以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
本願明細書において,「A〜B」とは,「A以上B以下」であることを意味する。
また,本願明細書において,「長手方向」とは,吸収性物品のうち,着用者の腹部側に位置する前身頃と着用者の背部側に位置する後身頃とを結ぶ方向を意味する。また,「幅方向」とは,吸収性物品の長手方向に平面的に直交する方向を意味する。本願の図1において,吸収性物品の長手方向はY軸で示されており,吸収性物品の幅方向はX軸で示されている。
また,本願明細書において,「肌対向面」とは,吸収性物品の着用時において着用者の肌に対向する面を意味する。また,「肌非対向面」とは,吸収性物品の着用時において着用者の肌に対向しない面を意味している。
[1.第1の実施形態]
図1から図4を参照して,本発明の第1の実施形態に係る吸収性物品について説明する。第1の実施形態に係る吸収性物品は,大型の尿とりパッドとして構成されている。図1は,吸収性物品100全体の平面図であり,図2は,図1に示されたII−II線における断面形状を模式的に示している。なお,図2の断面図においては,吸収性物品100の構成を分かりやすく示すために,各種の構成部材の間に隙間を設けて描画しているが,実際には構成部材の間には隙間はほとんど形成されない。
図1に示されるように,吸収性物品100は,着用者の腹部側に位置する前身頃1と,着用者の背部側に位置する後身頃2と,これらの間に位置する股下部3とに,長手方向に区分することができる。具体的に説明すると,吸収性物品100は,その平面視において,ひょうたん型若しくは砂時計型と表現することのできる形状となっている。すなわち,吸収性物品100は,股下部3に,吸収性物品100の横幅が最も狭くなった部位であるくびれ部が存在する。他方で,吸収性物品100の前身頃1と後身頃2には,股下部3のくびれ部よりも幅方向の左右外側に延出する部位であるサイドフラップが存在する。つまり,サイドフラップが形成された部分において,前身頃1と後身頃2の横幅は,股下部3のくびれ部における横幅よりも広く形成されている。このように,吸収性物品100はひょうたん型(砂時計型)とすることができる。ただし,吸収性物品100の形状は適宜変更することができ,例えば単純な矩形状とすることも可能である。
また,図1及び図2に示されるように,吸収性物品100は,基本的に,液透過性のトップシート10と,液不透過性のバックシート20と,これらの間に介在する複数の吸収体30,40を有している。本願明細書において,トップシート10側に位置する吸収体を「上層吸収体30」(第1の吸収体)とし,バックシート20側に位置する吸収体を「下層吸収体40」(第2の吸収体)とする。図2の断面図に示されるように,上層吸収体30と下層吸収体40は,その厚み方向に重ねられている。また,上層吸収体30と下層吸収体40は,両者の相対的位置がずれないように,ホットメルト接着剤などの接着剤を利用して接合されている。トップシート10は,積層された吸収体30,40の肌対向面側を被覆しており,バックシート20は,積層された吸収体30,40の肌非対向面側を被覆している。図1及び図2に示されるように,各吸収体30,40の周囲においては,トップシート10とバックシート20が,ホットメルト接着剤や,ヒートシール,あるいは超音波シールなどによって互いに接合されている。これにより,各吸収体30,40は,トップシート10とバックシート20の接合部によって周囲を囲われたものとなる。また,吸収性物品100の幅方向左右両側に,一対の立体ギャザー50が形成されている。一対の立体ギャザー50は,吸収体の左右両側において起立するものであり,尿漏れを防ぐための防漏壁として機能する。さらに,吸収性物品100は,バックシート20の肌非対向面を覆うカバーシート60を備えていてもよい。以下,吸収性物品100を構成する各部材について説明する。
トップシート10は,着用者の股下の肌に直接接し,尿などの体液を吸収体30,40へ透過させるためのシート状の部材である。このため,トップシート10は,柔軟性が高い液透過性材料で構成される。トップシート10を構成する液透過性材料の例は,織布,不織布,又は多孔性フィルムである。また,例えばポリプロピレンやポリエチレン,ポリエステル,ナイロンのような熱可塑性樹脂の繊維を親水化処理してさらに不織布にしたものを用いることとしてもよい。不織布としては,エアスルー不織布,ポイントボンド不織布,スパンボンド不織布,メルトブロー不織布などを挙げることができる。
バックシート20は,トップシート10を透過して吸収体30,40に吸収された体液が,おむつの外部へ漏出することを防止するためのシート状の部材である。このため,バックシート20は,液不透過性材料によって構成されることが好ましい。バックシート20を構成する液不透過材料の例は,ポリエチレン樹脂からなる液不透過性のフィルムである。特に,バックシート20としては,液不透過性を維持しつつ通気性を確保するために,0.1〜4μmの微細な孔が複数形成された微多孔性ポリエチレンフィルムを用いることが好ましい。
吸収体30,40は,尿などの体液を吸収し,吸収した体液を保持するための部材である。吸収体30,40は,液透過性のトップシート10と,液不透過性のバックシート20の間に配置される。上層吸収体30と下層吸収体40は,ホットメルト接着剤などによって接合し,互いの相対位置がずれないようにされていることが好ましい。各吸収体30,40は,吸収性材料34,44と,それを被覆するコアラップシート35,45によって構成されている。吸収性材料34,44としては,例えば,針葉樹や広葉樹などの繊維材料を解砕してなるフラッフパルプや,高吸水性ポリマー(SAP),親水性シートを用いることとしてもよい。また,吸収性材料34,44としては,フラッフパルプ,高吸水性ポリマー,又は親水性シートのうち1種類を単独で用いてもよいし,2種類以上を組合せて併用することもできる。一般的に,吸収性材料34,44は,フラッフパルプの中に高吸水性ポリマーを散布したものによって構成される。コアラップシート35,45は,吸収性材料34,44を覆うことによってその形状を保持するためのシート部材である。コアラップシート35,45としては,液透過性を有するシート部材が用いられる。コアラップシート35,45の例は,ティッシュペーパのような薄葉紙や,公知の不織布を用いることができる。
また,本発明において,上層吸収体30と下層吸収体40の大きさは異なることが好ましい。特に,本発明において,上層吸収体30の長さ及び幅は,下層吸収体40の長さ及び幅よりも小さくなっていることが好ましい。この場合に,上層吸収体30は,吸収性物品100の股下部3を中心に,下層吸収体40の上に重ねて配置される。これにより,体液の排泄量が多い股下部3における吸収量を増加させることができる。ただし,上層吸収体30と下層吸収体40の大きさ及び形状は全く同一であってもよい
一対の立体ギャザー50は,吸収体の左右両側において起立するものであり,尿漏れを防ぐための防漏壁となる。立体ギャザー50は,一般的に,サイドシート51と一又は複数の弾性伸縮部材52によって構成される。サイドシート51は,股下部3においては,幅方向の外側部分がトップシート10やバックシート20の肌対抗面側に接合され,幅方向の内側部分は接合される開放されている。そして,開放されたサイドシート51の内側端部に,一又は複数の弾性伸縮部材52が,長手方向の沿った伸長状態で固定されている。このため,弾性伸縮部材52が収縮すると,サイドシート51の内側端部が弾性伸縮部材52の収縮力によって立ち上がるとともに,弾性伸縮部材52が収縮した部位に皺(ギャザー)が形成される。サイドシート51としては,例えば,カードエンボスやスパンボンド等の製法により得られた不織布シートを使用することができ,特に防水性及び通気性が高いSMSやSMMS等の不織布シートを用いることが好ましい。
カバーシート60は,バックシート20を補強し,かつ,その手触りを良くするための部材である。カバーシート60は,バックシート20の肌非対向面側に貼り合わせられる。カバーシート60を構成する材料としては,織布や不織布が用いられる。特に,カバーシート60を構成する材料として,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエステルのような熱可塑性樹脂からなる不織布又は湿式不織布を用いることが好ましい。
図3(a)及び(b)は,上層吸収体30と下層吸収体40を概念的に分離して横に並べて示した平面図である。また,図3(c)及び(d)は,III−III線における各吸収体30,40の断面形状を模式的に示している。また,図4(a)は,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態を示しており,図4(b)は,IV−IV線における吸収体の断面形状を模式的に示している。
図1から図4に示されるように,上層吸収体30には,厚み方向に貫通したスリット36が形成されている。本実施形態において,スリット36は,吸収性物品100の股下部3を中心とし,長手方向に向かって延びる細長い略楕円形状に形成されている。また,スリット36は,長手方向の両端が閉じられた穴状に形成されている。スリット36は,少なくとも一部が吸収性物品100の股下部3に位置していることが好ましく,股下部3から前身頃1及び後見頃2に掛けて長手方向に延在していてもよい。
図3には,スリット36の長手方向の長さが符号S1で示され,幅方向の長さ(横幅)が符号S2で示されている。例えば,スリット36の長さS1は,上層吸収体30全体の長手方向の長さを100%としたときに,20%〜100%又は25%〜80%とすればよい。また,例えば,スリット36の横幅S2は,上層吸収体30の幅方向の長さ(横幅)(横幅の広い部位と狭い部位がある場合にはその最小値)を100%としたときに,10%〜50%又は15%〜30%とすればよい。スリット36は,体液を下層吸収体40に導く機能を持つものであることから,その横幅S2は5mm以上であることが好ましい。
また,本実施形態において,上層吸収体30には,複数の圧搾線31が形成されている。上層吸収体30の複数の圧搾線31(以下「上側圧搾線」という)は,肌対向面側と肌非対向面側の両側又はいずれか一方側から上層吸収体30を部分的に押圧して圧縮することによって形成することが可能である。このため,上側圧搾線31が形成された部位においては,上層吸収体30における吸収性材料34の密度が高まることとなる。本実施形態において,上側圧搾線31は,上層吸収体30を肌対向面側から押圧することによって形成されている。
複数の上側圧搾線31としては,前身頃1側に後身頃2側のそれぞれに,幅方向の中央に位置する中央圧搾線31aと,左方に位置する左圧搾線31bと,右方に位置する右圧搾線31cが設けられており,図に示した例では合計6本の圧搾線が形成されている。これらの複数の上側圧搾線31は,上層吸収体30の長手方向に向かって延びる部分を有している。このため,上層吸収体30に触れた体液は,各上側圧搾線31に沿って長手方向に拡散される。より具体的に説明すると,前後の中央圧搾線31aは,それぞれ,長手方向の沿って延びる直線状をなしており,その一端部が上層吸収体30の長手方向端縁に達し,その他端部がスリット36に達している。また,前後の左圧搾線31bと右圧搾線31cは,上層吸収体30の長手方向端縁から股下部3側に向かって延びる直線部分37aと,この直線部分37aとスリット36とを繋ぐように幅方向の内側に向かって傾斜して延びる傾斜部分37bとからなる。
このように,本実施形態において,複数の上側圧搾線31はすべてスリット36に繋がるように形成されている。これにより,着用者の股下から排泄された体液は,まずスリット36に導入されて一時的に貯留された後,このスリット36に繋がる各上側圧搾線31に沿って長手方向に向かって拡散する。このように,スリット36と上側圧搾線31が共同して複数の拡散ルートを形成しているため,上層吸収体30全体で体液を吸収可能となり,吸収量及び吸収速度が向上して,体液の漏れをより確実に防止できるようになる。また,スリット36と上側圧搾線31の一部が繋がっていると,スリット36に一時的に溜まった体液がこの上側圧搾線31を伝わって拡散しやすくなる。特にスリット36の内部の壁面から上側圧搾線31を伝って体液を拡散させることができるので,上層吸収体30における体液の拡散性を高めることができる。なお,本実施形態において,上層吸収体30には,幅方向に向かって延びる圧搾線は形成されていない。このため,上層吸収体30には圧搾線の交点部が存在しない。
また,下層吸収体40にも,複数の圧搾線41が形成されている。下層吸収体40の複数の圧搾線41(以下「下側圧搾線」という)は,肌対向面側と肌非対向面側の両側又はいずれか一方側から下層吸収体40を部分的に押圧して圧縮することによって形成することが可能である。このため,下側圧搾線41が形成された部位においては,下層吸収体40における吸収性材料44の密度が高まることとなる。本実施形態において,下側圧搾線41は,下層吸収体40を肌対向面側から押圧することによって形成されている。
本実施形態において,下層吸収体40における複数の下側圧搾線41は,それぞれ,吸収性物品100の幅方向に沿って延びるように形成されている。図示した例において,下層吸収体40には,幅方向に沿って延びる直線状の下側圧搾線41が,前身頃から後見頃にかけて長手方向に規則的な間隔で配置されている。なお,本実施形態において,下層吸収体40には,長手方向に向かって延びる圧搾線は形成されていない。このため,下層吸収体40には圧搾線の交点部が存在しない。
また,図3においては,下側圧搾線41の幅方向の長さ(横幅)を符号Wで示している。下側圧搾線41は,下層吸収体40に触れた体液を下層吸収体40の幅方向に広く拡散させるためのものである。このため,下側圧搾線41の横幅Wは,下層吸収体40の幅方向の長さ(横幅)(横幅の広い部位と狭い部位がある場合にはその最小値)を100%としたときに,50%〜100%又は70%〜95%で形成されていることが好ましい。また,下側圧搾線41の横幅Wは,上層吸収体30のスリット36の横幅S2を超えることが好ましい(W>S2)。具体的には,下側圧搾線41の横幅Wは,スリット36の横幅S2に対して,110%以上,150%以上,200%以上,又は250%以上であることが好ましい。スリット36の横幅S2に対する下側圧搾線41の横幅Wの値の上限値は特に限定されないが,例えば10倍程度とすればよい。
図4は,上記した上層吸収体30及び下層吸収体40が厚み方向に重ね合わされた状態を示している。図4に示されるように,上層吸収体30のスリット36には,下層吸収体40の下側圧搾線41が重なっている。このため,体液が上層吸収体30のスリット36に導入されると,スリット36を通じて下方に流れ落ちて,下層吸収体40の下側圧搾線41に触れることとなる。そして,下層吸収体40に接した体液は,下側圧搾線41に沿って幅方向に拡散する。特に,本実施形態では,前述のように,下側圧搾線41の横幅Wがスリット36の横幅S2を超えている。このため,スリット36を通じて下層吸収体40に接した体液は,下側圧搾線41に沿って幅方向外側に拡散し,上層吸収体30と下層吸収体40の隙間に入り込む。これにより,上層吸収体30の裏面側(肌非対向面側)にも体液を吸収させることが可能となる。このため,体液を迅速に吸収でき,しかもその吸収量が向上する。
さらに,上層吸収体30のスリット36には,例えば着用者が立位姿勢を取っているときに股下部3から前身頃1側又は後身頃側2へと体液を垂直に吸い上げる能力はないが,上側圧搾線31や下側圧搾線41には,体液を垂直に吸い上げる能力がある。このため,上層吸収体30のスリット36に上側圧搾線31を繋げたり,あるいはスリット36の下に下側圧搾線41を設けることで,スリット36に一時的に溜まった体液を垂直方向上方に吸い上げて,前身頃1側及び後身頃2側へと広く拡散させることが可能となる。
ここで,本発明の技術を理解するために,圧搾線による体液の吸収原理を具体的に説明する。体液を吸収する際に,吸収体では,体液が圧搾線の溝を通って流れ広がる第1の拡散現象と,圧搾線周辺の密度が圧搾線以外の密度より高いために毛細管現象を起こして液体が圧搾線に沿って拡散する第2の拡散現象の両方が同時に発生している。第1の拡散現象は,ダイナミックな拡散であり平面内での拡散速度は速いものの,体液を垂直方向に吸い上げる効果は期待できない。一方で,圧搾線周囲の毛細管現象に起因した第2の拡散現象は,拡散する液体量は第1の拡散現象よりも少ないが,圧搾線に沿って体液を垂直に吸い上げて拡散する効果が期待できる。このように,吸収体に形成された圧搾線は,体液を垂直方向上方に吸い上げる能力がある。なお,ここで,垂直に体液吸い上げる状況とは,立位姿勢において股下に溜まった尿を前身頃及び後身頃へと吸い上げるような状況に相当する。
また,大判の尿とりパッドの場合,吸収体の全長が長く,排泄位置から端までの距離が長い。尿を排尿部分だけで部分的に吸ってしまうと,吸収体全体を使えずに繰り返しの排尿により尿漏れを引き起こす原因となってしまう。従って,大判の尿とりパッドは,吸収体を端まで使ってより大量の尿が吸収することが求められる。ただし,大判の尿とりパッドは,総吸収量が多いというだけではなく,吸収速度が早いことも求められるようになっている。排尿後に速やかに着用者が快適な着用感を得られるようにするためである。また,一般的に厚い吸収体は,2層以上の吸収体を重ねて作られることが多く,その場合に吸収速度を早くするために,上層吸収体にスリットを設ける技術が知られている。また,下層吸収体にも上層吸収体と同じ位置にスリットを設けて,さらに拡散性を向上する技術も知られている。しかし,このようなスリットは,体液が流れる通り道を作ったり,そのスリット内に体液一時貯留するなどの効果を発揮するものの,流れた先において体液を拡散させる効果は低いものであった。そこで,本発明では,上層吸収体30にスリット36を形成して体液の拡散速度や水量を高めつつ,下層吸収体40に下側圧搾線41を形成して毛細管現象を利用した体液の拡散を促進することで,各吸収体30,40の広い範囲に体液を浸透させることとしている。
このように,本発明は,上層吸収体30のスリット36と下層吸収体40の下側圧搾線41の両方のメリットを利用して,体液の拡散速度,拡散量,及び拡散範囲を高めている。このため,下層吸収体40のうち,少なくとも上層吸収体30のスリット36と重なる範囲には,スリットを形成しないことが好ましい。上層吸収体30のスリット36と重なる位置において下層吸収体40にもスリットを形成すると,下層吸収体40の下側圧搾線41による液拡散効果を効果的に利用できなくなるおそれがある。ただし,本発明は,下層吸収体40にスリットを形成する形態を除くものではない。
さらに,図4に示されるように,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態において,上側圧搾線31と下側圧搾線41は,平面方向からみて少なくとも部分的に交差している。なお,「平面方向からみる」とは,トップシート10又はバックシート20と対面する方向からみることを意味する。このように,互いの圧搾線31,41を交差するように各吸収体30,40を配置することで,圧搾線が形成されていない領域(非圧搾領域)にも効果的に体液を浸透させることが可能となる。つまり,一方の吸収体の圧搾線に沿って拡散した体液が,他方の吸収体の非圧搾領域に吸収されやすくなる。このため,一方の吸収体の圧搾線に沿って拡散した体液が端部に到達しにくくなり,外部へと漏れ出す事態を効果的に防止できる。また,2層の吸収体30,40の広い範囲で体液を吸収できるようになるため,体液の吸収量が向上するとともに,長時間の着用であっても着用者に対して不快感を与えにくい。さらに,2層の吸収体30,40のそれぞれに圧搾線31,41を形成することで,各吸収体に圧搾線を密に形成する必要がなくなる。このため,各吸収体の肌触りが硬くなることを回避することができる。
ここで,各吸収体30,40の厚み,すなわち非圧搾領域の厚みは,例えば,5mm〜20mmであることが好ましく,特に8mm〜15mmであることが好ましい。また,圧搾線31,41が形成された部位における各吸収体30,40の厚みは,1mm〜10mmであることが好ましく,特に2mm〜5mmであることが好ましい。ただし,当然のことながら,圧搾線31,41が形成された部位の厚みは,非圧搾領域の厚みよりも小さくなる。例えば,圧搾線31,41が形成された部位の厚みは,非圧搾領域の厚みに対して,3%〜50%であり,特に5%〜20%であることが好ましい。また,各圧搾線31,41の幅は,1mm〜5mmであることが好ましく,特に2mm〜4mmであることが好ましい。
なお,本願の図では,圧搾線31,41が,各吸収体30,40を構成する吸収性材料34,44及びコアラップシート35,45の両方を窪ませることにより形成された例を示している。ただし,圧搾線31,41は,少なくとも吸収性材料34,44を圧縮して窪ませることにより形成されたものであればよい。つまり,吸収性材料34,44を圧縮して圧搾線31,41を形成した後に,その吸収性材料34,44を被覆するようにコアラップシート35,45を接合することとしてもよい。この意味において,圧搾線31,41は,各吸収体30,40を構成する吸収性材料34,44に形成されていれば足りる。
[2.第2の実施形態]
続いて,図5から図7を参照して,本発明の第2の実施形態に係る吸収性物品について説明する。第2の実施形態については,前述した第1の実施形態と同じ構成について説明を省略し,第1の実施形態と異なる構成を中心に説明を行う。
図5(a)及び(b)は,上層吸収体30と下層吸収体40を概念的に分離して横に並べて示した平面図である。また,図5(c)及び(d)は,V−V線における各吸収体30,40の断面形状を模式的に示している。また,図6(a)は,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態を示しており,図6(b)は,VI−VI線における吸収体の断面形状を模式的に示している。さらに,図7は,上層吸収体30に形成された圧搾線31のパターンと,下層吸収体40に形成された圧搾線41のパターンを拡大して示したものである。なお,図5及び図6では,概念的に,上層吸収体30と下層吸収体40のみを抽出して示している。図5及び図6において図示は省略しているが,ここで説明する第2の実施形態も,前述した第1の実施形態と同様に,少なくともトップシート10とバックシート20を備えるものであり,さらに一対の立体ギャザー50及びカバーシート60を備えていてもよい。
図5に示されるように,本発明は,上層吸収体30に形成された上側圧搾線31のパターンと,下層吸収体40に形成された下側圧搾線41のパターンを特徴の一つとしている。各吸収体30,40に形成された圧搾線31,41は,平面方向からみたときに少なくとも部分的に互いに交差するパターンをなしている。以下では,各圧搾線31,41のパターンについて詳しく説明する。
図5に示されるように,上層吸収体30には,上側圧搾線31が方形格子状のパターンで形成されている。ここにいう「方形格子状のパターン」とは,長手方向と平行に延びる複数の圧搾線と幅方向と平行に延びる複数の圧搾線とが交差して,四角形状の非圧搾領域が区画されるパターンをいう。特に,本実施形態において,上側圧搾線31のパターンは,圧搾線31によって四方を囲われた非圧搾領域32がすべて正方形状となる規則的なパターン(正方形格子状のパターン)となっている。このように,上層吸収体30には,複数の上側圧搾線31と,上側圧搾線31によって周囲を囲われた非圧搾領域32(以下「上側非圧搾領域」という)と,上側圧搾線31が交差した交点部33(以下「上側交点部」という)が形成されているものと観念できる。
一方で,下層吸収体40には,下側圧搾線41が斜方形格子状のパターンで形成されている。ここにいう「斜方形格子状のパターン」とは,長手方向及び幅方向に対して傾斜した方向に延びる複数の圧搾線が交差して,斜方形(菱形)の非圧搾領域が区画されるパターンをいう。特に,本実施形態において,下側圧搾線41のパターンは,下側圧搾線41によって四方を囲われた非圧搾領域42がすべて正斜方形(正菱形)となる規則的なパターン(正斜方形格子状のパターン)となっている。このように,下層吸収体40においても,複数の下側圧搾線41と,下側圧搾線41によって周囲を囲われた非圧搾領域42(以下「下側非圧搾領域」という)と,下側圧搾線41が交差した交点部43(以下「下側交点部」という)が形成されているものと観念できる。
また,本実施形態において,上側圧搾線31は,上層吸収体30を肌対向面側から圧縮して窪ませることにより形成されたものである。同様に,下側圧搾線41は,下層吸収体40を肌対向面側から圧縮して窪ませることにより形成されたものである。このため,下層吸収体40に下側圧搾線41が形成された部位には,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態において両者の間に隙間が形成されることとなる。
図6及び図7は,正方形格子状の上側圧搾線31のパターンと,正斜方形格子状の下側圧搾線41のパターンを重ねた状態を示している。各図からわかるように,本実施形態において,上側非圧搾領域32の面積は,下側非圧搾領域42の面積よりも大きくなっている。このため,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねたときに,上側非圧搾領域32(正方形)の範囲の中に,下側非圧搾領域42(正斜方形)が収まることとなる。
また,本実施形態では,ある上側非圧搾領域32(正方形)を画定する4辺の上側圧搾線31に,それぞれ,ある下側非圧搾領域42(正斜方形)を画定する4つの下側交点部43が重なっている。このため,図6及び図7に示されるように,上側非圧搾領域32(正方形)の範囲に下側非圧搾領域42(正斜方形)がピッタリと収まっていることがわかる。すなわち,上側非圧搾領域32(正方形)の中心(対角線の交点)と,下側非圧搾領域42(正斜方形)の中心(対角線の交点)が一致している。さらに,図5に示したように,上側非圧搾領域32(正方形)の長手方向の長さLは,下側非圧搾領域42(正斜方形)の長手方向に沿った対角線の長さD1とほぼ等しい(L=D1)。また,上側非圧搾領域32(正方形)の幅方向の長さBは,下側非圧搾領域42の幅方向に沿った対角線の長さD2とほぼ等しい(B=D2)。なお,本願明細書における「ほぼ」とは,±5%の誤差を許容することを意味する。これらの条件を満たすことで,上側非圧搾領域32(正方形)を画定する4辺の上側圧搾線31に,それぞれ,ある下側非圧搾領域42(正斜方形)を画定する4つの下側交点部43が重なることとなる。
また,図6及び図7に示されるように,上側交点部33は,それぞれ,下側非圧搾領域42(正斜方形)の中心(対角線の交点)に重なっている。別の見方をすれば,複数の下側非圧搾領域42(正斜方形)には,上側交点部33が重なるものと,上側交点部33が重ならないものとが存在する。図6及び図7に示した例では,下側非圧搾領域42の複数の列のうち,1列おきに,上側交点部33が重なるものの列と,上側交点部33が重ならないものの列が交互に並んでいることがわかる。同様に,下側非圧搾領域42の複数の行のうち,1行おきに,上側交点部33が重なるものの行と,上側交点部33が重ならないものの行が交互に並んでいることがわかる。
上記のように,上側圧搾線31のパターン(正方形格子状)と下側圧搾線41のパターン(正斜方形格子状)を形成することで,1つの吸収体に圧搾線を密に形成しなくても,非圧搾領域に効果的に体液を拡散させ,2層の吸収体全体の広い範囲で体液を吸収できる。つまり,上層吸収体30の上側圧搾線31に沿って拡散した体液が,下層吸収体40の下側非圧搾領域42に吸収されることになる。このため,上層吸収体30の上側圧搾線31に沿って拡散した体液が端部に到達しにくくなり,外部へと漏れ出す事態を効果的に防止できる。また,2層の吸収体30,40の広い範囲で体液を吸収できるようになるため,体液の吸収量が向上するとともに,長時間の着用であっても着用者に対して不快感を与えにくい。各吸収体30,40に形成された交点部33,43では,圧搾線31,41が交差しているため,体液が滞留しやすくなっている。そこで,上層吸収体30の上側交点部33を下層吸収体40の下側非圧搾領域42に重ねることで,上側交点部33に滞留した体液を下側非圧搾領域42に効果的に浸透させることが可能となる。
また,本実施形態のように,上側交点部33が重なる下側非圧搾領域42の列及び行を1列置き及び1行置きとすることで,上層吸収体30に浸透した体液を,より遠くの領域まで拡散させることができる。このため,上層吸収体30に浸透した体液を,下層吸収体40の広い範囲に拡散及び浸透させることが可能となる。
また,圧搾線は,溝として液体を流す機能と,圧搾部周辺の非圧搾領域に毛細管現象を利用して液体を圧搾部に沿って拡散させる機能がある。溝として機能しない形態で使われた場合においても,一方の吸収体の圧搾線から他方の吸収体の圧搾線又は非圧搾領域へと液体の受け渡しが起こる。その理由は次の通りである。すなわち,圧搾線は,吸収体を構成する吸収性材料を圧力で潰したものである。このため,圧搾線が形成された部位において吸収体が液体を吸収すると厚さが変化する。すなわち,圧搾線にあるパルプやSAPが吸液すると,時間をかけてパルプ間の間隔が緩み,またSAPは膨潤するため,圧搾線が徐々に浅くなり,最後には膨潤後の非圧搾領域と厚みがほぼ同じになる。このように,圧搾線は吸収前には深さがあっても吸液が進行するとともに徐々に深さが浅くなる。このため,一方の吸収体の圧搾線からそれに重なる他方の吸収体に設けられた圧搾線又は非圧搾領域に液体を受け渡しやすくなる。つまり,最初の状態で圧搾線は溝となっているため,液体がこの圧搾線に優先して流れ込む。そして,圧搾線が形成された部位は吸液が進むと圧搾線が膨潤するため,前述のとおり,膨潤した圧搾線に重なる他方の吸収体に設けられた圧搾線又は非圧搾領域へと液体が移動する。
ここで,各圧搾線31,41の幅は,1mm〜5mmであることが好ましく,特に2mm〜4mmであることが好ましい。また,図5に示した上側非圧搾領域32の長さLは,10mm〜50mmであることが好ましく,特に20mm〜40mm,あるいは30mmであることが好ましい。上側非圧搾領域32の幅Bの好ましい数値範囲は,前述した長さLと同様である。長さLと幅Bは,ほぼ等しいことが好ましいが,異なっていてもよい。つまり,上側非圧搾領域32の形状は,正方形に限られず,その他の四角形とすることも可能である。また,図5に示した下側非圧搾領域42の長手方向における対角線の長さD1は,10mm〜50mmであることが好ましく,特に20mm〜40mm,あるいは30mmであることが好ましい。下側非圧搾領域42の幅方向における対角線の長さD2の好ましい数値範囲は,前述した長さD1と同様である。長さD1と長さD2は,ほぼ等しいことが好ましいが,異なっていてもよい。つまり,下側非圧搾領域42の形状は,正斜方形(正菱形)に限られず,その他の斜方形とすることも可能である。また,前述のように,長さLと長さD1がほぼ等しく,幅Bと長さD2がほぼ等しくなることが好ましい実施形態であるが,本発明はこれに限定されない。
また,各吸収体30,40に形成された圧搾線31,41は,股下部近傍に排出された体液を前身頃及び後身頃まで広く拡散することができるように,長手方向に亘って広い範囲に形成されていることが好ましい。具体的には,圧搾線31,41が形成された領域の長手方向の長さは,各吸収体30,40の長手方向の長さに対して60%以上であることが好ましく,60%〜100%,70%〜100%,又は80%〜100%であることが特に好ましい。また,各吸収体30,40に形成された圧搾線31,41は,幅方向の中心近傍に排出された体液を幅方向外側に広く拡散することができるように,幅方向に亘って広い範囲に形成されていることが好ましい。具体的には,圧搾線31,41が形成された領域の幅方向の最大幅は,各吸収体30,40の幅方向の最少幅に対して60%以上であることが好ましく,60%〜100%,70%〜100%,又は80%〜100%であることが特に好ましい。
上記構成に加えて,図5に示されるように,上層吸収体30には,スリット36が形成されている。スリット36は,吸収性物品100の股下部3を中心とし,長手方向に向かって延びる細長い略楕円形状に形成されている。また,スリット36は,長手方向の両端が閉じられた穴状である。スリット36は,正方形格子状の上側圧搾線31のパターンの中に形成されており,複数の上側圧搾線31に繋がったものとなっている。より具体的には,スリット36の長手方向の両端部分には,吸収性物品の長手方向に沿って延びる直線状の上側圧搾線31が繋がっている。また,スリット36の幅方向の左右両端部分には,吸収性物品の幅方向に沿って延びる直線状の上側圧搾線31が繋がっている。このため,スリット36内部に溜まった体液は,上側圧搾線31に沿って吸収性物品の長手方向及び幅方向に拡散する。
また,図6に示されるように,上層吸収体30と下層吸収体40を積層して接合した状態において,上層吸収体30のスリット36には,下層吸収体40の複数の下側圧搾線41,複数の下側非圧搾領域42,及び複数の下側交点部43が重なっていることがわかる。まず,スリット36と下側圧搾線41が重なっていることで,スリット36内に溜まった体液が下側圧搾線41に沿って拡散する。また,スリット36と下側非圧搾領域42が重なっていることで,スリット36内に溜まった体液を下側非圧搾領域42に直接吸収させることができる。さらに,下側交点部43は,いわば体液拡散ルートのハブとして機能する。このため,スリット36と下側交点部43が重なっていることで,この下側交点部43を中心として体液が下層吸収体40に広く拡散するようになる。
また,本実施形態において,上層吸収体30のスリット36に重なる下側圧搾線41は,吸収性物品の長手方向及び幅方向の両方に対して傾斜した方向(すなわち斜め方向)に延びている。このため,スリット36を通じて下側圧搾線41に接した体液は,下側圧搾線41に沿って斜め方向に拡散する。
なお,本実施形態では,上側圧搾線31が,非圧搾領域の面積が比較的大きくなる正方形格子状のパターンで形成され,下側圧搾線41が,非圧搾領域の面積が比較的小さくなる正斜方形格子状のパターンで形成されている例を説明した。ただし,この圧搾線のパターンは,上側圧搾線31と下側圧搾線41とで入れ替えることもできる。つまり,前述した正方形格子状のパターンを下側圧搾線41のパターンとして適用し,正斜方形格子状のパターンを上側圧搾線31のパターンとして適用することも可能である。
[3.第3の実施形態]
続いて,図8から図10を参照して,本発明の第3の実施形態に係る吸収性物品について説明する。第3の実施形態については,前述した第1の実施形態及び第2の実施形態と同じ構成について説明を省略し,これらの実施形態と異なる構成を中心に説明を行う。
図8(a)及び(b)は,上層吸収体30と下層吸収体40とを分離して示しており,図8(c)及び(d)は,VIII−VIIIにおける断面形状を示している。図9(a)は,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態を示し,図9(b)は,IX−IXにおける断面形状を示している。また,図10は,上層吸収体30に形成された圧搾線31のパターンと,下層吸収体40に形成された圧搾線41のパターンを拡大して示したものである。なお,図8及び図9において図示は省略しているが,ここで説明する第3の実施形態も,前述した第1の実施形態と同様に,少なくともトップシート10とバックシート20を備えるものであり,さらに一対の立体ギャザー50及びカバーシート60を備えていてもよい。
第3の実施形態は,各吸収体30,40に形成された圧搾線31,41のパターンが,第2の実施形態とは異なっている。図8から図10に示されるように,上層吸収体30には,上側圧搾線31が正斜方形格子状のパターンで形成されており,下層吸収体40には,下側圧搾線41が正方形格子状のパターンで形成されている。ここにいう正斜方形格子状のパターンと正方形格子状のパターンは,第2の実施形態で説明したものと基本的に同じである。ただし,第3の実施形態では,上層吸収体30と下層吸収体40とを重ねた状態において,上層吸収体30に形成された正斜方形格子状のパターンと下層吸収体40に形成された正方形格子状のパターンの相対的な位置関係が,第2の実施形態とは異なっている。
図9及び図10に示されるように,第3の実施形態では,各吸収体30,40を重ねた状態において,上層吸収体30の上側交点部33と下層吸収体40の下側交点部43とが重なっている。さらに,上層吸収体30における複数の上側交点部33の中には,下層吸収体40の下側非圧搾領域42の中心(対角線の交点)と重なるものが存在する。特に,上層吸収体30の上側圧搾線31のパターンと下層吸収体40の下側圧搾線41のパターンとが重なる範囲においては,スリット36が形成された部位を除き,全ての下側非圧搾領域42の範囲内に,上側交点部33が存在していることとなる。このため,第3の実施形態では,スリット36が形成された部位を除き,正方形状をなす下側非圧搾領域42の対角線に相当する位置に,上側圧搾線31が重なっていることがわかる。さらに,第3の実施形態では,上側非圧搾領域32の範囲内に下側圧搾線41が重なっていることがわかる。
このように,第3の実施形態では,上側非圧搾領域32の範囲内に下側圧搾線41が重なり,下側非圧搾領域42の範囲内に上側圧搾線31及び上側交点部33が重なり,且つ,上側交点部33と下側交点部43とが重なっている。従って,上層吸収体30の上側圧搾線31に沿って拡散した体液は,下層吸収体40に落ちて下側非圧搾領域42に吸収される。また,上層吸収体30の上側交点部33に滞留した体液は,下層吸収体40に落ち,下側交点部43を通じて下側圧搾線41に沿って拡散する。さらに,下層吸収体40の下側圧搾線41に沿って拡散した体液は,上層吸収体30の上側非圧搾領域32に吸収される。また,下側圧搾線41は,上側圧搾線31の格子状パターンの対角線方向に体液を拡散することもできる。これにより,このようなパターンを形成することで,従来では吸収時間が遅いとされていた非圧搾領域32,42にも迅速に体液を導くことが可能となる。
このように,第3の実施形態のパターンは,第2の実施形態のパターンと比較して,体液の吸収速度が早いものであるといえる。これに対して,第2の実施形態のパターンは,第3の実施形態のパターンと比較して,体液の拡散範囲が広いものであるといえる。第2の実施形態のパターンと第3の実施形態のパターンのいずれを採用するかは,吸収性物品に求められる性能を考慮して適宜決定すればよい。
また,図9に示されるように,上層吸収体30と下層吸収体40を積層して接合した状態において,上層吸収体30のスリット36には,下層吸収体40の複数の下側圧搾線41及び複数の下側非圧搾領域42が重なっていることがわかる。第3の実施形態では,スリット36に重なる下側圧搾線41は,吸収性物品の幅方向に沿って延びている。このため,スリット36を通じて下側圧搾線41に接した体液は,下側圧搾線41に沿って斜め方向に拡散する。
[4.第4の実施形態]
続いて,図11及び図12を参照して,本発明の第4の実施形態に係る吸収性物品について説明する。第4の実施形態については,前述した実施形態と同じ構成について説明を省略し,これらの実施形態と異なる構成を中心に説明を行う。図11(a)及び(b)は,上層吸収体30と下層吸収体40とを分離して示しており,図11(c)及び(d)は,XI−XIにおける断面形状を示している。図12(a)は,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態を示し,図12(b)は,XII−XIIにおける断面形状を示している。
図11に示されるように,第4の実施形態において,上層吸収体30には,長手方向に沿ってこの上層吸収体30の分断するスリット36が形成されている。このように,スリット36は,上層吸収体30の長手方向の一端から他端に亘って形成されたものであってもよい。また,本実施形態では,上層吸収体30には圧搾線が形成されておらず,下層吸収体40にのみ斜方形格子状のパターンをなす複数の圧搾線41が形成されている。なお,下層吸収体40に形成された圧搾線41のパターンは,図5(b)に示したパターンと同じである。
図12に示されるように,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態において,上層吸収体30のスリット36には,下層吸収体40の複数の下側圧搾線41,複数の下側非圧搾領域42,及び複数の下側交点部43が重なっていることがわかる。このスリット36に重なる下側圧搾線41は,吸収性物品の長手方向及び幅方向の両方に対して傾斜した方向(すなわち斜め方向)に延びている。このため,スリット36を通じて下側圧搾線41に接した体液は,下側圧搾線41に沿って斜め方向に拡散する。
[4.吸収体の断面形状の例]
前述した第1から第4の実施形態においては,上層吸収体30及び下層吸収体40の肌対向面側を窪ませた圧搾線31,41を形成する例について説明した。ただし,本発明はこれに限定されるものではない。以下,各吸収体の断面形状の別の例について説明する。
図13は,上層吸収体30と下層吸収体40の断面形状の例を示している。図13(a)に示された例において,上層吸収体30の圧搾線31は,肌非対向面側を窪ませたものとなっており,下層吸収体40の圧搾線41は,肌対向面側を窪ませたものとなっている。このため,上層吸収体30と下層吸収体40は互いに対向する面に圧搾線31,41が形成されている。このようにすることで,圧搾線31,41が形成された部位において,上層吸収体30とか下層吸収体40の間に隙間が生じる。これにより,上層吸収体30から下層吸収体40へと流れ落ちた体液が,下層吸収体40の広い範囲に拡散するようになる。
図13(b)に示された例において,上層吸収体30の圧搾線31は,肌対向面側と肌非対向面側の両方を窪ませたものとなっており,下層吸収体40の圧搾線41は,肌対向面側のみを窪ませたものとなっている。このように,上層吸収体30の肌対向面側と肌非対向面の両方を窪ませることで,上層吸収体30の表面上における体液の拡散性を維持しつつ,上層吸収体30と下層吸収体40の間の隙間をより多く確保できる。このため,上層吸収体30と下層吸収体40の両方の広い範囲に体液を拡散させることができる。
図13(c)に示された例において,上層吸収体30の圧搾線31は,肌対向面側と肌非対向面側の両方を窪ませたものとなっており,また,下層吸収体40の圧搾線41も,肌対向面側と肌非対向面側の両方を窪ませたものとなっている。これにより,図13(b)に示した例と同様に,上層吸収体30の表面上における体液の拡散性を維持しつつ,上層吸収体30と下層吸収体40の間の隙間をより多く確保できる。また,下層吸収体40の肌対向面側と肌非対向面の両方を窪ませることで,下層吸収体40の表面上における拡散性を維持しつつ,さらに下層吸収体40の裏面側にも体液を効率的に浸透させることができる。つまり,下層吸収体40の裏面側にはバックシート20(図2参照)が配置されている。そして,下層吸収体40とバックシート20の間に隙間を設けることで,バックシート20にまで到達した体液が下層吸収体40の圧搾線41を通じてさらに拡散し,下層吸収体40の裏面側に吸収される。これにより,上層吸収体30及び下層吸収体40の全体によって体液を吸収することができる。
図13(d)に示された例において,上層吸収体30の圧搾線31は,肌対向面側を窪ませたものとなっており,下層吸収体40の圧搾線41は,肌非対向面側を窪ませたものとなっている。このため,上層吸収体30と下層吸収体40とはほぼ隙間なく接合されている。このように,上層吸収体30と下層吸収体40の間に隙間を作らないように接合することも可能である。
図14は,上層吸収体30と下層吸収体40に加えて,追加吸収体70(第3の吸収体)をさらに備える吸収性物品の例を示している。図14の例において,追加吸収体70は,下層吸収体40の肌非対向面側,すなわち下層吸収体40とバックシート20(図2参照)の間に配設されている。なお,下層吸収体40の下層に位置する追加吸収体70の数は一つに限られず,2以上であってもよい。追加吸収体70は,上層吸収体30と下層吸収体40と同様に,複数の圧搾線71を有していることが好ましい。圧搾線71は,図14に示されるように,追加吸収体70の肌対向面側を窪ませたものであってもよいし,追加吸収体70の肌非対向面側を窪ませたものであってもよい。追加吸収体70の圧搾線71のパターンは特に限定されないが,前述の実施形態において説明した圧搾線のパターンを適宜適用することができる。
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
例えば,第1の実施形態で説明した長手方向又は幅方向の一方向に延びる圧搾線と,第2の実施形態及び第3の実施形態で説明した格子状のパターンをなす圧搾線を組み合わせることも可能である。すなわち,積層された2つの吸収体のうち,一方の吸収体を,圧搾線によって周囲を囲われた非圧搾領域を複数有するものとし,他方の吸収体を,長手方向又は幅方向に向かって延びる複数の圧搾線を有するものとすることもできる。例えば,上層吸収体30に,図5(a)で示した方形格子状の圧搾線を形成し,下層吸収体40に,図3(b)で示した幅方向に沿って延びる複数の圧搾線を形成することもできるし,その逆も可能である。また,例えば,上層吸収体30に,図3(a)で示した長手方向に沿って延びる複数の圧搾線を形成し,下層吸収体40に,図5(b)で示した斜方形格子状の圧搾線を形成することもできるし,その逆も可能である。
本願明細書では,本発明に係る吸収性物品が尿とりパッドである場合を例に挙げて説明したが,本発明はこれに限られるものではなく,パンツ型の使い捨ておむつや,テープ型の使い捨ておむつ,あるいは生理用ナプキンにも適用可能である。