JP6395684B2 - 溶銑の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、固体還元鉄の溶解により溶銑を製造する方法に関する。
従来、溶銑を製造するための方法として、回転炉床炉等により生成された固体還元鉄からなる塊成化物(例えばペレットやブリケット)を溶解炉に投入して溶解する方法が知られている。
特許文献1は、固体還元鉄を静置型のアーク加熱式溶解炉内に投入して当該固体還元鉄を溶解することと、当該固体還元鉄の溶融により当該溶解炉内に生成された溶銑及びその上において層をなすように副生された溶融スラグを順次炉内から出銑滓することと、を含む方法を開示する。具体的に、この方法では、当該溶解炉の炉壁の下部にこれを貫通するタップホールが設けられ、このタップホールを通じて前記溶銑の排出さらにはその上側の溶融スラグの排出が順次行われる。溶融スラグの排出が完了した後は、前記タップホールがマッドにより閉塞される。
一方、鉄スクラップ等の冷鉄源を溶解するための溶解炉として、前記のような静置型の溶解炉の他、特許文献2に記載されるような傾動式の溶解炉が知られている。この傾動式の溶解炉は、溶解室及び当該溶解室を傾動させる傾動手段を具備する。前記溶解室内では、アーク加熱により前記冷鉄源が溶解することにより溶鋼及び溶融スラグが生成される。前記傾動手段は、前記溶解室を傾動させることにより、当該溶解室内の前記溶融スラグの排滓及びその下方の前記溶鋼の出鋼を行う。
特開2009−074120号公報 特開2000−345229号公報
特許文献1に記載される方法は、僅かな断面積のタップホールを通じて出銑滓を行うものであるため、出銑滓に長い時間を要し、よって溶銑の生産性の向上が難しいという課題がある。さらに、当該タップホールを通じての出銑滓を実際に行うためには、1タップ分の溶銑の製造の完了後、i)穿孔機による、炉側に設置されているタップホールの開孔、ii)当該タップホールを通じての出銑滓、及び、iii)出銑滓終了後に前記タップホールにマッド(耐火物)を詰めることによる当該タップホールの止栓、という一連の面倒な作業を要する。
本発明者らは、前記のような課題を解決する手段として、傾動式の溶解炉を用いて固体還元鉄を溶解することによる溶銑の製造を検討した。当該傾動式の溶解炉を用いれば、前記タップホールの開孔及び止栓を要することなく迅速に出滓を行うことが可能である。しかしながら、このような傾動式の溶解炉を用いて固体還元鉄を溶解するにあたっては、次のような新たな課題が発生する。
前記のような固体還元鉄の溶解は、前記鉄スクラップ等の溶解と異なり、大量の溶融スラグの副生、つまり大きな厚みを有するスラグ層の形成、を伴い、当該溶融スラグの量は、原料である鉄鉱石中のFe成分が低いほど大きくなる。このようにして大きな厚みを有するに至ったスラグ層は、上から投入される固体還元鉄からなる塊成化物が当該スラグ層を突き抜けてその下側の溶銑層に至るのを妨げる可能性がある。このように当該塊成化物を捕捉したスラグ層がそのまま排滓されると、その捕捉された前記塊成化物は溶銑の製造に寄与することなく前記溶融スラグとともに炉外に排出されることになり、このことは前記塊成化物の鉄分歩留低下の大きな原因となる。
このような不都合を回避する手段として、前記スラグ層の厚みが大きくなる前に前記固体還元鉄の投入を停止して出銑滓を行うことが考えられる。しかし、これでは1タップあたりの処理時間が著しく短縮されて溶解炉本体の傾動による出銑滓の頻度が増大する。このことは、生産性の向上の妨げとなり、また後工程(例えば溶鋼の生成)のサイクルタイムとのマッチングを困難にする。
そこで本発明者らは、前記スラグ層の厚みの過度の増大を避けながら適正なサイクルタイムでの銑鉄の製造を可能にする方法として、出銑前に行われるべき溶銑生成工程において、固体還元鉄の塊成化物を投入して溶解する溶解工程と、その溶解により生成された溶融スラグを排滓する排滓工程とを複数に分割し、当該溶解工程と当該排滓工程とを複数回交互に繰返した後に出銑を行うことに想到した。このように1回の出銑に対応する溶解工程を複数回に分け、それぞれの溶解工程の終了後に排滓工程を行って溶融スラグを排出することにより、溶銑の生成を進行させながらもこれに伴うスラグ層の厚みの過度の増大を阻むことができ、これにより、前記塊成化物が前記溶融スラグに捕捉されたまま当該溶融スラグとともに排出されてしまう不都合を有効に抑止することができる。
本発明は、このような観点からなされたものであって、固体還元鉄からなる塊成化物の溶解による溶銑の製造を高い効率で行うことが可能な方法を提供する。提供されるのは、傾動可能な溶解炉本体及び当該溶解炉本体内の固体還元鉄をアーク加熱して溶解するための加熱装置を有する傾動式の溶解炉を用いて溶銑を製造する方法であって、前記溶解炉本体内に前記溶銑を生成する溶銑生成工程と、当該溶銑生成工程後に前記溶解炉本体を出銑方向に傾動させて当該溶解炉本体内の前記溶銑を当該溶解炉本体の側壁に設けられた出銑口を通じて排出する出銑工程と、を含む。前記溶銑生成工程では、前記溶解炉本体内に固体還元鉄からなる塊成化物を投入するとともに前記加熱装置によって前記塊成化物をアーク加熱して溶解することにより前記溶解炉本体内に溶銑及びその上でスラグ層を形成する溶融スラグを生成する溶解工程と、当該溶解工程後、前記溶解炉本体を排滓方向に傾動させることにより、前記塊成化物の投入を止めた状態で前記溶融スラグを前記溶解炉本体内から当該溶解炉本体の側壁に設けられた排滓口を通じて排出する排滓工程と、が交互に複数回繰り返される。前記出銑工程では、前記複数回の溶解工程の繰り返しにより生成された前記溶銑が前記溶解炉本体の前記出銑方向への傾動により排出される。
この方法では、複数回に分割された各溶解工程において生成される溶融スラグが形成するスラグ層の厚みがその後の排滓工程によって削減されるので、投入された塊成化物がスラグ層を貫通せずに当該スラグ層に捕捉されたまま排滓工程で排出されることを有効に抑止する一方で前記溶解工程の繰返しによって溶銑の生成を進行させることができる。これにより、溶銑の生産性の向上が可能となる。また、前記各排滓工程は、前記各溶解工程において行われていた前記塊成化物の投入を止めた状態で行われるので、投入された塊成化物が前記排滓工程において排出される溶融スラグに混じって排出されることがより有効に抑止される。
従って、前記溶銑生成工程では、前記溶解炉本体内に生成される前記溶融スラグの層の厚みが一定以下になるように溶銑の生成を進めることが可能である。具体的には、前記溶解工程において形成されるスラグ層の厚みが予め設定された許容厚みに到達する前に当該溶解工程を終了して前記排滓工程を行うことが好ましい。この方法は、必ずしも実際のスラグ層の厚みを検出することを要しない。例えば、実際のスラグ層の厚みが前記許容厚みに到達する前に溶解工程を終了させるための1回の溶解工程あたりの塊成化物の目標投入量を予め算定しておき、実際の投入量が当該目標投入量に達した時点で当該溶解工程を終了して前記排滓工程を行うことによっても、スラグ層の厚みの過度の増大を防ぐことが可能である。つまり、特殊なセンサ等によって実際のスラグ層の厚みを検出しなくても、適正なタイミングで前記溶解工程から前記排滓工程に移行することが可能である。
前記許容厚みは、当該許容厚みをもつ前記スラグ層を前記塊成化物が上から下に貫通することが可能である厚みであることが、好ましい。実際のスラグ層の厚みがこのような許容厚みよりも小さい厚みに規制されることにより、投入された塊成化物が前記スラグ層に捕捉されることなくその下側の溶銑に至ることをより確実にすることができる。
本発明において用いられる前記溶解炉は、前記排滓口の上端位置を変化させるように上下方向に開閉作動するスラグドアを有することが好ましい。この場合、前記各溶解工程では前記スラグドアを閉じ、前記各排滓工程では前記排滓口から流出する前記溶融スラグの上方に空隙を生じさせない位置まで前記スラグドアを開くことにより、当該排滓口を通じての前記溶解炉本体内への空気の流入を防ぐことができる。
前記溶銑生成工程では、前記溶解工程と前記排滓工程との双方に亘って前記加熱装置によるアーク加熱が継続されることが、好ましい。当該継続は、排滓される溶融スラグの温度及び粘度(流動性)を安定させることを可能にする。また、排滓工程では塊成化物の投入を止めたまま前記アーク加熱が継続されることになるが、これによって溶銑の温度が上昇するため、当該稼働の継続のためのエネルギーは有効に利用される。
以上のように、本発明によれば、傾動式の溶解炉を用いて固体還元鉄の塊成化物を溶解することにより溶銑を高い効率で製造することが可能な方法が提供される。
本発明の実施の形態において用いられる傾動式の溶解炉の断面図である。 前記方法に含まれる溶解工程を示す断面図である。 前記方法に含まれる排滓工程においてスラグドアを開く前に前記溶解炉を排滓方向に傾動させた状態を示す断面図である。 前記排滓工程において前記スラグドアを開いて溶融スラグの排出を行っている状態を示す断面図である。 前記排滓工程終了後に前記溶解炉が水平姿勢に戻された状態を示す断面図である。 本発明に係る製造方法の実施例を示すタイムチャートである。
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る溶銑の製造方法において用いられる傾動式の溶解炉の例であるアーク加熱式の溶解炉10を示す。この溶解炉10は、溶解炉本体12と、固体還元鉄投入部である装入シュート14と、加熱装置である複数の電極16と、排ガスダクト18と、を備え、当該溶解炉本体12に傾動機構20が接続される。
前記溶解炉本体12は、固体還元鉄の塊成化物(例えばペレットやブリケット)2を受け入れて溶銑4を生成するための空間を保有する。具体的に、当該溶解炉本体12は、耐火物を施工した炉底部22と、上部に水冷パネル、下部に耐火物を施工した側壁24と、炉蓋26と、を有する。
前記装入シュート14は、外部から供給される前記塊成化物2及び造滓剤を前記溶解炉本体12内の空間に装入するように、前記炉蓋26に配置される。前記複数の電極16は、図略の導体(例えば電極把持装置、電極アーム、水冷ケーブル)を介して電源に接続され、通電されることにより前記溶解炉本体12内の塊成化物2をアーク加熱して溶解し、これにより前記空間内に溶銑4を生成するとともに溶融スラグ6を副生する。
前記溶解炉本体12の一方の側(図1では右側)には出銑口28が設けられ、他方の側(図1では左側)には排滓口30が設けられ、当該出銑口28から出銑用の樋32が外向きに延びている。前記傾動機構20は、図略の油圧シリンダを含む。当該油圧シリンダは、その伸縮により、図略のロッカーレールに積載された前記溶解炉本体12を(1)排滓方向すなわち前記排滓口30が下がる方向に傾動させることにより、前記溶解炉本体12から前記溶融スラグ6を排出させ、(2)前記溶解炉本体12を出銑方向すなわち前記出銑口28が下がる方向に傾動させることにより、前記溶解炉本体12から前記溶銑4を排出させる。
なお、前記出銑方向から溶銑とともにスラグを排出してもよい。
前記溶解炉本体12には、スラグドア34が設けられている。スラグドア34は、前記排滓口30の上端位置を変化させるように上下方向に開閉作動する。具体的に、当該スラグドア34は下端を有し、この下端は前記排滓口30の上端を規定する。
この溶解炉10としては、熱効率に優れたもの、具体的には前記電極16を3本有する3相交流アーク炉、が特に推奨される。
なお、本発明に係る方法において用いられる傾動式の溶解炉は前記の型式に限定されない。本発明は、例えば、出銑用の前記樋32に代わり炉底出銑方式を具備した溶解炉を用いることも可能である。
次に、前記溶解炉10を用いて行われる溶銑の製造方法を説明する。この製造方法は、(1)溶銑生成工程と、(2)出銑工程と、を含み、当該製造方法を行うための前工程として(0)還元鉄製造工程が行われる。以下、これらの工程の内容を順に説明する。
(0)還元鉄製造工程
この工程では、前記溶解炉10に投入されるべき固体還元鉄の塊成化物2が造成される。この固体還元鉄からなる塊成化物2は、例えば、粉状の酸化鉄及び炭素質還元剤を混合、造粒してペレット状またはブリケット状の原料混合体を成形する工程と、その原料混合体を回転炉床炉に装入して加熱することにより還元する工程と、を経て製造される。
しかし、本発明では、溶解炉に投入される固体還元鉄からなる塊成化物を製造するための具体的な方法は限定されない。また、当該塊成化物の具体的な直径(最大径)も限定されない。当該塊成化物の成分も何ら限定されないが、以下のような成分調整が行われることが、より好ましい。
A)後述する溶融スラグ6の融点を1500°C以下とするように、前記原料混合体にAl源を添加、配合して当該溶融スラグ6のAlの濃度を10質量%以上30質量%以下、より好ましくは25質量%以下にすることが好ましい。この調整は、溶融スラグ6の排滓性を高め、また溶解に要する電力の節減を可能にする。
B)前記溶融スラグ6の塩基度(CaO/SiO)を1.3以上1.7以下にするようにCaO含有原料を前記原料混合体に配合することが好ましい。当該塩基度の調整は、高温の固体還元鉄とともに溶解炉に投入されるスラグ形成成分の溶解速度(造滓速度)を高めて溶解所要時間を短縮することにより、炉内耐火物の保護及び安定した溶銑4の脱硫能の確保を可能にする。このことは、前記塊成化物2のFe含有率が低くて溶銑1tあたり400kg以上の溶融スラグが副生するような場合でも、前記スラグ形成成分の溶解に障害を生じさせることなく溶解炉の操業を安定して行うことを可能にする。ただし、還元鉄の強度を十分に維持するには当該還元鉄に配合するCaOのSiOに対する比率(=CaO/SiO)を1.0以下にすることが好ましい。
C)前記溶融スラグ6の酸化鉄濃度を5.0質量%以下に抑えるような成分調整を行うことが好ましい。当該酸化鉄濃度の調整は、例えば、前記固体原料中に配合する炭素質原料の配合、すなわち、還元鉄中の酸化鉄還元用炭材及び溶銑炭素濃度調整用炭材に加えてスラグの酸化鉄還元用炭材を配合することにより行うことが可能である。
D)前記還元鉄の炭素含有率は、その溶融により生成される溶銑の炭素濃度が2.0質量%以上4.0質量%以下となるように調整されることが、好ましい。特にアーク加熱式溶解炉は(例えば転炉と比較して)炉深さが小さく酸素ガスによる溶銑の脱炭速度が低いため、次工程の製鋼用電気炉での溶銑の配合比率を上げての運転のためには当該炭素濃度が抑制されることが好ましい。
本発明では、前記のようにして用意される固体還元鉄の塊成化物2におけるFeの含有率も特に限定されないが、本発明方法は、当該含有率が低くて安価な還元鉄、例えば高炉向けの鉄鉱石の含有率よりも低いFe含有率(一般には62%以下)をもつ還元鉄を原料として用いる場合に特に有効である。このように低いFe含有率をもつ固体還元鉄では、逆にSiOの含有率が高く、よって溶銑1tを生成するにあたり副生される溶融スラグの量も多くなる(例えばFe含有率が62%の場合には溶銑1tあたり350kg以上の溶融スラグが副生され、Fe含有率が59%の場合には500kgを超える溶融スラグが副生される)が、この場合でも、次の特徴的な溶銑生成工程の実行によって、スラグ層の厚みを抑えながら十分な量の溶銑を製造することが可能である。
(1)溶銑生成工程
この実施の形態に係る溶銑の製造方法では、まず、前記固体還元鉄からなる塊成化物2を溶解炉本体12内で溶解して溶銑4を生成する溶銑生成工程が行われる。この溶銑生成工程では、下記の(1−1)溶解工程と(1−2)排滓工程とが複数回にわたって交互に繰返される。換言すれば、当該溶解工程が複数回に分けられ、それぞれの溶解工程の終了の度に当該排滓工程が行われる。
(1−1)溶解工程(図2)
それぞれの溶解工程では、前記溶解炉本体12が水平姿勢に保たれた状態で、前記装入シュート14を通じて当該溶解炉本体12内に固体還元鉄からなる複数の前記塊成化物2が例えば自然落下方式で投入されるとともに、加熱装置である複数の電極16の通電により前記複数の塊成化物2が前記溶解炉本体12内でアーク加熱されて溶解される。この塊成化物2の溶解により、図2に示されるように、前記溶解炉本体12内に溶銑4が生成されるとともに、溶融スラグ6が副生されて前記溶銑4の上にスラグ層を形成する。このスラグ層の厚みは、溶解工程において連続的に投入される前記塊成化物2の量が多いほど、つまりその投入時間が長いほど、大きくなる。
この溶解工程において、前記塊成化物2とともに造滓剤が炉内に投入されるが、溶解及び滓化時間の短縮の観点からは当該造滓剤の投入を早めに終了するのが好ましい。
この溶解工程は、前記のようにして形成されるスラグ層の厚みが予め設定された許容厚みに達する前に終了されることが、好ましい。具体的には、専用のセンサ等で前記スラグ層の実際の厚みを検出してその厚みが予め定められた値に達した時点で溶解工程を終了してもよいし、実際のスラグ層の厚みが前記許容厚みに達する前に溶解工程を終了するための1回の溶解工程あたりの塊成化物2の目標投入量を予め算定しておき、実際の投入量がその目標投入量に達した時点で溶解工程を終了してもよい。さらに、当該塊成化物2の投入速度が一定の場合は、その投入量を投入時間に置き換えて管理することも可能である。つまり、当該塊成化物2の投入が開始されてから予め定められた時間が経過した時点で溶解工程を終了してもよい。
前記許容厚みは、前記のように上から溶解炉本体12内に投入される塊成化物2が当該許容厚みをもつスラグ層を上から下に貫通してその下側の溶銑4に至ることを許容する厚み、換言すれば、前記スラグ層が前記塊成化物2を捕捉して前記溶銑4への到達を阻むことを防止できる厚み、であることが好ましい。具体的に、当該許容厚みは、投入される塊成化物2の落下速度、比重及び粒径、並びに溶融スラグ6の粘度その他の諸元に基いて決定することが可能である。
(1−2)排滓工程(図3〜図5)
各排滓工程は、当該排滓工程の直前の溶解工程が終了した後、傾動機構20が前記溶解炉本体12を図3に示すように排滓方向に傾動させる(図3では左に傾ける)こと、及び、図4に示すようにスラグドア34が上昇して排滓口30を開くことにより、行われる。すなわち、この排滓工程では、前記溶解工程での前記塊成化物2の投入が既に止められた状態で前記溶融スラグ6が前記排滓口30を通じて前記溶解炉本体12の外に排出される。前記スラグは前記溶解炉10の排滓口30の下に仮置きしたスラグ・ポットで受滓してもよいし、溶解炉10の排滓口30の下の土間に直接流滓してもよい。
前記スラグドア34の開き位置(高さ位置)は、前記排滓口30において前記溶融スラグ6の上に空隙が生じるのを阻止しながら当該溶融スラグ6の排出を許容する位置が好ましい。具体的には、前記空隙が生じていないのを確認しながら漸次的または段階的に前記スラグドア34の開度が増加されることが好ましい。同様に、この排滓工程における溶解炉本体12の傾動角度も、流出する溶融スラグ6に溶銑4が混じらないことを確認しながら少しずつ(例えば3°から6°まで)増加されることが、好ましい。この排滓工程の終了は、図5に示すように前記溶解炉本体12を水平姿勢に復帰させるとともに前記スラグドア30を閉じることにより、行われる。
この排滓工程を前記溶解工程の終了の度に行うことにより、当該溶解工程において副生される溶融スラグ6が形成するスラグ層の厚みが過度に増大するのを防ぎながら、当該溶解工程の反復によって溶銑4の生成を進行させることが可能である。例えば、前記のようにスラグ層の厚みが予め設定された許容厚みに達する前に溶解工程を終了し、その後に前記排滓工程を行うことにより、溶銑生成工程の開始から終了まで前記スラグ層の厚みを前記許容厚みよりも小さい厚みに制御しながら溶銑4の生成を進めることができる。
すなわち、この方法では、タップホールの開孔によって出銑滓が行われる静置型の溶解炉よりも迅速な出銑滓が可能な傾動式の溶解炉を用いるのに加え、当該傾動式の溶解炉の使用にもかかわらず、前記溶解工程と前記排滓工程を複数回にわたって交互に繰り返すことによって、各溶解工程において投入される塊成化物2がスラグ層を貫通することなく当該スラグ層に捕捉されてその後の排滓時に溶融スラグ6とともに炉外に排出されてしまう不都合を防ぎながら、溶解炉10での溶銑4の製造を継続することができる。これにより、溶銑の製造効率の飛躍的な向上が可能になる。
前記排滓工程は、前記電極16の通電を切った状態で行うことも可能であるが、前記溶解工程及びこれに続く前記排滓工程の双方にわたり当該電極16の通電が継続されることが好ましい。この通電の継続は、排滓される溶融スラグ6の温度及び粘度(流動性)を安定させることを可能にする。また、排滓工程において塊成化物2の投入を止めた状態で前記通電を継続することにより前記溶銑4の温度が上昇するので、当該通電の継続のためのエネルギーは溶銑4の温度の確保という形で有効利用される。
(2)出銑工程
前記溶銑生成工程の終了後(つまり最後の溶解工程及びこれに続く排滓工程が終了した後)出銑工程が行われる。この出銑工程では、前記傾動機構20が前記溶解炉本体12を出銑方向に傾動させる(図1では右に傾ける)ことにより当該溶解炉本体12内の前記溶銑4を前記出銑口28を通じて炉外に排出する。つまり、前記複数回の溶解工程の繰り返しにより溶解炉本体12内に生成された前記溶銑4が、その後の出銑工程において一度に排出される。
従って、この方法では、前記出銑工程の頻度を抑えながら前記のようなスラグ層の厚みの規制を行うことが可能であり、このことは溶銑4の製造効率の著しい向上に寄与する。また、前記溶解工程及び排滓工程の繰返し回数の設定により、前記のようにスラグ層の厚みを抑えながら、1タップあたりに製造される溶銑4の量及び所要時間(最初の溶解工程を開始してから出銑工程を終了するまでのサイクルタイム)を自由に設定することが可能であり、これにより、当該所要時間を後工程(例えば別の電気炉に前記溶銑4を投入することによる溶鋼の生成)のサイクルタイムに容易にマッチングさせることができる。
換言すれば、前記方法によれば、1タップあたりの溶銑生成時間及び溶銑生成量が予め決められている場合において、1tあたりの溶銑4を溶解するのに副生される溶融スラグ6の量が多いほど前記溶解工程及び前記排銑工程の繰返し回数を増やす(つまり1タップあたりの溶解工程の分割数を増やす)ことにより、当該溶融スラグ6の副生量にかかわらずスラグ層の厚みの最大値を抑えながら前記溶銑生成時間内で溶銑の生成を継続することが可能である。
以下、本発明方法の実施例として好適なものを開示する。この実施例の開示は、本発明の理解の補助を目的としたものであって本発明方法を当該実施例に限定する趣旨でないことはいうまでもない。
この実施例では、図1に示されるアーク加熱式溶解炉10を用い、図6に示されるタイムスケジュールで各工程が実行される。詳細は以下のとおりである。
(a)アーク加熱式溶解炉10の諸元
アーク加熱式溶解炉10の出銑量は30t、前ヒートのタップ後の通電開始時の塊成化物の溶解を促進すべく約9tの種湯を保持するために溶銑保持量は最大39tとなり、当該溶解炉10の内径は4.6mである。アーク加熱式溶解炉10は3相交流アーク炉であり、よって電極16の本数は3本である。
(b)投入される固体還元鉄の塊成化物について
投入される固体還元鉄の塊成化物2は、平均粒径が約16mm、平均見掛け比重1.8のペレットである。前記のとおり、固体還元鉄のFe含有率が低いほど鉱石中のSiOの比率が高くなり、スラグ副生量も多くなるが、この実施例において投入される固体還元鉄の塊成化物には、1tの溶銑の生成にあたり435kgの溶融スラグが副生される成分組成を有するものが用いられる。具体的には次のとおりである。
(b−1)原料となる鉱石の品位
総Fe:57.0%
Fe:80.0%
FeO:1.4%
SiO:5.7%
Al:2.7%
CaO:0.4%
MgO:0.2%
(b−2)原料となる石炭の品位
水分:18.0%
揮発分:38.1%
固定炭素:39.4%
灰分:4.5%
硫黄:1.0%
(b−3)固体還元鉄の品位
総Fe:70.5%
金属Fe:57.6%
FeO:16.9%
C:4.0%
SiO:8.7%
Al:4.8%
CaO:6.1%
MgO:0.5%
(b−4)副生される溶融スラグの品位
FeO:2.0%
SiO:27.3%
Al:15.2%
CaO:40.9%
MgO:10.3%
なお、前記溶融スラグの比重は運転条件によって1.5〜2.0t/mの範囲で変動する。従って、溶融スラグの副生量(重量)が同じであっても、その比重が小さいほどスラグ層の厚みは大きくなる。
(c)許容厚みについて
この実施例によれば、スラグ層の厚みが約400mmに達すると、投入された塊成化物2が当該スラグ層を上から下に貫通することが困難となる。そこで、許容厚みは400mmに設定され、実際のスラグ層の厚みが400mmに達する前に溶解工程を終了すべく、下記のようにタイムスケジュールが設定される。
(d)溶解工程及び排滓工程の繰返し回数の設定について
1タップあたりの所要時間が約90分、その間に溶解炉10に投入される塊成化物2の総量が約43tであることを前提に、1回の出銑の前の溶解工程及び排滓工程の繰返し回数(つまり1回の溶銑生成工程における溶解工程の分割数)が3に設定される。仮に当該繰返し回数を2回とすると、1回の溶解工程で形成されるスラグ層の厚みは、溶融スラグの比重が1.5t/mである場合に400mmを大きく上回り(440mm)、投入された前記塊成化物が前記スラグ層を貫通できなくなる。これに対して繰返し回数が3回であると、溶融スラグの比重が1.5t/mと小さくても1回の溶解工程で形成されるスラグ層の厚みは後述のように400mm未満(327mm)に抑えられ、投入された塊成化物が前記スラグ層を貫通することが可能になる。
このようにして設定された繰返し回数(3回)に基づき、図6に示されるような1サイクルあたりの各工程のタイムスケジュールが決定される。
(e)各溶解工程について
図6に示されるように、4分の炉熱間補修が行われた後、溶解工程が3回に分けて行われる。1回あたりの溶解工程に割り当てられる所要時間は22分であり、その間に約13tの固体還元鉄の塊成化物2が炉内、好ましくは3本の電極16によって囲まれた領域内に投入される。当該溶解工程の終了時点でのスラグ層の厚みは、溶融スラグ6の比重が1.5t/mの場合は327mm、当該比重が2.0t/mの場合は前記のように245mmとなり、いずれも400mmを大きく下回る。
溶解工程では、溶解炉本体12が水平姿勢に保たれ、スラグドア34は閉位置に保たれる。これにより、排滓口30を通じての溶融スラグ6の流出が防がれる。
各溶解工程では、前記固体還元鉄の塊成化物2に加えて造滓剤が投入される。この造滓剤の投入は、前記塊成化物2の投入開始から少し遅れて開始され、当該塊成化物2の投入の完了よりも2分ほど早めに切り上げられる。
また、溶解工程同士の間には約4分のインターバルが与えられる。このインターバルの範囲内において次の排滓工程が実行される。
(f)各排滓工程について
前記各溶解工程が終了してから1分経過後に排滓工程が開始される。この排滓工程に割り当てられる所要時間は約3分である。よって前記溶解工程とは重複していない。前記溶解工程における塊成化物2の投入の終了時点と前記排滓工程の開始時点との間に時間差を与えることは、当該溶解工程の終了間際に投入された塊成化物2が溶融スラグ6に混じって排滓される可能性をさらに低減させる。
各排滓工程では、溶解炉本体12がまず3°だけ傾けられ、その後、スラグドア34が100mmだけ上昇して排滓口30を開放する。この時点でスラグドア34の下端(すなわち排滓口30の上端)と当該排滓口30を通じて流出する溶融スラグ6の液面との間に空隙が認められない場合は、出滓速度を上げるべくスラグドア34がさらに100mm上昇させられる。一方、溶解炉本体12の傾動角度は、流出する溶融スラグ6に溶銑4が混じっていないことの確認を条件に6°を上限として増やされる。このように漸次的なスラグドア34の上昇及び溶解炉本体12の傾動角度の増加を伴いながら排滓が行われ、所定時間経過後に排滓工程が終了する。具体的には、溶解炉本体12が水平位置に戻されるとともにスラグドア34が閉位置に戻される。
この排滓工程では、1回あたり4.3tの溶融スラグ6が排滓され、これにより、スラグ層の厚みは当該排滓工程の度に最低厚みである60mmまで低減される。つまり、全工程にわたり、スラグ層の厚みは60mmから400mm未満(スラグ比重が2.0t/mの場合は245mm、スラグ比重が1.5t/mの場合は327mm)までの範囲内に収まるように制御される。
図1に示されるような傾動式の溶解炉10での排滓の速度は、例えば特許文献1に記載される静置型溶解炉でのタップホールの形成による排滓の速度に比べて著しく高く、よって当該傾動型溶解炉10の使用は溶銑の製造効率の向上に寄与する。この実施例のように1タップあたりのスラグ排出量を4.3(t/回)×3(回)=12.9(t)とし、前記静置型溶解炉に設けられるタップホールの孔径を60mmとすると、当該タップホールを通じての必要排滓時間は23.2分であるのに対し、本実施例に係る排滓時間は3(分/回)×3(回)=9(分)であり、静置型に比べて約40%短縮される。
(g)昇熱工程及び出銑工程について
最後の排滓工程の終了後、当該終了にかかわらず電極16の通電を継続して溶銑4をさらに加熱する昇熱工程が行われ、その後に出銑工程が行われる。この出銑工程では、溶解炉本体12が出銑方向に最大45°傾けられ、これにより、それまでの計3回の溶解工程によって生成された溶銑4が出銑口28を通じて一度に炉外に排出される。排出された溶銑4は出銑用の樋32を通じて取鍋に入れられ、次の工程に送られる。
(h)電極16の通電について
この実施例では、前記3回の溶解工程及び排滓工程と、前記昇熱工程と、にわたり、電極16の通電が継続される。
2 塊成化物
4 溶銑
6 溶融スラグ
10 溶解炉
12 溶解炉本体
14 装入シュート
16 電極(加熱装置)
20 傾動機構
28 出銑口
30 排滓口
34 スラグドア

Claims (6)

  1. 傾動可能な溶解炉本体及び当該溶解炉本体内の固体還元鉄をアーク加熱して溶解するための加熱装置を有する傾動式の溶解炉を用いて溶銑を製造する方法であって、
    前記溶解炉本体内に前記溶銑を生成する溶銑生成工程と、
    当該溶銑生成工程後に前記溶解炉本体を出銑方向に傾動させて当該溶解炉本体内の前記溶銑を当該溶解炉本体の側壁に設けられた出銑口を通じて排出する出銑工程と、を含み、
    前記溶銑生成工程では、前記溶解炉本体内に固体還元鉄からなる塊成化物を投入するとともに前記加熱装置によって前記塊成化物をアーク加熱して溶解することにより前記溶解炉本体内に溶銑及びその上でスラグ層を形成する溶融スラグを生成する溶解工程と、当該溶解工程後、前記溶解炉本体を排滓方向に傾動させることにより、前記塊成化物の投入を止めた状態で前記溶融スラグを前記溶解炉本体から当該溶解炉本体の側壁に設けられた排滓口を通じて排出する排滓工程と、が交互に複数回繰り返され、
    前記出銑工程では、前記複数回の溶解工程の繰り返しにより生成された前記溶銑が前記溶解炉本体の前記出銑方向の傾動により排出される、溶銑の製造方法。
  2. 請求項1記載の溶銑の製造方法であって、前記溶銑生成工程では、前記溶解工程において形成されるスラグ層の厚みが予め設定された許容厚みに到達する前に当該溶解工程を終了して前記排滓工程を行う、溶銑の製造方法。
  3. 請求項2記載の溶銑の製造方法であって、実際のスラグ層の厚みが前記許容厚みに到達する前に溶解工程を終了させるための1回の溶解工程あたりの塊成化物の目標投入量を予め算定しておき、実際の投入量が当該目標投入量に達した時点で当該溶解工程を終了して前記排滓工程を行う、溶銑の製造方法。
  4. 請求項2または3記載の溶銑の製造方法であってね前記許容厚みは、当該許容厚みをもつ前記スラグ層を前記塊成化物が上から下に貫通することが可能である厚みである、溶銑の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の溶銑の製造方法であって、前記溶解炉は、前記排滓口の上端位置を変化させるように上下方向に開閉作動するスラグドアを有し、前記各溶解工程では前記スラグドアを閉じ、前記各排滓工程では前記排滓口から流出する前記溶融スラグの上方に空隙を生じさせない位置まで前記スラグドアを開くことにより排滓を行う、溶銑の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の溶銑の製造方法であって、前記溶銑生成工程では、前記溶解工程と前記排滓工程との双方に亘って前記加熱装置によるアーク加熱を継続する、溶銑の製造方法。
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