ところで、特許文献2の図3に示される熱交換器では、凹凸リブの傾き方向を隔壁における上下2つの部分で互いに逆方向にする一方で、向かい合う隔壁同士では、凹凸リブの傾き方向を同じ方向に設定している。本願発明者等が検討したところ、こうした構成は、強い旋回流を、安定的に並べて生成することができないことがわかった。
また、特許文献1には、ヒートシンクのフィンの前縁を斜めにカットすることによって、スリット状流路内に、旋回方向が交互になった複数の旋回流を、高さ方向に並んで生成することが記載されている。しかしながら、フィンの前縁を斜めにカットすることだけで、スリット状流路内に、こうした旋回流が生成するメカニズムは不明である。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、旋回流を利用してヒートシンクの冷却性能を、さらに向上させることにある。
ここに開示する技術は、取付面と放熱面とを有しかつ、当該取付面に少なくとも1の発熱体が取り付けられるベース、及び、前記ベースの放熱面に立設された複数のフィンを含んで構成される放熱部、を備えたヒートシンクを対象とし、前記各フィンは、前記放熱面から突出するように、当該放熱面に当接する基端から先端に向かって高さ方向に延びていると共に、冷却風の流れ方向における上流端に対応する前端から、その下流端に対応する後端に向かって前後方向に延びており、前記放熱部には、前記複数のフィンが、前記前後方向に直交する並び方向に所定間隔を空けて配置されることによって、隣り合うフィンの側面同士の間それぞれに、前記冷却風が通過するスリット状流路が、前記前後方向に延びるように区画形成される。
前記放熱部は、各スリット状流路において前記並び方向に向かい合う前記フィンの側面それぞれにおいて、前記前後方向に対し傾いて筋状に延びる凹凸が、前記前後方向に並設することによって構成されかつ、前記各スリット状流路内に、前記前後方向に沿う軸周りに旋回する旋回流を生成する旋回流生成手段を有しており、前記旋回流生成手段は、前記フィンの側面において、前記高さ方向に複数の領域に区分されており、前記凹凸の傾斜方向は、前記フィンの側面において前記高さ方向に隣り合う領域で互いに逆方向であると共に、前記並び方向に向かい合う前記フィンの側面で互いに逆方向である。
この構成によると、放熱部は、旋回流生成手段を有している。旋回流生成手段は、スリット状流路を区画するフィンの側面において、前後方向に対し傾いて筋状に延びる凹凸が、前後方向に並設することによって構成される。スリット状流路内を、前後方向に流れる冷却風は、フィンの側面付近では、筋状に延びる凹凸に沿うように、高さ方向の一方側(例えばフィンの先端側)又は高さ方向の他方側(例えばフィンの基端側)へと流れるようになる。
前記の構成では、旋回流生成手段が、フィンの側面において、高さ方向に複数の領域に区分されており、凹凸の傾斜方向は、フィンの側面において高さ方向に隣り合う領域で互いに逆方向であると共に、並び方向に向かい合うフィンの側面で互いに逆方向である。ここで、並び方向に向かい合うフィンの側面で、凹凸の傾斜方向が互いに逆方向であることは、並び方向に向かい合うフィンの側面において、高さ方向に対向する領域同士を比較したときに、溝の傾斜方向が互いに逆方向になることである。
この構成により、冷却風が流れる方向の上流側から、スリット状流路内の下流側を見たときに、並び方向に向かい合う一対のフィンの、一方側の側面では、冷却風が高さ方向の一方側へと流れるのに対し、他方側の側面では、冷却風の高さ方向の他方側へと流れるようになる。こうして、並び方向に向かい合う一対のフィンそれぞれの側面付近で、冷却風の流れを高さ方向の逆方向へ案内することにより、スリット状流路内を前後方向に流れる冷却風は、ねじられるようになる。その結果、スリット状流路内の当該高さ位置において、冷却風が流れる前後方向に沿う軸周りに旋回する旋回流を生成することが可能になる。つまり、高さ方向に複数に区分された領域毎に、強い旋回流を生成することが可能になると共に、高さ方向の複数の領域それぞれにおいて生成された複数の旋回流が、高さ方向に並ぶようになる。尚、「前後方向に沿う軸」は、その軸方向が前後方向に一致する軸の他に、前後方向に対して若干傾くものの、その軸方向が前後方向に実質的に一致する軸も含む。
旋回流生成手段はまた、高さ方向に隣り合う領域で、凹凸の傾斜方向が互いに逆方向である。これにより、高さ方向に隣り合う旋回流の旋回方向は互いに逆方向になる。その結果、高さ方向に隣り合う旋回流の境界付近で、フィンの並び方向に流れる旋回流の流れは、2つの旋回流間で同じ方向になる。
こうして、旋回流生成手段は、各スリット状流路内に、旋回方向が互いに逆方向でかつ、十分に強い旋回流を、安定的に、高さ方向に複数個並べて生成することが可能になる。この旋回流によって、フィンの側面付近に生成される温度境界層の厚みを薄くすることができる。また、旋回方向が逆方向の旋回流が、高さ方向に複数個並ぶことによって、スリット状流路内で高さ方向に空気が攪拌される。それらの結果、旋回流生成手段が設けられていないヒートシンクと比較して、前記の構成のヒートシンクの冷却性能が大幅に高まる。
ここで、フィンの側面において筋状に延びる凹凸は、フィンの側面から凹陥しかつ、前後方向に対し傾いた溝を前後方向に並ぶように形成することによって構成することが可能である。この場合、フィンの側面において当該溝が形成されていない部分は、フィンの側面から相対的に凸設している、ということもできる。また、フィンの側面から突出しかつ、前後方向に対し傾いた凸条を前後方向に並ぶように設けることによっても、フィンの側面において筋状に延びる凹凸を構成することが可能である。この場合、フィンの側面において凸条が設けられていない部分は、フィンの側面から相対的に凹陥している、ということもできる。
そして、溝を設けた場合も、凸条を設けた場合も、冷却風の流れ方向を案内する機能を発揮することができる。そうすると、冷却風の流れ方向を案内し、それによってスリット状流路内に旋回流を生成する機能を有することにおいて、フィンの側面に前後方向に対して傾いた溝を形成することと、フィンの側面に前後方向に対して傾いた凸条を設けることとは、実質的に同じである。前記の構成において「側面それぞれにおいて、前記前後方向に対し傾いて筋状に延びる凹凸が、前記前後方向に並設する」ことは、「側面から凹陥すると共に前記前後方向に対し傾いた溝が、前記前後方向に並設する」こと、及び、「側面から凸設すると共に前記前後方向に対し傾いた凸条が、前記前後方向に並設する」ことを含む。また、フィンの側面に、溝及び凸条の双方を設けた場合も、前記と同じである。
前記旋回流生成手段は、前記フィンの側面における前記前後方向の所定箇所に設けられ、前記放熱部において、前記旋回流生成手段の後ろ側には、前記フィンの側面に前記凹凸が形成されないことで前記スリット状流路の圧力損失の上昇を抑制する圧損上昇抑制領域が設けられている。
前述したように、旋回流生成手段は、スリット状流路内に旋回流を生成することによって、ヒートシンクの冷却性能の向上に寄与する一方で、スリット状流路の圧力損失を増大させる。従って、スリット状流路の上流端から下流端までの全域に旋回流生成手段を設けると、圧力損失が高くなりやすい。
そこで、旋回流生成手段は、前後方向に延びるフィンにおいて所定箇所にのみ設ける。こうすることで、圧力損失が抑制される。尚、所定箇所は、一箇所に限らず、複数箇所であってもよい
放熱部において旋回流生成手段の後ろ側には、溝が形成されないことでスリット状流路の圧力損失の上昇を抑制する圧損上昇抑制領域が設けられる。圧損上昇抑制領域では、旋回流は生成されないものの、旋回流生成手段によって生成された旋回流が惰性によって維持される結果、圧損上昇抑制領域内でも旋回流が存在することになる。従って、前述した、フィンの側面付近に生成される温度境界層の厚みを薄くすると共に、スリット状流路内で高さ方向に空気を攪拌する、という旋回流によって得られる作用効果を、圧損上昇抑制領域においても得ることができる。圧損上昇抑制領域は、旋回流によって得られる作用効果と低い圧力損失との双方が得られる領域である。
また、圧損上昇抑制領域を設けることによってヒートシンクの圧力損失が相対的に低下することから、その圧力損失の低下分、例えば並び方向に隣り合うフィンの間隔を狭くする等の、フィンの熱伝達率を向上させるような構成を、ヒートシンクに採用することが可能になる。その結果、圧損上昇抑制領域を設けずに、旋回流生成手段をスリット状流路の上流端から下流端までの全域に亘って設けたヒートシンクと比較して、圧力損失を同じにしたときに、圧損上昇抑制領域を設けたヒートシンクは、その冷却性能を高める(例えば、流入する冷却風温度に対する、ベースの取付面温度の上昇値を低下させる)ことが可能になる。逆に、冷却性能を同じにしたときには、圧力損失を低くすることが可能になる。この意味で、圧損上昇抑制領域を設けることは、ヒートシンクの冷却性能を効率的に向上させることを可能にする。
前記旋回流生成手段は、前記高さ方向に区分された前記複数の領域同士の境界部分に、前記高さ方向に隣り合う旋回流同士の衝突を緩衝する緩衝部を有している、としてもよい。
前述したように、旋回流生成手段によってスリット状流路内には、旋回方向が互いに逆方向となった複数の旋回流が、高さ方向に並んで生成される。このときに、隣り合う旋回流同士の境界付近では、フィンの側面付近において、高さ方向に互いに近づくように流れる冷却風同士が衝突するようになり、このことが、圧力損失の点では不利になる。
これに対し、高さ方向に区分された前記複数の領域同士の境界部分に設けた緩衝部は、旋回流同士の衝突を緩衝する。その結果、圧力損失が低下する。圧力損失が低下する分、フィンの熱伝達率を向上させるような構成をヒートシンクに採用することが可能になるから、ヒートシンクの冷却性能を効率的に向上させることが可能になる。
ここで、緩衝部は、例えばフィンの側面に凹凸を設けない部分としてもよい。こうすることで、緩衝部は、冷却風の流れを高さ方向に案内せず、高さ方向に互いに近づくように流れる冷却風の向きは、緩衝部において変更される。その結果、旋回流同士の衝突を緩衝することができる。
また、緩衝部はこれとは異なり、フィンの側面に設ける凹凸の向きを、前後方向に対して傾斜した向きから前後方向に近づくように変更する部分としてもよい。つまり、緩衝部は、凹凸の傾斜角度を小さくする部分としてもよい。こうすることで、緩衝部では、高さ方向に互いに近づくように流れる冷却風の向きが前後方向に変更されるため、高さ方向に隣り合う旋回流同士の衝突を緩衝することができる。緩衝部において、凹凸の向きを前後方向まで変更(つまり、傾斜角度をゼロ)にすると、さらによい。
以上説明したように、前記のヒートシンクは、フィンの側面に設ける、旋回流生成手段の凹凸の傾斜方向を、フィンの側面において高さ方向に隣り合う領域で互いに逆方向にすると共に、並び方向に向かい合うフィンの側面で互いに逆方向にすることで、スリット状流路内で、旋回方向が逆方向となる複数の強い旋回流を、安定的に、高さ方向に並べて生成することが可能になり、旋回流生成手段を設けないヒートシンクと比較して、冷却性能を向上させることができる。
以下、ヒートシンクの実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は例示である。図1は、ヒートシンク1の斜視図を示しており、図2(a)は、ヒートシンク1のフィン31の側面が見える位置で切断をしたヒートシンク1の断面図、図2(b)はヒートシンク1のスリット状流路30内を、その上流側から下流側に向かって見た図であり、図2(b)は特に、理解容易のために、スリット状流路30の幅を拡大して描いている。このヒートシンク1は、鉄道車両の駆動に用いられるパワー半導体素子等の、発熱体2を冷却するための冷却器である。但し、これ以外の用途に利用してもよい。ヒートシンク1は、図示は省略するが、ダクト内に配設されており、このダクトに接続された送風機からの冷却風が、ヒートシンク1に供給される。つまり、このヒートシンク1は、強制空冷型のヒートシンク1であり、ヒートシンク1は、発熱体2の熱を放熱して、当該発熱体2を冷却する。ヒートシンク1は、発熱体2が取り付けられるベース11と、ベース11に対して立設された複数のフィン31を含んで構成される放熱部3と、を備えている。
ベース11は、ダクトの方向に対応する前後方向、及び、その前後方向に直交する並び方向に拡がると共に、所定厚みを有する平板であり、発熱体2が取り付けられる取付面111と、フィン31が立設する放熱面112とを有している。ベース11の取付面111には、複数の発熱体2が、熱伝導性の高いグリス等を介在させた状態で接触して取り付けられている。図例では、前後方向に4個の発熱体2が配置されている。尚、発熱体2の個数やその配置は、特に限定されるものではない。
各フィン31は、一定の厚みを有する平板状であって、ベース11の放熱面112に当接する基端から先端に向かって、当該放熱面112に対して直交する方向(つまり、高さ方向)に延びるように放熱面112に立設されていると共に、前後方向に延びて配設されている。尚、各フィン31の形状は図例に限定されるものではなく、その高さ、前後方向長さ及び厚みの比率は、適宜設定することが可能である。
複数のフィン31は、ベース11の放熱面112に対し、並び方向に所定の等間隔を空けて並設されている。図例では、11枚のフィン31が並設されているが、放熱部3のフィン31の枚数はこれに限定されるものではない。放熱部3には、隣り合うフィン31の側面同士の間に、前後方向に沿って延びるスリット状流路30が区画形成される。この各スリット状流路30は、フィン31の前端(図1における左手前の端)、後端(図1における右奥の端)及び先端(図1における上端)のそれぞれにおいて開口することになるが、各スリット状流路30の先端の開口は、図示を省略するダクトの内壁によって塞がれる。尚、各フィン31の先端にダクトの内壁が当接することによって、各スリット状流路30の先端の開口が完全に塞がれている以外にも、各フィン31の先端とダクトの内壁との間に若干の隙間を設けるものの、各スリット状流路30の先端の開口が実質的に塞がれているような構成を採用してもよい。尚、スリット状流路30の流路幅は、適宜の幅に設定することが可能であり、図例に限定されない。
ヒートシンク1は、熱伝導性の高い材料、例えばアルミニウムやアルミニウム合金によって形成される。また、ヒートシンク1は、ベース11に対して、各フィン31を溶接、ろう付け及び接着剤等の各種の、適宜の手段によって接合することで成形すればよい。
このヒートシンク1の最も特徴的な点として、放熱部3には、旋回流生成手段5が設けられている。
旋回流生成手段5は、フィン31の側面から凹陥すると共に前後方向に対し傾いた溝55が、前後方向に並設することによって構成されている。尚、図1、2では、フィン31に設けた溝55を実線によって概念的に示しているが、実際は、図3、4に示すように、所定の幅W及び深さDを有する。ここで、図3及び図4はそれぞれ、傾斜した溝55に対して直交する面で切断をしたフィン31の断面を示しており、ヒートシンク1の前後方向に対して直交する面で切断したフィン31断面ではない。また、図1、2は、溝55の間隔を正確に示すものではない。フィン31の側面に複数の溝55が並んで設けられることに伴い、溝55と溝55との間は、フィン31の側面において相対的に凸設することになる。こうして、溝55を設けることにより、フィン31の側面には、筋状に延びる凹凸が形成されることになる。
旋回流生成手段5はまた、フィン31の側面において、高さ方向に複数の領域に区分されている。図例では、フィン31の高さ方向先端から基端に向かって、第1、第2、第3及び第4の4つの領域51、52、53、54に区分されているが、領域の数は、適宜設定することが可能である。溝55の傾斜方向は、フィン31の側面において高さ方向に隣り合う領域で互いに逆方向である。具体的に図2の例では、実線で示すように、第1領域51では、溝55の傾斜方向は、前後方向の前から後ろに向かうに従って、先端に向かう方向に傾斜(つまり、図2の左から右に向かうに従って、図2の上に向かう方向に傾斜)し、第2領域52では、溝55の傾斜方向は、前後方向の前から後ろに向かうに従って、基端に向かう方向に傾斜(つまり、図2の左から右に向かうに従って、図2の下に向かう方向に傾斜)し、第3領域53では、溝55の傾斜方向は、第1領域51と同様に、前後方向の前から後ろに向かうに従って、先端に向かう方向に傾斜し、第4領域54では、溝55の傾斜方向は、第2領域52と同様に、前後方向の前から後ろに向かうに従って、基端に向かう方向に傾斜している。ここで、溝55の傾斜角度θ1は、30〜60°程度がよく、30〜45°程度がさらに好ましい。こうすることで、スリット状流路30内に、後述の通り、強い旋回流を安定的に生成することが可能になる。
旋回流生成手段5はさらに、スリット状流路30を区画すべく向かい合ったフィン31の側面において、溝55の傾斜方向を互いに逆方向に設定している。図2(a)において示されるフィン31に対し向かい合うフィン31の側面に設けられた溝55は、仮想線で示している。尚、図2(a)では、第1及び第2領域51、52についてのみ、溝55を示す仮想線を描いているが、第3及び第4領域53、54については、図示を単に省略しているだけであり、向かい合うフィン31の側面においても、第1〜第4の各領域51〜54に、所定の方向に傾斜した溝55を設けている。具体的に、向かい合うフィン31の側面においては、図2に仮想線で示すように、第1領域51では、溝55の傾斜方向は、前後方向の前から後ろに向かうに従って、基端に向かう方向に傾斜し、第2領域52では、溝55の傾斜方向は、前後方向の前から後ろに向かうに従って、先端に向かう方向に傾斜し、第3領域53では、溝55の傾斜方向は、第1領域51と同様に、前後方向の前から後ろに向かうに従って、基端に向かう方向に傾斜し、第4領域54では、溝55の傾斜方向は、第2領域52と同様に、前後方向の前から後ろに向かうに従って、先端に向かう方向に傾斜している。
旋回流生成手段5は、フィン31の側面付近を流れる冷却風を、溝55に沿うように案内する機能を有している。図2(a)の例では、第1領域51において冷却風は、先端に向かうように案内され、第2領域52において冷却風は、基端に向かうように案内され、第3領域53において冷却風は、先端に向かうように案内され、第4領域54において冷却風は、基端に向かうように案内される。図2(a)に示すフィン31は、図2(b)において左側のフィン31に相当する。従って、図2(b)において右側のフィン31に設けた旋回流生成手段5の溝55は、傾斜方向が逆方向であるため、第1領域51において右側のフィン31の側面付近を流れる冷却風は、溝55によって、基端に向かうように案内される。こうして、スリット状流路30内の第1領域51に対応する高さ位置では、一方においては先端に向かうように流れ、他方においては基端に向かうように流れることで、図2(b)において時計回り方向に旋回する、強い旋回流が生じるようになる。
同様にして、第2領域52においては、左側のフィン31の側面付近を流れる冷却風は基端に向かうように案内され、右側のフィン31の側面付近を流れる冷却風は先端に向かうように案内される結果、第2領域52に対応する高さ位置では、反時計回りに旋回する旋回流が生じる。また、第3領域53においては、左側のフィン31の側面付近を流れる冷却風は先端に向かうように案内され、右側のフィン31の側面付近を流れる冷却風は基端に向かうように案内される結果、第3領域53に対応する高さ位置では、時計回りに旋回する旋回流が生じ、第4領域54においては、左側のフィン31の側面付近を流れる冷却風は基端に向かうように案内され、右側のフィン31の側面付近を流れる冷却風は先端に向かうように案内される結果、第4領域54に対応する高さ位置では、反時計回りに旋回する旋回流が生じる。
こうして、旋回流生成手段5は、スリット状流路30内で、互いに逆方向に旋回する複数の旋回流を、高さ方向に並べて生成することが可能である。また、並び方向に向かい合うフィン31において、溝55の傾斜方向を逆方向にすることで、スリット状流路30内における両側のそれぞれで、旋回流を促進することが可能になるから、強い旋回流を安定して生成することが可能になる。また、高さ方向に隣り合う旋回流の境界付近で、並び方向(図2(b)における左右方向)に流れる旋回流の流れは、旋回方向が逆向きであることで、2つの旋回流間で同じ方向になる。このこともまた、高さ方向に並んだ複数の旋回流を安定的に生成することに寄与する。
スリット状流路30内の旋回流は、フィン31の側面付近を高さ方向に流れるため、フィン31の側面付近に生成される温度境界層の厚みを薄くする機能を発揮する。これにより、フィン31の熱伝達率が高まって、ヒートシンク1の冷却性能が、旋回流生成手段5を設けていないヒートシンクよりも高まる。
また、旋回方向が交番するように、複数の旋回流が高さ方向に並んで生成されることにより、スリット状流路30内において、高さ方向に空気が攪拌される。このこともまた、ヒートシンク1の冷却性能を高める。
図3、4に示すように、旋回流生成手段5の溝55は、その断面形状が半円形状に構成されている。これによって、溝55の開口縁における、フィン31の側面に対する角度(エッジ角度θ2)は、90°に設定される。本願発明者等の検討によれば、エッジ角度θ2は、90°に近づくほど、より強い旋回流を生成することができ、ヒートシンク1の冷却性能の向上に有利になる。従って、エッジ角度θ2を90°に設定することは、ヒートシンク1の冷却性能の向上に最も有利になる。
また、溝55の形状を半円形状に構成することによって、溝55の面が滑らかな形状になり、溝55内の流れに関し、よどみが発生しない。これは、性能を落とすことなく、スリット状流路30の圧力損失が増大することを抑制する点で有利である。
旋回流生成手段5の溝55は、平板状のフィン31の表面に切削加工により形成してもよい。また、例えばプレス加工によってフィン31に溝55を形成してもよい。平板状のフィン31の表面に溝55を形成可能な方法であれば、どのような加工方向を採用してもよい。
溝55は、本数が多いほど、旋回流の生成には有利になる一方で、圧力損失の増大を招く。溝55の本数は、冷却性能と圧力損失とのバランスを考慮して、適宜設定すればよい。また、溝55の幅Wや、溝55の間隔は、フィン31に設ける溝55の本数に応じて適宜設定される。溝55の深さDは、冷却風を案内する機能と、フィン31の板厚とを考慮して設定される。溝55の深さDが浅すぎるときは、冷却風を案内する機能が十分に得られない。また、溝55の深さDが深すぎるときは、圧力損失が増大する。また、フィン31に溝55を設けることで、フィン31の板厚は減少する。ヒートシンク1を構成するフィン31の内、少なくとも、並び方向の最外位置以外に配置するフィン31には、その両側面に溝55が形成される。そのため、両側面のそれぞれに溝55を設けた上で、厚み方向の中央部に残る板厚と、フィン強度等を考慮して、フィン31の深さDを適宜設定すればよい。尚、フィン31の高さ方向に区分される複数の領域において、溝55の本数、幅、間隔、及び深さはそれぞれ、同じにしなくても、異ならせることも可能である。また、図2においては、高さ方向に隣り合う領域の溝55の端部同士が、その境界において互いにつながっているが、隣り合う領域の溝55同士は、つながらなくてもよく、溝55の端部が、前後方向にずれていてもよい。
図1、2に示すヒートシンクでは、旋回流生成手段5は、前後方向の所定箇所にのみ設けられている。具体的に図例では、冷却風が流れる方向において上流側に相当する第1箇所と、中間部に相当する第2箇所との二箇所に、旋回流生成手段5が設けられている。より詳細に、第1箇所は、フィン31の前端から、フィン31の全長のおおよそ1/4の範囲であり、第2箇所は、フィン31の前後方向の中央からフィン31の全長のおおよそ1/4の範囲である。第1箇所の旋回流生成手段5の後ろ側であって、第2箇所の旋回流生成手段5の前側には、フィン31の側面に溝55が形成されていない領域が設けられ、同様に、第2箇所の旋回流生成手段5の後ろ側にも、溝55が形成されていない領域が設けられている。
旋回流生成手段5は、旋回流を生成する一方で圧力損失を増大させる。これに対し、溝55が形成されていない領域は、旋回流生成手段5と比較して圧力損失が低く、圧力損失の上昇を抑制する圧損上昇抑制領域6である。これらの圧損上昇抑制領域6は、旋回流生成手段5の後ろ側に設けられていることにより、旋回流生成手段5によって生成された旋回流は、圧損上昇抑制領域6においても、惰性によって維持するようになる。こうして、前述した旋回流によって得られる、フィン31の側面付近の温度境界層の厚みを薄くすることや、スリット状流路内の空気を高さ方向に攪拌するといった作用効果を、圧損上昇抑制領域6においても実質的に得ることができる一方で、圧力損失の上昇を抑制することが可能になる。圧損上昇抑制領域6は、旋回流生成手段5と対となって機能する。
旋回流生成手段5及び圧損上昇抑制領域6は、ベース11に取り付けられる発熱体2に対応して設けることが好ましい。例えば、熱負荷が高い発熱体2が取り付けられる箇所に旋回流生成手段5を設け、その後ろ側に圧損上昇抑制領域6を設けてもよい。図2の例では、冷却風の流れ方向(図2における左から右方向)について1番目に配設された発熱体2と、3番目に配設された発熱体2とのそれぞれに対応して旋回流生成手段5が設けられ、それに伴い、2番目に配設された発熱体2と、4番目に配設された発熱体2とのそれぞれに対応して圧損上昇抑制領域6が設けられている。こうすることで、熱負荷の高い発熱体2を効率的に冷却することが可能になる。
また、圧損上昇抑制領域6を設けることによって圧力損失が低下する分、圧損上昇抑制領域を設けないヒートシンクと比較して、フィン31の間隔をより狭くする等の、フィン31の熱伝達率を向上させる構成を採用することが可能になる。その結果、圧損上昇抑制領域6を設けずに、旋回流生成手段5をスリット状流路30の上流端から下流端までの全域に亘って設けたヒートシンク(図5参照)と比較して、圧力損失を同じにしたときに、圧損上昇抑制領域6を設けたヒートシンク1(図2参照)は、その冷却性能を高める(例えば、流入する冷却風温度に対する、ベース11の取付面111の温度上昇値を低下させる)ことが可能になる。また、冷却性能を同じにしたときに、圧損上昇抑制領域6を設けたヒートシンク1は、圧力損失が低くなる。この意味で、圧損上昇抑制領域6を設けることは、ヒートシンク1の冷却性能を効率的に向上することを可能にする。
尚、図1、2の例では、旋回流生成手段5を、ヒートシンク1に二箇所設けているが、旋回流生成手段5を設ける箇所の数は、一箇所でもよいし、三箇所以上でもよい。
また、ベース11に取り付けられる発熱体2の数、配置、及び、熱負荷等に応じて、図5に示すように、フィン31の側面に圧損上昇抑制領域6を設けないで、フィン31の前端から後端までの全域に広がる旋回流生成手段5を設けることも可能である。尚、図5に示すヒートシンク1は、圧損上昇抑制領域6を設けない点以外は、図2に示すヒートシンク1とその構成が同じである。この構成でも、旋回流生成手段5を設けないヒートシンクと比較して、その冷却性能を向上させることが可能である。
図2に示すヒートシンク1において、旋回流生成手段5は、高さ方向に複数の領域に区分されており、それによって、スリット状流路30内には、旋回方向が逆方向となった複数の旋回流が高さ方向に並ぶように生成される。図2(b)に示すように、旋回流は、フィン31の側面付近では、その側面に沿うように高さ方向に流れるため、互いに近づくことになり、その結果、高さ方向に隣り合う旋回流同士が衝突するようになって、圧力損失の点で不利になる。
これに対し、図6に示すヒートシンク1は、フィン31の側面に、旋回流同士の衝突を緩衝する緩衝部7を設けている。この緩衝部7は、図6(a)に示すように、旋回流生成手段5の溝を形成しない部分であり、第1箇所及び第2箇所のそれぞれについて、第1領域51と第2領域52との境界部分、第2領域52と第3領域53との境界部分、及び、第3領域53と第4領域54との境界部分の3箇所それぞれに設けられている。尚、図示は省略するが、フィン31において、ベース11との接合箇所付近(つまり、図6においては、第4領域54の下端縁部)にも、緩衝部7を設けてもよい。
緩衝部7は、溝が形成されていない領域であるため、フィン31の側面付近を流れる冷却風を、高さ方向に案内する機能を有しない。その結果、第1〜第4領域51〜54のそれぞれにおける境界付近で、隣り合う旋回流同士が、高さ方向に衝突をせずに、前後方向又は並び方向に逃げるようになる。こうして、図6(b)に示すように、第1〜第4の各領域51〜54の高さ位置に対応する旋回流は滑らかに旋回するようになり、圧力損失が低減する。
また、前述の通り、圧力損失が低減する分、フィン31の熱伝達率を向上させる構成を採用することが可能になるから、緩衝部を設けていないヒートシンク1(図2参照)と比較して、圧力損失を同じにしたときに、緩衝部7を設けたヒートシンク1(図6参照)は、その冷却性能を高めることが可能になる。つまり、緩衝部7を設けることもまた、ヒートシンク1の冷却性能を効率的に向上することを可能にする。
ここで、緩衝部7は特に、フィン31の側面付近において、隣り合う2つの領域のそれぞれから高さ方向に向かい合うように流れる箇所における衝突緩衝に有効に機能する。図6(a)に示すフィン31(つまり、図6(b)において左側のフィン31では、冷却風が基端に向かって流れる第2領域52と、先端に向かって流れる第3領域53との境界がそれに該当する。そこで、図7に示すように、第2領域52と第3領域53との境界にのみ緩衝部7を設け、第1領域51と第2領域52との境界、及び、第3領域53と第4領域54との境界には、緩衝部を設けないようにしてもよい。尚、図示は省略するが、図6(b)における右側のフィン31では、第1領域51と第2領域52との境界、及び、第3領域53と第4領域54との境界に緩衝部7を設け、第2領域52と第3領域53との境界には緩衝部7を設けないこともできる。この構成のヒートシンク1も、緩衝部7を設けないヒートシンク1と比較して、冷却性能を効率的に向上させることが可能になる。
図8は、緩衝部の構成の変形例を示している。この例の緩衝部71は、フィン31の側面に設ける溝55の向きを変更することによって、旋回流同士の衝突を緩衝する。具体的に、第2領域52及び第3領域53の境界においては、第2領域52において、前後方向の前から後ろに向かうに従い、基端に向かって傾斜する溝55の後端部の向きを、後方に向かうように曲げている一方、第3領域53において、前後方向の前から後ろに向かうに従い、先端に向かって傾斜する溝55の後端部の向きを、後方に向かうように曲げている。従って、この緩衝部71では、互いにつながる2つの溝55の後端部がそれぞれ後方に向かうようになり、それに伴い、冷却風は後方へと案内されるようになる。こうして、第2領域52において、フィン31の側面付近を基端に向かうように流れる旋回流が後方に流れ、第3領域53において、フィン31の側面付近を先端に向かうように流れる旋回流が後方に流れるようになり、両者の衝突を緩衝することができる。
また、第1領域51と第2領域52との境界においては、第1領域51において、前後方向の前から後ろに向かうに従い、先端に向かって傾斜する溝55の前端部の向きを、前方に向かうように曲げている一方、第2領域52において、前後方向の前から後ろに向かうに従い、基端に向かって傾斜する溝55の前端部の向きを、前方に向かうように曲げている。同様に、第3領域53と第4領域54との境界においては、第3領域53において、前後方向の前から後ろに向かうに従い、先端に向かって傾斜する溝55の前端部の向きを、前方に向かうように曲げている一方、第4領域54において、前後方向の前から後ろに向かうに従い、基端に向かって傾斜する溝55の前端部の向きを、前方に向かうように曲げている。
このような構成の緩衝部71でも、図6に示すヒートシンクと同様に、旋回流が滑らかに旋回するようになって圧力損失が低減する。従って、緩衝部71を設けることにより、ヒートシンク1の冷却性能の向上を効率的に行うことが可能になる。
尚、緩衝部71において、溝55の向きは、前後方向に近づくように曲げれば、十分な効果を得ることができる。従って、溝55の傾斜角度が0°になるまで曲げることには限らない。また、図示は省略するが、図8に示すヒートシンク1において、図7に示すヒートシンク1と同様に、第2領域52及び第3領域53の境界にのみ、緩衝部71を設けるようにしてもよい。
緩衝部は、圧損上昇抑制領域6を設けたヒートシンク1に適用するだけでなく、図9に示すように、圧損上昇抑制領域6を設けてないヒートシンク1に対して、緩衝部7を設けてもよい。このようなヒートシンク1も、冷却性能の向上を効率的に行うことが可能になる。
尚、図9に示すヒートシンク1に、図8に示す構成の緩衝部71を設けてもよい。また、図9に示すヒートシンク1においても、旋回流同士の衝突が起こり得る箇所についてのみ、緩衝部7、71を設けるようにしてもよい。具体的には、第2領域52及び第3領域53の境界にのみ、緩衝部7、71を設けるようにしてもよい。
図10は、旋回流生成手段5の溝55の断面形状の変形例を示している。同図(a)に示すように、溝55の断面形状は矩形状に形成してもよい。矩形断面の溝55は、図4に示す半円形状断面の溝55と同様に、エッジ角度θ2が90°となるため、旋回流の生成に有利になる。一方で、矩形断面の溝55は、その溝55内の隅部に、流れが実質的に停滞する、よどみが発生する場合があり、圧力損失の増大を招く場合がある。
図10(b)は、三角形状断面の溝55を示している。このような三角形状断面の溝55をフィン31に設けてもよい。但し、この断面形状の溝55は、エッジ角度θ2が90°未満になるため、旋回流の生成には不利になり得る。また、溝55の内部の底部において、よどみが生じる場合がある。
図10(c)に示すように、フィン31に設ける溝55は、U字状断面の溝55としてもよい。この断面形状の溝55は、エッジ角度θ2が90°になるため、旋回流の生成に有利になる。
図10(d)は、図10(a)と同様に、溝55の断面形状を、略矩形状にすると共に、その溝55内の隅部にアールを設けている。これにより、エッジ角度θ2を90°にしつつ、よどみの発生を抑制することが可能になる。また、図10(e)は、溝55の断面形状を、溝の底部を直線状にし、溝の側面を曲線状とすることで、全体として略矩形状にしている。この形状は、エッジ角度θ2を90°に近づけつつ、溝55内での、よどみの発生を抑制することが可能になる。
図10(f)に示す溝55は、断面形状が台形状である。この断面形状の溝55は、エッジ角度θ2が90°未満になる。フィン31に設ける溝55の断面形状は、ここに示す形状以外の形状を採用することも可能である。
図2等に示すヒートシンク1において、フィン31に設ける溝55は、所定の方向に傾斜する直線状の溝55であるが、溝55は、直線状ではなく曲線状であってもよい。図11は、溝55の形状の変形例を示しており、図11は、フィン31の側面において、高さ方向に隣り合う2つの領域56、57の一部を拡大して示している。図11(a)の例では、上側の領域(つまり、フィン31の先端側の領域)56では、溝55を上に凸となる円弧によって構成しており、前後方向に対する傾斜方向としては、前から後ろに向かって、上側に向かう方向に傾斜している。また、下側の領域57では、溝55を上に凸となる円弧によって構成していると共に、前後方向に対する傾斜方向としては、前から後ろに向かって、下側に向かう方向に傾斜している。
図11(b)の例は、上側の領域56では、溝55を上に凸となる円弧によって構成していると共に、前後方向に対する傾斜方向としては、前から後ろに向かって、上側に向かう方向に傾斜している。また、下側の領域57では、溝55を下に凸となる円弧によって構成していると共に、前後方向に対する傾斜方向としては、前から後ろに向かって、下側に向かう方向に傾斜している。図11(b)の例では、結果的に、上側の領域56と下側の領域57との全体に亘って連続する半円状の溝55が形成されることになる。
尚、図示は省略するが、上側の領域56において、溝55を下に凸となる円弧によって構成することも可能である。
図11(c)の例は、上側の領域56において、2つの円弧をつなぐことで、おおよそS字となった曲線状の溝55を設けている。同様に、下側の領域57においても、2つの円弧をつなぐことで、おおよそ反転したS字状の溝55を設けている。図11(c)の例では、上側の領域56と下側の領域57との境界付近において、溝55の向きがそれぞれ前後方向を向くように曲げられている。従って、この例では、図8に示す緩衝部71を設けたヒートシンク1と同様の機能を発揮し得る。
尚、溝55を構成する曲線は、円弧に限らない。
また、1つのフィン31において、図11(a)に示す構成を高さ方向に繰り返したり、図11(b)に示す構成を高さ方向に繰り返したり、図11(c)に示す構成を高さ方向に繰り返したりするのではなく、1つのフィン31において、図11(a)に示す構成と図11(b)に示す構成とを組み合わせる等、図11(a)、(b)、(c)に示す構成を、任意に組み合わせることが可能である。また、図11(a)、(b)又は(c)に示す構成と、図2等に示す構成とを組み合わせることも可能である。つまり、旋回流生成手段5において高さ方向に複数に区分される各領域で、互いに異なる構成の溝55を設けてもよい。
また、図4及び図10を参照しながら説明した、旋回流生成手段5の溝55の断面形状は、1つのフィン31において、複数の形状を組み合わせて採用してもよい。例えば図12(a)に仮想的に示すように、1つのフィン31を前後方向の前側311と後側312との2つに区分し、そのうちの前側311に設ける旋回流生成手段5の溝55と、後側312に設ける旋回流生成手段5の溝55とで、その断面形状を異ならせてもよい。また、図12(b)に仮想的に示すように、1つのフィン31を前後方向の前側と後側、及び、高さ方向の先端側と基端側との4つに区分し、各区分313、314、315、316に設ける旋回流生成手段5の溝55について、その断面形状を異ならせてもよい。その場合に、4つの区分313、314、315、316のそれぞれに設ける溝55の断面形状は、全て異ならせてもよいし、いくつかの区分に設ける溝55の断面形状は、互いに同じにしてもよい。
ここで、一枚のフィン31における一面側に設ける溝55と、他面側に設ける溝55とは、旋回流を生成する点では関連性がなく、どのように形成してもよいが、次のようにすることも可能である。つまり、図13は、一枚のフィン31における一面側に設ける溝55と、他面側に設ける溝55との位置関係を例示しており、同図における実線は、フィン31における表面側に設けた溝55を、破線は、裏面側に設けた溝55をそれぞれ示している。図13(a)は、表面側に設けた溝55の傾斜方向と、裏面側に設けた溝55の傾斜方向とは互いに同じであるものの、溝55の位置は、表面側と裏面側とでずれている。こうすることで、一枚のフィン31において、その板厚が極端に薄くなってしまう箇所が無くなり、フィン31の強度及びフィン効率確保に有利になる。また、図13(b)は、フィン31の表面側に設けた溝55の傾斜方向と、裏面側に設けた溝55の傾斜方向とを逆方向にしている。この構成では、表面側の溝55と裏面側の溝55とが板厚方向に重なる箇所は、溝同士が交わる箇所のみとなり、板厚が極端に薄くなってしまう部分を小さくすることが可能になる。また、図13(b)に示す構成は、同じ形状及び構成のフィン31を複数作成し、それらのフィン31を同じ向きで並べることで、図1等に示すヒートシンク1を作成することが可能になるという利点がある。
尚、前述した構成では、旋回流生成手段5は、フィン31における高さ方向の先端から基端までの全域に亘って設けていたが、旋回流生成手段5を、フィン31における高さ方向の一部の領域にのみ設けることも可能である。
また、フィン31に溝55を設ける代わりに、フィン31の側面に、前後方向に対し傾いて筋状に延びる凸条を設けることで、フィン31の側面に凹凸を設けてもよい。また、フィン31の側面に溝及び凸条の双方を設けるようにしてもよい。
さらに、前述したヒートシンク1は、強制空冷型のヒートシンク1であったが、ここに開示する技術は、例えば鉄道車両等の走行に伴い生じる走行風を受けて、発熱体の冷却を行う構成のヒートシンクに適用することも可能である。
次に、旋回流生成手段を設けたヒートシンクの圧力損失及び性能に関して実際に行った実施例について説明をする。先ず、実施例1〜3の3種類のヒートシンクについて、シミュレーションにより、圧力損失ΔP及びヒートシンクの性能の比較を行った。実施例1は、図5に示すように、フィン31に、旋回流生成手段5のみを設け、圧損上昇抑制領域6を設けていないヒートシンクであり、実施例2は、図2に示すように、フィン31に、旋回流生成手段5と圧損上昇抑制領域6とを設けたヒートシンクであり、実施例3は、図6に示すように、フィン31に、旋回流生成手段5と圧損上昇抑制領域6と、溝55を形成しない緩衝部7と、を設けたヒートシンクである。
ここで、ヒートシンクの性能は、ヒートシンクに流入する冷却風の温度に対する、ヒートシンクのベースにおける下流端の温度の差ΔTによって評価する。実施例1〜3の相互の比較基準を明確にするために、シミュレーションでは、実施例1〜3の全てで、ΔTが同じ14.0(K)となるようにフィンピッチ(フィンの間隔)の調整を行い、そのときの圧力損失ΔPの大小を比較することにした。結果は以下の通りである。
実施例1(図5):ΔP=210.0[Pa]、ΔT=14.0[K]
実施例2(図2):ΔP=165.4[Pa]、ΔT=14.0[K]
実施例3(図6):ΔP=154.4[Pa]、ΔT=14.0[K]
この結果から、図6に示す、旋回流生成手段5と圧損上昇抑制領域6と緩衝部7とを設けた実施例3のヒートシンクが、圧力損失が最も低くなった。実施例3のヒートシンクは、実施例1や実施例2のヒートシンクと同等の冷却性能を、より低い圧力損失で実現することが可能である。つまり、実施例3のヒートシンクは、冷却性能を効率的に向上させることができる。
実施例3に次いで、図2に示す、旋回流生成手段5と圧損上昇抑制領域6とを設けかつ、緩衝部7を設けない実施例2のヒートシンクが、圧力損失が低く、実施例1〜3の内では、旋回流生成手段5のみを設けかつ、圧損上昇抑制領域6及び緩衝部7を設けない実施例1のヒートシンク(図5参照)が、圧力損失が最も高くなった。
次に、旋回流生成手段及び圧損上昇抑制領域を設けたスリット状流路内における流れを、シミュレーションによって確認した。シミュレーションは、全長80mmの、2枚のフィンよって区画形成されたスリット状流路内の流れをシミュレートしている。解析条件は、以下の通りである。
フィンの間隔:5mm
旋回流生成手段:流入口(0mm)から40mmまでの範囲
圧損上昇抑制領域:40mmから流出口(80mm)までの範囲
旋回流生成手段における溝の傾斜角度θ1:45°
溝の断面形状:三角形状(図10(c)参照)
溝の開口幅W:5mm
溝の深さD:1.0mm
溝の間隔:0.5mm
冷却風の流入速度:15m/sec
尚、旋回流生成手段は、高さ方向に第1領域と第2領域との2つの領域を有しており、溝の傾斜方向は、前述したように、フィンの側面において高さ方向に隣り合う第1領域と第2領域とで互いに逆向きであると共に、向かい合うフィンの側面で、互いに逆向きである。従って、スリット状流路内には、旋回方向が逆向きの、2つの旋回流が高さ方向に並んで生成される。
図14に、シミュレーション結果を示す。図14は、スリット状流路の各横断面における流線を示しており、図14の(a)〜(o)は、流入口からの距離が5mm毎の横断面に相当する。また、図14に示される濃淡は、流速の大きさを示しており、スリット状流路の中央側の方が、流速が高い。
旋回流生成手段が設けられた範囲内に相当する(a)〜(h)では、溝の開口縁部付近で生じた旋回流が次第に発達して、2つの旋回流が高さ方向に並んで生成されることがわかる。尚、2つの旋回流の旋回方向は、互いに逆方向である。
旋回流生成手段の後ろ側に設けた圧損上昇抑制領域に相当する(i)〜(o)では、フィンに溝が形成されていないため、旋回流を生成する、又は、発達させることにはならないが、旋回流生成手段において生成された旋回流が、惰性で維持される結果、圧損上昇抑制領域内でも、2つの旋回流が高さ方向に並んでいることがわかる。このように、圧損上昇抑制領域内でも旋回流が維持されることから、旋回流生成手段と、その後ろ側の圧損上昇抑制領域との組み合わせは、旋回流によるヒートシンクの性能向上と、圧力損失の低減との両立に有効である。