0.02〜0.10%
Nbは炭化物を生成する元素であり、粒内に析出してクリープ破断強度の向上に寄与する。NbC型炭化物がVNと複合析出すれば、転位の動きを効果的に抑制することができるので、比較的短時間のクリープ強度を維持するためにはNb量を0.02%以上とする。また、NbCによる粒内析出強化能を向上させるには0.03%以上のNbの添加が好ましく、0.04%以上のNbの添加がより好ましい。一方、0.10%を超えてNbを添加すると粗大なNbCとして析出し、靱性を損なうことから、Nb量を0.10%以下とする。NbCを微細に析出させるには、Nb量を0.08%以下にすることが好ましく、0.07%以下がより好ましい。
Co:0.50〜3.00%
Coは、オーステナイト安定化元素であり、焼入れ性を向上させ、靱性を高める元素である。Coは変態点を変化させない唯一の元素であり、本発明者らは転位の易動度を低下させるというCoの効果も知見した。本発明では、クリープ破断強度を高め、フェライト相(δフェライト)の生成を抑制するために、0.50%以上のCoを添加する。Co量の下限は、効果を高めるために、0.7%以上が好ましく、より好ましくは1.0%以上を添加する。一方、Coは、σ相の析出を促して靱性を損なう場合があることから、Co量を3.0%以下とする。Co量は2.5%以下が好ましく、より好ましくは2.3%以下である。また、原子力発電プラントなど、中性子が照射される環境では、Coが放射化するとともに、中性子照射脆化により靱性が損なわれることがあるため、このような場合は、Co量を1.50%以下にすることが好ましい。
本発明では、スクラップなどの冷鉄源や、耐火物から不純物として混入するMo、Ni、Cu、Alの含有量を以下の範囲に制限する。
Mo:0.05%未満
Moは、FeWや炭化物M23に一部固溶し、また同時にMoC、MoC型の炭化物を生成させ、析出物の粗大化を促進し、長期のクリープ特性に悪影響を及ぼすため、含有量を0.05%未満に制限する。Moを主体とする硼化物は粗大化しやすく、クリープ破断強度を低下させるので、Mo量を0.03%以下と制限することが好ましい。また、Moは、中性子照射により放射化して鋼を脆化させる元素であることから、原子力発電プラントに使用する際には、Mo量を0.01%以下に制限することがより好ましい。
Ni:0.10%未満
Niは、靭性の向上や、オーステナイトの安定化に有効な元素であるが、転位の易動度を高め、クリープ破断強度を著しく低下させることから、本発明ではその含有量を制限する。本発明では、長時間のクリープ破断強度の低下を抑制するため、Ni量を0.10%未満に制限する。クリープ特性を高めるには、Niの含有量は、0.05%以下に制限することがより好ましく、更に好ましくは0.03%以下に制限する。
Cu:0.05%未満
Cuは、オーステナイトの安定化に有効な元素であるが、本発明のように焼準し−焼戻しにて製造する場合は、鋼中にε−Cu(金属Cu)として単独で析出する。熱間加工時に1100℃以上に加熱されると、鉄が選択的に酸化され、Cuが粒界に集まった場合には局部的な低融点金属集積帯が形成され、粒界剥離割れを誘引する(赤熱脆性)ことがある。この場合、母材の靱性が低下する。このように、本発明では、Cuは、オーステナイトの安定化への寄与が小さく、熱間加工性が低下することから、Cu量を0.05%未満に制限する。製造性を高めるには、Cuの含有量は、0.03%以下に制限することがより好ましく、更に好ましくは0.01%以下に制限する。
Al:0.005%未満
Alは、本発明ではNと結合し、VNによる析出強化を阻害し、粒内強化の効果を低下させるため、その含有量を0.005%未満と制限する。微量のAlによってクリープ破断強度が低下するため、Al量は、0.003%以下に制限することが好ましく、0.002%以下に制限することがより好ましい。
また、本発明においては、P、S、Oは不純物であることから、含有量を以下のように制限する。
P:0.020%未満
Pは、粒界に偏析し、粒界破壊を助長して靱性を低下させるため、含有量を0.020%未満に制限する。
S:0.010%未満
Sは、Mnと結合し、粗大なMnSの形成による靱性の低下を防止するため、含有量を0.010%未満に制限する。
O:0.010%未満
Oは、脆性破壊の起点となる酸化物のクラスターを形成し、靭性を低下させるため、含有量を0.010%未満に制限する。
本発明では、必要に応じて、Nを固定するために、Ti、Zrの一方又は両方を添加することができる。
Ti:0.005〜0.15%
Tiは、Bに比べてNとの親和力が極めて強い元素である。TiNの形成によってBNの析出を抑制し、炭化物の粗大化を抑制するBの効果を高めるために、Tiを0.005%以上添加することが好ましい。より好ましくは、Ti量を0.010%以上とする。一方、Tiを過剰に添加すると、粗大なTiCが析出し、靭性が低下することがあるため、添加量を0.15%以下とすることが好ましい。より好ましいTi量は0.10%以下であり、更に好ましい上限は0.08%以下である。
Zr:0.005〜0.15%
Zrは、Tiよりも更にNとの親和力が強く、Bの効果を高めるために、0.005%以上を添加することが好ましい。より好ましくは0.015%のZrを添加する。一方、Zrを過剰に添加すると、粗大な酸化物が生じて、靭性を損なうことがあるため、添加量を0.15%以下にすることが好ましい。靱性の安定という観点からは、より好ましいZr量は0.10%以下であり、更に好ましいZr量は0.08%以下である。
更に、本発明では酸化物や硫化物などの介在物の形態を制御するため、Ca、Mg、Y、Ce、Laの1種又は2種以上を添加することが好ましい。
Ca、Mg:0.0003〜0.0050%
Y、Ce、La:0.0100〜0.0500%
Ca、Mg、Y、Ce、Laは、硫化物の形態制御に用いられる元素であり、MnSによる熱間加工性や靭性の低下を抑制するために、1種又は2種以上を添加することが好ましい。特に、板厚中心部において圧延方向に延伸したMnSの生成を防止するため、それぞれ、CaとMgは0.0003%以上、Y,Ce,Laは0.010%以上添加することが好ましい。一方、Ca、Mg、Y、Ce、Laは、強力な脱酸元素でもあり、過剰に添加すると酸化物のクラスターが生成し、靱性を低下させることがあるため、それぞれ、Ca,Mgについては0.0050%以下、Y,Ce,Laについては0.0500%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Ca,Mgは0.0040%以下、Y,Ce,Laは0.0300%以下であり、Y,Ce,Laは、更に好ましくは0.0200%以下とする。
上述してきた本実施形態及び他の実施形態においては、上記した元素以外の残部は実質的にFeからなり、不可避不純物をはじめ、本発明の作用効果を害さない元素を微量に添加することができる。
以上、本実施形態に係る高強度フェライト系耐熱鋼構造体およびその製造方法について説明してきたが、本発明において、開先形状は特に限定せずとも本発明の効果は十分に発揮できる。すなわち、本実施形態で説明した「V開先」のほか、「X開先」、「I開先」、「K開先」など、用途やサイズ等によって適宜選択してよい。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
なお、以下に示す実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。また本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表3、4に示す化学成分を有する鋼を、電気炉による溶解、または銑鋼一貫工程を有する製造プロセスにより、溶解−鋳造してインゴットとなし、続いて熱間圧延または熱間鍛造によって必要な形状である鋼管または鋼板の形状に熱間加工した後、1000℃〜1180℃の温度範囲にて「焼準し」して鋼中にマルテンサイト組織を形成し、続いて720℃〜790℃の温度範囲にて1時間以上焼戻すことにより組織を「焼戻しマルテンサイト」単相とし、同時に材料を軟化させた後に鋼管または鋼板を焼戻し温度以下の温度に再加熱して実施する熱間加工あるいは冷間での加工を施して所望する最終形状を得た。表5に得られた構造体の最終形状(「鋼管」または「鋼板」)を示す。
これら加工の終了した鋼管または鋼板に溶接開先を加工し、表5に記載の方法で「溶接前熱処理」した。使用した開先はV開先で、開先面の角度は片側15°、ルートの突合せ部は厚み1mmとした。
その後に、溶接入熱量を約0.5〜5.0kJ/mmとし、実施例No1〜No16は、GTAW(タングステン電極を用いたガスシールド方式被覆アーク溶接)、実施例No17〜No22は、SMAW(手棒式被覆アーク溶接),実施例No23〜No28は、SAW(サブマージアーク溶接)を用いて溶接した。続けて表5に示した条件で溶接後熱処理を継手に実施した。なお、溶接ワイヤにはインコネル625(登録商標)Ni基合金相当の成分の溶材を用いた。溶接金属の化学成分を表2に示した。これら溶接方法による継手のクリープ強度への影響は、特段に見られていない。
溶接継手の特性を評価するために、本発明の特徴であるクリープ特性を測定する目的で、平行部直径6mm、平行部長さ30mmのツバ付き丸棒試験片を、溶接継手の熱影響部が平行部内に存在するように、溶接方向と垂直な方向で、鋼管または鋼板の板厚方向に対し垂直な方向から採取して、700℃1千時間のクリープ試験(本発明の溶接継手の曝される想定環境である650℃、10万時間相当のクリープ試験とほぼ等価な組織変化を材料に与えると想定する条件)を実施した。
さらに、構造体の残留γ量をX線回折ピーク高さ検量線法によって測定した。なお、開先より溶接線に直交する方向に向かって、溶接金属、HAZ、母材を含むよう10点測定し、5点以上、すなわち鋼管の長さまたは鋼板の幅の50%以上の部位で残留γの量が0.2体積%以下の場合を良好なものとして判断した。
結果を表6にRAAとして示した。表中の「○」は良好、「×」は不良であったことを示す。
溶接後熱処理をした後、溶接線に対し垂直な断面で切断し、メタルフロー腐食を行い、HAZを現出した。HAZから、鋼試料を採取し、電子顕微鏡用試料に加工した後、走査型電子顕微鏡を用いて粒界のM23C6系炭化物の占有率(被覆率)を測定した。この場合のM23C6系炭化物の特定は、EDX(電子線散乱型X線分光分析装置)によってCrのピークを有するものをM23C6系炭化物と仮定した。本発明の化学成分ではFe2W型の金属間化合物も析出するが、その析出はクリープ中、数百時間で初めて開始するものであるから、溶接後熱処理の時点では存在しない。その測定法は図5に準じた。また、走査型電子顕微鏡観察の前に、あらかじめ粒界の隣接結集粒同士の角度をEBSD(電子線後方散乱回折装置)にて解析しておき、M23C6系炭化物による被覆率を測定している粒界が大角粒界、特に110共通回転軸周りの角度が60゜、54゜であることを確認した。今回の試験では16゜の粒界がほとんど確認できなかったためである。
また、母材の特性については、溶接継手の場合と同じ形状のクリープ試験片を、溶接しない鋼から、平行部が全て母材の組織となるように、溶接開先を形成しない部位より採取して、溶接継手と同一の試験条件にてクリープ試験を実施して評価した。母材は650℃10万時間で80MPa以上のクリープ強度を有する事が、700℃1千時間の温度加速クリープ試験で確認できているので、母鋼のクリープ強度のしきい値は80MPaとした。
結果を表6にBCR(MPa)として示した。
また、同様に母材ではJIS Z2242に記載の2mmVノッチCharpy衝撃試験を、10mm角,55mm長さの試験片中央部に45°のV開先を施したものについて、室温で実施した。母材には構造体として加工するための目安として、室温にて27J以上の吸収エネルギーが必要とされることから、そのしきい値を27Jとした。
結果を表6にBCH(J)として示した。
表6には本発明の骨子となる、溶接熱影響部の大角粒界上に析出したM23C6系炭化物の円相当平均粒径R(nm)、大角粒界上の同析出物による長さ占有率(被覆率)P(%)、溶接継手の700℃1千時間のクリープ強度と母材のクリープ破断強度の比を100分率にて%で表してCRHAZとして示した。CRHAZは理論的には100%を超えないが、温度加速試験の精度の関係から100%を超える場合も推定値のばらつきの範囲としてあり得る。
なお、本発明では本発明の効果が発揮されていることを判定するに際して、溶接継手の温度促進クリープ試験(700℃1千時間の、650℃10万時間相当クリープ試験を称して温度促進クリープ試験ともいう)結果が、ASME規格、ASTM規格等が定める母材のクリープ強度の許容ばらつき範囲である5%以内であることを目安とした。
なお、実際にはクリープ破断試験片の破面観察も同時に実施し、Type IV損傷発生有無も同時に確認したが、前記判定基準で合格となる、溶接継手の温度促進クリープ試験におけるクリープ破断試験強度が母材のクリープ破断試験強度の95%以上である場合、Type IV損傷が発生していないことを確認した。すなわち、HAZ外縁に沿って、クリープボイドの連結した低延性破面が生成していないことを確認した。また、表5には、溶接継手に施した溶接前熱処理の条件(施工した溶接開先中心からの片側の幅または長さ、熱処理温度、熱処理時間)および溶接後熱処理条件(溶接後熱処理温度、後熱処理時間)を記載した。また、鋼板あるいは鋼管の厚みについても記載した。
表7、8には、比較鋼の化学成分を、表9にはその溶接継手製造条件と溶接前熱処理、溶接後熱処理の処理条件、さらにはクリープ特性を表5と同様に示した。なお、比較例では全てGTAWにて溶接した。
なお、表3、4に示した化学成分の本発明鋼の細粒HAZにおいて大角粒界上に観察されたM23C6系炭化物の化学組成の内、Mの構成は、実質的に70%以上がCr,Fe,Wからなっていることを、別途溶接継手の評価用クリープ試験片作成の際に透過電子顕微鏡観察用試験片も採取して、1万倍の倍率にてEDX分析(エネルギー分散型X線分光分析器)とあわせて確認した。この組成は本発明に係る製造方法を満たさない場合には逸脱する場合があって、特にMnを主体とするM23C6系炭化物を生成してしまうと、その粗大化が著しく速いことから、溶接継手のクリープ破断強度が低下してしまうことから、留意すべき点である。
また表10には、表6と同様に、母材のクリープ破断強度BCR(MPa)、母材のシャルピー吸収エネルギーBCH(J)、構造体の残留γ量の評価結果RAA、溶接熱影響部の大角粒界上に析出したM23C6系炭化物の円相当平均粒径R(nm)、大角粒界上の同析出物による長さ占有率(被覆率)P(%)、溶接継手の700℃1千時間のクリープ強度と母材のクリープ破断強度の比を100分率にて%で表してCRHAZとして示した。
比較溶接継手の内、51は母鋼のC濃度が0.03%以下と不十分で、母鋼自体のクリープ強度が低下した例であり、52はCが0.12%を超えて含有したため,M23C6型炭化物の電子顕微鏡観察における円相当直径が150nmを超えて粗大化したため、鋼のクリープ破断強度が、溶接継手も含めて低下した例である。
53はSiの添加量が0.02%よりも低く、脱酸が不十分となって、粗大な酸化物のクラスターが生成し靱性が低下した例であり、54はSi添加量が過剰となり、FeWの析出が促進されて母鋼のクリープ強度が低下した例である。
55はMnの添加量が不足し、脱酸が不十分となって酸化物のクラスターが母鋼に生成し、母鋼の靱性が低下した例であり、56はMn添加量が過多となって母鋼のクリープ強度が低下した例である。
57、58はそれぞれ不純物元素であるPとSを本願発明の範囲を超えて含有したため、何れも母鋼の靭性が低下した例である。
59は不純物としてのNi含有量が過多となり、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
60は不純物としてのCu含有量が過多となり、母鋼の熱間加工時に赤熱脆性を生じ、靱性が低下した例である。
61はCrの添加量が不足し、M23C6系炭化物の生成量が不足して母鋼のクリープ強度が低下した例であり、62は逆に添加量が過多となってM23C6系炭化物の粗大化が促進されたため、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
63は本願発明で意図的に添加を回避するべきMoが不可避的に不純物として混入し、その含有量が本願発明の上限値を超えたため、炭化物の生成と成長が加速されて粗大化が進行した結果、母鋼のクリープ破断強度が低下した例である。
64は本発明の特徴であるWの含有量が不足し、母鋼のクリープ強度が不足した例であり、65はW添加量が過多となってFeWの粗大化が促進され、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
66はNb添加量が本発明の下限値未満となり、NbCによる析出強化が有効に作用せず、母鋼のクリープ強度が低下した例であり、67はNb量が本発明の上限値を超えたため、NbCの粗大析出が生じて同様に析出強化が機能せず、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
68はV添加量が不足してVNによる析出強化が不十分となり、母鋼のクリープ強度が低下した例であり、69はV添加量が過多となって粗大なVNが析出し、母鋼の靱性が低下した例である。
70、71はそれぞれTiあるいはZrの添加量が本発明の上限値を超えたため、何れも粗大なTiCおよびZrを析出、または晶出して母鋼の靱性が低下した例である。
72、73はそれぞれCaおよびMgの添加量が過多となり、それぞれCaOあるいはMgOが生成して、何れも母鋼の靱性が低下した例である。
74、75、76はそれぞれY,Ce,Laの添加量が過多となり、全て酸化物クラスターが生成して母鋼の靱性が低下した例である。
77は本発明鋼の不純物であるAlが製鋼工程中の耐火物より混入したために上限値を超え、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
78はCoの添加量が不足してδフェライト面積率が12%に達し、母鋼の靱性を損なうと共に、クリープ強度が低下した例であり、79はCo添加量が過多となって、σ相が至る所に析出し、靱性が低下した例である。
80は本発明の母鋼においてNの添加量が不足したために、窒化物であるVNの析出量が減少し、クリープ強度が低下した例であり、81はN量が過多となったため、BNが析出し、本発明の重要な構成元素であるBによる強化が達成されず、クリープ強度が低下した例である。
82は不純物であるOが本発明の上限値を超えたために、多くの酸化物クラスターが生成し、母鋼の靱性が低下した例である。
83はクリープ強度向上に必要なBの添加量が少なく、母鋼のクリープ強度が低下した例、84はBが過多となり、溶接中に溶接金属が高温割れを生じたため、溶接そのものができず、また、母鋼の靱性は低下した例である。
85は溶接前熱処理温度が本誌発明温度範囲よりも低く、十分な炭化物の分解固溶が溶接前の継手において実現せず、HAZにおけるM23C6系炭化物の平均粒径が150nmを超えると共に、Type IV損傷が発生して継手のクリープ破断強度は母鋼のクリープ破断強度よりも低下した例であり、86は溶接前熱処理温度が高すぎたために、溶接熱影響部が全てδフェライトとマルテンサイトの二相組織となり、溶接継手のクリープ強度が低下した例である。
87は溶接前熱処理時間が短く、十分な炭化物の分解固溶が溶接前の継手において実現せず、HAZにおけるM23C6系炭化物の平均粒径が150nmを超えると共に、Type IV損傷が発生して継手のクリープ破断強度は母鋼のクリープ破断強度よりも低下した例である。
88は溶接前熱処理の温度と時間は適正であったが、施行幅が20mm以下となり、HAZの外縁は十分に高い温度まで加熱されなかったため、炭化物が未固溶のまま残留する部位を形成し、結果としてType IV損傷が発生して、継手のクリープ強度が低下した例である。
89は直径250mmの鋼管の管軸と平行方向のいわゆるシーム溶接を施した溶接鋼管を対象として実施したが、結局全体加熱とほぼ同等となり、母鋼中には無視できない残留γが焼戻し後も存在して、母材が熱応力破壊を生じた結果、母材のクリープ強度が低下した例である。
90は溶接後熱処理温度が720℃以下と低く、M23C6系炭化物によるHAZの粒界被覆率が40%に満たず、Type IV損傷が発生して、継手のクリープ強度が母鋼に対して低下した例であり、91は溶接後熱処理温度が760℃を超えたため、HAZのM23C6系炭化物の電子顕微鏡観察における平均直径が150nmを超えてしまい、粒界上の析出密度も減少して粒界被覆率は40%に満たなかったため、同様にType IV損傷が発生して、継手のクリープ強度が母鋼に対して低下した例である。
92は溶接後熱処理時間が短く、溶接継手に高い残留応力が残り、溶接金属から侵入した水素を残留応力の高い部位に集中し、溶接の翌日に溶接継手からの多数の割れが生成しており(水素遅れ破壊が発生した)、結果的に溶接開先を形成できなかった例である。
93は直径60mmの鋼管の連結の際の周溶接に本技術を適用した例であるが、溶接前に連結する鋼管全てに熱処理を実施した結果、母材中に残留γが多量に残存し、0.2%を大きく超えたため、母材の推定クリープ破断強度の低下と、母材靱性の低下を同時に招いたため、溶接構造体として適用できなかった例である。
Figure 0006399509
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1 溶接金属
2 粗粒域、または粗粒域HAZ
3 細粒域、または細粒域HAZ
4 二相域、または二相域HAZ
5 母材、または母材部あるいは母鋼
6 溶接開先面
7 溶接開先面と母材表面の交わる線
8 溶接前熱処理を付与すべき最低幅
9 溶接前熱処理を付与すべき最大幅
11 大角粒界(ブロック粒界)

Claims (4)

  1. 母材、溶接熱影響部、溶接金属から構成される高強度フェライト系耐熱鋼構造体であって、
    前記溶接熱影響部及び前記溶接金属によって溶接継手が構成され、
    前記母材の組成が、質量%で、
    C:0.03〜0.12%、
    Si:0.02〜0.45%、
    Mn:0.20〜0.60%、
    Cr:8.0〜11.0%、
    W:2.00〜4.00%、
    Nb:0.02〜0.10%、
    V:0.10〜0.50%、
    N:0.003〜0.015%、
    B:0.010〜0.020%、
    Co:0.50〜3.00%
    を含有し、
    Mo<0.05%、
    Ni<0.10%、
    Cu<0.05%、
    Al<0.005%、
    P<0.020%、
    S<0.010%、
    O<0.010%
    に制限し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
    溶接前熱処理の施行幅または長さが、前記高強度フェライト系耐熱鋼構造体の幅または長さの50%以下であり、
    前記溶接熱影響部の大角粒界上に析出するM23C6系炭化物(MはCr,Fe,Wを合計して、70%以上)の円相当粒径の平均値が150nm以下であって、前記M23C6系炭化物が前記大角粒界を被覆する割合が40%以上であり、
    前記母材の、700℃×1000時間の条件下でのクリープ試験におけるクリープ強度BCRが80MPa以上であり、
    前記母材のクリープ強度BCRに対する、前記溶接継手の前記クリープ試験におけるクリープ強度の比率CRHAZが95.0%以上であり、
    前記母材の室温での吸収エネルギーBCHが27J以上であり、
    金属組織において、残留オーステナイト量RAAが0.2体積%以下であることを特徴とする高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
  2. さらに、前記母材の組成が、質量%で、
    Ti:0.005〜0.15%、
    Zr:0.005〜0.15%
    の内、一種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
  3. さらに、前記母材の組成が、質量%で、
    Ca:0.0003〜0.0050%、
    Mg:0.0003〜0.0050%、
    Y :0.0100〜0.0500%、
    Ce:0.0100〜0.0500%、
    La:0.0100〜0.0500%
    の内から1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
  4. 請求項1〜3の何れか一項に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体の製造方法であって、
    請求項1〜3の何れか一項に記載の組成の母材を用いて開先を加工し、
    開先面が母材表面と接する位置から溶接線に直交する方向に向かって20mm以上100mm以下の部位、かつ前記高強度フェライト系耐熱鋼構造体の幅または長さの50%以下である部位を、1000℃以上1250℃以下の温度に加熱して、該温度に10分以上保持した後、放冷し、次いで前記開先を溶接した後、前記開先面から前記母材に向かって、20mm以上100mm以内の部位を720℃以上760℃以下に加熱して、該温度に1時間以上保持した後、放冷することを特徴とする高強度フェライト系耐熱鋼構造体の製造方法。
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