以下、各実施形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
<第1の実施形態>
[電力系統の全体構成]
図1は、保護リレー装置が設置された電力系統の概略的な構成を示すブロック図である。
図1を参照して、電力系統の3相線路(送電線または配線線など)1には、電圧変成器(VT:Voltage Transformer;計器用変成器とも称する)2と、電流変成器(CT:Current Transformer;計器用変流器とも称する)3とが設けられている。電圧変成器2の2次側は3相電圧信号線5を介してデジタル保護リレー装置10に接続され、電流変成器3の2次側は3相電流信号線6を介してデジタル保護リレー装置10に接続されている。電圧変成器2の2次側には、電圧変成器2の2次回路の短絡などによって電圧変成器2が焼損するのを防止するためにヒューズ4が設けられている。
デジタル保護リレー装置10は、機能的には、VT用ヒューズ断線検出部(VTF)30と、保護演算部31とを含む。保護演算部31は、電圧変成器2および電流変成器3の検出値に基づいて各種の保護要素の演算を行い、演算結果に基づいて電力系統に故障があるか否かを判定する。保護演算部31は、電力系統に故障があると判定すると、線路の故障個所を電力系統から切り離すために電力系統に設置された遮断器(CB)7に対して開放指令を出力する。
電圧変成器2の2次回路の短絡などによりヒューズ4が開放するとデジタル保護リレー装置10に入力される電圧信号レベルが低下する。この結果、電力系統の電圧を使う保護要素は、正しい動作ができなくなり、遮断器に対して不要に開放指令を出力してしまう可能性がある。このために、ヒューズ断線検出部30が設けられている。ヒューズ断線検出部30は、ヒューズ4の断線を検出し、ヒューズ4が断線している場合には保護演算部31のリレー要素の中で電圧を使用する要素の出力をロックすることによって、不要な開放指令の出力を防止する。
[保護リレー装置のハードウェア構成]
図2は、図1のデジタル保護リレー装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図2を参照して、デジタル保護リレー装置10は、補助変成器12_1,12_2,…を内蔵する入力変換ユニット11と、デジタルリレーユニット13とを含む。
入力変換ユニット11は、図1の電圧変成器2で検出された相電圧の検出信号および電流変成器3で検出された相電流の検出信号が入力される入力部である。各補助変成器12は、電圧変成器2および電流変成器3からの検出信号をデジタルリレーユニット13での信号処理に適した電圧レベルに変換する。
デジタルリレーユニット13は、アナログフィルタ(AF:Analog Filter)14_1,14_2,…と、サンプルホールド回路(S/F:Sample Hold Circuit)15_1,15_2,…と、マルチプレクサ(MPX:Multiplexer)16と、アナログデジタル(A/D:Analog to Digital)変換器17とを含む。デジタルリレーユニット13は、さらに、CPU(Central Processing Unit)19と、RAM(Random Access Memory)20と、ROM(Read Only Memory)21と、デジタル入力(D/I:Digital Input)回路22と、デジタル出力(D/O:Digital Output)回路23と、これらの各構成要素を接続するバス24とを含む。
各アナログフィルタ14は、A/D変換の際の折返し誤差を除去するために設けられたローパスフィルタである。各サンプルホールド回路15は、対応のアナログフィルタ14を通過した信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングして保持する。マルチプレクサ16は、サンプルホールド回路15_1,15_2,…に保持された電圧信号を順次選択する。A/D変換器17は、マルチプレクサによって選択された電圧信号をデジタル値に変換する。CPU19は、ROM21および図示しない外部記憶装置に格納されたプログラムに従って動作し、A/D変換器17から出力されたデジタルデータに基づいて各種の保護要素の演算を行う。デジタル出力回路23からは、遮断器を開放するための開放指令が出力される。
この実施形態の場合、図1のヒューズ断線検出部30と保護演算部31とは、CPU19によってプログラムが実行されることによって実現される。無論、CPUに代えて、ヒューズ断線検出部30および保護演算部31の機能を実現するための専用の回路を設けてもよい。
[計器用変圧器とヒューズとの接続の詳細]
図3は、図1の計器用変圧器2、ヒューズ4、および図2の入力変換ユニット11の接続を詳細に記載した図である。
図3を参照して、図1の3相線路1は、a相線路1a、b相線路1b、およびc相線路1cによって構成される。図1の電圧信号線5は、a相用信号線5aと、b相用信号線5bと、c相用信号線5cと、接地線5gとによって構成される。
図1の電圧変成器2は、a相用変圧器3_1、b相用変圧器3_2、およびc相用変圧器3_3とを含む。a相用変圧器3_1の1次巻線の一端はa相線路1aに接続され、b相用変圧器3_2の1次巻線の一端はb相線路1bに接続され、c相用変圧器3_3の1次巻線の一端はc相線路1cに接続される。各変圧器3の1次巻線の他端は接地極GNDに接続される。a相用変圧器3_1の2次巻線の一端は、a相用ヒューズ4aを介してa相用信号線5aの一端と接続される。b相用変圧器3_1の2次巻線の一端は、b相用ヒューズ4bを介してb相用信号線5bの一端と接続される。c相用変圧器3_1の2次巻線の他端は、c相用ヒューズ4cを介してc相用信号線5cの一端と接続される。各変圧器3の2次巻線の他端は接地極GNDに接続されるとともに、接地線5gの一端に接続される。すなわち、図1の変成器2は、Y−Y結線となっている。
a相用信号線5aの他端は、入力変換ユニット11の変圧器12_1の1次巻線の一端に接続される。b相用信号線5bの他端は、入力変換ユニット11の変圧器12_2の1次巻線の一端に接続される。c相用信号線5cの他端は、入力変換ユニット11の変圧器12_3の1次巻線の一端と接続される。各変圧器12_1,12_2,12_3の2次巻線の他端は、接地線5gの他端と接続される。
図3において、a相用ヒューズ4aが断線した場合には、a相用信号線5aの電位は理想的には接地電位に等しくなる。したがって、入力変換ユニット11の変圧器12_1によって検出される電圧は理想的には0になる。ただし、実際には、a相用信号線5aは、寄生容量Cab,Cac,Cagをそれぞれ介してb相用信号線5b、c相用信号線5c、接地線5gと結合しているので、これらの信号線5b,5c,5gの電圧に応じて電圧が発生する。
[ヒューズ断線検出部の機能的構成]
図4は、図1のヒューズ断線検出部30の機能的構成を示すブロック図である。図4を参照して、ヒューズ断線検出部30は、零相過電圧リレー要素(OVG:Over Voltage Ground)32と、零相過電流リレー要素(OCG:Over Current Ground)33と、ある特定相(たとえば、a相)についての第1の不足電圧リレー要素(UV1:Under Voltage 1)40と、同一相(a相)についての電流変化幅検出リレー要素(OCD:Over Current-change Detection)41と、復帰タイマ42とを含む。ヒューズ断線検出部30は、さらに、脱調検出部50と、判定部100とを含む。
この明細書では、「リレー要素」を単に「要素」と記載する場合がある。上記の各リレー要素32,33,40,41および脱調検出部50は、動作時(異常検出時)に“1”を出力し、不動作時(定常時)に“0”を出力するものとする。
零相過電圧要素32は、零相電圧が過電圧となったとき、すなわち、所定の設定電圧を超えたとき動作する。零相過電流要素33は、零相電流が過電流となったとき、すなわち、所定の設定電圧を超えたとき動作する。不足電圧要素40は、電力系統の電圧が不足したとき、すなわち、所定の設定電圧以上にならなくなったときに動作する。電流変化幅検出要素41は、振幅および/または位相の変化によって、電流値が定常状態から所定量以上変化したときに動作する。たとえば、電流変化幅検出要素41は、定格交流入力の所定周期(0.5周期、1周期、2周期、3周期など)だけ隔てた電流瞬時値を比較することによって電力系統に流れる電流の急変検出を行う。
脱調検出部50は、第2の不足電圧要素(UV2:Under Voltage 2)51と、論理ゲート52と、動作タイマ53と、フリップフロップ54とを含む。第2の不足電圧要素51が動作する(電圧低下を検出する)設定電圧は、第1の不足電圧要素40が動作する設定電圧よりも高い。論理ゲート52は、第1の不足電圧要素40の出力値の論理レベルを反転した値と第2の不足電圧要素51の出力値とのAND演算を行う。論理ゲート52の出力信号は動作タイマ53を介してフリップフロップ54のセット端子(S)に入力される。第2の不足電圧要素51の出力値の論理レベルを反転した値は、フリップフロップ54のリセット端子(R)に入力される。
ここで、動作タイマ53は、入力信号レベルが“1”となってからの時間が設定時間Topを超えたとき、出力信号レベルを“1”にする。すなわち、設定時間Topは、入力に応答しない期間(不感時間帯)となっている。設定時間Topは、線路の故障またはヒューズ4の断線の場合に脱調検出部50が動作(脱調検出)しないように、たとえば、20m秒〜60m秒に設定される。
上記の構成によれば、第2の不足電圧要素51が動作するが、第1の不足電圧要素40が動作しない状態が動作タイマ53の設定時間Top以上継続した場合には、フリップフロップ54がセット状態になる。この結果、フリップフロップ54の出力すなわち脱調検出部50の出力は“1”になる(脱調が検出される)。第2の不足電圧要素51が動作しなくなると、フリップフロップ54はリセットされる。
判定部100は、各リレー要素32,33,40,41および脱調検出部50の出力に基づいて、ヒューズ4の断線の有無を判定するためのものであり、論理ゲート34,35,43,44を含む。
具体的に、論理ゲート34は、零相過電圧要素32の出力値と、零相過電流要素33の出力値の論理レベルを反転した値とのAND演算を行う。したがって、零相過電圧要素32の出力は、零相過電流要素33の出力でブロックされる(出力が妨げられる)。
復帰タイマ42は、電流変化幅検出要素41が“1”を出力した場合、その値を復帰時間Treの間維持する。復帰時間Treは、数秒から10秒程度である。
論理ゲート43は、復帰タイマ42の出力値とフリップフロップ54の出力値とのOR演算を行う。論理ゲート44は、第1の不足電圧要素40の出力値と、論理ゲート43の出力の論理レベルを反転した値とのAND演算を行う。したがって、第1の不足電圧要素40の出力は、電流変化幅検出要素41の出力によってブロックされるとともに、脱調検出部50の出力によってブロックされる。
最後に、論理ゲート35は、論理ゲート34の出力値と論理ゲート44の出力値とのOR演算を行う。論理ゲート35の演算結果は、ヒューズ断線検出部30の出力値として出力される。
[ヒューズ断線検出部の動作]
図5は、図4のヒューズ断線検出部30の動作を示すフローチャートである。図5のフローチャートの手順は制御周期ごと(たとえば、電力系統の定格交流入力の電気角の22.5°または30°に相当する時間ごと、すなわち、50Hzの場合は1.25m秒または1.66m秒ごと、60Hzの場合は1.042m秒または1.38m秒ごと)に繰り返される。
図4および図5を参照して、まず、図3のCPUは、電力系統の各相の相電圧の検出値と相電流の検出値とに基づいて零相電圧および零相電流を算出する(ステップS100)。
次に、CPU(零相過電圧要素32)は、零相電圧が過電圧となっているか否かを判定する(ステップS110)。さらに、CPU(零相過電流要素33)は、零相電流が過電流となっているか否かを判定する(ステップS120)。これらの判定の結果、零相過電圧でありかつ零相過電流である場合(ステップS110でYESかつステップS120でYES)、CPU(判定部100)は、ヒューズの断線でないと判定して処理を終了する(この場合、1相または2相の線路故障である)。一方、零相過電圧であるが、零相過電流でない場合(ステップS110でYESかつステップS120でNO)、CPU(判定部100)は、ヒューズの断線であると判定する(ステップS130)。
次に、零相過電圧でない場合(ステップS110でNO)、CPU(不足電圧要素40)は、ある特定相(図5の場合、a相)の相電圧が不足しているか否かを判定する。この結果、零相過電圧でなく、a相の不足電圧でもない場合(ステップS110でNOかつステップS140でNO)、CPU(判定部100)はヒューズの断線でないと判定して処理を終了する(この場合、線路電圧の低下はない)。
一方、a相電圧が不足している場合において(ステップS140でYES)、復帰タイマ42の復帰時間Tre内で、a相の電流変化幅検出要素41が不動作であり(ステップS150でNO)、かつ、脱調検出部50が脱調を検出していない場合(ステップS160でNO)、CPU(判定部100)はヒューズの断線であると判定する(ステップS130)。逆に、a相電圧が不足している場合において(ステップS140でYES)、復帰タイマ42の復帰時間Tre内で、a相の電流変化幅検出要素41が動作していたか(ステップS150でYES)、または、脱調検出部50が脱調を検出していた場合(ステップS160でYES)、CPU(判定部100)はヒューズの断線ではないと判定して処理を終了する。前者の場合は3相の線路故障であり、後者の場合は電力系統の脱調である。
図6は、図4の脱調検出部50の動作を示すフローチャートである。図5のフローチャートの手順は制御周期ごと(たとえば、電力系統の定格交流入力の電気角の22.5°または30°ごと)に繰り返される。図6において、V1<V2<定常状態の定格電圧の関係に設定されているとする。基準値V1は図4の不足電圧要素40の設定電圧に対応し、基準値V2は図4の不足電圧要素51の設定電圧に対応する。
図4および図6を参照して、まず、CPUは、現時刻tまでの複数の時点の相電圧の検出値に基づいて相電圧の実効値V(t)rmsを算出する(ステップS200)。なお、実効値に代えて振幅値を用いてもよい。
次に、CPU(不足電圧要素51)は、電圧実効値V(t)rmsが基準値V2未満であるか否かを判定する(ステップS210)。電圧実効値V(t)rmsが基準値V2未満でない場合(ステップS210でNO)、CPU(フリップフロップ54)は脱調検出部50の出力を“0”にする(ステップS220)、すなわち脱調でないと判定する。この場合、動作タイマ53のタイマ時間tmは0に初期化されている(ステップS230)。
一方、電圧実効値V(t)rmsが基準値V2未満でありかつ基準値V1以上である場合(ステップS210でYES、ステップS240でNO)、CPUは、動作タイマ53のタイマ時間tmのカウントアップを開始する(ステップS250)。電圧実効値V(t)rmsが基準値V2未満でありかつ基準値V1以上である状態が継続した結果、動作タイマ53のタイマ時間tmが基準時間Topを超えた場合(ステップS260でYES)、CPU(フリップフロップ54)は脱調検出部50の出力を“1”にする(ステップS270)、すなわち脱調であると判定する。
タイマ時間tmが基準時間Topを超える前に電圧実効値V(t)rmsが基準値V1未満となった場合(ステップS240でYES)、脱調検出部50の出力は“0”のままである、すなわち、脱調は検出されない。この場合、動作タイマ53のタイマ時間tmは0に初期化される(ステップS230)。
[ヒューズ断線検出部の具体的な動作例]
以下、ヒューズ断線検出部の動作について具体例を挙げて説明する。
(1相または2相のヒューズ断線の場合)
まず、ヒューズ4のうち1相または2相が断線した場合について説明する。この場合、断線相について電圧の低下が生じるので、零相過電圧要素32は動作する(出力“1”;ステップS110でYES)。しかしながら、零相過電流要素33は動作しない(出力“0”;ステップS120でNO)。したがって、論理ゲート34は“1”を出力するので、ヒューズ断線検出部30の出力36も“1”となる(ヒューズの断線検出;ステップS130)。
(3相のヒューズ断線の場合)
次に、3相ともにヒューズ4が断線した場合について説明する。この場合、ある特定相についての第1の不足電圧要素40は動作する(出力“1”;ステップS140でYES)が、当該特定相の電流変化幅検出要素41は動作せず(出力“0”;ステップS150でNO)、脱調検出部50も脱調を検出しない(出力“0”;ステップS160でNO)。したがって、論理ゲート44は“1”を出力するので、ヒューズ断線検出部30の出力36も“1”となる(ヒューズの断線検出;ステップS130)。なお、3相ともヒューズ4が断線した場合は、零相過電圧要素32は動作しないので、論理ゲート34の出力は“0”となる(すなわち、ステップS110でNO)。
(線路故障の場合)
次に、電力系統の線路故障の場合について説明する。図7は、a相線路の故障時におけるa相線路1aの電圧波形および電流波形を示す図である。なお、不足電圧要素40および電流変換幅検出要素41は、a相線路の電圧および電流に基づいて動作するものとする。
図4、図7を参照して、時刻t2においてa相線路の地絡故障が生じ、時刻t4に地絡故障から復帰したとする。この場合、時刻t2から時刻t4の間、第1の不足電圧要素(UV1)40が動作する(出力“1”;ステップS140でYES)。電流変化幅検出要素(OCD)41は、本実施の形態の場合には2周期隔てた電流の比較に基づいで動作するとすれば、時刻t2から時刻t3の間と、時刻t4から時刻t5の間で動作する(出力“1”;ステップS150でYES)。復帰タイマ42は、時刻t2から復帰時間Treの間(さらに、時刻t4から復帰時間Treの間)、動作状態(出力“1”)を継続させる。これによって、論理ゲート44の出力は“0”のまま維持される(ヒューズ断線が検出されない)。
以上をまとめると、1相または2相の線路故障の場合には、ある特定相の不足電圧要素40が動作したとしても、当該特定相の電流変化幅検出要素41も短時間動作するので、その動作時間を復帰タイマ42によって引き延ばすことによって、論理ゲート44の出力を“0”にする。さらに、1相または2相の線路故障の場合には、零相過電圧要素32および零相過電流要素33はいずれも必ず動作する。したがって、論理ゲート34は“0”を出力する。この結果、ヒューズ断線検出部30の出力36を必ず“0”にすることができる。
3相の線路故障の場合には、電圧低下と共に3相電流が急変するので、ある特定相の不足電圧要素40が動作し、故障状態の開始時および正常状態への復帰時には当該特定相の電流変化幅検出要素41も必ず動作する(必ず動作するように変化検出の電流設定値が決められている)。したがって、復帰タイマ42によって電流変化幅検出要素41の出力時間を故障除去に必要な時間以上に引き延ばすことによって、論理ゲート44は必ず“0”を出力するようにすることができる。以上によって、線路故障時にはヒューズ断線検出部30の出力は“0”となる。
(脱調の場合)
次に電力系統が脱調している場合のヒューズ断線検出部30の動作について説明する。図8は、電力系統の脱調時におけるa相線路1aの電圧波形および電流波形を示す図である。
図8を参照して、脱調は、電力系統に発電機が2台以上接続されている場合に生じる。通常、それらの発電機の周波数および位相関係は互いに同じになる(同期する)ように制御されているが、なんらかの原因により、周波数の同期が外れると、電圧および電流の振幅が図8に示すように緩やかに変化する。具体的に図8の波形図は、時刻t1に脱調が生じた場合を示している。時刻t1より前は正常状態であり、a相電圧の実効値は定格電圧に略等しい値となっており、a相電流は負荷に応じた電流値となっている。時刻t2では、脱調によって、電圧振幅は最小値を示し、電流振幅は最大値を示す。
このような電流および電圧データが保護リレー装置10に入力されると、3相の平衡条件は外れていないので、図4の零相過電圧要素32および零相過電流要素33は動作しない(脱調を検出しない)。一方、電圧低下によって第1の不足電圧要素UV1(40)は動作する。しかしながら、電流の変化が緩慢なため、電流変化幅検出要素41は動作しない可能性がある(脱調を検出できない)。このため、図4の脱調検出部50が設けられていないと、ヒューズ断線検出部30は、脱調時に不要にヒューズ断線を検出する可能性がある。ヒューズ断線が検出された場合は、電圧を用いた保護要素の出力がロックされるので、電力系統を正しく保護できないという問題が生じる。
電流変化幅検出要素41に代えて過電流要素を設けた場合にも、電力系統の脱調時には問題が生じ得る。通常、過電流要素は、負荷電流を検出しないように整定されているので、負荷電流の大きさが比較的大きい場合は、脱調を検出できなかったり、脱調の検出が遅れたりするからである。上記の理由から、本実施形態の保護リレー装置10には、機能的構成要素として脱調検出部50が設けられている。
図9は、脱調時における電圧実効値あるいは振幅値の時間的な変化に対応する図4のヒューズ断線検出部の各部位の動作を示すタイミング図である。図9および次図10において、ハイレベル(Hレベル)が“1”に対応し、ローレベル(Lレベル)が“0”に対応するものとする。
図4および図9を参照して、時刻t1に脱調が発生したとする。脱調時の電圧実効値は、脱調前の通常電圧(一般的には定格電圧付近)から同期外れの程度により変化するが、線路故障時の変化と比べるとゆっくりと変化(低下)する。したがって、まず、時刻t2において第2の不足電圧要素(UV2)51が動作し、次に、時刻t4において第1の不足電圧要素(UV1)50が動作する。この時刻t2から時刻t4までの時間が動作タイマ53の設定時間Top(通常、数10ミリ秒)よりも長い場合には、時刻t3において動作タイマ53の出力(すなわち、フリップフロップ54のセット端子Sの入力)がHレベルとなるので、フリップフロップ54の出力もHレベルに変化する。このフリップフロップ54の出力によって、不足電圧要素(UV1)40の出力がブロックされるので、ヒューズ断線検出部30は、ヒューズの断線と判定しない。
なお、脱調時の電圧実効値が緩やかに増加する場合、まず、時刻t5において第1の不足電圧要素(UV1)40が不動作となり、次に、時刻t7において第2の不足電圧要素(UV2)51が不動作となる。この結果、時刻t7においてフリップフロップ54がリセットされる。
図10は、電力系統故障時またはヒューズ断線時における図4のヒューズ断線検出部の各部の動作を説明するためのタイミング図である。
図4および図10を参照して、時刻t1において電力系統の故障またはヒューズの断線が発生したとする。なお、電力系統の故障の場合には、時刻t8において正常状態に復帰したものとしている。
電力系統故障時またはヒューズ断線時には、電圧実効値は瞬時、或いは少なくとも脱調のケースと比較して短い時間で急峻に低下する。したがって、時刻t2において第2の不足電圧要素(UV2)51が動作してから、時刻t4において第1の不足電圧要素(UV1)50が動作するまでの時間は、動作タイマ53の設定時間Topよりも短い。この結果、動作タイマ53の出力はLレベルに維持されるため、フリップフロップの出力もLレベルに維持される。したがって、不足電圧要素(UV1)40の出力は脱調検出部50の出力によってはブロックされない。この場合、前述したように、電力系統故障時には不足電圧要素(UV1)40の出力は電流変化幅検出要素41の出力によってブロックされる。
なお、電力系統の故障状態から復帰する場合も、電圧実効値の変化は急峻である。したがって、時刻t5において第1の不足電圧要素(UV1)41が不動作となってから時刻t7において第2の不足電圧要素(UV2)51が不動作となるまでの時間は、動作タイマ53の設定時間Topよりも短い。この結果、動作タイマ53の出力はLレベルに維持されるため、フリップフロップの出力もLレベルに維持される。
[効果]
上記のとおり、ヒューズ断線検出部30は、電圧実効値が緩慢に低下する場合を検出して脱調現象による電圧低下であると判定することによって、脱調時におけるヒューズ断線の不要検出を阻止するようにしたものである。
具体的に、ヒューズ断線検出部30は、ヒューズ断線に伴う緩慢な電圧変化を検出するために、第1の不足電圧要素(UV1)40の他に、設定電圧が第1の不足電圧要素の設定電圧より高くかつ通常電圧よりも低く設定された第2の不足電圧要素(UV2)51を具備している。そして、ヒューズ断線検出部30は、脱調時には第2の不足電圧要素(UV2)51が動作してから第1の不足電圧要素(UV1)51が検出するまでの時間が設定時間Topより長くなることを利用して、脱調現象と判定する。これによって、脱調時には、第1の不足電圧設定値(UV1)51の出力をブロックすることによって、脱調時における不要なヒューズ断線判定を防止することができる。
このように、第1の実施形態による保護リレー装置のヒューズ断線検出部は、ヒューズの断線を確実に検出するとともに、系統故障時だけでなく、脱調時にも不要な断線判定の出力を出さないようにしたので、従来よりも電力系統の保護の信頼性を上げることができる。
<変形例>
図4の零相過電圧要素32および零相過電流要素33に代えて、同様に不平衡要素である逆相過電圧要素および逆相過電流要素をそれぞれ設けてもよい。この場合も、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
図4の電流変化幅検出要素41に代えて、負荷電流よりも大きな基準電流値を有する過電流要素を設けることも可能である。ただし、負荷電流の大きさは負荷に応じて変化するので基準電流値の設定が難しく、電流変化幅検出要素のほうが望ましい。
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、1相および2相のヒューズ断線には零相過電圧要素32と零相過電流要素33とを用い、3相のヒューズ断線検出にはある特定相の第1および第2の不足電圧要素40,51と、同じ相の電流変化幅検出要素41とを用いるように構成されていた。これに代えて、3相全てについて、第1および第2の不足電圧要素と電流変化幅検出要素とを用いるようにしてもよい。これによって、図4の零相過電圧要素32および零相過電流要素33を省くことができる。以下、図面を参照して具体的に説明する。
[ヒューズ断線検出部の機能的構成]
図11は、第2の実施形態による保護リレー装置において、ヒューズ断線検出部60の機能的構成を示すブロック図である。
図11を参照して、ヒューズ断線検出部60は、特定相の不足電圧要素40に代えて3相の不足電圧要素62を含み、特定相の不足電圧要素51に代えて3相の不足電圧要素66を含み、特定相の電流変化幅検出要素41に代えて3相の電流変化幅検出要素64を含む点で図4のヒューズ断線検出部30と異なる。
3相の不足電圧要素62は、a相の不足電圧要素40aと、b相の不足電圧要素40bと、c相の不足電圧要素40cと、これらの不足電圧要素40a,40b,40cのOR演算を行う論理ゲート61とを含む。同様に、3相の不足電圧要素66は、a相の不足電圧要素51aと、b相の不足電圧要素51bと、c相の不足電圧要素51cと、これらの不足電圧要素51a,51b,51cのOR演算を行う論理ゲート65とを含む。第1の実施形態の場合と同様に、不足電圧要素40a,40b,40cが動作する設定電圧は、不足電圧要素51a,51b,51cが動作する設定電圧よりも低い。脱調検出部67の論理ゲート52は、論理ゲート61の出力の論理レベルを反転した値と論理ゲート62の出力値とのAND演算を行う。
3相の電流変化幅検出要素64は、a相、b相およびc相の電流変化幅検出要素41a,41b,41cと、復帰時間Treの間だけ電流変化幅検出要素41a,41b,41cの出力をそれぞれ維持する復帰タイマ42a,42b,42cと、論理ゲート63とを含む。論理ゲート63は、復帰タイマ42a,42b,42cの出力のOR演算を行う。復帰タイマ42a,42b,42cに代えて、図4の場合と同様に、電流変化幅検出要素64の後段(すなわち、論理ゲート63の後段)に復帰タイマ42を設けてもよい。
図11のヒューズ断線検出部60は、さらに、零相過電圧要素32および零相過電流要素33を含まない点で図4のヒューズ断線検出部30と異なる。図11の判定部101は、論理ゲート34,35を含まない点で図4の判定部100と異なる。判定部101において、論理ゲート43は、フリップフロップ54の出力値と論理ゲート63の出力値とのOR演算を行う。論理ゲート44は、論理ゲート61の出力値と、論理ゲート43の出力の論理レベルを反転した値とのAND演算を行う。論理ゲート44の出力は、ヒューズ断線検出部60の出力36となる。
[ヒューズ断線検出部の動作]
図12は、図11のヒューズ断線検出部の概略的な動作を示すフローチャートである。図12のフローチャートの手順は制御周期ごと(たとえば、電力系統の定格交流入力の電気角の22.5°または30°ごと)に繰り返される。
図11および図12を参照して、まず、CPU(不足電圧要素62)は、いずれかの相の相電圧が不足しているか否か、すなわち、設定電圧以上となっていないかどうかを判定する(ステップS300)。この結果、いずれの相電圧も不足電圧となっていない場合(ステップS300でNO)、CPU(判定部101)はヒューズの断線でないと判定して処理を終了する(この場合、線路電圧の低下はない)。
一方、いずれかの相の相電圧が不足しているが(ステップS300でYES)、どの相の電流変化幅検出要素41a,41b,41cも不動作であり(ステップS310でNO)、かつ、脱調検出部67が脱調を検出していない場合(ステップS320でNO)、CPU(判定部101)はヒューズの断線であると判定する(ステップS330)。逆に、いずれかの相の相電圧が不足しているが(ステップS300でYES)、いずれかの相の電流変化幅検出要素41a,41b,41cが動作していたか(ステップS310でYES)、または、脱調検出部67が脱調を検出していた場合(ステップS320でYES)、CPU(判定部101)はヒューズの断線でないと判定して処理を終了する。前者の場合はいずれか1相または2相もしくは3相の線路故障であり、後者の場合は電力系統の脱調である。なお上記のステップS310において電流変化幅検出要素41a,41b,41cが動作した場合、その出力は復帰時間Treの間、維持されている。
図11の脱調検出部67の動作は、図6で説明したものと同様である。ただし、第2の実施形態の場合には、ステップS200において、3相の各相の電圧実効値V(t)rmsが算出される。ステップS210において、いずれかの相の電圧実効値V(t)rmsが基準値V2未満であるか否かが判定される。ステップS240において、いずれかの相の電圧実効値V(t)rmsが基準値V1未満であるか否かが判定される。
[効果]
上記のように構成されたヒューズ断線検出部60は、第1の実施形態の場合のヒューズ断線検出部30と同様の効果を奏する。
なお、a相、b相およびc相の電流変化幅検出要素41a,41b,41cによって構成された3相の電流変化幅検出要素64に代えて、a相、b相およびc相の過電流要素によって構成された3相の過電流要素を設けることも可能である。この場合、各相の過電流要素の基準電流は、負荷電流よりも大きな値に設定する必要がある。しなしながら、負荷電流の大きさは負荷に応じて変化するために基準電流値の設定が難しく、3相の電流変化幅検出要素のほうが望ましい。
<第3の実施形態>
第1および第2の実施形態の場合、ヒューズ断線検出部30,60は、脱調時の緩慢な電圧実効値の低下を検出することによって脱調が発生したと判定していた。具体的には、ヒューズ断線検出部30,60は、第2の不足電圧要素(UV2)51が動作してから第1の不足電圧要素(UV1)40が動作するまでの時間が設定時間Top以上の場合に脱調であると判定していた。
これに対して、第3の実施形態の場合、ヒューズ断線検出部70の脱調検出部73は、脱調時の緩慢な電流実効値の変化(増加)を検出することによって脱調が発生したと判定する。これによって、脱調時の不要なヒューズ断線の検出を防止することができる。以下、図面を参照して具体的に説明する。
[ヒューズ断線検出部の機能的構成]
図13は、第3の実施形態による保護リレー装置において、ヒューズ断線検出部70の機能的構成を示すブロック図である。図13を参照して、ヒューズ断線検出部70は、脱調検出部50に代えて脱調検出部73を含む点で図4のヒューズ断線検出部30と異なる。ヒューズ断線検出部70は、第2の電流変化幅検出リレー要素(OCDU)71と、復帰タイマ72とを含む。
第2の電流変化幅検出要素71は、現時刻までの所定期間(数100m秒程度の期間)内の電流実効値の変化幅(最小値と現在値との差もしくは最小値と最大値との差)が基準値を超えている場合に、動作する(現在までの所定期間の間に電流変化がないと検出する)。復帰タイマ72は、第2の電流変化幅検出要素71の動作出力“1”を復帰時間Tre2だけ延長する。復帰時間Tre2は、脱調の1周期以上に設定する必要があり、たとえば、1秒から10秒程度に設定される。復帰時間Tre2は、復帰タイマ42の復帰時間Tre1と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
図13のその他の点は図4の場合と同じであるので同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。なお、上記のように構成された第2の電流変化幅検出要素71は、電力系統の故障による電流実効値の急変も検出可能である。したがって、図13の第2の電流変化幅検出要素71が設けてあれば、第1の電流変化幅検出要素41とその復帰タイマ42は実際上不要である。このような変形例については図17で後述する。
[ヒューズ断線検出部の動作]
図13のヒューズ断線検出部70の動作は、脱調検出部73の具体的動作を除いて図5で説明したものと同様である。以下、脱調検出部73を構成する第2の電流変化幅検出要素71の動作について詳細に説明する。
図14は、図13の第2の電流変化幅検出要素71の動作の一例を示すフローチャートである。図14のフローチャートの手順は制御周期ごと(たとえば、電力系統の定格交流入力の電気角の22.5°または30°ごと)に繰り返される。
まず、CPU(電流変化幅検出要素71)は、現時刻までの複数の時点の相電流I(t)の検出値に基づいて、電流実効値I(t)rmsを算出する(ステップS400)。算出結果はメモリ(図2のRAMなど)に格納される。なお、実効値に代えて振幅値を用いてもよい。
次に、CPUは、メモリに蓄積された現時刻の電流実効値I(t)rmsから所定の判定期間Ts内のn+1個の電流実効値I(t)rms,I(t−1)rms,…,I(t−n)rmsを更新する(ステップS410)。具体的には、ステップS400で新たな電流実効値が格納されると、これまでの電流実効値は、単位時間ステップずつ前の時刻のデータに書き換えられる。
次に、CPUは、メモリに蓄積されたn+1個の電流実効値I(t)rms,I(t−1)rms,…,I(t−n)rmsの中の最小値I(t)minを計算する(ステップS420)。そして、CPUは、現時刻の電流実効値I(t)rmsからステップS420で求めた最小値I(t)minとの差が基準値Isより大きいか否かを判定する(ステップS430)。上記の差が基準値Isよりも大きい場合(ステップS430でYES)、CPU(電流変化幅検出要素71)は脱調あるいは系統故障であると判定して“1”を出力する(ステップS440)。上記の差が基準値Is以下の場合(ステップS430のNO)、CPU(電流変化幅検出要素71)は脱調でも系統故障でもないと判定して“0”を出力する(ステップS450)。
上記の判定期間Ts(すなわち、メモリに格納されるデータ個数n+1)は、予想される脱調周期に応じて設定される。ただし、あまり長時間に演算時間Tsを設定すると脱調でもない通常の負荷電流の変動を検出する可能性があるので、数100m秒程度に設定される。
上記のように構成された第2の電流変化幅検出要素71によれば、第1の電流変化幅検出要素41と異なり、脱調時の緩慢な電流変化を検出することができる。これによって、脱調時の不要なヒューズ断線検出を防止することができる。
図15は、図13の第2の電流変化幅検出要素71の動作の他の例を示すフローチャートである。図15のフローチャートは、ステップS420,S430に代えてステップS425,S435をそれぞれ含む点で図14のフローチャート異なる。
具体的に、ステップS425において、CPUは、メモリに蓄積されたn+1個の電流実効値I(t)rms,I(t−1)rms,…,I(t−n)rmsの中の最小値I(t)minとともに最大値I(t)maxを算出する。ステップS435において、CPUは、ステップS425で求めた最大値I(t)maxと最小値I(t)minとの差が基準値Isより大きいか否かを判定する。
上記のように、現時刻の電流実効値I(t)rmsと求めた最小値I(t)minとの差に代えて、最大値I(t)maxと最小値I(t)minとの差を用いることによって、復帰時間Tre2の設定値をより小さくすることができる。
[ヒューズ断線検出部の動作例]
図16は、脱調時における図13のヒューズ断線検出部70の動作を説明するためのタイミング図である。図16において、ハイレベル(Hレベル)が“1”に対応し、ローレベル(Lレベル)が“0”に対応するものとする。なお、第2の電流変化幅検出要素71は、図15のフローチャートに従って動作するものとする。
図13および図16を参照して、時刻t1に脱調が発生したとする。脱調時の電圧実効値は、脱調前の通常電圧(一般的には定格電圧VR付近)から同期外れの程度に応じて変化する(下降および上昇を繰り返す)が、その変化の程度は線路故障時の場合に比べて緩やかである。脱調時の電流実効値は、電圧実効値の変化に応じて、脱調前の負荷電流から緩やかに変化する(上昇および下降を繰り返す)。
電圧実効値は時刻t3から時刻t5の間で基準値V1未満となる。これに対応して、不足電圧要素(UV1)40が動作する。一方、電流実効値については、時刻t2において、現時刻までの判定期間Ts内で検出された電流実効値の最大値I(t2)max=I(t2)rmsと最小値I(t2)min=I(t1)rmsとの差が基準値Isよりも大きくなる。この結果、時刻t2以降、復帰タイマ72の出力(すなわち、脱調検出部73の出力)がHレベルになる。この脱調検出部73の出力によって、不足電圧要素(UV1)40の出力がロックされるので、不要なヒューズ断線検出を防止することができる。
なお、図16の時刻t4の場合、判定期間Ts内の最大値I(t3)rmsと最小値I(t4)rmsとの差は基準値Isよりも小さくなっている。このために、一時的に第2の電流変化幅検出要素71の出力が“0”に戻るので復帰タイマ72が必要になる。
[効果]
上記のとおり、第3の実施形態の保護リレー装置において、ヒューズ断線検出部70は、電力系統の故障を検出するための従来の電流変化幅検出要素41に加えて、脱調時の緩慢な電流増加を検出するための第2の電流変化幅検出要素71を含む。電流変化幅検出要素41は、通常、現在の電流瞬時値が数サイクル前(2または3サイクル程度前)の電流瞬時値と比べて、差があることによって異常判定するよう構成される。これに対して、第2の電流変化幅検出要素は、現時点から数100ms〜数秒程度前までの判定期間の間で検出された電流実効値の変化幅(最小電流実効値と現電流実効値との差、または最大電流実効値と最小電流実効値との差)が基準値以上である場合に、異常と判定するように構成される。この結果、脱調発生前の負荷電流の実効値と脱調派生後の電圧実効値の低下に伴って増加した電流実効値との差が基準値を超えたことを検出できる。したがって、従来の電流変化幅検出要素41では検出できなかった緩慢な電流実効値の変化を確実に検出することができるので、脱調時の不要なヒューズ断線検出を防止することができる。
<第1の変形例>
図13の零相過電圧要素32および零相過電流要素33に代えて、同様に不平衡要素である逆相過電圧要素および逆相過電流要素をそれぞれ設けてもよい。この場合も、第3の実施形態と同様の効果が得られる。
<第2の変形例>
図17は、図13のヒューズ断線検出部70の変形例を示すブロック図である。図17のヒューズ断線検出部70Aは、第1の電流変化幅検出要素41、復帰タイマ42、および論理ゲート(ORゲート)43を含まない点で図13のヒューズ電線検出部70と異なる。前述したように、第2の電流変化幅検出要素71は、脱調だけでなく、電力系統の故障発生も検出できるので、第1の電流変化幅検出要素41および復帰タイマ42によって電力系統の故障発生の検出を行わなくてもよい。
図17の場合、判定部102は、論理ゲート34,35,44を含む(すなわち、判定部102は、論理ゲート43を含まない点で図13の判定部100と異なる)。論理ゲート44は、不足電圧要素40の出力値と、復帰タイマ72(脱調検出部73)の出力の論理レベルを反転した値とのAND演算を行う。したがって、不足電圧要素40の出力は、脱調検出部73の出力によって(すなわち、復帰タイマ72の復帰時間Tre2の間、第2の電流変化幅検出要素71の出力によって)ブロックされる。図17のその他の点は図13の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
<第4の実施形態>
第3の実施形態では、1相および2相のヒューズ断線には零相過電圧要素32と零相過電流要素33とを用い、3相のヒューズ断線検出にはある特定相の不足電圧要素40と、同じ相の第1および第2の電流変化幅検出要素41、71とを用いるように構成されていた。これに代えて、3相全てについて、不足電圧要素と第1および第2の電流変化幅検出要素とを用いるようにしてもよい。これによって、図13の零相過電圧要素32および零相過電流要素33を省くことができる。以下、図面を参照して具体的に説明する。
図18は、第4の実施形態による保護リレー装置においてヒューズ断線検出部の機能的構成を示すブロック図である。
図18を参照して、ヒューズ断線検出部80は、特定相の不足電圧要素40に代えて3相の不足電圧要素62を含み、特定相の第1の電流変化幅検出要素41に代えて3相の第1の電流変化幅検出要素68を含み、特定相の第2の電流変化幅検出要素71に代えて3相の第2の電流変化幅検出要素82を含む点で図13のヒューズ断線検出部70と異なる。
3相の不足電圧要素62は、a相の不足電圧要素40aと、b相の不足電圧要素40bと、c相の不足電圧要素40cと、これらの不足電圧要素40a,40b,40cのOR演算を行う論理ゲート61とを含む。3相の電流変化幅検出要素68は、a相、b相およびc相の電流変化幅検出要素41a,41b,41cと、論理ゲート63とを含む。論理ゲート63は、電流変化幅検出要素41a,41b,41cの出力のOR演算を行う。同様に、3相の電流変化幅検出要素82は、a相、b相およびc相の電流変化幅検出要素71a,71b,71cと、論理ゲート81とを含む。論理ゲート81は、電流変化幅検出要素71a,71b,71cの出力のOR演算を行う。3相の電流変化幅検出要素82と復帰タイマ72とによって脱調検出部83とが構成される。
図18のヒューズ断線検出部80は、さらに、零相過電圧要素32および零相過電流要素33を含まない点で図13のヒューズ断線検出部70と異なる。図18の判定部101は、論理ゲート34,35を含まない点で図13の判定部100と異なる。判定部101において、論理ゲート43は、復帰タイマ42,72の出力値のOR演算を行う。論理ゲート44は、論理ゲート61の出力値と、論理ゲート43の出力の論理レベルを反転した値とのAND演算を行う。論理ゲート44の出力は、ヒューズ断線検出部80の出力36となる。図18のその他の点は、図13もしくは図4で説明したものと同様であるので同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
図18のヒューズ断線検出部80の動作は、脱調検出部83の具体的動作を除いて図12で説明したものと同様である。また、脱調検出部83を構成する3相の第2の電流変化幅検出要素82の動作は、図14および図15で説明したもと同様である。ただし、ステップS400,S410,S420,S425では、CPUは、3相の各々について電流実効値を算出してメモリに格納し、さらに最小値(および最大値)を算出する。ステップS430,S435の判定では、いずれかの相で条件が満足されていれば、CPUは脱調が生じていると判定する。
以上のように構成された構成されたヒューズ断線検出部80は、第3の実施形態の場合のヒューズ断線検出部70と同様の効果を奏する。
<変形例>
図19は、図18のヒューズ断線検出部80の変形例を示すブロック図である。図19のヒューズ断線検出部80Aは、3相の第1の電流変化幅検出要素68、復帰タイマ42、およびORゲート43を含まない点で図18のヒューズ断線検出部80と異なる。図17で説明した第3の実施形態の変形例の場合と同様に、第2の電流変化幅検出要素82は、脱調だけでなく、電力系統の故障発生も検出できるので、第1の電流変化幅検出要素68および復帰タイマ42によって電力系統の故障発生の検出を行わなくてよい。
図19の場合、判定部103は、論理ゲート44を含む(すなわち、判定部103は、論理ゲート43を含まない点で図18の判定部101と異なる)。論理ゲート44は、不足電圧要素62の出力値と、復帰タイマ72(脱調検出部83)の出力の論理レベルを反転した値とのAND演算を行う。したがって、不足電圧要素62の出力は、脱調検出部83の出力によって(すなわち、復帰タイマ72の復帰時間Tre2の間、第2の電流変化幅検出要素82の出力によって)ブロックされる。図19のその他の点は図18の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
<第5の実施形態>
第1および第2の実施形態では、ヒューズ断線検出部30,70を検出する不足電圧要素は、相電圧を使って保護演算を行っていた。これに対して、第5の実施形態の不足電圧要素は、線間電圧を使って保護演算を行う点が異なる。この理由は以下のとおりである。
保護リレー装置を適用する電力系統が非接地系の場合、1相地絡故障時には、中性点が非接地のため、地絡電流がほとんど流れない。このため、第1および第2の実施形態のヒューズ断線検出部の構成の場合、零相過電圧要素は動作するが、零相過電流要素は動作せず、電流変化幅検出要素も動作しない。この結果、ヒューズの断線と1相地絡故障とが区別できないという問題が生じる。すなわち、第1および第2の実施形態の場合、直接接地および低抵抗接地の電力系統に適用できるが、高抵抗接地および非接地系の電力系統に適用できない。第3および第4の実施形態の場合にも同様の問題がある。そこで、第3の実施形態のヒューズ断線検出部では、非接地系の電力系統にも適用できるように相電圧に代えて線間電圧を適用する。
[ヒューズ断線検出部の機能的構成]
図20は、第5の実施形態による保護リレーシステムにおいてヒューズ断線検出部90の機能的構成を示すブロック図である。
図20のヒューズ断線検出部90は、a相、b相およびc相の相電圧にそれぞれ適用される不足電圧要素40a,40b,40cに代えて、a,b相の相間電圧、b,c相の相間電圧、c,a相の相間電圧にそれぞれ適用される不足電圧要素91a,91b,91cを含む点で、図11のヒューズ断線検出部60と異なる。不足電圧要素91a,91b,91cと、これらの不足電圧要素の出力のOR演算を行う論理ゲート61とによって相間電圧用の第1の不足電圧要素92(UVS1)が構成される。
同様に、図20のヒューズ断線検出部90は、a相、b相およびc相の相電圧にそれぞれ適用される不足電圧要素51a,51b,51cに代えて、a,b相間の相間電圧、b,c相間の相間電圧、c,a相間の相間電圧にそれぞれ適用される不足電圧要素93a,93b,93cを含む点で、図11のヒューズ断線検出部60と異なる。不足電圧要素93a,93b,93cと、これらの不足電圧要素の出力のOR演算を行う論理ゲート65とによって相間電圧用の第2の不足電圧要素94(UVS2)が構成される。不足電圧要素94は、脱調検出部95(図11の脱調検出部67に対応する)に含まれる。
第1の不足電圧要素91a,91b,91cの設定電圧と、第2の不足電圧要素93a,93b,93cの設定電圧との関係については、図23で詳しく説明する。図20のその他の点は図11の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない場合がある。
なお、a,b相間、b,c相間、およびc,a相間の相間電圧は、a相、b相およびc相の相電圧から計算によって求めてもよいし、電力系統から直接検出してもよい。図21は、相間電圧を直接検出する場合において、図1の計器用変圧器2、ヒューズ4、および図2の入力変換ユニット11の接続を詳細に記載した図である。図21は図3に対応するものである。
図21の接続は、計器用変圧器2の1次側の接続がΔ結線になっている点で図3の接続と異なる。すなわち、図21の計器用変圧器2の接続は、Δ−Y結線となっている。図21の場合と異なり、計器用変圧器2の接続をΔ−Δ結線としてもよく、この場合には、重力変換ユニット11の1次側の接続もΔ結線となる。
[ヒューズ断線検出部の動作]
図22は、図20のヒューズ断線検出部の概略的な動作を示すフローチャートである。図22のフローチャートの手順は制御周期ごと(たとえば、電力系統の定格交流入力の電気角の22.5°または30°ごと)に繰り返される。
図20および図22を参照して、まず、CPU(不足電圧要素92)は、いずれかの線間電圧が不足しているか否か、すなわち、設定電圧以上となっていないかどうかを判定する(ステップS500)。この結果、いずれの線間電圧も不足電圧となっていない場合(ステップS500でNO)、CPU(判定部101)はヒューズの断線でないと判定して処理を終了する(この場合、線路電圧の低下はない)。
一方、いずれかの線間電圧が不足しているが(ステップS500でYES)、どの相の電流変化幅検出要素41a,41b,41cも不動作であり(ステップS510でNO)、かつ、脱調検出部95が脱調を検出していない場合(ステップS520でNO)、CPU(判定部101)はヒューズの断線であると判定する(ステップS530)。逆に、いずれかの線間電圧が不足している場合に(ステップS500でYES)、いずれかの電流変化幅検出要素41a,41b,41cが動作していたか(ステップS510でYES)、または、脱調検出部95が脱調を検出していた場合(ステップS520でYES)、CPU(判定部101)はヒューズの断線でないと判定して処理を終了する。前者の場合はいずれか1相または2相もしくは3相の線路故障であり、後者の場合は電力系統の脱調である。なお上記のステップS510において電流変化幅検出要素41a,41b,41cが動作した場合、その出力は復帰時間Treの間、維持されている。
図23は、3相電力系統のベクトル図である。図23では、相電圧Va,Vb,Vcと線間電圧Vab,Vbc,Vcdとの関係が示されている。
図23(A)はVT用のヒューズ4が正常であり、電力系統が正常の場合のベクトル図を示す。
図23(B)は非接地系でのa相地絡故障時のベクトル図を示す。非接地系の場合には、線間電圧Vab,Vbc,Vcaは図23(A)の正常時の場合に比べてあまり変化しない。
図23(C)は、接地系でのa相地絡故障時のベクトル図を示す。接地系の場合には、線間電圧Vab,Vcaの大きさは低下するが、正常時の相電圧の大きさよりも大きい。
図23(D)は、非接地系でのa相のVT用のヒューズ断線時のベクトル図を示す。図3で説明したように電圧信号線5a,5b,5c,5gの間の寄生容量によって、b相電圧Vbおよびc相電圧Vcに依存した電圧がa相電圧Vaとして観測される。この場合、線間電圧Vab,Vbcの大きさは、ヒューズ断線前の相電圧の大きさよりも小さい。
図23(E)は、非接地系でのa相、b相のVT用のヒューズ断線時のベクトル図を示す。電圧信号線5a,5b,5c,5gの間の寄生容量によって、c相電圧Vcに依存した電圧がa相電圧Vaおよびb相電圧Vbとして検出される。
したがって、非接地系への適用時には、図20の第1の不足電圧要素91a,91b,91cが動作する設定電圧を通常時の線間電圧の70〜65%程度(少なくとも60%)に設定する。これにより、断線時には相電圧に対応した値である線間電圧の約58%(=1/√3)にほぼ等しくなるのでそれを検出できるようにする。さらに、第2の不足電圧要素93a,93b,93cが動作する設定電圧を通常の線間電圧85〜75%程度に設定する。1相地絡故障の場合には、線間電圧は正常時の場合とほとんど変わらないので、第1の不足電圧要素91a,91b,91cおよび第2の不足電圧要素93a,93b,93cのいずれも動作しない。なお、電力系統の2相地絡故障および短絡故障の場合には故障電流が多く流れるため、電流変化幅検出要素41a,41b,41cが動作するので、不要にヒューズ断線を判定することはない。
今回開示された各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。