以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、少なくとも二酸化ケイ素と水溶性高分子と水とを含有する。本実施形態の研磨用組成物は、例えばシリコン基板等の半導体基板を研磨対象物として、その半導体基板を研磨する用途に用いられる。
研磨組成物中の水は他の成分の分散媒又は溶媒となる。水は研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下とされることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる粒子の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。具体的にはイオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。
研磨用組成物中の二酸化ケイ素は、研磨対象物に対して物理的な作用を与える砥粒としての働きを有し、研磨対象物を物理的に研磨する。また、二酸化ケイ素は水溶性高分子を研磨対象物の表面へと運ぶキャリアとして働く。
使用される二酸化ケイ素としては、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、ゾルゲル法シリカ等が挙げられる。コロイダルシリカ又はフュームドシリカ、特にコロイダルシリカを使用した場合には、研磨により基板表面に発生するスクラッチが減少するので好ましい。これらの二酸化ケイ素は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
二酸化ケイ素の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、より好ましくは10nm以上である。二酸化ケイ素の平均一次粒子径の増大によって研磨能率が向上する傾向がある。また、二酸化ケイ素の平均一次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは40nm以下である。二酸化ケイ素の平均一次粒子径の減少によって研磨後表面の粗さが良化する傾向がある。なお、二酸化ケイ素の平均一次粒子径は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径である。
二酸化ケイ素の粒度分布は、体積換算の90%累積平均径(D90)を体積換算の10%累積平均径(D10)で除した値(D90/D10)が1以上4以下となる粒度分布であることが好ましい。体積換算の10%累積平均径(D10)及び90%累積平均径(D90)は、体積換算で示された粒度分布において、粒子径の小さい側から積算してそれぞれ10%及び90%となるまでに含まれる粒子の平均二次粒子径である。二酸化ケイ素の粒度分布を上記範囲とすることにより、研磨後の基板表面が均質となる傾向がある。なお、二酸化ケイ素の粒度分布は、例えば動的光散乱法による粒度分布測定装置を使用して求めることができる。
研磨用組成物中における二酸化ケイ素の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。二酸化ケイ素の含有量の増大によって、高い研磨速度が得られやすくなるとともに、基板表面に付与される親水性が高められる傾向がある。また、研磨用組成物中における二酸化ケイ素の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下である。二酸化ケイ素の含有量の減少によって、分散安定性が高められて、研磨後の基板表面に二酸化ケイ素の残渣が異物として吸着し難くなる傾向がある。
研磨用組成物中の水溶性高分子は、研磨後の基板表面に吸着して、基板表面の濡れ性を高める。水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンを含む共重合体が挙げられる。セルロース誘導体としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、加水分解処理を施したヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。ポリビニルピロリドンを含む共重合体としては、例えば、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンのグラフトポリマーが挙げられる。水溶性高分子は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
水溶性高分子の重量平均分子量は、ポリエチレンオキサイド換算で、10000以上であることが好ましく、より好ましくは30000以上であり、更に好ましくは50000以上である。水溶性高分子の重量平均分子量の増大によって、基板表面に付与される親水性が高められる傾向がある。また、水溶性高分子の重量平均分子量は、1000000以下であることが好ましく、より好ましくは300000以下であり、更に好ましくは200000以下であり、最も好ましくは100000以下である。水溶性高分子の重量平均分子量の減少によって、基板表面に付着した水溶性高分子を除去する際の洗浄性(除去容易性)が高められる。また、分散安定性が高められて、研磨後の基板表面に水溶性高分子の残渣が異物として吸着し難くなる傾向がある。
研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、0.0001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%以上である。水溶性高分子の含有量の増大によって、基板表面に付与される親水性が高められる傾向がある。また、研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下である。水溶性高分子の含有量の減少によって、分散安定性が高められて、研磨後の基板表面に水溶性高分子の残渣が異物として吸着し難くなる傾向がある。
本実施形態の研磨用組成物は、必要に応じて二酸化ケイ素、水溶性高分子及び水以外の他成分を含有してもよい。ただし、上記他成分を含有する場合には、炭素換算濃度において、研磨用組成物中における水溶性高分子の占める割合を高くすることが好ましい。具体的には、研磨用組成物の全炭素濃度に対する水溶性高分子の炭素換算濃度の百分率が50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは85%以上である。
上記他成分としては、研磨用組成物に一般に含有されている公知の添加剤、例えば、塩基性化合物、界面活性剤、塩、防腐剤、防カビ剤、キレート剤が挙げられる。
研磨用組成物中の塩基性組成物は、基板表面に対して、化学的な作用を与えて化学的に研磨する(ケミカルエッチング)。これにより、基板を研磨する際の研磨速度を向上させることが容易となる。
塩基性化合物の具体例としては、アルカリ金属の水酸化物又は塩、水酸化第四級アンモニウム又はその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。第四級アンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物又は塩の具体例としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウム又はその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジン等が挙げられる。これらの塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
塩基性化合物の中でも、アンモニア、アンモニウム塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、及び第四級アンモニウム水酸化物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。塩基性化合物の中でも、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種がより好ましい。塩基性化合物の中でも、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、及び水酸化テトラエチルアンモニウムから選ばれる少なくとも一種が更に好ましく、一層好ましくはアンモニア及び水酸化テトラメチルアンモニウムの少なくとも一方であり、最も好ましくはアンモニアである。
研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量は、0.0001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%以上である。研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の増大によって、高い研磨速度が得られる傾向がある。また、研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.25質量%以下である。研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の減少によって、基板表面に水溶性高分子が吸着しやすくなって、基板表面に付与される親水性が高められる傾向がある。また、基板表面のヘイズレベルが低減する傾向がある。
研磨用組成物中の界面活性剤は、基板表面の荒れを抑制する。これにより、基板表面のヘイズレベルを低減することが容易となる。特に、研磨用組成物に塩基性化合物を含有させた場合には、塩基性化合物による化学的研磨(ケミカルエッチング)によって基板表面に荒れが生じ易くなる傾向となる。このため、塩基性化合物と界面活性剤との併用は特に有効である。
界面活性剤としては、イオン性又はノニオン性の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の中でも、ノニオン性界面活性剤が好適に用いられる。ノニオン性界面活性剤は起泡性が低いため、研磨用組成物の調製時や使用時の取り扱いが容易となる。また、例えばイオン性の界面活性剤を用いた場合よりも、pH調整が容易となる。さらに、ノニオン性界面活性剤は、生分解性に優れ、生体に対する毒性が弱い。そのため、環境への影響が小さく、取り扱う上での懸念が少ないといった利点がある。
界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のオキシアルキレン重合体単体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンのジブロック型やトリブロック型、ランダム型、交互型といった複数種のオキシアルキレンの共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン付加物が挙げられる。より具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミド、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤の重量平均分子量は、200以上であることが好ましく、より好ましくは300以上である。また、界面活性剤の重量平均分子量は、10000未満であることが好ましい。界面活性剤の重量平均分子量を上記範囲とすることによって、基板表面に生じる荒れが抑制される傾向がある。
研磨用組成物中における界面活性剤の含有量は、0.00001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.00005質量%以上である。界面活性剤の含有量の増大によって、基板表面に生じる荒れが抑制される傾向がある。また、研磨用組成物中の界面活性剤の含有量は0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以下である。界面活性剤の含有量の減少によって、研磨能率が向上する傾向がある。
研磨用組成物中の塩は、水溶性高分子との相互作用により、基板表面の親水性を向上させる。塩としては、例えば、有機酸塩及び無機酸塩が挙げられる。有機酸塩及び無機酸塩は、酸の種類、構造及びイオン価数並びに塩を形成する塩基種に限定されるものではない。有機酸塩及び無機酸塩の酸種としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸、炭酸、硝酸、硫酸が挙げられる。有機酸塩及び無機酸塩を形成する塩基種としては、例えば、アンモニウムイオン、各種金属イオンが挙げられる。これらの塩基種の中でも、基板に対する金属汚染等の観点から、アンモニウムイオンが特に好ましい。これらの塩は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
研磨用組成物のpHは8.0以上であることが好ましく、より好ましくは9.0以上である。また、研磨用組成物のpHは12.0以下であることが好ましく、より好ましくは11.0以下である。研磨用組成物のpHを上記範囲とすることによって、実用上特に好ましい研磨速度を得ることが容易である。
また、研磨用組成物中において、二酸化ケイ素の表面には、少なくとも水溶性高分子を含む吸着物が吸着されている。そして、その吸着物の炭素換算濃度が4質量ppm以上であり、好ましくは10質量ppm以上である。更に、研磨用組成物の全炭素濃度に対する吸着物の炭素換算濃度の百分率が15%以上であり、好ましくは30%以上である。吸着物の炭素換算濃度、及び研磨用組成物の全炭素濃度に対する吸着物の炭素換算濃度の百分率を上記範囲に設定することによって、基板表面に付与される親水性が高められる。なお、上記吸着物の炭素換算濃度、及び研磨用組成物の全炭素濃度に対する吸着物の炭素換算濃度の百分率は、例えば、二酸化ケイ素と水溶性高分子の種類の組み合わせ、二酸化ケイ素の含有量に対する水溶性高分子の含有量の比率を変化させることによって調整することができる。
次に、本実施形態の研磨用組成物の作用を記載する。
従来、研磨用組成物中に水溶性高分子を含有させることによって、基板表面に親水性が付与される傾向があることが知られている。本発明者らは、鋭意研究の結果、二酸化ケイ素と水溶性高分子とを含有する研磨用組成物において、二酸化ケイ素に吸着した水溶性高分子を含む吸着物の絶対量及び研磨用組成物中における上記吸着物の相対量と、基板表面への親水性の付与効果との間に関連性が存在することを見出した。そして、上記吸着物の炭素換算濃度を4質量ppm以上とするとともに、研磨用組成物の全炭素量に対する上記吸着物の炭素換算濃度の百分率を15%以上とすることによって、基板表面への親水性の付与効果が顕著に高められることを見出した。
水溶性高分子による基板表面への親水性の付与作用は、基板表面に水溶性高分子が吸着することによって発現するが、基板表面に水溶性高分子を吸着させるためには、二酸化ケイ素をキャリアとして機能させることが重要になる。すなわち、研磨用組成物中において、二酸化ケイ素の表面に水溶性高分子を吸着させた状態としておくことにより、研磨時において、二酸化ケイ素と基板表面とが擦れ合う際に二酸化ケイ素の表面に吸着した水溶性高分子が基板表面へ移行する。これにより、基板表面に水溶性高分子を効率的に吸着させることができる。その結果、基板表面に付与される親水性を効果的に高めることができる。その結果、基板に生じる微小な表面欠陥を抑制することが容易となる。なお、基板表面に水溶性高分子が吸着する際は、基板と水溶性高分子の炭素との間に疎水結合が生じていると考えられる。
次に、本実施形態の研磨用組成物の製造方法について記載する。
研磨用組成物の製造方法は、二酸化ケイ素と水溶性高分子と水とを含有する研磨用組成物原液を調製する原液調製工程と、研磨用組成物原液を希釈する希釈工程とを有する。
[原液調製工程]
原液調製工程では、先ず、二酸化ケイ素及び水を含有する第1混合液が調製される。このとき、二酸化ケイ素は予めろ過しておくことが好ましい。第1混合液のpHは、8以上であることが好ましく、より好ましくは9以上である。第1混合液のpHの上昇によって、後工程において、第1混合液と水溶性高分子と混合した際に、二酸化ケイ素に対する水溶性高分子の吸着を抑制できるとともに、水溶性高分子の凝集物(ゲル化物)の発生を抑制することができる。また、第1混合液のpHは、12以下であることが好ましく、より好ましくは10.5以下である。第1混合液のpHの減少によって、二酸化ケイ素の溶解を抑制することができる。第1混合液のpHは、塩基性化合物を含有させることにより調整できる。
また原液調製工程では、水溶性高分子及び水を含有する第2混合液が調製される。このとき、水溶性高分子は予めろ過しておくことが好ましい。第2混合液は、好ましくは中性付近〜塩基性付近に調整され、より好ましくは塩基性に調整される。
第2混合液のpHは、7以上であることが好ましく、より好ましくは8以上である、更に好ましくは9以上である。pHの上昇によって、第1混合液と第2混合液とを混合した際における二酸化ケイ素の凝集が抑制される。それにより、研磨用組成物原液及び研磨用組成物の分散安定性を向上させる働きが高まる傾向となる。また、第2混合液のpHは、12以下であることが好ましく、より好ましくは10.5以下である。第2混合液のpHの減少によって、二酸化ケイ素の溶解を抑制することができる。第2混合液のpHは、塩基性化合物を含有させることにより調整できる。
そして、第1混合液と第2混合液とが混合されることにより、第3混合液が調製される。第1混合液と第2混合液とを混合する方法は特に限定されないが、第1混合液に第2混合液を投入するようにして混合することが好ましい。この場合、第2混合液の投入速度は、第1混合液1Lに対し0.1mL/分以上であることが好ましく、より好ましくは1mL/分以上であり、更に好ましくは5mL/分以上である。投入速度の増大によって、研磨用組成物原液の生産効率を上げることができる。また、第2混合液の投入速度は、第1混合液1Lに対し500mL/分以下であることが好ましく、より好ましくは100mL/分以下であり、更に好ましくは50mL/分以下である。投入速度の減少によって、二酸化ケイ素の凝集を抑制することができる。
第2混合液は、第1混合液と混合される前にろ過することが好ましい。ろ過することにより、第2混合液中に含まれる異物又は凝集物を削減する。ろ過としては、常圧状態で行う自然ろ過の他に、吸引ろ過、加圧ろ過、又は遠心ろ過を適用してもよい。ろ過で用いるフィルタは、目開きを基準に選択されることが好ましい。なお上記目開きは通常、製造メーカーのカタログ値などの公称値を使用することができる。
フィルタの目開きは0.05μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上である。フィルタの目開きの拡大によって、生産効率を上げることができる。また、フィルタの目開きは50μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは10μm以下であり、一層好ましくは1μm以下であり、最も好ましくは0.45μm以下である。フィルタの目開きの縮小によって、第2混合液中に含まれる異物又は凝集物の削減効率を向上させることができる。それにより、研磨用組成物原液及び研磨用組成物の分散安定性を高めることが容易となる。
また原液調製工程では、第3混合液がフィルタによりろ過される。そして、このろ過を経ることにより研磨用組成物原液が得られる。ろ過に用いるフィルタの目開きは、微小な異物を除去する観点から、1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.45μm以下であり、更に好ましくは0.2μm以下である。また、ろ過に用いるフィルタの材質及び構造は特に限定されるものではない。フィルタの材質としては、例えば、セルロース、ナイロン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリカーボネート、ガラス等が挙げられる。フィルタの構造としては、例えばデプス、プリーツ、メンブレン等が挙げられる。
研磨用組成物原液中における二酸化ケイ素の含有量は、1質量%以上とすることが好ましい。二酸化ケイ素の含有量の増大、即ち高濃度で研磨用組成物原液を作成することによって、少量の研磨用組成物原液から多量の研磨用組成物を作成することができるため、運搬等の取扱いの際に有利になる。また、研磨用組成物原液中における二酸化ケイ素の含有量は、20質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは15質量%以下である。二酸化ケイ素の含有量の減少によって、研磨用組成物原液作成時における凝集物の発生リスクが軽減される傾向がある。
研磨用組成物原液中における塩基性化合物の含有量は、0.01質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上である。塩基性化合物の含有量の増大によって、研磨用組成物原液作成時における凝集物の発生リスクが軽減される傾向がある。また、研磨用組成物原液中における塩基性化合物の含有量は、1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.75質量%以下であり、更に好ましくは0.40質量%以下である。塩基性化合物の含有量の減少によって、研磨用組成物としての親水性付与性能を向上させることが容易となる。
研磨用組成物原液において、二酸化ケイ素の単位表面積あたりの塩基性化合物のモル数は、8.5×10−6mol/m2以上であることが好ましく、より好ましくは10×10−6mol/m2以上である。上記塩基性化合物のモル数の増大によって、研磨用組成物原液作成時における凝集物の発生リスクが軽減される傾向がある。また、二酸化ケイ素の単位表面積あたりの塩基性化合物のモル数が、120×10−6mol/m2以下であることが好ましく、より好ましくは80×10−6mol/m2以下であり、更に好ましくは40×10−6mol/m2以下である。上記塩基性化合物のモル数の減少によって、研磨用組成物としての親水性付与性能を向上させることが容易となる。
[希釈工程]
希釈工程では、研磨用組成物原液が水又は塩基性水溶液により希釈されることによって、研磨用組成物が調製される。この希釈工程時において、二酸化ケイ素の表面に水溶性高分子が吸着された状態となる。
塩基性水溶液のpHは、8以上であることが好ましく、より好ましくは9以上である。pHの上昇によって、希釈時における二酸化ケイ素の凝集が抑制される。それにより、研磨用組成物の分散安定性を向上させる働きが高まる傾向となる。また、塩基性水溶液のpHは、12以下であることが好ましく、より好ましくは10.5以下である。塩基性水溶液のpHの減少によって、二酸化ケイ素の溶解を抑制することができる。塩基性水溶液のpHは、塩基性化合物を含有させることにより調整できる。
希釈工程における研磨用組成物原液の希釈倍率は、好ましくは10倍以上100倍以下であり、より好ましくは20倍以上60倍以下である。研磨用組成物原液の希釈倍率を上記範囲に設定することにより、二酸化ケイ素に対して水溶性高分子を好適に吸着させることができる。
次に、本実施形態の研磨用組成物を用いた研磨方法の一例について記載する。
研磨方法は、本実施形態の研磨用組成物を用いてシリコン基板の表面を研磨する研磨工程を有する。研磨工程においては、シリコン基板の表面に研磨用組成物を供給しながら、同表面に研磨パッドを押し付けてシリコン基板及び研磨パッドを回転させる。このとき、研磨パッドとシリコン基板表面との間の摩擦による物理的作用によってシリコン基板の表面は研磨される。そして、二酸化ケイ素とシリコン基板表面との間の摩擦による物理的作用によってもシリコン基板の表面は研磨される。同時に、二酸化ケイ素に吸着した水溶性高分子はシリコン基板の表面へ移行して、シリコン基板の表面に親水性を付与する。また、研磨用組成物が塩基性化合物を含有する場合には、上記物理的作用に加えて、塩基性化合物による化学的作用によってもシリコン基板の表面は研磨される。
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)研磨用組成物は、二酸化ケイ素と水溶性高分子と水とを含有する。二酸化ケイ素には、水溶性高分子を含む吸着物が吸着されている。研磨用組成物における吸着物の炭素換算濃度が4質量ppm以上であり、且つ研磨用組成物の全炭素濃度に対する吸着物の炭素換算濃度の百分率が15%以上である。これにより、研磨後の基板表面の親水性を高めることができる。その結果、基板表面の洗浄性が高められて、基板表面に吸着した異物に起因するナノオーダーの微小な表面欠陥を低減させることが容易となる。
(2)水溶性高分子の重量平均分子量が、好ましくは300000以下、より好ましくは200000以下、更に好ましくは100000以下である。これにより、基板表面に付着した水溶性高分子を除去する際の洗浄性(除去容易性)が高められる。
(3)研磨用組成物の製造方法は、二酸化ケイ素と水溶性高分子と水とを含有する研磨用組成物原液を調製する原液調製工程と、研磨用組成物原液を水又は塩基性水溶液により希釈して、二酸化ケイ素に水溶性高分子を含む吸着物を吸着させる希釈工程とを有する。希釈工程により得られた研磨用組成物における吸着物の炭素換算濃度を4質量ppm以上とするとともに、研磨用組成物の全炭素濃度に対する吸着物の炭素換算濃度の百分率を15%以上とする。
これにより、研磨後の基板表面の親水性を高めて、基板表面に吸着した異物に起因するナノオーダーの微小な表面欠陥を低減させることが容易な研磨用組成物を得ることができる。また、二酸化ケイ素及び水溶性高分子の濃度が高い研磨用組成物原液は分散安定性に優れている。そのため、研磨用組成物原液を調製し、研磨用組成物原液の段階でろ過処理を行うことにより精度の高いろ過を行うことが容易となる。更に、研磨用組成物原液の状態で保存・運搬し、使用時に水で希釈して研磨用組成物を調製するようにすれば、容量の小さい容器で保存・運搬することが可能となり、取り扱いが容易になる。
(4)原液調製工程は、二酸化ケイ素と塩基性化合物との混合物に、更に水溶性高分子を混合し、得られた混合物をろ過する工程を有する。これにより、混合時における二酸化ケイ素に対する水溶性高分子の吸着を抑制できるとともに、水溶性高分子の凝集物(ゲル化物)の発生を抑制することができる。その結果、研磨用組成物原液から得られる研磨用組成物は、基板表面に吸着した異物に起因するナノオーダーの微小な表面欠陥を低減させることが容易なものとなる。
(5)研磨用組成物原液における二酸化ケイ素の含有量を1質量%以上20質量%以下とするとともに、塩基性化合物の含有量を0.01質量%以上1質量%以下とすることが好ましい。この場合には、良好な分散状態を得ることができる。
(6)研磨用組成物原液における二酸化ケイ素の単位表面積あたりの塩基性化合物のモル数を8.5×10−6mol/m2以上とすることが好ましい。この場合には、良好な分散状態を得ることができる。
なお、前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・前記実施形態の研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。
・前記実施形態の研磨用組成物に含有される各成分は製造の直前にフィルタによりろ過処理されたものであってもよい。前記実施形態の研磨用組成物は、使用の直前にフィルタによりろ過処理して使用されるものであってもよい。ろ過処理が施されることによって、研磨用組成物中の粗大異物が取り除かれて品質が向上する。
・前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物原液の状態で販売され、使用時に研磨用組成物原液を水又は塩基性水溶液で希釈することにより調製されてもよい。
・研磨用組成物の製造方法において、界面活性剤や塩等の他成分を混合するタイミングは特に限定されるものではない。例えば、他成分は、第1混合液又は第2混合液の調製時に混合してもよいし、第3混合液の調製時に混合してもよい。また、他成分を混合する場合には、各成分は予めろ過しておくことが好ましい。
・前記実施形態の研磨用組成物の製造方法では、原液調製工程において、第2混合液の状態として水溶性高分子を第1混合液に混合していたが、水溶性高分子と水とを別々に第1混合液に混合してもよいし、水溶性高分子のみを第1混合液に混合してもよい。
・前記実施形態の研磨用組成物を用いた研磨工程で使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもののいずれを用いてもよい。
・前記実施形態の研磨用組成物を用いてシリコン基板を研磨するに際して、一度研磨に使用された研磨用組成物を回収して、シリコン基板の研磨に再び使用してもよい。研磨用組成物を再使用する方法としては、例えば、研磨装置から排出された研磨用組成物をタンク内に回収し、再度研磨装置内へ循環させて使用する方法が挙げられる。研磨用組成物を再使用することは、廃液として排出される研磨用組成物の量が減ることにより環境負荷が低減できる点、及び使用する研磨用組成物の量が減ることによりシリコン基板の研磨にかかる製造コストを抑制できる点において有用である。
研磨用組成物を再使用する場合には、研磨により消費・損失された二酸化ケイ素や水溶性高分子等の各成分の一部又は全部を、組成物調整剤として添加することが好ましい。組成物調整剤は、各成分を個々に添加してもよいし、各成分を循環タンクの大きさや研磨条件等に応じた任意の比率にて混合した状態で添加してもよい。再使用される研磨用組成物に対して組成物調整剤を添加することにより、研磨用組成物の組成が維持されて、研磨用組成物の機能を持続的に発揮させることができる。
・前記実施形態の研磨用組成物は、シリコン基板を研磨する以外の用途で使用されてもよい。例えば、ステンレスなどの金属、プラスチック、ガラス、及びサファイア等の研磨製品を得るために用いてもよい。
・上記(4)〜(6)に記載した効果は、前記実施形態の研磨用組成物の製造時のみに限られる効果ではなく、二酸化ケイ素と水溶性高分子と塩基性化合物と水とを含有する研磨用組成物、又は同研磨用組成物を得るための研磨用組成物原液の製造時であれば得ることのできる効果である。つまり、二酸化ケイ素と水溶性高分子と塩基性化合物と水とを含有する研磨用組成物を得るための研磨用組成物原液の製造方法として、二酸化ケイ素と塩基性化合物との混合物に、更に水溶性高分子を混合し、得られた混合物をろ過する工程を有する方法を採用してもよい。この場合にも、混合時における二酸化ケイ素に対する水溶性高分子の吸着を抑制できるとともに、水溶性高分子の凝集物(ゲル化物)の発生を抑制することができる。その結果、製造された研磨用組成物原液から得られる研磨用組成物は、基板表面に吸着した異物に起因するナノオーダーの微小な表面欠陥を低減させることが容易なものとなる。
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)二酸化ケイ素と水溶性高分子と水とを含有する研磨用組成物であって、前記二酸化ケイ素に吸着した前記水溶性高分子の炭素換算濃度が4質量ppm以上であり、且つ前記水溶性高分子の全炭素濃度に対する、前記二酸化ケイ素に吸着した前記水溶性高分子の炭素換算濃度の百分率が15%以上である研磨用組成物。
(ロ)二酸化ケイ素と水溶性高分子と水とを含有する研磨用組成物原液を、水又は塩基性水溶液で希釈する希釈工程を有し、前記二酸化ケイ素に吸着した前記水溶性高分子の炭素換算濃度を4質量ppm以上とするとともに、前記水溶性高分子の全炭素濃度に対する、前記二酸化ケイ素に吸着した前記水溶性高分子の炭素換算濃度の百分率を15%以上とすることを特徴とする研磨用組成物の製造方法。
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
実施例1〜13及び比較例2〜8では、二酸化ケイ素、塩基性化合物及びイオン交換水を混合した第1混合液と、水溶性高分子及びイオン交換水を混合した第2混合液とを混合することにより第3混合液を調製した。また、実施例14〜17では、二酸化ケイ素、塩基性化合物及びイオン交換水を混合した第1混合液と、水溶性高分子、界面活性剤、塩及びイオン交換水を混合した第2混合液とを混合することにより第3混合液を調製した。また、比較例1では、塩基性化合物及びイオン交換水を混合した第1混合液と、水溶性高分子とを混合することにより第3混合液を調製した。そして、各第3混合液に対して、目開き0.45μmのフィルタでろ過を行うことにより研磨用組成物原液を調製した。得られた研磨用組成物原液をイオン交換水にて20倍(実施例10のみ40倍)に希釈処理することにより各例の研磨用組成物を調製した。
また、比較例9では、二酸化ケイ素及びイオン交換水を混合した第1混合液と、水溶性高分子及びイオン交換水を混合した第2混合液とを混合することにより第3混合液を調製した。比較例10では、二酸化ケイ素及びイオン交換水を混合した第1混合液と、水溶性高分子及びイオン交換水を混合した第2混合液とを混合した後、更に塩基性化合物を混合することにより第3混合液を調製した。
このとき、比較例9及び10の第3混合液には凝集物(ゲル化物)が発生し、ろ過を行うことができなかった。そのため、比較例9及び10については、続く試験を行うことができなかった。なお、実施例1〜17及び比較例1〜8の第3混合液については、凝集物(ゲル化物)が発生することはなかった。この結果から、二酸化ケイ素を含有する第1混合液中に塩基性化合物を混合した状態として、第1混合液と、水溶性高分子を含有する第2混合液とを混合することが、研磨組成物原液中に発生する凝集物(ゲル化物)の抑制に有効であることが示唆される。
表2に各例の研磨用組成物原液及び研磨用組成物の詳細を示す。二酸化ケイ素としてはコロイダルシリカを用いた。水溶性高分子としては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、加水分解処理を施したヒドロキシエチルセルロース(加水分解HEC)、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンのグラフトポリマー(PVA−g−PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、カチオン化処理を施したポリビニルアルコール(カチオン化PVA)を用いた。塩基性化合物としてはアンモニアを用いた。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体(PEO−PPO−PEO)、ポリオキシエチレンデシルエーテル(C−PEO)を用いた。塩としては、クエン酸三アンモニウム、炭酸アンモニウムを用いた。なお、界面活性剤及び塩の含有量はそれぞれ0.0005質量%である。また、表2中、二酸化ケイ素の粒径欄は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて比表面積の値から算出した平均一次粒子径を示す。
次に、実施例1〜17及び比較例1〜8の研磨用組成物について、二酸化ケイ素に吸着した吸着物の炭素換算濃度(A)、及び研磨用組成物の全炭素濃度(B)を測定した。具体的には、各研磨用組成物のそれぞれに対して、二酸化ケイ素を含まない点のみが異なる測定用の含炭素組成物を調製した。その含炭素組成物について、島津製作所社製の“TOC−5000A”を用いてTOC値を測定し、測定された含炭素組成物のTOC値を研磨用組成物の全炭素濃度(B)とした。
また、実施例1〜17及び比較例1〜8の研磨用組成物に対して遠心分離処理(20000rpm、30分)を行うことにより研磨用組成物を、二酸化ケイ素を含む沈降物と上澄液とに分離した後、上澄液のTOC値を測定した。そして、二酸化ケイ素に吸着した吸着物の炭素換算濃度(A)を、含炭素組成物のTOC値と上澄液のTOC値との差として算出した。さらに、研磨用組成物の全炭素濃度(B)に相当する含炭素組成物の炭素濃度に対する吸着物の炭素換算濃度(A)の百分率(A/B)を算出した。それらの結果を表3に示す。
次に、実施例1〜17及び比較例1〜8の研磨用組成物を用いて、予備研磨後のシリコン基板の表面を表1に記載の条件で研磨した。シリコン基板は、直径が200mm、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm以下であるシリコン基板を株式会社フジミインコーポレーテッド製の研磨スラリー(商品名GLANZOX 2100)を用いて予備研磨し、60mm角のチップ型に切断したものを用いた。
研磨後、シリコン基板の表面を流量7L/分の流水で10秒間洗浄した。シリコン基板を垂直状態として静置し、30秒後、シリコン基板のコーナ部からの撥水距離を測定した。その結果を表3に示す。なお、撥水距離は研磨後の基板表面の親水性の指標であり、基板表面の親水性が高いほど撥水距離の値が小さくなる。撥水距離の最大値は対角線上の85mmとなる。
次に、研磨後のシリコン基板の表面に吸着した水溶性高分子の洗浄性(除去容易性)を評価した。水溶性高分子の洗浄性の評価は、水溶性高分子が吸着されて親水性が付与されたシリコン基板に対して所定の洗浄操作を行い、基板表面を完全撥水面にするまでに要した洗浄操作の繰り返し回数により行った。洗浄操作は、シリコン基板を薬液(アンモニア:過酸化水素:水=1:1:8)に25℃にて15秒間、浸漬させた後、3%フッ化水素水溶液に25℃にて20秒間、浸漬させる操作を一回とした。洗浄操作の回数が1回以上3回以下を「A」、4回以上6回以下を「B」、7回以上を「C」として評価した。その結果を表3に示す。なお、比較例1〜8に関しては、撥水距離の測定結果から、研磨後のシリコン基板の表面に水溶性高分子が吸着していないと考えられるため、洗浄性の評価の実施を不要と判断した。
表3に示すように、二酸化ケイ素を含有しない比較例1を用いた場合には、撥水距離が85mmであり、親水性の付与効果は得られなかった。これに対して、二酸化ケイ素を含有し、二酸化ケイ素に吸着した吸着物の炭素換算濃度(A)、及び研磨用組成物の全炭素濃度に対する吸着物の炭素換算濃度の百分率(A/B)が特定の範囲内である各実施例を用いた場合には、撥水距離が45mm以下であり、高い親水性が付与されていることが分かる。そして、用いた水溶性高分子の分子量が小さくなる程、洗浄性の評価が高くなる傾向があった。
また、二酸化ケイ素に吸着した吸着物の炭素換算濃度(A)、及び研磨用組成物の全炭素濃度に対する吸着物の炭素換算濃度の百分率(A/B)が特定の範囲外である比較例2〜8を用いた場合には、親水性の付与効果はほとんど得られない、又は得られたとしても低いものであった。