以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、本実施形態の回転電機が適用されるハイブリッド車両10の要部構成を示すブロック図である。ハイブリッド車両10の動力装置12は、1機の内燃機関14と2機の回転電機16,18の3機の原動機を車両駆動用に備えている。2機の回転電機16,18は、いずれも発電機として動作可能である。2機の回転電機16,18は、例えば永久磁石同期回転電機とすることができる。
3つの原動機14,16,18は、それぞれ遊星歯車機構20に結合されている。この遊星歯車機構20の3要素(キャリア要素、サン要素、リング要素)に原動機14,16,18がそれぞれ接続されている。この動力装置12においては、サン要素であるサンギア22に一方の回転電機16が接続され、リング要素である内歯歯車のリングギア24に他方の回転電機18が接続されている。以降、サンギア22に接続された回転電機を第1回転電機16、リングギア24に接続された回転電機を第2回転電機18と記す。遊星歯車機構20のキャリア要素であるプラネタリキャリア26は、サンギア22およびリングギア24に噛み合うプラネタリピニオン28を回動可能に支持している。このプラネタリキャリア26にねじりダンパ30および入力軸32を介して内燃機関14が接続されている。入力軸32は、中空に形成された第1回転電機16の出力軸34の内側を貫通している。リングギア24は、第2回転電機18の出力軸36に接続されている。
3機の原動機14,16,18と、これらが接続される遊星歯車機構20の3要素との対応は、上記以外の組み合わせとしてもよい。3機の原動機14,16,18の回転速度は、遊星歯車機構20のギア比により定まる所定の関係を有し、2機の回転速度を決めると残りの1機の回転速度が決定する。したがって、第1および第2回転電機16,18の回転速度を制御することにより、内燃機関14と駆動輪の回転速度の比を変更することができる。つまり、これらの2機の回転電機16,18と遊星歯車機構20は、変速機として機能する。
リングギア24と一体に回転する出力ギア38が設けられ、出力ギア38は、減速歯車列40を介して終減速機42に接続されている。終減速機42はドライブシャフト44を介して駆動輪46に接続されている。終減速機42は、終減速歯車と差動装置を含む。差動装置によって、左右の駆動輪46の回転速度の差が吸収される。減速歯車列40は、チェーンとスプロケットを含む伝達機構を含んでもよい。
2機の回転電機16,18には、電力変換装置48を介して二次電池であるバッテリ50が接続されている。2機の回転電機16,18は、3相交流同期回転電機とすることができ、バッテリ50からの直流電力が電力変換装置48により3相交流電力に変換されてこれらの回転電機16,18に供給される。また、回転電機16,18が発電機として機能するときには、発電された交流電力が電力変換装置48により直流電力に変換されてバッテリ50に充電される。一方の回転電機、例えば第1回転電機16を発電機として機能させ、他方の第2回転電機18に電力を供給することもできる。
ハイブリッド車両10は、動力装置12を制御する制御装置52を更に有する。制御装置52は、車両全体の制御を司るハイブリッド車両電子制御装置(以下、HV−ECUと記す。)54を有する。HV−ECU54は、運転者のアクセルペダルやブレーキペダル等の操作から加速・減速要求を取得し、更に車両速度、各原動機14,16,18の運転状態、バッテリ50の蓄電量等の現在の車両の運行状態を把握して、適切な車両の運行状態を決定する。この運行状態の決定に基づき、各機器の電子制御装置(ECU)が対応する各機器を制御する。内燃機関ECU56は、内燃機関のスロットル弁開度、燃料噴射量、バルブタイミング等を制御することにより内燃機関が目標の回転速度、出力となるように制御する。回転電機ECU58は、電力変換装置48を制御して、第1および第2回転電機16,18が目標の回転速度、出力となるように制御する。バッテリECU60は、バッテリ50の蓄電量を監視する。
第1回転電機16は、出力軸34と一体に回転するロータ62と、ロータ62を取り囲むようにロータ62と同軸に配置されたステータ64を有する。ロータ62とステータ64の間には、わずかなギャップ66が形成されている。ロータ62のコアは、積層された電磁鋼板により形成されている。
この動力装置12においては、内燃機関14および2機の回転電機16,18を制御することにより多様な作動モードを実現することができる。例えば、発進から所定の速度までの低負荷走行においては、内燃機関14を停止して、第2回転電機18のみにより車両を駆動する。ただし、バッテリ50の蓄電量が低い場合には、内燃機関14を運転して第1回転電機16を駆動し、発電してバッテリ50の充電を行う。加速時や高速走行時の高負荷走行においては、内燃機関14と第2回転電機18により車両を駆動し、一方、内燃機関14の出力の一部により第1回転電機16を駆動し発電し、この電力を第2回転電機18に供給する。制動時には、車両の慣性により第2回転電機18を駆動して発電し、バッテリ50を充電する。
動力装置12の作動モードについて更に詳しく説明する。図2〜4において、図中の3本の縦軸は、それぞれ内燃機関14、第1および第2回転電機16,18の回転速度を示している。各原動機14,16,18の回転速度は常に1本の直線上に並ぶ。横軸上が静止状態(0)を示し、それより上方が正転、下方が逆転を表す。図2は、高速走行や加速時などの動力装置12に高い負荷がかかるときの状態を示す図である。また、バッテリ50の蓄電量が減少したときの充電を行う場合も、各原動機14,16,18の回転速度の関係が図2に示す状態となる。この状態では、第2回転電機18は電動機として機能し、車両を駆動する。内燃機関14の出力は、一部が車両の駆動に用いられ、残りが第1回転電機16を駆動し、発電するために用いられる。
図3は、第2回転電機18のみで車両を駆動する、いわゆるEVモードの状態を示す図である。第2回転電機18が電動機として機能し、内燃機関14は停止される。遊星歯車機構の2つの要素の速度が決定するので、他の1つの要素、つまり第1回転電機16の速度も決定する。内燃機関14が停止しているので、第1回転電機16は逆転する。また、このときの第1回転電機16は空転している。
図4は、動力装置の負荷が低い低負荷走行時のある状態を示す図である。内燃機関14と第2回転電機18で車両を駆動している状態を示す図である。図2の場合に比べて内燃機関14の回転速度が低く、第1回転電機16は逆転している。このとき、第1回転電機16は空転してもよく、また発電してもよい。また、低負荷走行時において、第1回転電機16が正転する場合もある。
第1回転電機16の正転時は、発電量が大きくなる場合があり、そのときの冷却要求も大きくなる。これに対して、逆転時は、空転か、またはわずかに発電している状態であり冷却要求も小さい。したがって、ギャップ66に冷却液を供給して、ステータ内周面などの冷却しにくい部分を冷やす必要性が低い。また、ギャップ66に供給された冷却液は、その粘性によりロータの回転の抵抗となり、必要ないときにギャップ66に供給されることは好ましくない。以下、第1回転電機16のロータ62、特にその冷却構造について説明する。
図5,6は、ロータ62、特にロータコア68の構造を示す図である。図5は、ロータ62の回転軸線に直交する断面を示す。図6は、回転軸線を含む断面を示している。ただし、図6は、冷却液流路74の各部が現れるよう、複数の断面を組み合わせて示している。ロータ62のコア68は薄板の電磁鋼板70が積層して形成されている。ロータコア68の外周近傍には永久磁石72が配置されている。永久磁石72は、2個で1つの磁極を形成しており、1つの磁極を形成する永久磁石72は、外側に開いたV字形状に配置される。電磁鋼板70のそれぞれにスリットが形成され、これらのスリットが連なって冷却液流路74が形成されている。図5においては、異なる電磁鋼板70に形成されたスリットを重ねて描いている。
冷却液流路74は、各磁極に1ずつ設けることができ、また、一部の磁極にのみ対応して設けることができる。冷却液流路74は、ロータコア68の内周から径方向、好ましくはd軸76に沿って外側に向けて延びる幹流路78と、1本の幹流路78から枝分かれする第1枝流路80および第2枝流路82を含む。第1枝流路80は、正転時において下流となる向きに、幹流路78から延び、続いて径方向外側に向かって延びている。一方、第2枝流路82は、逆転時において下流となる向きに、幹流路78から延び、続いて回転軸線方向に沿って延びている。幹流路78と第1枝流路80は、回転軸線方向においてロータ62の中央に設けられてよく、また、中央からずれた位置に配置されてもよい。また、回転軸線方向の複数箇所に設けてもよい。
幹流路78の径方向内側の端は、第1回転電機の出力軸34に設けられた軸内流路84の開口に位置合わせされており、軸内流路84を通った冷却液を受け入れる。幹流路78の径方向外側は、永久磁石72から所定の間隔をあけた位置で終端している。この間隔を設けることで、永久磁石72と幹流路78の間を通る磁束の妨げとならないようにしている。
第1枝流路80は、幹流路78の外側端から周方向に、そしてやや外側に向けて延びる周方向部分80aと、周方向部分80aの端から径方向に沿って外側に延びる径方向部分80bを含む。周方向部分80aは、V字形に配置された永久磁石72と並行に配置することができる。径方向部分80bは、周方向部分80aの端から外側に向けてq軸86に沿って延び、ロータコア68の外周面に開口している。ロータ62が正転(図5において反時計回り)しているとき、幹流路78の外側端に達した冷却液は、ロータの回転のために回転方向の下流に向けられる。この結果、冷却液は第1枝流路80に流入し、ロータ62の外周面から送出される。
第2枝流路82は、幹流路78の外側端から周方向に、そしてやや外側に向けて延びる周方向部分82aと、周方向部分82aの端からロータ62の回転軸線に沿って延びる軸線方向部分82bを含む。周方向部分82aは、隣の第1枝流路の周方向部分80aに達する前に終端する。また、周方向部分82aは、V字形に配置された永久磁石72と平行に配置することができる。軸線方向部分82bは、周方向部分82aの端からロータコア68の軸線方向の端面に向けて延び、ロータコア68の端面に開口している。軸線方向部分82bは、ロータコア68の両方の軸線方向の端面に開口してもよく、また一方の端面のみに開口してもよい。
図7〜9は、異なる形状のスリットが設けられた3種類の電磁鋼板70をそれぞれ表した図である。3種類の電磁鋼板70をそれぞれ第1電磁鋼板70A、第2電磁鋼板70B、第3電磁鋼板70Cと記す。
第1電磁鋼板70Aは、ロータコア68において、回転軸線方向の中央に配置される。冷却液流路74の回転軸線方向の寸法が適切なものとなるようにその枚数が選択されている。第1電磁鋼板70Aを挟むように第2電磁鋼板70Bが配置される。第2電磁鋼板70Bの枚数も流路寸法に基づき選択されている。第2電磁鋼板70Bは、第1電磁鋼板70Aの一方側のみに配置されてもよい。第2電磁鋼板70Bの更に外側に第3電磁鋼板70Cが配置される。第3電磁鋼板70Cは、ロータコア68の端面に至るまで積層される。第2枝流路82が両方の端面に開口する場合には、第3電磁鋼板70Cは、第1および第2電磁鋼板70A,70Bの外側の両側に配置される。第2枝流路82が一方の端面にのみ開口する場合には、第3電磁鋼板70Cは一方側にのみ配置され、第2枝流路82が開口していない側の電磁鋼板70は、冷却液流路74を形成するためのスリットが設けられていないものである。
図7は、第1電磁鋼板70Aの形状を示す図である。第1電磁鋼板70Aには、内側周縁から外側に向けて延びる第1径方向スリット88と、外側周縁から内側に向けて延びる第2径方向スリット90が設けられている。1枚の第1電磁鋼板70A、または積層された複数枚の電磁鋼板70Aを他の電磁鋼板で挟むことにより、第1径方向スリット88は幹流路78を形成し、第2径方向スリット90は第1枝流路の径方向部分80bを形成する。第1径方向スリット88の外側端、および第2径方向スリット90の内側端は拡幅されており、隣接する電磁鋼板70のスリットとの接続性を確保している。
図8は、第2電磁鋼板70Bの形状を示す図である。第2電磁鋼板70Bには、概略周方向に延びるV字形の周方向スリット92が設けられている。周方向スリット92は、V字形に配置された永久磁石72と並行するように配置されている。V字形の正転方向の上流に向けて延びる辺に相当する部分92bは、その逆方向に延びる部分92aより短く、隣接する周方向スリット92にまで達していない。周方向スリット92の屈曲している部分の位置は、第1電磁鋼板70Aの第1径方向スリット88の外側端の位置に一致する。周方向スリットの部分92aの端の位置は、第1電磁鋼板70Aの第2径方向スリット90の内側端の位置に一致する。1枚の第2電磁鋼板70B、または積層された複数枚の電磁鋼板70Bを他の電磁鋼板で挟むことにより、周方向スリット92は第1枝流路の径方向に延びる部分80aおよび第2枝流路の径方向に延びる部分82aを形成する。
図9は、第3電磁鋼板70Cの形状を示す図である。第3電磁鋼板70Cには、円形スリットまたは孔94が設けられている。円形スリット94の位置は、第2電磁鋼板70Bの周方向スリットの部分92bの端の位置に一致する。第3電磁鋼板70Cを積層することにより、円形スリット94は第2枝流路の軸方向部分82bを形成する。
ロータ62が回転しているとき、冷却液流路74の分岐点に達した冷却液は、回転方向の下流に延びる枝流路に流れる。これにより、回転方向に応じて冷却液の流れる枝流路を変更することができ、冷却液の送出される位置を変えることができる。ロータ62が正転方向に回転しているときは、冷却液は第1枝流路80を流れ、ロータ62とステータ64の間のギャップ66に送られ、ステータ64の内周面を冷却する。ロータ62が逆転方向に回転しているときは、冷却液は第2枝流路82を流れ、ロータ62の軸線方向の端面から送出され、ギャップ66には供給されない。したがって、冷却の必要性が低い逆転時において、ギャップ66に存在する冷却液により引き起こされる引きずり抵抗を低減することができる。