通常、超伝導集積回路では論理ゲートや記憶セルを構成するほとんどのジョセフソン接合の一端がグランド面に接続されており、外部電源から供給されたバイアス電流はジョセフソン接合の端部からグランド面に流れ、最終的には超伝導集積回路外の外部電源に戻ることにより閉回路を形成している。
図22に示す例では、超伝導集積回路のチップのグランド接続は、グランド面112の四隅のバイアス電流引き抜きパッド124a〜124dとパッケージ130側のグランドパッド132a〜132dとの接続によって行われる。この例においてはパッケージのグランドパッド132a〜132dは低抵抗で共通のグランドとして電気的に接続され、またバイアス電源の一端も共通グランドとして接続された構成とするのが一般的である。その場合には、バイアス電流の引き抜きを行うのではなく、バイアス戻り電流がグランドに流れると解釈することができる。特に複数のバイアス電源からバイアス電流を供給する場合においては,グランドパッド132a〜132dを通して全てのバイアス電流が戻ることになる。
図22において、バイアス電流供給パッド122に向かって戻ったバイアス戻り電流は、図中の破線で示す様に、グランド面112を四隅のバイアス電流引き抜きパッド124a〜124dに向かって流れる。バイアス戻り電流は、バイアス電流供給パッド122からバイアス電流引き抜きパッド124a〜124dに流れる際にグランド面112を流れる。バイアス戻り電流は超伝導集積回路のグランド面112において広がって流れ、超伝導集積回路110に不要磁場を形成する。ここで、不要磁場とは超伝導集積回路の論理・記憶素子の動作に悪影響を与える磁場であって望ましくない磁場を意味する。
超伝導集積回路は磁場に対して敏感であり、グランド面を流れる電流が作る磁場が超伝導集積回路内の超伝導回路に与える影響が無視できない。これまで、グランド面を流れる電流による磁場を軽減するために、バイアス電流供給用のパッドに隣接させてバイアス電流引き抜き用のパッドを設け、このバイアス電流引き抜き用のパッドからバイアス電流を引き抜く構成が提案され使用されている(非特許文献3)。
図23は、超伝導集積回路へのバイアス電流と、グランド面のバイアス戻り電流を説明するための図であり、超伝導集積回路にバイアス電流を供給し引き抜きをする際の一般的な概略図である。図23では、パッケージに載置された超伝導集積回路のチップに対して、ワイヤーボンディングのボンディング接続によってバイアス電流を供給する例を示している。
図23(a)は超伝導集積回路とパッドとの関係を示し、グランド面112のバイアス戻り電流の影響を低減化するために、バイアス電流供給パッド122に隣接してバイアス電流引き抜きパッド124を設け、バイアス電流引き抜きパッド124からバイアス戻り電流を引き抜く構成例を示している。図23(b)は超伝導集積回路チップとパッド配置の構成例を示し、必要に応じて複数のパッドからバイアス電流を供給する場合を示している。なお、ここでは、超伝導集積回路のチップは同一基板上に形成された複数の超伝導集積回路(要素回路ブロック)により構成される。なお、複数の超伝導集積回路(要素回路ブロック)から構成された全体の回路も総称して超伝導集積回路としている。
超伝導集積回路チップ111のグランド面112上には、超伝導集積回路110、バイアス電流を超伝導集積回路110に供給するためのバイアス電流供給線121およびバイアス電流供給パッド122、供給されたバイアス電流を超伝導集積回路110のグランド面112から引き出して電源側に戻すためのバイアス電流引き抜きパッド124が設けられる。バイアス電流供給パッド122およびバイアス電流引き抜きパッド124は、外部パッドとボンディング接続するボンディングパッドを構成する。
パッケージ(チップキャリア)130に設けたバイアス電源パッド131と超伝導集積回路チップ111のバイアス電流供給パッド122との間はボンディングワイヤーで接続されている。バイアス電流(図中の実線矢印で示す)は、図示していない外部電源からバイアス電源パッド131、バイアス電流供給パッド122及びバイアス電流供給線121を通して超伝導集積回路110に供給される。パッケージ(チップキャリア)130に設けたグランドパッド132は、超伝導集積回路チップ111のバイアス電流引き抜きパッド124とボンディング接続される。バイアス電流は、超伝導集積回路110内ではバイアス配線(図示していない)を通して超伝導論理・記憶回路に供給された後、グランド面112を介してバイアス戻り電流として外部電源(図示していない)側に戻る。
この際、グランド面112において戻るバイアス戻り電流は、図23(a)に示したように、超伝導のマイスナー効果によりバイアス配線及びバイアス電流供給線121に沿ってバイアス電流供給パッド122に向かって流れる。
図23(a),図23(b)のバイアス電流が示す様に、バイアス電流供給パッド122に対してバイアス電流引き抜きパッド124を隣接させて配置する構成では、グランド面112においてバイアス電流引き抜きパッド124に戻る電流によって発生する磁場を十分に低減化することが困難である。
図24はバイアス戻り電流の一例を説明するための図であり、FastHenry(3次元の磁場解析ソフト:http://www.wrcad.com/freestuff.html)により解析したグランド面の表面を流れる電流密度分布の結果を示している。図24の解析結果は、図23に示した構成と同様の、左辺中央部にバイアス電流供給パッドとバイアス電流引き抜きパッドとを隣接して配置した構成において、グランド面を流れるバイアス戻り電流の電流密度を対数目盛で示している。
図24は、超伝導集積回路チップの大きさを5mm×5mmとしチップの左端からバイアス電流を供給し、中心でグランド面に接続し、バイアス電流の供給点(バイアス電流供給パッドに相当する位置)とバイアス電流の戻し点(バイアス電流引き抜きパッドに相当する位置)をy方向(図の縦方向)に200μmずらした場合の電流密度分布の演算結果を示している。電流密度は最大値から1/10000を対数目盛によって等高線で表示している。数千から数万のジョセフソン接合からなる中規模・大規模な超伝導集積回路へのバイアス電流は数百mAから数Aとなる。これに対してSFQ回路やAQFP回路は磁場に対して高感度であり、数十μAから数百μAの電流がつくる磁場でスイッチング動作が制御される。したがって、グランド面に流れる電流は、超伝導集積回路に供給されるバイアス電流を合わせた電流量に対して、1/1000程度の電流量であっても超伝導集積回路の動作に影響を与えることになる。
超伝導論理・記憶回路を構成するSFQ回路やAQFP回路は外部磁場に対して敏感な素子であるため、不要磁場の影響を受けない環境で動作させる必要がある。地磁気などの環境磁場は磁気シールドで避けることができるが、グランド面112を流れるバイアス戻り電流が形成する磁場を磁気シールドで避けることはできない。そのため、グランド面112を流れるバイアス戻り電流による不要な磁場の発生を抑制することが求められる。
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、バイアス戻り電流による超伝導集積回路への影響を低減することを目的とする。
従来のバイアス電流供給パッドに隣接してバイアス電流引き抜きパッドを配置することによってバイアス戻り電流を引き抜く構成では、バイアス電流の供給点と引き抜き点の平面的な位置の違いによって、グランド面においてバイアス戻り電流の分布が広がるため、磁場の発生を十分に抑制することができないことを見出した。
図24に示す解析例によれば、バイアス電流の供給点及びバイアス電流の戻り点の周辺では、約1 mm からそれ以上の範囲で最大電流密度の1/1000程度を越える電流が流れる。また、バイアス電流の供給点及びバイアス電流の戻り点が設けられる辺以外のグランド面の辺においても比較的大きな電流が流れる。このグランド面のバイアス戻り電流による磁場は広い範囲で超伝導集積回路の回路動作に影響を与える。
バイアス電流はバイアス配線を通して論理・記憶回路に供給された後、グランド面に流れる。グランド面において、バイアス電流はマイスナー効果によりバイアス配線に沿ってバイアス線幅程度の範囲の幅でバイアス電流の供給点に向かって戻る。本出願の発明者は、このバイアス電流の供給と戻りにおいて、バイアス電流の供給点とバイアス戻り電流の引き抜き点が同一の位置であれば、理論上はバイアス電流とバイアス戻り電流とが打ち消し合い、磁場の発生が抑制されることを見出した。
バイアス電流の供給点とバイアス戻り電流の引き抜き点を同一の位置とするには、バイアス電流供給パッドとバイアス電流引き抜きパッドとを同じ位置に配置する必要がある。しかしながら、同一位置でボンディングを行うには、両パッドのボンディング位置が制限されること、両パッド間の短絡を避ける必要があることなどの制約があり、二つのパッドを同一面内で同一の位置に配置することは困難である。そのため、バイアス電流供給パッドとバイアス電流引き抜きパッドとを隣接して配置せざるを得ない。
したがって、従来のパッド配置のように、バイアス電流供給パッドとバイアス電流引き抜きパッドとを隣接配置する構成は、バイアス電流の供給点とバイアス戻り電流の引き抜き点の位置がずれ、この位置ずれはグランド面を流れるバイアス戻り電流に広がりが生じる要因となっている。
本願発明は、上記した見地に基づいて、超伝導集積回路に供給したバイアス電流を超伝導集積回路から引き抜く構成において、バイアス電流供給線とバイアス電流引き抜き線とを同一の配線幅とすると共に、積層方向において重なる位置で対向配置する構成とし、これによって、バイアス電流とバイアス戻り電流とを打ち消して不要な磁場の発生を抑制する。
さらに、バイアス電流供給パッドとバイアス電流引き抜きパッドを積層させ、バイアス電流供給パッドのバイアス電流を供給する面と、バイアス電流引き抜きパッドのバイアス戻り電流を引き抜く面を、積層方向において重なる位置で対向配置させる構成とすることによって、バイアス電流の供給点とバイアス戻り電流の引き抜き点を同一位置とし、これによって、グランド面でのバイアス戻り電流の広がりを低減して、不要な磁場の発生を抑制する。
本願発明の超伝導集積回路装置は、積層された複数の配線層で構成される少なくとも一つの超伝導集積回路と、配線層の少なくとも何れかの一つの層と層間接続されたグランド面と、超伝導集積回路にバイアス電流を供給するバイアス電流供給パッドと、グランド面からバイアス戻り電流を引き抜くバイアス電流引き抜きパッドと、バイアス電流供給パッドと超伝導集積回路を構成する配線層との間は電気的に接続され、バイアス電流供給パッドから超伝導集積回路にバイアス電流を供給するバイアス電流供給線と、バイアス電流引き抜きパッドと、グランド面又はグランド面と層間接続された配線層との間は電気的に接続され、グランド面からバイアス戻り電流を引き出すバイアス電流引き抜き線とを備える。
グランド面は配線層と積層され、超伝導集積回路内の回路素子および配線と共に超伝導ループを形成する。
本願発明の超伝導集積回路は、バイアス電流供給線とバイアス電流引き抜き線とを同一の配線幅とし、積層方向において重なる位置で対向配置とする。この構成により、バイアス電流とバイアス戻り電流とは打ち消し合い、不要な磁場の発生が抑制される。
また、本願発明の超伝導集積回路は、バイアス電流供給パッドとバイアス電流引き抜きパッドとを積層し、バイアス電流供給パッドのバイアス電流を供給する点と、バイアス電流引き抜きパッドのバイアス戻り電流を引き抜く点を、積層方向において重なる位置で対向配置し、バイアス電流の供給点とバイアス戻り電流の引き抜き点を同一位置とする。この構成により、グランド面でのバイアス戻り電流の広がりを低減して、不要な磁場の発生を抑制する。
本願発明の超伝導集積回路装置は、超伝導集積回路チップにバイアス電流供給パッドとバイアス電流引き抜きパッドを備え、さらに、これらと接続された同一の配線幅で積層方向において重なるバイアス電流の供給線とバイアス電流引き抜き線を備え、超伝導集積回路を実装するパッケージ(チップキャリア)にバイアス電源パッドとグランドパッドを備える。
ここでは、便宜上、超伝導集積回路チップ側のバイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドを内側パッドと称し、パッケージ(チップキャリア)側の外部バイアス電源パッド及びグランドパッドを外側パッドと称する。
内側パッドのバイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドは、超伝導集積回路の積層方向においてグランド面と重ならない位置に配置する。この配置によって、内側パッドとグランド面とを分離して絶縁状態を高め、内側パッドからグランド面への電流の漏れを抑制する。
内側パッドのバイアス電流引き抜きパッドは、引き抜いたバイアス戻り電流をボンディング配線を介して導出するボンディング部分を備え、このボンディング部分をバイアス戻り電流を引き抜く位置と平面方向で位置をずらして配置する。このボンディング部分の配置によって、バイアス電流引き抜きパッドに接続されるボンディング配線がバイアス電流供給パッドのボンディング配線と干渉することを避けることができる。
また、バイアス電流引き抜きパッドは、二つのボンディング部分を備える構成とすることができる。この二つのボンディング部分を備える構成では、バイアス戻り電流を引き抜く位置を挟んで両側に二つのボンディング部分を配置した対称構造とする。ボンディング部分を二つ備える構成とすることで、バイアス電流引き抜きパッドから導出されるバイアス戻り電流の電流量を低減させ、磁場の影響を低減させることができる。
内側パッドはグランド面の対向辺に沿って配置する。この内側パッドをグランド面に対する配置は二つの形態で行うことができる。
第1の形態は、グランド面の辺に凹部を設け、この凹部に内側パッドを配置する構成である。第1の形態において、グランド面の外周辺の内、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドと平面方向で対向する辺に凹形状の縁部を設け、このグランド面の凹形状の内側に、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドを平面方向で配置する。
第2の形態は、グランド面の外周辺の内の一辺に沿って内側パッドを配置する構成である。第2の形態において、グランド面は、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドと平面方向で対向する辺に直線形状の縁部を備え、この直線形状の縁部に沿って、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドを平面方向で配置する。
ここで、平面方向で配置するとは、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドとグランド面との積層方向の位置関係において、同一平面で配置する場合に限らず、積層方向で異なる平面に配置する場合も含むことを意味する。第1の形態は、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドとグランド面とが、平面で見たときに重なりがないように配置する。
外側パッドにおいて、バイアス電源パッドはバイアス電流供給パッドとボンディング配線で接続され、グランドパッドはバイアス電流引き抜きパッドとボンディング配線で接続される。
バイアス電源パッド及びグランドパッドは、超伝導集積回路チップの上側に設けられる他、超伝導集積回路チップの下側にも延長して設けられるパッケージ構造としてもよい。例えば、ピングリッドアレイ(PGA)パッケージやボールグリッドアレイ(BGA)パッケージを用い、フリップチップボンディングにより超伝導集積回路チップと接続する場合には、超伝導集積回路チップの内側にもバンプが設けられている。このような構造では、バイアス電源パッド及びグランドパッドやこれらのパッドの延長配線においてもグランド面と重なる構成となる場合がある。このグランド面との重なりを回避するために、バイアス電源パッド及びグランドパッド等の外側パッドについても、積層方向においてグランド面と重ならない位置に配置する。この配置によって、外側パッドとグランド面とを分離して良好な絶縁状態とし、外側パッドからグランド面への電流の漏れを抑制する。
本願発明の超伝導集積回路装置は、超伝導集積回路を構成する配線層やグランド面を載置するパッケージを備え、外側パッドはパッケージ上に設けることができる。
内側パッドと外側パッドとの間とを接続するボンディング配線は、例えば、ワイヤーボンディングやフリップチップボンディングを用いることができる。
本願発明のグランドパッドは、1パッドで構成する他、2パッドで構成することができる。2パッド構成では、二つのグランドパッドを平面上で分離して配置し、二つのグランドパッド及びバイアス電源パッドを、対向するグランド面の対向辺に沿って配置し、二つのグランドパッドはバイアス電源パッドを挟んで両側に配置する対称構造とする。
二つのグランドパッドは、超伝導集積回路とバイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドとを接続するバイアス配線の軸方向に対して対称に配置され、グランド面からのバイアス戻り電流をバイアス配線の軸方向に対して対称に振り分けると共に、バイアス電源から流入する電流量を2分させることによって、バイアス戻り電流による不要な磁場の影響を低減する。
グランドパッドを2パッドで構成することによって、各グランドパッドからバイアス電源側に戻るバイアス戻り電流の電流量を、バイアス電源パッドから流入するバイアス電流の合計電流量の1/2に低減させることができ、バイアス戻り電流による磁場の影響を低減させることができる。
なお、電流量の低減において、電流量を1:1に分割することが望ましいが厳密に1/2である必要はなく、電流量の分割の比率はその比率によって発生する磁場に対する許容分によって定めることができる。また、電流の対称な振り分けについても、バイアス電流配線に対して等距離であることが望ましいが厳密に等距離である必要はなく、位置ずれの程度ははその位置ずれによって発生する磁場に対する許容分によって定めることができる。
本願発明のバイアス電源パッドは、1パッドで構成する他、2パッドで構成することができる。2パッド構成では、二つのバイアス電源パッドを平面上で分離して配置し、二つのバイアス電源パッド及びグランドパッドを、対向するグランド面の対向辺に沿って配置し、二つのバイアス電源パッドはグランドパッドを挟んで両側に配置する対称構造とする。
二つのバイアス電源パッドは、超伝導集積回路とバイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドとを接続するバイアス配線の軸方向に対して対称に配置され、外部電源からのバイアス電流をバイアス配線の軸方向に対して対称に振り分けると共に、電流量を2分させることによって、バイアス電流による不要な磁場の影響を低減する。
本願発明において、超伝導集積回路の外部パッドであるグランドパッドとバイアス電源パッドをそれぞれ2パッドで構成する態様によれば、バイアス電流および/又はバイアス戻り電流をバイアス配線に対して対称に振り分けることによって、バイアス配線に対する電流の流れのバランスのずれを低減することができ、これによって電流分布の不均等によって発生する不要磁場を抑制することができる。
なお、バイアス配線はバイアス電流供給線及びバイアス引き抜き線の一方あるいは両方の配線を表すものである。
この構成によって、バイアス電流供給線とバイアス電流引き抜き線に流れる電流密度を同程度とし、各電流が形成する磁場を互いに打ち消して、超伝導集積回路への磁場の影響を低減させることができる。
以上説明したように、本願発明の超伝導集積回路装置によれば、バイアス戻り電流のグランド面での広がりを縮小することによって、不要磁場の発生を抑制し、バイアス戻り電流による超伝導集積回路への影響を低減することができる。
以下、本願発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。以下、図1,2を用いて本願発明の超伝導集積回路装置の概略構成を説明し、図3,4を用いて本願発明の超伝導集積回路装置によるバイアス戻り電流の分布状態を説明し、図5を用いて本願発明の超伝導集積回路装置を構成する超伝導集積回路の積層構造を説明し、図6〜20を用いて本願発明の超伝導集積回路装置の実施例を説明する。
[超伝導集積回路装置の概略構成]
本願発明の超伝導集積回路装置は、超伝導のグランド面(グランドプレーン)上に配線層を積層して形成される一つあるいは複数の超伝導集積回路を備える。超伝導集積回路内には、バイアス電流供給用の配線、及びバイアス電流戻し用の配線は同一の配線幅とし、回路周辺に積層方向(上下方向)に平行して且つ対向して設けられ、これら配線によって超伝導集積回路内の超伝導論理・記憶回路へのバイアス電流の供給と引き抜きが行われる。
グランド面は超伝導論理・記憶回路部の平面全体に対して対向して設けられ、グランド面に対して超伝導集積回路の配線は電気的に接続される。
バイアス電流供給用の配線とバイアス電流戻し用の配線はそれぞれ一方の端部にバイアス電流供給パッドとバイアス電流引き抜きパッドを備え、両パッドを積層方向(超伝導集積回路の上下方向)において同一位置に配置する。
この配線及びパッドの配置構成によって、バイアス電流の供給とバイアス電流の戻し(引き抜き)とを、平面方向で見たとき同一点で行うことができ、バイアス電流での広がりを抑制して、超伝導集積回路に対して磁場の発生を抑制すると共に、必要なバイアス電流を超伝導集積回路の超伝導論理・記憶回路に供給することができる。
図1、2は本願発明の超伝導集積回路装置1の概略構成、特にパッド部分の構成を説明するための図であり、図1は第1の形態を示し、図2は第2の形態を示している。
超伝導集積回路チップ3はボンディングパッドを備え、超伝導集積回路2と外部パッドとの間でボンディング接続を行う。超伝導集積回路チップ3に設けられる超伝導集積回路2は、ALU、乗算器、プロセッサコア、ROM、RAM、入出力(I/O)回路等の一つあるいは複数の要素集積回路(機能集積回路ブロック)から構成され、相互に配線されている。一般に、これらの超伝導集積回路チップには下部または上部あるいは上下全面に渡ってグランド面12が設けられる。また、超伝導集積回路チップ3は、パッケージ(チップキャリア)4に実装されたボンディングパッドと電気的に接続される。
図示したように、超伝導集積回路チップ3内に設けたバイアス電流供給パッド22とバイアス電流引き抜きパッド24の各ボンディングパッドにはグランド面12を設けない。この二つのボンディングパッドから積層方向で上下の位置で平行且つ対向して設けられた配線を通して超伝導集積回路本体である論理回路・記憶回路に対してバイアス電流の供給と戻しが行われる。
本願発明の超伝導集積回路装置1は、バイアス戻り電流をバイアス電流引き抜きパッド24から戻す、あるいは、バイアス電流をバイアス電流供給パッド22から与える際に、1本のボンディング配線を用いる形態と、2本のボンディング配線を用いる形態とすることができる。
第1の形態および第2の形態は、共に超伝導集積回路へのバイアス電流の供給と、超伝導集積回路から戻るバイアス電流の引き抜きのためのパッド部分の構成において、バイアス電流を供給する構成として、バイアス電源(図示していない)側に設けたバイアス電源パッド31と、超伝導集積回路2側に設けたバイアス電流供給パッド22と、バイアス電流供給パッド22と超伝導集積回路2側のバイアス配線とを接続してバイアス電流を超伝導集積回路2に供給するバイアス電流供給線21を備える。又、バイアス戻り電流を引き抜く構成として、バイアス電源(図示していない)側に設けたグランドパッド32と、超伝導集積回路2側に設けたバイアス電流引き抜きパッド24と、バイアス電流引き抜きパッド24とグランド面側に接続してグランド面側から戻るバイアス戻り電流を引き抜くバイアス電流引き抜き線23を備える。
なお、バイアス電流引き抜き線23をグランド面12と同じ層レベルで接続して、グランド面12からバイアス戻り電流を直接に引き抜く構成とする他、バイアス電流引き抜き線23との接続を、グランド面12とビア接続された異なる層レベルの配線層10との間で行い、グランド面12から戻るバイアス戻り電流をビア(図示していない)を通して配線層から引き抜く構成とすることができる。
バイアス電流供給パッド22とバイアス電流引き抜きパッド24は、バイアス電流供給パッド22のバイアス電流を供給する面(ボンディング部Aの面)と、バイアス電流引き抜きパッド24のバイアス戻り電流を引き抜く面(対向面B)が、積層方向において重なる位置となるように対向配置させて積層される。
この配置によって、バイアス電流の供給点とバイアス戻り電流の引き抜き点とを同一位置とし、バイアス電流とバイアス戻り電流とを打ち消して磁場の発生を抑制する。
バイアス電流供給線21とバイアス電流引き抜き線23とを同じ配線幅とし、積層方向において重なる位置で対向配置させる。この配置によって、バイアス電流供給線21を流れるバイアス電流によって発生する磁場とバイアス電流引き抜き線23を流れるバイアス戻り電流によって発生する磁場とを互いに打ち消し、超伝導集積回路2への磁場の影響を低減させる。
また、バイアス電流供給パッド22とバイアス電流引き抜きパッド24は、超伝導集積回路2の積層方向においてグランド面12と重ならない位置に配置する。この配置によって、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24とグランド面とを分離してバイアス電源パッド31とグランドパッド32とのボンディング配線を可能にする。
本願発明の超伝導集積回路装置において、グランドパッドは一つのパッドを備える構成の他、二つのパッドを備える構成とすることができる。図1の第1の形態はグランドパッドを一つのパッドで構成する例であり、図2の第2の形態はグランドパッドを二つのパッドで構成する例である。
第1の形態において、バイアス電流供給パッド22は、バイアス電源パッド31との間でボンディング配線を接続するボンディング部分Aを備え、バイアス電流引き抜きパッド24は、バイアス電流供給パッド22と積層方向に重なる対向面Bと、バイアス電流供給パッド22と積層方向で位置をずらして配置される一つのボンディング部分Cを有する。
ボンディング部分Cはグランドパッド32との間をボンディング配線で接続する接点部分(図中の枠で示す)であり、バイアス戻り電流は対向面Bで引き抜かれた後、ボンディング部分Cからボンディング配線を介してグランドパッド32に戻り、バイアス電源(図示していない)に戻る。
第2の形態において、バイアス電流供給パッド22は、第1の形態と同様に、バイアス電源パッド31との間でボンディング配線を接続するボンディング部分Aを備える。一方、バイアス電流引き抜きパッド24は、バイアス電流供給パッド22と積層方向に重なる対向面Bと、バイアス電流供給パッド22と積層方向で位置をずらして配置される二つのボンディング部分C,Dを有する。二つのボンディング部分C,Dは対向面Bを挟んで配置された対称構造とすると共に、グランド面の対向辺に沿って配置される。また、第2の形態では、二つのグランドパッド32,33を備える。
バイアス電流引き抜きパッド24のボンディング部分C,Dは、グランドパッド32,33との間をボンディング配線でそれぞれ接続する接点部分(図中の枠で示す)であり、バイアス戻り電流は対向面Bで引き抜かれた後、ボンディング部分Cからボンディング配線を介してグランドパッド32に戻ると共に、ボンディング部分Dからボンディング配線を介してグランドパッド33に戻り、バイアス電源(図示していない)に戻る。
バイアス電源パッドの二つのパッド及びグランドパッドは、同一平面上において、対向するグランド面の対向辺に沿って配置され、二つのグランドパッドはバイアス電源パッドを挟んで両側に配置される対称構造である。
グランドパッドを二つのパッドで構成することによって、各グランドパッドから流出するバイアス戻り電流の電流量を、バイアス電源パッドから流入するバイアス電流の合計電流量の1/2に低減させると共に、バイアス戻り電流をバイアス配線の中心軸に対して対称に振り分けることによって、バイアス電流とバイアス戻り電流による磁場の影響を低減させることができる。
グランドパッドと接続するバイアス電流引き抜きパッドが2つある構成では、バイアス電流引き抜きパッドはバイアス配線(バイアス電流供給線及びバイアス電流引き抜き線)に対して対称配置する構成とすることによって、バイアス戻り電流は、バイアス配線の中心軸に対して対称に振り分けられる。
図3,4は電流密度分布をFastHenryにより計算した結果を示し、図3は第1の態様の構造による電流密度分布を示し、図4は第2の態様の構造による電流密度分布を示している。
図3に示す第1の形態による電流密度分布によれば、電流密度の最大値の1/1000以上の範囲はバイアス電流供給線やボンディングパッドの極めて近傍に制限されている。同様に、電流密度の最大値の1/2000から1/10000の更に小さな電流密度の範囲についても狭くなっていることを示している。
図4に示す第2の形態による電流密度分布によれば、第1の形態よりも更にグランド面を流れるバイアス戻り電流の広がりは低減され、電流密度の最大値の1/10000以上の範囲においてもバイアス電流供給線やボンディングパッドの極めて近傍に制限されることを示している。
超伝導集積回路のデバイス構造として、1層のNbグランド面と接合の上部電極と下部電極を形成する2層のNb層の配線層からなる3層のデバイス構造、あるいは配線層としてもう一つのNb層を追加した4層のデバイス構造が知られている。
図5は超伝導集積回路の代表的な作成プロセスの断面構造を説明するための概念図である。スイッチ素子であるジョセフソン接合17をNb/AlOx/Nb構造で作成し、基板11上に、超伝導配線層としてのNbの配線層13〜15(M2〜M4)と、SiO2の層間絶縁膜16と、グランド面12(M1)とを備え、抵抗としてMo(RES)を用いて配線間をビアにより接続している。図5において、配線層13はBAS層、配線層14はCOU層、配線層15はCTL層と呼ばれ、BC,GC,JC,RCは層間のコンタクト(ビア)部分である。
M1層のグランド面(グランドプレーン)12は超伝導集積回路の全面に渡って形成され、自己インダクタンスの低減化や隣接する配線間の相互インダクタンスの低減化の作用を奏する他、グランド面を接地面としてマイクロストリップラインやストリップラインなどの形成にも使用されている。作成プロセスの断面構造の詳細については、例えば非特許文献4に記載されている。
[実施例]
以下、図6〜図20を用いて本願発明の実施例について説明する。以下では、第1の実施例〜第8の実施例について示す。第1〜第4の実施例は第1の形態の構成であり、第5〜第8の実施例は第2の形態の構成である。
以下に示す第1の実施例〜第4の実施例は、一つのグランドパッドを備える第1の態様に係る実施例である。
第1の実施例:
第1の実施例を図6,7を用いて説明する。図6は超伝導集積回路装置のパッド部分の構成を示し、図7は超伝導集積回路の概略構成を示している。
第1実施例では、バイアス電流引き抜きパッド24は一つのボンディング部分を備え、このボンディング部分に対応するグランドパッド32を一つ備える構成であり、バイアス電流供給パッド22とバイアス電源パッド31との間をボンディング配線で接続し、バイアス電流引き抜きパッド24とグランドパッド32との間をボンディング配線で接続する。
グランド面12は、バイアス電流引き抜きパッド24とグランドパッド32、及びバイアス電流供給線21とバイアス電流引き抜き線23の平行配線の周辺を除去したレイアウトである。例えば、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺を凹形状の縁部とし、平面方向において、この凹形状の内側にバイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24を配置する。
なお、図示する例では、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24を矩形形状で構成する例を示し、この矩形形状のパッドにおいて、各パッドが備える4辺の内、図6、図7(a)中の左方の辺を除く3辺でグランド面12の縁部と対向する例を示している。パッドとグランド面の縁部とが対向する位置関係はこの例に限らず、パッドの4辺をグランド面の縁部が囲む位置関係とする他、グランド面の縁部をL字形状とし、このL字部分の2辺の縁部対向する位置関係としてもよい。
バイアス電流供給パッド22と第1の配線層の配線41とをバイアス電流供給線21で接続し、バイアス電流引き抜きパッド24はバイアス電流引き抜き線23と接続する。バイアス電流引き抜き線23あるいはそれと接続された第2の配線層の配線42の適当な位置でグランド面12とビア43を通して接続することによってバイアス電流引き抜き線23あるいは第2の配線層の配線42とグランド面12とを接続し、これによって、バイアス電流及びバイアス戻り電流は、積層方向の上下で形成される平行配線を流れる構成としている。なお、バイアス電流引き抜き線23は第2の配線層で形成され、実質的には配線42と区別はなく同等である。
配線41の第1の配線層及び配線42の第2の配線層は図5中の配線層13〜15を用いることができる構成とする。
バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24の各パッドと配線層13〜15はビアを通して他の層に接続することで、任意の層を使って上下平行配線やパッドを形成することができる。
例えば、バイアス電流供給パッド22とCOU層(M3)の配線層14、及びバイアス引き抜きパッド2とBAS層 (M2)の配線層13を用いて上下の平行配線を形成し、超伝導集積回路2の配線層の適当な個所でBAS層 (M3)の配線層14とグランド面(M1)12をビアを通して接続することで、バイアス電流とバイアス戻り電流をが流れる上下の平行配線を形成する。
図7(a)は、バイアス電流供給パッド22とバイアス電流引き抜きパッド24を各一つ設けた例を示し、図7(b)は、複数のバイアス電流パッドと配線を設けた、より実際的な構成図を示している。
第2の実施例:
第2の実施例を図8を用いて説明する。図8は超伝導集積回路装置のパッド部分の構成を示している。
第2の実施例は、バイアス電流引き抜きパッドと接続する配線層として、第1の実施例の第2の配線層に代えてグランド面を用いる構成とし、その他の構成は第1の実施例と同様とする例である。
ここでは、第1の実施例と異なる構成についてのみ説明し、その他の共通する構成については説明を省略する。
バイアス電流引き抜きパッド24はバイアス電流引き抜き線23を通してグランド面12と接続する。これによって、第1の実施例では、グランド面12のバイアス戻り電流はビア接続された第2の配線層42からバイアス電流引き抜き線23に戻るのに対して、第2の実施例によれば、グランド面12のバイアス戻り電流は第2の配線層42を介することなくバイアス電流引き抜き線23に戻ることになる。したがって、第2の実施例は、バイアス電流及びバイアス戻り電流は、一方をグランド面として積層方向の上下で形成される平行配線を流れる。
第3の実施例:
第3の実施例を図9を用いて説明する。図9は超伝導集積回路装置のパッド部分の構成を示している。
第3の実施例は、グランド面の形状の点で第1の実施例と異なる構成とし、その他の構成は第1の実施例と同様とする例である。ここでは、第1の実施例と異なる構成についてのみ説明し、その他の共通する構成については説明を省略する。
第1の実施例では、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドを、グランド面に設けた凹部形状の内側に配置する構成であるのに対して、第3の実施例では、グランド面12は、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺に直線形状の縁部を備える構成とする。バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24は、平面方向においてグランド面12の直線形状の縁部に沿って配置される。
グランド面12が、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺を直線形状の縁部とすることによって、バイアス電流引き抜きパッド24とグランド面12との距離を広げることができ、バイアス漏れ電流がグランド面12上で広がることを低減することができる。
第4の実施例:
第4の実施例を図10を用いて説明する。図10は超伝導集積回路装置のパッド部分の構成を示している。
第4の実施例は、バイアス電流引き抜きパッドと接続する配線層をグランド面とする点、及びグランド面の形状の点で第1の実施例と異なる構成とし、その他の構成は第1の実施例と同様とする例である。ここでは、第1の実施例と異なる構成についてのみ説明し、その他の共通する構成については説明を省略する。
バイアス電流引き抜きパッド24はバイアス電流引き抜き線23を通してグランド面12と接続する。これによって、第1の実施例では、グランド面12のバイアス戻り電流はビア接続された第2の配線層42からバイアス電流引き抜き線23に戻るのに対して、第4の実施例によれば、グランド面12のバイアス戻り電流は第2の配線層42を介することなくバイアス電流引き抜き線23に戻ることになる。したがって、第4の実施例では、バイアス電流及びバイアス戻り電流は、一方をグランド面として積層方向の上下の位置に形成される平行配線を流れる。
第1の実施例では、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドを、グランド面に設けた凹部形状の内側に配置する構成であるのに対して、第4の実施例では、グランド面12は、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺に直線形状の縁部を備える構成とする。バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24は、平面方向においてグランド面12の直線形状の縁部に沿って配置される。
グランド面12が、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺を直線形状の縁部とすることによって、バイアス電流引き抜きパッド24とグランド面12との距離を広げることができ、バイアス漏れ電流がグランド面12上で広がることを低減することができる。
以下に示す第5の実施例〜第8の実施例は、二つのグランドパッドを備え、バイアス電流引き抜きパッドは二つのボンディング部分を備える第2の態様の実施例である。
第5の実施例:
第5の実施例を図11,12を用いて説明する。図11は超伝導集積回路装置のパッド部分の構成を示し、図12は超伝導集積回路の概略構成を示している。
第5の実施例は、バイアス電流引き抜きパッド及びグランドパッドの構成において第1の実施例と異なり、その他の構成は第1の実施例と同様とする例である。ここでは、第5の実施例と異なる構成についてのみ説明し、その他の共通する構成については説明を省略する。
第5の実施例において、バイアス電流供給パッド22は、第1の実施例と同様にバイアス電源パッド31との間でボンディング配線を接続する。一方、バイアス電流引き抜きパッド24は、バイアス電流供給パッド22と積層方向に重なる対向面Bと、バイアス電流供給パッド22と積層方向で位置をずらして配置される二つのボンディング部分C,Dを有する。二つのボンディング部分C,Dは対向面Bを挟んで配置されて対称構造を構成し、グランド面の対向辺に沿って配置する。また、第5の実施例では、バイアス電流引き抜きパッド24の二つのボンディング部分に対応して二つのグランドパッド32,33を備える。
バイアス電流引き抜きパッド24のボンディング部分C,Dは、グランドパッド32,33との間をボンディング配線でそれぞれ接続する接点部分(図中の枠で示す)であり、バイアス戻り電流は対向面Bで引き抜かれた後、ボンディング部分Cからボンディング配線を介してグランドパッド32に戻ると共に、ボンディング部分Dからボンディング配線を介してグランドパッド33に戻り、バイアス電源(図示していない)に戻る。
グランドパッド32,33を二つのパッドで構成することによって、各グランドパッドから流出するバイアス戻り電流の電流量を、バイアス電源パッド31から流入するバイアス電流の合計電流量の1/2に低減させると共に、バイアス配線の軸方向に対して対称な電流とすることによって、バイアス戻り電流による磁場の影響を低減させることができる。
第5の実施例では、バイアス電流引き抜きパッド24は二つのボンディング部C,Dを備え、このボンディング部C,Dに対応する二つのグランドパッド32,33を備え、バイアス電流供給パッド22とバイアス電源パッド31との間をボンディング配線で接続し、バイアス電流引き抜きパッド24のボンディング部分Cとグランドパッド32との間をボンディング配線で接続し、バイアス電流引き抜きパッド24のボンディング部分Dとグランドパッド33との間をボンディング配線で接続する。
また、グランド面12は、バイアス電流引き抜きパッド24とグランドパッド32、及びバイアス電流供給線21とバイアス電流引き抜き線23の平行配線の周辺を除去したレイアウトとする。例えば、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺を凹部形状の縁部とし、平面方向において、この凹部形状の内側にバイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24を配置する。
なお、図示する例では、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24を矩形形状で構成する例を示し、この矩形形状のパッドにおいて、各パッドが備える4辺の内、図11、図12(a)中の左方の辺を除く3辺でグランド面12の縁部と対向する例を示している。パッドとグランド面の縁部とが対向する位置関係はこの例に限らず、パッドの4辺をグランド面の縁部が囲む位置関係とする他、グランド面の縁部をL字形状とし、このL字部分の2辺の縁部対向する位置関係としてもよい。
バイアス電流供給パッド22と第1の配線層の配線41とをバイアス電流供給線21で接続し、バイアス電流引き抜きパッド24はバイアス電流引き抜き線23と接続する。バイアス電流引き抜き線23あるいはそれと接続された第2の配線層の配線42の適当な位置でグランド面12とビア43を通して接続することによってバイアス電流引き抜き線23あるいは第2の配線層の配線42とグランド面12とを接続し、これによって、バイアス電流及びバイアス戻り電流は、積層方向の上下で形成される平行配線を流れる構成としている。なお、バイアス電流引き抜き線23は第2の配線層で形成され、実質的には配線42と区別はなく同等である。
配線41の第1の配線層及び配線42の第2の配線層は図5中の配線層13〜15を用いることができる構成とする。
バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24の各パッドと配線層13〜15はビアを通して他の層に接続することで、任意の層を使って上下平行配線やパッドを形成することができる。
例えば、バイアス電流供給パッド22とCOU層(M3)の配線層14、及びバイアス引き抜きパッド2とBAS層 (M2)の配線層13を用いて上下の平行配線を形成し、超伝導集積回路2の配線層の適当な個所でBAS層 (M3)の配線層14とグランド面(M1)12をビアを通して接続することで、バイアス電流とバイアス戻り電流が流れる上下の平行配線を形成する。
図12(a)は、バイアス電流供給パッド22とバイアス電流引き抜きパッド24を各一つ設けた例を示し、図12(b)は、複数のバイアス電流パッドと配線を設けた、より実際的な構成図を示している。
第6の実施例:
第6の実施例を図13,14を用いて説明する。図13は超伝導集積回路装置のパッド部分の構成を示し、図14は超伝導集積回路の概略構成を示している。
第6の実施例は、バイアス電流引き抜きパッドと接続する配線層として、第5の実施例の第6の配線層に代えてグランド面を用いる構成とし、その他の構成は第5の実施例と同様とする例であり、グランド面はバイアス電流引き抜きパッドおよび平行配線の周辺のみが除去されたレイアウトである。
ここでは、第5の実施例と異なる構成についてのみ説明し、その他の共通する構成については説明を省略する。
バイアス電流引き抜きパッド24はバイアス電流引き抜き線23を通してグランド面12と接続する。これによって、第1の実施例では、グランド面12のバイアス戻り電流はビア接続された第2の配線層42からバイアス電流引き抜き線23に戻るのに対して、第2の実施例によれば、グランド面12のバイアス戻り電流は第2の配線層42を介することなくバイアス電流引き抜き線23に戻ることになる。したがって、第2の実施例は、バイアス電流及びバイアス戻り電流は、一方をグランド面として積層方向の上下で形成される平行配線を流れる。
第6の実施例では、バイアス電流供給パッド22と接続する配線41の第1の配線層として例えばBAS層(M2)の配線層13を用い、バイアス引き抜きパッド24と接続する配線層としグランド面12を用いることで上下の平行配線を形成している。
図14(a)は、バイアス電流供給パッド22とバイアス電流引き抜きパッド24を各一つ設けた例を示し、図14(b)は、複数のバイアス電流パッドと配線を設けた、より実際的な構成図を示している。
第7の実施例:
第7の実施例を図15を用いて説明する。図15は超伝導集積回路装置のパッド部分の構成を示している。
第7の実施例は、グランド面の形状の点で第5の実施例と異なる構成とし、その他の構成は第5の実施例と同様とする例である。ここでは、第5の実施例と異なる構成についてのみ説明し、その他の共通する構成については説明を省略する。
第5の実施例は、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドを、グランド面に設けた凹部形状の内側に配置する構成であるのに対して、第7の実施例では、グランド面12は、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺に直線形状の縁部を備える構成とする。バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24は、平面方向においてグランド面12の直線形状の縁部に沿って配置される。
グランド面12が、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺を直線形状の縁部とすることによって、バイアス電流引き抜きパッド24とグランド面12との距離を広げることができ、バイアス漏れ電流がグランド面12上で広がることを低減することができる。
第8の実施例:
第8の実施例を図16,17を用いて説明する。図16は超伝導集積回路装置のパッド部分の構成を示し、図17は超伝導集積回路の概略構成を示している。
第8の実施例は、バイアス電流引き抜きパッドと接続する配線層をグランド面とする点、及びグランド面の形状の点で第5の実施例と異なる構成とし、その他の構成は第5の実施例と同様とする例である。ここでは、第5の実施例と異なる構成についてのみ説明し、その他の共通する構成については説明を省略する。
バイアス電流引き抜きパッド24はバイアス電流引き抜き線23を通してグランド面12と接続する。これによって、第5の実施例では、グランド面12のバイアス戻り電流はビア接続された第2の配線層42からバイアス電流引き抜き線23に戻るのに対して、第8の実施例によれば、グランド面12のバイアス戻り電流は第2の配線層42を介することなくバイアス電流引き抜き線23に戻ることになる。したがって、第8の実施例は、バイアス電流及びバイアス戻り電流は、一方をグランド面として積層方向の上下で形成される平行配線を流れる。
第5の実施例では、バイアス電流供給パッド及びバイアス電流引き抜きパッドを、グランド面に設けた凹部形状の内側に配置する構成であるのに対して、第8の実施例では、グランド面12は、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺に直線形状の縁部を備える構成とする。バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24は、平面方向においてグランド面12の直線形状の縁部に沿って配置される。
グランド面12が、バイアス電流供給パッド22及びバイアス電流引き抜きパッド24と平面方向で対向する辺を直線形状の縁部とすることによって、バイアス電流引き抜きパッド24とグランド面12との距離を広げることができ、バイアス漏れ電流がグランド面12上で広がることを低減することができる。
超伝導集積回路の各実施例において、グランド面が設けられていない個所において高周波信号の入出力上で接地を必要とする場合にはグランド面を設けることができる。
また、上下平行配線を構成するパッドと配線層の組み合わせにおいて、バイアス電流供給パッドとBAS層(M2)、及びバイアス引き抜きパッドとグランド面の組み合わせに限らず、任意の配線層を用い、超伝導集積回路内の適当な個所でビアによってグランド面と接続する構成としても良い。
図18は、グランド面の積層位置を説明するための図である。
上記した各実施例ではグランド面を積層の下部に配置する例を示しているが、グランド面は積層の下部に限らず上部あるいは上部及び下部に設ける構成としてもよい。
図18(a),(b)は、グランド面(GP)を積層の下部に設ける例を示している。この例では、基板11上にグランド面12を設け、層間絶縁層16を挟んで配線層13,14,15を積層させる。各配線層間の接続はビア18によって行い、図18(a)では配線層とグランド面との接続はビア43によって行う。
図18(a)では、バイアス電流引き抜きパッド24とグランド面12とを配線層13を介して接続する例であり、配線層13の任意の点とグランド面12とをビア43で接続する。
図18(b)では、バイアス電流引き抜きパッド24とグランド面12とは配線層13を介することなく直接に接続する。
図18(c)は、グランド面(GP)を積層の上部に設ける例を示している。この例では、基板11上に層間絶縁層16を挟んで配線層13,14,15を積層させ、上部にグランド面12を生成する。各配線層間の接続はビア18によって行い、配線層とグランド面12との接続はビア43によって行う。
図18(d)は、グランド面(GP)を積層の下部と上部に設ける例を示している。この例では、基板11上にグランド面12aを設け、その上に層間絶縁層16を挟んで配線層13,14,15を積層させ、上部にグランド面12bを生成する。各配線層間の接続はビア18によって行う。
ここでは、バイアス電流引き抜きパッド24とグランド面12a,bとは配線層13を介することなく直接に接続する例を示しているが、ビア接続した配線層を介してバイアス引き抜き電流パッド24と接続する構成とすることもできる。
図19は本願発明の超伝導集積回路の別の概略構成を示す図である。この例では、グランド面12を積層方向の上方に設けると共に、二つのバイアス電源パッド31a,31bと、一つのグランドパッド32を備える構成である。この構成例によれば、各バイアス電源パッド31a,31bから導入するバイアス電流を、バイアス配線(バイアス電流供給線22及びバイアス引き抜き線23)の軸方向に対して対称に振り分けることができる。
バイアス電源パッドを二つのパッドで構成する場合は、グランドパッドを二つのパッドで構成する場合に対して、二つのパッド構造において、、バイアス電流を供給するバイアス電源パッドとバイアス戻り電流を引き抜くグランドパッドのパッドが入れ替わっており、振り分けられる電流がバイアス戻り電流からバイアス電流に入れ替わっているが、電流をバイアス配線に対して対称配置とすることによって不要磁場の発生を抑制するという点では同様の効果を奏する。
図20は、バイアス電源パッド及びグランドパッドの両パッドについてそれぞれ二つのパッドで構成する例を示している。図20(a)はバイアス電流を供給するための構成部分を示し、バイアス電源パッド31を二つのパッド31a,31bによって構成し、バイアス電流供給パッド22にボンディング接続される。二つのバイアス電源パッド31a,31bは、バイアス配線であるバイアス電流供給線21に対して対称に配置される。
図20(b)はバイアス戻り電流を引き抜くための構成部分を示し、グランドパッド32を二つのパッド32a,32bによって構成し、バイアス電流引き抜きパッド24にボンディング接続される。二つのグランドパッド32a,32bは、バイアス配線であるバイアス引き抜き線23に対して対称に配置される。バイアス電源パッド31a,31b及びグランドパッド32a,32bは並置される。
図20(c)は、図20(a)のバイアス電流を供給するための構成部分と図20(b)のバイアス戻り電流を引き抜くための構成部分とを重ねた状態を示している。この構成によれば、平面上においてバイアス電流供給パッド22とバイアス電流引き抜きパッド24とが重なる位置であって、バイアス配線の端点の位置において、バイアス電流の供給とバイアス戻り電流の引き抜きが行われ、さらに、バイアス電流とバイアス引き抜き電流とをバイアス配線に対して対称に振り分けることができる。
なお、本発明は、前記各実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。例えば、複数の集積回路を分離してそれぞれ接地(グランド)させ、これら集積回路に対して直列にバイアス電流を供給するカレントリサイクル回路方式(非特許文献5)に対しても適用することもできる。