JP6399509B2 - 高強度フェライト系耐熱鋼構造体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、現状、例えば、火力発電の効率は40〜50%、原子力発電の効率は30%で停滞しており、今後、二酸化炭素の排出や高レベル放射性廃棄物の増加を抑制するために、発電の高効率化が求められている。
クリープ特性を向上させた耐熱鋼としてこれまでに、600℃を使用温度の上限として、9%Crフェライト系耐熱鋼の研究開発が行われ、JISでは火STBA28や火STBA29などの高温用フェライト系耐熱鋼が開発され、実用化されている。これらフェライト系耐熱鋼は熱膨張率が低く、熱応力起因のクリープ疲労破壊や配管部材の変形に対する耐久性が有り、しかも溶接性施工性において、一般の鉄鋼材料と変わらない点が特徴である。また、これらフェライト系耐熱鋼の合金含有量は、より高温で使用されるオーステナイト系耐熱鋼と比較して少なく、その分経済性にも優れている点は工業的な観点から魅力的である。
これらのことから近年では、クリープ破断強度が高いフェライト系耐熱鋼の開発に対する期待が高まっており、オーステナイト系耐熱鋼を代替するフェライト系耐熱鋼の開発が進められている。
例えば米国ASME規格にはP/T91あるいはP/T92と類別される9%Cr高強度フェライト系耐熱鋼が規定されているが、その許容応力は母材のクリープ特性と高温強度でほぼ決まっている。
図1に、溶接継手のHAZを含む各部位と、組織構成をこの分類に従って示す。図1に示すように、溶接金属1と母材5との間にHAZが形成され、このHAZは、溶接金属1側より順に、粗粒域HAZ2、細粒域HAZ3、二相域HAZ4の順で構成される。
最近では、この現象が従来材料(既に規格に登録されて許容応力が決定している材料)で生じることが必然である事が経験的に判明している。そのことから、溶接継手まで含めて安全に運用するための「溶接継手クリープ強度低減係数」と言われる、クリープ強度の安全係数が提案される状況にまでなっている。
溶接前におけるHAZ細粒域となる領域は、元々母材と同じ組織を有しているフェライト系耐熱鋼であるが、この領域は溶接によって、変態点直上の温度に数秒間曝されるHAZの熱サイクルを受ける。また溶接による熱によって、母相そのものはα→γ変態を生じ、α相とγ相のCの固溶限度の差から元々粗大に析出していた炭化物(フェライト系耐熱鋼では主にM23C6型炭化物)以外の炭化物はγ相に瞬時に再固溶する。しかし、特にHAZ細粒域においては、粗大に析出していた炭化物の数十パーセントは、縮小はするものの未固溶のまま残存する事がType IV損傷の最大の原因であると考えられている。
通常、溶接後の継手には、溶接後熱処理(応力除去焼鈍、SR処理とも称される)が施される。その熱処理温度が焼戻し温度と数十度しか違わない高温である場合には、前述の未固溶のまま残留した炭化物は固溶した炭素とともに、炭化物形成元素の新たな析出核となる。結果として当該析出核は、熱サイクルにより粗大化すると同時に、微細炭化物の析出機会を減少させる。つまり、溶接前に析出していた粗大炭化物が未固溶のまま残存することは、いわゆる炭化物による「析出強化能」を喪失してしまうことによるものであることを、本発明者らは研究の結果知見した。
さらに、クリープ強度と結晶粒径の関係は、粒界のみが変形できるオーステナイト系耐熱鋼では逆比例することが実験的にも知られているが、組織が均一に変形できるフェライト系耐熱鋼では相関が無いことが知られている。したがって「細粒域」を生成しない溶接熱影響部の創出、または「細粒域」が生じがたいフェライト系耐熱鋼を仮に提示できたとしても、炭化物のHAZ熱サイクルによる粗大化が防止できなければ、Type IV損傷を完全に防止することは困難であるとの結論に至った。
当該技術は、溶接前の短時間焼準し処理によって残留γをマルテンサイトラスまたはベイナイト粒界に残存させて、溶接時の再加熱においてこれらの成長および合体を促し、溶接の前の母材において高温で生成していた旧γ粒を再現する「組織メモリー効果(以下、単にメモリー効果とも称する)」を活用した技術である。
この技術では、細粒域の生成防止は完全に達成されるとともに、短時間焼準し処理によって前記炭化物を完全固溶してしまうことから、確かにType IV損傷を完全防止できる技術ではある。しかし、溶接前の開先を含む部材(ほとんどの場合長さ10m超の鋼管)全体に高温の熱処理を施すための炉が必要となるため、現地での施工が困難である。さらに、鋼管全体を加熱することによって製品である鋼管の変形が生じるリスク、さらには再加熱のための時間、工程負荷が大きいことが課題となり、現地施工に関しては現実的な解決策になっていない。
しかしながら、特許文献5及び6に記載の技術は、100ppmを超える高濃度のBを添加することで生じる剪断型α→γ変態式のメモリー効果を発揮させる技術で知られている。また、特許文献5及び6に記載の技術は、母材の旧γ粒を高温で再現する点は前記した特許文献1〜4に記載の技術と同一であり、細粒域を生じさせない技術であることから、Type IV損傷を生じないと考えられてきた。
前記溶接熱影響部及び前記溶接金属によって溶接継手が構成され、
前記母材の組成が、質量%で、
C:0.03〜0.12%、
Si:0.02〜0.45%、
Mn:0.20〜0.60%、
Cr:8.0〜11.0%、
W:2.00〜4.00%、
Nb:0.02〜0.10%、
V:0.10〜0.50%、
N:0.003〜0.015%、
B:0.010〜0.020%、
Co:0.50〜3.00%
を含有し、
Mo<0.05%、
Ni<0.10%、
Cu<0.05%、
Al<0.005%、
P<0.020%、
S<0.010%、
O<0.010%
に制限し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
溶接前熱処理の施行幅または長さが、前記高強度フェライト系耐熱鋼構造体の幅または長さの50%以下であり、
前記溶接熱影響部の大角粒界上に析出するM23C6系炭化物(MはCr,Fe,Wを合計して、70%以上)の円相当粒径の平均値が150nm以下であって、前記M23C6系炭化物が前記大角粒界を被覆する割合が40%以上であり、
前記母材の、700℃×1000時間の条件下でのクリープ試験におけるクリープ強度BCRが80MPa以上であり、
前記母材のクリープ強度BCRに対する、前記溶接継手の前記クリープ試験におけるクリープ強度の比率CRHAZが95.0%以上であり、
前記母材の室温での吸収エネルギーBCHが27J以上であり、
金属組織において、残留オーステナイト量RAAが0.2体積%以下であることを特徴とする高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
[2] さらに、前記母材の組成が、質量%で、
Ti:0.005〜0.15%、
Zr:0.005〜0.15%
の内、一種または2種以上を含有することを特徴とする上記[1]に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
[3] さらに、前記母材の組成が、質量%で、
Ca:0.0003〜0.0050%、
Mg:0.0003〜0.0050%、
Y :0.0100〜0.0500%、
Ce:0.0100〜0.0500%、
La:0.0100〜0.0500%
の内から1種または2種以上を含有することを特徴とする上記[1]または上記[2]に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体。
上記[1]〜上記[3]の何れか一項に記載の組成の母材を用いて開先を加工し、
開先面が母材表面と接する位置から溶接線に直交する方向に向かって20mm以上100mm以下の部位、かつ前記高強度フェライト系耐熱鋼構造体の幅または長さの50%以下である部位を、1000℃以上1250℃以下の温度に加熱して、該温度に10分以上保持した後、放冷し、次いで前記開先を溶接した後、前記開先面から前記母材に向かって、20mm以上100mm以内の部位を720℃以上760℃以下に加熱して、該温度に1時間以上保持した後、放冷することを特徴とする高強度フェライト系耐熱鋼構造体の製造方法。
なお、本発明のフェライト系耐熱鋼構造体とは、母材、溶接熱影響部、溶接金属から構成されるものであって、その形状は特に限定せず、管状や板状であって構わない。また、構造体の形状が管状である場合は長さが200mm以上のもの、板状である場合は、長さもしくは幅が200mm以上であるものに好適である。
まず実験室で、300kgの鋼材容量を有する高周波誘導加熱式真空溶解炉にて表1に示した化学成分の鋼材を溶解して鋳造し、300kg重量の鋼塊とした。その後、この鋼塊を大気雰囲気の電気炉で1220℃に再加熱して後60分間炉中で保持し、その後熱間圧延実験装置で30mm厚みの鋼板試験片に熱間圧延した。熱間圧延は900℃以上の温度で終了して、その後放冷した。得られた鋼板試験片はその後、770℃で2時間焼戻し、この段階でラスマルテンサイト構造を有すること、M23C6型炭化物を主体とする炭化物が析出していることを、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電解抽出残渣定量分析法にて確認した。析出物の種類は透過電子顕微鏡に付属したEDX分析装置、および電解抽出残渣のX線回折による反射ピークのパターン解析で実施した。なお、M23C6型炭化物による粒界被覆率は、倍率1万倍の走査型電子顕微鏡観察像と薄膜の透過電子顕微鏡像によって、大角粒界上の析出物の長さ占有率によって決定した。
ここで、「M23C6型炭化物」におけるMは、Cr,Fe,Wを合計して70%以上であるものである。
本発明においては、炭化物の部分固溶と溶接後熱処理による炭化物の粗大化を防止する目的で、溶接前に、溶接継手の溶接熱影響部となる部位(HAZ相当部位)に析出している炭化物を、溶接直前に実施する、Type IV損傷防止のための熱処理で完全に再固溶しておき、炭化物の粗大化を抑制する。なお、以降ではこの溶接直前に実施する、Type IV損傷防止のための熱処理を「溶接前熱処理」ともいう。
本発明者らは、この溶接前熱処理でHAZ相当部位の炭化物を完全に固溶させる条件を明らかにするために、50mm角、30mm厚みの上記鋼板試験片の一部カット品を複数用意して、各種温度、時間だけ熱処理し、その後断面を切断加工して透過電子顕微鏡組織観察で炭化物の析出有無を確認し、熱処理条件を検討した。検討結果を図2に示す。
別途、前述の熱処理を実施した溶接継手においてクリープ試験を行ったところ、上記各炭化物の形態の中で、Type IV損傷を誘引する析出物形態は「●」で示した分解途中で未固溶のまま残留した炭化物だけであり、その他の形態(「□」)、または炭化物が観察されない場合(「○」)はType IV損傷を発生しないことが明らかとなった。すなわち、溶接前熱処理において、1000℃以上の温度で10分以上保持することにより、分解途中で未固溶のまま残留したM23C6型炭化物は全く観察されなくなり、分解して再固溶することが可能であることが分かった。なお、1000℃以下の温度帯ではM23C6型炭化物が観察されるものの未固溶炭化物では無く、高温まで分解固溶しない、熱力学的に安定な炭化物(平衡析出炭化物)であると考えられる。すなわち、今回の実験により、低温かつ短時間の熱処理では、母鋼板で焼戻し処理時に析出していたM23C6型炭化物の内、熱力学的平衡状態になく、本来分解固溶すべき炭化物を完全には再固溶出来ない事が分かった。
以上より、本発明における溶接前熱処理の条件は、1000℃〜1250℃の温度範囲で10分以上とする。また、加熱方法が高周波誘導加熱等の簡便な装置である場合は、温度のばらつき等を考慮し、望ましくは最高加熱温度が1200℃である。
なお、保持時間の長時間化については制限が無く、対象とする鋼材の板厚に応じて適宜決定して良いが、開先の高温酸化によるダメージ回避の観点から、実質的には最長5時間が好ましい。
したがって、Bを100ppm以上添加した本発明範囲内の耐熱鋼では、細粒組織も生じないことから、HAZにおいて、母材と同等の組織構造を有する上に炭化物の熱サイクルによる粗大化を防止した析出状態が得られることになる。
前記溶接前熱処理は、本発明においては溶接開先の近傍部分にのみ付与することが重要である。図3に、溶接継手の溶接前突き合わせ状況と各部名称、および溶接前後の熱処理付与範囲を説明するための継手の概略斜視図を示す。
具体的には、溶接前熱処理は、図3に示したように溶接開先面6から片側20mm以上100mm以下の部位のみに付与する。
また本発明の高強度フェライト系耐熱鋼構造体は、溶接する際、最大でも数万kJ/mmまでの溶接入熱しか用いないため、実質的にHAZ幅は極厚部材であっても30mm以下である例がほとんどである。したがって熱処理の加熱範囲は、加熱装置の出力、取り扱いの簡便さに応じてさらに縮減する方が工程上好ましく、80mm以下とすることが更に好ましい。より更に好ましくは50mm以下である。
なお、図3中の符号8は、溶接前熱処理を付与すべき最低幅を示し、符号9は、当該熱処理を付与すべき最大幅を示す。
次に、本発明に係る高強度フェライト系耐熱鋼構造体の金属組織ならびに溶接後熱処理の詳細について説明する。
本発明の溶接後熱処理とは、開先を溶接した後に開先面から母材に向かって、20mm以上100mm以内、かつ構造体の体積の50%以下の部位を720℃以上760℃以下に加熱して、該加熱温度に1時間以上保持する処理である。
母材の組織と溶接継手の組織を比較したとき最も大きく異なるのは旧γ粒径とその内部の亜粒界の形状、さらには析出物の形態(主にM23C6型炭化物の形態)である。これらの組織上の違いの内、結晶粒径や亜粒界の形態的変化はクリープ破断強度には大きく影響しない。一方でM23C6型炭化物の形態はクリープ破断強度に大きく影響し、このことがType IV破壊の最大の原因となっていることから、本発明者らは、溶接熱影響部のM23C6型炭化物の存在状態を母材と同等にすれば良いことに着目した。しかし、通常の溶接継手において、これを実現する事は容易ではない。その最大の理由は、溶接熱サイクルによって、M23C6型炭化物を溶接後の焼戻し処理の制御によって母材同等に制御することが出来ないからである。その最大の原因はM23C6型炭化物の溶接熱サイクルによる不完全固溶を通じた粗大化である事は既に述べた。しかし、本発明のように、上記の溶接前熱処理を予め実施し炭化物を完全に再固溶させていれば、溶接完了時において、溶接熱影響部にM23C6型炭化物が全く析出していない状態とすることができ、続く溶接後熱処理によって炭化物の析出形態を制御することが可能となるのである。
なお、本発明における「大角粒界」とは、隣接する結晶方位が<110>共通回転軸まわりで比較して、相対的に15°以上となる結晶の境界または粒界のことを示す。
ここで大角粒界上の析出物の円相当直径は次のごとくして求めた。
まず、溶接後熱処理を施した後の試験片の断面組織を走査型電子顕微鏡で観察し、次いで、フェライト組織を構成する粒界構造をより詳細にEBSP(電子線後方散乱回折パターン解析装置)にて観察した。その中で、隣接する結晶方位差が15°以上で、なおかつ隣接結晶方位間の<110>共通回転軸回りの角度が、マルテンサイト変態時に選択される、ブロック粒界特有の回折角、すなわち54°と60°、および16°のものを画像処理して「ブロック粒界(大角粒界)」と決定し、その大角粒界上に析出する、M23C6型炭化物の結晶構造と同じ電子線回折パターンを有する析出物のみを特定した。そして、それら析出物の10000倍の電子顕微鏡写真を元に、断面上の粒子の直径を写真上で決定した。
10000倍の画像写真は一つの継手の熱影響部で5視野以上を観察し、その粒子全てについて析出物の断面積を測定し、これが全て円であると仮定して、面積から逆算して円相当直径とした。
図4のグラフから、溶接後熱処理温度が760℃以下であれば、当該円相当直径が150nm以下となる事が明らかである。
図5に、溶接熱影響部の組織モデルと粒界の析出物による被覆率の計測方法を説明するための、大角粒界近傍の断面概略図を示す。なお、図5中のL1〜L9は、各析出物(析出物A〜C)の長さを示し、La及びLbは、大角粒界長さを示す。
「粒界被覆率」は、まず1万倍の電子顕微鏡観察により、大角粒界上に析出した粒子を、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)または同じく1万倍の薄膜透過型電子顕微鏡解析における透過電子線回折パターン解析によってM23C6型炭化物と判断出来る析出物を特定する。そして、その粒子が大角粒界を被覆する長さを測定し、当該測定を、少なくとも1試料あたり5視野、1合金あたり5個以上の試験片を採取して行い、合計25試料以上のその場観察、または電子顕微鏡写真の解析によって求めることができる。
図6のグラフに示すとおり、溶接後熱処理温度が720℃以上であれば、M23C6型炭化物による粒界被覆率は、その析出と成長によって40%を超えることが明らかである。一方で、溶接後熱処理温度が760℃以上ではM23C6型炭化物の粗大化が加速されることによりかえって粒界被覆率は低下し、40%未満となることも分かる。
図7のグラフに示すとおり、溶接後熱処理温度が760℃を超える場合は、溶接熱影響部のM23C6型炭化物の平均直径が150nm以上となってしまい、結果的に大角粒界被覆率も40%以下となり、本発明が目標とする、母材のクリープ破断強度80MPaを超えないことがわかる。また、溶接後熱処理温度が760℃を超える場合には、溶接金属が軟化しすぎるために溶接金属破断(図中●)が頻発することが分かる。また、溶接後熱処理温度が720℃未満の場合、大角粒界上のM23C6型炭化物の占有率が40%未満となって、その場合でもクリープ破断強度は低下することが分かる。
TP≧(t/25+1)×60分、
にて概略決定される。
本発明もおおよそこの式に従うことが可能である。一方、溶接後熱処理の処理時間をあまりに長時間とすると、本発明の効果はさらに高まるものの、施工コストの増大を招くことから、最長168時間(1週間)とすることが好ましい。
「局部加熱」がクリープ強度において有利である理由を以下に詳述する。
このような大型部材ではどうしても製鋼一貫工程で製造した鋼材における材質不均一は完全には払拭できない。例えば、本発明で添加するWやV等の元素は、その濃度が高濃度となる偏析部分が存在する。
つまり、このような偏析部分を有する部材を全体加熱して残留γを生成した後に、溶接した継手での細粒域生成を防止し、かつM23C6型炭化物の粗大化を防止できたとしても、その後のPWHTもまた、溶接後の部材全体に実施しなければ、溶接熱影響とは無関係の母材は残留γを残したままの組織となってしまうからである。
すなわち、「溶接部材の全体加熱」の場合は、溶接後熱処理も全体加熱となり、母材に残留γが残存する事を回避しようとすれば、極めて限定された焼戻し温度、PWHT温度にする必要がある。しかしながら、実際のPWHT施工装置の加熱能力は、温度の精度が±20℃であるのが実態であり、厳格な温度管理には必ずしも対応していない。
このことから、部材全体に対し溶接前熱処理を行う場合、現地施工性までを考慮すると、母材の残留γの存在可能性を完全には否定できない。すなわち残留γが少なからず存在するまま、このような鋼材を高温機器(例えばボイラ等)に適用すると、残留γ起因の変形や割れが生じるおそれがある。
すなわち、溶接部に施工する「溶接前熱処理」の施工範囲が溶接開先面と母材表面の接する部位よりも100mm超となり、溶接継手を含む部材(構造体)そのものの大きさが、溶接金属部分の幅を除外して200mm以上となり、溶接前熱処理の溶接継手を含む部材に占める施工幅(長さ)の割合が構造体の幅または長さの50%を超える場合に、母材に生成する残留γの影響が現れ、残留γの生成量が0.2体積%という軽微な場合でも、クリープ条件における残留γの分解によって生起する熱応力割れのために、クリープ寿命が短くなり、結果としてクリープ破断強度が低下する事になる。換言するに、構造体の体積の50%以上の部位において、金属組織における残留γの面積率が0.2%以下であれば、残留γ起因の熱膨張による変形へ割れを防止できる。なお、残留γの面積率が0.2%以下である部位は広ければ広いほどよく、構造体の体積の100%であることが好ましいことは言うまでもない。
「溶接前熱処理の施行幅または長さ」よりも「溶接後熱処理の施行幅または長さ」が小さい場合、得られた構造体には、M23C6型炭化物が析出していない領域が存在することになる。そのため、M23C6型炭化物が析出していない領域が存在する場合は、当該領域が、溶接前熱処理が施されたか否かの境界と判断できる。
一方、溶接前熱処理を施していない部位に溶接後熱処理を施しても、M23C6型炭化物による粒界被覆率を40%以上まで向上させることができない。したがって、「溶接前熱処理の施行幅または長さ」よりも「溶接後熱処理の施行幅または長さ」が大きい場合は、溶接前熱処理が施された否かの境界は、M23C6型炭化物による粒界被覆率が40%以上であるか否かで判断できる。
なお、M23C6型炭化物の有無やM23C6型炭化物による粒界被覆率は、上記のように、電子顕微鏡観察または薄膜透過型電子顕微鏡解析における透過電子線回折パターン解析によって確認できる。
熱処理の施工幅の、溶接継手を含む部材あるいは構造体全体に占める割合が50%を超えるとき、母材自体の10万時間推定クリープ破断強度は、熱応力割れ起因によって、目標とする80MPaを下回り、その割合が増大するほど、強度は低下することが分かる。すなわち、この場合は母材で破断し、目的とする溶接継手は達成出来ないことになる。この結果は、良好であった試験結果○と区別して、●にて図中に示した。目標値を下回ったクリープ試験片の解析によって、破断位置には全て残留γが分解したと推定される粗大炭化物とα相が観察された。なお、これら粗大炭化物とα相は、周囲の焼戻しマルテンサイト組織とは異なることから、明瞭に区別することが出来た。
月単位で最高蒸気温度の上昇、下降を実施して発電量を調整するMSS運転(Monthly Start and Stop)の場合を基準として熱応力の発生を再現した場合は、残留γが構造体全体に占める割合でほぼ50%以下の場合で熱応力割れは回避できるが、より頻度高く蒸気温度を上下させるWSS運転(Weekly Start and Stop)の場合には40%以下、毎日温度を周期的に変動させるDSS運転(Daily Start and Stop)運転の場合には30%以下である事が、これまでのプラント操業経験の上からは好ましい。このことは、溶接線が例えば管軸に対して垂直の、いわゆる「周溶接継手」において顕著である。
すなわち、溶接前熱処理を1000〜1250℃で実施した場合、その隣接部位は1000℃以下の温度帯に再加熱される。このような場合では、炭化物の不完全固溶が生じる可能性も考えられる。しかし、炭化物の不完全固溶は、溶接熱影響のような僅か数秒間だけ加熱されるような場合、つまり炭化物の分解再固溶に必要な時間が十分に与えられない場合にのみ生じるのであって、相変態後に十分な保持時間さえ与えられれば、γ相の炭素の固溶限がα相に比較して遙かに大きいことから、炭化物の分解固溶は完了することとなり、不完全固溶炭化物は生じないのである。したがって、本発明に係る溶接前熱処理は、中間温度域における炭化物の粗大化の懸念が無いことが特徴である。
したがって、本発明においては、溶接継手の構成要素ではあるが、溶接金属成分については特に限定しない。また、溶接金属はフェライト系の共金成分系であっても、オーステナイト系あるいはNi基合金であっても良く、何れの場合も溶接熱影響部からType IV破壊することなく、また溶接金属破断が生じさえしなければ、本発明の効果に影響を及ぼさない。
Cは、炭化物を生成し、焼入れ性を高める元素である。本発明では、クリープ破断強度を向上させるために、C量を0.03%以上とする。析出強化能を高めるには、0.05%以上のCを添加することが好ましい。一方、C量が多すぎると、析出物が粗大になり、粒界の占有率が低下するため、C量を0.12%以下とする。また、C量が過剰であると、粒界に生成した炭化物が粗大化し、クリープ破断強度を低下させることがあるため、C量を0.10%以下にすることが好ましい。
Nは、窒化物を形成する元素であり、VNを析出させて初期のクリープ強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を享受するために、Nを0.003%以上を含有させる。また、耐火物等から混入するAlがNと結合し、VN生成のためのN量を十分に確保できない場合がある。このような場合を考慮すると、N量は0.005%以上が好ましい。しかし、N量が0.015%を超えると、BNが析出する場合があるため、上限を0.015%とする。また、Nは、中性子の照射により放射化して鋼を脆化させる元素であることから、耐熱鋼を原子力発電のプラントに使用する際には、N量を0.010%以下にすることが好ましい。
Bは、固溶状態(粒界に偏析した状態を含む)では鋼材の焼入れ性を高めて、転位密度の高いマルテンサイト組織、下部ベイナイト組織を生成させる元素である。本発明では、Bは、炭化物、金属間化合物に固溶して熱的な安定性を高め、これら析出物の粗大化を遅延させるか、あるいは硼化物として析出し、析出強化能を高める極めて重要な元素である。クリープ破断強度の向上にはBを0.010%以上添加する必要があり、0.012%以上の添加が好ましい。一方、Bを過剰に添加すると、溶接性が劣化することから、B量は0.020%以下とすることが必要である。溶接入熱を大きくする必要がある場合は、B量を0.017%以下にすることが好ましい。より好ましいB量は0.015%以下である。
Vは、Nと結合して窒化物を生成する元素であり、粒内にNbCに整合して複合析出する。本発明では、クリープ破断強度を高めるために、0.10%以上のVを添加する。析出強化の効果を高めるには、0.15%以上のVの添加が好ましく、0.17%以上のVの添加がより好ましい。一方、0.50%を超えるVを添加すると、粗大なVCが析出して靱性に影響するため、V量を0.50%以下とする。靱性を高めるためには、V量を0.40%以下にすることが好ましく、より好ましいV量は0.35%以下である。
Siは脱酸元素であり、0.02%以上を添加する。脱酸の効果を高めるためには、0.10%以上のSiを添加することが好ましい。また、Siは、耐酸化性の向上にも有効であり、0.20%以上を添加することがより好ましい。一方、0.45%を超えるSiを添加すると、Siを含む酸化物が脆性破壊の起点となって靭性を損なうことがある。また、過剰なSiの添加は、固溶しているWのサイトに置換してFe2Wの析出を促進し、クリープ破断強度が低下する場合があるため、Si量は0.45%以下とする。靭性を高めるには、Si量は0.40%以下が好ましく、0.35%以下がより好ましい。
Mnは脱酸剤であり、本発明では0.20%以上を添加する。脱酸が不十分であると靱性が低下するため、0.35%以上のMnを添加することが好ましい。一方、Mnは、オーステナイト生成元素であり、転位の易動度を上げて局部的に組織回復を加速させるため、過剰に添加するとクリープ特性が劣化する。本発明では、クリープ強度を確保するために、Mnを0.60%以下とする。クリープ破断強度を更に高めるには、Mn量を0.55%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.50%未満とする。
Crは、鋼材の焼入れ性を高め、炭化物として鋼材を析出強化させる重要な元素である。650℃以上の高温で高いクリープ破断強度を得るには、Crを主体としたM23C6型炭化物の量を確保し、かつ、過剰な粗大化を抑制することが必要であり、本発明では、8.0%以上を添加する。耐水蒸気酸化特性を考慮すると、8.5%以上のCrを添加することが好ましい。一方、Crを過剰に添加すると、650℃の温度ではM23C6の粗大化が加速し、クリープ特性が劣化するため、Cr量を11.0%以下とする。Cr量を9.5%以下とすることが好ましく、より好ましいは9.20%以下である。
Wは、Feとの金属間化合物を形成し、クリープ特性の向上に寄与する元素である。2.00%以上のWを添加すると、長期間の使用中に金属間化合物が析出し、クリープ破断強度に大きく寄与する。また、粒界への析出密度を向上させるために2.5%以上のWの添加が好ましく、2.7%以上のWの添加がより好ましい。一方、Wを過剰に添加すると、Fe2W型金属間化合物(Laves相)の粗大化が速くなるため、W量を3.5%以下とする。Laves相の粗大化を抑制するには、W量を3.3%以下にすることが好ましく、3.2%以下がより好ましい。
Nbは炭化物を生成する元素であり、粒内に析出してクリープ破断強度の向上に寄与する。NbC型炭化物がVNと複合析出すれば、転位の動きを効果的に抑制することができるので、比較的短時間のクリープ強度を維持するためにはNb量を0.02%以上とする。また、NbCによる粒内析出強化能を向上させるには0.03%以上のNbの添加が好ましく、0.04%以上のNbの添加がより好ましい。一方、0.10%を超えてNbを添加すると粗大なNbCとして析出し、靱性を損なうことから、Nb量を0.10%以下とする。NbCを微細に析出させるには、Nb量を0.08%以下にすることが好ましく、0.07%以下がより好ましい。
Coは、オーステナイト安定化元素であり、焼入れ性を向上させ、靱性を高める元素である。Coは変態点を変化させない唯一の元素であり、本発明者らは転位の易動度を低下させるというCoの効果も知見した。本発明では、クリープ破断強度を高め、フェライト相(δフェライト)の生成を抑制するために、0.50%以上のCoを添加する。Co量の下限は、効果を高めるために、0.7%以上が好ましく、より好ましくは1.0%以上を添加する。一方、Coは、σ相の析出を促して靱性を損なう場合があることから、Co量を3.0%以下とする。Co量は2.5%以下が好ましく、より好ましくは2.3%以下である。また、原子力発電プラントなど、中性子が照射される環境では、Coが放射化するとともに、中性子照射脆化により靱性が損なわれることがあるため、このような場合は、Co量を1.50%以下にすることが好ましい。
Moは、Fe2Wや炭化物M23C6に一部固溶し、また同時にMo2C、Mo6C型の炭化物を生成させ、析出物の粗大化を促進し、長期のクリープ特性に悪影響を及ぼすため、含有量を0.05%未満に制限する。Moを主体とする硼化物は粗大化しやすく、クリープ破断強度を低下させるので、Mo量を0.03%以下と制限することが好ましい。また、Moは、中性子照射により放射化して鋼を脆化させる元素であることから、原子力発電プラントに使用する際には、Mo量を0.01%以下に制限することがより好ましい。
Niは、靭性の向上や、オーステナイトの安定化に有効な元素であるが、転位の易動度を高め、クリープ破断強度を著しく低下させることから、本発明ではその含有量を制限する。本発明では、長時間のクリープ破断強度の低下を抑制するため、Ni量を0.10%未満に制限する。クリープ特性を高めるには、Niの含有量は、0.05%以下に制限することがより好ましく、更に好ましくは0.03%以下に制限する。
Cuは、オーステナイトの安定化に有効な元素であるが、本発明のように焼準し−焼戻しにて製造する場合は、鋼中にε−Cu(金属Cu)として単独で析出する。熱間加工時に1100℃以上に加熱されると、鉄が選択的に酸化され、Cuが粒界に集まった場合には局部的な低融点金属集積帯が形成され、粒界剥離割れを誘引する(赤熱脆性)ことがある。この場合、母材の靱性が低下する。このように、本発明では、Cuは、オーステナイトの安定化への寄与が小さく、熱間加工性が低下することから、Cu量を0.05%未満に制限する。製造性を高めるには、Cuの含有量は、0.03%以下に制限することがより好ましく、更に好ましくは0.01%以下に制限する。
Alは、本発明ではNと結合し、VNによる析出強化を阻害し、粒内強化の効果を低下させるため、その含有量を0.005%未満と制限する。微量のAlによってクリープ破断強度が低下するため、Al量は、0.003%以下に制限することが好ましく、0.002%以下に制限することがより好ましい。
Pは、粒界に偏析し、粒界破壊を助長して靱性を低下させるため、含有量を0.020%未満に制限する。
Sは、Mnと結合し、粗大なMnSの形成による靱性の低下を防止するため、含有量を0.010%未満に制限する。
Oは、脆性破壊の起点となる酸化物のクラスターを形成し、靭性を低下させるため、含有量を0.010%未満に制限する。
Tiは、Bに比べてNとの親和力が極めて強い元素である。TiNの形成によってBNの析出を抑制し、炭化物の粗大化を抑制するBの効果を高めるために、Tiを0.005%以上添加することが好ましい。より好ましくは、Ti量を0.010%以上とする。一方、Tiを過剰に添加すると、粗大なTiCが析出し、靭性が低下することがあるため、添加量を0.15%以下とすることが好ましい。より好ましいTi量は0.10%以下であり、更に好ましい上限は0.08%以下である。
Zrは、Tiよりも更にNとの親和力が強く、Bの効果を高めるために、0.005%以上を添加することが好ましい。より好ましくは0.015%のZrを添加する。一方、Zrを過剰に添加すると、粗大な酸化物が生じて、靭性を損なうことがあるため、添加量を0.15%以下にすることが好ましい。靱性の安定という観点からは、より好ましいZr量は0.10%以下であり、更に好ましいZr量は0.08%以下である。
Y、Ce、La:0.0100〜0.0500%
Ca、Mg、Y、Ce、Laは、硫化物の形態制御に用いられる元素であり、MnSによる熱間加工性や靭性の低下を抑制するために、1種又は2種以上を添加することが好ましい。特に、板厚中心部において圧延方向に延伸したMnSの生成を防止するため、それぞれ、CaとMgは0.0003%以上、Y,Ce,Laは0.010%以上添加することが好ましい。一方、Ca、Mg、Y、Ce、Laは、強力な脱酸元素でもあり、過剰に添加すると酸化物のクラスターが生成し、靱性を低下させることがあるため、それぞれ、Ca,Mgについては0.0050%以下、Y,Ce,Laについては0.0500%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Ca,Mgは0.0040%以下、Y,Ce,Laは0.0300%以下であり、Y,Ce,Laは、更に好ましくは0.0200%以下とする。
なお、以下に示す実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。また本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
その後に、溶接入熱量を約0.5〜5.0kJ/mmとし、実施例No1〜No16は、GTAW(タングステン電極を用いたガスシールド方式被覆アーク溶接)、実施例No17〜No22は、SMAW(手棒式被覆アーク溶接),実施例No23〜No28は、SAW(サブマージアーク溶接)を用いて溶接した。続けて表5に示した条件で溶接後熱処理を継手に実施した。なお、溶接ワイヤにはインコネル625(登録商標)Ni基合金相当の成分の溶材を用いた。溶接金属の化学成分を表2に示した。これら溶接方法による継手のクリープ強度への影響は、特段に見られていない。
結果を表6にRAAとして示した。表中の「○」は良好、「×」は不良であったことを示す。
結果を表6にBCR(MPa)として示した。
結果を表6にBCH(J)として示した。
なお、実際にはクリープ破断試験片の破面観察も同時に実施し、Type IV損傷発生有無も同時に確認したが、前記判定基準で合格となる、溶接継手の温度促進クリープ試験におけるクリープ破断試験強度が母材のクリープ破断試験強度の95%以上である場合、Type IV損傷が発生していないことを確認した。すなわち、HAZ外縁に沿って、クリープボイドの連結した低延性破面が生成していないことを確認した。また、表5には、溶接継手に施した溶接前熱処理の条件(施工した溶接開先中心からの片側の幅または長さ、熱処理温度、熱処理時間)および溶接後熱処理条件(溶接後熱処理温度、後熱処理時間)を記載した。また、鋼板あるいは鋼管の厚みについても記載した。
55はMnの添加量が不足し、脱酸が不十分となって酸化物のクラスターが母鋼に生成し、母鋼の靱性が低下した例であり、56はMn添加量が過多となって母鋼のクリープ強度が低下した例である。
57、58はそれぞれ不純物元素であるPとSを本願発明の範囲を超えて含有したため、何れも母鋼の靭性が低下した例である。
59は不純物としてのNi含有量が過多となり、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
61はCrの添加量が不足し、M23C6系炭化物の生成量が不足して母鋼のクリープ強度が低下した例であり、62は逆に添加量が過多となってM23C6系炭化物の粗大化が促進されたため、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
63は本願発明で意図的に添加を回避するべきMoが不可避的に不純物として混入し、その含有量が本願発明の上限値を超えたため、炭化物の生成と成長が加速されて粗大化が進行した結果、母鋼のクリープ破断強度が低下した例である。
64は本発明の特徴であるWの含有量が不足し、母鋼のクリープ強度が不足した例であり、65はW添加量が過多となってFe2Wの粗大化が促進され、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
66はNb添加量が本発明の下限値未満となり、NbCによる析出強化が有効に作用せず、母鋼のクリープ強度が低下した例であり、67はNb量が本発明の上限値を超えたため、NbCの粗大析出が生じて同様に析出強化が機能せず、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
68はV添加量が不足してVNによる析出強化が不十分となり、母鋼のクリープ強度が低下した例であり、69はV添加量が過多となって粗大なVNが析出し、母鋼の靱性が低下した例である。
72、73はそれぞれCaおよびMgの添加量が過多となり、それぞれCaOあるいはMgOが生成して、何れも母鋼の靱性が低下した例である。
74、75、76はそれぞれY,Ce,Laの添加量が過多となり、全て酸化物クラスターが生成して母鋼の靱性が低下した例である。
77は本発明鋼の不純物であるAlが製鋼工程中の耐火物より混入したために上限値を超え、母鋼のクリープ強度が低下した例である。
78はCoの添加量が不足してδフェライト面積率が12%に達し、母鋼の靱性を損なうと共に、クリープ強度が低下した例であり、79はCo添加量が過多となって、σ相が至る所に析出し、靱性が低下した例である。
82は不純物であるOが本発明の上限値を超えたために、多くの酸化物クラスターが生成し、母鋼の靱性が低下した例である。
83はクリープ強度向上に必要なBの添加量が少なく、母鋼のクリープ強度が低下した例、84はBが過多となり、溶接中に溶接金属が高温割れを生じたため、溶接そのものができず、また、母鋼の靱性は低下した例である。
87は溶接前熱処理時間が短く、十分な炭化物の分解固溶が溶接前の継手において実現せず、HAZにおけるM23C6系炭化物の平均粒径が150nmを超えると共に、Type IV損傷が発生して継手のクリープ破断強度は母鋼のクリープ破断強度よりも低下した例である。
88は溶接前熱処理の温度と時間は適正であったが、施行幅が20mm以下となり、HAZの外縁は十分に高い温度まで加熱されなかったため、炭化物が未固溶のまま残留する部位を形成し、結果としてType IV損傷が発生して、継手のクリープ強度が低下した例である。
92は溶接後熱処理時間が短く、溶接継手に高い残留応力が残り、溶接金属から侵入した水素を残留応力の高い部位に集中し、溶接の翌日に溶接継手からの多数の割れが生成しており(水素遅れ破壊が発生した)、結果的に溶接開先を形成できなかった例である。
2 粗粒域、または粗粒域HAZ
3 細粒域、または細粒域HAZ
4 二相域、または二相域HAZ
5 母材、または母材部あるいは母鋼
6 溶接開先面
7 溶接開先面と母材表面の交わる線
8 溶接前熱処理を付与すべき最低幅
9 溶接前熱処理を付与すべき最大幅
11 大角粒界(ブロック粒界)
Claims (4)
- 母材、溶接熱影響部、溶接金属から構成される高強度フェライト系耐熱鋼構造体であって、
前記溶接熱影響部及び前記溶接金属によって溶接継手が構成され、
前記母材の組成が、質量%で、
C:0.03〜0.12%、
Si:0.02〜0.45%、
Mn:0.20〜0.60%、
Cr:8.0〜11.0%、
W:2.00〜4.00%、
Nb:0.02〜0.10%、
V:0.10〜0.50%、
N:0.003〜0.015%、
B:0.010〜0.020%、
Co:0.50〜3.00%
を含有し、
Mo<0.05%、
Ni<0.10%、
Cu<0.05%、
Al<0.005%、
P<0.020%、
S<0.010%、
O<0.010%
に制限し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
溶接前熱処理の施行幅または長さが、前記高強度フェライト系耐熱鋼構造体の幅または長さの50%以下であり、
前記溶接熱影響部の大角粒界上に析出するM23C6系炭化物(MはCr,Fe,Wを合計して、70%以上)の円相当粒径の平均値が150nm以下であって、前記M23C6系炭化物が前記大角粒界を被覆する割合が40%以上であり、
前記母材の、700℃×1000時間の条件下でのクリープ試験におけるクリープ強度BCRが80MPa以上であり、
前記母材のクリープ強度BCRに対する、前記溶接継手の前記クリープ試験におけるクリープ強度の比率CRHAZが95.0%以上であり、
前記母材の室温での吸収エネルギーBCHが27J以上であり、
金属組織において、残留オーステナイト量RAAが0.2体積%以下であることを特徴とする高強度フェライト系耐熱鋼構造体。 - さらに、前記母材の組成が、質量%で、
Ti:0.005〜0.15%、
Zr:0.005〜0.15%
の内、一種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体。 - さらに、前記母材の組成が、質量%で、
Ca:0.0003〜0.0050%、
Mg:0.0003〜0.0050%、
Y :0.0100〜0.0500%、
Ce:0.0100〜0.0500%、
La:0.0100〜0.0500%
の内から1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体。 - 請求項1〜3の何れか一項に記載の高強度フェライト系耐熱鋼構造体の製造方法であって、
請求項1〜3の何れか一項に記載の組成の母材を用いて開先を加工し、
開先面が母材表面と接する位置から溶接線に直交する方向に向かって20mm以上100mm以下の部位、かつ前記高強度フェライト系耐熱鋼構造体の幅または長さの50%以下である部位を、1000℃以上1250℃以下の温度に加熱して、該温度に10分以上保持した後、放冷し、次いで前記開先を溶接した後、前記開先面から前記母材に向かって、20mm以上100mm以内の部位を720℃以上760℃以下に加熱して、該温度に1時間以上保持した後、放冷することを特徴とする高強度フェライト系耐熱鋼構造体の製造方法。
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